主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人春日井市立藤山台中学校長が,平成16年4月22日付けでした,同年度における同中学校の道徳副読本として,原判決別紙目録記載の各副読本を採択した処分を取り消す。 (3) 被控訴人春日井市は,控訴人に対し,100万円及びこれに対する平成16年10月21日から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。 (4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 2 被控訴人ら主文と同旨第2 事案の概要 1 本件は,春日井市立藤山台中学校(以下「本件中学校」という。)の教諭である控訴人が,(1) 被控訴人春日井市立藤山台中学校長(以下「被控訴人校長」という。)のした原判決別紙目録記載の各副読本(以下「本件各副読本」という。)の採択(以下「本件各採択」という。)が,選定手続の基準に反する違法な行政処分であると主張して,その取消しを求めるとともに,(2) 国家賠償法1条に基づき,被控訴人春日井市に対して,控訴人の教育権(の支分権たる教材選定権)が侵害されたことに基づく慰謝料100万円及びこれに対する平成16年10月21日(訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 原判決は,(1) 本件訴えのうち,被控訴人校長のした本件各採択の取消しを求める訴えは,本件各採択が抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないから不適法であるとして却下し,(2) 原判決は,(1) 本件訴えのうち,被控訴人校長のした本件各採択の取消しを求める訴えは,本件各採択が抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないから不適法であるとして却下し,(2) 控訴人の被控訴人春日井市に対する請求は,控訴人に教材選定権なる権利ないし法的利益を認めることはできないから,本件各採択が控訴人に対する不法行為を構成するものとは認められないとして請求を棄却した。 3 控訴人は,原判決を不服として控訴した。 4 前提事実,争点,争点に関する当事者の主張は,次のとおり,控訴人の当審における主張を付加するほか,原判決「第2 事案の概要」欄1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。 5 控訴人の当審における主張(1) 行政処分性の有無の判断基準について原判決は,「抗告訴訟の対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行政事件訴訟法3条1項)とは,公権力の主体たる行政庁が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」と判示するが,この考えは抗告訴訟の救済的機能を狭くするもので不当であり,誤りである。 行政処分性の有無については,公権力の実体はもたないが,「事実上の支配力」を有していると考えられる行政の行為についても,救済の必要性から抗告訴訟の対象とすべきである。具体的には,(ア)公定力を有しない権力的事実行為,(イ)法令・条例,(ウ)告示(一般処分,計画)(エ)行政内部行為(通達,行政機関相互の同意,承認等),(オ)行政指導(勧告,違反通知),(カ)契約行政や給付行政上の処分(公の施設の利用関係における制裁措置,要綱等に基づく補助金貸付金の交付決定)などがある。 仮に,しからず ,承認等),(オ)行政指導(勧告,違反通知),(カ)契約行政や給付行政上の処分(公の施設の利用関係における制裁措置,要綱等に基づく補助金貸付金の交付決定)などがある。 仮に,しからずとも行政の一定の行為について,法律を筆頭とする法規範が,当該行政庁の行為に抗告訴訟で争うべき公権力性を付与しているか否かで判断すべきである。具体的には,法規範によって授権された「行政権の一方的な行為が国民の法的地位に現実的な侵害的効果を行政上の制度を通じて及ぼす場合に」その行政処分性を肯定すべきである。 (2) 生徒及び父母の存在について行政処分性の有無について,原判決の基準によるとしても,本件各採択により,春日井市藤山台中学校に在籍する生徒は,本件各採択にかかる教材を授業で使用することになるのであるから,生徒とその保護者が本件各採択によりその学習内容,方法において直接影響をうける立場にあることは疑いがない。生徒とその保護者は学校組織内部の人間ではなく,学校組織を利用する国民なのであるから,本件各採択により生徒やその保護者の権利義務が形成され,その範囲が確定されるものなのか否かをまず審理しなければならない。そして,生徒及び保護者の立場より考えて行政処分性が肯定されたときには,控訴人に原告適格があるか否かが審理されることになるべきである。 (3) 教員の教材選定権についてア原判決は,憲法23条,26条及び教育基本法10条1項,学校教育法28条6項,40条は教員の教育権を基礎づける根拠とはならないとしているが,これは解釈を誤ったものである。 イさらに,原判決も認めるように「普通教育に携わる教員には,教育という事柄の性質上,授業等の具体的内容及び方法を定めるにつき,ある程度の裁量は認められる」のであり, を誤ったものである。 イさらに,原判決も認めるように「普通教育に携わる教員には,教育という事柄の性質上,授業等の具体的内容及び方法を定めるにつき,ある程度の裁量は認められる」のであり,その実質的な内容は控訴人が主張する「教育活動における教員の人間的主体性と責任感の尊重」に外ならず,これは普通教育に携わる教員の法的な地位にとって重要な要素なのであるから,これに影響を与えるような教育委員会や校長の行政行為は,行政処分性が肯定され,抗告訴訟の対象とされなければならない。 (4) 被控訴人春日井市に対する賠償請求について原判決は,最初に判断されるべき被控訴人校長の本件各採択行為の違法性について全く判断しておらず,この点において重大な審理不尽がある。 原判決は,控訴人には教材選定権なる権利ないし法的利益を認めることができないから,本件各採択によって賠償すべき慰謝料その他の損害が控訴人に生じる余地はないと判示して,違法性を判断するまでもなく,そもそも損害が生じる余地がないといっているようであるが,不法行為法において「権利侵害から違法性へ」という命題が定着し,国家賠償法1条もこの命題にそって立法されたことを無視するもので不当である。 そして,上記定着した学説・判例によれば,違法性の判断をまず先行させなければ,救済すべき損害は確定できないはずである。原判決でも,「授業等の具体的内容及び方法を定めるにつき,ある程度の裁量が認められる」とされているのであるから,「授業等の具体的内容及び方法を定める」過程に校長の職務執行の違法が認められるときに損害の生じることは当然である。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の訴えのうち被控訴人校長のした本件各採択の取消しを求める訴えは不適法であるから却下す 務執行の違法が認められるときに損害の生じることは当然である。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の訴えのうち被控訴人校長のした本件各採択の取消しを求める訴えは不適法であるから却下すべきものと,控訴人の被控訴人春日井市に対する請求は理由がないから棄却すべきものと判断するが,その理由は,次項に控訴人の当審主張に対する判断を付加するほか,原判決「第3 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 ページ(1) 2 控訴人の当審主張に対する判断(1) 行政処分性の有無の判断基準について控訴人は,原判決の判示する判断基準は抗告訴訟の救済的機能を狭くするもので不当であり誤りであると主張し,(ア)公権力の実体はもたないが,「事実上の支配力」を有していると考えられる行政の行為についても,救済の必要性から抗告訴訟の対象とすべきである,(イ)しからずとも行政の一定の行為について,法律を筆頭とする法規範が,当該行政庁の行為に抗告訴訟で争うべき公権力性を付与している場合(法規範によって授権された「行政権の一方的な行為が国民の法的地位に現実的な侵害的効果を行政上の制度を通じて及ぼす場合」)には抗告訴訟の対象とすべきであると主張する。 しかし,上記(引用にかかる原判決)のとおり,抗告訴訟の対象となるのは,行政庁の行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいい,したがって,行政機関のある行為が,公権力の行使にあたるとしても,本来的に私人に向けられたものではなく,行政内部又は行政相互間において行われるにすぎない場合には,通常,これによって国民の権利義務に直接影響を与えることは考えられないから,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらな 向けられたものではなく,行政内部又は行政相互間において行われるにすぎない場合には,通常,これによって国民の権利義務に直接影響を与えることは考えられないから,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないと解するのが相当であって,抗告人の上記主張はいずれも採用できない。 (2) 生徒及び父母の存在について控訴人は,春日井市藤山台中学校に在籍する生徒とその保護者は,学校組織の内部の人間ではなく,学校組織を利用する国民に他ならないところ,上記生徒やその保護者は,本件各採択によって,同採択にかかる本件各副読本を授業で使用することになり,学習内容や方法に直接影響を受ける立場にあるから,本件各採択の行政処分性の有無の判断においては,まず,本件各採択によって生徒やその保護者について権利義務が形成され,その範囲が確定されるものなのか否かを審理しなければならないと主張する。 本件各採択によって,春日井市藤山台中学校に在籍する生徒さらにはその保護者は,その採択にかかる本件各副読本を授業で使用することになるという影響は受ける。しかし,行政処分性の有無の判断基準は上記(1)のとおりであり,本件各採択による上記の影響は,直接に上記生徒や保護者らの権利義務を形成し,その範囲を確定するものとは言えないから,控訴人の上記主張を考慮しても,行政処分性の有無の判断は左右されない。 (3) 教員の教材選定権についてア控訴人は,憲法23条,26条及び教育基本法10条1項,学校教育法28条6項,40条は教員の教育権を基礎づける根拠とならないとする原判決は憲法や法律の解釈を誤ったものであると主張する。 しかし,上記(引用にかかる原判決)のとおり,上記各条項から,普通教育に携わる個々の教員に,教育を実施するについて,国な とする原判決は憲法や法律の解釈を誤ったものであると主張する。 しかし,上記(引用にかかる原判決)のとおり,上記各条項から,普通教育に携わる個々の教員に,教育を実施するについて,国ないし設置者による教育行政に対置する意味での独自の権利ないし法的利益は認められないと解するのが相当であるから,控訴人の上記主張は理由がない。 イ控訴人は,原判決も「普通教育に携わる教員には,教育という事柄の性質上,授業等の具体的内容及び方法を定めるにつき,ある程度の裁量」のあることを認めているところ,その実質は「教育活動における教員の人間的主体性と責任感の尊重」であり,これは普通教育に携わる教員の法的な地位にとって重要な要素であるから,これに影響を与えるような教育委員会や校長の行政行為は,行政処分性が肯定され,抗告訴訟の対象とされなければならないと主張する。 しかし,行政処分性の有無の判断基準,控訴人の主張する教員の教育権が認められないことは上記(1),(3)アのとおりであり,さらに,上記(引用にかかる原判決)のとおり,本件管理規則が,春日井市立の中学校において,教員個人に副教材選定の権利ないし法的利益を認めていると解することはできないし,本件各採択にかかる教材の使用によって,普通教育の場における,授業等の具体的内容及び方法において認められる教員の裁量の余地を奪うものとは解されないのであるから(最高裁判所平成5年3月16日第3小法廷判決・民集47巻5号3483頁参照),控訴人の上記主張は採用できない。 (4) 被控訴人春日井市に対する賠償請求について控訴人は,原判決は,最初に判断されるべき被控訴人校長の本件各採択行為の違法性について全く判断しておらず,この点において重大な審理不尽があるとしてるる主張する 市に対する賠償請求について控訴人は,原判決は,最初に判断されるべき被控訴人校長の本件各採択行為の違法性について全く判断しておらず,この点において重大な審理不尽があるとしてるる主張する。 控訴人は被控訴人春日井市に対し,国家賠償法に基づき,損害の賠償を求めるものであるところ,上記(引用にかかる原判決)のとおり,控訴人に教材選定権なる権利ないし法的利益は認められないから,本件各採択によって控訴人に損害が生ずるとも認められず,したがって,本件各採択が不法行為を構成することのないことも明らかである。 このように控訴人の請求に理由のないことの明らかな場合において,本件各採択の違法性についても判断しなければならない必要は認められず,控訴人の上記主張は理由がない。 第4 結論よって,原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部裁判長裁判官青山邦夫裁判官坪井宣幸裁判官田邊浩典ページ(2)
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