【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人弁護士田多井四郎治の上告理由第一点について。 所論昭和二四年三月二
主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人弁護士田多井四郎治の上告理由第一点について。 所論昭和二四年三月二六日の第一次買収計画における買収農地一二筆の中に、上 告人所有の山林及び宅地の一部を包含して保有地面積を算出した違法があつた為、 右一二筆中より四筆を除外するに至つたものであるという点は、記録上、一、二審 において何ら争われた形迹のない事項である。また、所論取寄書類中甲一〇号証の 一、二の原本が存在しないとして公文書破毀罪の成立を論ずる点は、右甲一〇号証 の一、二は上告人に送達された書類であつて、同人よりの提出にかかる証拠であり、 被上告人もその成立を認めており、たとえ右原本が取寄書類の中に存在しないから といつて、本件の事実認定には何ら影響のない事柄である。そして原審は、本件係 争農地四筆について、D農業委員会(当時は農地委員会)が上告人と協議の上、ま たは上告人の異議申立を正当と認めて、これを買収計画から除外し、且つ被上告人 もこれを承認していたものであるという上告人の主張事実は、これを肯認すること ができない旨を認定し、所論のような職権濫用行為があつたことを認めるに足る事 跡はないと判示しており、原審の右判断は、その挙示の証拠に照らし、当審におい てもこれを是認することができる。されば、論旨は結局原審が適法にした証拠の取 捨、事実の認定を非難するに帰するものであつて、採るを得ない。 同第二点について。 本件買収計画において、その対価が自作農創設特別措置法六条に定める価格をも つて定められたことは当事者間に争のないところである。そして、同条三項本文の 農地買収対価は、憲法二九条三項にいわゆる「正当な補償」にあたるものであるこ - 1 - とは、当裁判所の判例とするところ も つて定められたことは当事者間に争のないところである。そして、同条三項本文の 農地買収対価は、憲法二九条三項にいわゆる「正当な補償」にあたるものであるこ - 1 - とは、当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(オ)九八号、同二八年一 二月二三日大法廷判決、集七巻一三号一五二三頁)。それ故、本件対価が憲法二九 条の正当な補償にあたらないことを前提とする違憲、違法の所論は採るを得ない。 なお、論旨は、判断遺脱をいうが、原判決が上告人の原審でした前記主張に対し 判断を与えていることは判文上明らかであつて、所論の違法は認められない。 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官真野毅、同斎藤悠輔及び同 河村大助の意見を除き裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。 上告理由第二点に対する裁判官真野毅の意見は、次のとおりである。(本判決の 結論および上告理由第一点に対する判断には賛同する)。 多数意見は、自作農創設特別措置法六条三項本文の農地買収対価は、憲法二九条 三項にいわゆる正当な補償にあたるというが、わたくしには右自創法は、農地買収 の対価の絶対的な最高限を定めた規定だとは考えられない。たゞ自創法による農地 の買収は、大量的に処理さるべき行政処分であるから、同六条はその実行の便宜の ため行政庁が買収対価を定める際の一定の標準を定めたものに過ぎない。行政庁の 定めた買収対価が憲法にいわゆる正当の補償に当らないとして不服あるものは、自 創法一四条によつて正当補償に該当するまでの増額を裁判所に出訴して請求するこ とが許されていると解するを相当とする(その詳細は判例集七巻一三号一五三九頁、 同八巻一一号二〇三六頁、同九巻一一号一六九五頁参照)。それ故、買収対価の増 額請求をなさずして、ただ自創法の買収対価が正当補償に当らないことを理由とし て違憲を主張する論旨は 集七巻一三号一五三九頁、 同八巻一一号二〇三六頁、同九巻一一号一六九五頁参照)。それ故、買収対価の増 額請求をなさずして、ただ自創法の買収対価が正当補償に当らないことを理由とし て違憲を主張する論旨は採ることをえない。 裁判官斎藤悠輔の上告理由第二点に対する意見は、次のとおりである。 論旨前段は、本件買収農地の対価は畑一坪二円、田一坪四円程度の実際の取引価 格の何十分の一にも及ばない低価であつて、かような低価で地主から買収しこれを 同一価格で小作人その他の自作農に売渡したものであるから、本件買収処分は、憲 - 2 - 法一四条に違反し、かかる差別扱する目的の下に制定された農地法令(自作農創設 特別措置法令)も同条に違反しともに無効である旨主張する。しかし、憲法一四条 一項に「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又 は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定 したのは、その所定の理由により、その所定の関係において差別するがごとき非合 理的な不公平の待遇を禁止する趣旨である。されば、仮りに本件買収対価が所論の ように低価であるとしても、本件買収並びにかかる買収を規定した自創法令を以て 同条の禁止する差別待遇といえないこと多言を要しない。それ故、所論は採るを得 ない。 また、論旨後段は、本件買収価格は、憲法二九条の正当な補償に当らないから、 本件買収は違法であるというが、買収価格が正当でなければ、自創法一四条により その増額を請求すべきであつて、これがため買収そのものを無効たらしめるもので ないから(民事判例集八巻一一号二〇三六頁記載の少数意見参照)、所論は、買収 そのものを是認した原判決に対する適法な上告理由となし難い。 裁判官河村大助の上告理由第二点に対する意見は次のとおりである。 憲法二九条三項に所謂「正 号二〇三六頁記載の少数意見参照)、所論は、買収 そのものを是認した原判決に対する適法な上告理由となし難い。 裁判官河村大助の上告理由第二点に対する意見は次のとおりである。 憲法二九条三項に所謂「正当な補償」とは、公共のため徴収される財産権の、客 観的な経済価値を意味するものであつて、その徴収の目的たる公共の福祉がたとえ、 わが国経済の民主化という重大な国策に基くものであつても、それによつて補償の 額を、本来有する客観的価格より、低廉に定めてよいとの理由とはならないのであ る。そしてその、客観的価格は、具体的土地の個性及び一般物価事情から創定され るものであるから、政府が米価等を標準として、法令によつて一般的基準を定めて も、それが直ちに完全な補償となるべきものでないことは、多言を要しないところ であろう。のみならず、憲法の保障する「正当な補償」を法律を以て、任意に制限 して、その価格低下を招くような定めをすることは、基本的人権を侵すことになる - 3 - ものというべきである。 上告人の第一審以来の主張によれば、本件農地に対する自作農創設特別措置法( 以下自創法と略称する)六条三項の買収対価は、畑一坪二円、田一坪四円程度で、 実際の価格の何十分の一にも達しないというにある。買収計画当時の経済事情に照 し、この主張が真実だとすれば、買収対価は、殆ど名目上のものにとゞまり、対価 の名に値しないこととなる。そこでこの買収対価と、正当補償が問題になるのは当 然のことであろう。 ところで、憲法を離れて、前記自創法六条三項のみから見れば、一見同条の対価 基準は、これを超えることの得ない最高限を、定めたものと解せられないこともな い。しかしながら、同条及同法一四条の増額請求の規定は、憲法の所期する完全補 償の実現を目的として、存在するものと理解することができよう、そして、この法 ない最高限を、定めたものと解せられないこともな い。しかしながら、同条及同法一四条の増額請求の規定は、憲法の所期する完全補 償の実現を目的として、存在するものと理解することができよう、そして、この法 の理念に照すときは、前示六条三項の規定は、一応の対価基準を定めたものであつ て、其買収対価が、具体的の土地に対し、不相当に低廉である場合は、同法一四条 で、増額の請求を認めることによつて、完全補償の要請にこたえたものと解するを 相当だと考える(尚同法六条及び一四条の解釈については昭和二五年(オ)第九八 号同二八年一二月二三日大法廷判決「判例集七巻一三号一七頁以下」真野毅裁判官 及び斎藤悠輔裁判官の意見に同調する)。 以上の理由により、自創法の規定は、結局憲法の「正当な補償」を制限したもの と解することはできないから、所論違憲の主張は、その前提を欠くものである。 最高裁判所大法廷 裁判長裁判官 田 中 耕 太 郎 裁判官 真 野 毅 裁判官 小 谷 勝 重 裁判官 島 保 - 4 - 裁判官 斎 藤 悠 輔 裁判官 藤 田 八 郎 裁判官 河 村 又 介 裁判官 小 林 俊 三 裁判官 入 江 俊 郎 裁判官 池 田 克 裁判官 垂 水 克 己 裁判官 河 村 大 助 郎 裁判官 池 田 克 裁判官 垂 水 克 己 裁判官 河 村 大 助 裁判官 下 飯 坂 潤 夫 裁判官 奥 野 健 一 裁判官 高 橋 潔 - 5 -
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