令和6(行ウ)4 裁決取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年5月22日 東京地方裁判所 その他
ファイル
hanrei-pdf-95401.txt

判決文本文14,412 文字)

令和7年5月22日判決言渡令和6年(行ウ)第4号裁決取消等請求事件主文 1 国土交通大臣が令和5年7月7日付けで原告に対してした裁決(国鉄事第239号)を取り消す。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主文1項と同旨 2 被告は、原告に対し、20万円及びこれに対する令和5年7月7日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告は、国土交通大臣が東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」とい う。)に対してした運賃上限変更認可処分について、その取消しを求めて審査請求をしたところ、国土交通大臣から、同審査請求は不適法であって補正することができないことが明らか(行政不服審査法24条2項)であるとして、これを却下する裁決を受けた。 本件は、原告が、①上記裁決は違法であるとしてその取消しを求めるととも に、②国土交通大臣が上記裁決をしたことは国家賠償法上も違法であるとして、被告に対し、同法1条1項に基づき、慰謝料20万円及びこれに対する違法行為の日(上記裁決の日)である令和5年7月7日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 関係法令の定め 別紙1「関係法令の定め」に記載のとおり。 なお、同別紙中で定義した略称は、以下の本文においても同様に用いるものとする。 2 前提事実(後掲各証拠により容易に認められる事実及び当裁判所に顕著な事実)(1) JR東日本に対する運賃上限変更認可処分ア JR東日本は、令和4年9月16日付けで、国土交通大臣に対し、下記 のとおり、変動運賃制(運賃の上 認められる事実及び当裁判所に顕著な事実)(1) JR東日本に対する運賃上限変更認可処分ア JR東日本は、令和4年9月16日付けで、国土交通大臣に対し、下記 のとおり、変動運賃制(運賃の上限を変更した上で、運賃収入を増加させないことを前提に、変更した上限の範囲内において割増の運賃と割引の運賃を組み合わせた設定のこと。)を実施し、オフピーク定期券(混雑時間帯には利用することができない代わりに、通常定期券よりも割安に購入することができる定期券のこと。)を導入することを理由として、鉄道事業法1 6条1項に基づく運賃上限変更認可申請(以下「本件認可申請」という。)をした(乙1)。 記(ア) 変更しようとする運賃を適用する路線別紙2(1)のとおり(イ) 変更しようとする運賃の上限の種類、額及び適用方法別紙2(2)のと おり(ウ) 実施希望日・期間令和5年3月から令和8年3月までイ国土交通大臣は、令和4年9月21日付けで、運輸審議会に対し、本件認可申請について諮問をした(乙18)。 ウ運輸審議会は、令和4年9月22日、本件認可申請につき公聴会を開催 することを職権で決定し、その後、公述の申込みをしたJR東日本及び原告を公述人に選定した(乙2の1の1、19の1~3)。 JR東日本及び原告は、同年11月17日、公聴会において公述等をした(乙19の4~6)。 エ運輸審議会は、令和4年12月15日、期限に係る条件を付した上で、 本件認可申請を認めるべきである旨の答申をした(乙3)。 オ国土交通大臣は、令和4年12月27日、本件認可申請について、認可の有効期限を令和8年3月31日までとするなどの条件を付した上で、認可(以下「本件認可」という。)をした(乙20)。 (2) 原告による 交通大臣は、令和4年12月27日、本件認可申請について、認可の有効期限を令和8年3月31日までとするなどの条件を付した上で、認可(以下「本件認可」という。)をした(乙20)。 (2) 原告による審査請求及びこれに対する裁決等ア原告は、令和4年12月27日付けで、国土交通大臣に対し、本件認可 の取消し及び執行停止を求めて審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。 原告は、本件審査請求に当たり、自分は別紙2(1)記載の電車特定区間内の通勤定期券を購入している者であるから、審査請求人適格を有する旨主張し、その証拠書類として、JR東日本が発行する通勤定期券の写し(モ バイルSuica上に表示されたAの通勤定期券のスクリーンショットを印刷したもの。甲4)を提出した。 (甲2)イ国土交通大臣は、令和5年7月7日付けで、JR東日本の鉄道の利用者にすぎない原告には審査請求人適格がなく、本件審査請求は不適法であり、 かつ、これを補正することができないことが明らかであるとして、行政不服審査法第2章第3節の審理手続(以下、単に「審理手続」という。)を経ることなく、同法24条2項及び45条1項の規定に基づき、本件審査請求を却下する旨の裁決(国鉄事第239号。以下「本件裁決」という。ただし、鉄道局長による専決によるもの。甲7)をした。 なお、国土交通大臣は、本件裁決が「運輸審議会が軽微なものと認めるもの」(国土交通省設置法15条3項)に該当することを理由に、運輸審議会への諮問をしなかった。 (甲1)ウ国土交通大臣は、令和5年7月7日付けで、本件認可について執行停止 をしない旨の決定(国鉄事第240号)をした(乙23)。 エ原告は、令和5年7月11日、本件裁決及び上記ウの決定の通知を受領し 、令和5年7月7日付けで、本件認可について執行停止 をしない旨の決定(国鉄事第240号)をした(乙23)。 エ原告は、令和5年7月11日、本件裁決及び上記ウの決定の通知を受領した(乙22)。 (3) 本件訴えの提起原告は、令和6年1月10日、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。 3 争点(1) 請求1について本件裁決の適法性(争点1)(2) 請求2について国家賠償法上の違法行為及び損害の有無(争点2) 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(本件裁決の適法性)(被告の主張)ア 「審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかなとき」(行政不服審査法24条2項)に該当すること (ア) 行政不服審査法24条2項にいう「審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかなとき」とは、裁決行政庁において、審査請求書からして、審査請求が不適法であると判断され、かつ、その補正不能が明らかであるときをいうものである。 具体的には、審査請求書の記載の訂正等により適法な審査請求として 扱う余地のない瑕疵、例えば、処分性や審査請求人適格の欠如等については、審理手続を開始し、不服に理由があるかどうかを判断する手続をする前提を欠くため、「審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかなとき」に該当する。 (イ) 鉄道事業法(昭和61年法律第92号)の制定に伴い廃止された地方 鉄道法に基づく運賃変更認可処分の取消しの訴えについては、鉄道利用 者の原告適格を否定した最高裁昭和60年(行ツ)41号平成元年4月13日第一小法廷判決・裁判集民事156号499頁(以下「近鉄特急最高裁判決」という。)が存在するところ、当該判断は、鉄 用 者の原告適格を否定した最高裁昭和60年(行ツ)41号平成元年4月13日第一小法廷判決・裁判集民事156号499頁(以下「近鉄特急最高裁判決」という。)が存在するところ、当該判断は、鉄道事業法の施行後もなお先例的意義を有するものであるから、運賃上限変更認可処分に係る審査請求人適格については、近鉄特急最高裁判決に従って判断す べきである。 近鉄特急最高裁判決に照らせば、JR東日本の鉄道利用者にすぎない原告は、本件審査請求に係る審査請求人適格を有しない。 したがって、本件審査請求は、「不適法であって補正することができないことが明らかなとき」に該当するから、審理手続を経ずに本件審査請 求を却下した本件裁決の手続に瑕疵はない。 (ウ) 原告は、通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者に原告適格を認めた東京地裁平成22年(行ウ)第462号、同24年(行ウ)第384号同25年3月26日判決・判例時報2209号79頁(以下「東京地裁平成25年判決」という。)に依拠して、審 査請求人適格を有する旨主張する。 しかし、東京地裁平成25年判決は、鉄道事業者と鉄道利用者の関係は契約自由の原則が妥当する私人間の契約関係にとどまることや、鉄道事業法は鉄道事業者が適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えない範囲で運賃を設定しているか否かに着目するにとどまることなどを看過 しており、誤っている。 したがって、本件審査請求に係る審査請求人適格を検討するに当たっては、東京地裁平成25年判決を参考にすべきではない。 イその余の原告の主張について(ア) 運輸審議会への諮問を省略できること 国土交通大臣は、運賃上限変更認可処分に対する審査請求について裁 決をする場合、原則として運輸審 い。 イその余の原告の主張について(ア) 運輸審議会への諮問を省略できること 国土交通大臣は、運賃上限変更認可処分に対する審査請求について裁 決をする場合、原則として運輸審議会に諮問しなければならない(国土交通省設置法15条2項)が、「運輸審議会が軽微なものと認めるもの」についてはこれを省略できる(同条3項)。そして、運輸審議会は、諮問省略基準において、審査請求を「却下すべきことが明白であるもの」については、上記「軽微なもの」に該当するものと認定する旨定めている。 本件審査請求は、上記アのとおり、「不適法であって補正することができないことが明らかなとき」に該当するから、諮問省略基準にいう「却下すべきことが明白であるもの」にも該当する。 したがって、国土交通大臣が本件裁決をするに当たり、運輸審議会に諮問しなかった手続に瑕疵はない。 (イ) 鉄道局長による専決に問題はないこと本件裁決は、国土交通大臣の名によって権限が行使されているから、国土交通大臣がその責任を負うのであり、本件裁決に係る専決に手続上の瑕疵はない。また、行政機関のどの職員が実質的に決定したかは本件裁決の適法性に影響しない。 したがって、鉄道局長による専決が違法であるとする原告の主張は理由がない。 (原告の主張)ア 「審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかなとき」(行政不服審査法24条2項)に該当しないこと 東京地裁平成25年判決は、通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者について、改正前鉄道事業法16条1項に基づく運賃変更認可処分又は鉄道事業法16条1項に基づく運賃上限変更認可処分の取消し等の訴えに係る原告適格を認め、近鉄特急最高裁判決の射程は及ばないものと判断 について、改正前鉄道事業法16条1項に基づく運賃変更認可処分又は鉄道事業法16条1項に基づく運賃上限変更認可処分の取消し等の訴えに係る原告適格を認め、近鉄特急最高裁判決の射程は及ばないものと判断した。そして、東京地裁平成25年判決における 原告適格に関するこの判断は、上訴審(東京高裁平成25年(行コ)第1 87号同26年2月19日判決・訟務月報60巻6号1367頁、最高裁平成26年(行ツ)第254号、同年(行ヒ)第266号同27年4月21日第三小法廷決定・D1-Law.com判例体系)においても維持されており、同旨の判断をした裁判例(東京地裁平成26年(行ウ)第422号同31年3月14日判決・裁判所ウェブサイト)も存在する。 このように、近鉄特急最高裁判決は、平成16年法律第84号による改正後の行政事件訴訟法の施行後、原告適格につき異なる判断をした裁判例が現われており、その判断が最高裁においても維持されていることや、行政法学会において厳しく批判されていることからすれば、変更される可能性が十分にある判例であった。 したがって、運賃上限変更認可処分について第三者から審査請求がなされた場合に、鉄道利用者であることを理由に当然に審査請求人適格を否定する判例は確立していないから、国土交通大臣は、本件審査請求が不適法であることが明らかであると直ちに判断することはできなかった。 以上のとおり、本件審査請求は、「不適法であって補正することができな いことが明らかなとき」に該当しない。 イ運輸審議会への諮問がされなかったこと本件審査請求においては、審査請求人適格の有無が争点となるところ、これは行政法上重要な論点である上、上記アのとおり、近鉄特急最高裁判決と異なる判断をした裁判例も存在することからすれば、その たこと本件審査請求においては、審査請求人適格の有無が争点となるところ、これは行政法上重要な論点である上、上記アのとおり、近鉄特急最高裁判決と異なる判断をした裁判例も存在することからすれば、その裁決に当た っては、有識者で構成される運輸審議会に諮問されるべきであった。 したがって、本件審査請求は、諮問省略基準にいう「却下すべきことが明白であるもの」に該当しないから、国土交通大臣が、これを「軽微なもの」(国土交通省設置法15条3項)に該当するとして、運輸審議会に諮問しなかったことは違法である。 ウ鉄道局長による専決によりされたこと 本件裁決は、東京地裁平成25年判決等の裁判例に反するものであり、我が国の最大の鉄道事業者であるJR東日本の運賃上限変更認可処分に関わるものであることからすれば、「特に重要な事項若しくは異例に属する事項」として、国土交通大臣の決裁を要するものであった(国土交通省決裁規則3条1項)。 したがって、鉄道局長による専決によりされた本件裁決は違法である。 (2) 争点2(国家賠償法上の違法行為及び損害の有無)(原告の主張)ア被告が依拠する近鉄特急最高裁判決は鉄道事業法の制定に伴い廃止された地方鉄道法のものである上、これを明確に否定する東京地裁平成25年 判決等の裁判例が存在することや行政法学会における議論状況からすれば、国土交通大臣が、有識者で構成される運輸審議会に諮問せず、原告の審査請求人適格を否定する本件裁決をしたことは、職務上の法的義務違反があり、国家賠償法上違法である。 イ原告は、国土交通大臣による本件裁決という違法行為により、本件審査 請求について本案審理を受ける手続的利益を侵害された。その慰謝料は20万円を下回らない。 (被告の主張)ア ある。 イ原告は、国土交通大臣による本件裁決という違法行為により、本件審査 請求について本案審理を受ける手続的利益を侵害された。その慰謝料は20万円を下回らない。 (被告の主張)ア(ア) 本件裁決は、上記(1)(被告の主張)のとおり適法であるから、国土交通大臣が本件裁決をしたことについて、職務上の法的義務違反はない。 (イ) 仮に本件裁決が違法であるとしても、原告に審査請求人適格がないとした判断には合理的理由があり、また、先例的意義を有する近鉄特急最高裁判決に沿うものであるから、一下級審にすぎない東京地裁平成25年判決に沿った判断をしなかったことをもって、国土交通大臣が職務上の法的義務に違反したとはいえず、国家賠償法上違法ではない。 イ損害については争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件裁決の適法性)について(1) 本件審査請求が「不適法であって補正することができないことが明らかなとき」(行政不服審査法24条2項)に該当するか否かア被告は、上記第2の4(1)(被告の主張)ア(ア)及び(イ)のとおり、運賃上 限変更認可処分に係る審査請求人適格については、近鉄特急最高裁判決に従って判断すべきであるところ、そうであれば、JR東日本の鉄道利用者にすぎない原告において、本件審査請求に係る審査請求人適格を有しないことは明らかであり、そのことは審査請求書の記載の訂正等により適法な審査請求として扱う余地がないことを意味するから、本件審査請求は、「不 適法であって補正することができないことが明らかなとき」に該当する旨主張する。 イまず、近鉄特急最高裁判決は、鉄道事業法の制定に伴い廃止された地方鉄道法21条に基づく運賃変更認可処分の取消しの訴えに係る原告適格について判断したもの が明らかなとき」に該当する旨主張する。 イまず、近鉄特急最高裁判決は、鉄道事業法の制定に伴い廃止された地方鉄道法21条に基づく運賃変更認可処分の取消しの訴えに係る原告適格について判断したものであり、鉄道事業法16条1項に基づく運賃上限変更 認可処分の取消しの訴えに係る原告適格について判断したものではない。 そして、鉄道事業法16条1項に基づく運賃上限変更認可処分の取消しの訴えに係る原告適格又は審査請求に係る審査請求人適格について判断した最高裁判決は見当たらない。 かえって、鉄道事業法が、地方鉄道法にはなかった目的規定(1条)を 置き、「利用者の利益の保護」が確保されなければならないものであることを明らかにしていることなどを理由に、近鉄特急最高裁判決の射程は鉄道事業法16条1項に基づく運賃上限変更認可処分の取消しの訴えには及ばないと判断した東京地裁平成25年判決が存在するところ、同判決は、当事者双方の主張立証活動を踏まえ、平成16年法律第84号による行政事 件訴訟法の改正によって新設された同法9条2項に基づく検討をした上で、 上記判断に至っているものである。 そうすると、近鉄特急最高裁判決の存在をもって、本件審査請求に係る原告の審査請求人適格はないとの結論が当然に導かれるものとはいえず、原告の審査請求人適格について判断するためには、近鉄特急最高裁判決の射程や東京地裁平成25年判決の位置付け(なお、同判決の後、同判決に おいて鉄道事業法の関係法令として参照された運輸審議会一般規則5条6号は、「運輸審議会が当該事案に関し特に重大な利害関係を有すると認める者」の前に「利用者その他の者のうち」という文言を追加する改正がされている。)を含め、行政事件訴訟法9条2項に基づく検討をするべく、審査請求人である 当該事案に関し特に重大な利害関係を有すると認める者」の前に「利用者その他の者のうち」という文言を追加する改正がされている。)を含め、行政事件訴訟法9条2項に基づく検討をするべく、審査請求人である原告との間の主張のやり取り等による審理手続を行うことが 必要であったというべきである。 以上によれば、本件審査請求は、「不適法であって補正することができないことが明らかなとき」に該当するとはいえないものである。 ウ被告は、上記第2の4(1)(被告の主張)ア(ウ)のとおり、東京地裁平成25年判決は誤っているなどと主張する。 しかし、仮に東京地裁平成25年判決の判断に誤った点があるとしても、そのことから直ちに、本件審査請求に近鉄特急最高裁判決の射程が及ぶことになるものではないから、被告の上記主張は上記イの判断を左右するものではない。 そして、国土交通大臣は、本件裁決の理由において、本件審査請求に近 鉄特急最高裁判決の射程が及ぶ理由や東京地裁平成25年判決が誤っている理由を示すこともしていないから(甲1)、その意味でも、国土交通大臣としては、審理手続において、上記の各理由について明らかにするとともに、これらについて審査請求人である原告に反論の機会を付与すべきであったというべきである(行政不服審査法30条1項)。 (2) 小括 以上のとおり、本件審査請求は「不適法であって補正することができないことが明らかなとき」に該当するとはいえないから、国土交通大臣において本件審査請求を却下する裁決をするに当たっては、審理手続を経なければならなかったものである。 したがって、審理手続を経ることなく本件審査請求を却下した本件裁決は、 行政不服審査法24条2項所定の要件を欠く違法なものであるから、その余の点につい 続を経なければならなかったものである。 したがって、審理手続を経ることなく本件審査請求を却下した本件裁決は、 行政不服審査法24条2項所定の要件を欠く違法なものであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件裁決は取り消されなければならない。 2 争点2(国家賠償法上の違法行為及び損害の有無)について(1) 判断枠組み国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が 個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定したものであるから、公務員による公権力の行使に係る行為につき同項にいう違法があるというためには、公務員が、当該行為によって損害を被ったと主張する個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められること が必要である(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、最高裁平成13年(行ツ)第82号、第83号、同年(行ヒ)第76号、第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)。 また、ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立して疑義を生じ、 よるべき明確な判例、学説がなく、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても一応の論拠が認められる場合に、公務員がその一方の解釈に立脚して公務を執行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに当該公務員に国家賠償法1条1項に規定する故意又は過失があったものと解するのは相当ではない(最高裁昭和45年(オ)第886号同 49年12月12日第一小法廷判決・民集28巻10号2028頁参照)。 (2) 検討ア上記1のとおり、国土交 ものと解するのは相当ではない(最高裁昭和45年(オ)第886号同 49年12月12日第一小法廷判決・民集28巻10号2028頁参照)。 (2) 検討ア上記1のとおり、国土交通大臣が審理手続を経ることなく本件裁決をしたことは違法であることに加え、本件裁決の理由において、近鉄特急最高裁判決の射程や東京地裁平成25年判決の位置付けを意識した記載がないことからすれば、国土交通大臣が審理手続を経ることなく本件裁決をした ことには、慎重さに欠ける面があったことは否めない。 しかし、近鉄特急最高裁判決の射程について、鉄道事業法16条1項に基づく運賃上限変更認可処分の取消しの訴えに係る原告適格又は審査請求に係る審査請求人適格には及ばないと判断した最高裁判決は見当たらないこと、近鉄特急最高裁判決の担当調査官が、鉄道事業法について「地方鉄 道法よりも、鉄道の利用者の保護に厚いようであるが、同法のもとにおいても、鉄道の利用者に本件のような訴訟の原告適格が認められるかはなお難しいように思われる。」との見解を示していたこと、改正前鉄道事業法16条1項に基づく運賃変更認可処分の取消しの訴えに係る原告適格を否定した下級審裁判例(東京高裁平成11年(行コ)第217号同12年10 月11日判決・裁判所ウェブサイト)が存在することからすれば、近鉄特急最高裁判決が地方鉄道法に係る事案であることを踏まえても、国土交通大臣が近鉄特急最高裁判決に依拠したことには一応の論拠を認め得るといえる。 そうすると、国土交通大臣が、近鉄特急最高裁判決に依拠して、原告の 審査請求人適格が欠けることに関し補正の余地がないことが明らかであると判断したことについて、少なくとも、国家賠償法1条1項に規定する故意又は過失があったということはできない。 拠して、原告の 審査請求人適格が欠けることに関し補正の余地がないことが明らかであると判断したことについて、少なくとも、国家賠償法1条1項に規定する故意又は過失があったということはできない。 イまた、国土交通大臣は、本件審査請求について運輸審議会に諮問しなかったものであるが、これは、本件審査請求が「却下すべきことが明白であ るもの」(諮問省略基準(2))に該当し、「運輸審議会が軽微なものと認める もの」(国土交通省設置法15条3項)に該当する旨認定したことによるものである。 そして、行政不服審査法43条1項1号、国土交通省設置法15条2項、3項、運輸審議会一般規則13条の各規定及び諮問省略基準(2)からすれば、審理手続を経ずに却下するにもかかわらず運輸審議会には諮問するといっ たことは原則として想定されていないといえるから、上記アのとおり、原告の審査請求人適格が欠けることに関し補正の余地がないことが明らかであると判断したことについて国家賠償法1条1項に規定する故意又は過失があったということはできない以上、本件審査請求は「却下すべきことが明白であるもの」に該当すると判断したことについてもまた、故意又は過 失があったということはできない。 ウ原告は、上記第2の4(1)(原告の主張)ウのとおり、本件裁決は、東京地裁平成25年判決等の裁判例に反すること、JR東日本の運賃上限変更認可処分に関わるものであることをもって、「特に重要な事項若しくは異例に属する事項」(国土交通省決裁規則3条1項)に当たり、国土交通大臣の 決裁を要するものであった旨主張している。 原告が上記主張を国家賠償請求の根拠としているものと善解し、念のため検討すると、原告が挙げる各事情をもって、「特に重要な事項若しくは異例に属す の 決裁を要するものであった旨主張している。 原告が上記主張を国家賠償請求の根拠としているものと善解し、念のため検討すると、原告が挙げる各事情をもって、「特に重要な事項若しくは異例に属する事項」に当たるということはできない。そして、国土交通省決裁規則10条1項13号によれば、鉄道局長は本件裁決について専決権限 を有するものと認められるから、国土交通大臣が鉄道局長による専決により本件裁決をしたことに違法はない。 (3) 小括よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告に対する国家賠償請求は理由がない。 3 結論 以上のとおり、原告の請求のうち、本件裁決の取消しの請求は理由があるから認容し、国家賠償請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官品田幸男 裁判官石神有吾 裁判官大久保陽久 (別紙2省略) (別紙1)関係法令の定め第1 鉄道事業法等 1 鉄道事業法(昭和61年法律第92号)(1) 1条(目的) この法律は、鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより、輸送の安全を確保し、鉄道等の利用者の利益を保護するとともに、鉄道事業等の健全な発達を図り、もって公共の福祉を増進することを目的とする。 【平成18年法律第19号による改正前の1条】この法律は、鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより、 鉄道等の利用者の利益を保護するとともに、鉄道事業等の健全な発達を図り、もって公共の福祉を増進することを目的とする。 (2) 16条(旅客の運賃 運営を適正かつ合理的なものとすることにより、 鉄道等の利用者の利益を保護するとともに、鉄道事業等の健全な発達を図り、もって公共の福祉を増進することを目的とする。 (2) 16条(旅客の運賃及び料金)1項鉄道運送事業者は、旅客の運賃及び国土交通省令で定める旅客の料金(以下「旅客運賃等」という。)の上限を定め、国土交通大臣の認可を受けなけれ ばならない。これを変更しようとするときも、同様とする。 【平成6年法律第97号による改正前の16条(運賃及び料金)1項(以下「改正前鉄道事業法16条1項」という。)】鉄道運送事業者は、旅客又は貨物の運賃及び料金(中略)を定め、運輸大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様と する。 (3) 64条(権限の委任)この法律に規定する国土交通大臣の権限は、国土交通省令で定めるところにより、地方運輸局長に委任することができる。 (4) 64条の2(運輸審議会への諮問) 国土交通大臣は、次に掲げる処分等をしようとするときは、運輸審議会に 諮らなければならない。 1号 16条1項の規定による旅客運賃等の上限の認可2~5号略(5) 65条(意見の聴取)1項地方運輸局長は、64条の規定により、旅客運賃等の上限に関する認 可に係る事項がその権限に属することとなった場合において、当該事項について必要があると認めるときは、利害関係人又は参考人の出頭を求めて意見を聴取することができる。 2項地方運輸局長は、その権限に属する前項に規定する事項について利害関係人の申請があったときは、利害関係人又は参考人の出頭を求めて意 見を聴取しなければならない。 3項前2項の意見の聴取に際しては、利害関係人に対し、証拠を提出する機会が 事項について利害関係人の申請があったときは、利害関係人又は参考人の出頭を求めて意 見を聴取しなければならない。 3項前2項の意見の聴取に際しては、利害関係人に対し、証拠を提出する機会が与えられなければならない。 2 鉄道事業法施行規則(昭和62年運輸省令第6号)73条(意見の聴取) 鉄道事業法65条1項及び2項の利害関係人(以下「利害関係人」という。)とは、次のいずれかに該当する者をいう。 1号鉄道事業における基本的な旅客運賃等の上限に関する認可の申請者2号 1号の申請者と競争の関係にある者3号利用者その他の者のうち地方運輸局長が当該事案に関し特に重大な利害 関係を有すると認める者第2 国土交通省設置法(平成11年法律第100号) 1 6条1項本省に、次の審議会等を置く。 国土審議会 社会資本整備審議会 交通政策審議会運輸審議会 2 15条(所掌事務等)1項運輸審議会は、鉄道事業法(中略)の規定により同審議会に諮ることを要する事項のうち国土交通大臣の行う処分等に係るものを処理する。 2項国土交通大臣は、前項に規定する事項に係る国土交通大臣又はその地方支分部局の長の行う処分又はその不作為についての審査請求に対する裁決をする場合には、運輸審議会に諮らなければならない。 3項 1項に規定する事項に係る処分等及び前項に規定する裁決(行政手続法2条4号に規定する不利益処分を除く。)のうち、運輸審議会が軽微なもの と認めるものについては、国土交通大臣は、運輸審議会に諮らないでこれを行うことができる。 4項略 3 16条(組織)1項運輸審議会は、委員6人をもって組織する。 2項委員のうち4人は、非常勤とする。 4 18条(委員の任 議会に諮らないでこれを行うことができる。 4項略 3 16条(組織)1項運輸審議会は、委員6人をもって組織する。 2項委員のうち4人は、非常勤とする。 4 18条(委員の任命)1項委員は、年齢35年以上の者で広い経験と高い識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、国土交通大臣が任命する。 5 23条(公聴会) 運輸審議会は、15条1項に規定する事項及び同条2項の規定により付議された事項については、必要があると認めるときは、公聴会を開くことができ、又は国土交通大臣の指示若しくは運輸審議会の定める利害関係人の請求があったときは、公聴会を開かなければならない。 6 26条(政令への委任) この款に定めるもののほか、運輸審議会の組織、委員その他の職員その他運 輸審議会に関し必要な事項は、政令で定める。 第3 運輸審議会令等 1 運輸審議会令(平成12年政令第301号)10条(雑則)2項この政令に定めるもののほか、議事の手続その他審議会の運営に関し必要な 事項は、国土交通省令で定める。 2 運輸審議会一般規則(昭和27年運輸省令第8号)(1) 5条(利害関係人)国土交通省設置法23条の規定による利害関係人とは、当該事案に関し、次の各号のいずれかに該当する者をいう。 1号許可、認可、特許、認定若しくは承認の申請者、同意を要する協議をした者又は審査請求をした者(以下「事案の申請者」という。)2号事案において、行政手続法2条4号に規定する不利益処分の名あて人となるべき者3号事案の申請者と競争の関係にある者 4号料率の変更を請求した者4号の2 臨港地区の区域の案の変更を請求した者5号港湾管理者の設立に関する調停を受ける者6号前各 べき者3号事案の申請者と競争の関係にある者 4号料率の変更を請求した者4号の2 臨港地区の区域の案の変更を請求した者5号港湾管理者の設立に関する調停を受ける者6号前各号に掲げる者のほか、利用者その他の者のうち運輸審議会が当該事案に関し特に重大な利害関係を有すると認める者 (平成28年国土交通省令第23号による改正前の6号)前各号に掲げる者のほか、運輸審議会が当該事案に関し特に重大な利害関係を有すると認める者(2) 13条(軽微な事案)国土交通大臣は、運輸審議会があらかじめ軽微な事案に関する認定基準を 定めた場合において、その基準に該当する事案について処分をしたときは、 文書をもってその旨を運輸審議会に通知するものとする。 3 審査請求について運輸審議会一般規則第13条の規定により運輸審議会が定める基準(昭和50年運審第503号。以下「諮問省略基準」という。乙26)審査請求にかかる事案で、下記にかかるものは、国土交通省設置法15条3項の規定に該当するものと認定する。 記(1) 処分庁又は不作為庁が国土交通大臣以外の者である処分又は不作為に対してしたもの(2) 行政不服審査法45条1項又は49条1項の規定により却下すべきことが明白であるもの 第4 国土交通省決裁規則(平成13年国土交通省訓令第1号。乙27) 1 3条(決裁区分の特例)1項特に重要な事項若しくは異例に属する事項又はこの訓令の改正については、(中略)大臣の決裁を要するものとする。 2 10条(官房長等の専決事項等)1項 官房長、総括審議官、技術総括審議官、政策立案総括審議官、公共交通政策審議官、土地政策審議官、危機管理・運輸安全政策審議官、海外プロジェクト審議官、上下水道審 (官房長等の専決事項等)1項 官房長、総括審議官、技術総括審議官、政策立案総括審議官、公共交通政策審議官、土地政策審議官、危機管理・運輸安全政策審議官、海外プロジェクト審議官、上下水道審議官、局長、政策統括官又は国際統括官(以下「官房長等」という。)の専決に属する事項及び官房長等の専行に属する事項でその決裁を受けるべき重要なものは、次に掲げるものとする。 1~12号略13号不服申立てに対する裁決又は決定14~18号略以上

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る