平成21(受)1232 学納金返還請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年3月30日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 平成20(ネ)2706
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判決文本文4,019 文字)

- 1 -主文原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 理由 上告人の上告受理申立て理由について 本件は,上告人の設置する大学の推薦入学試験に合格した被上告人が,入学を辞退して在学契約を解除したなどと主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,納付済みの授業料等相当額の返還を求める事案である。 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1)上告人は,学校教育法所定の大学であるA大学を設置する学校法人である(以下,上告人及び上告人の設置するA大学を「上告人大学」ということもある。)。 (2)被上告人は,上告人大学医学部医学科の平成18年度推薦入学試験を受験して合格し,上告人大学が定めた入学手続の要領に従い,所定の期限内である平成17年11月22日,上告人大学に対し,入学金100万円及び授業料等700万6000円(授業料350万円,実験実習教材費50万円,教育充実費300万円及び学友会費6000円。以下「本件授業料等」という。)を納付して入学手続を行い,上告人大学との間で在学契約(以下「本件在学契約」という。)を締結した。 (3)上告人大学の平成18年度学生募集要項には,推薦入学については,いったん納付した学生納付金は一切返還しない旨記載されていた(この記載に係る合意- 2 -のうち授業料等に関する部分を,以下「本件不返還特約」という。)。 (4)被上告人は,その後,B大学医学部の一般入学試験に合格し,平成18年3月30日,同大学に入学金,授業料等を納付した。 (5)被上告人は,平成18年4月5日,上告人大学に対し,辞退理由として「体調をくずし,下宿して通学するのが困難となったため」と記載した入学辞退届を提 30日,同大学に入学金,授業料等を納付した。 (5)被上告人は,平成18年4月5日,上告人大学に対し,辞退理由として「体調をくずし,下宿して通学するのが困難となったため」と記載した入学辞退届を提出し,本件在学契約を解除する旨の意思表示をした。 (6)上告人大学医学部医学科の平成18年度の入学試験では,推薦入学試験(募集人員25名)のほか,一般入学試験(同65名)及びセンター利用試験(同10名)が行われた。なお,推薦入学試験においても,上告人大学を専願あるいは第1志望とすることなどは出願資格とされていなかった。 (7)上告人大学は,一般入学試験及びセンター利用試験(以下,併せて「一般入学試験等」という。)について補欠者を設けており,平成16年度以降の学生募集要項には,補欠者にはその旨郵便で通知すること,合格者に欠員が生じた場合には補欠者を順次繰り上げて合格者を決定し,繰上げ合格者には合格通知書等を送付すること,4月7日までに補欠合格の通知がない場合には不合格となることを記載していた。 (8)上告人大学は,平成13年度から同16年度までは4月1日以降に補欠者を繰上げ合格させることはなかったが,平成17年度及び平成18年度には,4月1日以降にそれぞれ3~4名の補欠者を繰上げ合格させた。 原審は,次のとおり判断して,本件授業料等の返還請求を認容すべきものとした。 (1)本件在学契約は,消費者契約法2条3項所定の消費者契約に該当し,本件- 3 -不返還特約は,同法9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たるから,「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害」(以下「平均的な損害」という。)を超える部分が無効となる。 (2)在学契約の解除に伴い当該大 る条項」に当たるから,「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害」(以下「平均的な損害」という。)を超える部分が無効となる。 (2)在学契約の解除に伴い当該大学に生ずべき平均的な損害は,1人の学生と大学との在学契約が解除されることによって当該大学に一般的,客観的に生ずると認められる損害をいい,在学契約の解除が当該大学が合格者を決定するに当たって織り込み済みのものであれば,原則として,その解除によって当該大学に損害が生じたということはできないところ,一般に,4月1日には,学生が特定の大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるから,在学契約の解除の意思表示がその前日である3月31日までにされた場合には,原則として,大学に生ずべき平均的な損害は存しないものとして,当該解除との関係では不返還特約(授業料等に関する部分。以下同じ。)はすべて無効となり,在学契約解除の意思表示が同日より後にされた場合には,原則として,学生が納付した授業料等は,それが初年度に納付すべき範囲内のものにとどまる限り,大学に生ずべき平均的な損害を超えず,当該解除との関係では不返還特約はすべて有効となる(最高裁平成17年(受)第1158号・第1159号同18年11月27日第二小法廷判決・民集60巻9号3437頁参照)。 (3)しかしながら,上告人大学においては,平成16年度以降,学生募集要項に,補欠者につき4月7日までに通知がない場合に不合格となる旨記載し,平成17年度及び平成18年度には4月1日以降に3~4名の補欠者を繰上げ合格させていることからすると,平成16年度以降は,毎年4月7日まで最終的な合否の判定- 4 -を留保する取扱いが確立していたというべきである。特に,推薦入学試験の合格者については,いわゆる専願等 格させていることからすると,平成16年度以降は,毎年4月7日まで最終的な合否の判定- 4 -を留保する取扱いが確立していたというべきである。特に,推薦入学試験の合格者については,いわゆる専願等を資格要件とするものではなく,学生納付金の納付期限から他大学医学部の一般入学試験日まで相当の期間があることからすると,他大学医学部に合格してその大学に入学する者が出ることを上告人としても当然に予測していたものである。 したがって,上告人大学においては,4月7日までは,特に推薦入学試験の合格者についてはその在学契約が解除されることがあること及び4月1日以降に補欠者を上告人大学に入学させることを織り込み済みであったから,被上告人が4月5日に在学契約を解除しても上告人大学に生ずべき平均的な損害は存しないというべきであって,本件不返還特約は無効である。 しかしながら,原審の上記3(1)及び(2)の判断は是認することができるが,同(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 前記事実関係によれば,被上告人は,上告人大学の平成18年度の推薦入学試験に合格し,本件授業料等を納付して上告人大学との間で本件在学契約を締結したが,入学年度開始後である平成18年4月5日に本件在学契約を解除する旨の意思表示をしたものであるところ,学生募集要項の上記の記載は,一般入学試験等の補欠者とされた者について4月7日までにその合否が決定することを述べたにすぎず,推薦入学試験の合格者として在学契約を締結し学生としての身分を取得した者について,その最終的な入学意思の確認を4月7日まで留保する趣旨のものとは解されない。また,現在の大学入試の実情の下では,大多数の大学において,3月中には正規合格者の合格発表が行われ,補欠合格者の発表もおおむね終了して,学生の多 確認を4月7日まで留保する趣旨のものとは解されない。また,現在の大学入試の実情の下では,大多数の大学において,3月中には正規合格者の合格発表が行われ,補欠合格者の発表もおおむね終了して,学生の多くは自己の進路を既に決定しているのが通常であり,4月1日以降に在学契約- 5 -が解除された場合,その後に補欠合格者を決定して入学者を補充しようとしても,学力水準を維持しつつ入学定員を確保することは容易でないことは明らかである。 これらの事情に照らせば,上告人大学の学生募集要項に上記の記載があり,上告人大学では4月1日以降にも補欠合格者を決定することがあったからといって,上告人大学において同日以降に在学契約が解除されることを織り込み済みであるということはできない。そして,専願等を資格要件としない推薦入学試験の合格者について特に,一般入学試験等の合格者と異なり4月1日以降に在学契約が解除されることを当該大学において織り込み済みであると解すべき理由はない。 したがって,被上告人が納付した本件授業料等が初年度に納付すべき範囲を超えているというような事情はうかがわれない以上,本件授業料等は,本件在学契約の解除に伴い上告人大学に生ずべき平均的な損害を超えるものではなく,上記解除との関係では本件不返還特約はすべて有効というべきである。 以上と異なる見解の下に,被上告人の本件授業料等返還請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求を棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分に係る被上告人の控訴を棄却すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官田原睦夫裁 部分に関する被上告人の請求を棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分に係る被上告人の控訴を棄却すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官近藤崇晴)

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