主文 被告人を懲役22年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1市ab丁目c番地付近道路において,運転開始前に飲んだ酒の影響により,前方注視が困難な状態で,普通乗用自動車を北方向から南方向に向けて時速約50ないし60キロメートルで走行させ,もってアルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させたことにより,その頃,同所付近道路において,進路左前方を自車と同一方向に歩行中のA(当時30歳),B(当時29歳),C(当時29歳)及びD(当時30歳)に気付かないまま,同人らに自車左前部を衝突させ,同人らをはね飛ばして路上に転倒させ,よって,前記Aに脳幹部離断等の傷害を負わせ,即時同所において,同人を前記傷害により,前記Bに骨盤骨折兼下肢軟部組織出血等の傷害を負わせ,同日午後4時45分頃,同所において,同人を前記傷害に基づく出血性ショックにより,前記Cに頭頂部左後半打撲等の傷害を負わせ,同日午後7時50分頃,札幌市d 区ef条gh丁目i番地所在のE病院において,同人を前記傷害に基づく外傷性脳腫脹により,それぞれ死亡させるとともに,前記Dに加療約1年間を要する右大腿骨骨幹部骨折,頸椎骨折等の傷害を負わせ,第2 前記日時場所において,前記普通乗用自動車を運転中,前記のとおり,前記Aらに傷害を負わせる交通事故を起こし,もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに,直ちに車両の運転を停止して同人らを救護する等必要な措置を講じず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。 (証拠)省略(危険運転致死傷罪の成立を認めた理由)被告人がアルコールを身体に保有する状態で自動車を運転して の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。 (証拠)省略(危険運転致死傷罪の成立を認めた理由)被告人がアルコールを身体に保有する状態で自動車を運転して事故を起こしたことは争いがない。そこで,被告人の飲酒状況や酔いの程度を見ていくと,被告人は,事故前日の正午頃に起床して夜間勤務を終えた後,睡眠をとらずに,事故当日の午前4時30分頃にビーチに到着し,その後,正午過ぎ頃までの7時間半近くもの長時間にわたって,つまみを口にすることもなく,分かっているだけでも生ビール中ジョッキ4杯,350ミリリットルの缶酎ハイ4,5缶,焼酎のお茶割り1杯といったお酒を断続的に飲み続け,遂に本人の言によっても泥酔して完全に酔い潰れてしまい,2時間程度寝込んでしまったというのである。目を覚ましてからも,シャワーを浴びた後の着替えがないという理由で,客席からも見える海の家の厨房内に下半身も露わになった全裸のままで入り,店の関係者から注意されるなど,第三者から見ても,まだ酒が残って酔っていると窺われるような行動をとっている。運転開始直前,つまり最後に酒を飲んでから4時間半程度経過した時点においても,被告人自身の感覚として,まだ二日酔いのような状態であり,体もだるく,目もしょぼしょぼするなど,体に酒が残っている感覚があったというのであるから,完全に酒が抜け切ってしらふの状態に戻ったとはとても言えず,むしろ,酒の影響による体調の変化を自覚するほどの酔いが残っていたと認められる。現に,事故から44分後の段階で,被告人の体内から呼気1リットル当たり0.55ミリグラムものアルコールが検出されており,その場に居た警察官の証言等によっても,被告人の目は充血し,酒の臭いは最初からかなり強く,事情聴取中に時折うとうとしたり,事故後の逃走経 トル当たり0.55ミリグラムものアルコールが検出されており,その場に居た警察官の証言等によっても,被告人の目は充血し,酒の臭いは最初からかなり強く,事情聴取中に時折うとうとしたり,事故後の逃走経路を正しく案内できなかったこともあったというのであるから,こうした点などもさきに述べた酔いの程度を裏付けている。 このような状態で,被告人は車の運転を開始し,ビーチを出て丁字路を曲がり,現場となった直線道路を走行した。この道路は,歩車道の区別や中央線のない幅員 4.7メートルのほぼ直線の道路で,見通しも良く,丁字路交差点から衝突地点までは約440メートルの距離があり,被告人が立ち会った実況見分によれば,衝突地点の約160メートル手前から被害者らを人として認識可能であった。被告人は,角を曲がってから車の速度を上げ,概ね時速50ないし60キロメートルの速度を維持しながら車を進行させ,そのまま,前方の道路左側を2列に固まって同一方向に歩いている被害者らに車を衝突させて次々とはね飛ばした。この間,被告人は,直線道路に入ってから間もなく,3,4秒後に,ズボンの右後ろポケットから右手でスマートフォンを取り出して左手に持ち替え,その約3秒後にスマートフォンの操作をするため,顔を真下に向けて,画面に目を落としている。5秒程度画面を見続けて操作をした後,対向車の有無を確認するため一瞬だけ顔を上げて右斜め前方直近に視線を向けたが,再び画面に目を落として4,5秒間画面を見続けながら操作をし続け,更にもう一度同様に一瞬だけ顔を上げてから再び画面を注視して操作を続けるなどし,4,5秒程度経過したところで衝突事故の衝撃を感じたというのである。ところで,被告人は,このように途中で2度顔を上げたとはいうものの,被告人質問における被告人の動作を見る限り,顔をほぼ真下に向 どし,4,5秒程度経過したところで衝突事故の衝撃を感じたというのである。ところで,被告人は,このように途中で2度顔を上げたとはいうものの,被告人質問における被告人の動作を見る限り,顔をほぼ真下に向けた状態から,前に向けてまた真下に戻し終わるまでの時間がせいぜい1秒程度であり,右斜め前方に視線をやった時間となると,文字通り瞬きする程度の瞬間的な動きでしかない。 しかも,被告人は,歩行者の確認という点については,全く意識をしていなかったというのであるから,単に顔を上げた動作をしただけであり,それが前方の安全を確認するものであったなどとは到底言えない。本来,前方を注視してさえいれば,容易に被害者らを発見可能であったにもかかわらず,被告人の運転というのは,最初にスマートフォンの画面を注視し始めてから衝突するまでの間を通じて,前方とりわけ歩行者の有無や安全などを全く確認しないまま,ほぼ画面だけを見続けるような運転であったと認められる。そのような形で基本的に画面を見続けていた時間は,被告人が述べる注視の時間を足していっても約15秒間にも達するし,直線道路に入ってから画面を注視し始めるまでの被告人の時間的な感覚の方が比較的正し いと仮定すると,最低でも20秒程度は注視し続けていたような計算になる。 そもそも,この道路を時速50ないし60キロメートルという速度で車を走行させながら,15ないし20秒程度もの間,下を向き続けるなどという運転の態様自体が,「よそ見」というレベルをはるかに超える危険極まりない行動としか言いようがない。2,3秒ならまだしも,およそ「よそ見」とは次元が異なる。事故の恐怖を感じることなく,こうした運転ができること自体が異常であるし,携帯電話の画面を見ながら運転することがある人にとっても,ここまでの危険な行為は自殺行為に等しく 「よそ見」とは次元が異なる。事故の恐怖を感じることなく,こうした運転ができること自体が異常であるし,携帯電話の画面を見ながら運転することがある人にとっても,ここまでの危険な行為は自殺行為に等しく,正常な注意力や判断力のある運転者であれば到底考えられないような運転である。このような運転の状態が,「前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができる状態」と対極にあることは,誰が見ても明らかである。したがって,被告人は,本件の当時,道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態,すなわち,正常な運転が困難な状態にあったことが客観的に見て明らかといえる。 そして,被告人がこれほどまでに異常な運転をしたのは,表面的にはスマートフォンの操作に熱中したことによるものであるが,それは,とりもなおさず,運転をする者の務めとして常に前方の安全を確認しながら車を走行させなければならないという最も基本となる注意力や判断力をほぼゼロに等しいくらいに失っていたからにほかならない。被告人自身,この道路の人通りが少ないとはいえ,歩行者が通ることもあることは分かっていたというのに,本件では,まずスマートフォンを操作しようとする段階から,歩行者の確認という点につき全く意識すらしていなかったというのであって,このことからも,被告人の注意力等が著しく減退していた様子を見て取ることができる。さきに見たとおり,酒の影響による体調の変化を本人が自覚するほど被告人に酔いが残っていたことを併せ考えると,このような単なる油断では説明の付かないような著しい注意力の減退や判断力の鈍麻は,常識的に見て,まさにその酒の影響によるものとしか考えられない。2,3秒程度であれば,何かの拍子に手元やスマートフォンなどに気を取られることはあるかもしれないが,1 5秒 退や判断力の鈍麻は,常識的に見て,まさにその酒の影響によるものとしか考えられない。2,3秒程度であれば,何かの拍子に手元やスマートフォンなどに気を取られることはあるかもしれないが,1 5秒から20秒にわたって,例えば酒も飲んでいない人の注意を引きつけてやまないような特異な画面があるとはとても思われない。実際,被告人は,LINEを立ち上げようとしていただけである。被告人は,体に酒が残っていないと仮定しても,今回の事故を起こしたであろうなどとも述べているが,現に体に酒が残っていると自覚している人間が,あれだけ注意力等を極端に欠く運転をしておきながら,何の根拠があって酒の影響が全くないなどと言い切れるのか,理解に苦しむところである。結局,被告人がアルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させて人を死傷させたことは明らかである。もとより,被告人は,酒による身体の変調についての自覚もあり,特段運転中に意識を失ったりすることもなく,自分の行った危険な運転行為について余すところなく認識しているのであるから,故意についても問題なく認められる。 なお,被告人は,普段酒を飲まずに運転するときでも,スマートフォンを操作するなどしてよそ見をしながら運転することがあったなどとも述べている。しかし,今回の事故の原因が単なる「よそ見」というレベルから大きくかけ離れていることは既に判断したとおりであるし,また,被告人がいう「普段」にしたところで,道路等の前提条件や運転の具体的態様等を含めて本件の事故のときとすべて条件が同一であるなどといったことはないのであるから,比較の意味も乏しい。仮に,被告人が本件事故の直後,事故の原因が酒ではなく普段の「よそ見」と同じだと考えていたというのであれば,その判断自体がまさにアルコールの影響で相当鈍っていると のであるから,比較の意味も乏しい。仮に,被告人が本件事故の直後,事故の原因が酒ではなく普段の「よそ見」と同じだと考えていたというのであれば,その判断自体がまさにアルコールの影響で相当鈍っているとしか言いようがないし,今も同じだと考えているとなると,運転とは名ばかりの行為を運転と言うに等しく,常軌を逸している。いずれにしても,今回の異常な運転におけるアルコールの影響を否定する理由になるとは全く考えられない。 (法令の適用)罰条判示第1の所為各被害者ごとに自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条1号(死亡させた場合。危険運転致 死の点),同号(負傷させた場合。危険運転致傷の点)判示第2の所為道路交通法117条2項,1項,72条1項前段(救護義務違反の点),同法119条1項10号,72条1項後段(報告義務違反の点)科刑上一罪の処理刑法54条1項前段,10条(判示第1につき,重い各危険運転致死罪の犯情の軽重を決することができないので,一罪として危険運転致死罪の刑で,判示第2につき重い救護義務違反罪の刑でそれぞれ処断)刑種の選択懲役刑(判示第2の罪)併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(刑を決めた理由)高校時代からの仲良し4人組であった被害女性らは,海水浴を楽しんだ後,家路に向かう途中,一瞬にして地獄に突き落とされるかのように,被告人の危険運転の犠牲となった。被告人は,4時間半ほど前まで,記憶をなくしたり,酔いつぶれて寝てしまうほど酒を飲み続けていたにもかかわらず,運転しても大丈夫な程度に酔いは覚めているなどと甘く考え,しか の危険運転の犠牲となった。被告人は,4時間半ほど前まで,記憶をなくしたり,酔いつぶれて寝てしまうほど酒を飲み続けていたにもかかわらず,運転しても大丈夫な程度に酔いは覚めているなどと甘く考え,しかも,たばこを買いに行くなどという自分の欲求を満たすためだけの全く取るに足りない理由で飲酒運転をした。スマートフォンの画面を見続けてほとんど前を見ないという被告人の運転は,繰り返すまでもなく,通常では考えられないほど無謀で危険極まりないものである。これだけの事故を起こしながら,被害女性らの安否を確認せず,道ばたに放置したまま走り去っている。 被害者や遺族の思いは,このような悲惨な事故が,いかに多くの人の人生を狂わせ,どれだけ時間が経っても癒すことができない深い傷を与えるものかを物語るものである。今回の事件は,被害の大きさだけをとってみても,アルコールの影響による 危険運転の類型の中で,これまでの例を相当上回る重みがあると考えられるし,しかもひき逃げまでしているのであるから,被告人が被害者や遺族に謝罪していることなどを考えても,懲役22年とするのが相当である。 (求刑主位的訴因につき懲役22年,予備的訴因につき懲役14年)平成27年7月9日札幌地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官佐伯恒治 裁判官多々良周作 裁判官加々美 希
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