令和5(わ)44 殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
令和5年9月15日 佐賀地方裁判所 その他
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判決文本文5,915 文字)

- 1 - 令和5年9月15日宣告令和5年第44号殺人被告事件 主文 被告人を懲役24年に処する。 未決勾留日数中40日をその刑に算入する。 理由 理由中の秘匿事項(事件関係者の氏名及び犯行場所)は、別紙記載のとおり(犯罪事実)第1 被告人は、幼少期から、実父であるBから心理的、身体的な虐待を受けるなどしていたが、Bをいつか殺害するという思いで虐待に耐えており、大学進学を期にBと別居することになった後も、Bを殺害しなければ虐待に耐えてきた意味がなくなるなどと考えていた。そして、被告人は、令和5年3月5日頃、大学の成績が下がったことに関し、被告人のアパートまで来たBから、1時間から2時間ほど正座をさせられて強く叱責されたことで、最終的にBの殺害を決意した。 被告人は、特定少年であるが、同月9日午前11時47分頃から同日午後0時32分頃までの間に、実家である犯行場所において、B(当時51歳)に対し、殺意をもって、その胸部、左頸部等をダガーナイフ(刃体の長さ約15. 3センチメートル)で複数回突き刺し、よって、その頃、同所において、同人を左側頸部刺創に基づく左頸動脈切断等により失血死させて殺害した。 第2 被告人は、第1記載のとおりBを殺害しようとした際、実母であるCが、被告人とBとの間に立ちふさがって被告人を止めようとしたことから、Bの殺害を邪魔するCを排除しようと考えた。 被告人は、特定少年であるが、第1記載の犯行の日時、場所において、C(当時46歳)に対し、殺意をもって、その左側胸部、背部等を第1記載のダガーナイフで複数回突き刺すなどし、よって、その頃、同所において、同人を左側- 2 - 胸部刺創に基づく心臓刺創等により失血死させて殺害した。 (事実認定の補足説明) 背部等を第1記載のダガーナイフで複数回突き刺すなどし、よって、その頃、同所において、同人を左側- 2 - 胸部刺創に基づく心臓刺創等により失血死させて殺害した。 (事実認定の補足説明) 1 被告人は、第2の事実につき、Cに対する殺意はなかった旨を述べており、弁護人も、これに沿う主張をしている。 したがって、本件の争点は、Cに対する殺意の有無の点である。 2 そこで検討すると、関係証拠によれば、被告人は、第1の事実のとおり、判示ダガ―ナイフ(以下「本件ナイフ」という。)でBを刺して殺害しようとしたところ、その場にいたCが被告人とBの間に入り、被告人の肩や腕をつかむなどして立ちふさがる状態になったため、Cの身体を手で押して払うようにしたが、Cをどかすことができなかった。そのため、被告人は、Bを殺害するためには邪魔をするCを排除しなければならないと考え、Cと正対した状態から、利き手である右手に持った本件ナイフを用いて、Cの上半身の左側を中心に、少なくとも5回程度、手加減することなく突き刺したことが認められる。 そして、このような被告人の行為の結果、Cは、致命傷となった左側胸部刺創を含め、4か所の致死的重傷(単独で死に至り得る傷)を負い、失血により亡くなったことが認められる。 3 確かに、被告人に、実母であるCを殺害しようという気持ちがもともとあったわけではなかったといえる。また、被告人は、Cの身体のどこをどのように刺したかはっきりとは分からないなどと述べているが、被告人が犯行時に強い興奮状態にあったことからすれば、記憶が曖昧になっているとしてもおかしくないから、積極的にうその話をしているわけではないように思われる。 しかし、上記のとおり、被告人は、高い殺傷能力を有する本件ナイフを用いて、人体の枢要部分であるCの上半身を目掛けて としてもおかしくないから、積極的にうその話をしているわけではないように思われる。 しかし、上記のとおり、被告人は、高い殺傷能力を有する本件ナイフを用いて、人体の枢要部分であるCの上半身を目掛けて複数回にわたり手加減することなく突き刺し、短時間のうちに、4か所もの致死的重傷を負わせている。特に、致命傷となった左側胸部刺創は、深さ約13.5cmに及び、肋骨を切断し、心臓まで損傷させたものであって、相当に強い力でCを突き刺したものと- 3 - いえる。このようなCの殺害行為の態様からすれば、被告人がいくら興奮した状態にあったとはいえ、Cが死亡する危険性が高い行為であったことを分かっていなかったとは考え難い。また、上記のような被告人の行為からは、Cの痛みや苦しみを思いやる気持ちはうかがえず、被告人は、Bを確実に殺害するためには、邪魔をするCのことはどうなってもいいと考えていたとしか思われない。 実際に、被告人は、Bにとどめをさした後に、リビングに倒れているCの様子を見た後も、Cの救命措置を行わなかっただけでなく、血の付いたカーテンを外し、屋外のBの血痕を水で流すなど、冷静に証拠隠滅行為を行っている。 このような犯行後の行動からは、被告人が、自らの行為によりCを亡くならせてしまったことに対する後悔や驚き、Cに寄り添うような気持ちは見られない。 このような事情を考慮すれば、被告人が、本件犯行時に、自らの行為がCを死亡させる危険性が高い行為であることを分かった上で、あえて殺害行為に及んだものと認められ、被告人にCに対する殺意があったことは強く推認できる。 4 これに対し、弁護人は、被告人とCが揉み合いになった際に、本件ナイフが刺さって致命傷となった可能性がある旨を主張している。しかし、Cの致命傷となった左側胸部刺創は、上記のとおり、肋骨を きる。 4 これに対し、弁護人は、被告人とCが揉み合いになった際に、本件ナイフが刺さって致命傷となった可能性がある旨を主張している。しかし、Cの致命傷となった左側胸部刺創は、上記のとおり、肋骨を切断し、心臓まで損傷させる相当に深い傷であって、揉み合いの中でたまたま本件ナイフが刺さってできたとは考え難い。この点に関し、弁護人は、左側胸部刺創の傷口が二股に分かれていることを指摘するなどして、被告人の押しのけようとする力とCが押し返されまいと抵抗する力が相まって、本件ナイフが深く刺さった可能性がある旨も主張している。しかし、Cの御遺体を解剖したD医師は、Cの左側胸部刺創の傷の形状等から、刃物が刺さった後、刺された側のCに大きな動きはなかったと考えられる旨を証言しているし、傷口が二股に分かれている点についても、僅か数ミリ程度の分かれ目があっただけであり、刃物を引き抜くときに(刃物の側に)僅かな動きが生じたり、Cの側に僅かな動きがあったことで二股に分岐したと- 4 - 考えられる旨を証言しているから、やはりCの身体が大きく動いて傷ができた疑いは生じない。弁護人の主張は採用できない。 5 以上によれば、常識に照らして判断して、被告人が犯行時にCの死亡結果を認識・認容していたことは間違いないといえるから、被告人に、Cに対する殺意があったことは十分認定できる。 (法令の適用)罰条第1、第2いずれも刑法199条刑種の選択 第1、第2いずれも有期懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の重い第1の罪の刑に加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)第1 処遇選択の理由 1 弁護人は、少年法55条に基づき本件を家庭裁 1の罪の刑に加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)第1 処遇選択の理由 1 弁護人は、少年法55条に基づき本件を家庭裁判所に移送して、被告人を保護処分に付すべきと主張している。 2 そこで検討すると、情状鑑定を行ったE鑑定人の鑑定報告によれば、被告人は、幼少期より実父であるBによる身体的、心理的虐待、教育虐待とそれらによる精神的支配の下で育ち、そのような養育環境が、被告人の人格形成に深刻な影響を及ぼしており、被告人の更生を図るためには、治療的な人間関係ができる処遇環境の下で、健康な自己・自己感の再形成を図ることが必要であるが、そのような取組みには相当長期間を要するというのである。そうすると、特定少年である被告人を保護処分に付して少年院に収容した場合、その収容期間は最長3年となるところ、このような少年院での収容期間は、被告人の更- 5 - 生を図るための期間としては十分ではないと考えられる。また、被告人は、事情があったとはいえ、肉親を手にかけたものであり、被告人がそのような自らの罪の重さに向き合う期間としても、上記のような少年院での収容期間は不十分といわざるを得ない。保護処分による更生可能性は乏しいといえる。 また、本件は、ほぼ無抵抗の状態の2名の被害者を一方的にナイフで刺すという態様で殺害した殺人事件である。被告人が犯行に至る経緯にBによる虐待行為の影響があったことや、家庭内の事件であることなどの弁護人の指摘を考慮しても、本件につき、被告人を保護処分に付する許容性があるとはいえないし、原則検察官送致対象事件である本件につき、凶悪性、悪質性を大きく減じて保護処分を許容できる特段の事情があるとも認め難い。 3 以上によれば、本件では、保護処分相当性が認 許容性があるとはいえないし、原則検察官送致対象事件である本件につき、凶悪性、悪質性を大きく減じて保護処分を許容できる特段の事情があるとも認め難い。 3 以上によれば、本件では、保護処分相当性が認められないから、被告人に対しては刑事罰をもって臨むほかない。弁護人の主張は採用できない。 第2 量刑の理由1(1) 被告人は、実家である犯行場所のリビングで、あらかじめ準備した殺傷能力が高い本件ナイフを用いて、Bに対し、いきなり胸部等を複数回刺した上で、その場にいたCが被告人とBとの間に入って立ちふさがって止めようとしたのに対しては、B殺害の邪魔になるCを排除しようとして、背部や胸部を手加減することなく刺して殺害し、さらに、Bが掃き出し窓から室外に出たのを追いかけ、その頸部を2回刺してとどめをさして殺害した。このような犯行態様は、被告人が、殺傷能力の高い凶器を用いて、ほぼ無抵抗の状態の被害者らに対し一方的に攻撃を加えたものであり、人の生命を奪う危険性が大変高い犯行であったといえる。特に、Bの殺害行為については、強い殺意に基づく執拗なものである上、事前に凶器となるナイフを購入し、予備となる果物ナイフやピックと共に犯行現場に持参するとともに、血が目立たない色の服を着るなど、計画性も認められる。 本件犯行により、2名の被害者が亡くなるという取り返しのつかない結- 6 - 果が生じた。家庭内の事件であり、第三者に被害を及ぼしたものではないとはいえ、犯行結果も極めて重大なものである。 (2) 被告人が犯行に至った経緯は判示のとおりであり、被告人が、幼少期から、実父であるBから心理的、身体的な虐待を受けるなどしたことが、B殺害を決意したことに大きく影響している。Bが被告人に対して厳しく接してきたのは、被告人への期待や愛情による部分もあったは 幼少期から、実父であるBから心理的、身体的な虐待を受けるなどしたことが、B殺害を決意したことに大きく影響している。Bが被告人に対して厳しく接してきたのは、被告人への期待や愛情による部分もあったはずであり、そのようなBの気持ちが被告人に伝わっていなかったことは残念ではあるが、Bによる虐待行為がなければ、被告人が本件犯行に及ぶことはなかったといえるし、Bを殺害しようと考えるまで被告人が追い詰められたことについては同情すべき部分があるというべきである。 もっとも、大学の成績についてBから叱責を受ける機会を作るなど、被告人が直接のきっかけを作って犯行を誘発した側面があることは否めない。 また、Cの殺害行為については、被告人は、Bを殺害することに集中する余り、Cを巻き添えにしてしまったのであるが、Cが同席する場でBを殺害しようとすれば、Cがこれを制止しようとする事態は当然予測できたはずであり、それまで被告人のために心を砕き、味方になってくれていたはずのCまで殺害してしまうという事態を避けることができなかったとはとても思われない。被告人がCを殺害した動機や経緯は、身勝手で自己中心的といわざるを得ない。 2 以上のような犯罪事実に直接関係する事情を中心に据えた上で、刑の公平性の観点から、同種事案の量刑傾向(親ないしその他の親族に対し、凶器を用いて単独で敢行された殺人2件ないし4件の事案で、量刑上考慮すべき前科のないものを中心に量刑傾向を参照した。)に照らして検討すると、本件は、同種事案の中でも重い部類に属する事案といえ、被告人に対しては、相当長期間の実刑をもって臨むほかない。 3 その上で、被告人に対する具体的な刑期を定めるに当たって、以上の事情に- 7 - 加え、犯情以外の点を見ると、被告人の妹を含む相当数の御遺族が、被告人の早期 の実刑をもって臨むほかない。 3 その上で、被告人に対する具体的な刑期を定めるに当たって、以上の事情に- 7 - 加え、犯情以外の点を見ると、被告人の妹を含む相当数の御遺族が、被告人の早期の社会復帰を望む旨の嘆願書を提出したほか、被告人の父方叔父と母方伯父が出廷し、それぞれ被告人に対する寛大な処分を望む旨を証言したこと、被告人が、特定少年であり、これまでに非行歴がないことなど、被告人にとって有利に斟酌すべき事情が認められる。これに加えて、被告人は、淡々とした態度ではあるが、法廷で、事実関係を素直に供述するとともに、BやCを死に至らしめたことに対する後悔の言葉や謝罪の言葉を述べた。前記のとおり、被告人がその問題性を改め更生をするためには今後相当の時間が掛かるとはいえ、現在でも、被告人なりに自分のしたことに向き合い、つぐないをしたいという気持ちがあることは十分見て取れる。 そこで、これらの事情をも考慮し、主文の刑に処するのが相当と判断した。 (求刑・懲役28年)令和5年9月20日佐賀地方裁判所刑事部 裁判長裁判官岡 﨑 忠之 裁判官瀧田佳代 裁判官名倉亨 - 8 - (別紙) 2 事件関係者の氏名BC 3 犯行場所佐賀県鳥栖市(住所省略)所在のB方以上

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