主文 1 原告の被告生駒市長に対する本件訴え中,被告生駒市長が,原告に対して平成12年5月23日付けでした公文書一部開示決定のうち,別紙開示請求文書目録記載の文書中,別紙非開示部分目録記載の各部分のうちの別紙却下部分目録記載の各部分を非開示とした部分の取消しを求める部分を却下する。 2 被告生駒市長が原告に対して平成12年5月23日付けでした公文書一部開示決定のうち,別紙開示請求文書目録記載の各文書中,別紙非開示部分目録記載の各部分のうちの別紙取消部分目録記載の各部分を非開示とした部分を取り消す。 3 原告の被告生駒市長に対するその余の請求及び被告生駒市に対する請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用のうち,原告と被告生駒市長との間に生じた訴訟費用は3分して,その1を原告の,その余を被告生駒市長の負担とし,原告と被告生駒市との間に生じた訴訟費用は原告の負担とする。 理由 第1 請求 1 被告生駒市長が,原告に対し,平成12年5月23日付けでした公文書一部開示決定のうち,別紙開示請求文書目録記載の文書中,別紙非開示部分目録記載の各部分を非開示とした部分を取消す。 2 被告生駒市は,原告に対し,80万円及びこれに対する平成12年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 前項につき仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,原告が,被告生駒市長(以下「被告市長」という。)に対し,生駒市情報公開条例(平成9年12月24日生駒市条例第26号,以下「本件条例」という。)に基づき,公文書の開示を請求したところ(以下「本件開示請求」という。),被告市長が本件開示請求に係る文書(以下「本件文書」という。)の一部を非開示とする旨の一部開示決定(以下「本件処分」という。)をしたので,原告が被告市長に対し,行政事件訴訟法に 示請求」という。),被告市長が本件開示請求に係る文書(以下「本件文書」という。)の一部を非開示とする旨の一部開示決定(以下「本件処分」という。)をしたので,原告が被告市長に対し,行政事件訴訟法に基づき,本件処分のうち非開示とした部分の取消しを求めるとともに,被告生駒市(以下「被告市」という。)に対し,国家賠償法1条1項に基づき,本件処分により被った原告の精神的損害及び本件訴訟遂行に要する弁護士費用相当額の損害賠償を求めた事案である。 2 前提事実等(争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実)(1) 本件条例が定める公文書開示目的,解釈及び運用並びに非開示事由本件条例は,第1条において「この条例は,地方自治の本旨にのっとり,公文書の開示を請求する市民の権利を保障することにより,市民の市政への参加を促進するとともに,市の諸活動を市民に説明する責務が全うされるようにし,もって公正で開かれた市政を推進することを目的とする。」と,第3条で「実施機関は,公文書の開示を請求する市民の権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し,運用するものとする。この場合において,実施機関は,個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定している。また,開示請求に係る公文書の非開示事由について,第6条において,「実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については,当該公文書の開示をしないことができる。」とし,7個の事由(同条1号ないし7号)を定めているところ,本件に関係する部分は次のとおりである。 6条2号個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るもの。ただし,次に掲げる情報を除く。 ア法令等の規定により,何 ある。 6条2号個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るもの。ただし,次に掲げる情報を除く。 ア法令等の規定により,何人でも閲覧できるとされている情報イ公表することを目的として実施機関が作成し,又は取得した情報ウ公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう。以下同じ。)の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職及び氏名エ法令等の規定により行われた許可,免許,届出その他これらに類する行為に際して実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示をすることが公益上必要であると認められるもの同条7号市又は国等が行う立入検査,監査,許可,認可,試験,審査,争訟,入札,交渉,渉外,人事その他の事務事業に関する情報であって,開示をすることにより,当該事務事業若しくは同種の事務事業の目的を損ない,又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの(2) 本件開示請求原告は,生駒市の住民であり,本件条例5条1項に基づく公文書開示請求権者であるところ,平成12年4月24日,本件条例2条1項に基づく公文書開示の実施機関である被告市長に対し,開示を請求する公文書の名称又は内容を,「街路事業の買収に伴う鑑定書10,11年度」として,本件条例8条に基づき,本件開示請求をした(甲1)。 (3) 本件処分被告市長は,平成12年5月23日,本件開示請求に対応する公文書として,「平成10年度及び平成11年度土地買収事務に係る不動産鑑定評価書」(別紙開示請求文書目録記載の文書,以下「本件各文書」という。)と特定した上で,別紙非開示部分 本件開示請求に対応する公文書として,「平成10年度及び平成11年度土地買収事務に係る不動産鑑定評価書」(別紙開示請求文書目録記載の文書,以下「本件各文書」という。)と特定した上で,別紙非開示部分目録記載の各部分について開示しないこととし,その余の部分を開示する旨の決定を行い,その旨原告に通知した(甲2)。 (4) 本件処分の非開示部分とその理由ア非開示部分(ア) 標準画地の地番(以下「非開示部分(ア)」という。)(イ) 取引等事例の指摘図(以下「非開示部分(イ)」という。)(ウ) 鑑定評価対象地の所有者の氏名(以下「非開示部分(ウ)」という。)(エ) 未買収の対象地の地番,写真,所在図,地籍図その他所在が分かる数値,文言等(以下「非開示部分(エ)」という。)(オ) 鑑定評価の総額,単価及び試算価格(以下「非開示部分(オ)」という。)(カ) 標準画地の価格(以下「非開示部分(カ)」という。)イ非開示の理由本件条例6条2号及び7号に該当。 [2号該当理由]非開示部分(ア),(イ),(ウ)及び(エ)については,特定の個人が識別される情報であるため。 [7号該当理由]用地買収事務は,相手方の任意の協力と合意により成立するもので,交渉内容等は公にしないことが前提に進められる。そういった状況で,非開示部分(ウ),(エ),(オ)及び(カ)を開示すると,相手方との信頼関係,協力関係を損なったり,用地交渉に係る市の方針が明らかになったりして,本件公文書に係る事業における未買収の用地の買収事務や今後の同種の事務の公正かつ適正な執行に著しい支障が生ずると認められるため。 (5) 本件処分に対する異議申立て原告は,平成12年5月25日,本件処分を不服として,行政不服審査法6条に基づき,被告市長に対し,本件処分において非開示とした い支障が生ずると認められるため。 (5) 本件処分に対する異議申立て原告は,平成12年5月25日,本件処分を不服として,行政不服審査法6条に基づき,被告市長に対し,本件処分において非開示とした部分を取り消し,その全部を開示することを求める旨の異議申立てを行った(以下「本件異議申立て」という。甲3)。これを受けて,被告市長は,同月26日,本件条例12条1項の規定により,生駒市情報公開及び個人情報保護審査会(以下「審査会」という。)に,本件異議申立てに係る諮問を行った。なお,原告は,同年12月11日,本件処分のうち,取消しを求めるのは買収が完了した土地に係る部分についてのみであり,未買収の土地に係る部分については取消しを求めないという旨の申し出を行っている(乙3)。 (6) 原告は,平成13年3月1日,本訴を提起した。 (7) 審査会は,原告の本件訴え提起後の平成13年4月27日,本件各文書について,本件処分で非開示とした部分のうち,買収が完了した鑑定評価対象地の所有者の氏名を開示すべきであるが,その他の部分を不開示としたことは,妥当である旨の答申を行った。 (8) 異議申立てに対する決定被告市長は,本件異議申立てに対する上記答申を受けて,平成13年5月14日,本件処分のうち,買収が完了した鑑定評価対象地の所有者の氏名を不開示とした処分を取り消し,本件異議申立てにかかるその他に部分について棄却する決定を行い,原告にその旨通知した。 3 争点(1) 不服申立てを欠く部分,及び,既開示部分についての本件訴えの適法性(2) 非開示部分(ア),(イ),(ウ)及び(エ)の本件条例6条2号該当性(3) 非開示部分(ウ),(エ),(オ)及び(カ)の本件条例6条7号該当性(4) 被告市に対する損害賠償請求の成否第3 争点に関する当事者の主張1 ),(ウ)及び(エ)の本件条例6条2号該当性(3) 非開示部分(ウ),(エ),(オ)及び(カ)の本件条例6条7号該当性(4) 被告市に対する損害賠償請求の成否第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)について(被告市長)(1) 別紙既開示部分目録記載の各部分については,原告はすでに被告市長から開示を受けており,この部分の取消しを求める訴えは,その取消しを求める利益がなく,不適法である。 (2) 原告は,本件異議申立ての際,買収が完了した土地に係る部分についてのみ取消しを求めており,未買収の土地に係る部分は不服申立てをしていないから,出訴期間の経過は中断されていない。したがって,原告が,本件処分のうち,未買収の土地に係る部分,すなわち,別紙不服申立てを欠く部分目録記載の各部分(以下「不服申立てを欠く部分」という。)の取消しを求める部分については,いずれも出訴期間を徒過した不適法な訴えであり,却下されるべきである。 (3) 原告は,本件異議申立てにより,本件各処分全体につき出訴期間の経過は中断している旨主張するが,本件条例7条は,「当該部分(不開示事由該当部分)を容易に,かつ,公文書の開示の請求の趣旨が損なわれることのない程度に分離できるとき」に部分開示決定をしなければならない旨規定しており,かつ,実務上も開示部分と非開示部分を分離して部分開示決定がなされているのであって,本件各処分は,一体のものではなく,個々の部分毎になされているものである。 (原告)本件処分は,原告が開示請求した文書全体についてなされたものであり,用地が既買収か未買収かによって別々の非開示処分が行われたとみるべき余地はない。したがって,原告の本件異議申立てにより,本件処分全体について,行政事件訴訟法14条4項により出訴期間の経過は中断している。 2 争点(2) かによって別々の非開示処分が行われたとみるべき余地はない。したがって,原告の本件異議申立てにより,本件処分全体について,行政事件訴訟法14条4項により出訴期間の経過は中断している。 2 争点(2)について(被告市長)ア本件各文書中の,非開示部分(ア),(イ),(ウ)及び(エ)は,特定の個人が直接識別される情報である。すなわち,非開示部分(ウ)(鑑定評価対象地の所有者の氏名)は個人情報そのものである。非開示部分(ア)(標準画地の地番)は,何人でも閲覧できる不動産登記簿と照合することにより特定の個人が識別される。非開示部分(イ)(「取引等事例の指摘図」)は,取引等事例の指摘図には,実際に行われた民間の土地売買の取引事例の場所が円で囲まれており,当該指摘図だけでは,具体的な場所の特定は困難であるが,本件各文書には,各事例の取引単価等の概要等が記載されており,本件処分において開示されているところ,この開示されている各事例の概要と併せると,場所が特定され,何人でも閲覧ができる不動産登記簿と照合することにより当該取引事例に係る特定の個人が識別される。非開示部分(エ)(未買収の対象地の地番,写真,所在地,地籍図その他所在が分かる数値,文言等)も,何人でも閲覧ができる不動産登記簿と照合することにより,買収計画に係る特定の個人が識別される。よって,いずれも,本件条例6条2号に該当する。 イ本件条例6条2号の趣旨は,本件条例3条後段が,「実施機関は,個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定していることを受け,個人の尊厳を守り,基本的人権を尊重する観点から,個人に関する情報を最大限に保護することを目的としたものである。地方公共団体の情報公開条例における,個人情報の非開示事由の規定の仕方について,単 け,個人の尊厳を守り,基本的人権を尊重する観点から,個人に関する情報を最大限に保護することを目的としたものである。地方公共団体の情報公開条例における,個人情報の非開示事由の規定の仕方について,単に「個人が識別できる情報」とするものと,それに加えて「通常他人に知られたくないと認められるもの」との要件を設けるものがあり,被告市は,あえて前者を採用している。これは,プライバシーの具体的な内容やその保護すべき範囲が法的にも社会通念上も必ずしも明確でないことに鑑み,個人に関する情報を最大限に保護する観点によるものであり,国レベルの情報公開法も同じ立場をとっている。原告の情報公開請求権は,本件条例により具体化されているのであるから,本件条例の規定の文理を離れて,開示しうる情報の範囲を決定することはできない。本件においても,個人が識別され,又は識別されうる情報は,一律に本件条例6条2号本文に該当するものと考えるほかなく,「プライバシー性」があるものとないものとを区別し,その後に公開するか否かを決定するというような原告の主張は,本件条例の趣旨に反するものである。また,本件条例6条2号ただし書エの規定は,個人情報であってもごく例外的な場合に公開すべき必要性がある場合がありうることを踏まえ,限定を付した上で「開示することが公益上必要である」場合に公開すべきとしているのであるから,原告のいうように「公益上の必要があるから公開すべき」というものではない。 (原告)ア前記の本件条例の目的(1条),及び,実施機関の責務(3条)の規定の仕方からすれば,非開示事由は,市民の情報公開請求権を重視して,具体的場面において公開が不相当なケースを限定列挙しているのであり,その解釈に当たっては,市の保有する情報はあくまでも公開が原則であるとすべきである。本件条例が,個人 民の情報公開請求権を重視して,具体的場面において公開が不相当なケースを限定列挙しているのであり,その解釈に当たっては,市の保有する情報はあくまでも公開が原則であるとすべきである。本件条例が,個人情報の非開示事由について,「個人が識別できる情報」という規定の仕方(個人情報識別型)を採用したのは,プライバシーの具体的な内容やその保護すべき範囲が一般的,客観的に定めることが困難であるという,主に技術的な理由に基づくものであるから,個人識別情報型を採用したことをもって,個人のプライバシー情報に該当しない情報であっても,個人を識別しうるものであれば,すべて非開示とするのは妥当ではない。 イ本件各文書の非開示部分(ア),(イ)及び(エ)は,いずれも土地に関する情報であるところ,これらは,土地登記簿が万人に公開されていることや,土地の価格についての手掛りとなる相続税路線価,公示価格等が公開されていることからみても,何らプライバシー性がない。仮に,プライバシー性があるとしても,当該情報の持つ公的性質がすこぶる強いものであって,本件条例6条2項が保護の対象とする典型的な個人情報と同列におくことはできないものである。また,上記各情報すべてについて,被告市に対する土地の譲渡ないし公社からの土地の買受けは,私人間の取引とは異なり,公有地の拡大に関する法律や租税特別措置法の規定にもあるとおり,極めて公的な性質を帯びた特殊な売買であるから,私人間の取引についての情報の場合と異なり,プライバシー保護の要請は一歩後退すべきである。上記各情報を非開示としてしまうと,公共事業における用地買収が適正になされたか否かを市民がチェックすることが不可能となることからも,公開の必要性が高い。 3 争点(3)について(被告市長)ア本件各文書の非開示部分(ウ),(エ),(オ)及 における用地買収が適正になされたか否かを市民がチェックすることが不可能となることからも,公開の必要性が高い。 3 争点(3)について(被告市長)ア本件各文書の非開示部分(ウ),(エ),(オ)及び(カ)の各情報を開示すれば,交渉当事者間の信頼関係,協力関係が損なわれ,また,価格(単価)が明らかになることにより,被告市の事務事業への支障が生ずるから,いずれも本件条例6条7号に該当する。 イ本件各文書の各非開示部分に係る情報は,交渉当事者である被告市と地権者との間以外には公表しないことを前提として用地買収の交渉が進められているものである。公共事業といえども,地権者にとって自己の所有地の売買は私的な経済行為であり,交渉当事者である被告市から一方的に個人の資産に関わる情報を開示することは,被告市に対して不信感を生じさせ,地権者の任意の協力と合意により成立する用地買収事務において最も重要な,相互の信頼関係,協力関係が築けなくなり,今後,被告市が行う用地買収交渉に対して,交渉拒否や非協力といった事態が起こることが多分に予想される。その結果,将来被告市が行う用地買収事務の円滑な執行に著しい支障が生ずることになる。現に,本件訴えの提起により,用地取得金額が一般に開示される可能性があることが報道されると同時に,被告市に対し,市民から苦情が殺到している。また,本件事業に伴う用地買収の継続中に既買収地である本件買収地の買収価格が明らかになると,未買収地の土地所有者が,相互の土地の相違を正しく認識せず,本件買収地の買収価格を前提として自己に有利な価格を算定し,それに固執し,円滑な買収に支障が生じるおそれがある。 ウ本件各文書の各非開示部分のうち,取得予定金額のような価格に相当する部分を公開すると,本件処分において開示されている土地の面積から単価が算出され れに固執し,円滑な買収に支障が生じるおそれがある。 ウ本件各文書の各非開示部分のうち,取得予定金額のような価格に相当する部分を公開すると,本件処分において開示されている土地の面積から単価が算出され,当該区域内の土地の地権者が,鑑定時期の違いや画地条件の違い等を正しく認識せずに,その時点での適正価格を提示したとしてもその価格(単価)に固執されてしまい,権利変換などの事業の重要な手続を進めるための交渉が難航,長期化して事業の円滑な執行に著しい支障が生ずる。 (原告)ア本件条例6条7号にいう「開示をすることにより,当該事務事業若しくは同種の事務事業の目的を損ない,又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの」か否かについては,実施機関の主観にかかわらず,当該「著しい支障が生ずる」可能性については,極めて高度の蓋然性が客観的に認められることが必要であるというべきである。 イ公共事業に協力して所有地を譲渡したこと自体は,買収が完了すれば事業の進捗等により外形上明らかとなる上,事後登記簿を閲覧すれば公共事業に協力したことは明確に記載されている。しかも,買収価格は客観的な時価額をもって算定されることから,事業に協力したことが外形上明らかとなれば,地権者が相当の対価を得たこともおのずと判明することになる。このような前提のもとでは,事業に協力したことを秘匿したいという地権者の期待は何ら合理的ではないことは明らかであるし,そのような期待に応えないことから事務事業に著しい支障が生ずるとはおよそいえない。 ウ土地の取得価格等は,本来相手方の意図にかかわらず,当該土地の客観的価値によって決定されるものであるし,公共事業における買収は,民間の取引とは異なり公的な性質を有している上,租税特別措置による優遇制度も用意されているこ 本来相手方の意図にかかわらず,当該土地の客観的価値によって決定されるものであるし,公共事業における買収は,民間の取引とは異なり公的な性質を有している上,租税特別措置による優遇制度も用意されていることから,買収の事実や買収価格等を秘匿したいという期待を仮に地権者が有しているとしても,そのような期待は保護に値するものではない。取得価格や譲渡価格の算定に当たって,当該土地の個別の要因によって価格の差異が生じることは当然であり,地権者がこのような個別要因の差異を無視して同一の価格条件に固執することがあったとしても,事業の遂行に当たっては土地収用法を適用するなど,別途の方策によって支障は解消しうる。 エ従前から本件と同種の情報の開示を行っている地方公共団体において,公開により以後の用地買収に支障を来すなどの弊害は生じていないとの報告がなされている。 4 争点(4)について(原告)本件で非開示とされたものと同種の情報について,被告市において全面的に公開された例があり,また,公共事業についての用地取得の金額については,他の自治体の事例で公開を命じる判決が相次いでおり,被告市の市長において,本件をこれらとことさら別異に取り扱う理由はなく,市長の本件処分は違法であり,原告は,これにより,知る権利ないし情報公開請求権を侵害された。また,市長は,本件異議申立て後9か月経っても,それに対する判断を行わなかった。 市長の処分は違法であり,その後の対応も,情報の開示を求める市民の権利を尊重せず,本件条例の趣旨を没却するものであり,このような市長には,上記権利侵害についての故意,少なくとも過失がある。 原告は,慰謝料相当額50万円を下らない精神的苦痛を受けるとともに,その取消しを求めるために本訴を提起せざるを得なくなり,30万円を下らない弁護士費用の出費 についての故意,少なくとも過失がある。 原告は,慰謝料相当額50万円を下らない精神的苦痛を受けるとともに,その取消しを求めるために本訴を提起せざるを得なくなり,30万円を下らない弁護士費用の出費を余儀なくされた。したがって,原告は,被告市に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,80万円を請求する。 (被告市)原告の主張を争う。被告市の市長のした本件各処分が違法でないことは,被告市長の主張のとおりである。 第4 争点に対する判断 1 争点1について(1) 前提事実,証拠(甲5,乙2,3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア本件各文書は,生駒市が都市計画決定を受けて行っているp線,q線,r線及びs線の道路拡幅事業用地の取得のため,平成10年度及び平成11年度に不動産鑑定士に作成させた不動産鑑定評価書6通であり,その日付及び番号は次のとおりである。 A 平成10年3月31日付け,鑑第98-42号(以下「鑑定書A」という。)B 平成10年7月20日付け,鑑第98ー96号(以下「鑑定書B」という。)C 平成11年3月31日付け,鑑第99-66号(以下「鑑定書C」という。)D 平成11年11月30日付け,鑑第99ー152号(以下「鑑定書D」という。)E 平成11年12月10日付け,鑑第99-156号(以下「鑑定書E」という。)F 平成12年3月10日付け,鑑第1990041号(以下「鑑定書F」という。)イ本件各文書(鑑定書AないしF,以下まとめて「本件各鑑定書」という。)には,全部で15か所の土地についての鑑定評価額及びその理由が記載されているところ,審査会の審査時において,鑑定書E記載の1番及び3番の各土地,並びに,鑑定書F記載の1番の土地の合計3か所については未買収であった。審査会は,原告が本件異議申 額及びその理由が記載されているところ,審査会の審査時において,鑑定書E記載の1番及び3番の各土地,並びに,鑑定書F記載の1番の土地の合計3か所については未買収であった。審査会は,原告が本件異議申立てにおいて本件処分の取消しを求めているのは買収が終わった用地についてのものである旨を表明していたため,本件処分において非開示とされた情報のうち,上記不動産鑑定評価書A,B,C及びDのうちの(エ),鑑定書E及びF中の(ア),(イ),(オ)の「鑑定評価の試算価格」及び(カ)と,鑑定書Eの2番,並びに,鑑定書Fの2番及び3番の各土地についての(ウ),(オ)の鑑定評価の総額及び単価(異議申立てを欠く部分)については,その対象としなかった。 (2) そこで,異議申立てを欠く部分の取消しを求める訴えが適法であるか否か,すなわち,本件各処分全体につき出訴期間の起算点が本件異議申立時といえるか否かについて検討する。 ア証拠(甲1ないし3,5,乙2,3)によれば,本件処分は,その内容からみて,原告が開示を求めた各文書を一体のものと捉えてなしたものではなく,可分的な記載内容毎に個別に非開示事由の存否を判断してなされたものであること,処分の名宛人である原告も,本件異議申立てや本件訴訟において,個々の可分的な記載内容毎に非開示事由の存否を問題にしていることが認められる。 イ上記認定事実からすると,本件処分は,一体のものではなく,個々の文書の可分的な記載内容毎になされた複数の開示ないし非開示の決定の集合体とみるべきである。そうすると,原告は,本件処分に対する異議申立ての対象となるべき個々の記載内容についての非開示決定のうち,一部についてのみ異議申立てをしたものというべきである。そうして,不服申立ての対象となる処分が複数あるといえる場合においては,その一部につき異議 となるべき個々の記載内容についての非開示決定のうち,一部についてのみ異議申立てをしたものというべきである。そうして,不服申立ての対象となる処分が複数あるといえる場合においては,その一部につき異議申立てをして,出訴期間の起算点が異議申立時になったとしても,その余の処分についてまで,当然に異議申立てを経たことにはならないというべきであるから,出訴期間の起算点についても影響を及ぼすものではないというべきである。原告の,本件異議申立てにより,本件各処分全体につき出訴期間の経過は中断している旨の主張は理由がない。 (3) そうすると,異議申立てを欠く部分については,行政事件訴訟法14条1項により,原告が本件処分があったことを知った日から3か月以内に取消しの訴えを提起しなければならなかったところ,その期間制限を徒過したことが明らかであるから,この部分の取消しを求める訴えは,出訴期間を徒過したものであって不適法である。 (4) また,証拠(甲5,乙2,3)及び弁論の全趣旨によれば,被告市長は,本件処分で非開示にした部分のうち,別紙既開示目録記載の各部分(以下「既開示部分」という。)については,原告の本件異議申立てを受けて,実施機関として開示を行ったものと認められる。よって,既開示部分については,本件処分の取消しを求める利益がなく,不適法である。 2 争点2について(1) 原告が本件処分について取消しを求める別紙非開示部分目録記載の各部分のうち,被告が本件条例6条2号本文に該当すると主張するのは,非開示部分(ア),(イ),(ウ)及び(エ)である。しかし,上記説示のとおり,非開示部分(ウ)及び(エ),鑑定書E及びFについては,さらに非開示部分(ア)及び(イ)の取消しを求める訴えは不適法である。したがって,以下,鑑定書AないしDの非開示部分(ア)及び( 説示のとおり,非開示部分(ウ)及び(エ),鑑定書E及びFについては,さらに非開示部分(ア)及び(イ)の取消しを求める訴えは不適法である。したがって,以下,鑑定書AないしDの非開示部分(ア)及び(イ)について,本件条例6条2号本文の該当性を判断する。 (2) 前記のとおり,本件条例6条2号本文は,個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,識別されうるものを非開示文書として規定している。これは,本件条例が,地方自治の本旨にのっとり,市民の公文書の開示を請求する権利の保障を明定するとともに,市民の市政への参加を促進するとともに,市の諸活動を市民に説明する責務が全うされるようにし,もって公正で開かれた市政を推進することを目的とし(1条),また,実施機関の責務として,本件条例の解釈・運用に当たっては,公文書の開示を請求する市民の権利を十分に尊重するものとするとしつつ,実施機関においては,個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならない(3条)と定めていることの具体的な表れであり,公文書であっても,個人情報が記載されているときは,その情報を非開示とすることにより,当該個人が不利益を受けないようにする趣旨のものであると解される。しかしながら,およそ個人に関する情報といえるものを,すべて非開示とすることになれば,上記本件条例の目的を没却してしまうことになるから,本件条例の目的達成のためには,個人情報の非開示については一定の制約があるといわなければならない。上記のとおり,本件条例3条が,個人に関する情報が「みだりに」公にされることのないようとの表現を用いているのも,本件条例6条2号がただし書きエで,個人に関する情報であっても,「法令等の規定により行われた許可,免許,届出その他これらに類する行為に際して実施機関が にされることのないようとの表現を用いているのも,本件条例6条2号がただし書きエで,個人に関する情報であっても,「法令等の規定により行われた許可,免許,届出その他これらに類する行為に際して実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示をすることが公益上必要であると認められるもの」については,非開示にできない旨定めているのも,個人に関する情報であると同時に,公的な性質を有する情報については,個人の権利利益の保護と上記行政情報の公開目的の達成とのバランスを考慮した結果であると解すべきである。したがって,本件条例6条2号は,個人の権利や利益の観点から保護に値しない個人情報まで,すべて非開示にすべきことを定めているのではなく,法的保護に値する個人に関する情報を開示してはならないことを定めているとみるべきである。したがって,同号の「個人に関する情報」とは,法的保護に値する個人に関する情報をいうものと解するのが相当である。前記第3 争点に関する当事者の主張の2のイにおける被告市長の主張は,以上の理由により,採用することができない。 以下,上記の見地から,非開示部分(ア)及び(イ)について,本件条例6条2号該当性を検討する。 (2) 非開示部分(ア)(標準画地の地番)について証拠(甲12の3,4)と弁論の全趣旨によれば,標準画地は,不動産鑑定士が,鑑定を請け負った事案毎に任意で選定した土地であると認められるところ,その土地の所有者が個人である場合,当該個人からみれば,その財産や所得に関する情報に該当するといえる。そして,その地番は,何人でも閲覧できる不動産登記簿と照合することにより,特定の個人が識別され得る情報であるといえる。しかし,これが個人の財産や所得に関する情報であるとしても,あくまでもその一部に関するものであって,当該個人の財産や所得の 産登記簿と照合することにより,特定の個人が識別され得る情報であるといえる。しかし,これが個人の財産や所得に関する情報であるとしても,あくまでもその一部に関するものであって,当該個人の財産や所得の全体を明らかにするものではない。また,これは,被告市が土地取得のため,不動産鑑定士に依頼して,その不動産鑑定士が調査等を行って作成した不動産鑑定評価書中の記載であって,取引当事者の主観や個別事情に影響されない客観性の高いものであることからすると,本件において,これらはいずれも個人のプライバシーとして保護する必要性の高い情報であるとまではいえない。 以上によれば,非開示部分(ア)は,本件条例6条2号本文に該当するとは認められない。 (3) 非開示部分(イ)(取引等事例の指摘図)について証拠(甲12の3,4)と弁論の全趣旨によれば,取引等事例の指摘図には,不動産鑑定士が,鑑定を請け負った事案毎に任意で抽出した一般の土地取引の事例が記載されているもので,実際に行われた民間の土地売買の取引事例の場所が円で囲まれる形で記載されていることが認められるところ,その土地の所有者が個人である場合,当該個人からみれば,その財産や所得に関する情報に該当する。また,前掲証拠によれば,取引等事例の指摘図には,本件処分において開示されている各事例の取引単価等の概要等が記載されていると認められるところ,開示されている各事例の概要や何人でも閲覧ができる不動産登記簿と照合することにより,具体的な場所の特定が可能となるから,当該取引事例に係る特定の個人が識別され得る情報であるといえる。しかし,上記(ア)と同様に,これが個人の財産や所得に関する情報であるとしても,あくまでも当該個人の財産等の一部に関するものであって,その財産や所得の全体を明らかにするものではない。また,これは る。しかし,上記(ア)と同様に,これが個人の財産や所得に関する情報であるとしても,あくまでも当該個人の財産等の一部に関するものであって,その財産や所得の全体を明らかにするものではない。また,これは,被告市長が当該土地取得のために,不動産鑑定士に作成を依頼し,その不動産鑑定士が調査等を行って作成した不動産鑑定評価書中の記載であって,取引当事者の主観や個別事情に影響されない客観性の高いものであり,本件において,これらはいずれも個人のプライバシーとして保護する必要性の高い情報であるとまではいえない。 以上によれば,非開示部分(イ)は,本件条例6条2号本文に該当するとは認められない。 3 争点3について(1) 原告が本件処分について取消しを求める別紙非開示部分目録記載の各部分のうち,被告市長が本件条例6条7号に該当すると主張するのは,非開示部分(ウ),(エ),(オ)及び(カ)である。しかし,上記説示のとおり,各文書の非開示部分(エ),鑑定書E及びFのうち,(オ)中の鑑定評価の試算価格,(カ)と鑑定書Eの番号1,3の土地,鑑定書Fの番号1の土地については,さらに(オ)中の鑑定評価の総額及び単価についての取消しを求める訴えは不適法である。したがって,以下,鑑定書AないしDの非開示部分(オ)及び(カ),鑑定書Eの番号2及び鑑定書Fの番号2,3の各土地の(オ)中の鑑定評価の総額及び単価について,本件条例6条7号の該当性を判断する。 (2) 上記各情報は,生駒市が行っている道路拡幅事業用地の取得に係る当該用地の不動産鑑定評価書中の記載であるから,いずれも本件条例7条前段に該当するが,同号後段において,非開示事由として,「開示をすることにより,当該事務事業若しくは同種の事務事業の目的を損ない,又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生 件条例7条前段に該当するが,同号後段において,非開示事由として,「開示をすることにより,当該事務事業若しくは同種の事務事業の目的を損ない,又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの」(以下これらの情報を「著しい支障が生ずるおそれのある情報」という。)と規定しているのは,生駒市の機関等の担当する行政事務や事業が円滑に遂行,推進されることを期するためであると解されるところ,前記の本件条例の趣旨・目的に照らすと,上記「著しい支障を及ぼすおそれのある情報」の存否については,事務,事業の主体である行政機関が自らの立場で主観的に判断したところに従うべきではなく,これが客観的,具体的に存在していることが必要であると解するのが相当である。そこで,この見地から,上記の各情報に関して,実施機関である被告市長が,これを公開したときに著しい支障が生ずるおそれがあるとした判断が,客観的かつ具体的な裏付けがあるものとして,是認できるかどうか検討すべきことになる。 (3) 実施機関である被告市長は,(a)用地買収事務担当者と対象地の所有者との間では,合意に至った取得価格等を秘密することを前提に交渉が行われており,この約束を一方的に破棄することにより,信頼関係が損なわれて,その後の事業に協力を得られなくなってくること,(b)本件各鑑定書が公開されることによって,実際の買収価格と鑑定評価額との間に乖離があることが判明した場合,土地所有者は生駒市に対して不信感を持ち,生駒市と土地所有者との間で築かれた信頼関係が損なわれることになること,及び,(c)用地買収を継続している事業の既買収地の各情報が公開されると,未買収地の所有者が自己所有地について公開された取得価格等と同程度以上の評価が得られると期待し,固執して,買収交渉が難航することから c)用地買収を継続している事業の既買収地の各情報が公開されると,未買収地の所有者が自己所有地について公開された取得価格等と同程度以上の評価が得られると期待し,固執して,買収交渉が難航することから,上記各情報が著しい支障を及ぼすおそれのある情報に該当すると主張する。 アそこでまず,(a)及び(b)の主張について検討する。 (ア) およそ公共用地の買収に先立って,自治体が買収対象不動産の価格について,専門家に鑑定評価の依頼をすることは公知の事実であり,さらに,不動産鑑定にはその性質上幅があり,唯一絶対の評価額というものはありえないのであるから,買収交渉の結果定まる買収価格(成約価格)と当該鑑定評価額とが完全に一致しないことも当然予想されるものである。本件各鑑定書の公開により,買収対象不動産の鑑定評価額が明らかになるからといって,生駒市と土地所有者との間の信頼関係が直ちに損なわれることになるとは直ちにいえないし,また,それだけで土地所有者が生駒市に対して不信感を持ち,未買収地の交渉に支障が生じるとまではいえない。 (イ) 用地買収は,通常の売買形式を取るにしても,客観的な価格をもって譲渡価格とすることが定められ,租税特別措置の優遇が受けられることなど,通常の私人間の売買とは異なり,定められた手続に従って行われるものであって,買収価格に譲渡人である土地所有者の主観的事情は反映されず,その価格自体公的な性質を帯びているのであるから,買収価格を第三者に知られたくないとの期待は,そのままの形では保護されるべき利益とはいえないから,買収事務担当者としては,土地所有者が後に買収価格が公開される可能性があることを理由として買収に難色を示したとしても,用地買収の公的性質を説明し,説得に努力すべきものであって,そのような説得の努力が必要になるからといって, 地所有者が後に買収価格が公開される可能性があることを理由として買収に難色を示したとしても,用地買収の公的性質を説明し,説得に努力すべきものであって,そのような説得の努力が必要になるからといって,これが公共事業の円滑な執行に当たっての著しい支障とまでは認めることはできない。 被告市長は,既買収の土地についての本件各鑑定書を公開することになれば,未買収地について,今後の買収交渉の相手方との取引価格も公開せざるを得ないこととなるから,取引価格を公開されることを恐れて自治体との用地買収交渉に応じない者が増加し,将来生駒市が行う用地買収を伴う同種の公共事業の円滑な執行に支障を生ずるおそれがあるとも主張し,実際に,被告市長は,原告の本件訴え等の提起が報道され,用地買収に係る情報が公開されるかもしれない旨報道がなされると,生駒市民から生駒市に対し,用地買収に係る土地の価格や交渉内容が明らかにされることに反対する旨の投書が寄せられ,実際の用地買収交渉にも支障を来したとも主張し,それに沿う証拠(乙6の1ないし6,乙7,8,証人a,同b)を提出するが,上記説示のとおりであって,また,土地買収の公的性格に鑑みると,買収価格を第三者に知られたくないとの地権者の期待は,法的保護に値するとはいえないから,結局,被告市長の上記主張は採用できない。 イ次に,(c)の主張について検討する。 (ア) 証拠(乙7,8,証人a,同b)及び弁論の全趣旨によれば,用地買収の交渉に当たっては,対象地の所有者が土地の買収,場合によっては交渉自体にも抵抗し,また,取得価格について近隣の取引事例などを引き合いに出してより有利な条件を要求することも多く,このような場合,買収事務担当者は,提示する取得価格が客観的な評価に基づく適正な取引価格であることをわかりやすく説明し,対象地の所有者 事例などを引き合いに出してより有利な条件を要求することも多く,このような場合,買収事務担当者は,提示する取得価格が客観的な評価に基づく適正な取引価格であることをわかりやすく説明し,対象地の所有者が援用する取引事例と当該土地との個別的要因の違いを指摘するなどして,対象地の所有者の同意を取り付けるよう根気強く交渉しなければならず,用地買収に困難を伴うことが認められる。 (イ) しかしながら,不動産鑑定士の鑑定評価に基づいて算出された買収対象不動産の買収価格は,それぞれの土地の形状,地形,道路等の公共施設との位置関係等の個別要因によってその価格に差異が生じるものであることからすれば,近隣地の買収価格が本件各鑑定書記載の土地(以下「本件買収地」という。)の買収価格と当然に同じ額になるというものではないし,本件買収地の買収価格が判明したからといって,本件買収地の買収価格から近隣地の買収価格が機械的に算出されるというものでもない。これらの点に鑑みれば,本件のように,一定の時点(本件文書は,平成11年度の先行取得に関する文書である。)における取得価格等の情報が公開されたとしても,これらの土地の近隣の土地について,将来,買収が行われることになるとしても,その時点で,前記のような客観的な取引価格の評価が行われるのであり,公開された情報が買収対象土地の評価の参考となるものでもなく,取得価格等を容易に推測させるものともいえない。また,近隣地の土地所有者が,当該土地と本件買収地との個別の差異を無視し,当該土地の買収価格について本件買収地の買収価格と同額であるべきであると主張したとしても,それは合理性のある主張とはいえないから,買収事務担当者にとって,このような合理性のない対応をする土地所有者と交渉する場合,既買収地の買収価格を知られていない方が交渉を進めや ると主張したとしても,それは合理性のある主張とはいえないから,買収事務担当者にとって,このような合理性のない対応をする土地所有者と交渉する場合,既買収地の買収価格を知られていない方が交渉を進めやすいことは容易に推認できるけれども,これは既買収地の買収価格を知られることにより説明すべき事柄が増えるということであって,既買収地の買収価格を知られることにより交渉が不成功に終わるということではないというべきである。 他方,土地所有者にとっては,近隣地の買収価格を全く知らされないより,近隣地の買収価格を知り,近隣地と当該土地との相違点を認識する方が,当該土地についての買収申し出について真剣に検討することができるから,既買収地の買収価格を近隣の土地所有者に知られることが必ずしも円滑な買収に支障を来すとはいえず,むしろ,円滑な買収に資する場合もあると考えられる。実際,証拠(甲4の1ないし5)によれば,公有土地の所在地や取得価格について開示している他の地方公共団体において,公開以後の用地買収に支障を来すなどの弊害は生じていないことが認められる。そうして,地方公共団体の事業用地の買収交渉において,買収価格についての駆け引きは許されておらず,適正な価格で買収に応じてもらえるように土地所有者を説得することが買収事務担当者の責務であることからすると,交渉に当たり,必要な情報は開示し,必要な説明をすることが要求されるというべきである。しかも,本件は既買収地についての鑑定書の公開が求められている事案であるから,本件各鑑定書を公開することによる直接の弊害はほとんどないといえる。 (ウ) 被告市長は,既買収地についても鑑定書が公開されるようになれば,その結果,交渉が不当に長引き,用地買収事業の円滑な執行に著しい支障を生じるおそれがあると主張するが,上記のとおり,不動産 る。 (ウ) 被告市長は,既買収地についても鑑定書が公開されるようになれば,その結果,交渉が不当に長引き,用地買収事業の円滑な執行に著しい支障を生じるおそれがあると主張するが,上記のとおり,不動産評価は,その性質上幅があって,唯一絶対のものではないから,鑑定人によって差がありうるし,土地所有者は,不動産の価格に関して私的,公的を問わず様々な情報を有しており,土地所有者において,より多くの情報に基づいて,行政側との買収交渉に臨みたいと考えるのは当然である。不動産の評価額に対する市民の関心が高く,不動産評価に関する情報が入手しやすくなっている現状においては,行政側からの情報の開示によって,場合によっては,ある程度交渉が長引くことになるとしても,市民一般の理解が得られるものと考えられ,それだけで用地買収交渉という事業の「公正若しくは円滑な執行」に著しい支障が生じると解するのは相当ではない。 (エ) 以上によれば,本件各鑑定書の開示により近隣の土地所有者との買収交渉において説明すべき事柄や説得に要する労力等が増えるとしても,そのことをもって本件事業の執行に当たっての著しい支障と認めることはできないというべきであり,被告市長の上記主張も採用できない。 (4) 以上のとおりであるから,鑑定書AないしDの非開示部分(オ)及び(カ),鑑定書Eの番号2及び鑑定書Fの番号2,3の各土地の(オ)中の鑑定評価の総額及び単価が,著しい支障を及ぼすおそれのある情報であることについての,客観的,具体的な裏付けとなる事実が存在するとまでは認められないから,これらの情報は,いずれも本件条例6条7号にも該当しないというべきである。 4 争点4について以上1ないし3の認定判断からすると,被告市の市長による本件処分のうち,別紙取消部分目録記載の各部分については,いずれも本件 れも本件条例6条7号にも該当しないというべきである。 4 争点4について以上1ないし3の認定判断からすると,被告市の市長による本件処分のうち,別紙取消部分目録記載の各部分については,いずれも本件条例6条各号に定める非開示事由に該当するものとは認められず,これらの部分を非開示とした市長の処分は違法である。 しかし,証拠(甲7,8,10,11,乙5,11,13,14)によれば,上記各部分の非開示事由該当性に関しては,解釈上の争いがあるところであり,同種の情報公開条例を有する地方公共団体における同種の情報開示請求についても,公開するという取扱いが一般に確立しているわけではなく,現に,実務の取扱いも,事案によって分かれていることが認められる。したがって,市長が本件条例の実施機関として,別紙取消部分目録記載の各部分が,本件条例の定める非開示事由に該当すると判断して,本件処分を行ったことについて,故意又は過失があったと認めることはできない。 原告の主張するとおり,市長が,同種の事例で不動産鑑定評価書を全面的に開示していることが認められるが,そのことによっても上記結論は左右されない。また,別紙取消部分目録記載の各部分以外の別紙非開示部分目録記載の各部分についても,非開示事由該当性に関して解釈上の争いがあるのは同様であるから,やはり,市長に故意又は過失があったと認めることはできない。 さらに,原告が本件訴えを提起した時点では,本件異議申立てから約9か月経過していたにもかかわらず,市長がそれに対する決定をしていなかったことが認められるけれども,証拠(乙1,2)によれば,市長は審査会に対し,原告の異議申立てから2日後に諮問を行っており,審査会の答申は,平成13年4月27日になされていることからすれば,市長の本件異議申立てに対する決定が不当に遅延して ,2)によれば,市長は審査会に対し,原告の異議申立てから2日後に諮問を行っており,審査会の答申は,平成13年4月27日になされていることからすれば,市長の本件異議申立てに対する決定が不当に遅延していたとは認められず,この点についても市長に故意又は過失があったと認めることはできない。 よって,原告の被告市に対する損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 第5 結論以上によれば,原告の被告市長に対する訴えについては,本件処分のうち,別紙却下部分目録記載の各部分を非開示とした部分の取消しを求める部分は不適法であるから,これを却下し,その余は理由があるからこれを認容し,原告の被告市に対する請求は,理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所第2民事部裁判長裁判官宮城雅之裁判官島川勝裁判官谷口真紀(別紙)開示請求文書目録平成10年度及び平成11年度土地買収事務に係る不動産鑑定評価書非開示部分目録開示請求文書目録記載の各文書中の(ア) 標準画地の地番(イ) 取引等事例の指摘図(ウ) 鑑定評価対象地の所有者の氏名(エ) 未買収の対象地の地番,写真,所在図,地籍図その他所在が分かる数値,文言等(オ) 鑑定評価の総額,単価及び試算価格(カ) 標準画地の価格取消部分目録平成10年度及び平成11年度土地買収事務に係る不動産鑑定評価書のうち,A 平成10年3月31日付け,鑑第98-42号B 平成10年7月20日付け,鑑第98-96号C 平成11年3月31日付け,鑑第99-66号D 平成11年11月30日付け鑑第99-152号についての(ア) 標準画地の地番(イ) 取引等事例の指摘図(オ) 鑑定評価の総額,単価及び試算価格(カ) 標準画地の価格E 平成11年12月1 平成11年11月30日付け鑑第99-152号についての(ア) 標準画地の地番(イ) 取引等事例の指摘図(オ) 鑑定評価の総額,単価及び試算価格(カ) 標準画地の価格E 平成11年12月10日付け,鑑第99-156号(番号1,3の土地を除く)F 平成12年3月10日付け鑑第1990041号(番号1の土地を除く)の各鑑定評価書についての(ア) 標準画地の地番(イ) 取引等事例の指摘図(オ) 鑑定評価の総額,単価及び試算価格(カ) 標準画地の価格却下部分目録 1 平成10年度及び平成11年度土地買収事務に係る不動産鑑定評価書のうち,A 平成10年3月31日付け鑑第98-42号B 平成10年7月20日付け鑑第98-96号C 平成11年3月31日付け鑑第99-66号D 平成11年11月30日付け鑑第99-152号E 平成11年12月10日付け,鑑第99-156号(番号2のみ)F 平成12年3月10日付け鑑第1990041号(番号2,3)についての(ウ) 鑑定対象地の所有者の氏名(エ) 未買収の対象地の地番,写真,所在地,地籍図その他所在が分かる数値,文言等 2 平成10年度及び平成11年度土地買収事務に係る不動産鑑定評価書のうち,E 平成11年12月10日付け鑑第99-156号F 平成12年3月10日付け鑑第1990041号の各鑑定評価書についての(ア) 標準画地の地番(イ) 取引等事例の指摘(オ) 鑑定評価の総額,単価及び試算価格のうちの,鑑定評価の試算価格(カ) 標準画地の価格E 平成11年12月10日付け鑑第99-156号(番号1,3)及びF 平成12年3月10日付け鑑第1990041号(番号1のみ)について,さらに,(ウ) 鑑定対象地の所有者の氏名(オ) 鑑定評価の総額,単価及び試算価格のうちの,鑑定評価 56号(番号1,3)及びF 平成12年3月10日付け鑑第1990041号(番号1のみ)について,さらに,(ウ) 鑑定対象地の所有者の氏名(オ) 鑑定評価の総額,単価及び試算価格のうちの,鑑定評価の総額及び単価不服申立てを欠く部分目録 1 平成10年度及び平成11年度土地買収事務に係る不動産鑑定評価書のうち,各鑑定評価書についての(エ) 未買収の対象地の地番,写真,所在地,地籍図その他所在が分かる数値,文言等 2 平成10年度及び平成11年度土地買収事務に係る不動産鑑定評価書のうち,E 平成11年12月10日付け鑑第99-156号F 平成12年3月10日付け鑑第1990041号の各鑑定評価書についての(ア) 標準画地の地番(イ) 取引等事例の指摘(オ) 鑑定評価の総額,単価及び試算価格のうちの,鑑定評価の試算価格(カ) 標準画地の価格E 平成11年12月10日付け鑑第99-156号(番号1,3)及びF 平成12年3月10日付け鑑第1990041号(番号1のみ)について,さらに,(ウ) 鑑定対象地の所有者の氏名(オ) 鑑定評価の総額,単価及び試算価格のうちの,鑑定評価の総額及び単価既開示部分目録平成10年度及び平成11年度土地買収事務に係る不動産鑑定評価書のうち,A 平成10年3月31日付け鑑第98-42号B 平成10年7月20日付け、鑑第98-96号C 平成11年3月31日付け鑑第99-66号D 平成11年11月30日付け鑑第99-152号E 平成11年12月10日付け,鑑第99-156号(番号2のみ)F 平成12年3月10日付け鑑第1990041号(番号2,3)についての(ウ) 鑑定対象地の所有者の氏名 け鑑第1990041号(番号2,3)についての(ウ) 鑑定対象地の所有者の氏名
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