平成19(行コ)149 遺族補償年金等不支給決定処分取消請求控訴事件(通称 松本労基署長遺族補償年金等不支給処分取消)

裁判年月日・裁判所
平成20年5月22日 東京高等裁判所
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判決文本文49,725 文字)

- 1 -主文 原判決を取り消す。 被控訴人が平成14年7月23日付けで控訴人に対してした遺族補償年金不支給決定処分及び葬祭料不支給決定処分をいずれも取り消す。 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴人主文同旨 被控訴人本件控訴を棄却する。 第2事案の概要 本件は,セイコーエプソン株式会社(以下「セイコーエプソン」という。)に勤務して海外現地法人の技能認定業務等に従事していたP1(以下「被災者」という。)が,出張先である東京都内のホテルにおいてくも膜下出血を発症し死亡したことについて,被災者の妻である控訴人が,被災者の疾病はセイコーエプソンの業務に起因するものであるとして,労働者災害補償保険法に基づき遺族補償年金の給付及び葬祭料の支給を請求したところ,被控訴人が被災者の疾病は業務に起因するものに該当しないとしていずれも不支給とする決定(以下「本件各処分」という。)をしたので,控訴人が本件各処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,控訴人の請求を棄却したので,これを不服として控訴人が控訴した。 基礎となる事実(当事者間に争いがない事実等,文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)(1)被災者及び当事者等- 2 -被災者は,昭和▲年▲月▲日生まれの男性であり,平成13年10月4日,出張先である東京都内のホテルにおいて死亡しているのが発見された。被災者は,死亡時には41歳であった。 控訴人は,被災者の妻である。(当事者間に争いがない。)(2)セイコーエプソンについてセイコーエプソンは,情報関連機器(パソコン,プリンター,スキャナ等コンピュータ周辺機器,液晶プロジェクター等映像機器),電子デバイス(半導体,液晶表示体,水 。)(2)セイコーエプソンについてセイコーエプソンは,情報関連機器(パソコン,プリンター,スキャナ等コンピュータ周辺機器,液晶プロジェクター等映像機器),電子デバイス(半導体,液晶表示体,水晶デバイス),精密機器(時計,眼鏡レンズ)の開発,製造,販売及びサービス等を主要な事業とする株式会社である。(乙11)セイコーエプソンは,平成12年ころ,プリンターの製造を国内生産から海外生産に切り替えた。(当事者間に争いがない。)(3)被災者の業務等被災者は,昭和57年10月12日,セイコーエプソンに入社して,技術関係の業務に従事し,パソコン用のカラープリンター組立工程に関する知識と経験を有し,QC(品質管理)研修及び問題解決実施コースを修了していた。被災者は,平成12年11月ころ,セイコーエプソンの広丘事業所(長野県塩尻市に所在)のTP(ターミナルプリンター)生産技術部に配属となり,生産技術部の中では,P2課長及びP3課長のグループ(以下「P2・P3グループ」という。)のうちのP4主事がリーダーとなっているチーム(以下「P4チーム」という。)に属していた。(当事者間に争いがない。)被災者は,生産技術部に配属された平成12年11月ころから平成13年1月ころまでは主に品質向上活動支援を担当し,同年2月ころからは,セイコーエプソンの海外の生産拠点(現地法人)における技能認定の業務等も担当するようになった(原審証人P2,弁論の全趣旨)。被災者らが技能認定- 3 -業務を行うのは,主にフィリピン及びインドネシアの現地法人で,1か月ないし2か月に1回程度実施されることが年間計画で決まっていた(当事者間に争いがない。)。 (4)被災者の海外出張被災者は,セイコーエプソンの生産技術部に配属された平成12年11月13日から平成13年9月28 1回程度実施されることが年間計画で決まっていた(当事者間に争いがない。)。 (4)被災者の海外出張被災者は,セイコーエプソンの生産技術部に配属された平成12年11月13日から平成13年9月28日までの間に,以下のとおり,合計183日間の海外出張をした(当事者間に争いがない。)。 ア被災者は,平成12年11月13日から同年12月22日の40日間,品質向上活動支援の目的で,中華人民共和国に出張をした。 イ被災者は,平成13年1月8日から同月17日までの10日間,品質向上活動支援の目的で,中華人民共和国に出張をした。 ウ被災者は,平成13年2月4日から同年3月8日までの33日間,海外現地法人における技能認定のためにフィリピンに,品質向上活動支援のために中華人民共和国に出張をした。 エ被災者は,平成13年3月25日から同年4月7日までの14日間,海外現地法人における技能認定のためにフィリピンに出張をした。 オ被災者は,平成13年5月20日から同年6月2日までの14日間,海外現地法人における技能認定のためにフィリピンに出張をした。 カ被災者は,平成13年6月10日から同月28日までの19日間,リワーク業務(製品の不具合,製品のクレーム又は生産トラブルが発生した際,現地へ赴き生産ラインを含めた原因究明,検討及び改善を行う業務)の目的で,アメリカ合衆国に出張をした。 キ被災者は,平成13年7月7日から同月20日までの14日間,リワーク業務の目的で,チリに出張をした。 ク被災者は,平成13年8月19日から同年9月6日までの19日間,海外現地法人における技能認定及び品質向上活動支援の目的で,フィリピン- 4 -に出張をした。 ケ被災者は,平成13年9月9日から同月28日までの20日間,海外現地法人における技能認定の目的で,インドネシアに おける技能認定及び品質向上活動支援の目的で,フィリピン- 4 -に出張をした。 ケ被災者は,平成13年9月9日から同月28日までの20日間,海外現地法人における技能認定の目的で,インドネシアに出張をした。 (5)被災者は,インドネシアへの出張を終えて帰国し,平成13年9月28日午前10時40分に松本空港に到着し(当事者間に争いがない。),同日午前中に帰宅できるところであったが,被災者が実際に帰宅したのは同日午後6時ころであった(乙3,4,原審での控訴人本人)。 翌29日(土曜日)は被災者の休日であり,被災者は自宅で過ごした(当事者間に争いがない。)。 翌30日(日曜日)も被災者の休日であり,被災者は,同日午後,子供のサッカーの練習を見ていたところ,P2課長から電話でリワーク作業のために東京へ出張することを要請され,同日午後3時ころから広丘事業所における打合せ会議に参加した後,同日午後4時ころ帰宅した。(当事者間に争いがない。)(6)被災者の東京(台場倉庫)出張及び被災者の死亡被災者は,平成13年10月1日午前6時10分に松本市の自宅を出発して,東京に出張をし,同日から同月3日までの間,夜はホテルに宿泊しながら,東京都内の台場倉庫におけるリワーク作業に従事した。 被災者は,同月3日午後6時30分ころ,同僚とともに夕食を摂り,同日午後7時45分ころにホテルの部屋に戻り,その後,同日午後8時45分ころ,同僚の部屋に翌日のスケジュールを確認するために電話をしたり,同日午後10時20分ころ,上司からの電話を受けて打合せをするなどしていた。 被災者は,同年10月4日の朝,集合時間になってもホテルのロビーに姿を見せず,その後,ホテルの部屋で死亡しているのが発見された。(当事者間に争いがない。)(7)被災者の死因等について- 5 -東京 は,同年10月4日の朝,集合時間になってもホテルのロビーに姿を見せず,その後,ホテルの部屋で死亡しているのが発見された。(当事者間に争いがない。)(7)被災者の死因等について- 5 -東京都監察医P5は,被災者の直接死因を「くも膜下出血」,直接死因の原因を「椎骨動脈解離・破綻」,死亡日時を平成13年10月4日午前1時ころと認め,被災者の解剖の結果,下記アないしオの所見を認めた(乙10)。したがって,被災者は,左椎骨動脈に類紡錘状の解離性動脈瘤(脳動脈血管が血流により切り離され,動脈壁を内外二層に解離(剥離)して解離腔に血液が入り込み,そのため動脈瘤様の拡大を来す。)を有し,これが破綻したことによりくも膜下出血を発症し,死亡したものと認められる(当事者間に争いがない。)。 アくも膜下出血左右対称,脳幹部,小脳付近に限局したくも膜下出血。左椎骨動脈に類紡錘状(1㎝長,0.7㎝径)の動脈瘤があり破裂,組織上椎骨動脈解離を伴う。 イ心臓376グラムウ胆嚢コレステリン沈着症エ大動脈硬化は不存在オ血中エタノール濃度0.26㎎/ml(8)労働災害補償請求と不服申立て等の経緯ア控訴人は,被災者がくも膜下出血により死亡したことについて,平成13年10月,被控訴人に対し,労働者災害補償保険法に基づき遺族補償年金の給付及び葬祭料の支給を請求をした(当事者間に争いがない。)。 イ被控訴人は,平成14年7月23日,控訴人に対し,被災者の死亡原因であるくも膜下出血と業務との因果関係が認められないとして,遺族補償年金及び葬祭料をいずれも不支給とする本件各処分をした(甲1の1・2)。 ウ控訴人は,平成14年9月17日,長野県労働局労働者災害補償保険審査官に対し,審査請求をしたが,同審査官は,平成15年3月28日,被- 6 -災 支給とする本件各処分をした(甲1の1・2)。 ウ控訴人は,平成14年9月17日,長野県労働局労働者災害補償保険審査官に対し,審査請求をしたが,同審査官は,平成15年3月28日,被- 6 -災者のくも膜下出血の発症と業務との相当因果関係を認めることは困難であるとし,控訴人の審査請求を棄却する決定をした(甲2)。 エ控訴人は,平成15年4月24日,労働保険審査会に対し,再審査請求をしたが,請求後3か月を経過しても決定がされなかった(当事者間に争いがない。)。そこで,控訴人は,平成15年10月4日,本件訴えを提起した(行政事件訴訟法8条2項。当裁判所に顕著な事実)。 (9)関係法令の規定労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)12条の8第2項は,業務災害に関する保険給付は,労働基準法75条ないし77条,79条及び80条に規定する災害補償の事由が生じた場合に補償を受けるべき労働者もしくは遺族又は葬祭を行う者に対しその請求に基づいて行うとしており,労働基準法75条1項は,労働者が「業務上」負傷し,又は疾病にかかった場合においては,使用者は,その費用で必要な療養を行い,又は必要な療養の費用を負担しなければならないとしている。そして,労働基準法75条2項は,業務上の疾病の範囲については命令で定めるものとしており,これを受けて労働基準法施行規則35条の別表1の2においては,当該業務に起因して発症し得ることが医学経験則上一般的に認められている疾病(2号ないし7号)等のほか,個々の事案に即して業務起因性があると認められた疾病を補償の対象となし得るものとするため,9号において「その他業務に起因することの明らかな疾病」と規定されている。 (10)脳血管疾患等の業務起因性の認定基準厚生労働省労働基準局長は,「脳血管疾患及び虚血性心疾患等( 得るものとするため,9号において「その他業務に起因することの明らかな疾病」と規定されている。 (10)脳血管疾患等の業務起因性の認定基準厚生労働省労働基準局長は,「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日基発第1063号。以下「認定基準」という。)を策定し,各都道府県労働局長宛に発出している。認定基準は,「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」が,厚生労働省からの依頼により,疲労の蓄積等と脳・心臓疾患の発- 7 -症との関係を中心に,業務の過重性の評価要因の具体化等について,現時点における医学的知見に基づいて検討を行い,その検討結果を取りまとめた平成13年11月16日付け「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」を参考にして作成されたものである。 認定基準は,脳血管疾患及び虚決性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の業務起因性の認定基準として,①発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(「異常な出来事」)に遭遇したこと,②発症に近接した時期において,特に過重な業務(「短期間の過重業務」)に就労したこと,③発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(「長期間の過重業務」)に就労したことのいずれかに該当する業務による明らかな加重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患には,業務起因性が認められるとしている。 そして,①異常な出来事とは,(ア)極度の緊張,興奮,恐怖,驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態(精神的負荷),(イ)緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態(身体的負荷),(ウ)急激で著しい作業環境の変化(作業環境)をいい,異常 起こす突発的又は予測困難な異常な事態(精神的負荷),(イ)緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態(身体的負荷),(ウ)急激で著しい作業環境の変化(作業環境)をいい,異常な出来事と発症との関連性については,通常,負荷を受けてから24時間以内に発症が出現するとされているので,発症直前から前日までの間を評価期間とするとされている。 ②短期間の加重負荷とは,日常業務に比較して特に過重な身体的,精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいうものであり,発症前おおむね1週間を評価期間とする。 また,③長期間の過重業務の判断にあたり,労働時間については,(ア)発症前1か月間に特に著しいと認められる長時間労働(おおむね100時間を超える時間外労働)に継続して従事した場合,(イ)発症前2か月間ないし6か月間にわたって,著しいと認められる長時間労働(1か月当たりおおむね- 8 -80時間を超える時間外労働)に継続して従事した場合には,業務と脳・心臓疾患の発症との関連性は強いと判断され(この場合の発症前2か月間ないし6か月間とは,発症前2か月間,発症前3か月間,発症前4か月間,発症前5か月間,発症前6か月間のいずれかの期間をいう。),これに対し,(ウ)発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合には,業務と発症との関連性は弱いと判断される(この場合の発症前1か月間ないし6か月間とは,発症前1か月間,発症前2か月間,発症前3か月間,発症前4か月間,発症前5か月間,発症前6か月間のすべての期間をいう。)とされている。そして,この労働時間の検討に加えて,不規則な勤務,拘束時間が長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境(温度環境,騒音,時差),精神的緊 か月間のすべての期間をいう。)とされている。そして,この労働時間の検討に加えて,不規則な勤務,拘束時間が長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境(温度環境,騒音,時差),精神的緊張を伴う業務といった負荷要因についても検討し,特に過重な身体的,精神的負荷と認められるか否かという観点から判断することとされている。 (甲3,乙19,乙20)第3 争点 被災者の疾病が業務に起因するものか否か。 第4争点についての当事者の主張(控訴人の主張) 労災補償制度の目的・趣旨と業務起因性の判断(1)労働基準法及び労災保険法に基づく労災補償制度による補償(給付)は,「業務上の事由」による「労働者の負傷,疾病,障害又は死亡に対して迅速かつ公平な保護を目的としてなされるものであり(労災保険法1条),労働者が失った賃金等請求権を損害として,これを填補すること自体を直接の目的とする損害賠償とは,制度の趣旨・目的を異にするものであるから,労災保険法に基づく給付をもって賠償された損害に代わる権利ということはできない。」とされている(最高裁平成元年4月27日判決・民集43巻4号2- 9 -78頁)。 したがって,労働基準法及び労災保険法に基づく労災補償制度は,損害の填補それ自体を直接の目的とするものではなく,被災労働者とその遺族の人間に値する生活を営むための必要を満たす最低限度の法定補償を迅速かつ公平に行うことを目的とするものであり,業務に内在または随伴する危険が現実化して負傷,疾病,障害又は死亡が発生した場合には,使用者及び保険を管轄する政府に無過失の補償責任が発生するとすることにその制度趣旨があり,その補償責任は,危険責任の法理に基づくものと解するのが相当というべきである。 (2)本件は,被災者がくも膜下出血を発症して死亡した事案であ 過失の補償責任が発生するとすることにその制度趣旨があり,その補償責任は,危険責任の法理に基づくものと解するのが相当というべきである。 (2)本件は,被災者がくも膜下出血を発症して死亡した事案であるが,被災者が「業務上」死亡したというためには,被災者が労災保険法7条1号の定める「業務上の疾病」,労働基準法施行規則35条別表第1の2の9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するくも膜下出血を発症・増悪し,「業務上」のくも膜下出血により死亡したと認められなければならない。 脳・心臓疾患の発症と業務起因性の判断基準(1)「業務上」の疾病とは,被災労働者が発症前に従事していた業務と相当因果関係があることをいい,被災労働者の疾病が「業務上」と認められるためには,その業務と被災労働者の疾病・死亡との間に相当因果関係が必要であると解される(最高裁昭和51年11月12日判決・裁判集民事119号189頁)ところ,前記労災補償制度の目的・趣旨に照らせば,被災労働者が従事していた業務が,被災労働者の疾病の発症につき一定以上の危険を有していたと認められる場合には,被災労働者の従事していた業務と同人の疾病の発症・増悪との間には相当因果関係が認められ,業務起因性は肯定されると解するのが相当である。本件のごとき,脳・心臓疾患の発症に関しても同様であり,被災労働者が,脳・心臓疾患を発症する前に従事していた業務が,- 10 -被災労働者に発症した脳・心臓疾患の発症につき一定以上の危険を有していたと認められる場合には,被災労働者の従事していた業務と同人に発症した脳・心臓疾患との間には相当因果関係が認められ,業務起因性は肯定されるというべきである。 そして,社会通念上,①被災労働者の脳・心臓疾患発症当時,同人の基礎疾患(血管病変等)が,確たる発症 発症した脳・心臓疾患との間には相当因果関係が認められ,業務起因性は肯定されるというべきである。 そして,社会通念上,①被災労働者の脳・心臓疾患発症当時,同人の基礎疾患(血管病変等)が,確たる発症の危険因子がなくてもその自然経過により脳・心臓疾患を発症させる寸前まで進行していたとは認められないこと,②被災労働者が,脳・心臓疾患を発症させる前に,同人の基礎疾患(血管病変等)をその自然経過を超えて増悪させる要因となり得る負荷(過重負荷)のある業務に従事していたと認められること,③被災労働者には,他に脳・心臓疾患を発症させる確たる発症因子はないと認められること,の3つの要件を満たせば,被災労働者が脳・心臓疾患を発症させる前に従事していた業務は,被災労働者の脳・心臓疾患の発症につき一定以上の危険を有していたと認められるべきである(最高裁平成17年7月17日判決・判例時報1723号132頁参照)。 (2)行政機関の制定した脳・心臓疾患認定基準の法的性質被控訴人は,脳・心臓疾患の一つである本件くも膜下出血につき,上記の最高裁判例により確立している脳・心臓疾患の発症の業務起因性の判断基準によりその業務起因性の認定判断をするのではなく,認定基準により認定判断すべきである旨主張する。 しかし,認定基準は,行政機関が,迅速に統一的・画一的処理を行うための行政機関内部の準則という性質を有するものにすぎず,認定基準を満たす脳・心臓疾患は行政機関の判断として業務起因性が肯定され,この要件を満たさない同疾患は業務起因性を否定されるという結果をもたらすにすぎず,認定基準を満たさない限り,法的に業務起因性は認められないという意味での法的効力はなく,認定基準が裁判所を拘束するものではない。 - 11 -しかも,認定基準は,選任された専門検討会の委員により行政機関の 準を満たさない限り,法的に業務起因性は認められないという意味での法的効力はなく,認定基準が裁判所を拘束するものではない。 - 11 -しかも,認定基準は,選任された専門検討会の委員により行政機関の意向を汲み入れて制定当時の医学的知見に基づき作成された報告書により原則として我が国における国内勤務の通常の労働に従事する労働者を想定して制定されたものであり,一定の合理性があるとしても,認定基準が想定している国内の通常労働に従事しておらず,発症前約10か月半の期間に10回,計183日間も海外出張業務に従事していた被災者につき形式的に認定基準を当てはめ,認定基準によりその過重性を評価するのは相当ではなく,本件訴訟においては,前記最高裁判例により確立している脳・心臓疾患の発症の業務起因性の判断基準に基づき,被災者が置かれた具体的な立場や状況などを十分斟酌して適正に海外出張業務の負荷の強度を評価して行うのが相当というべきである。 被災者のくも膜下出血の発症は,同人の解離性脳動脈瘤の自然経過による進行によるものか否か(1)被災者が基礎疾患である「解離性脳動脈瘤」を増悪させて「くも膜下出血」を発症して死亡した本件につき,前記最高裁判例により確立している脳・心臓疾患の業務起因性の判断基準に即してその業務起因性の有無を認定判断すると,先ず第一に,被災者にくも膜下出血が発症した当時,同人の基礎疾患(血管病変等)である「解離性脳動脈瘤」が,確たる発症の危険因子がなくてもその自然経過によりくも膜下出血を発症させる寸前まで進行していたと認められるか否かを検討する必要がある。 被控訴人は,被災者は,産業医から強く指導を受けるほどの常習的な飲酒習慣,高指血症,年齢的要素,遺伝的素因等のくも膜下出血のリスクファクターを複数有していた上,被災者の従事した業務には 必要がある。 被控訴人は,被災者は,産業医から強く指導を受けるほどの常習的な飲酒習慣,高指血症,年齢的要素,遺伝的素因等のくも膜下出血のリスクファクターを複数有していた上,被災者の従事した業務には基礎的病態を自然経過を超えて著しく増悪させ得るほどの過重性は認められないことに照らすと,当時,被災者の基礎的病態が自然経過によりくも膜下出血を発症する寸前まで増悪していたとみるのが医学的に合理的であると主張する。 - 12 -しかし,脳外科のP6医師がその意見書(甲75の2)の3項で指摘しているとおり,くも膜下出血発症のリスクファクターとして「常習的飲酒習慣」「高指血症」は医学的に全く根拠がないものであり,「遺伝的素因」は,嚢状脳動脈瘤についてはある程度関与していることが是認されているが,被災者の罹患した解離性脳動脈瘤との関連性については全く認められておらず,医学的根拠に基づいた認定判断とはいえないことが明らかである。そして,同医師が同意見書で述べているとおり,被災者の基礎的病態である解離性動脈瘤が,被災者の従事した海外出張業務及び発症直前の東京台場出張業務と無関係に,同人が有していたリスクファクターが原因でその自然経過により発症したとは考えられないというべきである。 また,仮に,常習的飲酒がくも膜下出血のリスクファクターの一つであると仮定しても,甲81のP7意見書が述べているとおり,被災者は毎日飲酒の習慣があったが,ふだんのアルコール摂取量は,多量飲酒の場合も80gを超えない量で,問題はなく,東京台場出張時の発病2日前のアルコール摂取量のみ80gをわずかに超える可能性はあるものの,死亡当夜は60gと推定され,それは頭痛緩和と睡眠確保が理由と推定される。被災者は,産業医の指導に従って節酒の努力を行い,限られた条件下での生活習慣に努力してい をわずかに超える可能性はあるものの,死亡当夜は60gと推定され,それは頭痛緩和と睡眠確保が理由と推定される。被災者は,産業医の指導に従って節酒の努力を行い,限られた条件下での生活習慣に努力していたと考えられるから,被災者の「常習的飲酒習慣」のリスクファクターにより,同人の「解離性脳動脈瘤」が確たる発症の危険因子がなくてもその自然経過によりくも膜下出血を発症させる寸前まで進行していたとは認められないというべきである。 したがって,被災者にくも膜下出血が発症した当時,同人の基礎疾患(血管病変等)である「解離性脳動脈瘤」が,確たる発症の危険因子がなくてもその自然経過によりくも膜下出血を発症させる寸前まで進行していたとは認められないというべきである。 (2)第二に,被災者が,本件くも膜下出血を発症させる前に,同人のその基礎- 13 -疾患である解離性脳動脈瘤をその自然経過を超えて増悪させる要因となり得る過重負荷のある業務に従事していたと認められるか否かを検討する必要がある。 この点につき検討すると,被災者は,同人がくも膜下出血を発症して死亡した平成13年10月4日以前の平成12年11月13日から同13年9月28日までの約10か月半の間,基礎となる事実(4)のとおり,合計10回,183日間の海外出張の業務に従事し,同13年10月1日から発症した同月3日まで,東京台場出張の業務に従事していたものである。この合計10回,183日間の海外出張の業務は,被災者の従前の海外出張と比較して,その出張回数・日数との比較で過重である上,その出張業務内容との比較でも過重であり,被災者の出張計画と実績との比較でも過重であり,また,被災者の同僚の出張状況との比較でも過重であり,被災者は,これらの間の海外出張業務により疲労とストレスを蓄積しており,この間の被災者 も過重であり,被災者の出張計画と実績との比較でも過重であり,また,被災者の同僚の出張状況との比較でも過重であり,被災者は,これらの間の海外出張業務により疲労とストレスを蓄積しており,この間の被災者の各海外出張業務は,被災者に精神的,身体的に大きな負担を与えた過重業務であり,この海外出張業務は同人の基礎疾患である解離性脳動脈瘤をその自然経過を超えて増悪させる要因となり得る過重負荷のある業務と認められるというべきである。 この点を敷衍すれば,以下のとおりである。 ア本来業務以外の業務に従事していたこと被災者は,平成13年2月ころから,セイコーエプソンの海外の生産拠点(現地法人)における技能認定の業務を担当するようになったものであるが,それ以降も,①平成13年2月24日から同年3月4日までの13日間は品質向上活動支援の目的で中華人民共和国に,②同年6月10日から同月28日までの19日間はリワーク業務の目的でアメリカ合衆国に,③同年7月7日から同月20日までの14日間はリワーク業務の目的でチリに,④同年8月26日から同年9月6日までの12日間は品質向上活動- 14 -支援の目的でフィリピンに,⑤同年10月1日から同月4日までの4日間はリワーク業務の目的で東京台場に出張をし,上記の合計62日間,本来業務以外の業務に従事していた。 セイコーエプソンにおける品質向上活動支援の業務は,被災者の属していたP4チームの担当となっており,被災者も以前担当していた業務であるが,被災者が平成13年2月に海外現地法人における技能認定の業務を担当するようになった以後は,必ずしも被災者の担当業務であると決まっていたともみられない。リワーク業務については,P2・P3グループあるいはP4チームの担当といえるかも疑問である。特に上記⑤東京台場におけるリワーク作業は は,必ずしも被災者の担当業務であると決まっていたともみられない。リワーク業務については,P2・P3グループあるいはP4チームの担当といえるかも疑問である。特に上記⑤東京台場におけるリワーク作業は,被災者の本来の業務との関連性は薄いものといわざるを得ない。被災者が,これらの本来業務以外の業務に従事していたのは,海外現地法人におけるトラブルや新製品の立ち上げ等に関する経験と能力を有していたために,押しつけられたものとみるほかはない。 このように本来業務以外の業務に従事することは被災者にとって大きな負担となるものであるし,そのために出張期間も長期にわたり,特に死亡に近接する時期においては,一つの出張と次の出張との間隔が短くなり,帰国してすぐにまた出張に行くということになってしまった。 イ海外出張をして行う業務は,言語,習慣,気候・風土等の違いによる精神的ストレスが大きく,国内における業務と比べると負担が大きい。被災者の出張先であるインドネシア,フィリピン,チリ,アメリカ,中国も,気候,言語,宗教,治安,風俗,習慣,衛生面がそれぞれ異なり,日本とも大きく異なっているし,治安が悪いという点におけるストレスもあった。 また,特に被災者のような技術者にとっては,現地の従業員の仕事に対する価値観や教育程度に起因するカルチュアショックやコミュニケーションがうまくいかないなどの要因により,大きな精神的ストレスを受けていたと考えられる。このように,被災者は,海外出張により,衣食住に至るま- 15 -で十分な意思疎通ができないことの不満,指導・説得が十分にできないことなどにより精神的ストレスを受け続けていたことは明らかである。 被災者が海外出張をして従事していた業務の内容からしても,被災者が過重な負荷を受けていたと考えられる。すなわち,セイコーエプソンは, ことなどにより精神的ストレスを受け続けていたことは明らかである。 被災者が海外出張をして従事していた業務の内容からしても,被災者が過重な負荷を受けていたと考えられる。すなわち,セイコーエプソンは,平成13年に株式市場への上場を目指し,そのためにはプリンターの海外生産により業績を回復する必要があったが,クレームが多発するなど課題も多く,その改善が会社の存亡をかけた緊要のものとなっていた。このような状況の中で,被災者は,製品の品質向上の一策としての海外現地法人における技能認定の指導,実施の特命を与えられていた。したがって,被災者が海外出張をして従事していた業務は,①生産技術の指導・その技能の検定が主題であって裁量性はなく,しかも②会社からの要求度が高く,その検定成果も数値で明瞭になるものであるから,精神的緊張を生じやすいものであり,それが継続することにより大きな精神的負担となっていた。 被災者は,平成13年5月20日から同年7月20日までの間に,アメリカ,チリという経験のない出張先で,しかも時差の大きい地域への出張を立て続けにしていた。この間,62日間に47日間も海外に出張し,その間に1週間程度国内にいただけで,しかも特に休日を取らずに通常どおりの国内業務をこなしていたのである。すなわち,被災者は,同年6月29日にアメリカから帰国した後,翌30日及び7月1日を休んだだけで,同月2日からは国内の通常勤務をしており,また,同月20日にチリから帰国した後,翌21日午後に自宅で1時間ないし3時間の整理をし,その翌日である同月22日を休んだだけで,同月23日から国内の通常勤務をしている。 時差が5時間以上ある地域を移動すると「Jetlag症候群」が起こるといわれ(甲51),時差5時間以上の地域への出張は評価基準においても評価要因として挙げられ 3日から国内の通常勤務をしている。 時差が5時間以上ある地域を移動すると「Jetlag症候群」が起こるといわれ(甲51),時差5時間以上の地域への出張は評価基準においても評価要因として挙げられている。また,時差8時間の移動をした後に体が回- 16 -復するまでには7ないし10日間くらいを要するとされている(甲51)。 しかるに,被災者は,日本との時差7時間のアメリカや時差13時間のチリから帰国した後,特に休日を取らずに通常どおりの国内業務をこなしていたのであるから,時差による疲労が取れないばかりか,疲労がたまる一方であった。 被災者の同年8月19日から同年9月6日までのフィリピンへの出張(上記第2の2(4)ク)については,被災者は,現地法人における技能認定の業務を終えて同年8月25日には帰国できたはずであった。しかし,同僚であるP8に代わって,被災者の本来業務ではない品質向上活動支援の業務を実施するために,被災者のフィリピン出張の期間が同年9月6日まで延長されたのである。このために,被災者は,フィリピンへの出張から帰って来て2日間(同月7日及び同月8日)日本に滞在しただけで,次のインドネシア出張に出発しなければならないことになった。しかも,被災者は同月7日午前は国内業務に従事しているので,上記フィリピン出張後にまる1日休むことができたのは同月8日の1日だけに過ぎない。 ウ上記のとおり,被災者は,平成13年9月28日にインドネシア出張から帰国した段階で,過密スケジュールにより疲労困憊の状態となっていた。 被災者は,このように出張の疲労を引き継いだままで,同月30日(日曜日),好きな息子のサッカーの練習に行っても車中で寝ているだけであったところへ,上司から電話で急に呼び出され,翌10月1日から東京台場へ出張することを命ぜられた。東京 継いだままで,同月30日(日曜日),好きな息子のサッカーの練習に行っても車中で寝ているだけであったところへ,上司から電話で急に呼び出され,翌10月1日から東京台場へ出張することを命ぜられた。東京台場の出張業務(リワーク業務)は被災者の本来業務ではないため,被災者は当然には上記出張命令を受ける立場にはなかったものの,結局,被災者はこの出張命令に従わざるを得なかったものである。そして,被災者は,同日から東京台場に出張し,同月4日の朝,宿泊先のホテルにおいて死亡しているところを発見されたのであるから,フィリピンへ出張した同年8月19日から死亡した同年10月4- 17 -日までの47日間のうち,出張していない日は4日間(同年9月7日,同月8日,同月29日,同月30日)だけであり,しかも,そのうち2日は会社に呼び出されるなどしているので,まる1日出勤しなかったのは2日間(同年9月8日及び同月29日)だけである。また,被災者の東京台場の出張は途中で期間が延期されており,それも,被災者にとっては通常ではない精神的ストレスとなった。 東京台場における作業は,発売日(平成13年10月5日)の迫っている製品(プリンター)の欠品等のクレーム処理,出荷数量の確保のためのもので,セイコーエプソンのキャノンとの年末商戦の結果を左右しかねないものであるから,時間に追われ,神経を使い,緊張を強いられる業務であったことは明らかである。すなわち,東京台場における作業は,当初は,プリンターの使用方法を説明するためのCD-ROMを同梱すること等であったが,4機種のプリンターについて一斉に作業を実施するため,混乱が生じやすいものであった。また,これに,プリンターの葉書セッター(給紙のための部品)が間に合わないために葉書セッター請求葉書を同梱する作業も加わった。そして, ついて一斉に作業を実施するため,混乱が生じやすいものであった。また,これに,プリンターの葉書セッター(給紙のための部品)が間に合わないために葉書セッター請求葉書を同梱する作業も加わった。そして,さらにその後,平成13年9月28日にプリンターの廃液キャップ下の吸収剤の欠品のためにインクもれが生じたり,同年10月2日にプリンターに紙がひっかかってしまい給紙がうまくできないバリが発見されるなど,製品自体の致命傷となるようなミスの発覚が続いた。加えて,同月3日には,個装箱の印刷がかすれているものを交換することや個装箱の側面4面をウエスで乾拭きする作業も追加で指示された。上記のような経緯に照らすと,被災者の海外出張による疲労が瘉されない状態で,東京台場へ出張をしたことにより,被災者の疲労が一層拡大されたということができる。さらに,セイコーエプソンは,この製品(プリンター)の致命的なミスを市場に知られないうちに解決しなければならない状況にあり,被災者を含むセイコーエプソンの従業員は,発売日であ- 18 -る同月5日が迫っている状況で,この製品の欠品を確認してそれを市場に出さないようにすることが最大の任務であったのであり,その業務は,緊張を強いられる大変な労力を要するものであったし,また,被災者が従事した作業についても,単なる同梱作業だけではなく,欠陥製品を抜き取ったり,個装箱を拭いたり,交換したりすることを,しかも次々と追加指示されたというものであり,決して楽な作業ではなかったというべきである。 エP6医師の意見書が指摘しているとおり,「本件被災者の従事した業務は,記録として残された時間外労働時間数は決して多くなく,また,海外出張中であっても,1日7~8時間の睡眠時間を確保し得る状態にあったと推察される」が,「しかし,前述した出張業務,特 の従事した業務は,記録として残された時間外労働時間数は決して多くなく,また,海外出張中であっても,1日7~8時間の睡眠時間を確保し得る状態にあったと推察される」が,「しかし,前述した出張業務,特に生活環境の全く異なった海外での出張業務は労働環境の変化のみならず,休息,睡眠の環境までが変化せざるを得ない状況を伴うものであ」り,「ことに睡眠は,前述の如く量のみでなく質的評価がなされるべきであるが,頻回及び長期間に及ぶ海外出張の繰り返しによる睡眠の質の低下は,容易に推察され」,「本件被災者は,このストレスを飲酒により解消せんとした可能性から察することができ」,「かくの如き業務を遂行する中で,被災者は,疲労を蓄積させ,最後の東京出張前の状態は,疲労ではなく,むしろ『疲弊』というべき状態にあったことは,種々の証拠により明らかであ」って,「かくの如き状況の中で,本件被災者の動脈壁は脆弱化し,血管解離が急激に進行し,致命的なくも膜下出血を招来させるに至った」(甲38)というべきであり,上記10回にわたる海外出張は,被災者が以前に海外出張の経験を積んでいることを考慮しても,医学的に見て,被災者が疲労を蓄積させ,被災者の基礎的病態である解離性脳動脈瘤を自然経過を超えて増悪させた業務であった(甲75の2)というべきである。 オそして,被災者は,その発症直前の9月30日の休日に呼び出しを受け,急遽,10月1日から東京台場へ出張し,発症当日の10月3日までの間,- 19 -リワーク作業に従事したが,甲81のP7意見書が述べているとおり,被災者の発症原因となった動脈瘤は,出張中のインドネシアの帰国が近くなったころから膨隆しはじめ,帰国して自宅での休養によって緩和されたものの,台場出張によって再び膨隆・悪化をたどり,破綻に至ったと考えられ,この台場出張 た動脈瘤は,出張中のインドネシアの帰国が近くなったころから膨隆しはじめ,帰国して自宅での休養によって緩和されたものの,台場出張によって再び膨隆・悪化をたどり,破綻に至ったと考えられ,この台場出張によるリワーク作業は,インドネシアから持続していたくも膜下出血の警告症状を悪化させ,破綻に至らせたものと考えられるというべきであり,被災者の解離性脳動脈瘤を自然経過を超えて増悪させた業務であったというべきである。 (3)第三に,被災者が基礎疾患である「解離性脳動脈瘤」を増悪させて「くも膜下出血」を発症して死亡した本件につき,被災者には,他に同人のくも膜下出血を発症させる確たる発症因子はないと認められるか否かを検討するに,被災者には,同人のくも膜下出血を発症させる確たる発症因子があるとの証拠は何もなく,したがって,同人には,他に同人のくも膜下出血を発症させる確たる発症因子は認められないというべきである。 (4)以上のとおり,本件は,上記2(1)の3要件を満たすというべきであり,したがって,被災者が,同人のくも膜下出血発症の前に従事していた海外出張の業務及び東京台場での出張業務は,被災者のくも膜下出血の発症につき一定以上の危険を有していたと認められるべきであるから,被災者の従事していた業務と発症したくも膜下出血との間には相当因果関係が認められ,業務起因性は肯定されるのが相当というべきである。 認定基準にあてはめた場合被災者の担当業務は,認定基準が「精神的緊張を伴う業務」として挙げている「過大なノルマがある業務」,「決められた時間(納期等)どおりに遂行しなければならないような困難な業務」,「顧客との大きなトラブルの処理等を担当する業務」,「支援のない状況下での困難な業務」,「複雑困難な新規事業,会社の建て直しを担当する業務」に該当する。また 行しなければならないような困難な業務」,「顧客との大きなトラブルの処理等を担当する業務」,「支援のない状況下での困難な業務」,「複雑困難な新規事業,会社の建て直しを担当する業務」に該当する。また,出張は,認定基準に- 20 -おいても負荷要因として掲げられていることからして,出張を繰り返していたこと自体がストレス・疲労を蓄積させるものである。 したがって,被災者が担当した業務は,認定基準によっても,負荷が大きいものと評価されているものであるから,被災者の死亡に業務起因性が認められることは明らかである。 治療機会の喪失について(1)脳・心臓疾患が発症し又は増悪したにもかかわらず,安静を保ち,治療を受けるなどの機会を持たないまま,引き続き業務に従事し,脳・心臓疾患を増悪させ,これにより死亡した場合,被災労働者が安静と治療を必要とする状態になっていたこと,それにもかかわらず,被災労働者において直ちに安静を保ち治療を受けることが困難で,引き続き業務に従事せざるを得なかったという業務の不可避性があれば,業務起因性が肯定されるべきところ,この場合,安静・治療の必要性と業務の不可避性については,疾病の性質や症状(自覚症状,他覚的所見)の程度,進行状況,業務の内容及び性質,被災労働者の地位及び責任内容,人員配置などの職場環境,発症後の業務の具体的な遂行状況,発症後の使用者の対応状況等の事情を総合して判断すべきである。 (2)被災者は,インドネシアに滞在中の平成13年9月26日又は同月27日に頭痛を訴え,同年10月2日にも頭痛を訴えている。被災者のこの頭痛はくも膜下出血の前駆症状(血管壁の解離痛)であり,この時すでに被災者の血管壁の解離そのものが始まっていたとみるのが相当である。被災者に生じていた血管壁の解離は未だ破裂に至っていなかったが この頭痛はくも膜下出血の前駆症状(血管壁の解離痛)であり,この時すでに被災者の血管壁の解離そのものが始まっていたとみるのが相当である。被災者に生じていた血管壁の解離は未だ破裂に至っていなかったが,偽腔が徐々に拡大し,東京台場の出張のストレスが加わることによって,同月4日についに外膜が破裂し,大量のくも膜下腔への強度の出血となったものである。 被災者は,上記くも膜下出血の警告症状(前駆症状)のあるときに適切な治療を受けることができていれば,被災することはなかった。被災者が,く- 21 -も膜下出血の前駆症状が出ていたにもかかわらず,東京台場に出張し,業務を継続したのは,代替者が予定されていなかった上,出張期間の延長までをも命じられ,それも時間を限定された就業だったからである。これにより,被災者は,安静と治療の機会を喪失したものである。 したがって,被災者を上記のような立場に置くという業務の性質に内在する危険が現実化したことによって,被災者の動脈瘤破裂が引き起こされたということができる(最高裁平成8年1月23日判決・裁判集民事178号83頁等参照)のであって,被災者の死亡には業務起因性が認められる。 (被控訴人の主張)被災者がくも膜下出血の発症直前までに従事した業務は,いずれも日常業務の範囲内であって,労働時間,業務内容,勤務内容等に照らし被災者の心身に過重の負荷を与えたものと認めることはできず,被災者のくも膜下出血は,被災者が有していた大量のアルコール摂取等のリスクファクターのもとで長期間かけて形成されてきた被災者の血管病変がその自然経過の過程で発症したものである。また,被災者がくも膜下出血発症後,業務のために治療機会を喪失して死亡したということもできない。したがって,被災者の疾病の業務起因性は認められず,被控訴人のした本件各処分は 程で発症したものである。また,被災者がくも膜下出血発症後,業務のために治療機会を喪失して死亡したということもできない。したがって,被災者の疾病の業務起因性は認められず,被控訴人のした本件各処分は適法である。 一般に,くも膜下出血は,業務に従事していなくても,加齢,日常生活等において生体が受ける日常的要因によって,自然経過により血管病変等が進展・増悪し発症するものである。したがって,業務がくも膜下出血と因果関係があるというためには,業務による生体への負荷が,くも膜下出血の発症の基礎となる血管病変等を,その自然経過を超えて急激に著しく増悪させることが必要となる。このような業務による負荷(過重負荷)に当たるかどうかについては,認定基準に基づき検討することとする。 台場出張は基礎疾患等を自然的経過を超えて増悪させるような「異常な出来事」にはあたらないこと- 22 -(1)認定基準における「異常な出来事」については,発症直前から前日までの間に被災者が遭遇した出来事が,①極度の緊張,興奮,恐怖,驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態(精神的負荷),②緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態(身体的負荷),③急激で著しい作業環境の変化(作業環境)のいずれかに該当するか否かによって判断すべきところ,被災者が発症直前から前日まで,すなわち平成13年10月4日午前1時ころから同月3日までの間に,上記のような「異常な出来事」に遭遇したとは認められない。なお,被災者が同年9月26日以降に頭痛を訴えていたことにかんがみ,同日を発症日と考えたとしたところで,同日及びその前日の同月25日から被災者が死亡するまでの間に,上記のような異常な出来事に遭遇したとは認められない。 (2)被災者の本来業務で いたことにかんがみ,同日を発症日と考えたとしたところで,同日及びその前日の同月25日から被災者が死亡するまでの間に,上記のような異常な出来事に遭遇したとは認められない。 (2)被災者の本来業務であったこと等被災者が,平成12年11月ころにTP生産技術部に異動してから従事した,生産拠点におけるQCDS(クオリティ・コスト・デリバリー・セーフティー)向上支援業務には,技能認定業務のほか,品質向上支援業務,量産体制支援業務が含まれており,また,リワーク業務と称する不具合となった製品の原因究明等の(国内外における)業務も,主業務ではないがまぎれもない業務としてあり,これらは被災者の本来の担当業務であったことが明らかである。東京台場において実施されたリワーク業務についても,被災者の属する部署が実施している業務であって,通常業務の範囲内であることからして,被災者にとって予測困難な突発的事態であったとはいえない。平成13年10月2日に出張の期間が延長されたことについても,リワーク作業について十分な経験を有する被災者にとって想定の範囲外であったなどということはできない。 リワーク作業について既に十分な経験を有する被災者にとって,お台場でのリワーク作業のみ困難なものであったとか,想定の範囲外であったなどと- 23 -いうことはできず,これが突発的又は予測困難な非日常的な生死に関わる事件又は事故に比肩すべき異常事態であるとか,急激で著しい作業環境の変化と評価できるものとして,被災者の血管病変等を自然的経過を超えて増悪させるような異常性を有していたものとは到底認められない。 (3)業務内容について台場倉庫におけるリワーク作業自体は,セイコーエプソンと業務委託契約を締結した日本通運株式会社(以下「日本通運」という。)がセイコーエプソンの作業指示書に 底認められない。 (3)業務内容について台場倉庫におけるリワーク作業自体は,セイコーエプソンと業務委託契約を締結した日本通運株式会社(以下「日本通運」という。)がセイコーエプソンの作業指示書に基づき実施したものであって,被災者らセイコーエプソンの社員は,日本通運が手配した作業員の作業状況を管理監督するというものであり,被災者は,台場倉庫で行われたリワークのうち,同梱作業の監督作業にのみ従事したにすぎない。上記リワークの作業内容は,実際に作業する日本通運関係者の監督をするのみで,強度の精神的,身体的負荷はなく,急激で著しい作業環境の変化もないことから,「異常な出来事」に該当しないことは明らかである。 被災者の短期業務が,基礎疾患等を自然的経過を超えて増悪させるような加重負荷ではないこと(1)認定基準において,短期間の過重業務の有無については,①まず,発症直前から前日までの業務について検討し,②①について,業務が特に過重と認められない場合であっても,発症前おおむね1週間以内について過重業務の有無を判断すべきとされ,その際には,①労働時間,②不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境,③精神的緊張(心理的緊張)を伴う業務という付加要因を十分検討すべきとされている。なお,被控訴人は,業務の過重性を評価するに当たって,平成13年9月26日に被災者に頭痛が発現したとされていることを考慮して,その1週間前の同月19日以降同年10月3日までを死亡日又は発症日に近接した期間すなわち短期間としてその間の過重業務についての評価を行った。 - 24 -(2)労働時間について被災者の労働時間は,平成13年10月3日は7時間,10月2日も7時間,10月1日は10時間である。9月30日については,被災者は,子供 ついての評価を行った。 - 24 -(2)労働時間について被災者の労働時間は,平成13年10月3日は7時間,10月2日も7時間,10月1日は10時間である。9月30日については,被災者は,子供のサッカーを観戦中,午後2時ころに上司のP2課長から急遽呼出の電話が携帯にあり,午後3時ころに広丘事業所へ出社し,P2課長,P3課長らとリワーク作業のための出張日程の打合せを行い,午後4時30分ころ帰宅したが,業務に従事していたとはいえない。9月29日は業務に従事していない。9月28日の労働時間は12時間であるが,その内容は,飛行機搭乗中の仮眠,空港での手続・待ち時間,伊丹空港への移動時間であり,労働密度は低い。9月27日の労働時間は12時間であるが,その内容は,通常業務の技能認定試験(7時間30分)の外,空港への移動時間と空港での手続・待ち時間等(4時間30分)であり,労働密度は高くはない。9月26日の労働時間は9時間30分,9月25日は7時間30分,9月24日は7時間30分,9月23日は所定休日であり出勤していない。9月22日は,所定休日であったが出勤しており労働時間は7時間30分であった。休日出勤はしているが,直前の休日は1週間前の9月15日と16日であり,直後の休日は翌日の9月23日であることから,休日なしの連続勤務ではない。9月21日から29日までの労働時間は,いずれも7時間30分であった。 以上のとおり,被災者が12時間勤務している日が2日あるものの,いずれの日も労働密度は低く,過重な負荷があったとはいえない。その他の日は,いずれも労働時間が長いとはいえない。 (3)不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い勤務,交替制勤務,深夜勤務,作業環境についてこの間の被災者の業務が,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,交替制勤務・深 時間が長いとはいえない。 (3)不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い勤務,交替制勤務,深夜勤務,作業環境についてこの間の被災者の業務が,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,交替制勤務・深夜勤務のいずれにも該当しないことは明らかである。 被災者の業務が出張の多い業務に該当するか否かについてみると,被災者- 25 -は,インドネシア出張から帰国後,平成13年10月1日から台場倉庫へ出張したが,海外生産現場等の技術指導のための海外出張業務や台場倉庫でのリワーク作業業務それ自体被災者の本来の担当業務である上,海外出張業務は,もとより被災者ら出張者自身で立案した計画に基づくものである。また,リワーク作業はおおむね2週間から3週間の行程で実施されるものであり,旅券や宿泊先は出張者本人が自ら企画,手配していた。また,作業環境についても,温度環境,騒音等,特に問題となるものではない。 (4)精神的緊張を伴う業務の有無について被災者が,精神的緊張(心理的緊張)を伴う業務をした事実又は出来事に遭遇した事実は認められない。なお,セイコーエプソンの従業員らは,いずれも,プリンターの発売日の平成13年10月5日までに間に合うように作業をせかされたことを否定している。 (5)小括以上のとおり,被災者の短期業務についてみると,12時間勤務の日が2日あるもののそれらの日の労働密度は低く,他の日はいずれも労働時間が長いとはいえないこと,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,交替制勤務・深夜勤務とはいえず,出張の多い業務にも当たらないこと,精神的緊張を伴う業務を行っていたともいえないことを総合考慮すれば,被災者について短期間の過重業務があったとは認められない。 被災者の長期業務が,基礎疾患等をその自然的経過を超えて増悪させるような加重負荷ではないこと( ていたともいえないことを総合考慮すれば,被災者について短期間の過重業務があったとは認められない。 被災者の長期業務が,基礎疾患等をその自然的経過を超えて増悪させるような加重負荷ではないこと(1)認定基準によれば,発症前おおむね6か月間に,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるかについては,不規則勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境,精神的緊張の負荷要因について十分検討し,その際,労働時間については,①発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間- 26 -を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性が弱く,おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること,②発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められるときは,業務と発症との関連が強いと評価できるとされていることを考慮すべきである。 (2)労働時間について被災者の発症前おおむね6か月間の時間外労働時間数は,原判決別紙1ないし6「労働時間集計表」のとおりである。これによれば,被災者の時間外労働時間数は,死亡前1か月間は28時間,死亡前2か月間は0時間,死亡前3か月間は49時間,死亡前4か月間は35時間,死亡前5か月間は23時間,死亡前6か月間は17時間であった。そうすると,発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働があったとは認められず,発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働も認められない。 (3)加重負荷の る時間外労働があったとは認められず,発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働も認められない。 (3)加重負荷の有無の具体的検討上記の時間外労働時間数を踏まえ,被災者の発症前おおむね6か月の業務の過重性の有無について検討すると,以下のとおり,過重負荷があったとは認められないものである。 ア死亡前1か月(9月4日ないし10月3日)についてこの間,2度の海外出張(フィリピン,インドネシア)があるが,海外出張期間中を含め,休日は7日(うち,9月9日,9月30日は午前のみ半休)確保されていること,海外現地法人での勤務中は,1日の休日出勤と1日の時間外労働(2時間)があるのみであること,フィリピンからの帰国翌日(9月7日)からインドネシアへの出張のための国内移動(9月- 27 -9日午後)まで実質2日間の休日(連続48時間以上)が確保されていること,インドネシアからの帰国(9月28日午前)から東京台場倉庫への出張日程の打合せ(9月30日午後)まで実質2日間の休日(連続48時間以上)が確保されていること,及び時間外労働時間数は「28時間」であって,蓄積疲労を生じるとされている1か月の時間外労働時間の下限値「45時間」未満であることから,死亡前1か月の業務からは,長期間の蓄積疲労を生じさせる程度の業務による過重な負荷は認められない。 イ死亡前2か月間(8月5日ないし10月3日)について死亡前2か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目の時間外労働時間数「28時間」,「0時間」の平均値「14時間」であり,長期間の蓄積疲労を生じるとしている1か月平均の時間外労働時間数の下限値「45時間」未満であることから,死亡前2か月の業務からは,長期間 働時間数「28時間」,「0時間」の平均値「14時間」であり,長期間の蓄積疲労を生じるとしている1か月平均の時間外労働時間数の下限値「45時間」未満であることから,死亡前2か月の業務からは,長期間の蓄積疲労を生じさせる程度の業務による過重な負荷は認められない。 なお,死亡前2か月目の1か月間(8月5日ないし9月3日)は,フィリピンへの海外出張期間を含めて休日は15日(うち,8月18日は午後半休,8月19日は午前半休)確保されていること,海外滞在中は休日出勤も時間外労働もないこと,及び認定基準による時間外労働時間数は0時間であり,法定の労働時間をも下回っている。 ウ死亡前3か月間(7月6日ないし10月3日)について死亡前3か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目,3か月目の時間外労働時間「28時間」,「0時間」,「49時間30分」の平均値「25時間50分」程であり,長期間の蓄積疲労を生じるとしている1か月当たりの時間外労働時間数の下限値「45時間」未満であることから,死亡前3か月の業務からは長期間の蓄積疲労を生じさせる程度の業務による過重な負荷は認められない。 - 28 -なお,死亡前3か月目(7月6日ないし8月4日)の1か月間は,チリへの海外出張期間を含め,休日は8日間確保されていること,海外滞在中は休日出勤も残業もないこと,新認定基準による時間外労働時間数は49時間30分であり,蓄積疲労を生じるとする1か月間の時間外労働時間の下限値45時間を僅かに越えているが,チリからの帰国日(7月20日午後)の直後は休日(7月21日,22日)が確保され,会社の夏期休暇が7月28日ないし8月1日,8月4日,8月5日と連続して確保されていること(さらには,8月9日ないし8月16日まで連続8日間の休暇が続いている。)から, 21日,22日)が確保され,会社の夏期休暇が7月28日ないし8月1日,8月4日,8月5日と連続して確保されていること(さらには,8月9日ないし8月16日まで連続8日間の休暇が続いている。)から,チリとの時差13時間(日付変更線を挟んで▲11時間)による身体的・神経的な負荷は,回復ないしは十分な回復傾向を図れる環境であったことから,長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による特に過重な負荷は認められない。 エ死亡前4か月間(6月6日ないし10月3日)について死亡前4か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目,3か月目,4か月目の時間外労働時間数「28時間」,「0時間」,「49時間30分」,「35時間」の平均値「28時間08分」程であり,長期間の蓄積疲労を生じるとしている1か月当たりの時間外労働時間数の下限値「45時間」未満であることから,死亡前4か月の業務からは,長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による過重な負荷は認められない。 なお,死亡前4か月目(6月6日ないし7月5日)の1か月間は,アメリカへの海外出張期間を含め,休日は8日間確保されていること,海外滞在中は休日出勤も残業もないこと,時間外労働時間数は35時間であるが,蓄積疲労を生じるとされている1か月間の時間外労働時間数の下限値45時間未満であること,及び,アメリカからの帰国日(6月29日午後)の直後は休日(6月30日,7月1日)があり,さらに,7月3日に休暇を- 29 -取得していることから,アメリカ(シアトル)との時差17時間(日付変更線を挟んで▲7時間)による身体的・神経的な負荷は,回復ないしは十分な回復傾向を図れる環境であったことから,長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による特に過重な負荷は認められない。 オ死亡前5か月間(5月7日ないし10月3日) 身体的・神経的な負荷は,回復ないしは十分な回復傾向を図れる環境であったことから,長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による特に過重な負荷は認められない。 オ死亡前5か月間(5月7日ないし10月3日)について死亡前5か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目,3か月目,4か月目,5か月目の時間外労働時間数「28時間」,「0時間」,「49時間30分」,「35時間」,「23時間」の平均値「27時間06分」であり,長期間の蓄積疲労を生じるとされている1か月当たりの時間外労働時間数の下限値「45時間」未満であることから,死亡前5か月間の業務からは長期間の蓄積疲労を生じ得る過重な負荷は認められない。 なお,死亡前5か月目(5月7日から6月5日)の1か月間は,フィリピンへの海外出張期間を含めて休日は6.5日間(5月20日は午前半休)確保されていること,海外滞在中は休日出勤も時間外労働もなかったこと,新認定基準による時間外労働時間数は23時間であり,長期間の蓄積疲労を生じるとしている1か月間の時間外労働時間数の下限値「45時間」を大きく下回っていること,フィリピンとの時差は1時間であり,時差による身体への影響は少ないことから,長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による過重な負荷は認められない。 カ死亡前6か月間(4月7日ないし10月3日)について死亡前6か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目,3か月目,4か月目,5か月目,6か月目の時間外労働時間数「28時間」,「0時間」,「49時間30分」,「35時間」,「23時間」,「17時間」の平均値「25時間25分」であり,長期間の蓄積疲労を生じるとされている1か月当たりの時間外労働時間数の下限値「4- 30 -5時間」未満であることから,死亡前6か月間の業務 時間」,「17時間」の平均値「25時間25分」であり,長期間の蓄積疲労を生じるとされている1か月当たりの時間外労働時間数の下限値「4- 30 -5時間」未満であることから,死亡前6か月間の業務からは長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による過重な負荷は認められない。 なお,死亡前6か月目(4月7日ないし5月6日)の1か月間は休日(又は休暇)は14日間確保されていること,時間外労働時間数は17時間であり,蓄積疲労を生じるとする1か月間の時間外労働時間の下限値45時間未満であることから,長期間の蓄積疲労を生じさせるような業務による負荷は認められない。 (4)海外出張が加重負荷を与えた業務とはいえないこと被災者の海外出張については,①同僚も行なっていた海外出張の範囲内であること,②被災者はチームの一担当者であって責任を負う立場にはなかったこと,③海外出張の経験も積んでおり,出張先は平成13年7月に出張したチリを除けば,過去に2回以上出張したことがあり,かつ日本人マネージャーもいる現地法人のある国であること,④出張先は,1ないし2時間程度の時差にすぎず身体に与える影響が少ないとされる東南アジア諸国が中心であること,⑤比較的大きな時差を伴う出張においては,いわゆるビジネスクラスも利用しており,疲労の軽減を図っていたこと,⑥海外出張での用務は定型的なものであり,困難を伴う特別な用務の遂行を義務付けられたものではなく,納期に迫られる業務でもなく,判断に迷う場合は上司の指示を受けていることから出張先でのミス等のトラブルもないこと,⑦海外出張先でも休日は確保されており,休日・時間外勤務はほとんどないこと,⑧本件過重負荷の評価期間中の約6か月間のうち,平成13年8月25日から同年9月6日までのフィリピンでの品質管理キーパーソン教育(4日間の休日と9月 保されており,休日・時間外勤務はほとんどないこと,⑧本件過重負荷の評価期間中の約6か月間のうち,平成13年8月25日から同年9月6日までのフィリピンでの品質管理キーパーソン教育(4日間の休日と9月6日の帰国日を除く8日間)以外は,すべて複数体制での出張であること,⑨技能認定業務についての海外出張は,人材育成教育の経験のある他の従業員を同行させて,被災者の手本としたこと,⑩現地工場は空調設備が整っており,騒音等の設備上の問題点はないこと,⑪ホテルから現地法人までの移- 31 -動は現地法人による車での送迎であること,⑫飛行機やホテルの予約手続は常時エプソントラベルを通じており,自ら航空会社やホテルを予約するわけではないこと,⑬帰国後には,休息可能な時間が確保されていたことなどから,被災者につき,他の同僚に比べて特別に負担の重い業務に従事したとはいえない。また,宿泊先のホテルの環境面でも,安全性・利便性・快適性に関して特段の問題は認められず,日本食を食べることもできたのであって,良好な宿泊環境と判断される。さらに,海外出張に際しては,前日に空港付近のホテルで一泊しており,慌しく時間に追われる緊急な出張でもなかった。 以上のように,海外出張先の労働環境及びホテルの居住環境等につき過重な負荷を生じるような問題はない。したがって,被災者につき,くも膜下出血の発症の基礎となる血管病変等を自然経過を超えて悪化させた環境にあったとはいえない。 (5)小括以上のとおり,くも膜下出血の発症に近接した時期のみならず,それ以前の6か月間をみても,被災者の時間外労働は微々たるものにすぎず,それ以外の負荷要因についても,特に本件疾病の基礎となる血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させるような過重な業務に従事していたものと評価することはできない。 被 労働は微々たるものにすぎず,それ以外の負荷要因についても,特に本件疾病の基礎となる血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させるような過重な業務に従事していたものと評価することはできない。 被災者のくも膜下出血の発症原因等について被災者は,家族歴(実父がくも膜下出血をしたことがある。),年齢,高脂血症,飲酒,多重の危険因子競合など,くも膜下出血のリスクファクターを有していた。特に,被災者の平素の飲酒状況は,常習的飲酒であり,頭痛発現後の平成13年10月2日及び3日においてすら,その2日間で,被控訴人の主張では純アルコール換算で285ミリリットル(15パーセントの日本酒換算で1升強),仮に最も少ない控訴人の主張によっても162.5ミリリットル(15パーセントの日本酒換算で6合強)を超える飲酒をしたことが認められ- 32 -る。このような被災者の飲酒はくも膜下出血を引き起こす危険な行為であって,これによりくも膜下出血の発症リスクが高まったと考えることは極めて合理的である。 上記のとおり,被災者が大量のアルコール摂取というくも膜下出血の危険因子を有していたほか,実父がくも膜下出血を発症したことがあるなど家族歴においても危険因子が認められるなど,多重の危険因子を有する一方,既にみたとおり業務の過重性が認められないことからすれば,上記各リスクファクターのもとで長期間かけて形成されてきた被災者の血管病変が脆弱性を増し,既にいつくも膜下出血を発症してもおかしくないといった状況の下において,解離性脳動脈瘤が自然的経過により破裂したため被災者のくも膜下出血が発症したとみるのが医学的に自然で合理的というべきである。したがって,被災者のくも膜下出血の発症には業務起因性は認められない。 治療機会の喪失の主張について控訴人は,被災者が,既にくも膜下 血が発症したとみるのが医学的に自然で合理的というべきである。したがって,被災者のくも膜下出血の発症には業務起因性は認められない。 治療機会の喪失の主張について控訴人は,被災者が,既にくも膜下出血の前駆症状が出現していたにもかかわらず,セイコーエプソンの業務に従事し,安静と治療の機会を喪失したものであるから,被災者のくも膜下出血の発症には業務起因性があると主張するが,以下の理由により,理由がない。 (1)くも膜下出血の前駆症状についてくも膜下出血を発症した者に頭痛が前駆して発現することがあることは知られているが,頭痛の原因は極めて多い上,被災者が自訴する頭痛は,医師のもとに受診せざるを得ないような激しい頭痛であることが多いくも膜下出血の予兆とは異なっている。少なくとも,この時の頭痛は,被災者本人にとっては飲酒すればまぎれる程度と認識した頭痛であって,日常的にありうる頭痛とは異なるために,医療を受けなければ治らないような激痛ではなく,本人自身も深刻な状態でないと認識していたと考える方が合理的である。そうすると,被災者が自訴した程度の頭痛はくも膜下出血の前駆症状と断定す- 33 -ることはできないというのが医学的知見に照らして一般的で合理的な見方である。 (2)条件関係の存否等について控訴人の主張する治療機会喪失法理により,私病発症後の業務と労働者の死亡との間に相当因果関係を認めるためには,まずその前提として,当該私病発症後に当該労働者が業務に従事せずに安静治療の機会を得ていたら死亡という結果は発生していなかったであろうという条件関係が認められることが必要であり,このような条件関係が認められる場合としては,①私病発症後の業務の遂行がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となった場合,②その間の治療の機会が奪われた場合が考 が認められることが必要であり,このような条件関係が認められる場合としては,①私病発症後の業務の遂行がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となった場合,②その間の治療の機会が奪われた場合が考えられる。そして,当該労働者において,直ちに安静を保ち,又は医師の診断を受けようと感ずるほどの自覚症状が生じなかった場合,あるいは,医師の診断を受けても通常死亡等の重大な結果を生ずる私病を発見診断できなかったであろう場合には,そもそも業務を休んだり,交替をしたりしたとしても,直ちに安静を保ち,又は医師から適切な治療を受けることが困難であり,死亡等の重大な結果の発生を避けることができなかったことになるから,上記①及び②のような場合に該当するとして条件関係の存在を肯定することはできないというべきである。 また,私病発症後の業務内容が過重でない場合に,当該労働者の死亡が業務に内在する危険の現実化として相当因果関係を肯定されるためには,当該業務の内容,当該労働者の役割,当時の状況における業務の必要性,緊急性等の客観的事情から,当該労働者において自己の体調に応じた業務の軽減又は免除の措置を採り得なかったという相当高度の非代替性ないし就業の不可避性が認められることが必要である。 しかるに,被災者は,インドネシア出張から帰国後,一番身近な存在である控訴人に対してすら,頭痛があったことを打ち明けたり,薬の補充を依頼したりしていないこと,P2課長に対し,平成13年9月26日又は27日- 34 -の頭痛の件を含め,具体的事実を挙げて出張拒否を申し出ていないことなどからすれば,インドネシア出張時や,インドネシアからの帰国後から東京台場出張前において,被災者には,直ちに安静を保ち,又は医師の診断を受けようと感ずるほどの自覚症状が生じていなかったものとみることができ すれば,インドネシア出張時や,インドネシアからの帰国後から東京台場出張前において,被災者には,直ちに安静を保ち,又は医師の診断を受けようと感ずるほどの自覚症状が生じていなかったものとみることができる。 また,仮に被災者がこの時点で医師の診断を受けたとしても,被災者にくも膜下出血の発症を示唆するような特異的な症状がみられていたわけではないから,脳神経外科医の診断を受けることになった可能性は極めて低く,この時点で適切な治療を受けることは期待できなかったというべきである。そうすると,この時点で被災者には就業の不可避性があったとはいえない。 また,被災者は,同年10月2日に頭痛がし,とりわけ夕食時には最も重い頭痛を感じていたのに,同日はもちろん翌3日も業務をこなし,頭痛があったとP9に話しはしたが,それだけで病院に行こうとはせず,寝しなには自宅にいるときと同じように飲酒をしている。これらのことから,被災者には,直ちに安静を保ち,又は医師の診断を受けようと感ずるほどの自覚症状が生じていなかったものというべきであるし,仮に被災者がこの時点で医師の診断を受けたとしても,この時点でくも膜下出血に対する適切な治療を受けることは期待できなかったというべきである。そうすると,被災者にはこの時点で就業の不可避性があったとはいえず,勤務終了後のみならず勤務時間中にも病院へ行くことは可能であった。 以上によれば,被災者に頭痛が出現した後の業務がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となったとか,治療の機会を奪ったと認める余地はなく,被災者のくも膜下出血による死亡との間に条件関係を認めることはできないというべきである。 (3)相当因果関係もないこと上記のとおり,被災者にとって,東京台場でのリワーク業務に関し,他の者との交替が困難であったり,交替を申し出ること に条件関係を認めることはできないというべきである。 (3)相当因果関係もないこと上記のとおり,被災者にとって,東京台場でのリワーク業務に関し,他の者との交替が困難であったり,交替を申し出ることができないような状況で- 35 -はなかった。被災者において業務の交替を申し出ることは可能であり,自己の体調に応じた業務の軽減又は免除の措置を採り得なかったことはないから,その後の業務と被災者のくも膜下出血による死亡との間に相当因果関係を認めることはできないというべきである。 第5当裁判所の判断 労災保険法による保険給付である遺族補償年金給付及び葬祭料が支給されるためには,労働者に生じた傷病等が「業務上」(同法7条1項1号,労働基準法75条1項)のものである必要があるところ,労働者の疾病に業務起因性が認められるためには,当該疾病等と労働者が従事していた業務との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日判決・裁判集民事119号189頁)。また,労働者災害補償保険制度が,業務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に,それによって労働者に発生した損失を補填することを目的とするものであることからすれば,上記の相当因果関係が認められるためには,労働者が従事していた業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化として,当該疾病が発症したものと認められることが必要である(最高裁平成8年1月23日判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日判決・裁判集民事178号621頁)。 ところで,くも膜下出血を含む脳・心臓疾患は,基礎的病態(動脈瘤ないし血管病変)が,生体が受ける日常的な通常の負荷によって,徐々に進行及び増悪するといった自然経過をたどって発症するものであり,労働者に限らず,一般の人々の間にも普遍的に数多く発症 的病態(動脈瘤ないし血管病変)が,生体が受ける日常的な通常の負荷によって,徐々に進行及び増悪するといった自然経過をたどって発症するものであり,労働者に限らず,一般の人々の間にも普遍的に数多く発症する疾患であるから,業務についても,それが日常的なものにとどまるときは,それにより基礎的病態の増悪があったとしても自然経過の範囲内のものであると考えられるが,一方,業務による過重な負荷が加わることにより,基礎的病態を自然経過を超えて著しく増悪させ,脳・心臓疾患を発症させる場合があることは医学的に広く認知されている。そうだとすると,被災者が過重な業務により,基礎的病態を自然経過を超えて著- 36 -しく増悪させ,くも膜下出血を発症したと認められる場合には,業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものと評価して,被災者の疾病(解離性動脈瘤の破裂によるくも膜下出血)の業務起因性を認めるのが相当である。 被災者の従事していた業務内容,労働時間,健康状態等について(1)被災者の従事していた業務の労働時間,業務内容,勤務状況,東京台場出張に至る経緯と台場での業務内容,健康状態等については,以下のとおり訂正,付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の第5の1(原判決30頁25行目から55頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 ア原判決32頁22行目の「それに従い」を「大筋それに従い」と改め,同頁25行目の「使用した。」の次に「技能検定にあたり,年間に何人位合格者を出すかなどの数値目標は,被災者とP10が現地の担当者と打ち合わせて決めており,被災者らは,数値目標を達成するため,自ら現地教材用の資料に手を加えるなどして業務に取り組んでいた。」を付加し,同33頁2行目の「体制がとられていた。」の次に「しかし,個人差や言葉の違いの ており,被災者らは,数値目標を達成するため,自ら現地教材用の資料に手を加えるなどして業務に取り組んでいた。」を付加し,同33頁2行目の「体制がとられていた。」の次に「しかし,個人差や言葉の違いのほか,生活風習面も異なることから,通訳を介してもなかなか能力を見極めるのがむずかしいところがあった。」を付加する。 イ原判決33頁6行目の「業務であり」を「業務であり,かなりの知識と技術が要求されるものである。また,」と改める。 ウ原判決33頁14行目の「主な業務は,」の次に「海外品質データの処理,分析のほか,」を付加する。 エ原判決35頁1行目末尾の次に「もっとも,被災者の海外出張は,平成10年9月以降増えているが,生産技術部に配属される前までは,それ以降と比較すると,出張の回数,日数ともに少なく,多くても年間60日であった。」を付加し,同頁9行目の「15,」の次に「31,」を付加する。 - 37 -オ原判決35頁9行目末尾の次に「被災者は,平成13年2月10日にフィリピンを出発して,同年3月8日まで中国の現地法人に出張し,主に新製品の品質フォローの作業に従事したが,実際には,様々な問題点や弊害が判明し,リワーク作業も行った。」を付加する。 カ原判決45頁21行目末尾の次に「被災者は,上記出張要請を受けた後,広丘事業所での打ち合わせのため帰宅するまでの間,サッカー観戦をせずに,自家用車の中で横になっていた。」を付加する。 キ原判決53頁22行目の「被災者」から同頁24行目の「問題があるとされていた。」までを「被災者は,平成13年5月の会社健康診断時には,身長約171cm,体重69.1kgで普通体重の範囲内におさまっていたが,肥満傾向,高脂血症,肝機能障害(脂肪肝)が認められ,要治療であるとされていたほか,尿酸値にも問題があるとされ 康診断時には,身長約171cm,体重69.1kgで普通体重の範囲内におさまっていたが,肥満傾向,高脂血症,肝機能障害(脂肪肝)が認められ,要治療であるとされていたほか,尿酸値にも問題があるとされていた。」と改め,同54頁9行目の「51」の次に「,65の1(40頁)」を付加する。 (2)上記引用に係る原判決の認定事実を要約すると,次のとおりである。 ア被災者は,平成12年11月ころ,セイコーエプソンの広丘事業所ターミナルプリンター生産技術部に配属となった。被災者は,生産技術部に配属された平成12年11月ころから平成13年1月ころまでは主に品質向上活動支援を担当し,同年2月ころからは,セイコーエプソンの海外の生産拠点(現地法人)における技能認定の業務等も担当するようになった。 被災者らが技能認定業務を行うのは,主にフィリピン及びインドネシアの現地法人で,1か月ないし2か月に1回程度実施されることが年間計画で決まっていた。 イ被災者は,セイコーエプソンの生産技術部に配属された平成12年11月13日から平成13年9月28日までの間に,以下のとおり,合計10回にわたり,183日間の海外出張をした。なお,被災者の海外出張は,平成10年9月以降増えているが,平成12年10月までは多くても年間- 38 -60日であった。 (ア)平成12年11月13日から同年12月22日の40日間,品質向上活動支援のため中華人民共和国へ。 (イ)平成13年1月8日から同月17日までの10日間,品質向上活動支援のため中華人民共和国へ。 (ウ)平成13年2月4日から同年3月8日までの33日間,技能認定及び品質向上活動支援のためフィリピン及び中華人民共和国へ。 (エ)平成13年3月25日から同年4月7日までの14日間,技能認定のためフィリピンへ。 (オ)平成1 3月8日までの33日間,技能認定及び品質向上活動支援のためフィリピン及び中華人民共和国へ。 (エ)平成13年3月25日から同年4月7日までの14日間,技能認定のためフィリピンへ。 (オ)平成13年5月20日から同年6月2日までの14日間,技能認定のためにフィリピンへ。 (カ)平成13年6月10日から同月28日までの19日間,リワーク業務(製品の不具合,製品のクレーム又は生産トラブルが発生した際の生産ラインを含めた原因究明,検討及び改善を行う業務)のためアメリカ合衆国(シアトル)へ。 (キ)平成13年7月7日から同月20日までの14日間,リワーク業務のためチリへ。 (ク)平成13年8月19日から同年9月6日までの19日間,技能認定及び品質向上活動支援のためフィリピンへ。 (ケ)平成13年9月9日から同月28日までの20日間,技能認定のためインドネシアへ。 ウ被災者が海外出張をした現地法人には,日本人マネージャーが常駐しており,言語の違い等から意思疎通に問題が生じるような場合には援助をしてもらえる態勢がとられていた。被災者が滞在するホテルから現地法人の工場までの通勤には送迎の車が準備され,海外出張時のホテルも安全性,快適性等の点で特段の問題はなく,被災者の出張先のフィリピン,インド- 39 -ネシアでは日本との時差が1時間ないし2時間程度であり,被災者や同行者の間で時差による身体的不調が問題とされることはなかった。 被災者が海外出張をして行う業務のうち,技能認定を含む人材育成業務は,生産拠点におけるプリンターの製造体質の強化の一環として,将来的には海外現地法人に自主的なプリンターの製品管理を任せることができるように,海外現地法人の人的な能力の向上を図り,また,現地労働者の中のリーダー的な人達に資格を認定して,その者が他の労働 て,将来的には海外現地法人に自主的なプリンターの製品管理を任せることができるように,海外現地法人の人的な能力の向上を図り,また,現地労働者の中のリーダー的な人達に資格を認定して,その者が他の労働者に教育を行うことができるようにしていくことを目的とするものであり,知識や技能を評価し,育成するものであるが,個人差や言葉の違いのほか,生活風習面も異なることから,通訳を介してもなかなか見極めるのがむずかしい仕事であった。 上記の人材育成業務については,現地労働者に対する教育内容及び試験内容が予めマニュアル等によって定められており,被災者らは大筋これに従って教育及び試験を実施していたが,技能検定にあたり,年間に何人位合格者を出すかなどの数値目標は,被災者とP10が現地の担当者と打ち合わせて決めており,被災者らは,数値目標を達成するため,自ら現地教材用の資料に手を加えるなどして業務に取り組んでいた。 被災者のアメリカ,チリへの出張はリワーク業務のためであるが,リワーク業務については,製品(パソコン用プリンター)の不具合があるときには,急遽現地に赴いて,不具合箇所の原因究明と改善を行う必要があり,この業務を遂行するには,かなりの知識と技術が要求されるものであり,相当の精神的緊張を伴うものであった。被災者は,平成13年2月10日にフィリピンを出発して,同年3月8日まで中国の現地法人に出張し,主に新製品の品質フォローの作業に従事したが,実際には,様々な問題点や弊害が判明し,リワーク作業も行っている。 被災者が国内勤務の際に従事していた業務は,海外品質データの処理,- 40 -分析のほか,年間計画に基づき海外現地法人の人材育成計画を実行するための日程調整や教材の検討など海外出張に向けての準備と,終了した海外出張の結果報告のまとめ等であり,被災者が仕 処理,- 40 -分析のほか,年間計画に基づき海外現地法人の人材育成計画を実行するための日程調整や教材の検討など海外出張に向けての準備と,終了した海外出張の結果報告のまとめ等であり,被災者が仕事に関しミス,トラブル,遅れ等で悩んでいるような形跡はなかった。 エ上記イ(ケ)のインドネシア出張は,現地法人におけるラインリーダー(職長)候補者を対象としてプリンター組立ての技能認定試験(学科試験及び実技試験)を実施するためのものであり,受験者は合計88名であった。被災者は,P10とともに当該出張をして当該業務に従事した。技能認定試験のうち学科試験は,平成13年9月11日午後1時30分から2時30分まで40名の現地労働者が受験し,同日午後3時30分から4時30分まで48名の現地労働者が受験した。実技試験は,同月12日から25日まで(同月15,16及び23日を除く。)の合計11日間にわたり,毎日,原則として,被災者及びP10がそれぞれ①午前9時ないし10時30分,②午前11時ないし午後0時30分,③午後2時ないし3時30分,④午後4時ないし5時30分と4回ずつ実施し(1日につき合計8人が受験),そのうち同月25日か26日については,夜勤の受験者のために午後7時30分まで延長して実技試験が実施された。 インドネシア出張中の被災者の所定労働時間は,午前8時30分から午後5時30分まで(実労働時間7時間30分)であり,休憩時間としては午前中に約10分,昼休みが12時30分から14時まで,午後に約10分が設けられており,土曜日及び日曜日が所定休日であった。被災者及びP10が出張中に宿泊したホテルから現地法人の工場までの通勤には,現地工場の社用車を利用して,約30分から1時間を要する距離に所在していた。被災者らは,インドネシアに滞在していた時期にア 被災者及びP10が出張中に宿泊したホテルから現地法人の工場までの通勤には,現地工場の社用車を利用して,約30分から1時間を要する距離に所在していた。被災者らは,インドネシアに滞在していた時期にアメリカで生じたテロ事件の影響を考えて,できるだけ外に出歩かないようにしていた。 被災者は,インドネシアに出張中の平成13年9月26日か27日のど- 41 -ちらかの日の午後に一度だけ,P10に対し,「頭が痛くて。」,「薬を飲んだので大丈夫。」と被災者が常備していた市販薬を服用した旨を話していた。 オ被災者の時間外労働時間数は,発症前6か月目の1か月間が17時間,発症前5か月目が23時間,発症前4か月目が35時間,発症前3か月目が49時間30分,発症前2か月目が0時間,発症前1か月目が28時間であり,これを前提に,発症前1か月間ないし6か月間の各1か月当たりの平均時間外労働時間を算出すると,発症前1か月間が28時間,発症前2か月間が14時間(1か月目の28時間と2か月目の0時間との平均値),発症前3か月間が25時間50分程度(1か月目の28時間,2か月目の0時間及び3か月目の49時間30分の平均値。以下,計算方法は同様である。),発症前4か月間が28時間8分程度,発症前5か月間が27時間6分程度,発症前6か月間が25時間25分程度であり,したがって,被災者については,発症前1か月間ないし6か月間にわたっての1か月当たりの時間外労働時間数は,いずれも30時間未満であった。 カ被災者の所定休日は土曜日及び日曜日であり,被災者は適宜休暇を取得するなどしており,10日を超えるような連続労働はなかった。海外の出張先において土,日曜は所定の休日であり,被災者は休日をホテル滞在や買物等で過ごしていた。被災者の勤務時間は,国内業務も,海外出張における業 ており,10日を超えるような連続労働はなかった。海外の出張先において土,日曜は所定の休日であり,被災者は休日をホテル滞在や買物等で過ごしていた。被災者の勤務時間は,国内業務も,海外出張における業務も,勤務の開始及び終了時刻が一定しており,勤務途中に待機時間や仮眠時間があることはなく,海外出張先では,時間外残業をすることはほとんどなかった。 キ被災者は,上記インドネシアでの出張を終えて帰国し,平成13年9月28日午前10時40分に松本空港に到着し,同日午後6時ころ帰宅した。 翌29日(土曜日)は休日であり,被災者は自宅で過ごした。被災者は,翌30日(日曜日)午後,子供のサッカーの練習を見ていたところ,P2- 42 -課長から電話でリワーク作業のために東京か大阪へ出張することを要請された。被災者は,「ちょっとー」,「えー」などと言って行きたくない様子を示したが,結局了承し,同日午後3時ころから広丘事業所における打合せ会議に参加した。P2課長と社員P8は同日中に出発したが,被災者は,大工との打ち合わせがあると虚偽の口実を述べて,翌10月1日に台場に赴くこととした。被災者は,上記出張要請を受けた後,サッカー観戦をせずに自家用車で横になって休んでいた。 被災者は,帰宅した後,妻である控訴人に対し,「明日から3日間東京へ行くように言われた。」「ほんとは今日から行けと言われたんだよ。おれ,いやだからさ,いったんは断ったんだけど,明日の朝からでいいからって言われちゃったんだ。」と話していた。 ク東京台場におけるリワーク業務(ア)東京台場では,日本通運の作業員が,海外で生産されて平成13年10月5日に国内販売開始予定のプリンター(4機種)の箱の中に国内向けのマニュアルやCD-ROM等を入れて封をしていく作業をしており,被災者らセイコーエプソン の作業員が,海外で生産されて平成13年10月5日に国内販売開始予定のプリンター(4機種)の箱の中に国内向けのマニュアルやCD-ROM等を入れて封をしていく作業をしており,被災者らセイコーエプソン社員は,日本通運の作業員による作業の進行状況の管理,間違いなく部材が入れられているかのチェック,作業の品質管理等を行い,日本通運の作業員に作業工程を教示したり,作業員の周囲を巡回して監視をしたり,作業の流れが止まった場合などにはその場に行って指導するなどの仕事に従事した。 台場倉庫においては,日本通運の作業員もセイコーエプソンの従業員らも,作業は24時間体制で,午前9時ないし午後5時までの日勤と午後8時から翌日午前5時までの夜勤の2交替制で行われたが,被災者は,日勤の作業に従事し,夜勤はしなかった。 (イ)平成13年10月1日(東京台場出張の1日目)被災者は,早朝松本を出発し,正午前には東京台場倉庫に到着し,昼- 43 -食後午後5時ころまで業務に従事し,その夜は台場倉庫近くのαホテルに宿泊した。 (ウ)平成13年10月2日(東京台場出張の2日目)被災者は,同日午前9時から午後5時まで,台場倉庫において,業務に従事した(実労働時間7時間)。被災者は,午後の休憩時間中に,こめかみを押さえながら,同僚のP9に対し,「頭が痛い,肩こりからくる頭痛なのかな。何もしないで立っているより動いていた方がいい。」と話し,実際に箱に入れる作業もしていた。被災者は,午後5時に業務を終え,午後6時ころ,P9とともに夕食を摂り,頭痛を訴えていたが,ビール中ジョッキ1杯を飲んだ。その後,被災者は,午後7時ころ,αホテルの部屋に戻った。 同日,被災者らの東京台場出張の日程が,他のメンバーが到着する予定日の翌日(同月5日)まで2日間延長された。αホテルにおける宿泊 杯を飲んだ。その後,被災者は,午後7時ころ,αホテルの部屋に戻った。 同日,被災者らの東京台場出張の日程が,他のメンバーが到着する予定日の翌日(同月5日)まで2日間延長された。αホテルにおける宿泊予約は同日までであり,延宿をすることができなかったため,被災者は,夕刻に翌日以降の宿泊先(ホテルβ)の手配をした。 (エ)平成13年10月3日(東京台場出張の3日目)被災者は,同日午前8時ころ,ホテルを出発し,午前9時から午後5時まで業務に従事した(実労働時間7時間)。被災者は,同日午前8時ころ,P9に対し「昨日夕食をしている午後7時ころが一番頭が痛かった。今も頭が痛くてバファリンを飲んできた。夕食後コンビニでウイスキーを買ってきてボトル半分くらい飲んでから寝た。」などと話していた。被災者は,同日,作業中や休憩中に,両手でこめかみを押さえながら,しきりに「頭が痛い」と言っており,1時間に1回くらい休憩をとっており,業務終了後,γのホテルへ帰る電車の中でも辛そうにしていた。 被災者は,同日午後6時9分,同日の宿泊先であるホテルβにチェッ- 44 -クインをした後,P9とともに,外で夕食をし,生ビール中ジョッキ1杯を摂ったが,その時も頭痛を訴えていた。被災者は,同日夜,社員のP8に対し電話をかけ,翌日からリワーク作業に合流する人のことを聞いていると話し,頭が痛いと話した。 (オ)平成13年10月4日(東京台場出張の4日目)被災者は,同日午前7時の集合時間になっても,ホテルロビーに姿を見せず,その後,ホテルの部屋において,パジャマ姿でうずくまる姿勢で既に死亡しているのが発見された。被災者の死因は,左椎骨動脈解離性動脈瘤破綻により発症したくも膜下出血であり,死亡日時は平成13年10月4日午前1時ころと推定された。被災者が発見された時,居室 で既に死亡しているのが発見された。被災者の死因は,左椎骨動脈解離性動脈瘤破綻により発症したくも膜下出血であり,死亡日時は平成13年10月4日午前1時ころと推定された。被災者が発見された時,居室内に缶チュウハイのロング缶(500ミリリットル)の空き缶及び飲みかけの缶が数本置かれており,被災者は,死亡する直前にホテルの部屋で缶チュウハイを飲んでいたと推定された。なお,被災者の解剖時の血中エタノール濃度は0.26㎎/mlであった。 (3)被災者は,平成13年5月の会社健康診断時には,身長約171cm,体重69.1kgで普通体重の範囲内におさまっていたが,高脂血症,肝機能障害(脂肪肝),多血症傾向が認められ,要治療であるとされていたほか,尿酸値にも問題があるとされていた。セイコーエプソン専属の産業医は,被災者について平成6年から高脂血症,アルコール性肝機能障害(脂肪肝)と診断していた。平成12年7月に被災者が指導を受けて1週間禁酒したところ,中性脂肪が604㎎/dl(基準値は~149㎎/dl)から77㎎/dlに,γ-GTPが404IU/l(旧基準値:~60IU/l)から196IU/lに下がったことから被災者に対し禁酒(節酒)を指導していた。 しかし,平成13年5月14日の定期健康診断時の中性脂肪が827㎎/dl(基準値:~149㎎/dl),γ-GTPが650IU/l(新基準値:~80IU/l)と非常に高い数値であったため,産業医らは被災者に対し,節酒,- 45 -できれば禁酒をするよう強く指導していた。 被災者は,平成13年ころには,自宅においては,毎日,就寝前に,アルコール度数20度の焼酎の水割りを湯飲み茶碗4杯又はマグカップ3杯位飲んでいた。 ただし,被災者については,健康診断時に血圧については問題となる高血圧は見られなかった。なお は,毎日,就寝前に,アルコール度数20度の焼酎の水割りを湯飲み茶碗4杯又はマグカップ3杯位飲んでいた。 ただし,被災者については,健康診断時に血圧については問題となる高血圧は見られなかった。なお,被災者の実父が,くも膜下出血に罹患した経験がある。 くも膜下出血,解離性脳動脈瘤等に関する医学的知見文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,くも膜下出血,解離性脳動脈瘤等に関する医学的知見に関して,以下のことが認められる。 (1)くも膜下出血についてくも膜下出血とは,頭蓋内血管の破綻により,血液がくも膜下腔(くも膜と軟膜の間の腔で,脳脊髄液が循環している。)に流入して起こる病態をいう。くも膜下出血の原因の75パーセントは脳動脈瘤の破裂である。(甲3,乙19)くも膜下出血を含む脳・心臓疾患は,その発症の基礎となる血管病変等が,主に加齢,食生活,生活環境等の日常生活による諸要因や,遺伝等の個人に内在する素因(病気に罹り易い性質)により,生体が受ける日常的な通常の負荷によって,長年の生活の営みの中で,極めて徐々に形成,進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症するものであり,労働者に限らず,一般の人々の間にも普遍的に数多く発症する疾患である。ただし,業務による過重な負荷が加わることにより,血管病変等を自然経過を超えて著しく増悪させ,脳・心臓疾患を発症させる場合があることは医学的に広く認知されている。(乙19)(2)解離性脳動脈瘤について解離性脳動脈瘤とは,脳動脈の解離により血管壁内に血液が入り込み,動- 46 -脈瘤様拡大を来したり,本来の血管腔を閉塞させたりするものである。 解離性動脈瘤に関する知見は乏しいが,動脈解離は,内弾性板の断裂であり,これによって脆弱化した血管壁に血液が流入し,血管壁の解離が進行し,この動脈解離が外側 来の血管腔を閉塞させたりするものである。 解離性動脈瘤に関する知見は乏しいが,動脈解離は,内弾性板の断裂であり,これによって脆弱化した血管壁に血液が流入し,血管壁の解離が進行し,この動脈解離が外側膜で進行すると,脆弱な外膜が伸展・膨隆し,解離性動脈瘤を形成するものであるとされている。解離性動脈瘤やその破裂の原因も未解明であるが,脳血管自体の加齢現象と高血圧などによる血行力学的な負荷や頸部の伸展などの動作の積み重ねなどが要因ではないかと考えられている。(甲12,38,乙46,47,66の1・3)解離性動脈瘤は,発生した後,一方的に進行するわけではなく,自然に治癒して発症に至らない例も多数認められている。(甲38,乙46)(3)脳動脈瘤破裂の前駆症状について脳動脈瘤破裂による大出血に前駆して種々の警告サイン(頭痛,吐き気,嘔吐,視覚障害など,前駆症状とも呼ばれる。)があり,微量の漏出性出血が原因であると考えられている。脳動脈瘤の破裂に前駆する警告サインの中で最も重要なのが頭痛であり,頭痛の持続期間は平均13日で,ほとんどの症例で頭痛が全く消失しないうちに大出血が起こっているとされる。また,頭痛に伴い,吐き気や嘔吐が認められることも多く,吐き気・嘔吐の持続時間は平均4日であるとされている。(甲3,4,12,乙19,66の1)(4)くも膜下出血のリスクファクターについてくも膜下出血のリスクファクター(危険因子。特定の疾患や異常条件の発生に関連がある個人の属性や性質,環境条件等。)として,以下のものが挙げられる。(甲12,乙19,45,47ないし50,52,65の1・3・9・10)ア高血圧イ喫煙ウ飲酒- 47 -長期間大量にアルコールを摂取し続けると,血圧上昇と脳血流の増加など血行動態の変化を生じさせ,また,肝機能障害に し50,52,65の1・3・9・10)ア高血圧イ喫煙ウ飲酒- 47 -長期間大量にアルコールを摂取し続けると,血圧上昇と脳血流の増加など血行動態の変化を生じさせ,また,肝機能障害により肝臓における血液凝固因子の生成を阻害するなどのことから,飲酒は,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血のリスクファクターとされている。(甲12,乙45,51)しかし,解離性脳動脈瘤の発生,進行について,飲酒がその要因となるかどうかは明らかでない。(甲58,乙46,47)また,飲酒の翌日の二日酔いあるいはwithdrawal(離脱)の時期にはカテコラミンの増加による血圧上昇と血管の過剰反応性がみられ,くも膜下出血の12ないし13パーセントは大量の飲酒から24時間以内の二日酔い又はwithdrawal(離脱)の時期に発生するとされているが,飲酒時のくも膜下出血や脳出血の発症には血圧上昇や血管の過剰反応性が引き金になっていると考えられている(乙45)。 エ高脂血症について高脂血症は,くも膜下出血を起こした動脈解離性病変の8パーセントにみられたという報告があるが(乙50),脳出血の場合には高脂血症はリスクファクターとは認められないとする報告もある(乙19の112頁,47の418頁)。こうしたことから,高脂血症がくも膜下出血のリスクファクターの一つといえるかどうか医学的に確定的見解はないが,解離性脳動脈瘤の発生原因として高血圧,動脈硬化が考えられ,高脂血症は動脈硬化をもたらすことからくも膜下出血のリスクファクターの一つと考える立場もある(乙70)。 オストレスについてストレスは,高血圧及び動脈硬化の進行に何らかの影響を与えることが広く認められているが,その定量的評価法が確立されておらず,その関与の有無とその程度については,個々の症例に則して,総 トレスについてストレスは,高血圧及び動脈硬化の進行に何らかの影響を与えることが広く認められているが,その定量的評価法が確立されておらず,その関与の有無とその程度については,個々の症例に則して,総合的に判断せざる- 48 -を得ないものとされている。(乙19)カ加齢について加齢は,高血圧症及び動脈硬化の進行を促す要因でもあり,くも膜下出血の好発年齢は,日本人では40歳代にあるともされている。(甲4,乙19,47,50)キ遺伝的素因について近親者(一親等以内)に脳動脈瘤患者を有する者の4パーセントが脳動脈瘤を有するとの報告があるなど,遺伝的素因が脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の危険因子であるとする見解も存する。そして,くも膜下出血の主要な原因である頭蓋内嚢状動脈瘤の発生に関しては,遺伝的因子が重視される傾向にあるが,解離性動脈瘤の発生に関して遺伝的因子が関与しているかどうかは明らかでない。(甲38,乙47,48,66の1・3・9)ク多重リスクファクターくも膜下出血について,多重のリスクファクターを有する者は,発症のリスクが高いとされている。(乙19) 認定事実に基づく判断(1)前記認定のとおり,くも膜下出血を含む脳・心臓疾患は,その発症の基礎となる血管病変等が,主に加齢,食生活,生活環境等の日常生活による諸要因や,遺伝等の個人に内在する素因(病気に罹り易い性質)により,生体が受ける日常的な通常の負荷によって,長年の生活の営みの中で,極めて徐々に形成,進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症するものであり,労働者に限らず,一般の人々の間にも普遍的に数多く発症する疾患である。 ただし,業務による過重な負荷が加わることにより,血管病変等を自然経過を超えて著しく増悪させ,脳・心臓疾患を発症させる場合があることは医学 らず,一般の人々の間にも普遍的に数多く発症する疾患である。 ただし,業務による過重な負荷が加わることにより,血管病変等を自然経過を超えて著しく増悪させ,脳・心臓疾患を発症させる場合があることは医学的に広く認知されているところである。 - 49 -そこで,被災者が死亡の原因となった解離性動脈瘤破裂によるくも膜下出血が,業務による過重な負荷が加わることにより,この血管病変等を自然経過を超えて著しく増悪させたものかどうかを検討しなければならない。 (2)ア前記認定事実によれば,被災者の長期的業務について,労働時間,業務内容,勤務体制,国内・海外出張先の労働環境,生活環境などの点をみれば,被災者の心身に特に大きな負荷があったとは窺われない。すなわち,被災者の発症前1か月ないし6か月間にわたっての1か月当たりの時間外労働時間数はいずれも30時間未満であり,土日の休日も確保され,勤務途中に待機時間や仮眠時間等があるわけでもなく,拘束時間が長時間に及ぶということもなかった。 イしかしながら,前記認定のとおり,被災者は,平成12年11月以降海外工場における人材育成や技能検定を職務としていたことから,頻繁な海外出張を繰り返すようになり,平成13年9月28日までに,10回にわたり合計183日間の海外出張をして,技能検定業務,リワーク業務に従事している。具体的には,平成12年11月13日から同年12月22日の40日間中華人民共和国,平成13年1月8日から同月17日までの10日間中華人民共和国,同年2月4日から同年3月8日までの33日間フィリピン及び中華人民共和国,同年3月25日から同年4月7日までの14日間フィリピン,同年5月20日から同年6月2日までの14日間フィリピン,同年6月10日から同月28日までの19日間アメリカ合衆国,同年7月7日から同月 国,同年3月25日から同年4月7日までの14日間フィリピン,同年5月20日から同年6月2日までの14日間フィリピン,同年6月10日から同月28日までの19日間アメリカ合衆国,同年7月7日から同月20日までの14日間チリ,同年8月19日から同年9月6日までの19日間フィリピン,同年9月9日から同月28日までの20日間インドネシアに出張している。 上記の海外出張業務は,航空機等による長時間の移動や待ち時間を余儀なくされ,宿泊先のホテル等での生活は,日本食が食べられるといっても,環境,食事,睡眠などの面で不規則となり,夜間や休日における過ごし方- 50 -も単調で,自宅で過ごすのとは質的に違い,精神的,肉体的に疲労を蓄積させるものであることは明らかである。 のみならず,被災者が海外出張をして行う業務のうち,技能認定業務は,現地労働者の中のリーダー的な人達を対象とした教育で,知識や技能を評価し,育成するものであるが,個人差や言葉の違いのほか,生活風習面も異なることから,通訳を介してもなかなか見極めるのがむずかしい仕事であった。この人材育成業務については,現地労働者に対する教育内容及び試験内容が予めマニュアル等によって定められており,被災者らは大筋これに従って教育及び試験を実施していたが,技能検定にあたり,年間に何人位合格者を出すかなどの数値目標は,被災者とP10が現地の担当者と打ち合わせて決めており,被災者らは,数値目標を達成するため,自ら現地教材用の資料に手を加えるなどして業務に取り組んでいたものであり,その業務自体も精神的緊張の伴う性質のものであったとみることができる。 また,被災者のアメリカ,チリへの出張はリワーク業務のためであり,平成13年3月8日までの中国出張時にもリワーク作業に従事しているが,リワーク業務については,製品(パソ であったとみることができる。 また,被災者のアメリカ,チリへの出張はリワーク業務のためであり,平成13年3月8日までの中国出張時にもリワーク作業に従事しているが,リワーク業務については,製品(パソコン用プリンター)の不具合があるときには,急遽現地に赴いて,不具合箇所の原因究明と改善を行う必要があり,この業務を遂行するには,かなりの知識と技術が要求されるものであり,相当の精神的緊張を伴うものであったと認められる。 被災者は平成12年10月より前にも海外出張の経験があるが,平成12年11月以降の合計10回,183日間の海外出張の業務は,被災者の従前の海外出張と比較して,出張回数・日数が著しく増加しており,その業務も,海外出張に伴う生活環境の変化の中で,精神的に緊張を伴う業務に従事して疲労が蓄積していったものと推認できるし,平成13年8月19日から同年9月6日までのフィリピン出張から帰国し,実質的に2日間だけ自宅で過ごした後,同年9月9日から同月28日までインドネシアに- 51 -出張しており,インドネシアへの出張を終えて帰宅した時点では,相当の疲労の蓄積があったことは容易に推認できる。そして,被災者は,インドネシア滞在中,同僚に頭痛がある旨を話しているのであって,この頭痛は,解離性動脈瘤の前駆症状であった蓋然性があると認められる。 被災者に相当の疲労の蓄積があったことは,被災者が,インドネシアから帰国の翌々日の日曜日,上司からの携帯電話による出張の要請に対し,「ちょっとー。」とか「えー。」とか嫌悪感をあらわにし,本来日曜日に東京台場に向け出発するよう要請があったのに,大工との打合せが入っているとの虚偽の口実をもうけて翌月曜日出発にしたこと,上記出張要請を受けた後,子供のサッカー練習の観戦もせずに自家用車で横になって休んでいたことにも現 るよう要請があったのに,大工との打合せが入っているとの虚偽の口実をもうけて翌月曜日出発にしたこと,上記出張要請を受けた後,子供のサッカー練習の観戦もせずに自家用車で横になって休んでいたことにも現れている。 ウ東京台場において被災者が従事していたリワーク業務は,P4チームの守備範囲の業務であって,日本通運の作業員によるプリンターの同梱等の作業の管理やチェックであり,肉体的に過重な負荷のかかる業務とまではいえないものの,座っているというよりは立ち仕事ないし動き回る仕事であり(乙5),足や腰が疲れる(乙8,32)作業で,被災者が平成12年11月以降に携わってきた人材育成や技能検定の業務とは性格を異するものであった。そして,当時,平成13年10月5日のプリンター発売開始日が迫っており,同日までにはある程度の数量の製品についてリワーク作業,梱包作業を終えて出荷しなければならない状況であり,そのためそれらの作業には,順次セイコーエプソンの従業員が台場倉庫に派遣され,当番制により24時間態勢で業務に従事していたことが認められ,また,事後的に,欠品を確認の上除外する等の同梱作業以外の作業が追加されており,台場倉庫での作業においてはやや混乱した状態も生じていた可能性が高いと推測されるのであって,被災者にとって,その業務は,緊急性のあるものとして精神的に相当な緊張が伴うものであったと推認される。 - 52 -加えて,ホテル住まいで,仕事が終わった後もゆっくりくつろぐ環境にはなかったと認められるから,被災者は,平成12年11月以降の多数回にわたる海外出張業務,特に直近のフィリピン,インドネシアへの出張業務で蓄積した疲労が解消しないまま,気が進まない東京台場での出張業務に従事したことにより,疲労は増加し,ストレスがたまる一方であったと推認される。そし ,特に直近のフィリピン,インドネシアへの出張業務で蓄積した疲労が解消しないまま,気が進まない東京台場での出張業務に従事したことにより,疲労は増加し,ストレスがたまる一方であったと推認される。そして,被災者は,平成13年10月2日と同月3日にしきりに頭痛を訴え,特に同月3日は,作業中や休憩中に両手でこめかみを押さえながら,しきりに「頭が痛い」と言い,1時間に1回くらい休憩をとっており,γのホテルに帰る電車の中でも辛そうにしていた(乙7,26)ことが認められるが,その翌日午前1時ころにくも膜下出血を発症し,死亡するに至っていることからすれば,被災者の上記の愁訴は,被災者の解離性脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血発症の前駆症状であったと推認するのが相当である。 被災者は,このような頭痛に対し,休んで医師の診察を求めるとか他の要員との交替を申し出るとかをしていないが,被災者は平成13年10月5日からのプリンター販売を目前にして,予定されていた出張業務の遂行を第一に考え,同月2,3日は頭痛をこらえてその職責を果たそうとしたもので,代替要員が来るのは同月4日以降となっていたから,病院に行くため休みをとったり,代替要員との交替を申し出るのは事実上困難な状況にあったと認められる。 (3)被災者のフィリピン,インドネシアへの出張時から死亡時までの経過をみると,上記(2)のとおり,被災者は,フィリピン,インドネシアへのほぼ連続した39日間の出張業務に従事し,インドネシア出張時には既に解離性脳動脈瘤の前駆症状とみられる頭痛があったものであり,同出張から帰国後は連続した出張業務により相当の疲労が蓄積していたものと認められる。しかるに,その後,上記の疲労がとれる間もなく東京台場への出張を命ぜられ,気- 53 -が進まないまま月曜日の早朝に東京へ出発し,その 続した出張業務により相当の疲労が蓄積していたものと認められる。しかるに,その後,上記の疲労がとれる間もなく東京台場への出張を命ぜられ,気- 53 -が進まないまま月曜日の早朝に東京へ出発し,その日の午後から3日間,24時間の勤務体制のうち午前9時から午後5時までの日勤の時間帯に,日頃従事している業務とは性質の異なるリワーク作業に従事し,ホテル住まいでくつろぐ環境もない状態であったことから,疲労の蓄積は増加し,しきりに頭痛を訴えるようになっていたものである。そして,24時間,2交替の勤務体制がとられている中,応援を依頼された被災者にとっては,頭痛を訴えて業務の交替を申し出ることがはばかられたことから,頭痛をこらえて業務に従事し,業務終了後は,飲酒をして頭痛をまぎらわしていたものと推認することができる。 一方,前記認定の事実によれば,被災者は,飲酒習慣があり,会社の健康診断において,飲酒癖に伴うと推定される高脂血症,肝機能障害を指摘され,要治療とされていたほか,くも膜下出血のリスクファクターとなるべき年齢的要素,遺伝的要素を有しており,発症直前の10月2日とその前日である10月3日の夜,相当量のアルコールを摂取していたことが認められる。 しかし,被災者の血圧値は正常で,発症時の年齢は41歳と働き盛りであり,平成13年5月の健康診断時には,身長約171cm,体重69.1kgで普通体重の範囲内におさまっており,会社専属の産業医から,禁酒ないし節酒の指導を受けていたものの,すぐに医療機関を受診しなければならない程度ではないとされ,就業を制限する指示もされていなかったものである。 さらに,医学的な知見に照らすと,高脂血症はくも膜下出血の有意なリスクファクターとは認められないとの見解が有力であり,また,飲酒がくも膜下出血を発症する引き金となり得る されていなかったものである。 さらに,医学的な知見に照らすと,高脂血症はくも膜下出血の有意なリスクファクターとは認められないとの見解が有力であり,また,飲酒がくも膜下出血を発症する引き金となり得るとされ,頭蓋内嚢状動脈瘤の発生に関して遺伝的要素がリスクファクターとして重視される傾向にあるが,解離性動脈瘤の発生機序については未だ解明されておらず,飲酒や遺伝的要素がその発生要因となるものかどうかは明らかでない状況にあると認められる。 そして,被災者は,インドネシアへの出張時に頭痛があると話していたも- 54 -のの,帰国後自宅で休暇を取っている際には,疲労を感じながらも子供のサッカーの練習に同行するなど,何事もなく平穏に過ごしており,この時点では頭痛の要因と推測される解離性動脈瘤の症状は緩解していたことが窺われる。被災者が,それ以外に,家族や同僚にめまいや頭痛を訴えたり,脳・心臓疾患により受診したり,病気で日常生活に支障を生じた形跡はなく,東京台場で出張業務に従事する以前においては,会社及び出張先においても,与えられた日常業務及び出張業務を格別の支障なくこなしてきたことが明らかである。 以上検討したところにP6医師の意見(甲38)を併せ考慮すれば,本件において,被災者がくも膜下出血を発症した当時,同人の解離性動脈瘤の基礎的な血管病態が,その抱える個人的なリスクファクターのもとで自然の経過により,一過性の血圧上昇等でいつくも膜下出血が発症してもおかしくない状態まで増悪していたとみるのは困難であり,むしろ,被災者はフィリピンやインドネシアでのほぼ連続した出張業務に従事し疲労が蓄積した状態であったところ,インドネシアから帰国後ほとんど日を置かず東京台場でのリワーク作業に従事せざるを得ず,かつ,その業務に従事中,解離性動脈瘤の前駆症状の増悪が 続した出張業務に従事し疲労が蓄積した状態であったところ,インドネシアから帰国後ほとんど日を置かず東京台場でのリワーク作業に従事せざるを得ず,かつ,その業務に従事中,解離性動脈瘤の前駆症状の増悪があったにもかかわらず,業務を継続せざるを得ない状況にあったものであり,それらのことが上記基礎的疾患を有する被災者に過重な精神的,身体的な負荷を与え,上記基礎的疾患をその自然の経過を超えて増悪させ,その結果,解離性脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血が発症するに至ったとみるのが相当である。そうすると,被災者がくも膜下出血により死亡したのはその従事していた業務の危険性が現実化したことによるものということができ,したがって,被災者のくも膜下出血の発症と業務との間には相当因果関係があり,被災者は業務上の事由により死亡したものというべきである。 P11医師の意見(乙65の1)及びP12医師の意見(乙66の1)は,- 55 -いずれも,被災者のくも膜下出血の発症の業務起因性を否定する見解を述べているが,被災者の従事した業務が被災者に与えた精神的,身体的な負荷の加重性について上記と異なる評価に立つものであって,いずれも採用できない。 第6 結論 以上の次第で,被災者の死亡は業務上の事由によるものとは認められないとして控訴人に対する遺族補償給付等を不支給とした本件各処分は違法として取り消されるべきであり,控訴人の請求は理由があるから認容すべきである。よって,これと異なる原判決を取り消し,控訴人の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第19民事部裁判長裁判官青柳馨裁判官豊田建夫,同土谷裕子は,いずれも転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官青柳馨 部裁判長裁判官青柳馨裁判官豊田建夫,同土谷裕子は,いずれも転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官青柳馨

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