平成16(ワ)18933 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成19年10月29日 東京地方裁判所 棄却
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判決文本文91,246 文字)

平成19年10月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(ワ)第18933号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成19年7月26日判決主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告らは,原告に対し,連帯して1億円及びこれに対する平成11年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,平成11年4月から平成12年3月まで,被告学校法人a大学(以下「被告a大学」という。)の設置するa大学医学部に在籍し,同大学同学部を中途退学後,平成13年4月から平成16年3月まで,被告国立大学法人b大学(以下「被告b大学」という。)の設置するb大学医学部に在籍した原告が,各医学部での解剖学実習において被告らがホルムアルデヒド曝露等についての安全配慮義務を怠ったことにより,化学物質過敏症(あるいは,ホルムアルデヒドによる重篤な健康被害)を発症し,その結果,医学部教育を受け続けることが困難となり,医学部を卒業して医師になるのを断念せざるを得なくなったと主張して,被告らに対し,共同不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき,損害賠償金の一部を請求する事案である。 前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告 原告は,昭和○○年○月○○日生まれの女性であり,平成11年4月から平成12年3月までの間,a大学医学部に,平成13年4月から平成16年3月までの間,b大学医学部にそれぞれ在籍していた。 イ被告ら(ア)被告b大学は,b大学及びb大学医学部附属病院(以下「b大学病院」という。)を設置する国立学校法人である。 (イ)被告a大学は,a大学及びa大学医学部付属病院(以下「a大学病院 イ被告ら(ア)被告b大学は,b大学及びb大学医学部附属病院(以下「b大学病院」という。)を設置する国立学校法人である。 (イ)被告a大学は,a大学及びa大学医学部付属病院(以下「a大学病院」という。)等を設置する学校法人である。 (2)a大学における事実経過ア原告は,平成11年3月,c大学大学院法学政治学研究科修士課程を修了し,同年4月1日,a大学医学部3年次に学士編入学した。 イ平成11年4月20日,原告は,a大学医学部において,解剖学実習を受け始めた。 ウ平成11年4月ないし5月,原告は,解剖学実習の担当であったd教授(以下「d教授」という。)に対し,体調不良を訴えた。 エ平成11年4月28日,原告は,a大学保健管理室e医師(以下「e医師」という。)の勧めにより,a大学病院精神科を受診した。a大学病院精神科のf医師(以下「f医師」という。)は,原告を「抑うつ状態」と診断し,原告に対し,抗うつ薬を処方した。 オ平成11年6月19日,原告は,a大学病院精神科に入院して,投薬を受け,同年8月18日,退院した。 カ原告は,平成11年10月1日からa大学医学部を休学し,平成12年3月,同大学同医学部を中途退学した。 (3)b大学における事実経過ア平成13年4月1日,原告は,b大学医学部に学士編入学した。 イ平成13年5月15日,原告は,b大学医学部において,肉眼解剖学実 習を受け始めた(甲A5,乙A50)。 ウ平成13年6月5日,原告は,試験中に倒れ,b大学病院総合診療部に搬送された。 エ平成13年6月23日,原告は,g眼科クリニックで,「ホルマリンによる過敏アレルギー反応を認め,(両)角膜上皮剥離,(両)結膜炎を認めた」旨の診断を受けた。 オ原告は,平成13年6月ころから,解剖学実習中,ゴーグルと活性炭入り防 科クリニックで,「ホルマリンによる過敏アレルギー反応を認め,(両)角膜上皮剥離,(両)結膜炎を認めた」旨の診断を受けた。 オ原告は,平成13年6月ころから,解剖学実習中,ゴーグルと活性炭入り防塵マスクの使用を開始した。 カ平成13年6月28日,原告は,解剖学実習中に倒れ,b大学病院総合診療部に搬送され,高度救命救急センターに入院した。 キ平成13年8月14日,原告は,h病院で,「気管支喘息,ホルマリン等の刺激物質の吸入は避ける必要がある」旨の診断を受けた。 ク原告は,平成13年10月1日から,b大学医学部を休学した。 ケ平成14年2月20日,原告は,i病院臨床環境医学センターにおいて,j医師(以下「j医師」という。)から,「多種類化学物質過敏症であり,眼球追従運動障害,瞳孔対光反応での自律神経失調症が認められる」旨の診断を受けた。 コ原告は,平成14年2月下旬,復学届と共に,診断書,j医師の意見書をb大学に送付した。 サb大学の肉眼解剖学実習担当教授は,平成14年3月11日,原告に対し,4月以降,b大学医学部が,医学的立場から,肉眼解剖学実習が原告に危険性が高いと総合的に判断した場合には,解剖学実習を何か他の学習形態に代替えし,試験のみを他学生と同様に行い,これに合格すれば単位認定をする用意をしている旨通知した。 シ原告は,平成14年4月からb大学を欠席し,同年9月10日から休学した。そして,平成16年3月末日,b大学を退学した。 (4)a大学在学中のその余の事実経過及びa大学病院におけるその余の診療経過は,別紙「診療経過等一覧表(a大学)」(略)記載のとおりであり,b大学在学中のその余の事実経過及びb大学病院におけるその余の診療経過は,別紙「診療経過等一覧表(b大学)」(略)記載のとおりである。また,a大学在学中及 覧表(a大学)」(略)記載のとおりであり,b大学在学中のその余の事実経過及びb大学病院におけるその余の診療経過は,別紙「診療経過等一覧表(b大学)」(略)記載のとおりである。また,a大学在学中及びb大学在学中を除く本件事実経過は,別紙「時系列表」(略)記載のとおりである(ただし,いずれも当事者の主張に争いがある部分を除く。)。 (5)文部科学省高等教育局医学教育課長通知ア文部科学省高等教育局医学教育課長は,平成13年2月23日付で,医学部又は歯学部を置く国公私立大学の事務局長に宛てて,「医学部及び歯学部の室内空気環境汚染の防止等について」と題する依頼文書を発した(乙A1)。 イまた,文部科学省高等教育局医学教育課長は,平成13年4月20日付で,医学部又は歯学部を置く国公私立大学の事務局長に宛てて,「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する通知を発し,ホルマリン使用時には,その濃度に応じて,室内にホルムアルデヒドが気化し,毒性を保つことがあるので,空気環境の改善に努めることなどを提言した(乙A1)。 争点 (1)ホルムアルデヒド曝露によって生じた原告の障害の有無及びその内容(原告の主張)ア化学物質過敏症について化学物質過敏症は,「過去にかなり大量の化学物質に一度に接触し急性中毒症状が発現したあとか,または有害化学物質に長期にわたり接触した場合,次の機会にかなり少量の同種または同系統の化学物質に再接触した場合にみられる不快な臨床症状」をいう。一旦過敏性を獲得してしまうと, その後は想像を絶するような微量な化学物質にも反応を示すようになり,また,一般にその経過中,反応を示す化学物質が増加して,多種類の化学物質に反応を示すようになる。化学物質への曝露を続けると,自律神経等に異常を来し,免疫機能や内分 化学物質にも反応を示すようになり,また,一般にその経過中,反応を示す化学物質が増加して,多種類の化学物質に反応を示すようになる。化学物質への曝露を続けると,自律神経等に異常を来し,免疫機能や内分泌機能のバランスを崩し,外出不能になるなど,通常の生活を送ることができなくなってしまう。 平成9年には,厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班によって化学物質過敏症の診断基準が設定され,診断のためには,詳細な問診(化学物質との接触歴),臨床検査(瞳孔反応検査,眼球追従運動検査,視覚空間周波数特性検査,調節検査,SPECT検査等)が行われる。 イ原告の症状について原告は,c大学大学院に在学中及びa大学医学部で解剖実習が始まる前の時期,PTSDによる症状を除けば極めて健康であり,ホルムアルデヒド曝露の後に生じた症状は見られなかった。また,PTSDにより原告に見られた症状とその後のホルムアルデヒド曝露による症状とは全く異なるものであり,ホルムアルデヒド曝露の後に生じたような症状はそれ以前には見られなかった。 ところが,解剖学実習が始まり,ホルムアルデヒドに曝露した後,睡眠サイクルの乱れ,肩凝り,倦怠感,耳が詰まった感じ,食欲不振,便秘,頭痛,原因不明の発熱,発疹,喉の違和感,膀胱炎等の症状が生じ,a大学退学後の自宅療養により一時緩和されたものの,b大学での解剖実習により再び悪化し,日常生活及び学業の継続に大きな支障が出た。 化学物質過敏症は多彩な症状を生じるものであるところ,前記症状は,化学物質過敏症によるものと理解可能なものであり,解剖学実習開始前に生じていたPTSDの症状と内容,程度が大きく異なることからすれば,原告は,解剖学実習におけるホルムアルデヒド曝露によって化学物質過敏症を発症し,前記の具体的症状が出現したものである。 ま 前に生じていたPTSDの症状と内容,程度が大きく異なることからすれば,原告は,解剖学実習におけるホルムアルデヒド曝露によって化学物質過敏症を発症し,前記の具体的症状が出現したものである。 また,仮に原告が化学物質過敏症を発症したとまでは認められないとしても,原告の前記の具体的症状は,解剖学実習におけるホルムアルデヒド曝露を原因として生じたものである。 (被告b大学の主張)ア化学物質過敏症について(ア)化学物質過敏症については,病態や発生機序が不明確であり,確定的な定義や客観的な診断基準もなく,医学的に確立された概念とはいえない。 (イ)原告に対し,化学物質過敏症との診断がされているが,その診断がされるに当たって,原告は,k病院やa大学病院精神科の受診歴や診断結果,症状等を正確に申告しておらず,信頼性のある診断がされたとはいえない。 イ原告の主張する症状について以下の点からすれば,原告の主張する症状がホルムアルデヒド曝露によって生じたものとは考えられない。 (ア)ホルムアルデヒド負荷試験の結果によって,原告の主張する症状とホルムアルデヒドとの関係に有意な結果は得られていない。 (イ)原告の主張する症状は,いずれもb大学入学前,あるいはa大学入学前からすでに生じていたものであり,解剖学実習後,それまでにないどのような症状が新たに発症したのか,あるいは,それまでにあったどのような症状がどのように重篤化したのかについて,原告は,具体的な主張を明らかにしていない。 (ウ)原告がホルムアルデヒドに曝露されているときに,原告の主張する強い症状が出ているわけではない。 かえって,試験中や試験直前等の強いストレスが加わっている時期や過労状態にある時に,激しい咳,過換気状態,意識障害などの強い 症状が多く生じており,それらは,スト 強い症状が出ているわけではない。 かえって,試験中や試験直前等の強いストレスが加わっている時期や過労状態にある時に,激しい咳,過換気状態,意識障害などの強い 症状が多く生じており,それらは,ストレスや過労状態に起因したものと考えることができる。 (エ)また,原告には転換性障害(ヒステリー症)の疑いがあり,過換気発作,嗄声,意識障害等の症状は,同障害により説明することも可能である。原告が受けた検査等の研究成果をまとめた「本態性多種化学物質過敏状態の調査研究報告書」(乙B2)でも,「いわゆる化学物質過敏症の中には,化学物質以外の原因(ダニやカビ,心因等)による病態が含まれていることが推察された。」と述べられており,心因性の病態も含められている。 (被告a大学の主張)以下の点からすれば,原告の主張する症状がホルムアルデヒド曝露によるものとは考えられず,むしろ,抑うつ状態等の精神疾患によるものと考えるのが合理的である。 ア原告がa大学における解剖学実習に出席した以降のa大学病院及びk病院のカルテ(丙A1ないし3)によれば,原告は,精神的現症としての症状を除いて,特段の身体症状を訴えておらず,他の所見も認められていない。 なお,原告は,ホルムアルデヒド曝露によって発生したとする障害について,ホルムアルデヒド曝露前から罹患しているうつ病の症状と区別できない症状を主張しているにすぎず,障害発生時期,障害内容を特定していない。 イ原告は,解剖学実習におけるホルムアルデヒド曝露前から,すでに学業上の障害という精神疾患の因子を有しており,これをk病院の医師に訴えていた。 ウ原告を化学物質過敏症と診断したj医師の回答書(甲B47)によれば,精神疾患に起因する症状と化学物質過敏症の患者の症状との厳密な区分は そもそも困難であるとされているとこ 医師に訴えていた。 ウ原告を化学物質過敏症と診断したj医師の回答書(甲B47)によれば,精神疾患に起因する症状と化学物質過敏症の患者の症状との厳密な区分は そもそも困難であるとされているところ,j医師は,原告に対し,化学物質過敏症との診断をするに当たり,原告から精神科受診歴を伝えられていなかった。 したがって,j医師が化学物質過敏症と診断したことをもって,原告の症状が精神疾患ではなくホルムアルデヒド曝露によるものであると確定することはできない。 (2)被告a大学の安全配慮義務違反の有無(原告の主張)被告a大学は,以下の各義務を適時適切に履行すべき安全配慮義務を負っていたところ,これを怠った。 ア事前の一般的注意義務(ア)注意義務ホルマリンから発生するホルムアルデヒドは,健康を害する化学物質であり,平成11年4月当時,規制基準(労働者安全衛生法,毒物及び劇物の規制に関する法律等諸法令)も存在していたのであるから,被告a大学は,遺体の固定にホルマリンを用いていた以上,解剖学実習に参加する学生の健康を損なわないため,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を主位的にはWHO(世界保健機関)の定める居室基準(0.08ppm)以下に,予備的には作業場基準(0.5ppm)以下に抑えるべき義務があった。これらの基準値は,一般的に人が健康被害を受ける可能性と物質の有用性を考慮して社会的な相当性から定められたものであるから,その基準値を超えたホルムアルデヒド曝露が健康被害を生じさせることは容易に予見可能である。 そして,とられるべき一般的回避措置は,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,気中ホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑えることであり,基準値内に抑えられないときは,個人曝露対策を徹底し,個人曝露を可 能な限り抑えることである。 具体的に ,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,気中ホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑えることであり,基準値内に抑えられないときは,個人曝露対策を徹底し,個人曝露を可 能な限り抑えることである。 具体的には,被告a大学には以下の措置をとるべき注意義務があった。 a解剖学実習室における気中ホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑えるために,解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度を定期的に計測する。 b人の健康に有害な物質であるホルマリンを遺体固定のために使用しない。 c仮に使用するとしても,注入固定法ではなく環流固定法にする。 d仮に使用しても,アルコール置換等で残存を最小にする。 e遺体の保管中にホルムアルデヒドをアンモニアやアンモニウム塩で減らす。 f気温上昇とともにホルムアルデヒド発生量が増えるので,解剖学実習室の気温を下げる。 g解剖学実習室に特別に強力な強制換気システムを導入する。 h解剖台の改修を含めた局所換気装置を導入する。 iホルムアルデヒド除去ゲルを設置する。 j個人曝露を最小限にするために下方へ排気される解剖台を導入する。 k個人曝露を最小限にするために効果的なマスク,ゴーグルを使用させる。なお,マスク・ゴーグルについては,その種類により有効性に差があるところ,活性炭繊維マスクは一定の効果があり,ポシェット型の循環式タンクがついたマスクはそれ以上に有効性がある。 l個人曝露を最小限にするために,剖出作業の一部を教員が行ったり,シュミレーション用の各種ソフトを教材として利用するなどの代替的方法を用いて,学生の曝露時間を低減する。 (イ)注意義務違反被告a大学においては,平成11年4月までに,解剖学実習室におけ る気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,気中ホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑える義務があったが,これに違反し (イ)注意義務違反被告a大学においては,平成11年4月までに,解剖学実習室におけ る気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,気中ホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑える義務があったが,これに違反し,解剖学実習室においては,基準値を大幅に超えていた。また,個人曝露対策を実施し,個人曝露を可能な限り抑える義務があったが,これにも違反していた。 イホルムアルデヒドの危険性等についての説明義務(ア)注意義務解剖学担当のd教授は,解剖学実習の前に,ホルムアルデヒドの危険性,防護法の必要性を学生に説明し,体調不良が起こったら直ちに担当教員に申し出るよう指導すべき注意義務があった。特に,ホルムアルデヒド曝露による化学物質過敏症は誰に起こるか予測できず,被告a大学においては気中ホルムアルデヒド濃度を測定しておらず,気中ホルムアルデヒド濃度は基準値をはるかに超えた高濃度であったと考えられ,また個人曝露防止策も不十分だったのであるから,説明,指導の必要性は高かった。 (イ)注意義務違反ところが,d教授は,前記説明,指導を行わなかった。 ウ健康被害が発生したときの初期の一時的曝露回避義務,説明義務(ア)注意義務解剖学実習において原告が健康被害を訴えたとき,d教授は,その健康被害が解剖学実習のホルムアルデヒド曝露が原因ではないかと疑い,そのことを原告に説明し,原告に休憩をとらせて,一時的に曝露を回避させるべきであった。 (イ)注意義務違反ところが,d教授は,原告に対し,「じゃあ,ちょっと実習室の外で座ってきなさい」と述べたものの,その体調不良についてホルムアルデヒド曝露との関連性が疑われることを説明しなかった。 エ解剖学実習での健康被害が継続した時点で,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,基準値内に抑える対策措置をとるべき義務(ア) てホルムアルデヒド曝露との関連性が疑われることを説明しなかった。 エ解剖学実習での健康被害が継続した時点で,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,基準値内に抑える対策措置をとるべき義務(ア)注意義務d教授には,原告からその後も健康被害が継続していることを訴えられた時点で,原告の健康被害の原因が解剖学実習室のホルムアルデヒド曝露である蓋然性が高いことを経験的に推定し,a大学管理部門に対し,解剖学実習室内の気中ホルムアルデヒド濃度を測定すること,解剖学実習室のホルムアルデヒド曝露を基準値内に抑えるための回避措置(前記ア(ア)bないしi)をとることを提案すべき義務があった。 そして,a大学管理部門は,その提案を受け,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,前記回避措置を実施すべき義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,d教授は,原告の健康被害を精神的な原因によるものと判断して,前記提案を行わず,a大学管理部門は,気中ホルムアルデヒド濃度の測定及び前記回避措置を実施しなかった。 オ解剖学実習での健康被害が継続した時点で,ホルムアルデヒドの個人曝露を減少させる対策措置をとる義務(ア)注意義務前記エの時点で,d教授は,原告のホルムアルデヒドの個人曝露を減少させるために,下方へ排気される解剖台を導入し,曝露を減少させる効果のあるマスク・ゴーグルを使用させる措置をとるべき義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,d教授は,原告の健康被害を精神的な原因によるものと判断し,前記措置をとらなかった。 カ解剖学実習での健康被害が継続した時点で,化学物質過敏症の専門医受診を勧告すべき義務 (ア)注意義務原告の健康被害とホルムアルデヒド曝露との関連性が疑われたのであるから,d教授には,上記エの時点で,原告に対し,化学物質過敏症専門 学物質過敏症の専門医受診を勧告すべき義務 (ア)注意義務原告の健康被害とホルムアルデヒド曝露との関連性が疑われたのであるから,d教授には,上記エの時点で,原告に対し,化学物質過敏症専門医の受診を勧める注意義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,d教授は,原告の健康被害を精神的な原因であると判断し,原告に対し,化学物質過敏症専門医の受診を勧めなかった。 キ健康被害が継続したとき,解剖学実習に代わる方法を用意して,解剖学実習から遠ざける義務(予備的主張)(ア)注意義務仮に,被告a大学が前記エ,オの注意義務を尽くしていたとしても,原告が健康被害を継続していた場合,被告a大学には,解剖学実習に代わる方法を用意して,原告を解剖学実習から遠ざける義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,被告a大学は,解剖学実習に代わる方法を用意せず,原告を解剖学実習から遠ざけることを怠った。 クl保健管理室e医師の義務(ア)注意義務原告は,解剖学実習開始後の平成11年4月27日,著しい健康被害を訴え,被告a大学の保健管理室のe医師の診察を受けた。その際,e医師は,①遺体の固定にホルマリンが使用されていたこと,②ホルマリンが気化して発生するホルムアルデヒドが有害であると認識していたと考えられること,③原告が解剖学実習室でホルムアルデヒドに曝露していたこと,④解剖学実習が始まると医学部学生が健康を害し保健管理室に来る者が増えるという経験をしていたことから,適切な問診を行い,ホルムアルデヒド曝露と原告の健康被害との関係を疑い,d教授と連絡 をとり,前記エ及びオの措置を行うべき義務があった。 さらに,化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,e医師は,前 をとり,前記エ及びオの措置を行うべき義務があった。 さらに,化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,e医師は,前記措置をとらなかった。 ケ精神科外来受診時のf医師の義務(ア)注意義務原告は,平成11年4月28日,被告a大学病院の精神科を受診し,f医師の診察を受けた。その際,f医師は,①a大学医学部において遺体の固定にホルマリンを使用していること,②ホルマリンが気化して発生するホルムアルデヒドが有害であること,③原告が解剖学実習室でホルムアルデヒドに曝露していることから,適切な問診を行い,ホルムアルデヒド曝露と原告の体調不良との関係を疑い,d教授と連絡をとり,前記エ及びオの措置を行うべき義務があった。さらに,化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,f医師は,前記措置をとらなかった。 コ精神科外来の治療で改善しなかったときのf医師の注意義務(ア)注意義務原告は,a大学病院精神科の治療を受けても体調が良くならず,むしろ薬剤すなわち化学物質の投与によって,病状が悪化した。したがって,f医師は,その時点で,適切な問診を行い,精神疾患以外の疾患を疑って,原告に対し,化学物質過敏症の専門医受診を勧めるべき義務があった。 原告の症状から化学物質過敏症を診断するには,化学物質過敏症を疑 ったときに用いる問診票について知っている必要があり,それはf医師には困難であったかもしれないが,原告のおかれた特殊な環境からすれば,化学物質過敏症を疑って専門医受診を勧めることは容易であった。 (イ)注意義務違反ところが,f医師は,前記措置をとらずに,原告に精神科入院を勧め,入院させた。 原告のおかれた特殊な環境からすれば,化学物質過敏症を疑って専門医受診を勧めることは容易であった。 (イ)注意義務違反ところが,f医師は,前記措置をとらずに,原告に精神科入院を勧め,入院させた。 サ精神科での入院治療で体調不良が悪化したときのa大学病院の医師の注意義務(ア)注意義務原告が,平成11年6月19日,a大学病院精神科に入院し,投薬治療を受けても体調が良くならず,かえって悪化していったとき,f医師らa大学病院の医師は,精神疾患以外の疾患を疑って,原告に対し,化学物質過敏症の専門医受診を勧めるべきであった。 (イ)注意義務違反ところが,f医師らa大学病院の医師は,精神疾患と決めつけ,前記措置をとらなかった。 シ入院させて進路障害を生じさせた義務違反(ア)注意義務患者が学生である場合,医師は,入院治療に際して,進級等の事情に配慮する義務がある。 (イ)注意義務違反ところが,f医師らa大学病院の医師は,精神疾患と誤診したうえ,病院から学校に通えると欺罔のうえで不必要な入院をさせ,さらに,入院後試験を受けることを禁止したため,原告は解剖学の本試験の一部及びその再試験を受けられなくさせられた。 ス入院を早期に取り消さなかった義務違反 (ア)注意義務入院直後の診断により,原告には希死念慮が存在しないことが明確になったのであるから,f医師らa大学病院の医師は,直ちに入院を取り消す配慮が必要であった。 (イ)注意義務違反ところが,f医師らは,前記措置をとらずに,原告の入院を継続させた。 セ再入学を拒んだ義務違反(ア)注意義務被告a大学は,原告に退学を勧めた時点において,一旦退学として扱うが,原告が希望すれば,いつでも原告の再入学を許可するとの約束を原告の両親としていた。したがって,原告が再入学を希望す ア)注意義務被告a大学は,原告に退学を勧めた時点において,一旦退学として扱うが,原告が希望すれば,いつでも原告の再入学を許可するとの約束を原告の両親としていた。したがって,原告が再入学を希望すれば,これを受け入れる義務を負っていた。 (イ)注意義務違反ところが,被告a大学は,平成14年5月の原告の再入学の申請に対し,踏み絵を踏ませるような試験を行って原告を不合格とし,再入学を拒否した。 (被告a大学の主張)被告a大学は,安全配慮義務を尽くしていたものであり,安全配慮義務違反はない。 ア事前の一般的注意義務(原告の主張ア)について(ア)気中ホルムアルデヒド濃度の規制基準についてa原告がa大学においてホルムアルデヒドに曝露した平成11年4月当時,解剖学実習室における気中ホルムアルデヒド濃度の規制基準は存在していなかった。 b原告は,当時の厚生省の居室環境基準である0.08ppm及びW HOの作業場環境基準0.5ppmを基準として主張する。 しかし,解剖学実習室は,居住空間ではなく,医師を養成するための実習の場であり,かつ,解剖体の固定のためにホルマリンの使用は避けられないことから,解剖学実習室における気中ホルムアルデヒド濃度の基準として居室環境基準を用いることは不適切である。 また,作業場環境基準も,健康に関する高い目標の達成を目的とするWHOが発表した基準であり,規制を直接の目的とするものではない。また,「作業場」という極めて対象の広範囲な空間に対する基準を解剖学実習室という特殊な環境に対して直ちに適用することも不適切である。 よって,原告の主張する居室環境基準及び作業場環境基準から解剖学実習室におけるホルムアルデヒド濃度についての一般的注意義務が発生するものではない。 (イ)ホルムアルデヒド曝露回避措置について る。 よって,原告の主張する居室環境基準及び作業場環境基準から解剖学実習室におけるホルムアルデヒド濃度についての一般的注意義務が発生するものではない。 (イ)ホルムアルデヒド曝露回避措置について以下のとおり,被告a大学には,原告の主張する措置についての注意義務違反はなかった。 aホルマリンの使用についてホルマリンを使用しないことは不可能である。 b環流固定法について注入固定法と環流固定法は同じものであり,原告の主張は失当である。 cアルコール置換についてa大学では,平成11年4月当時から,アルコール置換が実施されいた。 dアンモニア,アンモニウム塩についてアンモニア,アンモニウム塩は使用していなかったものの,その代 わりに水やフェノールを散布していたものである。 e解剖学実習室内の気温についてa大学では,平成11年4月当時,換気装置による温度調節にて,室温を下げていた。 f強制換気システムについてa大学では,平成11年4月当時,天井から吸気して床面に近い排気口から出す方式で換気を行っていた。 g局所換気装置,ホルムアルデヒド除去ゲル,下方へ排気される解剖台について平成11年4月当時,いずれも一般的に普及しているものではなかった。 hマスク,ゴーグルの使用についてa大学では,平成11年4月当時から,マスク,ゴーグルの使用を認めていた。 イホルムアルデヒドの危険性等についての説明義務(原告の主張イ)について(ア)前記原告の主張イで主張されているd教授の説明義務は,何を説明すべきかが具体的に明らかにされておらず,また,原告の症状との間に因果関係があるのか否かも不明である。 (イ)d教授は,解剖学実習の前に,注意点等を説明し,体調不良が起こったら直ちに申し出るよう指導していた。そして,現に原告が体調不良 また,原告の症状との間に因果関係があるのか否かも不明である。 (イ)d教授は,解剖学実習の前に,注意点等を説明し,体調不良が起こったら直ちに申し出るよう指導していた。そして,現に原告が体調不良を訴えたことから,d教授は,原告を解剖学実習室の外で休ませたものであり,適切な対処をしていた。 (ウ)前記(1)被告a大学の主張のとおり,そもそも原告の体調不良はホルムアルデヒド曝露が原因ではなく,精神疾患が原因であったから,いずれにせよ,本件において,ホルムアルデヒドの危険性についての説明 義務は問題とはならない。 ウその他のd教授の義務(原告の主張ウないしカ)について前記原告の主張ウないしカにおいて原告が主張するd教授の義務は,いずれも原告の体調不良の原因がホルムアルデヒド曝露であったことを前提とするものである。しかし,原告の体調不良の原因は,ホルムアルデヒド曝露ではなく,精神疾患にあったから,いずれの義務も存在しない。 エ体調不良が継続したとき,解剖学実習に代わる方法を用意して,解剖学実習から遠ざけるべき義務(原告の主張キ)について解剖学実習は,個人毎に異なる複雑かつ多様な人体に関する解剖学の知識を習得するものであり,その医学教育における重要性に照らせば,代替措置をとるべき法的義務は存在しない。 オe医師,f医師らの義務(原告の主張クないしサ)について前記原告の主張クないしサにおいて原告が主張するe医師又はf医師らの義務は,原告の体調不良の原因がホルムアルデヒド曝露であったことを前提とするものである。しかし,原告の体調不良の原因は,ホルムアルデヒド曝露ではなく,精神疾患にあったから,いずれの義務も存在しない。 カ入院,再入学に関する義務(原告の主張シないしセ)について争う。 (3)被告b大学の安全配慮義務違反の有無(原告 ルムアルデヒド曝露ではなく,精神疾患にあったから,いずれの義務も存在しない。 カ入院,再入学に関する義務(原告の主張シないしセ)について争う。 (3)被告b大学の安全配慮義務違反の有無(原告の主張)被告b大学は,以下の各義務が複合した安全配慮義務を負っていたところ,これを怠った。 ア事前の一般的注意義務(ア)注意義務ホルマリンから発生するホルムアルデヒドは,健康を害する化学物質であり,平成13年5月当時,規制基準も存在していたのであるから, 被告b大学は,遺体の固定にホルマリンを用いていた以上,解剖学実習に参加する学生の健康を損なわないため,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を主位的にはWHO(世界保健機関)の定める居室基準(0. 08ppm)以下に,予備的には同作業場基準(0.5ppm)以下に抑えるべき義務があった。これらの基準値は,一般的に人が健康被害を受ける可能性と物質の有用性を考慮して社会的な相当性から定められたものであるから,その基準値を超えたホルムアルデヒド曝露が健康被害を生じさせることは容易に予見可能である。 しかも,平成13年4月当時においては,既に文部科学省高等教育局医学教育課長により,医学部又は歯学部を置く国公立大学の事務局長に宛てて,「医学部及び歯学部の室内空気環境汚染の防止等について」とる依頼文書(平成13年2月23日付),「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する通知(平成13年4月20日付)が発せられていたのであるから,被告b大学が予見すべき義務は一層明白であった。 そして,とられるべき一般的回避措置は,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,気中ホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑えることであり,基準値内に抑えられないときは,個人曝露対策を徹底し,個人曝露を可能な限り抑える られるべき一般的回避措置は,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,気中ホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑えることであり,基準値内に抑えられないときは,個人曝露対策を徹底し,個人曝露を可能な限り抑えることである。 具体的には,被告b大学には,以下の措置をとるべき注意義務があった。 a解剖学実習室における気中ホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑えるために,解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度を定期的に測定する。 b人の健康に有害な物質であるホルマリンを遺体固定のために使用しない。 c仮に使用するとしても,注入固定法ではなく環流固定法にする。 d仮に使用しても,アルコール置換等で残存を最小にする。 e遺体の保管中にホルムアルデヒドをアンモニアやアンモニウム塩で減らす。 f気温上昇とともにホルムアルデヒド発生量が増えるので,解剖学実習室の気温を下げる。 g解剖学実習室に特別に強力な強制換気システムを導入する。 h解剖台の改修を含めた局所換気装置を導入する。 iホルムアルデヒド除去ゲルを設置する。 j個人曝露を最小限にするために下方へ排気される解剖台を導入する。 k個人曝露を最小限にするために効果的なマスク,ゴーグルを使用させる。なお,マスク・ゴーグルについては,その種類により有効性に差があるところ,活性炭繊維マスクは一定の効果があり,ポシェット型の循環式タンクがついたマスクはそれ以上に有効性がある。 l個人曝露を最小限にするために,剖出作業の一部を教員が行ったり,シュミレーション用の各種ソフトを教材として利用するなどの代替的方法を用いて,学生の曝露時間を低減する。 (イ)注意義務違反被告b大学には,平成13年4月までに,解剖学実習室における気中ホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑えるよう努めた形跡がない。したがって,平成13 て,学生の曝露時間を低減する。 (イ)注意義務違反被告b大学には,平成13年4月までに,解剖学実習室における気中ホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑えるよう努めた形跡がない。したがって,平成13年4月当時,解剖学実習室は基準値以上の気中ホルムアルデヒド濃度であったであろうことが合理的に推定できる。また個人曝露対策を徹底し,個人曝露を可能な限り抑える対策もとられていなかったので,被告b大学は前記義務に違反していた。 イホルムアルデヒドの危険性等についての説明義務(ア)注意義務 被告b大学の解剖学の担当教授は,解剖学実習の前に,ホルムアルデヒドの危険性,防護法の必要性を学生に説明し,体調不良が起こったら直ちに担当教員に申し出るよう指導すべき注意義務があった。特に,ホルムアルデヒド曝露による化学物質過敏症は誰に起こるか予測できず,被告b大学においては気中ホルムアルデヒド濃度を測定しておらず,気中ホルムアルデヒド濃度は基準値をはるかに超えた高濃度であったと考えられ,また個人曝露防止策も不十分だったのであるから,説明,指導の必要性は高かった。 (イ)注意義務違反ところが,解剖学の担当教授は,前記説明,指導を行わなかった。 ウ解剖学実習での顕著な健康被害が継続した時点で,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,基準値内に抑える対策措置をとる義務(ア)注意義務平成13年5月,原告が被告b大学のm教授(以下「m教授」という。)に対し健康被害を訴えた時点,または同年6月,原告が,解剖学担当のn教授(以下「n教授」という。)に対し,解剖学実習により顕著な健康被害が継続しているため,換気システムを作動するよう頼んだ時点で,同教授らには,適切な問診をし,原告の健康被害の原因が解剖学実習室のホルムアルデヒド曝露である蓋然性が高いことを経験的に推 顕著な健康被害が継続しているため,換気システムを作動するよう頼んだ時点で,同教授らには,適切な問診をし,原告の健康被害の原因が解剖学実習室のホルムアルデヒド曝露である蓋然性が高いことを経験的に推定し,b大学管理部門に対し,解剖学実習室内の気中ホルムアルデヒド濃度を測定すること,解剖学実習室のホルムアルデヒド曝露を基準値内に抑えるための回避措置(前記ア(ア)bないしi)をとることを提案すべき義務があった。 そして,b大学管理部門は,その提案を受け,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,前記回避措置を実施すべき義務があった。 (イ)注意義務違反 ところが,n教授らは,原告の顕著な健康被害を精神的な原因によるものと判断して,前記提案を行わず,b大学管理部門は,気中ホルムアルデヒド濃度の測定及び前記回避措置を実施しなかった。 エ解剖学実習での顕著な健康被害が継続した時点で,ホルムアルデヒドの個人曝露を減少させる対策措置をとる義務(ア)注意義務前記ウの時点で,n教授らは,原告に生じている健康被害が解剖学実習のホルムアルデヒド曝露が原因ではないかと疑い,そのことを原告に説明し,原告に休憩を取らせるなど曝露回避措置を取る義務があった。 また,原告のホルムアルデヒドの個人曝露を減少させるために,下方へ排気される解剖台を導入し,曝露を減少させる効果のあるマスク・ゴーグルを使用させる措置をとるべき義務があった。 さらに,少なくともホルムアルデヒドによる健康被害を念頭に置いたうえで,原告に対し,専門医への受診を勧める義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,n教授らは,原告の顕著な健康被害を精神的な原因によるものと判断し,前記措置をとらなかったうえ,マスクやゴーグルの着用を禁止した。 オ健康被害が継続したとき,解剖学実習に代わる方法を用意し ころが,n教授らは,原告の顕著な健康被害を精神的な原因によるものと判断し,前記措置をとらなかったうえ,マスクやゴーグルの着用を禁止した。 オ健康被害が継続したとき,解剖学実習に代わる方法を用意して,解剖学実習から遠ざける義務(予備的主張)(ア)注意義務仮に,被告b大学が前記ウ,エの注意義務を尽くしていたとしても,なお原告が健康被害を継続していた場合,被告b大学には,解剖学実習に代わる方法を用意して,原告を解剖学実習から遠ざける義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,被告b大学は,平成13年5月,原告がm教授に対して, 解剖学実習による健康被害を訴え,平成13年6月,n教授に対して,健康被害の継続を訴えていたにもかかわらず,解剖学実習に代わる方法を用意せず,原告を解剖学実習から遠ざけることを怠った。 カb大学病院の医師の注意義務その1(ア)注意義務原告が,平成13年6月4日から同月7日,b大学病院を受診し,o医師(以下「o医師」という。)らの診察を受けたとき,o医師らは,①遺体の固定にホルマリンが使用されていたこと,②ホルマリンが気化して発生するホルムアルデヒドが有害であると認識していたと考えられること,③原告が解剖学実習室でホルムアルデヒドに曝露していたことから,適切な問診を行い,ホルムアルデヒド曝露と原告の顕著な健康被害との関係を疑い,n教授と連絡をとり,前記ウないしオの措置を行うべき義務があった。 また,原告は,平成13年6月4日,診察を受けた際,同年5月31日から喉の調子が悪くなり,声がかすれるようになったこと,胃痛,嘔吐の症状があることを訴えており,同月5日以降は,呼吸器の状態が悪化したのであるから,b大学病院の担当医師らは,適切な問診を行い,ホルムアルデヒドの曝露の影響を疑って,原告に対し化学物質過 胃痛,嘔吐の症状があることを訴えており,同月5日以降は,呼吸器の状態が悪化したのであるから,b大学病院の担当医師らは,適切な問診を行い,ホルムアルデヒドの曝露の影響を疑って,原告に対し化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,b大学病院の担当医師らは,原告の訴えを詐病又は精神疾患と決めつけ,前記措置をとらなかった。 キb大学病院の医師の注意義務その2(ア)注意義務原告が,平成13年6月10日,同月25日,同月28日,同年8月 3日,解剖学実習室で意識を失い倒れるなどの身体症状を示したとき,b大学病院の医師らには,①遺体の固定にホルマリンが使用されていたこと,②ホルマリンが気化して発生するホルムアルデヒドが有害であると認識していたと考えられること,③原告が解剖学実習室でホルムアルデヒドに曝露していたことから,適切な問診を行い,ホルムアルデヒド曝露と原告の顕著な健康被害との関係を疑い,n教授と連絡をとり,前記ウないしオの措置を行うべき義務があった。 さらに,化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,b大学病院の医師らは,原告の訴えを詐病又は精神疾患と決めつけ,前記措置をとらなかった。 クホルムアルデヒド曝露と原告の顕著な健康被害との関係が専門医によって明らかとなったときの注意義務(ア)注意義務被告b大学の担当教授は,原告から平成13年6月21日,ホルマリン眼炎の診断を受けたと聞いた時,同年6月23日付g眼科クリニックの診断書を受け取った時,同年8月14日付h病院の診断書を受け取った時,または平成14年2月下旬,i病院のj医師作成の平成14年2月20日付診断書及び たと聞いた時,同年6月23日付g眼科クリニックの診断書を受け取った時,同年8月14日付h病院の診断書を受け取った時,または平成14年2月下旬,i病院のj医師作成の平成14年2月20日付診断書及び平成14年意見書を受け取った時点で,被告b大学には,原告が解剖学実習室におけるホルムアルデヒド曝露により化学物質過敏症を発症したことを認識し,前記ウないしオの措置を行うべき注意義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,b大学のm教授及びn教授は,原告が化学物質過敏症であることを認めず,前記ウないしオの措置をとらなかった。 ケ代替措置を講じず,進路障害を生じさせた義務違反(ア)注意義務原告は,被告b大学の解剖学自習中,意識を失うなど生死の境をさまようような極めて重篤な症状を来していたのであるから,被告b大学においては,原告に対し,解剖学実習の代替措置を講じるべき義務があった。 (イ)注意義務違反ところが,被告b大学は,代替措置を認めなかったため,原告は,解剖学の単位を取得することができなくなり,医師になる道を絶たれた。 (被告b大学の主張)被告b大学は,解剖学実習における安全配慮義務を尽くしていたものであり,安全配慮義務違反はない。 ア解剖実習室におけるホルムアルデヒド濃度の基準値について(ア)原告がb大学にて解剖学実習を受けた当時,解剖実習室においてホルムアルデヒド濃度を一定以下にしなければならないとする基準値は,設定されていなかった。 これは,解剖実習室内の環境は,ホルムアルデヒドが居室等に比して高濃度になることが予測される一方,解剖学実習の必要性とホルムアルデヒドの他のものへの代替困難性に照らし,明確な基準値が提示されていなかったものである。 原告の主張するWHOの居室基準や厚生労働省の作業場環境基準は,解剖実習 一方,解剖学実習の必要性とホルムアルデヒドの他のものへの代替困難性に照らし,明確な基準値が提示されていなかったものである。 原告の主張するWHOの居室基準や厚生労働省の作業場環境基準は,解剖実習室にそのまま適応できるものではなく,他大学医学部の解剖実習室においても,ホルムアルデヒド濃度は,前記各基準を超えていたものであるから,解剖実習室におけるホルムアルデヒド濃度を前記各基準値以下にすべき義務はなかった。 イホルムアルデヒドに対する措置について b大学では,解剖学実習を受講する学生にホルムアルデヒドによる健康被害が生じないよう,以下のような措置が講じられていたものであり,安全配慮義務違反はない。 (ア)遺体のホルムアルデヒド濃度低減策a遺体の固定には,まず環流固定(大腿動脈からホルムアルデヒド溶液を流入し,血管を通じて全身に固定液を流してする固定)を行うが,b大学で用いられていたホルムアルデヒド溶液は,一般的に使用されていたホルムアルデヒド濃度の固定液(3.5%ホルムアルデヒド,0.7%メチルアルコール,7.1%グリセリンの溶液)であった。 b次に,環流固定だけでは固定が十分でないことが多いため,遺体を浸漬固定(後固定)及び保存の目的で保存液(後固定液)に浸けることになるが,b大学では,遺体を70%アルコールのみの保存液に1か月ないし3か月以上浸け,余分なホルムアルデヒドを洗い出し,徹底したアルコール置換を実施していた。 (イ)解剖実習室内のホルムアルデヒド濃度低減策b大学では,以下のような気中ホルムアルデヒド濃度低減策を講じていた。 そして,平成18年5月12日,解剖実習室のホルムアルデヒド濃度を測定したところ,その数値は平均0.18ppmであり,他大学の一般的な濃度と比較しても低かった。 a換気システムの設置 ていた。 そして,平成18年5月12日,解剖実習室のホルムアルデヒド濃度を測定したところ,その数値は平均0.18ppmであり,他大学の一般的な濃度と比較しても低かった。 a換気システムの設置b大学の解剖実習室には,解剖実習室内のホルムアルデヒド濃度低減に最も有効であると考えられる高性能の排気システムが設置されていた。 bライヘパックの使用解剖学実習の終了後は,毎回,遺体を布でくるみ,ファスナー式の ビニールパック(ライヘパック)により密封していた。これにより解剖実習室の空気中へのホルムアルデヒドの拡散を防ぐこととしていた。 cホルムアルデヒド吸着マット・シートの使用解剖学実習の際には,ホルムアルデヒド吸着マット・シートを使用し,ホルムアルデヒド濃度を低減させる措置を講じていた。 これは,遺体からの体液を吸水吸着分解して,実習室内へのホルムアルデヒド蒸発濃度を軽減し,シートと遺体の接触面からの蒸発も防止するものである。 (ウ)ホルムアルデヒドの防御用具解剖学実習を行うに際しては,ホルムアルデヒドの防御用具になるものとして,ラテックス手袋,マスク(活性炭入り防塵マスク),ゴーグル,帽子,予防衣を準備し,学生の要望に応じて貸与していた。 なお,原告に対しては,本人の希望により,活性炭入り防塵マスク及びゴーグルを貸し出して着用させたが,本人が面倒だからと言って着用しないことも多かったものである。 (エ)学生に対する注意喚起,対応a解剖学実習においては,解剖学実習担当教官から学生に対して,実習の初回には必ず,また,その後も折にふれて,口頭で,ホルムアルデヒドの危険性やこれに対する対処として活性炭入り防塵マスク,ゴーグル等の防御用具を使用するように注意していた。 そして,実習中に気分や体調が悪くなった学生に対しては,外に出て ,口頭で,ホルムアルデヒドの危険性やこれに対する対処として活性炭入り防塵マスク,ゴーグル等の防御用具を使用するように注意していた。 そして,実習中に気分や体調が悪くなった学生に対しては,外に出て休憩させる,臨床医に紹介,引率し,診察と処置を受けさせるなどの対応をとっていた。 さらに,平成13年6月12日からは,「人体正常解剖学実習上の注意事項の追加」(乙A2)と題する書面を解剖実習室内に掲示する方法でも,ホルムアルデヒドの危険性,ゴーグル,マスク,手袋の着 用や教官への相談についての注意喚起を行った。 b平成13年6月28日原告が解剖学実習中に倒れた後,被告b大学は,原告の母親に対して,原告は非常にストレスなどが溜まっており,今後も引き続き体調を悪化させる可能性があるので,休養をとり,体力を回復させてから授業を受けるよう勧めた。ところが,原告の母親は,原告はホルマリンの臭いにも弱いが解剖学実習の単位を落としたくないので授業には出たいと言っているのでそうさせたいと述べ,原告は,その後も解剖学実習の授業を受け続けたものである。 ウb大学病院の医師の義務について以下の点からすれば,b大学病院の医師には,原告に化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき義務や解剖学実習に代わる方法を用意して,原告を解剖学実習から遠ざける義務はなかった。 (ア)化学物質過敏症の概念は,医学的には確定したものではなかった。 (イ)前記(1)被告b大学の主張のとおり,原告の症状は,ホルムアルデヒド曝露によるものではなかった。 (ウ)原告は,b大学病院の医師に対して,a大学医学部に在籍していたこと,同大学同学部の解剖学実習においてホルマリン曝露を受けていたこと,平成13年6月23日にg眼科クリニックでホルマリンによる過敏 )原告は,b大学病院の医師に対して,a大学医学部に在籍していたこと,同大学同学部の解剖学実習においてホルマリン曝露を受けていたこと,平成13年6月23日にg眼科クリニックでホルマリンによる過敏アレルギー反応を指摘されたことなどを伝えておらず,原告の症状についてホルムアルデヒド曝露との関連性を疑うことは困難であった。 (4)因果関係の有無(原告の主張)ア健康被害との関係原告は,被告a大学におけるホルムアルデヒドの大量曝露によって健康被害を生じ,ホルムアルデヒドの曝露に弱い体調となっていたところ,被 告b大学でのホルムアルデヒドの大量曝露によって重篤な健康被害を生じた。 その結果,主位的にはb大学在学中に化学物質過敏症を発症したものであり,予備的にはa大学在学中に化学物質過敏症を発症した,あるいは発症の時期は不明であるとの主張をするものである。 原告は,被告a大学の前記安全配慮義務違反がなければ,化学物質過敏症を発症して,これが不可逆的に至ることはなかった。 また,b大学入学前には症状の改善がみられており,被告b大学の前記安全配慮義務違反がなければ,不可逆的な化学物質過敏症を発症することはなかった。 よって,被告らの前記安全配慮義務違反と原告が化学物質過敏症を発症したことには因果関係がある。 イ医師になることができなかった損害との関係被告らは,原告に化学物質過敏症を発症させたうえ,体調不全にもかかわらず,最後まで解剖学実習を終えた原告に単位を付与せず,進級させず,原告の医師になるための学業をできなくさせた。 よって,被告らの義務違反と原告が医師になることができなかった損害との間には因果関係がある。 (被告b大学の主張)前記(1)被告b大学の主張のとおり,原告が主張する症状がホルムアルデヒド曝露によるものとは認められない。 と原告が医師になることができなかった損害との間には因果関係がある。 (被告b大学の主張)前記(1)被告b大学の主張のとおり,原告が主張する症状がホルムアルデヒド曝露によるものとは認められない。 また,化学物質過敏症を発症した時期も不明であり,仮に,a大学において不可逆的な化学物質過敏症を発症していたのであれば,b大学におけるホルムアルデヒド曝露と,原告の健康被害,医師になることができなかった損害との間には因果関係がない。 (被告a大学の主張) 前記(1)被告a大学の主張のとおり,原告の主張する症状は,a大学におけるホルムアルデヒド曝露とは関係がなく,精神疾患に起因するものである。 また,原告は,原告が化学物質過敏症を発症した時期を特定していない。 よって,原告の主張する損害とa大学におけるホルムアルデヒド曝露とに因果関係は認められない。 (5)共同不法行為の成否(原告の主張)被告a大学及び被告b大学の不法行為には客観的関連共同性が認められ,共同不法行為が成立するから,原告が化学物質過敏症を発症した時期が特定されなくとも,被告らは,連帯して損害賠償責任を負う。 (被告らの主張)原告の主張は争う。 (6)損害(原告の主張)原告は,被告らが前記安全配慮義務違反を怠ったことにより,化学物質過敏症を発症し(ホルムアルデヒド曝露に基づく健康被害を受け),以下の損害を被った。 ア化学物質の曝露を避けるための支出(過去分)300万円化学物質過敏症は,大量の化学物質に曝露されたことにより発症するが,一旦これに罹患すると,以後はごく微量の化学物質に接しただけでも反応を生じ,具体的症状を呈する。 したがって,化学物質過敏症患者にとって,化学物質の曝露を避けることは,症状発現を防止するために欠くことのできないものであり,そのための支出は,本 に接しただけでも反応を生じ,具体的症状を呈する。 したがって,化学物質過敏症患者にとって,化学物質の曝露を避けることは,症状発現を防止するために欠くことのできないものであり,そのための支出は,本件不法行為による損害に該当するところ,その額は少なくとも月額10万円を下らない。 よって,平成14年2月20日(原告がj医師から多種類化学物質過敏 症との診断を受けた日)から本訴提起までの30か月における支出額は,300万円を下らない。 イ化学物質の曝露を避けるための支出(将来分)2227万8120円原告は,終生にわたり,前記アのとおり,化学物質の曝露を避けるために少なくとも月額10万円の支出を余儀なくされる。 そして,原告は,本訴提起時31歳であり,平成14年度簡易生命表による平均余命は54.88年であるところ,ライプニッツ方式(54年に相当するライプニッツ係数18.5651)により中間利息を控除すれば,将来支出分の損害額は,2227万8120円である。 (計算式)10万円×12×18.5651=2227万8120円ウ既払い入学金,授業料(ア)a大学a入学金及び前期授業料648万6200円b後期授業料107万0400円(イ)b大学a入学金28万2000円b授業料52万0800円エ逸失利益(ア)医師になることができなかったことによる逸失利益被告a大学に対し1億3359万1959円被告b大学に対し1億3118万9706円原告は,被告a大学におけるホルムアルデヒド曝露による健康被害を受けることがなければ,平成15年3月,a大学医学部を卒業し,同年4月から医師として稼働することができたと考えられる。 また,被告b大学におけるホルムアルデヒド曝露による健康被害を受 けることがなければ,平成17年3 平成15年3月,a大学医学部を卒業し,同年4月から医師として稼働することができたと考えられる。 また,被告b大学におけるホルムアルデヒド曝露による健康被害を受 けることがなければ,平成17年3月,b大学医学部を卒業し,同年4月から医師として稼働することができたと考えられる。 よって,平成14年賃金センサス医師平均年収1231万5500円と大卒女性労働者全年齢平均年収446万5000円との差額である年収785万0500円を基礎に,被告a大学につき就労可能年数を39年,被告b大学につき就労可能年数37年とし,ライプニッツ方式(39年に対応するライプニッツ係数17.0170,37年に対応するライプニッツ係数16. 711)により中間利息を控除すれば,医師になることができなかったことによる逸失利益は,被告a大学につき1億3359万1959円,被告b大学につき1億3118万9705円である。 (計算式)被告a大学につき785万0500円×17.0170=1億3359万1959円被告b大学につき785万0500円×16.7110=1億3118万9705円(イ)ホルムアルデヒド曝露に基づく健康被害による逸失利益2698万1049円原告がホルムアルデヒド曝露により受けた健康被害は,神経系統に障害を残し,服することが出来る労務が相当な程度に制限されるものとして,後遺障害等級9級(労働能力喪失率35%)に該当する。 よって,平成14年賃金センサス大卒女性労働者全年齢平均年収453万0100円を基礎に,労働能力喪失率を35%,就労可能年数を39年とし,ライプニッツ方式(39年に対応するライプニッツ係数17.0170)により中間利息を控除すれば,ホルムアルデヒド曝露に基づく健康被害による逸失利益は,2698万1049円である。 (計算式)453万 イプニッツ方式(39年に対応するライプニッツ係数17.0170)により中間利息を控除すれば,ホルムアルデヒド曝露に基づく健康被害による逸失利益は,2698万1049円である。 (計算式)453万0100円×0.35×17.0170=2698万1049円オ慰謝料3000万円 ホルムアルデヒド曝露に基づく健康被害のため,医師になることができなかったこと,日常生活に多大な支障を来したことなどにより原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,3000万円が相当である。 カ被告a大学に対する証拠保全費用7万0430円キ弁護士費用被告a大学に対し1930万0696円被告b大学に対し1861万8273円よって,原告は,共同不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき,被告a大学に対し,前記アないしキの損害賠償金2億4358万1654円,被告b大学に対し,前記アないしオ(ただし,ウ(ア)を除く。)及びキの損害賠償金2億3286万9948円の支払請求権を有するところ(内2億3286万9948円の限度で不真正連帯),このうち連帯して1億円及びこれに対する不法行為の日の後である平成11年5月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。 (被告らの主張)原告の主張は争う。 第3当裁判所の判断 認定事実前記前提事実のほか,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件事実経過について,以下の事実が認められる。 (1)a大学入学までの経過ア原告は,米国の高校を卒業後,平成4年4月,p大学法学部法律学科に入学し,平成8年3月,同大学を卒業し,同年4月,c大学大学院法学政治学研究科修士課程に入学した(甲A51,58,乙A32,丙A11・1頁)。 イ平成9年10月7日,原告は,「気分がめいる」ことを主訴 し,平成8年3月,同大学を卒業し,同年4月,c大学大学院法学政治学研究科修士課程に入学した(甲A51,58,乙A32,丙A11・1頁)。 イ平成9年10月7日,原告は,「気分がめいる」ことを主訴に,c大学保健センターを受診した。同日の診察において,原告は,担当医師に対し, ①p大学在学中の平成7年,阪神大震災に罹災した際,当時交際していた男性が自分の下に来てくれなかったことで,その男性から見捨てられたとの思いを抱き,そのような「見捨てられ感」は現在でも心から消えておらず,少し揺れたり,震災関係の記事を読んだりすると,動揺してしまうこと,②c大学大学院法学政治学研究科になじめず,同研究科入学以来,p大学在学中にはなかった膀胱炎,生理不順,湿疹,倦怠感等の身体症状が出現するようになったこと,③平成9年12月24日が提出締め切りの修士論文を全く書けていないことなどを訴え,抗うつ剤の処方を希望した(丙A11・2,3頁)。 ウ平成9年10月9日,原告は,c大学保健センター精神科を受診し,q医師の診察を受けた。q医師は,原告の気分の落ち込み,気力の喪失,不適応感等の訴えから,「抑うつ神経症」との診断をし,レスリン(抗うつ剤),PZC(抗精神病薬),レスミット(抗不安薬)を処方した(丙A11・1,5頁)。 エ平成9年10月13日,原告は,c大学保健センター精神科を受診し,r医師(以下「r医師」という。)の診察を受けた。r医師は,原告には気分の不安定さ,抑うつ気分,希死念慮,悲哀感といった抑うつ的な要素があったが,米国の高校へ留学するなど,元来は明るく意欲的な性格であること,上記の抑うつ状態が阪神大震災後に頻発しているという既往,原告が訴える「見捨てられ感」も罹災時に誰からも助けを得られなかったという実際の体験からきていると考えられるこ 明るく意欲的な性格であること,上記の抑うつ状態が阪神大震災後に頻発しているという既往,原告が訴える「見捨てられ感」も罹災時に誰からも助けを得られなかったという実際の体験からきていると考えられること,不眠,原因不明の情動発作の存在などの点から,原告の症状はPTSDが主であり,うつはそれに付随しているものと判断し,原告の診断名をPTSDに改めた(甲B77,87,丙A11・1,6頁,証人r3,36,37頁)。 r医師は,原告に対し,PTSDの治療として,精神分析的なカウンセリングを実施することとし,これを平成10年7月17日まで行った(甲B77,87, 丙A11・6ないし24頁,証人r2ないし4,16ないし19頁)。 オ平成10年10月12日,原告は,失声を主訴に,k病院精神神経科を受診した。同日の診察において,原告は,担当医師に対し,同月9日,交際相手からひどいことを言われて,それ以来声が出なくなったこと,その夜,ひどい頭痛,吐気,呼吸困難に陥り,同病院救急外来を受診したことなどを筆談で伝えた(丙A3・1,3ないし12,15頁)。 カその後,原告は,月に3ないし5回程度の頻度で定期的にk病院精神神経科に通院し,ホリゾンの静注やアモキサン,コンスタン,メレリル,セジエル,リボトリールなどの投薬を受けた。 キ原告は,平成11年3月,c大学大学院法学政治学研究科修士課程を修了した。 (2)a大学在学中における経過ア平成11年4月1日,原告は,a大学医学部3年次に学士編入学し,同月6日,授業が開始された。 同日,原告は,k病院精神神経科を受診し,担当医師に対し,a大学へ行ってきたこと,編入であるためスケジュールがハードであることなどを話した(丙A3・34頁)。 イ平成11年4月20日,原告は,a大学医学部において,肉眼解剖学実習 診し,担当医師に対し,a大学へ行ってきたこと,編入であるためスケジュールがハードであることなどを話した(丙A3・34頁)。 イ平成11年4月20日,原告は,a大学医学部において,肉眼解剖学実習を受け始めた(丙A4)。 同日,原告は,k病院精神神経科を受診し,担当医師に対し,学校が肉体的にも精神的にもつらい,全然勉強についていけない,「読めない文字を暗記するなんてできない」などと話した(丙A3・35頁)。 ウ平成11年4月末ないし5月初めころの解剖学実習において,原告は,担当教授であったd教授に対し,体調不良を訴えた(前記前提事実(2)ウ)。d教授は,原告に対し,実習室の外で座って休んでくるよう指示した(甲A58)。 エ平成11年4月27日,原告は,k病院精神神経科を受診し,担当医師に対し,泣きながら「学校の方で,勉強とか実習とかついていくのが大変で気ばかり焦っちゃって眠れないしゴハン食べられないし」,「すごいお金を実家で払ってくれてるというのもあるし,勉強やらなきゃと思うと焦ってしまう。クラスのみんなができるのに,私だけができなくて下の方にいるような気がする。」などと学業に対する不安を訴えた(丙A3・35,36頁)。 同日,原告は,a大学l保健管理室を受診し,e医師に対し,学業に対する不安が強いことを訴えた。e医師は,原告に対し,a大学病院精神科を受診するよう勧め,同科外来担当医師宛てに「解剖学等の授業で日本語テキスト見て,読解困難のため,著しく不安となり,学業が手につかないとのことです。現在,自宅近くの東邦大大橋病院精神科を受診していますが,授業開始後通院困難なこと,上記大橋病院のDrの対応に満足でないことを訴え,本院受診希望しています。現在かなり不安感強いようなので,直ちに貴科を受診するようすすめました。」などと記載 していますが,授業開始後通院困難なこと,上記大橋病院のDrの対応に満足でないことを訴え,本院受診希望しています。現在かなり不安感強いようなので,直ちに貴科を受診するようすすめました。」などと記載した紹介状を作成した(丙A1・4頁)。 オ平成11年4月28日,原告は,e医師の勧めに従い,a大学病院精神科を受診した。そして,診察を担当したf医師に対し,「何をやっても理解できない。漢字多いし,元々文系で勉強についていけない。日本語聞き取れないし,漢字も読めないし,皆分かっていて私だけ分からなくて。勉強しなくてはと思うけど頭に入らない。」,「英語で考えると泣けない。 うつっぽくなるときは絶対日本語で考えている。」などと学業に対する不安を訴えた。診察時,目の痛み,咳,咽頭痛,じんま疹,呼吸異常,意識消失等の訴えや身体症状は認められなかった。f医師は,原告を抑うつ状態と診断し,原告に対し,k病院で処方されたアモキサン,コンスタンを引き続き服用しつつ,休養をとることを指示した(丙A1・5,7ないし 11頁,丙A15,証人f1ないし3,27,28頁)。 カ平成11年5月6日,原告は,a大学病院精神科を受診し,診察を担当したf医師に対し,k病院でリボトリールを頓用にて処方されたことを話すとともに,「ナーバスで試験のことが頭から離れない。寝られたし,食べてもいたが,気分は落ち着かない。医学部は間違った選択だった。でもやめても何もできることないし。」と不安感を訴えた。f医師は,原告に対し,トリプタトル,デパス,リボトリールを処方した(丙A1・11頁)。 キ平成11年5月7日,原告は,a大学病院精神科を受診し,診察を担当したD医師に対し,前日に処方されたトリプタトル,デパスを服用した後,眠気とふらつきがひどく立っていられなくなったことを話し,泣き キ平成11年5月7日,原告は,a大学病院精神科を受診し,診察を担当したD医師に対し,前日に処方されたトリプタトル,デパスを服用した後,眠気とふらつきがひどく立っていられなくなったことを話し,泣きながら「どうしていいか分からない」旨を訴えた。D医師は,原告に対し,次回の診察まではデパスの内服で経過をみて,合わないようであればアモキサン,コンスタンの内服に戻すよう指示した(丙A1・11頁)。 ク平成11年5月13日,原告は,a大学病院精神科を受診し,診察を担当したf医師に対し,「最低解剖だけは出ている。テストについてd教授には受けると言ったが,生物も化学も分からないし,皆で勉強したが皆よく勉強していて涙が出てきた。もう絶対学校やめる,死にたいとか思った。 親には26(歳)だし心配かけたくない。」などと不安感を訴えた。また,平成10年10月まで精神科治療を受け,その後k病院に移ったこと,阪神大震災のとき,交際していた男性が自分を助けてくれずうつになり,病院に通院したところPTSDだと言われたことなどを話した。f医師は,原告がこれ以上努力を続けるのは困難であると考え,原告に対し,休息のために入院することを提案した。これを受けて原告は,精神科病棟への入院を予約した(丙A1・11,12頁,丙A15,証人f3頁)。 ケ平成11年5月21日,原告は,a大学病院精神科を受診し,診察を担 当したf医師に対し,入院して実習に出席できなければ留年することとなり,そうすると学費を出してもらえないため,大学をやめなくてはいけないから,入院したくない旨を話した。f医師は,d教授に相談すると答えた(丙A1・12頁)。 コ平成11年5月27日,原告は,a大学病院精神科を受診し,診察を担当したf医師に対し,精神科病棟を見て,閉じこめられる感じに耐えられないと 医師は,d教授に相談すると答えた(丙A1・12頁)。 コ平成11年5月27日,原告は,a大学病院精神科を受診し,診察を担当したf医師に対し,精神科病棟を見て,閉じこめられる感じに耐えられないと思ったので入院はしたくない旨を述べて,精神科病棟への入院をキャンセルした。また,同月25日にテストがあったが,全然できなかったこと,来週は講義ばかりなので休むつもりであることを伝えた。f医師は,原告が休養をとるつもりなのであれば無理に入院させなくてもよいと考え,様子をみることとし,ルボックスを処方した(丙A1・12頁,丙A15,証人f3,4頁)。 サ平成11年6月1日,原告は,k病院精神神経科を受診し,担当医師に対し,a大学病院において入院するよう言われたこと,一旦は入院を予約したがキャンセルしたことを話し,「授業中でも泣いちゃう,授業が分からない,私だけできていない気がする」旨を訴えた。担当医師は,原告に対し,治療の場をa大学病院に移し,しっかり治療を継続していくよう指示した(丙A3・36,37頁)。 シ平成11年6月2日,原告は,a大学病院精神科を受診し,診察を担当したf医師に対し,k病院でも担当医師から入院を勧められたこと,「前は這ってでも(通学したい)と思っていたが,やはり自分はいつもの自分ではないと思うし,もともとあまりよくない状況で入学したのだとも思った」ことを話して,入院を希望し,精神科病棟への入院を再度予約した(丙A1・13頁,丙A15,証人f4頁)。 ス平成11年6月4日,原告は,k病院精神神経科を受診し,担当医師に対し,同月19日以降にa大学病院に入院することにしたことを話した。 担当医師は,入院が決まって安心したためか,原告の表情が穏やかになっており,ルボックスが奏効しているようであると判断した(丙A3・37 19日以降にa大学病院に入院することにしたことを話した。 担当医師は,入院が決まって安心したためか,原告の表情が穏やかになっており,ルボックスが奏効しているようであると判断した(丙A3・37頁)。 セ平成11年6月9日,原告は,a大学病院精神科を受診し,診察を担当したf医師に対し,「眠い」,「解剖やっぱりできない」,「11時間ぐらい眠ったりして,でも疲れている感じ」などと訴えた。f医師は,アモキサン,ソラナックス,ルボックスを処方した(丙A1・13頁)。 ソ平成11年6月16日,原告は,a大学病院精神科を受診し,診察を担当したf医師に対し,「ギブアップ」,「今週は学校に来れてない」,「骨学表層テスト50点。もう1つと合わせて60点になればいいけど自信なくて」と訴えた(丙A1・13頁)。 タ平成11年6月19日,原告は,抑うつ状態との病名で,静養,薬物療法を目的として,a大学病院精神科に任意入院した。入院時の身体系のチェックでは,原告は,「循環器(息切れ・易疲労性等)問題なし,呼吸器(呼吸困難・咳嗽等)問題なし,希死念慮明らかなものなし,自殺企図なし」とされた。また,「もう限界と思った。本を読むのもいや,勉強するのもいや,大学に入って勉強した頃からもう苦しかった。覚えていることが思い出せない。漢字も読めない。」などと訴えた。入院は,意欲低下,焦燥感の症状に対し,休養のとれる環境を提供するなどのため,30日程度が必要とされた(丙A2・5,22,29ないし31,68,69,98,110頁,丙A15)。 入院中,原告は,学業上の不安を訴え,同年7月2日には,「死にたい。 もう何もかもいやだ」などと訴えたり,同月30日にはカミソリを取り出して見ている所を発見されたりした(丙A2・38,52,110,142,148頁)。 チ平成11年 同年7月2日には,「死にたい。 もう何もかもいやだ」などと訴えたり,同月30日にはカミソリを取り出して見ている所を発見されたりした(丙A2・38,52,110,142,148頁)。 チ平成11年8月18日,原告は,a大学病院精神科を退院した(前記前 提事実(2)オ)。 ツ原告は,平成11年10月1日,抑うつ状態との診断書を添えて休学願をa大学に提出し,同日から平成12年3月31日まで,同大学を休学した(丙A6の1,2)。そして,同年4月1日,同大学を退学した(丙A8)。 (3)文部科学省高等教育局医学教育課長通知ア文部科学省高等教育局医学教育課長は,平成13年2月23日付で,医学部又は歯学部を置く国公私立大学の事務局長に宛てて,「医学部及び歯学部の室内空気環境汚染の防止等について」と題する依頼文書を発した(乙A1)。 イまた,文部科学省高等教育局医学教育課長は,平成13年4月20日付で,医学部又は歯学部を置く国公私立大学の事務局長に宛てて,「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する通知を発し,①ホルマリン使用時には,その濃度に応じて,室内にホルムアルデヒドが気化し毒性をもつことがあるので,空気環境の改善に努めること,特に実習室内は,多数の学生が同時に曝露される可能性があるので,換気扇や空気清浄機等で出来る限りの清浄化に努めること,②現在,濃度の高いホルムアルデヒド溶液(3.5%以上:10%以上のホルマリン溶液)を使用している場合,今後ホルムアルデヒド溶液の濃度及び実習時・遺体処理時における毒性を低減させるよう,手段を講ずるように努めること,③学生に対しては,濃度の高いホルムアルデヒドの毒性及びその毒性が濃度によって軽減させられることを認識させ,皮膚・粘膜への影響に対する防護方法や廃棄方法を文書等を う,手段を講ずるように努めること,③学生に対しては,濃度の高いホルムアルデヒドの毒性及びその毒性が濃度によって軽減させられることを認識させ,皮膚・粘膜への影響に対する防護方法や廃棄方法を文書等をもって認識させること,④学生に理解させる内容については,ホルムアルデヒドを含有する製剤(含有率1%以下のものを除く。)は,毒物及び劇物取締法で規制されており,また,皮膚や粘膜への影響が心配されるから,皮膚疾患や各種アレルギーを持つ学生は,防護 措置(マスク,手袋等)を必要に応じてとらせること,即ち,目への刺ⅰ激,目の痛みが強い場合は,洗顔をまめにし,ゴーグル等で目を保護する,鼻への刺激が強い場合は,活性炭入りのマスクをする,手の荒れは手ⅱⅲ袋等で保護すること等を通知した(乙A1)。 (4)b大学在学中における経過ア平成13年4月1日,原告は,b大学医学部に学士編入学した。 同年4月19日,午後1時50分から午後4時10分まで,動物の解剖実習が行われた。その際,原告から,体調不良の訴えはなかった(乙A62)。 イ平成13年5月15日,原告は,b大学医学部において,肉眼解剖学実習を受け始めた(甲A5,乙A50)。 ウ平成13年6月4日,原告は,食思不振,嗄声を主訴に,b大学病院総合診療部を受診し,担当医師に対し,同年5月31日に図書館で勉強をしているときに咽頭部の違和感を覚えたこと,同年6月1日の朝から声がかすれ,ほとんど出なくなったこと,b大学に入学してから極度のストレス状態におかれており,胃痛,嘔吐の症状があることなどを訴えた(乙A38・5頁)。 エ平成13年6月5日,原告は,1時限目(午前8時40分から午前10時10分)の基礎循環器学の試験中に激しい咳が出現し,過呼吸状態となって倒れた。その際,眼瞼結膜充血,四肢末端 A38・5頁)。 エ平成13年6月5日,原告は,1時限目(午前8時40分から午前10時10分)の基礎循環器学の試験中に激しい咳が出現し,過呼吸状態となって倒れた。その際,眼瞼結膜充血,四肢末端の冷感,体幹部の熱感,発汗が認められ,原告は,b大学病院総合診療部に搬送された。同病院到着 時,原告は,体温36.2℃,血圧132/98,脈拍78,SpO(経皮的酸素飽和度)95%であった。診察を担当したs医師は,原告に対し,酸素投与及び輸液投与を開始し,原告のSpOは100%に回復 した(乙A38・6頁,乙A50)。 その後,o医師が原告の診察を引き継いだ。原告は,咳嗽が強く,胸痛 があり,意識レベルはJCSⅢ-100まで低下していたが,肺野に異常音は聴取されなかった。o医師は,ニトロペンを舌下投与し観察を続けたが,原告は,輸液の継続で意識及び症状が回復した。o医師は,原告に対し,リン酸コデイン及びラシックス(利尿剤)を処方した(乙A38・7頁)。 なお,同日前3日間は,肉眼解剖学実習の授業は行われていなかった(乙A50)。 オ平成13年6月6日深夜,原告は,咳嗽が強く続き,食事もあまり食べられないことを主訴に,b大学病院総合診療部を受診した。担当医師は,非定型性の喘息等を考えて,原告に対し,抗アレルギー薬を点滴にて投与したが,あまり効果はみられなかったため,第2内科のt医師に診察を依頼した(乙A38・7頁)。 原告は,第2内科を受診し,診察を担当したt医師に対し,乾性の咳が激しく,嘔吐がつくこともあるので,食事を全く食べられないこと,リン酸コデインが奏効しないことを訴え,また,問診に対して,喘息の既往はなく,アレルギーについても,パッチテストで何回か陽性が出たことがあるが,症状が出現したことはない旨を答えた。ピークフロー値は1 ン酸コデインが奏効しないことを訴え,また,問診に対して,喘息の既往はなく,アレルギーについても,パッチテストで何回か陽性が出たことがあるが,症状が出現したことはない旨を答えた。ピークフロー値は125~150と低かった(ただし,手技の要領がつかめない様子もあった。)が,肺野にラッセル音は聴取されず,胸部CT検査及び心エコー検査でも異常は認められなかった。さらに,原告は,t医師に対して,医学部3年次のカリキュラムが非常にきついこと,現在,追試験をいくつも抱えていること,c大学文科系からの学士入学でかなりプライドが高いこともあり,日本語の読み書きが今ひとつで,非常にストレスフルな状態であることを話した。t医師は,原告の症状は心因的要素によるものが大きいと考え,原告に対し,デパス(抗不安薬)及びメプチンエアー(気管支拡張剤)を処方した(乙A38・7,8,50頁)。 カ平成13年6月7日,原告は,咳嗽を主訴に,b大学病院第2内科を受診し,u医師(以下「u医師」という。)の診察を受け,1か月前から呼吸困難があり,3日前から咳嗽が顕著である旨を訴えた。体温は36.5℃,ピークフロー値は150であり,肺野に異常音は聴取されなかった。 u医師は,胸部レントゲン画像上,原告の肺野が過膨張に見えたため,若年性肺気腫も疑い,胸部CT検査を施行したところ,左肺尖部に12mm程度の円形の淡いスリガラス様陰影が認められた。u医師は,原告の臨床症状及びCT所見から,百日咳,マイコプラズマ肺炎等の感染症,喘息の可能性を疑い,原告に対し,クラリシッド及びムコダインを処方した(乙A38・19,21ないし23,27頁)。 なお,同月9日,原告は,知人に対し,「この激しい咳きがホルマリンによって悪化しているようだ」と記載したメールを送信した(甲A44)。 キ平成1 方した(乙A38・19,21ないし23,27頁)。 なお,同月9日,原告は,知人に対し,「この激しい咳きがホルマリンによって悪化しているようだ」と記載したメールを送信した(甲A44)。 キ平成13年6月10日午後10時40分ころ,原告は,咳及び呼吸困難が持続していたことから,b大学病院夜間救急を受診した。原告は,血圧147/99,脈拍90,SpO100%で,肺野にラッセル音は聴取 されなかった。また,動脈血液ガス分析が施行され,roomair下でPaO(酸素分圧)109.9,PaCO(二酸化炭素分圧)26.8,pH 7.555であった。診察を担当したu医師は,原告がPaCOの低い 過換気状態であったとしても,PaOが高いことから,低酸素状態を来 すような病変はないと考えたが,原告は一人暮らしで不安が強いため,短期入院により経過観察をすることとなった。同日午後11時,原告は,呼吸困難との病名でb大学病院に短期入院した(乙A38・24,30,31頁)。 ク平成13年6月11日,u医師は,原告の嗄声につき耳鼻科的異常の有無を診るため,原告を耳鼻科のv医師(以下「v医師」という。)に紹介した(乙A38・29,38頁)。 同日午前,原告は,b大学病院耳鼻科を受診し,v医師の診察を受けた。 v医師は,原告の鼻腔両側に鼻甲介粘膜浮腫,漿液性鼻汁を認めたが,咽頭に異常はなく,喉頭にも器質的病変を認めず,両声帯の可動性も良好であった。v医師は,u医師に対し,両声帯の可動性は良好であり,器質的病変は認めないこと,咳嗽時,処置時に有声音が出ていることから,精神的な要素が関連していると思われること,呼気量が少ないことも声量が得られない一因であると思われることなどを回答した(乙A38・25,29,31,36ないし38頁)。 同日午 ていることから,精神的な要素が関連していると思われること,呼気量が少ないことも声量が得られない一因であると思われることなどを回答した(乙A38・25,29,31,36ないし38頁)。 同日午後1時,原告は,病棟に帰室した。午後2時,原告は,SpO98%で,嗄声があり,担当看護師に対し,「咳は夜ひどいです。息苦しさはそうでもないです。食べると咳が出て吐きそうになります。」と訴えた(乙A38・31頁)。 同日夕方,u医師は,再度原告を診察した。原告は,ピークフロー値60と低値であったが,SpOは97%で正常であり,肺音は弱くも異常 音は聴取されなかった。u医師が,原告に対し,メプチンエアーを吸入させたところ,原告は,ピークフロー値が150~225に上昇し,突然声が出始めた。原告は,u医師に対し,メプチンが効いている気がすること,マクロライドは同月9日まで服用していたが,同日夜にせき(++)で,嘔吐もしており,効いている感じがないことを話した。u医師は,原告について,咳が出ているのは確かであるし,ピークフロー値も通常より非常に低いものの,ピークフロー値がそのように低い状態で普通に会話をしたり,肺野に喘鳴が聴取されなかったりするわけがないと考えたが,アトピー性の咳,喘息,マイコプラズマ性気管支炎の可能性を疑った。そして,原告に心因的要素があったとしても,咳を止められればもう少し頑張れるのではないか,ピークフロー値が低いのは原告が呼気を意図的に抑えている可能性もあると考え,原告に対し,クラリシッド及びムコダインの処方 を継続しつつ,アゼプチンの処方を開始し,咳嗽時にはメプチンを頓用させることとした(乙A38・25頁)。 ケ平成13年6月12日,原告は,b大学病院を退院し,自宅静養となった(乙A38・26頁)。 被告b大学は,同日 チンの処方を開始し,咳嗽時にはメプチンを頓用させることとした(乙A38・25頁)。 ケ平成13年6月12日,原告は,b大学病院を退院し,自宅静養となった(乙A38・26頁)。 被告b大学は,同日ころ,学生に対し,「人体正常解剖学実習上の注意事項の追加」と題する書面により,実習中の注意事項として,遺体の防腐処理に欠かせないホルマリンなどによる次の様な点については注意し,教官に相談されたいとしたうえ,①目への刺激,痛みが強い場合は,洗眼をまめにし,ゴーグル等で眼を保護する,②鼻への刺激が強い場合は,活性炭入りのマスクをする,③手の荒れは手袋で保護することなどを告知した(乙A2)。 コ平成13年6月14日,原告は,b大学病院第2内科を受診し,u医師の診察を受けた。原告は,u医師に対し,アゼプチンを飲んだら強い眠気を感じたこと,食物を食べると咽頭部に飲みにくい感じがあるが大したことはないことを訴えた。咳についてはアゼプチンが少し効いており,SpO98%,脈拍84,ピークフロー値120であった。u医師は,処方 をアレジオン及びホクナリンテープに変更した(乙A38・26頁)。 サ平成13年6月21日,原告は,b大学病院第2内科を受診し,u医師の診察を受けた。原告は,u医師に対し,疲れていること,咳が少なくなってピークフロー値が150くらいまで出るようになったこと,ホルマリン眼炎になり昨日w眼科に行ったことなどを話した(乙A38・26頁)。 シ平成13年6月23日,原告は,g眼科クリニックを受診し,ホルマリンによる過敏アレルギー反応,両眼角膜上皮剥離,両眼結膜炎が認められた(甲A7)。 ス平成13年6月25日,原告は,1時限目(午前8時40分から午前10時10分)の基礎消化器学試験が始まる前に倒れ,b大学病院総合診療 部に搬送され 剥離,両眼結膜炎が認められた(甲A7)。 ス平成13年6月25日,原告は,1時限目(午前8時40分から午前10時10分)の基礎消化器学試験が始まる前に倒れ,b大学病院総合診療 部に搬送された。病院到着時,意識レベルはJCSⅡ群で,手は軽度冷たく,橈骨動脈は弱く触知される程度で,呼吸も浅かった。診察を担当したo医師は,用手的に補助換気を行った。補助換気を中止すると,一旦は安定していたが,後にSpOが85%まで低下したため,再度補助換気を 開始した。しばらくして,補助換気を中止しても,原告は眠った状態でSpOが安定してきたため,o医師はそのまま原告が回復するのを待った。 その後,原告は意識清明となり,反応も素早かったため,o医師は,原告の呼吸,循環が安定したと判断して,原告を帰宅させた(乙A38・9頁,乙A50)。 なお,同日前2日間,肉眼解剖学実習の授業は行われていなかった(乙A50)。 セ平成13年6月28日,原告は,解剖学実習中に意識を失って倒れた。 意識レベルはJCSⅢ-200~300で,呼吸状態も悪く,b大学病院総合診療部に搬送された。総合診療部で呼吸管理を受けていたが,再び呼吸状態が悪化し,意識レベルもJCSⅢ-300となったため,同病院救急医療センターに搬送された。バイタルサインは体温36.8℃,血圧120/74,心拍70と安定していたが,意識レベルはJCSⅢ-300で改善がみられず,マスクにて酸素投与が開始された。担当医師は,頭蓋内病変を疑いCT検査を施行したが,脳実質内に明らかな病変は認められなかった。原告は,CT検査後,徐々に意識レベルが改善し始め,意識清明となった後,担当医師に対し,最近の授業,試験のスケジュールが厳しく,昨日も1,2時間程度しか睡眠をとれなかったこと,食欲も不振でストレスフルな生活を 検査後,徐々に意識レベルが改善し始め,意識清明となった後,担当医師に対し,最近の授業,試験のスケジュールが厳しく,昨日も1,2時間程度しか睡眠をとれなかったこと,食欲も不振でストレスフルな生活を送っていることを話した。原告は,失神との病名で,安静,経過観察を目的に,翌日を退院予定としてb大学病院に入院した。 夕食は摂取できず,輸液投与を受けた(乙A38・49,54ないし56,58,60,61頁)。 ソ平成13年6月29日未明,原告は,咳が出ていたが一時的で,全身状態は安定していた。同日午前,m教授らが,原告及び原告の母と面談し,倒れた状況等を説明したうえ,授業を受けずに休養するよう説得した。しかし,原告本人が,解剖学実習の単位を今年是非取りたいと強く希望したため,m教授らは,①健康への自主管理ができるようにすること,②保健管理センターで定期的に検診を受けること,③気分が悪くなったら倒れる前に教室を出て静養することを条件に,授業への出席を認めることとした。 また,同日午後,担当医師は,原告及び原告の母に対し,今回の発作の原因は不明であり,精査を進めるために神経内科,総合診療部で経過観察することを話し,原告を退院させた(乙A38・56,57頁)。 タ平成13年8月14日,原告は,h病院を受診し,「気管支喘息」,「上記疾患のため,当院通院加療中であるが,ホルマリン等の刺激物質の吸入は避ける必要がある。」との診断を受けた(甲A8)。 チ平成13年9月13日,原告は,b大学に休学願を提出し,同年10月1日から平成14年3月31日まで同大学を休学した(乙A3)。 ツ平成14年2月,原告は,i病院臨床環境医学センター(アレルギー科化学物質過敏症外来)の受診を開始し,同病院において,QEESI(TheQuickEnvironmental した(乙A3)。 ツ平成14年2月,原告は,i病院臨床環境医学センター(アレルギー科化学物質過敏症外来)の受診を開始し,同病院において,QEESI(TheQuickEnvironmentalExposureandSensitivityInventory)を用いての問診,眼球追従運動検査,視覚空間周波数特性検査等を受けた。 同月20日,j医師は,それらの結果から原告を「多種類化学物質過敏症」と診断し,「眼球追従運動障害,瞳孔対光反応での自律神経失調症が認められ,多彩な症状は決して精神的なものではなく,上記疾患によるものである。米国および日本の診断基準に合致している。」などと記載した診断書を作成した(甲A12ないし14,甲A31・3ないし19,24ないし41,47頁)。 さらに,j医師は,同月22日付けで,原告の症状について,主訴は咳, 疲労感,筋肉関節痛,頭痛,うつ,集中力低下,思考力低下であるが,そのほかにも呼吸困難などを始め,多器官にまたがる多彩な症状を呈していること,微量多種類の化学物質に反応して症状の悪化を来していること,瞳孔の対光反射では明らかな自律神経失調を,眼球の追従運動では滑動性追従運動で階段状波形を,視覚空間周波数特性検査では視覚感度の低下をそれぞれ認めており,精神的なものでないことは明らかであること,1999年に米国環境医学会より提出されている多種類化学物質過敏症のコンセンサスに完全に合致しており,本邦の多種類化学物質過敏症の診断基準にも合致していること,直接の発症の原因は解剖学実習が疑われること,空気汚染物質は極力避けるべきであり,教育内容に配慮をしてほしいこと,症状悪化時には記憶力,集中力,記銘力とも低下し,呼吸困難の発作も起こすこと,原告は同様の患者の痛みが一番分かる立場におり,特質を考慮に 物質は極力避けるべきであり,教育内容に配慮をしてほしいこと,症状悪化時には記憶力,集中力,記銘力とも低下し,呼吸困難の発作も起こすこと,原告は同様の患者の痛みが一番分かる立場におり,特質を考慮に入れて,積極的な学習意欲をくみ上げてほしいことなどを記載した意見書を作成した(甲A18,甲A31・45,46頁)。 テ平成14年2月下旬,原告は,復学届と共に,j医師が作成した前記診断書及び意見書をb大学に送付した(前記前提事実(3)コ)。 また,そのころ,原告の代理人弁護士が,被告b大学のx学長らに対し,化学物質過敏症に罹患した原告が安全に医学部で勉強できるように配慮してほしいとの手紙を送付した(甲A15ないし17)。 ト平成14年3月11日,肉眼解剖学実習の担当教授であったn教授及びy教授は,原告に対し,①肉眼的解剖学実習は,医学部設置基準にもあり,単位認定がなされないまま,免除する形で進級することはあり得ないこと,②しかし,命の危険をおかしてまですべきことであるとは考えていないこと,③再履修に際して,解剖学実習で使用されるホルマリンが本人の健康を大きく損ね,命の危険に関わる可能性が高いと判断された場合は,解剖学実習を何か他の学習形態に代替えして,試験のみを他学生と同様に行い, これに合格すれば単位認定をする用意をしていること,④ただし,化学物質過敏症といっても,多岐に亘り程度も幅が広いため,過敏症が少しでもある学生に対し全員免除というわけにはいかないので,4月以降,b大学で原告の臨床経過を知っている医師や,他の施設で診察に当たった医師との間で情報を良く交換し,b大学医学部が,医学的立場から,肉眼解剖学実習が原告に危険性が高いと総合的に判断した場合には,上記のような対応をするつもりであること,⑤実際の標本を見る実地試験の際は,必要に 間で情報を良く交換し,b大学医学部が,医学的立場から,肉眼解剖学実習が原告に危険性が高いと総合的に判断した場合には,上記のような対応をするつもりであること,⑤実際の標本を見る実地試験の際は,必要に応じ,防護服(TST防護服ユニット)を貸し出すので,着用して実習試験を行うことを考えていること,⑥最終的な対応は,原告と直接相談のうえ決めたいこと等を通知した(甲A19,乙A8)。 ナ原告は,平成14年3月25日から同月29日まで,i病院アレルギー科に入院し,ホルムアルデヒドガス負荷試験を受けた。 40ppb負荷試験では,各種の自覚症状が誘発され,作業能力テストで機能低下が,近赤外線酸素濃度計による脳血流検査で酸化ヘモグロビン量の低下がそれぞれ認められた。その際,原告は,情緒不安定となり,泣き出す状態であり,試験施行日の夕方から皮膚に紅斑が出現し,頭痛が試験施行の翌日まで続き,咳が少し出始めた。 8ppb負荷試験では,各種症状が誘発され,作業能力テストでは軽度の低下を認めるのみであり,瞳孔の自律神経機能は負荷前後で明らかな差が認められ,自律神経の変動が示された。 近赤外線酸素濃度計による脳血流検査では異常はみられず,試験施行日の夕方には軽度の皮膚の紅斑を認め,咳が増悪した。 プラセボ負荷試験では,多少の症状が誘発され,作業能力検査でも一定程度の低下が認められたが,総合すれば,40ppb負荷試験及び8ppb負荷試験で認められたほどのものではなかった。 近赤外線酸素濃度計検査では,咳のために基線が動揺する傾向が現れた が,瞳孔検査では異常は引き起こされず,皮膚症状も発生しなかった(甲A20,21,甲A31・43,44頁,甲A32)。 j医師は,平成14年4月3日,上記試験結果を踏まえ,原告は微量なホルムアルデヒドに敏感に反応を示しており,特別の ず,皮膚症状も発生しなかった(甲A20,21,甲A31・43,44頁,甲A32)。 j医師は,平成14年4月3日,上記試験結果を踏まえ,原告は微量なホルムアルデヒドに敏感に反応を示しており,特別の配慮をしてほしい旨の意見書を作成した(甲A21,甲A31・43,44頁)。 ニ原告は,平成14年4月5日,被告b大学に対し,代理人弁護士を通じて,①解剖学実習及び試験を履修するのは無理なので,レポート等で代替してほしいこと,②全身防護用のスーツ自体に塩化ビニールなど,化学物質過敏症の原因となりうる素材が使用されているため着用が困難であること,③原因物質が存在する施設等への接近さえ控えさせてほしい旨通知した(乙A20)。 平成14年4月12日,m教授,y教授及びn教授が,原告に面談し,ガスマスク,ラテックスの手袋,防護スーツを示して,今後の対応について説明した。しかし,平成14年4月19日から,原告は,東京の病院に通院することを理由に,b大学を欠席した(乙A35)。 ヌ平成14年5月13日,原告は,Eクリニックにおいて,F医師から,「診断:化学物質過敏症。上記にて現在通院加療中です。」との診断を受けた(甲A22)。 ネ平成14年5月24日,j医師は,同年2月22日付け意見書に記載した所見(前記ツ)に加え,原告が,ホルムアルデヒドガス負荷試験の結果,微量なホルムアルデヒドに陽性反応を示したこと,実習時には空気汚染に対する配慮をしてほしいことなどを記載した意見書を作成した(甲A23,甲A31・48,49頁)。 さらに,平成14年5月28日,j医師は,原告が,極めて微量の化学物質に反応しているため,酸素吸入に際してもゴム管,塩化ビニールなどの軟質プラスチックまで避けざるを得ない状況にあること,末梢性の気道 閉塞が存在するため重装備のマスクも 告が,極めて微量の化学物質に反応しているため,酸素吸入に際してもゴム管,塩化ビニールなどの軟質プラスチックまで避けざるを得ない状況にあること,末梢性の気道 閉塞が存在するため重装備のマスクも呼吸器への負担が大きく,装着困難であると考えられること,そのため実習時に何らかの対応が可能かを検討してほしい旨を記載した意見書を作成した(甲A24,甲A31・50頁)。 ノ原告は,平成14年9月10日からb大学を休学した(前記前提事実(3)シ)。 ハ原告は,a大学に,再入学を希望する旨申し出た。被告a大学は,原告に対し,平成14年8月27日,人体解剖学については,実習を含んで全て履修の必要がある旨回答し,同年12月3日,試験は,退学後3年間が経過しているので,その間の学修状況と学力の確認を行うため,小論文,基礎学力試験,面接を実施する旨回答した(甲A25,27)。 ヒ平成15年1月,原告は,a大学の再入学試験を受験したが,同年2月3日,再入学不許可とされた(甲A28)フ平成16年3月末日,原告は,b大学を退学した(前記前提事実(3)シ)。 医学的知見(1)化学物質過敏症について証拠(甲B1,2,3,5,9ないし12,15,16,21,23ないし25,42の2,甲B43ないし46,66,76,91,113,証人z)及び弁論の全趣旨によれば,化学物質過敏症について以下の医学的知見が認められる。 ア化学物質過敏症をめぐる議論化学物質過敏症は,1950年代に,シカゴ大学の小児科教授であったランドルフによって初めて1つの疾病として提唱され,その後昭和62年には,Cullenが,「過去にかなり大量の化学物質に接触した後,又は微量な化学物質に長期にわたって接触した後,次の機会に非常に微量な同種又 は同系統の化学物質に再接触した際に その後昭和62年には,Cullenが,「過去にかなり大量の化学物質に接触した後,又は微量な化学物質に長期にわたって接触した後,次の機会に非常に微量な同種又 は同系統の化学物質に再接触した際にみられる不快な臨床症状」という概念のもと,これをMCS(MultipleChemicalSensitivity)と呼ぶことを提唱し,定義付けを行い,その後米国を中心に,臨床環境医学の臨床環境医と称される研究者により微量化学物質の影響についての研究が行われてきた。 平成11年には,米国の専門医99名のグループにより,MCSについて,①症状は曝露によって再現してくる,②慢性の経過を示す,③低レベルの曝露で症状が出てくる,④症状は原因物質の除去で改善又は軽快する,⑤化学的に無関係な多種類の化学物質に反応を示す,⑥症状は多種類の器官系にまたがる,との診断基準が公表された。 MCSとして報告されている症候は多彩であり,粘膜刺激症状(結膜炎,鼻炎,咽頭炎),皮膚炎,気管支炎,喘息,循環器症状(動悸,不整脈),消化器症状(胃腸症状),自律神経障害(異常発汗),精神症状(不眠,不安,うつ状態,記憶困難,集中困難,価値観や認識の変化),中枢神経障害(痙攣),頭痛,発熱,疲労感があり,これらの症候が同時にもしくは交互に出現する。 イ我が国における化学物質過敏症の知見(ア)我が国では,平成5年4月15日,北里大学医学部眼科学主任教授石川哲による「化学物質過敏症ってどんな病気-からだから化学物質を除去する健康回復法」,同年10月31日,北里大学医学部眼科学主任教授石川哲及び同大学医学部眼科学臨床研究教授宮田医師による「あなたも化学物質過敏症?-暮らしにひそむ環境汚染」等によって化学物質過敏症についての問題提起がなされた。 そして,平成8年度の厚生科学研究「 石川哲及び同大学医学部眼科学臨床研究教授宮田医師による「あなたも化学物質過敏症?-暮らしにひそむ環境汚染」等によって化学物質過敏症についての問題提起がなされた。 そして,平成8年度の厚生科学研究「化学物質過敏症に関する研究」において,「化学物質過敏症とは,最初にある程度の量の化学物質に曝露されるか,あるいは低濃度の化学物質に長期間反復曝露されて,一旦 過敏状態になると,その後極めて微量の同系統の化学物質に対しても過敏症状を来すことをいうが,化学物質との因果関係や発生機序については未解明な部分が多く,今後の研究の進展が期待される」との見解が示され,国際的にMCSの名称で呼ばれている症状につき「化学物質過敏症」との用語が使用されるようになった。 (イ)診断基準平成8年度に厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班において,化学物質過敏症の診断基準が作成され,他の慢性疾患が除外されることを前提として,以下の主症状2項目と副症状4項目に該当するか,または,主症状1項目,副症状6項目,検査所見2項目に該当する場合,化学物質過敏症と診断すると定められた。 a主症状①持続あるいは反復する頭痛,②筋肉痛あるいは筋肉の不快感,③持続する倦怠感,疲労感,④関節痛b副症状①咽頭痛,②微熱,③下痢・腹痛,便秘,④羞明,一過性の暗点,⑤集中力・思考力の低下,健忘,⑥興奮,精神不安定,不眠,⑦皮膚のかゆみ,感覚異常,⑧月経過多などの異常c検査所見①副交感神経刺激型の瞳孔異常,②視覚空間周波数特性の明らかな閾値低下,③眼球運動の典型的な異常,④SPECTによる大脳皮質の明らかな機能低下,⑤誘発試験の陽性反応(ウ)症状化学物質過敏症の症状としては,自律神経系を中心とした非常に多彩な症状を呈し,アレルギー,精神心理,呼吸,消化,循環器, PECTによる大脳皮質の明らかな機能低下,⑤誘発試験の陽性反応(ウ)症状化学物質過敏症の症状としては,自律神経系を中心とした非常に多彩な症状を呈し,アレルギー,精神心理,呼吸,消化,循環器,免疫,内分泌,感覚器,運動系症状も呈する。神経精神症状では,不眠,集中力 の低下,近方視困難,倦怠感,思考力の低下,頭痛,肩こり,興奮しやすい,うつ状態,咽頭痛,筋肉痛,筋肉の不快感,健忘などの症状を呈するとされている。 (エ)治療化学物質過敏症の基本的な治療法としては,①確実な診断,原因物質の特定,②原因物質の除去,③悪化因子を遠ざける,④健康状態を良好に保つ,⑤運動療法,温泉療法,サウナ療法による解毒,⑥ビタミン剤,解毒剤投与による解毒,⑦中和療法(原因物質の皮内投与による過敏症の中和)などが提言されている。 (2)ホルムアルデヒドについて証拠(甲B3,6,7,49,76,100,103,証人z)及び弁論の全趣旨によれば,ホルムアルデヒドについて以下の医学的知見が認められる。 アホルムアルデヒドの危険性ホルムアルデヒドは,無色で鋭い刺激臭の可燃性気体である。 ホルムアルデヒドは,のど,鼻,目などの粘膜への刺激,気管支など上気道への刺激,咳,肺炎,浮腫,炎症などを含む呼吸器系への影響,皮膚の様々な症状中枢神経を含む神経への影響,視床下部の変化,嘔吐,痙攣,急性の呼吸困難や意識障害など様々な健康被害をもたらす危険性を有し,慢性呼吸器系疾患や癌を引き起こすとも言われている。 また,ホルムアルデヒドに晒されると,0.1から5.0ppmで健康な人に対して目への刺激,催涙,上気道の痛みなどを生じ,10から20ppmで咳,胸の痛み,喘息の発作を起こすと指摘されている。 イ解剖学実習におけるホルムアルデヒド曝露による健康被害の報告平成11 な人に対して目への刺激,催涙,上気道の痛みなどを生じ,10から20ppmで咳,胸の痛み,喘息の発作を起こすと指摘されている。 イ解剖学実習におけるホルムアルデヒド曝露による健康被害の報告平成11年3月30日,大分医科大学の水城まさみ,津田富康は,大分医科大学医学部の解剖実習中,学生の健康調査を実施したところ,83% が目の刺激感,のどの刺激感など何らかの異常を感じ,倦怠感などの全身症状を呈する者も40%に見られ,ホルムアルデヒド濃度が,0.5ないし1.6ppmと明らかにWHO基準を超えていたと報告した。 また,平成13年1月30日,水城まさみ(以下「水城医師」という。),津田富康は,「人体解剖実習中のホルムアルデヒド曝露による身体症状発現とアトピー性素因との関連について」と題する論文で,ホルムアルデヒドがアレルギー症状を増悪させる可能性があることを指摘した。 争点(1)(ホルムアルデヒド曝露によって生じた原告の障害の有無及びその内容)について(1)原告は,解剖学実習においてホルムアルデヒドに曝露した後,睡眠サイクルの乱れ,肩凝り,倦怠感,耳が詰まった感じ,食欲不振,便秘,頭痛,原因不明の発熱,発疹,喉の違和感,膀胱炎等の症状が生じ,日常生活及び学業の継続に大きな支障が出たものであり,これらは解剖学実習におけるホルムアルデヒド曝露によって生じた症状である旨主張する。 (2)そして,この点については,以下の各事実を指摘することができる。 アb大学における解剖学実習実施期間中のエピソード前記認定事実によれば,原告が,①平成13年6月5日,試験中に激しい咳が出現し,過呼吸状態となって倒れてb大学病院総合診療部に搬送され,JCSⅢ-100まで意識レベルの低下がみられたこと(前記1(4)エ),②同月25日,1時限目の試験が始まる前に ,試験中に激しい咳が出現し,過呼吸状態となって倒れてb大学病院総合診療部に搬送され,JCSⅢ-100まで意識レベルの低下がみられたこと(前記1(4)エ),②同月25日,1時限目の試験が始まる前に倒れ,b大学病院総合診療部に搬送され,意識レベルJCSⅡ群,SpO85%までの低下が みられたこと(前記1(4)ス),③同月28日,解剖学実習中に意識を失って倒れ,b大学病院総合診療部に搬送され,意識レベルがJCSⅢ-300まで低下したこと(前記1(4)セ)が認められる。 これらは,意識レベルⅢ群,SpO80%台という過去にはみられな かった重篤な症状が短期間のうちに繰り返し出現しているものであり,原 告が,a大学における解剖学実習実施期間中においては,学業に対する強い不安感,焦燥感といった精神的症状を中心に訴え,明確な身体所見は認められていなかったのと比較すると,明らかに異なる身体反応を示しているといえる。 イi病院j医師の診断原告は,平成14年2月,i病院において,各種検査を受け,その結果,瞳孔の対光反射を利用した自律神経機能検査では明らかな自律神経失調が,眼球の追従運動では滑動性追従運動で階段状波形が,視覚空間周波数特性検査では視覚感度の低下が認められ,平衡機能検査での異常も認められた。 j医師は,このような神経学的検査所見やQEESIを用いての問診結果等から,米国及び我が国の化学物質過敏症の診断基準に合致しているものとして,平成14年2月20日,原告を多種類化学物質過敏症と診断した。 また,原告は,ホルムアルデヒドガス負荷試験を二重盲検法で行ったところ,40ppb負荷では,近赤外線酸素濃度計による脳血流検査で酸化ヘモグロビン量の低下が出現し,8ppb負荷では,瞳孔の自律神経機能に負荷前後で明らかな差が認められるなど,異 二重盲検法で行ったところ,40ppb負荷では,近赤外線酸素濃度計による脳血流検査で酸化ヘモグロビン量の低下が出現し,8ppb負荷では,瞳孔の自律神経機能に負荷前後で明らかな差が認められるなど,異常所見が認められた(前記1(4)ツ,ナ,ネ,甲A12ないし14,18,21,23,24,甲A31・3ないし19,24ないし41,45ないし50頁,甲B42の1,2)。 さらに,原告は,平成17年7月20日にもi病院を受診し,化学物質過敏症の検査を受けたところ,眼球追従運動検査,視覚空間周波数特性検査,平衡機能検査,RumpelLeede検査において異常所見が認められた(甲A53,甲B48)化学物質過敏症は多彩な症状を呈し,特異的な所見に乏しいため,自覚症状のみからの診断では医学的証明として不十分であるが,上記診断は, 化学物質過敏症の診断にも有効性が報告されている検査結果に基づいたものである(甲B42の2)。 ウ他の診療機関における診断原告は,平成13年6月23日,g眼科クリニックにおいて,「ホルマリンによる過敏アレルギー反応」が認められ(前記1(4)シ),同年8月14日,h病院において,「気管支喘息」,「上記疾患のため,当院通院加療中であるが,ホルマリン等の刺激物質の吸入は避ける必要がある。」と診断され(前記1(4)タ),平成14年5月13日,Eクリニックにおいて,「化学物質過敏症」との診断を受けた(前記1(4)ヌ)。これらも原告が化学物質過敏症を発症したことに整合する事実であるといえる。 以上によれば,原告は,遅くともj医師により化学物質過敏症と診断された平成14年2月20日までには化学物質過敏症を発症したものと認めるのが相当である。 そして,その原因としては,解剖学実習においてホルムアルデヒドに曝露した以外に原告が多量の化学物 過敏症と診断された平成14年2月20日までには化学物質過敏症を発症したものと認めるのが相当である。 そして,その原因としては,解剖学実習においてホルムアルデヒドに曝露した以外に原告が多量の化学物質に曝露した機会があったとは窺われないこと,原告がi病院のホルムアルデヒドガス負荷試験において異常所見を示していること,j医師が,その意見書において,発症の原因は解剖学実習が疑われる旨の意見を述べており,z医師(以下「z医師」という。)もホルムアルデヒドが原因であるとの意見を述べていること(前記1(4)ツ,ナ,ネ,甲B91,証人z)からすれば,解剖学実習におけるホルムアルデヒド曝露が原因であったと推認するのが相当である。 (3)以上に対し,被告らは,原告の症状はホルムアルデヒド曝露による化学物質過敏症とは言えない旨主張するので,以下,被告らの主張について検討する。 ア化学物質過敏症概念について被告らは,化学物質過敏症は,病態や発生機序が不明確であり,確定的 な定義や客観的な診断基準もなく,医学的に確立された概念とはいえないと主張する。 確かに,化学物質過敏症については,発生機序等に未解明の部分もあり,医学的概念として確立したと言い切れない面もある。しかしながら,前記2に認定したとおり,「過去にかなり大量の化学物質に接触した後,又は微量な化学物質に長期にわたって接触した後,次の機会に非常に微量な同種又は同系統の化学物質に再接触した際にみられる不快な臨床症状」が存在することは,各方面で指摘され,厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班においても,化学物質過敏症の診断基準が作成されるなど,議論も集積されているところであり,そのような病態が医学的に全く存在し得ないものとも認められないことからすれば,被告らの主張は採用することができな いても,化学物質過敏症の診断基準が作成されるなど,議論も集積されているところであり,そのような病態が医学的に全く存在し得ないものとも認められないことからすれば,被告らの主張は採用することができない。 また,仮に化学物質過敏症という概念を用いないとしても,前記(2)に判示したところによれば,原告は,解剖学実習においてホルムアルデヒドに大量曝露したことにより,少量の化学物質曝露によって症状が発生するという状態に至ったものと推認することができ,いわゆる「化学物質過敏症」と呼ばれる病態を発症したと認めるのが相当である。 イi病院における診断について(ア)被告らは,滑動性追従運動等の神経眼科的検査,活動性追従眼球運動検査の異常所見も化学物質過敏症に固有のものではない旨主張する。 確かに,眼球追従運動検査での異常所見が,化学物質過敏症以外にも,前頭葉などの機能不全が想定される統合失調症等の精神疾患でも検出され得ることが認められる(乙A80・27頁)。 しかしながら,①化学物質過敏症を訴える患者には,滑動性追従眼球運動検査で約85%,瞳孔対光反射検査で約70%に異常所見が出ることが認められるから(証人z27,28頁),これらを組み合わせるこ とによって,化学物質過敏症の診断をすることには合理性があると言えること,②原告が,瞳孔対光反射,眼球追従運動検査,視覚空間周波数特性検査等複数の検査において異常所見を示したこと,③原告には解剖学実習室におけるホルムアルデヒド曝露という化学物質への接触が認められていることからすれば,j医師が,各種検査結果を総合して,化学物質過敏症と診断したことは合理的であると言うべきである。 (イ)被告b大学は,ホルムアルデヒドガス負荷試験の結果によって,原告の主張する症状とホルムアルデヒド曝露との関係に有意な結果は得 て,化学物質過敏症と診断したことは合理的であると言うべきである。 (イ)被告b大学は,ホルムアルデヒドガス負荷試験の結果によって,原告の主張する症状とホルムアルデヒド曝露との関係に有意な結果は得られていない旨主張する。 確かに,前記認定のとおり,原告は,プラセボ負荷試験においても多少の症状が誘発され,作業能力検査でも低下があったことが認められる(前記1(4)ナ)。 しかし,①それらは40ppb負荷試験及び8ppb負荷試験で認められたほどのものではなかったとされていること,②プラセボ負荷試験であっても,ガス負荷により患者に異常な緊張が起こり,自覚症状が現れることはあり得ること(甲B42の2),③負荷試験の結果,40ppb負荷では,近赤外線酸素濃度計による脳血流検査で酸化ヘモグロビン量の低下が出現し,8ppb負荷では,瞳孔の自律神経機能に負荷前後で明らかな差が認められるなど,プラセボ負荷試験とは異なる所見が認められたことからすれば,上記ホルムアルデヒドガス負荷試験の結果に有意性が否定されるものとまでは認められない。 (ウ)さらに,被告らは,問診という手法が不確実である旨主張する。 そして,原告がi病院に提出した問診票には,今までかかったことのある病気について,精神疾患等の記載がないことなどが認められる(甲A12)。 しかし,医師は,問診の不確実性も踏まえたうえで,客観的所見を総 合しつつ,診断を行っているものと考えられること,j医師が,原告が化学物質過敏症であるとの診断は,精神疾患の治療歴があったことを考慮しても当然に維持されるものと考えられる旨の意見を述べていること(甲B47・2頁)に照らせば,直ちにj医師の診断が不合理であると言うことはできない。 ウ精神疾患等との関係について被告らは,原告の病態は,精神疾患やストレス,過労 られる旨の意見を述べていること(甲B47・2頁)に照らせば,直ちにj医師の診断が不合理であると言うことはできない。 ウ精神疾患等との関係について被告らは,原告の病態は,精神疾患やストレス,過労状態に起因するものとも考えられる旨主張する。 確かに,原告にはPTSDの既往が存在すること(前記1(1)エ),原告は,失声を主訴にk病院精神神経科の受診を開始し,向精神薬の投与を受けていたこと(前記1(1)カ),原告は,a大学医学部編入学後,実習や試験に対する強い不安感,焦燥感を訴えることが頻繁にあり,抑うつ状態と診断されたこと,原告がb大学医学部在学中症状発作を起こして倒れた時,時期が試験中や試験開始前としばしば重なっていたこと(前記(2)ア①,②)などに鑑みると,原告の心因的要素が症状発現に影響を与えていた可能性を否定することはできない。 しかしながら,原告には,前記のとおり,自律神経機能検査,視覚空間周波数特性検査等の他覚的検査において異常所見が認められており,これらが原告の精神疾患に由来するものと認めるに足りる証拠はないこと,j医師は,それらの他覚的検査所見を根拠に化学物質過敏症との診断をしており,精神症状がみられるというだけでは化学物質過敏症の診断は否定されない旨の意見を述べていること(甲B42の2,甲B47)を考慮すると,原告が解剖学実習におけるホルムアルデヒド曝露によって化学物質過敏症を発症したとの前記推認を覆すには足らない。 また,被告らは,原告のb大学における症状発作が,解剖実習中以外の時期にも生じている旨主張するが,ホルムアルデヒドによる健康被害は, 慢性呼吸器系疾患を引き起こすとも言われているから,ホルムアルデヒドを直接曝露していない時間に身体症状を呈することがあっても不自然とは言えず,被告らの主張は採用できない。 ドによる健康被害は, 慢性呼吸器系疾患を引き起こすとも言われているから,ホルムアルデヒドを直接曝露していない時間に身体症状を呈することがあっても不自然とは言えず,被告らの主張は採用できない。 (4)化学物質過敏症の発症時期について以上によれば,原告が遅くともj医師により化学物質過敏症と診断された平成14年2月20日までに化学物質過敏症を発症したと認められることは前記のとおりである。しかしながら,それがいつの時点で発症し,いつの時点で不可逆的となったかについては,これを認定するに足る証拠がなく,不明であるといわざるを得ない。 (ア)a大学医学部時代原告は,被告a大学の解剖学実習開始後,身体的な症状が発生したことを理由に,被告a大学で,化学物質過敏症が発症した旨の主張をする。 そして,被告a大学で解剖学実習を行うまでは健康状態には全く問題がなかったにもかかわらず,被告a大学での解剖学実習の初日から目がちかちかする感じやのどの痛みが生じ,解剖実習期間中から,日増に体調が悪くなり,目の痛み,のどの痛み,頭痛,悪心,ふらつき,物が覚えられないなどの症状が生じ,皮膚のかゆみ,便秘も発症した旨の供述をする(甲A34,58,原告本人2,3頁)。 さらに,証拠によれば,原告は,p大学法学部及びc大学大学院を卒業した後,医学部の編入試験に合格するなど,従前,特に勉学に支障がうかがわれなかったにもかかわらず(甲B36ないし38,77,82,83,94),被告a大学では,強い勉学の不安,体調不良等を訴えるなどして,結果的に勉学を継続することができなかったこと,a大学で解剖学実習を開始して間もなくの平成11年4月末ないし5月初めころ,原告は,体調不良を訴え,d教授から実習室の外で座って休んでくるよう指示を受けたこと(前記1(2)ウ)などが認められる と,a大学で解剖学実習を開始して間もなくの平成11年4月末ないし5月初めころ,原告は,体調不良を訴え,d教授から実習室の外で座って休んでくるよう指示を受けたこと(前記1(2)ウ)などが認められる。 しかしながら,一方,原告はa大学に入学前からPTSDと診断されるなどして精神神経科の通院歴を有していたこと,解剖学実習が始まる前の平成11年4月6日の時点から,k病院精神神経科を受診し,担当医師に対し,スケジュールがハードであると訴えていたこと(前記1(2)ア),a大学で肉眼的解剖学実習の始まった初日である同月20日には,k病院精神神経科の担当医師に対し,すでに,学校が肉体的にも精神的にもつらい,全然勉強についていけない,読めない文字を暗記するなんてできないなどと話していたこと(前記1(2)イ)が認められ,これらによれば,原告が勉強についていけないと感じる事態は,既に解剖学実習の前から始まっていたと推認するのが相当である。 したがって,被告a大学での解剖学実習を機に,各種健康被害や物が覚えられないなどの症状が生じた旨の原告の前記供述は,直ちに採用することができない。 また,平成11年4月末ないし同年5月初めころ,解剖学実習中に体調不良を訴えたことについても,体調不良が生じることは他の原因によってもあり得るし,仮にホルムアルデヒドによるものであったとしても,一過性の症状としても十分説明がつくものであって,その後,解剖学実習の度に体調不良の訴えが継続したことを認めるに足りる証拠がないことも併せ考えれば,この時点で化学物質過敏症を発症していたとまで推認することはできない。 さらに,原告は,平成11年4月27日には,k病院精神神経科を受診し,担当医師に対し,泣きながら「学校の方で,勉強とか実習とかついていくのが大変で気ばかり焦っちゃって眠 で推認することはできない。 さらに,原告は,平成11年4月27日には,k病院精神神経科を受診し,担当医師に対し,泣きながら「学校の方で,勉強とか実習とかついていくのが大変で気ばかり焦っちゃって眠れないしゴハン食べられないし」などと述べていたこと,同月28日,a大学病院精神科を受診し,診察を担当したf医師に対し,「何をやっても理解できない。漢字多いし,元々文系で勉強についていけない。勉強しなくてはと思うけど頭に入らな い。」などと主に学業に対する不安を訴えていたことなどからすれば,a大学時代の原告の症状は,むしろ勉学の不安,焦燥などに起因する精神症状と理解することが可能であって,化学物質過敏症の発症を認めることはできない。 この点に関し,原告は,原告がa大学病院において身体の不調を訴えていたにもかかわらず,a大学病院の医師らが原告の訴えに耳を貸さなかったものである旨供述する(原告本人5頁)。 しかしながら,a大学病院のカルテばかりか,k病院のカルテにも,原告が身体の不調を強く訴えていた旨の記載がないこと,原告がa大学病院において身体の不調を訴えた場合に,複数の医師がいずれもそれをカルテに記載しないとも考えにくいことに照らせば,原告の供述を採用することはできない。 なお,平成11年6月19日から同年8月16日までの原告の日記には,悪心,腹痛,頭痛等身体症状を訴えている部分もあることが認められる(甲A33)。しかしながら,それらの症状は,精神疾患の症状としても説明し得ることに照らせば,これらの記載から,原告が化学物質過敏症を発症していたと認めることもできない。 (イ)b大学医学部時代原告は,b大学解剖実習が始まってから,激しい咳が始まり,目の痛み,のどの痛み,倦怠感,著しい眠気もあった旨供述し(原告本人14頁), 被告b大学病 めることもできない。 (イ)b大学医学部時代原告は,b大学解剖実習が始まってから,激しい咳が始まり,目の痛み,のどの痛み,倦怠感,著しい眠気もあった旨供述し(原告本人14頁), 被告b大学病院における嗄声,意識消失(JCSⅢ-300),SpO85%,気道狭窄などの症状は,詐病や転換性障害,ヒステリー,過換気発作等で説明できるものではなく,化学物質過敏症が発症し,不可逆的となっていた旨主張する。 確かに,b大学で平成13年6月28日以降に生じた意識消失(JCSⅢ-300)やSpO85%との数値は,その重症度から考えて,ヒス テリー性失神や詐病様心理的機作のみによって説明するには,困難があると考えられる。そして,その後,平成14年2月には,原告がi病院で多種類化学物質過敏症と診断されていることに照らせば,当時の原告の症状は,ホルムアルデヒドにより気道に障害を受け,呼気量の減少を生じていたと考えるのが自然である。 しかしながら,一方,原告には,試験中や試験直前に症状発作を起こす場面が見られていたこと,a大学在学中の原告の症状は,専ら精神症状が中心であったことに照らせば,b大学における症状発作にも,精神疾患が関与していた可能性が否定できない。 また,ホルムアルデヒド自体が,のど粘膜への刺激,気管支など上気道への刺激,咳などの呼吸器系への影響,嘔吐,痙攣,急性の呼吸困難や意識障害,慢性呼吸器系疾患など様々な健康被害をもたらすことが指摘されていることに照らせば,原告の当時の症状がホルムアルデヒド自体の刺激による症状であった可能性も十分に考えられ,上記症状から,直ちに,原告がb大学時代に,化学物質過敏症(最初にある程度の量の化学物質に曝露されるか,あるいは低濃度の化学物質に長期間反復曝露されて,一旦過敏状態になった後,極めて微量の えられ,上記症状から,直ちに,原告がb大学時代に,化学物質過敏症(最初にある程度の量の化学物質に曝露されるか,あるいは低濃度の化学物質に長期間反復曝露されて,一旦過敏状態になった後,極めて微量の同系統の化学物質に対しても過敏症状を来す状態)を発症していたとまで推認することはできない。 争点(2)(被告a大学の安全配慮義務違反の有無)について(1)ホルムアルデヒド曝露回避についての一般的な注意義務違反の有無についてア原告は,被告a大学には,解剖学実習に参加する学生の健康を損なわないため,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を主位的にはWHO(世界保健機関)の定める居室基準(0.08ppm)以下に,予備的には作業場基準(0.5ppm)以下におさえるべき義務があり,具体的には,①ホルムアルデヒド濃度を定期的に計測し,②ホルマリンを遺体固定のため に使用しない,③仮に使用するとしても,注入固定法ではなく環流固定法にする,④仮に使用しても,アルコール置換等で残存を最小にする,⑤遺体の保管中にホルムアルデヒドをアンモニアやアンモニウム塩で減らす,⑥気温上昇とともにホルムアルデヒド発生量が増えるので,解剖学実習室の気温を下げる,⑦解剖学実習室に特別に強力な強制換気システムを導入する,⑧解剖台の改修を含めた局所換気装置を導入する,⑨ホルムアルデヒド除去ゲルを設置する,⑩個人曝露を最小限にするために下方へ排気される解剖台を導入する,⑪個人曝露を最小限にするために効果的なマスク(活性炭繊維マスク,ポシェット型の循環式タンク),ゴーグルを使用させる,⑫代替的方法を用いて学生の曝露時間を低減する,といった回避措置をとるべき注意義務があったと主張する。 イ確かに,ホルムアルデヒドが人体に有害な影響を及ぼし得る物質であることは前記認定のとおりで ,⑫代替的方法を用いて学生の曝露時間を低減する,といった回避措置をとるべき注意義務があったと主張する。 イ確かに,ホルムアルデヒドが人体に有害な影響を及ぼし得る物質であることは前記認定のとおりであり,ホルムアルデヒドの危険性と対策の必要性については,昭和52年ころから,度々新聞等でも指摘されていたところである(甲B148の1,2,甲B149ないし154)。 また,平成11年3月30日には,大分医科大学の水城医師らが解剖学実習中の学生の健康調査を実施したところ,83%が目の刺激感,のどの刺激感など何らかの異常を感じており,倦怠感などの全身症状を呈する者も40%に見られたこと,ホルムアルデヒド濃度が,0.5ないし1.6ppmと明らかにWHO基準を超えていたことなどを雑誌「アレルギー」に報告していたこと(甲B7)も前記認定のとおりである。 ウしかしながら,この点については,以下のとおり指摘することができる。 (ア)ホルムアルデヒド濃度の基準についてa居室基準についてこの点につき,z医師は,解剖学実習室は,人が長時間居住する場所であることに変わりなく,ホルムアルデヒド濃度は居室基準である 0.08ppm以下にすることが望ましい旨の意見を述べ(証人z2,3頁),C医師も,作業場基準の遵守以上の配慮が必要であるとの意見書を提出する(甲B97)。 しかしながら,居室基準は,人が24時間,長期間にわたって曝露し続けることを想定した基準といえるのに対し,解剖学実習室では,医学部教育における解剖学実習が行われる一定期間,解剖学実習の授業が行われる一定の時間の範囲で,ホルマリンで固定した遺体を扱うことが予定されていることからすれば,たとえ医学部の学生がそこに長時間滞在することがあるとしても,これを生活のための居室と同視することはできず,そのホ の時間の範囲で,ホルマリンで固定した遺体を扱うことが予定されていることからすれば,たとえ医学部の学生がそこに長時間滞在することがあるとしても,これを生活のための居室と同視することはできず,そのホルムアルデヒド濃度につき居室基準(0. 08ppm以下)がそのまま妥当するものとは考えられない。 この点は,平成12年6月30日,シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会での中間報告を踏まえ,厚生省生活衛生局長名で「室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び標準的測定方法について」と題する文書が発出され,その中で,ホルムアルデヒドの室内濃度指針値を0.08ppmと定めているが,一方,「工場その他の特殊な化学物質発生源のある室内空間は,別途検討されることが必要である」と述べられているところにも整合するものである(甲B20)。 したがって,居室基準である0.08ppm以下を遵守すべき義務があるとは認められない。 b作業場基準について他方,作業場基準については,「作業場」の定義が明確でないとはしても,学生が解剖学実習室において長時間にわたり遺体の解剖作業を行うこともあることを考慮すれば,その気中ホルムアルデヒド濃度につき作業場基準(0.5ppm以下)を一つの目標とすることは十分に考え得るところである。 しかし,平成11年は,未だ前記文部科学省による高等教育局医学教育課長による「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する通知が発出される2年近く前であり,大分医科大学で「アレルギー」という雑誌に問題提起がなされた時期であって,当時,一般の大学において,解剖学実習室におけるホルムアルデヒド対策の必要性,ホルムアルデヒド濃度を軽減させる具体的方策について,問題意識が醸成されていたと認めることはできないこと,化学物質過敏症につい 一般の大学において,解剖学実習室におけるホルムアルデヒド対策の必要性,ホルムアルデヒド濃度を軽減させる具体的方策について,問題意識が醸成されていたと認めることはできないこと,化学物質過敏症についても,その病態生理,発症機序も,当時未だ仮説の段階にあり,確証に乏しいとされていたこと(乙B1)に照らせば,平成11年当時,被告a大学において,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を,直ちに作業場基準の0.5ppm以下に抑えるべき安全配慮義務があったと認めることはできない。 この点につき,原告は,被告a大学は,ホルマリンを扱う職員に対して労働安全衛生法上の義務を負っていたのであり,学生に対しても,少なくとも同等以上の安全についての配慮をすべきは当然である旨主張する。 しかしながら,平成13年4月20日付文部科学省高等教育局医学教育課長による「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する通知によっても,「本提言を踏まえ系統解剖実習時の環境向上に努めていただきますようお願いします。」,「実習室内は,多数の学生が同時に曝露される可能性があるので,換気扇や空気清浄機等で出来る限りの清浄化に努めること」とあるのみで,ホルムアルデヒド濃度の低減に努力するよう提言されてはいるものの,その具体的数値目標が示されているものではなく,また,換気扇や空気清浄機以上にその具体的方策も示されているわけではないことに照らせば,その2年近く前である平成11年当時において,解剖学実習室のホル ムアルデヒド濃度を,具体的に0.5ppm以下に抑えるべき義務があったと認めることはできない。 (イ)ホルムアルデヒド濃度についてまた,a大学医学部解剖学実習室におけるホルムアルデヒド濃度について検討する。 原告は,被告a大学解剖学実習室の気中ホルムアルデヒド濃度 と認めることはできない。 (イ)ホルムアルデヒド濃度についてまた,a大学医学部解剖学実習室におけるホルムアルデヒド濃度について検討する。 原告は,被告a大学解剖学実習室の気中ホルムアルデヒド濃度は,非常に高濃度であり,理科の実験室にあるホルマリン標本の百万倍と言ったらいいくらいの強い臭いであった旨供述する(原告本人1頁)。 そして,証拠(甲B49ないし57,59,60)によれば,平成13年ないし15年ころ,各大学の解剖学実習室には,作業場基準である0.5ppmを超える測定結果が数多く報告されていたことも認められる。 しかしながら,原告が解剖学実習を受けた平成11年当時における被告a大学における解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度の測定結果は存在せず,証拠(丙A13,14)によれば,同実習室において,平成16年11月27日,平成17年7月1日,同年10月26日及び平成18年10月27日,ホルムアルデヒド濃度が測定され,以下の結果が得られたことが認められる。 a平成16年11月27日30の遺体を開放し,一晩,換気システムを稼働させない状態で放置し,翌朝午前10時に濃度を測定したところ,測定値は0.65ppmであった。 午前11時,換気システムの稼働を開始し,午後0時から1時間ごとに濃度を測定したところ,午後0時の測定値は0.90ppm,午後1時から午後5時の測定値はいずれも0.50ppmであった。 b平成17年7月1日 午前9時,23の遺体を開放し,濃度を測定したところ(換気システムは稼働させていない。),測定値は0.10ppmであった。 午前10時,換気システムの稼働を開始し,濃度を測定したところ,測定値は0.10ppmであった。午前11時の測定値は0.15ppmであった。 午後0時,遺体をすべて閉じた。午後0時及び午後1時の 。 午前10時,換気システムの稼働を開始し,濃度を測定したところ,測定値は0.10ppmであった。午前11時の測定値は0.15ppmであった。 午後0時,遺体をすべて閉じた。午後0時及び午後1時の測定値はいずれも0.05ppmであった。 午後2時,再び23の遺体を開放した。午後2時,午後3時及び午後4時の測定値はいずれも0.15ppmであった。 c平成17年10月26日午前9時,30の遺体を開放し,濃度を測定したところ(換気システムは稼働させていない。),測定値は0.05ppmであった。午前10時,換気システムの稼働を開始した。午前10時及び午前11時の測定値はいずれも0.15ppmであった。 午後0時,遺体を全て閉じた。同時刻の測定値は0.05ppmであった。 午後1時,再び30の遺体を開放した。同時刻の測定値は0.10ppm,午後2時の測定値は0.20ppm,午後3時及び午後4時の測定値はいずれも0.15ppmであった。 d平成18年10月27日午前9時,換気システムの稼働を開始し,濃度を測定したところ(遺体を開放していない。),測定値は0.05ppm以下であった。 午前10時の測定値は0.05ppmであった。 午前11時,29の遺体を開放した。同時刻の測定値は0.20ppmであった。 午後0時,遺体を全て閉じた。同時刻の測定値は0.03ppm, 午後1時の測定値は0.05ppm以下であった。 午後2時,再び29の遺体を開放した。同時刻,午後3時及び午後4時の測定値はいずれも0.15ppmであった。 以上の各測定結果によれば,遺体を当日の朝に開放した場合においては,換気システムの使用により,解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度は概ね0.05ppm~0.20ppmに保たれ,他方,遺体を一晩中開放していた場合においても,換気シス 日の朝に開放した場合においては,換気システムの使用により,解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度は概ね0.05ppm~0.20ppmに保たれ,他方,遺体を一晩中開放していた場合においても,換気システムを一定時間稼働させれば,ホルムアルデヒド濃度が0.5ppmを大きく上回ることはなかったものということができる。そして,平成11年当時のa大学医学部解剖学実習でも同様の換気システムが使用されていたこと(甲B91,証人z6頁)からすれば,平成11年時点における実習中のホルムアルデヒド濃度が作業場基準である0.5ppmを大きく超えていたとの前記原告の供述は直ちに採用することができず,他に平成11年当時のホルムアルデヒド濃度を認めるに足りる証拠はない。 また,z医師は,平成11年当時のa大学医学部解剖学実習室は,実感としては,ホルムアルデヒド濃度が0.14ppm~1.41ppmを示していたi大学医学部解剖学実習室とほぼ同様の状況であった旨証言する(甲B91,証人z5頁)。しかし,これはz医師の実感にとどまっており,z医師もホルムアルデヒド濃度について科学的な回答はしにくいと証言していることからしても,同証言によって平成11年当時のa大学医学部解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度が0.5ppmを大きく超えていたと認定することはできないというべきである。 (ウ)以上のとおり,①平成11年当時,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を居室基準(0.08ppm以下)又は作業場基準(0.5ppm以下)に抑えるべき安全配慮義務が存したとは認められないこと,②平成11年当時のa大学医学部解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度が 作業場基準(0.5ppm)を超えていたと認めるに足りる証拠もないことからすれば,原告の主張するホルムアルデヒドを基準値内に抑えるべき 年当時のa大学医学部解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度が 作業場基準(0.5ppm)を超えていたと認めるに足りる証拠もないことからすれば,原告の主張するホルムアルデヒドを基準値内に抑えるべき義務違反は認めることができない。 エ具体的措置をとるべき義務について(ア)a大学におけるホルムアルデヒド曝露回避措置証拠によれば,平成11年当時のa大学医学部解剖学実習においては,天井から吸気して床面に近い排気口から出す方式の換気システムが使用されていたことが認められる(甲B91,証人z6頁)。 そして,平成13年4月20日付文部科学省高等教育局医学教育課長による「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する通知によっても,「実習室内は,多数の学生が同時に曝露される可能性があるので,換気扇や空気清浄機等で出来る限りの清浄化に努めること」と記載されていることからすれば,その2年近く前の平成11年当時としては,ホルムアルデヒド曝露回避のための一般的措置は採られていたと考えるのが相当である。 (イ)原告の主張するその他の措置をとるべき義務について原告は,さらに,被告a大学には,①ホルムアルデヒド濃度を定期的に計測し,②ホルマリンを遺体固定のために使用しない,③仮に使用するとしても,注入固定法ではなく環流固定法にする,④仮に使用しても,アルコール置換等で残存を最小にする,⑤遺体の保管中にホルムアルデヒドをアンモニアやアンモニウム塩で減らす,⑥気温上昇とともにホルムアルデヒド発生量が増えるので,解剖学実習室の気温を下げる,⑦解剖学実習室に特別に強力な強制換気システムを導入する,⑧解剖台の改修を含めた局所換気装置を導入する,⑨ホルムアルデヒド除去ゲルを設置する,⑩個人曝露を最小限にするために下方へ排気される解剖台を導入する,⑪個 に特別に強力な強制換気システムを導入する,⑧解剖台の改修を含めた局所換気装置を導入する,⑨ホルムアルデヒド除去ゲルを設置する,⑩個人曝露を最小限にするために下方へ排気される解剖台を導入する,⑪個人曝露を最小限にするために効果的なマスク(活性炭繊維 マスク,ポシェット型の循環式タンク),ゴーグルを使用させる,⑫代替的方法を用いて学生の曝露時間を低減するといった回避措置をとるべき注意義務があったと主張する。 そこで,以下に個別に検討する。 aホルムアルデヒド濃度の定期的測定義務について原告は,解剖学実習室におけるホルムアルデヒド濃度を基準値内に抑えるために,濃度を定期的に計測すべき義務があったと主張するが,基準値内に抑える義務があったと認めるに足りないことは前記認定のとおりであるし,そのための定期的計測が独立の義務とも認められない。 bホルマリンを使用しない義務について証拠によれば,平成16年当時,遺体の固定法として,シリコン,エポキシ,ポリエステル系樹脂等をしみこませたうえで樹脂を重合させるプラストミック標本と呼ばれる固定方法もあることが紹介されたことが認められる(甲B111,112)。 しかしながら,平成11年当時にホルマリンを使用しない方法が確立していたと認めるに足りる証拠はなく,ホルマリンを使用しない義務があったとは認められない。 cホルマリンを注入固定法ではなく,環流固定法で使用すべき義務について証拠によれば,平成15年6月30日発行の文献に,「系統解剖実習においては,従来注入固定法が用いられてきたが,改善され,環流固定法が取り入れられている」との記載があることが認められる(甲B64)。 しかしながら,平成11年当時,これが一般的であったと認めるに足りる証拠はなく,ホルマリンを環流固定法で使用すべき義務があっ 法が取り入れられている」との記載があることが認められる(甲B64)。 しかしながら,平成11年当時,これが一般的であったと認めるに足りる証拠はなく,ホルマリンを環流固定法で使用すべき義務があっ たとは認められない。 dアルコール置換を行うべき義務について平成11年当時,遺体のアルコール置換が一般的であったと認めるに足りる証拠はなく,これが義務であったとは認められない。 eアンモニアやアンモニウム塩の使用義務について平成11年当時,アンモニアやアンモニウム塩の使用が一般的であったと認めるに足りる証拠はなく,これが義務であったとは認められない。 f室温を下げる義務について平成11年当時,換気装置による温度調節に加え,室温を下げることが一般的であったと認めるに足りる証拠はなく,これが義務であったとは認められない。 g特別強力な換気システム義務についてa大学で,平成11年当時,天井から吸気して床面に近い排気口から出す方式の換気システムが使用されていたことは前記認定のとおりであり,これ以上の換気システムを採用することが一般的であったと認めるに足りる証拠はなく,これが義務であったとは認められない。 h局所換気装置義務について証拠によれば,平成7年にイスラエルでホルムアルデヒドガスを下流に引くためのモーターが一体となって内蔵された新しいタイプの解剖台が紹介されたこと(甲B98の1,2),日本でも平成14年に,汚染物質をストレッチャー周囲に設けられた吸引口から吸引するクリーンシステムが販売されたこと(甲B28),平成17年にはホルムアルデヒドを発生源近くで捕捉する解剖実習用換気浄化システムが発売されていること(甲B99)などが認められる。しかしながら,これらが平成11年当時一般的であったと認めるに足りる証拠はなく, これが義 ヒドを発生源近くで捕捉する解剖実習用換気浄化システムが発売されていること(甲B99)などが認められる。しかしながら,これらが平成11年当時一般的であったと認めるに足りる証拠はなく, これが義務であったとは認められない。 iホルムアルデヒド除去ゲル使用義務について平成16年4月,A大学看護短期大学部のBらにより,解剖実習室にホルムアルデヒド除去ゲル(グリス,GJS-H200)を設置したところ個人曝露濃度も気中濃度も減少していたとの報告がなされたことが認められる(甲B73,109)。しかしながら,平成11年当時,それが一般的であったと認めるに足りる証拠はなく,これが義務であったとは認められない。 j下方へ排気される解剖台設置義務についてa大学で,平成11年当時,天井から吸気して床面に近い排気口から出す方式の換気システムが使用されていたことは前記認定のとおりである。そして,平成11年当時,これ以上の換気システムを採用することが一般的であったと認めるに足りる証拠はなく,これが義務であったとは認められない。 kマスク,ゴーグルの使用義務について平成10年当時,大分医科大学では,簡易活性炭マスクを,解剖学実習を受ける学生全員に装着させていたこと(甲B97),このことが平成11年3月30日発行の専門雑誌「アレルギー」に報告されていることが認められる。 しかしながら,それが当時一般的であったと認めるに足りる証拠はなく,簡易活性炭マスク,その他活性炭線維マスク,ポシェット型循環式タンクがついたマスク等の全員着用が義務であったとは認められない。 l代替的方法平成12年8月9日,UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校),コロラド大学などで,学生が遺体を解剖する授業が段階的 に廃止されつつあることが書籍に紹介されていることが認 l代替的方法平成12年8月9日,UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校),コロラド大学などで,学生が遺体を解剖する授業が段階的 に廃止されつつあることが書籍に紹介されていることが認められる(甲B119)。 しかしながら,それが義務であったと認めるに足りる証拠はない。 (ウ)以上によれば,原告の主張する方策については,これを採るべき義務があったと認めることができず,したがって,被告a大学に,事前の一般的注意義務として,原告の主張する具体的義務があったと認めることはできない。 (2)ホルムアルデヒドの危険性等についての説明義務違反の有無について原告は,解剖学担当のd教授には,解剖学実習の前に,ホルムアルデヒドの危険性,防護法の必要性を学生に説明し,体調不良が起こったら直ちに担当教員に申し出るよう指導すべき注意義務があったにもかかわらず,d教授は,それらの説明,指導を行わなかった旨主張する。 そして,平成10年当時,大分医科大学では,実習開始前のオリエンテーションにおいてホルムアルデヒドによる身体障害の説明と曝露に対する対処法について説明を行っていたことが認められる(甲B76,97)。 しかしながら,ホルムアルデヒドの危険性,防護法の必要性について,事前に指示をすることが前記認定のような平成11年当時の解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度に関する知見に照らし,義務であったとまでは認められないこと,体調が悪い時に担当教員に申し出るべきことは,特に告知するまでもなく,いわば常識的な事柄であって,義務とまでは認められないこと,現に原告が解剖学実習においてd教授に対し体調不良を訴えたと認められること(前記1(2)ウ)に鑑みれば,上記の点について,被告a大学に注意義務違反があったと認めることはできない。 (3)原告に健康被害が発生又 剖学実習においてd教授に対し体調不良を訴えたと認められること(前記1(2)ウ)に鑑みれば,上記の点について,被告a大学に注意義務違反があったと認めることはできない。 (3)原告に健康被害が発生又は継続した時点での注意義務違反の有無について前記認定のとおり,原告は,平成11年4月末ないし5月初めころの解剖 学実習において,d教授に対し,体調不良を訴え,実習室の外で休んでくるよう指示を受けたことが認められる(前記1(2)ウ)。 しかし,原告が解剖学実習において体調不良を訴えたと明確に認めることができるのは上記の一時点のみであり,その後,原告が,解剖学実習の担当教授に対して,解剖学実習による体調不良を継続的に訴えたり,ホルムアルデヒドとの関連性を示唆する体調不良の訴えをしたとは認められない。 他方,前記認定事実によれば,原告は,解剖学実習初日である平成11年4月20日,k病院精神神経科を受診し,担当医師に対し,「学校が肉体的にも精神的にもつらい」,「全然勉強についていけない」などと訴え(前記1(2)イ),同月27日,その旨をa大学l保健管理室のe医師にも告げていたこと(前記1(2)エ),同月28日,a大学病院精神科を受診し,担当のf医師に対し,「何をやっても理解できない。漢字多いし,元々文系で勉強についていけない。日本語聞き取れないし,漢字も読めないし,皆分かっていて私だけ分からなくて。勉強しなくてはと思うけど頭に入らない。」などと学業に対する不安を訴え,その際,身体症状は認められなかったこと(前記1(2)オ),その後もa大学病院精神科へ通院し,医学部での学習に対する不安を訴え続け,同年6月19日,抑うつ状態との病名でa大学病院精神科に入院するに至ったこと(前記1(2)カないしタ)が認められる。これらの点からすれば,d教授やa大学病 し,医学部での学習に対する不安を訴え続け,同年6月19日,抑うつ状態との病名でa大学病院精神科に入院するに至ったこと(前記1(2)カないしタ)が認められる。これらの点からすれば,d教授やa大学病院の担当医師が原告の体調不良の訴えを心因的要素によるものであると判断したことが不合理であったとはいえず,d教授やa大学病院の担当医師において,原告の体調不良がホルムアルデヒド曝露によるものであると疑い,原告についてホルムアルデヒド曝露回避のための措置をとるべき義務があったとは認められない。 以下,個別に検討する。 ア説明義務及び一時的に曝露を回避させる義務について原告は,d教授には,解剖学実習において原告が健康被害を訴えたとき, その健康被害が解剖学実習のホルムアルデヒド曝露が原因ではないかと疑い,そのことを原告に説明した上で,原告に休憩をとらせて,一時的に曝露を回避させるべき注意義務があったと主張する。 しかしながら,前記1(2)ウ認定のとおり,d教授は,原告から体調不良の訴えを受けて,原告に対し,実習室の外で座って休んでくるよう指示したことが認められ,この点に照らせば,d教授は,体調不良を訴えた原告に対する配慮として必要な対応をとったということができ,その対応に注意義務違反があるとは認められない。 原告は,d教授が,原告に対し,健康被害の原因としてホルムアルデヒド曝露が疑われることを説明しなかった点に説明義務違反がある旨主張するが,休憩を指示するなどして一時的に曝露を回避させるべき注意義務を果たしている以上,これと独立して原告の主張するような説明義務があったということはできず,原告の主張は採用できない。 イ気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,基準値内に抑える対策措置をとる義務について原告は,d教授には,原告から健康被害が継続している 説明義務があったということはできず,原告の主張は採用できない。 イ気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,基準値内に抑える対策措置をとる義務について原告は,d教授には,原告から健康被害が継続していることを訴えられた時点で,a大学管理部門に対し,解剖学実習室内の気中ホルムアルデヒド濃度を測定すること,解剖学実習室のホルムアルデヒド曝露を基準値内に抑えるための回避措置(前記(1)ア)をとることを提案すべき義務があり,a大学管理部門は,その提案を受け,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,前記回避措置(前記(1)ア)を実施すべき義務があったと主張する。 しかし,平成11年当時,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を居室基準又は作業場基準以下に抑える義務があったとはいえないこと,平成11年当時のa大学医学部解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度が作業場基準である0.5ppmを大幅に超えていたと認めるには足らないこと,通常の換気システムの使用という一般的な措置がとられていたこと,した がって,被告a大学にホルムアルデヒド曝露回避についての一般的な注意義務違反があったとは認められないことは,前記(1)に判示したとおりである。 そして,体調不良が発生した原告を直ちに解剖学実習室から退避させ,休憩を指示している以上,さらに,原告の個人曝露を防ぐために解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度自体を一律に低下させる義務が生じると解することはできない。 よって,原告の上記主張は採用できない。 ウホルムアルデヒドの個人曝露を減少させる対策措置をとる義務について原告は,d教授には,原告から健康被害が継続していることを訴えられた時点で,原告のホルムアルデヒドの個人曝露を減少させるために,下方へ排気される解剖台を導入し,曝露を減少させる効果のあるマスク,ゴーグルを使用させ は,原告から健康被害が継続していることを訴えられた時点で,原告のホルムアルデヒドの個人曝露を減少させるために,下方へ排気される解剖台を導入し,曝露を減少させる効果のあるマスク,ゴーグルを使用させる措置をとるべき義務があったと主張する。 そして,平成11年4月末ないし5月初めころの解剖学実習において,原告が,担当教授であったd教授に対し,体調不良を訴え,d教授は,原告に対し,実習室の外で座って休んでくるよう指示したこと(甲A58),平成10年当時,大分医科大学では,学生の中で特に症状が強い者については,保健管理センターを受診させ,隔離式防毒マスクの装着などをさせていたこと(甲B76,97)が認められることは前記認定のとおりである。 しかし,a大学医学部解剖学実習室においては,前記認定のとおり,天井から吸気して床面に近い排気口から出す方式の換気システムが使用されており,一般的曝露回避措置は採られていたこと,平成11年当時のa大学医学部解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度が作業場基準である0. 5ppmを大幅に超えていたとは認められないこと,原告が解剖学実習中に体調不良を訴えたと認められるのは,平成11年4月の1回のみであり, その後,原告の解剖学実習と直接結びついた体調不良の訴えが継続したことを認めるに足りる証拠はなく,むしろ,平成11年4月27日以降,原告は,専ら勉学についての不安,焦りを強く訴えていたことを考慮すれば,被告a大学の担当教授らにおいて,原告の体調不良の訴えが学業の不安に基づくものと疑ったことにも相当な理由があり,それをホルムアルデヒド曝露に伴う健康被害であると認識することができたとは認められず,したがって,原告のホルムアルデヒドの個人曝露を減少させるために,曝露を減少させる効果のあるマスク,ゴーグルを使用させる措置 アルデヒド曝露に伴う健康被害であると認識することができたとは認められず,したがって,原告のホルムアルデヒドの個人曝露を減少させるために,曝露を減少させる効果のあるマスク,ゴーグルを使用させる措置をとるべき義務があったと認めることはできない。 よって,原告の上記主張は採用できない。 エ化学物質過敏症の専門医受診を勧告すべき義務について原告は,d教授には,原告から健康被害が継続していることを訴えられた時点で,化学物質過敏症専門医の受診を勧める注意義務があったと主張する。 しかしながら,被告a大学の担当教授らにおいて,原告の継続的体調不良の訴えの原因がホルムアルデヒド曝露に伴うものであると認識することができたと認めるに足りないことは前記認定のとおりである。そして,解剖学実習中に体調不良が継続しているとの訴えがあったのみで直ちに化学物質過敏症の発症を強く疑うべきであるともいえないことに照らすと,上記訴えがあった時点で化学物質過敏症専門医の受診を勧めるべき注意義務があったとは認められない。 また,証拠(甲A58)によれば,d教授は,原告が体調不良を訴えたのに対し,保健管理室の受診を指示したことが認められ,これによれば,原告の健康に配慮した適切な対応がとられたものということができる。 よって,d教授が原告に化学物質過敏症専門医の受診を勧めなかった点に注意義務違反があると認めることはできない。 オ解剖学実習に代わる方法を用意して,解剖学実習から遠ざける義務について原告は,仮に被告a大学が前記イ及びウの注意義務を尽くしていたとしても,原告が健康被害を継続していた場合,被告a大学には,解剖学実習に代わる方法を用意して,原告を解剖学実習から遠ざける義務があった旨主張する。 そして,ネバダ大学では,学生は,専門のスタッフが剖出作業を終えた解剖 害を継続していた場合,被告a大学には,解剖学実習に代わる方法を用意して,原告を解剖学実習から遠ざける義務があった旨主張する。 そして,ネバダ大学では,学生は,専門のスタッフが剖出作業を終えた解剖体を見学するという方法をとっていること(甲B17),UCSFやコロラド大学においても代替的学習方法が進められていること(甲B119)が認められ,z医師が,「教育方法を変えるべきだと思うし,現実に欧米,本邦でもそのような方向性に既に入っていると認識している」との意見を述べている(甲B91)ことが認められる。 しかしながら,被告a大学の担当教授らにおいて,原告の継続的体調不良の訴えの原因がホルムアルデヒド曝露に伴うものであると認識することができたと認めるに足りないことは前記認定のとおりである。そして,①必修課目について代替措置を講じるか否かは,原則として,その教育機関の裁量に委ねられるべき問題であること,②肉眼解剖学実習は,学生が実際に人体を解剖することにより,人体の構造,各器官の形態,解剖学的位置関係等を肉眼的に観察して,それらの構造や機能についての理解を深める点で,医学部の教育において重要な意義を有していると認められること(甲A5,丙A4,10)に照らせば,被告a大学が解剖学実習を必修課目としたのは,その裁量の範囲に属する行為として相当であって,解剖学実習について代替手段を用意すべき義務があったということはできない。 (4)e医師の注意義務違反の有無についてア原告は,e医師には,原告がa大学l保健管理室を受診したとき,ホルムアルデヒド曝露と原告の健康被害との関係を疑い,d教授と連絡をとり, 前記(3)イ及びウの措置を行い,また,原告に対し,化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき注意義務があった旨主 健康被害との関係を疑い,d教授と連絡をとり, 前記(3)イ及びウの措置を行い,また,原告に対し,化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき注意義務があった旨主張する。 そして,原告は,平成11年4月27日,学業に対する不安が強いことを訴え,保健管理室を受診したことが認められる(前記1(2)エ)。 イしかし,この点に関しては,以下の事実を指摘することができる。 (ア)原告は,a大学入学前よりk病院精神神経科に通院し,向精神薬の投与を受けていたところ(前記1(1)カ),a大学入学後,同病院の担当医師に対し,医学部でのスケジュールがハードであり,勉強や実習についていくことができず,肉体的にも精神的にも辛いことを訴え,平成11年4月27日には,不眠,食思不振,同級生は皆勉強ができ,自分だけがついていけていない気がすること,高額の学費を両親に負担してもらっていることを考えると勉強をしなければならないと焦ってしまうことなどを泣きながら訴えた(前記1(2)ア,イ,エ)。 (イ)原告は,平成11年4月27日,a大学l保健管理室を受診した際,e医師に対し,「解剖学等の授業で日本語テキストを見て読解困難のため,著しく不安となり,学業が手につかない」などと学業に対する強い不安感を訴えた(前記1(2)エ,丙A1・4頁)。 ウ以上のとおり,原告の主訴は学業に対する不安が中心であったことからすれば,原告がd教授に体調不良を訴えたこと,e医師の診察を受けたのは解剖学実習実施期間中であったことを考慮したとしても,e医師はホルムアルデヒド曝露と原告の体調不良との関係を疑うべきであったとはいえず,同医師に,前記(3)イ及びウの措置を行い,また,原告に対し,化学物質過敏症について専門医の受診を勧めるべき注意義務があったとは認めら ヒド曝露と原告の体調不良との関係を疑うべきであったとはいえず,同医師に,前記(3)イ及びウの措置を行い,また,原告に対し,化学物質過敏症について専門医の受診を勧めるべき注意義務があったとは認められない。 (5)精神科外来受診時のf医師の注意義務違反の有無について ア原告は,f医師には,原告がa大学病院精神科を受診したとき,ホルムアルデヒド曝露と原告の健康被害との関係を疑い,d教授と連絡をとり,前記(3)イ及びウの措置を行い,また,化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき義務があった旨主張する。 イしかし,前記認定事実((4)イ(ア)及び(イ))によれば,当時の原告の主訴は学業に対する不安が中心であったことは前記認定のとおりである。 これに加え,①原告は,平成11年4月28日,診察を担当したf医師に対し,「何をやっても理解できない。漢字多いし,元々文系で勉強についていけない。日本語聞き取れないし,漢字も読めないし,皆分かっていて私だけ分からなくて。勉強しなくてはと思うけど頭に入らない。」などと学業に対する不安を訴えたこと,②診察時,目の痛み,咳,咽頭痛,じんま疹,呼吸異常,意識消失等の訴えや身体症状は認められなかったことが認められる(前記1(2)オ)。 以上のとおり,原告の主訴は学業に対する不安であったこと,身体症状が認められなかったことからすれば,f医師が原告を抑うつ状態と診断したことには合理性が認められ,ホルムアルデヒド曝露と原告の体調不良との関係を疑うべきであったとはいえない。 ウよって,f医師に,d教授と連絡をとって前記(3)イ及びウの措置を行い,また,化学物質過敏症について専門医の受診を勧めるべき注意義務があったとは認められない。 (6)精神科外来の治療で改善しなかったときのf医師 に,d教授と連絡をとって前記(3)イ及びウの措置を行い,また,化学物質過敏症について専門医の受診を勧めるべき注意義務があったとは認められない。 (6)精神科外来の治療で改善しなかったときのf医師の注意義務ア原告は,f医師には,原告がa大学病院精神科の治療を受けても体調が良くならず,むしろ薬剤投与によって悪化したとき,精神疾患以外の疾患を疑って,化学物質過敏症の専門医受診を勧めるべき義務があった旨主張する。 この点に関し,原告は,平成11年4月28日から同年6月16日まで, a大学病院精神科を外来受診し,向精神薬の処方を受けたこと(前記1(2)カないしソ),同月9日や同月16日の時点でも,疲労感,実習や試験に対する不安感を訴えていたこと(前記1(2)セ,ソ)が認められる。 そして,r医師も,抗うつ剤を使うほど,原告の症状が悪くなっているのであるから,診断を再検討すべきであり,再検討すれば他原因(身体疾患とくにアレルギー・免疫疾患)を考えることになったはずである旨の意見を述べる(甲B77)。 イしかし,他方で,前記認定事実によれば,以下の点を指摘できる。 (ア)原告は,a大学病院精神科を外来受診していた期間中も,主訴は,勉強や試験に対する不安感,焦燥感が中心であり(前記1(2)カないしソ),「もう絶対学校やめる,死にたいとか思った」などと希死念慮を訴えるようなこともあったが(前記1(2)ク),他方で,明確な身体症状の訴えはほどんどなかった。この点に照らせば,原告の症状が身体的原因に基づくものであると疑うべき状況にあったとは認められない。 (イ)また,k病院精神神経科の担当医師が,平成11年6月4日の診察時,入院が決まって安心したためか,原告の表情が穏やかになっており,ルボックスが奏効しているようであると判断したこと(前記1(2 (イ)また,k病院精神神経科の担当医師が,平成11年6月4日の診察時,入院が決まって安心したためか,原告の表情が穏やかになっており,ルボックスが奏効しているようであると判断したこと(前記1(2)ス)からすれば,精神的な症状については,精神科治療,向精神薬の投与によって悪化したということはできず,むしろ改善傾向がもたらされたと認めることができる。 (ウ)確かに,平成11年6月9日及び同月16日,原告は,f医師に対し,不眠,疲労感等を訴えたことが認められる。しかし,「解剖やっぱりできない」(前記1(2)セ),「骨学表層テスト50点。もう1つと合わせて60点になればいいけど自信なくて」(前記1(2)ソ)との訴えがあったことに鑑みれば,上記不眠,疲労感の原因は,実習や試験による肉体的又は精神的な負担にあったと推認するのが合理的であり,そ れらが他の原因によって生じた症状であると直ちに疑うべきであったとは認められない。 ウ以上によれば,原告がa大学病院精神科の治療を受けても体調が良くならず,むしろ薬剤投与によって悪化したとは認められず,f医師に,原告について精神疾患以外の疾患を疑って,化学物質過敏症の専門医受診を勧めるべき注意義務があったとも認められない。 (7)精神科での入院治療で健康被害が悪化したときのa大学病院医師の注意義務違反の有無について原告は,f医師らa大学病院の医師には,原告が,平成11年6月19日,a大学病院精神科に入院し,投薬治療を受けても体調が良くならず,かえって悪化していったとき,精神疾患以外の疾患を疑って,原告に対し,化学物質過敏症の専門医受診を勧めるべき義務があったと主張する。 そして,この点につき,r医師は,入院させてストレス因子を減らしているにもかかわらず,症状が改善しないのであるから,身体的なバッ 対し,化学物質過敏症の専門医受診を勧めるべき義務があったと主張する。 そして,この点につき,r医師は,入院させてストレス因子を減らしているにもかかわらず,症状が改善しないのであるから,身体的なバックグラウンドがあることを疑わざるを得ないはずである旨の意見を述べる(甲B77)。 加えて,原告には,確かに,a大学病院精神科を退院した前日である同年8月17日にも,嘔吐や倦怠感等の訴えがみられていたことが認められる(丙A2・60,61,159頁)。 しかしながら,前記のとおり,原告の訴えは専ら学業の不安などの精神症状が主体であって,嘔吐や倦怠感等も精神疾患と矛盾するものとは言えないこと,原告がa大学病院精神科に入院中,症状が悪化したとしても,入院中はむしろ解剖学実習を欠席して,ホルムアルデヒド曝露からも遠ざかっていたことからすれば,被告a大学の担当医師としては,むしろホルムアルデヒド曝露が体調不良の原因であるとは考えにくい状況であったと言えることからすれば,原告に対し,化学物質過敏症専門医の受診を勧めるべき注意義務 が生じるものとは認められず,原告の主張は採用することができない。 (8)入院させて進路障害を生じさせた義務違反原告は,f医師らa大学病院の医師には,原告の入院治療に際して進級等の事情に配慮する義務があったにもかかわらず,病院から学校に通えると欺罔のうえで不必要な入院をさせ,試験を受けることを禁止した義務違反があると主張する。 そして,平成11年6月19日,原告は,抑うつ状態との病名で,静養,薬物療法を目的として,a大学病院精神科に任意入院したこと,同年5月21日,原告が「入院して実習に出られなければ留年してしまう。そうしたら,お金は出してもらえないので学校をやめなくてはいけない。」と述べるなど,実習に出られないことを気にし 意入院したこと,同年5月21日,原告が「入院して実習に出られなければ留年してしまう。そうしたら,お金は出してもらえないので学校をやめなくてはいけない。」と述べるなど,実習に出られないことを気にしていたこと(丙A1・12頁)が認められる。 しかしながら,①原告は,同年5月13日,f医師に対し,「最低解剖だけは出ている。生物も化学も分からないし,皆で勉強したが皆よく勉強していて涙が出てきた。もう絶対学校やめる,死にたいとか思った。」などと強い不安感を訴えていたこと(前記1(2)ク),②同日,f医師は,原告がこれ以上努力を続けるのは困難であると考え,原告に対し,休息のために入院することを提案し,原告もこれを受け入れて精神科病棟への入院を予約したこと(前記1(2)ク),③ところが,同月21日,原告は,留年することになるから入院したくない旨の話をし,入院予約をキャンセルしたこと,④同年6月2日,原告は,f医師に対し,k病院でも担当医師から入院を勧められたことを伝え,「前は這ってでも(通学したい)と思っていたが,やはり自分はいつもの自分ではないと思う。」旨述べて入院を希望し,精神科病棟への入院を再度予約したこと,(前記1(2)シ),⑤同年6月4日,原告は,入院が決まって安心したためか,表情が穏やかになっていたこと(前記1(2)ス),⑥同年6月16日,原告は,f医師に対し,「ギブアップ」,「今週は学校に来れてない」と訴えたこと(前記1(2)ソ),⑦同月19日, 原告は,抑うつ状態との病名で,a大学病院精神科に入院し,「もう限界と思った。本を読むのもいや,勉強するのもいや,大学に入って勉強した頃からもう苦しかった。」などと訴えたこと(前記1(2)タ)が認められる。 以上によれば,f医師が,原告の意欲低下,焦燥感の症状悪化に対し,休養のとれる環境 や,勉強するのもいや,大学に入って勉強した頃からもう苦しかった。」などと訴えたこと(前記1(2)タ)が認められる。 以上によれば,f医師が,原告の意欲低下,焦燥感の症状悪化に対し,休養のとれる環境を提供するなどのため,入院を勧めたことに不合理な点は認められないと言うべきである。 なお,原告は,入院時,原告のうつ状態がそれほど重いものでなかったことは,入院時の看護師の記録に希死念慮マイナス,自殺企図マイナスとの記載からも明らかであると主張する(丙A2・97,98頁)。 しかしながら,上記認定の事実に照らせば,入院時に原告が看護師に対し自殺念慮等を述べなかったからといって,そのことから,原告に休養のため,入院の必要性があったとの前記医師の判断が不合理であったとは認められない。 また,被告a大学病院の担当医師らにおいて,原告に対し,病院から学校に通えると欺罔した事実を認めるに足りる証拠はない。 よって,f医師が原告を入院させたことに義務違反は認められない。 (9)入院を早期に取り消さなかった義務違反原告は,入院直後の診断により,原告には希死念慮が存在しないことが明確になったのであるから,f医師らa大学病院の医師は,直ちに入院を取り消す義務があった旨主張する。 しかしながら,前記(8)に指摘の各事実に鑑みれば,f医師が,原告の休養を目的として入院措置を採ったことは相当であって,入院時,原告が看護師に対し自殺念慮等を述べなかったからといって,入院を早期に取り消す義務が生じるとは認められない。 (10)再入学を拒んだ義務違反原告は,被告a大学は,原告に退学を勧めた時点において,原告が希望す れば,いつでも原告の再入学を許可するとの約束を原告の両親としていたのであるから,原告が再入学を希望すれば,これを受け入れる義務を負っていた旨主張する。 学を勧めた時点において,原告が希望す れば,いつでも原告の再入学を許可するとの約束を原告の両親としていたのであるから,原告が再入学を希望すれば,これを受け入れる義務を負っていた旨主張する。 そして,原告の母は,原告の退学に際し,a大学教学課職員Gから,「休学でも授業料の半額を支払わなければならないので,書類上一度退学するという形をとった方が良い」と勧められ,体調が戻ればいつでも再入学できるとの話だった旨の陳述書を提出する(甲A58・29頁,甲B94・4頁)。 しかしながら,a大学学修に関する規則32条2項によれば,「再入学の可否は,教授会の議を経て決定する。」(丙A9)とされていることに照らせば,教学課の一職員が,いつでも再入学を許可するとの約束をするとは考えられず,原告の母の陳述は直ちに採用することができない。 したがって,上記約束を前提とする原告の主張は採用することができず,被告a大学に再入学を拒んだ義務違反を認めることはできない。 (11)まとめ以上によれば,被告a大学に,原告の主張する安全配慮義務違反があったとは認められない。 争点(3)(被告b大学の安全配慮義務違反の有無)について(1)ホルムアルデヒド曝露回避についての一般的な注意義務違反の有無についてア原告は,被告b大学には,解剖学実習に参加する学生の健康を損なわないため,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を主位的にはWHO(世界保健機関)の定める居室基準(0.08ppm)以下に,予備的には作業場基準(0.5ppm)以下に抑えるべき義務があり,具体的には,①ホルムアルデヒド濃度を定期的に計測し,②ホルマリンを遺体固定のために使用しない,③仮に使用するとしても,注入固定法ではなく環流固定法にする,④仮に使用しても,アルコール置換等で残存を最小にする,⑤遺体 アルデヒド濃度を定期的に計測し,②ホルマリンを遺体固定のために使用しない,③仮に使用するとしても,注入固定法ではなく環流固定法にする,④仮に使用しても,アルコール置換等で残存を最小にする,⑤遺体 の保管中にホルムアルデヒドをアンモニアやアンモニウム塩で減らす,⑥気温上昇とともにホルムアルデヒド発生量が増えるので,解剖学実習室の気温を下げる,⑦解剖学実習室に特別に強力な強制換気システムを導入する,⑧解剖台の改修を含めた局所換気装置を導入する,⑨ホルムアルデヒド除去ゲルを設置する,⑩個人曝露を最小限にするために下方へ排気される解剖台を導入する,⑪個人曝露を最小限にするために効果的なマスク(活性炭繊維マスク,ポシェット型の循環式タンク),ゴーグルを使用させる,⑫代替的方法を用いて学生の曝露時間を低減する,といった回避措置をとるべき注意義務があったと主張する。 イそして,ホルムアルデヒドが人体に有害な影響を及ぼし得る物質であること,ホルムアルデヒドの危険性と対策の必要性については,昭和52年ころから,新聞等でも度々指摘されていたこと,平成11年3月30日には,大分医科大学の水城医師らが,解剖学実習中の学生に対するホルムアルデヒドによる健康被害について報告していたこと,z医師が,解剖学実習室においてもホルムアルデヒド濃度を居室基準である0.08ppm以下にするのが望ましい旨証言し,C医師も,その意見書において,作業場基準の遵守以上の配慮が必要との意見を述べていることは前記4(1)イに認定のとおりである。 さらに,平成12年6月30日には,厚生省生活衛生局長が,化学物質による室内空気汚染等による居住者等の様々な体調不良が生じていることが指摘されていることを受け,各都道府県知事等に宛てて,「室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び標準的測定 生活衛生局長が,化学物質による室内空気汚染等による居住者等の様々な体調不良が生じていることが指摘されていることを受け,各都道府県知事等に宛てて,「室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び標準的測定方法について」と題する通知を発出し,その中で,ホルムアルデヒドについては,室内濃度指針を0.08ppmとしたこと(甲B20),平成12年ころから,解剖学実習室におけるホルムアルデヒドによる健康被害の問題が新聞等でも取り上げられるようになってきたこと(甲B105,106),原告がb大学医学部で 解剖学実習を受け始めた平成13年5月時点では,既に,同年4月20日付文部科学省高等教育局医学教育課長通知により,「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する提言が医学部又は歯学部を置く国公私立大学事務局長宛に送付されていたこと,同提言は,ホルマリン使用時には空気環境の改善に努めること,特に実習室内は多数の学生が同時に曝露される可能性があるので,換気扇や空気清浄機等でできる限りの洗浄化に努めることなどの提言を含むものであったこと(乙A1)がそれぞれ認められる。 ウしかし,この点については,以下の事実を指摘できる。 (ア)ホルムアルデヒド濃度の基準についてa居室基準医学部の学生が解剖学実習室に長時間滞在することがあるとしても,これを生活のための居室と同視できないことは前記4(1)ウに説示のとおりであり,ホルムアルデヒド濃度につき居室基準(0.08ppm以下)がそのまま妥当するものとは言えない。 したがって,被告b大学に,居室基準である0.08ppm以下を遵守すべき義務があるとは認められない。 b作業場基準学生が解剖学実習室において長時間にわたり遺体の解剖作業を行うこともあることを考慮すれば,その気中ホルムアルデヒド濃度につき .08ppm以下を遵守すべき義務があるとは認められない。 b作業場基準学生が解剖学実習室において長時間にわたり遺体の解剖作業を行うこともあることを考慮すれば,その気中ホルムアルデヒド濃度につき作業場基準(0.5ppm以下)を一つの目標とすることが十分に考え得ることも前記説示と同様である。 そして,平成13年4月20日ころには,文部科学省高等教育局医学教育課長による「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する通知が発出されたことは前記認定のとおりである。 しかしながら,同通知においても,「本提言を踏まえ系統解剖実習 時の環境向上に努めていただきますようお願いします。」,「実習室内は,多数の学生が同時に曝露される可能性があるので,換気扇や空気清浄機等で出来る限りの清浄化に努めること」とあり,各大学において,ホルムアルデヒド濃度の低減に努力するよう提言をしてはいるものの,その具体的数値目標が示されたり,義務が課せられたりしているものではない。また,その方策も,換気扇や空気清浄機等の使用といった一般的対策が例示されているに過ぎず,それ以上に具体的方策が示されているわけではない。そして,ホルムアルデヒド対策が,一朝一夕に出来るものでもないこと,社団法人日本解剖学会では,ホルマリンによるシックハウス症候群が問題となったことを踏まえて,ようやく平成13年度の委員会事業計画として,解剖実習環境の整備について検討することが挙げられていること(甲B29),その後,これらの動きを踏まえて,平成14年から15年にかけて,各大学等から,解剖学実習時のホルムアルデヒド濃度の測定結果が次々と報告され,さらにその低減を可能にするための具体策に関する多くの論文が出されるに至ったこと(甲B50ないし75)に照らせば,原告がb大学においてホ 剖学実習時のホルムアルデヒド濃度の測定結果が次々と報告され,さらにその低減を可能にするための具体策に関する多くの論文が出されるに至ったこと(甲B50ないし75)に照らせば,原告がb大学においてホルムアルデヒドに曝露したと主張する平成13年4月から7月の期間は,文部科学省高等教育局医学教育課長通知を受けた各大学が,各大学の実情に合わせ,具体的対策を検討し,取り入れ可能な方策から逐次取り入れて,ホルムアルデヒド対策を始める時期であったと考えられ,平成13年当時,被告b大学に,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を,直ちに作業場環境基準の0.5ppm以下に抑えるべき安全配慮義務が生じていたと認めることはできない。 (イ)ホルムアルデヒド濃度について原告は,被告b大学の解剖学実習室も,ホルムアルデヒドは高濃度であり,原告以外にも健康被害を生じていた学生がいた旨供述する(甲A 58・37,38頁,原告本人13頁)。 しかしながら,原告が解剖学実習を受けた平成13年当時における被告b大学における解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度の測定結果は存在せず,証拠(乙A77)によれば,平成17年5月20日,同年6月1日,同月22日,同年7月11日,同月21日,b大学医学部解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度が測定され(いずれも遺体数を26とし,換気システムを稼働させた状態で,実習室内6地点の濃度を測定した。平成17年5月20日,同年6月1日はライヘパック開封30分後の値を,平成17年6月22日,同年7月11日,同月21日はライヘパック開封1時間30分後の値を計測した。),測定値は以下のとおりであったことが認められる。 平成17年5月20日0.45ないし0.63ppm(平均0.51ppm)平成17年6月1日0.36ないし0.63ppm(平均0.4 を計測した。),測定値は以下のとおりであったことが認められる。 平成17年5月20日0.45ないし0.63ppm(平均0.51ppm)平成17年6月1日0.36ないし0.63ppm(平均0.43ppm)平成17年6月22日0.18ないし0.45ppm(平均0.29ppm)平成17年7月11日0.225ないし0.63ppm(平均0.35ppm)平成17年7月21日0.16ないし0.315ppm(平均0.23ppm)以上の測定結果によれば,換気システムを稼働させた状態であれば,ライヘパック開封30分ないし1時間30分後のホルムアルデヒド濃度は概ね作業場基準である0.5ppm以下であったということができる。 また,平成18年5月12日に行われた解剖実習室のホルムアルデヒドの測定結果も,換気扇(旧型)使用の場合で0.12ないし0.2p pm(平均0.18ppm)であり,同年6月5日,換気扇(旧型)使用の場合で0.19ないし0.39ppm(平均0.29ppm),同年7月10日,旧換気システムで行われた解剖実習室のホルムアルデヒドの測定結果も,0.18ないし0.36ppm(平均0.27ppm),デジタル測定の場合に0.12ないし0.33ppm(平均0. 225ppm)であって,いずれも作業場基準である0.5ppmを下回っていたことが認められる(乙A61,75,76,78)。 さらに,b大学の解剖学実習室は,平成10年3月25日に竣工した比較的新しい建物であって,解剖台と解剖台の間に合計35か所の空調吹出口と,部屋の両隅に合計4か所の空調吸込口を備えた構造であり,排気ファンの設計風量は,1時間3万2360立方メートルであって,室容積との関係では,1時間に約31回の空気交換がなされる設計であったこと,その後平成18年3月に局所排気システ を備えた構造であり,排気ファンの設計風量は,1時間3万2360立方メートルであって,室容積との関係では,1時間に約31回の空気交換がなされる設計であったこと,その後平成18年3月に局所排気システム(解剖台に排気口を設けるシステム)を採用するまで,実習室の改修工事は行われておらず,平成13年当時も同様の換気システムが使用されていたと推認できること(乙A42,43,65,66,80)に照らせば,平成13年当時,ホルムアルデヒド濃度が0.5ppmを大きく超えていたとの原告の供述を採用することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 この点に関し,原告は,被告b大学では,平成16年度からホルムアルデヒド濃度を低減した固定液の使用を開始しているから(乙A80・19頁),平成17年の測定結果(乙A77)は,平成13年当時の解剖学実習室の状況を正しく反映したものとは言えない旨主張する。 しかしながら,b大学において,ホルムアルデヒド濃度を低減した固定液を使用した遺体を実際に解剖学実習に用い始めたのは平成17年度の後期からであると認められるから(乙A80・19頁),平成17年 の5月ないし7月の測定時は,平成13年当時とほぼ同じ環境下であったものと推認でき,原告の主張は採用できない。 また,原告は,平成17年の測定結果(乙A77)は,訴訟に後から提出されたものであり,信用できない旨主張する。しかしながら,提出が遅れたことをもって,直ちに信用できないと言うことはできない。 (ウ)以上のとおり,①平成13年当時,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を居室基準(0.08ppm以下)又は作業場基準(0.5ppm以下)に抑えるべき安全配慮義務が存したとは認められないこと,②平成13年当時のb大学医学部解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度が作業場基準 居室基準(0.08ppm以下)又は作業場基準(0.5ppm以下)に抑えるべき安全配慮義務が存したとは認められないこと,②平成13年当時のb大学医学部解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度が作業場基準(0.5ppm)を超えていたと認めるに足りる証拠もないことからすれば,原告の主張するホルムアルデヒドを基準値内に抑えるべき義務違反は認めることができない。 エ具体的措置をとるべき義務について(ア)b大学におけるホルムアルデヒド曝露回避措置証拠(乙A2,乙A45ないし48,55,57,58,70ないし73,80)によれば,b大学では,平成13年当時,1時間に約31回の空気交換がなされる設計の解剖学実習室を備えていたこと,遺体を浸漬固定(後固定)する際,保存液にホルムアルデヒドを入れずに,70%アルコールのみの保存液に1ないし3か月漬けて固定し,余分なホルムアルデヒドを洗い出す方法を採用していたことが認められる。また,ホルムアルデヒド吸着マット・シートの使用(ドライシートホルムを遺体の下に敷くことで,処置中の固定液や処置後の体液漏れを吸水吸着分解し,処置室のホルムアルデヒド濃度を低減する。),ライヘパック(遺体収納用ビニール袋)の使用(乙A44),学生に対するラテックス手袋,紙製マスク,活性炭入り防塵マスク,ゴーグル,帽子,予防衣の貸し出しといった対応がとられていたことが認められ,これによれば, ホルムアルデヒド曝露回避のために効果がある措置が複数とられていたということができる。 この点に関し,原告は,当時,ホルムアルデヒド吸着マット・シートは使用されておらず,吸着マット・シートは曝露対策にもならない旨主張する。しかしながら,証拠(乙45)によれば,ドライシートホルムを遺体の下に敷くことで,処置中の固定液や処置後の体液漏れを吸水吸着 は使用されておらず,吸着マット・シートは曝露対策にもならない旨主張する。しかしながら,証拠(乙45)によれば,ドライシートホルムを遺体の下に敷くことで,処置中の固定液や処置後の体液漏れを吸水吸着分解し,処置室のホルムアルデヒド濃度を低減すると説明されていることが認められ,原告の主張は採用できない。 また,原告は,ライヘパックは遺体の乾燥を防止するためのものであり,解剖学実習中のホルムアルデヒド拡散防止にも効果がない旨主張する。しかしながら,文部科学省高等教育局医学教育課長発出の「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する通知(乙A1)によっても,解剖を行わない部位や休憩する場合,遺体にカバーをするとかなり揮発を防げるとして,カバーの使用を推奨していることに照らせば,ライヘパックの使用に,効果がないとの主張は採用できない。 さらに原告は,b大学では,当時,マスク,ゴーグル,帽子,予防衣等が貸与されていたことはない旨主張し,予防衣や帽子の共同購入申込書を提出する(甲A30)。 しかしながら,平成10年7月23日に,系統解剖用にゴーグル8個が,平成12年5月26日に,教育研究用に防塵マスク(10個入り)10個が,平成13年5月24日にプラスチック手袋1個と防塵マスク(10個入り)10個が購入されていること(乙A55,57,58),平成15年3月25日竣工のの解剖実習室の空調系統図に添付されていた写真には,解剖実習用マスク等として,帽子,手袋,マスク,ゴーグル等が撮影されていること(乙A64)に照らせば,貸与がなかったとの原告の主張は採用することができない。 また,原告は,マスクもゴーグルもホルムアルデヒドに対する効果がないと主張して,マスクもゴーグルもホルムアルデヒドに対応していないとの回答書(甲B85,96)を提 張は採用することができない。 また,原告は,マスクもゴーグルもホルムアルデヒドに対する効果がないと主張して,マスクもゴーグルもホルムアルデヒドに対応していないとの回答書(甲B85,96)を提出する。しかしながら,マスクやゴーグルの有用性を指摘する文献が存在すること(甲B68),b大学で使用されていたマスクは活性炭入りのマスクであって(乙A47,80),簡易活性炭マスクにはホルムアルデヒドを吸着する有効性が確認されたことが認められること(甲B18)からすれば,ホルムアルデヒド対策として効果がない旨の原告の主張も採用できない。 そして,平成13年4月20日付文部科学省高等教育局医学教育課長による「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する通知によっても,「実習室内は,多数の学生が同時に曝露される可能性があるので,換気扇や空気清浄機等で出来る限りの清浄化に努めること」と記載されていることからすれば,b大学においては,平成13年当時としては,ホルムアルデヒド曝露回避のための一般的措置は採られていたと考えるのが相当である。 (イ)原告の主張するその他の措置をとるべき義務について原告は,さらに,被告b大学には,①ホルムアルデヒド濃度を定期的に計測し,②ホルマリンを遺体固定のために使用しない,③仮に使用するとしても,注入固定法ではなく環流固定法にする,④仮に使用しても,アルコール置換等で残存を最小にする,⑤遺体の保管中にホルムアルデヒドをアンモニアやアンモニウム塩で減らす,⑥気温上昇とともにホルムアルデヒド発生量が増えるので,解剖学実習室の気温を下げる,⑦解剖学実習室に特別に強力な強制換気システムを導入する,⑧解剖台の改修を含めた局所換気装置を導入する,⑨ホルムアルデヒド除去ゲルを設置する,⑩個人曝露を最小限にするため 剖学実習室の気温を下げる,⑦解剖学実習室に特別に強力な強制換気システムを導入する,⑧解剖台の改修を含めた局所換気装置を導入する,⑨ホルムアルデヒド除去ゲルを設置する,⑩個人曝露を最小限にするために下方へ排気される解剖台を導入する,⑪個人曝露を最小限にするために効果的なマスク(活性炭繊維 マスク,ポシェット型の循環式タンク),ゴーグルを使用させる,⑫代替的方法を用いて学生の曝露時間を低減するといった回避措置をとるべき注意義務があったと主張する。 しかしながら,原告の主張するホルムアルデヒド対策が,平成13年当時においても一般的であったと認めるに足りる証拠はなく,義務であったと認めることができないことは,いずれも前記4(1)エに説示したところと同様である。 そして,前記認定のとおり,当時b大学では,④のアルコール置換,⑪のマスク,ゴーグルの貸与という措置が既に採られていたことからすれば,この点についても違反があったとは認められない。 オ以上のとおり,①平成13年当時,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を居室基準(0.08ppm以下)又は作業場基準(0.5ppm以下)に抑えるべき安全配慮義務が存したとは認められないこと,②平成13年当時のb大学医学部解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度が作業場基準(0.5ppm)を大きく超えていたとは認められないこと,③当時b大学においては,ホルムアルデヒド曝露回避のために有用な措置が複数とられていたと認められることを総合すれば,被告b大学にホルムアルデヒド曝露回避措置についての一般的な注意義務違反があったと認めることはできない。 (2)ホルムアルデヒドの危険性等についての説明義務について原告は,解剖学の担当教授には,解剖学実習の前に,ホルムアルデヒドの危険性,防護法の必要性を学生に説明し,体調不 認めることはできない。 (2)ホルムアルデヒドの危険性等についての説明義務について原告は,解剖学の担当教授には,解剖学実習の前に,ホルムアルデヒドの危険性,防護法の必要性を学生に説明し,体調不良が起こったら直ちに担当教員に申し出るよう指導すべき注意義務があったと主張する。 そして,平成13年4月20日付「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」と題する前記提言において,①遺体がホルマリン等で防腐処置を施されて初めて解剖学実習ができること,②解剖学実習で使用して いる防腐液及び保存液が学生の身体に与える影響,防護方法及び廃棄方法を学生に対し文書等で理解させることが提言されていること(乙A1)に鑑みれば,被告b大学には,原告の主張する上記注意義務があったと認められる。 しかし,①n教授は,実習の初回には,学生に対して,ホルムアルデヒドの危険性や活性炭入り防塵マスク,ゴーグルなどの防御用具の使用について,注意をしていたこと(乙A80,証人篠田13頁),②y教授及びn教授は,平成13年6月12日付け「人体正常解剖学実習上の注意事項の追加」と題する文書を掲示して学生に示して(乙A2,80),実習中の注意事項として,ホルマリンは遺体の防腐処理に欠かせないものであること,目への刺激,痛みが強い場合は,洗眼,ゴーグルなどでの目の保護をすべきこと,鼻への刺激が強い場合は,活性炭入りマスクを使用すべきこと,手の荒れは手袋等で保護すべきことなどの記載があることを告知したと認められること(乙A2)からすれば,n教授らは,学生に対し,ホルムアルデヒドの危険性,防護法等を適切に説明したものと認めることができる。 この点に関し,原告は,被告b大学において,ホルムアルデヒドの危険性等について説明を受けたこともないし,書面による告知を受けたこともない の危険性,防護法等を適切に説明したものと認めることができる。 この点に関し,原告は,被告b大学において,ホルムアルデヒドの危険性等について説明を受けたこともないし,書面による告知を受けたこともない旨主張する。しかしながら,「人体正常解剖学実習上の注意事項の追加」と題する書面は,その体裁上,学生に告知することを目的として作成された書類と解されるから,告知されたと考えるのが自然であり,原告の主張は採用できない。 よって,解剖学の担当教授にホルムアルデヒドの危険性等についての説明義務違反があるとは認められない。 (3)解剖学実習での顕著な健康被害が継続した時点における注意義務違反の有無についてアホルムアルデヒド濃度を測定し,基準値内に抑える対策措置をとる義務について 原告は,平成13年5月,原告がm教授に健康被害を訴えた時点,または同年6月原告がn教授に対し,解剖学実習により顕著な健康被害が継続しているため,換気システムを作動するよう頼んだ時点で,同教授らには,適切な問診をし,b大学管理部門に対し,解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度を測定すること,解剖学実習室のホルムアルデヒド曝露を基準値内に抑えるための回避措置(前記(1)ア)をとることを提案すべき義務があり,b大学には,その提案を受け,気中ホルムアルデヒド濃度を測定し,前記回避措置(前記(1)ア)を実施すべき義務があった旨主張する。 しかし,原告が,平成13年5月ないし6月,m教授,n教授に対し,解剖学実習による体調不良が継続していることを訴えたこと,換気システムを作動するよう頼んだことを認めるに足りる証拠はない。 また,平成13年当時,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を居室基準又は作業場基準以下に抑える義務があったとは認められないこと,平成13年当時のb大学医学部解剖学 だことを認めるに足りる証拠はない。 また,平成13年当時,解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度を居室基準又は作業場基準以下に抑える義務があったとは認められないこと,平成13年当時のb大学医学部解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度が作業場基準である0.5ppmを大きく超えてはいなかったこと,ホルムアルデヒド曝露回避のために有用な措置が複数とられていたこと,したがって,被告b大学にホルムアルデヒド曝露回避措置についての一般的な注意義務違反があったとは認められないことは,前記(1)に判示したとおりであるから,仮に原告が,n教授らに対し,解剖学実習により顕著な体調不良が継続しているため,換気システムを作動するよう頼んだとしても,そのことから直ちに解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度自体を一律に低下させる義務が生じると解することはできない。 よって,原告の主張は採用することができない。 イホルムアルデヒドの個人曝露を減少させる対策措置をとる義務について原告は,解剖学担当のn医師らには,平成13年5月ないし6月,原告が,解剖学実習により顕著な健康被害が継続していることを訴え,換気シ ステムを作動するよう頼んだ時点で,原告の健康被害がホルムアルデヒドによるものではないかと説明し,休憩を取らせるなどの曝露回避措置を取ると共に,原告のホルムアルデヒドの個人曝露を減少させるために,下方へ排気される解剖台を導入し,曝露を減少させる効果のあるマスク・ゴーグルを使用させる措置をとるべき義務があり,また,少なくともホルムアルデヒドによる健康被害を念頭に置いたうえで,専門医への受診を勧める義務があったと主張する。 しかし,原告が,平成13年5月ないし6月,m教授,n教授に対し,解剖学実習による体調不良が継続していることを訴えたこと,換気システムを作動するよう頼 門医への受診を勧める義務があったと主張する。 しかし,原告が,平成13年5月ないし6月,m教授,n教授に対し,解剖学実習による体調不良が継続していることを訴えたこと,換気システムを作動するよう頼んだことを認めるに足りる証拠がないことは前記のとおりである。 また,当時,b大学において活性炭入りマスクやゴーグルの貸し出しを含むホルムアルデヒド曝露回避のために有用な措置が複数とられていたこと(前記(1)),これに加え,①平成13年当時のb大学医学部解剖学実習室内のホルムアルデヒド濃度が作業場基準である0.5ppmを大きく超えていたとは認められないこと,②当時原告は,食思不振,嗄声を主訴にb大学病院総合診療部を受診し,担当医師に対し,同年5月31日に図書館で勉強をしているときに咽頭部の違和感を覚えたこと,同年6月1日の朝から声がかすれ,ほとんど出なくなったこと,b大学に入学してから極度のストレス状態におかれており,胃痛,嘔吐の症状があることなどを訴えていたこと(前記1(4)ウ),③原告は,同年6月5日には,試験中に激しい咳が出現し,過呼吸状態となって倒れたが,その前3日間は解剖学実習は行われていなかったこと(前記1(4)エ)からすれば,b大学の担当教授,担当医師らにおいて,原告の身体症状とホルムアルデヒドとの関連性を認識し得たとはいえず,原告の身体症状がホルムアルデヒド曝露によるものではないかと疑うべきであったと認めることはできない。した がって,これを前提に,健康被害がホルムアルデヒドによるものではないかと説明し,休暇を取らせると共に,下方へ排気される解剖台の導入といった具体的な回避措置を採り,少なくともホルムアルデヒド被害を念頭に置いたうえで,専門医への受診を勧める義務があったとの原告の主張は採用できない。 この点については, 方へ排気される解剖台の導入といった具体的な回避措置を採り,少なくともホルムアルデヒド被害を念頭に置いたうえで,専門医への受診を勧める義務があったとの原告の主張は採用できない。 この点については,仮に原告が,n教授らに対し,解剖学実習により顕著な体調不良が継続しているため,換気システムを作動するよう頼んだ場合であっても,同様に解することができる。 なお,原告は,n教授が,原告に対し,マスクやゴーグルの着用を禁止した旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 よって,原告の上記主張は採用することができない。 ウ解剖学実習に代わる方法を用意して,解剖学実習から遠ざける義務について原告は,仮に被告b大学が前記ア及びイの注意義務を尽くしていたとしても,原告が健康被害を継続していた場合,被告b大学には,解剖学実習に代わる方法を用意して,原告を解剖学実習から遠ざける義務があった旨主張する。 しかし,前記4(3)オに判示したのと同様,被告b大学の担当教授らにおいて,原告の継続的体調不良の訴えの原因がホルムアルデヒド曝露に伴うものであると認識することができたと認めるに足りないことに加え,①必修課目について代替措置を講じるか否かは,原則として,その教育機関の裁量に委ねられるべき問題であること,②肉眼解剖学実習は,学生が実際に人体を解剖することにより,人体の構造,各器官の形態,解剖学的位置関係等を肉眼的に観察して,それらの構造や機能についての理解を深める点で,医学部の教育において重要な意義を有していると認められること(甲A5,丙A4,10),③前記イに説示のとおり,原告の当時の訴え や症状発現時の状況からすれば,ホルムアルデヒドと症状の関連が明らかであったとは認められないことに照らせば,被告b大学が解剖学実習を必修科目としたのはその裁量の範 のとおり,原告の当時の訴え や症状発現時の状況からすれば,ホルムアルデヒドと症状の関連が明らかであったとは認められないことに照らせば,被告b大学が解剖学実習を必修科目としたのはその裁量の範囲に属する行為として相当であって,解剖学実習の代替手段を用意すべき義務があったということはできない。 (4)b大学病院の医師の注意義務その1ア原告は,o医師らb大学病院の医師には,原告が,平成13年6月4日から同月7日,b大学病院を受診したとき,適切な問診を行い,ホルムアルデヒド曝露と原告の顕著な健康被害との関係を疑い,d教授と連絡をとり,前記(3)アないしウの措置を行い,また,原告に対し,化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき義務があった旨主張する。 イそして,前記認定事実によれば,原告には,平成13年6月4日ないし同月7日,食思不振,嗄声,咽頭部痛,激しい咳嗽,眼瞼結膜充血,四肢末端の冷感,体幹部の熱感,発汗,意識障害等の症状があったことが認められ(前記1(4)ウないしカ),これらの中には,化学物質過敏症で現れると報告されている症状(前記2)が存在する。 ウしかし,それらの症状も化学物質過敏症に特異的なものではなく,他の疾患によっても頻繁に現れ得るものであるから,上記症状があったからといって,直ちに原告の体調不良の原因がホルムアルデヒド曝露によるものであると疑うべきであったとはいえない。 また,原告が,b大学に入学してから極度のストレス状態におかれているとの訴えをしていたこと(前記1(4)ウ,オ),試験中に過呼吸状態となって搬送されたこと(前記1(4)エ)からすれば,適切な問診を行った上でも,担当医師であったt医師が原告の症状発作を心因的要素によるものが大きいと考えたことには合理性を認めることが に過呼吸状態となって搬送されたこと(前記1(4)エ)からすれば,適切な問診を行った上でも,担当医師であったt医師が原告の症状発作を心因的要素によるものが大きいと考えたことには合理性を認めることができ,この点に照らしても,原告の体調不良の原因がホルムアルデヒド曝露によるものであると 疑うべきであったとはいえない。 エしたがって,平成13年6月4日ないし同月7日の受診時点においても,前記(3)アないしウに判示した点は同様に解することができ,また,原告に対し,化学物質過敏症について専門医の受診を勧めるべき注意義務があったということはできない。 よって,原告の上記主張は採用することができない。 (5)b大学病院の医師の注意義務その2ア原告は,b大学病院の医師らには,原告が,平成13年6月10日,同月25日,同月28日,同年8月3日,解剖学実習室で意識を失い倒れるなどの身体症状を示した時,適切な問診を行い,ホルムアルデヒド曝露と原告の顕著な健康被害との関係を疑い,n教授と連絡をとり,前記(3)アないしウの措置を行い,また,原告に対し,化学物質過敏症について専門医の受診を勧め,確定診断,治療に至るようにすべき義務があった旨主張する。 イこの点については,前記認定事実によれば,原告が平成13年6月28日,意識を失って倒れたのは解剖学実習中のことであったこと,原告にはJCSⅢ-300という重篤な意識障害が生じたこと,担当医師は,頭蓋内病変の可能性を疑ってCT検査を施行したが,異常所見が認められなかったこと,原告は酸素投与,輸液投与によって症状が改善したが,発作の原因は明らかにならなかったこと(前記1(4)セ,ソ),r医師が,JCSⅢ-300というのは自ら病気を装って作出できるものではなく,アレルギー疾患を疑ってアレルギーの専門医にコ が改善したが,発作の原因は明らかにならなかったこと(前記1(4)セ,ソ),r医師が,JCSⅢ-300というのは自ら病気を装って作出できるものではなく,アレルギー疾患を疑ってアレルギーの専門医にコンサルトすれば,化学物質過敏症の判断が可能であったはずである旨の意見を述べていること(甲B77)がそれぞれ認められる。 ウしかしながら,他方,原告は,平成13年6月6日,b大学病院を受診して,抗アレルギー薬の点滴を受けたが,あまり効果が見られなかったこ と,アレルギーについても,喘息の既往はなく,パッチテストで何回か陽性が出たことはあるが,症状が出現したことはない旨答えたこと,一方,医学部3年次のカリキュラムが非常にきつく,現在追試験をいくつも抱えており,非常にストレスフルな状況であると話したこと(前記1(4)オ),原告は,同月25日,学科試験が始まる前に倒れたが,その前2日間は解剖学実習が行われておらず,ホルムアルデヒド曝露との関連性が疑いにくい状況であったこと(前記1(4)ス),同月28日,原告は,意識が回復した後,担当医師に対し,最近の授業,試験のスケジュールが厳しく,昨日も1,2時間程度しか睡眠をとれなかったこと,食欲も不振でストレスフルな生活を送っていることを話したこと(前記1(4)セ)が認められる。 エ以上の点に照らすと,前記イの各症状が化学物質過敏症に特異的なものとまではいえず,前記ウの各事情からすると,担当医師が原告の症状出現の原因として疲労や心因的要素を疑ったことは不合理とはいえないから,担当医師において原告の体調不良がホルムアルデヒド曝露によるものであると直ちに疑うべきであったとまではいえない。 オさらに,証拠によれば,原告は,平成13年8月3日午後3時ころ,追試験を受けている最中,机にうつぶせになった状態で呼 ルムアルデヒド曝露によるものであると直ちに疑うべきであったとまではいえない。 オさらに,証拠によれば,原告は,平成13年8月3日午後3時ころ,追試験を受けている最中,机にうつぶせになった状態で呼びかけに応答しなかったため,b大学病院総合診療部に搬送されたこと,その後も意識の改善が認められず,同病院救急外来の経過観察室に搬送され,同日午後7時30分まで意識消失の状態が続いたこと,診察を担当したD医師は,精神科医師にコンサルトし,ヒステリーが最も疑われるとの回答を受け,原告に健忘が戻らないようであれば精神科を受診するよう伝えたことが認められる(乙A38・47頁)。 しかし,この点についても,①原告が意識を消失したのは,同年6月5日と同様,試験中であったこと,②原告の全身状態には全く問題がなく,CT所見にも異常が認められなかったこと,③原告は,意識が戻った後, 日本に来た18歳からの記憶が消失した状態で,会話も英語のみであり,逆行性健忘が認められたこと(乙A38・47頁)からすれば,担当医師が,原告の症状をヒステリー性のものであると疑ったことが不合理であるとはいえず,担当医師において原告の体調不良がホルムアルデヒド曝露によるものであると直ちに疑うべきであったとは認められない。 カよって,平成13年6月10日,同月25日,同月28日,同年8月3日の各時点で,被告b大学病院の担当医師らに,原告の健康被害についてホルムアルデヒド曝露との関連を疑い,前記(3)アないしウの措置をとると共に,原告に対し化学物質過敏症について専門医の受診を勧めるべき義務があったと認めることはできない。 (6)ホルムアルデヒド曝露と原告の顕著な健康被害との関係が専門医によって明らかとなったときの注意義務ア原告は,被告b大学の担当医師には,原告から平成13年 務があったと認めることはできない。 (6)ホルムアルデヒド曝露と原告の顕著な健康被害との関係が専門医によって明らかとなったときの注意義務ア原告は,被告b大学の担当医師には,原告から平成13年6月21日,ホルマリン眼炎の診断を受けたと聞いた時,同年6月23日付g眼科クリニックの診断書を受け取った時,同年8月14日付h病院の診断書を受け取った時,または平成14年2月下旬,j医師作成の診断書及び意見書を受け取った時点で,原告が解剖学実習室におけるホルムアルデヒド曝露により化学物質過敏症を発症したことを認識し,前記(3)アないしウの措置を行うべき注意義務があった旨主張する。 そして,前記認定事実によれば,原告は,平成13年6月21日,b大学病院第2内科のu医師に対し,ホルマリン眼炎になりw眼科に行った旨話したこと,同月23日,g眼科クリニックを受診し,ホルマリンによる過敏アレルギー反応,両眼結膜炎等が認められたこと,同年8月14日,h病院において,気管支喘息により,ホルマリン等の刺激物質の吸入は避ける必要があるとの診断を受けたこと,平成14年2月下旬,j医師から化学物質過敏症との診断を受けたこと(前記1(4)サ,シ,タ,ツ),そ して,原告は,平成14年2月下旬ころ,b大学に対し,j医師が作成した多種類化学物質過敏症についての診断書及び意見書を送付し,同意見書には,原告が微量の化学物質に反応して症状の悪化を来しており,直接の原因は解剖学実習が疑われるから,教育内容に配慮をしてほしい旨の記載があったこと(前記1(4)ツ,テ)が認められる。 イ平成14年2月下旬までの時期の注意義務について上記のとおり,原告は,平成13年6月21日,ホルマリンによる眼炎,ホルマリンによる過敏アレルギー反応,気管支喘息によりホルマリン等の刺激物質の イ平成14年2月下旬までの時期の注意義務について上記のとおり,原告は,平成13年6月21日,ホルマリンによる眼炎,ホルマリンによる過敏アレルギー反応,気管支喘息によりホルマリン等の刺激物質の吸入は避ける必要がある等,ホルマリンによる健康被害の指摘を受けていることが認められる。 しかしながら,平成13年当時のb大学医学部解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度が,作業場基準(0.5ppm)を大きく超えていたとは認められないこと(前記(1)ウ),b大学では,学生に対し,活性炭入りマスク及びゴーグルの貸与を行っていたと認められること(前記(1)エ),平成13年6月12日,b大学は,学生に対し,「人体正常解剖学実習上の注意事項の追加」と題する書面で,目や鼻への刺激が強い場合は,ゴーグルや活性炭入りマスクで保護するよう注意を促していたこと(前記1(4)ケ)からすれば,同時点において,被告b大学において,さらに解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度の低減を図るなどの一般的注意義務を負っていたと認めることはできないし,原告に対し,重ねてゴーグルや活性炭入りマスクの着用を指示すべき義務があったともいえない。 また,平成13年6月29日,b大学のm教授らが,原告及び原告の母と面談し,原告に保健管理センターで定期的に検診を受けるよう指示すると共に,気分が悪くなったら倒れる前に教室を出て休養することを指示していたこと(前記1(4)ソ)が認められるから,これに照らせば,原告に対する必要な措置は採られていたと見るべきであって,それ以上に被告b 大学において,原告の個人曝露を減少させる個別的対策措置を講じたり,解剖学実習に代わる方法を用意すべき具体的義務を負っていたと解することはできない。 なお,後方視的にみれば,原告のホルムアルデヒド曝露による身体障害が平 人曝露を減少させる個別的対策措置を講じたり,解剖学実習に代わる方法を用意すべき具体的義務を負っていたと解することはできない。 なお,後方視的にみれば,原告のホルムアルデヒド曝露による身体障害が平成13年6月ころから発現していたのではないかとの疑いは否定できないところである。しかしながら,前記認定のとおり,当時,原告は担当医師に対し,カリキュラムや試験によるストレスを強く訴えており,ホルムアルデヒド曝露との関連性について訴えてはいなかったこと,解剖学実習の最中に原告に強い身体症状が現れたのは平成13年6月28日のみであり,むしろ原告は試験に関連した日に強い身体症状を呈することが多く,原告の身体症状発現と解剖学実習との直接的関連性が強く疑われる状況にはなかったことからすれば,被告b大学の担当教授らにおいて,原告に対し,マスクやゴーグルの着用を指示し,気分が悪くなったら教室を出て休養する旨を指示することで足りると考えたことにもやむを得ぬ面があり,同時点で化学物質過敏症の発症を予想して,微量のホルムアルデヒド曝露をも避けさせるべき注意義務があったと認めることもできない。 ウj医師から化学物質過敏症との診断を受けた後の時期について平成14年2月下旬,原告は,化学物質過敏症との診断を受け,診断書等をb大学に提出したことが認められる(前記1(4)ツ,テ)。 したがって,同時点では,被告b大学の担当教授らは原告の化学物質過敏症の発症の可能性を認識し,原告の個人曝露を極力避けさせるべき具体的義務を負うに至ったというべきである。 これに対し,n教授及びm教授は,平成14年3月11日,原告に対して,肉眼解剖学実習が原告に危険性が高いと判断した場合には,これを他の学習形態に代替えし,試験のみを他学生と同様に行い,これに合格すれば単位認定をする用意があるこ ,平成14年3月11日,原告に対して,肉眼解剖学実習が原告に危険性が高いと判断した場合には,これを他の学習形態に代替えし,試験のみを他学生と同様に行い,これに合格すれば単位認定をする用意があること,実地試験の際には必要に応じて防護服 を貸し出す予定でいることを回答したことが認められる(前記1(4)ト)。 以上によれば,被告b大学は,原告の健康に留意して,解剖学実習の代替案を提示したものと認めることができ,化学物質過敏症が,微量のホルムアルデヒドにも反応する重篤な疾病であることをも考慮した相当な措置が採られていたと認めるのが相当である。 この点に関し,原告は,被告b大学が,原告に対して試験の免除までは提案していないことを問題とする。しかしながら,①前記(3)ウのとおり,肉眼解剖学実習は,医学部の教育において重要な意義を有しており(甲A5,丙A4,10),試験を行うことに十分な合理性が認められること,②b大学は,実地試験の際の防護服の貸し出しを申し出ており,原告の健康維持には配慮をしていることからすれば,実地試験を免除しなかったことが直ちに注意義務に違反するものであったということはできない。 また,この点につき,原告は,防護服の素材は化学物質であり,原告は防護服の着用をしただけで病状が悪化してしまうのであるから,装着困難である旨主張する(甲A24)。 しかしながら,b大学の平成14年3月11日付の書面には,最終的な対応は原告と直接相談のうえ決めたい旨記載されていたこと(前記1(4)ト),同年4月12日,m教授,y教授及びn教授が原告に面談し,防護スーツ等を示して説明をしたこと(前記1(4)ニ),これに対し,原告は,同年4月19日からb大学を欠席し(前記1(4)ニ),同年5月28日,j医師の作成にかかる「原告が極めて微量の化学物質に反 防護スーツ等を示して説明をしたこと(前記1(4)ニ),これに対し,原告は,同年4月19日からb大学を欠席し(前記1(4)ニ),同年5月28日,j医師の作成にかかる「原告が極めて微量の化学物質に反応しているため,重装備のマスクも呼吸器への負担が大きく,装着困難と考えられる」旨の意見書を提出したうえ(前記1(4)ネ),同年9月10日にはb大学を休学したこと(前記1(4)ニ,ノ)が認められ,以上によれば,原告と被告b大学は,解剖学実習の代替案についてなお協議継続中であった中で,休学という形で協議が打ち切られたものと認められるから,被告b大学の対 応に注意義務違反があったとは認められない。 (7)代替措置を講じず,進路障害を生じさせた義務違反原告は,b大学の解剖学実習中,意識を失うなど生死の境をさまようような極めて重篤な症状をきたしていたのであるから,被告b大学においては,解剖学実習の代替措置を講じるべき義務があった旨主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,n教授及びm教授は,平成14年3月11日,原告に対して,肉眼解剖学実習が原告に危険性が高いと判断した場合には,これを他の学習形態に代替えし,試験のみを他学生と同様に行い,これに合格すれば単位認定をする用意がある旨回答し,原告の健康に留意して,解剖学実習の代替案を提示したものと認めることができる。 そして,b大学は原告に対し,試験の免除までは提案していないものの,①前記(3)ウのとおり,肉眼解剖学実習は,医学部の教育において重要な意義を有しており(甲A5,丙A4,10),試験を行うことに十分な合理性が認められること,②b大学は,実地試験の際の防護服の貸し出しを申し出ており,原告の健康維持には配慮をしていると認められることからすれば,実地試験を免除しなかったことが注意義務に違反す 十分な合理性が認められること,②b大学は,実地試験の際の防護服の貸し出しを申し出ており,原告の健康維持には配慮をしていると認められることからすれば,実地試験を免除しなかったことが注意義務に違反するものであったということもできない。 (8)まとめ以上によれば,原告の主張する被告b大学の安全配慮義務違反についても,いずれも認めることはできない。 第4 結論 ホルムアルデヒドによる健康被害の危険性を考えたとき,医学部の解剖学実習において,室内のホルムアルデヒド濃度の低減,学生の曝露量の低減,ハイリスクの学生に対する個人曝露量の低減,今後の医学教育のあり方の検討等については,今後とも真剣な取り組みが強く期待されるところである。しかしながら,本件で原告が化学物質過敏症を発症したと主張する平成11年及び平成 13年当時の解剖学実習室におけるホルムアルデヒド濃度の具体的低減策に関する一般的知見,化学物質過敏症に関する一般的知見,さらに当時の原告の担当教授,担当医師に対する訴えの内容等に照らせば,同時点において,各被告らに原告が主張するような具体的対策を取るべき安全配慮義務が発生していたと認めることはできないといわざるを得ない。 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美裁判官田代雅彦裁判官渡邉隆浩

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