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平成10刑(わ)1130 虚偽診断書作成、同行使被告

裁判所

平成13年10月9日 東京地方裁判所

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73,167 文字

主文 被告人は無罪。理由 第一本件公訴事実の要旨一主位的訴因(起訴状記載の公訴事実)の要旨被告人は、A病院泌尿器科医師であるが、平成八年三月二日に同病院に入院したBの治療に当たっていたところ、同月三日午前六時三〇分、同人が死亡したため、同日、同病院において、死亡届等に添付してC市役所に提出すべき同人の死亡診断書を作成するに当たり、同人の負傷の部位・程度等から、意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行が加えられたものであり、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないことを認識しながら、死亡診断書の原因Ⅰ欄の(ア)直接死因欄に「急性心不全」、同欄の(エ)(ウ)の原因欄に「転倒、転落」、死因の種類欄に「外因死、不慮の外因死、転落・転倒」、外因死の追加事項の手段及び状況欄に「飲酒后、全身打撲の痛みで気付いた、階段からの転落か」などと虚偽の記載をし、もって、虚偽の死亡診断書一通を作成した上、同月四日、C市役所において、情を知らない第三者を介して、同市役所市民課市民係員に対し、右死亡診断書の内容が真実であるもののように装い、提出して行使したものである。二予備的追加的訴因(以下、単に「予備的訴因」ともいう。)の要旨被告人は、A病院泌尿器科医師であるが、平成八年三月二日に同病院に入院したBの治療に当たっていたところ、同月三日午前六時三〇分、同人が死亡したため、同日、同病院において、死亡届等に添付してC市役所に提出すべき同人の死亡診断書を作成するに当たり、同人の負傷の部位・程度等から、同人の死因は、主として同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したことによるものと認識しながら、死亡診断書の原因Ⅰ欄の(ア)直接死因欄に「急性心不全」、同欄の(エ)(ウ)の原因欄に「転倒、転落」、死因の種類欄に「 度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したことによるものと認識しながら、死亡診断書の原因Ⅰ欄の(ア)直接死因欄に「急性心不全」、同欄の(エ)(ウ)の原因欄に「転倒、転落」、死因の種類欄に「外因死、不慮の外因死、転落・転倒」、外因死の追加事項の手段及び状況欄に「飲酒后、全身打撲の痛みで気付いた、階段からの転落か」などと虚偽の記載をし、もって、虚偽の死亡診断書一通を作成した上、同月四日、C市役所において、情を知らない第三者を介して、同市役所市民課市民係員に対し、右死亡診断書の内容が真実であるもののように装い、提出して行使したものである。 )(ウ)の原因欄に「転倒、転落」、死因の種類欄に「外因死、不慮の外因死、転落・転倒」、外因死の追加事項の手段及び状況欄に「飲酒后、全身打撲の痛みで気付いた、階段からの転落か」などと虚偽の記載をし、もって、虚偽の死亡診断書一通を作成した上、同月四日、C市役所において、情を知らない第三者を介して、同市役所市民課市民係員に対し、右死亡診断書の内容が真実であるもののように装い、提出して行使したものである。第二本件審理の経緯一起訴状に対する求釈明及びこれに対する検察官の釈明等 1 第一回公判期日(平成一〇年六月一九日)において、弁護人が、「①起訴状に『階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないことを認識しながら』とあるのは、階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないことを被告人が確定的に認識していたことを意味するのか、②起訴状に摘示された死亡診断書(以下「本件死亡診断書」という。)の記載の全てが虚偽という趣旨か、③被告人はこれらの記載が『虚偽』であることを確定的に認識して『記載』したという趣旨か」などと求釈明したのに対し、検察官は、右②の点につき、「Bの負傷の部位・程度等から、意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行が加えられたものであり、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないことが明白であったのに、直接死因として『急性心不全』と記載したこと、『全身打撲、出血』の原因として『転倒・転落』と記載し、外因死の追加事項の手段及び状況欄に『飲酒后、全身打撲の痛みで気付いた、階段からの転落か』と記載したこと、死因の種類欄の、自殺、他殺その他及び不 『全身打撲、出血』の原因として『転倒・転落』と記載し、外因死の追加事項の手段及び状況欄に『飲酒后、全身打撲の痛みで気付いた、階段からの転落か』と記載したこと、死因の種類欄の、自殺、他殺その他及び不詳の外因としての『不詳の外因死』の項目を選択せず、不慮の外因死の項目中の『転倒・転落』を選択したこと等の各記載があいまって、死亡の原因に関する本件死亡診断書の記載が全体として内容虚偽となった」旨釈明し、その余の求釈明事項については、必要に応じて、立証段階で明らかにする予定であると述べた。2 さらに、同期日において、弁護人が、右①及び③の求釈明事項に関し、本件公訴事実には、未必の故意を含む趣旨であるのかどうかなどと繰り返し釈明を求めたの対し、検察官は、「釈明の必要なし」と述べるにとどまったが、裁判所が、「起訴状の記載が『死亡したものではないことを認識しながら』となっているので、死亡したのかもしれないと認識したのとは違うという前提で審理を進める」旨述べたのに対しては、検察官、弁護人とも異議を述べず、その後の審理が進められた。 及び③の求釈明事項に関し、本件公訴事実には、未必の故意を含む趣旨であるのかどうかなどと繰り返し釈明を求めたの対し、検察官は、「釈明の必要なし」と述べるにとどまったが、裁判所が、「起訴状の記載が『死亡したものではないことを認識しながら』となっているので、死亡したのかもしれないと認識したのとは違うという前提で審理を進める」旨述べたのに対しては、検察官、弁護人とも異議を述べず、その後の審理が進められた。二予備的訴因変更請求に至る経緯 1 第二五回公判期日(平成一二年九月七日)におけるD検事の証人尋問後である平成一二年一〇月五日、裁判所、検察官、弁護人の三者による打ち合わせの席で、裁判所が、「これまでの審理経過に鑑み、Bの死亡原因に関する被告人の認識内容及び死亡診断書の記載内容が虚偽であることにつき、この段階で検察官の主張を具体的に示されたい」と釈明を求めたのに対し、検察官は、同月三一日付け釈明書において、公訴事実中の、Bの「負傷の部位・程度から、意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行が加えられたものであり、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないことを認識し」とは、被告人において、Bが「意図 傷の部位・程度から、意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行が加えられたものであり、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないことを認識し」とは、被告人において、Bが「意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと認識していたこと」を意味する旨釈明した。2 その後、検察官は、同年一一月三〇日、前記予備的訴因にかかる追加的予備的訴因変更を請求した。三予備的訴因についての求釈明及びこれに対する検察官の釈明等 1 第二八回公判期日(平成一二年一二月二一日)において、弁護人が、予備的訴因について、「被告人においてBが『階段からの転落等によって負傷した』と認識していた場合にも、なお、被告人に対する虚偽診断書作成罪が成立するという趣旨か」などと求釈明したが、検察官は釈明に応じなかった。2 裁判所は、同公判期日において、検察官に対し、予備的訴因について、「Bの『死因は、主として同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したことによるものと認識しながら』とあるが、第一に、『主として』との記載及び主位的訴因についての検察官の平成一二年一〇月三一日付け釈明書の記載からすると、Bに階段からの転落等による負傷があり、この負傷もその死因に寄与していたと被告人が認識していたことを前提としつつ、意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたことによってBが負傷したことが、死亡の主たる原因であると被告人が認識していたという趣旨に理解してよいか、第二に、予備的追加的訴因の主張が、主位的訴因についての検察官の平成一二年一〇月三一日付け釈明書による釈明を経てな 記載からすると、Bに階段からの転落等による負傷があり、この負傷もその死因に寄与していたと被告人が認識していたことを前提としつつ、意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたことによってBが負傷したことが、死亡の主たる原因であると被告人が認識していたという趣旨に理解してよいか、第二に、予備的追加的訴因の主張が、主位的訴因についての検察官の平成一二年一〇月三一日付け釈明書による釈明を経てな したことが、死亡の主たる原因であると被告人が認識していたという趣旨に理解してよいか、第二に、予備的追加的訴因の主張が、主位的訴因についての検察官の平成一二年一〇月三一日付け釈明書による釈明を経てなされたものであることを踏まえると、右主張は、Bの死因についての被告人の認識について、『主として』Bが意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したことによるものに限定する趣旨に理解してよいか(右負傷の寄与の程度が『主として』よりも低い場合についての黙示的な主張は含まない趣旨に理解してよいか。)、第三に、検察官が主張するBの死亡原因についての被告人の認識を前提とした場合、それぞれ死亡診断書には死因についてどのように記載すべきであるかについて明らかにされたい」などと釈明を求め、予備的訴因変更を許可すること自体については異議を述べないとの弁護人の意見を聴取した上、予備的訴因変更を許可した。裁判所の右求釈明に対し、検察官は、平成一三年一月一九日付け釈明書において、右求釈明事項の第一、第二については「そのとおりである」と、第三については「死亡の原因欄に、『暴行』又は『暴行及び転落』、死因の種類欄に『10他殺』又は『11その他及び不詳の外因』、外因死の追加事項欄には、負傷の部位・程度及びそれから推認される暴行を受けた際の状況等を記載すべきである」と釈明した。3 また、同月二三日、裁判所、検察官、弁護人の三者で行われた打合せの席で、裁判所が、「検察官は、以前、主位的訴因における被告人の認識について、確定的な認識であると釈明されたが、平成一三年一月一九日付け釈明書の記載からすると、予備的追加的訴因における被告人の認識についても、被告人が確定的に認識していたという主張であると理解してよいか」と釈明を求めたのに対し、検察官は、「そのとおりである」と 日付け釈明書の記載からすると、予備的追加的訴因における被告人の認識についても、被告人が確定的に認識していたという主張であると理解してよいか」と釈明を求めたのに対し、検察官は、「そのとおりである」と釈明した。 け釈明書の記載からすると、予備的追加的訴因における被告人の認識についても、被告人が確定的に認識していたという主張であると理解してよいか」と釈明を求めたのに対し、検察官は、「そのとおりである」と 日付け釈明書の記載からすると、予備的追加的訴因における被告人の認識についても、被告人が確定的に認識していたという主張であると理解してよいか」と釈明を求めたのに対し、検察官は、「そのとおりである」と釈明した。第三本件の主たる争点と当事者双方の主張の要旨等一本件の主たる争点本件では、被告人が本件死亡診断書を作成し、第三者を介してこれを提出して行使したこと、さらに、客観的にはBが階段から転落して負傷した事実はなく、同人が死亡したのは暴行を受けて負傷したためであること、したがって、被告人が本件死亡診断書の死亡の原因欄に「転倒、転落」、死因の種類欄に「外因死、不慮の外因死、転倒・転落」などと記載したのは、客観的には誤りであったこと、以上の点については争いがなく、本件において問題となるのは、本件当時、被告人がBの死亡についてどのような認識を有していたのか、その認識内容からみて、実際に被告人が本件死亡診断書の死亡の原因欄等に記載した内容が、虚偽といえるのかどうかである。このような観点に立って、前記のような、本件の主位的訴因及び予備的訴因の各文言、訴因変更等の経緯、検察官の釈明内容等から、本件の主たる争点を具体的に敷衍すれば、第一は、本件死亡診断書を作成したころ、被告人において、Bが意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと確定的に認識していたかどうか(主位的訴因における被告人の認識内容)であり、この認識内容が、本件各証拠によって合理的な疑いを入れる余地なく認定できるのであれば、本件死亡診断書の死亡の原因欄等の記載が虚偽であることは明らかである。第二は、本件死亡診断書を作成した であり、この認識内容が、本件各証拠によって合理的な疑いを入れる余地なく認定できるのであれば、本件死亡診断書の死亡の原因欄等の記載が虚偽であることは明らかである。第二は、本件死亡診断書を作成したころ、被告人において、Bが階段からの転落等によって負傷したことが事実であると認識していたとしても、同人が死亡したのは、主として同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したためであると確定的に認識していたかどうか(予備的訴因における被告人の認識内容)であり、この認識内容が、本件各証拠によって合理的な疑いを入れる余地なく認定できる場合には、検察官が平成一三年一月一九日付け釈明書において釈明したように、本件死亡診断書を作成するに当たっては、死亡の原因欄に「暴行」又は「暴行及び転落」、死因の種類欄に「10他殺」又は「11その他及び不詳の外因」、外因死の追加事項欄に、負傷の部位・程度及びそれから推認される暴行を受けた際の状況等を記載すべきであるから、本件死亡診断書の死亡の原因欄等の記載は虚偽である、といいうるかどうかである。 きる場合には、検察官が平成一三年一月一九日付け釈明書において釈明したように、本件死亡診断書を作成するに当たっては、死亡の原因欄に「暴行」又は「暴行及び転落」、死因の種類欄に「10他殺」又は「11その他及び不詳の外因」、外因死の追加事項欄に、負傷の部位・程度及びそれから推認される暴行を受けた際の状況等を記載すべきであるから、本件死亡診断書の死亡の原因欄等の記載は虚偽である、といいうるかどうかである。二当事者双方の主張の要旨 1 検察官の主張の要旨検察官は、(一) 本件各証拠によれば、(1) Bの負傷状況は、その外表検査だけからでも、一見して人の暴行によるものであると認識できたこと(2) Bに暴行を加えて死に至らせたEほか数名が、「Bの負傷状況は、眼の周りが赤く腫れ上がり、両腕や両太股も赤く腫れ上がった状態で、一見して暴行によるものであると分かる状態であった」旨供述していること(3) A病院でBに対する治療が行われた時点において、その治療に当たった複数の医師及び看護婦が、Bの負傷状況につき、「階段から落ちてできるけがではない」などと認識していたこと(4) 治療の際、Bが「けんかをして・ 対する治療が行われた時点において、その治療に当たった複数の医師及び看護婦が、Bの負傷状況につき、「階段から落ちてできるけがではない」などと認識していたこと(4) 治療の際、Bが「けんかをして・・・」と言いかけるや、被告人が、「階段から落ちただろう」などと直ちに告げてBの言動を遮ったこと(5) 被告人が、本件死亡診断書を作成する前、F看護婦作成に係る当初の看護記録に記された「けんかをして階段から落ちた」との記載を発見し、G看護婦を通じ、F看護婦に「階段から転落」と訂正させた上、同女に謝辞を告げたこと(6) 被告人がEから受領した三〇万円は、被告人がBの死亡を暴行によるものとして警察へ通報することをせず、転倒・転落による死亡とする死亡診断書を作成したことに対する謝礼の趣旨で交付されたものであること(7) 被告人は、Bの死亡から約半年経ったころ、E組事務所を訪れて会話していた際、Eに対し、「病院の方はみなきれいになったので、組員から話が出なければ、事件のことは心配ない」旨の言葉を告げたこと(8) 被告人には、Eとの懇意な交際状況からして、Eが警察に逮捕されるのを防ぐため、Bが暴行によって死亡したのではない旨の内容虚偽の死亡診断書を作成する動機があったことなどが認められ、これらの事実からすれば、被告人が、本件死亡診断書を作成する時点において、Bが意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと確定的に認識していたことは明白であり、その認識内容と異なる虚偽内容を記載する旨の故意を有していたと優に認められる旨(二) また、仮に、被告人がBの負傷原因につき、人の暴行によるものだけ おいて、Bが意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと確定的に認識していたことは明白であり、その認識内容と異なる虚偽内容を記載する旨の故意を有していたと優に認められる旨(二) また、仮に、被告人がBの負傷原因につき、人の暴行によるものだけ はないと確定的に認識していたことは明白であり、その認識内容と異なる虚偽内容を記載する旨の故意を有していたと優に認められる旨(二) また、仮に、被告人がBの負傷原因につき、人の暴行によるものだけではなく階段からの転落をも含むと認識していたとしても、関係各証拠に照らせば、被告人において、Bの死の主たる原因が暴行であると認識していたことは明白である旨主張する。2 弁護人の主張の要旨これに対し、弁護人は、(一)(1) A病院は、被告人の個人病院ではなく、被告人以外の多数の医師や看護婦が患者の治療に関与する総合病院であること(2) 現に、Bの診察・治療には、被告人以外の多数の医師や看護婦が関与したこと(3) 被告人が、被告人以外の医師や看護婦がBの治療に関与することを妨げようとしたことはなかったこと(4) それどころか、被告人は、Bの病院到着前に病院に現れず、Bの負傷状況を最初に検査し問診したのは、被告人以外の医師や看護婦だったこと(5) また、被告人はBを診察した後一旦帰宅し、Bの診療を被告人以外の医師や看護婦が行うことができるような状態を現出させていること(6) 被告人が一旦帰宅したのは、Bに対する一応の治療行為が終わったためであり、現にBには、血圧の上昇、心音の触診による確認、尿の生成など、一時的であれ、症状の改善が認められたこと(7) Bが重体に陥った後、被告人は、Eの来院を求め、Bの死亡後、Eと面談したが、その際、被告人とEとの間で、不自然な会話は交わされておらず、死亡診断書に関する会話は一切なされていないこと(8) 被告人が作成した退院・転科時要約に不自然な記載は認められないこと(9) A病院では、死亡した患者については、主治医以外の各科の責任者たる医師により診療記録等が検討され、必要があればデス (8) 被告人が作成した退院・転科時要約に不自然な記載は認められないこと(9) A病院では、死亡した患者については、主治医以外の各科の責任者たる医師により診療記録等が検討され、必要があればデスカンファレンスで症例の検討が行われるが、被告人のBに対する治療行為については問題がないとの判定が下され、デスカンファレンスで取り上げるべき症例とはされなかったこと(10) Bの治療行為の適否については、平成八年三月から四月にかけて、当時の院長も検討したが、警察の捜査に委ねられるべき事件とはされなかったこと(11) 被告人は、平成九年秋ころから、Bの死亡をめぐって、恐喝未遂の被害にあったが、その際、被告人は、自ら警察に出頭して、Bの治療経過を説明しており、かつ、そのことについて、弁護士と相談したり、Eと口裏合わせをするなどの行為を行っていないことなどの事実は、Eの被告人に対する依頼に犯罪的な色彩がなかったこと、被告人は被告人以外の医師や看護婦がBの治療に関与することに全く無関心だったこと、また、Bが死亡した後も、Bの死亡にEが関係しているなどとは全く考えておらず、Bは階段から転落したために負傷したと信じ込んでいたことを示している。 過を説明しており、かつ、そのことについて、弁護士と相談したり、Eと口裏合わせをするなどの行為を行っていないことなどの事実は、Eの被告人に対する依頼に犯罪的な色彩がなかったこと、被告人は被告人以外の医師や看護婦がBの治療に関与することに全く無関心だったこと、また、Bが死亡した後も、Bの死亡にEが関係しているなどとは全く考えておらず、Bは階段から転落したために負傷したと信じ込んでいたことを示している。(二) ところが、本件の起訴検事は、(1) 捜査段階において鑑定書等を作成したH鑑定でさえ、被告人のBに対する医療行為に不適切な点はなかったとしているのに、これを無視し、(2) 被告人がBをA病院泌尿器科病棟(第三病棟四階)に入院させたのは、Bを治療するためではなく、Eらによるリンチ事件の発覚を恐れて、Bを囲い込むためであったとし、(3) 被告人以外の医師や看護婦が、異口同音に、Bが階段から落ちて負傷したこと自体は事実だと思っていた旨述べていたのに、あえてこれを過小評価し、あたかも、Bの負傷状況を見て、階 めであったとし、(3) 被告人以外の医師や看護婦が、異口同音に、Bが階段から落ちて負傷したこと自体は事実だと思っていた旨述べていたのに、あえてこれを過小評価し、あたかも、Bの負傷状況を見て、階段から転落したのではなく、暴力を受けたと判断した旨、同検事の考える真実に沿った検面調書を作成した上、(4) 信用性に乏しいいくつかの情況証拠を漫然と重ね合わせ、被告人に有利な消極的情況証拠を完全に無視して、被告人を起訴したものであり、被告人が、本件死亡診断書を作成する時点において、「Bが、意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと認識していたこと」を支える証拠はほとんど存在しない。(三) また、被告人が、Bの負傷の一部は暴行によってできたものだと認識していたと仮定しても、Bの死亡の主たる原因となったのが、階段からの転落による負傷部分ではなく、暴力行為による負傷部分であると、被告人が確定的に認識していたことについては、全く立証がない。(四) したがって、いずれにしても被告人は無罪である、というのである。三検討の手法被告人は、捜査公判を通じて、「Bが意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと認識していた」又は「Bが階段からの転落等によって負傷したことが事実であると認識していたが、同人が死亡したのは、主として同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したためであると認識していた」との趣旨の供述はして 打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと認識していた」又は「Bが階段からの転落等によって負傷したことが事実であると認識していたが、同人が死亡したのは、主として同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したためであると認識していた」との趣旨の供述はして の転落等によって負傷したことが事実であると認識していたが、同人が死亡したのは、主として同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したためであると認識していた」との趣旨の供述はしておらず、その他本件全証拠を見渡しても、本件死亡診断書作成のころ、被告人が検察官主張のような認識を有していたことを示す直接証拠は存在しない。したがって、本件の主たる争点を判断するに当たっては、まず、本件死亡診断書作成のころの被告人の認識に関し、客観的事実関係を確定した上、被告人以外の関係者の供述をはじめとして、Bの負傷あるいは死亡の原因に関する被告人の認識を推認するのに資すると考えられる間接事実を積み重ねるとともに、これと対比しつつ被告人の供述の信用性を吟味し、最終的にこれらを総合して、被告人において検察官主張のような認識を有していたことが合理的な疑いを入れない程度にまで立証されているかどうかを検討すべきである。第四関係証拠によって認められる客観的事実関係一被告人及びEの身上経歴、両者の関係等 1 被告人は、広島県の私立I中学・高校からJ医学部に進み、昭和四六年三月同大学を卒業した後、同年六月国家試験に合格して医籍登録をし、K県立病院、J医学部付属病院を経て、昭和五四年四月からA病院泌尿器科医師として勤務するようになり、平成八年三月当時は同科の医長を勤めていた。なお、被告人は、本件による起訴後、同病院を退職し、現在は開業医として稼働している。2 Eは、被告人と同じ私立I中学・高校に通ったが、同高校を中退した後、暴力団員として活動するようになり、平成八年三月当時は、E組組長として、組長代行L、同M、幹事長N、組織委員長O、組員P和重(以下「P」という。)、組員Q、組員R、組員Bらを配下に従えていた。3 Eは、I中学・高校時代、サッ り、平成八年三月当時は、E組組長として、組長代行L、同M、幹事長N、組織委員長O、組員P和重(以下「P」という。 は、被告人と同じ私立I中学・高校に通ったが、同高校を中退した後、暴力団員として活動するようになり、平成八年三月当時は、E組組長として、組長代行L、同M、幹事長N、組織委員長O、組員P和重(以下「P」という。)、組員Q、組員R、組員Bらを配下に従えていた。3 Eは、I中学・高校時代、サッ り、平成八年三月当時は、E組組長として、組長代行L、同M、幹事長N、組織委員長O、組員P和重(以下「P」という。)、組員Q、組員R、組員Bらを配下に従えていた。3 Eは、I中学・高校時代、サッカー部に所属しており、被告人の実兄の一年先輩であったことから、遅れて同じサッカー部に所属するようになった被告人もEの存在を認識していた。被告人は、東京に出てきてから、I高校サッカー部の同窓会でEと会って言葉を交わし、また、Eが暴力団組織に属していることを聞き知ったが、平成二、三年ころから、実兄に誘われてEの妻の経営していた飲食店で飲食するようになり、その後、Eから依頼されてその長男の診察を行い、更にE本人の診療を担当したり、その実弟にA病院の医師を紹介するなど、Eと親しくしていた(なお、被告人自身、弁八号証において、Sなる者に対して、Eと親しくしていると告げた旨記載している。)。二 Bの負傷原因等 1 E組の組員であったBは、組事務所に寝泊まりしながら、Eの車の運転手を務め、Eの自宅の家賃や自動車ローン、駐車場使用料、保険料等の支払いを任されていたところ、死亡する数年前から、これらの支払いのためにEから渡された金を自己の遊興のために使い込んでいた。Eは、平成八年三月一日、Bの右使い込みに気付き、同日午後一時ころ、E組事務所において、Bの頭頂部、側頭部、顔面等を竹刀や手拳で多数回殴打し、さらに、同人をブリーフと半袖シャツの下着姿で正座させた上、その左顔面を手拳で一、二回殴り付け、スリッパを履いたまま、同人の腹部、大腿部をところ構わず足蹴にするなどの暴行を加えた。2 その後、Eは、Bの両親にBが使い込んだ金を弁償させようと考え、配下のOを呼んだが、間もなく事務所にやって来たOは、EがBに暴行を加えているのを見て、自らもBに対する暴行に加わり を加えた。2 その後、Eは、Bの両親にBが使い込んだ金を弁償させようと考え、配下のOを呼んだが、間もなく事務所にやって来たOは、EがBに暴行を加えているのを見て、自らもBに対する暴行に加わり、さらに、それを見たQもBに対する暴行に加わった。 両親にBが使い込んだ金を弁償させようと考え、配下のOを呼んだが、間もなく事務所にやって来たOは、EがBに暴行を加えているのを見て、自らもBに対する暴行に加わり を加えた。2 その後、Eは、Bの両親にBが使い込んだ金を弁償させようと考え、配下のOを呼んだが、間もなく事務所にやって来たOは、EがBに暴行を加えているのを見て、自らもBに対する暴行に加わり、さらに、それを見たQもBに対する暴行に加わった。E、O、Qの三名は、同日午後二時過ぎころから、三、四〇分間にわたって、O及びQにおいてBの横側からその頭部、肩、腕、太股等を多数回にわたって足蹴にし、EにおいてBの正面からその胸や腹、顔等を蹴り、さらに、苦痛のため前屈みになったBの後頭部を足底で踏みつけるなどのリンチを加えた。Oにおいては、Bに背を向けて、付近の家具に手を付き、反動をつけて、Bの太股を力一杯かかとで後ろ蹴りすることもあった。3 Eらは、同日午後三時ころ、Bに対する暴行を止めたが、その時点で、Bの目の周りは赤く腫れ上がり、両腕や大腿部も腫れ上がっていた。そのころ、Eが、Bに対して、「病院に行くか」などと尋ねたのに対し、Bは「病院はいいです」などと答えたが、飲み物を摂っただけで食事はしなかった。4 翌二日になると、Bの顔面の腫れ、特に目の周りの腫れはさらにひどくなり、太股や腕もさらに腫れ上がって、紫色に変わっていた。また、小便をしたいが出ないなどと訴えるようになった。Eは、Bを病院に連れて行くべきかどうか迷ったが、B本人が病院に連れて行ってくださいと言い出したことなどから、同日午後七時ころになってようやく、病院に連れて行くことを決めた。三 Eの被告人に対する依頼の状況等 1 Eは、同日午後七時三〇分ないし午後八時ころ、E組事務所から被告人に電話して、「うちの若いもんが小便が出ないと言っているから、見てくれんかの」などと言って、Bの診察を依頼した。被告人は、これを了承し、患者をすぐにA病院に連れてくるようにと言った。2 な 被告人に電話して、「うちの若いもんが小便が出ないと言っているから、見てくれんかの」などと言って、Bの診察を依頼した。被告人は、これを了承し、患者をすぐにA病院に連れてくるようにと言った。2 なお、Eからの依頼について、被告人は、捜査段階では、自宅に電話がかかってきた旨(平成一〇年四月二六日付け警察官調書、乙3)、あるいは、知人のパーティーに出席して帰宅途中、妻から携帯電話に連絡が入り、Eから自宅に電話があったと聞いたので、自分の方からEに電話を入れた旨(同年五月八日付け警察官調書、乙4)供述していたのに、公判段階では、妻と銀座のすし屋で食事をしているところに電話がかかってきた旨供述を変えており、被告人がEからの依頼をどこで受けたかについては、証拠上確定し難い。 (平成一〇年四月二六日付け警察官調書、乙3)、あるいは、知人のパーティーに出席して帰宅途中、妻から携帯電話に連絡が入り、Eから自宅に電話があったと聞いたので、自分の方からEに電話を入れた旨(同年五月八日付け警察官調書、乙4)供述していたのに、公判段階では、妻と銀座のすし屋で食事をしているところに電話がかかってきた旨供述を変えており、被告人がEからの依頼をどこで受けたかについては、証拠上確定し難い。しかし、いずれにせよ、その際、Eが、Bの真の負傷原因を説明したと認めるに足りる証拠はない。3 Eは、Oと相談して、「Bは、三月一日深夜、酒に酔っ払って、事務所に帰ってきた。Bに聞いたら、階段から滑り落ちて大けがをしたと言っていた。自分は事務所からの連絡でBが階段から落ちてけがをしたことを知った」という嘘の話を作り上げた上、リンチに加わっていないNを呼び、「Bは、酒を飲んで階段から滑り落ちた」、「A病院のT先生(被告人のこと。Tは被告人の旧姓)に連絡しておいたから、T先生のところへ連れて行け」、「病院へ行ったら、Bは階段から落ちてけがしたことにしろ。俺からもよく言い聞かせておくから、お前からもBが病院へ行って余計なことを言わないよう言い聞かせておけ」などと命じ、B本人に対しても、「お前は階段から落ちたことにしろ。病院へ行っても余計なことを言うんじゃないぞ」などと言い含めた。4 Nは、同じくリンチに加わっていないRとともに、Bを車に乗せてA病院に向かうとともに、配下のPに連絡し 階段から落ちたことにしろ。病院へ行っても余計なことを言うんじゃないぞ」などと言い含めた。4 Nは、同じくリンチに加わっていないRとともに、Bを車に乗せてA病院に向かうとともに、配下のPに連絡して、A病院で待つようにと指示した。一方、Eは、Oとともに身を隠すことにし、Uホテルにチェックインした上、警察の動きやBの容態を見極めることとした。四被告人の病院に対する連絡の状況、当時の病院の態勢等 1 Eの依頼を受けた被告人は、A病院の救急室に電話し、電話に出たV看護婦に対し、尿閉の患者がこれから行くからなどと連絡したが、被告人自身は、直ちには病院に向かわず、患者が到着したらポケットベルを鳴らしてくれなどと依頼した。2 当日の救急室の夜勤勤務は、V看護婦と、W看護婦の二人であり、V看護婦から電話の内容を聞いたW看護婦は、急患が来ることを守衛室に連絡するとともに、夜間管理婦長であったX婦長に対しても、被告人から尿の出ない患者が来ると連絡があったことを伝えた。 看護婦に対し、尿閉の患者がこれから行くからなどと連絡したが、被告人自身は、直ちには病院に向かわず、患者が到着したらポケットベルを鳴らしてくれなどと依頼した。2 当日の救急室の夜勤勤務は、V看護婦と、W看護婦の二人であり、V看護婦から電話の内容を聞いたW看護婦は、急患が来ることを守衛室に連絡するとともに、夜間管理婦長であったX婦長に対しても、被告人から尿の出ない患者が来ると連絡があったことを伝えた。3 当日の内科の当直医は、Y医師、Z医師、レジデント(研修医)のa医師の三人であった。五 Bが病院に到着した直後の状況等 1 Bは、同日午後八時五〇分ころ、A病院に到着し、先に到着していたPが用意していた車椅子に乗せられて、救急室に運ばれた。2 V看護婦やW看護婦がBを救急室のストレッチャーに寝かせ、V看護婦がけがの原因を尋ねたところ、付き添っていたNが「階段から落ちた」、「何日か前だ」などと答えた。また、Z医師が「どうしたの」などと声をかけたのに対し、B自身も、「転んだ」「一日前に転んで、一日寝ていたけど調子が悪いから、連れてきてもらった」などと答えた。さらに、W看護婦が、血圧を測る際、「どうしたの」などと尋ねたのに対しても、Bは小さな声で「転んだ」と答えた。3 被告 転んで、一日寝ていたけど調子が悪いから、連れてきてもらった」などと答えた。さらに、W看護婦が、血圧を測る際、「どうしたの」などと尋ねたのに対しても、Bは小さな声で「転んだ」と答えた。3 被告人は、Bが到着したとの連絡を受けて、同日午後九時過ぎころ、救急室に到着し、ストレッチャーの上にあおむけで横たわっていたBに対し、「どうしたの」と聞いた。これに対し、Bは、「階段から落ちたんです」などと答え、付添いの一人も、「酒に酔って落ちたんだ」と言った。4(一) なお、Nは、公判廷において、「私が診療申し込みを書いている途中であったと思うが、『どうしたんだ』と聞かれたBが、『けんかしてやられちゃいました』と答え、これに対し、T医師が、間髪を入れずに、『階段から落ちてけがしたんだろう』と言うのが聞こえた」旨供述し(N八回、なお、証人や被告人の公判廷における供述については、公判調書中の供述部分と、当公判廷における供述を区別することなく、単に「供述」、「証言」と表記する。)、検察官は、これを、被告人が虚偽診断書作成罪等の故意を有していたことを示す間接事実として挙げている(前記第三の二の1の(一)の(4))。 え、これに対し、T医師が、間髪を入れずに、『階段から落ちてけがしたんだろう』と言うのが聞こえた」旨供述し(N八回、なお、証人や被告人の公判廷における供述については、公判調書中の供述部分と、当公判廷における供述を区別することなく、単に「供述」、「証言」と表記する。)、検察官は、これを、被告人が虚偽診断書作成罪等の故意を有していたことを示す間接事実として挙げている(前記第三の二の1の(一)の(4))。(二) しかしながら、Nは、「このようなやり取りを聞いたのは、私が救急室の入口近くにいたときで、救急室の奥の方にいたT医師やBとは四メートルか五メートル離れていたと思うが、はっきり聞こえた。このやり取りを聞いたとき、年輩の看護婦さんは私のそばにおり、他の二人くらいの看護婦さんは、点滴とかそういうことをしていたと思う」などと述べているところ、このようなNの供述が真実であるとすれば、被告人が救急室に現れる前に、Bらから前記2のとおり負傷原因を聞いていた医師や看護婦にとってみれば、患者がこれまでと異なる負傷原因を述べ始めたのに対し、遅れて救急室に来 Nの供述が真実であるとすれば、被告人が救急室に現れる前に、Bらから前記2のとおり負傷原因を聞いていた医師や看護婦にとってみれば、患者がこれまでと異なる負傷原因を述べ始めたのに対し、遅れて救急室に来た被告人が真実の負傷原因を知っており、患者の訴えを遮るような発言をしたというのであるから、極めて記憶に残りやすい会話であると思われるのに、その場にいたはずのZ医師、a医師、X婦長、V看護婦、W看護婦のいずれも、Bが「けんかをしてやられた」旨言い、間髪を入れずに被告人が「階段から落ちてけがしたんだろう」などと言うのを聞いたと供述していないのは、不自然というほかない。また、Bは、前認定のとおり、Eから、「階段から落ちたことにしろ。病院へ行っても余計なことを言うんじゃないぞ」などと言い含められ、Z医師やW看護婦に対しては、指示どおり「転んだ」などと話し、さらに、後記のとおり、泌尿器科病棟に入院した後、F看護婦からけがの原因を尋ねられた際にも、「けんかをして階段から落ちた」などと言っていたのであるから、Bの言動としても、同人が、被告人以外の医師や看護婦も多数いる面前で、「けんかしてやられた」と述べたというのは、甚だ不自然である。以上の点に加えて、Nは、Eから、「お前からもBが病院へ行って余計なことを言わないよう言い聞かせておけ」などと言われて来たというのであるから、Nが、真実、Bにおいて「けんかしてやられちゃいました」と言うのを聞き、被告人以外の医師や看護婦もこれを聞いた可能性があると認識したのであれば、直ちに、その旨Eに報告して然るべきであるが、この点につき、「報告したような気もするが、はっきりはよく覚えていない」などと曖昧な供述をしており、EやOも、Nからそのような報告を受けたとは全く供述していないこと、さらに、E組は、検察官による本件の捜査当 るから、Nが、真実、Bにおいて「けんかしてやられちゃいました」と言うのを聞き、被告人以外の医師や看護婦もこれを聞いた可能性があると認識したのであれば、直ちに、その旨Eに報告して然るべきであるが、この点につき、「報告したような気もするが、はっきりはよく覚えていない」などと曖昧な供述をしており、EやOも、Nからそのような報告を受けたとは全く供述していないこと、さらに、E組は、検察官による本件の捜査当 つき、「報告したような気もするが、はっきりはよく覚えていない」などと曖昧な供述をしており、EやOも、Nからそのような報告を受けたとは全く供述していないこと、さらに、E組は、検察官による本件の捜査当時既に分裂状態にあり、Nにおいても、検察官に対し、Eは組長として失格であるなどと述べていたこと(D二五回)、したがって、Nにおいては、Eに対する敵意から、Eと親しかった被告人に対しあえて不利益な供述をしている可能性がないとはいえないことなども考慮すると、Nの前記公判供述の信用性には多大の疑問があり、結局のところ、「Bが『けんかしてやられちゃいました』と言ったのに対して、被告人が、『階段から落ちただろう』などと直ちに告げてBの言動を遮った」とする検察官主張の間接事実は、これを認めるに足りないというべきである。六救急室に運び込まれた当時のBのけがの状態等 1 救急室に運び込まれた当時、Bは意識こそはっきりしていたものの、呼吸が速く、血圧も低く、顔面は蒼白であった。顔面左眼瞼部には青紫色の顕著な内出血(いわゆるブラックアイ)があって、瞼がうまく閉じられない状態であった。また、左右の側頭部及び左の後頭部に何か所か内出血があったが、被告人は左側頭部から頭頂部にかけて一つ、二つのいわゆるたんこぶがあるのを認識した。2 手足には、両前腕外側の肘関節に近い部分、両足の、膝から上の大腿部の一部の前面及び膝から下の両下腿の一部の前面から側面にかけて、左右とも同じくらいの位置にほぼ対称の内出血があった(なお、H鑑定人は、F看護婦が看護記録に記載した人体図等を根拠に、Bには、両下腿ないし両下肢の前面に全体に膜状に広がった内出血があったと認定し、これを前提に鑑定を行っている(H一一回、一三回)ところ、かかる事実が認め難いことについては後述する。)。3 腹部、 Bには、両下腿ないし両下肢の前面に全体に膜状に広がった内出血があったと認定し、これを前提に鑑定を行っている(H一一回、一三回)ところ、かかる事実が認め難いことについては後述する。 に記載した人体図等を根拠に、Bには、両下腿ないし両下肢の前面に全体に膜状に広がった内出血があったと認定し、これを前提に鑑定を行っている(H一一回、一三回)ところ、かかる事実が認め難いことについては後述する。)。3 腹部、 Bには、両下腿ないし両下肢の前面に全体に膜状に広がった内出血があったと認定し、これを前提に鑑定を行っている(H一一回、一三回)ところ、かかる事実が認め難いことについては後述する。)。3 腹部、背部等に内出血はなかったが、B本人は上腹部の強い痛みを訴えていた。胸部には小さな内出血があった。なお、Bは、左第九肋骨を骨折していたが、本件当時Bの診察に関与した被告人やその他の医師、更にレントゲン技師も見逃してしまう程度のもので、ほかに顕著な骨折はなかった。4 被告人は、Bの問診及び触診を行った後、バルーンカテーテルを尿道に入れて導尿を試みたが、尿はほとんど出なかった。被告人は、輸液を指示するとともに、CTスキャンによる全身の断層撮影を依頼し、レントゲン技師やa医師、Z医師とともに、CT写真を検討した。CT写真により、頭部や腹部からの内出血はないことがわかり、被告人、Z医師、a医師の三人で、Bの症状について、挫滅症候群ではないかと話し合った。七 Bが泌尿器科病棟に入院することとなった経緯等 1 被告人は、同日午後九時過ぎころ、泌尿器科病棟のナースステーションに電話し、当日の準夜勤勤務についていたF看護婦に対し、「大部屋でいいから一床空けておいてくれ」などと指示した。2 同日午後一〇時前ころ、X婦長が「ICU(集中治療室)のベッドは空いています。一人部屋は零病棟しか空いてません」などと述べて、Bをどこに入院させるつもりか尋ねたのに対し、被告人は返事をせず、X婦長が巡回に出た後、V看護婦やW看護婦に対し、Bを泌尿器科病棟の大部屋に入院させるよう指示した。3 V看護婦やW看護婦は、「大部屋でいいんですか。ICUのベッドも空いていますよ」、「ICUに入れなくていいんですか」などと言って聞き直したが、被告人は「いいんだ」、「病棟の方がおしっ 示した。3 V看護婦やW看護婦は、「大部屋でいいんですか。ICUのベッドも空いていますよ」、「ICUに入れなくていいんですか」などと言って聞き直したが、被告人は「いいんだ」、「病棟の方がおしっこの管理がしやすい」などと言って聞かなかった。 、「大部屋でいいんですか。ICUのベッドも空いていますよ」、「ICUに入れなくていいんですか」などと言って聞き直したが、被告人は「いいんだ」、「病棟の方がおしっ 示した。3 V看護婦やW看護婦は、「大部屋でいいんですか。ICUのベッドも空いていますよ」、「ICUに入れなくていいんですか」などと言って聞き直したが、被告人は「いいんだ」、「病棟の方がおしっこの管理がしやすい」などと言って聞かなかった。また、そのころ、Z医師及びa医師は、被告人に対し、ICUに入れるか、他の救急施設のより整った病院に転院させた方がよいのではないかと進言したが、被告人は、「自分のところで診るから。責任は取る」などと言って応じなかった。4 Bは、同日午後一〇時ころ、第三病棟四階の泌尿器科病棟の六人部屋に入院した。V看護婦は、F看護婦に申し送りをする際、「私はこの患者さんはICUの対象だと思うのよ。ベッドが空いているので、ICUでどうですかとT先生に話したんだけど、一般病棟でいいと言うのよ」などと話した。5 被告人は、第三病棟四階のナースステーションにいたとき、やって来たX婦長から、重ねて「ICUが空いていますよ」と進言されたが、「保険を持っていないような患者をICUに入れても金を取れないだろう」などと述べて、BをICUに入れることに同意しなかった。6(一) 以上に対し、被告人は、公判廷において、BをICUに入れるよう進言してきた医師や看護婦はいなかった、もしそのような進言があれば、なぜICUに入れないかそこで議論があったと思うなどと供述している。(二) しかしながら、ICUに入れるか入れないかをめぐってやり取りがあったことについては、被告人以外の多くの関係者の検察官調書(Z医師につき甲17、a医師につき甲18、X婦長につき甲22、W看護婦につき甲23、V看護婦につき甲25)に録取されている上、Z医師、X婦長にあっては、公判廷でも同様の証言をしているのである(Z五回、X二回)。もっとも、V看護婦は、公判廷では、 につき甲22、W看護婦につき甲23、V看護婦につき甲25)に録取されている上、Z医師、X婦長にあっては、公判廷でも同様の証言をしているのである(Z五回、X二回)。もっとも、V看護婦は、公判廷では、「Bを泌尿器科に入院させること自体は別におかしいとは思わなかった。驚いたのは、入院させるため泌尿器科に連れて行った時点で、大部屋に入院させることを知ったからである」などと供述する(V一九回)。 判廷では、 につき甲22、W看護婦につき甲23、V看護婦につき甲25)に録取されている上、Z医師、X婦長にあっては、公判廷でも同様の証言をしているのである(Z五回、X二回)。もっとも、V看護婦は、公判廷では、「Bを泌尿器科に入院させること自体は別におかしいとは思わなかった。驚いたのは、入院させるため泌尿器科に連れて行った時点で、大部屋に入院させることを知ったからである」などと供述する(V一九回)。しかしながら、同看護婦の捜査段階における供述は、救急室の看護婦から「私はこの患者さんはICUの対象だと思うのよ。ベッドが空いているので、ICUでどうですかとT先生に話したんだけど、一般病棟でいいと言うのよ」などと聞いたとするF看護婦の検察官に対する供述(甲24)や、同看護婦のV看護婦から「私はICUの対象だと思うんだけれども、ICUも空いているということなんだけれども」などと申し送りを受けた旨の公判廷における供述(F三回)によって、十分裏付けられており、信用性が高いというべきである。そして、以上からすると、被告人が、Bの入院場所を決めるに際し、他の医師や看護婦らからICUに入れなくて良いのかという進言があったのに、これを採用することなく、泌尿器科病棟に入院させたものであることについては、合理的な疑いを入れる余地がないというべきである。八泌尿器科病棟における治療状況等 1 泌尿器科病棟に入院したBは、六人部屋のベッドの上で、胃が痛い、のどが乾いた、体中が痛いなどと訴えていた。F看護婦は、Bの付添いの者が病室を離れた隙に、「何で階段から落ちたの」などとBに尋ね、B本人から、「けんかをして階段から落ちた」などと聞いた。そこで、同看護婦は、それまでに「96 3/1 AM 階段から転落」などと記載してあった看護記録の現病歴欄の「階段から」という記載の前に、「 、B本人から、「けんかをして階段から落ちた」などと聞いた。そこで、同看護婦は、それまでに「96 3/1 AM 階段から転落」などと記載してあった看護記録の現病歴欄の「階段から」という記載の前に、「けんかをして」という記載を書き加えた。2 被告人は、Bが泌尿器科病棟に入院し、容態が落ち着いたものと判断して、同日午後一一時ころまでには病院を離れたが、同日午後一一時二〇分ころ、F看護婦から、ポケットベルの連絡を受け、その後電話で話した際、Bの血圧が下がって脈拍も触知しにくくなっているなどと報告を受け、昇圧剤の点滴の量を増やすようになどと指示した。 護記録の現病歴欄の「階段から」という記載の前に、「けんかをして」という記載を書き加えた。2 被告人は、Bが泌尿器科病棟に入院し、容態が落ち着いたものと判断して、同日午後一一時ころまでには病院を離れたが、同日午後一一時二〇分ころ、F看護婦から、ポケットベルの連絡を受け、その後電話で話した際、Bの血圧が下がって脈拍も触知しにくくなっているなどと報告を受け、昇圧剤の点滴の量を増やすようになどと指示した。3 F看護婦は、三月三日午前零時ころ、深夜勤のG看護婦らと交替したが、その少し前、G看護婦に対し、「午後一〇時ころ入院したBさんは、階段から落ちておしっこが出ない、T先生の知り合いのやくざの人である。ICUでなく大部屋に入院したけれども、重症であり、話が違う」などと引き継いだ。4 X婦長は、三月二日午後一一時四五分ころ、準夜勤の看護婦の見送りに出たが、第三病棟四階の看護婦が降りてこなかったことから、翌三日午前零時一〇分ころ、第三病棟四階の様子を見に行ったところ、Bは、何度も嘔吐し容態が悪い様子であった。X婦長に呼ばれたa医師は、Bの胃の内容物を取り出すため、Bの鼻からチューブを入れたが、Bはなお腹痛を訴え、血圧も上がらなかった。そのため、a医師は、X婦長に指示して、内科の主任当直医であったY医師を呼ばせた。Y医師は、Bの様子からみて、内科だけでは手に負えないと考え、外科の当直医であった整形外科のb医師に連絡を取るように指示し、やって来たb医師やa医師とともに、BのCT写真や血液検査結果を検討した結果、Bは打撲による多臓器不全の状態にあり、また、カタボンHIという昇圧剤を大量に投与されたため、か に連絡を取るように指示し、やって来たb医師やa医師とともに、BのCT写真や血液検査結果を検討した結果、Bは打撲による多臓器不全の状態にあり、また、カタボンHIという昇圧剤を大量に投与されたため、かえって臓器の機能が低下している可能性があると診断したが、Bの容態が非常に悪かったため、主治医である被告人の判断を求める必要があると考え、看護婦に被告人を呼び出すよう指示した。5 被告人は、看護婦からの呼び出しを受けて、同日午前一時過ぎころ、再び病院にやって来て、Y医師から、「昇圧剤が多く入ってしまっているので、何とかした方がよい。血圧が下がっている。患者の容態が悪いので、ICUに入れた方がいい」などと言われたが、「点滴をして、胃の中を洗い流すほかないからいいんだ。 常に悪かったため、主治医である被告人の判断を求める必要があると考え、看護婦に被告人を呼び出すよう指示した。5 被告人は、看護婦からの呼び出しを受けて、同日午前一時過ぎころ、再び病院にやって来て、Y医師から、「昇圧剤が多く入ってしまっているので、何とかした方がよい。血圧が下がっている。患者の容態が悪いので、ICUに入れた方がいい」などと言われたが、「点滴をして、胃の中を洗い流すほかないからいいんだ。僕が診るから」などと言って断った。X婦長は、Y医師が引き下がるのを見て、他の患者に部屋を移ってもらって一人部屋を作り、被告人の了解を取った上、Bを一人部屋に移した。6 被告人は、Bに対し、昇圧剤や、胃痛を緩和する麻薬を投与するなどしたが、Bの容態は改善せず、同日午前四時二〇分ころには、血圧がかなり下がって、瞳孔が散大するなど、危険な容態となった。被告人は、同日午前六時ころ、ICUの当直医であったc医師を呼び、同医師とともにBの救命に当たったが、Bは、同日午前六時三〇分ころ、死亡した。九本件死亡診断書の作成状況等1(一) Bの死亡を確認した被告人は、第三病棟四階のデイルームで待機していたBの付添いの者にBが死亡したことを説明した後、間もなく、ナースステーションにおいて、本件死亡診断書を作成した。(二) ところで、検察官は、論告において、被告人が本件死亡診断書の作成に取りかかったころ、Nから、「いまがたされると困る」などと告げられたことがあり(論告書五頁)、これはNが被告 書を作成した。(二) ところで、検察官は、論告において、被告人が本件死亡診断書の作成に取りかかったころ、Nから、「いまがたされると困る」などと告げられたことがあり(論告書五頁)、これはNが被告人に対し暗に事件のもみ消しを依頼したものであると主張している(論告書二九頁)。確かに、被告人の平成一〇年四月二六日付け警察官調書(乙3)には、Bの死亡後、病棟の外の廊下に出ると、そこにはE組の若い衆が三、四人いて、その中の一人が「今、ガタガタされては困るんだよな」と言った、という供述が録取されている。しかしながら、当裁判所の取り調べたNの検察官調書(甲16)の弁護人同意部分には、被告人の捜査段階における右供述に符合する部分はなく、また、Nは、公判廷においては、平成八年三月三日午前三時か四時ころ、被告人に呼ばれて部屋に入り、被告人からBが危ないという話を聞いたが、それ以降被告人と会ったことはなく、被告人からBの死亡原因について説明を受けたことはない、と供述している(N八回)。 述が録取されている。しかしながら、当裁判所の取り調べたNの検察官調書(甲16)の弁護人同意部分には、被告人の捜査段階における右供述に符合する部分はなく、また、Nは、公判廷においては、平成八年三月三日午前三時か四時ころ、被告人に呼ばれて部屋に入り、被告人からBが危ないという話を聞いたが、それ以降被告人と会ったことはなく、被告人からBの死亡原因について説明を受けたことはない、と供述している(N八回)。また、被告人の捜査段階における供述をみても、平成一〇年四月二六日付け警察官調書に録取された右供述は、その後録取された同年五月八日付け警察官調書(乙4)、同月一二日付け警察官調書(乙5)には録取されておらず、各供述調書中にも、この供述が脱落した理由を説明するものはない。そうすると、以上のような証拠関係のもとでは、被告人が本件死亡診断書の作成に取りかかったころ、Nから、「いまがたされると困る」などと告げられたとする検察官主張の事実は、これを認めるに足りないというべきである。2(一) そして、被告人は、平成八年三月三日午前七時三〇分ころ、Bが死亡した旨の連絡を受けて駆けつけたEに対し、既に作成し終えていた本件死亡診断書を見せ、「全身打撲で急性腎不全を起こしたので、腎機能 (一) そして、被告人は、平成八年三月三日午前七時三〇分ころ、Bが死亡した旨の連絡を受けて駆けつけたEに対し、既に作成し終えていた本件死亡診断書を見せ、「全身打撲で急性腎不全を起こしたので、腎機能回復のために保存的治療をしたが、急に心臓がおかしくなり、いろいろ手をつくしたけれどもだめだった。Bさんは元々心臓に何かあったんでしょうかね」などと話した。これに対し、Eは、「あっそうかな、わしは知らんな」と応じた後、「今、警察に入られると困るんじゃがの」などと言った。(二) Eのこのような言動については、後述のとおり信用性が高いと認められる被告人の平成一〇年五月八日付け警察官調書(乙4)及び同月一二日付け警察官調書(乙5)によって認めたものである(被告人の供述調書の信用性については後にまとめて検討する。)。被告人は、公判廷においては、「Eから、『今、警察に入られると困るんじゃがの』などと言われたことはない、言われたのは、『本当今ごたごたがたがたしてたらおれも困るんだ』ということである、また、Eに死亡診断書を見せたことはない」などと供述する。 平成一〇年五月八日付け警察官調書(乙4)及び同月一二日付け警察官調書(乙5)によって認めたものである(被告人の供述調書の信用性については後にまとめて検討する。)。被告人は、公判廷においては、「Eから、『今、警察に入られると困るんじゃがの』などと言われたことはない、言われたのは、『本当今ごたごたがたがたしてたらおれも困るんだ』ということである、また、Eに死亡診断書を見せたことはない」などと供述する。しかしながら、Eが「今、警察に入られると困るんじゃがの」と言ったとする点については、E自身は、右のような被告人の五月八日付け警察官調書における供述録取内容を知っていたと推察できるD検事の同月一一日の取調べにおいて、「あなたは、T医師に対して、『今警察に入られると困るんじゃがの。』などと言って、Bのけがが傷害事件によるものであるのに、警察に通報したりせず、階段から落ちたという内容の嘘の死亡診断書を書いてくれるように頼んだのではありませんか」と問われたのに対して、これを否定しており(Eの同月一一日付け検察官調書、甲11)、被告人が供述したのでなければ調書化し難い内容であり、かつ、それが捜査官の創作であるのであ 頼んだのではありませんか」と問われたのに対して、これを否定しており(Eの同月一一日付け検察官調書、甲11)、被告人が供述したのでなければ調書化し難い内容であり、かつ、それが捜査官の創作であるのであれば、少なくとも被告人において署名指印することに、強いためらいを抱いてもおかしくない内容であるのに、被告人が同月一一日付けで作成した上申書(弁5)にも、この点については全く触れるところがない。また、Eに死亡診断書を見せたとの点については、Eが、捜査、公判を通じて供述している上、被告人自身も同月一二日付け警察官調書(乙5)で認めているところであって、これまた動かし難いところというべきである。3 被告人は、Eと話をした後、泌尿器科病棟のナースステーションに戻り、「死亡診断書を書いたから、取りに来たら渡してくれ」などと言って、封筒に入った本件死亡診断書をG看護婦に渡した。G看護婦は、間もなく死亡診断書を取りに来た者にこれを渡した。4(一) また、その後、被告人は、泌尿器科病棟のナースステーションで、看護記録の現病歴欄に「けんかをして階段から転落」などと記載されていることに気付き、G看護婦に対し、看護記録に「けんかをしてと書いてあるが、確認しないで書くのはまずい、F看護婦に書き直すように言ってくれ」などと指示した。 って、封筒に入った本件死亡診断書をG看護婦に渡した。G看護婦は、間もなく死亡診断書を取りに来た者にこれを渡した。4(一) また、その後、被告人は、泌尿器科病棟のナースステーションで、看護記録の現病歴欄に「けんかをして階段から転落」などと記載されていることに気付き、G看護婦に対し、看護記録に「けんかをしてと書いてあるが、確認しないで書くのはまずい、F看護婦に書き直すように言ってくれ」などと指示した。(二) G看護婦は、平成八年三月三日、自宅にいたF看護婦に対し、他の看護婦を介して、被告人の指示を伝えた。F看護婦は、その指示を、看護記録を全文書き直すようにとの指示と受け取り、「けんかをして階段から転落」との部分を「階段から転落」と改めて、全文を書き直し、書き直した看護記録と書き直し前の看護記録の二枚をカルテにはさんだが、書き直しを命じられたことについて不満がおさまらず、同月五日、泌尿器科、婦人科及び皮膚科の混合病棟の婦長であったd 文を書き直し、書き直した看護記録と書き直し前の看護記録の二枚をカルテにはさんだが、書き直しを命じられたことについて不満がおさまらず、同月五日、泌尿器科、婦人科及び皮膚科の混合病棟の婦長であったdに対し、被告人から看護記録の書き換えを命じられた旨報告した。(三) F看護婦は、Bが死亡してから数日後、病院内で被告人と会った際、被告人から「ありがとう」などと言われ、看護記録を書き直したことについてのお礼であると受け取った。一〇 その後の出来事 1 同月中旬ころ、被告人は、Eに誘われてすし屋で食事をし、その際、Eから現金三〇万円の入った封筒を受け取った。2 平成八年五月ないし七月ころ、A病院の院長宛に、Bの死因や病院の措置に対する不審を指摘する投書があったため、同病院のe副院長は、内視鏡センター長やCTが専門の放射線科部長にBのCT写真を見てもらい、また、同副院長自身診療録を見るなどした上で、被告人から事情を聞いたが、被告人は、所見から階段から転落したと判断したのではなく、本人が階段から転落したと言っているんだからそれ以上のことは分からないなどと答えた。この投書に関し、病院として特段の措置はとられなかった。3 その後、平成九年一〇月下旬から一一月上旬にかけて、被告人は、Sと名乗るやくざ風の男から、「Bっていうのを知っているか。あんたは、あれを病死として診断書を書いたろう。 などした上で、被告人から事情を聞いたが、被告人は、所見から階段から転落したと判断したのではなく、本人が階段から転落したと言っているんだからそれ以上のことは分からないなどと答えた。この投書に関し、病院として特段の措置はとられなかった。3 その後、平成九年一〇月下旬から一一月上旬にかけて、被告人は、Sと名乗るやくざ風の男から、「Bっていうのを知っているか。あんたは、あれを病死として診断書を書いたろう。Eに頼まれて病死にしたんだろう。あんたはあの後すぐにEと会って、金を貰うとるでしょう。あんたももっと真剣に考えんと大変なことになるよ」などと脅されたため、同年一一月六日ころ、大崎警察署に届け出た。4(一) なお、Oは、公判廷において、「Bが死亡した年の六月か七月ころ、被告人が、E組の組事務所に来て、被告人、E、Oの三人がドアを閉めた応接間にいる状態で、Eに対し、 ろ、大崎警察署に届け出た。4(一) なお、Oは、公判廷において、「Bが死亡した年の六月か七月ころ、被告人が、E組の組事務所に来て、被告人、E、Oの三人がドアを閉めた応接間にいる状態で、Eに対し、『Eさん、病院の方はみなきれいにいった、これからお宅の若い衆のほうから口出んかったら、この事件はもう大丈夫だ』と話すのを聞いた」などと供述し(O一〇回)、検察官は、この事実をもって、被告人が、虚偽診断書作成罪等の故意を有していたことを示す間接事実として挙げている(前記第三の二の1の(一)の(7))。(二) しかしながら、右事実についてはO以外の者は全く供述しておらず、被告人はかかる事実があったことを否定しているところ、被告人が、それほど親しかったともうかがわれないOの面前で、そのような話をするであろうか疑問がないわけではないこと、また、Oは、「Eと一緒に霊安室の前にいたとき、被告人と会った。被告人が、Eに対し、Bの両親が来たら渡してくれと言って、死亡診断書を渡した。Eから持っとけと言われた」などと、E、被告人、G看護婦のいずれの供述とも符合しない供述をしている(O一〇回)ところ、Oは、同時に「Eの、自分が逃げるためには若い衆をどうにでも使うというようなやり方にはついていけないと思ったので、平成九年九月ころ、E組を出た。Eのことは、今でも腹が立っている」などとも述べていることも考慮すると、Oにおいては、Eに対する敵意から、あえて、Eと親しかった被告人の不利になるような供述をしている可能性も否定しきれないのであって、その供述を全面的に信用するのは困難であり、結局のところ、右のとおり、Oの供述のみに依拠する、平成八年六月か七月ころ、被告人が、E組事務所において、Eに対し、『Eさん、病院の方はみなきれいになった。 出た。Eのことは、今でも腹が立っている」などとも述べていることも考慮すると、Oにおいては、Eに対する敵意から、あえて、Eと親しかった被告人の不利になるような供述をしている可能性も否定しきれないのであって、その供述を全面的に信用するのは困難であり、結局のところ、右のとおり、Oの供述のみに依拠する、平成八年六月か七月ころ、被告人が、E組事務所において、Eに対し、『Eさん、病院の方はみなきれいになった。お宅の若い衆のほうから口出んかったら、 り、結局のところ、右のとおり、Oの供述のみに依拠する、平成八年六月か七月ころ、被告人が、E組事務所において、Eに対し、『Eさん、病院の方はみなきれいになった。お宅の若い衆のほうから口出んかったら、この事件はもう大丈夫だ』などと話したとの検察官主張の間接事実については、これを事実認定の基礎とすることはできないというべきである。第五 Bの負傷は一見して人の暴行によるものであると認識できたとする検察官の主張について一検察官の主張及びこれに沿う証拠 1 検察官は、H鑑定、更にBに暴行を加えて死に至らせたEらの供述や、A病院でBの治療に当たった複数の医師及び看護婦の供述を根拠として、Bの負傷状況は、その外表検査だけからでも、一見して人の暴行によるものであると認識できたと主張する(前記第三の二の1の(一)の(1)、(2)、(3))。2 なるほど、H鑑定人は、(一) 鑑定書(甲7)において、「本件においては、創傷の分布状態から見て、二階からの転倒ないし転落によって生じたという可能性は否定できる。左眼瞼部の皮下出血は手拳による殴打のようなものによって生じたものとみられる。左右顔面から頭部にかけての創傷は、表面が滑らかな鈍体の作用によって生じたものと認められる。左右下腿部の創傷も、表面が滑らかな鈍体が作用しても生じるものと認められる。なお、左右下腿部の皮下出血は、死因となった出血と見なさざるを得ないといった特殊事情が存在しているので、筋肉挫滅は広範囲にわたっていたことが考えられるので、一回の外力作用ではなく、多数回の外力作用が存在していたことを示している」などと記載し(甲7、第四章の二)、(二) 公判廷においても、「全身に皮下出血等の損傷が存在しているというような場合には、交通事故だとか、転倒・墜落といったものが一番念頭にくる。しかし、B ている」などと記載し(甲7、第四章の二)、(二) 公判廷においても、「全身に皮下出血等の損傷が存在しているというような場合には、交通事故だとか、転倒・墜落といったものが一番念頭にくる。 在していたことを示している」などと記載し(甲7、第四章の二)、(二) 公判廷においても、「全身に皮下出血等の損傷が存在しているというような場合には、交通事故だとか、転倒・墜落といったものが一番念頭にくる。しかし、B ている」などと記載し(甲7、第四章の二)、(二) 公判廷においても、「全身に皮下出血等の損傷が存在しているというような場合には、交通事故だとか、転倒・墜落といったものが一番念頭にくる。しかし、Bの場合、まず、下肢にバンパー創や骨折がないのであるから交通事故の可能性は排除できる。また、転倒・転落の場合には、身体の出っ張ったところ(鼻、額、顎、肩、膝、肘等)に損傷が出てくるはずであるが、Bの場合にはそのような損傷がなく、かえって、眼瞼部のように転倒では通常発生しにくい箇所に損傷が発生していること、両下腿(両下肢とも供述している。)の前面に全体に膜状に広がった内出血を起こしていること、下腿の裏側にも内出血を起こしていること、頭部のあちこちにたんこぶができていること、第九肋骨のみ骨折しその他の肋骨に骨折が存在しないことなどからすると、転倒・転落ということも考えにくい。眼瞼部の内出血(ブラックアイ)は手拳によるパンチによって、両下肢(前面)の全体にわたる内出血は蹴飛ばしや踏み付けによって、第九肋骨の骨折は殴打あるいは足蹴りによってできたものと考えるのがもっとも自然である。本例は、極左の人たちによる暴行、リンチに非常によく似ていた」などと供述する(H一一回、一三回)。3 次に、被告人以外の関係者の供述をみると、(一) E(甲11)、N(N八回)、O(O一〇回)は、いずれも、Bのけがは、暴行によってできたものであることがすぐに分かる状態であった旨供述している。(二) また、A病院でBの治療に当たった被告人以外の医師や看護婦の検察官調書には、Bの負傷あるいは死亡の原因について、それぞれ、(1) Bの顔は腫れ上がっており、目のまわりにブラックアイができていたので、けんかをするなどして、誰かに殴られたりする暴行を受けたのではないかと思った、Bの あるいは死亡の原因について、それぞれ、(1) Bの顔は腫れ上がっており、目のまわりにブラックアイができていたので、けんかをするなどして、誰かに殴られたりする暴行を受けたのではないかと思った、Bのけがは階段から落ちてできるようなけがではなく、誰かに殴られたりする暴行を受けたのではないかと思った。 クアイができていたので、けんかをするなどして、誰かに殴られたりする暴行を受けたのではないかと思った、Bの あるいは死亡の原因について、それぞれ、(1) Bの顔は腫れ上がっており、目のまわりにブラックアイができていたので、けんかをするなどして、誰かに殴られたりする暴行を受けたのではないかと思った、Bのけがは階段から落ちてできるようなけがではなく、誰かに殴られたりする暴行を受けたのではないかと思った。救急室では、Bのけがの原因が階段からの転倒であるとは聞いていなかった(a医師、甲18)(2) 私は、Bが階段から落ちてけがをしたと聞いていたものの、Bのけがの様子は、単に階段から落ちてできるようなけがではなく、事故あるいは事件による疑いがあると思っていたので、被告人が既に死亡診断書を書いたと聞き、内心びっくりしてエーッと思った。血液検査の結果等から見ると、腎臓機能や肝機能の異常が認められ、筋肉の破壊が疑われる状態であり、階段から落ちただけではこのような状態にはならないと思われたので、このような状態でBが死亡した場合には、その打撲の原因が事故や事件であるかどうかをはっきりさせるため、警察に届けるのが義務であり、それがはっきりしないと、死亡診断書も書けないと思ったからである(Y医師、甲20)(3) Bのけがの状態を見て、私は、けんかをするなどして、誰かに殴られたり、蹴られたりするなどの暴行を受けたのではないかと思った。W看護婦あたりから、階段から落ちたらしいというような報告を受けたが、Bのけがの状態を見た限りでは、階段から落ちただけではできないものであり、けんかをするなどして、誰かに殴られたり、蹴られたりするなどの暴行を受けたことによってできたものだと思った(X婦長、甲22)(4) Bのけがは、階段から落ちただけではできないものであり、けんかをするなどして、誰かに殴られたり蹴られたりするなどの暴行を受けたことによってできたものだと思った。B と思った(X婦長、甲22)(4) Bのけがは、階段から落ちただけではできないものであり、けんかをするなどして、誰かに殴られたり蹴られたりするなどの暴行を受けたことによってできたものだと思った。B本人から「けんかをして階段から落ちた」と聞き、Bの打撲の状態は、単に階段から落ちてできたものではなく、けんかをして、誰かに殴られたり、蹴られたりするなどの暴行を受けたことによってできたものと思い、少しは納得した(F看護婦、甲24)(5) Bは、何かにぶつけたり、殴られた様な感じであり、顔全体が紫色でふくらんでいて、車椅子にやっと座っている感じだったので、単に階段から落ちてできるけがではなく、けんかをするなどして、誰かに殴られたり、物で叩かれたりしたためにできたけがではないかと思った、階段から落ちたという説明は納得がいかなかった(V看護婦、甲25)(6) 私は、Bのけがの状態や、腹部の痛がり方が異常であったことから、階段から落ちただけでは、このようなけがはできないと思った。 あり、顔全体が紫色でふくらんでいて、車椅子にやっと座っている感じだったので、単に階段から落ちてできるけがではなく、けんかをするなどして、誰かに殴られたり、物で叩かれたりしたためにできたけがではないかと思った、階段から落ちたという説明は納得がいかなかった(V看護婦、甲25)(6) 私は、Bのけがの状態や、腹部の痛がり方が異常であったことから、階段から落ちただけでは、このようなけがはできないと思った。Bのけがは、単に転んでできるものではなく、けんかをするなどして、誰かに殴られるなどの暴行を受けたものではないかと思った(G看護婦、甲27)などと、一見すると検察官の主張に沿った供述が録取されている。二検察官の主張についての証拠上の問題点しかしながら、これらを根拠に、Bの負傷状況が、その外表検査だけからでも、一見して人の暴行によるものであると認識できたと認めるについては、次のような疑問がある。1 まず、H鑑定について検討するに、(一) 同鑑定人は、前記のとおり、Bの負傷は、その部位・状況等からすると、二階からの転倒・転落によって生じたものとは考えられず、暴行あるいはリンチを受けてできたものと考えるのがもっとも自然であるとの意見を述べているところ、その判断は一応常 は、その部位・状況等からすると、二階からの転倒・転落によって生じたものとは考えられず、暴行あるいはリンチを受けてできたものと考えるのがもっとも自然であるとの意見を述べているところ、その判断は一応常識的かつ合理的なものと認められる。(二) しかしながら、同鑑定人は、前記のとおり、Bの第九肋骨のみに骨折が存在していたことや、Bの頭部に皮下出血(こぶ)が点在していたことのように、被告人が本件死亡診断書作成のころには気付いていなかったと認められる事実も根拠にして結論を出していることに留意する必要がある。(三) また、同鑑定人は、F看護婦が看護記録に記載した人体図等を根拠に、Bは「両下腿(両下肢とも供述している。)の前面に全体に膜状に広がった内出血を起こしている」との事実を前提に鑑定を行っている(H一一回、一三回)ところ、このような事実が認められるかについては次のような疑問がある。(1) すなわち、F看護婦は、看護記録の入院時一般状態の欄に人体図のスタンプを押し、その人体図の両眼瞼部、左腕、両足の全体を青く塗り潰した上、内出血斑(+)・腫脹(+)と記載しており、検察官に対しても、「顔面、左腕、両足が、正常な部分がないくらい、ボコボコに大きく腫れており、特に左目は開閉にも困難なくらいの腫れている状態でしたので、T先生から、階段から落ちたと聞いていましたが、とても階段から落ちたとは思えない状態でした。 婦は、看護記録の入院時一般状態の欄に人体図のスタンプを押し、その人体図の両眼瞼部、左腕、両足の全体を青く塗り潰した上、内出血斑(+)・腫脹(+)と記載しており、検察官に対しても、「顔面、左腕、両足が、正常な部分がないくらい、ボコボコに大きく腫れており、特に左目は開閉にも困難なくらいの腫れている状態でしたので、T先生から、階段から落ちたと聞いていましたが、とても階段から落ちたとは思えない状態でした。」などと供述している(甲24)ものの、どの部分が内出血で、どの部分が腫脹であったかについては供述していない。(2) 一方、被告人は、診療録の主要所見欄に人体図のスタンプを押し、左眼瞼部、前胸部、両前腕部、両足大腿部膝付近の前面、両下腿の膝下前面から外側部にかけて斜線を引いており、公判廷においても、両下腿ないし両下肢の前面の全体に膜状に広がった 欄に人体図のスタンプを押し、左眼瞼部、前胸部、両前腕部、両足大腿部膝付近の前面、両下腿の膝下前面から外側部にかけて斜線を引いており、公判廷においても、両下腿ないし両下肢の前面の全体に膜状に広がった内出血の存在についてはこれを明確に否定している。そして、その他の医師や看護婦の供述をみても、それぞれ、「Bの目のまわりにブラックアイが出ており、顔面を打撲していることが顕著だった。また、腕や大腿部にも、打撲の痕と見られる皮下出血があった」(Z医師、甲17、Z五回)、「Bは、左右どちらかの目にブラックアイが出ていたと思う」(a医師、甲18)、「Bは、顔が全体的に腫れ上がり、両目の周りに赤黒い内出血があって、特にどちらか片方の目は開けられないくらい腫れ上がっていた、尿道に管を通すため、ズボンや下着を降ろしたところ、両足の大腿部前面にも手のひらぐらいの内出血斑があった」(X婦長、甲22、X二回)、「Bは、目の周りあたりが、殴られたみたいに青く腫れ上がっていたのを覚えており、全身がむくんでおり、ぐったりとしていた」(W看護婦、甲23)、「Bは、若くて、何かにぶつけたり、殴られたような感じであり、顔全体が紫色でふくらんでいて、車いすにやっと座っている感じだった」(V看護婦、甲25)、「Bは、顔面、特に目の周りが、内出血をして腫れ上がっており、両大腿部にも顕著な内出血があり、腹が痛いとか背中が痛いなどとしきりに訴えていた。左手に内出血の痕があった」(G看護婦、甲27、G二〇回)などと供述するにとどまっており、「両下腿ないし両下肢の前面に全体に膜状に広がった内出血」があったとするH鑑定に符合する供述をしている者はいない。 、車いすにやっと座っている感じだった」(V看護婦、甲25)、「Bは、顔面、特に目の周りが、内出血をして腫れ上がっており、両大腿部にも顕著な内出血があり、腹が痛いとか背中が痛いなどとしきりに訴えていた。左手に内出血の痕があった」(G看護婦、甲27、G二〇回)などと供述するにとどまっており、「両下腿ないし両下肢の前面に全体に膜状に広がった内出血」があったとするH鑑定に符合する供述をしている者はいない。(3) さらに、被告人が診療録の主要所見欄に記載したような左眼瞼部、前胸部、両前腕部、両足大腿部膝付近の前面、両下腿の膝下前面から外側部に あったとするH鑑定に符合する供述をしている者はいない。(3) さらに、被告人が診療録の主要所見欄に記載したような左眼瞼部、前胸部、両前腕部、両足大腿部膝付近の前面、両下腿の膝下前面から外側部にかけての内出血は、前記第四の二の1及び2で認定したようなEらの暴行態様に概ね符合するのに対し、Eらの加えた暴行により、H鑑定人が鑑定の前提としたような「両下腿ないし両下肢の前面に全体に膜状に広がった内出血」が発生するかどうかについては疑問の余地があることなども考慮すると、H鑑定人が鑑定の前提としたような「Bの両下腿ないし両下肢の前面に全体に膜状に広がった内出血」があったと認定することはできないというべきである。(四) 以上のとおり、H鑑定人は、Bの第九肋骨のみに骨折が存在していたことや、Bの頭部に皮下出血(こぶ)が点在していたことのように、被告人が本件死亡診断書作成のころには気付いていなかったと認められる事実に加え、「Bの両下腿ないし両下肢の前面に全体に膜状に広がった内出血があった」という証拠上認定し得ない事実をも前提にして結論を導いているのであるから、H鑑定を被告人の認識を推認する根拠として用いる場合には、これらの事実を除いてもなお、Bの負傷状況が、一見して暴行によるものであると認識できたかどうかを検討する必要があるというべきである。(五) ところで、同鑑定人は、Bの負傷が、「二階からの転倒・転落」によって生じた可能性については明確に否定できるとしているものの、「高いところから叩きつけられるようにして転落した後、さらに階段を転がるように落ちたとしたら、あり得るかもしれない。しかし、もしそのような非常に強い力が加わったとするならば、第九肋骨だけに非常に限局的な骨折があって、そのほかの肋骨に骨折が存在しないというのは考えにくい。 。(五) ところで、同鑑定人は、Bの負傷が、「二階からの転倒・転落」によって生じた可能性については明確に否定できるとしているものの、「高いところから叩きつけられるようにして転落した後、さらに階段を転がるように落ちたとしたら、あり得るかもしれない。しかし、もしそのような非常に強い力が加わったとするならば、第九肋骨だけに非常に限局的な骨折があって、そのほかの肋骨に骨折が存在しないというのは考えにくい。したがって、そ たら、あり得るかもしれない。しかし、もしそのような非常に強い力が加わったとするならば、第九肋骨だけに非常に限局的な骨折があって、そのほかの肋骨に骨折が存在しないというのは考えにくい。したがって、そのような可能性も排斥できる」などと供述している(H一一回)のである。要するに、仮に第九肋骨の限局的な骨折という事実が存在しなければ、同鑑定人においても、Bの負傷が、「高いところから叩きつけられるようにして転落した後、さらに階段を転がるように落ちた結果生じた可能性」については排除できなかったとも考えられるのである。(六) また、同鑑定人が、これまで転倒・転落によって死亡したと判断した鑑定例につき、「創傷の分布状態、それから解剖したときの内臓の損傷状態、そういうものからみて、これはいわゆる転倒、転落、墜落によって生じたものとして見ても矛盾しないだろうなという鑑定書は一〇通も出しております。それから、着衣の汚れはどうだとか、そういうのを全部調べ、解剖した所見に関して警察で調べて、これは転倒・転落で間違いないんだと警察が断定するわけですよね。我々がただ解剖する場合は、転倒・転落によって起こった可能性が、ぶん殴ったけんかによって起こったものよりも極めて強いだろうという程度のことしか言えませんですよ」などと率直に供述し、さらに、本件の鑑定につき、「看護婦の書いたスケッチとか医者の書いた走り書き程度のものでは、とてもじゃないけど法医鑑定の資料としてはそぐわないということを最初から言っているわけですよ。そしたら、警察のほうでもって、それでは、いわゆるブラックアイを初めとして、転倒、転落の場合に、どういう部分にどういうような損傷が起こっているはずだと、これに対してこれはどうだということで、そのくらいのことならできませんかということで言われたので、だから、私は受 めとして、転倒、転落の場合に、どういう部分にどういうような損傷が起こっているはずだと、これに対してこれはどうだということで、そのくらいのことならできませんかということで言われたので、だから、私は受けただけです。 、転倒、転落の場合に、どういう部分にどういうような損傷が起こっているはずだと、これに対してこれはどうだということで、そのくらいのことならできませんかということで言われたので、だから、私は受 めとして、転倒、転落の場合に、どういう部分にどういうような損傷が起こっているはずだと、これに対してこれはどうだということで、そのくらいのことならできませんかということで言われたので、だから、私は受けただけです。診療録等に記載されているけがが、いったい転倒、転落でできるんだろうかということについてのディスカッションならしてあげるよと言ったわけです」などと供述していること(いずれもH一二回)に照らせば、実際に死体を見分したわけではなく、診療録等の記載とレントゲン写真、CT写真のみを資料として実施されたH鑑定の証明力には、自ずから限界があるといわなければならない。(七) しかも、同鑑定人は、治療を目的とする臨床医学と、受傷の原因の究明を目的とする法医学とでは、同じ創傷を問題にした場合でも、かなり異なった見方をする可能性があることを認め(H一二回)、さらに「医学の場合の最大の問題点は、患者あるいは家族の言うことを聞かない限りは医療というのは成立しないんですよ。それは大前提になっているだろうと思いますから、もし、これは転落でやりましたと言われたら、ああそうですかというふうにして、全部終わりになる可能性というのは十分あったと思います。ところが、じゃあ逆の見方をして、こういうパンダみたいになって、転倒・転落によってこんなことが起こるのかという一つの疑問をお医者さんが持ってもらってもいいだろうと思うんです。そういう面からみると、問題点があるんじゃないかということを言っているわけです。患者が言ったからそれで終わりにしましたという人はいると思いますよ。それは非常に無責任ですね。」などと述べて(H一三回)、医師であるからといって、必ずしもH鑑定人と同様の判断をするとは限らないことも認めているのである。(八) 以上によれば、少なくとも、H鑑定のみを根拠に、 無責任ですね。」などと述べて(H一三回)、医師であるからといって、必ずしもH鑑定人と同様の判断をするとは限らないことも認めているのである。(八) 以上によれば、少なくとも、H鑑定のみを根拠に、検察官が論告で主張するように、「Bの傷害は、階段等からの転倒・転落では全く説明のつかないものであり、医師である被告人がBの負傷を見て、転倒・転落により生じた傷であると取り違えることなどあり得ない」(論告書一三頁)などとはいえないことは明らかである。 、医師であるからといって、必ずしもH鑑定人と同様の判断をするとは限らないことも認めているのである。(八) 以上によれば、少なくとも、H鑑定のみを根拠に、検察官が論告で主張するように、「Bの傷害は、階段等からの転倒・転落では全く説明のつかないものであり、医師である被告人がBの負傷を見て、転倒・転落により生じた傷であると取り違えることなどあり得ない」(論告書一三頁)などとはいえないことは明らかである。2(一) 次に、Eらの供述について検討するに、前記第四の二の1及び2認定のとおり、EやOは、Bに暴行を加えた張本人であり、Nも、EからBの真の負傷原因を直接聞いた人間である。したがって、これらの者が、Bのけがの状態は、けんかかリンチを受けてできたものであるとすぐにわかる状態であったとか、階段から落ちたと説明してもすぐに嘘であることが見破られてしまうと思ったなどと供述するのは、ある意味当然であって、暴行の事実を知らされないままBを見た者、さらに、B本人から階段から落ちたと言われた者が、Eらと同様の受け取り方をするかどうか、それが自然であるかどうかについては、それぞれが認識したであろう客観的なけがの状況等から別個に検討されるべき問題であるというべきである。(二) かえって、Bの父親であるfが、「息子が階段から落ちて死亡したらしいとの連絡を受けてその日のうちにA病院に駆け付け、同病院の霊安室で息子の顔を見せてもらった。息子は顔全体が青黒く腫れ上がり、額の部分や目の周りが特に異様なぐらい腫れ上がっていたのを覚えている。当時は私も気が動転していて、階段から転んだとか、落ちたと聞いていたので、こんなふうになるのかと変に納得していた」などと供述し(甲28)、母親であるgが、「三月四日か五日、葬儀の手伝いに来てく いる。当時は私も気が動転していて、階段から転んだとか、落ちたと聞いていたので、こんなふうになるのかと変に納得していた」などと供述し(甲28)、母親であるgが、「三月四日か五日、葬儀の手伝いに来てくれた人が帰り、家族の者が寝てしまってから、息子はどのようになっているのかと思い、遺体を覆っている布を外してみた。薄手の着物を着せられていたので、顔、両腕、両足の部分しか見られなかったが、顔は全体に青黒く腫れ上がり、特に目の周りは異様なぐらいの腫れであり、両腕、両足にしても腫れ上がり紫色に変色していた。 と変に納得していた」などと供述し(甲28)、母親であるgが、「三月四日か五日、葬儀の手伝いに来てくれた人が帰り、家族の者が寝てしまってから、息子はどのようになっているのかと思い、遺体を覆っている布を外してみた。薄手の着物を着せられていたので、顔、両腕、両足の部分しか見られなかったが、顔は全体に青黒く腫れ上がり、特に目の周りは異様なぐらいの腫れであり、両腕、両足にしても腫れ上がり紫色に変色していた。酒に酔って階段から転んだとか、歩道橋から落ちたと聞いていたが、こんなふうになるのかと思い、かわいそうで涙が止まらなかった。この頃、この辺でも交通事故で頭を強く打ち亡くなった人がおり、この時の顔と同じように見えたので、私は交通事故にでも遭ったのかと思ったくらいである」などと供述している(甲29)ことに照らすと、少なくとも、医療の専門家でない一般人としては、けがを目にする前に「階段から落ちて死亡したらしい」とか、「酒に酔って階段から転んだ、歩道橋から落ちた」などと聞かされていれば、Bのけがの状況のみから、聞かされた負傷原因が虚偽であり、Bが暴行を受けて死亡したことを見破るのは困難であったという余地が十分にあると認められるのである。3 そこで、被告人の認識を推認するのに最も重要な間接事実となるのは、Bの診療に当たった被告人以外の医師や看護婦がBのけがの状態をどう認識したかである。(一) この点、a医師、Y医師、X婦長、F看護婦、V看護婦、G看護婦の各検察官調書には、前記第五の一の3の(二)のとおり、一見すると検察官の主張を裏付けるような供述が録取されている。(二) しかしながら、Y医師、X婦長、F看護婦、V看護婦、G看護婦は、公判廷では、それぞれ には、前記第五の一の3の(二)のとおり、一見すると検察官の主張を裏付けるような供述が録取されている。(二) しかしながら、Y医師、X婦長、F看護婦、V看護婦、G看護婦は、公判廷では、それぞれ、(1) 私が呼ばれたのは消灯後であり、ベッドサイドのランプが薄く灯っているだけであったので、Bの顔面の状態については、はっきりとした記憶がない。また、私が診たのは腹部だけであり、Bの両腕、下腿、両足の状態などは診ていない。Bに生じた腎機能や肝機能の低下、骨格筋の酵素の上昇が、階段から落ちたということで説明がつくか、と問われれば、Bが来院して以降死亡するまでの全体を事後的に見直せば、階段から落ちただけでは説明がつかないかなというような感じがする(もっとも、「検査データの異常に関しては、これは例えばどんな格好でどんなところで外傷を受けたかによって、それは必ずしも肝臓の機能が悪くならない、腎臓の機能が悪くならないとも言い切れない」とも供述する。 の低下、骨格筋の酵素の上昇が、階段から落ちたということで説明がつくか、と問われれば、Bが来院して以降死亡するまでの全体を事後的に見直せば、階段から落ちただけでは説明がつかないかなというような感じがする(もっとも、「検査データの異常に関しては、これは例えばどんな格好でどんなところで外傷を受けたかによって、それは必ずしも肝臓の機能が悪くならない、腎臓の機能が悪くならないとも言い切れない」とも供述する。)。しかし、その当時、夜の段階や朝死亡したと聞いた段階では、そこまでは考えなかった。診療録を見て、階段から落ちただけであれば、躯幹というか、背中とか胸とか腹とかに打撲があっていいし、手足だけにつくのはどうなのかな、と思う。左目の打撲については、階段から落ちたときに左目が腫れてはいけないということはない(Y医師、Y四回、五回)(2) 顔面の傷がひどかったので、二、三段の階段から落ちてできた傷ではないと思った。階段から落ちたというのであれば、非常に高い階段から落ちたのであろう、二〇段くらいの急な階段から落ちたのでなければ、あのように顔は腫れないだろうと思った。ただし、Bの状態が非常に悪かったので、治療を優先しなければならず、けがをした原因について追及する余裕はなかった(X婦長、X二回)(3) 最初に階段か れば、あのように顔は腫れないだろうと思った。ただし、Bの状態が非常に悪かったので、治療を優先しなければならず、けがをした原因について追及する余裕はなかった(X婦長、X二回)(3) 最初に階段から落ちたと聞いたが、余りにもひどいけがだったので、どんな階段から落ちたんだろう、どのように落ちたんだろうと思い、どうして階段から落ちたのと聞いたところ、B本人の口から「けんかをして」という言葉を聞いて、ああそうなのか、何か殴られたとかそういうことがあって、最終的に階段から落ちたのかなとか、けんかをした拍子に自分からフライングするような感じで落ちていってしまったのかなとか感じた。階段から落ちたということ自体は、現在でも事実だと思っている(F看護婦、F三回)(4) Bのけがの状態を見て、普通に階段から落ちてこういうふうになるのかなという疑問を感じたのは事実である。しかし、付添いの人から階段から落ちたと言われて、そうなのかなと思い、それ以上深くは考えなかった(V看護婦、V一九回)(5) Bの血圧が下がり、また、他の患者のことも気になっており、私にとっては、Bがどうして階段から落ちたのか知る必要もないと思っていたので、受傷原因について関心は持たなかった。 (4) Bのけがの状態を見て、普通に階段から落ちてこういうふうになるのかなという疑問を感じたのは事実である。しかし、付添いの人から階段から落ちたと言われて、そうなのかなと思い、それ以上深くは考えなかった(V看護婦、V一九回)(5) Bの血圧が下がり、また、他の患者のことも気になっており、私にとっては、Bがどうして階段から落ちたのか知る必要もないと思っていたので、受傷原因について関心は持たなかった。Bが階段から転落してけがをしたという事実に疑いを持ったことはない。検察官調書については、D検事から、一〇人中九人があれは階段から落ちたんじゃないと言っている、法医学のえらい先生も階段から落ちた受傷ではああいうけがにはならないと言っている、犯人がけんかして殴ったと言っている、なのになぜ認められませんか、認められないのだったら、その否定する証拠を出してくださいなどと言われ、結局調書に署名指印した(G看護婦、G二〇回)などと供述しているのである。(三) 検察官は、Y医師、X婦長、F看護婦、V看護婦、G ないのだったら、その否定する証拠を出してくださいなどと言われ、結局調書に署名指印した(G看護婦、G二〇回)などと供述しているのである。(三) 検察官は、Y医師、X婦長、F看護婦、V看護婦、G看護婦の前記各公判供述は、かつての同僚であり上司である被告人に遠慮し、その面前で不利となる証言を回避しようとするためのもので全く信用できないなどと主張するが、少なくとも、Y医師、X婦長、F看護婦においては、他の医師や看護婦がBをICUへ入院させるよう進言したにもかかわらず、被告人がこの進言を採用しなかった事実や、被告人から看護婦を介して看護記録の書き直しを指示された事実など、明らかに被告人の不利となるような事実について、公判廷でも一貫して供述しているのであって、負傷の原因に関する自己の認識についてのみ、被告人に遠慮し、その不利となる証言を回避しようとしたとする検察官の主張は採用することができない。(四) ところで、前記第五の一の3の(二)に要約した、A病院でBの治療に当たった被告人以外の医師や看護婦の検察官調書に録取されたBの負傷原因に関する供述に特徴的なのは、a医師のそれを除き、「単に階段から落ちてできるようなけがではない」、「階段から落ちただけではできない」という表現である。この表現からは、供述者が、けがの状態からみて、Bが階段から転落して負傷した事実を全面的に否定する趣旨なのか、階段から転落して負傷した事実を肯定した上、それ以外の原因もなければBに現に生じた負傷は生じ得ないとする趣旨なのか、必ずしも判然としなかったのであるが、この点は、第二五回公判において、前記のような供述調書を録取したD検事が、「階段から落ちてけがをしたというのが嘘だと思った旨供述した参考人はおらず、どの参考人も、Bが階段から落ちてけがをしたという話自体は、信用してい 事実を全面的に否定する趣旨なのか、階段から転落して負傷した事実を肯定した上、それ以外の原因もなければBに現に生じた負傷は生じ得ないとする趣旨なのか、必ずしも判然としなかったのであるが、この点は、第二五回公判において、前記のような供述調書を録取したD検事が、「階段から落ちてけがをしたというのが嘘だと思った旨供述した参考人はおらず、どの参考人も、Bが階段から落ちてけがをしたという話自体は、信用してい 判において、前記のような供述調書を録取したD検事が、「階段から落ちてけがをしたというのが嘘だと思った旨供述した参考人はおらず、どの参考人も、Bが階段から落ちてけがをしたという話自体は、信用していたようだった。しかし、全員が、Bのけがは階段から落ちただけではできない、すなわち、階段から落ちてできたけがのほかに、暴行を受けてできたけがも含まれていると思った旨供述するに至ったので、そのとおり調書に録取した」旨供述し(D二五回)、後者の趣旨であることが明らかとなったのである。(五) そうすると、被告人以外の医師や看護婦の前記各検察官調書によって認定できるのは、「階段から落ちてけがをしたと聞いた被告人以外の医師や看護婦は、Bが階段から落ちたという話自体は疑わなかった。しかし、Bのけがの状態からして、そのけがのすべてが階段からの転倒・転落によって生じたものであるかどうかについては疑問を感じ、Bのけがの中には、誰かに殴られたり、蹴られたりしたためにできたものがあるのではないかと考えた」、より厳密には、「Bのけががそのようなものになったことについては、誰かに殴られたり、蹴られたりしたことも原因を与えていると考えた」という事実に止まるものというべきである。(六)(1) なお、Z医師は、公判廷において、「最初は、交通外傷ではないかと思った。交通外傷だとすればもう少し擦過傷があってもいいはずであり、交通外傷以外に考えるとすれば、(自分たちの行為によって)けがをした人を自分たちが運んでくるとは思えないので、付いて来た人がやくざ風の方だったんで、別の人達に叩かれたとか抗争に巻き込まれたとか、人為的な外傷みたいなものも考えなきゃいけないなと思った。Bにどうしたんですかと聞いたところ、『転んだ』と一言答えたので、『転んだだけではこういうけがは負わないでしょう』 か抗争に巻き込まれたとか、人為的な外傷みたいなものも考えなきゃいけないなと思った。 為によって)けがをした人を自分たちが運んでくるとは思えないので、付いて来た人がやくざ風の方だったんで、別の人達に叩かれたとか抗争に巻き込まれたとか、人為的な外傷みたいなものも考えなきゃいけないなと思った。Bにどうしたんですかと聞いたところ、『転んだ』と一言答えたので、『転んだだけではこういうけがは負わないでしょう』 か抗争に巻き込まれたとか、人為的な外傷みたいなものも考えなきゃいけないなと思った。Bにどうしたんですかと聞いたところ、『転んだ』と一言答えたので、『転んだだけではこういうけがは負わないでしょう』と話した覚えがある。ちょっと転んだにしては、かなり重症ではないかなと考えた」などと供述する。しかしながら、同医師は、「『階段から落ちた』とは聞いていなかったと思う。Bのけがの状態からすると、通常の、踊り場があるような階段から落ちて負傷したものとは考えにくいが、非常に長い階段であれば可能性はあると思う。Bのけがは、交通外傷でもおかしいことはないし、転落、墜落による多発性外傷ではあり得ないとは思わない」などとも供述しているのであるから、同医師の公判供述が、他の医師や看護婦の検察官に対する供述以上の意味を有するものとはいえない(Z五回、六回。なお、同医師も、公判廷において、被告人に対し、ICUか救急施設が整っている施設への転院を進言したと供述している。)。(2) また、c医師は、公判廷において、「Bのけがの原因は、けんかだと思った。けんかだと聞いたのか、自分で勝手に思い込んだのかは分からないが、やくざであるという情報が入っており、傷を見て納得してしまった。警察官から、被告人が死亡診断書に転倒・転落と書いたと聞いて、え、違うんじゃないのと思った」などと供述する。しかしながら、同医師は、Bのような強い外傷は数階からの転落なら生じ得るが、その場合には骨折や擦過傷があるように思う、という留保を付けつつも、「当時、私は、Bが階段から落ちてけがをしたとは聞いておらず、患者又は患者の周囲の方から転倒・転落と言われたら、思いは変わってしまうかもしれない」などとも供述しているのであって、同医師の供述も、階段から落ちたと聞いていた他の医師や看護婦の供述の評価に関する前記 者又は患者の周囲の方から転倒・転落と言われたら、思いは変わってしまうかもしれない」などとも供述しているのであって、同医師の供述も、階段から落ちたと聞いていた他の医師や看護婦の供述の評価に関する前記判断を左右するものとはいえない(c二二回)。 われたら、思いは変わってしまうかもしれない」などとも供述しているのであって、同医師の供述も、階段から落ちたと聞いていた他の医師や看護婦の供述の評価に関する前記 者又は患者の周囲の方から転倒・転落と言われたら、思いは変わってしまうかもしれない」などとも供述しているのであって、同医師の供述も、階段から落ちたと聞いていた他の医師や看護婦の供述の評価に関する前記判断を左右するものとはいえない(c二二回)。三結論以上の次第で、Bの負傷状況が、その外表検査だけからでも、一見して人の暴行によるものであると認識できたとする検察官の主張は、採用し難いものというほかない。第六 Bの負傷あるいは死亡の原因に関する被告人の認識を推認するのに資すると考えられるその他の間接事実について一検察官の主張するその他の間接事実とその検討 1 検察官は、被告人が、本件死亡診断書を作成する時点において、「Bが意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと確定的に認識していたこと」を示すその他の間接事実として、①Bが「けんかをして・・・」と言いかけたのに対し、被告人が「階段から落ちただろう」などと言ってBの言動を遮ったこと(前記第三の二の1の(一)の(4))、②被告人が、看護記録に「けんかをして階段から落ちた」と記載してあるのを発見し、G看護婦を通じ、F看護婦に対し、「階段から転落」と訂正させた上、F看護婦に謝辞を述べたこと(前記第三の二の1の(一)の(5))、③被告人がBの死亡後、Eから現金三〇万円を受領していること(前記第三の二の1の(一)の(6))、④被告人が、Bの死亡から約半年経ったころ、E組事務所において、「病院の方はみなきれいになったので、組員から話が出なければ、事件のことは心配ない」などと述べたこと(前記第三の二の1の(一)の(7))、⑤被告人には、Eが警 ら約半年経ったころ、E組事務所において、「病院の方はみなきれいになったので、組員から話が出なければ、事件のことは心配ない」などと述べたこと(前記第三の二の1の(一)の(7))、⑤被告人には、Eが警察に逮捕されるのを防ぐため、Bが暴行によって死亡したのではない旨の内容虚偽の死亡診断書を作成する動機があったこと(前記第三の二の1の(一)の(8))などを挙げる。 の(一)の(7))、⑤被告人には、Eが警 ら約半年経ったころ、E組事務所において、「病院の方はみなきれいになったので、組員から話が出なければ、事件のことは心配ない」などと述べたこと(前記第三の二の1の(一)の(7))、⑤被告人には、Eが警察に逮捕されるのを防ぐため、Bが暴行によって死亡したのではない旨の内容虚偽の死亡診断書を作成する動機があったこと(前記第三の二の1の(一)の(8))などを挙げる。2 検察官の主張する間接事実のうち、①Bが「けんかをして・・・」と言いかけたのに対し、被告人が「階段から落ちただろう」などと言ってBの言動を遮ったこと、及び、④被告人が、Bの死亡から約半年経ったころ、E組事務所において、「病院の方はみなきれいになったので、組員から話が出なければ、事件のことは心配ない」などと述べたことについては、前記のとおり、かかる事実があったことを認めるに足りる証拠がないというべきである(なお、念のため、④の事実について付言すると、これに類する事実があったと仮定しても、Oの供述によれば、Bの死亡から三、四か月後のことだというのであり、その間、前記(第四の一〇の2)認定のとおり、A病院の院長宛に、Bの死因や病院の措置には不審があるなどとする投書があり、被告人が副院長から事情を聞かれる出来事があったことなどからすると、そのような出来事を経た後の被告人の認識と、本件死亡診断書作成のころの被告人の認識が、同一である保証はなく、むしろ、変わっていて然るべきである。したがって、これに類する事実があったと仮定しても、これを、本件死亡診断書作成のころの被告人の認識を推認する間接事実として用いることについては、慎重であるべきである。)。3 次に、検察官の主張する間接事実のうち、②については、Bの死亡後間もなくEと会った際のEと被告人との間の会話内容とともに、後記第六の二でまとめて いることについては、慎重であるべきである。)。3 次に、検察官の主張する間接事実のうち、②については、Bの死亡後間もなくEと会った際のEと被告人との間の会話内容とともに、後記第六の二でまとめて検討する。4 検察官の主張する間接事実のうち、③については、平成八年三月中旬ころ、被告人がEに誘われてすし屋で食事をし、その際、Eから現金三〇万円の入った封筒を受け取った事実が認められることは、前記第四の一〇の1で認定したとおりである。 べきである。)。3 次に、検察官の主張する間接事実のうち、②については、Bの死亡後間もなくEと会った際のEと被告人との間の会話内容とともに、後記第六の二でまとめて検討する。4 検察官の主張する間接事実のうち、③については、平成八年三月中旬ころ、被告人がEに誘われてすし屋で食事をし、その際、Eから現金三〇万円の入った封筒を受け取った事実が認められることは、前記第四の一〇の1で認定したとおりである。しかしながら、関係証拠(h一六回等)によれば、患者側が医師に対して正規の治療費以外の謝礼をし、医師がこれを受領することは、少なくとも当時のA病院においては、珍しいことではないと認められるから、被告人がEから現金三〇万円を受領した事実は、E側の意図はともかく、それ単独では、被告人において、Bの真の負傷原因を認識していたとの事実を推認するに足りないというべきである。5(一) また、検察官は、⑤被告人には、Eが警察に逮捕されるのを防ぐため、内容虚偽の死亡診断書を作成する動機があったと主張するが、後にみるように、被告人は、捜査段階において、階段から落ちて負傷したとするBの説明に疑問を抱きながら、疑問点には目を塞いで本件死亡診断書を書いた旨供述しているものの、その動機については、「Bのけがの原因等を追求し、Eの逆鱗に触れて、私の家族や勤務先に治療方法や取扱いについて難癖をつけられでもしたら大変なことになると思った」などと供述する(乙4)のみで、Eが警察に逮捕されるのを防ぎたかったとは供述しておらず、その他関係全証拠に照らしても、被告人が前記(第四の一の3)認定の程度の関係しかないEを救うため、内容虚偽の死亡診断書を作成する積極的な動機を有していたとするには疑問の余地がある。(二) さらに、被告人は、捜査段階に しても、被告人が前記(第四の一の3)認定の程度の関係しかないEを救うため、内容虚偽の死亡診断書を作成する積極的な動機を有していたとするには疑問の余地がある。(二) さらに、被告人は、捜査段階において、階段から落ちて負傷したとするBの説明に疑問を抱き、本当はけんか等のトラブルに巻き込まれたのではないかと思った旨供述している(乙4)ものの、BがEらに暴行されたと思ったとまでは供述していないところ、仮に被告人においてEが加害者であることを認識していなかったとすれば、被告人が、Eの逮捕を防ぐために本件死亡診断書を作成したということ自体、論理的でないことになる。 二) さらに、被告人は、捜査段階において、階段から落ちて負傷したとするBの説明に疑問を抱き、本当はけんか等のトラブルに巻き込まれたのではないかと思った旨供述している(乙4)ものの、BがEらに暴行されたと思ったとまでは供述していないところ、仮に被告人においてEが加害者であることを認識していなかったとすれば、被告人が、Eの逮捕を防ぐために本件死亡診断書を作成したということ自体、論理的でないことになる。ひるがえって、被告人がEの逮捕を防ぐ目的で本件死亡診断書を作成したとする検察官の主張は、被告人がBの真の負傷原因を認識していたこと、少なくともEが負傷原因に関与していたことについて認識していたことを前提とする主張なのである。そうすると、被告人にEの逮捕を防ぐために内容虚偽の死亡診断書を作成する動機があったと主張し、これを、被告人がBの真の負傷原因を認識していたことの間接事実とする検察官の論法には、それ自体問題があるといわざるを得ず、この意味でも採用し難いものというほかない。二その他の間接事実とその検討 1 他方、関係各証拠によれば、①被告人が、Bの入院場所を決めるに際し、他の医師や看護婦らからICUに入れなくてよいのかという進言があったのに、この進言を採用せず、自分の所属する泌尿器科病棟に入院させたこと、②被告人が、Bの死亡後間もなく、Eと面会した際、Eから「今、警察に入られると困るんじゃがの」などと言われ、その後、看護記録の現病歴欄に「けんかをして階段から転落」などと記載されていることに気付くや、G看護婦に対し、「けんかをしてと書いてあるが、確認しないで書くのはまずい、F看護婦に がの」などと言われ、その後、看護記録の現病歴欄に「けんかをして階段から転落」などと記載されていることに気付くや、G看護婦に対し、「けんかをしてと書いてあるが、確認しないで書くのはまずい、F看護婦に書き直すように言ってくれ」などと指示したこと(なお、被告人がEから「今、警察に入られると困るんじゃがの」などと言われたのは、被告人が本件死亡診断書を作成した後の事実であり、かつ、被告人自身の言動である看護記録の現病歴欄の記載の書き直しに関する事実とは異なり、それ自体はEの言動にすぎないから、この事実のみによって本件死亡診断書作成の際における被告人の認識を推認させる事実とはいえないのであるが、本件においては、虚偽診断書行使罪も起訴されている上、虚偽診断書作成罪の罪質に鑑みると、一旦作成した後も、一定時期までは、被告人において、これを訂正する、あるいは、書き直す作為義務を認める余地がないわけではないので、この事実を含めて検討を加えておくこととする。 なり、それ自体はEの言動にすぎないから、この事実のみによって本件死亡診断書作成の際における被告人の認識を推認させる事実とはいえないのであるが、本件においては、虚偽診断書行使罪も起訴されている上、虚偽診断書作成罪の罪質に鑑みると、一旦作成した後も、一定時期までは、被告人において、これを訂正する、あるいは、書き直す作為義務を認める余地がないわけではないので、この事実を含めて検討を加えておくこととする。)、③数日後、被告人が、看護記録を書き直したF看護婦に対し、「ありがとう」と述べたことは、前記第四の九の4の(三)で認定したとおりであり、これらの事実は、一見すると、被告人において、Bの真の負傷原因を認識していたことを示す事実のようにもみえる。2 しかしながら、まず、①の事実については、被告人は、BをICUに入院させなかった理由について、捜査段階においては、暴力団関係者をICUに入れれば、ICUの入院患者に迷惑がかかるのではないかと思った旨供述し(乙4)、公判段階においては、入院時点の判断としては、ICUに入れることの長所、短所を考え、具体的には、薬の存在やその所在場所、更には施しうる処置についても知悉し、腎不全に慣れた、尿のチェックに慣れた泌尿器科の病棟の方がよいと判断したと供述している(被告人三〇回 ることの長所、短所を考え、具体的には、薬の存在やその所在場所、更には施しうる処置についても知悉し、腎不全に慣れた、尿のチェックに慣れた泌尿器科の病棟の方がよいと判断したと供述している(被告人三〇回)ところ、それ自体不自然、不合理とまではいい難い上、A病院は、被告人の個人病院ではなく、被告人以外の多数の医師や看護婦が患者の診療に関与する総合病院であること、被告人において、被告人以外の医師や看護婦がBの診療に関与するのを妨げようとした事実はうかがわれず、現に、Bの診療には、被告人以外の多数の医師や看護婦が関与していること、入院当時におけるBの症状の一つに無尿があり、泌尿器科で治療するのが明らかに不相当であったとはいえない(H鑑定人も被告人のBに対する医療行為に不適切な点はなかったと述べている)こと、第三病棟四階勤務の看護婦であったF看護婦が、当時、第三病棟四階は、泌尿器科と婦人科と皮膚科の混合病棟であり、ICUと直結した関係にはなく、状態が悪くても同病棟で診ていく態勢であったと公判廷において供述していること(F三回)、本件当時のA病院におけるICUの運営実態やBをICUに入れるべきであったかどうかなどの点に関するh医師の公判廷における供述(h一六回)等、弁護人のいう消極的情況証拠などをも併せて考えれば、被告人がBをICUに入れたがらなかった事実から、被告人においてBの真の負傷原因を認識していたとの事実を推認することはできないというべきである。 病棟で診ていく態勢であったと公判廷において供述していること(F三回)、本件当時のA病院におけるICUの運営実態やBをICUに入れるべきであったかどうかなどの点に関するh医師の公判廷における供述(h一六回)等、弁護人のいう消極的情況証拠などをも併せて考えれば、被告人がBをICUに入れたがらなかった事実から、被告人においてBの真の負傷原因を認識していたとの事実を推認することはできないというべきである。3 また、前記③の事実、すなわち、被告人がF看護婦に対し「ありがとう」と述べた事実も、F看護婦の受け取り方はともかく、それ単独では、被告人がBの真の負傷原因を認識していたことを示す事実とはいえない。4(一) 結局、最も問題なのは、前記②の事実、すなわち、被告人が、Bの死亡後間もなく、Eと面会した際 はともかく、それ単独では、被告人がBの真の負傷原因を認識していたことを示す事実とはいえない。4(一) 結局、最も問題なのは、前記②の事実、すなわち、被告人が、Bの死亡後間もなく、Eと面会した際、Eから「今、警察に入られると困るんじゃがの」などと言われ、その後、看護記録の現病歴欄に「けんかをして階段から転落」などと記載されていることに気付くや、G看護婦に対し、「けんかをしてと書いてあるが、確認しないで書くのはまずい、F看護婦に書き直すように言ってくれ」などと指示したことをどう評価するかである。特に、F看護婦は、「Bが死亡した日の午前中、看護婦の誰か、おそらくi看護婦から電話がかかってきて、『T先生から、けんかをしてという事実はないので、けんかという言葉がここにあると事実と違うことになってしまうので、書き直しをしてほしいと言っているよ。今度勤務に出てきたときに必ずやっておいて』と言われた」、さらに「どうして通常どおり二本線で消して訂正印を押すやり方ではいけないのかと聞いたところ、『けんかという言葉があったらいけないみたいだから』と言われた」旨証言しており(F三回)、仮に被告人の指示がF看護婦の証言するとおりのものであったとすれば、それは、被告人において、Bの診療録に「けんかをして」という記載の痕跡すら残らないようにしたいとの意図を有していたことを示すものといわなければならない。(二) この点、被告人及び弁護人は、看護記録は、入院時点までの状態を、現病歴と一般状態に分けて整理して記載すべきもので、入院後に観察したことや、聞いたことを時系列的に記録していく看護記録とは性質を異にするものである、被告人は、看護記録に「けんかをして階段から転落」と記載されているのに偶然気付いたのであるが、それまで「けんかをして」との話を聞いていなかったことから、 示すものといわなければならない。(二) この点、被告人及び弁護人は、看護記録は、入院時点までの状態を、現病歴と一般状態に分けて整理して記載すべきもので、入院後に観察したことや、聞いたことを時系列的に記録していく看護記録とは性質を異にするものである、被告人は、看護記録に「けんかをして階段から転落」と記載されているのに偶然気付いたのであるが、それまで「けんかをして」との話を聞いていなかったことから、 していく看護記録とは性質を異にするものである、被告人は、看護記録に「けんかをして階段から転落」と記載されているのに偶然気付いたのであるが、それまで「けんかをして」との話を聞いていなかったことから、そばにいたG看護婦に、この記述が正確なのかどうかを確かめ、もしも事実でないのであれば、訂正するようにと指示しただけである、G看護婦も「確認しないで書くのはまずいですね」と述べて賛成した、被告人の指示がG看護婦、もう一名の別の看護婦を介してF看護婦にどう伝わったかは不明であるが、「けんかをして」と記載した痕跡が残らないようにとか、全文を書き直すようになどとは指示していない、などと主張する。(三) なるほど、関係各証拠によれば、被告人の指示が、G看護婦から他の看護婦を介してF看護婦に伝わったことは明らかであり、仲介したのがi看護婦である可能性が高いことまでは認められるのであるが、関係者(G看護婦、F看護婦、i看護婦)の供述を精査しても、どのような具体的文言で、順次、F看護婦に伝わったのかは確定できず、その間に指示の内容が歪曲されて伝わった可能性も否定できないから、被告人において、「けんかをして」と記載した痕跡が残らないようにという趣旨の指示をしたとまでは認定できないというべきである。しかしながら、重要なのは、被告人が「けんかをして」と書いてあるのを「まずい」と判断した理由である。この点は、Bの負傷あるいは死亡の原因に関する被告人の供述内容を検討した後改めて検討することとする。第七 Bの負傷あるいは死亡の原因に関する被告人供述について一公判廷における被告人の供述被告人は、公判廷においては、「救急室で、Bの顔の内出血を見た瞬間に、あれ、けんかかなと一瞬思ったのは事実である。しかし、間もなく、それまでにアナムネ(既往歴)を取っていた看護婦 ける被告人の供述被告人は、公判廷においては、「救急室で、Bの顔の内出血を見た瞬間に、あれ、けんかかなと一瞬思ったのは事実である。 とする。第七 Bの負傷あるいは死亡の原因に関する被告人供述について一公判廷における被告人の供述被告人は、公判廷においては、「救急室で、Bの顔の内出血を見た瞬間に、あれ、けんかかなと一瞬思ったのは事実である。しかし、間もなく、それまでにアナムネ(既往歴)を取っていた看護婦 ける被告人の供述被告人は、公判廷においては、「救急室で、Bの顔の内出血を見た瞬間に、あれ、けんかかなと一瞬思ったのは事実である。しかし、間もなく、それまでにアナムネ(既往歴)を取っていた看護婦や医者から『酔っぱらって階段落ちたみたいですよ』などと聞き、B本人からも『酔っ払って階段から落ちちゃったんですよ』と聞いて、ああ階段から落ちたのかと思った。Bの眼瞼部にはいわゆるブラックアイができていたけれども、以前、酔っぱらってトイレで倒れた先輩医師が眼の近くを便器にぶつけて同じような状態になったのを見たことがあり、それが階段からの転落と矛盾するとは全く考えなかった。Bの両腕には、小指の延長線上肘関節に近いところに、左右同じような内出血があり、両足も、膝上の大腿部前面と膝下の前面からふくらはぎの側面にかけて、左右同じような内出血があった。このようなBの負傷状況を見て、ダイビングのような形で転落して、階段のステップの辺りに両手両足をぶつけたものと思い込んでしまった。そして、Bの死因は、階段からの転倒・転落によって生じた全身打撲による内出血と、それに起因する貧血の結果、急性の腎不全を起こし、その後急性心不全を起こしたためであると判断した。Bから『酔っ払って階段から落ちちゃったんですよ』と聞いて以降、Bがけんかによって負傷したとか、けんかによる負傷が原因で死亡したとかは全く考えなかった」などと述べて、本件死亡診断書作成のころ、Bが暴行を受けて負傷したと認識していたことを強く否定している。二捜査段階における被告人の供述とその任意性、信用性について 1 ところで、被告人は、平成一〇年四月二五日逮捕されたが、同月二七日付け送致書(甲56)記載の犯罪事実におけるBの負傷原因についての被告人の認識内容は、Bの「負傷の部位・程度から、意図的に強度かつ多数回 ころで、被告人は、平成一〇年四月二五日逮捕されたが、同月二七日付け送致書(甲56)記載の犯罪事実におけるBの負傷原因についての被告人の認識内容は、Bの「負傷の部位・程度から、意図的に強度かつ多数回にわたる暴行が加えられたものであって、階段からの転落等によって生じる負傷でないことを認識しながら」というものであり、実質的にみて、検察官が主位的訴因において主張するのと同様の認識内容であった。 かつ多数回 ころで、被告人は、平成一〇年四月二五日逮捕されたが、同月二七日付け送致書(甲56)記載の犯罪事実におけるBの負傷原因についての被告人の認識内容は、Bの「負傷の部位・程度から、意図的に強度かつ多数回にわたる暴行が加えられたものであって、階段からの転落等によって生じる負傷でないことを認識しながら」というものであり、実質的にみて、検察官が主位的訴因において主張するのと同様の認識内容であった。2 このような被疑事実を前提とする取調べにおいて作成された被告人の捜査段階における供述調書には、以下のとおり、階段から落ちて負傷したとするBの説明に疑問を抱きながら、後難を恐れて、疑問点には目を塞ぎ、本件死亡診断書を書いたなどという旨の供述が録取されている。すなわち、(一) 平成一〇年四月二六日付け警察官調書(乙3)には、「Bは『階段から落ちたんです』と答えたが、Bの顔や体の一部には外傷性出血斑が、目の部分にはブラックアイの現象が見られた。私は見た瞬間、これは本人が階段から落ちたと言っているが、単純に階段から落ちたのでは目の部分にブラックアイ等ができるはずがない、何かのトラブルに巻き込まれ、それで階段から落ちることもあるが、左目だけにひどい出血があることは疑問に思った。B本人は、階段から落ちたと説明したが、医師としては、この傷はかなり時間が経っているので、疑問に思った。Bを病院にまで連れてきた仲間は、二、三日前に階段から落ちたと説明したが、この人達の説明には、何か不自然さを感じた。Bが死亡した後、病棟の外の廊下に出ると、E組の若い衆が三、四人いて、その中の一人から『今ガタガタされては困るんだよな』と言われた。最初にBを見た時、左目にブラックアイがあり、又、腕や両足等にかなり外傷性の出血が見られたので、階段から落ちただけではなく、何かトラブルに巻き込まれ から『今ガタガタされては困るんだよな』と言われた。最初にBを見た時、左目にブラックアイがあり、又、腕や両足等にかなり外傷性の出血が見られたので、階段から落ちただけではなく、何かトラブルに巻き込まれ、相当強いダメージでも受けるようなことがあったのかと思った。結果的に警察に届け出をしなかったのは、届け出をすれば、E組の組長や若い衆から、私の勤務する病院に対して何らかの嫌がらせ行為を受けたり、私や私の家族に対して暴力等を受けるのではないかと危惧して、悩んだあげく、結果的に消極的な行動を取ってしまったのである。 にかなり外傷性の出血が見られたので、階段から落ちただけではなく、何かトラブルに巻き込まれ、相当強いダメージでも受けるようなことがあったのかと思った。結果的に警察に届け出をしなかったのは、届け出をすれば、E組の組長や若い衆から、私の勤務する病院に対して何らかの嫌がらせ行為を受けたり、私や私の家族に対して暴力等を受けるのではないかと危惧して、悩んだあげく、結果的に消極的な行動を取ってしまったのである。本件死亡診断書の傷病名や外因死の記載自体に疑問があったり、不自然であったことは事実である」などと、(二) 同月二七日付け検察官調書(乙6)には、「Bが暴行を受けてけがをしたものではないかと疑いがあったのに、階段からの転落などによって生じたけがであるという嘘の診断書を書いたことは間違いない。Bを連れてきたEが、暴力団員であり、病院の中で騒がれたりするのが恐ろしくてこのような診断書を書いてしまった。Eからは『あんたも分かっているの。ちゃんとやってくれにゃあ、困るで。うちも今大変じゃけ』などと言われていた」などと、(三) 同年五月八日付け警察官調書(乙4)には、「私がBを診たとき、左眼瞼に殴られたような皮下出血が見られたので、けんかでもやったのかなと思い、『どうしたの』と聞いたところ、Bは、やや細い声で、『あー、T先生、階段から落ちたんです』と答えた。Bの全身を診たところ、両前腕と両下肢が平行に内出血を起こしており、変な格好で階段から落ちたのかなと思った。この時、Bを連れてきた仲間達は、E組の関係者であり、その中の一人が、『酒に酔って落ちたんだ』と念を押すように言った。私は、医師として、Bのけがが本当に階段から落ちたのかについては疑問を感じ 思った。この時、Bを連れてきた仲間達は、E組の関係者であり、その中の一人が、『酒に酔って落ちたんだ』と念を押すように言った。私は、医師として、Bのけがが本当に階段から落ちたのかについては疑問を感じた。それは、左目が腫れて出血しており、これらの傷はけんか等によって殴られた場合によく見られる傷だからである。また、両腕や両足にかなり外傷による内出血が見られたからである。Bは暴力団組織に所属していたので、けんか等のトラブルに巻き込まれていたのかとも思った。しかし、この傷は、一、二日経っているものであり、B本人が階段から落ちたと申し立てていることから、これ以上けがの原因を追及せず、死亡診断書を作成した。 それは、左目が腫れて出血しており、これらの傷はけんか等によって殴られた場合によく見られる傷だからである。また、両腕や両足にかなり外傷による内出血が見られたからである。Bは暴力団組織に所属していたので、けんか等のトラブルに巻き込まれていたのかとも思った。しかし、この傷は、一、二日経っているものであり、B本人が階段から落ちたと申し立てていることから、これ以上けがの原因を追及せず、死亡診断書を作成した。死亡診断書を書き終わった後、Eと会い、『全身打撲で急性腎不全を起こしたので、腎機能回復のために保存的治療をしたが、急に心臓がおかしくなり、いろいろ、手をつくしたけれどもダメだった。Bさんは、元々心臓に何かあったんでしょうかね』と聞いたところ、Eは、『あ、そうかな、わしは知らんな』と言ったきり何も答えず、いきなり、『今、警察に入られては困るんじゃがの』と言われた。私は、これを聞いて、EはBのけがの原因について警察に聞かれると困ることが何かあったのかな、やっぱりBはけんか等何かのトラブルに巻き込まれてけがをしたのかなと思った。私は、この場でEにBのけがの原因は何かと聞くべきであった。Bは、私に『階段から落ちた』と言ったが、左目の出血等から階段からの単純な転落だけであるとは疑問もあり、本当の原因を知りたかった。しかし、Bを助けられなかったのは事実であるし、これ以上、Bのけがの原因等を追求し、暴力団の親分であるEの逆鱗に触れて、私の家族や、治療方法や取扱いについて勤務先であるA病院に難癖をつけられでもしたら大変なことになると思って、これ以上は何も言わなかった 、Bのけがの原因等を追求し、暴力団の親分であるEの逆鱗に触れて、私の家族や、治療方法や取扱いについて勤務先であるA病院に難癖をつけられでもしたら大変なことになると思って、これ以上は何も言わなかったのである」などと、(四) 同月一二日付け警察官調書(乙5)には、「初めてBのけがを診たとき、私は、けがの状態からして、けんかして殴られたかなと思った。Bが、『階段から落ちた』と言ったのに対し、私はさらに詳しく状況を聞くべきであったが、Bに付き添っている人達が暴力団E組の人達であることからそれ以上聞かなかった。暴力団の人達に喧嘩して殴られたのではないかなどと追求して、大声を上げられたら、他の患者に迷惑がかかると思い、追求せずに黙ってしまったのである。 乙5)には、「初めてBのけがを診たとき、私は、けがの状態からして、けんかして殴られたかなと思った。Bが、『階段から落ちた』と言ったのに対し、私はさらに詳しく状況を聞くべきであったが、Bに付き添っている人達が暴力団E組の人達であることからそれ以上聞かなかった。暴力団の人達に喧嘩して殴られたのではないかなどと追求して、大声を上げられたら、他の患者に迷惑がかかると思い、追求せずに黙ってしまったのである。Bらが『酒を飲んで階段から落ちた』と言って説明したが、私は医師として、顔面の左眼瞼部の皮下出血の状況から診て、手拳などによる殴打といった第三者による傷害の可能性も考えて、身体の前面に広範囲に分布している皮下出血の状態から診て、単なる転落や転倒ではこのような大けがをするだろうか、と思った。三月三日午前六時三〇分、Bが死亡したことを確認して、デイルームにいたE組の若い衆に、Bが亡くなったことを伝えた後、私は、ナースステーションに入って、カルテを見ながら、Bの死亡診断書を書き始めた。Bの左眼のブラックアイ(内出血)はけんか等でできる傷であり、胸部、両前腕、両下腿にある皮下出血は単に酔って転落してできたのかという医学上の疑問があるのにもかかわらず、その原因を確認せず、階段から落ちたと言うBの言葉を鵜呑みにして、死亡診断書を作成したのである。特に顔面(左眼)の皮下出血については、けんかでもして殴られたけがと思ったのだから、警察に通報して捜査に委ねることもできたのにこれをせず、さらに、酔って転落したというその原 診断書を作成したのである。特に顔面(左眼)の皮下出血については、けんかでもして殴られたけがと思ったのだから、警察に通報して捜査に委ねることもできたのにこれをせず、さらに、酔って転落したというその原因を確認しなかったのであるから、外因死のところを不詳とするべきであったのに、転倒・転落と書いてしまった。Eと会った際には、所持していた死亡診断書を見せた。『全身打撲で急性腎不全を起こしたので、腎機能回復のために保存的治療をしたが、急に心臓がおかしくなり、いろいろ、手をつくしたけれどもダメだった。Bさんは、元々心臓に何かあったんでしょうかね』と聞いたところ、Eは、『あ、そうかな、わしは知らんな』と言ったきり何も答えず、いきなり、『今、警察に入られては困るんじゃがの』と言われた。私は、これを聞いて、EはBのけがの原因について警察に事情聴取されることになる、Bはけんか等のトラブルに巻き込まれて顔面を殴られ左目をけがしたのかなと思った」などと、それぞれ録取されているのである。 けれどもダメだった。Bさんは、元々心臓に何かあったんでしょうかね』と聞いたところ、Eは、『あ、そうかな、わしは知らんな』と言ったきり何も答えず、いきなり、『今、警察に入られては困るんじゃがの』と言われた。私は、これを聞いて、EはBのけがの原因について警察に事情聴取されることになる、Bはけんか等のトラブルに巻き込まれて顔面を殴られ左目をけがしたのかなと思った」などと、それぞれ録取されているのである。なお、右(二)の同年四月二七日付け検察官調書(乙6)の録取と同一日に行われた勾留質問手続においては、被告人は、勾留請求書記載の被疑事実、すなわち、送致書記載の犯罪事実を読み聞かされて「事実はおおむねまちがいありません。Bが暴行を受けた等の事実は知りませんでしたが、転落だけでできた傷というのはおかしいとの疑問は持っていました」と述べている(乙7)。3(一) 被告人の前記各供述調書中の供述は、いずれも不利益事実の承認を内容とするものであり、任意性に疑いを抱かせるような事情も全くうかがわれない。(二)(1) すなわち、関係証拠(甲47)によれば、被告人は、逮捕の翌日である平成一〇年四月二六日から起訴される五月一五日までの間、連日取調べを受けているものの、取調べ等のための出し入れ ない。(二)(1) すなわち、関係証拠(甲47)によれば、被告人は、逮捕の翌日である平成一〇年四月二六日から起訴される五月一五日までの間、連日取調べを受けているものの、取調べ等のための出し入れ時間からすると、違法・不当と評価すべきほど長時間にわたる取調べが行われたとは認められない。また、被告人は、D検事の取調べについて、「総体として言えば、全く話を聞かず、どなり、怒り、罵倒し、まずほとんど話にならなかった。五月一二日の夕方には、その日の朝刑事さんの作った調書を持って突然留置場にやって来て、『こんなかったるい調書なんか使いものにならない、お前やったんだろう、ちゃんと吐け、悪徳医者をやればテレビも新聞も喜ぶ、お前の女房や子どもも追いかけられる、免許証も取り上げてやる、医者なんかさしてやらない』などと言われた。翌一三日検察庁に呼ばれたが、やはり『お前は悪徳医者だ、うそつきめ』などと罵倒されたので、黙秘したところ、その日の夜七時半ころ留置場にやってきて、一〇時半ころまで取り繕うような話をされ、その後、刑事さんから、『ああは言うけれどもD検事も人間なんだから、話せば分かってくれるから、ちゃんと話せよ』と諭された。 女房や子どもも追いかけられる、免許証も取り上げてやる、医者なんかさしてやらない』などと言われた。翌一三日検察庁に呼ばれたが、やはり『お前は悪徳医者だ、うそつきめ』などと罵倒されたので、黙秘したところ、その日の夜七時半ころ留置場にやってきて、一〇時半ころまで取り繕うような話をされ、その後、刑事さんから、『ああは言うけれどもD検事も人間なんだから、話せば分かってくれるから、ちゃんと話せよ』と諭された。そこで、翌一四日午前中のD検事の取調べでは、Eとのいきさつ等について普通に話をしたが、午後になって、Bの病状とかICUとかの話になると、また『お前がICUに入れなかったのがおかしいんだ、みんなが言っているんだ、一〇〇人が一〇〇人そう言っているんだ』などと言って、私の話を全く聞いてくれなくなったので、話をするのを止めた。翌一五日も完全に黙秘を通したが、D検事の作成した調書を出されて、署名しろと言われた。その調書には、『お前がやったんだろう』というような問が都合のいいように優しい言葉で書かれている一方、黙秘の理由については書かれていなかった たが、D検事の作成した調書を出されて、署名しろと言われた。その調書には、『お前がやったんだろう』というような問が都合のいいように優しい言葉で書かれている一方、黙秘の理由については書かれていなかったので、指印を拒否した」などと具体的に述べている(被告人三一回、三二回)ものの、警察官調書については、被告人が取調官に供述した内容は取調官が下書きしていたのに、ワープロでできあがった供述調書の内容は、被告人の供述内容とは食違いがあり、その点を指摘しても押し切られて署名指印してしまったとか、医学的な表現や用語に関する誤りなどを指摘するのみで、警察官調書の任意性に疑いを抱かせるような事情には言及していない。(2) また、被告人が平成一〇年五月一一日付けで作成し、そのころ弁護人に宅下げしたという上申書(弁5)においても、「取調べにおいて、私の申し立ては受け入れられず、私自身が確認し得た事柄、思った事柄、覚えていない事柄、不正確な記憶の事柄、等々が私が十分認識していたとの陳述となっております。特に、過去と現在における事象が同一に論じられております」、「更に、転落で脳に損傷でもあってはと、腹部と共にCTを施行しました。結果、脳内出血や腹腔内臓器の損傷もなく一安心しました。 人に宅下げしたという上申書(弁5)においても、「取調べにおいて、私の申し立ては受け入れられず、私自身が確認し得た事柄、思った事柄、覚えていない事柄、不正確な記憶の事柄、等々が私が十分認識していたとの陳述となっております。特に、過去と現在における事象が同一に論じられております」、「更に、転落で脳に損傷でもあってはと、腹部と共にCTを施行しました。結果、脳内出血や腹腔内臓器の損傷もなく一安心しました。ただ、左側頭部付近に皮下血腫(コブ)が認められたため、やはり酔って階段から落ちたのだと認識いたしました。この内容については大勢に影響はないからととりあげ調書に記載していただけませんでした」、「診断書の記入は、以上の所見、診察、治療から何の疑いもなく、記載いたしております。しかも、今回、刑事さんから『やっぱり有形無形の圧力があったのだろう』と云われましたが、私は死亡診断書を記載するにあたって、全く思いもしませんでした。しかし、刑事さんから『やっぱりEさんの存在があったから何か感じていたので ら『やっぱり有形無形の圧力があったのだろう』と云われましたが、私は死亡診断書を記載するにあたって、全く思いもしませんでした。しかし、刑事さんから『やっぱりEさんの存在があったから何か感じていたのでしょう』と云われ、『そうかもしれませんね』と云ったところ、調書ではEさんとの関係で虚偽の死亡診断書を作成したとのこととなってしまっています。断じて、私は、自信をもって、死亡診断書を作成しました」などと記述しているのみであることからみても、警察官調書の任意性に疑いを抱かせる事情は認められないといってよい。(三)(1) なお、被告人は、逮捕の翌々日に作成された検察官調書(乙6)について、「同調書が作成された際の取調べは調書作成に要した時間も含めて五分を切っており、犯罪事実すら読み聞かせてもらっていない。D検事から、『お前は嘘を書いただろう』などと聞かれたが、私は否定した。『暴行を受けてけがをした疑いがあった』とか、『うその診断書を書いたことは間違いありません』などとは供述していない。そういうやり取りが二、三あった後、D検事から、『弁護人はj先生にお願いしてあります』とだけ記載された一枚紙を渡され、署名指印を求められたので、そのとおりにした。調書の一枚目は見せてもらっていない」などと述べ(被告人三一回、三二回)、弁護人も、これを前提に、同検察官調書は、「D検事が勝手に作成し、中身も見せずに強引に署名させた」ものであるなどと主張する(弁論要旨九三頁)。 ん』などとは供述していない。そういうやり取りが二、三あった後、D検事から、『弁護人はj先生にお願いしてあります』とだけ記載された一枚紙を渡され、署名指印を求められたので、そのとおりにした。調書の一枚目は見せてもらっていない」などと述べ(被告人三一回、三二回)、弁護人も、これを前提に、同検察官調書は、「D検事が勝手に作成し、中身も見せずに強引に署名させた」ものであるなどと主張する(弁論要旨九三頁)。(2) しかしながら、D検事はこれを明確に否定している上、同検察官調書には、「Eからは、『あんたも分かっているの。ちゃんとやってくれにゃあ、困るで。うちも今大変じゃけ』などと言われていました」などと、被告人の他には誰も供述しておらず、かつ、検察官が創作したとは考えられないような個性的なEの発言振りが録 いるの。ちゃんとやってくれにゃあ、困るで。うちも今大変じゃけ』などと言われていました」などと、被告人の他には誰も供述しておらず、かつ、検察官が創作したとは考えられないような個性的なEの発言振りが録取されていること、また、右取調べの後、同日中に行われた勾留質問において、前記のとおり、被告人が、裁判官に対し、「事実はおおむねまちがいありません。Bが暴行を受けた等の事実は知りませんでしたが、転落だけでできた傷というのはおかしいとの疑問は持っていました」と、同検察官調書に録取されているのと表現振りは逆ではあるが趣旨としては同様の供述をしていること(乙7)、さらに、被告人が、前記のとおり、同年五月一五日の取調べの際にD検事から示された供述調書については、納得できなかったので署名指印しなかった旨供述していることなどからすると、同年四月二七日付け検察官調書(乙6)の作成経過に関する被告人の公判供述をそのまま信用するのは困難といわなければならず、結局、同検察官調書についても、D検事が被告人の供述をそのようなものとして録取し、被告人が署名指印したものと認めるのが相当であり、その任意性には問題がないというべきである。4 そこで、次に、前記各供述調書の信用性について検討する。(一) 前記各供述調書においてほぼ一貫しているのは、EらからBの真の負傷原因を聞かされていたとは述べていないこと、Bや付添いの者からは階段から落ちたと聞いたこと、したがって、Bが階段から落ちて負傷したものではないと確定的に認識していたわけではないこと、一方、Bのけが、特に左眼瞼部の皮下出血(ブラックアイ)の状態からすると、階段から落ちたとするBらの説明には疑問があり、けんか等のトラブルがあったのかなと思ったこと、Bが死亡し本件死亡診断書作成後、Eから、『今警察に入られると困るんじゃが たとは述べていないこと、Bや付添いの者からは階段から落ちたと聞いたこと、したがって、Bが階段から落ちて負傷したものではないと確定的に認識していたわけではないこと、一方、Bのけが、特に左眼瞼部の皮下出血(ブラックアイ)の状態からすると、階段から落ちたとするBらの説明には疑問があり、けんか等のトラブルがあったのかなと思ったこと、Bが死亡し本件死亡診断書作成後、Eから、『今警察に入られると困るんじゃが ブラックアイ)の状態からすると、階段から落ちたとするBらの説明には疑問があり、けんか等のトラブルがあったのかなと思ったこと、Bが死亡し本件死亡診断書作成後、Eから、『今警察に入られると困るんじゃがの』などと言われたこと、これを聞いて、EにはBのけがの原因について警察に聞かれると困ることが何かあったのかなと思ったこと、しかし、Eやその配下の者から、難癖をつけられでもしたら大変なことになると考えて、Bの真の負傷原因を追及せず、警察にも届け出なかったこと、である。(二)(1) このうち、Bのけが、特に左眼瞼部の皮下出血(ブラックアイ)の状態から、階段から落ちたとするBらの説明に疑問を感じ、けんか等のトラブルを疑ったとする部分は、前記認定のようなBの負傷状況や、被告人以外の医師及び看護婦の認識状況に照らし、合理的かつ自然なものということができる。(2) また、階段から落ちたとするBの説明に疑問を持ちつつも、Eやその配下の者らによる被告人の家族やA病院に対する報復を恐れて、Bの真の負傷原因を追及せず、警察にも届け出なかったとする部分も、同病院の泌尿器科医長の職にあり、暴力団組長であるEに依頼されてBの治療を引き受けたのに、結果的に同人を救うことができなかったという被告人の立場やその置かれた状況に照らすと、それなりに理解できるものである。(3) さらに、前記のとおり、Eから、「あんたも分かっているの。ちゃんとやってくれにゃあ、困るで。うちも今大変じゃけ(検察官調書、乙6)」、あるいは、「今、警察に入られては困るんじゃがの(警察官調書、乙4、5)」などと言われたとする点は、被告人の他には誰も供述しておらず、かつ、捜査官が創作したとは考えられないような個性的な発言振りというべきであって、高い信憑性を認めることができるというべきである。(4) と言われたとする点は、被告人の他には誰も供述しておらず、かつ、捜査官が創作したとは考えられないような個性的な発言振りというべきであって、高い信憑性を認めることができるというべきである。 官調書、乙4、5)」などと言われたとする点は、被告人の他には誰も供述しておらず、かつ、捜査官が創作したとは考えられないような個性的な発言振りというべきであって、高い信憑性を認めることができるというべきである。(4) と言われたとする点は、被告人の他には誰も供述しておらず、かつ、捜査官が創作したとは考えられないような個性的な発言振りというべきであって、高い信憑性を認めることができるというべきである。(4) これらのほか、前記各供述調書のうち、平成一〇年五月八日付け(乙4)及び同月一二日付け(乙5)の各警察官調書については、被告人の求めにより被告人自身の指印による契印が施されており、さらに、後者については被告人が読み聞けだけでなく、自ら閲覧して内容を確認した上で署名指印したことが認められるところ、その内容は、事件の評価について「私が医師としてもっと積極的な行動をとっていればこの様な結果とならないで済んだのではないかと反省しております」(乙4)、あるいは、「虚偽の診断書を作成したと思われてもいたしかたありません」(乙5)などとしている点で、逮捕後間もない時期に作成された警察官調書(乙3)及び検察官調書(乙6)に比較して後退した内容となっているものの、客観的な事実関係やBの負傷の原因に関する認識については、基本的に変わっていないことなども考えると、被告人の捜査段階における供述中、不利益な事実の承認を内容とする部分は、総じて十分に信用できるものというべきである。5(一) これに対し、弁護人は、前記各警察官調書に被告人に不利益な記載が存するのは、捜査官が思い込みによるストーリーを作り上げ、被告人にそのストーリーに沿った供述をさせようとした結果であり、被告人は、逮捕後、高血圧の症状が悪化し、抵抗力の限界のため、真意に反してある程度の妥協をせざるを得なかったためである、したがって、その信用性は低いなどと主張する(弁論要旨九三頁)。(二) なるほど、関係証拠(甲51、53、h一六回、一八回、被告人三一回)によれば、被告人は逮捕翌日である平成一〇年四月二六日 る、したがって、その信用性は低いなどと主張する(弁論要旨九三頁)。(二) なるほど、関係証拠(甲51、53、h一六回、一八回、被告人三一回)によれば、被告人は逮捕翌日である平成一〇年四月二六日、前日から引き続く頭痛を訴えk医院で診療を受けたが、同医院来院時の血圧は上が二三二、下が一一二であり、高血圧症と診断されたこと、被告人の血圧は、その後も、同年五月一日に健康診断を受けた時点で上が二〇〇、下が一二〇、五月八日A病院のh医師の診察を受けた時点で上が二四〇、下が一二〇程度であったことが認められる。 、53、h一六回、一八回、被告人三一回)によれば、被告人は逮捕翌日である平成一〇年四月二六日、前日から引き続く頭痛を訴えk医院で診療を受けたが、同医院来院時の血圧は上が二三二、下が一一二であり、高血圧症と診断されたこと、被告人の血圧は、その後も、同年五月一日に健康診断を受けた時点で上が二〇〇、下が一二〇、五月八日A病院のh医師の診察を受けた時点で上が二四〇、下が一二〇程度であったことが認められる。(三) また、被告人の前出上申書(弁5)には、「取調べにおいて、私の申し立ては受け入れられず、私自身が確認し得た事柄、思った事柄、覚えていない事柄、不正確な記憶の事柄、等々が私が十分認識していたとの陳述となっております。特に、過去と現在における事象が同一に論じられております」、「ブラックアイというのは刑事さんに言われて初めて思い出した言葉です。私たちは一般に使用していません。このことが眼瞼の皮下出血であることは解りますが、特に殴られてできるものであるとは思いません」、「初診のときに左眼瞼の皮下出血をみて、単なる打撲かあるいは殴られたかとは一瞬思いましたが、Bさん本人が『階段から落ちてしまった』と云われ、付添いの人からも『酔って階段から落ちました』と云われました。そこで、全身を診察しましたところ、両腕と両下肢は左右並行に内出血(打撲)しており、胸部には軽い内出血がありました。しかし、顔面は左眼瞼の内出血以外には、傷も内出血等もなく、私は酔っぱらって変な格好で落ちたのだろうと認識いたしました」、「更に、転落で脳に損傷でもあってはと、腹部と共にCTを施行しました。結果、脳内出血や腹腔内臓器の損傷もなく一安心しました。ただ、左側頭部付近に皮下血腫( な格好で落ちたのだろうと認識いたしました」、「更に、転落で脳に損傷でもあってはと、腹部と共にCTを施行しました。結果、脳内出血や腹腔内臓器の損傷もなく一安心しました。ただ、左側頭部付近に皮下血腫(コブ)が認められたため、やはり酔って階段から落ちたのだと認識いたしました。この内容については大勢に影響はないからととりあげ調書に記載していただけませんでした」、「先に述べたことなどから、転落(酔って)、全身打撲、(挫滅症候群)急性腎不全と診察して治療に当たったのです」、「ICUへの搬入に関してですが、ICUは密室であり、術後の重症患者等がいるため、Bさんの付添いの暴力団の人達が入っていって勝手な行動をとったり、騒いだりして業務に支障を来してはいけないと思い、搬入いたしませんでした。 いては大勢に影響はないからととりあげ調書に記載していただけませんでした」、「先に述べたことなどから、転落(酔って)、全身打撲、(挫滅症候群)急性腎不全と診察して治療に当たったのです」、「ICUへの搬入に関してですが、ICUは密室であり、術後の重症患者等がいるため、Bさんの付添いの暴力団の人達が入っていって勝手な行動をとったり、騒いだりして業務に支障を来してはいけないと思い、搬入いたしませんでした。もちろん、最初の時点では、輸液(点滴)などの保存的治療で回復すると思っていました」、「診断書の記入は、以上の所見、診察、治療から何の疑いもなく、記載いたしております。しかも、今回、刑事さんから『やっぱり有形無形の圧力があったのだろう』と云われましたが、私は死亡診断書を記載するにあたって、全く思いもしませんでした。しかし、刑事さんから『やっぱりEさんの存在があったから何か感じていたのでしょう』と云われ、『そうかもしれませんね』と云ったところ、調書ではEさんとの関係で虚偽の死亡診断書を作成したとのこととなってしまっています。断じて、私は、自信をもって、死亡診断書を作成しました」、「G看護婦に、看護記録に記入してあった『けんか』の件については、『けんかとあるけれど、これは本当なのか、誰か聞いたか』と聞きました。私は、今回の治療の中でこのような報告は受けておりませんでした。そして、『よく確かめてください。もしそうしたことがなかったなら、書き直してもらってください』と告げたのです 誰か聞いたか』と聞きました。私は、今回の治療の中でこのような報告は受けておりませんでした。そして、『よく確かめてください。もしそうしたことがなかったなら、書き直してもらってください』と告げたのです。これも調書からは除かれています」、「私は虚偽の死亡診断書を作成してはおりません。今、刑事さんからBさんのことについて詳しく聞かされ、また、他のスタッフやEさんやその廻りの人達のこと、行為を聞き、ふりかえってみて、私の行為を照らし併せて、過去のその時点のことを改めて考えなおし、認識しているのであり、その時に調書にあるごとく、私自身が認識して行動(死亡診断書の作成や医療行為等)し、行ったのではありません。しかし、いずれにしてもこうした結果となったことに対しては、深く反省すると共に、恥じ入る次第です。」などと記載されている。 かされ、また、他のスタッフやEさんやその廻りの人達のこと、行為を聞き、ふりかえってみて、私の行為を照らし併せて、過去のその時点のことを改めて考えなおし、認識しているのであり、その時に調書にあるごとく、私自身が認識して行動(死亡診断書の作成や医療行為等)し、行ったのではありません。しかし、いずれにしてもこうした結果となったことに対しては、深く反省すると共に、恥じ入る次第です。」などと記載されている。(四) しかしながら、被告人の前記各警察官調書中の供述のうち、Bのけが、特に左眼瞼部の皮下出血(ブラックアイ)の状態から、階段から落ちたとするBらの説明に疑問を感じ、けんか等のトラブルを疑ったとする部分は、前記認定のようなBの負傷状況や、被告人以外の医師及び看護婦の認識状況に照らし、合理的かつ自然なものということができること、また、被告人がBの真の負傷原因を追及せず、警察にも届けなかった理由に関する部分もそれなりに理解できるものであること、さらに、被告人の前記各警察官調書中には、被告人のほか誰も供述していない極めて個性的なEの発言が録取されており、このような供述については、高い信憑性を認めることができること等、前記各警察官調書の信用性を基礎付ける事情については、既に判示したとおりである上、関係証拠(甲51、h一六回、被告人三一回、三二回)によれば、被告人は、平成一〇年四月二六日k医院で診療を受けた際、アダラート舌下錠を使用し を基礎付ける事情については、既に判示したとおりである上、関係証拠(甲51、h一六回、被告人三一回、三二回)によれば、被告人は、平成一〇年四月二六日k医院で診療を受けた際、アダラート舌下錠を使用しており、その結果、上が一七八、下が一〇〇まで血圧が下がったこと、また、その際、朝夕二錠、七日分のアダラートを処方されていること、同月二八日には、A病院のh医師の判断で、被告人が逮捕されるまでに服用していた薬を届けてもらい、翌二九日ころから服用を開始したこと、さらに、同年五月八日にはh医師の診察を受けて別の薬を処方してもらい、翌九日朝から服用を始めたこと、その結果、被告人自身の公判廷における供述によっても、同月一一日ころには、精神面も含めて体調がよくなってきたことが認められるところ、被告人の警察官調書のうち最後の日付のものは、右のとおり、被告人自身、精神面も含めて体調がよくなってきたとしている日の翌日である(前記上申書の作成日付の翌日でもある)同月一二日に作成されているのであり、その内容は、それ以前に録取された警察官調書の内容と基本的に異なっていないのであるから、同日付けの調書はもとより、それ以前の警察官調書についても、高血圧症の影響により特に信用性のない供述が録取されたとは考えられないのである。 ち最後の日付のものは、右のとおり、被告人自身、精神面も含めて体調がよくなってきたとしている日の翌日である(前記上申書の作成日付の翌日でもある)同月一二日に作成されているのであり、その内容は、それ以前に録取された警察官調書の内容と基本的に異なっていないのであるから、同日付けの調書はもとより、それ以前の警察官調書についても、高血圧症の影響により特に信用性のない供述が録取されたとは考えられないのである。三公判廷における被告人の供述の信用性について一方、被告人は、公判廷においては、前記のとおり、救急室で最初にBを見た際、一瞬けんかかなと思ったものの、Bらの説明を聞いて、階段から落ちたものと信じ込んでしまい、その後は、Bがけんかによって負傷したとか、けんかによる負傷が原因で死亡したとかは全く考えなかったなどと述べるのであるが、前記第四の六で認定したようなBの負傷状況、特に左眼瞼部の皮下出血の状況、前記第五の二の3の(五)で認定したような被告人以外の医 よる負傷が原因で死亡したとかは全く考えなかったなどと述べるのであるが、前記第四の六で認定したようなBの負傷状況、特に左眼瞼部の皮下出血の状況、前記第五の二の3の(五)で認定したような被告人以外の医師や看護婦の認識状況、さらに、H鑑定人において、Bの左眼瞼部の皮下出血につき、「子供が学校から帰ったらパンダのようにブラックアイをしていると。両親がどうしたんだと聞いたら、鉄棒から落ちたんだとというような説明をしたとしますよね。それで納得しないで、警察の方に、あるいは学校の方へ、いじめがあったんじゃないかと追及してもおかしくないような、そういう傷だと私は思いました」などと述べていること(H一三回)などに照らすと、Bらの説明を聞き、同人の負傷のすべてを階段からの転倒・転落によって生じたものと信じ込み、その後何の疑問も抱かなかったとする被告人の公判供述は不自然、不合理なものといわざるを得ない。また、被告人が、第二九回公判において、検察官から、「あなたはBさんの顔面のけがを診て、救急室で、暴行によるものという疑いを抱きましたか」と問われて「抱きません」と答え、検察官から、重ねて「一切、抱いてないんですか」と問われても、「抱いておりません」と答えながら、第三〇回公判においては、検察官に対し、救急室のドアを開け、Bをぱっと見た瞬間に、その状況を見て、あれ、けんかかなと一瞬よぎったことを認めるなど、いたずらに警戒的で不誠実な供述態度を示していたことなども併せて考えると、その公判供述のうち、医学的な表現や用語に関する誤りなどを指摘する一部分を除き、前記被告人の警察官調書中の供述に反する部分、特に、右供述調書中の供述の核心をなす部分、すなわち、Bのけが、特に左眼瞼部の皮下出血(ブラックアイ)の状態からすると、階段から落ちたとするBらの説明には疑問があり、けんか なと一瞬よぎったことを認めるなど、いたずらに警戒的で不誠実な供述態度を示していたことなども併せて考えると、その公判供述のうち、医学的な表現や用語に関する誤りなどを指摘する一部分を除き、前記被告人の警察官調書中の供述に反する部分、特に、右供述調書中の供述の核心をなす部分、すなわち、Bのけが、特に左眼瞼部の皮下出血(ブラックアイ)の状態からすると、階段から落ちたとするBらの説明には疑問があり、けんか 調書中の供述に反する部分、特に、右供述調書中の供述の核心をなす部分、すなわち、Bのけが、特に左眼瞼部の皮下出血(ブラックアイ)の状態からすると、階段から落ちたとするBらの説明には疑問があり、けんか等のトラブルがあったのかなと思った、Bが死亡し本件死亡診断書作成後、Eから、『今警察に入られると困るんじゃがの』などと言われた、これを聞いて、EにはBのけがの原因について警察に聞かれると困ることが何かあったのかなと思った、しかし、Eやその配下の者から、難癖をつけられでもしたら大変なことになると考えて、Bの真の負傷原因を追及せず、警察にも届け出なかった、という供述に反する部分については、全体として信用性が乏しいというべきである。第八主たる争点についての判断以上を前提に、本件の主たる争点について判断する。一主位的訴因について 1 まず、本件死亡診断書を作成したころ、被告人が、Eその他の者から、Bの真の負傷原因を知らされていたことを示す証拠は全くなく、その他、そのころ、被告人において、「Bが意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと確定的に認識していたこと」を示す直接証拠はない。なお、被告人の検察官調書(乙6)には、「Eから『あんたも分かっているの。ちゃんとやってくれにゃあ、困るで。うちも今大変じゃけ』などと言われていた」旨録取されているけれども、Eからそのように言われた時期については全く特定されていない。しかし、それより後に作成された警察官調書(乙4、5)には、「本件死亡診断書を作成した後、Eと会い、Bの死亡原因を説明したところ、Eから、『今警察に入られると困るんじゃがの』と言 く特定されていない。しかし、それより後に作成された警察官調書(乙4、5)には、「本件死亡診断書を作成した後、Eと会い、Bの死亡原因を説明したところ、Eから、『今警察に入られると困るんじゃがの』と言われた」などと録取されているところ、右被告人の検察官調書(乙6)に録取されたEの発言に関する供述内容に符合するような供述内容は、右被告人の警察官調書(乙4、5)に録取された右供述を除いては、被告人が捜査段階において録取された供述の中には全く見当たらないことからみると、右被告人の検察官に対する供述調書(乙6)に録取されたEの発言と、それより後に作成された右警察官調書(乙4、5)に録取されたEの発言は、同じ機会になされたものとみるのが自然である。 検察官調書(乙6)に録取されたEの発言に関する供述内容に符合するような供述内容は、右被告人の警察官調書(乙4、5)に録取された右供述を除いては、被告人が捜査段階において録取された供述の中には全く見当たらないことからみると、右被告人の検察官に対する供述調書(乙6)に録取されたEの発言と、それより後に作成された右警察官調書(乙4、5)に録取されたEの発言は、同じ機会になされたものとみるのが自然である。そして、その機会において、被告人がEから、検察官調書に録取されたようなことを言われたとしても、これは、被告人において、EからBの真の負傷原因を聞かされていたことまで意味するものでないことは明らかである。2 もっとも、被告人が、Bの死亡後間もなく、Eと面会した際、Eから「今、警察に入られると困るんじゃがの」、あるいは、「あんたも分かっているの。ちゃんとやってくれにゃあ、困るで。うちも今大変じゃけ」などと言われ、その後、看護記録の現病歴欄に「けんかをして階段から転落」などと記載されていることに気付くや、G看護婦に対し、「けんかをしてと書いてあるが、確認しないで書くのはまずい、F看護婦に書き直すように言ってくれ」などと指示した事実は、一見すると、被告人がBの真の負傷原因を認識していたことを示す事実のようにも思われる。しかしながら、被告人は、前記のとおり、捜査段階において、Bの負傷状況等からみて、階段から落ちて負傷したとするBらの説明に疑問を感じ、けんか等のトラブルに巻き込まれたのではないかとの疑問を持ったの しかしながら、被告人は、前記のとおり、捜査段階において、Bの負傷状況等からみて、階段から落ちて負傷したとするBらの説明に疑問を感じ、けんか等のトラブルに巻き込まれたのではないかとの疑問を持ったのに、Eらの報復を恐れて、それ以上けがの原因を追及しないまま本件死亡診断書を作成した旨供述しており、階段から転倒・転落したという話自体が虚偽であると思ったとまでは供述していない。そして、前記のようなF看護婦に対する指示も、被告人自身その日私用があり、午前八時ころA病院を出る直前、看護記録の右記載に気付き、近くにいたG看護婦に対し、「けんかをしてと書いてあるが、確認しないで書くのはまずい、F看護婦に書き直すように言ってくれ」などと指示したに止まるものである上、その態様をみても、被告人において、指示したこと自体の発覚を恐れていたことを推認させるような態様で、すなわち、例えば、人を介さず被告人が直接F看護婦に対して指示を与えたわけではなく、また、仲介する者やF看護婦がこの件について口外しないよう付言してなされたというわけでもないのである。 してと書いてあるが、確認しないで書くのはまずい、F看護婦に書き直すように言ってくれ」などと指示したに止まるものである上、その態様をみても、被告人において、指示したこと自体の発覚を恐れていたことを推認させるような態様で、すなわち、例えば、人を介さず被告人が直接F看護婦に対して指示を与えたわけではなく、また、仲介する者やF看護婦がこの件について口外しないよう付言してなされたというわけでもないのである。そして、以上のようなF看護婦に対する指示に至る経緯や指示内容、さらに指示の態様に照らすと、看護記録の記載の書き直しに関する被告人の指示は、被告人において、Bの負傷は階段から転倒・転落しただけでなく、けんか等の暴行によって生じた可能性もあると認識していた場合であっても、あり得る事実ということができるというべきである。そうすると、前記の事実をもって、「Bが意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと確定的に認識していたこと」を示すものといえないというべきである。3 段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと確定的に認識していたこと」を示すものといえないというべきである。3 なお、H鑑定人は、本件死亡診断書の記載の適否に関し、捜査関係事項照会に対する回答書(甲9)において、「Bの直接死因を急性心不全とし、その原因を急性腎不全としたのはそれ自体問題であるが、この点はさておき、被告人自身、本件死亡診断書の外因死の追加事項の手段及び状況欄に『階段からの転倒・転落か』と記載しており、転倒・転落の事実があったか否かについて、自ら曖昧であるとしながら、死因の種類欄において、『外因死、転落・転倒』と確定的に記載したのは、極めて人為的な記載をしているというような印象が強い」旨記載し、公判廷においても、ほぼ同様の意見を述べている。なるほど、前記警察官調書によって認定できる被告人の認識に照らすと、H鑑定人の指摘するように、被告人が本件死亡診断書の外因死の追加事項の手段及び状況欄に『階段からの転倒・転落か』と記載したことをもって、転倒・転落の事実があったか否か曖昧であると認識していたとまでいいうるかどうかはともかく、被告人としては、Bがけんか等のトラブルに巻き込まれたのではないかとの疑問を持ち、ひいて死因となった負傷が転倒・転落のみによって生じたものかどうかについて疑問を感じながら、これを確認しないまま、死因の種類を『外因死、転落・転倒』とする死亡診断書を作成し、警察に届け出なかったばかりか、看護婦が「けんかをして階段から転落」と記載したことに対し、単に自分自身が誰からも聞いていなかったということから、確認できていないとして書き直させるなどした被告人の行為は、医師に要求される高度の職業倫理に照らし、一定の非難を免れないものと考えられるが ものかどうかについて疑問を感じながら、これを確認しないまま、死因の種類を『外因死、転落・転倒』とする死亡診断書を作成し、警察に届け出なかったばかりか、看護婦が「けんかをして階段から転落」と記載したことに対し、単に自分自身が誰からも聞いていなかったということから、確認できていないとして書き直させるなどした被告人の行為は、医師に要求される高度の職業倫理に照らし、一定の非難を免れないものと考えられるが 対し、単に自分自身が誰からも聞いていなかったということから、確認できていないとして書き直させるなどした被告人の行為は、医師に要求される高度の職業倫理に照らし、一定の非難を免れないものと考えられるが、そのことと、被告人の行為が本件の主位的訴因(あるいは予備的訴因)に該当するかどうかはもとより別個の問題である。かえって、前記回答書の文言等からすれば、H鑑定人にあっても、被告人において、「Bが意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと確定的に認識していた」と述べるものでないことは明らかといわなければならない。4 また、被告人以外の医師や看護婦の検察官調書には、Bの負傷の状況は、一見して暴行によるものであると分かったかのような供述記載もあるけれども、供述者及びD検事の公判廷における証言によれば、これら検察官調書に録取された供述内容によって認定できるのは、「階段から落ちてけがをしたと聞いた被告人以外の医師や看護婦は、Bが階段から落ちたという話自体は疑わなかった。しかし、Bのけがの状態からして、そのけがのすべてが階段からの転倒・転落によって生じたものであるかどうかについては疑問を感じ、けがの中には、誰かに殴られたり、蹴られたりしたためにできたものがあるのではないかと考えた」という事実に止まることは前述(第五の二の3の(五))したとおりである。そうすると、これらの検察官調書は、主位的訴因、すなわち、被告人において、Bが「意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷 ち、被告人において、Bが「意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと認識していたこと」の証明には、むしろマイナスに働くものというべきである。 人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷 ち、被告人において、Bが「意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと認識していたこと」の証明には、むしろマイナスに働くものというべきである。5 これらに加え、被告人は、平成九年一〇月下旬から一一月上旬にかけてやくざ風の男に脅迫され、同月六日ころ、警察に相談したものであるが、弁八号証によると、その脅迫内容は、被告人がEから依頼されてBの死因を病死とする死亡診断書を作成したというものであって、社会的事実としては、本件起訴事実と同一のものであるところ、被告人は、この点のほか、Eとの親しい関係やBに対する診療後Eから現金を受領した事実などをも記載した文書を作成し、平成一〇年三月七日付けで、警視庁築地警察署刑事課の警部宛に送付していることなどの消極的情況証拠も併せて考えれば、被告人において、「Bが意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を加えられたと認識し、かつ、同人が階段からの転落等によって負傷したことはないと認識し、よって、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないと認識していた」とは認め難いのであって、結局のところ、主位的訴因については、検察官において、合理的な疑いを入れない程度に立証を尽くしたといえないことは明らかである。二予備的訴因について 1 そこで、次に予備的訴因のうち、まず、被告人の認識に関する部分、すなわち、被告人において、「Bが死亡したのは、主として同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したためであると確定的に認識していた」と認められるかどうかについて検討する。2 前記のとおり、被告人は、Bが階段から転倒・転落し して同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したためであると確定的に認識していた」と認められるかどうかについて検討する。2 前記のとおり、被告人は、Bが階段から転倒・転落したという話自体が虚偽であると思ったとまでは供述しておらず、Bの死因となった負傷が、階段からの転倒・転落と、けんか等のトラブルのいずれによって生じたと認識したのかについても全く供述していない。 から転倒・転落し して同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したためであると確定的に認識していた」と認められるかどうかについて検討する。2 前記のとおり、被告人は、Bが階段から転倒・転落したという話自体が虚偽であると思ったとまでは供述しておらず、Bの死因となった負傷が、階段からの転倒・転落と、けんか等のトラブルのいずれによって生じたと認識したのかについても全く供述していない。3 また、前記のとおり、被告人以外の医師や看護婦の供述調書には、「Bのけがは階段から落ちただけではできないものだと思った」旨の記載があるけれども、D検事が、「階段から落ちてできたけがと暴行を受けてできたけがのどちらが死亡の主たる原因になったと認識したかについて供述した者はいない」と述べている(D二五回)とおり、Bのけがのうち、階段から落ちてできたけがと暴行を受けてできたけがのどちらが死亡の主たる原因になったと認識したかについては全く記載がない。したがって、これらの供述調書は、予備的訴因、すなわち、被告人において、「Bが死亡したのは、主として同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したためであると確定的に認識していたこと」を証明するものではない。4 そして、その他の全証拠を精査しても、被告人において、「Bが死亡したのは、主として同人が意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行を受けて負傷したためであると確定的に認識していたこと」を認めるに足りる証拠は見当たらない。5 したがって、その余の点を検討するまでもなく、予備的訴因についても、証明不十分というほかない。第九結論以上の次第で、本件については、主位的訴因、予備的訴因とも、これを認めるに足りる証拠がなく、したがって、本件公訴事実については犯罪の証明がないことに帰着するから、刑 というほかない。第九結論以上の次第で、本件については、主位的訴因、予備的訴因とも、これを認めるに足りる証拠がなく、したがって、本件公訴事実については犯罪の証明がないことに帰着するから、刑訴法三三六条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。よって、主文のとおり判決する。平成一三年一一月二九日東京地方裁判所刑事第二部裁判長裁判官植村稔 裁判官伊藤雅人 裁判官福家康史は差し支えのため署名,押印できない。裁判長裁判官植村稔

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