平成19(わ)137 殺人,死体遺棄被告事件

裁判年月日・裁判所
平成19年12月21日 札幌地方裁判所
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判決文本文11,636 文字)

主文 被告人を懲役11年に処する。 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1北海道恵庭市a町b丁目c番地のd所在のマンション「e」f号室被告人方において,かねてから交際していたA(当時55歳)を殺害することを決意し,平成19年1月18日午前4時ころ,同人の頸部をヘアーアイロンのコードで絞め付け,よって,そのころ,同所において,同人を窒息により死亡させて殺害した。 第2同日午後6時過ぎころ,上記被告人方から,上記Aの死体を引きずって同マンション共同出入口前駐車場内まで運んだ上,同日午後6時52分ころ,上記死体を同所に放置したまま,同所から立ち去り,もって死体を遺棄した。 (証拠)省略(争点に対する判断)第1本件の争点本件の争点は,①判示第1の事実につき,被告人がA(以下「被害者」という。)を殺害した際,被害者が被告人に殺害されることに同意していたか(以下,被害者の殺害されることに対する同意を,「被害者の同意」とも表記する。),②判示各事実につき,被告人が,各犯行当時,完全責任能力を有していたかである。 被告人は,争点①につき,被害者は被告人に殺害されることに同意していたと供述し,弁護人も,被告人の供述に基づき,本件は被告人と被害者がいわゆる心中をしようとした事案であり,被害者は被告人に殺害されることに同意し ていたのであるから,被告人には同意殺人罪が成立するに止まると主張する。 また,争点②について,弁護人は,被告人は各犯行当時,ストレス性摂食障害に罹患していた上に,強いストレスを受けたことから,一時的に是非善悪に従って行動を制御する能力が著しく減退していたと主張する。 そこで,上記各争点につき,裁判所の判断を示す。 第2裁判所の判断 争点①について(1)前提となる事実関係 とから,一時的に是非善悪に従って行動を制御する能力が著しく減退していたと主張する。 そこで,上記各争点につき,裁判所の判断を示す。 第2裁判所の判断 争点①について(1)前提となる事実関係関係各証拠によれば,以下の事実が認められる(以下,年の記載を省略した場合は,平成19年を指す。)ア被害者は,昭和48年に婚姻し,本件当時,自宅マンションにおいて,家族と同居していた。 被害者は,勤務先会社のg営業所の所長として勤務していたが,1月15日付けで同社福島県h営業所所長への異動を命ぜられ,福島県に単身赴任する予定であったところ,同月22日には,福島県に行って住居を探し,2月には同営業所での勤務を開始する予定であった。 イ被告人は,平成元年,当時働いていたスナックに客として訪れた被害者と知り合いになり,同年秋ころ,被害者から交際を申し込まれて交際するようになった。 被告人は,被害者と会う時間を確保するために,職や住居を変えるなどして,被害者との交際を続けていた。 ウ被告人は,1月13日ころ,被告人方に泊まりに来ていた被害者の携帯電話に,被害者行きつけのスナックの店員であるBから,被害者とBが交際していることをうかがわせる内容のメールが送られてきたことから,被害者がBと浮気をしているのではないかと考えて憤激した。被告人は,被害者を問い詰めたところ,被害者がBと別れると言ったため,翌日,被害 者をして,Bに対しその旨のメールを送らせた上,被害者がBと逢う約束をしていた同月17日には,被告人方に泊まりに来ることを被害者に承諾させた。 エ被告人は,同月17日,被害者と銭湯に出かけたり,夕食を食べるなどして過ごしていたが,その後,被害者に対し,Bと別れて欲しい,今後福島県に行っても,他の女性と浮気はしないで欲しい旨切り出したところ, 告人は,同月17日,被害者と銭湯に出かけたり,夕食を食べるなどして過ごしていたが,その後,被害者に対し,Bと別れて欲しい,今後福島県に行っても,他の女性と浮気はしないで欲しい旨切り出したところ,被害者が了承したため,一旦は安心した。ところが,被害者が寝入った後の翌18日未明ころ,被害者の携帯電話にBから被害者と今後も関係を続けていくかのようなメールが送られてきたため憤激し,被害者を起こして問い詰めた。 その後,被告人は,被害者が被告人の渡した睡眠薬及び血糖値を下げる薬(以下「睡眠薬等」という。)を飲み,眠り込んだことを確認した後,同月18日午前4時ころ,ヘアーアイロンのコードで被害者の頸部を複数回絞め付け,被害者を窒息により死亡させた。 オ被告人は,被害者を窒息させた後,台所に置いてあった包丁で,被害者を切り付けるなどした。 カ被告人は,被害者を殺害した後,自分も自殺を企て,包丁等で首や胸腹部を刺したり睡眠薬等を大量に服用するなどしたが,眠り込んだだけでその目的を果たせなかった。そこで,被害者の死体の傷口部分にビニールテープを貼り,これにジャージを着せて,被告人方玄関から運び出し,マンションの階段を下りて自分の車まで運ぼうとしていたところ,通行人の男性に目撃され,同日午後6時35分ころ,同男性の通報を受けて臨場した警察官に職務質問された。被告人は,職務質問を受けるや,一旦自室に戻り,荷物を持ち出し,被害者の死体をマンション共同玄関出入口前に放置したまま,自分の車に乗って逃走し,その後,北海道勇払郡i町内の路上で単独事故を起こし,警察官に逮捕された。 (2)関係各証拠によれば,被害者の同意が存在しなかったことを推認させる事情として,以下の事実が認められる。 ア犯行前の被害者の生活状況(ア)被害者の妻である証人Cの証言(その 逮捕された。 (2)関係各証拠によれば,被害者の同意が存在しなかったことを推認させる事情として,以下の事実が認められる。 ア犯行前の被害者の生活状況(ア)被害者の妻である証人Cの証言(その証言内容は,被害者の発言を聞いた者でなければ言えないような具体性があり,被害者の勤務先従業員の供述とも符合していて信用できる)及び被害者の勤務先従業員の供述によれば,被害者の家庭生活は円満であり,勤務先会社の福島県h営業所に所長として栄転することが決まっていた上,被害者は,Cに対し,今後3年ごとに転勤をして3か所で所長を務めれば定年で退職できる,その後は年金で生活できるから安心である,h営業所に転勤しても月に1回は旅費が出るので北海道に帰ってくるなどと話していたことが認められ,被害者の家庭生活や勤務先での稼働状況には何ら問題はなく,妻であるCとの間で,短期的・中長期的な将来の生活設計について具体的に話し合っていたことが認められる。 (イ)また,被害者の携帯電話のメール履歴及びBの証言によれば,被害者はBに好意を寄せていたところ,Bの意図はさておき,少なくとも被害者から見た同人とBの関係は良好であり,被害者は1月15日には,キャンセルしてしまった同月17日のデートの埋め合わせをするため,Bに翌週のスケジュールを尋ねるメールを送っていたことが認められる。 (ウ)さらに,被告人は,公判廷において,被害者は「死ぬとかそういうことを言う人ではなかった。」,「私が,一緒に心中してとか,死んでとか言っても,うんと言うはずないなと思った。」と供述しており,被告人の目から見ても,被害者が,本件以前に,殺害されることに同意するような事情はなかったことが認められる。 (エ)このように,被害者は,家庭生活や仕事に問題を抱えていたことはなく,順調な生活を送りな 人の目から見ても,被害者が,本件以前に,殺害されることに同意するような事情はなかったことが認められる。 (エ)このように,被害者は,家庭生活や仕事に問題を抱えていたことはなく,順調な生活を送りながら,今後の生活設計についても話し合ってお り,また,好意を寄せていた女性との関係も少なくとも被害者の目から見れば良好な関係を保っていた上に,被告人の目から見ても,被害者が殺害されることに同意するような素振りを見せたことはなかったのであって,そのような被害者が,殺害されるという生死に関わる極めて重大な事柄に真意から同意することは経験則上通常は考えられず,被告人が被害者を殺害した際,被害者が殺害されることに同意していなかったことが強く推認される。 イ被告人が犯行前に知人に送ったメールについて被告人は,犯行数時間前である1月17日午後6時44分ころ,知人に対し,被害者との関係について,「今日の話し合いで二人の身の置き方が決まるでしょう私が考えている結論はお酒に睡眠薬を混ぜて眠ったらまず彼を殺しますそして車に乗って人のいない樹海で私も死にます今まで生きてきた40年の中で本気でここまで決心したのは初めてです」という内容のメールを送っており,このメールの内容からすれば,被告人は,被害者の意思にかかわりなく,被害者を殺害することを決意していたことが強く推認され,ひいては,被告人が,被害者の同意を得ることなく,被害者を殺害したことが推認される。 これに対し,被告人は,公判廷において,「もともと一人で自殺するつもりであったが,1月17日になって,駄目でもともとで被害者に対し,心中して,一緒に死んでと言おうと思うようになっていた。」が,このメールを送信したときは,「被害者が自宅にやってくる時間が迫っており,この知人とのやりとりを被害者が来るまでに終わら で被害者に対し,心中して,一緒に死んでと言おうと思うようになっていた。」が,このメールを送信したときは,「被害者が自宅にやってくる時間が迫っており,この知人とのやりとりを被害者が来るまでに終わらせたいと考えていたため,駄目でもともととは思うけれど,被害者に一緒に死んでくれるよう言ってみようと思っているなどと書くとメールが長くなってしまうので,簡単に書いた。」などと,そのメールは,そのときの被告人の真意を正確に記載したものではない旨弁解する。しかし,被告人が知人に送った前記メ ールは,被害者を眠らせて殺害し,その後,被告人が樹海などで自殺するという内容であって,到底被告人と被害者が一緒に死ぬなどという内容ではない。そもそも,被告人の供述によれば,被害者が一緒に死ぬことに同意したというのに,なぜ被告人が先に被害者を殺害することになったかといえば,被害者から,「一緒に死ぬのはいいが,条件がある。お前が俺を殺せ。」などと言われたからというのである。もしも,被告人が弁解するとおり,被告人が,メールを送信した時点では,自分は自殺をするが,駄目で元々でもいいから被害者に一緒に死んでくれるよう頼んでみようということを考えていたというのであれば,前記のような内容のメールを送信するはずがない。メールには真意を正確に記載しなかった旨の被告人の弁解は到底信用することができず,前記推認を妨げるものではない。 ウ被告人の犯行後の言動被告人の知人である証人Dの証言によれば,Dは,1月18日午後7時ころ,死体を遺棄して逃走中の被告人と携帯電話で会話をしたことが認められる。また,その会話の内容について,被告人は,Dに対し,「睡眠薬等を飲んで寝ている状態の被害者の首を絞めて殺した。1回では駄目で,何回か首を絞めた。殺した理由は,被害者にほかに女の人がいたからで られる。また,その会話の内容について,被告人は,Dに対し,「睡眠薬等を飲んで寝ている状態の被害者の首を絞めて殺した。1回では駄目で,何回か首を絞めた。殺した理由は,被害者にほかに女の人がいたからである。被害者が生き返っては困るので包丁で刺した」などと説明したほか,「被害者は,自分に,『お前に殺されるかもしれないな。』又は『殺されると思った。』旨の発言をした。」ということも言っていたこと,他方で,被告人は,被害者が被告人に殺されてもいいという趣旨の発言をしたと受け取れるようなことは言っていなかったことが認められる。 被告人が,被害者の同意を受けて被害者を殺害したというのであれば,その同意がなされた状況は被害者を殺害する際の非常に特徴的な状況であって,その状況について話をするのが自然である上,被告人は,Dに対し,被害者が「お前に殺されるかもしれないな。」という発言をしていたこと は話していたのであるから,被害者の同意があった状況をDに話をする機会も十分にあったはずである。にもかかわらず,被告人がDに対し被害者の同意について話をしていないことは,被告人が被害者を殺害した際,被害者の同意が存在していなかったことを推認させるものである。 エ小括以上の事実関係を総合すると,被害者はその家庭生活や仕事において問題を抱えておらず,私生活も順調であり,何ら殺害されることに同意する理由はない上に,被告人の犯行前後の言動やメールのやり取りを見ても,被害者の同意の存在をうかがわせる行動をとっておらず,むしろ被害者の同意の有無にかかわらず被害者を殺害する決意をうかがわせるメールを送ったり,被害者の同意が存在したとすれば整合しない言動をとっているのであって,本件犯行当時,被害者が,被告人に殺害されることを同意していなかったことが優に認められる。 (3)弁 かがわせるメールを送ったり,被害者の同意が存在したとすれば整合しない言動をとっているのであって,本件犯行当時,被害者が,被告人に殺害されることを同意していなかったことが優に認められる。 (3)弁護人の主張これに対し,弁護人は,本件は被害者が計画的に殺害に同意した事案ではなく,突発的に殺害に同意した事案であるところ,被害者の従前の生活状況に問題がなかったことなどは,被害者の同意の不存在を推認させるものではないと主張する。 しかし,殺害されることに対する同意は,生死に関わる重大な事柄であるところ,被害者の従前の生活状況に全く問題がなく,殺害されることに同意することをうかがわせる事情がないことは,弁護人が主張するような突発的なものであれ,真意に基づいた同意をすることがあり得ないという意味において,やはり強い推認力を有する事実である。弁護人の主張は採用できない。 (4)被告人の公判供述の概要とこれに対する判断ア被告人の公判供述の概要また,被告人は,自分は被害者の同意を得て被害者を殺害したと供述し, その同意を得たとする状況について,公判廷において,以下のとおり供述する。 被害者が1月18日午前零時ころに眠った後,被害者の使用している携帯電話にBからメールが入って,被害者がBとまだ別れていなかったことが分かったことから,口論になった。被害者は,Bとも私とも別れられない優柔不断な自分の性格や,私に甘えてばかりいる自分の性格に嫌気がさしてきたと言ったので,被害者に,駄目で元々で,私のこと好きで,悪いと思ってくれているんだったら,私と一緒に死んで欲しいと言ったところ,被害者は,二つ返事で,いいよ,分かった,死んであげると言って死ぬことに同意してくれた。被害者は,俺はお前を殺せないから,お前が俺を殺せと指示し,また,もし未遂に終わって,一生身 いと言ったところ,被害者は,二つ返事で,いいよ,分かった,死んであげると言って死ぬことに同意してくれた。被害者は,俺はお前を殺せないから,お前が俺を殺せと指示し,また,もし未遂に終わって,一生身体障害者みたいになって暮らすのは嫌だから,確実に殺せと指示してきた。殺害の方法として,被害者に睡眠薬等を飲ませてから被害者の首を絞めて殺害し,車ごと支笏湖に飛び込もうと話をしたらそれでいいと言われた。被害者に睡眠薬等を持っていって,その薬効を説明すると,被害者はすごい勢いで私の手を無理矢理こじ開けて,引ったくるみたいにして薬を一気に飲んだ。その後被害者が眠ったので,被害者の首をヘアーアイロンのコードで絞めたところ,被害者はすごい勢いで飛び起きて,いきなり逆上して,「俺がお前を殺してやるから。」と言って私のこめかみ辺りを殴り,首を絞めてきた。その後,被害者は私の首を絞めるのを止めて,「こんなばか女殺して刑務所入るの冗談じゃない。やめた。」と言っていた。私は心中をやめるかどうか聞いたが,被害者から今更何を言っているんだと言われたので,被害者に2回目の睡眠薬等を持って行った。被害者にもう一度薬の効果を説明したが,被害者は1回目よりもすごい勢いで,私が横に吹っ飛ばされるような勢いで,私の手から薬を取って,コップも奪って,薬をいっぺんに飲んでしまった。その後,ヘアーアイロンのコードで被害者の首を絞めて殺害し た。 イ被告人の公判供述の評価確かに,関係証拠によれば,被害者の尿からは睡眠薬が検出されており,被告人が被害者に飲ませたという睡眠薬等の効能として,被告人が首を絞められても覚醒しない程度に昏睡状態に陥るには,かなりの量の錠剤を飲まなければならないとされていることが認められるところ,そのような量の睡眠薬等の錠剤を被害者の意思に反して飲ませる ,被告人が首を絞められても覚醒しない程度に昏睡状態に陥るには,かなりの量の錠剤を飲まなければならないとされていることが認められるところ,そのような量の睡眠薬等の錠剤を被害者の意思に反して飲ませることはかなり困難であると考えられることからすれば,被害者が,被告人の求めに応じ,自分の意思でそれらの睡眠薬等の錠剤を飲んだ可能性は否定できない。また,被害者が,その際,どのような発言をしていたかについては,被告人のほかにその発言を聞いた者がいない以上,あながち,被害者が,被告人の供述するような発言をしていた可能性も否定し去ることはできない。 しかしながら,他方で,被告人の公判供述によっても,被害者は,被告人から奪った睡眠薬等を飲んで一旦眠り込み,その後被告人から首を絞められた際には,飛び上がって逆上し,「俺がお前を殺してやるから。」などと言いながら,被告人の顔を殴打した上,被告人の首を絞め,その後,「こんなばか女を殺して刑務所入るのは冗談じゃない。」旨の発言もしていたというのであるから,その時点で,被害者が被告人に殺害されることを同意していたとか,被害者が被告人と心中しようと考えていたなどとは到底考えられない。 さらに,被告人の供述によれば,被害者は,1回目に睡眠薬等を飲み,被告人から首を絞められて逆上して飛び起きた後,2回目に睡眠薬等を飲む際に,「お前は絶対に俺を殺せない,お前は俺に惚れている,俺と一緒に居たいんだ。」という発言をしていたというのであって,この被害者の発言からすれば,被害者が自分の意思で睡眠薬等を飲んだとしても,被告人に殺害されることには同意していなかったことが明らかである。 そうすると,そもそも,被害者が最初に睡眠薬等を飲む前に「死んであげる。」「お前が俺を殺せ。」などと言っていたとか,2回目に睡眠薬等を飲む前に心 ことには同意していなかったことが明らかである。 そうすると,そもそも,被害者が最初に睡眠薬等を飲む前に「死んであげる。」「お前が俺を殺せ。」などと言っていたとか,2回目に睡眠薬等を飲む前に心中をやめるかという問いかけに「今更何を言っているんだ。」などといっていたという被告人の供述は,被告人の供述する1回目の睡眠薬等を飲んだ後,被告人に首を絞められたことに気づいたときの被害者の言動に照らしにわかに信用し難いものである上,仮に被告人が供述する状況を前提としても,被告人は,睡眠薬等を飲んではいても,被害者が被告人を殺すことはできないと見下していたことが明らかであって,被害者の真意に基づく同意はなかったと認められる。 (5)被害者の同意の錯誤についてさらに,被告人の供述にかんがみ,被告人が,被害者の同意があったと誤信していたかどうかについても検討する。 前記のとおり,被害者の同意がなかったことが証拠上明らかである上,被告人自身も,被害者との従前の関係から,被害者が殺害されることに同意してくれるとは思っていなかったと述べていること,本件犯行時においても,被告人は,1回目の睡眠薬等を飲んで眠っていた被害者の首を最初に絞めた際,被害者がすごい勢いで飛び起きて,いきなり逆上して,逆に被害者から首を絞められたこと等から,「被害者は死ぬのが嫌だったのかなと思った。」と明確に供述していること,被告人は,被害者が2回目に睡眠薬等を飲む前に,「お前は絶対に俺を殺せない,お前は俺に惚れている,俺と一緒に居たいんだ。」という発言をしているのを聞いていること,前記1(2)イのとおり,被告人が知人に送ったメールの内容から,被告人が被害者に対し憤懣の気持ちを有していたことは明らかであり,被害者の同意の有無にかかわらず,被害者を殺害することを考えていたと認められる 2)イのとおり,被告人が知人に送ったメールの内容から,被告人が被害者に対し憤懣の気持ちを有していたことは明らかであり,被害者の同意の有無にかかわらず,被害者を殺害することを考えていたと認められることに照らせば,被告人が,被害者の同意が存在していないと思いながら,あえて被害者を殺害したことが認められる。これに対する被告人の公判供述は,被害者を殺害 することを考えた時期について,当初1月17日の午前中か昼ぐらいといい,その直後,供述を訂正して,1月18日午前2時ころにBからメールが来て,被害者をたたき起こして口論になった段階になってからであると述べ,さらに,1月17日夕方の知人宛てのメールの存在を指摘されると,さらに供述を変遷させており,1回の公判期日中にすら何の合理的理由もなく著しく二転三転させていることなどにも照らすと,到底採用できない。 (6)結論以上のとおり,被害者の生活状況等からしても,被告人の供述を前提としても,被害者が被告人に殺害されることを同意していなかったことが優に認められ,被告人もそのことを認識していたことが認められる。 争点②について(1)前記認定のとおり,被告人は,被害者を絞殺する直前,被害者と交際相手とのことについて口論し,睡眠薬等を飲ませた上で絞殺するという合理的な殺害方法を選択し,被害者を窒息させた直後,その殺害を間違いなく完遂するために,被害者の死体を包丁で数回突き刺しているというのであって,被告人が,被害者を殺害した時点において,合理的かつ合目的的な行動をとっていたことが認められる。 さらに,前記認定事実に加え,警察官である証人Eの証言によれば,被告人は,1月18日午後6時35分ころ,被告人方マンション共同玄関出入口前路上において,被害者の死体を自分の車に入れようとしており,その様子を見たE 事実に加え,警察官である証人Eの証言によれば,被告人は,1月18日午後6時35分ころ,被告人方マンション共同玄関出入口前路上において,被害者の死体を自分の車に入れようとしており,その様子を見たEから事情を聞かれた際,Eとの間で意味の通じた会話を行い,さらに,被告人方居室に荷物を取りに戻った上で,Eが自動車の側を離れ,救急隊員の方へ向かった隙をついて自動車に乗り込み,その自動車を運転して現場から逃走した事実が認められ,被害者の死体を遺棄した時点においても,被告人が,現場の状況に応じた合理的かつ合目的的な行動をとっていることが認められる。 以上によれば,被告人が,本件各犯行当時,是非善悪に従って行動する能力を有していたことが優に認められる。 (2)これに対し,弁護人は,被告人が精神的に未熟であり,そのストレス処理能力は低劣であるため,本件各犯行当時,ストレス性摂食障害に罹患していたところ,被害者が交際相手と別れていたと思っていたのに,実は別れていなかったと認識したことにより,極めて強い精神的ストレスを受けた状態になり,その結果,一時的に自己の行動を制御する能力が著しく低い状態になっていたもので,心神耗弱状態にあったと主張する。しかし,前記のとおり,被告人の各犯行前後を通じた行動に照らして,被告人が是非善悪に従って行動する能力を有していたことは明らかであって,その主張は採用できない。 (法令の適用)罰条判示第1の所為刑法199条判示第2の所為刑法190条刑種の選択判示第1の罪有期懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条,47条ただし書(重い判示第1の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件 文,10条,47条ただし書(重い判示第1の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,被告人が,約18年間交際してきた被害者に対し,同人が睡眠薬等を飲んで昏睡状態に陥ったことを確認した上,ヘアーアイロンのコードで首を絞めて窒息させて殺害し,その死体を被告人方マンション共同玄関出入口前まで移動させ, 同所に放置したまま逃走して遺棄したという事案である。 被告人は,被害者のいわゆる不倫相手として,約18年間被害者と交際を続けていたところ,被害者が別の女性に好意を寄せていることを知って憤慨し,一旦は被害者がその女性と別れると言ったため怒りを収めたが,被害者がその女性と別れていなかったことを知るやさらに憤激したことなどから,睡眠薬等を飲んで昏睡状態に陥った被害者を殺害した(被告人は,被害者が憎くて殺した訳ではないと供述するが,被告人の犯行前後の言動等から,被害者に対し憤激の気持ちを有していたことは明らかである。)。被告人が,憤激の余りこのような凶行に及んだのは,生命の尊さを無視するものであり,厳しい非難を免れない。 被告人は,昏睡状態にある被害者の首を何度もヘアーアイロンのコードで絞めて殺害しただけでなく,その後も被害者を確実に殺害するために,その背部や胸部を,心臓に達するほどの力を込めて何度も包丁で突き刺しており,その犯行は,非常に強い殺意に基づくものである。被害者の遺体を放置したまま逃走した死体遺棄の態様も芳しくない。 被害者の生命を奪った犯行の結果は重大であり,今後の生活の全てを奪われた被害者の無念は察するに余りある。被害者の遺族は,突然の訃報を受けて,変わり果てた被害者の姿しか見ることができなかったものであって,その被った 奪った犯行の結果は重大であり,今後の生活の全てを奪われた被害者の無念は察するに余りある。被害者の遺族は,突然の訃報を受けて,変わり果てた被害者の姿しか見ることができなかったものであって,その被った衝撃や悲嘆は極めて大きい。被告人から,被害者の遺族に具体的な慰謝の措置は講じられておらず,被害者の遺族らの処罰感情も厳しい。 これらの諸事情からすれば,被告人の刑事責任は重大である。 他方,本件では,被告人は,妻子ある被害者から交際を申し込まれ,その後約18年間も被害者と交際を続け,その間,被害者の子供を二度も中絶することを余儀なくされながらも被害者のために尽くしてきたところ,被害者が,別の女性と密かに懇意になろうとしていたことに被告人が憤激したことが犯行のきっかけになっている。前記のような長きに渡る被告人と被害者の関係に照らせば,被告人と被害者との間がもともと不倫関係であったとはいっても,被告人が憤激したのも理解でき ないことではなく,被害者に殺されるまでの落ち度はなかったとはいえ,その不誠実な対応が犯行を誘発したという側面は否定できない。被告人は,被害者を殺害したことを悔いており,被害者の遺族に対しても謝罪の気持ちを表している。被告人に前科はない。被告人の母親は,被告人の更生を支えていきたいと述べている。このように,被告人のために酌むべき事情も存する。 そこで,これら一切の事情を総合的に考慮し,被告人には,主文の刑を科するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役15年)(検察官成瀬朝子,国選弁護人林賢一各出席)平成19年12月21日札幌地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官井上豊裁判官中川綾子裁判官田中昭行 成19年12月21日札幌地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官井上豊裁判官中川綾子裁判官田中昭行

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