平成14年11月21日判決言渡平成14年(ハ)第12347号立替金請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,29万5200円及びこれに対する平成14年5月14日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。 第2 請求原因の要旨原告は,被告と平成12年1月22日に締結した立替払契約に基づいて,加盟店A株式会社に立て替えて支払った活水器の代金及び手数料合計49万3902円(うち手数料13万6002円)の残額とこれに対する遅延損害金の支払いを求める。 第3 被告の主張の要旨二人の男が,「水の検査をさせてくれ,そのためのコップを貸してくれ。」と言い,そのコップの中に何か薬を入れたところ色が変わったので,「これでは体に良くない。」と言って勝手に活水器を取り付けた。その後,被告は,水の使用ができなくなって初めて騙されたことに気がつき,原告に対し詐欺により契約を取り消したので,残金の支払義務はない。 第4 理由 1 証人Bの証言,甲1号証,乙1,2号証及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 被告は,78歳の一人暮らしの女性で,その子供たちも遠方にいて日常生活上の相談を受けたり面倒をみてもらえる状況になかったところ,平成12年1月20日,二人の男が被告宅を訪ねてきた。二人の男は,部屋に入り込んで水質検査と称してコップを貸してくれと言ったので,被告が出したコップの中に何か薬を入れたところ水の色が変わったので,これでは体に良くないと言って勝手に活水器を取り付けた。被告は病気のため匂いも味も分からないから必要ないと断ったが,二人の男は帰ってしまった。 (2) 被告が住んでいる部屋は12棟360世帯あ ので,これでは体に良くないと言って勝手に活水器を取り付けた。被告は病気のため匂いも味も分からないから必要ないと断ったが,二人の男は帰ってしまった。 (2) 被告が住んでいる部屋は12棟360世帯ある都営住宅の一室であり,Bは,同都営住宅の自治会の役員をしていたところ,平成11年末ころから,水道局のバッチを付けた男が同都営住宅の各世帯を訪ねて,水質検査と称して活水器を売りつけようとしているという多数の通報を受けた。Bは,同都営住宅では東京都の委託を受けて週に一度受水槽の水質検査をして,その結果を毎月東京都に送っており,特に水質に異常はなかったので,不審に思っていたところ,水道局のバッチを付けた男がB宅へも訪ねてきた。そこで,Bは「ここでは週に一度受水槽の水質検査をしており,特に異常はないのに,何事か。」と一喝したところ,その男は慌てて逃げていった。そして,Bは,同都営住宅の600名のうち,70歳以上の者が約200名で,一人暮らしの者が約100名で特に女性が多いことから,自治会としても会報や掲示板にその旨を記載して注意を呼びかけるとともに,C署の交番にも届けてその取締りを依頼した。しかし,被告は,目が悪いのでそのことを知ることができず,平成12年2月から入退院を繰り返していた。その間,被告名義の預金口座に年金が振り込まれていたので,その中から自動振替で原告名義の預金口座に本件立替金の割賦金が支払われ,その額が19万8702円に達していた。被告は,活水器を使うと水が周りに飛び散るので湯沸かしの水を使っていたが,平成13年の暮れになって活水器が目詰まりして部屋一面水浸しになってしまった。そのときになって,被告は初めて騙されたことに気が付き,Bに頼んで電話で原告の担当者にその状況を説明し活水器を引き取ることを要求したが,原告の担当者は捨てて まりして部屋一面水浸しになってしまった。そのときになって,被告は初めて騙されたことに気が付き,Bに頼んで電話で原告の担当者にその状況を説明し活水器を引き取ることを要求したが,原告の担当者は捨ててくださいと言うのみであった。そして,被告はそのときになって本件立替金残金が30万円近くもあることを知った。 (3) 平成13年8月12日のD新聞(乙2)には,「水道水をこのまま飲むのは危険」。水質検査やアンケートを装って,こんな常とう句で消費者の不安感をあおり,高額な浄水器(活水器と同じなので,以下,活水器という。)を売りつける悪質な訪問販売がはびこっている。環境や健康について消費者が敏感となっているのを逆手に取った巧妙な手口であると指摘し注意を促している。そして,国民生活センターの調べによると,訪問販売で活水器についての全国の契約トラブルは平成12年,平成13年とも8000件を超えたとし,消費者に注意を呼びかけている。 原告は,信販会社であり,このような状況を十分承知していた(Bの証言によれば,B宅へ訪れた水道局員を装った男たちが,被告宅へ訪れた水道局員を装った男たちと同じであったことが認められる。)のに,加盟店A株式会社と加盟店契約を継続し,被告から活水器を引き取ることを要求されたにもかかわらず,本件立替金残金の支払いを求めるため,平成14年9月19日に当裁判所に対し支払督促の申立てをした。 2 上記認定事実によって判断すると,二人の男が被告宅を訪ねてきて水質検査をすると言われれば,被告が水道局員と信じてドアを開けて部屋に通しコップを貸すことはごく自然である。また,二人の男が被告が差し出したコップの中に何か薬を入れて水の色が変われば,必要がないと断ったものの不安な気持ちになることは自然であり,78歳の一人暮らしの女性が,二人の男に部屋に入り込 然である。また,二人の男が被告が差し出したコップの中に何か薬を入れて水の色が変われば,必要がないと断ったものの不安な気持ちになることは自然であり,78歳の一人暮らしの女性が,二人の男に部屋に入り込まれた状況では,活水器を取り外させて持ち帰らせることは極めて困難である。そして,被告は,2年近く経ってから,Bに頼んで原告の担当者に対して騙された旨を告げて活水器を返品することを告げたのであり,それは詐欺により契約を取り消す趣旨であると認めることができる。被告は2年近く割賦金を支払いその額が19万8702円に達しているが,被告が入退院を繰り返している間に,被告名義の預金口座に振り込まれていた年金の中から自動振替で原告名義の預金口座に支払われたものであり,被告は取り消すことができる意思表示を追認したわけではない。 ところで,被告が加盟店に対し詐欺を理由に本件活水器の売買契約を取り消した場合には,その事由を原告に主張することができる(割賦販売法30条の4)が,本件では,被告は原告に対して詐欺を理由に立替払契約を取り消したのである。しかし,原告の従業員が被告を騙したのではないから,詐欺を理由に立替払契約を取り消すことができるかどうかは問題であるが,加盟店が信販会社である原告の立替払契約締結の代行をしている(甲1)のであるから,売買契約と密接不可分な関係にある立替払契約が詐欺による瑕疵ある意思表示によって締結されたと解することができる。仮に,詐欺を理由に立替払契約を取り消すことができないとしても,上記1の(3)で認定したように,原告は,水質検査を装って消費者の不安感をあおり,高額な活水器を売りつける悪質な訪問販売がはびこっていることを知っていたのであるから,被告のような78歳の一人暮らしの女性に対しては本件立替金残金の支払請求を差し控えるべき信販 の不安感をあおり,高額な活水器を売りつける悪質な訪問販売がはびこっていることを知っていたのであるから,被告のような78歳の一人暮らしの女性に対しては本件立替金残金の支払請求を差し控えるべき信販会社としての社会的責任がある。すなわち,権利の行使は,原告個人の利益と社会全体の利益の調和において行われるべきで,社会的に許容される範囲・限度を超えることは権利の濫用である(民法1条3項)。 よって,原告の請求は理由がない。 東京簡易裁判所民事第2室裁判官横田康祐
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