- 1 -主文被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中110日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,所持金不足等により航空機の搭乗券を購入することができなかったことから,自車で航空機付近まで乗り付けて直接搭乗しようと考え,第1正当な事由がないのに,平成18年4月8日午前9時30分ころ,普通乗用自動車を運転し,a市b区A空港c番所在のA空港北側に3重に設置された同市所有に係る侵入防止用金属製フェンスに順次同車を衝突させて各フェンスを倒壊させ,同所から同市甲局A空港管理事務所長Bが看守する同空港エプロン内に侵入し,もって,他人の物を損壊(損害額約330万円)するとともに人の看守する建造物に侵入し第2そのころ,前記エプロンにおいて,同車を時速約60キロメートルないし80キロメートルで走行させながら,急転把,急制動及び急発進を繰り返しつつ,離陸準備のため同エプロン内で自力走行を開始したC株式会社のボーイング737-800型機(機長Dほか乗員5名,乗客181名)に向けて同車を突進させ,同機機首左前方約28.4メートルの地点を通過し,さらに,離陸準備のため乗客を搭乗させ4番スポットに停止中のE株式会社のボーイング767-300型機(機長Fほか乗員7名,乗客184名)の尾翼下を走り抜け,同車との衝突による前記各航空機の転覆,破壊又は爆発炎上等の事故発生のおそれのある状態を作り出し,もって,航空の危険を生じさせたものであるが,本件各犯行当時,双極性感情障害の躁状態のため心神耗弱の状態にあったものである。 (補足説明) 弁護人は,被告人は本件各犯行当時心神喪失または心神耗弱の状態にあった旨- 2 -主張するが,当裁判所は,被告人が本件各犯行当時心神耗弱の状態にあったと認定したので,以下その理由につき補足して説明 弁護人は,被告人は本件各犯行当時心神喪失または心神耗弱の状態にあった旨- 2 -主張するが,当裁判所は,被告人が本件各犯行当時心神耗弱の状態にあったと認定したので,以下その理由につき補足して説明する。 関係各証拠によれば,被告人は,平成15年6月から同年7月にかけて精神科病院に入院し,その後同年10月ころまで精神科病院へ通院したが,平成18年1月末ころから再び,怒りっぽい,多弁,夜間に頻回に外出するといったことが目立つようになり,同年2月ころから通院による抗躁薬,抗精神病薬による治療を受けた後,本件直前の同年3月6日から同月31日まで,多弁,気分の高揚,情緒不安定等の症状により入院していたことなどが認められる。また,被告人が本件により勾留中に被告人を診断した医師は,①前記入通院歴や症状等からして,本件犯行時,被告人は双極性感情障害(躁うつ病)であったと考えられること,②被告人は,本件犯行当時,躁状態の消退期にあったが,基底の情緒不安定性は持続しており,ささいなストレス因,状況因によって容易に抑制がきかず衝動行為に至る状態にあったことから,本件各犯行に至ったと考えられるとした上で,被告人の本件各犯行時の精神状態は,事理弁識能力及びその弁識能力に従って行動する能力が著しく減退していた旨診断している。これらの事実に加え,被告人は退院後の同年4月6日,夫婦間の悩みを突然警察に相談に訪れるなどの突飛な行動をとったり,本件各犯行の前日に突然沖縄へ行くことを思い立ち,当日空港の搭乗カウンターで航空券を買おうとしたが所持金が足りず,身体障害者割引も受けることができなかったのに,現金2万円と運転免許証,船舶免許を係員に渡し,これにより航空機に搭乗できるものと考えて,自ら自動車を運転して空港の侵入防止用フェンスを突破し,航空機に乗り付けて搭乗するた ることができなかったのに,現金2万円と運転免許証,船舶免許を係員に渡し,これにより航空機に搭乗できるものと考えて,自ら自動車を運転して空港の侵入防止用フェンスを突破し,航空機に乗り付けて搭乗するために本件各犯行に及んだという一連の経緯や犯行態様等からすると,本件各犯行当時,被告人の責任能力にはかなり深刻な問題があったものと認められる。 他方,被告人は,退院後本件各犯行に至るまで特段の支障なく日常生活を送っていたこと,本件犯行の前後を通じて,意識は清明であり,時系列に沿った記憶をおおむね保持しており,捜査公判を通じてその記憶に従った具体的な供述をし- 3 -ていること,本件各犯行に至る経緯において,被告人は,沖縄行きの航空機の時刻を調べ,その時刻に合わせて自ら高速道路を使用して空港に行き,搭乗カウンターで所持金が不足していたことから,障害者割引を受けて航空券を購入しようと考えたものの,係員から障害者手帳が必要であると言われたため,妻に連絡をとろうとして電話をかけていること,本件各犯行においても空港の車両が自らの自動車に向かって走ってくるのを見て「大変なことをしてしまった。」と感じ,自分で車を止めて車外に出て,抵抗するつもりがないことを示すために手を挙げるなどの,その場の状況に即した合目的的な行動をとっていることなどが認められる。 これらの事情を総合考慮すれば,被告人は,本件各犯行当時,双極性感情障害の躁状態のため,是非を弁別し,それに従って行動する能力が著しく減退した状態にあったと認められる。 (量刑の理由)被告人は,所持金が足りず正規の手続で航空機に搭乗することができなかったことから,自車で航空機付近まで乗り付けて直接搭乗しようという短絡的で非常識な考えから本件犯行に及んでいること,また,本件直前に躁状態の治療のため入院し 規の手続で航空機に搭乗することができなかったことから,自車で航空機付近まで乗り付けて直接搭乗しようという短絡的で非常識な考えから本件犯行に及んでいること,また,本件直前に躁状態の治療のため入院していた病院から退院する際,医師から車の運転等を禁じられたにもかかわらず,それに従わなかった結果本件各犯行に至っていることからすれば,本件各犯行に至る経緯や動機に酌量の余地はないというべきである。 被告人は,既に離陸準備に入った航空機の付近や,スポットに駐機中の航空機の尾翼の下を,自車を運転して高速度で駆け抜け,スピンさせるなどしているが,いずれの航空機にも多数の乗客らが搭乗していたものであり,一歩間違えば航空機に衝突するなどして多数の人命に関わる重大な結果が生じた可能性も否定できないのであって,その犯行態様はかなり危険で悪質である上,被告人の犯行により,実際に数機が離陸を遅らせるなどの被害も出ており,空港の利用者や関係者に与えた影響も軽視できない。 - 4 -また,被告人は,平成15年に大麻取締法違反の罪により執行猶予付懲役刑に処せられながらその猶予期間中に本件各犯行に及んだものであって,その規範意識は相当鈍麻しているといわざるを得ない。 以上によれば,被告人の刑事責任は相当に重い。 他方,被告人は航空機との衝突等の事故を起こすことを意図していたものではなく,実際にも航空管制官,機長ら関係者の迅速な対応もあって衝突事故等の重大な結果は回避され,負傷者等も出なかったこと,心神耗弱下での犯行であること,判示第1の器物損壊罪の財産的被害については,a市との間で賠償金として323万4000円を支払うことで示談が成立し,被告人はすでに100万円を支払い,残金は今後分割で支払われることになっていること,捜査公判を通じて自己の行為を反省し謝罪の意を示している 賠償金として323万4000円を支払うことで示談が成立し,被告人はすでに100万円を支払い,残金は今後分割で支払われることになっていること,捜査公判を通じて自己の行為を反省し謝罪の意を示していること,母親が被告人の今後の生活を監督する旨述べていること,適切な医療措置を受けさせる必要があること,前刑の執行猶予が取り消され,併せて服役する可能性もあることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。 よって,これら諸般の事情を総合考慮し,主文の刑に処することとする。 (求刑懲役5年)平成18年9月8日神戸地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官佐野哲生裁判官岩崎邦生裁判官市原志都
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