令和5(ワ)1596

裁判年月日・裁判所
令和6年10月30日 さいたま地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-93594.txt

判決文本文11,514 文字)

令和6年10月30日判決言渡令和5年(ワ)第1596号損害賠償請求事件 主文 1 被告は、原告に対し、482万4930円及びこれに対する令和5年8月5日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを2分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、921万2423円及びこれに対する令和5年8月5日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、被告の教職員であった原告が、被告の教職員であるAから別紙1言動一覧表記載のパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)を受けたことにより精神疾患等を発症して休職せざるを得なくなったなどと主張して、被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、921万2423円(慰謝料500万円、逸失利益337万4930円、弁護士費用83万7493円の合計額)及びこれに対する違法行為のあった日の後で訴状送達の日の翌日である令和5年8月5日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実⑴ 被告の教職員であった原告(昭和47年▲月▲日生の男性。甲3)は、令和2年6月当時はさいたま市教育委員会(以下、単に「教育委員会」という。)事務局学校教育部教職員人事課の職員として、令和3年4月1日以降はさいたま市立B 中学校(以下「本件中学校」という。)の教頭として(甲1)、各職務に従事していた。 被告の教職員であるA(昭和39年▲月▲日生の男性)は、令和2年6月当時は教育委員会事務局学校教育部参事として、令和4年4月 下「本件中学校」という。)の教頭として(甲1)、各職務に従事していた。 被告の教職員であるA(昭和39年▲月▲日生の男性)は、令和2年6月当時は教育委員会事務局学校教育部参事として、令和4年4月1日以降は本件中学校の校長として、各職務に従事していた。 ⑵ 原告は、令和4年5月16日にC耳鼻咽喉科を受診してメニエール病の診断を受け(甲3)、また、同月31日にDクリニックを受診して適応障害の診断を受けた(甲4)。 ⑶ 原告は、令和4年5月31日以降休職した(当事者間に争いがない。)。 ⑷ 原告は、令和5年7月12日、本件訴訟を提起し、その訴状は同年8月4日に被告に送達された(記録上明らかな事実)。 ⑸ 原告は、令和5年9月30日付けで退職した(当事者間に争いがない。) 2 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ 国賠法上の違法性、故意・過失(原告の主張)ア教育委員会事務局及び本件中学校において原告より職位が上であったAは、原告に対し、別紙1言動一覧表記載の各行為(以下「本件各行為」と総称する。)を行った。本件各行為はいずれも、Aの誤った認識のもと職務の必要性なく行われ、手段としても指示・指導の範囲を超えたものであって、パワハラに当たる行為であるから、安全配慮義務に違反し、国賠法上違法であり、Aには少なくとも過失が認められる。 イ Aの言動により原告の令和4年4月の時間外在校等時間(195時間27分)が1年目である令和3年4月のそれ(120時間34分)より大幅に増加したのに、教育委員会がこれを認識した後もAに対して何ら具体的な指導等をしなかったことも、安全配慮義務に違反するものであって、国賠法上違法であり、少なくとも教育委員会の担当職員の過失も認められる。 (被告の主張)原告らの上記主張のうち、原告の令和4年4 しなかったことも、安全配慮義務に違反するものであって、国賠法上違法であり、少なくとも教育委員会の担当職員の過失も認められる。 (被告の主張)原告らの上記主張のうち、原告の令和4年4月の時間外在校等時間が195時間27分であったことは認め、その余は不知、否認ないし争う。 ア Aの原告に対する指示・指導は、当時の本件中学校が抱えている問題や課題を是正し、又は解決するために必要な範囲で行ったものであり、校長としての職務権限を逸脱するものではなかった。また、Aは、原告に対する指示・指導を行うに当たって、原告に対し、感情的で強い言葉を発したり、叱責したり、暴力を振るったりしたことはない。原告の時間外在校等時間が長時間に及んでいるのは原告が自身の意思・判断に基づいて在校し、勤務等を行った結果であって、Aが命じたものではない。むしろ、Aは、令和4年5月に原告の時間外在校等時間が長時間に及んでいることを知った後は原告に職務負担軽減のための指示をしている。 イ教育委員会は、被告が設置する中学校等の各校長に対し、毎月、教職員の時間外在校等時間を報告するよう指示しているが、これは、全市的な状況を把握するとともに、各校長に所属職員の業務実態を把握させ、上限時間を超える教職員については業務量の調整や割り振り等の対策を講じる等の組織マネジメントを行うよう指示するためにするものであり、本件では、現に、上記のとおり、Aは、原告の業務量の調整を行っているし、教育委員会としても、各学校からのデータを踏まえて、毎年度、「さいたま市立学校における働き方改革推進プラン」を策定し、各学校における校長の組織マネジメントについて指示していたから、国賠法上の違法はなく、教育委員会の担当職員の過失もない。 ⑵ 原告の損害(原告の主張)原告は、Aや教育委員会の ン」を策定し、各学校における校長の組織マネジメントについて指示していたから、国賠法上の違法はなく、教育委員会の担当職員の過失もない。 ⑵ 原告の損害(原告の主張)原告は、Aや教育委員会の担当職員の各違法行為により、次のアないしウのとおり、合計921万2423円相当の損害を被った。 ア慰謝料 500万円イ休職による逸失利益 337万4930円(休職前1年間の給与・賞与額6 76万8651円-休職後1年間の給与・賞与額339万3721円)ウ弁護士費用 83万7493円(被告の主張)原告の上記主張のうち、原告の休職前1年間の給与・賞与額、休職後1年間の給与・賞与額及びその差額については認めるが、その余は不知ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 前提事実、証拠(甲6の1⑵、甲7、甲20、甲21、乙1の1⑵以下、乙2、乙6のほか後記各書証、証人E、証人F、証人A。ただし、いずれも後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、Aが本件中学校に着任する前後における原告の就労状況等について、次の事実が認められる(これに対し、教育委員会事務局当時における原告の就労状況等については、原告の主張に沿う証拠(甲6の1⑴、甲16、乙1の1⑴)はあるものの、その具体的な時期、内容等が明らかでないものであったり、そもそも反対尋問を経ていないものであったりするなど、その信用性を肯定するには疑問があるため、これらの証拠をもって原告の主張事実を直ちに認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。)。 ⑴ 原告は、Aが本件中学校に着任する1年前である令和3年4月1日に本件中学校に着任し、教頭の地位(甲1)に就いた。 教頭1年目の原告にとって不慣れな職務もあったが、原告は、誠意をもって職務に当たり、 告は、Aが本件中学校に着任する1年前である令和3年4月1日に本件中学校に着任し、教頭の地位(甲1)に就いた。 教頭1年目の原告にとって不慣れな職務もあったが、原告は、誠意をもって職務に当たり、本件中学校の子供や教職員のために力を尽くしていたが、原告の令和3年4月期の時間外在校等時間は120時間程度であり(Aによると、Aが教頭の職務に従事していた際の4月の時間外在校等時間も100時間超であった。)、原告が同年当時にメニエール病や適応障害を発症することはなかった。 ⑵ ところが、令和4年(以下、令和4年については年月日における年の記載を省略する。)4月1日に本件中学校に着任したAは、本件中学校では当然行われるべきことが行われていないという認識のもとに、校長を助ける教頭の職にある原告に対し、Aの考える本件中学校の問題点を早急に是正するよう指示する必要がある と考え、前任校長から原告がAを怖がっていると聞かされていたのに、その着任当初から、校長室や職員室で原告を大声で頻繁に叱責するようになった。具体的には、Aは、原告を1日に多い時で四、五回も校長室に呼び出し、原告に対し、「お前の責任があるだろう。」などと教頭としての責任を問いただし、その時間は短くても20分、長いときには1時間以上に及ぶこともあり、その際、原告に「君はすぐ泣くからな」などと告げることもあった。 これに対し、原告は、Aからの叱責に反発、反論せず、申し訳ない、私が悪いという趣旨の返答をするだけではなく、Aが校長室に戻ってくるたびにコーヒーを持っていく、Aから呼ばれたときにはすぐに大きな声で返事をして走って校長室に行くなどしていた。 Aの原告に対する叱責の大声は校長室のドアを閉めた状態でもその隣室である職員室にいた教職員らによく聞こえるほどであり、本件中学校の教職 すぐに大きな声で返事をして走って校長室に行くなどしていた。 Aの原告に対する叱責の大声は校長室のドアを閉めた状態でもその隣室である職員室にいた教職員らによく聞こえるほどであり、本件中学校の教職員の中にはパワハラに当たるのではないかと考える者もいたが、原告が上記のような対応をとっていたこともあり、その防止ないし改善に向けて具体的な行動に出る者はいなかった。 ⑶ また、4月ないし5月当時におけるAの原告に対する言動として、次のようなものがあった。 ア Aは、本件中学校の入学式が行われた4月8日、新入生に配るしおりに記載されていた校歌が一部欠けた状態であったことについて、原告に対し、「俺に恥かかせるんじゃねえ」などと告げた。 イ Aは、4月14日午後4時過ぎから、前年度にあったいじめの対応について原告を含む関係教職員とともに保護者(母親)との面談を終えた後、面談開始時刻を午後6時と約束すれば、父親も来校することができて説明が一回で終わったのではないかと考え、二度手間となったことに不満を抱き、原告に対し、「お父さんが6時に来れそうなのに4時に設定して、あほかっ!つーんだよ!」と告げたり、持っていた手帳を机にたたきつけたり、手のひらで往復ビンタをする仕草をしたりした(甲14、15)。 ウ Aは、教育委員会から研究委嘱を受けて令和2年度から令和4年度にかけて本件中学校で行われていた「読解力向上」の校内研究(甲13)についてやるべきことをやっていないのではないかと考え、原告や校内研究の主任教員から、合計3回(1回当たり1時間以上)にわたって説明を求めたものの、納得できる回答が得られなかったとして、原告に対し、「やってねえのと同じだろう」などと告げただけではなく、原告及び研究主任教員に対し、Aの理想とする校内研究に近づけるよう たって説明を求めたものの、納得できる回答が得られなかったとして、原告に対し、「やってねえのと同じだろう」などと告げただけではなく、原告及び研究主任教員に対し、Aの理想とする校内研究に近づけるように一からやり直すように指示し、職員会議で上記指示を他の教職員に伝える場においても、「全然何もやっていなかったから仕方ないだろう。」などと告げた。 エ Aは、本件中学校の前年度までの教育活動状況や学校運営状況がAの考えからするとがく然とする実態であったことを非難する文脈ではあったが、原告に対し、前任校長は「絶倫はげ野郎」、「A級戦犯」と、原告は「B級戦犯」などと告げた。 オ Aは、体調不良で保健室を利用しようとした本件中学校の生徒が保健室に向かったものの、養護教諭の校内巡回のために施錠されていた保健室前のベンチで寝ながら待たざるを得なくなった事態を目撃し、原告に対し、「どういう危機管理なんだ。」などと告げた。 カ Aは、校長室での保護者の話合いの中で、これに同席していた原告が途中で口をはさんだことに立腹し、原告に対し、「お前には聞いていない、口をはさむな、校長室から出てけ。」などと告げた。 ⑷ 原告は、年度初め(4月、5月)における教頭の職務が元々多かったことに加え、Aとの対応に長時間を費やしたり、Aから前年度にはなかった多数の職務を指示されたりしたことにより通常の勤務時間内で自身の仕事を処理することができなくなり、平日は夜遅くまで残業したり、休日もほとんど全て出勤したりするようになった結果、原告の4月における出勤日は29日間、その時間外在校等時間は195時間27分に及んだ(甲2の1。1日平均では7時間弱)。 これに対し、Aは、(教育委員会がさいたま市立中学校等の各校長に毎月10日までに前月の教職員の時間外在校等時間を報告するよう指示す 間は195時間27分に及んだ(甲2の1。1日平均では7時間弱)。 これに対し、Aは、(教育委員会がさいたま市立中学校等の各校長に毎月10日までに前月の教職員の時間外在校等時間を報告するよう指示するなどしていたこと もあって、)5月初旬頃、原告の4月の時間外在校等時間が上記のとおりであることを知り、健康を害するような異常な時間に達していると思い、原告に対し、職務を文書処理のみにして早く帰るよう指示したことはあったが、それ以上に原告の時間外在校等時間の減少に向けて具体的な方策を講ずることも、原告との話合いの機会を設けたりすることもしなかった。かえって、Aは、原告に対し、からかうように「早く帰って、体弱いんだから」などと笑いながら告げたこともあった。 原告の5月における出勤日が(年休の使用や医療機関の受診もあって)16日間であったのに対し、その時間外在校等時間は101時間34分に及んでいた(甲2の2。1日平均では6時間強)。 ⑸ 原告は、左耳が聴こえにくくなり、また、目まいの症状も出たとして、5月16日、C耳鼻咽喉科を受診したところ、メニエール病の診断を受け、外来加療を受けることとなった(甲3)。また、原告は、その後も耳鳴りや目まいの症状があったため、同月25日、脳神経外科を受診したものの(甲2の2)、脳神経に関する異常が認められなかったことから、同月31日にDクリニックを改めて受診したところ、適応障害のため、約1か月間の休養及び加療を要するという診断を受けた(甲4)。 そのため、原告は、同日以降、休職するようになり、8月29日には、教育委員会から、地方公務員法28条2項1号(心身の故障のため、長期の休養を要する場合)に基づき、令和5年3月31日までの休職を命ぜられた(甲5)。 ⑹ 教育委員会は、令和5年2月に原告からAによる 育委員会から、地方公務員法28条2項1号(心身の故障のため、長期の休養を要する場合)に基づき、令和5年3月31日までの休職を命ぜられた(甲5)。 ⑹ 教育委員会は、令和5年2月に原告からAによるパワハラの調査依頼を受け、同年3月、Aを含む本件中学校の教職員に対し、パワハラに関する調査を実施した(甲6、甲7、乙1)。その結果、Aからは、原告に対する注意や指導をしたのであって、決していじめているわけではないとの弁解があった一方、前任校長のことを「A級戦犯」、原告のことを「B級戦犯」と発言したこと、原告に向かって「早く帰って、体弱いんだから」と発言したこと、その他、原告に対して感情的に対応したことがあったことなど認める回答があり、他の教職員からも、Aが原告を「な んで俺より先に言うんだ」と叱責したこと、Aが原告を大声で責めていることが二、三日に1回くらいあったこと、Aが原告を日常的に怒鳴っていたこと、Aの原告に対する大声は職員室の半分ほどに聞こえるほどの大きさであったことなどの回答があった。なお、本件中学校では、令和4年度の1年間で、3名の教諭が休職していた。 さいたま市教職員行動指針(乙3の1及び2)では、パワハラの具体例として、指導レベルを超えた叱責をする、独善的なやり方や考え方を教職員に無理やり押し付けるなどが挙げられ、さいたま市教育委員会職員のハラスメントの防止等に関する要綱(乙4)では、パワハラを「職務上の地位や人間関係などの職場等内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、又は職場等環境を悪化させる言動」と定義した上、全ての職員は、パワハラを含むハラスメントについての理解を深め、自らの言動により、これを生じさせないようにしなければならないとし、校長等は、良好な勤務環境を確保するため、日常の る言動」と定義した上、全ての職員は、パワハラを含むハラスメントについての理解を深め、自らの言動により、これを生じさせないようにしなければならないとし、校長等は、良好な勤務環境を確保するため、日常の執務を通じた指導等によりハラスメントの防止に努めるとともに、ハラスメントに起因する問題が生じた場合には、迅速かつ適切に対処しなければならないものとされ、さいたま市教育委員会職員のハラスメントの防止等に関する要綱の運用について(乙5)では、上記「業務の適正な範囲を超えて」とは、本来の業務上の命令や指導の範囲を超えているもののほか、業務上の命令や指導であっても、粗暴な言葉や威圧的な態度等、手段や態様が適切でないものも含まれる旨が示されていたが、教育委員会は、原告の人望の厚さや職務上の貢献度を高く評価し、そのような原告がつらい思いをし、教職員も不快な思いをし、本件中学校の職場環境が良好でなかったことを認めつつ、関係当事者の見解の相違等を理由に原告の調査依頼のあった事案はパワハラの認定には至らないと判断し、Aに対し、良好な職場環境及び校長を含む教職員間の信頼関係の醸成に努めるよう指導するにとどめた。 ⑺ Aは、令和5年度の人事異動により、本件中学校の校長からG中学校の校長に異動することとなったが(甲8、甲11)、原告は、休職を命ぜられた終期であ る令和5年3月31日が到来しても復職することができず、その後も休職せざるを得ない状態が続き、本訴係属中である同年9月30日付けで退職するに至った。なお、原告は、妻の海外赴任に伴い、同年10月26日、肩書住所地に転居した(記録上明らかな事実)。 2 争点⑴(国賠法上の違法性、故意・過失)について検討する。 ⑴ 本件中学校の校長であるAが校務をつかさどり、所属職員を監督する地位にあるのに対し、本件 に転居した(記録上明らかな事実)。 2 争点⑴(国賠法上の違法性、故意・過失)について検討する。 ⑴ 本件中学校の校長であるAが校務をつかさどり、所属職員を監督する地位にあるのに対し、本件中学校の教頭である原告は校長を助け、校務を整理し、及び必要に応じ生徒の教育をつかさどる地位にあった(学校教育法49条、37条4項、7項)から、Aと原告とが職制上の上下関係にあったことは明らかである。これに加えて、上記1で認定した事実によると、Aは、原告がAに対する畏怖の念を抱いていることを認識しつつ、原告に対し、本件中学校に着任した当初から高圧的ないし威圧的な対応に出ており、原告も、これに抵抗又は拒絶することができない態度に終始し、Aの指示は必ず受け入れざるを得ないものとして対応していたから、かかる両者間の実際の応対状況も併せ考慮すれば、Aと原告との間には絶対的な上下関係が形成されていたということができる。 そうすると、上記1で認定したAの原告に対する言動(これに対し、本件各行為のうち、上記1で認定した以外のものについては、これを認めるに足りる的確な証拠はない。)はかかる優越的な関係を背景に行われていたと評価するのが相当である。 ⑵ 次に、上記1で認定したAの原告に対する言動が職務上必要かつ相当な範囲のものであったかを検討する。 上記1で認定した事実によると、原告は、令和3年度に本件中学校に教頭として赴任し、初めての教頭の職務に不慣れなところはあったにせよ、本件中学校の子どもや教職員のために尽力しており、教育委員会からも高い評価を受けていたことに照らせば、令和3年度における原告の教頭としての職務遂行状況に格別大きな問題は生じていなかったと考えられ、このことは、教頭としての職務を1年間にわたっ て経験した後である令和4年度の4 に照らせば、令和3年度における原告の教頭としての職務遂行状況に格別大きな問題は生じていなかったと考えられ、このことは、教頭としての職務を1年間にわたっ て経験した後である令和4年度の4月期ないし5月期においても同様であったと推認される。 ところが、令和4年度に本件中学校の校長として着任したAは、本件中学校のあるべき姿とその実態とが大きくかけ離れているという自らの認識を絶対視し、校長を補佐すべき教頭としての地位にありながら、かかる事態を放置してきた原告にAの認識する問題点を速やかに理解させ、これを早急に是正し、本件中学校の改善を図りたいと考える余り、その着任当初である4月期が教頭としての繁忙期であることや原告がAに対する恐怖心を抱いていることを知りつつ、原告を1日に何度も校長室に呼び出し、上記1で認定した限度ではあるが、原告に教頭としての責任を長時間にわたって執拗に追及したり、校長の教頭に対する指示、指導という体裁ではあっても、原告を大声で過度に厳しく叱責したり、原告を罵倒ないし侮辱したり、原告の人格を否定したりするなど、校長としての職務遂行上、明らかに必要性のない言動やその遂行の手段として不適切な言動を日常的に繰り返していた。このようなAの言動は、Aの校長としての職務、原告の教頭としての職務の持つ各特性を考慮しても、社会通念上許される職務上の指示、指導の範ちゅうを大きく逸脱しており、職務上必要かつ相当な範囲を超えたものであったといわざるを得ない。 ⑶ そして、上記1で認定したAの原告に対する言動は、原告に強い不快感、屈辱感等を与えるものであったというにとどまらず、原告をして、年度初めの繁忙期にありながら、Aとの対応に長時間を費やさせ、Aの指示に基づく新たな職務を負担させ、Aから見ても健康を害するような長時間の時間外労働に えるものであったというにとどまらず、原告をして、年度初めの繁忙期にありながら、Aとの対応に長時間を費やさせ、Aの指示に基づく新たな職務を負担させ、Aから見ても健康を害するような長時間の時間外労働に従事することを余儀なくさせるなど、原告の職務遂行に当たって看過できない程度の支障をもたらすものであって、労働者の就労環境を著しく害するものであった。 ⑷ 以上のような事情を総合すると、上記1で認定したAの原告に対する言動は、パワハラに当たるというべきであり、Aが被告の職員として他の職員に対してパワハラをしてはならない職務上の注意義務を負っていることはいうまでもないから、Aによる上記注意義務違反があった本件においては、国賠法上の違法性、Aの少な くとも過失のいずれも優に認められるというべきである。このことは、Aが、学校教育活動に高い理想を抱き、その職務に熱心な余り、上記のような言動に出たからといって、何ら左右されるものではない。 したがって、被告は、(教育委員会の対応につき国賠法上の違法性、担当職員の故意・過失が認められるか否かにかかわらず、)国賠法1条1項に基づき、公務員であるAがその職務を行うについて原告に加えた違法行為により原告が被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。 3 争点⑵(原告の損害)について検討する。 ⑴ 上記1で認定し、上記2で判示したところによると、Aの原告に対するパワハラは、本件中学校においてパワハラの防止のために部下教職員を指導すべき立場にある校長自身によって短期間のうちに集中的に、かつ恒常的に繰り返されていたものであり、その部下(教頭)である原告の受けた精神的苦痛は甚大なものであったということができる(原告がAの言動に対する拒否的な姿勢を示していなかったことがあるとしても、職場でパワハラを されていたものであり、その部下(教頭)である原告の受けた精神的苦痛は甚大なものであったということができる(原告がAの言動に対する拒否的な姿勢を示していなかったことがあるとしても、職場でパワハラを受けた被害者が内心でこれに強い不快感、屈辱感等を抱きながら、職場の人間関係が悪化することや更なるパワハラ被害を受けることを懸念して加害者に対する抗議や抵抗をちゅうちょすることが少なくないことに照らせば、上記判断を左右する事情であるとはいえない。)。それだけではなく、原告は、Aの原告に対するパワハラに起因して4月期の時間外在校等時間が前年度の同月期と比較して約75時間も増加するなどして心身共に疲弊し、メニエール病や適応障害を発症した結果、短期間の休職を経ただけでは職場に復帰することができず、休職命令まで受け、長期の休業を余儀なくされたもので、これにより、原告の休職後1年間の給与・賞与額(339万3721円)は休職前1年間の給与・賞与額(676万8651円)と比較して337万4930円も減少したこと(当事者間に争いがない。)が認められ、かかる損害(原告主張の逸失利益の実質は休業損害であると認める。)はAの違法行為(パワハラ)と相当因果関係のある損害ということができる。 ⑵ 上記⑴で指摘した事情のほか、原告の依頼により実施された教育委員会の調査において、Aのパワハラを認めるに足りる事情が相当程度収集されていたにもかかわらず、これを認定するに至らず、被害者である原告と加害者であるAを早期に引き離すための配置転換やパワハラを行ったAの懲戒処分も行われなかったことや、Aが現時点においてもパワハラはなかったと強弁し、原告への謝罪はもとより、反省の態度すら示していないこと(証人A)は、いずれも原告の精神的苦痛を更に増大させる事情であったという われなかったことや、Aが現時点においてもパワハラはなかったと強弁し、原告への謝罪はもとより、反省の態度すら示していないこと(証人A)は、いずれも原告の精神的苦痛を更に増大させる事情であったということができる。その他、本件に現れた諸般の事情を考慮すると、原告がAの違法行為(パワハラ)により受けた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては100万円をもって相当と認める。 ⑶ 原告が本件訴訟の追行を同訴訟代理人弁護士に委任したことは記録上明らかであるところ、本件事案の難易、請求額、認容額その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、その弁護士費用としては45万円をもって相当と認める。 ⑷ したがって、原告の総損害は482万4930円(337万4930円+100万円+45万円)となる。なお、仮に教育委員会の対応についての被告の国賠法上の損害賠償責任が更に認められる場合であっても、その損害額は上記で認定した総損害を上回るものではない。 4 以上と異なる原告及び被告の各主張は、上記1で認定し、上記2及び3で判示したところに照らして、いずれも採用することができない。 第4 結論よって、原告の請求は、被告に対し、482万4930円及びこれに対する令和5年8月5日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容することとして、主文のとおり判決する。 さいたま地方裁判所第4民事部 裁判長裁判官田中秀幸 裁判官中島朋宏 裁判官丸山智大は、差支えにつき、署名押印することができない。 裁判長裁判官田中秀幸 裁判官丸山智大は、差支えにつき、署名押印することができない。 裁判長裁判官田中秀幸

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る