平成25年4月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成24年第57号定額貯金請求事件口頭弁論終結日平成25年2月15日判決 主文 1 被告は,原告に対し,900万円及びこれに対する平成24年2月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,900万円及びこれに対する平成24年2月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等本件は,原告らが,訴外日本郵政公社(以下「郵政公社」という。)の事業を承継した被告に対し,定額郵便貯金契約に基づき,定額郵便貯金の解約払戻金900万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年2月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,文末の括弧内に記載した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1) 原告は,平成16年5月27日当時,日本郵政公社に対し,別紙目録記載の郵便貯金(以下「本件定額郵便貯金」という。)を有していた。(乙2の1・2)(2) 訴外Aは,原告の夫である訴外Bの兄の子(甥)である。 (3) Aは,平成16年5月27日,D郵便局において,原告の代理人として,委任状を提出した上,本件定額郵便貯金の解約払戻手続を行い,全額を原告名義の通常貯金口座に入金した上,うち100万6000円の払戻手続を行った。(甲6,12,乙1の1~3)(4) 被告は,郵政民営化法及び独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構法により,平成19年 の通常貯金口座に入金した上,うち100万6000円の払戻手続を行った。(甲6,12,乙1の1~3)(4) 被告は,郵政民営化法及び独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構法により,平成19年10月1日に設立された独立行政法人である。被告は,郵政民営化法によって解散した郵政公社の郵便貯金に関する業務のうち,同年9月30日以前に契約された定額郵便貯金に関するものを承継した。 2 争点及びこれに対する当事者の主な主張(1) 原告のAに対する代理権授与の有無(被告の主張)Aは,本件定額郵便貯金の解約払戻しについて原告から委任を受け,平成16年5月27日,D郵便局において,担当者に対し,原告のためにすることを示して,本件定額郵便貯金の解約払戻手続を行った。 (原告の主張)本件定額郵便貯金は,平成16年5月27日に解約されているが,これは,脳梗塞で入院中の原告の自宅から,Aが,銀行印,定額郵便貯金証書及び通帳等を持ち出して行ったものであり,原告は,Aに対し,本件定額郵便貯金の解約払戻しに関する代理権を授与したことはない。提出された委任状は,Aが偽造したものである。 (2) 本件定額郵便貯金の解約払戻手続の有効性(被告の主張)ア債権の準占有者に対する弁済Aが,保険定額郵便貯金の払戻しに関し,原告から何の権利も与えられていなかったとしても,Aに対する弁済は,以下のとおり,債権の準占有者に対する弁済にあたり,本件定額郵便貯金債権は,既に消滅している。 (ア) 定額郵便貯金の解約払戻手続に民法478条が適用されること定額郵便貯金は,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預け入れる貯金であり(郵便貯金法7条1項3号),預入の日から起算して10年が経過したときは通常貯金 適用されること定額郵便貯金は,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預け入れる貯金であり(郵便貯金法7条1項3号),預入の日から起算して10年が経過したときは通常貯金となる貯金である(郵便貯金法57条1項)。そして,定額郵便貯金の据置期間は,預入の日から起算して6月とされているが(郵便貯金法施行令1条2項),預入の日から起算して6月が経過すれば,いつでも払戻しをすることが可能である。 また,定額郵便貯金の利率については,市場金利の動向に配慮しつつ,国債の金利水準及び一般の金融機関の預金その他の貯蓄の手段にかかる金利水準を勘案して定めることとされている(同施行令4条1項)。 本件定額郵便貯金が預け入れられた当時の利率は別表のとおりであったが,本件定額郵便貯金は,いずれも,預入の日から起算して3年以上経過した平成16年5月27日に払い戻され,最高利率が適用されている。 さらに,利子の計算方法については,預入の日から払戻しの前月までの期間について,上記の所定利率に基づき計算し,6か月ごとに元金に加えることとされている(郵便貯金規則5条)。 このような定額郵便貯金の据置期間経過前(または,預入の日から起算して10年経過前)の払戻しに関する利子(利息)の取扱については,預入申込時において,原告にとっても明らかであり,原告もこれを承知の上で,定額郵便貯金に預け入れたものである。 したがって,定額郵便貯金の据置期間経過前の払戻しは,据置期間経過後の払戻しと同様に,当初からの合意に従った払戻し(弁済)にすぎないのであり,民法478条が適用される。 (イ) 郵政公社が,Aに対し,本件定額郵便貯金を払い戻したことについ て,善意無過失であること① 郵便局では,貯金者の代理人から払戻請求を受 ,民法478条が適用される。 (イ) 郵政公社が,Aに対し,本件定額郵便貯金を払い戻したことについ て,善意無過失であること① 郵便局では,貯金者の代理人から払戻請求を受けた場合,代理人から委任状の提出を受け,委任状の記載要項(委任者の住所氏名,受任者の氏名,委任の内容)に不備がないこと,委任状に押された印鑑の印影と届出印が同一であること及び請求人が委任状に記載された受任者本人であることを確認した上,払戻しを行うことになっている。 原告は,郵便貯金取扱手続7条1項に基づき,郵政公社は,Aに対し,適切な質問をし,正当な権利者であることの確認をすべきであるが,本件ではこれを怠った旨主張する。しかし,同条項は,払戻請求者が貯金者本人であると名乗って払戻請求をした場合の手続規定であるから,本件には妥当しない。 ② Aが,郵政公社に対し提出した委任状には,原告の届出住所である「大分県大分郡a町b」と記載され,氏名の横には,原告の届出印が押印されている。また,委任者として,Aの住所及び氏名が記載され,委任事項として,本件定額郵便貯金の払戻しに関する一切の権限を委任する旨の記載がされている。したがって,Aが郵政公社に提出した委任状には何らの不備もない。 D郵便局担当者は,Aからの払戻請求に対し,窓口に来た者が代理人であるA本人であることを確認するため,本人確認書類の提示を求め,運転免許証により,窓口に来た者がA本人であることを確認した。 このように,郵政公社は,手続に則り,Aが提出した委任状の記載内容及びAの本人確認を行っており,その手続に何ら瑕疵はない。 ③ Aは,本件定額郵便貯金の解約払戻時に,定額郵便貯金証書及び届出印に加え,原告の健康保険証も持参し,窓口 ,Aが提出した委任状の記載内容及びAの本人確認を行っており,その手続に何ら瑕疵はない。 ③ Aは,本件定額郵便貯金の解約払戻時に,定額郵便貯金証書及び届出印に加え,原告の健康保険証も持参し,窓口において提示した。なお,Aは,原告の通常貯金通帳も持参していた。 ④ Aは,原告の甥であるが,原告と姓が同一である上,住所も原告の 届出住所と同一であった。定額郵便貯金の場合,住所変更は,証書に記載された住所を訂正する方法で行われるため,窓口の担当者は,住所変更がいつ行われたか知ることができないから,住所変更から9日後に本件定額郵便貯金の解約を行ったことは,郵政公社の過失にあたらない。 ⑤ 原告は,Aが原告の保有していた全ての定額郵便貯金を解約していることをもって,郵政公社の過失を基礎づける事実であると主張する。 しかし,Aは,本件定額郵便貯金を解約し,払戻しを受けた金員の全額を,同日,原告の通常貯金に預け替えたのであるから,単純に解約払戻しをされた場合とは事情を異にする。 イ表見代理原告は,Aに対し,本件定額郵便貯金の払戻しに関する委任状を交付している。 D郵便局担当者は,Aから上記委任状を提出され,Aに,本件定額郵便貯金の解約払戻しに関する代理権があるものと信じて,同人に対し,本件定額郵便貯金の解約払戻しを行った。Aに代理権がないことについて,郵政公社が善意無過失であったことは,上記ア記載のとおりである。 (原告の主張)ア債権の準占有者に対する弁済(ア) 本件で原告が問題にしているのは,本件定額郵便貯金の解約の効力の有無であって,払戻しの効力の問題ではない。 定額郵便貯金は,一定額の貯金について,据置期間を定め,その期間満了前の払戻しを制約する代わりに,通常貯金に比べて高額の利息を付すとい の解約の効力の有無であって,払戻しの効力の問題ではない。 定額郵便貯金は,一定額の貯金について,据置期間を定め,その期間満了前の払戻しを制約する代わりに,通常貯金に比べて高額の利息を付すというものである。本件定額郵便貯金についてみると,平成9年9月18日に預け入れた500万円には,預入期間が最高利率適用期間に達した場合の利率は年0.65パーセントと規定され,平成12年11月 30日に預け入れた100万円については,3年以上預け入れると年0. 20パーセントとなる旨規定されている。したがって,定額郵便貯金の払戻しは,その前提として,このような定額郵便貯金契約を解約することが必要であり,解約は,単なる弁済ではなく,高額な利息の放棄を伴う法律行為となるものであるから,民法478条の適用はない。 (イ) 仮に,民法478条が適用される余地があるとしても,本件定額郵便貯金の解約手続を行った郵政公社には,以下の事情から,貯金者本人の意思確認を怠ったことについて過失がある。 ① 原告は,大正11年5月24日生まれであり,本件解約当時82歳であった。このことは,本件解約手続において,Aが提出した原告の健康保険証によって,担当者にも明らかであった。 ② 本件解約手続は,定額郵便貯金契約を締結して以来,4年間ないし7年間据え置かれていた,総額900万円もの定額郵便貯金を一挙に解約するというものであった。 ③ 委任状の原告の署名の筆跡が,原告のものと相違していた。 ④ 本件解約手続の9日前である平成20年5月18日,住所変更届が提出されていた。 ⑤ Aは,原告の甥にすぎず,貯金管理を委ねられている者と推定しうる身分関係にない。 イ権利外観法理D郵便局の担当者は,Aの解約手続に応じるにあたって,原告の意思確認等の手続 。 ⑤ Aは,原告の甥にすぎず,貯金管理を委ねられている者と推定しうる身分関係にない。 イ権利外観法理D郵便局の担当者は,Aの解約手続に応じるにあたって,原告の意思確認等の手続を全く行わなかった。 82歳の高齢者の900万円もの定額郵便貯金が一挙に解約される場合であるにもかかわらず,担当者は,本人に対する意思確認手続を行わず,原告の所在や,代理人による解約の理由について質問すること自体を怠っており,Aに代理権があると信じたことについて過失があることは明らか である。 (3) 信義則違反(被告の主張)原告は,本件訴訟において,Aによる払戻しが無効である旨主張する。しかし,他方で,原告は,Aに対し,同人が,本件定額郵便貯金を含む原告名義の預貯金の払戻しを受け,これを利得したとして,不当利得返還請求訴訟を提起し,勝訴判決(甲9)を得ている(以下「別件訴訟」という。)。すなわち,原告は,別件訴訟において,Aによる払戻しが有効であることを前提とした主張を行っており,本件訴訟と相矛盾する。かかる相矛盾する事実を前提とした訴訟遂行を容認すると,仮に,本件訴訟が認容された場合には,原告は,Aに対する債務名義を取得した上に,被告に対しても債務名義を持つことになり,形式的には二重に払戻しを受けたのと同一の結果となる。 また,別件訴訟においては,Aが払い戻した預貯金の一部は原告のために費消されたと認定されている。それにもかかわらず,原告が,払い戻された預貯金の全額について,各金融機関のいずれに対しても全額返還請求できるとすれば,原告は,最終的に,法律上の原因なく,原告のために費消された金員相当の利得を得ることにもなるが,同不当利得返還請求権が,いずれの金融機関に帰属するかも不明である。 さらに できるとすれば,原告は,最終的に,法律上の原因なく,原告のために費消された金員相当の利得を得ることにもなるが,同不当利得返還請求権が,いずれの金融機関に帰属するかも不明である。 さらに,被告が原告に本件定額郵便貯金を払い戻すことになった場合,通常,被告は,Aに対し,不当利得返還請求権を持つことになるが,Aは,既に原告に対し,不当利得返還債務を負っている上,その一部については既に弁済しているから,Aには,被告の損失に対応する利得が存在しないことになり,被告のAに対する不当利得返還請求は不可能又は極めて困難な結果となる。 原告としては,払戻手続が無効であるとして,各金融機関に対し,預貯金の払戻請求をするか,払戻手続が有効であることを前提に,Aに対し,不当 利得返還請求訴訟を提起するかを自由に選択できたのであるから,後の裁判において,自らの主張と矛盾する事実主張を行うことが制限されたとしても,原告にとって不利益ではない。 以上のとおり,原告が,本件訴訟において,別件訴訟と矛盾する主張をすることは,回復不能な結果を招くから,信義則上許されない。 (原告の主張)原告は,別件訴訟においても,Aが無断で本件定額郵便貯金を解約した旨主張しており,本件訴訟と何ら矛盾する主張はしていない。 本件は,Aにより,定額郵便貯金が無断解約され,通常貯金に振り込まれたという事案であり,定額郵便貯金の解約,通常貯金への預入れの法的効力のいかんを問わず,原告が,被告に対し,定額郵便貯金払戻請求権を有することは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 代理権授与の有無について(1) 前提事実,証拠(甲4,5,10,11,乙1の1~3,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告は,平成16年 3 当裁判所の判断 1 代理権授与の有無について(1) 前提事実,証拠(甲4,5,10,11,乙1の1~3,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告は,平成16年2月15日に脳梗塞を発症し,別府鶴見病院へ救急搬送され,同日から同年3月25日まで入院し,リハビリ目的で黒木記念病院に転院となった。また,原告は,平成16年4月27日から同年6月21日まで,ぜんそくの治療等のため,独立行政法人国立病院機構西別府病院(以下「西別府病院」という。)に入院した。(甲4,5)イ原告は,平成16年5月19日,西別府病院で神経内科医の診察を受け,神経学的には,意識は清明であるものの失見当識があり,MMS(簡易認知試験)の結果が30点満点で1点で「痴呆はあると思われ」る,また,理解力が低下しているのでリハビリを進めていくのに時間がかかるという診断がなされた。(甲5) ウ Aは,平成16年5月27日,D郵便局において,原告の代理人として本件定額郵便貯金の解約返戻手続を行い,その際,3通の委任状を提出したが,これらの委任状の原告の署名部分は,いずれもAが記載したものであった。(前提事実,甲10,11,乙1の1~3,証人A7~8頁)(2) 被告は,Aが原告から,本件定額郵便貯金の解約払戻しについての代理権を授与され,委任状を交付されたと主張し,Aも,医療費等でお金がいるから崩していいかと原告に聞いたところ,原告が承認したと証言する(証人A7頁)。 しかし,上記認定事実のとおり,平成16年5月19日当時,原告は認知症により失見当識があり,理解力が低下していたと認められることからすれば,委任状の作成日である平成16年5月27日当時,原告が,本件定額郵便貯金の解約払戻手続について,内容を理解した上で, 告は認知症により失見当識があり,理解力が低下していたと認められることからすれば,委任状の作成日である平成16年5月27日当時,原告が,本件定額郵便貯金の解約払戻手続について,内容を理解した上で,Aにその代理権を授与できる健康状態であったか相当疑問が残る。また,本件委任状は,原告の署名部分を含めて,全てAが記載したものであること,原告の通帳や印鑑はAが預かっていたと認めていること(甲10)から,Aが原告に無断で,本件定額郵便貯金の解約払戻しを行うことも十分可能であったといえる。 この点,Aは,本件の証人尋問において,委任状の原告の署名部分は原告が記入した旨証言している。しかし,本件の証人尋問の中でも,「字が下手やからということで,なるべく自分の字に似せて書いてくださいということでね。」と,A自身が記載したことを認める証言もしていることに加え,別件の訴訟における本人尋問では,500万円の定額郵便貯金の解約に関する委任状(乙1の2)について,Aが原告の名前を書いたと供述している(甲11・尋問調書18頁)ことから,原告の署名部分を原告が自署したというAの証言は信用できない。また,原告は,本件定額郵便貯金の解約払戻手続につき,原告から承諾を得た経緯について,明確に説明できていない(甲11。尋問調書19~20頁)。 (3) 以上によれば,原告が,本件定額郵便貯金の解約払戻しについての代理権をAに授与したとは認められない。 2 民法478条の適用の可否について原告は,Aは定額郵便貯金契約を解約したのであるから,弁済にはあたらず,民法478条は適用されないと主張する。 本件定額郵便貯金は,いずれも,契約当時は郵政大臣の管理する国の事業であり,本件定額郵便貯金の解約された平成16年5月27日当時は,郵政公社がその事業を 民法478条は適用されないと主張する。 本件定額郵便貯金は,いずれも,契約当時は郵政大臣の管理する国の事業であり,本件定額郵便貯金の解約された平成16年5月27日当時は,郵政公社がその事業を行っていたものであるが,その内容は,郵便貯金法に基づいて一律に定められていた。 具体的には,定額郵便貯金とは,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するものをいい(郵便貯金法7条1項3号),据置期間は,預入の日から起算して6月である(平成14年政令第385号による改正前の郵便貯金法施行令郵便貯金法施行令1条2項)。また,政令で定めるところにより市場金利を勘案し総務大臣が定める利率によって利子をつけることとされ(同施行令4条1項),利子の計算方法については,預入の日から払戻しの前月までの期間について,上記の所定利率に基づき計算し,6か月ごとに元金に加えることとされている(郵便貯金規則5条)。 そして,上記のとおり,定額郵便貯金は,据置期間の払戻しが制約されているものの,同期間経過後は,預け入れた期間に応じて利率は異なるが,いつでも払い戻すことができるものであり,このことは,上記のとおり関係法令に定められているほか,証書上にも記載されている(乙1の1・2)。 そうすると,本件定額郵便貯金の解約払戻手続は,預入当初の契約を何ら変更することなく,当初の契約に従って,元本及び利息が支払われたものであるから,民法478条にいう弁済に該当し,同条の適用を受けると解するのが相当である。また,代理人と称する者に対する弁済にも,債権の準占有者に対する規定が適用されると解される。 3 郵政公社の善意無過失についてそこで,本件解約払戻手続について,郵政公社が善意無過失であったといえるかについて,さらに検討する ,債権の準占有者に対する規定が適用されると解される。 3 郵政公社の善意無過失についてそこで,本件解約払戻手続について,郵政公社が善意無過失であったといえるかについて,さらに検討する。 (1) 証拠(甲3,6,7の1・2,甲11~13,乙1の1~3,乙3,4の1~3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア Aは,平成16年5月18日,D郵便局において,原告の住所を,別府市c町dから大分郡a町bに変更する住所移転届書を提出した。(甲7の1・2,甲11・20頁)イ Aは,本件解約払戻手続に先立ち,D郵便局に行き,D郵便局の職員であったCから,原告の代理人として定額郵便貯金の解約払戻手続をするのであれば,原告の委任状を持参するように指示され,その書き方を教わった。 ウ Cは,平成16年5月27日,本件解約払戻手続のため,D郵便局に来たAに応対した。Cは,委任状,原告の健康保険証及びAの運転免許証を確認し,窓口に来たのがA本人であること,Aと原告の住所が同一で,Aが原告の甥であること,Aが原告から定額郵便貯金の払戻手続につき委任を受けた旨の委任状に原告の署名と届出印による押印があることを確認し,本件定額郵便貯金の解約払戻手続を行うとともに,通常貯金から100万6000円の現金の払戻しを行った。このとき,Cは,委任状の原告の署名は原告が書いたとAから聞いたものの,他の書類と対比して原告の署名の筆跡を確認することまではしなかった。(甲3,6,12,乙1の1~3,乙3,4の1~3)エ郵便貯金取扱手続(郵便局編)には,請求人が預金者の代理人である場合には,①委任状の記載内容,②委任状の印影が,通帳又は貯金証書の印鑑に合うこと,③請求人,申込人又は届出人が代理の権限を有する者であることを確認する旨定められて は,請求人が預金者の代理人である場合には,①委任状の記載内容,②委任状の印影が,通帳又は貯金証書の印鑑に合うこと,③請求人,申込人又は届出人が代理の権限を有する者であることを確認する旨定められている。(甲13) (2) 上記認定事実によれば,Cは,Aが本件定額郵便貯金の払戻しを受ける権限があると信じていたものと認められる。 しかし,本件定額郵便貯金の払戻額が合計900万円という高額のものであったこと,Aと原告の住所は同一であるが,甥とおばの関係にあり,夫婦や親子といった通常よくみられる財産管理を委ねる相手ではないこと,Cは原告の健康保険証を確認していることに加え,A自身が本件解約払戻手続当時72歳であり,原告が相当高齢であることは容易に認識できたことなどの事情を考慮すると,本件定額郵便貯金が代理人により解約される事情について,さらに質問をするなどして,Aの権限を確認する義務があったというべきであり,そのようにしていれば,原告が入院中であることや,上記(1)アのとおり,本件定額郵便貯金の解約払戻手続の9日前に原告の住所が変更された経緯についても,比較的容易に発覚したといえる(なお,原告の住所が変更された事実は,本件定額郵便貯金の証書の記載からも読み取れるところである。)。また,Cは,委任状の原告の自署部分について,他の書類と対比して確認すること自体行っておらず,この点でも過失があるといえる。 被告は,AがD郵便局に提出した委任状には何らの不備もないと主張するが,上記のとおり,本件委任状の原告の署名部分は,原告が自署したものであるとは認められない。そして,Cは,原告の自署部分について,Aから原告が書いたものであると言われたため,それ以上の確認作業をしなかったというのであるから,この点について過失がなかっ 自署したものであるとは認められない。そして,Cは,原告の自署部分について,Aから原告が書いたものであると言われたため,それ以上の確認作業をしなかったというのであるから,この点について過失がなかったとは言い難い。 また,D郵便局においては,権限について疑いの生じた場合には,外務員を派遣するなどして確認作業を行っていた(甲12・21頁)ことからすれば,本件定額郵便貯金の解約払戻手続当時,郵便貯金取扱手続に定められたことだけを確認すれば足りるという体制ではなかったと認められる。 被告は,Aは,本件定額郵便貯金を解約し,払戻しを受けた金員の全額 を,原告の通常貯金に預け入れたから,全額を現金で即時に交付した場合とは事情が異なると主張するが,本件定額郵便貯金を解約し,払戻しを受けていることに変わりはない上,Aは,100万6000円については,同じ機会に通常貯金からの払戻しをCに依頼しており,その金額自体,少額とはいえないから被告の主張には理由がない。 4 信義則違反について(1) 被告は,原告が,別件訴訟において,Aに対し,本件定額郵便貯金の解約払戻しが有効であると主張しており,本件でこれと矛盾する主張をすることは信義則上許されない旨主張する。 しかし,原告は,別件訴訟においても,Aが権限なく本件定額郵便貯金を解約したことを前提とする主張をしているのであるから,本件における原告の主張が,権利の濫用に該当し,信義則上許されない矛盾したものであるとはいえない。 (2) また,被告は,本件訴訟において原告の請求が認められれば,不当利得返還請求の複雑な循環関係が生じる旨主張するが,単に,結果的に原告に利得が生じる可能性や,被告がAから不当利得金を回収することが困難であることなどの被告の主張する事情をもって,原告の被告 ,不当利得返還請求の複雑な循環関係が生じる旨主張するが,単に,結果的に原告に利得が生じる可能性や,被告がAから不当利得金を回収することが困難であることなどの被告の主張する事情をもって,原告の被告に対する債権を行使することが権利の濫用に当たるとはいえない。 5 結論よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,仮執行免脱宣言については,相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 大分地方裁判所民事第2部 裁判官能宗美和 (別紙目録添付省略)
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