- 1 -主文本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人山田有宏(主任,同菊地真治及び同中村一樹)連名作成の控訴趣意書及び控訴理由補充書記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官圓山慶二作成の答弁書記載のとおりであるので,これらを引用する。 論旨は,追徴に関する法令適用の誤り及び量刑不当をいうものである。 法令適用の誤りの論旨について所論は,(1)原判決が被告人を含む原審共同被告人3名から連帯して金3億1082万円を追徴すると判示した部分について,証券取引法198条の2第2項にいう犯人とは,相場操縦等の当該犯罪行為により没収されるべき財産を得た当該犯罪者をいい,共犯者であっても,何ら財産を得ていない者は,これに当たらないというべきであるところ,本件犯行によって財産を得たのは,原審共同被告人であるAであり,被告人は何らの財産を得ていないから,被告人は同項にいう犯人には当たらず,これに追徴を言い渡した原判決は法令解釈を誤っている,(2)仮に,被告人から追徴すべきであるとしても,追徴額は,共犯者の数に応じて均分化すべきであるところ,本件公訴事実に係る共犯者数は少なくとも6名であるから,被告人に対しては,その6分の1である5180万3333円を追徴すべきである,(3)本件犯本件犯行期間内の買付けと売付けにより得た利益罪行為により得た財産とは,をいうと解すべきであり,平成13年6月4日の本件犯行前に買い付け,期間中に売り付けて得た利益は,どの買付行為をとらえて追徴を科すものなのか明らかではなく,予測可能性を奪い憲法31条に違背する不利益処分であり,その分2億5050万円の差益は前記財産に当たらないというのである。 - 2 -そこで検討する。 (1)証券取引法198条の2第2項にいう犯人の解釈について,( 1条に違背する不利益処分であり,その分2億5050万円の差益は前記財産に当たらないというのである。 - 2 -そこで検討する。 (1)証券取引法198条の2第2項にいう犯人の解釈について,(,「」まず必要的没収・追徴を定めた証券取引法198条の2以下本条平成10年法律第107号による改正法において新設されたものという)は,。 健全な証券市場を確保するために,相場操縦等の犯罪行為で,その趣旨は,により得た財産又はその対価として得た財産等(以下「不法取得財産等」ということがある)を,犯罪への再投資等を阻止するためにも,当該犯罪に。 ,,関与した犯人全員から例外なく残らずはく奪し不公正な取引を厳に規制しもって。したがって,証券取引法秩序を確保しようとすることにあると解される同様の趣旨に出る関税法やいわゆる麻薬特例法等の必要的没収・追徴に関する判例が示すように,前記の立法趣旨に照らせば,本条所定の「犯人」に共同正犯者を含むことは当然であり,原則として,その犯人に対し連帯の責任で確実に国庫にその全額を納付せしめようとするものである(関税法違反につき,最高裁昭和45年10月21日大法廷判決・刑集24巻11号1480頁。さらにその条文の趣旨(条文のあり様)に照らせば,没収の対象と)なる「犯罪行為により得た財産」とは,共同正犯者等の犯人全体が「犯罪行為により得た財産」を意味するものであって,形式上の第一次的な利益帰属者や最終的利益帰属者,更には利益の分配にあずかった者が誰であったかということを問わないというべきである。本件でいえば,A名義で取引が行われ,その口座に売却代金等が振り込まれても,没収の関係では,その財産をA一人が「犯罪行為により得た財産」であるとみるのではなく,犯人全体がその財産を犯罪により得たものと評価 えば,A名義で取引が行われ,その口座に売却代金等が振り込まれても,没収の関係では,その財産をA一人が「犯罪行為により得た財産」であるとみるのではなく,犯人全体がその財産を犯罪により得たものと評価するのであり,没収が不能な場合の追したがって,追徴を命ぜられるべき「犯人」を,相場徴に関しても同様である。 操縦等の当該犯罪行為により没収されるべき財産を得た当該犯罪者とし,共犯者であっても何ら財産を得ていない者はこれに当たらないとして限定を加える所論は,- 3 -法の趣旨に沿わない解釈であるから採用できない。 なお,所論は,没収不能という偶然の事情のために,何ら財産を得ていない他の共犯者が突如として著しく高額な追徴を科されることとなり,徴収された者は求償もできないから,没収可能な場合に比して著しく酷で不合理な結果をもたらすなどという。しかしながら,本来,国家が不法取得財産等を効果的にはく奪するためには,はく奪不能の危険をできるだけ国家が被らないように,原則として当該犯罪に関与したすべての者に連帯債務を負わせるのが効果的であるから,何ら不合理とは。 ,,いえないまた犯人の追徴金の支払い自体は不法原因給付等に当たるともいえず共同で命じられた追徴金の支払い債務は不真正連帯債務と同様の法律的性質を有するから,過分の追徴金を支払った者が他の追徴を命ぜられた共犯者に求償すること,,。 は法律上特段の支障はないと解されるのであってこの点の所論も採用できない( )追徴額の均分化について 所論も指摘するように,最高裁判例は,①関税法違反の罪につき共犯事件で追徴を命じるに当たり,共犯者の一人が所有者であることが明らかな場合には,その被告人のみに対して追徴を命ずることが許されるとし(最高裁昭和33年3月5日大法廷判決・刑集12巻3号384頁,また 件で追徴を命じるに当たり,共犯者の一人が所有者であることが明らかな場合には,その被告人のみに対して追徴を命ずることが許されるとし(最高裁昭和33年3月5日大法廷判決・刑集12巻3号384頁,また,②収賄罪につき,ア賄賂によ)る不正な利益の共犯者間における帰属,分配が明らかである場合にその分配等の額に応じて各人に追徴を命じるなど,相当と認められる場合には,裁量により,各人にそれぞれ一部の額の追徴を命じ,あるいは一部の者にのみ追徴を科することも許される,イ共犯者間における分配,保有及び費消の状況が不明である場合には,賄賂の総額を均分した金額を各自から追徴することができるとした(最高裁平成16年11月8日第三小法廷決定・刑集58巻8号905頁。 )そして,②の判例は,従来の大審院判例等が,共犯者が分配を受けた賄賂の価額が明らかなときには,その分配額に応じた金額を各人から追徴するが,分配の有無はもとより,現時点における保有及び費消の状況が不明であるなど,追徴すべき額を各別に明らかにできないときは,犯行に関与した共犯者の人数で賄賂の総額を均- 4 -分した金額を各自から追徴するとしていたのを改め,共犯者ら各自に対し,それぞれ収受した賄賂の価額全部の追徴を命じることができるとしたのである。従来の解釈によれば,本来は,共犯者間の内部関係にすぎないのに,まずは賄賂の分配状況を明らかにするために立証認定をしなければならず,それが不明な場合には,均分化の前提として,共犯者数を確定しなければならないことになる。このように,本来の罪体ではない事実についても審理を尽くさなければならないことは,不要な立証範囲の拡大をもたらし,無用な混乱を招きかねないことから,共犯者各自に対する価額全部の追徴を認めたものと解される。 ところで,収賄罪における賄賂につい も審理を尽くさなければならないことは,不要な立証範囲の拡大をもたらし,無用な混乱を招きかねないことから,共犯者各自に対する価額全部の追徴を認めたものと解される。 ところで,収賄罪における賄賂については,それが新たに同種の犯罪に投資されたり,利用されるという危険性は考えられないから,その没収・追徴には,保安処分的な要素は薄いということができるが,証券取引法における本条の没収・追徴の趣旨は,前述したように犯罪に対する再投資等を阻止するという保安処分的色彩が不法取得財産等をはく奪しようとするものであ濃いことから,例外なく残らずる。この立法の趣旨に前記の条文の趣旨をあわせて考えると,収賄罪についての前記の従来の解釈は,証券取引法にはそもそも適用されないというべきで,②の判例が示すように,共犯者各自から,不法取得財産等である没収不能財産の価額全部を追徴するのが本則であると解すべきである。もっとも,共犯者の一人が所有者であることが明らかな場合には,その被告人①の判例は,のみに対し価額全部の追徴を科することが許されるとしている。これは,関税法の没収・追徴,ことに密輸に使用した船舶に関する当時の没収・追徴規定は,それが犯罪に再利用されないようにするための保安処分的なものであるが,そもそも没収対象である船舶の価額が一般に密輸品に比しても高額であり,これを所有しない被告人に対する追徴が酷であることなどの事情から,追徴を命ずる対象を所有被告人に限定することを認めたものと解することができる(その後の改正で犯罪行為の用に供した船舶等については,追徴の対象から除かれている。 。)- 5 -証券取引法においては,本条1項ただし書は「ただし,その取得の状況,損害,賠償の履行の状況その他の事情に照らし,当該財産の全部又は一部を没収することが相当でないときは ている。 。)- 5 -証券取引法においては,本条1項ただし書は「ただし,その取得の状況,損害,賠償の履行の状況その他の事情に照らし,当該財産の全部又は一部を没収することが相当でないときは,これを没収しないことができる」として,没収・追徴が過。 酷な結果をもたらさないよう立法上の配慮がなされている。この趣旨から,原判決も,犯罪行為により得た株式の売却代金から同株の買付代金相当額を控除した売買差益相当額を没収・追徴すべきものとし,さらに同一期間中の取引で現物取引分では差益があるが,信用取引分で多額の差損が存する場合は,前者の差益は没収・追徴の対象としないなど,穏当な範囲にとどめるべく合理的裁量を存分に発揮しているのである。なお,前記ただし書は,その立法過程からしても,共犯者の個々の利得状況等を考慮して,犯人各人からの没収財産の範囲やこれに代わる追徴額を決めるということは想定していないものと解される。 こうしてみてくると,本条における追徴については,前記のとおり,共犯者各自から没収不能財産の価額全部を追徴するのが本則というべきで,②の判例が示しているような,例外的に追徴を共犯者の一部のみに限定したり,追徴額を均分化するといった措置は,利益の再投資等のおそれがないような極めて限られた場合に限定されるというべきである。②の判例も,このような例外的な措置を採るに当たっては「収賄犯人等に不正な利益の保有を許さないという要請が満たされる限りにお,いて」という前提条件を必要としている。本条の場合には,一般的にその要請が満たされていないというべきであろう。 ,,さらに本件では被告人が本件株式売買利益そのものは取得していないとしても被告人を含む共犯者各自の最終的な利得額は明らかではなく,被告人自身が受けた資金提供分についても精算がなされている う。 ,,さらに本件では被告人が本件株式売買利益そのものは取得していないとしても被告人を含む共犯者各自の最終的な利得額は明らかではなく,被告人自身が受けた資金提供分についても精算がなされているとはいい難い状況にあり,また,被告人自身,本件相場操縦に便乗した株売買により相当高額の利得をし,本件に関連する報酬として多額の現金を取得していること,加えて,被告人が自身の資産状況について供述を拒んでいる事情等が認められる。そうすると,前記要請が満たされているとはいえないばかりか,共犯者間の利益の帰属分配が明らかな場合であるとも認- 6 -められないのである。 そして,所論が指摘するような,訴追されていない関与者も含めた6名で除した額のみ分割追徴する方法には合理的な根拠はなお一層見い出し難い。すなわち,起訴されていない者を含め,全共犯者の数で均分化すべきであるとすれば,その前提として共犯者の数を確定しなければならないが,それが不適切であることは,前述したとおりである。さりとて,起訴されていない共犯者がいるのにこれを考慮しないというのも共犯者全員による均分化という考え方には沿わないことになる。しかも,不法取得財産等を共犯者らから例外なく残らずはく奪するという本条の趣旨を達成するためには,起訴されていない者も含む共犯者間での均分化では,まことに不十分である。そこで,共犯者全員に対し,没収不能財産の価額全部の追徴を科して,国家による不法取得財産等はく奪の完全性を期しつつ,共犯者間においては相互の求償により調整するという方法こそが最も合理的であるといわざるを得ない。 また,このような均分化が責任主義に沿うという所論も到底首肯できない。したがって,所論の均分化の主張は採用できない。 以上の次第で,本件において,被告人に対し,共犯者である相被告人らと連帯し 得ない。 また,このような均分化が責任主義に沿うという所論も到底首肯できない。したがって,所論の均分化の主張は採用できない。 以上の次第で,本件において,被告人に対し,共犯者である相被告人らと連帯して没収不能財産全額3億1082万円の追徴を命じたことが,違法とか裁量を逸脱して不当な場合であるなどとはいえない。その余の理由不備等の主張を含めて検討しても,原判決には判決に影響を及ぼす法令適用の誤りはない。 ( )追徴額の範囲について 本件において,追徴すべき額は,原判示のように,犯罪行為により得た株式の売却代金から同株の買付代金相当額を控除した売買差益相当額であると解されるところ,前もって買い付けていた株式を相場操縦の犯行期間内に売り付けることも,相場操縦の一環としてなされ,しかも操縦により形成された不当な価格で売却するのであるから,その差益が犯罪行為により取得した財産に該当することに何の疑問もなく,そもそも追徴を科すについて,犯人に,不法取得財産等に当たるとの予測可能性が必要と解すべきものでもない。 - 7 -,,。 そうすると原判決にはこの点においても憲法違反を含め法令適用の誤りはない法令適用の誤りをいう論旨はいずれも理由がない。 量刑不当の論旨について論旨は追徴額が多額に過ぎるというのであるが,この点についての検討は既に1で行ったところであり,量刑上の問題としてもそもそも裁量の余地はなく,原判決にはもとより裁量の逸脱はないといわなければならない。本条1項ただし書の適用を主張する論旨も前記のように理由がない。 この論旨も理由がない。 結論 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却して,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官原田國男裁判官池本壽美子裁判官森浩史) 結論 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却して、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 原田國男 裁判官 池本壽美子 裁判官 森浩史)
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