【DRY-RUN】主 文 原判決を取消す。 大阪地方裁判所が右当事者間の昭和三一年(ヨ)第六一七号債権仮差押 申請事件につき同年三月二八日なした仮差押決定はこれを取消す。 被控訴人の
主文 原判決を取消す。 大阪地方裁判所が右当事者間の昭和三一年(ヨ)第六一七号債権仮差押申請事件につき同年三月二八日なした仮差押決定はこれを取消す。 被控訴人の本件仮差押申請を却下する。 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。 事実 控訴人は主文第一ないし第四項と同旨の判決並に右第二項に対する仮執行の宣言を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。 被控訴人の主張。 控訴人は昭和三〇年三月一五日訴外Aに宛て金額二〇万円、支払期日昭和三一年三月一二日、支払地振出地とも大阪市、支払場所株式会社福徳相互銀行B支店なる約束手形一通を振出し、被控訴人はAから右手形の裏書譲渡を受けて所持人となつたので、支払期日の翌日右手形を支払場所に呈示して支払を求めたが、その支払を拒絶せられた。よつて被控訴人は控訴人に対し右手形金請求の本訴を提起する準備中であるが、控訴人は目下多大の債務を負担して他所に転居しその所有の不動産も競売される状態にあるので、右手形債権の執行保全のため本件仮差押申請をするものである。 控訴人主張の抗弁事実に対し、控訴人がその主張のころAから金二五万円を借受け、右債務については控訴人主張の抵当権実行に基く競売事件において法定利息を含めて全額弁済したことは認めるが、本件手形は右債務の支払方法として振出されたものではなく、右債務とは無関係である。 控訴人の主張。 控訴人は被控訴人の主張事実中控訴人が被控訴人主張の本件約束手形一通を振出し、被控訴人が受取人のAから裏書譲渡を受けて現にその所持人であることは認め、左記抗弁を提出した。 1、 被控訴人は本件 控訴人は被控訴人の主張事実中控訴人が被控訴人主張の本件約束手形一通を振出し、被控訴人が受取人のAから裏書譲渡を受けて現にその所持人であることは認め、左記抗弁を提出した。 1、 被控訴人は本件手形の仮装の所持人である。 2、 右が理由がないとしても、本件手形は控訴人が昭和三〇年三月二六日ごろAから金二五万円(利息、諸雑費、手数料を差引き手取額二〇万円)を借受けた際右借入金の弁済方法としてAに振出交付したものであるところ、その後Aは右貸金担保のために設定された抵当権の実行として控訴人所有の不動産の競売を申立て大阪地方裁判所昭和三〇年(ケ)第三〇一号不動産競売事件において、昭和三一年三月一〇日競売完了し債権全額の満足を得たものであつて、被控訴人は右貸金債権の消滅後にその事実を知悉し控訴人を害することを知つて本件手形を取得したものであるから(控訴代理人は、この点に関する控訴人の主張は被控訴人において争わないものとして判断さるべきであると主張する)、控訴人には本件手形金の支払義務はない。 3、 仮に被控訴人が右貸金債権の消滅前に本件手形を取得したとしても、被控訴人は次の理由により当然に悪意取得者とみなさるべきである。 (イ) 被控訴会社の代表者とその前者たるAとは同一人であり、その営業上の実態について見ても両者が同一の店舗を使用し同種の営業を為し、同一人が同種取引に関し個人名義と法人名義とを適宜に使い分けているに過ぎない状態である。したがつて、悪意か善意かを判断するに当つては両者を一身同体と見るべきであつて、一般の場合における所持人とその前者との関係とは全く趣を異にするのである。 (ロ) 本件手形は、消費貸借上の債務の弁済方法として振出されたと云うよりも、むしろ消費貸借契約公正証書の従として支払確保の意味で振出されたものである。あた の関係とは全く趣を異にするのである。 (ロ) 本件手形は、消費貸借上の債務の弁済方法として振出されたと云うよりも、むしろ消費貸借契約公正証書の従として支払確保の意味で振出されたものである。あたかも従物の主物に対する如く、また担保物権の被担保債権に対する如く、本件手形は全然独立の存在を有せず、専ら消費貸借上の債務の発生、変更、消滅と運命を共にするのである。この点において、原因関係と離れて流通に置かれることを当事者が予見している一般の手形とその性格を異にする。手形振出に当り金額と振出人の表示以外の要件が全く記入されていなかつた事実がこれを端的に示している。 (ハ) 本件手形の原因たる消費貸借については公正証書が作成され充分な担保価値を有する抵当権が設定せられ、債務者は先づ公正証書の約定に従つて履行すべく、その履行を怠つたときは債権者は公正証書正本に基く強制執行または抵当権の実行によつて債権の満足を図るべきことが予定せられ、かかる通常の経過を以て推移するならば、本件手形はその効用を発揮するまでもなく消滅するであろうことが確実に予想されたのである。若し本件手形が正常に行使される機会があるとすれば、消費貸借関係が右のような通常の推移を辿らない稀有の場合に限られていたのであるから、被控訴人が自らの悪意取得を否認せんとするならば、その取得の時期においてかかる稀有の事情が発生していたか、または少くとも発生の危険が予想されていたことを被控訴人の側において主張立証すべき責任があるものと考える。 (ニ) とにかく被控訴人は、本件手形とその原因との前述の関係及びその後の消費貸借上の債務の消滅に至るすべての経過と結果とを終始一貫して知つていたのであるから、手形取得の時期如何に拘らず被控訴人が債務者を害することを知り(むしろ害することを目的として)若しくは その後の消費貸借上の債務の消滅に至るすべての経過と結果とを終始一貫して知つていたのであるから、手形取得の時期如何に拘らず被控訴人が債務者を害することを知り(むしろ害することを目的として)若しくは確実に予見して取得したものであること、疑の余地がない。 疎明関係被控訴人は甲第一号証を提出し、乙第一号証は不知と述べ、控訴人は乙第一号証を提出しその作成者は訴外Aであると述べ、原審証人Cの証言を援用し甲第一号証の成立を認めた。 理由 控訴人が訴外Aに宛て被控訴人主張の本件約束手形一通を振出し、被控訴人がAから裏書譲渡を受けて本件手形の所持人となつていることは、当事者間に争のないところであり、又被控訴人が支払期日の翌日である昭和三一年三月一三日本件手形を支払場所に呈示して支払を求めたけれどもその支払を拒絶せられたことは控訴人の明かに争わないところである。一方、被控訴人が控訴人主張の如く(後に触れる)昭和三一年三月一〇日以後にはじめて本件手形を取得したことを認める証拠はないから、これらの点から推して被控訴人は少くとも右呈示前に本件手形を取得したものと認めるの外はない。 そこで控訴人主張の抗弁を順次検討するに、控訴人主張の1の抗弁事実についてはこれを認める証拠はなく、同2及び3の悪意の抗弁事実については、控訴人が昭和三〇年三月二六日ごろAから金二五万円を借受けその担保として控訴人所有の不動産に抵当権を設定していたこと及びAが右抵当権の実行として大阪地方裁判所に右不動産の競売を申立て同庁昭和三〇年(ケ)第三〇一号不動産競売事件においてすでに右貸金二五万円及びこれに対する法定利息の弁済を受けたことは、被控訴人の自認するところであり、成立に争のない甲第一号証と原審証人Cの証言によれば、本件手形は右貸金元金の内金二〇万円の においてすでに右貸金二五万円及びこれに対する法定利息の弁済を受けたことは、被控訴人の自認するところであり、成立に争のない甲第一号証と原審証人Cの証言によれば、本件手形は右貸金元金の内金二〇万円の支払確保のために振出されたものであることが認められ、被控訴人の側でこれを覆す証拠はない。 控訴人は右貸金債務が昭和三一年三月一〇日消滅した後被控訴人はその事実を知りながら本件手形を取得したものであると抗弁するけれども、被控訴人が右貸金債務消滅後に本件手形を取得したとの点についてこれを疎明する資料がないから右抗弁は理由がない。控訴代理人はこの点に関する控訴人の抗弁事実を被控訴人が争わないものとして判断さるべきであると主張するのであるが、被控訴人は、右貸金が前記のとおり抵当権実行の結果弁済ずみであることだけを自認するに止まり、本件手形は右貸金と無関係であると主張して控訴人主張の悪意の抗弁を否認することが明かであるから、本件手形の原因関係としての右貸金が昭和三一年三月一〇日弁済せられたとの控訴人の主張を争わない趣旨と解すべきではないし、本件手形取得時期についても、被控訴人は前記認定のとおり漠然と呈示前なることを主張し必ずしも昭和三一年三月一〇日以後に限定して主張するものでないことは、その主張自体に徴し明かであるから、控訴代理人の右見解は採用するに由ない。 控訴人は被控訴人が右貸金債務の消滅前に本件手形を取得したとしても、悪意の抗弁を以て被控訴人に対抗しうる、と主張するので考えてみるのに、Aが前記二五万円の貸借当時から本件の仮差押命令申請に至る間引続き被控訴会社の代表取締役であつたことは、被控訴人の明かに争わないところであつて、前記認定事実並に本件事案の経過にこの点を徴すると、Aは一方個人の立場では、控訴人に対する前記貸金二五万円につき、これを担保 会社の代表取締役であつたことは、被控訴人の明かに争わないところであつて、前記認定事実並に本件事案の経過にこの点を徴すると、Aは一方個人の立場では、控訴人に対する前記貸金二五万円につき、これを担保するために設定された抵当権の実行としてすでに昭和三〇年中に控訴人所有の不動産に競売を申立て前記競売事件において競売手続をすすめる半面、右貸金の支払確保のために差入れられた本件手形を昭和三一年三月一三日前に被控訴会社に裏書譲渡し、他方被控訴会社の代表取締役としての立場では、同年三月二七日本件手形債権に基いて執行保全のため前記競売事件における競落代金残金につき控訴人が大阪地方裁判所歳入歳出外現金出納官吏から返還を受くべき債権を対象として本件仮差押命令を申請し同月二八日仮差押決定を得たものであつて、A個人が右競売事件において右貸金の元金及びこれに対する法定利息を全額弁済を受けた現在もなお被控訴会社として右仮差押命令の申請を維持するものである。更に前記の証人Cの証言並に甲第一号証に同証言により成立の認められる乙第一号証、本件記録に綴られたAの資格証明書を合せ考えると、被控訴会社はAの主宰経営するいわゆる個人会社であつて、前記個人貸借に際して控訴人の代理人Cの要求に対しAが渡した精算書(乙第一号証)に「当社手数料一二、五〇〇円」と記載している点からも窺われるようにA個人と被控訴会社とは経済的利益を共通にしていたこと、前記貸金には利息月五分の約定が存し貸借の行われた昭和三〇年三月分の利息として金一二、五〇〇円が天引されていること、右貸借については当時公正証書が作成されたこと並に本件手形は当初支払期日を白地として振出されその補充権がAに与えられその後同人が個人又は被控訴会社の代表取締役として右白地を補充したものであることが認められ、前記認定事実に徴すれば右 成されたこと並に本件手形は当初支払期日を白地として振出されその補充権がAに与えられその後同人が個人又は被控訴会社の代表取締役として右白地を補充したものであることが認められ、前記認定事実に徴すれば右白地は前記競売事件の進展とにらみ合せ競落人から競落代金が納入さるべき段階に至つて補充されたことが推認される。 以上認定の事実関係に徴すれば、被控訴会社は本件手形とその原因たる貸金債権との関係、右貸金担保のために設定された抵当権の実行として前記競売手続がすすめられ同手続において右貸金が弁済に因り消滅に至るすべのて経過を終始了知していたことは勿論、寧ろ被控訴会社とA個人とは控訴人に対する関係で意思及び経済的利益を共通にして行動していたとみるのが自然であり、被控訴人が本件手形を取得した時期の如何に拘らず、従つてその取得時期が前記競売申立の前であると後であるとを問わず、Aは本件手形を被控訴会社に裏書譲渡する当時からすでに先づ自己に留保せる貸金債権につき抵当権を実行してその優先的回収を期し然る後被控訴会社をして別個に本件手形債権を行使させる意思を有し、被控訴会社は本件手形が右A個人の貸金の支払確保のために振出されたことを了知しながらその取得当時Aと右意思を共通にしていたとみられるのである。 ところで貸金につき債権者が担保として債務者所有の不動産に抵当権の設定を受け、その貸借につき公正証書を作成するほか、その支払確保のために債務者振出の約束手形の交付を受けている場合に、債権者が貸金回収の方法として抵当権の実行、公正証書に基く強制執行及び手形の利用行使のうちいずれを先に選択行使するかは特別の事情のない限り債権者の任意に属するところであり、従つて手形について裏書禁止の特約の存しない限り、債権者は先づ手形を第三者に裏書譲渡して割引その他の用途に供し貸金の回 れを先に選択行使するかは特別の事情のない限り債権者の任意に属するところであり、従つて手形について裏書禁止の特約の存しない限り、債権者は先づ手形を第三者に裏書譲渡して割引その他の用途に供し貸金の回収をはかることも許され<要旨>るところである。この場合第三者が手形取得当時その原因関係たる貸金並にこれを担保するための抵当権設定</要旨>の事実を知つていても、それだけでは第三者が債務者を害することを知つて手形を取得したものとはいえないが、第三者において手形取得当時債権者が現に抵当権を実行して競売申立中であることを知るか又は債権者をして抵当権を先行使させる諒解の存する場合には、第三者としては、手形取得当時においてこそ抵当権の実行に因る貸金債務弁済の事実がないとしても、将来第三者自身が手形債権を行使するときには債権者の抵当権実行に因つて貸金債権が消滅若くは減少するに至るであろうことを手形取得当時からすでに充分に予知しているのであるから、かかる第三者は抵当権実行に因る債務消滅の限度において債務者を害することを知つて手形を取得したものといわなければならない。 さて本件においては前示認定のとおりAは個人として先づ抵当権を先行使して自己の貸金債権の優先的回収を期し然る後被控訴会社をした本件手形債権を行使させる意思の下に被控訴会社に本件手形を裏書譲渡し、被控訴会社はこれと共通の意思を以て本件手形を取得したものであるから、上叙の理由により被控訴会社はA個人の抵当権実行に因る債務消滅の範囲で控訴人を害することを知りながら本件手形を取得したものということができるのであつて、すでに本件手形の原因たる貸金が抵当権実行の結果A個人に全額弁済せられて消滅に帰した以上、控訴人はAへの右弁済の事実を被控訴会社に対抗できるといわなければならない。 従つて、被控訴人の本件手 つて、すでに本件手形の原因たる貸金が抵当権実行の結果A個人に全額弁済せられて消滅に帰した以上、控訴人はAへの右弁済の事実を被控訴会社に対抗できるといわなければならない。 従つて、被控訴人の本件手形債権はAに対する貸金弁済を対抗せられてすでに消滅したものといわなければならないから、被控訴人の本件仮差押申請は被保全権利を欠くものとして却下すべきである。よつて、右申請を許容した原審の仮差押決定並に同決定を認可した原判決はいずれも不当であつて本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条第八九条第一九六条を適用して主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官神戸敬太郎裁判官木下忠良裁判官鈴木敏夫)
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