平成30(ワ)8619 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年11月30日 大阪地方裁判所
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判決文本文36,169 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 第1事件被告は,原告1に対し,3300万円及びこれに対する平成30年10月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 第2事件被告は,原告2及び原告3に対し,それぞれ1100万円及びこれに対する 平成31年2月6日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等本件は,優生保護法(平成8年法律第105号による改正前のもの。以下「旧優生保護法」という。)に基づく不妊手術(人の生殖腺を除去することなしに,生殖を不能にする手術。以下「優生手術」という。)を受けたという本人又はそ の配偶者である原告らが,旧優生保護法が人の性と生殖に関する権利であるリプロダクティブ・ライツ,自己決定権及び平等権等を侵害する違憲なものであるにもかかわらず,①国会議員が旧優生保護法を立法したこと,②国会議員が被害救済立法を行わなかったこと,③厚生労働大臣及び内閣総理大臣が被害救済措置を講じなかったことがいずれも違法であると主張して,被告に対し,国 家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,原告1について3300万円(慰謝料3000万円,弁護士費用300万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年10月12日から,原告2及び原告3について一部請求としてそれぞれ1100万円(慰謝料1000万円,弁護士費用100万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成31年2月6日から各支払 済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定 の年5分の割合による遅 00万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成31年2月6日から各支払 済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定 の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当裁判所に顕著な事実,当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠(枝番号のある証拠は,特に断らない限り,全ての技番号を含む趣旨である。以下同じ。)及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実)(1) 関係法令の定め ア旧優生保護法の定めは,別紙のとおりであり,そのうち本件で問題となる主要な条文は以下のとおりである。 (ア) 1条(この法律の目的)この法律は,優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに,母性の生命健康を保護することを目的とする。 (イ) 2条1項(定義)この法律で優生手術とは,生殖腺を除去することなしに,生殖を不能にする手術で命令をもって定めるものをいう。 (ウ) 3条1項(医師の認定による優生手術)医師は,左の各号の一に該当する者に対して,本人の同意並びに配偶 者(中略)があるときはその同意を得て,優生手術を行うことができる。 但し,未成年者,精神病者又は精神薄弱者については,この限りでない。 a 1号略b 2号本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が,遺伝性精神病, 遺伝性精神薄弱,遺伝性精神病質,遺伝性身体疾患又は遺伝性畸形を有しているものc 3号ないし5号略(エ) 4条(審査を要件とする優生手術の申請)医師は,診断の結果,別表(別紙の末尾参照。以下同じ。)に掲げる疾 患に罹っていることを確認した場合において,その者に対し, 略(エ) 4条(審査を要件とする優生手術の申請)医師は,診断の結果,別表(別紙の末尾参照。以下同じ。)に掲げる疾 患に罹っていることを確認した場合において,その者に対し,その疾患 の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは,都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請しなければならない。 (オ) 12条(精神病者等に関する優生手術)医師は,別表第1号又は第2号に掲げる遺伝性のもの以外の精神病又 は精神薄弱にかかっている者について,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)第20条(後見人,配偶者,親権を行う者又は扶養義務者が保護者となる場合)又は同法第21条(市長村長が保護者となる場合)に規定する保護者の同意があった場合には,都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申 請することができる。 イ旧優生保護法施行規則(昭和27年8月4日厚生省令第32号)1条の定めは,次のとおりである。 旧優生保護法2条に規定する優生手術は,左に掲げる術式によるものとする。 (ア) 1,2号略(イ) 3号卵管圧ざ結さつ法(マドレーネル氏法)卵管をおよそ中央部では持し,直角又は鋭角に屈曲させて,その両脚を圧ざかん子で圧ざしてから結さつするものをいう。 (ウ) 4号卵管間質部けい状切除法 卵管峡部で卵管を結さつ切断してから子宮角にけい状切開を施して間質部を除去し,残存の卵管断端を広じん帯又は腹膜内に埋没するものをいう。 (2) 旧優生保護法4条又は12条の申請による優生手術の手続の概要ア旧優生保 ら子宮角にけい状切開を施して間質部を除去し,残存の卵管断端を広じん帯又は腹膜内に埋没するものをいう。 (2) 旧優生保護法4条又は12条の申請による優生手術の手続の概要ア旧優生保護法4条の申請による場合 都道府県優生保護審査会は,旧優生保護法4条の規定による申請を受け たときは,対象者に対してその旨を通知するとともに,同条に規定する要件を満たしているか否かを審査し,優生手術を行うことの適否を決定する。 そして,都道府県優生保護審査会は,同決定後,申請者及び関係者の意見を聴いて,その手術を行うべき医師を指定し,対象者,申請者及び当該担当医師にその旨を通知する。(同法5条参照) 優生手術を行うことが適当である旨の決定に対する異議がないとき又はその決定若しくはこれに関する判決が確定したときは,上記医師が優生手術を行う。(同法6条ないし10条参照)イ旧優生保護法12条の申請による場合都道府県優生保護審査会は,旧優生保護法12条の規定による申請を受 けたときは,対象者が同条に規定する精神病又は精神薄弱に罹っているかどうか及び優生手術を行うことが本人保護のために必要であるかどうかを審査した上,優生手術を行うことの適否を決定して,その結果を申請者及び同条の同意者に通知する。医師は,上記決定があったときは,優生手術を行うことができる。(同法13条参照) (3) 旧優生保護法の制定と改正及びその後の経過ア旧優生保護法は,昭和23年に制定され,平成8年6月26日,平成8年法律第105号によって,題名が「母体保護法」に改められるとともに,1条及び2条1項の文言が次のとおり変更され,第2章の標題及び3条1項柱書の「優生手術」との記載が「不妊手術」と変更 6日,平成8年法律第105号によって,題名が「母体保護法」に改められるとともに,1条及び2条1項の文言が次のとおり変更され,第2章の標題及び3条1項柱書の「優生手術」との記載が「不妊手術」と変更され,同項1号ない し3号及び4条ないし13条が削除された(乙1~4)。 (ア) 1条この法律は,不妊手術及び人工妊娠中絶に関する事項を定めること等により,母性の生命健康を保護することを目的とする。 (イ) 2条1項 この法律で不妊手術とは,生殖腺を除去することなしに,生殖を不能 にする手術で厚生労働省令をもって定めるものをいう。 イ厚生労働大臣は,平成16年3月24日の参議院厚生労働委員会において,優生手術の実態を調査し救済制度を導入すべきではないかという国会議員からの質問に対し,「こういう歴史的な経緯がこの中にあったということだけは,これはもう,ほかに言いようのない,これはもう事実でござい ますから,そうした事実を今後どうしていくかということは,今後私たちも考えていきたいと思っております。」と述べた(甲共17。以下,この発言を「本件発言」という。)。 ウ平成30年1月30日,優生手術の対象者の一人が,仙台地方裁判所に対し,国を相手方として,優生手術による被害について国家賠償を求める 訴訟(同裁判所平成30年(ワ)第76号。以下「仙台訴訟」という。)を提起した(顕著な事実)。 エ平成31年4月24日,旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(以下「一時金法」という。)が制定された。一時金法は,優生手術等を受けた者に対する一時金の支給に関し必 要な事項等を定めるものであり(同法1条),一時金の額は320万 時金の支給等に関する法律(以下「一時金法」という。)が制定された。一時金法は,優生手術等を受けた者に対する一時金の支給に関し必 要な事項等を定めるものであり(同法1条),一時金の額は320万円とされ(同法4条),また,国及び地方公共団体は,優生手術等を受けた者に対し一時金の支給手続等について十分かつ速やかに周知するための措置を適切に講ずるものとされている(同法12条1項)。(甲共46,47)(4) 原告ら ア原告1(昭和●●年●月●●日生まれの女性)は,(省略)知的障害(障害の程度は,B1(中度)である。)を負った者である(甲A1,3~5,18,19,原告1,証人原告1の姉)。 イ原告2(昭和●●年●●月●日生まれの女性)は,(省略)聴力障害2級(両耳全ろう)及び音声・言語機能障害3級(言語機能の喪失)の障害を 有する者である(甲B1,3,4)。 ウ原告3(昭和●●年●月●●日生まれの男性)は,原告2の夫であり,(省略)聴力障害2級(両耳全ろう)及び音声・言語機能障害3級(言語機能の喪失)の障害を有する者である(甲B1,甲C1,2)。 エなお,原告1及び原告2に対する優生手術の実施の有無・内容等を記録した資料は,仮に存在していたとしても,保存期間が経過して廃棄されて おり,いずれも現存しない(甲A13,14,甲B5~7)。 (5) 本件訴訟の提起原告1は,平成30年9月28日に,原告2及び原告3は,平成31年1月30日にそれぞれ本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 2 争点 (1) 原告1に対する優生手術の有無(争点1)(2) 原告2に対する優生手術の有無(争点2)(3) 国会議員による旧優生保護法の立法行為の違法性( 事実)。 2 争点 (1) 原告1に対する優生手術の有無(争点1)(2) 原告2に対する優生手術の有無(争点2)(3) 国会議員による旧優生保護法の立法行為の違法性(争点3)(4) 国会議員による救済法の立法不作為の違法性(争点4)(5) 厚生労働大臣による救済措置の不作為の違法性(争点5) (6) 内閣総理大臣による救済措置の不作為の違法性(争点6)(7) 原告らの損害(争点7)(8) 除斥期間の適用の可否(争点8) 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(原告1に対する優生手術の有無) (原告1の主張)原告1は,昭和40年2月から昭和41年までの間に,●●●●の病院において,旧優生保護法12条に基づく優生手術を受けた。 (被告の主張)知らない。 (2) 争点2(原告2に対する優生手術の有無) (原告2及び原告3の主張)原告2は,(省略)昭和49年●月●●日に病院において(省略)旧優生保護法3条又は4条に基づく優生手術を受けた。 (省略)(被告の主張) 否認する。(省略)(3) 争点3(国会議員による旧優生保護法の立法行為の違法性)(原告らの主張)ア旧優生保護法の違憲性(ア) 子を産むか否かは,人としての生き方の根幹に関わる意思決定であ るから,子を産み育てるか否かを自らの自由な意思によって決定することは,幸福追求権又は自己決定権として憲法13条によって保障されるとともに,性と生殖に関する自然権的な権利であるリプロダクティブ・ライツとして憲法13条,24条によって保障される。 ことは,幸福追求権又は自己決定権として憲法13条によって保障されるとともに,性と生殖に関する自然権的な権利であるリプロダクティブ・ライツとして憲法13条,24条によって保障される。 しかし,旧優生保護法は,一定の場合には本人の同意なく優生手術を 行い得る旨定めているから,対象者の自己決定権及びリプロダクティブ・ライツを侵害するものとして憲法13条,24条に違反している。 (イ) また,人は全て法の下に平等に扱われるべきであり,合理的な理由なく異なる扱いをすることは平等権(憲法14条)を侵害するものであるところ,旧優生保護法は,特定の疾患や障害を負っている者について 「不良」であるとみなし,合理的な理由なく優生手術の対象として扱い,差別するものであるから,憲法14条に違反している。 (ウ) さらに,人は身体の自由及びこれを基礎とする個人の尊厳を憲法上保障されているところ(憲法31条,13条),旧優生保護法は,対象者の身体内部に強制的に侵襲し,身体に重大な改変を加えることを認める ものであるから,憲法31条,13条に違反している。 イ立法行為の違法性旧優生保護法制定当時の国会議員は,優生手術が上記のとおり国民に憲法上保障されている種々の権利を侵害するものであることが明白であったにもかかわらず,その違憲性を何ら顧慮することなく同法を制定したものであるから,その立法行為は,国家賠償法上違法である。 (被告の主張)旧優生保護法が違憲であるとする原告らの主張に対しては,反論の必要がない。しかし,仮に原告らが主張する損害賠償請求権が発生していたとしても,同請求権は,除斥期間の経過によって消滅している。 (4) 争点4(国会議員による救 原告らの主張に対しては,反論の必要がない。しかし,仮に原告らが主張する損害賠償請求権が発生していたとしても,同請求権は,除斥期間の経過によって消滅している。 (4) 争点4(国会議員による救済法の立法不作為の違法性) (原告らの主張)ア国会議員の作為義務国会議員は,遅くとも平成16年3月24日の参議院厚生労働委員会において優生手術の被害者に対する補償の必要性に言及する厚生労働大臣の本件発言があった時点で,優生手術による人権侵害の重大性と被害回復の 必要性を認識し得た。 そして,優生手術が人の生殖機能を完全に失わせるものであること等を考慮すれば,優生手術の被害者に支払われるべき損害賠償金は1000万円を優に超えるものでなければならない。 また,優生手術の被害者は障害者であるため,国家賠償法の存在を認識 することが困難である上,憲法上・法律上の争点を含む国家賠償請求訴訟を提起するには弁護士に委任することが必要であるが,障害者が弁護士に相談することには大きな困難が伴う。そうすると,優生手術による被害を回復する手段としては,国家賠償法が存在するだけでは不十分であり,このような手段の存在につき,被害者らに対して積極的な広報・情報提供を 行うことが不可欠である。 以上によれば,国会議員は,本件発言があった平成16年3月24日には,優生手術の被害者を救済するため,1000万円を優に超える額の金銭的な補償のほか,障害者である被害者らにも容易に認識できる手段・態様による積極的な広報・情報提供を盛り込んだ立法措置(以下「本件立法措置」という。)を講ずべき義務を負っていた。 イ国会議員の作為義務違反とその違法性国会議員は,現在に至るまで本 積極的な広報・情報提供を盛り込んだ立法措置(以下「本件立法措置」という。)を講ずべき義務を負っていた。 イ国会議員の作為義務違反とその違法性国会議員は,現在に至るまで本件立法措置を怠っており(以下「本件立法不作為」という。),この立法不作為は,国民に憲法上保障されている国家賠償請求権(憲法17条)の行使の機会を確保するために所要の立法措置をとることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国 会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合に該当する。 したがって,国会議員の本件立法不作為は国家賠償法上違法である。 ウ一時金法の不十分さ平成31年4月に制定された一時金法は,一時金の額が320万円とされ(同法4条),1000万円をはるかに下回っている上,障害者に対する 広報・情報提供に関して具体的な方策を国の行政機関及び地方公共団体に白紙委任するものである(同法12条1項)。そうすると,一時金法の制定によって国会議員が本件立法措置を行ったということはできない。 (被告の主張)ア原告らは,国会議員が優生手術を受けた者に対する救済のための立法措 置をとらなかったこと,すなわち,国民に権利行使の機会を与えるための立法の不作為が国家賠償法上違法であると主張するが,そのような「絶対的立法の不作為」の場合における違法性の有無は,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置をとることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく 長期にわたってこれを怠る場合に当たるか否かによって判断される。 イ優生手術を受けた者の被害を救済するための金銭的補償の制度としては,国家賠償法が ず,国会が正当な理由なく 長期にわたってこれを怠る場合に当たるか否かによって判断される。 イ優生手術を受けた者の被害を救済するための金銭的補償の制度としては,国家賠償法が昭和22年10月27日の施行以来存在している。原告らには,この国家賠償法により,優生手術の被害に係る国家賠償請求権を行使する機会が確保されていたといえる。そうすると,旧優生保護法が改正された後に,国家賠償法とは別に優生手術の被害に対して金銭的補償等を行 う立法措置や,国家賠償請求の手段等について広報・情報提供をする立法措置を講ずることが必要不可欠であり,それが明白であったとはいえない。 したがって,国会議員が本件立法措置を講ずべき義務を負うということはできず,本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法と評価されることはない。 (5) 争点5(厚生労働大臣による救済措置の不作為の違法性)(原告らの主張)ア厚生労働大臣の作為義務厚生労働大臣は,一般に社会保障に関する行政事務を司っている上,内閣の一員として法律案や予算を国会に提出する権能を有する。また,厚生 労働省は障害者の福祉の増進及び保健の向上に関する事務を所掌事務としており,優生手術の被害の救済も同省の所掌事務に含まれるため,厚生労働大臣は,同省を指揮監督して,容易かつ実効的に優生手術の被害の実態調査等を行うことができる。 そして,厚生労働大臣は,平成16年3月24日の参議院厚生労働委員 会において,優生手術による被害の実態に関して検証し対策を講ずる必要があることを認める旨の本件発言をしているから,遅くとも同日の時点で優生手術の被害者に対する国家的救済が必要であると認識していた。そのため,歴代の厚生労働大臣は,本件発言から 検証し対策を講ずる必要があることを認める旨の本件発言をしているから,遅くとも同日の時点で優生手術の被害者に対する国家的救済が必要であると認識していた。そのため,歴代の厚生労働大臣は,本件発言から調査・対策の遂行に必要な合理的期間である3年が経過した平成19年3月までに,①優生手術及びそ の被害の実態を調査し,これを救済するため,被害者に対する金銭的補償 を旨とする法律案や予算を国会に提出するとともに,②被害救済のための法制度を障害者である被害者らが利用できるようにするため,容易に認識することができる手段・態様で,救済の内容と手段を積極的に広報・情報提供するなど,優生手術の被害者の被害回復を図るための適切な救済措置をとるべき義務を負っていた。 イ厚生労働大臣の作為義務違反歴代の厚生労働大臣は,平成30年3月28日に至るまで救済制度を設立するための実態調査を行わず,被害者の救済・補償に向けて何らの措置も講ずることなく漫然と放置していた。 したがって,上記厚生労働大臣の不作為は,国家賠償法上違法である。 (被告の主張)優生手術による被害救済の手段としては,国家賠償法が存在するため,国会議員が被害救済のための立法をすべき作為義務を負うとはいえない。そうすると,国会に対して法律案の提出権を有するにとどまる内閣の一員である厚生労働大臣も,被害救済のための法律案や予算を国会に提出すべき作為義 務を負うとはいえない。 (6) 争点6(内閣総理大臣による救済措置の不作為の違法性)(原告らの主張)ア内閣総理大臣の作為義務内閣総理大臣は,内閣を代表して,法律案や予算を国会に提出するとと もに,行政各部を指揮監督する権能を 不作為の違法性)(原告らの主張)ア内閣総理大臣の作為義務内閣総理大臣は,内閣を代表して,法律案や予算を国会に提出するとと もに,行政各部を指揮監督する権能を有する。 そして,内閣総理大臣は,遅くとも厚生労働大臣が平成16年3月24日の参議院厚生労働委員会において優生手術による被害に対する実態調査と補償の必要性に言及する本件発言をした時点で,優生手術の被害者に対する救済の必要性を認識し得た。そのため,歴代の内閣総理大臣は,同日 以降,調査・対策の遂行に必要な合理的期間である3年が経過した平成1 9年3月までに,①優生手術による被害を救済するための法律案や予算の作成及び国会への提出を閣議にかけ,全員一致の承認を得るべく閣議を主導した上で,閣議決定を経た法律案や予算を,内閣を代表して国会に提出するとともに,②その前提として厚生労働省を始めとする行政各部を指揮監督して優生手術及びその被害の実態調査を行うべき作為義務を負ってい た。 イ内閣総理大臣の作為義務違反歴代の内閣総理大臣は,平成16年3月24日以降,優生手術による被害の救済のための法律案や予算を一切作成・提出することなく,優生手術の実態調査すら全く行わなかった。 したがって,内閣総理大臣の上記不作為は,国家賠償法上違法である。 (被告の主張)優生手術による被害救済の手段としては,国家賠償法が存在するため,国会議員が被害救済のための立法をすべき作為義務を負うとはいえない。そうすると,国会に対して法律案の提出権を有するにとどまる内閣の一員である 内閣総理大臣も,被害救済のための法律案や予算を国会に提出すべき作為義務を負うとはいえない。 (7) 争点7(原 うすると,国会に対して法律案の提出権を有するにとどまる内閣の一員である 内閣総理大臣も,被害救済のための法律案や予算を国会に提出すべき作為義務を負うとはいえない。 (7) 争点7(原告らの損害)(原告らの主張)ア原告1の損害 原告1は,同人に対して優生手術が実施されたことよって,同手術後の痛みに苦しんだ上,生殖機能を不可逆的に失い,身体の完全性を損なわれ,身体の自由,リプロダクティブ・ライツ,自己決定権及び平等権を侵害され,夫との間の子を産み育てる夢を絶たれた。したがって,原告1が優生手術によって被った精神的苦痛は甚大なものであり,これを金銭的に評価 すると3000万円を下らない。弁護士費用は300万円が相当である。 イ原告2の損害原告2は,同人に対して優生手術が実施されたことによって,生殖機能を不可逆的に失い,身体の完全性を損なわれ,身体の自由,リプロダクティブ・ライツ,自己決定権及び平等権を侵害され,深刻な精神的・身体的被害を受けた。したがって,原告2が優生手術によって被った精神的苦痛 は甚大なものであり,これを金銭的に評価すると3000万円を下らない。 弁護士費用は300万円が相当である。 ウ原告3の損害原告3は,原告2に対して優生手術が実施されたことによって,同人との間で子をもうけて育てることができなくなり,原告3自身のリプロダク ティブ・ライツが侵害されるとともに,原告2の苦しみを目の当たりにすることで精神的苦痛を受けた。したがって,原告3が原告2の優生手術によって被った精神的苦痛は甚大なものであり,これを金銭的に評価すると3000万円を下らない。弁護士費用は300万円が相当である。 (被告の主張) 知 告3が原告2の優生手術によって被った精神的苦痛は甚大なものであり,これを金銭的に評価すると3000万円を下らない。弁護士費用は300万円が相当である。 (被告の主張) 知らない。 (8) 争点8(除斥期間の適用の可否)(被告の主張)ア除斥期間の経過仮に,原告らが国会議員による旧優生保護法の立法行為によって被告に 対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を取得したとしても,同請求権は,国家賠償法4条及び民法724条後段により,「不法行為の時」から20年を経過したときに当然に消滅する。「不法行為の時」とは,原告1及び原告2に対する優生手術が実施された時と解するのが相当であり,原告1については昭和40年ないし昭和41年頃であり,原告2について は昭和49年●月●●日頃である。したがって,原告らの上記損害賠償請 求権は,原告1との関係では昭和60年ないし昭和61年頃の経過をもって,原告2及び原告3との関係では平成6年●月●●日頃の経過をもって,当然に消滅した。 イ除斥期間の起算点について原告らは,不法行為の時から除斥期間の進行を認めると被害者にとって 著しく酷であり,加害者としても,自己の行為により生じ得る損害の性質からみて,不法行為の時から相当の期間が経過した後に,被害者から損害賠償の請求を受けることがあることを予期すべきと評価される場合には,除斥期間の起算点を不法行為の時以外の時点とすべき旨主張するが,これは独自の見解というほかなく失当である。 ウ除斥期間の適用の制限について除斥期間の制度は,あくまでも法律関係の速やかな確定のために一定期間の経過により画一的に権利を消滅させるものであることに照らすと,除斥期間 。 ウ除斥期間の適用の制限について除斥期間の制度は,あくまでも法律関係の速やかな確定のために一定期間の経過により画一的に権利を消滅させるものであることに照らすと,除斥期間の適用を制限するためには,①時効の停止等のような除斥期間の規定の適用を制限する根拠となる規定があり,かつ,②加害者の行為に起因 して被害者による権利行使が客観的に不可能になった場合のように,除斥期間の規定を適用することが著しく正義・公平に反する事情がある場合に限られると解するのが相当である。 本件では,原告らの損害賠償請求権につき,時効の停止等のような除斥期間の規定の適用を制限する根拠となる規定は何ら存在しない。また,原 告らが主張する,原告らの有する障害,日本社会に残存する優生思想・差別構造,被告による優生手術の実態調査や救済措置等の不実施などの事情は,いずれも,被告の行為に起因して原告らが損害賠償請求権を行使することが客観的に不可能となったことを基礎付けるものではない。 したがって,本件は除斥期間の適用を制限すべき例外的な場合には該当 しない。 エ除斥期間の規定の法令違憲について国家賠償法4条,民法724条後段の規定は,憲法17条が要請する国家賠償制度の本旨の一つを構成するものであって,同条が予定する損害賠償請求権を制約する規定ではない。 また,仮に,両規定が損害賠償請求権を制約するものであったとしても, 法律関係を確定させるために請求権の存続期間を画一的に定めるという両規定の趣旨・目的は正当である上,20年という期間が相当程度長期間であることを踏まえると,両規定は,上記目的を達成するための手段として不合理とはいえない。 そして,憲法17条は,国会に対し,民法上の不法行為制度を超える である上,20年という期間が相当程度長期間であることを踏まえると,両規定は,上記目的を達成するための手段として不合理とはいえない。 そして,憲法17条は,国会に対し,民法上の不法行為制度を超える保 護を国民に付与することまで要請し又は義務付けているとは解し得ない。 そうすると,国家賠償法4条が,民法724条後段を適用して国家賠償法に基づく損害賠償責任につき,民法上の不法行為に基づく損害賠償責任と同じ存続・消滅に係る規律に服するものとしたことも合理的である。 したがって,国家賠償法4条,民法724条後段の規定は,憲法17条 に違反して違憲とはいえない。 オ除斥期間の規定の適用違憲について憲法17条は,国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした規定であって,違法行為の態様やその違法性の強弱等といった個別事情に応じて異なった規律を設けることまで要請するもので はないから,国家賠償法4条,民法724条後段を原告らに適用することが違憲であるとはいえない。 (原告らの主張)ア除斥期間の起算点は早くとも平成16年3月24日であること(ア) 不法行為の時から除斥期間の進行を認めると被害者にとって著しく 酷であり,加害者としても,自己の行為により生じ得る損害の性質から みて,不法行為の時から相当の期間が経過した後に,被害者から損害賠償の請求を受けることがあることを予期すべきと評価される場合には,除斥期間の起算点を不法行為の時以外の時点とすべきである。 (イ) 原告らは,いずれも障害を有しており,原告1においては知的障害を,原告2及び原告3においては聴覚障害及びこれに伴うコミュニケー ション障害,情報障害,発達の障害を有していた。このような原告 イ) 原告らは,いずれも障害を有しており,原告1においては知的障害を,原告2及び原告3においては聴覚障害及びこれに伴うコミュニケー ション障害,情報障害,発達の障害を有していた。このような原告らが,旧優生保護法の違憲性やそれに基づく優生手術の違法性を自ら理解し,国家賠償請求訴訟という救済手段があることを認識し,実際にこれを提起することは不可能又は著しく困難である。 知的障害者や聴覚障害者にとって,弁護士への相談を始めとする司法 アクセスに対する制約は今も存在するところ,優生手術が実施された当時は,その障害の程度は極めて大きかった。特にろうあ者については,昭和40年頃まで,社会の差別が厳しく,一般の人に迷惑をかけないことを旨として行動することが風潮として根付いており,司法アクセスの障害の要因となっていた。また,旧優生保護法の制定により,優生上の 見地から不良な子孫の出生を防止すべきとの価値観が社会全体に広がり,社会的差別や偏見が強化・増幅された。さらに,日本政府及び国会が旧優生保護法の違憲性等について広報を行わなかったため,優生手術の被害者らは,司法的救済の手段があることを認識できなかった。これらの事情も,原告らが国家賠償請求訴訟を提起することを妨げた要因である。 そうすると,原告1及び原告2に対して優生手術が実施された時を除斥期間の起算点として除斥期間の進行を認めることは,被害者である原告らにとって著しく酷である。 一方,被告は,旧優生保護法が障害者を対象とするものであり,当該障害者が優生手術の意味,違法性,救済手段の有無等を容易に理解でき ないことを想定しており,相当の期間が経過した後に被害者が現れて, 損害賠償請求を受けることがあることを予期すべきであった。 (ウ) 以上に ,救済手段の有無等を容易に理解でき ないことを想定しており,相当の期間が経過した後に被害者が現れて, 損害賠償請求を受けることがあることを予期すべきであった。 (ウ) 以上によれば,原告1及び原告2に対して優生手術が実施された時を除斥期間の起算点とすべきではなく,原告らが優生手術による損害について損害賠償請求権を行使することができるようになった時から除斥期間は進行するとすべきであり,それは,早くとも,厚生労働大臣が本 件発言において優生手術の実態調査・補償の必要性に言及し,原告らにおいて優生手術の被害が重大な人権侵害であって救済を受けるべきものであると認識し得た平成16年3月24日と解すべきである。 (エ) したがって,国会議員による旧優生保護法の立法行為に関する国家賠償請求については,除斥期間が経過していない。 イ除斥期間の適用が制限されるべきであること(ア) 当該事案に除斥期間の適用を認めることが正義・公平に反する結果となる場合には,除斥期間の適用は制限されると解すべきである。 (イ) 本件における被告の加害行為は,違憲な立法に基づく,原告1及び原告2の意思に反した優生手術であり,これ自体が極めて悲惨かつ凄惨 な人権侵害を伴うものである。 また,原告らは,それぞれ自身が抱える障害のために,旧優生保護法の違憲性やそれに基づく優生手術の違法性を自ら理解し,国家賠償請求訴訟という救済手段があることを認識し,実際にこれを提起することは不可能又は著しく困難であったことは,前記ア(イ)のとおりである。 そのため,原告らは,優生手術による被害について平成30年頃まで認識しておらず,同年1月に仙台訴訟の提起が報じられたことにより,司法的救済の手段を認 は,前記ア(イ)のとおりである。 そのため,原告らは,優生手術による被害について平成30年頃まで認識しておらず,同年1月に仙台訴訟の提起が報じられたことにより,司法的救済の手段を認識するに至ったものである。 さらに,障害者による司法アクセスの障害があったこと及び旧優生保護法の制定により社会的差別や偏見が強化・増幅されたことも,原告ら が国家賠償請求訴訟を提起できなかった要因であることは,前記ア(イ) のとおりであるが,この要因を作出したのは,旧優生保護法を制定するとともに司法アクセスの障害の除去について何ら積極的な対策を行わなかった被告である。 そして,除斥期間の制度趣旨は法律関係の速やかな確定にあると解されるが,私人間の法律関係の調整を超えて,本件のように国家が重大な 人権侵害を行った場合において,法律関係を速やかに確定することにより,被害者である原告らの犠牲の下,加害者である被告の利益を保護することを許容する趣旨とは解されない。 (ウ) 以上によれば,本件に除斥期間の規定を適用すれば,正義・公平に反する結果となることは明らかであるから,信義則上あるいは民法15 8条ないし161条の法意に照らし,除斥期間の適用は制限されると解すべきである。 ウ除斥期間の規定の意味が一部違憲であること(ア) 国家賠償法4条,民法724条後段による免責は,優生手術の被害者の国家賠償請求権(憲法17条)を完全に否定するものであるところ, 公務員の不法行為による国家賠償責任を免除等する法律の規定が同条に適合するかどうかは,当該行為の態様,これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度,免責等の範囲及び程度等に応じ,当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段とし 除等する法律の規定が同条に適合するかどうかは,当該行為の態様,これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度,免責等の範囲及び程度等に応じ,当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段としての合理性及び必要性を総合的に考慮して判断すべきである。 (イ) 本件における不法行為の態様は,障害者を対象として正当化し得ない目的の下で制定された旧優生保護法に基づき,対象者の同意なく身体へ侵襲し,生殖能力を不可逆的に奪うという悲惨かつ残虐なものである。 これによって侵害される利益の種類は,身体の自由やリプロダクティブ・ライツという基本的人権であり,侵害の程度は不可逆的で取り返しのつ かないものである。その上,責任制限の範囲は全部免責である。 そして,除斥期間の目的及び趣旨は法律関係を画一的に安定させる点にあるところ,この目的等は,上記のように著しい人権侵害とそれによる不可逆的かつ凄惨な被害が生じており,かつ,前記イ(イ)のとおり加害者により損害賠償請求権の行使が困難にされている事案において,当該被害者の救済という利益に優越するものとはいえない。 (ウ) したがって,国家賠償法4条,民法724条後段は,対象者が優生手術によって受けた被害について国家賠償請求権の行使を否定する限りにおいて,目的の正当性並びに手段の合理性及び必要性を欠き,憲法17条に違反して違憲である。 エ除斥期間の規定を本件に適用することが違憲であること 原告らは,優生手術によって不可逆的かつ重大な人権侵害を受けたにもかかわらず,同手術の時点では国家賠償請求権を行使することが著しく困難であったから,原告らの取得した国家賠償請求権について,除斥期間の規定を適用することは,憲法17条に違反して違憲である。 第3 かかわらず,同手術の時点では国家賠償請求権を行使することが著しく困難であったから,原告らの取得した国家賠償請求権について,除斥期間の規定を適用することは,憲法17条に違反して違憲である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 優生手術の被害救済に関する事実経過ア旧優生保護法の改正 旧優生保護法は,平成8年6月26日,不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づく規定が障害者に対する差別となっていること等に鑑み,旧優生保護法の一部を改正する法律(平成8年法律第105号)によって題名が「母体保護法」に改められるとともに,旧優生保護法1条,2条及び3条1項柱書の文言が変更され,同項1号ないし3号及び4条ない し13条が削除された(前記前提事実(3)ア)。 イ市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)28条に基づき設置される人権委員会(以下「国際人権(自由権)規約委員会」という。)の勧告国際人権(自由権)規約委員会は,平成10年11月19日,日本政府に対し,「委員会は,障害を持つ女性の強制不妊の廃止を認識する一方,法 律が強制不妊の対象となった人達の補償を受ける権利を規定していないことを遺憾に思い,必要な法的措置がとられることを勧告する。」とする見解を示した(甲共5。以下「平成10年勧告」という。)。 ウ参議院厚生労働委員会における厚生労働大臣の本件発言厚生労働大臣は,平成16年3月24日,参議院厚生労働委員会におい て,優生手術の実態を調査し救済制度を導入すべきではないかとの質問に対し,優生手術が行われた事実を踏まえて,「そうし 厚生労働大臣は,平成16年3月24日,参議院厚生労働委員会におい て,優生手術の実態を調査し救済制度を導入すべきではないかとの質問に対し,優生手術が行われた事実を踏まえて,「そうした事実を今後どうしていくかということは,今後私たちも考えていきたいと思っております。」などとする本件発言をした(前記前提事実(3)イ)。 エ平成10年勧告に対する日本政府の対応 日本政府は,平成18年12月,平成10年勧告を踏まえ,「旧優生保護法に基づき適法に行われた手術については,過去にさかのぼって補償することは考えていない」などと応答した(甲共6)。 オ日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)の報告日弁連は,日本政府に対し,平成13年11月に,優生手術の対象者に 対する補償措置を講ずるべきと指摘し,平成19年12月には,被告が強制不妊措置に関する何らの補償及び実態調査も行っていないことなどを指摘して,「国は,過去に行われた(中略)強制不妊措置について,政府としての包括的な調査と補償を実施する計画を,早急に明らかにすべきである」などと提言した(甲共7,10)。 カ国際人権(自由権)規約委員会の勧告 国際人権(自由権)規約委員会は,平成20年10月30日,日本政府に対し,平成10年勧告を念頭に置いて,「委員会は,(中略)勧告の多くが履行されていないことを懸念する。締約国は,委員会によって採択された今回の勧告及び前回の最終見解を実行するべきである。」との見解を示した(甲共8。以下「平成20年勧告」という。)。 キ障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)の批准日本政府は,平成26年1月,障害のある者が 見解を示した(甲共8。以下「平成20年勧告」という。)。 キ障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)の批准日本政府は,平成26年1月,障害のある者が生殖能力を保持すること及び障害者が他の者との平等を基礎として心身がそのままの状態で尊重される権利を有することなどを明記した障害者権利条約を批准した(弁論の全趣旨〔訴状28頁〕)。 ク国際人権(自由権)規約委員会の勧告国際人権(自由権)規約委員会は,平成26年8月20日,日本政府に対し,平成10年勧告を念頭に置いて,「委員会は,(中略)勧告の多くが履行されていないことを懸念する。締約国は,委員会によって採択された今回及び以前の最終見解における勧告を実施すべきである。」との見解を示 した(甲共9。以下「平成26年勧告」という。)。 ケ平成20年勧告及び平成26年勧告に対する日本政府の対応日本政府は,平成20年勧告及び平成26年勧告に対し,当時,その内容を踏まえた措置を講ずることはなかった(弁論の全趣旨〔訴状21頁〕)。 コ日弁連の報告 日弁連は,平成27年3月19日,優生手術の対象者に対する補償に関して法的措置を講ずる必要が平成10年勧告以来指摘されているにもかかわらず,日本政府が何らの措置も講じていないことを指摘した上,平成27年12月17日には,優生手術の対象となった障害者の女性に対する補償について,講じられた措置に関する情報提供を政府に求めるとともに, 平成8年までに行われた優生手術に関して事実を解明するための調査,謝 罪及び損害の賠償がされていないことを再度指摘する報告をした(甲共11,12)。 サ国連女性差別撤廃委員会の勧 8年までに行われた優生手術に関して事実を解明するための調査,謝 罪及び損害の賠償がされていないことを再度指摘する報告をした(甲共11,12)。 サ国連女性差別撤廃委員会の勧告国連女性差別撤廃委員会は,平成28年3月7日,日本政府に対し,「委員会は,締約国が優生保護法に基づき行った女性の強制的な優生手術とい う形態の過去の侵害の規模について調査を行った上で,加害者を訴追し,有罪の場合は適切な処罰を行うことを勧告する。委員会は,さらに,締約国が強制的な優生手術を受けた全ての被害者に支援の手を差し伸べ,被害者が法的救済を受け,補償とリハビリテーションの措置の提供を受けられるようにするため,具体的な取組を行うことを勧告する。」とする見解を示 した(甲共13。以下「平成28年勧告」という。)。 シ日弁連の意見書の発表日弁連は,平成29年2月16日,「国は,旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶が,対象者の自己決定権及びリプロダクティブ・ヘルス/ライツを侵害し,遺伝性疾患,ハンセ ン病,精神障がい等を理由とする差別であったことを認め,被害者に対する謝罪,補償等の適切な措置を速やかに実施すべきである。」,「国は,旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に関連する資料を保全し,これら優生手術及び人工妊娠中絶に関する実態調査を速やかに行うべきである。」などとする意見書を発表した(甲共1 4)。 ス優生手術の対象者による国家賠償請求訴訟の提起の状況平成30年1月30日,優生手術の対象者の一人が仙台訴訟を提起したが,それまで,優生手術による被害について国家賠償を求める訴訟が提起されたこと の対象者による国家賠償請求訴訟の提起の状況平成30年1月30日,優生手術の対象者の一人が仙台訴訟を提起したが,それまで,優生手術による被害について国家賠償を求める訴訟が提起されたことはなかった。(前記前提事実(3)ウ,弁論の全趣旨) セ日本政府の対応 日本政府は,平成30年3月28日,都道府県,保健所設置市及び特別区に対し,優生手術の関係資料の保全を依頼し,同年4月25日に同資料の保管状況に関して調査を開始した後,同年9月6日に同調査の結果を公表した。また,日本政府は,同年4月25日,医療機関等に対し,優生手術の関係資料の保全を依頼し,同年7月13日に医療機関等における同資 料の保管状況に関して調査を開始した後,同年10月31日に同調査結果を公表した。(弁論の全趣旨〔答弁書14頁〕)ソ一時金法の制定仙台訴訟が提起されたことを契機として,旧優生保護法下における悲惨な実態を明らかにするよう求める声が高まり,国会内において,優生手術 等を受けた対象者に対する補償等を行う立法に向けた議論が加速し,平成31年4月24日,上記対象者に対して一律320万円を支給することなどを内容とする一時金法が制定された(前記前提事実(3)エ,甲共46,47)。 (2) 原告1に関する事実関係 ア (省略)イ (省略)ウ原告1の下腹部(臍の下8.6cm,恥骨結合の上5.1cmの箇所)には,切開手術によるものとみられる,横に長さ2.5cm,幅0.15cmの瘢痕がある。(省略) エ (省略)オ原告1の姉は,平成30年5月21日,新聞やテレビで,弁護士が仙台訴訟の提起を受けて優生手術に関する全国一斉法律相談を実施しているというニュース 痕がある。(省略) エ (省略)オ原告1の姉は,平成30年5月21日,新聞やテレビで,弁護士が仙台訴訟の提起を受けて優生手術に関する全国一斉法律相談を実施しているというニュースに接し,翌22日,大阪弁護士会の法律相談の窓口に電話をし,原告1について相談をした。これを契機として,原告1は,自己が 受けた不妊手術について弁護士に相談することとなり,同年9月28日, 本件訴訟を提起するに至った。なお,原告1は,不妊手術を受けさせられたことは前記イのとおり知っていたが,それが旧優生保護法に基づくものである可能性があることは,弁護士に相談をするまで知らなかった。(前記前提事実(5),甲A3,4,18,19,原告1,証人原告1の姉)(3) 原告2に関する事実関係 ア原告2は,(省略)聴力障害2級(両耳全ろう)及び音声・言語機能障害3級(言語機能喪失)の障害を有しており,身体障害者等級は1級であり,会話は手話で行い,難しい文章を読むことはできない。(前記前提事実(4)イ,甲B1~4,8)イ (省略) ウ (省略)エ (省略)オ原告2は,平成30年,公益社団法人大阪聴力障害者協会(ろうあ者のために福祉事業を行う公益社団法人。以下「大阪聴力障害者協会」という。)のヘルパーから,聴力障害を有する夫婦が兵庫県で優生手術による被害に 関する訴訟を提起したことを,手話で教えてもらい,新聞記事を読んでそのような趣旨が書いていることを知った。原告2は,これを契機として,大阪聴力障害者協会の役員等から手話で様々な助言を得,その後,原告2及び原告3は,弁護士への相談を経て,平成31年1月30日,本件訴訟の提起に至った。なお,原告2は,兵庫県で提起された上記裁判のことを 手話 会の役員等から手話で様々な助言を得,その後,原告2及び原告3は,弁護士への相談を経て,平成31年1月30日,本件訴訟の提起に至った。なお,原告2は,兵庫県で提起された上記裁判のことを 手話で教えてもらうまで,旧優生保護法の存在を知らなかった。(前記前提事実(5),甲B8,原告2) 2 争点1(原告1に対する優生手術の有無)について(1) 優生手術(不妊手術)の術式としては,卵管圧ざ結さつ法及び卵管間質部けい状切除法の2つがある(前記前提事実(1)イ)。証拠(甲A9,10,1 7)によれば,これらは,腹式(卵管に到達するために開腹する方法)で行 われることがあり,その場合には,まず,対象者の下腹部(臍と恥骨結合の間)を子宮底(子宮の上端)の高さに応じて横に約2ないし3cm切開することが認められる。この点,原告1の下腹部(臍と恥骨結合の間)には,切開手術によるものとみられる長さ2.5cm,幅0.15cmの横長の瘢痕があり(前記認定事実(2)ウ),優生手術の際に生じる手術痕とその位置や形 状において類似しているということができる。 なお,腹壁膿腫の切開排膿手術によっても患者の下腹部に手術痕が残ることはあるが,同手術の場合は,膿腫の再発を防ぐためにドレナージ用のドレーンチューブを置くため,手術痕の幅が広くなり,数mmに達することが通常であり(甲A17),原告1の上記瘢痕はこれよりも明らかに細い。また, 卵巣嚢腫の手術も手術痕が下腹部に残ることがある(甲A17)が,原告1は,卵巣嚢腫にり患したものの,卵巣嚢腫の手術を受けたことはない(前記認定事実(2)ウ)から,原告1の上記瘢痕が同手術による可能性は否定できる。 (2) (省略)(3) 原告1は,(省略)昭和40年ないし昭和41年に の,卵巣嚢腫の手術を受けたことはない(前記認定事実(2)ウ)から,原告1の上記瘢痕が同手術による可能性は否定できる。 (2) (省略)(3) 原告1は,(省略)昭和40年ないし昭和41年に,(省略)手術を受けた ものである(前記認定事実(2)ア,イ)。当時は,優生手術が全国的に実施されていた時期であり,大阪府内においても優生手術が実施されたことが報告されている(甲共4,24)。 (4) 原告1は,(省略)旧優生保護法12条所定の「別表第1号又は第2号に掲げる遺伝性のもの以外の精神病又は精神薄弱にかかっている者」に当たり 得る。一方で,原告1が不妊手術を受けなければならない合理的な理由の存在は,本件全証拠によってもうかがうことができない。 (5) 以上の各事情を総合的に考慮すれば,昭和40年ないし昭和41年頃,原告1に対し,旧優生保護法12条の申請に基づく優生手術が実施されたと認めるのが相当である。 3 争点2(原告2に対する優生手術の有無)について (1)ア (省略)イ (省略)ウ原告2が帝王切開手術を受けたのは昭和49年●月であるが,当時は,前記のとおり優生手術が全国的に実施されていた時期である(甲共24)。 エ原告2は,(省略)両耳全ろうの聴覚障害を有しており(前記前提事実(4) イ,前記認定事実(3)ア),旧優生保護法4条が引用する別表の4のうち「遺伝性の難聴又はろう」に該当し得る身体疾患があったということができる。 一方で,原告2が不妊手術を受けなければならない合理的な理由の存在は,本件全証拠によっても全くうかがわれない。 オ以上の各事情を総合的に考慮すれば,昭和49年5月24日の帝王切開 手術の際,原告2に対し,旧優生保護法4条の申請に基づく優生手 な理由の存在は,本件全証拠によっても全くうかがわれない。 オ以上の各事情を総合的に考慮すれば,昭和49年5月24日の帝王切開 手術の際,原告2に対し,旧優生保護法4条の申請に基づく優生手術が実施されたものと推認することができる。 カなお,旧優生保護法3条に基づく優生手術は,本人の同意があることが必要であるところ,原告2は,優生手術に同意したことを否定する旨を一貫して供述している上,原告2において不妊手術を受ける合理的な理由が ないことは前記のとおりであるから,原告2に対して同意に基づく優生手術が実施されたとは認められない。 (省略)証拠(甲共4)によれば,原告2が同手術を受けた昭和49年は,統計上,●●●において,旧優生保護法4条の申請に基づく優生手術の報告はされていない。しかし,証拠(甲共12)及び弁論の全趣旨によ れば,同法に基づく本人の同意がない優生手術については,報告されていない例も多く,その実態の把握が困難であることが認められるから,上記のとおり統計上の報告がないことをもって,直ちに前記オの認定が左右されるものではない。 (2)ア (省略) イ (省略) (3) 以上によれば,昭和49年●月●●日頃,原告2に対し,旧優生保護法4条の申請に基づく優生手術が実施されたことが認められる。 4 争点3(国会議員による旧優生保護法の立法行為の違法性)について(1) 判断枠組み国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法と なるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内 うかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,直ちに違法の評価を受けるものではない。しかし,その立法の内容又は立法不作為が国 民に憲法上保障され,又は保護されている権利利益を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置をとることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,国会議員の立法又は立法不作為は,例外的に,国家賠償法1条1 項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。(最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁,最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)(2) 旧優生保護法4条ないし13条の違憲性ア子を産み育てるか否かは,個人の生き方及び身体の健康に関わるだけで なく,これを希望する者にとっては,子をもうけることによって生命をつなぐという人としての根源的な願い,すなわち,個人の尊厳と密接に関わる事柄である。したがって,子を産み育てるか否かについて意思決定をする自由は,幸福追求権ないし人格権の一内容を構成する権利として憲法13条に基づいて保障されるというべきである。 また,人がその意思に反して身体への侵襲を受けない自由が憲法13条 によって保障されていることは明らかである。 そして,憲法14条1項は,国民に対して法の下の平等を保障した規定であって,同項後段列挙の事項は例示 体への侵襲を受けない自由が憲法13条 によって保障されていることは明らかである。 そして,憲法14条1項は,国民に対して法の下の平等を保障した規定であって,同項後段列挙の事項は例示的なものであり,この平等の要請は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきである(最高裁昭和39年5月 27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。 イ旧優生保護法は,優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに,母性の生命健康を保護することを目的とする法律である(同法1条)ところ,①立法当時の国会における審議の内容(甲共2),②同法が全7章 から構成され,同法3条ないし13条によって構成される第2章が「優生手術」との標題であり,同法14条及び15条によって構成される第3章が「母性保護」との標題であったこと,③平成8年6月26日,旧優生保護法のうち不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づく部分が障害者に対する差別となっていること等に鑑みて,同法3条1項1号ないし 3号,4条ないし13条が削除されたこと(甲共18)からすれば,同法の第2章の各規定は,専ら優生上の見地から不良な子孫の出生を防止することを目的とした規定であると認められる。 そして,旧優生保護法4条ないし13条(以下,併せて「本件各規定」という。)は,上記目的の下,別表に掲げる遺伝性精神病,遺伝性精神薄弱, 顕著な遺伝性精神病質,顕著な遺伝性身体疾患又は強度な遺伝性奇型を有する者については,医師の申請と都道府県優生保護審査会による決定がある場合,所定の手続を経れば,本人の同意がなくても医師が優生手術を行 著な遺伝性精神病質,顕著な遺伝性身体疾患又は強度な遺伝性奇型を有する者については,医師の申請と都道府県優生保護審査会による決定がある場合,所定の手続を経れば,本人の同意がなくても医師が優生手術を行うことができる旨を,また,別表1号又は2号に掲げる遺伝性のもの以外の精神病又は精神薄弱を有する者については,保護者の同意に基づく医師 の申請と都道府県優生保護審査会による決定がある場合には,上記と同様 に本人の同意がなくても医師が優生手術を行うことができる旨を定めている(前記前提事実(1)ア(エ),(オ),(2))。 ウ以上のとおり,本件各規定の立法目的は,専ら優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するというものであるが,これは,特定の障害ないし疾患を有する者を一律に「不良」であると断定するものであって,それ自体 極めて非人道的かつ差別的であるといわざるを得ない。被告においても,本件各規定の立法目的の合理性やそれを支える立法事実について何ら主張立証をしないのであるから,本件各規定の立法目的に合理性がないことは明らかである。 また,本件各規定は,遺伝性の特定の障害ないし疾患を有する者ばかり ではなく,非遺伝性の特定の障害ないし疾患を有する者に対しても,当該障害等を有することを理由にして,優生手術の実施を認めるものであり,そもそも立法目的との合理的関連性を欠いている。加えて,優生手術の術式として実施される卵管の結さつ・切断等は,それ自体身体への強度の侵襲であるといえる上,生命ないし身体に対する危険を伴うとともに,生殖 能力の喪失という重大で元に戻らない結果をもたらすものであるから,このような手術を受けるか否かは,本来,当該手術を受ける者の自由な意思決定に委ねられるべきである。それにもかかわらず,優 生殖 能力の喪失という重大で元に戻らない結果をもたらすものであるから,このような手術を受けるか否かは,本来,当該手術を受ける者の自由な意思決定に委ねられるべきである。それにもかかわらず,優生手術の実施に当たり,本人の同意を得ることを要しないとする本件各規定には,手段としての合理性もおよそ認めることができない。なお,被告は,この手段の合 理性の点についても,それを支える立法事実を含めて一切主張立証しない。 そして,このように特定の障害等を有する者に対して優生手術を受けることを強制する本件各規定は,子を産み育てるか否かについて意思決定をする自由及び意思に反して身体への侵襲を受けない自由を明らかに侵害するとともに,特定の障害等を有する者に対して合理的な根拠のない差別的 取扱いをするものである。 エ以上からすると,本件各規定は,その内容に照らし,明らかに憲法13条,14条1項に違反して違憲である。 (3) 旧優生保護法の立法行為の違法性前記(2)に認定説示したとおり,本件各規定は,その内容に照らして明らかに憲法13条,14条1項に違反しているのであるから,国会議員による旧 優生保護法の本件各規定に係る立法行為は,当該立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白であるにもかかわらずこれを行うものとして,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるというべきである。なお,本件各規定がその内容に照らして明らかに違憲である以上,本件各規定の立法を行った国会議員には,少なくと も過失があると認められる。 5 争点4(国会議員による救済法の立法不作為の違法性)について(1) 国会議員の立法不作為の違法性の判断枠組みは,前記4(1)に説示したとおりで くと も過失があると認められる。 5 争点4(国会議員による救済法の立法不作為の違法性)について(1) 国会議員の立法不作為の違法性の判断枠組みは,前記4(1)に説示したとおりである。 (2) 前記4(3)で判断したとおり,本件各規定の立法行為は,国家賠償法上違 法との評価を受けるものであるから,本件各規定に基づく優生手術により被害を受けた障害者は,これによって生じた損害について,被告に対して同法1条1項に基づく損害賠償請求権を取得するものというべきである。そして,憲法17条は,「何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,国又は公共団体に,その賠償を求めることができ る」と規定しており,国家賠償法はこの規定を受けて制定された法律であるから,優生手術の被害者が取得する上記損害賠償請求権は,国民に保障される憲法上の権利が具体化されたものということができる。 (3)ア前記認定事実(1)に認定したとおり,日本政府は,平成8年6月の旧優生保護法の改正以降,国際人権(自由権)規約委員会の平成10年勧告, 平成20年勧告及び平成26年勧告において,優生手術を受けた者に対す る補償について必要な法的措置をとるように重ねて勧告を受け,国連女性差別撤廃委員会からも,平成28年勧告において,同旨の勧告を受けた。 また,日弁連は,平成13年,平成19年,平成27年及び平成29年,日本政府が上記各勧告を踏まえた措置を講じていないことを指摘するとともに,優生手術の実態調査,同手術の対象者への補償や謝罪を求める報 告を行っている。そして,厚生労働大臣の平成16年3月の本件発言からも明らかなとおり,日本政府としても,優生手術が行われた歴史的事実への対応が政治的課題である の対象者への補償や謝罪を求める報 告を行っている。そして,厚生労働大臣の平成16年3月の本件発言からも明らかなとおり,日本政府としても,優生手術が行われた歴史的事実への対応が政治的課題であるとの認識を有していた。 イところで,証拠(甲共29~33,35~37,40~44,証人4)及び弁論の全趣旨によれば,国民が弁護士その他の法律専門職に相談した り,裁判手続を中心とする司法制度を利用したりすること(以下,併せて「司法アクセス」という。)の障害となる要因としては,一般に,資力,知識・情報,地理的距離,心理的距離などが挙げられるところ,障害者は,その障害の内容・程度によって異なり得るとはいえるものの,健常者と比較すると,司法アクセスに対する一定の制約を類型的に有していることが 認められる。優生手術の対象者は,別表に記載された障害等を有する障害者であり,上記のとおり司法アクセスに対する一定の制約を有していたものとうかがわれる上に,旧優生保護法が障害者に対する差別となっていること等に鑑みて改正された平成8年6月以降,平成30年1月に仙台訴訟が提起されるまでの間,20年余りの長期にわたり,優生手術の被害に係 る国家賠償請求訴訟が提起されていないこと(前記認定事実(1)ア,ス)に照らしても,現に司法アクセスに対する制約があったことが推認できる。 ウそうすると,前記(2)のとおり,優生手術が実施された障害者は,被告に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を取得し,その意味において被害の実態に即した金銭的補償を受ける権利が保障されていたとし ても,前記イに認定説示したところに照らすと,この憲法上の権利を現実 に行使することについては,障害者としての特性に起因する一定の制約があったことは否定で が保障されていたとし ても,前記イに認定説示したところに照らすと,この憲法上の権利を現実 に行使することについては,障害者としての特性に起因する一定の制約があったことは否定できない。 他方,前記アのとおり,日本政府は,旧優生保護法の改正以降,国連の委員会や日弁連から,優生手術の被害者への補償に関する法的措置を講ずる必要性について,指摘や勧告を重ねて受け,優生手術が行われた歴史的 事実への対応が政治的課題であるとの認識を有していた以上,国会議員として,厚生労働大臣の本件発言があった平成16年3月当時,立法措置の要否や内容について調査・審議する契機はあったといえる。 (4)アしかしながら,優生手術の対象となる障害は,別表記載のとおり,精神疾患,身体疾患及び奇形など多種類に及ぶものであり,その障害の内容・ 程度においても多種多様である上,その状態は必ずしも固定的ではない。 優生手術の被害者を救済する立法を実現するに当たっては,当然,このような障害者の特性や被害実態等にも配慮しながら,実体法及び手続法の観点から立法措置の在り方を幅広く検討する必要がある。そこには一定の立法裁量が認められるべきものといえる。 イまた,日本政府に対して各種の勧告や指摘が行われてきたことは前記認定事実(1)のとおりであるが,国連の委員会の勧告も,障害者には司法アクセスに対して一定の制約があるという観点から国家賠償法に基づく損害賠償請求という補償手段の不備を具体的に指摘するものではなかった。その点においては日弁連の指摘も同様である。 ウそして,平成30年1月に仙台訴訟が提起されたことを契機として,国会内で優生手術の対象者に対する補償等を行う立法に向けた議論が加速した(前記認定事実(1)ソ)が,それ以前には,国会 。 ウそして,平成30年1月に仙台訴訟が提起されたことを契機として,国会内で優生手術の対象者に対する補償等を行う立法に向けた議論が加速した(前記認定事実(1)ソ)が,それ以前には,国会において優生手術の対象者の被害救済の在り方に関する具体的な議論が行われてきたという事情は証拠上認められない。また,原告らが主張するような国会議員の立法不作 為について司法判断が重ねられていたという事情もない。 (5) 前記(2)ないし(4)に認定説示したところを総合的に考慮すると,厚生労働大臣が本件発言を行った平成16年3月当時,国家賠償請求権(憲法17条)の行使の機会を確保するために,優生手術の被害者に対する1000万円を優に超える額の金銭的な補償や,障害者である被害者らにも容易に認識できる手段及び態様による積極的な広報・情報提供を盛り込んだ立法措置 (本件立法措置)をとることが必要不可欠であり,それが明白であったということはできない。したがって,本件立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受けるものではないというべきである。 6 争点5(厚生労働大臣による救済措置の不作為の違法性)及び争点6(内閣総理大臣による救済措置の不作為の違法性)について (1) 原告らは,厚生労働大臣が本件発言を行った平成16年3月以降,調査・対策の遂行に必要な合理的期間である3年が経過した平成19年3月までに,歴代の厚生労働大臣においては,①優生手術及びその被害の実態を調査し,これを救済するための法律案や予算を国会に提出するとともに,②被害救済のための法制度を積極的に広報・情報提供するなどの救済措置をとるべき義 務があったのにこれを怠った旨,歴代の内閣総理大臣においては,③優生手術による被害を救済 会に提出するとともに,②被害救済のための法制度を積極的に広報・情報提供するなどの救済措置をとるべき義 務があったのにこれを怠った旨,歴代の内閣総理大臣においては,③優生手術による被害を救済するための法律案や予算を,内閣を代表して国会に提出するとともに,④その前提として行政各部を指揮監督して優生手術及びその被害の実態調査をするなどの救済措置をとるべき義務があったのにこれを怠った旨主張する。 (2) 原告らの上記主張は,要するに,優生手術を受けた被害者を救済するための法制度の創設に向けた厚生労働大臣や内閣総理大臣の不作為の違法をいうものであって,それは端的に言えば,専ら歴代の内閣の法律案や予算の不提出についての違法をいう趣旨であると解される(上記②及び④の措置は,上記①及び③の措置の前提であるか,又は所期の法律や予算が成立した後の措 置にとどまるものであり,独立して違法を論じる実益に乏しい。)。 しかしながら,立法について固有の権限を有するのは国会であって,前記5のとおり,国会議員の本件立法不作為について,国家賠償法上の違法性を肯定することができない本件において,国会に対して法律案の提出権を有するにとどまる内閣の法律案等の不提出について,歴代の厚生労働大臣や内閣総理大臣の不作為は,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受けるも のではない。 (3) したがって,前記(1)の各措置に関する歴代の厚生労働大臣及び内閣総理大臣の不作為に国家賠償法上の違法性を認めることはできない。 7 争点8(除斥期間の適用の可否)について(1) 損害賠償請求権の発生と除斥期間の経過 ア前記4で判断したとおり,国会議員による本件各規定の立法行為は,国家賠償法1条1項の規定の適用 (除斥期間の適用の可否)について(1) 損害賠償請求権の発生と除斥期間の経過 ア前記4で判断したとおり,国会議員による本件各規定の立法行為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法と評価されるものであるところ,旧優生保護法12条の申請に基づく優生手術が原告1に,同法4条の申請に基づく優生手術が原告2にそれぞれ実施されたこと(前記2,3)により,原告1及び原告2は生殖機能を不可逆的に失い,精神的・身体的被害を受 けた。また,原告2の夫である原告3は,原告2が上記のとおり生殖機能を失ったことにより,原告2の生命を害された場合にも比肩すべき精神上の苦痛を受けた。すなわち,国会議員による違法な立法行為を原因として,原告らに対して優生手術が実施され,原告らは損害を被ったのである。したがって,原告らは,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償 請求権を取得する。 イもっとも,本件については,国家賠償法4条により,民法724条後段の規定の適否が問題となる。同規定は,不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解される(最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁参照)ところ,前記アのとおり,国 会議員によって違法な立法行為が行われ,その法律(旧優生保護法)に基 づいて,直接的な加害行為(優生手術)が行われ,これと同時に具体的な損害(生殖機能の喪失等)が発生したという本件の事実関係の下においては,原告1及び原告2に対する優生手術が実施されて原告らに具体的な損害が発生した時をもって,除斥期間の起算点である「不法行為の時」とみることが相当である。 前記2,3に認定したとおり,原告1には昭和40年ないし昭和41年頃に,原告2には昭和49年5月2 害が発生した時をもって,除斥期間の起算点である「不法行為の時」とみることが相当である。 前記2,3に認定したとおり,原告1には昭和40年ないし昭和41年頃に,原告2には昭和49年5月24日頃にそれぞれ優生手術が実施されたものである。そして,原告らが本件訴訟を提起したのは,優生手術の実施から20年が経過した後の日(原告1については平成30年9月28日であり,原告2及び原告3については平成31年1月30日である。)であ る。したがって,原告らの取得した各損害賠償請求権は,除斥期間の経過により,いずれも法律上当然に消滅したことになる。 (2) 除斥期間の起算点についてア原告らは,不法行為の時から除斥期間の進行を認めると被害者にとって著しく酷であり,加害者としても,自己の行為により生じ得る損害の性質 からみて,不法行為の時から相当の期間が経過した後に,被害者から損害賠償の請求を受けることがあることを予期すべきと評価される場合には,除斥期間の起算点を不法行為の時以外の時点とすべきであるから,本件の場合,除斥期間が進行するのは,早くとも,原告らにおいて優生手術の被害が重大な人権侵害であって救済を受けるべきものであると認識し得た平 成16年3月24日(厚生労働大臣による本件発言の日)からであると主張する。 イしかしながら,除斥期間の制度は,不法行為をめぐる法律関係を速やかに確定すべく,消滅時効の制度とは異なり,被害者側の主観的な事情を問わずに,損害賠償請求権の存続期間を画一的に定めることを趣旨・目的と するものである。そうすると,被害者側の主観的な認識可能性を問題とす る原告らの主張は,除斥期間の制度趣旨・目的に反するものであり,採用することはできない。 (3) 除斥期間の適用 るものである。そうすると,被害者側の主観的な認識可能性を問題とす る原告らの主張は,除斥期間の制度趣旨・目的に反するものであり,採用することはできない。 (3) 除斥期間の適用の制限についてア原告らは,それぞれが抱える障害のために,優生手術の違法性を理解し,法的な救済手段があることを認識し,訴訟を提起することが不可能又は著 しく困難であること,その要因として,障害者による司法アクセスに対する制約が除去されなかったことや旧優生保護法の制定により社会的差別や偏見が強化・増幅されたことがあったところ,これらはいずれも被告によって作出されたものであること,除斥期間の制度趣旨は,本件のように国家が重大な人権侵害を行った場合において,被害者である原告らの犠牲の 下,加害者である被告の利益を保護することを許容する趣旨ではないことなどを指摘し,本件に除斥期間の規定を適用すれば,正義・公平に反する結果となることは明らかであるから,除斥期間の適用は制限されるべきと主張する。 イそこで,まず,原告らによる本件訴訟の提起が,原告1及び原告2に対 する優生手術が実施されてから20年を経過した後にされた経緯ないし理由について検討する。 (ア) 原告1について(省略)そうしたところ,原告1の姉は,平成30年5月,仙台訴訟の提起を受けて弁護士による優生手術に関する法律相談が実施されてい るというニュースに接し,大阪弁護士会に法律相談を行った。これが契機となり,原告1は,自己の受けた不妊手術について弁護士に相談をする機会を得て,同年9月,本件訴訟の提起に至ったものである。ただし,原告1は,弁護士に相談するまで,自己の受けた不妊手術が旧優生保護法に基づくものであることは知らなかった。 以上の経緯に照ら 機会を得て,同年9月,本件訴訟の提起に至ったものである。ただし,原告1は,弁護士に相談するまで,自己の受けた不妊手術が旧優生保護法に基づくものであることは知らなかった。 以上の経緯に照らすと,原告1は,遅くとも昭和41年頃には,自己 が不妊手術を受けたことを認識したが,それが優生手術であったことは(省略)知らされず,(省略)相談できなかったため,仙台訴訟の提起を知った姉が弁護士へ相談するまで,国家賠償請求訴訟を提起できるなどと考える機会がなかったことが,原告1が提訴に至ることができなかった原因であると認められる。(省略) (イ) 原告2及び原告3について(省略)平成30年,大阪聴力障害者協会のヘルパーから,優生手術による被害に関する訴訟が兵庫県で提起されたことを手話で教えてもらい,新聞記事を読んでそのことを確認し,これを契機として,大阪聴力障害者協会の役員等から助言を得て,夫である原告3とともに弁護士に 相談をし,平成31年1月,本件訴訟の提起に至ったものである。ただし,原告2は,ヘルパーから兵庫県で提起された上記訴訟のことを教えてもらうまで,旧優生保護法の存在を知らなかった。 以上の経緯に照らすと,原告2は,(省略)平成30年に,優生手術による被害に関する訴訟のことを上記ヘルパーから教えられて新聞記事を 読んで確認するまで,国家賠償請求訴訟を提起できるなどと考える機会がなかったことが,原告2及び原告3が提訴に至ることができなかった原因であると認められる。(省略)(ウ) 小括以上のとおり,原告らが長期にわたり本件訴訟を提起できなかったの は,自己の受けた不妊手術が旧優生保護法に基づくものであることを知らされず,平成30年まで,国家賠償を求める手段があることを認識 以上のとおり,原告らが長期にわたり本件訴訟を提起できなかったの は,自己の受けた不妊手術が旧優生保護法に基づくものであることを知らされず,平成30年まで,国家賠償を求める手段があることを認識していなかったためである。その背景には,優生手術の対象となった障害者に対する社会的な差別や偏見の影響があったことがうかがわれる。 そうすると,原告らが優生手術の実施から20年を経過するまで提訴 しなかったことは,責められるものではない。特に,優生手術は,それ 自体身体への強度の侵襲を加え,かつ,生殖能力の喪失という重大で元に戻らない結果をもたらし,原告らが被った精神的・身体的被害は誠に甚大である。このことも併せて考慮すれば,優生手術の被害に対する損害賠償請求権が除斥期間の経過により当然に失われる結果は受け入れ難いとする原告らの心情は,理解できるものである。 ウしかしながら,除斥期間の規定は,不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図して,被害者側の認識のいかんを問わず,一定の時の経過によって法律関係を確定させるため,請求権の存続期間を画一的に定めたものと解される(前記最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決参照)。不法行為をめぐる権利関係を長く不確定の状態に置くと,その間に証拠資料 が散逸し,加害者ではない者が反証の手段を失って訴訟上加害者とされるという事態を招くなどの問題が生じ得る。そこで,被害者側の認識のいかんを問わず,一定の時の経過により法律関係を確定させ,被害者の保護とその加害者と目される者の利害との調整を図ったのである。 このような除斥期間の制度目的・趣旨に鑑みれば,被害者側の主観的事 情を考慮して除斥期間の規定の適用を制限するような例外を認めることは,基本的に相当では との調整を図ったのである。 このような除斥期間の制度目的・趣旨に鑑みれば,被害者側の主観的事 情を考慮して除斥期間の規定の適用を制限するような例外を認めることは,基本的に相当ではない。 エ以上を踏まえて本件について検討するに,まず,前記イ(ア)及び(イ)に認定説示したところによれば,本件は,最高裁が除斥期間の適用を制限した事案である,不法行為の被害者が当該不法行為を原因として心神喪失の 常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合(最高裁平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1087頁参照)や,被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人がその事実を知ることができず,民法915条1項所定のいわゆる熟慮期間が経過しないために相続人が確定 しないまま,上記殺害の時から20年が経過した場合(最高裁平成21年 4月28日第三小法廷判決・民集63巻4号853頁参照)とは明らかに異なる事案であると認められる。すなわち,本件は,上記各事案のように,被害者や被害者の相続人による権利行使を客観的に不能又は著しく困難とする事由があり,民法158条ないし161条所定の時効の停止等といった,その法意に照らして除斥期間の適用を制限すべき根拠となる規定があ る事案と評価することはできない。 次に,前記5(3)イに認定説示したとおり,知的障害や聴力障害等を有する原告らには,健常者と比較すると,司法アクセスに対する一定の制約があったことは否めないが,原告らの有する障害そのものは,被告の不法行為によって生じたものではない。確かに,前記イに説示したとおり,原告 らが優生手術の実施を長く認識できなかった背景には,優生手術の被害者となっ いが,原告らの有する障害そのものは,被告の不法行為によって生じたものではない。確かに,前記イに説示したとおり,原告 らが優生手術の実施を長く認識できなかった背景には,優生手術の被害者となった障害者に対する社会的な差別や偏見の影響があったことがうかがわれ,旧優生保護法の制定がそうした差別や偏見を助長したことも否定はできない。しかし,障害者一般に対する差別や偏見は,様々な歴史的・社会的要因等が複合的に影響して創出・助長されるものであると考えられる。 少なくとも,被告が,原告らにおいて優生手術に係る国家賠償請求訴訟の提起ができない状況を意図的・積極的に作出したとまでは認められない。 そして,除斥期間は,その間に証拠資料が散逸する可能性があることを踏まえた制度であるところ,本件は,原告1及び原告2の各優生手術の実施から既に40年以上が経過しており(旧優生保護法の改正時点でも20 年余りが経過している。),その間に同手術の実施に関する記録が廃棄されるなどして現に証拠資料が散逸している事案である(前記前提事実(4)エ)。 オ以上の諸事情を総合的に勘案すると,本件において,除斥期間の適用を制限するのは相当ではないというべきである。この点に関する原告らの主張は,いずれも採用することができない。 (4) 除斥期間の規定又はその適用の違憲性について ア法令の意味上の一部違憲(ア) 憲法17条は,「何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,国又は公共団体に,その賠償を求めることができる。」と規定し,その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については,法律による具体化を予定している。これは, 公務員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的 を求めることができる。」と規定し,その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については,法律による具体化を予定している。これは, 公務員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的な作用に属するものにまで及び,公務員の行為の国民へのかかわり方には多種多様なものがあり得ることから,国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上,公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断に委ねたものであっ て,立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない。そして,公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除し,又は制限する法律の規定が同条に適合するものとして是認されるものであるかどうかは,当該行為の態様,これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度,免責又は責任制 限の範囲及び程度等に応じ,当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段として免責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮して判断すべきである。 (最高裁平成14年9月11日大法廷判決・民集56巻7号1439頁参照)(イ) そこで,国家賠償法4条,民法724条後段の規定の目的について みるに,除斥期間について定めた上記各規定は,前記(3)ウのとおり,不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図して,被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものである。権利行使の期間を長期に認めることは,前記(3)ウのとおり,加害者でない者が反証資料を失って訴 訟上加害者とされるおそれが生じるなどの問題があるから,被害者の保 護と加害者と目される者の利 間を長期に認めることは,前記(3)ウのとおり,加害者でない者が反証資料を失って訴 訟上加害者とされるおそれが生じるなどの問題があるから,被害者の保 護と加害者と目される者の利害との調整を図るため,一定期間の経過をもって画一的に法律関係を確定するという上記各規定の目的は正当として是認できる。そして,民法724条後段が除斥期間として定めた20年が消滅時効の期間である3年に比して相当長期に及ぶことを踏まえると,不法行為の時を起算点として20年の経過により不法行為責任の免 責を認めた上記各規定の規制はその目的を達成する手段として合理性及び必要性があるというべきである。 したがって,国家賠償法4条,民法724条後段の規定がその意味において違憲であるということはできない。 (ウ) これに対し,原告らは,本件において,被侵害利益が身体の自由等 の基本的人権であること,侵害の程度が不可逆的であること,責任制限の範囲が全部免責であることなどを考慮すれば,前記各規定は目的の正当性並びに手段の合理性及び必要性を欠くと主張する。しかしながら,もとより,公務員による不法行為において,被侵害利益や侵害態様・程度には多種多様なものが考えられるのであり,除斥期間の制度は,その ことを前提にしながらもなお,一定の時の経過をもって画一的に法律関係を確定させることを目的とするものである。なぜなら,証拠の散逸により加害者でない者が反証の手段を失って訴訟上加害者とされる事態を招くなどの問題は,被侵害利益や侵害態様・程度のいかんにかかわらず生じ得るからである。そうすると,原告らの主張するとおり,本件にお ける被侵害利益が基本的人権であり,侵害の程度が不可逆的である上,責任制限の範囲が全部免責であることを踏まえても,除斥期間の規定 じ得るからである。そうすると,原告らの主張するとおり,本件にお ける被侵害利益が基本的人権であり,侵害の程度が不可逆的である上,責任制限の範囲が全部免責であることを踏まえても,除斥期間の規定の目的の正当性並びに手段の合理性及び必要性を否定することはできないというべきである。 イ適用違憲 国家賠償法4条,民法724条後段が憲法17条に違反しないことは前 記アのとおりであり,除斥期間の規定がその目的及び趣旨に従って適用される限り,それによって原告らの損害賠償請求権の行使が制限されるとしても,同規定の適用上違憲になるということはない(最高裁平成9年8月29日第三小法廷判決・民集51巻7号2921頁参照)。本件において,原告らの損害賠償請求権について,除斥期間の規定がその目的及び趣旨に 従って適用されていることは,前記(3)に認定説示したところから明らかである。 したがって,本件に上記各規定を適用することが憲法に違反するということもできない。 (5) まとめ 以上,認定説示したとおり,除斥期間の効果を否定する原告らの主張はいずれも採用することができず,原告らの損害賠償請求権はいずれも除斥期間の経過によって消滅したものといわざるを得ない。 第4 結論以上のとおり,争点7について判断するまでもなく,原告らの請求は理由が ないから,これをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官林潤 裁判官村尾和泰 裁判官薦田淳平 別紙(省略) 裁判官 村尾和泰 裁判官 薦田淳平 別紙(省略)

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