- 1 - 主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して6155万0595円及びこれに対する平成24年9月7日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを9分し,その2を原告の負担とし,その余は被告らの負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求 被告らは,原告に対し,連帯して7973万5090円及びこれに対する平成24年9月7日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,北九州市内でラウンジを経営していた原告が,指定暴力団五代目工 藤會(以下「工藤會」という。)傘下の五代目田中組(以下「田中組」という。)構成員であるAから刃物で顔面を切りつけられる等の襲撃行為(以下「本件襲撃」という。)を受けて負傷したと主張して,①工藤會総裁である被告C及び②工藤會会長である被告Dに対しては,使用者責任(民法715条)又は暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴対法」とい う。)31条の2に基づき,③田中組組長である被告Hに対しては,共同不法行為(民法719条)又は使用者責任に基づき,損害賠償金7973万5090円及びこれに対する本件襲撃の日である平成24年9月7日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨に - 2 -より容易に認められる事実) 前の民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨に - 2 -より容易に認められる事実)⑴ 当事者等ア原告は,平成22年3月頃から平成24年9月下旬頃まで,北九州市a区b町c丁目d番e号所在の甲ビル3階において,ラウンジ「K」(以下「原告店舗」という。)を経営していた。(甲13,43,66から7 0)イ(ア) 工藤會は,北九州市内を中心として勢力を有する暴力団であり,平成4年6月26日以降,暴対法3条所定の指定暴力団に指定され(当時の名称は「二代目工藤連合草野一家」),平成24年12月27日には同法30条の8所定の特定危険指定暴力団に指定されている。 平成23年7月に五代目工藤會の体制が発足して以降,被告Cが総裁を,被告Dが会長を,被告Hが理事長をそれぞれ務めていた。 工藤會では,二次団体の幹部等を兼ねる構成員(直若,上席専務理事,専務理事,常任理事,理事,幹事)から,その地位・役職に応じて定められた運営費が毎月上納されていた。 (イ) 田中組は,工藤會傘下の二次団体として発足した暴力団であり,被告C(昭和61年5月に組長就任)及び被告D(平成15年2月に組長就任)の出身母体であるところ,平成23年6月以降は,被告Hが組長を務めていた。 (甲4,5,8,9,63,乙イ2から4) ⑵ 本件襲撃原告(当時△歳)は,平成24年9月7日午前0時40分過ぎ頃,原告店舗を退勤し,B運転手の運転に係るタクシー(以下「本件タクシー」という。)に乗車し,(住所省略)(以下「原告自宅」という。)に向けて出発した。 原告は,同日午前0時58分頃,原告自宅の東 退勤し,B運転手の運転に係るタクシー(以下「本件タクシー」という。)に乗車し,(住所省略)(以下「原告自宅」という。)に向けて出発した。 原告は,同日午前0時58分頃,原告自宅の東側駐車場(以下「本件現 - 3 -場」という。)に到着し,本件タクシーを降車したところ,氏名不詳者(以下「犯人」という。)により所携の刃物で左顔面を1回切り付けられ,さらに右臀部を1回突き刺される襲撃行為を受けた(本件襲撃)。 (甲12,35から37,43,56,66から70)⑶ 原告の治療経過等 原告は,本件襲撃後,左顔面切創,左顔面神経損傷,右臀部刺創,PTSD等の傷病名で,以下のとおり治療を受けた。 ア r病院原告は,①平成24年9月7日から同月10日まで,r病院に入院し,顔面切創及び臀部切創の創閉鎖手術等を受けた。 イ s病院原告は,s病院において,②平成24年9月10日から同年10月5日まで入院し,坐骨神経縫合手術及び抗不安剤の投薬治療等を受け,④同年12月6日及び同月29日から平成25年6月6日まで,PTSDとうつ状態の合併症状及び顔面神経・臀部瘢痕について通院治療を受けた。 また,原告は,同病院に⑤平成25年9月4日から同月12日まで再入院し,顔面及び臀部の瘢痕・拘縮除去手術を受ける等し,⑥その後同年10月7日から平成26年2月13日まで,上記⑤の手術後の経過観察やカウンセリング等の通院治療を受けた。 ウ t病院 原告は,③平成24年10月5日から同年12月29日まで,t病院に入院し,不安・恐怖に対する投薬治療や歩行訓練等の治療を受けた。 (甲45から53,56から58,71から73) 2 争点に関する当事者の主張⑴ 被告らの不法行為責任又は暴対 日まで,t病院に入院し,不安・恐怖に対する投薬治療や歩行訓練等の治療を受けた。 (甲45から53,56から58,71から73) 2 争点に関する当事者の主張⑴ 被告らの不法行為責任又は暴対法31条の2に基づく責任の成否 (原告の主張) - 4 -ア本件襲撃について被告Hは,原告が福岡県暴力団排除条例に基づき原告店舗に暴力団立入禁止標章を掲示したこと等に反発し,遅くとも平成24年8月23日頃までに原告を襲撃することを決意した。被告Hは,その頃,田中組若頭であったI₁らに原告の襲撃を指示し,さらに同組の組織委員長I₂,風紀委員 長I₃,筆頭若頭補佐I₄,組織委員P,組員QことR及び犯人であるAらと共謀の上,被告Hの指揮命令の下,田中組の組織により,工藤會の活動として,あらかじめ定められた任務分担に従って車両の手配や原告の行動確認といった準備を行わせ,Aをして本件襲撃を実行させた。 本件襲撃は,田中組さらには工藤會の威力を誇示することにより,みか じめ料収入や飲食店等に対する不法な影響力等を維持拡大することを目的として実行されたものであるから,田中組さらには工藤會の威力を利用した資金獲得行為に係る事業の執行,あるいはこれと密接に関連する行為に該当する。 イ被告C及び被告Dの責任 (ア) 使用者責任A 被告Cは,工藤會総裁として,工藤會組員である被告Hらを直接間接に指揮監督する地位にあるところ,工藤會の事業として本件襲撃を行わせた(前記ア参照)のであるから,被告Hらの使用者として,民法715条1項に基づき,原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 b 被告Dは,工藤會会長として,被告Hら工藤會組員を直接間接に指揮監督する地位にあり,被告Dと被告Hらとの間には民法715条1 715条1項に基づき,原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 b 被告Dは,工藤會会長として,被告Hら工藤會組員を直接間接に指揮監督する地位にあり,被告Dと被告Hらとの間には民法715条1項にいう使用関係がある。仮に工藤會における意思決定者が被告Cであるとしても,被告Dは,執行部の長であり,工藤會の事業の執行を監督する立場にあったのであるから,民法715条2項の代理監督者 としての地位を有していた。本件襲撃が工藤會の事業として行われた - 5 -ことは前記ア記載のとおりであり,被告Dは,民法715条1項又は2項に基づき,原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 (イ) 暴対法31条の2に基づく責任前記ア記載のとおり,本件襲撃は,工藤會が,工藤會の威力を誇示することにより,みかじめ料収入や飲食店等に対する不法な影響力等を維 持拡大することを目的として実行されたものであるから,暴対法31条の2所定の威力利用資金獲得行為に該当する。工藤會総裁又は会長として工藤會を代表し又はその運営を支配する地位にあった被告C及び被告Dは,同法の「代表者等」として,同条に基づき,原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 ウ被告Hの責任(ア) 共同不法行為前記ア記載のとおり,本件襲撃は,被告Hの指揮命令に基づき行われたものであるから,被告Hは,Aらとの共同不法行為者として,原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 (イ) 使用者責任被告Hは,田中組組長として,田中組組員であるAを直接間接に指揮監督する地位にあるところ,田中組の事業として本件襲撃を行わせた(前記ア参照)のであるから,Aの使用者として,民法715条1項に基づき,原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 (被告Cの主張) 地位にあるところ,田中組の事業として本件襲撃を行わせた(前記ア参照)のであるから,Aの使用者として,民法715条1項に基づき,原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 (被告Cの主張)ア本件襲撃について本件襲撃においては,計画者,共謀者,実行指示者,実行者についての事実関係が不明であり,動機・目的についても,原告が工藤會傘下の西田組にみかじめ料を支払い,その組員には原告店舗への入店を認めていたこ と等を背景に,個人的な反感を抱いた田中組組員らによる嫌がらせ(さや - 6 -当て)としか考えられない。本件襲撃は,その態様も田中組の犯行と顕示するようなものではないから,みかじめ料の確保や暴力団排除運動への威嚇等とは関係がなく,被告Hの指示の下,田中組の不正な権益を維持拡大する目的で実行されたものとはいえない。 イ被告Cに責任がないこと 本件襲撃が田中組やその上部団体である工藤會の事業の執行として行われたものとは認められず,工藤會の威力を利用した資金獲得行為ともいえないから,使用者責任,暴対法に基づく責任の追及は前提を欠く。 また,被告Cは,平成23年7月の代替わりによって工藤會総裁に就任している(前記前提事実⑴イ(ア)参照)ところ,総裁は隠居的な立場であ り,工藤會を代表して組織を指揮する権能一切は会長である被告Dに移譲されていた。被告Cは,同月以降,工藤會の組織運営に権能・影響力を有しておらず,工藤會組員の使用者ではないし,暴対法3条3項の代表者等にも当たらないから,本件襲撃につき原告に対する損害賠償責任を負わない。 (被告Dの主張)上記「(被告Cの主張)」ア記載のとおり,本件襲撃は,みかじめ料の確保や暴力団排除運動への威嚇等とは関係がなく,被告Hの指示の下,田中組の 損害賠償責任を負わない。 (被告Dの主張)上記「(被告Cの主張)」ア記載のとおり,本件襲撃は,みかじめ料の確保や暴力団排除運動への威嚇等とは関係がなく,被告Hの指示の下,田中組の不正な権益を維持拡大する目的で実行されたものとはいえない。 本件襲撃が田中組やその上部団体である工藤會の事業の執行として行われ たものとは認められず,工藤會の威力を利用した資金獲得行為ともいえないから,被告Dは使用者責任,暴対法に基づく損害賠償責任を負わない。 (被告Hの主張)被告Hが田中組組員らと共謀して本件襲撃に関与した事実はなく,原告主張の共同不法行為は成立しない。 また,上記「(被告Cの主張)」ア記載のとおり,本件襲撃は,みかじめ - 7 -料の確保や暴力団排除運動への威嚇等とは関係がなく,被告Hの指示の下,田中組の不正な権益を維持拡大する目的で実行されたものとはいえず,田中組の事業の執行として行われたものとは認められないから,被告Hは使用者責任に基づく損害賠償責任を負わない。 ⑵ 損害の発生及びその額 (原告の主張)ア入院雑費 18万4500円原告は,前記前提事実⑶記載のとおり,合計123日の入院治療を余儀なくされ,入院中に要した諸雑費は18万4500円(日額1500円×123日)を下らない。 イ休業損害 315万9222円原告は,本件襲撃当時,原告店舗等を経営していたが,それに加えて母子家庭として未成年の子2名を養育するとともに家事全般に従事していた。原告の基礎収入は,355万9000円(平成23年賃金センサス女子全年齢平均)を下回ることはない。 原告は,前記前提事実⑶記載の入院期間中(123日)は全額,通院期間中(402日)は少なくとも 基礎収入は,355万9000円(平成23年賃金センサス女子全年齢平均)を下回ることはない。 原告は,前記前提事実⑶記載の入院期間中(123日)は全額,通院期間中(402日)は少なくとも50%の割合で休業損害を受けた。 計算式:355万9000円÷365日×〔123日+(402日×0.5)〕=315万9222円ウ傷害慰謝料 2000万円 本件襲撃の動機の悪質性,行為態様の危険性・残忍性,結果の重大性のほか,原告が本件襲撃により原告店舗等を廃業し北九州市内からの転居を余儀なくされ,当時描いていた将来設計を完全に破壊されてしまったこと,原告が今後も工藤會からいつ狙われるか分からない恐怖の下で日常生活を送らなければならないこと等からすると,傷害慰謝料はどれ だけ少なく見積もっても2000万円を下らない。 - 8 -エ後遺障害逸失利益 3665万6187円原告においては平成25年12月17日に症状が固定しているところ,本件襲撃により,①下肢(右股関節)の機能障害(犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律施行規則1条1項及び別表の定める障害等級〔以下「後遺障害等級」という。〕10級1 1号),②右臀部及び右下肢(右膝下)の疼痛等感覚障害(同号),③外貌醜状(同7級12号),④非器質性精神障害(同9級10号)がそれぞれ認められ,併合6級の後遺障害が残存している(甲57,58)。 原告の基礎収入は前記355万9000円を下回ることはなく,労働 能力喪失率67%,労働能力喪失期間30年とすると,原告の逸失利益は3665万6187円である。 計算式:355万9000円×0.67×15.3725(30年に対応するライプニッツ係数)=3665万6187円オ後遺 喪失期間30年とすると,原告の逸失利益は3665万6187円である。 計算式:355万9000円×0.67×15.3725(30年に対応するライプニッツ係数)=3665万6187円オ後遺障害慰謝料 1180万円 原告には,上述の併合6級相当の後遺障害が残存しており,後遺障害慰謝料は1180万円を下回ることはない。 カ既払金 ▲535万4000円原告は,本件襲撃に関する犯罪被害者等給付金として,重傷病給付金120万円及び障害給付金415万4000円を受領した(甲54,5 5)。 キ弁護士費用 1328万9181円原告は,工藤會の組員である被告らに賠償を求めるにあたり,複数の弁護士に依頼せざるを得なかったこと等からすれば,被告らの不法行為等と因果関係ある弁護士費用は,上記アからオの損害額合計からカの既 払金を控除した6644万5909円の20%に相当する1328万9 - 9 -181円を下らない。 (被告らの主張)不知ないし争う。 原告は原告店舗の経営等により収入を得ており,賃金センサスにより基礎収入を算定することは不合理である。 また,原告に後遺障害としての外貌醜状が残存しているか証拠上判然としないし,そもそも外貌醜状は労働能力喪失率に影響しない。PTSDについても,現在の症状が不明であり,後遺障害として残存しているとは認められない。 第3 争点に対する判断 1 認定事実等当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実を総合すると,本件の事実経過は以下のとおりである。 ⑴ 原告と工藤會の関わり等ア原告店舗への立入り禁止 原告は,従前北九州市a区で経営していたスナック2店(いずれも平成20年頃ま ると,本件の事実経過は以下のとおりである。 ⑴ 原告と工藤會の関わり等ア原告店舗への立入り禁止 原告は,従前北九州市a区で経営していたスナック2店(いずれも平成20年頃までに閉店。)では工藤會組員らが客として立ち入ることを禁止していなかったが,平成22年3月頃に原告店舗の営業を開始するに当たり,工藤會を含む暴力団関係者の立入りを禁止しようと考え,親交のあった西田組(工藤會傘下の二次団体)の組員らに対し,原告店舗に暴力団関 係者を立ち入らせないよう依頼した。 しかしながら,実際は西田組組員を含む工藤會組員らが客として原告店舗に立ち入ることがあり,被告Hも,平成24年2月頃,原告不在の折に同店舗を訪れたことがあった。これに対し原告は,後日被告Hに会った際,警察沙汰になる等したら申し訳ないとして,被告Hに対し暗に原告店 舗への立入りを控えるよう求めた。 - 10 -イみかじめ料の支払原告は,北九州市a区で経営していたスナックにおいて,平成18年頃から工藤會(西田組及び田中組)に対してみかじめ料を支払うようになり,原告店舗の開業以降も,西田組に対し毎月2万円から3万円のみかじめ料を支払っていた。 (甲15,31から34,43,66から70)⑵ 原告店舗における標章掲示等ア福岡県暴力団排除条例の制定等福岡県は,暴力団の排除を推進するため,福岡県暴力団排除条例(平成21年福岡県条例第59号,平成22年4月1日施行)を制定しており, 平成23年10月の条例改正(福岡県条例平成23年第34号)により,暴力団排除特別強化地域に営業所を置く飲食店等が「暴力団立入禁止」等と記載された標章(以下「標章」という。)を掲示した場合,暴力団員が同店内に立ち入る 例改正(福岡県条例平成23年第34号)により,暴力団排除特別強化地域に営業所を置く飲食店等が「暴力団立入禁止」等と記載された標章(以下「標章」という。)を掲示した場合,暴力団員が同店内に立ち入ることを禁止する制度(以下「標章制度」という。)に係る規定(同条例14条の2)が追加された。(甲8,9,弁論の全趣旨) イ原告店舗における標章掲示標章制度を定めた改正福岡県暴力団排除条例は,平成24年8月1日から施行され,原告店舗が所在する北九州市a区b町c丁目は同条例所定の暴力団排除特別強化地域に指定されたところ,原告店舗においては,同月3日から出入口ドア付近に標章が掲示されるようになった。(甲15,4 1,43,66,67)⑶ 田中組の標章制度に対する対応等ア田中組は,北九州市a区f町に事務所を構え,近隣の繁華街であるb町,g町等の飲食店等から毎月合計数百万円のみかじめ料を徴収し,組における主要な収入源としていたところ,標章制度が施行された平成24年 8月以降,組員がf町,g町,b町等を手分けして回り,飲食店等におけ - 11 -る標章掲示状況を調査してその結果を取りまとめたほか,標章を掲示している店については掲示を止めるよう働き掛けを行う等した。(甲5,14,32から34,61)イ被告H,I₁,I₄,Aら田中組組員は,平成24年8月14日早朝,暴力団排除特別強化指定地域内のb町c丁目に所在し,複数のテナントが標 章を掲示していた甲ビル及び乙ビルに対する連続放火事件を敢行し,これにより甲ビルに入居していた原告店舗は出入口付近の壁やシャッターに赤色塗料を吹き付けられる等の被害を受けた。 Aは,I₄から甲ビル内で標章に赤色スプレーを吹き付け,同ビル内に火をつけるよう指示され,田 ルに入居していた原告店舗は出入口付近の壁やシャッターに赤色塗料を吹き付けられる等の被害を受けた。 Aは,I₄から甲ビル内で標章に赤色スプレーを吹き付け,同ビル内に火をつけるよう指示され,田中組組員のTとともに,原告店舗に赤色スプレ ー缶で赤色塗料を吹き付け,同ビル3階に停止していたエレベーター内に灯油を撒いた上,火をつけた発炎筒を投げ込んで放火する等した。 (甲66,67,69,74,75)⑷ 本件襲撃の準備行為ア原告店舗の監視 I₂及び田中組組員1名は,平成24年8月14日以降,甲ビルの向かいに位置する丙ビル及び周辺のビルを複数回にわたり訪れて甲ビル3階に入居していた原告店舗の様子を監視しており,同月29日午前0時32分頃には丙ビル4階で職務質問を受けた。丙ビル3階でラウンジを経営する男性GがI₂らによる上記監視に気付き,その理由を親交があったI₄に尋ね たところ,I₄は,原告が被告Hの原告店舗への立入りを禁止するようになり,被告Hが激怒したためである旨を回答した。(甲20から23)イ原告の帰宅時間等の調査I₄は,北九州市a区b町でラウンジを経営していた男性Eに対し,平成24年9月3日,原告店舗のママ(原告)の帰宅時間や帰宅経路を調査し ているとして,原告の帰宅時間等を確認するよう依頼したことがあった。 - 12 -男性Eは,I₄の上記依頼を甲ビル3階の店舗に勤める男性Fにさらに委託し,同月4日午前0時40分頃,男性Fから原告の帰宅時間等につき連絡を受けた後,I₄に架電してその内容を報告した。 男性Eは,同日夜にも男性Fに対し同様の確認を依頼しており,同月5日午前1時4頃,男性Fを通じて原告がタクシーに乗って帰宅したことを 確認し,I₄にその旨を 架電してその内容を報告した。 男性Eは,同日夜にも男性Fに対し同様の確認を依頼しており,同月5日午前1時4頃,男性Fを通じて原告がタクシーに乗って帰宅したことを 確認し,I₄にその旨を報告した。 (甲17から19)ウ車両の調達等(ア) I₁は,熊本県内に居住していた男性Jに対し,平成24年8月23日,軽自動車の窃取を依頼した。 男性Jは,同月24日,知人を通じて調達した盗難車であるスズキワゴンR(以下「本件軽自動車」という。)を工藤會組員であったWとともに北九州市h区i町所在の松田組(田中組傘下の工藤會三次団体 )の事務所裏の倉庫に搬入し,Wから報酬として15万円を受領した。 松田組組長であったI₃は,あらかじめI₁から松田組事務所に車を置 かせて欲しい旨を伝えられており,上記搬入に立ち会ったほか,配下の組員に対し同車両を見たり触ったりしないよう注意した。 (イ) Rは,I₁から軽自動車のナンバープレートを用意するよう指示され,平成24年8月23日頃,工藤會親交者であったXとともに,北九州市a区j付近の路上に放置されていた軽自動車からナンバープレートを取 り外し,別の場所(同区kのマンション駐車場等)に隠して保管した。 (ウ) I₁は,Rに対し,平成24年9月6日,松田組事務所裏の倉庫に停められている軽自動車の既存ナンバープレートと上記(イ)記載のナンバープレートを取り替えた上,同車を当時北九州市a区lにあったl団地駐車場(本件現場〔原告自宅〕とは直線距離で約510mの位置にある。) に移動させるよう指示した。 - 13 -また,I₁は,同日,Rにプリペイド式の携帯電話を交付し,上記駐車場に到着したら当該携帯電話で指定された番号 510mの位置にある。) に移動させるよう指示した。 - 13 -また,I₁は,同日,Rにプリペイド式の携帯電話を交付し,上記駐車場に到着したら当該携帯電話で指定された番号に架電すること,上記既存ナンバープレートと当該携帯電話は処分しておくことを指示した。 (エ) Rは,I₁による上記指示を受け,平成24年9月6日,Xとともに松田組事務所に赴き,倉庫に停まっていた本件軽自動車の前後2枚の既存 ナンバープレートを上記(イ)記載のナンバープレートに付け替えた上,本件軽自動車を運転して,別車を運転するXとともに,l団地駐車場に向かったが,その途中で,I₁から受領していた携帯電話にPから着信があり,「車はまだか。」等として到着の催促を受けた。 Rは,午後10時頃,l団地駐車場に到着して本件軽自動車を同駐車 場に駐車し,その後Xが運転する別車で北九州市m区nに移動し,本件軽自動車の既存ナンバープレートと前記携帯電話を海中に投棄した。 (オ) I₄は,本件襲撃前日の平成24年9月6日午後10時33分頃から同月7日午後0時50分頃までの間,甲ビルにほど近い丁ビル西側路地の南端又は丁ビル軒下(南西端の軒下)付近に滞留し,原告が原告店舗を 退勤し,近隣のコンビニエンスストア前路上から本件タクシーに乗車する様子等(後記⑸参照)を継続して監視した。 (カ) 原告自宅の近隣住人は,本件襲撃直前の平成24年9月7日午前0時55分頃,原告自宅の北側に接する道路を東方向に突き当たりまで進んだ後に戻ってきて,付近の駐車場の普段使われていない駐車区画に停ま る等,不審な動きをする軽自動車(スズキワゴンR)を目撃した。 (甲6,7,10,13,16,24から27,29,30,38,39,60)⑸ 駐車場の普段使われていない駐車区画に停ま る等,不審な動きをする軽自動車(スズキワゴンR)を目撃した。 (甲6,7,10,13,16,24から27,29,30,38,39,60)⑸ 本件襲撃原告は,平成24年9月7日午前0時40分過ぎ頃,原告店舗を退勤し, 同店舗近くのコンビニエンスストアからB運転手が運転する本件タクシーに - 14 -乗車し,原告自宅に向けて出発した。 本件タクシーは,同日午前0時58分頃,本件現場に到着し,B運転手は原告からタクシー料金の支払を受けた後,同車を降車して後部座席運転席側のドアを開け,原告を本件タクシーから降車させた。 原告が本件タクシーから原告自宅のエントランスに向かい歩き出したとこ ろ,上下とも黒っぽい作業服を着て,ニット帽又は目出し帽を被った犯人は,原告の下に駆け寄り,所携の刃物で原告の左顔面を1回強く切り下ろし,さらに原告の右臀部を1回突き刺した(本件襲撃)。 犯人は,本件襲撃を察知したB運転手が地面に倒れ込んだ原告と犯人の間に入ってさらなる襲撃を制止しようとしたのに対し,所携の刃物でB運転手 の左側頭部等を1回切り付け,その後,本件現場から逃走した。(なお,B運転手は,上記切り付け行為により,左側頭部切創,左耳介切創,左頚部創,手背部切創,外傷性出血性ショック,左示指伸筋腱断裂の傷害を負った。)(甲12,13,35から37,43,48,56,66から70) ⑹ 本件襲撃後の証拠隠滅等ア(ア) I₃は,平成24年8月末頃にI₁から荷物を受け取り処分するよう依頼され,その方法等について協議していたところ,同年9月6日夜,I₁から翌7日の午前1時頃に荷物を受け取りに行くよう指示された。I₃は,その間,配下の松田組組員 I₁から荷物を受け取り処分するよう依頼され,その方法等について協議していたところ,同年9月6日夜,I₁から翌7日の午前1時頃に荷物を受け取りに行くよう指示された。I₃は,その間,配下の松田組組員に「道具」の受取りと処分を命じたが, 同組員はこれを断り行方をくらませた。 そこで,I₃は,I₁との協議に従い,自ら,北九州市a区o町所在のoの駐車場(本件現場〔原告自宅〕から約1.4ないし1.9kmの位置にある。)付近に待機していると,同日午前1時10分から15分頃に軽自動車がやってきて所定の合図を行ったため,同車を上記駐車場に 案内した。 - 15 -I₃は,駐車場に停車した上記軽自動車の助手席ドアに近づいた際に,同車運転席にいたPから少し待つよう声を掛けられ,同車後部座席で人が丸まるようにしてごそごそと動く様子を見た。その後,助手席側後部の窓又はドアが開き,I₃は後部座席にいたAから黒いボストンバックを受け取った。 (イ) I₃は,福岡県豊前市の海岸で上記ボストンバッグの在中物を確認し,このうち黒い作業服の上下,靴1足,目出し帽,手袋をボストンバッグと併せて焼却し,先端に血のようなものが付いた出刃包丁(刃体の長さ20Cm以上,柄の長さ10Cm,背の厚み約5mm)を海中に投棄した。(甲30,60) イ Rは,平成24年9月7日から同月8日にかけての夜,I₁の指示に基づき,田中組組員のSとともに,本件軽自動車を北九州市m区p海岸の岸壁まで移動させ,同車前後の偽ナンバープレートを取り外し,乗車時の痕跡を消すために車内に消火剤を撒いた上で,同車及び偽ナンバープレートを岸壁から海中に投棄した。 その後,I₁は,Rに対し,本件襲撃に係る同人の関与に対する報酬として,現金5万円を支払 を消すために車内に消火剤を撒いた上で,同車及び偽ナンバープレートを岸壁から海中に投棄した。 その後,I₁は,Rに対し,本件襲撃に係る同人の関与に対する報酬として,現金5万円を支払った。 (甲6,11,28,40)ウ I₄は,本件襲撃後,丙ビル3階廊下に設置されていた防犯カメラ3台の録画映像を確認した上で,設置者の男性Gに対し,被告Hからの指示であ るとして当該映像を警察に提出しないよう求めた。(甲21)⑺ 原告の負傷状況等ア原告は,平成24年9月7日午前1時34分頃にr病院に救急搬送されたところ,搬送当時は出血性ショックの状態に陥っており,輸液の投与等を受けた。 救急搬送された原告の左顔面においては,左前頭側頭部から左頬部にか - 16 -けて地面とほぼ垂直方向に長さ約20Cm,創傷部から割断面の最深部まで優に5Cmを超える切創のほか,左側頭骨外板にも一部損傷が認められ,致命傷になりかねないもので,強い力で切り下されたことがうかがわれた。r病院の担当医は,原告の左側前頭筋の麻痺と眼輪筋の低下が認められるとして,側頭枝損傷を疑ったが,創傷が長大であったことやバイタ ルサインが不安定であったこと等を考慮し,側頭枝再建は行わず,創閉鎖のみを行った。 原告は同月10日にs病院に転院後,約1年間にわたり投薬治療を受け,平成25年9月5日には上眼瞼瘢痕拘縮及び下眼瞼瘢痕拘縮について,拘縮切除術(顔面の横の皺に沿って表皮,真皮,脂肪層の中間までを 切除して縫合することにより,瘢痕を目立たなくする手術)を受けた。 イまた,右臀部の負傷部位においては,地面とほぼ平行方向に長さ3ないし4Cm,指を挿入しても刺創の先端に触れない深さ10Cmを超える刺創が認められ,こちらも 痕を目立たなくする手術)を受けた。 イまた,右臀部の負傷部位においては,地面とほぼ平行方向に長さ3ないし4Cm,指を挿入しても刺創の先端に触れない深さ10Cmを超える刺創が認められ,こちらも少し位置がずれると大きな動脈を傷つけて致命傷になりかねないものであった。r病院の担当医は,原告が右下肢の麻痺に よる知覚鈍麻と運動障害を訴えたことから,坐骨神経損傷を疑ったが,当時の原告の容態等を考慮し,神経の再建は行わず,創閉鎖のみを行った。 原告は,s病院転院後の平成24年9月19日,同病院において神経束縫合神経剥離術を受け,本件襲撃により坐骨神経束が2本断裂していることが確認され,うち1本につき縫合が実施された(残る1本は状態が悪 く,縫合は実施されなかった。)。また,平成25年9月5日には,同病院で臀部肥厚性瘢痕について,拘縮切除術を受けた。 ウ本件襲撃により受傷した原告においては,r病院入院当時からPTSD等の精神症状の出現が予想されており,s病院転院後の平成24年9月11日以降,同病院精神科において抑うつ状態,不安,恐怖,身体症状(頭 痛,動悸等)に対して精神療法,薬物療法,リラクゼーション等の治療が - 17 -行われた。 原告は,同科において心理検査であるIES-R(改訂出来事インパクト尺度。PTSDの診断に用いられ,25点以上がPTSDハイリスク群とされる。)及びSDS(うつ性自己評価尺度。うつ病の診断に用いられ,40点台後半から50点台後半は中等度抑うつ性あり,50点台後半 以上は重度の抑うつ性ありとされる。)を複数回受検しており,その結果は①平成24年10月4日:IES-R36点/88点,SDS48点/80点,②平成25年1月29日:IES-R65点/88点,SDS57点 度の抑うつ性ありとされる。)を複数回受検しており,その結果は①平成24年10月4日:IES-R36点/88点,SDS48点/80点,②平成25年1月29日:IES-R65点/88点,SDS57点/80点,③同年10月7日:IES-R79点/88点であった。 エ福岡県公安委員会は,原告に対し,平成26年1月30日,犯罪被害者 等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律11条に基づき,原告の上記アからウまでの傷病等が後遺障害等級の6級に該当する旨の裁定をした。 (甲44から53,56から58,71から73,76)⑻ Aに対する有罪判決 ア Aは,本件襲撃の実行犯として,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反の公訴事実で起訴され(福岡地方裁判所平成31年(わ)第163号組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件),令和2年1月27日,上記事件を含む4被告事件について,懲役26年の有罪判決の宣告を受けた。 イ Aは,本件襲撃の実行犯であると認めた一審判決には事実誤認がある等と主張して控訴した(福岡高等裁判所令和2年(う)第77号)が,福岡高等裁判所は,一審判決に誤りがあるとはいえないとして,同年12月22日,Aの控訴を棄却する判決をした。 ウ Aは,上記控訴審判決に対し,上告した(最高裁判所令和3年(あ)第 151号)が,最高裁判所第一小法廷は,同年4月8日,Aの上告を棄却 - 18 -する決定をした。 (甲59,弁論の全趣旨) 2 被告らの不法行為責任又は暴対法31条の2に基づく責任について⑴ 本件襲撃についてア Aの犯人性 原告は,本件襲撃の実行犯(犯人)がAである旨主張するので,以下検討する。 (ア) 本件 法行為責任又は暴対法31条の2に基づく責任について⑴ 本件襲撃についてア Aの犯人性 原告は,本件襲撃の実行犯(犯人)がAである旨主張するので,以下検討する。 (ア) 本件軽自動車は,田中組の若頭であるI₁の指示に基づき,本件襲撃の約2週間前に男性Jが用意し,その後松田組事務所の倉庫に隠匿保管されたものであり,襲撃当夜にはRによりナンバープレートの付替え作業 が行われた上,犯行現場から約510mのl団地駐車場まで運ばれ,襲撃翌日の夜までには処分されている(前記認定事実等⑷ウ,⑹イ参照)。かかる経緯に加え,本件襲撃直前に本件現場付近で不審な動きをする軽自動車(スズキワゴンR)が目撃されていること(同⑷ウ(カ)参照)を併せ考慮すると,本件軽自動車は,本件襲撃に用いられた車両で あると認めるのが相当であり,このことは被告らが指摘するようにスズキワゴンRが広く流通している車種であること(乙ロ1参照)によっても左右されない。 I₁は,本件襲撃において,田中組組員等に犯行供用車両である本件軽自動車の調達,保管,運搬,処分をさせる等して本件襲撃の指示役を担 っていたと認められ,これと同時期にI₁がI₃に対してしたボストンバッグの受取り及び処分の指示(同⑹ア(ア)参照)も,やはり本件襲撃に関する指示であったと考えるのが合理的である。本件襲撃による原告の受傷状況から推測される凶器の大きさ・形状と,I₃がAから受け取ったボストンバッグ内にあった出刃包丁の大きさ・形状は矛盾せず(甲48参 照),原告及びB運転手が目撃した犯人は上下とも黒っぽい作業着を着 - 19 -てニット帽又は目出し帽をかぶっていたところ,前記ボストンバッグ内には出刃包丁,黒っぽい上下の作業服や目出し帽等が入っていたことから 手が目撃した犯人は上下とも黒っぽい作業着を着 - 19 -てニット帽又は目出し帽をかぶっていたところ,前記ボストンバッグ内には出刃包丁,黒っぽい上下の作業服や目出し帽等が入っていたことからすれば,I₃がAから受け取った当該ボストンバッグには,本件襲撃の犯人が使用した凶器や襲撃時に着用した衣類等がしまわれていたものと認められる。 Aは,本件襲撃のわずか20分後に,本件現場から1.4ないし1. 9kmの距離にあるoの駐車場で,I₃に対して本件襲撃に使用された凶器や作業服等をI₃に渡したものであり,犯人がこれらの凶器や作業服等を処分するに際して受取り・処分役であるI₃との間にあえて別の人間を介在させる必要性がうかがわれないこと,AがI₃にボストンバッグを渡 す直前に軽自動車後部座席で丸まるようにしてごそごそと動いていたのは車内で着替えて着衣等を凶器と一緒にバッグにしまう動作をしていたものと考えられることを併せ考慮すると,これらの事実自体,Aが本件襲撃の犯人であることを極めて強く推認させる。 (イ) また,Aは,田中組組員らが平成24年9月26日夜に北九州市a区 の繁華街で営業する「O」の営業部長をその自宅マンション出入口付近において刃物で襲撃した事件に際して,実行犯であるUことVに付き添い犯行現場に赴いているところ,その際に前記UことVに対して「前回が思わぬとこから反撃があったから,俺が付いてく。」,「あれは鉈じゃなくて包丁だったんだけどな。」と述べた事実が認められる(甲6 1,75,弁論の全趣旨)。 Aの上記発言は,本件襲撃が上記襲撃の19日前に行われたものであり,田中組組員らが関与した組織的犯行として直近のものと推察されること,本件襲撃の際に原告を襲う犯人を制止しようとB運転手が両名の間 Aの上記発言は,本件襲撃が上記襲撃の19日前に行われたものであり,田中組組員らが関与した組織的犯行として直近のものと推察されること,本件襲撃の際に原告を襲う犯人を制止しようとB運転手が両名の間に割って入ったこと(前記認定事実等⑸参照),本件襲撃の当日及び 翌日に真実は犯行に用いられた凶器が出刃包丁であった(上記(ア)参照) - 20 -にもかかわらず,新聞各紙では凶器が鉈のようなものであった旨の報道がなされていたこと(弁論の全趣旨)と整合し,Aが前記UことVに対し,自らが本件襲撃の実行犯であることを告白したものと解されるから,やはりAが本件襲撃の犯人であることを推認させるといえる。 (ウ) 以上によれば,本件襲撃には関与しておらず,犯人ではない旨のAの 供述(甲75)は信用することができず,Aが本件襲撃の犯人であったと優に認めることができる。 イ田中組の活動として,被告Hの指示に基づき行われたこと(ア)a 本件襲撃は,田中組序列2位の若頭であるI₁以下,組織委員長であるI₂,風紀委員長であるI₃,筆頭若頭補佐のI₄,組織委員であるP 及びA,組員であるR等,複数の田中組幹部を含む多くの田中組組員が関与し,暴力団である田中組の指揮命令系統に従って,I₁による直接・間接の指示の下,襲撃準備(原告の帰宅時間調査,本件軽自動車の調達等),襲撃の実行,襲撃後の罪証隠滅等の役割を分担した上で遂行されたものであり,そのこと自体から田中組序列1位の組長であ る被告Hも本件襲撃の共謀に加わり,その実行を指示したことが強く推認される。 また,原告は西田組にみかじめ料を支払う等しており(前記認定事実等⑴イ参照),原告に対する襲撃は西田組(工藤會においては田中組と同じく二次団体である。)との間でトラ が強く推認される。 また,原告は西田組にみかじめ料を支払う等しており(前記認定事実等⑴イ参照),原告に対する襲撃は西田組(工藤會においては田中組と同じく二次団体である。)との間でトラブルの契機となり得るこ と,被告Hは,田中組組長であるだけでなく,二次団体相互の関係に配慮が必要な工藤會理事長の立場にあること(甲4),原告は被告Hとも親交があり,被告Hとの間で金品のやり取り(正月の付き合いでの食料品購入,頼母子講,被告Hの誕生日祝い等)を行い,被告Hの母からも花を購入する等していたこと(甲66,67,70)に鑑み れば,I₁らが被告Hに無断で本件襲撃に及ぶとは考え難い。 - 21 -本件襲撃に関与した田中組組員が,当該関与を理由として処罰される等したことはうかがわれず(かえって実行犯であるAや一部の者は本件襲撃後に田中組内で昇進している。甲4〔資料2〕参照),平成24年2月頃に原告が被告Hの原告店舗への立入りを拒絶したことについて,本件襲撃の準備行為に従事していたI₄は被告Hが激怒してい る旨を述べていたこと(前記認定事実等⑴ア,同⑷ア参照),I₄は田中組組員による原告店舗の監視状況が収められていた可能性がある防犯カメラ映像について,被告Hの指示であるとして警察に提出しないよう求めていたこと(同⑷ア,⑹ウ参照)からすると,被告Hも本件襲撃の準備段階からその共謀に加わり,I₁に対して本件襲撃を指示し たと認められる。 b そして,標章制度をはじめとする暴力団(工藤會)排除の活動は,飲食店等から徴収するみかじめ料を主要な収入源の一つとしていた田中組に大きな打撃を与え得るものであったと解され,被告Hは,田中組の収入(原則として,その構成員等が受領したみかじめ料の半額) 飲食店等から徴収するみかじめ料を主要な収入源の一つとしていた田中組に大きな打撃を与え得るものであったと解され,被告Hは,田中組の収入(原則として,その構成員等が受領したみかじめ料の半額) を排他的に管理していた(甲5)ところ,原告店舗は平成24年8月14日に標章をターゲットとして塗料を吹き付けられる等の被害を受けており(前記認定事実等⑶イ参照),当該事件と本件襲撃は時期的に近接しているだけでなく,I₁,I₄らの指示の下,Aにより実行された点が共通している。これらの事情は,本件襲撃が上記事件と同様 に標章制度への対抗措置とした行われたことを推認させ,本件襲撃の指示者である被告Hが原告による工藤會排除に反発し,I₄に襲撃の準備行為をさせていたこと(前記認定事実等⑴ア,同⑷ア参照)も,上記推認に沿うものといえる。 c 以上によれば,本件襲撃は,田中組が,暴力団立入禁止の標章を掲 示等して工藤會を排除する活動に対抗して,その縄張りである繁華街 - 22 -の飲食店等からのみかじめ料収入を確保する等の目的で威力を誇示したものであり,工藤會を構成する田中組の活動として,田中組組長である被告Hの指示に基づき行われたものと認められる。 (イ) 被告らは,本件襲撃は,西田組へのみかじめ料支払等を背景に,原告に対して個人的な反感を抱いた田中組組員らが行った嫌がらせであり, 被告Hの指示の下で田中組の活動として行われたものではない旨主張する。 しかしながら,原告は,本件襲撃当時,襲撃に関与したI₁,I₂,I₃,P及びRとの間でトラブルはなく,実行犯であるAに至っては面識すらなかった旨を述べており(甲66から70),これらの田中組組員が 原告を襲撃する個人的な動機を有していた事実はうかがわれない。ま 及びRとの間でトラブルはなく,実行犯であるAに至っては面識すらなかった旨を述べており(甲66から70),これらの田中組組員が 原告を襲撃する個人的な動機を有していた事実はうかがわれない。また,原告が西田組に支払っていたみかじめ料や原告店舗への立入りについて,田中組と西田組との間に具体的なトラブルが存在したと認めるに足りる証拠もない。 被告らの主張は誤った前提に立つものとして採用できず,その他,被 告らがるる主張する点を考慮しても,上記(ア)の認定は左右されない。 ⑵ 被告C及び被告Dの暴対法31条の2に基づく責任についてア総論(ア) 暴対法31条の2は,指定暴力団員がその所属する指定暴力団の威力を利用して行う資金獲得行為により発生した損害について,直接の加害 者である末端の指定暴力団員には十分な資力がなく,損害の回復がされないおそれがある一方で,①指定暴力団の代表者等は,配下の指定暴力団員が資金獲得のために当該指定暴力団の威力を利用することを容認している(暴対法3条)ところ,このような威力を利用して行う資金獲得行為は,他人の権利利益を侵害する可能性が高いこと,②指定暴力団の 代表者等の統制は末端の指定暴力団員にまで及んでいることから,指定 - 23 -暴力団の代表者等は指定暴力団員の資金獲得行為による権利侵害を防止し得る立場にあること,③指定暴力団員による資金獲得行為は,当該指定暴力団の威力の維持拡大に資するとともに,指定暴力団の代表者等は,いわゆる上納金システムにより指定暴力団員による資金獲得行為による利益を享受する立場にあることから,指定暴力団の代表者等に配下 の指定暴力団員の威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任を負わせることとし,民法715条の規定を適用して代表者等の 金獲得行為による利益を享受する立場にあることから,指定暴力団の代表者等に配下 の指定暴力団員の威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任を負わせることとし,民法715条の規定を適用して代表者等の損害賠償責任を追及する場合において生じる被害者側の主張立証の負担の軽減を図ることを趣旨とした規定であると解される。 (イ) そして,暴対法31条の2の「代表者等」とは,「当該暴力団を代表 する者又はその運営を支配する地位にある者」(同法3条3号)を指すところ,同法31条の2の趣旨が上記(ア)のとおりであることからすれば,同条は,被害者保護の観点から,指定暴力団の代表者等には広く損害賠償責任を負わせる趣旨の規定と解され,暴力団の首領及び最高幹部会議の出席メンバー等は,組織内におけるその肩書の呼称を問わず,同 条にいう「代表者等」に当たると解するのが相当である。 また,暴対法にいう「指定暴力団員」とは,指定暴力団又は指定暴力団連合の構成員を指す(同法9条,2条5号,6号)ところ,同法における暴力団の「構成員」という概念は,当該暴力団の構成団体の構成員を含むものとして観念されている(暴対法2条2号参照)。そうする と,暴対法にいう「指定暴力団員」には,当該指定暴力団を構成する傘下組織の構成員が含まれるものと解され,上記(ア)記載の同法31条の2の趣旨は,指定暴力団を構成する傘下組織の構成員が当該指定暴力団の威力を利用して行う資金獲得行為についても妥当するから,同条にいう指定暴力団員の範囲をこれと別異に解すべき理由はない。したがって, 暴対法31条の2にいう「指定暴力団員」には,当該指定暴力団を構成 - 24 -する傘下組織の構成員が含まれると解するのが相当である。 さらに,暴対法31条の2は, がって, 暴対法31条の2にいう「指定暴力団員」には,当該指定暴力団を構成 - 24 -する傘下組織の構成員が含まれると解するのが相当である。 さらに,暴対法31条の2は,威力利用資金獲得行為を,「当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得,又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為」と定義する。かかる文言や上記(ア)記載の趣旨に照らすと,同条にいう「威 力利用資金獲得行為」に当たるためには,指定暴力団員が資金獲得行為を実行する過程において,当該指定暴力団の威力が何らかの形で利用されていれば足りると解するのが相当である。 以下,暴対法31条の2の上記各要件について検討する。 イ 「代表者等」 (ア) 平成23年7月に発足した五代目工藤會においては,被告Cが総裁,被告Dが会長,被告Hが理事長にそれぞれ就任した(前記前提事実⑴イ(ア)参照)ところ,○ⅰ他団体の最高幹部も出席して行われた五代目工藤會の継承式典の際に,Lから被告Cが四代目を継承した際と異なり,媒酌人が被告Cは引退せず席改め(被告Dが上座に座ること)もしない旨を 宣言したこと(甲8,甲63,乙イ3,4),○ⅱ五代目工藤會が他団体に発出した年賀状において,被告Cの名前が冒頭に記載され,被告Dの名前はその次に,被告Hの名前はそれ以降に記載されていたこと(乙イ2〔別紙〕)からすると,対外的には被告Cが最上位の扱いを受け,被告D,被告H以下が続く序列が定められていたといえる。 また, ○ⅲ五代目工藤會発足後に開催された事始め式(新年会)に被告Cが出席した際,被告Dの前を歩き,幹部組員等による挨拶も「総裁」,「会長」の順に,被告Cが上位者であることを示す方法で行わ また, ○ⅲ五代目工藤會発足後に開催された事始め式(新年会)に被告Cが出席した際,被告Dの前を歩き,幹部組員等による挨拶も「総裁」,「会長」の順に,被告Cが上位者であることを示す方法で行われたこと(甲8,乙イ2),○ⅳ北九州市a区所在の被告Cの自宅は,組員から「本家」と呼ばれ,五代目工藤會が発足した平成23年以降も二次 団体の組員が24時間交替制の当番及び部屋住みとして被告Cの身の回 - 25 -りの世話等を行っており,その費用は工藤會事務局から支出されていたこと(乙イ2から4),○ⅴ被告Dや被告Hはほぼ毎日,その他の幹部組員も頻繁に,被告Cに朝の挨拶をするためだけに上記被告Cの自宅を訪れていたこと(なお,かかる挨拶の際,被告Dは使用車両を被告C自宅敷地に乗り入れていたのに対し,被告Hは敷地内まで乗り入れることを 許されておらず,手前の路上で下車していた。甲8,乙イ2から4)からは,工藤會の組織内においても,被告Cを頂点(絶対的権力者)とする上記序列が徹底されていたと評価できる。 したがって,五代目工藤會の会長(直若〔二次団体の組長〕の親)として実権を握っていた被告D(甲4,8,乙イ3参照)だけでなく,総 裁である被告Cも,工藤會の実質的に最上位の立場にあった者として工藤會の首領であったといえ,いずれも暴対法31条の2の「代表者等」に該当すると認めるのが相当である。 (イ) 被告Cは,平成23年7月代替わり以降,工藤會を指揮する権能一切は被告Dに移譲されており,自身は隠居的な立場にすぎない旨主張す る。 しかしながら,○ⅵ工藤會の執行部として慶弔委員長を務めていたMが,被告C及び被告Dらと他団体への挨拶に赴いた際に被告Cの紹介を失念したことを理由に絶縁処分を受け,絶縁は執行 る。 しかしながら,○ⅵ工藤會の執行部として慶弔委員長を務めていたMが,被告C及び被告Dらと他団体への挨拶に赴いた際に被告Cの紹介を失念したことを理由に絶縁処分を受け,絶縁は執行部名義で行われるのが通常であるにもかかわらず,総裁である被告C名義で絶縁状が作成さ れ,同月,全国の暴力団組織に発送された出来事(甲8,乙イ3,4)に関して,絶縁の経緯や絶縁状の作成・発出からして被告Cの意向が強く働き,被告Dがその意向を汲んで絶縁処分を決定し,被告C名義で対外的に告知したと推認され,○ⅶ工藤會にとって最重要施設ともいうべき工藤會本部事務所(北九州市a区qに所在していたいわゆる工藤会館) の敷地及び建物は有限会社ソーメイ不動産が所有していたところ,その - 26 -代表取締役の地位は,工藤會の前身である工藤連合草野一家の総裁であったN又は前記Lから被告Cに継承されたものの,五代目工藤會体制の発足後も引き続き被告Cが務めており(被告Dは取締役にすぎなかった。),令和2年に同本部事務所が売却された際には,被告Cが前記ソーメイ不動産の代表者として売却のための契約書にも署名している(乙 イ3,4)。 被告Cは,五代目工藤會が発足し総裁に就任した後も,上記のような重要事項の決定に関与していたのであるから,名目的な地位にすぎない単なる隠居であったとは到底いえず,被告Cの上記主張は採用できない。 ウ 「指定暴力団員」,「威力利用資金獲得行為」(ア) 前記⑴イ(ア)記載のとおり,本件襲撃は,田中組組長である被告Hの指示に基づき,I₁,I₂,I₃,I₄,P,A及びR等,複数の田中組組員が関与して実行されたものであるところ,本件襲撃当時,工藤會は暴対法3条所定の指定暴力団に指定されていた(前記前提 ある被告Hの指示に基づき,I₁,I₂,I₃,I₄,P,A及びR等,複数の田中組組員が関与して実行されたものであるところ,本件襲撃当時,工藤會は暴対法3条所定の指定暴力団に指定されていた(前記前提事実⑴イ(ア)参照) のであるから,その二次団体である田中組の上記組員らは,同法31条の2の「指定暴力団員」に該当する。 (イ) また,田中組や西田組といった二次団体によるみかじめ料の徴収は,その上部団体である工藤會に対する恐怖等を背景として行われるものであり,これらの二次団体が徴収した金員の一部は上納金として工藤會に 納められていた(前記前提事実⑴イ(ア)参照)ことからすると,工藤會による集金システムの一部を構成していたといえるところ,本件襲撃の目的が暴力団立入禁止の標章を掲示する等して工藤會を排除する活動に対抗し,縄張り内の飲食店等から得られるみかじめ料の確保等にあることは前記⑴イ(ア)記載のとおりであって,被告Hら田中組組員は,工藤會排 除を試みていた原告を襲撃することを通じて,上記システムを阻害し, - 27 -工藤會の意に反する者は容赦なく加害する姿勢を暗に示し,同様の活動を行う他の飲食店等に対して恐怖による圧力を掛けることを企図したものと解される。 そうすると,本件襲撃は,それ自体においてみかじめ料徴収等の資金獲得行為が行われたものではないが,田中組が工藤會による集金システ ムの一環でもあるみかじめ料徴収等を行うに際し,組員が指定暴力団員としての地位に基づいて組織的な暴力行為を実行し,これにより田中組ひいては工藤會の収入の確保を図ったものであるから,まさに資金獲得行為を実行する過程で指定暴力団の威力が利用されたものといえ,暴対法31条の2の「威力利用資金獲得行為」に該当することは明らかであ 組ひいては工藤會の収入の確保を図ったものであるから,まさに資金獲得行為を実行する過程で指定暴力団の威力が利用されたものといえ,暴対法31条の2の「威力利用資金獲得行為」に該当することは明らかであ る。 エ以上より,被告C及び被告Dは,本件襲撃について,暴対法31条の2に基づき,原告に生じた損害を賠償する責任を負う。 ⑶ 被告Hの共同不法行為に基づく責任前記⑴イ(ア)記載のとおり,本件襲撃は,被告Hとの共謀の下,暴力団であ る田中組の指揮命令系統に従った活動として行われたものであり,被告H及び襲撃に関与した配下組員らの各行為は,いずれも民法709条の不法行為に該当し,本件襲撃はこれらの行為が関連共同して行われていることから,民法719条の共同不法行為に該当する。 被告Hは,本件襲撃について,共同不法行為に基づき,原告に生じた損害 を賠償する責任を負う。 3 原告の後遺障害の内容及び程度について⑴ 右股関節の機能障害等原告は,本件襲撃により右臀部の坐骨神経の神経束が断裂する傷害を負った(前記認定事実等⑺イ参照)ところ,かかる神経損傷を原因とする筋肉の 弛緩性麻痺により,原告の股関節の可動域角度は「外転+内転」(主要運 - 28 -動)は自動「右(患側)35°,左(健側)60°」,「外旋+内旋」(参考運動)は自動「右(患側)0°,左(健側)65°」であると認められ(甲58),主要運動の可動域が健側の2分の1をわずかに上回るものの,参考運動における可動域は健側の2分の1以下に制限されているといえる。 s病院の担当医による平成25年9月24日が症状固定日である旨の判断 (甲50,58〔別添1〕)に不合理な点はうかがわれず,原告には同日を症状固定日として後遺障害等級10級11 といえる。 s病院の担当医による平成25年9月24日が症状固定日である旨の判断 (甲50,58〔別添1〕)に不合理な点はうかがわれず,原告には同日を症状固定日として後遺障害等級10級11号の「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」が残存していると認められる。 他方,原告は,右臀部及び右膝下の疼痛等感覚障害も後遺障害に当たる旨主張するが,これらの症状は上記神経損傷の随伴症状であると解される(甲 58)から,上記機能障害の一部とみるべきであり,独立の後遺障害とは認められない。 ⑵ 外貌醜状原告は,本件襲撃により左顔面切創及び左顔面神経損傷の傷害を負い,s病院において瘢痕切除術等の治療を受けた(前記前提事実⑶イ,前記認定事 実等⑺ア参照)後も,皮膚の弛緩線を横切る位置に,頭部(毛髪部位)に長さ5Cm×幅2mm,前額部・外眼角部・頬部にかけて長さ12Cm×2mmの瘢痕(線状痕)が残存していると認められる(甲46,58)。 上記⑴と同様にs病院の担当医による平成25年9月24日が症状固定日である旨の判断(甲50,58〔別添1〕)に不合理な点はうかがわれず, また,上記瘢痕は,原告の頭部及び顔面の長大な範囲に及び,その位置及び性状からして一見して明らかな人目につくものといえ(なお,原告の近影は甲64,65参照。),実質的には鶏卵大面以上の瘢痕に準ずるものと評価できるから,原告には同日を症状固定日として後遺障害等級7級12号の「外貌に著しい醜状を残すもの」が残存していると認められる。 ⑶ 非器質性精神障害 - 29 -s病院精神科の担当医は,本件襲撃により原告がPTSDに罹患した旨の診断をしている(甲52)ところ,原告は突如として刃物で顔面を切り付けられ,併せて ⑶ 非器質性精神障害 - 29 -s病院精神科の担当医は,本件襲撃により原告がPTSDに罹患した旨の診断をしている(甲52)ところ,原告は突如として刃物で顔面を切り付けられ,併せて右臀部も突き刺される被害を受け,これにより生命の危機に瀕する事態に陥ったのであるから,本件襲撃は原告にとって破局的なストレスをもたらす出来事であったといえる。また,原告の治療にあたった医師らは 襲撃直後からPTSD発症の可能性がある旨指摘しており,実際にs病院への転院(平成24年9月10日)から間もなくしてフラッシュバック,不眠,犯人と似た服装の人物を避けようとする等の回避症状が確認されている(甲71から73)。 原告の担当医が,原告に対する継続的な診察やIES-Rの結果(前記認 定事実等⑺ウ参照)等を踏まえ,原告がPTSDに罹患している旨判断し,その症状が平成25年12月17日に固定したとしたこと(甲58〔別添5から7〕)に誤りはない。 そして,原告にみられるPTSDの症状は,抑うつ,不安,就労を含む全般的な意欲低下等であって,日常生活についても時に支援が必要とされてい る(甲58,72,73)ほか,現在もパニック等の症状がある(甲69,70,76)というのであるから,後遺障害等級9級10号の「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当する。 ⑷ 以上のとおり,原告の後遺障害は,①右股関節の機能障害等が後遺障害等 級10級11号,②頭部及び顔面の瘢痕が後遺障害等級7級12号,③PTSDが後遺障害等級9級10号にそれぞれ該当し,これに犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律施行令2条3項1号を適用すると,原告の後遺障害等級は併合6級 級7級12号,③PTSDが後遺障害等級9級10号にそれぞれ該当し,これに犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律施行令2条3項1号を適用すると,原告の後遺障害等級は併合6級と認められる。 4 損害額について ⑴ 入院雑費 18万4500円 - 30 -原告は,本件襲撃により平成24年9月7日から同年12月29日まで,平成25年9月4日から同月12日までの合計123日入院したことが認められ,その入院期間中に要した諸雑費は1日当たり1500円とするのが相当である。したがって,入院雑費として,18万4500円を認める。 計算式:1500円×123日=18万4500円 ⑵ 休業損害 286万6810円証拠(甲43,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件襲撃当時,原告は,同居する未成年の子2人のために家事に従事しつつ原告店舗等を経営する家事兼業者であったところ,原告店舗等の経営者として得ていた収入をは不明であるが,その家事労働の内容等としては,本件襲撃当時(平成24 年)の女性の学歴計・全年齢平均賃金である354万7200円に相当するものであったと認められる。これによれば,休業損害を算定するに当たっての基礎収入としては,年額354万7200円(日額9718円)とするのが相当である。 そして,原告の傷害の内容・程度,治療の経緯等に鑑みると,本件襲撃か らPTSDの症状固定日である平成25年12月17日までのうち,医療機関に入院した123日は100%,通院治療を受ける等したその余の344日間は少なくとも原告主張に係る50%の労働が制限されたと認めるのが相当であるから,休業損害として286万6810円を認める。 計算式:9718円×(123日×1+344日×0. その余の344日間は少なくとも原告主張に係る50%の労働が制限されたと認めるのが相当であるから,休業損害として286万6810円を認める。 計算式:9718円×(123日×1+344日×0.5)=286万6 810円⑶ 傷害慰謝料 1000万円本件襲撃は,暴力団がみかじめ料収入を確保する等の不当な目的の下,組織的に一市民である原告に危害を加えた殺人未遂行為であり,原告の顔面等を殺傷力の高い刃物で複数回にわたり攻撃する態様は残忍かつ卑劣というほ かない。原告は,出血性ショックにより死の危険がある状態に陥ったほか, - 31 -複数回にわたり手術を受ける等して長期間に及ぶ入通院を余儀なくされており,その他本件にあらわれた一切の事情を総合考慮すると,原告が本件襲撃及びその後の治療経過において受けた精神的苦痛を慰謝するための傷害慰謝料として,1000万円を認めるのが相当である。 ⑷ 後遺障害逸失利益 3645万3285円 ア原告は,平成10年頃から北九州市a区でスナック,ラウンジ等の接客業に従事しており,平成15年頃からは自身で店舗を経営するようになり,本件襲撃時も原告店舗等を営んでいた(甲43,66から70,76)のであるから,本件襲撃がなければ同様の事業に従事して稼働できたものと認められる。 そして,原告が未成年の子を養育する等して家事労働にも従事する家事兼業者であり,かつ,原告が本件襲撃当時に上記店舗経営等により得ていた実収入が不明であるという本件の事情の下では,後遺障害逸失利益を算定するに当たっての基礎収入は,最終的な症状固定時(平成25年)の女性の学歴計・全年齢平均賃金である353万9300円とするのが相当で ある。 イ前記3記載のとおり,原告には顔面の長大な 定するに当たっての基礎収入は,最終的な症状固定時(平成25年)の女性の学歴計・全年齢平均賃金である353万9300円とするのが相当で ある。 イ前記3記載のとおり,原告には顔面の長大な範囲に及ぶ瘢痕の後遺障害が認められるところ,スナックやラウンジ等の接客業の職歴が長い原告においては,本件襲撃がなければ同様の事業に従事し得たと認められる(上記ア参照)ものの,かかる接客業においては,他の職業と比して容貌や表 情がそれ自体重要な意味を持つことが多いと解され,かつ,その重要性は稼働の態様(従業員か経営者か等)によって異なるものではない。また,上記瘢痕の存在は本件襲撃の恐怖を想起させる等して原告(症状固定当時▽歳)に継続的な精神的負担をもたらし得るものであるほか,瘢痕の存在が職業に従事する上で一般的に必要となる円満な人間関係の構築や円滑な 意思疎通を実現する上で障害となり得るといえる。 - 32 -以上のほか,筋肉の弛緩性麻痺による右股関節の機能障害等は,右臀部の神経束の断裂を原因としているため,将来にわたり回復を見込むことができないこと,PTSDについても,一般的に症状の改善が期待され得るとしてもその治療には相当長期を要すること等の本件における具体的な事情を考慮すると,上記各後遺障害が原告の労働能力に与えた影響は甚大で あって,これを過小評価する被告らの主張は採用できない。 原告は,本件襲撃により,67歳に至るまでの▼年間を通じて,67%の労働能力を喪失したと認めるのが相当である。 ウしたがって,原告の後遺障害逸失利益は,3645万3285円と認められる。 計算式:353万9300円×0.67×15.3725(30年に対応するライプニッツ係数)=3645万3285円⑸ 後 告の後遺障害逸失利益は,3645万3285円と認められる。 計算式:353万9300円×0.67×15.3725(30年に対応するライプニッツ係数)=3645万3285円⑸ 後遺障害慰謝料 1180万円原告に現存する後遺障害の内容及び程度に照らし,後遺障害慰謝料として,1180万円を認めるのが相当である。 ⑹ 損益相殺 ▲535万4000円原告は,犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律に基づき,国から重傷病給付金120万円及び障害給付金415万4000円の合計535万4000円の支給を受けたことが認められ(甲54,55),同支給額を前記⑴から⑸までの損害から控除する(控除後の損害額 は,5595万0595円である。)。 ⑺ 弁護士費用 560万円本件事案の内容,本件訴訟における審理の経過等に照らせば,弁護士費用は560万円が相当である。 5 以上より,被告C及び被告Dは暴対法31条の2に基づき,被告Hは共同不 法行為に基づき,上記4記載の損害元本合計6155万0595円を賠償する - 33 -義務を負う。 また,暴対法31条の2に基づく損害賠償責任は使用者責任(民法715条)の特則と解され(前記2⑵ア(ア)参照),民法の適用を受ける(暴対法31条の3)から,被告らは上記金員及びこれに対する本件襲撃(不法行為)の日である平成24年9月7日から支払済みまで平成29年法律第44号による改 正前の民法所定の年5パーセントの遅延損害金を支払う義務を負い,かつ,被告らの上記損害賠償債務は互いに不真正連帯債務の関係に立つ。 なお,以上の認定説示からすれば,被告C,被告D及び被告Hの使用者責任に基づく請求の認容額は,これと選択的併合の関係にあ ,かつ,被告らの上記損害賠償債務は互いに不真正連帯債務の関係に立つ。 なお,以上の認定説示からすれば,被告C,被告D及び被告Hの使用者責任に基づく請求の認容額は,これと選択的併合の関係にある暴対法31条の2に基づく請求及び共同不法行為に基づく請求についての認容額を超えないことは 明らかである。 第4 結論以上のとおりであるから,原告の被告らに対する請求は,6155万0595円及びこれに対する平成24年9月7日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容 し,その余は理由がないから棄却することとする。 よって,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第6民事部 裁判長裁判官立川毅 裁判官橋口佳典 - 34 -裁判官田中悠
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