令和6(わ)668

裁判年月日・裁判所
令和7年3月13日 さいたま地方裁判所
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判決文本文5,595 文字)

- 1 -主文 1 被告人を懲役17年に処する。 2 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 3 さいたま地方検察庁で保管中のダガーナイフ2本(令和6年さいたま領第1281号符号3及び4)を没収する。 理由 (犯罪事実)被告人は、第1 法定の除外事由がないのに、令和6年4月29日午後9時頃、埼玉県川口市(住所省略)4階北西側踊り場において、ダガーナイフ2本(いずれも刃渡り約15センチメートル。主文3項の物件)を所持し、第2 前記日時場所において、A(当時33歳)に対し、殺意をもって、前記ダガーナイフ2本のうちいずれか一方でその前胸部を突き刺すなどし、よって、同日午後9時50分頃、同市(住所省略)所在のBセンターにおいて、同人を前胸部刺創による心・肺損傷に基づく失血により死亡させ、第3 ベトナム社会主義共和国の国籍を有する外国人であって、令和元年12月20日、同国政府発行の旅券を所持し、愛知県常滑市所在の中部国際空港に上陸して本邦に入った者であるが、その後在留資格の変更及び在留期間の更新を受けて、在留期間を令和4年5月31日までとする旨決定されていたのに、前記在留期間の更新又は変更を受けないで、同日を超えて令和6年4月29日まで、日本国内の場所不詳に居住するなどし、もって在留期間を経過して本邦に残留した。 (事実認定の補足説明)本件の争点は、判示第2の事実について、殺意があったか否か、正当防衛が成立するか否か、という点である。 1 証拠によれば、被告人が、交際関係にあったCから別れ話をされたことなど- 2 -から、Cに会うために当時居住していた三重県から群馬県内のCの部屋を訪れたが、同人は不在であったこと である。 1 証拠によれば、被告人が、交際関係にあったCから別れ話をされたことなど- 2 -から、Cに会うために当時居住していた三重県から群馬県内のCの部屋を訪れたが、同人は不在であったこと、その場で壁に書かれたCと被害者の名前を見つけ、ビデオ通話で被害者と口げんかをする中で、Cと被害者が交際関係にあることを知り、Cが所在する判示の被害者方アパートの住所を突き止め、Cを連れ帰る目的で同アパートを訪れたこと、被害者方居室の入口で鉢合わせたCが被告人と会うことを拒み、居室に引きこもったが、被告人は、その後も約4時間にわたって、同アパート内にとどまっていたことなどの事実が認められる。 2 被害者の知人であるD証人は、犯行直前の状況について、次のとおり証言している。 「私を含む被害者Aの知人らは、Aに関するトラブル解決のため、当日、Aのアパートに向かった。アパートの表階段を昇って5階に着いたとき、男(被告人のことである。)が両手にむき出しの状態のナイフを持ったまま、いきなり私及び一緒にいたEの二人を追いかけてきたので、廊下の奥に逃げた。私が転倒すると、男が近づいてきて、ナイフの刃先を向けながら、『おまえはAなのか。』と聞いてきたので、『Aではない。』と答えたところ、男は、むき出しのナイフを両手に持ったまま走り去った。」などと証言し、E証人も概ね同様の証言をしている。 同人らの証言は、互いに合致しており、相互にその信用性を高めあっている。また、その証言内容を見ても、被害者に関するトラブル解決のためにアパートに向かったところ、そのトラブルの相手であり刃物を持った男から追い詰められたなどと、一連の経緯を自然に説明している。同証人らが、殊更被告人に不利な証言をする動機も見当たらない。後にも詳述するとおり、この5階の出来事に関する被告人の弁 であり刃物を持った男から追い詰められたなどと、一連の経緯を自然に説明している。同証人らが、殊更被告人に不利な証言をする動機も見当たらない。後にも詳述するとおり、この5階の出来事に関する被告人の弁解内容(Aの関係者であるとは思いもしないまま、冗談で「お前はAか。」などと聞いた旨の弁解)は到底信用することができず、D及びEの各証言が十分信用できることは明らかである。同証言にあるとおりの事実を認めることができる。 3 その上で、被害者と同居していたF証人は、本件犯行を目撃した状況について、以下のとおりの証言をしている。 - 3 -すなわち、「私や被害者Aを含め、知り合い6人で、当日、本件アパートに向かった。まず、D、Eら4人がアパート内に入った後、おくれて私とAの2人でアパート内に入った。私がAより先にコンクリート製の階段を昇って4階から5階に向かおうとしたところ、丁度5階から下りてきた男(被告人のことである。)と遭遇し、すれ違った。その男は、抜き身のナイフを両手それぞれに持っていたので恐怖を感じた。私は、階段を昇りながら何度か後方を振り返って様子を見たが、3回目くらいに振り返った際、4階の踊り場で、その男が、Aと対面する位置から、階段の壁側にいたAに向かって、右手に持ったナイフを斜めに下ろすとともに、左手に持ったナイフをAの胸辺りに水平に前に突き出すなど、刺すような動作をしてAを襲っているのを見た。そのとき、Aは、手に何も持っていなかった。私が5階に達した頃に振り返ると、既にAは、階段に倒れていた。そこで、すぐに居室に入り、別の同居人に対し、『Aさんが誰かに刺された。救急車を呼んで。』と伝えた。」などといった趣旨の証言をしている。 このように被告人がおよそ防衛などとは言えないような態様で被害者を襲う状況を目の当たりにした旨の証言内 、『Aさんが誰かに刺された。救急車を呼んで。』と伝えた。」などといった趣旨の証言をしている。 このように被告人がおよそ防衛などとは言えないような態様で被害者を襲う状況を目の当たりにした旨の証言内容は、具体的で真に迫るものである上、さきに見たD、Eの各証言によって認められる本件犯行直前の現場の状況、すなわち、むき出しのナイフを持った男が被害者を探して危害を加えようと人に刃物を向けるなど、既に異常で緊迫した状況にあったことと、まさにそぐうものといえる。被告人は、事件の直前、Cに対し、「会ってくれなかったら、被害者を病院で看護することになる。」、「僕はあいつを肉にする。」などといった趣旨のメッセージを送信しているところ、これらのメッセージは、その文脈等からして被害者に危害を加えることをほのめかすものと捉えることができ、F証言の内容は、そのようなメッセージにも沿うものといえる。そして、同証言内容は、アパートの人の出入りを記録した防犯カメラ映像、救急隊員による被害者の発見状況、被害者の受傷状況、事件現場の各状況とも矛盾がなく、全体的に整合している。Fが、事件直後、同居人に対し、Aが刺された旨告げたことなどは、当時居室内にいたCの供述によっても裏付けられており、Fが実- 4 -際に犯行状況を見たからこそ、直後にこのような言動をとったものと考えられる(この一事のみをもってしても、Fが実際に見てもいない虚構の犯行目撃状況を作出したと考えることはできない。)。以上のとおり、Fの目撃証言は、十分に信用することができる。 (なお、Fは、事件現場のアパートに向かった理由について、パーティに参加するためであったなどと証言しているところ、これは、前記のとおり信用できるDやEの証言に反するものであるばかりか、Fが、事件後、同人らに対し、自己の説明に沿う供 向かった理由について、パーティに参加するためであったなどと証言しているところ、これは、前記のとおり信用できるDやEの証言に反するものであるばかりか、Fが、事件後、同人らに対し、自己の説明に沿う供述をするように、口裏合わせを依頼していたことも認められる。もっとも、このような点を踏まえても、Fは、実際に見ていなければ語るのが困難といえる事柄を証言しているのであるから、同目撃証言の信用性に何ら疑いが生じるものではない。) 4 これに対し、被告人は、次のとおり弁解している。 「私がアパートの屋上にいたところ、5、6人のグループが建物に入ってくるのが見えた。元々、Aの顔も覚えていなかったし、5階に上がってきた3人の男が誰であるかも気にしておらず、Aの仲間だとは分からなかった。私が5階から屋上に向かう階段に座っていたところ、突然、1人の男(Dのことである。)が目の前に現れて手を高く上げていたので、怖くなって所持していたナイフを両手に1本ずつ持ち、逃げる男らを追いかけ、逃げ遅れて転んだ男に、『お前はAなのか。お前、Aに似ているな。』などと冗談で言った。ナイフはズボンの尻ポケットに一旦しまった。アパートから帰ろうと思い、階段で4階へ下りたところ、4階の廊下で知らない男(被害者Aのことである。)が罵倒してきて、振り返ると、箱のような物が飛んできて、更に相手が私を殴ろうと両手を構えて向かってきているのが見えたので、反射的に、ズボンの尻ポケットからナイフ2本を両手で1本ずつ取り出して前に出したら、右手のナイフが相手の体に刺さった感触があった。」などといった趣旨の供述をしている。 しかし、前にも指摘したとおり、そもそも5階でのやり取りについて、Dにナイフを示して「お前はAなのか。お前、Aに似ているな。」などと聞いておきながら、声- 5 -をかけた相 供述をしている。 しかし、前にも指摘したとおり、そもそも5階でのやり取りについて、Dにナイフを示して「お前はAなのか。お前、Aに似ているな。」などと聞いておきながら、声- 5 -をかけた相手が被害者の知人や関係者であるとは考えもしなかったであるとか、さらには、人にナイフを示して「A」に言及した行動が「冗談」であったなどといった被告人の弁解は、およそ理解し難い不合理なものである。被告人が本件犯行の直前の段階から被害者に対して危害を加えようとするような言動をとっていたことや、ひいては、相手の胸にナイフを刺した行為が防衛行為である旨の自己の主張と根本から抵触するような事柄を、敢えて隠そうとする意図から、そのような形で極めて不自然な弁解を続けていると考えられる。こうした被告人の供述態度や供述内容等に照らせば、単に5階の話にとどまらず、本件の一連の出来事に関する被告人の供述全体が信用できないことは明らかといえる。とっさに防衛するため、しまっていたナイフを用いたに過ぎない、などといった被告人の弁解は、およそ信用することはできないし、証拠全体に照らせば、むしろ、そうした事実などなかったものと認められる。 5 以上のとおり、十分に信用できるFやDらの証言にあるとおりの事実を認めることができる。具体的に言えば、被告人が、およそ何の防衛とも言えないような形で、まずは5階で抜身のナイフをDに突き付けながら、まるで被害者を見つけ次第危害を加えるかのような危険で不穏当な言動をとった上、その足で4階に向かい、途中階段ですれ違ったFが目撃する中、4階踊り場で、手に何も持っていない被害者に対し、鋭利なダガーナイフでその前胸部を突き刺すなどしたことが認められる。 こうした犯行態様からして、被告人に殺意があったことは明らかであり、同時にまた、被告人が述べるよう に何も持っていない被害者に対し、鋭利なダガーナイフでその前胸部を突き刺すなどしたことが認められる。 こうした犯行態様からして、被告人に殺意があったことは明らかであり、同時にまた、被告人が述べるような正当防衛を基礎付ける事情など全くなかったものと認められる。 なお、現場の4階廊下の状況等からすれば、Fが目撃した被告人による刺突行為のごく直前に当たる短い時間帯に、同廊下において、被告人と被害者が何らかの形で接触し、また、出血した被害者がブロックを手に持つなどしたことも窺われるが、このようにFが一部目撃していない部分があるからといって、それにより被告人が言う正当防衛が成立することなどおよそあり得ないことは、既に、FやDらの証言、- 6 -被告人の弁解について検討した結果からして明らかといえる。 以上のとおりの理由で、殺人罪の成立を認めた。 (量刑の理由)被告人は、別れを告げてきた交際相手を連れ戻すために訪れた被害者方建物内において、被害者に対し、持参した殺傷能力の高い鋭利なダガーナイフで、その前胸部を深く一刺しするなどして致命傷を与えている。本件殺人事件の犯行は、あらかじめ綿密に計画されたものではないものの、非常に危険な態様のものである。男女関係のもつれを背景に、自己に不都合な人物の命を奪うなど、短絡的であり、正当化される余地など全くない、理不尽で身勝手な犯行である。被害結果は重大で、尊い人命が失われ、被害者の家族にも大きな影響を与えたことが明らかであり、被害者の妻が厳重処罰を望むのも当然である。にもかかわらず、被告人は、およそ不合理な弁解に終始し、反省の情はほとんど見られない。そのほか、不法残留や刀剣類所持の犯行に及んでいることなども併せて考えると、被告人の刑事責任は非常に重い。 被告人に前科がないことなどの事情を考慮し、同種事犯 解に終始し、反省の情はほとんど見られない。そのほか、不法残留や刀剣類所持の犯行に及んでいることなども併せて考えると、被告人の刑事責任は非常に重い。 被告人に前科がないことなどの事情を考慮し、同種事犯の量刑の傾向なども参考にしつつ、被告人に対する刑としては、主文の刑が相当であると判断した。 (求刑懲役18年、主文同旨の没収)令和7年3月14日さいたま地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官佐伯恒治 裁判官小西安世 裁判官岸健司

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