平成13(う)52 覚せい剤取締法違反,関税法違反被告

裁判年月日・裁判所
平成13年10月11日 広島高等裁判所
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判決文本文3,245 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中170日を原判決の懲役刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人本田兆司作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるから,これを引用する。 論旨は,要するに,被告人を懲役18年及び罰金500万円の刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というのである。 そこで,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を加えて検討する。 本件は,被告人が,外数名の者と共謀の上,営利の目的で,輸入禁制品である覚せい剤を本邦に輸入しようと企て,平成12年2月初旬ころ,本邦領海外の海上において受領した覚せい剤約249キログラムを,船舶に積載して本邦まで運搬し,そのうちの約5.9キログラムを陸揚げして輸入した上,引き続き,残りの覚せい剤も陸揚げしようとしたが,警察官等に発見,検挙されたため,その目的を遂げなかった,という覚せい剤取締法違反及び関税法違反の事案である。被告人らは,利欲的な動機に基づき,極めて多量の覚せい剤を密輸入しようとしたのであり,覚せい剤の公衆衛生上の害悪等を併せ考慮すると,本件は,反社会性の高い悪質な犯行である。そして,被告人は,実行犯の中で主導的な役割を果たしている。ところで,弁護人は,原判決の「量刑の理由」の項の説示について種々論難しているが,上記「量刑の理由」の項の説示(被告人に関する部分に限る。)は,当裁判所も相当なものとして是認することができる。以下,ふえんする。 所論は,原判決が「(本件犯行は,)大がかりで組織的,計画的な犯行ということができる」と説示していることについて,「被告人は,平成11年9月から同年12月までの間,A会社のB社長らの指示により,三度犯行を試みたが,いずれも相手方との接触に で組織的,計画的な犯行ということができる」と説示していることについて,「被告人は,平成11年9月から同年12月までの間,A会社のB社長らの指示により,三度犯行を試みたが,いずれも相手方との接触に失敗し,本件においては,予め指示された日時の前に指定場所に至ったが,10時間も待機したにもかかわらず,相手方との接触ができず,一旦は犯行を断念して日本に引き返したが,上記B社長らに執拗に引き返すように求められ,かつ,C丸を操縦する共犯者らの報酬欲しさの『戻りましょう。』との犯行の続行を促す意見に従って,逡巡の上,漸く犯行を決意したものであり,その結果,不運にも相手方と接触し,本件犯行に及んだものであることからすると,本件犯行は,極めて杜撰で,場当たり的な犯行であるといえても,大がかりで計画的な犯行といえるものではない。」と主張する。 しかしながら,原判決が説示しているとおり,被告人は,覚せい剤密輸入の話を持ちかけた関係者と頻繁に連絡を取り合い,自ら北朝鮮に渡航するなどして打ち合わせを重ねていること,密輸入に供するための漁船を仕立てていること,VHF(超短波)無線設備やイリジウム携帯電話等の通信手段を準備していること,陸上で待機する出迎え役の者を用意していることなどからすると,本件犯行は計画的になされたものと認められ,所論指摘の事実があったからといって,本件犯行が,杜撰で場当たり的であるとか,計画的なものではないとはいえない。所論は理由がない。 所論は,原判決が「被告人には,覚せい剤取締法違反罪の累犯前科を含む多数の前科があり,その中には,営利目的の覚せい剤事犯の前科も複数含まれていることなどに照らすと,その規範意識,特に,覚せい剤事犯に対する罪障感は,相当に鈍麻していることが窺われる。」と説示していることについて,「犯罪行為に対する非難可 覚せい剤事犯の前科も複数含まれていることなどに照らすと,その規範意識,特に,覚せい剤事犯に対する罪障感は,相当に鈍麻していることが窺われる。」と説示していることについて,「犯罪行為に対する非難可能性の大きさを過去に処罰された事実に関係づけることは,刑法の基本原則である行為責任主義に反することである。なぜなら,前科者においては事後の遵法精神に基づく生活の困難さは公知の事実である。したがって,これらの事情を一切考慮することなく,形式的に累犯として加重要素とすることには疑念が提起されている。」旨主張する。 しかしながら,刑の量定においては,特別予防に関しても考慮すべきところ,原判決は,「被告人には,覚せい剤取締法違反罪の累犯前科を含む多数の前科があり,その中には,営利目的の覚せい剤事犯の前科も複数含まれていること」を根拠の一つとして,「被告人の規範意識,特に,覚せい剤事犯に対する罪障感は,相当に鈍麻していることが窺われる」ことを認定しているのであるから,原判決の上記説示は相当であり,また,原判決は,法律の定めるところにより累犯加重した刑期の範囲内で,適切妥当な量刑を検討していることが明らかである。所論は理由がない。 所論は,原判決が「被告人らが本邦に輸入し,あるいは輸入しようとした覚せい剤は,合計約250キログラムもの極めて多量であり,これが密売され,社会に流通,拡散した場合には,多数の覚せい剤乱用者を生み出し,これに起因する凶悪犯罪を発生させるとともに,覚せい剤を取り扱う暴力団関係者らにも巨額の不法な利益をもたらし,これら組織の不法な活動資金になるなど,その害悪の深刻さには計り知れないものがあったことを考慮すると,本件の反社会性は著しく,被告人らの刑責には重大なものがある」と説示していることについて,「本件犯行は営利目的の覚せい剤の になるなど,その害悪の深刻さには計り知れないものがあったことを考慮すると,本件の反社会性は著しく,被告人らの刑責には重大なものがある」と説示していることについて,「本件犯行は営利目的の覚せい剤の輸入罪であるところ,幸いにして,これが暴力団の手に渡り,社会に流通,譲渡され,巨額の不法な利益が暴力団に渡った事実はない。しかるに,あたかも250キログラムの覚せい剤が,営利目的で一般市民に譲渡され,社会に流通,拡散して,害毒となり,暴力団に巨額の不法な利益を獲得させたかのごとき認定は,本件犯行の行為責任を超え,余りに感情的,情緒的な認定といわざるをえない。」と主張する。 しかしながら,原判決が「250キログラムの覚せい剤が,営利目的で一般市民に譲渡され,社会に流通,拡散して,害毒となり,暴力団に巨額の不法な利益を獲得させたかのごとき」という認定をしているものでないことは,その説示自体から明白である。所論は理由がない。 したがって,原判決が説示しているとおり,本件の犯情はよくなく,被告人の刑事責任は極めて重いというべきである。 そうすると,被告人は,密輸入しようとする覚せい剤の量が約250キログラム程度の多量のものであることについては,当初は具体的には知らなかったこと,捜査段階から,概ね素直に供述していること,結局は約束の報酬を受け取っていないこと,本件犯行を反省して,更生への意欲を示していること,被告人の年齢その他原審記録及び当審における事実取調べの結果により認められる諸事情を被告人のために十分考慮してみても,被告人を懲役18年及び罰金500万円(求刑は懲役20年及び罰金500万円)の刑に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。 論旨は理由がない。 よって,刑訴法396条,刑法21条,刑訴法181条1項ただし書を適用して (求刑は懲役20年及び罰金500万円)の刑に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。 論旨は理由がない。 よって,刑訴法396条,刑法21条,刑訴法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 平成13年10月11日広島高等裁判所第一部裁判長裁判官重吉孝一郎裁判官菊地健治裁判官島田一

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