平成15年(わ)第3569号公職選挙法違反被告事件判決 主文 被告人を懲役2年に処する。 この裁判が確定した日から5年間上記の刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成15年11月9日施行の衆議院議員総選挙に際し,衆議院小選挙区選出議員選挙の愛知県第A選挙区及び衆議院比例代表選出議員選挙のB選挙区から立候補する決意を有し,同年10月28日に被告人が所属する政党であるC党から被告人の立候補の届出並びに被告人の氏名及び当選人となるべき順位等が記載された衆議院名簿の届出がなされたものであるが,上記選挙において自己の当選を得る目的で,第1 同月10日ころ,名古屋市a区b町c番地のd所在の被告人方において,上記愛知県第A選挙区及びB選挙区の選挙人で,被告人の選挙運動者であるDに対し,被告人への投票及びその取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として現金40万円を供与し,第2 Dと共謀の上, 1 同月13日ころ,同区e通f丁目g番地所在の被告人事務所において,Dが,上記愛知県第A選挙区及びB選挙区の選挙人で,被告人の選挙運動者であるEに対し,被告人への投票及びその取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として現金30万円の供与の申込みをし, 2 同月17日ころ,上記被告人事務所西側敷地内において,Dが,上記愛知県第A選挙区及びB選挙区の選挙人で,被告人の選挙運動者であるFに対し,被告人への投票及びその取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として現金15万円を供与し, 3 同月20日ころ,同区e通f丁目h番地先空地に駐車した自動車内において,Dが,上記B選挙区の選挙人で,被告人の選挙運動者であるGに対し,上記C党への投票及び被告人への投票の取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として現金15万円の供与の申込みをし,かつ において,Dが,上記B選挙区の選挙人で,被告人の選挙運動者であるGに対し,上記C党への投票及び被告人への投票の取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として現金15万円の供与の申込みをし,かつ,それぞれ上記C党から被告人の立候補の届出並びに被告人の氏名及び当選人となるべき順位等が記載された衆議院名簿の届出がなされる前の選挙運動をした。 (証拠の標目)(省略)(法令の適用) 1 罰条判示第1の事実について事前買収の点は公職選挙法221条1項1号,事前運動の点は同法239条1項1号,129条判示第2の1から3の各事実について刑法60条に加え,事前買収の点は公職選挙法221条1項1号,事前運動の点は同法239条1項1号,129条 2 科刑上一罪の処理判示各罪について,それぞれ刑法54条1項前段,10条(いずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,1罪として重い事前買収罪の刑でそれぞれ処断) 3 刑種の選択判示各罪について,いずれも懲役刑を選択 4 併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重) 5 執行猶予刑法25条1項(量刑の理由)本件は,公職選挙法違反(事前買収と事前運動)の事案であるが,衆議院議員総選挙において小選挙区及び比例代表区への重複立候補を予定していた被告人が,選挙が予想していた時期よりも早くなり,準備が不十分であると感じていたことなどに不安を抱き,被告人やその所属する政党への投票及び投票の取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として,従前から被告人の選挙の際熱心に活動してきたDに現金40万円を供与し,さらに,同人と共謀の上,支援議員から選挙運動員として派遣された3名の者にも現金15万円から30万円を供与し又 ことの報酬として,従前から被告人の選挙の際熱心に活動してきたDに現金40万円を供与し,さらに,同人と共謀の上,支援議員から選挙運動員として派遣された3名の者にも現金15万円から30万円を供与し又は供与しようとしたもので,その金額も合計100万円と多く,態様悪質である。被告人は,立候補予定者本人として,公職選挙法等の関係法規を遵守すべき責任ある立場にあったにもかかわらず,違法であることを十分認識しながら敢えて本件各犯行に及んだ上,選挙運動員をも巻き込んで公職選挙法に抵触させてしまっており,その意味でも強い非難を免れない。そして,このような犯罪は,民主政治の根幹をなす公正な選挙制度に対する国民の信頼を大きく損ねるものであって,本件の社会的影響も軽視できない。 そうすると,被告人の刑事責任は決して軽くない。 しかしながら,2名の者が現金の受取りを拒否したため,一部は供与の申込みにとどまったこと,被告人は,率直に犯行を認め,衆議院議員も辞職して,反省の態度を示していること,これまで前科前歴がないだけでなく,県会議員として一定の社会貢献をし,今後も福祉のために力を尽くしたいと述べていること,扶養すべき妻子がいること等の酌むべき事情も認められるので,特にその刑の執行を猶予することとするが,選挙制度に対する信頼を大きく損ねた被告人の刑事責任の重さに鑑みると,猶予期間について特別の配慮をすべき事情があるとは認められず,主文の量刑が相当である。 (求刑-懲役2年)平成16年5月25日名古屋地方裁判所刑事第5部裁判長裁判官伊藤新一郎裁判官後藤眞知子裁判官鈴木清志 藤眞知子 鈴木清志
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