- 1 -主文 被告Aは,原告に対し,80万円及びこれに対する平成16年8月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告の被告Aに対するその余の請求及び被告独立行政法人国立病院機構に対する請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求被告らは,原告に対し,連帯して7374万3577円及びこれに対する平成16年8月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,Bの相続人である原告が,Bが停車中に被告Aの運転車両に追突され(以下「本件交通事故」という,その治療のために,被告法人の運営す。)るE医療センター(以下「被告病院」という)に入院したところ,ウイルス。 性心筋炎に罹患し,死亡したものであり,Bの死亡は本件交通事故における被告Aの前方注視義務違反の過失及び被告病院の担当医らの診療上の過失によるものであって,被告病院担当医らの使用者である被告法人は使用者責任を負い,同被告及び被告Aは共同不法行為責任を負うとして,相続したB及び原告固有の損害賠償請求権に基づき,被告らに対し,連帯して合計7374万3577円及びこれに対する不法行為の日の後である平成16年8月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 前提事実( )当事者等 原告は,B(昭和39年7月24日生,平成16年10月28日死亡,- 2 -死亡当時40歳)の子であり,唯一の法定相続人である(甲C1,2。 ))。 被告Aは,後記のとおり,Bとの間で本件交通事故を起こした(甲A1被告法人は,被告病院を運営し,Bを担当した被告病院整形外科医師C,同循環器科医師D及び看護師ら(以下,合 る(甲C1,2。 ))。 被告Aは,後記のとおり,Bとの間で本件交通事故を起こした(甲A1被告法人は,被告病院を運営し,Bを担当した被告病院整形外科医師C,同循環器科医師D及び看護師ら(以下,合わせて「担当医ら」という)の。 使用者である(弁論の全趣旨。 )( )本件の経緯(以下,年について特に記載しない限り平成16年であ る)。 ア本件交通事故の発生Bは,8月19日11時45分ころ,大分市大字(以下略)先路上の道路左端で普通乗用自動車に乗車して停車中,被告Aの運転する普通貨物自動車に追突され,外傷性頚部症候群,胸背部打撲,腹部打撲,腰椎打撲の傷害を受け,被告病院に搬送され,整形外科に入院した(一部につき甲A1,乙イ1,ロA1。 )イ循環器科転科前(C医師担当,乙ロA6)(8月21日)7時に39度の発熱があったが,氷枕を使用し,10時以降37℃台以下で推移した。頚部痛の訴えがあった。14時30分の血圧は136/71(㎜。単位は以下省略することがある)であり,脈拍は90(拍/Hg。 分)であった。 19時20分の血圧は70/48(再測後も68/48)と低下し,脈拍は108であった。このとき,頭が少しフワーとする,汗をかいて気持ち悪い,シャワーを浴びたいとの訴えがあった。 21時の血圧は74/58,脈拍は100であり,また,フワーとした感じがあるとの訴えがあった(以上につき乙ロA2・33枚目)。 (同月22日)6時30分に39.5℃の発熱があったが,氷枕を使用し,8時30分- 3 -にメチロン(解熱剤)1Aが筋注された。9時以降37℃台以下で推移した。血圧は8時30分に86/62,15時30分に81/52,19時に80/54であった。脈拍は6時30分に118となっていた(同1。 0,33,34枚目)(同月23 9時以降37℃台以下で推移した。血圧は8時30分に86/62,15時30分に81/52,19時に80/54であった。脈拍は6時30分に118となっていた(同1。 0,33,34枚目)(同月23日)8時20分ころ,Bは,気分不良,背部痛を訴え,脈拍が120前後となり,8時30分ころ,心電図モニターが装着された。モニター上で123の頻脈(不整脈)が認められたので,C医師は,9時10分ころに循環器科への転科を決めた(同34,35枚目)。 ウ転科後(D医師担当,乙ロA8)循環器科では,9時25分にサンリズム(不整脈治療剤)1錠を経口投与し,10時に採血,吐き気止めのプリンペランを静脈注射した。 10時15分に意識消失,顔にチアノーゼ,痙攣発作が認められたが,自発呼吸はあった。アンビューマスクを装着し酸素投与を開始した。痙攣発作は消失し,意識は回復した。 10時30分,ドパミン(急性循環不全改善剤)投与を開始した。 11時15分,心室性期外収縮(PVC,心室の固有調律よりも早期に出現する心室起源の興奮)が出現し,オリベスK(抗不整脈剤)の点滴及び2㏄の静注を開始したところ,血圧が66/49,心拍数が60台へ低下し,11時25分にはオリベスKの投与を中止した(同10,35,。 36枚目)その後,心臓超音波検査,胸部CT検査を実施し,肺うっ血像,胸水貯留が認められたが,大動脈,肺動脈に異常はなかった。心筋梗塞を疑い緊急心臓カテーテル検査が実施されたが,有意狭窄はなく,13時35分からIABP(大動脈バルーンパンピング)を挿入して駆動開始し,ラシックス(利尿剤)を投与し,14時20分ころ病室に帰室した。モニター上- 4 -非持続性心室頻拍(心室性期外収縮が3拍以上して自然停止するもの)が。 ,多発するためオリベスKの点滴が再開された(同 クス(利尿剤)を投与し,14時20分ころ病室に帰室した。モニター上- 4 -非持続性心室頻拍(心室性期外収縮が3拍以上して自然停止するもの)が。 ,多発するためオリベスKの点滴が再開された(同6,10~12,3738枚目(キシロカイン再開とあるのは誤記と解される)。)(同月24日)17時10分に心室頻拍が出現(心拍数220)し,2%キシロカイン(抗不整脈剤)1/2Aをスワンガンツカテーテルより静注した。17時15分に直流通電を実施し,心室頻拍は止まった。アンビューバッグで呼吸補助しながら血管造影室へ搬送し,17時40分ころ,PCPS(経皮。 ,的心肺補助装置)を着装し,18時5分,人工心肺を開始した(同4041枚目)被告病院における診療経過の詳細は別紙診療経過一覧表記載のとおりである。 エ転送後19時40分,IABP,PCPS装着のもと,大分大学医学部附属病院に搬送された(同13,41枚目。 )Bは,10月28日,心筋炎(ウイルス性)による多臓器不全を原因として死亡した(甲A2。 )( )心筋炎について 心筋炎とは,心筋の炎症性疾患である。その多くはウイルスや細菌などの感染によって発生する。心筋炎では,心筋壊死とともに炎症性物質による心筋細胞機能障害がおこり,両者が相俟って心ポンプ失調を形成する。多くの急性心筋炎患者では,かぜ様症状(悪寒,発熱,頭痛,筋肉痛,全身倦怠感等)や消化器症状(悪心,嘔吐,腹痛,下痢等)が先行し,その後,数時間から数日の経過で心症状(胸痛,失神,呼吸困難,動悸,ショック,けいれん,チアノーゼ)が出現する。身体所見としては,頻脈,徐脈,不整脈,交互脈,脈圧低下,心音減弱などがみられる。軽症例では無治療で軽快する症- 5 -例もあるが,急速に心原性ショックに陥り死に至る症例が存在し, ゼ)が出現する。身体所見としては,頻脈,徐脈,不整脈,交互脈,脈圧低下,心音減弱などがみられる。軽症例では無治療で軽快する症- 5 -例もあるが,急速に心原性ショックに陥り死に至る症例が存在し,急性心筋炎の中で発病初期に心肺危機に陥るものを劇症型心筋炎と呼ぶ。 心筋炎患者は特異的な所見に乏しく,診断は必ずしも容易ではないが,上記のような心症状や身体所見があり,心電図異常が認められれば急性心筋炎を疑い,血液生化学検査(CRPの上昇,心筋トロポニンTやCK-MB等の心筋構成蛋白の血中増加が確認される,心エコー検査(心膜液貯留に。)加え,一過性の壁肥厚と壁運動低下が特徴的とされる,胸部X線検査。)(時に心拡大や肺うっ血像が認められる)などを行う。急性心筋梗塞を除。 外診断できて,心筋生検の組織所見が陽性であれば臨床診断は確定する。 心筋炎の治療は,救急治療を含む対症療法が基本であり,他に基礎疾患があればそれに対する治療も行う。一般的な急性心筋炎に限れば,その炎症期が1,2週間持続した後に回復期に入るとされ,心筋炎極期をのりきれば劇症型といえども自然軽快するため,最も重要な急性期管理方針は,心筋炎による血行動態の破綻を回避し,自然回復の時期までいかに橋渡しをするかに尽きるとされる(甲B1,2,10)。 争点 ( )8月21,22日の原因解明義務ないし治療義務の懈怠 (原告の主張)心筋炎の初発症状からすれば,患者が発熱し,悪心・嘔吐を訴えた上,頻脈も認められ,かつ収縮期血圧が90㎜未満となった場合には,患者のHg意識レベルが清明であったとしても,心筋炎の発症の可能性があり,その原因を解明する必要がある。 また,心原性ショック(心筋炎もその原因疾患の一つである)の第一次。 的診断基準は,収縮期血圧が90㎜以下または通常の であったとしても,心筋炎の発症の可能性があり,その原因を解明する必要がある。 また,心原性ショック(心筋炎もその原因疾患の一つである)の第一次。 的診断基準は,収縮期血圧が90㎜以下または通常の血圧より30㎜Hg以上低下することとされている。 Hgしたがって,上記症状が出現して,心原性ショックの第一次的診断基準を- 6 -満たした場合には,聴診や心電図検査,心エコー検査,胸部X線等の検査により上記症状の原因解明を行う必要がある。 Bは,8月21日以降,発熱とともに寒気,吐き気,発汗等の症状や,急激な血圧低下,脈拍数の増加による血行動態の不安定が続いていた。また,8月20日に実施された生化学検査でAST(GOT)及びCRPも高値を示していた。さらに,8月22日には,発熱,低血圧,脈拍数上昇に加え,8時に頚部痛,頚部リンパ節腫脹及び喉の発赤が認められていた。 特に,8月21日19時20分以降は,収縮期血圧で70㎜以下といHgう顕著な血圧低下,発熱,吐き気,末梢循環不全症状(冷感,脈拍数100以上の頻脈,冷汗,尿量減少等の心原性ショックを疑わしめるに十分な症)状が認められていたのであり,担当医らは,同日ないし翌22日には,Bについて聴診や心電図検査,心エコー検査,胸部X線等の検査を実施して心原性ショックの有無やその原因疾患を解明する注意義務があった。 なお,Bが以前に血圧が低い値で記録されていたとしても,何らかの疾患に罹患した際のものにすぎないし,8月21日14時30分時点で血圧は136/71であったのであるから元々低血圧であったとはいえない。 担当医らが上記原因解明義務を尽くせば,心筋炎の急性期に必発とされる心電図の異常所見等が発見され,Bが心筋炎による心原性ショックに陥っていることが明らかになったはずであり,Bに対して直ちにス ない。 担当医らが上記原因解明義務を尽くせば,心筋炎の急性期に必発とされる心電図の異常所見等が発見され,Bが心筋炎による心原性ショックに陥っていることが明らかになったはずであり,Bに対して直ちにスワンガンツカテーテルによる血行動態の監視をしつつ,酸素の投与並びに利尿剤,血管拡張剤及びカテコールアミン剤の投与をして心臓のポンプ機能を維持し,それらの治療による効果が出なかった場合はIABP(大動脈バルーンパンピング)等の機械的補助循環法を実施しなければならなかった。 にもかかわらず,上記原因解明義務及び治療義務を懈怠した担当医らに過失があることは明らかである。 (被告法人の主張)- 7 -心原性ショックの診断においては,必ず心拍出量減少に伴う急性末梢循環不全徴候の基準を満たさなければならず,血圧低下のみをもってショックの指標とはならない。 Bは,8月21日7時に39℃の発熱があったが,クーリングにより36℃台に下がり,同日19時20分以降に血圧低下はあったが,心原性ショックの5徴候(蒼白,虚脱,冷汗,脈拍触知不能,呼吸不全)は観察されておらず,排尿も順調で,意識障害もないうえ,血圧が低値であっても離床して歩行しておりショック状態ではなかった。また,Bは従前から低血圧であった。 その後も,8月22日までは,心原性ショックと診断すべき症状はなく,心筋炎を疑う症状についても,発熱を除く風邪症状,消化器症状及び心症状は認められなかった。 したがって,Bには8月22日までは心筋炎及び心原性ショックを疑うべき臨床症状はなかったのであり,これらの症状があったことを前提とする原告主張の原因解明義務及び治療義務はない。 ( )不適切な解熱剤投与の過失 (原告の主張)Bには,8月22日8時30分ころに解熱剤メチロンが筋肉注射されているが,メチロンは ことを前提とする原告主張の原因解明義務及び治療義務はない。 ( )不適切な解熱剤投与の過失 (原告の主張)Bには,8月22日8時30分ころに解熱剤メチロンが筋肉注射されているが,メチロンは,ショック,血圧低下,脈拍異常等の重篤な副作用が発現することがあるので,心機能異常がある場合は慎重に投与すべきで,その適応は,他の解熱薬等では効果が期待できないか,あるいは他の解熱薬の投与が不可能な場合の緊急解熱とされている。 Bには,投与当時までに著明な血圧低下や発熱に加え,頻脈,冷感,冷汗等の末梢血管収縮の症状,吐き気等も認められていたのであるから,担当医らはメチロンの投与を回避すべき注意義務があった。 しかるに,担当医らがメチロンを投与した結果,その後もBの血圧低下や- 8 -末梢血管収縮の症状が持続することとなり,投与翌日に重篤な心原性ショック状態に至ったことからすれば,メチロン投与の副作用によりBの心筋炎の症状を憎悪させ,心機能に回復困難なダメージを与えた。 (被告法人の主張)8月22日6時30分,Bに39.5℃の発熱があり,冷罨法を施行したうえ,咽頭発赤があったので急性上気道炎による発熱を疑い,8時30分にメチロン1アンプルを筋肉注射し,安静を指示して観察を行った。その後,Bは36ないし37℃台へと体温は下がり,メチロン注射によるショックや血圧低下などの明らかな副作用は認められておらず,離床をするなど症状は軽快しており,メチロンの投与が不適切とはいえない。 ( )院内感染の過失 (原告の主張)Bは,被告病院に入院する前,発熱以外に,吐き気や悪心の訴えはなく,血圧低下や頻脈等の症状もなかったから,被告病院に入院した8月19日から同月20日の間に被告病院内においてウイルス感染したものであり,被告法人には,Bに院内感染させた過失 吐き気や悪心の訴えはなく,血圧低下や頻脈等の症状もなかったから,被告病院に入院した8月19日から同月20日の間に被告病院内においてウイルス感染したものであり,被告法人には,Bに院内感染させた過失がある。 (被告法人の主張)Bの心筋炎がウイルス性心筋炎であったことは認めるが,Bは入院前から発熱を訴えており,入院前にウイルス感染していた。 ( )転科後の措置の過失 (原告の主張)「急性および慢性心筋炎の診断・治療に関するガイドライン(以下「ガ」イドライン」という)によれば,急性心筋炎の治療に当たる医師は,頻脈。 性心室不整脈時には,心筋炎では効果が乏しくむしろ不整脈を誘発する危険性のある抗不整脈薬の投与を回避して,安易な薬物療法は行わず,高頻度ぺーシングか経過観察をし,循環補助効果の期待できないIABPではなく,- 9 -直流通電を試みた上でその効果がない場合,すみやかにPCPS(経皮的心肺補助装置)を導入すべき注意義務があった。 しかるに,Bが循環器科に転科後も,担当医らは上記義務を怠り,非持続性心室頻拍の現れていたBに対し,漫然とサンリズム,オリベスK,キシロカイン等の抗不整脈薬による薬物療法を行い,すみやかに直流通電やPCPSを試みることなく,8月23日13時35分にIABP挿入後も非連続性心室頻拍を繰り返していたのにPCPSを翌24日17時40分に至るまで導入せずにその容態を悪化させ,心機能に回復不可能なダメージを与えた。 (被告法人の主張)ガイドラインの発刊は平成16年11月25日で,それまでに日本循環器学会の急性心筋炎に関するガイドラインは存在せず,心筋炎による不整脈に対してはリドカイン等の抗不整脈薬を使用することが一般的であったし,サンリズムは上室性頻脈に対して投与したものであって非持続性心室頻拍(NSVT)に するガイドラインは存在せず,心筋炎による不整脈に対してはリドカイン等の抗不整脈薬を使用することが一般的であったし,サンリズムは上室性頻脈に対して投与したものであって非持続性心室頻拍(NSVT)に対して投与したものではなく,8月23日11時15分に心室性期外収縮が出現したのでオリベスKを投与したが,血圧低下があり11時25分には投与を中止しており,担当医らの措置は適切であった。 また,高頻度ぺーシングは頻拍停止を目的としており,短時間の心室頻拍が頻回に出現するNSVTには効果が期待できないし,経過観察とすることは不整脈自体による血行動態の悪化を生じ,持続性の頻拍に移行して心停止の危険がある。 さらに,PCPS着装前にIABPを着装したことはガイドラインのフローチャートにも従っている。 ( )上記各過失と死亡との間の因果関係 (原告の主張)被告法人の担当医らの上記各過失がなければBは死亡することはなかった。 とりわけ早期にPCPSが導入されていたらBの予後が改善されていたこと- 10 -は明らかである。 (被告法人の主張)原告の主張は争う。 ( )被告Aの過失及び因果関係 (原告の主張)本件交通事故は,被告Aの前方注視義務を怠った過失により生じたものであり,Bは,外傷性頚部症候群等の傷害を負い,被告病院に入院した結果,心筋炎に罹患して死亡した。 Bは,本件交通事故により被告病院整形外科に入院したため,頚部痛のほか発熱やCRPの上昇,頻脈,低血圧,消化器症状,悪寒が出現しても,担当のC医師は急性心筋炎を疑うことなく,心電図検査はもとより聴診すら実施されず,心筋炎の早期診断や適切な治療が遅れたのであり,被告Aの不法行為とBの死亡との間には相当因果関係がある。仮に死亡との相当因果関係がなくとも傷害による入院を余儀なくさせた。 (被 聴診すら実施されず,心筋炎の早期診断や適切な治療が遅れたのであり,被告Aの不法行為とBの死亡との間には相当因果関係がある。仮に死亡との相当因果関係がなくとも傷害による入院を余儀なくさせた。 (被告Aの主張)Bには本件交通事故の前日(8月18日)ころから38℃台の発熱があり,本件事故による傷害は外傷性頚部症候群,胸背部打撲の診断で入院したが,入院中も発熱が続き,ウイルス性心筋炎が原因の多臓器不全で死亡した。単なる追突事故でこのような疾病にかかることはなく,本件交通事故以前からBがウイルスに感染し,心筋炎に罹患していたとみられ,Bの死亡と本件交通事故とは因果関係がない。 ( )損害 (原告の主張)B及び原告固有の各損害額は以下の合計7374万3577円である。 ア逸失利益3453万9615円イBの慰謝料2800万円- 11 -ウ葬儀費用150万円エ原告固有の慰謝料300万円オ弁護士費用670万3962円仮に,死亡との因果関係が認められない場合にも,被告Aは上記傷害による入院を余儀なくさせたことによる治療費,慰謝料相当額の損害を賠償すべきである。 (被告らの主張)争う。 第3争点に対する判断 争点( )(8月21,22日の原因解明義務ないし治療義務の懈怠)につい て( )原告は,8月21日ないし22日のBの症状から担当医らが心筋炎など の心疾患を疑い,その原因を解明し,心筋炎に対する治療をすべきであったとし,とりわけ21日19時20分以降は心原性ショックを疑わせる症状であった旨主張するところ,被告病院でBの心筋炎が疑われたのは8月23日に至ってからで心電図検査や心エコー検査等も同日になって実施されたのであり(乙ロA2・10~12枚目,同日9時ころに不整脈(上室性頻脈))が確認される(乙ロ 院でBの心筋炎が疑われたのは8月23日に至ってからで心電図検査や心エコー検査等も同日になって実施されたのであり(乙ロA2・10~12枚目,同日9時ころに不整脈(上室性頻脈))が確認される(乙ロA8)以前から高熱でないときも含めて脈拍数が高かったこと(前記第2の1( )イ)からすれば,21日ないし22日に心電図検 査等を実施していれば不整脈その他の急性心筋炎を疑わせる所見を見出せた可能性があることは認められる(鑑定の結果。 ),( )そこで,まず心原性ショックを疑わせる状態であったかについてみるに 心原性ショックの診断基準としては,収縮期血圧90㎜以下あるいは通Hg常の血圧より30㎜以上の血圧低下に加え,心拍出量の減少に伴う急性Hg末梢循環不全徴候,すなわち①尿量が1時間で20以下,②意識障ml害,③末梢血管収縮所見(皮膚の蒼白化,冷感,冷汗,チアノーゼ)の基- 12 -準を満たすことが必要であるとされ,古くから心原性ショックの5徴候として蒼白,虚脱,冷汗,脈拍触知不能,呼吸不全が知られている(甲B4,乙ロB10。 )これをBについてみるに,8月21日14時30分に血圧136/71,脈拍90であったが,19時20分には血圧が70/48,再度測定も68/48と低下し,脈拍は108であったことに加え,頭が少しフワーとする,汗をかいて気持ち悪い,シャワーを浴びたいといった訴えがあったこと,同日21時にも血圧74/58,脈拍100,フワーとした感じはあるとの訴えがあったことは前記第2の1( )イに認定のとおりである。 しかしながら,19時20分ころのBの排尿は順調であり,その後も尿量の減少を窺わせる所見はないこと(なお,22日のソルデム及びラクテックの投与は発熱・発汗のため水分・電解質を補給したものにすぎな しかしながら,19時20分ころのBの排尿は順調であり,その後も尿量の減少を窺わせる所見はないこと(なお,22日のソルデム及びラクテックの投与は発熱・発汗のため水分・電解質を補給したものにすぎない(同34枚目,B8,9,証人C180~192項,悪寒は18時30分には消)。)失し,体温は当時37.5℃から19時20分には36.8℃になったことから汗をかいて気持ち悪いとの訴えは発熱に起因すると考えられること,21時のSaO(血中酸素飽和度)は98%であったこと,フワーとした感 じとの訴えは低血圧に起因するものとも考えられ,同日及び22日を通じて他に意識障害や末梢血管収縮(なお,22日19時に冷感があったが四肢末端にとどまる(乙ロA2・34枚目,さらには心原性ショックの5徴候)。)を窺わせる所見はいずれもないこと,そしてBは,22日午前の時点でも喫煙室に独歩で行き,交際相手とともに喫煙するほどの状態であったこと(同33,34枚目,証人C156~178項,鑑定の結果)からすれば,血圧低下(なお,もともとBは低血圧傾向であったことが窺われる(乙ロA4。 なお,平成2年の入院時には74/48,乙ロA1・10頁)等の所見)。 をもって,直ちにBが心原性ショックを疑わせる状態にあったということはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 - 13 -( )また,8月21,22日にBに認められた症状には,血圧低下と脈拍数 上昇以外に,発熱(21,22日,悪寒(21日18時,22日19時,))全身倦怠感(22日9時,頚部リンパ節腫脹・圧痛及び咽頭発赤(22日)8時30分)等のかぜ様症状や,吐き気・嘔吐(21日18時)等の消化器症状が認められるが(乙ロA2・10,33,34枚目,心筋炎などの心)疾患を特に示唆するような所 ・圧痛及び咽頭発赤(22日)8時30分)等のかぜ様症状や,吐き気・嘔吐(21日18時)等の消化器症状が認められるが(乙ロA2・10,33,34枚目,心筋炎などの心)疾患を特に示唆するような所見があったわけではなく,上記諸症状のみから,急性心筋炎などの心疾患を疑った上で直ちに心電図検査などを実施すべき注意義務が生じる状態であったとはいえない。なお,劇症型心筋炎でも意識レベル清明な症例が多数あることは認められる(乙ロB7)が,特異的な所見に乏しい心筋炎の診断が困難であることを示すものともいえ,上記のような諸症状のみから直ちに心筋炎を疑うべきことにはならない。 そして,担当医らは,Bが23日8時20分ころに座位で朝食を摂ろうとした際に,気分不良・背部痛・冷汗に加え,初めて息苦しさを訴え,SaO2も96%に低下したことを受け(乙ロA2・34頁,8時30分ころに)は心電図モニターを装着し,さらに心電図上不整脈が認められたことから,9時10分ころには循環器科に転科したうえ,速やかに胸部CT検査や血液検査を実施しているのであるから,Bの臨床症状に応じて,その原因を解明するための検査等の措置を適時に行ったものといえる(鑑定の結果。 )( )したがって,担当医らにおいて,8月21,22日のBの諸症状から心 筋炎などの心疾患を疑い,その原因を解明すべき注意義務及び治療義務を怠ったということはなく原告の主張は採用することができない。 争点( )(不適切な解熱剤投与の過失)について 原告は,8月22日8時30分ころの解熱剤メチロンの投与について,これを回避すべきであったと主張するところ,メチロンの注射投与については,血圧低下の他に,ショック等の重篤な副作用が発現することがあること,心機能異常がある場合は慎重投与とされていること,その適応は, を回避すべきであったと主張するところ,メチロンの注射投与については,血圧低下の他に,ショック等の重篤な副作用が発現することがあること,心機能異常がある場合は慎重投与とされていること,その適応は,他の解熱薬等では- 14 -効果が期待できないか,他の解熱薬の投与が不可能な場合の緊急解熱とされていることが認められる(甲B5,9。 )しかしながら,メチロンを投与した当時,Bに低血圧は認められていたものの,他には特に心機能の異常を疑わせる所見はなかったこと(前記1,Bに)は8月21日までに解熱剤としての効能もある鎮痛・抗炎症剤ボルマゲン錠及び神経・免疫調節剤ノイロトロピン錠が処方されており,メチロンはこれら解熱剤による効果が余り認められなかったために投与されたこと(乙ロA2・1),9枚目,証人C211~213,404,411項,メチロン投与に当たりC医師は,2分の1アンプルずつ注射し,その際,血圧低下に注意するよう指示しており,その後も明らかに注射を原因とした血圧低下は認められていないこと(乙ロA2・10,19枚目,証人C217~220,405~409項)からすれば,メチロン投与が不適切であったということはできず(鑑定の結果も同旨,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 )したがって,担当医らにメチロン投与に過失は認められず,原告の主張は採用することができない。 争点( )(院内感染の過失)について 原告は,Bが被告病院入院後にウイルス感染した旨主張する。 確かに,Bは,入院後前記のとおり発熱が継続し,入院翌日(8月20日)に実施した血液検査で炎症の指標であるCRPが6.04(基準値0.3未満,同月23日の10時には15.44となっており(乙ロA2・44枚)目,ウイルス感染が進行していたことが窺える。 )しかしながら,Bは 血液検査で炎症の指標であるCRPが6.04(基準値0.3未満,同月23日の10時には15.44となっており(乙ロA2・44枚)目,ウイルス感染が進行していたことが窺える。 )しかしながら,Bは既に入院前の遅くとも同月18日ころには38℃台の発熱があったものであり(乙イ3,ロA2・6,33枚目,証人C81~83項,また,入院当日(同月19日)に腹部正面,左下腿正面のX線検査,頚)部,胸部,腹部及び骨盤腔のCT検査並びに頚椎のMRI検査を実施したが,頚椎損傷等の外傷に伴う明らかな異常は認められておらず,自ら歩き回れる程- 15 -度の打撲であった(乙ロA1・25,42枚目,A2・9,19,56枚目,A6,証人C36~54項)にもかかわらず,入院翌日(同月20日)のCRPが6.04となっており,本件交通事故による傷害を原因とするにはCRPの上昇が早く,かつ,上昇値も大きいこと(炎症の発生からCRPの上昇まで通常2,3日は要する。鑑定の結果)からすれば,CRPの上昇は本件交通事故によるものとは考え難く,上記発熱と関係するものと考えられ,さらに,急性心筋炎患者において,ウイルス感染後のかぜ様症状の後,心症状が出現するまでに数日かかることもあるとする医学的知見(前記第2の1( ))も合わせ 考慮すれば,Bは入院前からウイルス感染していた疑いが強いというべきである(鑑定の結果も同旨。 )そして,他に被告病院においてBをウイルス感染させた事実を認めるに足りる証拠もなく,原告の主張は採用することはできない。 争点( )(転科後の措置の過失)について ( )原告は,Bが8月23日に循環器科に転科した後,担当医らが抗不整脈 薬を投与し,また,PCPSを翌日17時40分に至るまで導入しなかったことが急性心筋炎の治療指針を定めたガイドライ て ( )原告は,Bが8月23日に循環器科に転科した後,担当医らが抗不整脈 薬を投与し,また,PCPSを翌日17時40分に至るまで導入しなかったことが急性心筋炎の治療指針を定めたガイドラインに反して不適切であった旨主張する。 なお,ガイドラインの発刊はBが被告病院へ入院した約3か月後の平成16年11月25日である(弁論の全趣旨)が,その記載内容は,発刊時点までに蓄積された調査研究報告等を基に専門家による意見集約がなされて作成されたものであり,少なくとも被告病院のような地域の中核病院の専門医の間では一般に通用する指針であったと認められる(甲B10,11,鑑定の結果。 )( )そこで,まず抗不整脈薬の投与の適否についてみるに,ガイドラインで は,急性心筋炎における期外収縮の頻発や非持続性心室頻拍に対して,抗不整脈薬の効果が乏しく,むしろ不整脈を誘発することが少なくないとして,- 16 -安易な薬物療法は行わないとしているところ(甲B10,Bに対しては,)8月23日9時25分ころ,発作性上室性頻拍(PSVT,突然出現する頻拍で,心房あるいは房室結節に起源があるもの)に対してサンリズム1錠が経口投与された後,10時から10時5分にかけて心電図モニターで房室ブロック(心房・心室間の興奮伝導障害)が認められ,直後に意識喪失,痙攣発作に至っており,その房室ブロックはサンリズム(乙ロB2)により惹起された可能性があること(乙ロA2・10,11,35枚目,A8,鑑定の結果,11時15分ころ,心室性期外収縮(PVC)が出現し,オリベス)K(乙ロB2)の静注を開始したところ,これによって直後に血圧及び心拍数の低下が生じたこと(乙ロA2・36枚目,A8,鑑定の結果,14時)20分ころから,意識は明瞭だが,モニター上,非持続性心室頻拍が 乙ロB2)の静注を開始したところ,これによって直後に血圧及び心拍数の低下が生じたこと(乙ロA2・36枚目,A8,鑑定の結果,14時)20分ころから,意識は明瞭だが,モニター上,非持続性心室頻拍が多発したため一旦中止されていたオリベスKの点滴が再開されたこと(乙ロA2・38枚目(前記のとおりキシロカインの記載は誤記,A8,同月24日))17時10分に意識障害を伴う心室頻拍が現れた際は,まずキシロカイン静注がなされたこと(乙ロA2・12,40枚目,A8)が認められる。 しかしながら,Bに投与された抗不整脈薬については,上記症状に対する一般的な適応は認められ(乙ロB2,12,当時の他の文献上は心筋炎に)おける心室性不整脈に対して抗不整脈薬であるリドカイン(オリベスK,キシロカインはいずれも薬品名(乙ロB2)投与を肯定する記載も見られる)こと(乙ロB3,10の1049頁,13,ガイドライン上も安易に抗不)整脈薬を使用しないことを推奨するが,禁忌とまではしていないこと(甲B10,8月23日に投与されたサンリズムはその後継続投与されることは)なく(乙ロA2・19枚目,同日11時15分に投与開始したオリベスK)についても,投与後に心室性期外収縮が減少し,10分後には投与を中止しており,慎重な投与がなされていたこと(同36枚目,A8,その後,オ)リベスKの投与が再開されるが,他の抗不整脈薬に比して催不整脈作用は小- 17 -さく,また,不整脈の状態も電気的除細動を実施すべき致死的不整脈ではなかったこと(甲B10,鑑定の結果,同月24日のキシロカイン投与につ)いては,その投与については疑義がないではないが,投与後に心室頻拍の改善がなかったので直ちに電気的除細動を実施して心室頻拍を停止させており,投与による悪影響はほとんど考えられ シロカイン投与につ)いては,その投与については疑義がないではないが,投与後に心室頻拍の改善がなかったので直ちに電気的除細動を実施して心室頻拍を停止させており,投与による悪影響はほとんど考えられないこと(乙ロA2・40枚目,A8,鑑定の結果)からすれば,Bに対する抗不整脈薬の投与が直ちに不適切であったということはできない。 したがって,原告の抗不整脈薬投与に関する過失の主張は採用することはできない。 なお,原告は,8月23日15時のハイドロコートン2Vの投与(乙ロA2・38枚目)についても問題点を指摘しているところ,この時点では既に急性心筋炎の発症を強く示唆する検査所見(8時20分ころの不整脈に加え10時の血液検査で心筋逸脱酵素の上昇が確認されている。同44枚目)が認められていたのであるから,この投与によりウイルス感染を増悪させた可能性がないではないが,可能性があるにとどまるものであるうえ,Bが極めて予後不良の重症の劇症型心筋炎に罹患していたことを考慮すると,投与がなかったとしても予後が改善されたとは考え難い(鑑定の結果。 )( )次に,PCPSの導入時期の適否についてみるに,Bに対してPCPS が導入されたのは,8月24日17時10分に心室頻拍が出現して直流通電を実施し,心室頻拍が止まった後の17時40分に至ってからであったことは,前記第2の1( )ウのとおりである。 この点,ガイドラインでは,劇症型心筋炎(血行動態の破綻を急激にきたし,致死的経過をとる急性心筋炎)の治療として,その急性期管理で重要なことは,心筋炎による血行動態の破綻を回避し,自然回復の時期までいかに橋渡しをするかに尽きるとされ,IABPやPCPSなどの循環補助の適応は,致死的不整脈と,心ポンプ失調による低心拍出状態の二つとされる。そ- 18 -して, 破綻を回避し,自然回復の時期までいかに橋渡しをするかに尽きるとされ,IABPやPCPSなどの循環補助の適応は,致死的不整脈と,心ポンプ失調による低心拍出状態の二つとされる。そ- 18 -して,PCPSの導入については,致死的不整脈による循環虚脱では,抗不整脈薬やIABPの効用に限界があり,直流通電が不成功と判断すればすみやかにPCPSを導入するとされる一方で,心ポンプ失調による低心拍出状態時には,循環指標を経時的に評価し,段階的にPCPS導入の必要性を判断するとされており,カテコラミン等の薬物治療を経ても末梢循環不全の改善がなければIABPを導入し,それでも改善されない場合に初めてPCPSを導入するとされている。しかも,劇症型心筋炎では,原病による循環不全が主死因であるが,循環補助に伴う合併症も無視できないため,過剰な使用は厳に慎むべきともされている(甲B10。 。 )そこで,Bの症状及びこれに対する治療の経過をみるに,前記認定の事実及び証拠(乙ロA2・10~12,36~40枚目,A8,鑑定の結果)によれば,8月23日は,発作性上室性頻拍(PSVT)が現れた後の10時15分に一時的に意識消失となったものの,D医師は低心拍出状態と考え,カテコラミン(ドパミン,乙ロB2)投与を開始し,血圧は改善したこと,その後も,心室性期外収縮(PVC)が出現してオリベスKの静注を開始した後に一時的に血圧及び心拍数が低下したり,肺うっ血が認められたり,非持続性心室頻拍が頻発したりするが,D医師は,カテコラミン投与のほか,IABPの装着や利尿剤(ラシックス,ハンプ)の投与などにより対応しつつ,PCPS導入の可能性も考慮してBの家族に説明していたこと,24日午後に至るまでに,一時的な変動はあるが,血圧は概ね90~120/50~60台で推移し,血液酸素 ハンプ)の投与などにより対応しつつ,PCPS導入の可能性も考慮してBの家族に説明していたこと,24日午後に至るまでに,一時的な変動はあるが,血圧は概ね90~120/50~60台で推移し,血液酸素飽和度は95%前後に改善し,尿量も24日朝方までは良好であり,同日午後までの間,Bは致死的不整脈による循環虚脱の状態にはなっていなかったこと,非持続性心室頻拍は頻発したが,心室頻拍が突然停止した状態での通電の危険もあり,電気的除細動の適応もなかったこと,同日昼頃から尿量が減少し,16時30分ころからは急激に血液酸素飽和度及び血圧が低下したことに加え,17時10分に意識レベルの低下- 19 -を伴う心室頻拍が認められたため,D医師は電気的除細動を実施してからPCPSの導入に踏み切ったことが認められ,前記のようなPCPSの運用指針に照らせば,Bが8月23日当時直ちにPCPSを導入すべき状態であったということはできないし,D医師は,循環指標を経時的に評価しながら段階的にPCPS導入の必要性を判断していたものといえ,PCPSの導入時期がガイドラインの指針に反して不適切であったとはいえず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告のPCPSの導入時期に関する過失の主張は採用することができない。 そうすると,原告の被告法人に対する請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。 争点( )(被告Aの過失及び因果関係)について 前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,本件交通事故が被告Aの前方注視義務違反の過失により生じたことが認められる。 しかしながら,Bは,心筋炎(ウイルス性)による多臓器不全を原因として死亡したところ,前記3で判示したとおり,Bは,本件交通事故のあった被告病院入院日より前からウイルス感染していたものと推測され, しかしながら,Bは,心筋炎(ウイルス性)による多臓器不全を原因として死亡したところ,前記3で判示したとおり,Bは,本件交通事故のあった被告病院入院日より前からウイルス感染していたものと推測され,本件交通事故により外傷性頚部症候群等の傷害を負ったことから心筋炎に罹患したわけではない。 また,原告は,本件交通事故によりBが被告病院整形外科に入院したため心筋炎の早期診断や適切な治療が遅れたとも主張するが,元々,Bは本件交通事故当日,卵巣嚢腫疑いで被告病院放射線科を外来受診してCT画像診断を受ける予定であったに過ぎず(乙ロA1・42,49~51枚目,同病院循環器)科等への入院が予定されていたわけでもないから,主張の前提を欠くものである。 したがって,被告Aの過失行為とBの死亡との間には,そもそも条件関係は- 20 -存しないから,因果関係を肯認することはできない。 もっとも,本件交通事故とBの外傷性頚部症候群等の傷害の発生との間に相当因果関係が存することは本件交通事故の態様等に照らし明らかである。 争点( )(損害)について Bは,本件交通事故により外傷性頚部症候群等の傷害を受けていたところ,その治療及び経過観察のため入院を余儀なくされたこと及び循環器科への転科前は上記症状の軽減までの入院及びその後の通院治療を予定していたこと(乙ロA2・9,10,33枚目,6,証人C34項,明らかな他覚的所見はな)かった(乙ロA1・42枚目,A2・9,56枚目,A6,証人C48項)ものの,この種の治療のためには一般に2か月程度の入院及び通院を要したものと考えられること,Bは本件交通事故から上記要入・通院期間後である本件交通事故の約70日後に死亡していること,その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば,Bの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料として70 と考えられること,Bは本件交通事故から上記要入・通院期間後である本件交通事故の約70日後に死亡していること,その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば,Bの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料として70万円(現実に支払った当該傷害分の治療費及び明確な主張はないものの休業損害相当分(甲A7によればゴルフ練習場に勤務していた)の損害も考慮することとする)。 。 を認めるのが相当である。 そして,原告が原告訴訟代理人弁護士らに本件訴訟の提起・追行を委任している(弁論の全趣旨)ところ,本件訴訟の内容,審理の経過,認容額等に照らし,弁護士費用として10万円を損害と認める。 第4 結論 よって,原告の請求は,被告Aに対して80万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成16年8月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し,被告Aに対するその余の請求及び被告法人に対する請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 大分地方裁判所民事第1部- 21 -裁判長裁判官金光健二松川充康裁判官裁判官力元慶雄は,転官につき署名押印することができない。 裁判長裁判官金光健二
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