令和4(行ウ)5002 手続却下処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年8月31日 東京地方裁判所
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令和5 年8 月31 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4 年(行ウ)第5002 号手続却下処分取消請求事件口頭弁論終結日令和5 年6 月23 日判決原告 ザスクリプスリサーチインスティテュート同訴訟代理人弁護士岡田春夫同熊谷仁孝同補佐人弁理士大 﨑 勝真同岡本篤史 被告国処分行政庁特許庁長官同指定代理人稲玉祐同佐藤はるか同中山祥兵 同稲垣若菜同大谷恵菜同中島あんず主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由第1 請求の趣旨特許庁長官が令和3 年4 月26 日付けでした、特願2019-540548 号についての令 和元年7 月26 日付け提出の国内書面に係る手続却下の処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は、「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」(以下「PCT」という。) 月26 日付け提出の国内書面に係る手続却下の処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は、「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」(以下「PCT」という。)に基づく国際特許出願(以下「本件国際特許出願」という。)の出願人である原告が、2019 年(令和元年)7 月26 日付けでした国内書面及び明細書等の翻訳文に係る提出手続(以下「本件手続」という。)につき、特許法(以下 「法」という。)184 条の4 第1 項所定の期間内に同条3 項所定の明細書等の翻訳文を提出しなかったことにより本件国際特許出願は取り下げられたとみなされ、本件手続は特許庁に係属していない出願に対して行われた不適法な手続であるとして、令和3 年4 月26 日付けで本件手続を却下した特許庁長官の処分(以下「本件却下処分」という。)につき、本件手続には同条4 項(令和3 年法律第42 号による改正 前のもの。以下同じ。なお、以下、同改正を「令和3 年改正」という。)所定の「正当な理由」があり本件却下処分は違法であると主張して、本件却下処分の取消しを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 原告原告は米国に本店を有する外国法人である。 (2) 原告による国際出願原告は、2017 年(平成29 年)11 月29 日、発明の名称を「四フッ化チオニル修飾化合物及び使用(Thionyltetrafluoridemodifiedcompoundsanduses)」 とする発明について、受理官庁を米国特許商標庁、国際出願言語を英語、優先日を 2016 年(平成28 年)11 月29 日として、国際出願(PCT/US2017/063746。甲 uses)」 とする発明について、受理官庁を米国特許商標庁、国際出願言語を英語、優先日を 2016 年(平成28 年)11 月29 日として、国際出願(PCT/US2017/063746。甲1。以下「本件国際出願」という。)をした。 本件国際出願は、PCT4 条(1)(ii)の指定国に日本国を含むものであることから、法 184 条の3 第1 項により、本件国際出願日にされた特許出願(特願2019-540548 号。本件国際特許出願)とみなされた。 外国語でされた国際特許出願である本件国際特許出願に係る国内書面提出期間は、本件国際特許出願の優先日である2016 年(平成28 年)11 月29 日から2 年6 か月(以下、この期間を「本件国内書面提出期間」という。)であり、その末日は2019年(令和元年)5 月29 日であった。 (3) 本件国際特許出願の取下げ擬制 原告は、本件国内書面提出期間の末日である2019 年(令和元年)5 月29 日までに、特許庁長官に対し、法184 条の4 第3 項所定の本件国際特許出願に係る明細書等翻訳文(以下「本件明細書等翻訳文」という。)を提出しなかった(以下、この期間徒過を「本件期間徒過」という。)。 その結果、本件国際特許出願は、法184 条の3 第3 項により、取り下げられたも のとみなされた。 (4) 本件却下処分原告は、同年7 月26 日、特許庁長官に対し、法184 条の5 第1 項所定の事項を記載した国内書面(甲2 の1。以下「本件国内書面」という。)及び本件明細書等翻訳文(甲3)を提出した(本件手続)。また、原告は、特許庁長官に対し、同年8 月 8 日付けで本件国内書面に対する手続補正書(甲2 の2)を、同年9 月26 日付けで特許 )及び本件明細書等翻訳文(甲3)を提出した(本件手続)。また、原告は、特許庁長官に対し、同年8 月 8 日付けで本件国内書面に対する手続補正書(甲2 の2)を、同年9 月26 日付けで特許法施行規則38 条の2 第3 項所定の回復理由書(甲4)をそれぞれ提出した。 しかし、特許庁長官は、本件期間徒過につき法184 条の4 第4 項所定の「正当な理由」があるとはいえず、本件国際特許出願は同条3 項により取り下げたものとみなされ、本件手続は特許庁に係属していない出願に対して行われた不適法な手続で あり却下されるべきものであるとする令和2 年(2020 年)8 月20 日付け却下理由通知書(甲5。以下「本件却下理由通知書」という。)を原告に送付した上で、原告の同年12 月25 日付け弁明書(甲6)によっても本件却下理由通知書記載の理由は解消されないとして、法18 条の2 第1 項本文により、令和3 年(2021 年)4 月26日付け「手続却下の処分」(甲7)により本件却下処分をした。 原告は、同月27 日、本件却下処分に係る上記書面が本件国際特許出願に係る日 本の代理人(以下「本件日本代理人」という。)に到達したことにより、本件却下処分があったことを知った。 (5) 本件訴訟に至る経緯原告は、同年7 月26 日、特許庁長官に対し、本件却下処分の取消しを求めて、行政不服審査法2 条に基づく審査請求をした。しかし、特許庁長官は、令和4 年 (2022 年)6 月13 日付け裁決書(甲14)により、上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。 原告は、同月14 日、上記裁決書の本件日本代理人への送達により、上記裁決があったことを知った。原告は、同年12 月13 日、本件訴えを提起した。 (6) 本件期間 を棄却する旨の裁決をした。 原告は、同月14 日、上記裁決書の本件日本代理人への送達により、上記裁決があったことを知った。原告は、同年12 月13 日、本件訴えを提起した。 (6) 本件期間徒過の発生に関する事情 ア原告は、本件国際出願につき、米国イリノイ州シカゴ所在の法律事務所オルソン&セプリティス(以下「現地事務所」という。)の弁護士A(以下「本件担当弁護士」という。)を代理人として行い、本件国際特許出願についても本件担当弁護士に委任した。現地事務所に勤務する法務秘書B(以下「本件担当秘書」という。)は、本件担当弁護士の補助者としてこれらの手続を担当した。 イ現地事務所では、特許出願等に関する手続の期間管理のためのドケッティングシステムを採用しており、期間管理担当者は、毎週、全弁護士及びその補助者に対し、当該週の期限を知らせるリマインダーを送付していた。また、本件担当秘書は、このシステムとは独立した期間管理リストを保持し、ダブルチェックをしていた。 また、本件担当弁護士宛ての電子メールは、自動的に本件担当秘書に転送されるように設定されていた。これにより、出願人から国際出願の各国への国内移行手続の指示があった場合には、本件担当秘書は、本件担当弁護士が現地事務所オフィスにいて自ら対応できるような状況であっても、特段の留意点がない限り、本件担当弁護士からの指示を待つことなく、各国代理人への上記指示を起案し、本件担当弁 護士の確認及び署名を受けた上で、各国の代理人に対して上記指示を送付していた。 他方、手続期限日など緊急性のある状況下で、本件担当弁護士が出張等で対応できない場合には、本件担当秘書は、本件担当弁護士の関与なしに上記指示の起案及び送付を行っていた。本件担当秘書の不在時には 他方、手続期限日など緊急性のある状況下で、本件担当弁護士が出張等で対応できない場合には、本件担当秘書は、本件担当弁護士の関与なしに上記指示の起案及び送付を行っていた。本件担当秘書の不在時には、本件担当弁護士自身が対応することとなっていた。 さらに、現地事務所においては、担当秘書が欠勤する場合、オフィスマネージャ ーを介して担当弁護士に連絡が入ることとなっていた。 ウ本件担当弁護士は、本件担当秘書を介して、2019 年(平成31 年)3 月28 日(米国中部夏時間(CDT)。以下、前提事実(6)のほか、第2 の2(2)、第3 の1(2)において、特に記載のない場合は同じ。)、原告に対し、本件国際出願の日本を含む各国への国内移行手続の期限(本件国内書面提出期間の末日)が同年5 月29 日であ ることを知らせると共に、同月10 日までに国内移行手続を進める対象国及び地域を本件担当弁護士らに知らせることを求める文書を添付した電子メール(甲18)を送信した。 エ本件担当弁護士は、上記電子メールに対する原告からの応答がなかったことから、同月10 日、原告に対し、本件国際出願の国内移行手続について指示を求める 電子メール(甲19)を送信した。 オ本件担当弁護士は、同月20 日、海外出張のため米国を出国した。 カ原告は、同月23 日19 時34 分、本件担当弁護士に対し、本件国際出願の日本への国内移行手続を指示する内容の電子メール(甲21。以下「本件移行指示メール」という。)を送信した。 本件担当弁護士は、海外出張時には本件担当秘書が自ら対応するか、必要に応じて本件担当秘書から指示を仰ぐ旨の電話連絡が入ることになっており、特段留意すべき事項がない限り、電子メールをチェックしていなかった。このため、本件担当 張時には本件担当秘書が自ら対応するか、必要に応じて本件担当秘書から指示を仰ぐ旨の電話連絡が入ることになっており、特段留意すべき事項がない限り、電子メールをチェックしていなかった。このため、本件担当弁護士は本件移行指示メールを開封しなかった。また、本件移行指示メールの宛先のカーボンコピーには本件担当秘書が入っていたが、本件担当秘書は、同メールが 送信された段階で既に退勤していたため、同メールに気付くことはなかった。 キ本件担当弁護士は、同月24 日、上記カと同様の理由により、本件移行指示メールを開封しなかった。また、本件担当秘書は、同日、以前からの予定どおり休暇を取得した。 さらに、同月25 日~同月27 日は休日及び祝日であり、現地事務所の非営業日であったため、本件担当秘書は現地事務所に出勤しなかった。 ク本件担当弁護士は、同月27 日に米国に帰国し、同月28 日、現地事務所に出勤した。しかし、本件担当弁護士は、出勤後の同日午前中に本件移行指示メールを認識したものの、出張中に届いた書面や電子メールの処理、月例の株主・パートナー会議への出席、顧客とのカンファレンスへの出席により多忙となり、本件国際出願の国内移行手続についての対応を自らは行わなかった。他方、本件担当秘書は、 同日は出勤予定であったが、体調不良のため急遽欠勤した。これについて、同日、本件担当弁護士に対し、オフィスマネージャーから本件担当秘書の欠勤を知らせる連絡はなかった。 ケ本件担当秘書は、同月29 日、現地事務所に出勤し、本件移行指示メールを確認した。そこで、本件担当秘書は、本件国際出願の日本への国内移行手続の指示書 及び国内移行手続に必要な文書を作成し、本件日本代理人宛てに電子メールで送信した。その送信時刻は同月30 日 ルを確認した。そこで、本件担当秘書は、本件国際出願の日本への国内移行手続の指示書 及び国内移行手続に必要な文書を作成し、本件日本代理人宛てに電子メールで送信した。その送信時刻は同月30 日午前5 時53 分(日本時間)であり、本件国内書面提出期間の末日である同月29 日(日本時間)を徒過していた。 2 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は、本件期間徒過に係る「正当な理由」(法184 条の4 第4 項)の有 無である。これに関する当事者の主張は次のとおりである。 〔原告の主張〕(1) 「正当な理由」の判断基準についての解釈及び適用について明細書等翻訳文の提出期間徒過に係る救済制度に関して、法184 条の4 第4 項は令和3 年に改正された。令和3 年改正前の同項は要件として「正当な理由がある」 ことを求めていたのに対し、同改正により、期間の徒過が故意によるものであった 場合を除き救済することとし、救済が認められ得る範囲を大きく拡大させた。 その改正理由としては、国内外の出願人等から、日本の権利等の回復のための判断基準及び立証負担は欧米諸国に比して厳格に過ぎるとの指摘を受けていたこと、実態として、特許法条約(以下「PLT」という。)の締約国における権利の回復申請に対する認容率は、日本と同じ「相当な注意を払ったこと」(以下「相当な注意基準」 という。)を採用する国において60%以上であるのに対し、日本の認容率は突出して低く(10~20%程度)、手続面でも証拠書類の提出を必須としている点で厳しい運用となっていること等が挙げられている。こうした実態を踏まえ、令和3 年改正前の状態はPLT の権利の回復の趣旨(形式的又は手続的な要件の瑕疵や手続期間の不遵守による権利の喪失を避けること)を踏 運用となっていること等が挙げられている。こうした実態を踏まえ、令和3 年改正前の状態はPLT の権利の回復の趣旨(形式的又は手続的な要件の瑕疵や手続期間の不遵守による権利の喪失を避けること)を踏まえておらず、他国との判断基準の 乖離による不都合や条約の趣旨との齟齬が生じているとし、判断基準を緩和して、PLT が選択的に定める期限徒過に対する救済基準である「相当な注意基準」と「故意でないこと」(以下「故意でない基準」という。)のうち、前者から後者に転換することが適当であると結論付けられ、令和3 年改正に至った。 このような令和3 年改正の趣旨を踏まえると、令和3 年改正前の法の解釈・適用 においても、他国との判断基準の乖離をなくす方向で緩やかに解するのが相当である。具体的には、出願人又は代理人の立場や規模、その体制等に照らし、合理的に求められる注意義務を基準として「正当な理由」の存否を推認するなど、柔軟に対応することが求められる。 (2) 「正当な理由」の存在 ア現地事務所の規模・体制現地事務所は、本件手続の当時、12 名の弁護士と、複数人の秘書・パラリーガル及び1 名のオフィスマネージャー等のサポートスタッフから構成されており、決して大きな規模ではない。また、現地事務所においては、米国の特許・法律事務所における一般的な実務に従い、弁護士が実体的な実務を行い、定型的・限定的な法律 実務については、弁護士の監督の下、法務秘書又はパラリーガルが主体的に行って おり、本件担当弁護士と本件担当秘書も同様の分業体制を取っていた。国際出願の各国移行に関する実務については、極めて定型的な実務であることから、本件担当秘書が主体的に行う業務に当たるものであり、特に、本件担当弁護士と本件担当秘書の間では、 の分業体制を取っていた。国際出願の各国移行に関する実務については、極めて定型的な実務であることから、本件担当秘書が主体的に行う業務に当たるものであり、特に、本件担当弁護士と本件担当秘書の間では、両者が45 年以上にわたり共に特許実務に従事し、本件担当秘書はこの種の業務について豊富な経験を有すると共に、長年の業務を通じて信頼関係が構 築されていたことから、本件担当弁護士の必要最小限の監督下で、本件担当秘書が主体的に国際特許出願の各国移行に関する業務を行う実務が確立されていた。具体的には、前提事実(6)イのとおりの体制が取られていた。 このように、本件担当弁護士に関しては、45 年以上にわたり本件担当秘書とペアになり特許実務を遂行する中で、いずれかが不在の場合や本件担当弁護士が対応で きない場合でも対応可能な運用が確立され、また、本件担当秘書の欠勤が本件担当弁護士に伝達されるシステムも存在するなど、ミスを防ぐための確固たる体制が構築されていた。しかも、同体制の下、45 年以上にわたって、期間徒過は発生していなかった。 イ 2019 年(令和元年)5 月24 日における本件担当弁護士の対応について 本件担当弁護士は、2019 年(令和元年)5 月24 日、本件移行指示メールを開封しなかったが、これは、同弁護士が海外出張中であったところ、このような場合、本件担当弁護士と本件担当秘書の運用として、本件担当弁護士自身が積極的に電子メールを開封しなくてもよい体制を取っていたことによる。そもそも、同日、本件担当秘書は休暇を取っており、現地事務所には本件移行指示メールに対応すべき者 がいなかったことから、本件担当弁護士が同メールを開封したとしても、同日にこれに対応することはできない状況であった。また、手続期限までには同日の 現地事務所には本件移行指示メールに対応すべき者 がいなかったことから、本件担当弁護士が同メールを開封したとしても、同日にこれに対応することはできない状況であった。また、手続期限までには同日のほか同月28 日が残されており、本件担当秘書が出勤することが予定されていたこの日に手続を進めれば足りる状況にあった。このような状況及び上記現地事務所の規模・体制を考慮すれば、本件担当弁護士が同月24 日に電子メールを開封しかったこと は合理的なものといえ、同日における同弁護士の対応は合理的に求められる注意義 務を果たしていたと評価すべきである。 ウ 2019 年(令和元年)5 月28 日における本件担当弁護士の対応について 2019 年(令和元年)5 月28 日、本件担当弁護士は、午前中に本件移行指示メールに気付いた。 しかし、本件担当弁護士は、同日午前中は海外出張中に貯まっていた仕事の処理 で多忙であり、午後以降は会議があったため、本件担当秘書が出勤していたとすれば、長年にわたり確立した体制に従い、本件担当弁護士が関与せずとも本件担当秘書が対応する実務が適用される状況にあった。 実際には、本件担当秘書は急病のため欠勤していたが、本件担当弁護士はこれに気付いておらず、本件担当秘書が出勤しているとの認識を強く持っていた。これは、 本件担当秘書が直前の同月24 日に事前に連絡の上で休暇を取っていたという経緯に加え、同月28 日の欠勤は本件担当秘書から事前の連絡がなかったこと、本件担当秘書が欠勤する場合にはオフィスマネージャーを介して本件担当弁護士に連絡が入ることとなっていたが、本件担当弁護士に対してそのような連絡はなかったこと等の特殊な例外的事情が重なって生じたことによる。確立した現地事務所の体制に よ ジャーを介して本件担当弁護士に連絡が入ることとなっていたが、本件担当弁護士に対してそのような連絡はなかったこと等の特殊な例外的事情が重なって生じたことによる。確立した現地事務所の体制に より期間徒過が45 年以上もの極めて長期にわたり一度も発生していなかった以上、本件担当弁護士が、蓄積した業務により多忙である中、現地事務所の体制に依拠し、本件担当秘書からの事前の欠勤の連絡も、その欠勤を知らせるオフィスマネージャーからの連絡もなかったことから、本件担当弁護士が上記認識に至ることは合理的といえる。 これらの事情を踏まえると、本件担当弁護士は合理的な注意を怠っていたわけではなく、合理的に求められる注意義務は果たしていたというべきである。 エ以上のように、2019 年(令和元年)5 月24 日及び同月28 日における本件担当弁護士の対応は、現地事務所の規模・体制等に照らし、合理的に求められる注意義務を果たしていたものと評価すべきであるから、本件期間徒過には「正当な理由」 がある。 (3) したがって、これを欠くことを理由とする本件却下処分には誤りがあり、取り消されるべきである。 〔被告の主張〕(1) 「正当な理由」の判断基準についてア法184 条の4 第4 項は、平成23 年法律第63 号による特許法改正(以下「平 成23 年改正」という。)により新設されたものであるところ、これは、明細書等翻訳文の提出期間徒過について新たに救済手続を導入する必要があったことによる。 その要件については、第三者の監視負担に配慮しつつ実効的な救済を確保できる要件としてPLT の「DueCare」すなわち相当な注意基準を採用し、具体的な文言としては「その責めに帰することができない理由」に比して緩やかな要件であ 視負担に配慮しつつ実効的な救済を確保できる要件としてPLT の「DueCare」すなわち相当な注意基準を採用し、具体的な文言としては「その責めに帰することができない理由」に比して緩やかな要件である「正 当な理由があるとき」とし、個別の事案における様々な事情を考慮しつつ、柔軟な救済を図ることができるようにPLT と同様の考え方を取り入れた。 以上を踏まえると、「正当な理由」があるとき(法184 条の4 第4 項)とは、特段の事情のない限り、出願人(代理人を含む。)として相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出すること ができなかったときをいい、その主張立証責任は原告にあると解される。 イこれに対し、原告は、法184 条の4 第4 項の改正の動向等を援用して、「正当な理由」を緩やかに解すべきであると主張する。しかし、法改正の要否に係る議論は立法論に属するものであり、それを直ちに改正前の法令の解釈に反映させるべきものではない。 (2) 「正当な理由」があるとはいえないこと以下の事情によれば、本件担当弁護士は本件期間徒過を回避するために相当な注意を尽くしていたとはいえず、かつ、本件期間徒過を回避できなかったことにつき特段の事情は認められない。 ア本件担当弁護士は、その補助者である本件担当秘書に対し、本件国際出願の 各国への国内移行手続のために必要な処理について指示・監督する立場にあったこ とから、本件期間徒過について「正当な理由」があるといえるためには、本件担当弁護士が本件期間徒過を回避するために相当な注意を尽くしていたと認められる必要がある。 すなわち、国際出願の国内移行期限は、その不遵守がその指定国における国際特許出願の取下擬制と には、本件担当弁護士が本件期間徒過を回避するために相当な注意を尽くしていたと認められる必要がある。 すなわち、国際出願の国内移行期限は、その不遵守がその指定国における国際特許出願の取下擬制という極めて重大な結果を生じさせるものであることからすると、 本件担当弁護士は、原告からの指示の有無や本件国内書面提出期間を正確に把握し、自ら必要な処理を行うか、補助者である本件担当秘書が確実に必要な処理を行うことができるように具体的な指示をすることが求められていた。 しかし、本件担当弁護士は、以下のとおり、海外出張中及びその帰国後において、自ら本件国際出願の国内移行手続に必要な処理を行うことはなく、また、本件担当 秘書が確実に必要な処理を行うことができるように具体的な指示をすることもなかったのであるから、本件期間徒過を回避するために相当な注意を尽くしていたものとはいえない。 イ海外出張中の対応について本件担当弁護士は、海外出張のため米国を出国する2019 年(令和元年)5 月20 日に先立ち、原告に対し本件国際出願の国内移行手続につき指示を求める電子メールを自ら送信しており、同日時点において、これに対する原告の返信がなかったことを当然認識していたと考えられる。また、本件国際出願の国内移行期限(日本時間の同月29 日)が迫っていたことから、本件担当弁護士は、海外出張中であったとしても、自ら電子メールを確認するか、本件担当秘書に電話で連絡するなどして、 適宜、この件に関する原告からの連絡の有無を確認することが求められていたというべきである。しかるに、本件担当弁護士は、自ら本件移行指示メールを開封しておらず、本件担当秘書に対して電話等で原告担当者からの連絡の有無を確認した事実も認められない。 また、同月25 日~ いうべきである。しかるに、本件担当弁護士は、自ら本件移行指示メールを開封しておらず、本件担当秘書に対して電話等で原告担当者からの連絡の有無を確認した事実も認められない。 また、同月25 日~同月27 日は米国における休日及び祝日で、現地事務所の非営 業日であり、日本との時差(-14 時間)を考慮すれば、同月24 日までに原告からの 連絡を確認できなかった場合、本件国際出願の国内移行手続を行うことができる日は同月28 日のみとなる上、同月24 日には本件担当秘書の休暇が予定されており、本件担当秘書の不在時には本件担当弁護士が自ら対応する運用となっていたというのであるから、本件担当弁護士は、原告から本件国際出願の国内移行手続を指示する旨の連絡が来ているか十分に注意すべき状況にあり、少なくとも同月24 日には 自ら電子メールを開封すべきであったところ、そのような事実は認められない。 ウ同月28 日(帰国後)の対応について本件担当弁護士は、同月27 日に米国に帰国し、同月28 日に現地事務所に出勤して、午前中には本件移行指示メールを認識した。日本との時差(-14 時間)を考慮すれば、本件移行指示メールを認識した時点で直ちにこれに対応することが求められ ていたにもかかわらず、本件担当弁護士は、多忙を理由に、自ら本件移行指示メールに対応せず、また、本件担当秘書の出勤の有無の確認及び本件移行指示メールへの対応の有無の確認も行わなかった。 本件担当弁護士は、本件担当秘書が行う業務について指示・監督する立場にあったのであるから、本件担当秘書に国内移行手続を一任する以上、その出勤の有無及 び本件移行指示メールへの対応の有無について自ら把握しなければならないのであって、それを怠った以上、相当な注意を尽くして であるから、本件担当秘書に国内移行手続を一任する以上、その出勤の有無及 び本件移行指示メールへの対応の有無について自ら把握しなければならないのであって、それを怠った以上、相当な注意を尽くしていたとはいえない。 仮に本件担当弁護士が同月28 日における本件担当秘書の欠勤を知ることができなかったとしても、本件担当弁護士は、同日中に本件国際出願の国内移行手続を行う必要があり、かつ、本件担当秘書がこれを行うものと認識していたのであるから、 同人による同日中の必要な対応の有無を確認することが求められていたというべきである。しかし、本件担当弁護士が上記確認をした事実は認められないから、やはり本件担当弁護士が相当な注意を尽くしていたとはいえない。 エ以上のとおり、原告(代理人を含む。)において、本件期間徒過を回避するために相当な注意を尽くしていたとはいえず、かつ、本件期間徒過を回避できなかっ たことにつき特段の事情があったとも認められないから、本件期間徒過について、 「正当な理由」があるとはいえない。 (3) したがって、本件却下処分は適法である。 第3 当裁判所の判断 1 本件における「正当な理由」の有無(1) 「正当な理由があるとき」(法184 条の4 第4 項)とは、特段の事情のない 限り、国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ。)が相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解するのが相当である。 国際出願の国内移行期限は、その期間内に明細書等翻訳文の提出がないという事態がその指定国における国際特許出願の取下擬制という重大な結果を生じさせるも のであることに鑑みると、出願人にとって重要な事項で の国内移行期限は、その期間内に明細書等翻訳文の提出がないという事態がその指定国における国際特許出願の取下擬制という重大な結果を生じさせるも のであることに鑑みると、出願人にとって重要な事項である。そうすると、本件において原告代理人である本件担当弁護士が相当な注意を尽くしたといえるためには、手続期間徒過の回避に向けた相応の対応、すなわち、原告からの指示の有無及び本件国内書面提出期間を正確に把握し、これに基づき、自ら必要な処理を行い、又はその補助者である本件担当秘書(ないし同人に支障がある場合はその代替要員)が 確実に必要な処理を行うことができるように具体的な指示をすることが求められるというべきである。 (2) 本件担当弁護士は、2019 年(令和元年)5 月28 日午前中に本件移行指示メールを認識したところ(前提事実(6)ク)、米国と日本との時差(-14 時間)を考慮すれば、その時点で既に、直ちに日本への国内移行手続に着手しなければ同メールに 従って本件国際出願につき本件国内書面提出期間を遵守できないことになりかねない切迫した状況にあったことは容易に理解し得る。そうすると、同弁護士は、遅くとも同メールを認識した時点で、自ら国内移行手続を行い、又は本件担当秘書に同メールに基づく対応状況を確認し、その結果を踏まえて適切に行動すべきであったといえる。しかし、実際には、同弁護士は同メールを認識しながら何らの対応をも 取らなかった。そうである以上、同弁護士は、本件期間徒過の回避に向けた相応の 対応を行ったとはいえず、相当な注意を尽くしたと認めることはできない。また、本件において、なお正当な理由があるとすべき特段の事情の存在については主張がなく、その存在をうかがわせる具体的な事情も見当たらない。 したがって 相当な注意を尽くしたと認めることはできない。また、本件において、なお正当な理由があるとすべき特段の事情の存在については主張がなく、その存在をうかがわせる具体的な事情も見当たらない。 したがって、本件期間徒過について、原告に、「正当な理由がある」(法184 条の 4 第4 項)とは認められない。 2 原告の主張について(1) 原告は、法184 条の4 第4 項の改正の動向を踏まえ、出願人又は代理人の立場や規模、その体制等に照らし、合理的に求められる注意義務を基準として、「正当な理由」の有無を判断すべきであり、これによれば、本件担当弁護士はその注意義務を果たしていたといえ、本件期間徒過については「正当な理由」があるなどと 主張する。 (2) 法184 条の4 第4 項(令和3 年改正前のもの)は、PLT の規定に整合した手続期間の徒過に対する救済手続を導入するために、平成23 年改正により新設されたものであり、期間徒過につき「正当な理由」があるときに救済を認めている。 これは、PLT が救済を認める要件として「相当な注意基準」と「故意でない基準」 のいずれかからの選択を締約国に認めているところ、「相当な注意基準」と比較的低額の手数料とが組み合わされ、「故意でない基準」と比較的高額な手数料が組み合わされているという諸外国の立法例をも参考にしつつ、手数料を無料とすることを前提に、第三者の監視負担に配慮しつつ実効的な救済を確保できる要件として「相当な注意基準」を採用し、具体的な条文の文言としては「その責めに帰することがで きない事由」に比して緩やかな要件である「翻訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるとき」としたものである(甲27、乙3)。 他方、令和3 年改正は、日本の権利等の回復のための判 ない事由」に比して緩やかな要件である「翻訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるとき」としたものである(甲27、乙3)。 他方、令和3 年改正は、日本の権利等の回復のための判断基準及び立証負担が欧米諸国に比して厳格に過ぎるとの法184 条の4 第4 項の運用に関する国内外の出願人等からの指摘等を踏まえ、救済を認める要件を「相当な注意基準」から「故意で ない基準」に転換することで権利等の回復を容易としつつ、制度の濫用を防ぐと共 に、手続期間の遵守については引き続き促進する必要があることから、それに十分な程度の回復手数料を徴収することとしたものである(甲25、乙4~6)。 このような平成23 年改正及び令和3 年改正の趣旨に鑑みると、法184 条の4 第 4 項の運用に対する批判的な指摘が令和3 年改正の要因の1 つであることを踏まえても、手数料の徴収に関する対応の変更を伴わないままに「正当な理由があるとき」 の解釈・適用を緩和することについては、なお慎重であるべきものと考えられる。 その点を措くとしても、本件において、本件担当弁護士は、現地事務所における職制上、本件担当秘書を監督すべき立場にある。同弁護士が本件移行指示メールを認識した時点で既に期限が切迫していたことに鑑みると、仮に海外出張からの帰国直後であるために出張の間に累積した事務の処理に多忙であったり、会議が予定さ れていたりしたとしても、同メールへの対応業務の優先度は他の事務処理に比して高いものと推察される。しかも、現地事務所の体制等を踏まえると、その対応としてまず行われるべきは、本件担当弁護士が自ら対応するか、そうでなければ、本件移行指示メールへの対応の状況につき本件担当秘書に確認することと思われる。この確認が行われていれ を踏まえると、その対応としてまず行われるべきは、本件担当弁護士が自ら対応するか、そうでなければ、本件移行指示メールへの対応の状況につき本件担当秘書に確認することと思われる。この確認が行われていれば、本件担当秘書が当日急遽欠勤していたことを把握し、本 件担当弁護士が自ら対応に当たるか、代替要員に対応させるかすることによって、本件期間徒過を回避することもあるいは可能であったと考えられる。また、上記確認が不可能ないし著しく困難であったことをうかがわせる具体的な事情も見当たらない。にもかかわらず上記確認等を行わなかったという本件担当弁護士の対応については、令和3 年改正の趣旨を踏まえて「正当な理由があるとき」の解釈・適用を いくらか緩和する方向で考えたとしても、本件期間徒過の回避に向けた相応の対応を取ったとはいい難く、相当な注意を尽くしたとはいえない。このことは、原告指摘に係るガイドラインの英訳が公開されていなかったという事情を考慮しても異ならない。 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。 3 まとめ 本件国際特許出願は法184 条の4 第3 項により取り下げられたものとみなされるところ、以上のとおり、本件期間徒過について、原告に「正当な理由がある」(法184条の4 第4 項)とはいえないことから、本件国際特許出願に係る国内書面及び明細書等翻訳文の提出という本件手続は、取下擬制により客体の存在しない不適法な手続であって、その補正をすることができない。したがって、特許庁長官が法18 条の 2 第1 項本文に基づきこれを却下した本件却下処分は適法である。 第4 結論よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47 部 第1項 本文に基づきこれを却下した本件却下処分は適法である。 第4項 結論よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官杉浦正樹 裁判官小口五大 裁判官久野雄平

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