令和6(わ)717 強盗殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反

裁判年月日・裁判所
令和7年6月6日 さいたま地方裁判所
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判決文本文4,260 文字)

主文 被告人を懲役21 年に処する。 未決勾留日数中240 日を刑に算入する。 押収してある実包1 個(令和7 年押第3 号の1)を没収する。 理由 第1 犯罪事実 1 被告人は、タクシー運転手から現金を強奪するとともに乗車料金の支払を免れようと考え、令和6 年5 月29 日午後11 時38 分頃、不特定の者の用に供される場所である埼玉県川口市(住所省略)路上に停車中のタクシー内において、タクシー運転手のA(当時72 歳)に対し、その背後から、持っていた自動式拳銃を突き出し、「金 出せ。」と言って脅迫したところ、同人がこれに応じなかったことから、その頃、法定の除外事由がないのに、殺意をもって、前記拳銃で弾丸1 発を発射して同人の左胸部に命中させ、現金を強奪しようとしたものの、同人が現金を差し出さずに逃走したため、同人に乗車料金の請求を断念させて乗車料金2300 円の支払を免れ、同金額相当の財産上不法の利益を得たが、現金強奪の目的を遂げず、同人に加療約3 か月間を要 する左横隔膜損傷、胃損傷等の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 2 被告人は、法定の除外事由がないのに、前記日時頃、前記タクシー内において、同自動式拳銃1丁をこれに適合する拳銃実包3 発(令和7 年押第3 号の1)と共に携帯して所持した。 第2 証拠(省略)第3 強盗の目的 1 争点弁護人は、被告人は被害者の態度等に対する怒りから被害者を殺害しようとしたも のであり、強盗の目的はなかった旨主張し、被告人もこれに沿う供述をするので、強 盗の目的があった旨認定した理由を示す。 2 事実の経過タ る怒りから被害者を殺害しようとしたも のであり、強盗の目的はなかった旨主張し、被告人もこれに沿う供述をするので、強 盗の目的があった旨認定した理由を示す。 2 事実の経過タクシーのドライブレコーダーの映像、各地の防犯カメラの映像等によって認められる本件の経過は次のとおりである。 被告人は、午後10 時26 分頃自宅を出発し、10 時41 分頃B駅を出て、11 時27 分 頃同駅タクシー乗場から被害者が運転するタクシーに乗車し、C駅方面に向かうよう指示し、自宅付近を通過した後、指差しなどして、37 分53 秒(ドラレコ表示時刻37分57 秒)頃、本件現場にタクシーを停車させ、38 分7 秒頃、ズボン右ポケットから拳銃を取り出し、その安全装置を左手で解除し、振り返った被害者に拳銃を示したり、拳銃取出しの7 秒後には拳銃を運転席背面の防護板内に差し入れるなどし、38 分23 秒頃、シートベルトを外してドアを開けて車外に出ようとした被害者の左脇の下の左胸部分に接着させて拳銃を1 回発射したことが認められる。 3 被害者の供述被害者は、公判廷において、停車後の状況について、「被告人に乗車料金を伝えて後ろを向いたとき、被告人から拳銃らしきものを見せられて「お金を出せ。」と言われ、 「何言ってるんだ。」と答えた上、シートベルトを外して運転席左前に置かれていた釣銭箱を持って付近のコンビニに逃げた」旨供述する。 被害者は、車外に出た約2 分30 秒後、付近のコンビニで110 番通報した際、「右曲がってって言われて、公園みたいなところに来たら、…銃かなんか分からないけど出して、金出せって言われて、何言ってんだよっつったら、…ちっちゃな銃みたいなや つで、50 くらいの親父が」旨説明したものであり、前 て、公園みたいなところに来たら、…銃かなんか分からないけど出して、金出せって言われて、何言ってんだよっつったら、…ちっちゃな銃みたいなや つで、50 くらいの親父が」旨説明したものであり、前記供述はこれと整合する。被害者がタクシー運転手であることから武器を見せられたこと等により強盗と早合点した可能性を考えても、車中における被害者の状況、拳銃が真正のものとは確信しておらず、実際に撃つとは考えていなかったという被害者の供述に照らすと、被害者が驚愕等により聞き違いや勘違いをしたと疑わせる事情はない。被害者が本件後約2 か月 の間意識のない状態が続いたことや、心停止等の重篤な状態に複数回陥ったこと等を 考慮しても、直後の110 番通報の際の説明と公判供述が合致することに照らせば、記憶に変容が生じたとも考えられない。 弁護人は、被告人の「被害者の運転の荒さに対して複数回苦情を伝えたにもかかわらず無視されたことに腹が立ち、拳銃で脅かして謝罪させようと考えたのであり、タクシー停車後、これまで被告人の苦情を無視してきた被害者が乗車料金を伝えてきた ことに対して、「銭金の問題じゃねえ。」と言ったところ、予想外に被害者が抵抗するそぶりを見せたために拳銃を撃った」旨の供述に基づいて、被害者がこれを「金出せ。」と言われた旨誤信した疑いがあると主張する。しかし、ドラレコ映像によれば、被告人が複数回にわたり苦情を伝えたとうかがわれる状況はないし、被告人は、被害者に示す前に拳銃の安全装置を解除した上、拳銃を取出後16 秒程度で発射したのであり、 その間もさして会話する様子もなかったのであって、被告人の行動は謝罪をさせるためのものとは考え難い。被告人の供述は信用することができず、被告人が被害者に苦情を述べるなどした上「銭金の問題じゃね その間もさして会話する様子もなかったのであって、被告人の行動は謝罪をさせるためのものとは考え難い。被告人の供述は信用することができず、被告人が被害者に苦情を述べるなどした上「銭金の問題じゃねえ。」と発言した事実は認められないので、弁護人の主張は前提を欠く。 4 評価 以上によれば、被告人が被害者に停車させたタクシー車内で拳銃を示して「金出せ。」と要求したものと認められ、被告人に強盗目的があったことは明らかである。 弁護人は、被告人が車内で物色行為を行っていないことは強盗目的と矛盾すると主張するが、被害者が逃走したことにより早期の犯行の発覚が予想される事態になっていた上、被告人は、後部座席のドアがロックされて開くことができず、運転席背面の 防護板のために前部座席に移動することもできず、車内から退出すること自体が困難で、物色することは容易でない状況であったものである。また、弁護人は、自宅付近のコンビニや集合住宅がある発覚の危険の高い場所で、深夜、消音器も装着していない拳銃を発射することは、強盗目的であるとすれば不自然であると主張する。しかし、被告人が指示して停車させた本件現場は公園と駐車場に挟まれた路上であり、強盗目 的と両立し得ないものではない。 5 結論よって、被告人が車内で被害者に対して「金出せ。」と発言したこと及び強盗目的を有していたことが認められる。 第4 適用法令 罰条 第1 の1強盗殺人未遂令和4 年法律第67 号2 条による改正前の刑法243条、240 条後段拳銃発射令和6 年法律第48 号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法31 条1 項、3 条の13 第1 の2令和6 年法律第48 号による改正前の銃砲刀剣 条、240 条後段拳銃発射令和6 年法律第48 号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法31 条1 項、3 条の13 第1 の2令和6 年法律第48 号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法31 条の3 第2 項、1 項、3 条1 項科刑上一罪第1 の1 につき刑法54 条1 項前段(重い強盗殺人未遂罪の刑で処断) 刑種 第1 の1 無期懲役刑法律上の減軽第1 につき刑法43 条本文、令和4 年法律第67 号 2 条による改正前の刑法68 条2 号、14 条1 項併合罪令和4 年法律第67 号2 条による改正前の刑法45条前段、47 条本文(重い第1 の1 の罪の刑に令和 4 年法律第67 号2 条による改正前の刑法14 条2 項の制限内で加重) 未決勾留日数の算入刑法21 条 没収刑法19 条1 項1 号、2 項本文 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181 条1 項ただし書 第5 量刑の理由被告人は、逃げ場のない狭いタクシー車内において、安全装置を解除した上で被害者に拳銃を示した上、金を要求してから20 秒足らずのうちに、車外に脱出しようとしていた被害者の脇の左胸付近に拳銃を接着させて発射したものである。被害者は、肺、横隔膜、胃4 か所、小腸2 か所、横行結腸3 か所等を損傷し、事件2 か月後まで の間に治療に起因する心不全や3 回の心停止を起こすなどしたもので、死亡に至らなかったのは胸腹腔内の枢要な血管を損傷しなかったという幸運によるものに過ぎず、生命が現実の危険にさらされ、就労を断念し、日常生活にも支障の生じた被害者の負担や苦痛は誠に大きい。拳銃発射に至った展 なかったのは胸腹腔内の枢要な血管を損傷しなかったという幸運によるものに過ぎず、生命が現実の危険にさらされ、就労を断念し、日常生活にも支障の生じた被害者の負担や苦痛は誠に大きい。拳銃発射に至った展開の早さに照らしても、利得のために他人の生命を奪うことに躊躇はうかがわれないところ、被告人の反省の弁を聴いても、 被害者に与えた打撃への考慮や自己の行為の振り返りは十分とはいえない。 前科のない者による単独犯での強盗殺人未遂罪の近時の事例の裁判例の量刑は、1件27 年以下のものがあるほか、5 年以下から20 年以下までの有期懲役刑が言い渡されており、本件が財産強奪が成功しやすいタクシー強盗の類型であることに加え、拳銃を実際に発射した事案であり、前述の裁判例の中に拳銃を用いた事例は含まれてい ないことを考慮すると、本件はその中でも最も重い群に属し、又はそれより重いと評価され得る事案である。その中で、前述の事情を踏まえ、拳銃の発射及び加重所持が地域社会に与えた不安も非難されることから、被告人が指名手配後の本件の2 日後に警察署に出頭する旨告げたことなどを考慮しても、主文掲記の厳罰は免れない。 (求刑:懲役23 年・実包1発没収、弁護人の科刑意見:懲役12 年) 令和7 年6 月6 日さいたま地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官江見健一 裁判官林 寛子 裁判官古関大樹

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