令和2(ワ)494 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年2月27日 大阪地方裁判所
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判決文本文31,412 文字)

主文 1 被告らは、原告Bに対し、連帯して、1829万5704円及びうち1463万5704円に対する平成30年7月28日から、うち366万円に対する平成30年2月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告Cに対し、連帯して、1829万5704円及びうち146 3万5704円に対する平成30年7月28日から、うち366万円に対する平成30年2月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告Dに対し、連帯して、110万円及びこれに対する平成30年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。 6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、原告Bに対し、連帯して、2982万8765円及びうち2412万8765円に対する平成30年7月28日から、うち570万円に対する平成30年2月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告Cに対し、連帯して、2982万8765円及びうち2412万8765円に対する平成30年7月28日から、うち570万円に対する 平成30年2月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告Dに対し、連帯して、165万円及びこれに対する平成30年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、被告会社の従業員である被告Eが被告会社の業務の執行中に運転し ていた小型特殊自動車が、歩行中のAに 年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、被告会社の従業員である被告Eが被告会社の業務の執行中に運転し ていた小型特殊自動車が、歩行中のAに衝突し、Aが死亡した交通事故(以下「本件事故」という。)につき、原告らが、被告Eに対しては民法709条に基づき、被告会社に対しては民法715条に基づき、次の金員の連帯支払を求めた事案である。 ⑴ 原告B及び原告Cが相続したAの人的損害に係る請求 Aは、本件事故により4825万7530円の損害を被ったところ、Aの父である原告B及びAの母である原告Cが2分の1ずつの割合で相続したことによる各2412万8765円の損害賠償金及びこれに対する平成30年7月28日(自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)からの保険金の支払日の翌日)から各支払済みまで平成29年法律第44号による 改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による各遅延損害金⑵ 原告ら固有の慰謝料及び弁護士費用に係る請求原告B、原告C及びAの兄である原告Dは、本件事故により精神的苦痛を被ったところ、原告B及び原告Cにつき慰謝料300万円及び弁護士費用2 70万円(前記⑴の請求に関するものを含む。)、原告Dにつき慰謝料150万円及び弁護士費用15万円及びこれらに対する平成30年2月1日(不法行為の日)から各支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による各遅延損害金 2 前提事実 以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる。 ⑴ 本件事故の発生及び被告らの責任に関する事実(争いがない。)ア日時平成30年2月1日午後3時53分頃イ場所大阪市a区b丁目c番d号先路上 び弁論の全趣旨により容易に認定できる。 ⑴ 本件事故の発生及び被告らの責任に関する事実(争いがない。)ア日時平成30年2月1日午後3時53分頃イ場所大阪市a区b丁目c番d号先路上(以下「本件現場」という。) ウ事故態様 被告Eは、小型特殊自動車(ホイールローダー。以下「被告車」という。)を運転中、てんかんの発作により意識喪失の状態に陥り、被告車両を歩道に向けて暴走させ、歩道上に立っていたAに被告車を衝突させた。 エ被告らの責任に関する事実被告Eは、てんかんの影響により自動車運転中に発作で意識障害に陥る おそれのある状態であったのであるから、自動車の運転を差し控えるべき注意義務があるにも関わらずこれを怠って運転を開始した過失があった。 また、被告Eは、本件事故当時、被告会社の従業員であり、その業務の執行として被告車を運転していた。 ⑵ 本件事故当時のAの状況 Aは、平成▲年▲月▲日生まれ(本件事故当時11歳)の女性で、先天性の両側感音性難聴があり、本件事故当時、F聴覚支援学校(以下「本件支援学校」という。)の小学部(5年)に通学していた(争いがない。)。Aは、本件事故の際、本件支援学校からの下校中であり、本件支援学校の教諭2名や他の児童2名と共に本件事故に遭遇した(甲1、2)。 ⑶ Aの死亡及び相続等ア Aは、本件事故により脳挫傷、脳幹損傷等の傷害を負い、大阪赤十字病院の救命救急センター(以下、単に「大阪赤十字病院」という。)に救急搬送され、入院治療を受けたが、本件事故当日である平成30年2月1日に死亡した(甲1、2)。 イ原告B(昭和▲年生まれ)はAの父であり、原告C(昭和▲年生まれ)はAの母であり、原告D(平成▲年生まれ)はAの が、本件事故当日である平成30年2月1日に死亡した(甲1、2)。 イ原告B(昭和▲年生まれ)はAの父であり、原告C(昭和▲年生まれ)はAの母であり、原告D(平成▲年生まれ)はAの兄である(甲4)。Aを被相続人とする相続について、原告B及び原告Cの法定相続分は、各2分の1である。 3 争点及び争点に関する当事者の主張 ⑴ 本件事故により生じたAの損害 (原告らの主張)ア入院費用 43万2313円本件事故により受傷したAは、大阪赤十字病院に搬送され、治療を受けた(入院期間1日)。 イ付添費用 1万8000円 原告らは、本件事故発生直後に、大阪赤十字病院から、Aの心臓が止まりそうである旨の電話連絡を受け、原告Bは仕事を早退し、原告Cは家事労働を中断し、原告Dとともに同病院に駆け付けた。原告らが病院に到着した際には、医師がAに対して心臓マッサージを行っており、同日午後5時40分頃に原告らの前で医師がAの死亡確認を行ったのであるから、入 院付添費用が認められるべきである。 なお、死亡診断書にはAの死亡時刻が同日午後3時53分頃と記載されているが、これは、死亡確認が行われた後、解剖を実施した結果、事後的に判断されたものにすぎない。また、原告らは、病院に駆け付けた際の交通費も負担した。 ウ死亡診断書作成費用 5400円エ死体検案料等 4万3200円オ葬儀関連費用 524万7636円被告会社は、本件事故直後、原告らに対し、葬儀費用や仏事に関連する費用一切を負担する旨述べていたこと、本件事 3200円オ葬儀関連費用 524万7636円被告会社は、本件事故直後、原告らに対し、葬儀費用や仏事に関連する費用一切を負担する旨述べていたこと、本件事故は、てんかん発作歴を隠 して運転免許の更新を行っていた被告Eが、被告車を運転し、てんかんの発作により意識を喪失して歩道上で信号待ちをしていただけの何らの落ち度もないAを死亡させるという極めて重大な結果をもたらした事故であること、本件事故は各種メディアにおいて大きく報道されるなど社会的耳目を集めた事故であり、葬儀への参列を希望する者が多く、葬儀規模を 大きくせざるを得なかったこと、原告Bと原告Cが最愛の娘のために、で きる限りの葬儀を執り行いたいと願うことは親として至極当然のことであることからすれば、葬儀費用全額が本件事故による損害として認められなければならない。 カ仏壇等購入費用 49万2660円キ逸失利益 3530万9155円 基礎収入年少者の逸失利益については、賃金センサスの産業計・企業規模計・男女計・学歴計・全年齢平均賃金(以下「全労働者平均賃金」ということがある。)を基礎収入として算定する実務が定着しているところ、本件事故当時11歳で亡くなったAは、感音性難聴を有していたとしても、 後記aのとおり、他の年少者と同様に様々な可能性を有していたといえ、後記bのとおり、障害者を取り巻く環境も改善しているから、Aの基礎収入については、賃金センサス平成30年の全労働者平均賃金497万2000円とするのが相当である。 この点に関し、損害賠償訴訟における年少女子の逸失利益について、 実際には男女の平均賃金の差が依然として生じているにも ス平成30年の全労働者平均賃金497万2000円とするのが相当である。 この点に関し、損害賠償訴訟における年少女子の逸失利益について、 実際には男女の平均賃金の差が依然として生じているにもかかわらず、全労働者平均賃金を基礎収入とする実務が定着していることからすれば、聴覚障害者と障害がない者との平均賃金に現時点で差があるとしても、年少者の逸失利益の算定に当たっては、全労働者平均賃金を基礎収入とすべきであるし、Aの年収が同額を多少下回るとしても、Aが障害基礎 年金(1級の場合は年額97万1700円以上)を受給していた可能性が高いことを考慮すれば 、497万2000円を基礎収入とすべきである。 aAの能力及び将来の可能性Aは、0歳から難聴を前提とした早期教育を受け、3歳からは本 件支援学校の早期教育を受け、同学校の幼稚部を経て、本件事故当 時は本件支援学校の小学部に在籍していた。 Aは、本件支援学校において平均的な学業成績を修めており、年齢相応の読み書き、計算の能力を習得できていた。Aは、思考力、言語力、学力において他の児童にも劣っておらず、本件支援学校の中学部卒業後、公私立の高等学校又はG聴覚高等支援学校に進学す る予定であったし、高等学校又は聴覚高等支援学校を卒業した後は、大学進学又は民間企業等への就職することが見込まれた。 ⒝ Aの補聴器を装着した状態の聴力は22.5デシベル(以下「db」と表記する。)であり、選択肢がある条件下では三音節単語が約7割識別できており、街中等の雑音が多い場所でない限り、会話可 能であった。また、Aは、手話が使用できるだけでなく、口頭での発音も明瞭であり、手話を用いない人とも口話でコミュニケーションをとることができていた。 ⒞ 被告らは、聴覚障害者の平 、会話可 能であった。また、Aは、手話が使用できるだけでなく、口頭での発音も明瞭であり、手話を用いない人とも口話でコミュニケーションをとることができていた。 ⒞ 被告らは、聴覚障害者の平均賃金を基礎収入とすべきと主張するが、当該統計には読み書きが不得手な聴覚・言語障害者も含まれて おり、十分な読み書き能力を身に付けていたAの逸失利益の算定の根拠とするのは相当でない。 また、被告らは、Aの基礎収入について全労働者平均賃金を用いるべきでない理由として自賠責保険や労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)における聴力障害に関する労働能力喪失率に言及 するが、同表は効率的な行政手続のため、かつ、労働災害や交通事故により障害を負った被害者の救済のために設けられたもので、科学的な調査結果から導き出されたものでもないから、本件で考慮されるべきではない。その上、先天的に障害を持って生まれた者は、Aがそうであったように、その障害を所与のものとして様々な能力 を身に付けていくのであるから、事故で障害を負い、突然一定の能 力が制限されるに至った者と同じ尺度で労働能力を測ることはできない。 b 社会の変化(障害者法制の整備、テクノロジーの発展等)⒜ 障害者法制の整備我が国は平成19年に障害者権利条約に署名した後、平成26年 1月にこれを批准したが、批准の前後を通じ、障害者基本法及び障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)の改正が行われたほか、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」という。)等の法律が整備された。これらの法律においては、障害者が日常生活等において受け る制限は、本人が有する心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社 る法律(以下「障害者差別解消法」という。)等の法律が整備された。これらの法律においては、障害者が日常生活等において受け る制限は、本人が有する心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生じるものであるという前記条約が基礎とする考え方を踏まえ、それ以前の心身の障害に起因するものであるという考え方を転換し、社会的障壁の除去による障害の解消を目指すことになった。そして、平成28 年の障害者差別解消法の施行により、社会的障壁の除去が一部義務化され、令和3年には民間事業者に対しても合理的配慮の提供が法的義務とされた。 ⒝ 就学・学習環境の改善被告らは、いわゆる「9歳の壁」問題が存在する旨主張するが、 同問題は聴覚障害児に固有のものではなく、平成12年以降の学校現場では、手話導入年齢が乳幼児期に引き下げられた結果、聴覚障害児が「9歳の壁」にぶつからなくなっているとされている。 また、ろう学校高等部卒業生の大学進学率は平成26年以降に有意に向上しており、各大学では聴覚障害を持つ学生のための支援体 制が整備されている。 ⒞ 就労環境の改善UDトークなどの音声を認識して文字情報に変換するアプリケーションが登場、発展し、MicrosoftTeamsなどのウェブ会議アプリケーションに会話内容を自動で字幕化する機能が搭載されるなど、近年のテクノロジーの発展により聴覚障害者の就労 環境は大きく改善された。前記⒜のとおりの法制度の整備とテクノロジーの発展により、今後もさらに環境は改善していくことが考えられる。 なお、被告らは聴覚障害者の平均賃金を基礎収入とすべきと主張するが、これまでの聴覚障害者は不当な社会的障壁により劣悪な就 労環境に置かれていたこ さらに環境は改善していくことが考えられる。 なお、被告らは聴覚障害者の平均賃金を基礎収入とすべきと主張するが、これまでの聴覚障害者は不当な社会的障壁により劣悪な就 労環境に置かれていたこと、テクノロジーの進化はごく最近の事情であることから、統計は劣悪な就労環境下での聴覚障害者の平均賃金を反映しており、将来の賃金の予測に用いるのには不相当である。 生活費控除率基礎収入を前記のとおりとする場合、生活費控除率は45%とする のが相当である。 仮に、基礎収入が497万2000円以下とされる場合、Aは身体障害者手帳の交付を受けた者が様々な福祉制度、医療費助成制度を利用でき、同手帳の交付を受けていない者と比べて支出を減らすことができたであろうことを考慮し、生活費控除率は40%とすべきである。 就労可能年数49年計算式497万2000円[基礎収入]×(1-0.45[生活費控除率])×12.912[就労可能年数49年に対応するライプニッツ係数] ク死亡慰謝料 3500万0000円 Aはわずか11歳で、突然、何らの落ち度なく命を奪われたもので、その無念は察するに余りあり、本件事故が、被告Eがてんかんの発作歴を隠して運転免許の更新を行った上で被告車を運転し、てんかん発作により意識を喪失したことにより惹き起こされたという極めて重大なものであることに鑑みれば、慰謝料は3500万円を下らない。 ケ既払金(被告会社支払) -600万0000円被告会社は原告らに対し、平成30年2月2日に500万円、同月4日に100万円を支払った。 なお、原告らと被告会社との間には、被告会社が支払った計600万円は葬儀関連費用等に充当する(費目拘束 被告会社は原告らに対し、平成30年2月2日に500万円、同月4日に100万円を支払った。 なお、原告らと被告会社との間には、被告会社が支払った計600万円は葬儀関連費用等に充当する(費目拘束)合意があった。すなわち、原告 らは、本件事故後、a警察署を介して、被告会社に対して「葬儀費用等について100万円ほど不足している。」、「追加で振り込んでほしい。」旨要望し、被告会社は「追加分も振込する。」と回答した。また、原告らは、その後、同警察署を介し、被告会社に対して「四十九日法要までの費用等について、I社長に連絡する。」旨伝えたところ、被告会社は、「費用等につ いては、連絡を待って話し合う。」と回答した。このような経緯からすれば、被告会社は、同月4日に支払われた100万円のみならず、同月2日に支払われた500万円も含めて、合計600万円全額を葬儀関連費用(前記オ)に充当する目的で支払ったことが明らかである。 コアからケの合計 7054万8364円 サ自賠責保険金支払時までの確定遅延損害金 171万0556円自賠責保険金2400万1390円が平成30年7月27日に支払われた。同日までの確定遅延損害金は171万0556円(計算式:7054万8364円×0.05×177日÷365日)である。 シコ及びサの合計 7225万8920円 ス既払金(自賠責保険金) -2400万1390円 セシ及びスの合計 4825万7530円(被告らの主張)ア入院費用について知らない。 イ付添費用について 否認する。Aは救急搬送時死亡していたから、近親者が看護のために付き添う必要があったということはで 7530円(被告らの主張)ア入院費用について知らない。 イ付添費用について 否認する。Aは救急搬送時死亡していたから、近親者が看護のために付き添う必要があったということはできない。 ウ死亡診断書発行費用について知らない。 エ死体検案料等について 知らない。 オ葬儀関連費用について否認する。葬儀は被害者及び遺族の社会的地位等によって異なる規模や方法で行われるが、その格差を全面的に認めるのが相当とはいい難いから、現実の支出が150万円を上回る場合でも、同額を限度として認めるべき である。 カ仏壇等購入費用について否認する。葬儀関連費用と併せて150万円が相当である。 キ逸失利益について否認する。 基礎収入についてAの死亡逸失利益に係る基礎収入は、後記aないしcの点からすれば、平成30年の聴覚障害者(男女計)の平均賃金294万0700円とするのが相当である。 なお、原告らは、障害基礎年金を考慮すべきとも主張するが、Aは、 本件事故当時、障害基礎年金を受給する資格はなく、受給していなかっ た。また、Aは、本件事故当時11歳で、国民健康保険料を一切納付しておらず、障害基礎年金について保険料納付との対価性も認められない。 基礎収入において障害基礎年金の受給の可能性を考慮できるのであれば、年金未受給者の年金逸失利益を認めるに等しく、原告らの主張は相当でない。 a 既存障害を考慮すべきこと損害賠償実務においては、被害者に既存障害がある場合、その障害が労働能力に影響する程度に応じて、事故による当該被害者の逸失利益の基礎収入を減じたり労働能力喪失率を考慮したりするのが一般的である。労働能力に関わる逸失利益の算定において、労働能力に影響 が労働能力に影響する程度に応じて、事故による当該被害者の逸失利益の基礎収入を減じたり労働能力喪失率を考慮したりするのが一般的である。労働能力に関わる逸失利益の算定において、労働能力に影響 する既存障害を斟酌することは、蓋然性ある損害の算定の問題であり、障害者に対する差別的取扱いを意味しない。 Aは、本件事故当時、身体障害者等級は3級であったが、本件事故前の最後の診察時(平成29年11月13日)の聴力は右100db、左93.75dbであり、2級に近いレベルと評価できる。これを自 賠責保険の後遺障害等級でみると、4級相当であり、知力の問題を別として、純粋な聴覚能力について92%の労働能力喪失と評価される。 これは聴力障害により就労上コミュニケーションに支障が生じることを前提としているところ、重度の両側感音性難聴に対する補聴器の効果には限界があるし、原告らが主張するような制度変更やテクノロジ ーの進歩は、将来の不確定要素であり、それがどの程度労働能力に影響を与えるかは不明である。 したがって、基礎収入の認定に当たっては、Aに一般には労働能力喪失率92%と評価される既存障害があったことを斟酌すべきである。 b 聴覚障害者の平均賃金に関する統計数値を用いるべきこと 損害賠償制度は、損害の公平な分担を趣旨とすること、年少者が将 来どのような職業に就き、どの程度の収入を得られるのかの予測には困難が伴うことからすれば、年少者については、国の統計数値である全年齢平均賃金(死亡年のもの)を用いるのが合理的である。 聴覚障害者の平均賃金についてみると、平成20年から平成30年の10年間、ほぼ横ばいで推移しており、聴覚障害者の賃金水準が是 正されていることはうかがわれないから、本件では、Aの死亡年である平成3 障害者の平均賃金についてみると、平成20年から平成30年の10年間、ほぼ横ばいで推移しており、聴覚障害者の賃金水準が是 正されていることはうかがわれないから、本件では、Aの死亡年である平成30年の聴覚障害者の平均賃金を用いるべきである。 c 聴覚障害者の進学と就労には困難が伴うこと聴覚障害児童の高校卒業時点での思考力や言語力、学力は小学校中学年水準に留まるという現象が指摘されることがあり、聴覚障害児童 は、障害がない児童に比べて、大学等に進学できる学力を獲得することが困難である。仮に大学等に進学できたとしても、十分な情報保障や周囲の理解が得られず、高等教育の学習に支障が生じることが少なくない。 また、聴覚障害者については、就労を希望していながら雇用されて いない者が多くいる。聴覚障害者が就労できたとしても、非正規雇用となる割合が多いほか、職場でのコミュニケーションに問題があるなどの理由で複数回にわたり転職を繰り返したり、昇進の機会が得られなかったりすることも多く、勤労収入は他の身体障害者と比較しても低い状態にある。このような聴覚障害者の就労状況や収入の実態が大 幅に好転しているという証拠はなく、また職場において手話により業務に必要なコミュニケーションをとることのできる者は少なく、聴覚障害者に対する教育法が変わったからといって、聴覚障害者の就労や収入の実態が好転するとは考え難い。 生活費控除率について Aは身体障害があるがゆえに、健常者より余分に支出しなければなら ない生活費があるし、本件事故当時11歳で、将来、原告らが主張するような福祉サービス等を受けるかも不透明であるから、福祉サービス等を受ける可能性を考慮して生活費控除率を通常より低く抑えるべきでない。 また、基礎収入が少額 故当時11歳で、将来、原告らが主張するような福祉サービス等を受けるかも不透明であるから、福祉サービス等を受ける可能性を考慮して生活費控除率を通常より低く抑えるべきでない。 また、基礎収入が少額になるほど、その多くが生活費に費消されるこ とになるのであるから、基礎収入が低く認定される場合は生活費控除率を低くすべきという主張は容れられない。 ク死亡慰謝料について否認する。Aは独身女性であるから、死亡慰謝料と原告ら固有の慰謝料の合計を2400万円とするのが相当である。 ケ既払金(被告会社支払)について被告会社が原告らに対して合計600万円を支払ったことは認める。 ただし、600万円は損害賠償金の内払である。原告らの葬儀費用の求めに応じて、そのタイミングで内払をしたに過ぎない。示談交渉の段階で保険会社が医療機関に治療費を直接支払ったり、休業損害を被害者に支払 ったりするが、これについて費目拘束があるとは考えられてはいないことと同様、被告会社による600万円の支払について、そのような費目拘束の合意があったとはいえない。 コ自賠責保険金支払時までの確定遅延損害金について争う。 サ既払金(自賠責保険金)について認める。 ⑵ 本件事故により生じた原告ら固有の損害(原告らの主張)ア原告B及び原告Cは、Aの死亡により、それぞれ、以下の損害を被った。 慰謝料 300万0000円 aAは、原告Bと原告Cが不妊治療に通い、苦労して授かった子であった。原告B及び原告Cは、聴力障害があってもAの将来の可能性が開かれることを願い、Aの学習の機会を作り、A自身も必死になって学習に取り組んできた。Aとともに過ごす幸せな生活は、被告らによっ であった。原告B及び原告Cは、聴力障害があってもAの将来の可能性が開かれることを願い、Aの学習の機会を作り、A自身も必死になって学習に取り組んできた。Aとともに過ごす幸せな生活は、被告らによって一瞬にして奪われ、原告らは、深い悲しみ、苦しみ、絶望を味わ うことになった。 原告Bは、最愛の娘を失ったことにより、今なお精神的に苦しみ、心療内科への通院及び睡眠薬や抗うつ薬の服用が続いており、元の職場も退職した。また、原告Cは、娘を助けられなかった自分を責め続けており、自らも心に大きな傷を抱える中、家族を支えるために自分 が倒れるわけにはいかないと考え無理を重ねている。 b 被告Eは、てんかんの発作歴を隠して運転免許の更新を行い、被告車を運転し本件事故を発生させたもので、本件事故は極めて悪質である。その上、被告Eは、刑事裁判において不合理な弁解に終始した上、保釈中に謝罪の申入れすらしないなど、事故後の対応も極めて不誠実 であった。 また、被告会社は、被告Eのてんかん発作による事故歴を認識していたにもかかわらず、被告Eの運転行為を黙認し、本件事故を発生させた上、会社役員らの都合を優先させ、本件事故から約1年以上経過してから、原告らに対する謝罪の申入れを行うなど、被告会社の本件 事故後の対応も不誠実であった。 c 以上のような事情を考慮すれば、原告B及び原告Cの精神的苦痛にかかる慰謝料は、各300万円を下ることはない。 弁護士費用 270万0000円 合計 570万0000円 イ原告Dの固有の損害について 原告Dは、Aの死亡により、以下の損害を被った。 慰謝料 150万000 570万0000円 イ原告Dの固有の損害について 原告Dは、Aの死亡により、以下の損害を被った。 慰謝料 150万0000円原告Dは、最愛の妹であり、非常に大切な存在であったAを亡くし、悲しみに苛まれ続けている。本件事故の悪質性、前記アbの被告らの本件事故後の対応等の事情を考慮すれば、原告Dの精神的苦痛にかかる 慰謝料は150万円を下ることはない。 弁護士費用 15万0000円合計 165万0000円(被告らの主張)否認する。Aの慰謝料及び原告ら固有の慰謝料を合わせて2400万円が相 当である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実等前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認定することができる。 ⑴ 本件事故に至る経緯等(甲3、弁論の全趣旨)被告Eは、てんかんの持病があり、予兆なく意識喪失を伴う発作を起こすことが度々あり、医師や家族から、運転しないように再三注意されていた。 しかし、被告Eは、平成27年11月2日、運転免許証の有効期間の更新を受けようとした際、過去5年以内に持病であるてんかんの発作により意識を 失ったことがあったにもかかわらず、質問票に、過去5年以内に、病気を原因として、又は原因は明らかでないが、意識を失ったことはない旨記載し、これを警察官に提出し、虚偽の記載をもとに運転免許証の更新を受けた。 被告Eは、本件事故の2か月余り前にも物損事故を起こしていたが、なお自動車の運転を継続しており、本件事故当日の平成30年2月1日も被告車 の運転を開始した。しかし、被告Eは、同日午後3時53分頃、本件支 本件事故の2か月余り前にも物損事故を起こしていたが、なお自動車の運転を継続しており、本件事故当日の平成30年2月1日も被告車 の運転を開始した。しかし、被告Eは、同日午後3時53分頃、本件支援学 校の近くである大阪市a区b丁目c番d号先道路において、てんかんの発作により意識喪失の状態に陥り、被告車を暴走させ、歩道上に立っていたAらに被告車を衝突させた。 ⑵ 本件事故後の事情ア救急搬送、死亡確認等(甲2、29、31、原告B本人) Aは、本件事故により脳挫傷、脳幹損傷等の傷害を負い、大阪赤十字病院に救急搬送され、入院治療を受けた。原告B、原告C及び原告Dは、本件事故によりAが受傷した旨の連絡を受け、原告Bは会社からタクシーで、原告C及び原告Dは自宅から、それぞれ大阪赤十字病院に駆け付けたが、大阪赤十字病院の医師から、Aは心停止の状態が続いており、心肺蘇生法 を続けているものの、心臓が再拍動する気配がないと告げられた。同医師は、原告B及び原告C立会いの下、平成30年2月1日午後5時40分にAの死亡を確認した。 H病院の医師は、同年4月11日、死亡診断書に、Aの直接死因は脳挫傷、脳幹損傷であり、受傷から死亡までは数分以内で、死亡日時は同年2 月1日午後3時53分頃であったことを記載した。 イ Aの葬儀等(甲9、10、22、29、原告B本人)本件事故の内容はマスメディア等により報道され、Aの葬儀に参列を希望する者は多数に上り、同月4日に行われた通夜には261人が参列するなどし、Aの葬儀には合計524万6772円を要した。 原告Bは、同月2日、a警察署の警察官を通して、被告会社代表者(以下「I」という。)に連絡を取り、葬儀代の支払を求めたところ、Iは、誠意を持って対応する旨電話で回答し、同 72円を要した。 原告Bは、同月2日、a警察署の警察官を通して、被告会社代表者(以下「I」という。)に連絡を取り、葬儀代の支払を求めたところ、Iは、誠意を持って対応する旨電話で回答し、同日、被告会社から原告らに対して500万円が支払われた。また、原告らは、同月4日、同警察署の警察官を通して、Iに対し、「葬儀費用等について100万円ほど不足している。」、 「追加で振り込んでほしい。」と要望したところ、Iは、「追加分も振込す る。」と回答し、同日、被告会社から原告らに対し100万円が支払われた。 また、原告らは、同月9日、同警察署の警察官を通じて、Iに対し、「四十九日法要までの費用等について、I社長に連絡をする」旨伝えたところ、Iは、「費用等については、連絡を待って話し合う。」旨回答した。 ウ自賠責保険金の支払(甲12) 原告らは、平成30年7月27日、本件事故によるAの損害に係る自賠責保険金として2400万1390円の支払を受けた。 エ本件事故に係る刑事事件(甲3)被告Eは、本件事故に係る刑事裁判において、被告車のアクセルペダルに右足のつま先部分を、ブレーキペダルに右足のかかと部分を乗せて 両ペダルを同時に踏んでいたところ、ブレーキペダルを踏んでいた足が滑って外れてしまったことでパニックになり、ブレーキペダルを踏み直すことも、アクセルペダルから足を離すことも、方向を変えることもできなかったと供述し、てんかんの発作によって意識喪失状態に陥っていたことを争った。しかし、大阪地方裁判所は、平成31年3月6日、被 告Eの前記の供述は、被告車の発進直後の速度及び被害者らとの衝突までに要した時間に照らし、不自然、不合理であるとして排斥した上で、被告Eの行為につき、危険運転致死傷、道路交通 年3月6日、被 告Eの前記の供述は、被告車の発進直後の速度及び被害者らとの衝突までに要した時間に照らし、不自然、不合理であるとして排斥した上で、被告Eの行為につき、危険運転致死傷、道路交通法違反の罪が成立するとして、被告Eに懲役7年の刑を言い渡した。 オ原告Bの通院(甲13の1ないし3、29、49の1ないし3) 原告Bは、本件事故後、心療内科へ通院し、睡眠薬や抗うつ薬の処方を受けた。 ⑶ 難聴、感音性難聴ア難聴(甲28、39)日本においては、聴力レベルが26dbないし40dbである場合に軽 度難聴、40dbないし60dbである場合に中等度難聴、50dbない し90dbである場合に高度難聴、100db以上である場合に重度難聴であるとされている。なお、dbは音圧を表す単位であり、数値が大きいほど音が大きいとされ、普通の会話音が60db程度、地下鉄車内の音が80db程度、飛行機のエンジン音が120db程度とされる。 また、身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5 号)では、聴力障害に関する等級は次のとおりとされている。 級別聴力障害の内容2級両耳の聴力レベルがそれぞれ100db以上のもの(両耳全ろう)3級両耳の聴力レベルが90db以上のもの(耳介に接しなければ大声語を理解し得ないもの)4級 1 両耳の聴力レベルがそれぞれ80db以上のもの(耳介に接しなければ話声語を理解し得ないもの) 2 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度50%以下のもの6級 1 両耳の聴力レベルが70db以上のもの(40センチメートル以上の距離で発声された会話語を理解し得ないもの) 2 一側耳の聴力レベルが90db以上、他側耳の聴力レベルが50db以上のもの 1 両耳の聴力レベルが70db以上のもの(40センチメートル以上の距離で発声された会話語を理解し得ないもの) 2 一側耳の聴力レベルが90db以上、他側耳の聴力レベルが50db以上のものイ感音性難聴(乙9の1)感音性難聴は、内耳(蝸牛と有毛細胞)が正常に機能していないため、音が歪んで聞こえることを特徴とする難聴であり、先天的な原因によるものと後天的な原因によるものがあるとされている。軽度から中等度の感音 性難聴に対しては補聴器が効果的なことが多いが、重度の感音性難聴の場合は、高品質の補聴器を用いても音が歪むことがあり、補聴器が十分に役 に立たないこともあるとされている。 ⑷ Aの成育歴等(甲16、18、22、26、29、30、35、75、76、原告B本人、原告C本人、L証人、M証人)ア出生から本件支援学校小学部入学までAは、平成●年●月の出生から約1か月後に、両側感音性難聴であると 診断された。原告B及び原告Cは、Aに言葉を獲得させたいと考え、Aが0歳の頃から、音を取り入れるための活動や五感を活用する活動を行う早期教育の教室にAを通わせたり、通信教育を受けさせたりした。Aは、平成22年度に本件支援学校の幼稚部に入学し、以降、日中は原告Cとともに幼稚部での教育を受け、帰宅後も自宅で両親とともに宿題をする日々を 送った。 イ本件支援学校小学部入学後Aが本件支援学校の小学部に入学した後も、原告Cは、Aに付き添って通学し、授業にも参加していた。しかし、Aの言葉数が増え、短い文章を話すことができるようになったこともあり、Aは、小学4年生からは一人 で本件支援学校まで通学し、授業を受けるようになった。Aは、本件支援学校小学部に在籍中、小学校の学年相応の教科書を用いて学習をしており、 るようになったこともあり、Aは、小学4年生からは一人 で本件支援学校まで通学し、授業を受けるようになった。Aは、本件支援学校小学部に在籍中、小学校の学年相応の教科書を用いて学習をしており、評定は全ての教科について3段階中の「2」で、平均的な成績であり、年齢に応じた読み書き能力を習得していた。 また、Aは、4年次において、選択肢を示された場合に三音節単語が約 7割識別でき、選択肢を示された場合には、騒音下でも20単語のうち約7割を聴取でき、また、発音についても母音は良好であり、拗音も注意して発音していた。Aは、この頃から、長文での会話もできるようになり、見知らぬ人とも積極的にコミュニケーションを図るようになったほか、慣れた環境における慣れた相手との間においては口話でコミュニケーショ ンをとることができ、相手に応じて手話と口話を使い分けていた。さらに、 5年次には、運動会の司会に立候補し、プログラムを口頭でアナウンスしたり、劇で手話も交えながら、台詞を声に出して、役を演じたりするなどした。 Aは、本件支援学校の幼稚部3年生に進級後の平成24年3月(6歳時)から本件事故により死亡するまで、公文式教室(学習塾)にも通い、同教 室で他の生徒と共に国語や算数などの学習に取り組んだ。 ウ Aの進路について本件支援学校には中学部までしかなかったところ、原告Cは、Aについて、本件支援学校の中学部を卒業した後は、聴覚高等支援学校に進学させたいと考えており、実際に、本件支援学校の中学部を平成30年から令和 2年までに卒業した者の全員が高等学校か聴覚高等支援学校のいずれかに進学していた。 聴覚高等支援学校を卒業した者の中には大学に進学する者も複数いた。 ⑸ Aの聴力の推移等(甲14、15、34、乙7) でに卒業した者の全員が高等学校か聴覚高等支援学校のいずれかに進学していた。 聴覚高等支援学校を卒業した者の中には大学に進学する者も複数いた。 ⑸ Aの聴力の推移等(甲14、15、34、乙7)ア Aは、平成●年●月の出生後、新生児聴覚スクリーニングで要検査とな り、大阪大学病院の耳鼻科を受診したところ、聴性脳幹反応(ABR)検査で聴覚レベルが右105db、左90dbであり、両側感音性難聴であると診断された。Aは、平成19年5月から両耳に補聴器の装用を開始し、同年11月1日には身体障害者手帳(4級)の交付を受けた。また、Aは、平成24年10月15日、聴力レベルが右91db、左93dbであった ことから、等級変更(4級から3級)のため身体障害者手帳の再交付を受けた。 イ Aが本件支援学校幼稚部に入学した後に、同学校で行われた聴力検査の結果は下表のとおりである(いずれも年度当初のもの、聴力レベルの単位はいずれもdbである。)。 年度右耳聴力レベル(括弧内は補聴器装用時閾値)左耳聴力レベル(括弧内は補聴器装用時閾値)平成22年度 85(46)80(44)平成23年度 88(49)86(48)平成24年度 89(51)90(50)平成25年度 90(38.75)83.75(35)平成26年度 86.25(33.75) 78.75(36.25)平成27年度 85(記録なし)76.25(28.75)平成28年度 92.5(30)95(45)平成29年度 70(25)67.5(45)ウ Aは、平成25年5月以降、大阪市立総合医療センターに通院しており、同病院で行われた聴力検査の結果は下表のとおりである(聴力レベルの単位はいずれもdbである。)。 25)67.5(45)ウ Aは、平成25年5月以降、大阪市立総合医療センターに通院しており、同病院で行われた聴力検査の結果は下表のとおりである(聴力レベルの単位はいずれもdbである。)。 年月日右耳聴力レベル左耳聴力レベル補聴器装用時閾値平成25年5月2日96.393.8 平成25年11月18日 93.8 平成26年5月2日 92.5 平成26年11月17日96.2592.5 平成27年5月25日96.2593.75 平成27年11月16日96.2593.7553.75平成28年5月2日96.2596.25 平成28年6月6日97.596.25 平成28年6月27日98.7598.75 平成28年11月21日97.593.75 平成29年5月2日97.593.75 平成29年11月13日 93.7542.5⑹ 労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)施行規則及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令等における聴力障害に関する規定等について(乙2)労災保険法施行規則及び自賠法施行令別表第2においては、聴力障害の程度に応じて4級から14級までの間に位置する6段階の後遺障害の等級が定 められ、両耳の聴力をまったく失った場合は後遺障害等級4級とされている。 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号。以下「支払基準」という。)において、等級の認定は原則として労災保険における障害の等級認定の基準(以下「労災基準」という。)に 責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号。以下「支払基準」という。)において、等級の認定は原則として労災保険における障害の等級認定の基準(以下「労災基準」という。)に準じて行うとされ、労災基準では、 両耳の聴力をまったく失ったものについて、両耳の平均鈍音聴力レベルが90db以上のもの又は両耳の平均鈍音聴力レベルが80db以上であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のものをいうとされている。また、支払基準の別表Ⅰ(以下「労働能力喪失率表」という。)では、後遺障害4級の労働能力喪失率は92%とされている。 ⑺ 聴覚障害者の収入等(甲27、乙6、10の1及び3)厚生労働省による障害者雇用実態調査では、聴覚障害者ないし聴覚言語障害者に対して「きまって支給される給与」は、全労働者の平均が平成20年について月19万8000円、平成30年について月20万5000円であり、週所定労働時間が30時間以上の労働者の平均が平成20年については 月20万2000円、平成30年については月23万5000円であった。 他方、賃金センサス男女計・学歴計・全年齢(ただし、短時間労働者は除く。)の平均賃金における「きまって支給する現金給与額」は、平成20年については月32万8800円であり、平成30年については月33万6700円 であった。 令和元年当時、正社員として5万9700人以上を雇用し、東京証券取引所一部に上場していた家電の販売等を目的とする株式会社(以下「J社」という。)においては、同年度の聴覚障害者(正社員、平均勤続年数25.3年)の平均年収は471万4671円であった。なお、J社においては、仕事・ 役割に応じた等級制度に基づき処遇を決定しており障害の有無による処遇の差異はないとされ 者(正社員、平均勤続年数25.3年)の平均年収は471万4671円であった。なお、J社においては、仕事・ 役割に応じた等級制度に基づき処遇を決定しており障害の有無による処遇の差異はないとされている。他方、J社における令和2年3月期有価証券報告書に記載された平均年収は754万6000円であったところ、年収中央値について30代で約536万円、40代で約679万円であるとする分析がある。 ⑻ 聴覚障害児に対する言語指導法の推移や進学率等(甲23、甲35の1)従前、手話や指文字の使用は、乳幼児期には全面的に禁止され、補聴器を使用した聴覚言語を使用した聴覚口話法がされていた。 文部省は、平成5年、「聴覚障害児のコミュニケーション手段に関する調査研究協力者会議報告」を出し、ろう学校における手話導入を提案した。 平成12年以降、それ以前は中学校以降で使用されていた手話通話が、乳幼児期から導入されるようになり、聴覚障害児にとっての意思疎通の言語や手段が、補聴器や人工内耳を活用した聴覚口話法に限定されることがなくなり、手話や指文字等の多様なコミュニケーション手段も活用されるようになった。 ろう学校高等部卒業生の大学・短期大学(以下、併せて「大学等」という。)への進学率は平成17年度から平成21年度頃までの間は11%ないし18%であったところ、平成26年度から平成31年度までの間は20%ないし23%となった。 ⑼ 聴覚障害者の就労状況(甲46の5) 障害者雇用実態調査や総務省による労働力調査報告書等を資料とする分析 において、平成28年における雇用者(給与や役員報酬を得ている者を指す。)の割合は、20歳から69歳の者については、総人口における雇用者の割合が67.7%であるのに対 等を資料とする分析 において、平成28年における雇用者(給与や役員報酬を得ている者を指す。)の割合は、20歳から69歳の者については、総人口における雇用者の割合が67.7%であるのに対し、聴覚言語障害者における雇用者の割合は39. 2%であるものの、年齢階層別人口に占める雇用者の割合について、聴覚言語障害者では、①20歳から39歳までの階層で89.7%、②40歳から 49歳までの階層で71.5%、③50歳から59歳までの階層で63.8%、④60歳から64歳までの階層で16.7%であるのに対し、同年齢階層人口に占める雇用者の割合は、①の階層で75.1%。の階層で77.7%、の階層で73.8%、の階層で53.1%であるとされており、の階層については、聴覚言語障害者における雇用者の割合の方が高くなっている。 ⑽ 近時の主な障害者法制等ア我が国は、平成19年9月28日、障害者の権利の実現のための措置等について定めた障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)に署名した。 イ平成23年6月17日、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支 援等に関する法律が成立した。 ウ同年、障害者基本法が改正され、障害者が日常生活又は社会生活に相当な制限を受けるのは心身の機能の障害及び「社会的な障壁」(同法2条)が原因であるという理解に基づき、社会的障壁の除去を怠ることによって障害者の権利利益を侵害することのないように必要かつ合理的配慮がされな ければならないこと(同法4条2項)などが定められた。 エ平成24年6月、地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律(障害者総合支援法)が成立した。 オ平成25年6月26日、障害を理由とする差別 平成24年6月、地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律(障害者総合支援法)が成立した。 オ平成25年6月26日、障害を理由とする差別の解消の推進や社会的障 壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の提供義務(行政機関等 に対しては法的義務とされたが、民間事業者に対しては努力義務とされた。)等について定めた障害者差別解消法が成立し、また、障害者雇用促進法についても、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保等を図るための措置に関する改正が行われ、これらは平成28年4月1日に施行された。 この間の平成26年1月20日に障害者権利条約が批准された。 カ令和2年12月1日、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律が施行された。 キ令和3年6月、障害者差別解消法が改正され、民間事業者についても障害者に対する合理的配慮の提供が法的義務とされた。 ク令和4年5月25日、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通 に係る施策の推進に関する法律が公布、施行された。 ⑾ 聴覚障害者の就労環境等の変化(甲24,25、43、45の1ないし45、64ないし73)遅くとも平成27年頃までに、日本語の音声を認識し、自動で字幕を表示する機能を備えたアプリケーション(以下「音声認識アプリ」という。)が開 発され、様々な企業や公共団体や教育機関に導入され、聴覚障害者のコミュニケーション手段の一つとして活用されている。 2 争点⑴(本件事故により生じたAの損害)について⑴ 治療関係費43万2313円Aは、本件事故によって受傷し、大阪赤十字病院に救急搬送され、入院治 療を受けた(認定事実等⑵ア)。証拠(甲6)によれば、その治療の内 Aの損害)について⑴ 治療関係費43万2313円Aは、本件事故によって受傷し、大阪赤十字病院に救急搬送され、入院治 療を受けた(認定事実等⑵ア)。証拠(甲6)によれば、その治療の内容は検査、手術、注射及び放射線治療等であり、治療費は43万2313円であったことが認められ、これは本件事故による損害と認められる。 ⑵ 付添費用1万8000円ア原告らは、本件事故当日、本件事故によりAが受傷した旨の連絡を受け、 それぞれ大阪赤十字病院に駆けつけたところ、大阪赤十字病院の医師から、 Aは心停止の状態が続いており、心肺蘇生法を続けているが、心臓が再拍動する気配がないと告げられ、その後、原告B及び原告Cは、Aの死亡確認に立ち会った(認定事実等⑵ア)。 以上の事実によれば、Aが本件事故により重篤な状態に陥り、原告らが直ちに病院に向かい、付き添う必要があったと認められ、各原告につき6 000円の付添看護費は本件事故による損害と認められる。 イこれに対し、被告らは、死亡診断書でAが受傷から数分以内に死亡したと評価されていることから、付添看護を観念することはできない旨主張する。 しかし、前記アのとおり、Aは、本件事故当日、搬送先の大阪赤十字病 院において手術等の治療を受けており、原告らが同病院に駆けつけた時点でも、未だ死亡は確認されておらず、同病院の医師らがAの心肺蘇生のための治療を続けていたこと、死亡診断書は本件事故から2か月以上が経過してから、本件事故当日に死亡確認をした医師とは異なる医師により作成されたものであること(認定事実等⑵ア)に照らすと、原告らが病院に駆け つけ、Aの様子を確認し、死亡確認に立ち会ったことについては、付添看護の必要性があったということができ、被告らの主張 作成されたものであること(認定事実等⑵ア)に照らすと、原告らが病院に駆け つけ、Aの様子を確認し、死亡確認に立ち会ったことについては、付添看護の必要性があったということができ、被告らの主張は採用できない。 ウ以上のとおり、各原告につき6000円の付添看護費が本件事故による損害と認められる。 ⑶ 死亡診断書作成費用5400円 証拠(甲2、7)によれば、Aに係る死亡診断書が作成され、その費用が5400円であったことが認められるところ、この費用は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 ⑷ 死体検案料等4万3200円証拠(甲2、8、29)によれば、平成30年2月1日、Aの遺体の検案 が行われ、死体検案書等が作成されたこと、これらの費用は4万3200円 であったことが認められ、これらの費用合計4万3200円は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 ⑸ 葬儀関連費用150万0000円平成30年2月4日に行われたAの通夜には261人が参列し、葬儀には合計524万6772円を要したことが認められる(認定事実等⑵イ)。もっ とも、葬儀関連費用は、葬儀の規模、内容等により大きく変わり得るところ、どのような規模、内容の葬儀にするかは、最終的には葬儀を執り行う者の判断により自由に決せられるものであるから、実際に生じた費用全てを加害者に負担させることが常に相当であるとはいえない。 葬儀関連費用については、仏壇等購入費用と合わせて、150万円の限度 で本件事故と相当因果関係があると認められる。 ⑹ 仏壇等購入費用0円前記のとおりであって、葬儀関連費用と別にこれを認めることはできない。 ⑺ 逸失利益3001万2781円 ア基礎収入Aについて められる。 ⑹ 仏壇等購入費用0円前記のとおりであって、葬儀関連費用と別にこれを認めることはできない。 ⑺ 逸失利益3001万2781円 ア基礎収入Aについては、賃金センサス平成30年の全労働者平均賃金497万2000円の85%に相当する422万6200円を基礎収入とするのが相当である。理由は次のとおりである。 原告らは、年少者の逸失利益について、賃金センサスの全労働者平均 賃金を基礎収入として算定する実務が定着しており、Aは、感音性難聴があったとしても、死亡時11歳の年少者で将来について様々な可能性を有していたこと等から、賃金センサス平成30年の全労働者平均賃金497万2000円を基礎収入とすべきと主張する。 不法行為により死亡した年少者の逸失利益については、将来の予測が 困難であったとしても、あらゆる証拠資料に基づき、経験則と良識を活 用して、できる限り蓋然性のある額を算出するように努めるべきである(最高裁判所昭和39年6月24日第3小法廷判決・民集18巻5号874頁参照)。 Aは、小学校入学時から本件事故当時まで、小学校の学年相応の教科書を用いて学習を進めており、評定も平均的であったこと(認定事実等 ⑷イ)に照らせば、学習にとくに支障はなかったと認められる。また、原告B及び原告Cが、Aに対し、幼少期から様々な学習の機会を継続して設けていたこと(認定事実等⑷ア)、A自身も本件支援学校での学習に励んでいただけでなく、他の生徒と共に学習塾での学習にも取り組んでいたこと、加えて、Aが、学業のみならず、学校行事や他者とのコミュ ニケーションにも積極的に取り組んでいたこと(認定事実等⑷イ)に加え、Aが本件支援学校を卒業した後、聴覚高等支援学校に進学していた蓋 、加えて、Aが、学業のみならず、学校行事や他者とのコミュ ニケーションにも積極的に取り組んでいたこと(認定事実等⑷イ)に加え、Aが本件支援学校を卒業した後、聴覚高等支援学校に進学していた蓋然性が高いといえること(認定事実等⑷ウ参照)をも考慮すると、Aには、勉学や他者との関わりに対する意欲と両親による支援が十分にあり、年齢相応の学力や思考力を身に付けていく蓋然性があったといえ、 Aには、将来様々な就労可能性があったということができる。 他方、Aには感音性難聴があったところ、聴力障害は、労災保険法施行規則や自賠法施行令別表第2においてその程度に応じて後遺障害の等級が定められ、労働能力喪失率が定められている(認定事実等⑹)。これは聴力障害によって就労の上で他者とのコミュニケーションが制限され、 その結果、労働能力が制限されることを前提としたものと認められ、聴力障害によって労働能力喪失率表どおりに労働能力が制限されるとみるべきかは別としても、聴力障害が労働能力を制限し得る事実であること自体は否定することができない。 これに対し、原告らは、Aの補聴器を装着した状態の聴力は22.5 dbであり、口話でコミュニケーションをとることが可能であった旨主 張し、Aの聴力障害は労働能力に影響しないものであったという趣旨の主張と解される。 しかし、Aの聴力の具体的な程度等について、平成24年10月以降、3級の身体障害者手帳を受けていたこと(認定事実等⑸ア)、大阪市立総合医療センターにおける平成29年11月の聴力検査では、右が100 db、左が93.75db(補聴器装用時閾値が42.5db)であり(認定事実等⑸ウ)、これは自賠法施行令別表第2では4級に該当する程度のものであったこと(認定事実等⑹参照)、他 は、右が100 db、左が93.75db(補聴器装用時閾値が42.5db)であり(認定事実等⑸ウ)、これは自賠法施行令別表第2では4級に該当する程度のものであったこと(認定事実等⑹参照)、他方で、Aにとって慣れた環境である本件支援学校における検査では、平成29年度の聴力レベルは補聴器装用時閾値で右が25db、左が45dbであり(認定事実等 ⑸イ)、Aが慣れた環境における慣れた相手との間においては口話でコミュニケーションをとることができたこと(認定事実等⑷イ)をも考慮すると、Aの聴力障害は、慣れた環境においては、これがコミュニケーションに与える影響としては、大阪市立総合医療センターにおける検査結果を前提とする自賠法施行令別表第2における4級に相当するものより ある程度軽いものであったと認められるものの、労働能力に影響がない程度のものであったということはできない。 aAの死亡時を基準として、Aが将来就労により得られたであろう収入について検討する。 b 障害者雇用実態調査における平成30年の聴覚障害者(週所定労働 時間が30時間以上である者)の平均収入は、同年の全労働者平均賃金の約7割であり(障害者雇用実態調査と賃金センサスでは基礎となる労働時間等が異なるが、賃金センサスの全労働者平均賃金は短時間労働者の賃金を含まないことから、障害者雇用実態調査に関しても所定労働時間が長い者の賃金について比較した。)、また、収入が高水準 にあるといえるJ社の令和元年の聴覚障害者の平均年収が、同社全体 の平均年収の約6割に相当する額であり(認定事実等⑺)、令和元年の全労働者平均賃金である約500万円を若干下回る金額であったことにかんがみれば、Aの死亡時において、聴覚障害者の収入が全労働者平均賃金と同程度であっ 割に相当する額であり(認定事実等⑺)、令和元年の全労働者平均賃金である約500万円を若干下回る金額であったことにかんがみれば、Aの死亡時において、聴覚障害者の収入が全労働者平均賃金と同程度であったとはいえない。なお、障害者雇用実態調査における聴覚障害者の障害の程度と収入との関係は明らかではないも のの、前記のとおりのAの聴力障害の程度等に照らせば、Aの聴力障害が前記調査における聴覚障害者の障害の程度とかけ離れた障害と位置付けられるとはいえず、Aの基礎収入を検討するに当たっても考慮すべき事実といえる。 c 他方、聴覚障害者の大学等への進学率は、平成12年以降手話通話 が乳幼児期から導入されるようになり、概ね乳幼児期に手話通話を取得した世代と考えられる平成26年度のろう学校高等部卒業生の進学率について平成21年度頃までの進学率と比較して大幅とまではいえないものの、増加傾向にある(認定事実等⑻)。また、聴覚障害者の就労状況についても、平成28年における雇用者の割合は、20歳から 39歳までの階層では、同じ階層の総人口における雇用者の割合より高くなっているところ(認定事実等⑼)、手話通話の導入等により充実した教育を受けたことが就労率が高い原因の一つとみても不自然とはいえず、聴覚障害者の学力水準の向上や大学等への進学率の増加は、平均収入が増加することを予測させる事情である。さらに、平成28 年の聴覚障害者における年齢階層別の雇用者の割合において比較的若年層で雇用者が多いこと(認定事実等⑼参照)に照らせば、平成30年においても聴覚障害者全体における雇用者のうち比較的若年である者の割合が多いと推認できるところ、若年層は収入が低く、年齢とともに収入が増加することが一般的であるから、若年者が多いことは、 同年の聴 ても聴覚障害者全体における雇用者のうち比較的若年である者の割合が多いと推認できるところ、若年層は収入が低く、年齢とともに収入が増加することが一般的であるから、若年者が多いことは、 同年の聴覚障害者の平均収入を低いものにとどめる要因になっている といえ、同年の調査時の若年層の年齢が上がるにつれて平均収入が上がることが予測できる。 また、障害者法制等に関し、障害者権利条約の批准の前後を通じて関連する法律が整備されていたこと(認定事実等⑽)に照らせば、Aの死亡時においても、将来、障害者の就労に関する法律の整備がさら に進むとともに、必要かつ合理的な配慮がされなければならないという理念が時間の経過とともに社会に浸透することが予想できたといえる。加えて、実際の就労環境についても、テクノロジーの発達により様々な企業等において音声認識アプリが普及し、聴覚障害者のコミュニケーション手段の一つとして活用されている(認定事実等⑾)が、 テクノロジーは今後も加速的に進歩することが予測される。 以上のとおり、Aの死亡時である平成30年の時点では、聴覚障害者の平均収入は、週所定労働時間が30時間以上である者について全労働者平均賃金の約7割ではあったものの、同年を基準としても、死亡時に11歳であったAが将来就労したであろう時期においては、聴 覚障害者の大学等への進学率の向上及び同年における聴覚障害者の若年層の雇用者の年齢の上昇による聴覚障害者の平均収入の上昇を予測でき、また、法律等の整備を前提とする就労機会等の拡大やテクノロジーの発達によるコミュニケーション手段の充実により聴力障害が就労に及ぼす影響が小さくなっていくものと認められ、この点において も、聴覚障害者の平均収入は平成30年における金額より高くなると ジーの発達によるコミュニケーション手段の充実により聴力障害が就労に及ぼす影響が小さくなっていくものと認められ、この点において も、聴覚障害者の平均収入は平成30年における金額より高くなると予測できる。 d そして、前記及びのとおり、Aについて、その聴力障害が労働能力を制限する程度のものではあるものの、手話だけでなく環境によっては口話も可能であったことに加え、年齢に応じた読み書き能力を 習得していて、勉学や他者との関わりに対する意欲を十分に有してい たことに照らせば、将来において自ら様々な手段や技術を利用して聴力障害によるコミュニケーションへの影響を小さくすることができたといえ、この点に、前記のとおり平成30年を基準としてもAの就労したであろう時期に聴覚障害者の平均収入が増加すると予測できることを総合すると、Aの基礎収入は賃金センサス平成30年の全労働者 平均賃金497万2000円の85%に相当する422万6200円とするのが相当である。 a これに対し、原告らは、聴覚障害者の平均賃金と全労働者平均賃金との差は、従来の障害者教育や社会的障壁により、障害者が能力を発揮する機会を十分に得られなかったために生じているものであると主 張する。 障害者教育について、前記のとおり、手話通話等が乳幼児期から導入された後に教育を受けた世代が増加することにより、学力や進学率が向上することが認められるところ、これらは収入が増加することを予測させる事情である。 もっとも、平成26年度以降のろう学校高等部卒業生の大学等への進学率は、それ以前と比較して増加傾向にあるものの、大幅に増加しているとまではいえない。聴覚障害者の中には、ろう学校高等部だけでなく、高等学校に進学する者もおり(認定事実等⑷ウ参 卒業生の大学等への進学率は、それ以前と比較して増加傾向にあるものの、大幅に増加しているとまではいえない。聴覚障害者の中には、ろう学校高等部だけでなく、高等学校に進学する者もおり(認定事実等⑷ウ参照)、これらの高等学校卒業後に大学等に進学する者の割合は含まれてい ないことを考慮しても、概ね乳幼児期から手話通話が導入された世代である平成26年度以降のろう学校高等部卒業生の大学等への進学率について、なお全体の大学等への進学率とは相応の開きがあることに照らすと、直ちに、障害者教育の方針が変更された後に大学等への進学率が全体の進学率と同程度に増加することにより全労働 者平均賃金と同程度までの大きな増加を見込むことができるとはい えない。 ⒝ 社会的障壁について、前記のとおり、本件事故の前後を通じて障害者法制の整備がされているところ、このような障害者法制の整備がされる前に就労を開始した聴覚障害者の中には、使用者から合理的な配慮を得られずに、能力を発揮する機会を十分に得られなか った者がいて、前記の障害者雇用実態調査における「きまって支給される給与」の額にはそのような労働者の賃金が反映されている可能性は否定できない。したがって、平成30年を基準としても、将来の予測として同年における収入の差を前提とすることができないことは原告らの主張するとおりである。 なお、この点に関し、原告らは、米国においては、聴覚障害者と障害がない者を比較した場合、フルタイムワーカーの割合に大きな差はなく、フルタイムワーカーの年収についても大きな違いがみられないとする証拠を提出するが(甲46の1、2)、当該統計の対象となっている聴覚障害者の範囲、調査方法等は証拠上明らかでなく、 これらの証拠により、直ちに、聴覚障害者が必 ても大きな違いがみられないとする証拠を提出するが(甲46の1、2)、当該統計の対象となっている聴覚障害者の範囲、調査方法等は証拠上明らかでなく、 これらの証拠により、直ちに、聴覚障害者が必要かつ合理的な配慮を得られれば、障害のない者と同程度の収入を得ることができると認めることはできない。 b 原告らは、聴覚障害者と障害がない者との収入の差は、障害者であるか否かのみを理由とする差別的な取扱いにより生じたものであり、 法的には解消されなければならないものであるとも主張する。 聴覚障害児に対する言語指導法の推移や進学率等(認定事実等⑻)、聴覚障害者の就労状況(認定事実等⑼)及び近時の主な障害者法制等(認定事実等⑽)に照らせば、聴覚障害者の収入と障害がない者との収入の差(認定事実等⑺参照)は、従来、聴覚障害児に対してその障 害に対応する有効な教育が必ずしも十分にされなかった時期があるこ とや、障害に配慮した就労の機会や環境が提供されてこなかったこともその原因となっている可能性があり、今後、障害者基本法や障害者差別解消法等に照らし、就労の上で障害を理由とする不当な差別的取扱いが禁止され、障害者に対する社会的障壁を除去するために必要かつ合理的配慮がされなければならないのは原告らの主張するとおりで ある。 しかし、前記のとおり、聴力障害がコミュニケーションを制限することにより労働能力を制限し得る事実であること自体は否定することができず、聴覚障害者と障害がない者との収入の差は、聴力障害による労働能力の制限も原因となっていると認められるから、基礎収入 について、この事実をないものとして検討することはできない。 c 原告らは、Aが、将来、障害基礎年金を受給したであろうことを考慮すべきとも主張する 原因となっていると認められるから、基礎収入 について、この事実をないものとして検討することはできない。 c 原告らは、Aが、将来、障害基礎年金を受給したであろうことを考慮すべきとも主張するが、Aは、本件事故当時、障害基礎年金の受給資格を有しない11歳であり、実際に給付を受けていなかったことや、Aの聴覚障害の程度(認定事実等⑸イ及びウ)と身体障害者障害程度 等級表との関係(認定事実等⑶ア)等も考慮すると、Aが生涯にわたり障害基礎年金を受給した蓋然性があると認められず、基礎収入の認定にあたり、障害基礎年金を受給したであろうことを考慮すべきという原告らの主張は採用できない。 d 原告らは、男女の平均賃金の差が依然と生じているものの、裁判実 務上、年少女子の逸失利益の基礎収入について規範的観点を考慮して全労働者平均賃金が採用されているとして、聴覚障害者と障害がない者との平均賃金に現時点において差があるとしても年少者の逸失利益の基礎収入としては規範的観点から聴覚障害者も障害がない者と同様に扱われるべきである旨の主張をする。 しかしながら、裁判実務上、年少者の逸失利益について、年少男子 については男性の平均賃金が採用されることも多く、年少女子と年少男子について現時点で同一の基礎収入が採用されているとはいえず、また、実際に労働能力を制限する程度の聴力障害があった場合に現時点においてこれを考慮せずに基礎収入を検討することができないことについては前記bのとおりである。 a 他方、被告らは、基礎収入の認定に当たっては、Aに一般には労働能力喪失率92%と評価される既存障害があったことを斟酌すべきである旨主張し、前記のとおり、平成29年におけるAの聴力が自賠法施行令別表第2では4級に該当する程度のもの たっては、Aに一般には労働能力喪失率92%と評価される既存障害があったことを斟酌すべきである旨主張し、前記のとおり、平成29年におけるAの聴力が自賠法施行令別表第2では4級に該当する程度のものであり、4級の労働能力喪失率は92%とされている(認定事実等⑹)。 聴力障害が労働能力を制限するものであることは前記bのとおりである。しかし、自賠法施行令及び労災基準は、聴力障害がなかった者が事故や災害により突然聴力障害を生じた場合に、賠償や補償を速やかにかつ検査結果等に基づいて平等に行うことを目的として設けられた基準であるといえ、先天的に聴力障害があり、これを所与のもの として対応する能力を身に付けた者の労働能力については、必ずしもこれを参考にすることはできない。Aについても、先天的に聴力障害があり、早期に補聴器の装用を開始し、聴力障害を前提として両親が幼少期から様々な学習の機会を継続して設け、本件支援学校に通学し、手話に加え、環境によっては口話も可能となっていたことに照らせば、 その聴力障害が労働能力に与える影響を前記労働能力喪失率を参考として評価することはできないというべきである。 b 被告らは、Aに重度の聴力障害があり、学力の獲得に困難を伴ったから、大学等に進学できる学力を獲得することが困難であったことなどの理由により、平成30年の聴覚障害者(男女計)の平均賃金29 4万7000円を基礎収入とするのが相当である旨主張する。 しかしながら、Aが年齢相応の学力や思考力を身に付けることは十分可能であり、その蓋然性があったと評価することができることは前記認定のとおりであって、被告らの前記主張は採用できない。 イ生活費控除率前記アのとおりの基礎収入を前提とすると、生活費控除率については であり、その蓋然性があったと評価することができることは前記認定のとおりであって、被告らの前記主張は採用できない。 イ生活費控除率前記アのとおりの基礎収入を前提とすると、生活費控除率については4 5%とするのが相当である。 これに対し、原告らは、Aが身体障害者手帳の交付を受けており、様々な福祉制度を利用して支出を減らすことができたから、生活費控除率は40%とすべきである旨主張するが、支出を減らせる蓋然性があったとまでは認められず、原告らの主張を採用することはできない。 ウ労働能力喪失期間労働能力喪失率は100%、労働能力喪失期間は49年(ただし、死亡時11歳であったAが18歳に達してから67歳までの期間であって、これに対応するライプニッツ係数は12.912である。)とするのが相当である。 エ計算式422万6200円×1×(1-0.45)×12.912⑻ 死亡慰謝料2600万0000円Aは、何ら落ち度がなかったにもかかわらず、11歳という年齢で本件事故により、突然未来を奪われたこと、被告Eが、持病であるてんかん発作歴 を隠して運転免許の更新を受け、運転を続けるということがなければ本件事故が生じることはなかったことその他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、Aの死亡慰謝料としては2600万円とするのが相当である。 ⑼ 既払金(被告会社支払)-600万0000円被告会社は、原告らがIに対して葬儀費用を支払うよう求めた後に、原告 らに対し、合計600万円を支払っている(認定事実等⑵イ)。 原告らとIのやり取りの後に、被告会社からの支払がされたことに照らすと、原告らが葬儀のために金員を必要としていたという事情は、Iが、早期に金員の支払を行った動機になったと認められる 。 原告らとIのやり取りの後に、被告会社からの支払がされたことに照らすと、原告らが葬儀のために金員を必要としていたという事情は、Iが、早期に金員の支払を行った動機になったと認められるが、本件では、原告らとIとの間において、前記金員を葬儀費用にのみ充当するという合意に係る書面が作成されたという事実はなく、600万円という金額も原告らが実際に要 した葬儀費用と合致しているわけでもないことからすると、被告会社と原告らの間で、被告会社が支払った600万円を特定の費目にのみ充当することが合意されたと認めることはできない。 したがって、被告会社から支払われた600万円は、葬儀関連費用(前記オ)にのみ充当される旨の原告らの主張は採用できず、Aの人的損害全体を 填補するものとみるのが相当である。 ⑽ 自賠責保険金支払時までの確定遅延損害金126万1105円原告らは、平成30年7月27日、自賠責保険金として2400万1390円の支払を受けた(認定事実等⑵ウ)。 前記⑴ないし⑼の合計金額は、5201万1694円であり、同日までに 生じた遅延損害金は126万1105円である。 計算式 5201万1694円×5%×177日÷365日⑾ 既払金(自賠責保険金)-2400万1390円⑿ 自賠責保険金控除後の残額2927万1409円原告B及び原告Cの相続分は各2分の1であるから(前記前提事実⑶)、原 告B及び原告Cは、それぞれ1463万5704円の範囲でAの損害賠償請求権を取得した。 3 争点⑵(本件事故により生じた原告ら固有の損害)について⑴ 原告ら固有の慰謝料本件事故により、原告B及び原告Cは最愛の娘に11歳という年齢で先立 たれ、原告Dは自身もまだ幼い頃に妹を突然失ったのであり、原告 り生じた原告ら固有の損害)について⑴ 原告ら固有の慰謝料本件事故により、原告B及び原告Cは最愛の娘に11歳という年齢で先立 たれ、原告Dは自身もまだ幼い頃に妹を突然失ったのであり、原告らの受け た衝撃の大きさや悲しみの深さは測り知れないほどのものがあること、原告Bが本件事故後に心療内科への継続的な通院を余儀なくされていること(認定事実等⑵オ)、被告Eが、持病であるてんかん発作歴を隠して運転免許の更新を受け、運転を続けたという本件事故の経緯(認定事実等⑴)その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、原告B及び原告Cの固有の慰謝料として は200万円、原告Dの固有の慰謝料としては100万円を認めるのが相当である。 ⑵ 弁護士費用本件事案の難易、審理の経過、認容額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告B及び原告C については各166万円、原告Dについては10万円と認めるのが相当である。 第4 結論以上によれば、原告らの請求は、被告Eに対し、民法709条に基づき、被告会社に対し、民法715条に基づき、原告B及び原告Cについて、損害賠償 金各1829万5704円及びうち各1463万5704円に対する平成30年7月28日(自賠責保険金支払日の翌日)から、うち各366万円に対する平成30年2月1日(不法行為の日)から各支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度において、原告Dについて、損害賠償金110万円及びこれに対する平成30年2月1日(不法行為の 日)から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度において理由があり、その余はいずれも理由がない。 よって、前記の限度 る平成30年2月1日(不法行為の日)から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度において理由があり、その余はいずれも理由がない。よって、前記の限度で原告らの請求を認容し、その余の請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法64条本文、61条を、仮執行の宣言につき、同法259条1項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。 主文 大阪地方裁判所第15民事部 裁判長裁判官武田瑞佳 裁判官島田正人 裁判官林憲太朗

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