平成23年8月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成20年(ワ)第28967号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成23年5月19日判決大阪府茨木市<以下略> 原告 株式会社日本生物科学研究所 同訴訟代理人弁護士 竹田稔 同木村耕太郎 同服部謙太朗 東京都千代田区<以下略> 被告 株式会社ホンダトレーディング 同訴訟代理人弁護士 田中康久 同園部洋士 同林太郎 同眞鍋涼介 同伊藤周作 同訴訟復代理人弁護士 片岡直輝 同訴 伊藤周作 同訴訟復代理人弁護士片岡直輝 同訴訟復代理人弁理士岡田希子 同補佐人弁理士飯塚雄二 同田治米惠子 同柿本邦夫 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の食品を製造し,販売してはならない。 2 被告は,被告が保管する第1項記載の食品を廃棄せよ。 3 仮執行宣言 第2 事案の概要 本件は,「納豆菌培養エキス」に関する特許権を有する原告が,被告に対し,被告が製造販売する別紙被告製品目録記載の食品(以下「被告製品」という。)が,上記特許権に係る発明の技術的範囲に属し,上記特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項,2項に基づき,被告製品の製造販売の差止及び廃棄を求める事案である。 1 前提となる事実(争いのない事実以外は,証拠を項目の末尾に記載する。ただし,書証は枝番を含む。) (1) 原告の特許権(甲3,4) ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)を有している。 特許番号特許第3881494号 原告の特許権(甲3,4)ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)を有している。 特許番号特許第3881494号発明の名称納豆菌培養エキス出願日平成12年4月21日登録日平成18年11月17日特許請求の範囲請求項1(請求項1に係る発明を「本件発明」という。)「ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の食品。」イ本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)によると,本件発明は,血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含有するが,血液凝固因子であるビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない食品に関する- 3 -ものであり(段落【0001】),従来,納豆菌が血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを生産し,ナットウキナーゼは,それ自身が線溶酵素として作用することが知られており,食品として摂取されると,血栓を溶解する(段落【0002】)ことから,ナットウキナーゼを多量に含む食品が販売されている(段落【0003】)が,他方で,納豆菌は,培養によってビタミンK2を多く生産し,ビタミンK2は,血液凝固系の必須成分として知られており(段落【0004】),血栓予防のため,ビタミンK依存性凝固因子の合成抑制剤を服用している患者が,血栓予防等を目的として血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含む納豆又は納豆菌培養エキスを摂取すると,ビタミンK2も同時に摂取することになり,ビタミンK依存性凝固因子の合成抑制剤 用している患者が,血栓予防等を目的として血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含む納豆又は納豆菌培養エキスを摂取すると,ビタミンK2も同時に摂取することになり,ビタミンK依存性凝固因子の合成抑制剤の効果が打ち消されるという問題点が生じるため(段落【0006】),本件発明は,ナットウキナーゼと,特定の量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養エキス等を提供し,これにより,従来のナットウキナーゼを含有する食品が有していた問題点が解決され,栄養分に優れ,血液凝固因子であるビタミンK2がほとんどあるいは全く含まれないため,ビタミンK2の過剰摂取を心配することのないナットウキナーゼ活性が強化され,また,血液凝固系の疾患を有する患者にも最適な食品が提供される(段落【0010】)というものである。 (2) 訂正請求(甲35)原告は,後記のとおり,特許庁に対し,平成23年2月24日付けで,本件発明について特許法134条の2に基づく訂正請求をした。訂正に係る請求項1は,次のとおりである(以下,請求項1の訂正に係る発明を「本件訂正発明」という。)。 「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の食品。」- 4 -(3) 構成要件の分説ア本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。 A ナットウキナーゼとB 1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とをC 含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,D ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態のE 食品。 ミンK2とをC 含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,D ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態のE 食品。 イ本件訂正発明を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。 A’ 5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼとB’ 1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とをC’ 含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,D’ ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態のE’ 食品。 (4) 被告の行為被告は,被告製品を製造販売している(なお,被告は,被告製品の販売の事実は認めるものの,被告製品の製造については第三者に委託して製造させているとしてこれを否認する。しかし,製造委託の事実を法的に評価すれば,被告自身が製造していることになることは認めている。)。 (5) 被告製品の構成被告製品は,「a ナットウキナーゼと」,「b 1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを」,「c 含有する納豆菌培養物を含む」,「d 粉末の形態の」,「e 食品」である。 なお,原告は,被告製品は「b 0.0046μg/g乾燥重量のビタミンK2とを」含有する構成であると主張し,被告は,これについて不知とするが,「b 1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを」含有する構成であることについては認めており,上記bの構成であることには争いがない。 - 5 -また,被告は,c~eの構成について,不知とするが,被告製品がcないしeの構成を充足しないことについて特段の主張をしていないので,弁論の全趣旨により上記の構成と認めるのが相当である。 5 -また,被告は,c~eの構成について,不知とするが,被告製品がcないしeの構成を充足しないことについて特段の主張をしていないので,弁論の全趣旨により上記の構成と認めるのが相当である。 (6) 被告製品の本件発明,本件訂正発明の構成要件充足性ア被告製品は,本件発明の構成要件A,B,D,Eを充足する。 なお,被告は,本件発明の構成要件Cについて,平成20年11月25日付け被告準備書面(1)においては,被告製品が,構成要件Cを充足することを認めていたが,平成21年7月17日付け被告準備書面(5)において,これを争うようになった。 イ被告製品は,本件訂正発明の構成要件B’,D’,E’を充足する(被告は,本件訂正発明の構成要件充足性について,否認し争うとするが,本件訂正発明の構成要件と被告製品の構成の対比からすると,構成要件B’,D’,E’の充足が認められる。)。 (7) 無効審判請求及び訂正請求等(甲20,23,35,乙35~37)ア(ア) 審判請求人(被告)は,特許庁に対し,平成20年11月6日,本件発明に係る特許についての無効審判を請求したところ(無効2008-800246号),特許庁は,平成21年7月7日付けで請求不成立の審決をし,その謄本は,同月17日,審判請求人(被告)に送達された。 (イ) 審判請求人(被告)は,知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」という。)に対し,(ア)の審決について審決取消訴訟を提起したところ(平成21年(行ケ)第10240号),知財高裁は,平成22年9月15日付けで請求を棄却する旨の判決を言い渡し,同判決は,その後確定した。 イ(ア) 審判請求人(被告)は,特許庁に対し,平成21年5月18日,本件発明に係る特許に対する無効審判を請求したとこ 日付けで請求を棄却する旨の判決を言い渡し,同判決は,その後確定した。 イ(ア) 審判請求人(被告)は,特許庁に対し,平成21年5月18日,本件発明に係る特許に対する無効審判を請求したところ(無効2009-- 6 -800102号),特許庁は,平成22年1月5日付けで請求不成立の審決をし,その謄本は,同月15日,審判請求人(被告)に送達された。 (イ) 審判請求人(被告)は,知財高裁に対し,(ア)の審決について審決取消訴訟を提起したところ(平成22年(行ケ)第10038号),知財高裁は,平成22年9月15日付けで審決を取り消す旨の判決を言い渡した(以下「本件知財高裁判決」という。)。 (ウ) 審判被請求人(原告)は,最高裁に対し,(イ)の判決について上告(最高裁平成22年(行ツ)第441号)及び上告受理申立(最高裁平成22年(行ヒ)第474号)をしたが,最高裁は,平成23年1月25日,上告棄却及び上告不受理の決定をした。 (エ) 審判被請求人(原告)は,特許庁に対し,本件発明について,平成23年2月24日付けで特許法134条の2に基づく訂正請求をした。 ウ上記訂正請求における訂正の内容は,次のとおりである。 (ア) 訂正事項a本件明細書中の特許請求の範囲の請求項1を,「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の食品。」に訂正する。 (イ) 訂正事項b本件明細書中の発明の詳細な説明の段落番号【0011】を,「本発明は,5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養 イ) 訂正事項b本件明細書中の発明の詳細な説明の段落番号【0011】を,「本発明は,5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の食品に関する。」に訂正する。 (ウ) 訂正事項c本件明細書中の発明の詳細な説明の段落番号【0012】を,「また,- 7 -本発明は,納豆菌を液体培養する工程および,得られた培養液をキトサン処理する工程を含む方法で得られる,ナットウキナーゼ1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養エキスに関する。」に訂正する。 (エ) 訂正事項d本件明細書中の発明の詳細な説明の段落番号【0015】を,「また,本発明は,ビタミンK2含有量が低下した納豆菌培養液の製造方法であって,納豆菌培養液をキトサンで処理する工程を含む方法に関する。」に訂正する。 (8) 本件訴訟の経過(当裁判所に顕著な事実)ア原告は,当裁判所に対し,平成20年10月14日,本件訴訟を提起した。 イ被告は,平成21年2月3日の第1回弁論準備手続期日において陳述された平成20年11月25日付け被告準備書面(1)において,被告製品の本件発明の構成要件充足性に関して上記(6)アの認否をするとともに,新規性の欠如について,後記新規性欠如①(乙1),新規性欠如②(乙2),新規性欠如③(乙3)の主張を,進歩性欠如について,後記進歩性欠如①(主引用例乙3)のうちの副引用例乙4と組み合わせた無効理由の主張及び進歩性欠如②(主引用例乙5)の無効理由の主張をした。 ウ被告は,平成21年4月24日の第3回弁論準備手 いて,後記進歩性欠如①(主引用例乙3)のうちの副引用例乙4と組み合わせた無効理由の主張及び進歩性欠如②(主引用例乙5)の無効理由の主張をした。 ウ被告は,平成21年4月24日の第3回弁論準備手続期日において陳述された同月23日付け被告準備書面(3)において,被告製品の本件発明の構成要件充足性に関して上記(6)の主張をするとともに,後記特許法36条6項1号違反,同2号違反の無効理由の主張をした。また,被告は,同弁論準備手続期日において,「本件発明の無効の主張については,従前の主張及び被告準備書面(3)で主張した特許法36条6項1号,同2号違反以外の主張はしない。」と述べた。 - 8 -エ原告は,平成21年6月30日の第4回弁論準備手続において陳述された同年5月29日付け原告第3準備書面において,本件発明の構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義について,納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部又は相当部分が含まれていることであると主張した。 オ被告は,平成21年8月31日の第5回弁論準備手続期日において陳述された同年7月17日付け被告準備書面(5)において,被告製品の構成要件C充足性についての自白の撤回の主張をするとともに,新たに後記進歩性欠如③(主引用例乙19)の無効理由の主張をした。 カ被告は,平成21年11月10日の第7回弁論準備手続期日において陳述された同月4日付け被告準備書面(9)において,新たに,後記進歩性欠如①(主引用例乙3)のうち副引用例乙19,20,1,2,5を組み合わせた無効理由の主張をした。 キ原告は,平成23年4月8日の第16回弁論準備手続期日において陳述された同年3月31日付け原告第13準備書面において,新たに,本件発明についての訂正請求に基づく主張をした。 2 争点(1) キ原告は,平成23年4月8日の第16回弁論準備手続期日において陳述された同年3月31日付け原告第13準備書面において,新たに,本件発明についての訂正請求に基づく主張をした。 2 争点(1) 被告製品の構成(2) 本件発明の侵害の有無(2)-1 本件発明の構成要件充足性(2)-1-1 本件発明の構成要件Cの解釈(2)-1-2 本件発明の構成要件Cの充足性(2)-2 本件発明の無効理由の有無(2)-2-1 特許法36条6項1号違反(2)-2-2 特許法36条6項2号違反(2)-2-3① 新規性欠如①(乙1)- 9 -(2)-2-3② 新規性欠如②(乙2)(2)-2-3③ 新規性欠如③(乙3)(2)-2-4① 進歩性欠如①(主引用例乙3)(2)-2-4② 進歩性欠如②(主引用例乙5)(2)-2-4③ 進歩性欠如③(主引用例乙19)(3) 本件訂正発明の侵害の有無(3)-1 訂正請求の適否 (3)-2 訂正請求による無効理由の解消の有無(3)-3 本件訂正発明の構成要件充足性(4) 差止・廃棄請求の可否 3 争点に対する当事者の主張(1) 被告製品の構成(原告)本件訂正発明の構成要件A’に関し,被告製品は,「a25871FU/g乾燥重量のナットウキナーゼと」を含有する構成を有する。すなわち,被告製品のナットウキナーゼ活性は24500FU/gであり,被告製品の固形分量は94.7%であるから,被告製品は,25871FU/g=24500FU/g÷0.947乾燥重量のナットウキナーゼを含有している(甲19)。 (被告)被告製品がナットウキナーゼを含有することは認めるが,原告がどのようにして被告製品 1FU/g=24500FU/g÷0.947乾燥重量のナットウキナーゼを含有している(甲19)。 (被告)被告製品がナットウキナーゼを含有することは認めるが,原告がどのようにして被告製品を入手して,実際に分析をしたかは不明であるため,原告の主張するナットウキナーゼの含有量は知らない。 (2) 本件発明の侵害の有無(2)-1 本件発明の構成要件充足性(2)-1-1 本件発明の構成要件Cの解釈- 10 -(原告)ア本件発明の構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」は,「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分が含まれているもの」を意味する。 (ア) 本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」が「ナットウキナーゼ」と「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2」を含有する状態のものであることは特許請求の範囲の記載上一義的に明確であるが,「納豆菌培養液またはその濃縮物」自体の意義について明細書の発明の詳細な説明を参酌する必要があるか否かは別問題である。「ナットウキナーゼと…ビタミンK2を含有する」は,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の修飾語であり,その語自体の意義を明らかにするものではない。「納豆菌またはその濃縮物」自体の意義が特許請求の範囲の記載からは一義的に明確でない以上,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して理解すべき特段の事情がある。 (イ) 本件明細書には,本件発明が「栄養分に優れ,血液凝固因子であるビタミンK2がほとんどあるいは全く含まれないため…血液凝固系の疾患を有する患者にも最適な食品」であることが記載されている(段落【0010】)。 「栄養分」の意義については,本件明細書に定義はないが,一般的に「栄養素」ともいい,生物が生命を保ち,健康的生活を営むため,あるいは成長・発育の あることが記載されている(段落【0010】)。 「栄養分」の意義については,本件明細書に定義はないが,一般的に「栄養素」ともいい,生物が生命を保ち,健康的生活を営むため,あるいは成長・発育のために体外から取り入れる物質をいい,蛋白質,炭水化物,脂質,灰分(「無機質」または「ミネラル」ともいう。),ビタミンなどであることは,周知の事項であるから(甲18),本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」には,栄養分として,試験結果報告書(甲15)例示の蛋白質,炭水化物,灰分(ミネラル)などの成分が含まれていることが必要である。 - 11 -納豆菌培養液に含まれる具体的な成分(栄養分)は,納豆菌の種類,培養条件などで変化するので(本件明細書段落【0020】),納豆菌培養液中の具体的成分(栄養分)を特定することは,本件発明の構成要件を特定するうえで不要であり,構成要件の充足性とは関係がない。 したがって,本件発明の特許請求の範囲の「納豆菌培養液またはその濃縮物」は,納豆菌培養液に通常含まれる(納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣に由来する)種々の栄養分のうちの全部又は相当部分(有意な量)が残存しているものであることと理解される。 (ウ) 原告が「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義を上記(イ)のように解することは,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の技術用語としての意味に本来含まれない要素を付加して限定解釈しているものではない。 本件明細書には,本件発明が「栄養分に優れ,血液凝固因子であるビタミンK2がほとんどあるいは全く含まれないため…血液凝固系の疾患を有する患者にも最適な食品」であることが記載されているから(段落【0010】),本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」を,納豆菌培養液に通常含まれる種々の栄養分のうちの全 め…血液凝固系の疾患を有する患者にも最適な食品」であることが記載されているから(段落【0010】),本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」を,納豆菌培養液に通常含まれる種々の栄養分のうちの全部または相当部分が含まれるものをいうと解することは,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の通常の技術的意義の範囲内の解釈である。 イ被告の主張に対する反論(ア) 「納豆菌培養液またはその濃縮物」は「納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2を含有する状態のもの」であるとする被告の解釈によると,本件発明は「ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の食品」と記載されたはずであり,「納豆菌培養液またはその濃縮物」との構成- 12 -要件を無視することに帰する。 (イ) 仮に,「納豆菌培養液またはその濃縮物」を原告のように解する場合には,特許請求の範囲としてその精製方法を加えるべきであるとする被告の主張は誤りである。本件発明は物の発明であり,本件特許出願以前に,キトサン処理によるものであろうと,その他の方法によるものであろうと,「ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む…食品」は公知ではないから,本件発明の技術的範囲は,キトサン処理による方法によって得られた物に限定されない。キトサン処理によるものであろうと,その他の方法によるものであろうと,本件発明は,ナットウキナーゼ及び納豆菌培養液に由来する栄養分の全部又は相当部分を残存させつつ,ビタミンK2を選択的に除去して1μg/g乾燥重量とした食品である。 特許庁審査官は,かかる物の発明について新規性を認 ットウキナーゼ及び納豆菌培養液に由来する栄養分の全部又は相当部分を残存させつつ,ビタミンK2を選択的に除去して1μg/g乾燥重量とした食品である。 特許庁審査官は,かかる物の発明について新規性を認めたものであり(乙8),原告の意見書(乙7)も,本件発明は,引用発明と異なり,ナットウキナーゼを納豆菌培養液から分画するものでないと述べるにすぎない。 ウ時機に後れた攻撃防御方法構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義が,キトサン処理されたものに限定解釈されるべきであるとの被告の主張は,平成21年10月1日付け被告準備書面(8)で初めて主張されたものであり,審理を不当に遅延させる目的をもってする防御方法であって,時機に後れた防御方法(民訴法157条)として却下されるべきである。 (被告)ア本件発明の構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」は,特許請求の範囲の記載からすると,「納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2を含有する状態のもの」であ- 13 -ることが一義的に明確であり,本件明細書の記載からしても,それ以上の要件を読み取ることはできない。すなわち,「納豆菌培養液またはその濃縮物」は,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすように処理したものであり,納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部又は相当部分が含まれるものではない。 イ仮に,本件発明の構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義を,原告が主張するように,納豆菌培養液またはその濃縮物に通常含まれる栄養分の全部又は相当部分が含まれるものとした場合には,納豆菌培養液またはその濃縮物に栄養分を残しつつ,ビタミンK2のみを選択的に除去することができる方法が明らかでない限 はその濃縮物に通常含まれる栄養分の全部又は相当部分が含まれるものとした場合には,納豆菌培養液またはその濃縮物に栄養分を残しつつ,ビタミンK2のみを選択的に除去することができる方法が明らかでない限り,本件発明は不明確となる。 原告はその方法として特殊な精製方法を用いることによって行うとしているから,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義は,その特殊な精製方法を明らかにすることによって初めて不明確でないものとして特定することになる。そして,本件明細書においては,その精製方法としてキトサンによる方法が示されているのみである。そうすると,「納豆菌培養液またはその濃縮物」を原告のように理解した上で,本件発明が不明確とされないためには,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義は,「納豆菌を培養した培養液を,キトサンを用いてビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすように処理したもの」として特定されるべきことになる。 このように,精製方法による限定をしない限り不明確となる理由は,次のとおりである。 (ア) そもそも納豆菌培養液は,培養液として使用する成分が限定されるものではなく,培養液の栄養分その他の成分により特定することはできない。培養液中の状態は,納豆菌の培養時間によっても変化するので,培養液の成分・構成や培養時間の限定をせずに「納豆菌培養液またはその濃縮物」とした場合には,培養液の成分を特定することはできない。 - 14 -従来の技術によって当業者が適宜なしうる範囲内の納豆菌培養液と,構成要件Cの納豆菌培養液を区別するには,分離するための方法を限定することで特定するほかない。 (イ) 本件明細書において,本件発明が解決しようとする課題は,「有機溶媒などを用いることなく,簡便にビタミンK2を除去できる方法」及び「その方法で生産される, 限定することで特定するほかない。 (イ) 本件明細書において,本件発明が解決しようとする課題は,「有機溶媒などを用いることなく,簡便にビタミンK2を除去できる方法」及び「その方法で生産される,ビタミンK2含量が低減された納豆菌培養エキス」(段落【0009】)とされ,「その方法」としては,発明の実施形態において「ビタミンK2の除去はキトサンを用いて行う」(段落【0019】)とキトサン処理による方法が記載されているのみである。本件発明は,キトサンを用いた処理によってビタミンK2を除去する点に本質があり,特許庁審査官も,その点に特許性を認めている(乙8)。原告も,意見書(乙7)において,納豆菌培養液からナットウキナーゼを精製する方法が引用発明との差異であることを自認している。 (ウ) 以上の理由から,原告のような解釈をする場合には,本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義については,精製方法を含めて理解すべきことは明らかである。 ウ本件明細書からみても,原告の解釈は,相当ではない。 (ア) 本件明細書には「本発明により…栄養分に優れ…食品が提供される。」(段落【0010】)とあるのみであり,「栄養分に優れ」は「食品」を修飾している。栄養分に優れた納豆菌培養液またはその濃縮物が提供されるとの記載は存在しない。段落【0010】は,「本発明」についての説明であり,本発明は「納豆菌培養エキス及びその製造方法を提供する」というものであるから,段落【0010】は,納豆菌培養エキスについての説明であり,納豆菌培養液についての説明ではない。本件発明において,納豆菌培養液と納豆菌培養エキスは明確に区別されており,納豆菌培養エキスの説明を納豆菌培養液の説明に用いるべきでは- 15 -ない。 出願経過をみても,原告は,意見書(乙7)にお 発明において,納豆菌培養液と納豆菌培養エキスは明確に区別されており,納豆菌培養エキスの説明を納豆菌培養液の説明に用いるべきでは- 15 -ない。 出願経過をみても,原告は,意見書(乙7)において,「納豆菌培養エキス」を「納豆菌培養液またはその濃縮物を含む…形態の食品」と補正している。したがって,本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」について,「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分が含まれている」ものとすることは,特許請求の範囲に記載されていない発明の構成要件を発明の詳細な説明の記載から不要に付加するものである。 (イ) 本件明細書の発明が解決しようとする課題(段落【0009】)には,栄養分に関する記載がない。納豆菌培養液の栄養分を残したままビタミンK2のみが除去された物が本件発明の特徴点であれば,残される栄養分の内容が詳細な説明において示されているべきであるが,何の示唆もない。 (ウ) 本件明細書の段落【0020】~【0028】には,ナットウキナーゼを産生できる微生物として納豆菌を培養し,得られた培養液にキトサン処理を行い,次いで濾過助剤などを用いて精密濾過し,さらにメンブレンフィルター等を用いて濾過することにより「納豆菌培養液またはその濃縮物」が得られること,この濃縮液中のビタミンK2の濃度は1μg/g乾燥重量以下となることが記載されている。また,本件明細書の段落【0028】の納豆菌培養液の濃縮液は,本来の納豆菌培養液(納豆菌を培養した培養液であり,培養後に何らかの成分を追加したり除去したりしていないもの)自体ではなく,本来の納豆菌培養液にキトサン処理等の精製処理を重ねたものである。そして,キトサンは,蛋白質凝集回収助剤等として(乙16),あるいはジュースや糖液の精製,下水や産業排水の処理,汚泥の 自体ではなく,本来の納豆菌培養液にキトサン処理等の精製処理を重ねたものである。そして,キトサンは,蛋白質凝集回収助剤等として(乙16),あるいはジュースや糖液の精製,下水や産業排水の処理,汚泥の脱水などの凝集剤として広く使用されているものであるから(乙17),キトサンを用いて納豆菌培養液に凝集沈殿- 16 -処理を行う前後で,蛋白質等の組成にほとんど変化がないことはありえない。したがって,構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」に「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分」が含まれることはない。試験結果報告書(甲15)は,本件特許の実施例に準じているとはいえない。 (2)-1-2 本件発明の構成要件Cの充足性(原告)ア被告製品は,構成要件Cを充足する。 (ア) 被告製品の成分分析(甲19)によると,被告製品は,灰分,蛋白質,脂質及び炭水化物といった,納豆菌培養液に通常含まれる栄養分のうち少なくとも相当部分を含有するものである。そして,被告製品は納豆菌培養液またはその濃縮物を乾燥処理により粉末化したものである以上,上記栄養分は納豆菌培養液またはその濃縮物に由来する。したがって,被告製品は,本件発明における「納豆菌培養液またはその濃縮物」を含むものであるから,構成要件Cを充足する。 (イ) ポリアミンは例示にすぎず,これが納豆菌培養液に特徴的な栄養成分であるとしても,そのことから直ちに,これが検出されなければ本件発明の構成要件Cに該当しないというものではないが,実際には,被告製品にポリアミンが含まれることは,立証済み(甲19)である。 イ自白の成立及び自白の撤回被告が,平成20年11月25日付被告準備書面(1)により構成要件Cの充足を認めたことは裁判上の自白に該当する。 また,被告が,平 証済み(甲19)である。 イ自白の成立及び自白の撤回被告が,平成20年11月25日付被告準備書面(1)により構成要件Cの充足を認めたことは裁判上の自白に該当する。 また,被告が,平成21年4月23日付け被告準備書面(3)においてこれを否認したことは,自白の撤回に該当するが,原告は同意しないし,自白の撤回の要件も具備しない。 (ア) 反真実性- 17 -被告は,被告製品においては,「納豆菌培養液またはその濃縮物」について,栄養分の相当部分が残っているとはいえないと主張するが,被告製品は食品として販売されており,医薬品と同様の高度な「精製」をしているわけではないから,「精製」をしていることの一事をもって,その「過程においてナットウキナーゼを除くほとんどの蛋白質,糖分,脂質の相当程度は除去されてしまうことは明白」とはいえない。被告製品のパンフレットにも「茶褐色粉末で,わずかに発酵臭(納豆臭)を有する」と記載されており,納豆菌培養液に通常含まれる栄養分のうち少なくとも相当部分が被告製品に残存していることは明らかである。したがって,被告の自白内容が真実に反するとは言えない。 (イ) 錯誤被告製品が構成要件を充足しない理由となる「納豆菌培養液またはその濃縮物」に精製方法を加えてこれを限定する解釈は,本来,答弁書の段階で被告において主張すべきものである。したがって,原告が「納豆菌培養液またはその濃縮物」について,被告が想定していない解釈をしたからといって,自白の撤回を正当化しうる「錯誤」となるものではない。 (被告)ア被告製品は,構成要件Cを充足しない。 (ア) 構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義が,「納豆菌を培養した培養液を,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミン い。 (被告)ア被告製品は,構成要件Cを充足しない。 (ア) 構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義が,「納豆菌を培養した培養液を,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすように処理した物」(納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分は含まない)と解する場合は,被告製品は構成要件Cを充足する。被告が,当初,構成要件Cの充足性を認めたのはこの趣旨である。 (イ) しかし,構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義が,- 18 -原告のいうように「納豆菌培養液またはその濃縮物に通常含まれる栄養分の全部又は相当部分が含まれるもの」であるとするならば,前記のとおり,「キトサンを用いてビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすように処理したもの」という要件を付加して理解されるべきであるから,キトサン処理をしない被告製品は,構成要件Cを充足しない。 イ自白の不成立(ア) 構成要件の意義は,特許の技術的範囲の客観的な解釈であり,当事者の主張に限定されるものではない。また,構成要件の充足性に関する陳述は,法的評価に係るものであるから,構成要件の意義ごとに対応した認否が認められるべきであり,本件においても自白は成立しない。 (イ) 前記のとおり,被告は構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義について,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすように処理した物を含み,かつ納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部又は相当部分は含まれないものとの解釈の下で構成要件Cの充足性を認めたものである。したがって,自白に拘束力が生じるとしても,被告製品に「納豆菌を培養した培養液を,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量1μ まれないものとの解釈の下で構成要件Cの充足性を認めたものである。したがって,自白に拘束力が生じるとしても,被告製品に「納豆菌を培養した培養液を,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすよう処理した物で,かつ納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分は含まない物」を含有しているという事実である。この部分に自白が認められたとしても,構成要件Cの充足性が認められることにはならないから,構成要件Cの充足性についての自白は成立しない。 ウ自白の撤回仮に,構成要件Cの充足性についての自白が成立するのであれば,撤回する。 (ア) 反真実性- 19 -① 本件明細書に基づいて調製したとされる試料についての試験結果報告書(甲15)の試料①,②がキトサン処理前後の納豆菌培養液であり,少なくとも納豆菌培養液の85~90重量%の栄養分が残っているとすれば「相当部分」の栄養分が残っていることになる。しかし,被告は,納豆菌を培養した液体を精製して製品化しており,被告製品は精製の過程においてナットウキナーゼを除くほとんどの蛋白質,糖分,脂質の相当程度は除去されるから,構成要件Cが原告の主張する意義である場合には,被告の自白は客観的事実に反する。 ② 分析試験成績書(乙24)では,納豆菌を培養した液体を精製処理しビタミンK2を除去・減量したもの(濃縮液)において,納豆菌が生産する代表的な機能性成分であるポリアミン(スペルミジン,プトレッシン,カダベリン)が検出されていないから,納豆菌培養液に通常含まれる栄養分であるポリアミンが全く含まれていないか,極めて微量だけ含まれていることになり,「相当部分」が残っているとはいえない。したがって,構成要件Cが原告の主張する意義である場合 培養液に通常含まれる栄養分であるポリアミンが全く含まれていないか,極めて微量だけ含まれていることになり,「相当部分」が残っているとはいえない。したがって,構成要件Cが原告の主張する意義である場合には,被告の自白は客観的事実に反する。 ③ 原告の意見書(乙7)によると,本件発明は,納豆菌培養液を分画することなく,そのまま濃縮し食品の形態とするが,被告製品は,キトサンを用いずにナットウキナーゼを分画することでビタミンK2を除去しているから,被告の自白は客観的事実に反する。 (イ) 錯誤前記のとおり,被告は,被告製品の製造に使用される「納豆菌を培養した培養液」が,「ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすように納豆菌培養液を処理したもの」であることを認める意思で被告製品が構成要件Cを充足するとの答弁をしたが,その後,原告の主張が変遷した。構成要件Cに「納豆菌培養- 20 -液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分」が含まれている必要があるという原告の主張が認められる場合には,被告は錯誤により被告製品が構成要件Cを満たすことを認めたことになる。 (2)-2 本件発明の無効理由の有無(2)-2-1 特許法36条6項1号違反(被告)ア本件発明には,次のとおり,特許法123条1項4号,36条6項1号違反の無効理由がある(本件発明の課題を解決する手段の反映の欠如)。 (ア) 本件発明は,ナットウキナーゼを摂取することを目的とする納豆菌培養エキス製品において,ナットウキナーゼの血栓溶解作用を強力にするため,その阻害因子となるビタミンK2を除去することに着目した発明であり(段落【0002】~【0004】,【0007】参照),本件発明の解決しようとする課題は,「有機溶媒を用いることな を強力にするため,その阻害因子となるビタミンK2を除去することに着目した発明であり(段落【0002】~【0004】,【0007】参照),本件発明の解決しようとする課題は,「有機溶媒を用いることなく,簡便にビタミンK2のみを選択的に除去できる方法」及び「その方法で生産されるビタミンK2含量のみが低減された納豆菌培養エキス」を提供することである(段落【0009】)。 (イ) 本件発明の課題を解決するための手段としては,本件明細書の段落【0019】及び実施例や,本件出願時の技術常識を参酌すると,キトサンを用いることは必須であるから,本件発明の本質は,キトサン処理を用いた納豆菌培養液の精製方法にある。 (ウ) 本件では,本件発明の課題である「有機溶媒を用いることなく,簡便にビタミンK2を除去できる方法」について,当該課題を解決するための手段として「キトサンを用いた処理」の記載が特許請求の範囲において欠落しており,本件発明の特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求する場合に- 21 -該当し,特許法36条6項1号に反する。 (エ) 仮に,本件発明の技術的意義に「納豆菌培養液に含まれる『栄養分』をなるべく維持すること」が含まれる場合には,ビタミンK2を除去する処理の前後で栄養分含量がどの程度変化するのかが記載されてしかるべきであるが,本件明細書には,栄養分に相当するものの例示を含めて記載がない。また,仮に「栄養分に優れている」ことの具体的内容が,キトサン処理を選択した場合に,納豆菌培養液(培養上清)中に残存している栄養分の状態(種類及び量)を指すのであれば,請求項1において「納豆菌培養液またはその濃縮物」がキトサ る」ことの具体的内容が,キトサン処理を選択した場合に,納豆菌培養液(培養上清)中に残存している栄養分の状態(種類及び量)を指すのであれば,請求項1において「納豆菌培養液またはその濃縮物」がキトサン処理工程を経て得られたものであることを明示する必要があるが,その記載もない。 イ原告の主張に対する反論(ア) 原告は,本件発明をプロダクト・バイ・プロセス・クレームとして理解したとしても,権利範囲は同一であると主張するが,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの効力がそのプロセスで製造された物だけに及ぶか否かの技術的範囲の問題(特許法70条)と,特許請求の範囲に係る発明と,発明の詳細な説明に発明として記載したものとが実質的に対応しているかについての記載不備の問題(同法36条6項1号)とは異質の問題であるから,技術的範囲が及ぶことをもって,記載不備にならないことはない。 (イ) 本件明細書段落【0008】の「栄養学上の問題」とは,その記載からみて,ビタミンK2以外の脂溶性の栄養分が抽出されるという問題であり,すべての栄養分の抽出についてではない。したがって,段落【0010】の「栄養分に優れ」も,納豆菌培養液をキトサン処理することによって脂溶性の栄養分のうちビタミンK2のみが抽出されたという結果を表しているにすぎない。本件発明は,納豆菌培養液におけるビタミンK2に着目したものであり,本件発明の課題の解釈に当たり,ビタ- 22 -ミンK2以外の栄養分の残存について考慮することはできない。 (原告)ア本件明細書に記載された特許発明の課題は,①「有機溶媒などを用いることなく,簡便にビタミンK2を除去できる方法」の提供及び②「その方法で生産される,ビタミンK2含量が低減された納豆菌培養エキス」の提供(段落【0009】)であり,課題 は,①「有機溶媒などを用いることなく,簡便にビタミンK2を除去できる方法」の提供及び②「その方法で生産される,ビタミンK2含量が低減された納豆菌培養エキス」の提供(段落【0009】)であり,課題①に対応して,方法の発明である請求項4,5の発明が,課題②に対応して,物の発明である請求項1~3に記載された発明が開示されている。本件発明(請求項1)は,発明の詳細な説明に記載した方法により簡便にビタミンK2を除去した食品という物の発明を記載したものであって,物の発明において,その製造方法を特許請求の範囲に記載しないのは,当然のことである。そして,「キトサン処理によってビタミンK2を1μg/g乾燥重量以下に減少させた」という限定を付すか否かにかかわらず権利範囲に差異はないから,そのような限定を付さなかったことをもって,特許法36条6項1号違反の無効理由は存在しない。 イ(ア) 仮に,被告が主張するように,「キトサン処理によってビタミンK2を1μg/g乾燥重量以下に減少させた」という限定を請求項1の特許請求の範囲に付したとしても,製造方法によって特定した物の発明(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)であって,ビタミンK2含量を「1μg/g乾燥重量以下」まで減少させた点に物の発明としての本件発明の新規な特徴があり,製造方法による特定の有無にかかわらず,権利範囲は同一である。 (イ) 本件明細書段落【0008】において「脂溶性の栄養分」が除かれるという問題点を記載したのは,段落【0007】の「ヘキサンなどの有機溶媒」を用いる方法で除去されるものが脂溶性の栄養分だからであり,それ以外の栄養分の除去が問題とならないという趣旨ではない。本- 23 -件発明は「食品」の発明である以上,「栄養分に優れ」(段落【0010】)ていることが商品価値に 溶性の栄養分だからであり,それ以外の栄養分の除去が問題とならないという趣旨ではない。本- 23 -件発明は「食品」の発明である以上,「栄養分に優れ」(段落【0010】)ていることが商品価値に直結するのであり,脂溶性以外の栄養分の残存の有無は当然問題となる。不純物を含まないことが重要である医薬品の場合とは,技術思想において異なる。 (2)-2-2 特許法36条6項2号違反(被告)本件発明には,次のとおり,特許法123条1項4号,36条6項2号違反の無効理由がある(記載の明確性の欠如)。 ア構成要件Cの不明確性(ア) 「納豆菌培養液」は,文言上は,単に納豆菌を培養するためまたは培養した液体の培地を意味することは明白である。それにもかかわらず,特許請求の範囲の解釈において,「栄養分の相当部分が含まれていること」という要件を後付けしなければ,本件明細書の段落【0028】の「納豆菌培養液の濃縮液」との整合性をとることができず,また,他の先行技術及び特許の効力の範囲が明確にならないということは,構成要件Cが不明確であることを表している。 (イ) 構成要件Cについて,原告の解釈による「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分」とは,どの納豆菌をどの程度培養したときに含まれているどの栄養分なのか不明であり,「相当部分」も,成分の含量,または,成分の種類を指すのか不明である。「相当部分」の判断の際,精製前後の納豆菌培養液を比較し相対的に判断されるものか,特定の含量または種類が含まれているかにより絶対的に判断されるものかも不明であり,原告自身,精製前後の納豆菌培養液の組成の変化について,どの程度であれば相当部分といえるか明らかにしていない。 イ各構成要件の関係の不明確性本件発明の構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」を「納豆菌 ,精製前後の納豆菌培養液の組成の変化について,どの程度であれば相当部分といえるか明らかにしていない。 イ各構成要件の関係の不明確性本件発明の構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」を「納豆菌を培養するためまたは培養した液体状の培地」- 24 -と解釈した場合,製造方法を特定しない限り,構成要件A~Cの関係が不明確となる。すなわち,本件特許の請求の範囲の記載からだけでは,納豆菌培養液を精製した結果,構成要件A~Cが残存した状態を意味することは明らかではなく,構成要件A~Cを混ぜ合わせたものまでも特許発明の技術的範囲に属することになる。 (原告)ア構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義は明確である。本件発明は「食品」であり,その製造過程において納豆菌培養液から一定の不純物が除去されることは当然である。ビタミンK2だけでなく,それ以外の一定の不純物等が除去された結果として,ナットウキナーゼのほか,納豆菌培養液に通常含まれる栄養分(納豆菌からの分泌物または培地成分の残渣に由来する栄養分)が有意な量含まれていることを要し,それで足りる。しかも,本件発明は「納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の食品」と記載されており,「納豆菌培養液」自体の文言上の意味が単に「納豆菌を培養するためまたは培養した液体状の培地」であるとしても,それがそのままの形で最終的な「食品」に残っているものでないことは特許請求の範囲の記載上も明らかであり,不明確な点はない。納豆菌培養液またはその濃縮物に含まれる種々の栄養分が相当部分含まれていると言えるかについては,当業者であれば技術常識に従って容易に判断が可能であり,具体的にいかなる量のいかなる成分が含まれているかを特定しなければ明確性要件に 含まれる種々の栄養分が相当部分含まれていると言えるかについては,当業者であれば技術常識に従って容易に判断が可能であり,具体的にいかなる量のいかなる成分が含まれているかを特定しなければ明確性要件に反するというものではない。 イ被告が納豆菌培養液を納豆菌を培養する前の培地と理解しているのであればその理解は誤りである。また,納豆菌を培養した後の液状の培地と理解しているのであれば,もともとナットウキナーゼとビタミンK2を含有している納豆菌培養液にわざわざナットウキナーゼとビタミンK2と- 25 -を加えるということになり,当業者の技術常識からはあり得ないことを主張していることになる。 (2)-2-3① 新規性欠如①(乙1)(被告)ア本件特許の出願日前である昭和61年7月22日に頒布された公開特許公報昭61-162184号(乙1。以下「乙1文献」という。)には,本件発明がすべて開示されているから,本件発明には,新規性欠如の無効理由(特許法123条1項2号,29条1項3号)がある。 (ア) 納豆菌の培養液から得られる「線溶酵素」とは,「ナットウキナーゼ」を意味するから,乙1文献は,本件発明の構成要件Aを開示する。 (イ) 「線溶酵素」は,「納豆菌の培養液をそのまま,または適当な時間,適当な温度に保持した後,濃縮,透析または乾燥した後,極性有機溶媒,塩析,限外濾過,吸着剤,イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過,アフィニティークロマトグラフィー又は等電点電気泳動の組み合せで処理することにより得ることができる。即ち,この新規な線溶酵素は納豆,納豆菌由来であり,強い線溶活性を有する」(2頁左下欄20行~同頁右下欄8行)と記載され,実施例2(4頁左上欄6行~同頁右上欄1行)は,納豆菌を培養し,その「培養液を集め…ゲル濾過にかけ…線 豆,納豆菌由来であり,強い線溶活性を有する」(2頁左下欄20行~同頁右下欄8行)と記載され,実施例2(4頁左上欄6行~同頁右上欄1行)は,納豆菌を培養し,その「培養液を集め…ゲル濾過にかけ…線溶活性は約8.0CU/mg蛋白」の蛋白質を得たことが記載されているから,納豆菌培養液に精製処理を適宜組み合わせることにより,線溶酵素を(ビタミンK2を含有しない)精製物として得られることを開示しており,乙1文献は,本件発明の構成要件B,Cを開示する。 また,構成要件C「納豆菌培養液またはその濃縮物」には,納豆菌培養液の蛋白質等の組成に変化を与えるキトサン処理をしたものが含まれるから,本来の納豆菌培養液に任意の精製処理を施したものが含まれると解されるから,乙1文献の実施例で得られる蛋白質等も「納豆菌培- 26 -養液またはその濃縮物」となる。これに対し,原告は,乙1文献の実施例で得られる精製品が医薬に適する程度までに高度に精製された場合には,構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」に当たらないと主張するが,乙1文献の実施例で得られる蛋白質等の比活性は3.6~38FU/mg蛋白であるのに対し,本件明細書の実施例に準じた試験結果報告書(甲15)の試料③の比活性は89.8FU/mg蛋白であり,前者の方がナットウキナーゼの蛋白質純度が低い上,乙1文献の実施例1において,蛋白1mgに含まれるナットウキナーゼは0.005mgにすぎず,残り0.995mgは納豆菌培養液由来の他の蛋白質である(乙18)から,乙1文献の実施例で得られる精製品は,原告の主張する構成要件Cの要件をも充足しており,乙1文献は,本件発明の構成要件Cを開示する。 (ウ) 「線溶酵素」は,「白色無定形粉末」(3頁左上欄5行)として得ることができ,「経口投与を行うことによって,特 構成要件Cの要件をも充足しており,乙1文献は,本件発明の構成要件Cを開示する。 (ウ) 「線溶酵素」は,「白色無定形粉末」(3頁左上欄5行)として得ることができ,「経口投与を行うことによって,特に長時間投与して害のないことから血栓症などの治療のみならず,その予防薬としても期待される」(3頁左下欄15~17行)と記載される。そして,「経口投与」は,一般に医薬だけでなく機能性食品についても使用され(乙13,甲6の1~4),また,ある有効成分が医薬にも機能お機能性食品にも使用される例は多数存在する(例えば乙15)から,乙1文献は,本件発明の構成要件D,Eを開示する。 イビタミンK2の含量が「1μg/g乾燥重量以下」であることについては,後記(2)-2-3③(被告)イ記載のとおりである。 (原告)ア乙1文献に開示されている発明は「精製されたナットウキナーゼを含有する粉末状の形態の医薬品」であるにすぎず,次に述べるとおり,少なくとも構成要件B,C,Eに係る構成を充足しない。 - 27 -イ(ア) 乙1文献は,「新規な線溶酵素」のビタミンK2含有量について何ら言及しておらず,蛋白質として「精製」しているからといって当然にビタミンK2含有量が「1μg/g乾燥重量以下」となるものではない。 乙1文献には,当業者が実施可能な程度に,当該精製物からビタミンK2を本件発明の程度まで除去することが具体的に記載されていない。 (イ) そもそも本件発明は「ナットウキナーゼ…を含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」食品であって「ナットウキナーゼを含む」食品ではない。ナットウキナーゼを酵素として「精製」すれば,最終製品に「納豆菌培養液またはその濃縮物」は含まないことになり,本件発明とは異なるものになる。 (ウ) また,「精製」されたナットウ 」食品ではない。ナットウキナーゼを酵素として「精製」すれば,最終製品に「納豆菌培養液またはその濃縮物」は含まないことになり,本件発明とは異なるものになる。 (ウ) また,「精製」されたナットウキナーゼ(酵素)は「医薬品」であり,「食品」ではない。「経口投与」は,専ら医薬ないし医学の分野で用いられる用語であり,健康食品ないし機能性食品の分野で用いられることはないから,乙1文献は,構成要件Eに係る構成(ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の食品)を開示していない。 (2)-2-3② 新規性欠如②(乙2)(被告)ア本件特許の出願日前である平成元年7月18日に頒布された公開特許公報平1-180834号(乙2。以下「乙2文献」という。)には,本件発明がすべて開示されているから,本件発明には,新規性欠如の無効理由(特許法123条1項2号,29条1項3号)がある。 (ア) 乙2文献には,「納豆菌の生産する線溶酵素はナットウキナーゼと呼ばれ,その製法や物理化学的性状が本発明者らにより」,乙1文献及び「Experientia 43,1110~1111(1987)に発表されている。」ことが記載され(2頁左下欄6行~10行),「線溶酵素」(ナットウキナーゼ)が経口用血栓溶解剤として使用できるこ- 28 -とが記載されているから,乙2文献は,本件発明の構成要件Aを開示する。 (イ) 乙2文献には,「線溶酵素は納豆,納豆菌またはその培養物中に含まれ…納豆菌の培養物が液体培養物である場合は濾過して上清をとる。 これらの抽出液や上清はそのまゝ用いてもよいが,アセトンやエタノールを加えて析出するたん白を除去したり,あるいはゲル濾過して精製することができる。…これらの精製法は単独もしくは組合せて行うことができる」(2頁左下欄1 はそのまゝ用いてもよいが,アセトンやエタノールを加えて析出するたん白を除去したり,あるいはゲル濾過して精製することができる。…これらの精製法は単独もしくは組合せて行うことができる」(2頁左下欄11行~同頁右下欄8行)と記載され,納豆菌培養液の精製処理を適宜組み合わせることにより,ナットウキナーゼを(ビタミンK2を含有しない)精製物として得られることを開示するから,乙2文献は,本件発明の構成要件Bを開示する。 (ウ) 乙2文献には「上記のようにして得られる粗製もしくは精製酵素はそのまゝまたは減圧乾燥,凍結乾燥などにより乾燥または濃縮物として供用することができる」こと(2頁右下欄9~11行),ナットウキナーゼを腸溶製剤とする場合の形態の例として「酵素含有粉末ないし顆粒をエンテリックコーティングし,あるいは腸溶カプセルに充填する」こと(3頁左上欄1~6行)が記載され,これらが「経口的に投与して,毒性を示さず,有効である」こと(2頁右下欄12~13行)が記載されているから,乙2文献は,本件発明の構成要件C~Eを開示する。 イビタミンK2の含量が「1μg/g乾燥重量以下」であることについては,後記(2)-2-3③(被告)イ記載のとおりである。 (原告)ア乙2文献に開示されている発明は,「精製されたナットウキナーゼを含有する粉末,顆粒またはカプセルの形態の医薬品」であり,次に述べるとおり,少なくとも構成要件B,C,Eに係る構成を充足しない。 イ(ア) 乙2文献は,「納豆菌の生産する線溶酵素」(ナットウキナーゼ)- 29 -のビタミンK2含有量について何ら言及しておらず,「精製」しているからといって当然にビタミンK2含有量が「1μg/g乾燥重量以下」となるものではない。乙2文献には,当業者が実施可能な程度に,当該生成物から ンK2含有量について何ら言及しておらず,「精製」しているからといって当然にビタミンK2含有量が「1μg/g乾燥重量以下」となるものではない。乙2文献には,当業者が実施可能な程度に,当該生成物からビタミンK2を本件発明の程度まで除去することが具体的に記載されているわけではない。 (イ) 本件発明は,「ナットウキナーゼ…を含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」食品であって,「ナットウキナーゼを含む」食品ではない。本件発明は,最終製品に「ナットウキナーゼ…を含有する納豆菌培養液またはその濃縮物」が含まれていることを要する。 (ウ) 乙2文献の「本発明の血栓溶解剤は経口的に投与して,毒性を示さず,有効である」との記載は,乙2文献の酵素が「血栓溶解剤」(医薬)として経口投与されることを意味している。ナットウキナーゼを酵素として「精製」すれば,「医薬品」であり「食品」ではない。 (2)-2-3③ 新規性欠如③(乙3)(被告)ア本件特許の出願日前である平成8年8月13日に頒布された公開特許公報平8-208512号(乙3。以下「乙3文献」という。)には,本件発明がすべて開示されているから,本件発明には,新規性欠如の無効理由(特許法123条1項2号,29条1項3号)がある。 (ア) 乙3文献には,「納豆菌の生産する線溶酵素についてはその抽出,精製法,性状,物性および用途が前記数種の文献に発表され,多くの場合ナットウキナーゼと呼ばれている」(段落【0009】)こと,「ナットウキナーゼは納豆または納豆菌の培養物に含まれ,中性もしくは弱塩基性の水または塩化ナトリウムや塩化カリウムなどを含む,リン酸緩衝液(pH6~8),トリス緩衝液(pH7~9)を用いて抽出することができる。抽出液中のナットウキナーゼはメタノール,エタノールの- 基性の水または塩化ナトリウムや塩化カリウムなどを含む,リン酸緩衝液(pH6~8),トリス緩衝液(pH7~9)を用いて抽出することができる。抽出液中のナットウキナーゼはメタノール,エタノールの- 30 -ような低級脂肪族アルコールを60~80v/v%となるように,または硫酸アンモニウムを40~60w/v%となるように,加えれば沈澱させることができる。この沈澱中のナットウキナーゼは…強塩性陽イオン交換体に吸着及び溶出させるクロマトグラフィで精製することができ,あるいは陰イオン交換体に不純物を吸着,除去して精製できる。さらに…ゲル濾過クロマトグラフィにより精製することができる。これらのクロマトグラフィは前記の発表された方法またはそれに準じた方法の1または2以上を用いることができる」(段落【0010】)と記載され,「参考例2(培養ナットウキナーゼ精製物の製造)」には,実際に「…培地100mlを500ml容三角フラスコに入れ,納豆菌であるバチルス・ズブチリスB-407株(微工研条寄4043号)を接種して,…ゲル濾過を行い単一のピークを示す活性画分として精製ナットウキナーゼを得た」こと(段落【0018】)が記載され,納豆菌培養液に対して精製処理を適宜組み合わせることにより,ビタミンK2を含有しない精製物としてナットウキナーゼを得られることを開示しているから,乙3文献は,本件発明の構成要件A~Cを開示する。 (イ) 乙3文献には,ナットウキナーゼの精製物の投与形態について,「本発明の酵素剤は経口投与に適しているが胃酸によりナットウキナーゼが分解することを防ぐため,腸溶製剤の形で投与することが好ましい。腸用製剤は,酵素含有粉末,顆粒または溶液を腸溶カプセルに充填し,あるいは顆粒や錠剤をエンテリックコーティングすることで調製しうる。本発明の ることを防ぐため,腸溶製剤の形で投与することが好ましい。腸用製剤は,酵素含有粉末,顆粒または溶液を腸溶カプセルに充填し,あるいは顆粒や錠剤をエンテリックコーティングすることで調製しうる。本発明の酵素剤は,血中フィブリノーゲンを分解し,血栓の形成もしくは一旦溶解した血栓の再閉塞を防ぐために精製物として成人1日あたり,1~3gを1回もしくは数回経口投与することができる」(段落【0014】)と記載され,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態について開示するから,本件発明の構成要件- 31 -Dを開示し,経口投与可能な医薬品に適用可能であることを開示するから,実質的に本件発明の構成要件Eを開示する。 イビタミンK2の含量が「1μg/g乾燥重量以下」であること(ア) 乙3文献の精製方法によれば,ビタミンK2を含有しない「単一のピーク」(段落【0018】)のナットウキナーゼを得られる。「単一のピーク」とは,蛋白質が単一のピークで得られたこと,すなわち,ビタミンK2を含有しない蛋白質が得られたことを意味する。そして,同様の精製方法が開示されている乙1文献,乙2文献においても,精製度を上げることにより,ビタミンK2の含有量が「1μg/g乾燥重量以下」のナットウキナーゼを得ることができる。 (イ) 本件明細書における従来技術(段落【0007】,【0008】)によれば,従来より納豆菌培養液からビタミンK2を除去することが行われており,ヘキサンでビタミンK2を抽出除去する従来の方法については,栄養学上の問題や製造コストアップの問題等は指摘されているものの,処理後のビタミンK2含量低減については問題点として指摘されていない。一方,乙1文献~乙3文献の精製方法にも有機溶媒による処理が含まれているから,これらの精製方法によれば, は指摘されているものの,処理後のビタミンK2含量低減については問題点として指摘されていない。一方,乙1文献~乙3文献の精製方法にも有機溶媒による処理が含まれているから,これらの精製方法によれば,ビタミンK2含量が「1μg/g乾燥重量以下」のナットウキナーゼを得ることができる。 (ウ) 本件発明に係る食品が精製方法としてのキトサン処理を要件としないとすれば,本件発明の食品は,濾過助剤を使用することにより夾雑物を捕捉し,濾過や精密濾過を重ね,逆浸透圧濃縮も用いることにより,夾雑物を除去し,結果的にビタミンK2も除去された精製物であることになる。乙1文献~乙3文献においても,ビタミンK2を含有しないナットウキナーゼの精製物を作ることができるから,本件発明と乙1文献~乙3文献で取得されたナットウキナーゼの精製物を区別することはできない。 - 32 -(エ) 本件特許の出願人(原告)も,審査過程における意見書において,本件発明の物質は,引用文献(乙1文献~乙3文献)で得られるナットウキナーゼの精製物と比較して,ビタミンK2含量が相違するとは主張しておらず,ビタミンK2含量では区別できないことを自認している(乙7)。 ウ原告の主張に対する反論(ア) 乙3文献の段落【0018】は,イオン交換クロマトグラフィーとゲル濾過による各精製とを行っているところ,仮に,ビタミンK2が水溶性ミセルを形成したとしても,上記精製方法によれば,水溶性ミセルは疎水性クロマトグラフィーにおいて疎水性担体に保持されず,また,ビタミンK2が本来の疎水性の分子として含まれる場合には,イオン交換クロマトグラフィーにおいて強塩基性陽イオン交換体に保持されず,いずれも速やかに溶出されるから,ビタミンK2は分離される。 (イ) 乙3文献の「単一のピーク」(段落 して含まれる場合には,イオン交換クロマトグラフィーにおいて強塩基性陽イオン交換体に保持されず,いずれも速やかに溶出されるから,ビタミンK2は分離される。 (イ) 乙3文献の「単一のピーク」(段落【0018】)とは,ゲル濾過においてフラクションに含まれる蛋白質の濃度をフラクション番号に対してプロットした場合の蛋白質のピークのことを意味するのであって,ナットウキナーゼの溶出画分を確認する指標「合成基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAに対する水解活性」自体がピークになるのではない。蛋白質が単一のピークとして溶出したことは,クロマトグラフィーの分離性能がよかったことを意味し,ビタミンK2の混入はますます起こり得ない。 (ウ) 乙3文献の再現試験においても,ビタミンK2の含量が1μg/g乾燥重量以下となることが確認されている。 (エ) 原告は,ビタミンK2が蛋白質ないし糖ペプチドと複合体を形成しミセル化していると主張するが,ミセル化の可能性を示すものとして原告が提出する甲13は,ミセル化の事実を証明するものではない。仮に- 33 -ミセル化していたとしても,線溶酵素(ナットウキナーゼ)の分子量とビタミンK2の分子量の相違から,乙1文献のゲル濾過により線溶酵素を分画する手法により,ビタミンK2を明確に分離することができる。 (原告)ア乙3文献に開示されている発明は,「精製されたナットウキナーゼを含有する顆粒,カプセルまたは錠剤の形態の医薬品」であり,次に述べるとおり,少なくとも構成要件B,C,Eに係る構成を充足しない。 イ(ア) 乙3文献の「単一のピーク」(段落【0018】)は,「合成基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAに対する水解活性」のピークを指し,ビタミンK2含有の有無はこれに影響を与えないから (ア) 乙3文献の「単一のピーク」(段落【0018】)は,「合成基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAに対する水解活性」のピークを指し,ビタミンK2含有の有無はこれに影響を与えないから,「単一のピーク」が得られたことと,ビタミンK2が除去されたか否かは関係がない。参考例2では,蛋白質がビタミンK2を含有しているか否か,どの程度含有しているかは明らかではないから,構成要件BのビタミンK2を含有することは開示も示唆もなく,当業者に自明ともいえない。 (イ) 本件発明は,「ナットウキナーゼ…を含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」食品であって「ナットウキナーゼを含む」食品ではない。本件発明は,最終製品に「ナットウキナーゼ…を含有する納豆菌培養液またはその濃縮物」が含まれていることを要する。 (ウ) ナットウキナーゼを酵素として「精製」すれば,「医薬品」であり「食品」ではない。法律上,「医薬品」と「食品」は明確に区別されている。 ウビタミンK2の含量が「1μg/g乾燥重量以下」であることについて(ア) 食品分野において「従来より納豆菌培養液からビタミンK2を除去することが行われている」事実はない。食品としての酵素は,医薬品のような高度な精製は行わない。本件明細書にも「食品に有機溶媒が残留- 34 -する可能性,有機溶媒の使用に対する消費者の抵抗感」(段落【0008】)と記載されており,本件明細書の有機溶媒を用いたビタミンK2の除去は,単に技術的な可能性を述べたにすぎない。 乙1文献~乙3文献には,有機溶媒を用いてビタミンK2を減少または除去するという記載はない。 本件発明のキトサン処理後の夾雑物を除去することは,キトサン処理によってビタミンK2を除去した後の補助的な処理にすぎず,そのことによって「結果 タミンK2を減少または除去するという記載はない。 本件発明のキトサン処理後の夾雑物を除去することは,キトサン処理によってビタミンK2を除去した後の補助的な処理にすぎず,そのことによって「結果的にビタミンK2も除去」しているのではない。 (イ) 蛋白質として「精製」されたか否かと,ビタミンK2が除去されたか否かは観点が異なる問題であり,乙1文献~乙3文献に蛋白質として「精製」されることが開示されているからと言って,ビタミンK2が「1μg/g乾燥重量以下」となることが当然に開示されていることにはならない。原告は,被告が主張するように,乙7において,本件発明の物質と乙1文献~乙3文献のナットウキナーゼの精製物とはビタミンK2含量では区別できないことを自認しているものではない。 (ウ) 乙3文献の段落【0018】の精製方法によれば,ビタミンK2が分離されるとの被告の主張は,納豆菌培養液中においてビタミンK2の多くがビタミンK結合性因子(KBF)のような蛋白質や細胞膜成分と複合体を形成し,水溶性ミセル状態となる事実を無視している。ビタミンK2が蛋白質と複合体を形成して水溶性ミセル化している場合は,全体的には親水性であっても,なお疎水性領域を有するから,疎水性担体と結合すると考えられ,被告が主張するように速やかに溶出されるものではない。 (2)-2-4① 進歩性欠如①(主引用例乙3)(被告)乙3文献を主引用例とした場合,本件発明には進歩性欠如の無効理由(特- 35 -許法123条1項3号,29条2項)がある。 ア乙3文献に開示されている発明と本件発明とは,①納豆キナーゼを含有すること(構成要件A),②ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンク又は錠剤の形態であること(構成要件D)で一致し,以下の点において相違点 献に開示されている発明と本件発明とは,①納豆キナーゼを含有すること(構成要件A),②ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンク又は錠剤の形態であること(構成要件D)で一致し,以下の点において相違点する。 (ア) 相違点1本件発明は納豆菌培養液中のビタミンK2含量を1μg/g乾燥重量以下にする(構成要件B)のに対し,乙3文献には示されていない点(イ) 相違点2本件発明は,これを正しく理解すれば,「納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼを含みビタミンK2の含量が1μg/g乾燥重量以下の状態となったもの」(構成要件C)の構成であるが,この点について,乙3文献には示されていない点で相違する。仮に,原告が主張するように,本件発明は「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分を含むもの」と解するか,又は甲20の審決のように「少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているもの」(構成要件C)と解するとすれば,乙3文献にはこの構成が示されていない点で相違する。 (ウ) 相違点3本件発明は「食品」(構成要件E)であるのに対し,乙3文献に開示されている発明は「医薬品」である点イ相違点1の検討主引用例乙3と副引用例乙4を組み合わせることにより,当業者は,本件発明の構成要件Bを容易に想到し得る。 (ア) 副引用例乙4① 課題の共通性- 36 -本件特許の出願日前である平成3年12月27日に頒布された公開特許公報平3-297358号(乙4。以下「乙4文献」という。)には,「ビタミンKは血液凝固因子でもあることから,例えば手術後血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人は,納豆を食することを通常控えるのが望ましいとされている。それ は,「ビタミンKは血液凝固因子でもあることから,例えば手術後血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人は,納豆を食することを通常控えるのが望ましいとされている。それ故,ビタミンKの含量が低い納豆を提供し得るならば,一般の消費者は無論このような症状に悩んでいる人も安心して食することができ,産業上益することは多大である」(1頁右下欄11~19行)ことが記載されているから,乙3文献に記載の血栓形成阻害剤や血栓再閉塞阻害剤を形成する納豆菌培養液またはその濃縮物についてもビタミンK2を取り除くという課題は生じる。したがって,乙4文献には本件発明の課題が十分に示唆されている。 原告は,乙4文献には,納豆菌培養液にナットウキナーゼが含まれていることについて開示も示唆もないから本件発明の課題を開示・示唆するものではないと主張するが,納豆又は納豆菌培養液にナットウキナーゼが含まれていることは技術常識である。したがって,乙4文献には,ナットウキナーゼを摂取しつつビタミンK2を同時に摂取することを避けるという本件発明の課題が開示又は示唆されている。 ② 容易想到性乙3文献の明細書段落【0010】には,ナットウキナーゼの精製度を高める方法が記載されており,精製度が高まるほどビタミンK2の含量も減少するから,乙4文献で示唆される課題により,乙3文献のナットウキナーゼの精製度を高め,ビタミンK2含量を1μg/g乾燥重量以下にすることは,当業者には容易である。 (イ) 副引用例乙1,2,5,19,20主引用例乙3と副引用例乙1,2,5,19,20を組み合わせるこ- 37 -とにより,当業者は本件発明の構成要件Bを容易に想到し得る。 ① 課題の共通性本件特許の出願日前である昭和63年9月24日に刊 と副引用例乙1,2,5,19,20を組み合わせるこ- 37 -とにより,当業者は本件発明の構成要件Bを容易に想到し得る。 ① 課題の共通性本件特許の出願日前である昭和63年9月24日に刊行された日本医事新報No.3361(乙20。以下「乙20文献」という。)には,ナットウキナーゼとビタミンK2を含有する納豆菌培養液から,ビタミンK含量は低減させるが,ナットウキナーゼは含まれるようにするという本件発明の課題が示唆されている。また,本件特許の出願日前である平成10年9月8日に頒布された公開特許公報平10-234343号(乙19。以下「乙19文献」という。)では,ナットウキナーゼの線溶活性に着目しているから,同様の課題が示唆されている。 ② 容易想到性ビタミンK2含量を1μg/g乾燥重量以下とする方法については,乙1文献,乙2文献,本件特許の出願日前である平成11年4月6日に頒布された公開特許公報平11-92414号(乙5。以下「乙5文献」という。)にそれぞれ開示または示唆されている。 乙1文献には,納豆菌培養液の処理方法として,ゲル濾過,イオン交換クロマトグラフィー,等電点電気泳動などが挙げられており,乙2文献は,乙1文献の実施例1の記載を引用していることから,同様の記載がされている。また,乙5文献には,ビタミンK2の抽出方法が開示されているが,納豆菌培養液からビタミンK2を抽出することと,ビタミンK2を除去することとは,残された培養液に着目するか,除去したビタミンK2に着目するかという視点の違いにすぎない。原告は,乙5文献について,ナットウキナーゼ活性を有するものとして残存している保証がないと主張するが,乙5文献が採用する硫酸アンモニウムによる塩析は,蛋白質の溶解度の差を利用した分離方法であ- 38 -り 文献について,ナットウキナーゼ活性を有するものとして残存している保証がないと主張するが,乙5文献が採用する硫酸アンモニウムによる塩析は,蛋白質の溶解度の差を利用した分離方法であ- 38 -り,蛋白質を変性させ難いことが知られている(乙30)。また,硫酸アンモニウムの濃度を徐々に変えて,濃度ごとに沈澱する蛋白質を分画する硫安分画も,一般的な分画手法である(乙31)。したがって,ビタミンK2含有水溶性ミセルを沈澱させ,ナットウキナーゼは上清中に留まらせるように塩濃度を選択すれば,ビタミンK2含量がゼロ又はごく少量の納豆菌培養液を得ることができる。また,原告は,濾液を「食品」として利用することは全く想定されていないと主張するが,塩析後において,上清を透析法,限外濾過法,ゲル濾過法等の公知の脱塩方法に供することにより,硫酸アンモニウムを除去しながら,他の成分は残存するようにすることが可能であり,「食品」として利用することは想定される。 当業者は,本件発明を課題を共通にする乙19,乙20の文献に基づいて,その方法を示す乙1,2,5の各文献を組み合わせることにより,本件発明の構成要件Bに容易に想到することができる。 ビタミンK2の含量について,乙3文献に開示されていないとしても,ビタミンK2の含量を1μg/g乾燥重量以下とする点については,乙1,5,20の各文献に開示又は示唆されている。 (ウ) ビタミンK2の含有量「1μg/g乾燥重量以下」の意義本件発明において,ビタミンK2の含有量「1μg/g乾燥重量以下」という数値は特別な意義を有するものではない。すなわち,本件発明は「血栓予防のため,ビタミンK2依存性凝固因子…の合成抑制剤を服用している患者が,血栓予防等を目的として血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含む…納豆菌培養 有するものではない。すなわち,本件発明は「血栓予防のため,ビタミンK2依存性凝固因子…の合成抑制剤を服用している患者が,血栓予防等を目的として血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含む…納豆菌培養エキスを摂取すると,ビタミンK2も同時に摂取することになり,そのビタミンK依存性凝固因子合成抑制剤の効果が打ち消されるという問題が生じる」(段落【0006】)ことから,血液凝固因子であるビタミンK2を除去することでナットウキナーゼ- 39 -活性が強化されるとの効果が特徴となっているが,納豆菌を培養しただけの液体に含まれるビタミンK2の含量については「培養終了後の培養物上清中には…ビタミンK2が約10~100μg/g乾燥重量含まれている。」(段落【0024】)との記載があるのみで,ビタミンK2の含量によってどの程度の血液凝固がなされ,ナットウキナーゼの血栓溶解活性の効果が阻害されているかについては記載がない。また,本件明細書において,ビタミンK2の含量がどの程度以下であれば,ビタミンK依存性凝固因子合成抑制剤の効果が打ち消されることがなくなるのかについての記載も示唆もない。したがって,本件明細書には,ビタミンK2の含量が単純に納豆菌を培養した液体の上清に含まれる10~100μg/g乾燥重量よりもビタミンK2の含量が低いということが示されているだけであり,ビタミンK2の含量を1μg/g乾燥重量以下にすることによって,ビタミンK2の含量が5μg/g乾燥重量のものよりも特徴的な効果が生じるというものではない。すなわち,構成要件Bの「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2」との記載は,臨界的意義を有するものではなく,ビタミンK2を除去し,ビタミンK2の含量を減少させるという本件発明の目的が記載されているにすぎない。 したがって,引用発明に 量以下のビタミンK2」との記載は,臨界的意義を有するものではなく,ビタミンK2を除去し,ビタミンK2の含量を減少させるという本件発明の目的が記載されているにすぎない。 したがって,引用発明において厳密にビタミンK2の含量が1μg/g乾燥重量以下であるか否かは単に技術上の設計事項にすぎず,納豆菌を培養した液体中のビタミンK2の含量を減少させることについて記載され,示唆されていれば進歩性は否定される。 ウ相違点2の検討(副引用例乙1,19)(ア) 構成要件Cについては「納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼを含みビタミンK2の含量が1μg/g乾燥重量以下の状態となったもの」と解すべきであり,この場合は,乙1文献等によりビタミン- 40 -K2の含量が1μg/g乾燥重量以下とすることができるのであるから,当業者は,乙1文献等により本件発明の構成要件Cを容易に想到することができたものである。 (イ) 仮に,構成要件Cを「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分を含むもの」,「少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているもの」と解する場合は,次に述べるとおり,乙1文献,乙19文献にその構成が開示されており,当業者が容易に想到することができる。 ① 乙1文献において開示された物には,ナットウキナーゼの完全な精製物ではなく,少なくとも複数の蛋白質と複数のポリアミンが含まれているから,「少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているもの」が開示されている。 ② 乙19文献には,納豆菌培養液からなる液体納豆を含む液体または固体等の食品が記載されているから,「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分を含むもの」が開示 の」が開示されている。 ② 乙19文献には,納豆菌培養液からなる液体納豆を含む液体または固体等の食品が記載されているから,「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分を含むもの」が開示されている。そして,乙19文献においても,納豆菌培養液に含まれる線溶酵素の利用は認識されており,乙4文献において,納豆菌培養液からビタミンK2含量を低減させる課題が示唆されているから,当業者は,構成要件Cについて容易に想到できる。 エ相違点3の検討(副引用例乙1)主引用例乙3と副引用例乙1を組み合わせることにより,当業者は,本件発明の構成要件Eを容易に想到し得る。 (ア) 乙1文献に開示されている線溶酵素は「経口投与を行うことによって,特に長時間投与して害のないことから血栓症などの治療のみならず,その予防薬としても期待される」ことが記載されており,医薬品のみに使用されるとの記載はない。「経口投与」という言葉は,甲6の1~4- 41 -に示されるように,医薬だけでなく機能性食品にも使用されている。 (イ) 乙3文献には,医薬品としての用途しか記載されていないとしても,医薬品として使用しうる程度まで精製した培養ナットウキナーゼ精製物を機能性食品等に用いることは何の支障もないから(乙15),乙3文献に記載の培養ナットウキナーゼ精製物を食品として使用することは,当業者が容易に想到することができる。 (原告)ア時機に後れた攻撃防御方法被告は,従前,乙3文献を主引用例とし,副引用例を乙4文献とする進歩性欠如の主張をしていたが,平成21年4月24日の第3回弁論準備手続期日において,「本件発明の無効の主張については,従前の主張及び被告準備書面(3)で主張した,特許法36条6項1号,同2号違反以外の主張はしない」と陳述した後,乙 1年4月24日の第3回弁論準備手続期日において,「本件発明の無効の主張については,従前の主張及び被告準備書面(3)で主張した,特許法36条6項1号,同2号違反以外の主張はしない」と陳述した後,乙3文献を主引用例としつつ,構成要件Bの相違点について乙19文献及び乙20文献を動機付けの根拠とし,乙1文献,乙2文献及び乙5文献を副引用例とし,構成要件Cの相違点について乙1文献及び乙19文献を副引用例とし,構成要件Eの相違点について乙1文献を副引用例とする新たな進歩性欠如の主張をした。これは,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものであり(特許法104条の3第2項),または被告が故意または重過失により時機に後れて提出した防御方法であるから(民訴法157条1項),却下されるべきである。 イ仮に時機に後れた攻撃防御方法に該当しないとしても,理由がない。 (ア) 本件発明と乙3文献に開示された発明の相違点は,次のとおりである。 ① 相違点1は,(被告)ア(ア)のとおりである。 ② 相違点2は,本件発明は「ナットウキナーゼを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」食品であるのに対して,乙3文献に開示- 42 -された発明は「精製されたナットウキナーゼを含有する」医薬品であって,最終製品に「納豆菌培養液またはその濃縮物」を含まないことである。 ③ 相違点3は,(被告)ア(ウ)のとおりである。 (イ) 相違点1(副引用例乙4)について本件発明は,ナットウキナーゼは含有するがビタミンK2を実質的に除去した納豆菌培養液またはその濃縮物を得ることを課題とする。 これに対し,乙3文献は,血栓溶解剤としての「納豆菌の生産する線溶酵素」(ナットウキナーゼ)を開示しているだけで,ビタミンK2含量については開示も示唆もない。他 その濃縮物を得ることを課題とする。 これに対し,乙3文献は,血栓溶解剤としての「納豆菌の生産する線溶酵素」(ナットウキナーゼ)を開示しているだけで,ビタミンK2含量については開示も示唆もない。他方,乙4文献は,納豆中のビタミンK2を低下させることを課題とはしているものの,ナットウキナーゼの有無を問題としていない。また,本件発明は,血栓溶解作用のあるナットウキナーゼを積極的に摂取すべき場合についての発明であるが,乙4文献は,納豆を食すべき積極的理由について「栄養上の観点から納豆を食することは一般に推奨されている」と記載するにすぎず,本件発明と同様の課題を示唆しているとはいえない。そうすると,乙3文献と乙4文献は発明の課題が共通せず,組合せの動機付けはない。 課題を解決する手段についても,乙4文献は「納豆を製造するに際して,ビタミンK低生産性である納豆菌変異株A-1…を使用することを特徴とするビタミンK含量の低い納豆の製造方法を提供するものである」としており,ビタミンK2を除去することについて開示も示唆もなく,ビタミンK2の含量について触れることのない乙3文献とは課題を解決する手段が共通せず組合せの動機付けがない。 以上のとおり,乙4文献は「納豆」に関するものであってナットウキナーゼに関する発明ではなく,乙3文献と乙4文献の組合せの動機付けはなく,組み合わせたとしても,本件発明の構成にはならない。 - 43 -(ウ) 相違点1(副引用例乙1,2,5,19,20)について① 乙20文献は,単に,納豆がビタミンKを産生するから,抗凝血(薬)療法を実施中の患者は安全上納豆を食べさせないことが肝要であることを示唆するのみで,ナットウキナーゼを含む納豆の摂取を積極的に勧めるものではない。すなわち,乙20文献には,納豆菌培養液がナット )療法を実施中の患者は安全上納豆を食べさせないことが肝要であることを示唆するのみで,ナットウキナーゼを含む納豆の摂取を積極的に勧めるものではない。すなわち,乙20文献には,納豆菌培養液がナットウキナーゼを含有するため積極的に摂取する理由があるとしつつ,そのビタミンK2含量を低下させるという技術思想の記載はない。 ② 乙19文献は,「納豆菌と,その代謝産物である人体に有用な機能性物質を含有する納豆菌培養液とからなることを特徴とする液体納豆」に関するものであり,納豆菌培養液にナットウキナーゼとビタミンK2が含まれることが記載されている(段落【0021】,【0025】)。 そして,ビタミンK2は13μg/ml含まれ(段落【0021】),培地中には1リットル当たり79gの培地成分(固形分)が含まれる(段落【0019】)から,培養液1mlあたりの固形分含量(乾燥重量)は0.079gとなる。したがって,上記は13/0.079=約165μg/g乾燥重量に相当する 。これは,納豆菌培養液にもともと含まれているビタミンK2(約10~100μg/g乾燥重量。本件明細書段落【0024】参照)が,何ら除去または低減されることなく残存していることを示している。そうすると,乙19文献に記載の納豆菌培養液は「ビタミンK含量は低減させるが,ナットウキナーゼは含まれるようにするということが課題」とはなっておらず,乙3文献において,ビタミンK2を除去または減少させる動機付けを与えるものではない。 ③ 乙1文献に開示のビタミンK2除去方法のうち,ゲル濾過及びイオン交換クロマトグラフィーの手法は,上記のとおり,乙3文献におい- 44 -てビタミンK2含量を1μg/g乾燥重量以下とすることは可能でない。等電点電気泳動によって蛋白質とビタミンK2を確実に分離する ロマトグラフィーの手法は,上記のとおり,乙3文献におい- 44 -てビタミンK2含量を1μg/g乾燥重量以下とすることは可能でない。等電点電気泳動によって蛋白質とビタミンK2を確実に分離することが妥当しうるのは,水溶液中にビタミンK2単体で存在する場合のみであり,納豆菌培養液中のビタミンK2の多く(80%以上)が,ミセル状態,または蛋白質あるいは細胞膜成分と複合体を形成し,水溶化した状態で存在していることからすると,ビタミンK2含量を1μg/g乾燥重量以下とすることが当然に可能とはいえない。 ④ 乙2文献は,実質的に乙1文献と同様の記載をしているから,ビタミンK2の含量が1μg/g乾燥重量以下となることの根拠はない。 ⑤ 乙5文献において納豆菌培養液からビタミンK2を抽出した後の濾液は,①ナットウキナーゼが活性を有するものとして残存している保証がない上(ビタミンK2とともに凝集し沈澱しているか,濾液中に残存していても活性を失っている可能性がある),②濾液を「食品」として利用することは想定されていない。すなわち,食品の製造過程において高濃度の塩を添加することは,塩による食味もしくは食品機能の変性のおそれ,最終製品に塩が残存するおそれがあることから,商品の製造方法としては不適当であり,当業者は,食品に,蛋白質等の沈澱が生じる程に大量の塩を添加しようとは考えない。酸を加える方法,有機溶媒を加える方法も同様である。よって,乙3文献に乙5文献の手法を適用しようとは考えないものであり,適用しても,本件発明に想到しない。なお,乙6文献は,本件特許出願後に公開された文献である。 ⑥ 本件発明の「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する」とは,本件明細書の「血液凝固因子であるビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない。 ,本件特許出願後に公開された文献である。 ⑥ 本件発明の「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する」とは,本件明細書の「血液凝固因子であるビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない。」(段落【0002】,【0010】)の記載を定量化したにすぎない。本件発明以前は,ナットウキナーゼ- 45 -を含有し,かつ「ビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない」納豆菌培養液またはその濃縮物を含む食品は公知でないから,ビタミンK2が1μg/g乾燥重量以下であることの臨界的意義は問題とならない。 (エ) 相違点2(副引用例乙1,19)について① 乙1文献には複数のポリアミンが検出された等の記載はなく,仮に乙1文献に複数の蛋白質やポリアミンが含まれていることが開示されているとしても,乙3文献に開示された発明である「精製されたナットウキナーゼを含有する顆粒,カプセルまたは錠剤の形態の医薬品」に乙1文献のビタミンK2を除去する手法を適用した場合に,納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分を含むことになるわけではない。 ② 乙3文献と乙19文献の組合せにより,「納豆菌培養液」からなる液体納豆を含む液体または固体の食品が得られることについて,被告は何ら説明していない。 (オ) 相違点3(副引用例乙1)について① 乙3文献について医薬品の程度まで精製しないものを食品に添加すると,乙3文献より精製の程度が落ち,構成要件Bの「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを」の要件を充足しない可能性が高くなり,本件発明の目的の1つを達成できなくなるという阻害要因があるから,当業者がそのような構成に想到することは容易ではない。 ② 医薬品と食品は物質として異なる。乙3文献と乙1文献の組合せにより,構成要件Eが容易 目的の1つを達成できなくなるという阻害要因があるから,当業者がそのような構成に想到することは容易ではない。 ② 医薬品と食品は物質として異なる。乙3文献と乙1文献の組合せにより,構成要件Eが容易想到であるとなぜ言えるのか不明である。 (2)-2-4② 進歩性欠如②(主引用例乙5)(被告)ア乙5文献を主引用例とした場合,進歩性欠如の無効理由(特許法123- 46 -条1項3号,29条2項)がある。 (ア) 乙5文献に開示されている発明と本件発明との相違点は,次のとおりである。 ① 相違点1本件発明は納豆菌培養液からナットウキナーゼをペースト等の形態の食品として取得することを目的とする(構成要件A,D,E)のに対し,乙5文献に開示されている発明はビタミンK2の取得を目的としていること② 相違点2本件発明は納豆菌培養液中のビタミンK2含量を1μg/g乾燥重量以下にする(構成要件B)のに対し,乙5文献には示されていない点(イ) 相違点の検討① 相違点1について乙4文献には,(2)-2-4①(被告)イ(ア)①の記載があり,納豆菌培養液にナットウキナーゼが含有され,ナットウキナーゼが血栓溶解剤となることは周知(乙1文献~乙3文献)であるから,乙4文献には,本件発明の課題である「ビタミンK2の含量が低減された納豆菌培養エキス食品」と同一の課題が示唆されている。 乙5文献には,ビタミンK2取得のために納豆菌培養液を用いることが好ましいと記載され(段落【0015】),ビタミンK2を回収した残りの納豆菌培養液は,ビタミンK2の含有量が低下していることが自明であるから,乙4文献で示唆される課題の解決のために,乙5文献に記載されている方法を使用し,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量の低減された納豆菌培 ンK2の含有量が低下していることが自明であるから,乙4文献で示唆される課題の解決のために,乙5文献に記載されている方法を使用し,ナットウキナーゼを含有し,かつビタミンK2含量の低減された納豆菌培養液を得ることは,当業者には容易である。 - 47 -なお,納豆菌培養液からナットウキナーゼを含有する食品を得ることは周知であり(本件明細書段落【0003】等),食品の形態を,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤のいずれにするかは設計事項である。 ② 相違点2について乙5文献の実施例2には,塩類として硫酸アンモニウム(乙30,31)を枯草菌培養液に加え,生じた沈殿物を遠心分離により分離し,沈澱物中にビタミンK2を回収したこと(段落【0021】),塩の飽和度を60%にすると沈殿物中のビタミンK2の回収率は97.5%であることが記載され,本件明細書の表1,実施例2のビタミンK2の濾過率99.72%と質的に異ならない。乙5文献には,使用し得る塩類が種々記載され,その添加量を45%飽和以上にすることが好ましいことも記載されており(段落【0011】),使用する塩の種類や添加量を変えることなどにより,納豆菌培養液からのビタミンK2の回収率を上記数値よりもさらに向上させることは,当業者に容易である(平成18年7月13日に頒布された公開特許公報2006-180790号,乙6参照)。そして,塩析後,公知の脱塩方法により硫酸アンモニウムを除去することができ,条件設定により,他の成分は残存させることも可能であり,脱塩後の納豆菌培養液は,食品としての使用も可能である。したがって,乙5文献に記載の方法により,納豆菌培養液からナットウキナーゼ及び1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2を含有する食品を取得することは容易 の納豆菌培養液は,食品としての使用も可能である。したがって,乙5文献に記載の方法により,納豆菌培養液からナットウキナーゼ及び1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2を含有する食品を取得することは容易である。 イ原告の主張に対する反論(ア) 納豆菌培養液からビタミンK2を抽出除去することは,残された培養液に着目するか,除去したものに着目するかの視点の違いにすぎない。 (イ) 乙5文献に記載された添加量(段落【0010】,【0012】)- 48 -が,なぜ培養液の食品としての再利用を想定しない大量の添加と評価できるか理由が明らかではない。 (ウ) 酸,塩類,または有機溶媒を使用したから直ちにナットウキナーゼの活性が失われるものではない。 (原告)ア乙5文献に記載された発明は,ビタミンK2を目的物として抽出するものであり,これが除去された納豆菌培養液またはその濃縮物を目的物とする本件発明とは関係がない。また,乙5文献記載の発明は,培養液中に酸,塩類,または有機溶媒等を加えるから,ビタミンK2を回収した残りの納豆菌培養液においてナットウキナーゼが活性を有する酵素として残存する保証はない。さらに,納豆菌培養液に硫酸アンモニウム等を添加すると,ビタミンK2とナットウキナーゼがともに沈澱する可能性も排除されていない。 イ乙5文献では,大量の塩または有機溶媒等を添加するため,ビタミンK2を除去した後の培養液を「食品」として再利用することは想定されていない。よって,ビタミンK2の含有量の低い納豆を得ることを目的物とする乙4文献との組合せの動機付けはなく,仮に組み合わせたとしても,本件発明の構成になるものではない。なお,乙6文献は,本件特許の出願日後に公開された文献である。 ウ乙5文献には,ビタミンK る乙4文献との組合せの動機付けはなく,仮に組み合わせたとしても,本件発明の構成になるものではない。なお,乙6文献は,本件特許の出願日後に公開された文献である。 ウ乙5文献には,ビタミンK2を不溶化,沈殿させて「分離,回収する」方法が記載されており,ビタミンK2が,本件発明の程度まで「除去」されるとする根拠はない。乙5文献の表3によれば,エタノールを添加した場合の沈殿中のビタミンK2回収率は最大でも91.5%である。 (2)-2-4③ 進歩性欠如③(主引用例乙19)(被告)ア乙19文献に記載された発明を主引用例とした場合,進歩性欠如の無効- 49 -理由(特許法123条1項3号,29条2項)がある。 (ア) 乙19文献と本件発明との相違点は,次のとおりである。 乙19文献には,①ナットウキナーゼが含まれること,②納豆菌培養液からなる液体納豆を含む液体又は固体の食品が記載されていること,③液体納豆を果汁飲料やその他の食品と混ぜたもの,液体納豆を乾燥粉末にしたものが記載されていることから,本件発明の構成要件A,CないしEを開示するものであり,これらの点で本件発明と一致する。本件発明と乙19文献に記載された発明との相違点は,本件発明が納豆菌培養液中のビタミンK2含量を1μg/g乾燥重量以下にする(構成要件B)のに対し,乙19文献にはビタミンK2含量が示されていない点である。 (イ) 相違点の検討相違点については,乙19文献と,乙4文献及び/又は乙20文献並びに,乙5文献及び/又は乙1文献を組み合わせることで,本件発明に容易に想到し得る。 ① 乙4文献には,抗凝固療法を行う患者や血栓症の危険性のある人について,納豆菌培養液からビタミンK含量を低減させるという課題が示唆されている。乙20文献にも,納豆菌培養 明に容易に想到し得る。 ① 乙4文献には,抗凝固療法を行う患者や血栓症の危険性のある人について,納豆菌培養液からビタミンK含量を低減させるという課題が示唆されている。乙20文献にも,納豆菌培養液からビタミンK含量は低減させるがナットウキナーゼは含まれるようにするという本件発明の課題が示唆されている。原告は,乙20には納豆菌培養液がナットウキナーゼを含有するから積極的に摂取する理由があるとするものではないと主張するが,乙20にはその旨の記載がある(132 頁欄3 ないし6 行)。よって,乙4文献及び/又は乙20文献から,血栓溶解酵素「ナットウキナーゼ」を含有する乙19文献に記載の発明の液体納豆を含む食品についても,同様の課題が想起される。 ② 乙5文献及び/又は乙1文献に記載されている各手法により,納豆- 50 -菌培養液からビタミンK2を含有する菌体やビタミンK2を除去することは,当業者には容易である。塩や有機溶媒を添加する手法は,蛋白質の濃縮,精製方法として周知であり(乙1,21,22),塩や有機溶媒の種類や濃度を適宜変更することで,目的とする蛋白を凝集沈澱させたり上清中に残したりすることは広く行われている。したがって,納豆菌培養液に塩や有機溶媒を添加するに当たり,納豆菌培養液からビタミンK2は沈澱させるがナットウキナーゼは上清中に残存するように条件を見つけることは設計事項である。 ③ 本件発明には,納豆菌培養液中のビタミンK2含量を1μg/g乾燥重量以下にするという数値限定について,何らの臨界的意義の説明はなく,少なければ少ないほどよいとの意味しか認めることはできない。すなわち,本件明細書には,納豆菌培養液に対してキトサン処理を行い,濾過助剤を用いて濾過し,さらに必要に応じて濾過助剤等を用いて精密濾過し,逆浸透 ば少ないほどよいとの意味しか認めることはできない。すなわち,本件明細書には,納豆菌培養液に対してキトサン処理を行い,濾過助剤を用いて濾過し,さらに必要に応じて濾過助剤等を用いて精密濾過し,逆浸透圧濃縮機を用いて分子量100以下の物質の大部分を除去し,さらに必要に応じてメンブレンフィルターで無菌濾過して得られる濃縮液中のビタミンK2濃度が1μg/g乾燥重量以下になると記載されているにすぎない(段落【0026】~【0028】)。段落【0042】の表1には,キトサン処理をしない比較例1の濾過後のビタミンK2濃度が54μg/g培養液であったのに対し,実施例2の濾過後のビタミンK2濃度が0.15μg/g培養液であったことが記載されているが,液状の培養液の1g当たりのビタミンK2濃度の数値であるから,実施例と比較例を対比しても,ビタミンK2が「1μg/g乾燥重量以下」という構成要件Bがサポートされているか分からず,まして臨界的意義を見出すことはできない。したがって,本件発明における納豆菌培養液またはその濃縮液のビタミンK2含量の数値限定(構成要件B「1μg/g乾燥重量以- 51 -下」)は,ビタミンK含量を低減させるという課題のもとに,乙5文献または乙1文献に記載の手法により,ビタミンK含量を低減させていけば,容易に達成される数値である。 イ時機に後れた攻撃防御方法被告が,平成21年4月24日の第3回弁論準備手続期日において,他に新たな主張の追加をしないと釈明したのは,同期日で特許法36条6項1号,2号違反の主張を追加したことに関して,新規性・進歩性欠如以外の理由の追加はないとの認識で応答したものである。被告は,新規性・進歩性欠如に関しては新たな証拠等による主張の追加があり得ると回答しており,その後の進歩性欠如③ ことに関して,新規性・進歩性欠如以外の理由の追加はないとの認識で応答したものである。被告は,新規性・進歩性欠如に関しては新たな証拠等による主張の追加があり得ると回答しており,その後の進歩性欠如③(主引用例乙19)の主張は,不当な訴訟遅延を目的とする主張ではない。乙1文献,乙2文献,乙5文献は既に提出しており,主引用例と副引用例の組替えは,著しく審理を遅滞させるものではない。 (原告)ア時機に後れた攻撃防御方法被告は,平成21年4月24日の第3回弁論準備手続期日において,「本件発明の無効の主張については,従前の主張及び被告準備書面(3)で主張した,特許法36条6項1号,同2号違反以外の主張はしない」と陳述した後,新たに,従前の新規性・進歩性欠如の主張と実質的に同一である進歩性欠如③(主引用例乙19)の主張をした。これは,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものであり(特許法104条の3第2項),または被告が故意または重過失により時機に後れて提出した防御方法であるから(民訴法157条1項),却下されるべきである。 イ仮に時機に後れた攻撃防御方法に該当しないとしても,理由がない。すなわち,乙4文献または乙20文献には,ナットウキナーゼを積極的に摂取することを前提として,納豆菌培養液中のビタミンK2含量を低減する- 52 -という本件発明の課題は示唆されておらず,仮にこれが示唆されているとしても,乙19文献に記載された発明の「食品」において,乙4文献及び乙20文献に示唆される課題と,乙5文献または/及び乙1文献の手法とを組み合わせて,納豆菌培養液中のビタミンK2含量を低減させて「1μg/g乾燥重量以下」とした「納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」「食品」とすることは,当業者に容易に想到しえない。 文献の手法とを組み合わせて,納豆菌培養液中のビタミンK2含量を低減させて「1μg/g乾燥重量以下」とした「納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」「食品」とすることは,当業者に容易に想到しえない。 (ア) 乙4文献の課題は,本件発明の課題と無関係である。 乙4文献に記載された発明は,「納豆」の製造方法に関するものであって「納豆菌培養液」に関するものではなく,乙4文献には「納豆菌培養液」からビタミンK2を低減させるという課題は示唆されていない。 そもそも乙4文献には納豆または納豆菌培養液にナットウキナーゼが含まれることの開示も示唆もなく,ナットウキナーゼを摂取しつつビタミンK2を同時に摂取することを避けるという本件発明の課題を示唆するものではない。乙4文献には,納豆を食すべき積極的理由について「栄養上の観点から納豆を食することは一般に推奨されている」(1頁右欄8~9行)と記載するにすぎず,「栄養上の観点」というのは,文脈上「ビタミンK2含量が多い」という趣旨を言い換えているだけである。したがって,乙4文献に接した当業者は,ビタミンKは一般的には栄養価が高いが,「抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人」(乙4文献1頁右欄12~14行)は,ビタミンKの摂取を避けるために納豆を食べるべきでないことを理解するだけであり,ナットウキナーゼを積極的に摂取することを前提としつつ,ビタミンK2を選択的に除去した「納豆菌培養液またはその濃縮物」を得たいという本件発明の課題とは関係がない。乙4文献には,納豆菌培養液中のビタミンK2含量を1μg/g乾燥重量以下とすることについての記載も示唆もない。 - 53 -乙4文献の解決手段は,納豆菌変異株を用い,初めから特殊な「納豆」を作るという観点の技術であり,本件発明のように,普通の納豆菌を 燥重量以下とすることについての記載も示唆もない。 - 53 -乙4文献の解決手段は,納豆菌変異株を用い,初めから特殊な「納豆」を作るという観点の技術であり,本件発明のように,普通の納豆菌を用いて得られる納豆菌培養液中のビタミンK2を低下させるという課題及び解決手段を示唆していない。なお,乙4文献では,ビタミンK低生産株を得るにあたって,「従来の市販の納豆菌の胞子を除いた栄養細胞の懸濁液をN-メチル-N’ -ニトロ-N-ニトロソグアニジンで処理することにより,変異を誘発させる」(2頁左上欄18行~同右上欄1行)操作が行われている。このような変異剤を用いると,遺伝子が同時に数か所変異を受けることは周知であるから,乙4文献で得られたビタミンK低生産株が,ナットウキナーゼの産生に関する遺伝子の変異を同時に起こし,ナットウキナーゼが産生されなくなった可能性が否定できない。変異株のスクリーニングにおいては,ビタミンKの濃度と,納豆の糸引き性,香り,味等の品質を親株と比較した(3頁右上欄16~20行)にすぎない。よって,乙4文献のビタミンK低生産株がナットウキナーゼを産生しているか否かは不明である。 したがって,乙4文献は,本件発明の課題を示唆しているとはいえない。仮に「乙4文献には,…『ビタミンKの含量が少ない納豆を提供しようという課題』が開示されているといえる。してみれば,納豆と同様にビタミンK含有量の多い液体納豆(納豆菌培養液)についても,…納豆菌由来のビタミンKであるビタミンK2を少なくしてみようとすることは,当業者に自明の課題であるといえる」としても,乙5文献または乙1文献の手法を乙19文献の食品に組み合わせて初めて本件発明の構成が得られるのであり,課題だけで本件発明の構成が得られるはずはない。 (イ) 乙20の課題は るといえる」としても,乙5文献または乙1文献の手法を乙19文献の食品に組み合わせて初めて本件発明の構成が得られるのであり,課題だけで本件発明の構成が得られるはずはない。 (イ) 乙20の課題は,本件発明の課題と無関係である。 乙20文献は,納豆摂取と血栓症についての解説記事であり,本件発- 54 -明の公報における従来技術の説明(公報段落【0002】,【0004】,【0006】)とほぼ同内容を記載しているにすぎない。 乙20文献は,単に,納豆がビタミンK2を産生するから,抗凝血(薬)療法を実施中の患者は安全上納豆を食べさせないことが肝要であることを示唆するのみで,納豆はナットウキナーゼを含むのでこれを積極的に摂取する理由があることを前提とするものではない。したがって,乙20は本件発明の課題である,納豆菌培養液がナットウキナーゼを含有するためにこれを積極的に摂取する理由があるとしつつ,そのビタミンK2含量を低下させることを示唆するものではない。 (ウ) 乙5文献または乙1文献の手法を,乙19文献の食品に適用することは容易に想到し得ない① 乙5文献に記載された発明は「ビタミンK2濃縮物の製造法」(請求項1)であり,「ビタミンK2を低含有とする納豆菌培養液」ではない。すなわち,同請求項にいうビタミンK2含有水溶液ミセルを「不溶化」し「分離,回収」するとは,ビタミンK2を目的物として納豆菌培養液中から回収することを意味しており,ビタミンK2が除去された納豆菌培養液(またはその濃縮物)を目的物とし,食品として提供する本件発明とは何の関係もない。このことは,乙5文献の「公知の方法により菌体を回収したとしても,効率的にビタミンK2を集めることはできない。」(段落【0005】),「我々は,…ビタミンK2含有水溶性ミセルを とは何の関係もない。このことは,乙5文献の「公知の方法により菌体を回収したとしても,効率的にビタミンK2を集めることはできない。」(段落【0005】),「我々は,…ビタミンK2含有水溶性ミセルを種々の手段により不溶性化させると,ビタミンK2の回収率が飛躍的に向上することを見出して本発明を完成させた。すなわち,本発明は…ビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化した後,精製された水不溶物を分離,回収することを特徴とするビタミンK2濃縮物の製造法である」(段落【0006】)という記載からも明らかである。 - 55 -乙5文献において「納豆菌培養液からビタミンK2を沈殿物として回収」した後の濾液は,ナットウキナーゼが活性を有するものとして残存している保証がない(ビタミンK2とともに凝集して沈殿しているか,または濾液中に残存していても,活性を失っている可能性がある。)上,濾液を「食品」として利用することについては,全く想定されていない。すなわち,乙5文献では,ビタミンK2を凝集物として沈澱させる手段としては,①酸を加えてpHを調整する方法,②塩を添加する方法,③有機溶媒を添加する方法が開示されているが(段落【0006】~【0012】),例えば塩を添加してビタミンK2を沈殿させる方法では,納豆菌培養液からビタミンK2を目的物として抽出(回収)した残りの納豆菌培養液には,高濃度の塩が含まれる。 食品の製造過程において高濃度の塩を添加することは,塩による食味もしくは食品機能の変性のおそれ,あるいは最終製品に塩が残存するおそれがあることから,食品の製造方法として好ましくない。当業者であれば,食品に塩を添加することは極力避けることであり,ましてや,食品において蛋白質などの沈殿が生じる程に大量の塩を添加しようとは考えないものである。酸を加える方法 方法として好ましくない。当業者であれば,食品に塩を添加することは極力避けることであり,ましてや,食品において蛋白質などの沈殿が生じる程に大量の塩を添加しようとは考えないものである。酸を加える方法,有機溶媒を加える方法についても同様である。 したがって,乙5文献に記載された発明において,納豆菌培養液からビタミンK2を目的物として抽出した残りの納豆菌培養液は廃棄の対象にしかならない物であり,とても食品としては利用できないから,乙19文献の食品と組み合わせることには阻害要因がある。 ② 乙1文献に記載された「手法」は,納豆菌の培養液のまま,または適当な温度に保持した後,濃縮,透析または乾燥した後,極性有機溶媒,塩析,限外濾過,吸着剤,イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過,アフィニティクロマトグラフィーまたは等電点電気泳動の組合- 56 -せで処理するというものであるが,要するに物質の分離・精製の一般的な手法をただ列挙しただけであり,これらの方法により本件発明の程度までビタミンK2が除去されるのかまったく不明である。 さらに,乙1文献には,納豆菌培養液に種々の精製手段を適用して,線溶酵素以外の不純物をできるだけ除去する方法が記載されているから,乙19文献に乙1文献の手法を適用した場合,納豆菌培養液中に含まれる栄養分は不純物として除去される。したがって,得られるナットウキナーゼ生成物は,本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」を含まないことになる。よって,乙19文献に乙1文献の手法を適用しても本件発明に想到することはない。 (3) 本件訂正発明の侵害の有無(3)-1 訂正請求の適否(原告)ア前提となる事実(2),(7)イ(エ),(7)ウのとおり,原告は,平成23年2月24日付けで本件発明について訂正請求を行った。 件訂正発明の侵害の有無(3)-1 訂正請求の適否(原告)ア前提となる事実(2),(7)イ(エ),(7)ウのとおり,原告は,平成23年2月24日付けで本件発明について訂正請求を行った。 イ訂正事項aは,特許請求の範囲の請求項1の「ナットウキナーゼ」を「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼ」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(特許法134条の2第1項ただし書1号)。 上記訂正は,本件明細書の「ナットウキナーゼの含有量は…1g当り…より好ましくは1000FU以上…乾燥粉末の場合は…5000FU以上であり得」(段落【0018】)との記載及び実施例3(段落【0045】の【表2】)の納豆菌培養エキスのナットウキナーゼ活性2500FU/g及び納豆菌培養エキス粉末のナットウキナーゼ活性13000FU/gの結果に基づくものである。ここで「1g当り…乾燥粉末の場合は…5000FU以上」(段落【0018】)との記載が,訂正事項aの直- 57 -接の根拠であり,実施例3の納豆菌培養エキス粉末のナットウキナーゼ活性13000FU/gの結果がこの根拠を支持する。また,実施例3の結果により,ナットウキナーゼ1FU/gは13000÷2500=約5FU/g乾燥重量であるから,「1g当り…1000FU以上」との記載も,「乾燥粉末の場合は…5000FU以上」を意味し,上記訂正事項aの根拠となる。したがって,本件訂正は,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。さらに,本件訂正は,特許請求の範囲に数値限定を加えようとするものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 (被告)ア原告の主張は争う。本件訂正請求は,訂正の要件を充足しない。 ,特許請求の範囲に数値限定を加えようとするものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 (被告)ア原告の主張は争う。本件訂正請求は,訂正の要件を充足しない。 イ訂正要件の不充足訂正事項a,bは,特許法134条の2第5項,126条3項を充足しない。 (ア) 訂正事項a,bは,願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてされた訂正ではない。すなわち,段落【0018】には「納豆菌培養液」という用語も「その濃縮物」という用語も記載されていない。段落【0018】には,「乾燥粉末の場合は…5000FU以上であり得」との記載はあるが,「乾燥粉末」は,「納豆菌培養液」とも「その濃縮物」とも同義ではない。したがって,段落【0018】には「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼと…とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物」は記載されていない。 (イ) 仮に「納豆菌培養エキス」が「納豆菌培養液」と同義であると認定されたとしても,段落【0018】に記載されているのは「(納豆菌培養エキス)1g当たり,20FU以上が好ましく,より好ましくは1000FU以上,さらにより好ましくは2500FU以上である」こと,- 58 -即ち液体1g当たりのナットウキナーゼ活性であり,この記載は,納豆菌培養液の乾燥重量1g当たりのナットウキナーゼ活性を示してはいない。実施例3では,乾燥粉末の調製に際し,水溶性食物繊維を添加しているから,原告の示した計算式は正しくない。さらに,納豆菌培養エキスのナットウキナーゼ含有量は様々であるし,かつ,当該エキスの乾燥粉末の調製に際し,種々の添加剤を添加し得るのであるから,実施例3の表2に示された数値のみをもってして,ナットウキナーゼ1FU/gは約5FU/g乾燥重 ゼ含有量は様々であるし,かつ,当該エキスの乾燥粉末の調製に際し,種々の添加剤を添加し得るのであるから,実施例3の表2に示された数値のみをもってして,ナットウキナーゼ1FU/gは約5FU/g乾燥重量であるとはいえず,よって「1g当たり…1000FU以上」の記載が「乾燥粉末の場合は…5000FU以上」を意味するともいえない。仮に,「乾燥粉末」が「納豆菌培養液またはその濃縮物」の一例であるとして,段落【0018】には「納豆菌培養液またはその濃縮物」について,乾燥重量1g当たりのナットウキナーゼ活性が記載されていると認定される場合でも,同段落に記載されているのは,「5000FU以上であり得」ること,すなわち,ナットウキナーゼ活性が5000FU以上である可能性があることのみであり,現にナットウキナーゼ活性が5000FU/g乾燥重量以上である「乾燥粉末」が記載されているわけではない。 さらに,実施例3の表2には,ナットウキナーゼ活性が13000FU/gである納豆菌培養エキス粉末が記載されているが,この一例のみの記載から,ナットウキナーゼ活性が「5000FU/g乾燥重量以上」であることは導き出され得ない。よって,実施例3にも「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼと…とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物」は記載されていないことは明らかである。 (3)-2 訂正請求による無効理由の解消の有無(原告)ア本件訂正により,本件訂正発明は,前提となる事実(7)イ(イ)の本件知- 59 -財高裁判決の主引用例とされた乙19文献及びこれと組合せが容易とされた乙4文献との関係において無効理由を回避できる。 (ア) 本件訂正発明の課題納豆菌は,血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを生産する(本件訂正明細書の段 と組合せが容易とされた乙4文献との関係において無効理由を回避できる。 (ア) 本件訂正発明の課題納豆菌は,血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを生産する(本件訂正明細書の段落【0002】)が,血栓凝固系の必須成分であるビタミンK2をも生産することから,納豆菌培養エキスにはナットウキナーゼとビタミンK2がともに含まれている(段落【0004】)。この納豆菌培養エキスを,血栓予防のため,ビタミンK依存性凝固因子の合成抑制剤を服用している患者が,ナットウキナーゼを含む納豆菌培養エキスを摂取すると,ビタミンK2も同時に摂取することになり,ビタミンK依存性凝固因子合成抑制剤の効果が打ち消されるという問題があった(段落【0006】)。そこで,ビタミンK2が低減された納豆菌培養エキスが望まれていた(段落【0009】)。 したがって本件訂正発明の課題は,「血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含有するが,血液凝固因子であるビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない食品」(段落【0001】)を提供することである。 ここで,「ナットウキナーゼを含有する」とは,血栓溶解酵素としてのナットウキナーゼの機能を期待できる程度に,活性を有するナットウキナーゼを有意な濃度で含有するという意味であり,本件訂正発明は,ナットウキナーゼを有意な濃度で含有するが,ビタミンK2をほとんどまたは全く含有しない食品に関するから,ナットウキナーゼの含有量とビタミンK2の含有量との比率が問題となる。したがって,本件訂正発明の課題は,ビタミンK2当たりのナットウキナーゼを高濃度で含有する食品を提供することである。 この課題を解決するために,本件訂正発明は,前提となる事実(2)のとおり,ビタミンK2 1μgあたり5000FU以上のナットウキナ- 60 - ゼを高濃度で含有する食品を提供することである。 この課題を解決するために,本件訂正発明は,前提となる事実(2)のとおり,ビタミンK2 1μgあたり5000FU以上のナットウキナ- 60 -ーゼを含有する食品を提供する。 本件訂正発明によれば「従来のナットウキナーゼを含有する食品が有していた問題点が解決され,栄養分に優れ,血液凝固因子であるビタミンK2がほとんどあるいは全く含まれないため,ビタミンK2の過剰摂取を心配することのないナットウキナーゼ活性が強化され,また,血液凝固系の疾患を有する患者にも最適な食品」が提供される(段落【0010】)。 (イ) 乙19文献に記載された発明と本件訂正発明の対比① 乙19文献に記載された発明と本件訂正発明は,「ナットウキナーゼを含有する納豆菌培養液を含む粉末又はドリンクの形態の食品」である点で一致し,以下の点で相違する。 本件訂正発明の納豆菌培養液またはその濃縮物は,「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼ」を含有し,かつ「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2」を含有するのに対し,乙19文献に記載された発明の納豆菌培養液またはその濃縮物は,5000FU/g乾燥重量未満の「約1090~1540FU/g乾燥重量」のナットウキナーゼを含有し,かつ,1μg/g乾燥重量を超える「約165~286μg/g乾燥重量」のビタミンK2を含有する点② 相違点の検討本件訂正発明の納豆菌培養液またはその濃縮物は,ビタミンK2あたりのナットウキナーゼを「ビタミンK2 1μgあたり5000FU以上」という高濃度で含有することに特徴がある。この特徴により,ビタミンK2の過剰摂取を心配することなく活性の高いナットウキナーゼを摂取することが可能となり,血液凝固系の疾患を有する患者 000FU以上」という高濃度で含有することに特徴がある。この特徴により,ビタミンK2の過剰摂取を心配することなく活性の高いナットウキナーゼを摂取することが可能となり,血液凝固系の疾患を有する患者にも最適な食品が提供される。乙19文献には,ビタミンK2あたりのナットウキナーゼを上記の高濃度で含有する納豆菌培養液または- 61 -その濃縮物について記載も示唆もなく,ビタミンK2あたりのナットウキナーゼを高濃度で含有する食品を提供することについても記載も示唆もない。「ビタミンK2 1μgあたり5000FU以上」という高濃度でナットウキナーゼを含有する本件訂正発明の納豆菌培養液またはその濃縮物は,乙19文献の記載から当業者が予測できる範囲を超えた格別顕著な効果を奏することは明らかである。 一方,本件知財高裁判決が示すように,乙4文献に記載された発明の技術思想が「血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人にも安心して食することができるようにするために,納豆におけるビタミンK2の含量を低くすること」であるとしても,乙4文献には,そもそも納豆または納豆菌培養液にナットウキナーゼが含有されることについて記載も示唆もなく,ナットウキナーゼを摂取しつつビタミンK2を同時に摂取することを避けるという課題は開示も示唆もなく,まして,ビタミンK当たりのナットウキナーゼを高濃度で含有する食品を提供するという本件訂正発明の課題について開示も示唆もない。したがって,乙19文献に記載された発明と乙4文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 仮に,乙19文献に記載された発明と乙4文献に記載された発明を組み合わせることが当業者に容易であるとしても,これを組み合わせたところで「5000FU が容易に発明をすることができたものではない。 仮に,乙19文献に記載された発明と乙4文献に記載された発明を組み合わせることが当業者に容易であるとしても,これを組み合わせたところで「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」食品という本件訂正発明の具体的構成が得られるわけではない。 また,乙20文献,乙5文献,乙1文献にも上記のような食品について記載も示唆もないので,本件訂正発明は,副引用例に基づいて当- 62 -業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ被告の主張は争う。 (被告)ア原告の主張は争う。本件訂正請求により,本件発明の無効理由は解消されない。 (ア) 原告の主張する本件訂正発明の課題は否認する。本件明細書には,ナットウキナーゼの含有量とビタミンK2の含有量との比率が問題とされているとの記載も,ビタミンK2あたりのナットウキナーゼを高濃度で含有する食品を提供するとの記載もなく,かかる課題は示されていない。 (イ) 原告の主張する乙19文献に記載された発明のナットウキナーゼ含有量のFU単位への換算は正しくない。また,乙4文献には,血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人も安心して食することができるようにするために,納豆におけるビタミンKの含量を低くするとの技術思想が開示されている。 (ウ) 原告の主張する乙19文献に記載された発明と本件訂正発明の相違点は否認する。相違点についての被告の主張は,後記イで述べるとおりである。対比については争う。 イ進歩性欠如(主引用例乙19)乙19文献を主引用例とした場合,進歩性欠如の無効理由(特許法123条1項3号,29条2 いての被告の主張は,後記イで述べるとおりである。対比については争う。 イ進歩性欠如(主引用例乙19)乙19文献を主引用例とした場合,進歩性欠如の無効理由(特許法123条1項3号,29条2項)がある。 (ア) 乙19文献に記載された発明と本件訂正発明との相違点は,次のとおりである。 ① 相違点1本件訂正発明の納豆菌培養液は「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼを含有」するのに対し,乙19文献に記載された発- 63 -明の納豆菌培養液は「FU/g乾燥重量単位で表したナットウキナーゼ含有量が不明」である点。 ② 相違点2本件訂正発明の納豆菌培養液は「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2を含有する」のに対し,乙19文献に記載された発明の納豆菌培養液は「1μg/g乾燥重量を超えるビタミンK2を含有する」点。 (イ) 相違点の検討① 相違点1について相違点1については,本件訂正発明の課題は,原告が主張するような「ビタミンK2あたりのナットウキナーゼを高濃度で含有する食品を提供すること」ではなく,「血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含有するが,血液凝固因子であるビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない食品」(段落【0001】)の提供であるところ,本件訂正発明と乙19文献に記載された発明は,「血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含有する食品の提供」という課題が共通している。 相違点1について,本件訂正発明に進歩性があるとされるのは,有利な効果について,その数値限定の内と外で量的に顕著な差異がある場合である(審査基準)。しかし,本件明細書において,5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼ活性を有することが示されているのは,実施例3の表2中の納豆菌培養エキス粉末(活性値13 る場合である(審査基準)。しかし,本件明細書において,5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼ活性を有することが示されているのは,実施例3の表2中の納豆菌培養エキス粉末(活性値13000FU/g)のみであり,本件明細書には,ナットウキナーゼ活性が5000FU/g乾燥重量以上の納豆菌培養液(またはその濃縮物)を含む食品が,ナットウキナーゼ活性が5000FU/g乾燥重量未満の納豆菌培養液(またはその濃縮物)を含む食品と比べて,量的に顕著な差異がある有利な効果を示すことは記載されていない。したがって,本件訂正発明は特定のナットウキナーゼ活性値を有するも- 64 -のであるとしても,その観点から,乙19文献に記載された発明と比べて本件訂正発明に進歩性があるとはいえない。 ② 相違点2についてビタミンK2の含量については,本件明細書の記載からは,数値限定をすることの臨界的意義を認めることはできず,少なければ少ないほどよいとの意味しか認めることはできない(乙36)。また,ビタミンK2含量に関しては,乙4文献に記載された発明に本件訂正発明と同様の課題及び解決手段が示されており,乙19文献に記載された発明に乙4文献に記載された発明を組み合わせることに阻害事由もないから,ビタミンK2含量の観点からも,乙19文献に記載された発明及び乙4文献に記載された発明の組合せから,本件訂正発明に容易に想到することができたといえる。 ウ特許法36条6項1号違反本件訂正発明には,次のとおり,特許法123条1項4号,36条6項1号違反の無効理由がある。 (ア) 本件明細書には,実施例1~4の記載があるが,5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼ活性を有することが示されているのは,実施例3の表2中の納豆菌培養エキス粉末(活性値 理由がある。 (ア) 本件明細書には,実施例1~4の記載があるが,5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼ活性を有することが示されているのは,実施例3の表2中の納豆菌培養エキス粉末(活性値は13000FU/g)のみであり,ナットウキナーゼ活性に上限値も設定されていないことからすると,ナットウキナーゼ活性の値がどのような範囲である場合に一定の効果が示されるのかは不明であり,上記一点の開示をもって,本件訂正発明に係る食品が含有する納豆菌培養液またはその濃縮物として「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼ活性を有するもの」にまで拡張ないし一般化することはできない。 (イ) 実施例3では,納豆菌培養エキス粉末の調製に際して水溶性食物繊維を加えていることから,納豆菌培養エキス粉末のビタミンK2含量は,- 65 -納豆菌培養エキスのビタミンK2含量と比べて小さな値でなければならないが,表2には,前者の方が後者より大きな値が記載されているから,表2のデータは信憑性がなく,表2のデータを除くと,本件訂正発明の実施例はない。したがって,本件訂正発明は,いわゆるサポート要件を充足していない。 エ特許法36条6項2号違反本件訂正発明には,次のとおり,特許法123条1項4号,36条6項2号違反の無効理由がある。 (ア) (2)-2-2(被告)記載のとおり。 (イ) 本件訂正発明には「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼ」との記載があり,ナットウキナーゼ活性の下限値のみが示され,上限値が示されていないが,有用な成分であっても過剰摂取は問題となる場合があり,上限値が示される必要があることからすると,本件訂正発明は,上限値が示されていないために発明の範囲が不明確となっている。よって,本件訂正発明は,いわゆる明確性要件を 過剰摂取は問題となる場合があり,上限値が示される必要があることからすると,本件訂正発明は,上限値が示されていないために発明の範囲が不明確となっている。よって,本件訂正発明は,いわゆる明確性要件を充足していない。 (3)-3 本件訂正発明の構成要件充足性(原告)ア前提となる事実(5)及び実験結果(甲19)によると,被告製品は,次の構成を有する。 a’ 25871FU/g乾燥重量のナットウキナーゼとb’ 0.0046μg/g乾燥重量のビタミンK2とをc’ 含有する納豆菌培養物を含む,d’ 粉末の形態のe’ 食品イ被告製品は,構成要件B’,D’,E’を充足する。 ウ被告製品の構成a’ は,構成要件A’を充足する。 - 66 -エ被告製品の構成c’ は,構成要件C’を充足する。構成要件Cの充足性については,裁判上の自白が成立している。 (被告)ア被告製品のナットウキナーゼ活性がa’ の値であること,ビタミンK2含有量がb’ の値であることは,いずれも不知。 イ被告製品の本件訂正発明の構成要件充足性については,いずれも争う。 (4) 差止・廃棄請求の可否(原告)被告は,本件発明又は本件訂正発明の技術的範囲に属する被告製品を製造販売している。したがって,原告は,被告製品の製造販売を差し止める請求権を有するとともに(特許法100条1項),本件特許権に対する侵害の行為を組成する物である被告製品の廃棄を求める請求権を有する(同条2項)。 (被告)原告の主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 事案にかんがみ,まず,争点(2) 本件発明の侵害の有無,(2)-1 本件発明の構成要件充足性,(2)-1-1 本件発明の構成要件Cの解釈について検討する 張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 事案にかんがみ,まず,争点(2) 本件発明の侵害の有無,(2)-1 本件発明の構成要件充足性,(2)-1-1 本件発明の構成要件Cの解釈について検討する。 (1) 本件発明の構成要件Cには「納豆菌培養液またはその濃縮物」と記載されているところ,その意義について,原告は,「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分が含まれているもの」であると主張し,被告は,「納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する状態のもの」を意味すると主張する。 原告と被告の主張の相違点は,被告が「納豆菌培養液またはその濃縮物」について,ナットキナーゼ及びビタミンK2を含むこと以外の意義を認めないのに対し,原告は,「納豆菌培養液またはその濃縮物」について,ナット- 67 -ウキナーゼ及びビタミンK2を含むほかに,納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部又は相当部分が含まれていることを意味するという点にある。 (2) 本件発明(請求項1)を含む本件特許の特許請求の範囲の記載は,次の通りである。 ア 「【請求項1】ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の食品。」イ 「【請求項2】納豆菌を液体培養する工程および,得られた培養液をキトサン処理する工程を含む方法で得られる,ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養エキス。」ウ 「【請求項3】前記納豆菌培養エキスが,濃縮エキス,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形状である,請求項2に記載の納豆菌エキス。」エ する納豆菌培養エキス。」ウ 「【請求項3】前記納豆菌培養エキスが,濃縮エキス,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形状である,請求項2に記載の納豆菌エキス。」エ 「【請求項4】納豆菌を液体培養し培養液を得る工程,該得られた培養液をキトサン処理する工程を含む,ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養エキスの製造方法。」オ 「【請求項5】ビタミンK2含有量が低下した納豆菌培養液の製造方法であって,納豆菌培養液をキトサンで処理する工程を含む方法。」上記本件特許の特許請求の範囲をみると,本件発明(請求項1)以外の請求項は,物の発明であれ,方法の発明であれ,いずれも納豆菌培養液をキトサン処理する工程が含まれているが,本件発明のみは,キトサン処理する工程は含まれていない。しかし,後にみる明細書の発明の詳細な説明の記載をみても,本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」がキトサン処理する工程により得られた物質であることを除くとする記載は見当たらず,本件発明は,キトサン処理する工程で得られる物質を含むものとして,特許請求の範囲に記載されているものと認められる。また,他方,本件発明においては,- 68 -処理方法の限定はされていないのであるから,キトサン処理以外の方法によりビタミンK2含有量を低下させた「納豆菌培養液またはその濃縮物」も含むものと解される。 (3) ところで,本件発明の特許請求の範囲に記載された文言からは,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義は必ずしも明らかでないところから,本件明細書の記載をみると,次のとおりである。 ア発明の技術分野,課題,解決手段等に関する記載(ア) 「【発明の属する技術分野】本発明は,血栓溶解酵素であ 必ずしも明らかでないところから,本件明細書の記載をみると,次のとおりである。 ア発明の技術分野,課題,解決手段等に関する記載(ア) 「【発明の属する技術分野】本発明は,血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含有するが,血液凝固因子であるビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない食品に関する。」(段落【0001】)(イ) 「【従来の技術】納豆菌が血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを生産することは,須見らによって発見され(Experientia43巻,1110頁(1987)),納豆の栄養価はもちろん,健康食品としての価値が見直されている。ナットウキナーゼは,それ自身が線溶酵素として作用することが知られており,食品として摂取されると,血栓を溶解する。このナットウキナーゼは,半減期が長く,長時間効果が持続するという,極めて優れた特徴を有している。…」(段落【0002】)(ウ) 「他方で,血栓予防のため,ビタミンK依存性凝固因子(例えば,プロトロンビンⅦ,Ⅸ,Ⅹなど)の合成抑制剤を服用している患者が,血栓予防等を目的として血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含む納豆あるいは納豆菌培養エキスを摂取すると,ビタミンK2も同時に摂取することになり,そのビタミンK依存性凝固因子合成抑制剤の効果が打ち消されるという問題が生じる。」(段落【0006】)(エ) 「そこで,血栓形成予防のため,ビタミンK2含量が減量された納豆菌培養エキス食品が望まれており,ビタミンK2を減少させる方法が- 69 -試みられている。ビタミンK2を減少させる方法としては,ヘキサンなどの有機溶媒を用いて脂溶性のビタミンK2を抽出する方法がある。」(段落【0007】(オ) 「しかし,この方法では,ビタミンK2以外の脂溶性の ミンK2を減少させる方法としては,ヘキサンなどの有機溶媒を用いて脂溶性のビタミンK2を抽出する方法がある。」(段落【0007】(オ) 「しかし,この方法では,ビタミンK2以外の脂溶性の栄養分も抽出されて除かれるという栄養学上の問題,ヘキサンなどの有機溶媒の除去が必要となるため,製造コストアップにつながるなどの製造技術面での問題,さらに,食品に有機溶媒が残留する可能性,有機溶媒の使用に対する消費者の抵抗感などの問題がある。」(段落【0008】)(カ) 「【発明が解決しようとする課題】そこで,有機溶媒などを用いることなく,簡便にビタミンK2を除去できる方法,およびその方法で生産される,ビタミンK2含量が低減された納豆菌培養エキスが求められている。」(段落【0009】)(キ) 「【課題を解決するための手段】本発明は,上記問題点を解決することを目的として行われたものであり,ナットウキナーゼと,特定の量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養エキス,およびその製造方法を提供する。本発明により,従来のナットウキナーゼを含有する食品が有していた問題点が解決され,栄養分に優れ,血液凝固因子であるビタミンK2がほとんどあるいは全く含まれないため,ビタミンK2の過剰摂取を心配することのないナットウキナーゼ活性が強化され,また,血液凝固系の疾患を有する患者にも最適な食品が提供される。」本件明細書の上記発明の属する技術分野,従来技術,発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段についての記載によれば,本件発明は,血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含有するが,血液凝固因子であるビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない食品について,従来技術であるヘキサンなどの有機溶媒を用いて脂溶性のビタミンK2 発明は,血栓溶解酵素であるナットウキナーゼを含有するが,血液凝固因子であるビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない食品について,従来技術であるヘキサンなどの有機溶媒を用いて脂溶性のビタミンK2を抽出する方法ではなく,有機溶媒などを用いることなく,簡便にビタミ- 70 -ンK2含量が低減された食品を提供するものであり,その食品は栄養分に優れ,血液凝固系の疾患を有する患者にも最適なものであるとされている。 ここでは,本件発明に係る食品が栄養分に優れていることが記載されているが,以下においては,その記載と構成要件Cの「納豆菌またはその培養液」との関係について,明細書の発明の詳細な説明の記載から検討する。 イ 「納豆菌培養液またはその濃縮物」に関する記載そこで,次に,上記「栄養分に優れ」との本件発明による食品の特徴が「納豆菌培養液またはその濃縮物」についてみられるものであるか否かについて,本件明細書の記載をみることとする。 (ア) 「好ましい実施態様においては,納豆菌を液体培養する工程および,得られた培養液をキトサン処理する工程を含む方法で得られる」(段落【0012】)(イ) 「納豆菌培養エキスの形態には,納豆菌を培養し,培養液から菌体がすべて除去され,またビタミンK2のほとんど,またはすべてが除去された培養液自体を含む。納豆菌培養エキスの形態は,液体,粉末,固形であり得る。液体としては,培養液の濃縮液,あるいはペーストであり得る…」(段落【0017】)(ウ) 「納豆菌培養エキスの製造に用いられる微生物は,納豆菌に分類され,ナットウキナーゼを生産できる微生物であれば,いずれの微生物も使用できる。市販の納豆から分離した納豆菌を用いてもよい。」(段落【0021】)(エ) 「納豆菌の培養に用いる培地 納豆菌に分類され,ナットウキナーゼを生産できる微生物であれば,いずれの微生物も使用できる。市販の納豆から分離した納豆菌を用いてもよい。」(段落【0021】)(エ) 「納豆菌の培養に用いる培地には特に制限はないが,濃縮液自体が食品になることを考慮して決定することが望ましい。澱粉(例えば,コーンスターチ),グルコース,蔗糖などの炭素源,脱脂大豆,肉エキスなどの窒素源,炭酸カルシウム,塩化マグネシウムなどの無機塩,必要に応じて脂肪酸などを培地成分として用いて,納豆菌を培養する。これ- 71 -らの培地に使用される成分は,食品添加物グレードであることが好ましい。」(段落【0022】)(オ) 「培養終了後の培養物上清中には,一般的には,ナットウキナーゼ活性が約300~600FU/ml,ビタミンKが約10~100μg/g乾燥重量含まれている。この培養物をキトサンと接触させて,ビタミンK2をキトサンに吸着させる。キトサンは溶液でもよく,固体でもよいが溶液状で加えるのが好ましい。」(段落【0024】)(カ) 「キトサン処理として,キトサン単独で培養液を処理する場合…のキトサンを含むキトサン水溶液を用いることが好ましい…キトサン単独では溶解しない場合,…キトサン-酢酸混合溶液…を用いることがより好ましい」(段落【0025】)(キ) 「培養液に対して上記キトサン水溶液またはキトサン-酢酸混合溶液を…添加し,攪拌して十分に反応させる。その後,例えば,パーライト,珪藻土などの濾過助剤を用いて,加圧型濾過機で濾過して清澄な濾液を得る。また,キトサン溶液あるいはキトサン-酢酸水溶液を培養液に添加した後,パーライト,珪藻土などの濾過助剤を添加して,適切な時間,攪拌して,加圧型濾過機で濾過し,濾液を得ることができる。本明細書でキトサン処理とは ン溶液あるいはキトサン-酢酸水溶液を培養液に添加した後,パーライト,珪藻土などの濾過助剤を添加して,適切な時間,攪拌して,加圧型濾過機で濾過し,濾液を得ることができる。本明細書でキトサン処理とは,上記いくつかの方法に限定されることなく,キトサンと培養液とを接触させることをいう。」(段落【0026】),(ク) 「なお,キトサンは,水溶液中に溶解しているものの,培養液中の菌体などを吸着し,濾過助剤で除去され,濾液中にはほとんど含まれない。上記キトサン処理により,濾液中のビタミンK2は…%以上除去される。」(段落【0027】)(ケ) 「得られた濾液は,そのまま,あるいはさらに濾過助剤などを用いて精密濾過された後,濃縮機,例えば,逆浸透圧濃縮機を用いて濃縮される。…さらに,必要に応じて,メンブレンフィルター…を用いて濃縮- 72 -液を無菌濾過することにより,納豆菌培養液の濃縮液が得られる…」(段落【0028】)(コ) 「得られた濃縮液は,さらに濃縮されてペースト状となる。また,得られた濃縮液に対し適切な量の食品添加物,例えば,水溶性食物繊維,乳糖,セルロースなどを加え,凍結乾燥して,粉末状,あるいは顆粒状の納豆菌培養エキスが製造される。…」(段落【0029】)(サ) 「【実施例】…(実施例1~2,比較例1~2) ポリペプトン…,グルコース…,肉エキス…,NaCl…,pH7.0の培地を含む丸底フラスコにBacillusNattoを接種後,37℃で18時間培養した。得られた培養液を,同じ組成の培地を含むシード培養槽に接種し,22時間培養してシード培養液を得た。」(段落【0039】)(シ) 「他方で,コーンスターチ…,脱脂大豆…,食品添加物グレードの炭酸カルシウム…,大豆油…,シリコン…を含む,pH7.3の本培養培地を準 間培養してシード培養液を得た。」(段落【0039】)(シ) 「他方で,コーンスターチ…,脱脂大豆…,食品添加物グレードの炭酸カルシウム…,大豆油…,シリコン…を含む,pH7.3の本培養培地を準備し,これに上記シード培養液を添加して,通気量0.5VVM,温度37℃で,69時間培養した。得られた培養液中には,…のナットウキナーゼと55μg/g培養液のビタミンK2が含まれていた。」(段落【0040】)(ス) 「得られた培養液の一部をとり,培養液…に対して,キトサン…,酢酸…を含むキトサン水溶液を…加え,さらにパーライトを…添加し,攪拌した(実施例1)。別の培養液…にはこのキトサン水溶液を…のみを添加し,攪拌した(実施例2)。さらに別の培養液200Lにはパーライト…のみを添加する(比較例1)か,珪藻土…のみを添加した(比較例2)。それぞれの培養液を1時間攪拌後,加圧型濾過機で濾過して濾液を得た。なお,実施例2では,珪藻土を濾過助剤として濾過した。 それぞれの濾液についてビタミンK2量を測定した結果を表1に示す。」(段落【0041】)- 73 -(セ) 「段落【0042】【表1】」には,各実施例,比較例について,濾過助剤,濾過の前後の「ビタミンK2(μg/g培養液)」,濾過率が表形式で記載されている。 以上のとおり,本件明細書の各記載によると,本件明細書における「納豆菌培養液」,「培養液」の文言は,上記(ア)の2行目,(イ)の1行目,(カ)の1行目,(キ)の1行目,4行目,8行目,(ク)の1行目,(サ)の4行目,5行目,(シ)の3行目,4行目,5行目,(ス)の1行目,3行目,4行目,6行目,(セ)の2行目の各「培養液」の文言においては,「納豆菌を培養して得られる培養液」の意味として使用されているが,他方,「培養液から菌体がすべ 4行目,5行目,(ス)の1行目,3行目,4行目,6行目,(セ)の2行目の各「培養液」の文言においては,「納豆菌を培養して得られる培養液」の意味として使用されているが,他方,「培養液から菌体がすべて除去され,またビタミンK2のほとんど,またはすべてが除去された」(段落【0017】参照)ものとしても使用されている(具体的には,上記(イ)の3行目,4行目,(ケ)の4行目,(セ)の2行目。このほか,上記(キ)の3行目,6行目,(ク)の2行目,3行目,(ケ)の1行目,(ス)の6~7行目,8行目の各「濾液」についても,「培養液」と同旨の文言として使用されているものと解される。)。このように,本件明細書における「納豆菌培養液」,「培養液」の文言は,「納豆菌を培養して得られる培養液」の意味だけではなく,「納豆菌を培養して得られる培養液の組成成分を低減した液」の意味をも含むものとして使用されていると解するのが相当である。 そして,本件発明の構成要件Cの「納豆菌培養液」についても,「ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2を含有する」ものとして記載されているのみであるから,上記のとおり,「納豆菌を培養して得られる培養液」または「納豆菌を培養して得られる培養液の組成成分を低減した液」を意味するものと解され,本件明細書における「納豆菌培養液」の意義とも整合する。 (4) 原告は,前記のとおり,構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」- 74 -は,「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分が含まれているもの」を意味するとし,出願段階における平成18年6月15日付け意見書においても,「非常に単純な方法で,納豆菌培養液中のビタミンK2を除去するとともに,納豆菌培養液中に含まれる有効成分をほとんど損なうことなく,栄養価に優 願段階における平成18年6月15日付け意見書においても,「非常に単純な方法で,納豆菌培養液中のビタミンK2を除去するとともに,納豆菌培養液中に含まれる有効成分をほとんど損なうことなく,栄養価に優れた食品が提供されます。」(乙7)と述べている。そして,本訴において,試験結果報告書(甲15)を提出し,同報告書に例示の蛋白質,炭水化物,灰分(ミネラル)などの成分が含まれていることを要する等と主張する。 しかしながら,原告がその根拠とする本件明細書の「本発明により…栄養分に優れ,血液凝固因子であるビタミンK2がほとんどあるいは全く含まれないため…血液凝固系の疾患を有する患者にも最適な食品」(段落【0010】)との記載は,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の定義の記載ではなく「食品」の定義として記載されているものである。実際,上記明細書段落【0029】の記載においては,キトサン処理により得られた濃縮液に「水溶性食物繊維,乳糖,セルロースなど」が加えられることが記載されている。 また,上記意見書の記載は,審査官が引用文献を指摘して進歩性が認められないとの拒絶理由通知を発したのに対して提出されたものであるが,原告は同意見書において,引用文献との相違点としては,「引用文献1~3においては,ナットウキナーゼを納豆菌培養液から分画し,その分画の過程でビタミンK2が除去されます。このナットウキナーゼを納豆菌培養液から分画する点で,本願発明と引用文献1~3とは,明らかに異なります。引用文献1~3では,ナットウキナーゼを含むが,ビタミンK2を実質的に含まない納豆菌培養液を記載も示唆もしていません。」と述べているのであって,同意見書から,本件発明の構成要件Cと栄養分との関係が導き出されるものではない。さらに,原告は,試験結果報告書(甲15)を提出し,本件明細書 養液を記載も示唆もしていません。」と述べているのであって,同意見書から,本件発明の構成要件Cと栄養分との関係が導き出されるものではない。さらに,原告は,試験結果報告書(甲15)を提出し,本件明細書に基づいて調製し,キトサン処理によって精製された物質に蛋白質,炭水化物,- 75 -灰分(ミネラル)等がキトサン処理後においても豊富に含まれていることを立証するが,仮に,それが立証されているものとしても,前記のとおり,本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」はキトサン処理する工程により得られた物質に限定されないのであるから,キトサン処理以外の場合の栄養分の有無,残存の程度は不明であり,上記一例をもって,本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」が「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分が含まれているもの」を意味するものとはいえない。 そうすると,前記のとおり,「納豆菌を培養して得られる培養液の組成成分を低減した液」と解される構成要件Cの「納豆菌培養液」を原告の主張するような意味であると解することはできない。 (5)ア他方,被告は,前記のとおり,「納豆菌培養液またはその濃縮物」は,「納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する状態のもの」を意味すると主張する。しかしながら,本件発明の特許請求の範囲において,構成要件A,Bの「ナットウキナーゼと…ビタミンK2とを含有する」は,構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」を修飾するものではあるが,構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」自体の意義を明らかにするものではないから,被告の上記主張を採用することはできない。 イまた,被告は,仮に構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義を原告の主張するように解するので 縮物」自体の意義を明らかにするものではないから,被告の上記主張を採用することはできない。 イまた,被告は,仮に構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義を原告の主張するように解するのであれば,構成要件Cは「納豆菌を培養した培養液を,キトサンを用いてビタミンK2含量1μg/g乾燥重量以下を満たすように処理したもの」として特定されるべきであると主張する。 しかしながら,「納豆菌培養液」の意義を原告の主張のように解すべきでないことは,前記のとおりである。 なお,被告は,上記主張の根拠として,原告(出願人)の前記意見書(乙- 76 -7)を提出し,同書面には,「本願発明では,まず,『ビタミンK2が実質的に除去された,ナットウキナーゼを含む納豆菌培養液』を調製します。 これは…調製されます。そして,この納豆菌培養液をさらに分画することなく,そのまま濃縮,ペースト,カプセル,ドリンクなどの食品の形態とします。従って,非常に単純な方法で,納豆菌培養液中のビタミンK2を除去するとともに,納豆菌培養液中に含まれる有効成分をほとんど損なうことなく,栄養価に優れた食品が提供されます。」,「一方,引用文献1~3においては,ナットウキナーゼを納豆菌培養液から分画し,その分画の過程でビタミンK2が除去されます。このナットウキナーゼを納豆菌培養液から分画する点で,本願発明と引用発明1~3とは,明らかに異なります。」と記載されており,原告(出願人)は,本件発明は,ナットウキナーゼを含む納豆菌培養液をさらに分画することはないが,引用文献1~3の発明は,ナットウキナーゼを納豆菌培養液から分画するので,本件発明と引用文献1~3の発明は物として異なるとの認識であったと解するのが相当であり,原告(出願人)が,本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」を, トウキナーゼを納豆菌培養液から分画するので,本件発明と引用文献1~3の発明は物として異なるとの認識であったと解するのが相当であり,原告(出願人)が,本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」を,キトサン処理する工程により得られた物質に限定する意思であったと認めることはできないというべきである。また,被告は,特許庁審査官の平成18年10月26日付け「特許メモ」と題する書面(乙8)を提出し,同書面には,「いずれの参考文献にも,納豆菌培養エキスをキトサンで処理することについて,記載も示唆もされていない。」との記載があるが,これは,原告(出願人)の本件発明(請求項1)についての認識を示すものではなく,原告(出願人)の意見書(乙7)の「新たに追加した請求項5に記載の発明は,納豆菌培養液をキトサンで処理することを特徴としますが,この特徴について,引用文献1~3には記載も示唆もありません。」との記載に対応するものと考えられるから,同書面の記載によっても,本件発明の「納豆菌培養液またはその濃縮物」について,キト- 77 -サン処理する工程により得られた物質に限定すると解することはできない。 したがって,被告の上記主張を採用することはできない(なお,原告は,被告の上記イの主張は,平成21年10月1日付け被告準備書面(8)で初めて主張されたから,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に該当すると主張するが,前提となる事実(8)の本件訴訟の経緯からすると,被告によるイの主張がこれに該当するということできず,原告の上記主張を採用することはできない。)。 (6) 以上によれば,構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義については,前記(3)のとおりであって,原告が主張するように,「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当 )。 (6) 以上によれば,構成要件Cの「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義については,前記(3)のとおりであって,原告が主張するように,「納豆菌培養液に通常含まれる栄養分の全部または相当部分が含まれているもの」とも,被告が主張するように,「納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する状態のもの」とも解することはできない。 2 争点(2) 本件発明の侵害の有無,(2)-1 本件発明の構成要件充足性,(2)-1-2 本件発明の構成要件Cの充足性について(1) 証拠(甲5,乙24)及び弁論の全趣旨によると,被告は,被告製品が,納豆菌を培養した液体を精製処理し,ビタミンK2を除去,減量したものを使用していることを認めていたものであり(平成21年8月28日付け被告準備書面(7)),製品としては,ナットウキナーゼ含有納豆菌培養物であり,茶褐色粉末で,わずかに発酵臭(納豆臭)を有することが認められる。そして,上記操作により製造される被告製品における「ナットウキナーゼ」及び「発酵臭(納豆臭)」成分は,納豆菌を培養した液体の組成成分と認められるから,被告製品は,「納豆菌を培養して得られる培養液の組成成分を低減した液」または「その濃縮物」を含むものに該当すると認めるのが相当である。 - 78 -したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Cを充足する。 (2) 原告は,本件発明の構成要件Cに関する原告の解釈に基づき,被告製品は同構成要件を充足すると主張するが,上記のとおり,同構成要件の「納豆菌培養液」の意義については,前記1(3)のとおりであって,このような解釈を前提としない原告の上記主張については,これを採用することができない。 (3) 被告は,本件発明の構成要件Cに 要件の「納豆菌培養液」の意義については,前記1(3)のとおりであって,このような解釈を前提としない原告の上記主張については,これを採用することができない。 (3) 被告は,本件発明の構成要件Cに関する被告の解釈に基づき,被告製品は同構成要件を充足しない,又は,原告の解釈に基づくとしても,被告製品は同構成要件を充足しない等と主張するが,上記のとおり,同構成要件の「納豆菌培養液またはその濃縮物」は,「納豆菌を培養して得られる培養液もしくはその組成成分を低減した液」,「またはその濃縮物」をも意味すると解されるから,このような解釈を前提としない被告の上記主張については,これを採用することができない。 (4) なお,原告は,被告は,平成20年11月25日付け被告準備書面(1)により,被告製品の構成要件Cの充足性を認めたから,自白が成立すると主張する。しかしながら,本件の審理の経過に照らすと,被告は,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義について,「納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する状態のもの」との理解の下に構成要件充足性を認めたものと理解されるのであって,上記認定のとおり,その解釈を前提とした自白は真実に反し,錯誤に出たものと認められるから,自白の成立は認められない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 (5) そして,前提となる事実(6)アのとおり,被告製品は,本件発明の構成要件A,B,D,Eを充足する。したがって,被告製品は,本件発明のすべての構成要件を充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。 3 争点(2) 本件発明の侵害の有無,(2)-2 本件発明の無効理由の有無,(2)-2-4③ 進歩性欠如③(主引用例乙19)について- 79 -(1) 乙19 件発明の技術的範囲に属する。 3 争点(2) 本件発明の侵害の有無,(2)-2 本件発明の無効理由の有無,(2)-2-4③ 進歩性欠如③(主引用例乙19)について- 79 -(1) 乙19発明乙19文献(発明の名称「液体納豆」)には,次のとおりの記載がある。 ア 「納豆菌と,その代謝産物である人体に有益な機能性物質を含有する納豆菌培養液とからなることを特徴とする液体納豆。」(【特許請求の範囲】,【請求項1】)イ 「請求項1から3のいずれかに記載の液体納豆を含有することを特徴とする液体または固形等の食品。」(【請求項4】)ウ 「請求項1から3のいずれかに記載の液体納豆の乾燥粉末。」(【請求項5】)エ 「請求項5記載の乾燥粉末を含有することを特徴とする食品。」(【請求項6】オ 「【発明の属する技術分野】この発明は,納豆菌と,食品栄養上許容される納豆菌培養液とからなる液体納豆に関するものである。さらに詳しくは,この発明は,納豆の栄養成分および酵素等の機能性成分を全て含んだ新規の液体納豆に関するものである」(段落【0001】)カ 「【従来の技術】我が国の代表的な伝統食品のひとつである納豆は,その独特な旨みと香り,食感(粘性など)に加え,蛋白質,ビタミン類,無機塩類,食物繊維等を多く含む栄養価の高い食品である。特に,ビタミン類については,骨繊維へのカルシウムの吸着に効果のあるビタミンK2(特に,メナキノン-7),子供の成長に不可欠なビタミンB2,皮膚の代謝促進に有効なビタミンB6等が他の食品に比べ格段に多く含まれており,また必須アミノ酸の含有量も豊富である…。」(段落【0002】)キ 「また近年,納豆中に含まれる酵素の一種(ナットウキナーゼ)が血栓溶解作用を有するという報告…もなされ,その機能性が特に注目を集めて た必須アミノ酸の含有量も豊富である…。」(段落【0002】)キ 「また近年,納豆中に含まれる酵素の一種(ナットウキナーゼ)が血栓溶解作用を有するという報告…もなされ,その機能性が特に注目を集めている。」(段落【0003】)ク 「納豆を製造する場合には,従来より,原料となる大豆を浸漬,蒸煮し,- 80 -これに納豆菌を接種して発酵させる方法が採られてきた。すなわち,納豆菌による発酵の過程で…ナットウキナーゼやビタミン類等もこの過程で産生される。」(段落【0004】)ケ 「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来の納豆は,…特有の旨みと粘性に加え,発酵によって弱アルカリ性…になり独特の納豆臭を呈するようにもなる。また,製造後,時間を経るに従い基質中の糖質が減少するために納豆菌の自己消化(オートリーゼ)作用により遊離アンモニアが生成し,これによって納豆臭とは別の臭いが発生するようにもなっている。…このような臭いが納豆の消費を抑制する原因になっている。」(段落【0005】)コ 「また,…従来の納豆製造工程は,…好気性細菌である納豆菌は大豆表面だけを栄養基質として利用しているに過ぎず,大豆の中心部は完全に利用されない。…」(段落【0006】)サ 「この発明は,以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって,従来の納豆製品(以下,固体納豆と記載することがある)の問題点を解消し,固体納豆の栄養成分および酵素類等を豊富に含み,しかも誰にでも容易に摂取可能な新しい食品を提供することを目的としている。」(段落【0007】)シ 「【課題を解決するための手段】この発明は,上記の課題を解決するものとして,納豆菌と,その代謝産物である人体に有益な機能性物質を含有する納豆菌培養液とからなることを特徴とする液体納豆を提供する。納豆 【課題を解決するための手段】この発明は,上記の課題を解決するものとして,納豆菌と,その代謝産物である人体に有益な機能性物質を含有する納豆菌培養液とからなることを特徴とする液体納豆を提供する。納豆菌は,…この発明の出願人等が単離し,既に特許出願(特願平5-57482号)したBacillussubtilisNattoTo-9株(FERMP-13164)は,ナットウキナーゼ産生能に優れているため,この発明の組成物の成分として特に好ましい。」(段落【0008】)- 81 -ス 「納豆菌培養液の培地は,納豆菌の生育およびその活性を良好に維持する成分を含むものであれば,どのようなものでもよい。すなわち,培地の成分としては,炭素源としては蔗糖,フラクトース,ブドウ糖等の糖類,窒素源としてはグルタミン酸,大豆ミール等,その他ミネラル類を例示することができる。また,総合的に納豆菌の産生に最も適した大豆そのものでもよい。培養液の組成および各成分の含有量の調整によって最終製品の旨味,香り,臭い(アンモニア臭等の好ましくない臭い),粘性等の程度,あるいはビタミン類や酵素類等の含有量を随意に調節することができる。」(段落【0009】)セ 「さらにこの発明は,上記の納豆菌とその培養液とからなる液体納豆の乾燥粉末と,この乾燥粉末を含有する食品を提供する。」(段落【0011】)ソ 「【発明の実施の形態】この発明の液体納豆は,納豆菌を液体培養し,培養後の培養液のまま製品化することができる。この液体培養では,通気攪拌条件等を自在に設定することができるため,納豆菌の増殖や代謝に応じて最適な条件のもとで発酵を行わせることができる。また,培養液中のほとんど全ての栄養源が基質の内部まで納豆菌に取り込まれるため,効率よく発酵が行われるので,少ない資源で め,納豆菌の増殖や代謝に応じて最適な条件のもとで発酵を行わせることができる。また,培養液中のほとんど全ての栄養源が基質の内部まで納豆菌に取り込まれるため,効率よく発酵が行われるので,少ない資源で収率よく有益な機能性物質を得ることができる。」(段落【0012】)タ 「培養液には,納豆菌によって産生させることを目的とする物質(ビタミン類,アミノ酸類,ナットウキナーゼ等の酵素類など),および固体納豆の特徴を再現するために必要とされる特性(香りや粘性等)に応じて,それらの必要基質を選択して添加すればよい。…」(段落【0013】)チ 「この発明の液体納豆は,また,例えば,スプレードライ等により乾燥粉末の状態で製品化することもできる。このような粉末は,そのまま食品として販売することもでき,…」(段落【0015】)- 82 -ツ 「【実施例】実施例1 BacillussubtilisNattoTo-9株(FERMP-13164)を表2に組成を示した寒天平板培地に接種し…培養し,菌コロニーを得た。次いで,コロニーから菌体を剥がし,表3の改変ブイヨン培地に植菌して…震盪培養(前培養)した。」,「この前培養液を表4に…組成を示した生産用の準合成培地…に植菌し…深部培養(液体培養)した。」,「また,培養液の性状は表5のとおりであった」,「【表5】…ナットウキナーゼ活性 4,800IU…ビタミンK2 13μg/ml(MK-7として12μg/ml)」(実施例1,段落【0016】~【0021】)テ 「実施例2 実施例1の寒天平板培地の菌コロニーを表6に組成を示した大豆培地に接種し…震盪培養(前培養)した。」,「この前培養液を表7に…組成を示した生産用の大豆天然培地…に植菌し…深部培養(液体培養)した。」,「また,培養液の性状は表8のと を表6に組成を示した大豆培地に接種し…震盪培養(前培養)した。」,「この前培養液を表7に…組成を示した生産用の大豆天然培地…に植菌し…深部培養(液体培養)した。」,「また,培養液の性状は表8のとおりであった」,「【表8】…ナットウキナーゼ活性 1,200IU…ビタミンK2 4μg/ml(MK-7として1μg/ml)」(実施例2,段落【0021】~【0025】)ト 「【発明の効果】…この発明によって,従来の固体納豆の栄養成分および酵素類等をより豊富に含み,しかも誰にでも容易に摂取可能な新しい液体納豆が提供される。この液体納豆によって奏せられる効果は以下のとおりである。(1)血栓溶解酵素「ナットウキナーゼ」およびビタミンK2を個体培養の納豆よりも高濃度に産生し,一般の消費者に嫌われる納豆臭および粘り等も皆無であるので,納豆の嫌いな人でも食間,食後を問わず容易に食用することができる…」(段落【0027】)以上のとおり,乙19文献の特許請求の範囲に記載された液体納豆等(ア~エ)は,その実施例において,納豆菌の代謝産物である人体に有益な機能性物質としてナットウキナーゼとビタミンK2を含有するものとして開示- 83 -され(ツ~ト),かかる液体納豆又はその乾燥粉末のほか,これらを含有する食品としてもよい(ア~エ,シ,サ,チ)とされ,ビタミンK2の含有量については,実施例では,13μg/ml,4μg/mlとされるが,これを乾燥重量に換算すれば,いずれも1μg/g乾燥重量を超えるものといえる。したがって,乙19文献の記載からすると,同文献に記載された乙19発明は,次のとおりのものと認められる。 「納豆菌と,その代謝産物である人体に有益な機能性物質としてナットウキナーゼとビタミンK2を含有する納豆菌培養液とからなることを特徴とする液体 された乙19発明は,次のとおりのものと認められる。 「納豆菌と,その代謝産物である人体に有益な機能性物質としてナットウキナーゼとビタミンK2を含有する納豆菌培養液とからなることを特徴とする液体納豆またはその乾燥粉末及びこれらを含有する食品」(2) 本件発明と乙19発明の対比ア本件発明は,前提となる事実(1),(3)ア及び第3,1で判示したとおりであり,これと乙19発明を対比すると,両者は「ナットウキナーゼとビタミンK2とを含有する納豆菌培養液を含む,粉末,ドリンクの形態の食品」(構成要件A,C,D,E)である点で一致し,本件発明の納豆菌培養液が含有するビタミンK2は「1μg/g乾燥重量以下」(構成要件B)であるのに対し,乙19発明のそれは「1μg/g乾燥重量以下」でない点で相違する。 イ本件発明において,ビタミンK2含有量が「1μg/g乾燥重量以下」であることについては,本件明細書には,納豆菌の「培養終了後の培養物上清中には,一般的には,…ビタミンK2が約10~100μg/g乾燥重量含まれている。」(段落【0024】),「キトサン処理により,濾液中のビタミンK2は,99%以上,場合によっては99.9%以上除去される。」(段落【0027】),「【実施例】…得られた培養液中には,…55μg/g培養液のビタミンK2が含まれていた。」,実施例1~2の「濾液についてビタミンK2量を測定した結果を表1に示す。」との記載があり,表1では,実施例1は,濾過後のビタミンK2(μg/g培養- 84 -液)含量が,0.002であり,実施例2は,濾過後のビタミンK2(μg/g培養液)含量が,0.15である(段落【0039】~段落【0042】)とされ,また,濾液を処理して「得られた納豆菌培養エキス及びその粉末中の…ビタミンK2の含量を表2 濾過後のビタミンK2(μg/g培養液)含量が,0.15である(段落【0039】~段落【0042】)とされ,また,濾液を処理して「得られた納豆菌培養エキス及びその粉末中の…ビタミンK2の含量を表2に示す。」との記載があり,表2では,納豆菌培養エキスのビタミンK2(μg/g乾燥重量)含量が,0.01であり,納豆菌培養エキス粉末のビタミンK2(μg/g乾燥重量)含量が,0.05である(段落【0044】,【0045】)とされ,さらに「市販の納豆が1g当り,6~12μgのビタミンK2を含むのに対して,本発明の納豆菌培養エキスおよびその粉末には,それぞれ,0. 01μg,0.05μg/gのビタミンK2が含まれるに過ぎない。すなわち,本発明の納豆菌培養エキスおよびその粉末には,それぞれ,市販の納豆の約1/500~1/1000のビタミンK2が含まれているにすぎない」(段落【0047】),「【発明の効果】…この納豆菌培養エキスは,ビタミンK2含量が極めて少ないため,健康人のビタミンK2過剰摂取と血栓形成を予防できるとともに,ビタミンK2の摂取を制限されている人も安心してナットウキナーゼを摂取できる優れた食品である。」(段落【0050】)との記載があるが,これらの本件明細書の記載において,ビタミンK2の含量を「1μg/g乾燥重量以下」とすることの意義については何らの記載も示唆もなく,それによって,特徴的な効果が生じるということはできないものである。したがって,本件明細書の記載からは上記数値限定をすることの臨界的意義を認めることはできず,本件発明1のビタミンK2の数値については,少なければ少ないほどよいとの意味しか認めることはできない。 (3) 相違点の検討ア乙4発明の技術思想乙4文献(発明の名称「ビタミンK含量の低い納豆の製造方法」)には 2の数値については,少なければ少ないほどよいとの意味しか認めることはできない。 (3) 相違点の検討ア乙4発明の技術思想乙4文献(発明の名称「ビタミンK含量の低い納豆の製造方法」)には,- 85 -以下のとおりの記載がある。 (ア) 「納豆を製造するに際して,ビタミンK低産生性である納豆菌変異株A-1(Bacillussp.A-1)を使用することを特徴とするビタミンK含量の低い納豆の製造方法。」(【特許請求の範囲】,【請求項1】)(イ) 「【産業上の利用分野】本発明は,ビタミンK産生能の低い納豆菌変異株を利用したビタミンK含量の低い納豆の製造方法に関するものである。」(1頁左欄13行~16行)(ウ) 「【従来の技術】納豆菌は,枯草菌の一種で,ビタミンKの産生作用は非常に強く,一般にビタミンK産生作用が強いと言われている大腸菌の12~13倍にも達する。よって,納豆中には多量のビタミンKが存在し(6000~8000ng/g納豆),これは通常ビタミンKを多く含む緑色野菜や海草よりはるかに多量である。それ故,栄養上の観点から納豆を食することは一般に推奨されている。」(1頁右欄1行~9行)(エ) 「【発明が解決しようとする課題】…ビタミンKは血液凝固因子でもることから,例えば手術後血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人は,納豆を食することを通常控えるのが望ましいとされている。それ故,ビタミンKの含量が低い納豆を提供し得るならば,一般の消費者は無論このような症状に悩んでいる人も安心して食することができ,産業上益することは多大である。」(1頁右欄10行~19行)(オ) 「【課題を解決するための手段】本発明者等は,納豆の原料である大豆は,それ自体ビタミンK含量は非常に低いことから することができ,産業上益することは多大である。」(1頁右欄10行~19行)(オ) 「【課題を解決するための手段】本発明者等は,納豆の原料である大豆は,それ自体ビタミンK含量は非常に低いことから,ビタミンKの産生能の低い納豆菌を開発するならば,ビタミンK含量の低い納豆を製造することができるのではないかと,着目し…研究を重ねたところ,従- 86 -来の市販の納豆菌を変異処理して得られた変異株が所期の目的を達成し得る細菌であることを見出し,本発明を完成するに至った。本発明は,納豆を製造するに際して,ビタミンK低産生性である納豆菌変異株A-1(Bacillussp.A-1)を使用することを特徴とするビタミンK含量の低い納豆の製造方法を提供するものである。」(2頁左上欄3行~15行)以上のとおり,乙4文献の記載によると,納豆に含まれるビタミンKは,血液凝固因子であり,血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人も安心して食することができるようにするために,納豆におけるビタミンKの含量を低くするとの技術思想(乙4発明)が開示されているといえる。 イ乙19発明と乙4発明等の組合せ乙19発明は「液体納豆」に関する発明であり,乙4発明は「ビタミンK含量の低い納豆の製造方法」に関する発明であるから,乙19発明と乙4発明は,共通の技術分野に属しているといえる。 そして,乙19発明においては,「固体納豆の栄養成分および酵素類等を豊富に含み」((1)サ),ビタミンK2を含有するが,「最終製品の旨味,香り,臭い(アンモニア臭等の好ましくない臭い),粘性等の程度,あるいはビタミン類や酵素類等の含有量を随意に調節することができる。」((1)ス)とされている。 また,乙4発明は,上記のとおり, ,香り,臭い(アンモニア臭等の好ましくない臭い),粘性等の程度,あるいはビタミン類や酵素類等の含有量を随意に調節することができる。」((1)ス)とされている。 また,乙4発明は,上記のとおり,手術後血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人も安心して食することができるようにするという課題を解決するために,納豆におけるビタミンKの含量を低くするというものである。 そうすると,かかる乙4発明の課題を適用し,手術後血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人も,固体納- 87 -豆の栄養成分でもあるビタミンK2を含有する乙19発明の「液体納豆」を摂取できるよう,乙19発明の含有するビタミンK2を低減することは,当業者が容易に想到することができるといえる。そして,乙19発明の含有するビタミンK2の低減は,慣用技術である抽出(甲9の「ビタミンK」の項,甲13の2(3)参照)により,技術常識を有する当業者が適宜なし得ることであり,また,上記のとおり,本件発明におけるビタミンK2含有量「1μg/g乾燥重量以下」には,少なければ少ないほどよいという以上の特段の意義を見出すことはできない。 (4) したがって,本件発明は,乙19発明,乙4発明及び慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,進歩性欠如(特許法123条1項2号,29条2項)の無効理由を有する。 (5) 原告は,被告の進歩性欠如③(主引用例乙19)の主張は,平成21年4月24日の第3回弁論準備手続期日において,被告が主張を追加しない旨陳述した後,新たに主張されたから,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に該当すると主張するが,前提となる事実(8)の本件訴訟の経緯からすると,被告による上 いて,被告が主張を追加しない旨陳述した後,新たに主張されたから,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に該当すると主張するが,前提となる事実(8)の本件訴訟の経緯からすると,被告による上記主張がこれに該当するということできず,原告の上記主張を採用することはできない。 原告は,乙4発明は,「納豆」の製造方法に関するものであって「納豆菌培養液」に関するものではなく,乙4発明には「納豆菌培養液」からビタミンK2を低減させるという課題は示唆されていないと主張する。しかしながら,上記(3)アのとおり,乙4文献には,納豆に含まれるビタミンKは,血液凝固因子であり,手術後血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人も安心して食することができるようにするために,納豆におけるビタミンKの含量を低くするとの技術思想が開示されており,上記(1)サのとおり,乙19発明は,固体納豆と同様の栄養成分および酵素類等を豊富に含むから,乙4発明により,納豆だけではなく,乙1- 88 -9発明についても,ビタミンK2を低減させる課題が示唆されるというべきである。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 また,原告は,乙4文献に接した当業者は,「抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人」は,ビタミンKの摂取を避けるために納豆を食べるべきでないことを理解するだけであり,本件発明の課題とは関係がないと主張する。しかしながら,上記(3)ア(エ)のとおり,乙4文献は,「ビタミンKの含量が低い納豆を提供し得るならば,一般の消費者は無論このような症状に悩んでいる人」すなわち,例えば手術後血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人「も安心して食することができ」るとしているから,このような「 費者は無論このような症状に悩んでいる人」すなわち,例えば手術後血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人「も安心して食することができ」るとしているから,このような「抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人」においても,ビタミンK2を低減しつつ納豆を食することの示唆はされているということができる。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 さらに,原告は,仮に乙4発明が本件発明の課題を示唆しているとしても,解決手段を示唆しておらず,当業者において相違点について容易に想到できないと主張する。しかしながら,上記のとおり,乙4発明に具体的な解決手段が記載されていないとしても,本件発明は,乙19発明,乙4発明及び慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明できたということができるから,原告の上記主張を採用することはできない。 4 争点(3) 本件訂正発明の侵害の有無,(3)-1 訂正請求の適否について(1)ア前提となる事実(2),(3)のとおり,原告は,本件発明について,特許庁に対し,平成23年2月24日付けで特許法134条の2に基づく訂正請求を行い,本件訂正発明(訂正事項a)は,本件発明(請求項1)の構成要件A「ナットウキナーゼと」を「5000FU/g乾燥重量以上のナットウキナーゼと」に限定する内容となっている。したがって,本件訂正請求は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる(特許法1- 89 -34条の2第1項,ただし書1号)。 イ本件明細書には,「納豆菌培養エキスには,ナットウキナーゼと,1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とが含有されている。」(段落【0016】),「納豆菌培養エキスの形態には,納豆菌を培養し,…またビタミンK2のほとんど,またはすべてが除去 ナットウキナーゼと,1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とが含有されている。」(段落【0016】),「納豆菌培養エキスの形態には,納豆菌を培養し,…またビタミンK2のほとんど,またはすべてが除去された培養液自体を含む。納豆菌培養エキスの形態は,液体,粉末…であり得る。液体としては,培養液の濃縮液,…であり得る。粉末としては,濃縮液…をさらに乾燥した粉末…であり得る。」(段落【0017】),「本発明の納豆菌培養エキスには,ナットウキナーゼが含まれる。ナットウキナーゼの含有量は特に制限がないが,1g当り,…である。…乾燥粉末の場合は,上記濃度に加え,5000FU以上であり得,10000FU以上であり得る。」(段落【0018】)と記載されており,これらの記載からすると,納豆菌培養エキスは,液体の「ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物」や,濃縮液をさらに乾燥した粉末でよく,前者の液体のものを,後者の粉末にすれば,後者のナットウキナーゼの含有量は1g当たり5000FU以上になり得ると解される。 そうすると,請求項1の「ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物」のナットウキナーゼ含有量が,乾燥したときの含有量「5000FU/g乾燥重量以上」でよいということは,当業者が本件明細書の記載から理解できることであり,本件訂正発明(訂正事項a)は,本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる(特許法134条の2第5項,126条3項)。 ウ本件訂正発明(訂正事項a)は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない(特許法134条2第5項,126条4項)。 - 90 -エしたがって,本件訂 )。 ウ本件訂正発明(訂正事項a)は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない(特許法134条2第5項,126条4項)。 - 90 -エしたがって,本件訂正発明(訂正事項a)に関する訂正請求は適法と認めるのが相当である。 (2) 被告は,本件訂正発明(訂正事項a)の訂正請求は,特許法134条の2第5項,126条3項の要件を充足しないと主張し,本件明細書の段落【0018】の記載を根拠として挙げるが,上記のとおり,上記訂正請求は,本件明細書の記載(段落【0016】~段落【0018】)によれば,本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものと認められるから,被告の上記主張を採用することはできない。 5 争点(3) 本件訂正発明の侵害の有無,(3)-2 訂正請求による無効理由の解消の有無について(1) そこで,上記訂正請求によって,本件発明の無効理由(進歩性欠如③の無効理由)が解消されるかについて検討する。本件訂正発明と乙19発明を対比すると,両者は,「ナットウキナーゼとビタミンK2とを含有する納豆菌培養液を含む,粉末,ドリンクの形態の食品」(構成要件C’,D’,E’)である点で一致し,次の点で相違する。 ア相違点1本件訂正発明の納豆菌培養液が含有するナットウキナーゼは「5000FU/g乾燥重量以上」(構成要件A’)であるのに対し,乙19発明には,それについて記載がない点イ相違点2本件訂正発明の納豆菌培養液が含有するビタミンK2は「1μg/g乾燥重量以下」(構成要件B’)であるのに対し,乙19発明のそれは「1μg/g乾燥重量以下」でない点(2) 相違点1の検討ア上記3(1)のとおり,乙19発明は,「従来の納豆製品…の問題点を解消し,固 要件B’)であるのに対し,乙19発明のそれは「1μg/g乾燥重量以下」でない点(2) 相違点1の検討ア上記3(1)のとおり,乙19発明は,「従来の納豆製品…の問題点を解消し,固体納豆の栄養成分および酵素類等を豊富に含み,しかも誰にでも容- 91 -易に摂取可能な新しい食品を提供することを目的として」(上記3(1)サ)おり,「近年,納豆中に含まれる酵素の一種(ナットウキナーゼ)が血栓溶解作用を有するという報告…もなされ,その機能性が特に注目を集めている。」(上記3(1)キ),「この発明は…,納豆菌と,その代謝産物である人体に有益な機能性物質を含有する納豆菌培養液とからなることを特徴とする液体納豆を提供する。納豆菌は,…は,ナットウキナーゼ産生能に優れている…」(上記3(1)シ),「培養液の組成および各成分の含有量の調整によって最終製品の旨味,香り,臭い(アンモニア臭等の好ましくない臭い),粘性等の程度,あるいはビタミン類や酵素類等の含有量を随意に調節することができる。」(上記3(1)ス),「さらにこの発明は,上記の納豆菌とその培養液とからなる液体納豆の乾燥粉末と,この乾燥粉末を含有する食品を提供する。」(上記3(1)セ)等のとおり,酵素類としてナットウキナーゼが着目されていることが認められ,また,「液体培養では,通気攪拌条件等を自在に設定することができるため,納豆菌の増殖や代謝に応じて最適な条件のもとで発酵を行わせることができる。」(上記3(1)ソ),「培養液には,納豆菌によって産生させることを目的とする物質(ビタミン類,アミノ酸類,ナットウキナーゼ等の酵素類など),および固体納豆の特徴を再現するために必要とされる特性(香りや粘性等)に応じて,それらの必要基質を選択して添加すればよい。」(上記3(1)タ)等の 類,アミノ酸類,ナットウキナーゼ等の酵素類など),および固体納豆の特徴を再現するために必要とされる特性(香りや粘性等)に応じて,それらの必要基質を選択して添加すればよい。」(上記3(1)タ)等のとおり,納豆菌によって産生されるナットウキナーゼ等の目的物質に応じて必要基質を添加し,通気攪拌条件等を自在に設定して行うことができるとされるものである。 そうすると,好適な液体培養条件を設定して乙19発明のナットウキナーゼをより豊富なものとすることは当業者には容易に想到し得るものということができる。 イなお,本件訂正発明において,ナットウキナーゼの含有量を「5000- 92 -FU/g乾燥重量以上」と限定したことについて,本件明細書には,「1g当り,…乾燥粉末の場合は,…5000FU以上であり得,10000FU以上であり得る。」(段落【0018】)との記載の他,実施例3の表2中に納豆菌培養エキス粉末の活性値として「13000FU/g」との記載があるが,いずれもナットウキナーゼ活性が5000FU/g乾燥重量以上の納豆菌培養液(またはその濃縮物)を含むか否かによって,量的に顕著な差異があることを開示するものとはいえないものである。したがって,本件明細書の記載からは上記数値限定をすることの意義は認めることはできない。 ウしたがって,相違点1は,乙19発明に基づいて,当業者において容易に想到しうるものである。 (3) 相違点2について上記5のとおり,相違点2は,乙19発明,乙4発明及び慣用技術に基づいて,当業者が容易に相当し得るものである。 (4) 以上のとおり,本件訂正発明は,乙19発明,乙4発明及び慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,原告の訂正請求によっても,進歩性欠如(特許法123条 るものである。 (4) 以上のとおり,本件訂正発明は,乙19発明,乙4発明及び慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,原告の訂正請求によっても,進歩性欠如(特許法123条1項2号,29条2項)の無効理由は解消されないというべきである。 6 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 第4 結論以上により,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋- 93 - 裁判官菊池絵理 裁判官小川雅敏- 94 -被告製品目録被告が製造販売する「HTNK-J」(ナットウキナーゼ)との名称の食品
▼ クリックして全文を表示