平成14年11月15日判決言渡平成8年(行ウ)第28号林地開発行為許可処分取消請求事件(平成14年5月10日口頭弁論終結)判決 主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が平成8年3月28日付けでD株式会社に対してした開発行為の許可処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,第1掲記の開発許可処分(森林法〔平成11年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。〕10条の2に基づくもの)の取消訴訟である。 2(争いのない事実等)(1) D株式会社は,平成4年6月2日付けで,被告に対し林地開発行為許可申請をし,これに対し被告は,平成8年3月28日付けで森林法10条の2に基づき開発許可処分を行った(以下「本件許可処分」といい,上記許可申請を「本件許可申請」という。)。 (2) 本件許可処分の内容は,大要以下のとおりである(以下,本件許可処分による開発行為を「本件開発行為」といい,本件開発行為の対象区域を「本件開発区域」という。)。 ア許可に係る事業又は施設の名称a・c地区観光開発事業(仮称・略)イ開発行為の目的ゴルフ場の造成及び宿泊施設の設置ウ許可に係る森林の土地の所在地千葉県夷隅郡a町b番地1同 c町d番地他エ事業区域面積130.3739ヘクタールオ開発行為をしようとする森林の面積114.2853ヘクタールカ許可に係わる森林の土地の面積43.1196ヘクタールキ開発行為期間平成11年3月31日まで(3) 原告らのうち,原告A以外の原告ら(以下「立木所有原告ら」という。)は,いずれも本件 許可に係わる森林の土地の面積43.1196ヘクタールキ開発行為期間平成11年3月31日まで(3) 原告らのうち,原告A以外の原告ら(以下「立木所有原告ら」という。)は,いずれも本件開発区域に隣接する森林内である千葉県夷隅郡a町他にそれぞれ立木を所有している。 (4) 原告Aは,本件開発区域に隣接して位置するため池「E堰」から約2キロメートルにある住居に居住し,かつ,E堰に通じるf農業用排水路(以下「本件水路」という。)を通じて農業用水を取水して住居地周辺で農業を営んでいる。 (5) 本件開発行為においては,開発区域内の雨水排水に関し合計9基の調整池が設置される計画であり,そのうちの9号調整池がE堰に隣接して設置されるものとされている。 (以上の事実は,当事者間に争いがないか,証拠[甲2号証の1の1ないし49,2号証の2,3,4の1,甲8号証の4,5,甲12号証の6.7,乙8,26]及び弁論の全趣旨により認める。)第3 争点 1 本案前の争点本件原告らは,本件訴えの原告適格を有するか。 (被告の主張)(1) 森林法10条の2第2項1号及び1号の2は,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害防止機能という森林の公益的機能の確保を図るとともに,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解される。したがって,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は,開発許可の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有する者としてその取消訴訟における原告適格を有する。 (2) 原告Aは,自己に対する利益侵害として,ア耕作している水田に濁 範囲の地域に居住する者は,開発許可の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有する者としてその取消訴訟における原告適格を有する。 (2) 原告Aは,自己に対する利益侵害として,ア耕作している水田に濁り水等が流入し,農業用水が減少,水質が悪化し,農薬等の汚染によって生命・財産等に重大な被害が生じる,イ耕作地が土砂混じりの濁水による冠水となる,ウ作物の商品価値が低下し,米が売れなくなる,エ農業用水が不足する,オ田を見回る際に水難事故に遭うと主張する。しかし,これら農薬の汚染による被害や田の見回りによる水難事故は,いずれも土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による「直接的」被害ではなく,原告Aの原告適格を裏付ける事由ではない。 また,原告Aの自宅は,その耕作地から山側に少し登った場所に位置し,耕作地周囲の道路より4ないし5メートル標高が高い。そして,原告Aが溢水の危険を主張する本件水路の水源は,E堰の貯留水及び耕作地両側の山からの絞り水であるが,E堰の水は本件水路に自然流下する構造にはなっておらず,取水の必要がある場合に堰の中にある取水弁を開けて堰の水を本件水路に放流させる仕組みである。 本件開発行為中には9号調整池から本件水路へ放流がされる場合があるとされているが,この放流水は9号調整池のオリフィス(断面の小さな調整放流孔であって常時放流口)から同調整池の外に設けられた沈砂池にまず貯留され,そこからポンプによって汲み上げられた水だけが本件水路に流されることとされている。本件開発行為の結果,9号調整池の水はE堰へ放流されるが,E堰は農業用ため池であり,取水が必要なときには用水路を経由して田の用水とされることがあるが,不必要なときには隧道から直接海へ放流される仕組みになっている。以上によれば,原告Aの自宅が9号調整池からの放流に起因する水害 り,取水が必要なときには用水路を経由して田の用水とされることがあるが,不必要なときには隧道から直接海へ放流される仕組みになっている。以上によれば,原告Aの自宅が9号調整池からの放流に起因する水害の被害を受けるおそれは皆無であり,原告Aには原告適格がない。 (3) なお,森林法10条の2第2項1号及び1号の2の規定は,周辺住民の生命,身体の安全等の保護に加えて周辺土地の所有権等の財産権までを個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨とは解することはできない。また,同項2号は,当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養機能からみて,当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがないことを,同項3号は,当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて,当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがないことを開発許可の要件としているが,これらの規定は,水の確保や良好な環境の保全という公益的な見地から開発許可の審査を行うことを予定するものと解されるのであって,周辺住民等の個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものではない。 本件において,立木所有原告らは,いずれも,本件開発行為により土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者でないことは明らかであり,いずれも原告適格を有しない。 (原告の主張)(1) 森林法10条の2第2項が開発行為許可の基準を定めている趣旨は,当該森林の有する災害防止,水害防止,水源かん養及び環境保全の各機能からみて,当該開発行為によって,周辺地域又は森林の有する上記諸機能に依存する地域に土砂の流出若しくは崩壊その他の災害又は水害を発生させたり,水の確保の著しい支障又は環境の悪化が生 環境保全の各機能からみて,当該開発行為によって,周辺地域又は森林の有する上記諸機能に依存する地域に土砂の流出若しくは崩壊その他の災害又は水害を発生させたり,水の確保の著しい支障又は環境の悪化が生じるおそれがあることから,このような被害を受けるおそれのある範囲の周辺地域等の公衆の生命,身体,財産及び環境上の利益を一般公益として保護するとともに,それにとどまらず,周辺地域等に居住し又は財産を有し,開発行為がもたらす災害等の被害を受けることが想定される範囲の関係者の生命,身体,財産及び環境上の個々人の個別的利益をも保護しようとする趣旨を含んでいるものと解するべきである。 よって,立木所有権や水利権であっても原告適格の前提となる保護されるべき個別的利益に含まれる。したがって,第2の2(3),(4)記載のとおり,本件処分によってこれら利益を侵害されるおそれのある原告らには原告適格がある。 (2) 原告Aは,本件開発区域から約2キロメートル下方に居住し,常時耕作を行い,大雨・台風時には見回りや水路の管理等を常態として行っている者である。そして,原告Aの耕作地は,本件開発区域から約2キロメートル下流域に位置し,本件開発行為に伴い洪水が発生する危険性の高い本件水路に正に隣接し,しかも水路と高低差のない地点に位置するものであること,本件水路付近は本件開発行為前から頻繁に洪水が発生していた地域であること,耕作地及び水路の管理は溢水時にこそ行わざるを得ないものであり,しかもその作業内容は生命,身体に対する危険を伴うものであること,及び原告Aの自宅の下に位置する道路は同原告が利用できる唯一の生活道路であるが,従前から出水や水没を繰り返しており,水没時には車の通行もできず陸の孤島と化し,急病になっても診察を受けることもできないことにもなりかねないこと,の各事 は同原告が利用できる唯一の生活道路であるが,従前から出水や水没を繰り返しており,水没時には車の通行もできず陸の孤島と化し,急病になっても診察を受けることもできないことにもなりかねないこと,の各事情に照らすと,原告Aは,常時水害等の災害により生命,身体の安全等に対する直接的な被害を受ける危険性にさらされている者である。 2 本案に関する争点(1) 本件許可申請の手続的違法について(原告の主張)ア森林法10条の2第2項に関しては,旧農林事務次官から各都道府県知事あてに発出された「森林法及び森林組合合併助成法の一部を改正する法律の施行について」と題する通達(以下「本件通達」という。)において,「開発行為の許可基準の運用について」(以下「運用基準」という。)が定められ,さらに,本件通達を受けて林野庁長官から各都道府県知事あてに発出された「開発行為の許可基準の運用細則について」(以下「運用細則」という。)と題する通達がある。これら本件通達,運用基準及び運用細則は,いずれも林地開発の許可制を解釈適用する際に,国から許可権限を機関委任された都道府県知事が依拠すべき規定であるから,具体的な許可申請に対して知事が本件通達,運用基準及び運用細則の各規定を無視又はこれに違反して許可したとすれば,それは森林法10条の2第2項に違反することになる。ところが,本件許可申請は,以下のとおり,本件通達等を履践していない違法な申請である。 イ平成2年6月11日に運用細則の一部改正が施行されたが,同改正の経過規定においては,施行期日時点で都道府県の要綱等に基づく事前協議等を概ね了している場合には,改正前の許可基準が適用されることになっていた。しかし,本件許可申請に関して事前協議が終了したのは平成4年3月であり,改正前の許可基準が適用されるべき余地がなかったにも 等を概ね了している場合には,改正前の許可基準が適用されることになっていた。しかし,本件許可申請に関して事前協議が終了したのは平成4年3月であり,改正前の許可基準が適用されるべき余地がなかったにもかかわらず,これを満たしているものと扱われた。 ウ運用基準によれば,林地開発許可申請時に,都市計画法29条による許可申請が同時にされていることが必要であるのに,本件許可申請ではこれがされていなかった。 エ本件開発行為は,宅地開発事業等の基準に関する条例により,事業計画について予め知事の同意を得なければならず,また,工事の設計について知事の確認を受けねばならないところ,本件許可申請時には,これらの同意も確認もされていなかった。 オ本件許可申請書には,都市計画法等他法令の許認可状況及び工事施工業者について重大な虚偽記載がある。 カ本件通達は,開発行為の許可要件として「開発行為に係る森林につき開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を申請者が得ていることが明らかであること」と定めているところ,本件許可申請は申請に必要な同意権者の同意を得ていない。すなわち,本件許可申請においては,漁業権者であるe農業協同組合,水利権者であるf土地改良区の耕作者,g土地改良区内h地区の耕作者,i川上流j地区の耕作者,本件開発区域隣接地所有者,隣接地及び周辺土地の立木所有権者,飲料水使用者並びに本件開発行為により生活等に重大な影響を受けるk地区の代表者の同意が得られていない。 キ本件許可申請は,「千葉県におけるゴルフ場等開発計画の取扱方針」に違反している。 ク本件許可申請は,千葉県宅地開発事業指導要綱に違反して計画変更を行ったにもかかわらず,被告はこれを黙認した。 ケ本件許可申請に先立ち,公益法人である財団法人G公社がD株式会社に土地を売却する ク本件許可申請は,千葉県宅地開発事業指導要綱に違反して計画変更を行ったにもかかわらず,被告はこれを黙認した。 ケ本件許可申請に先立ち,公益法人である財団法人G公社がD株式会社に土地を売却する等公益目的外行為を行う違法があったにもかかわらず,被告はこれを黙認した。 コ上記土地売買は,国土利用計画法23条1項に関する千葉県の「大規模取引等事前指導事務処理要領」に違反して行われたにもかかわらず,被告はこれを黙認した違法がある。 サ本件許可申請は,開発行為実現の確実性がなく,運用細則に違反するにもかかわらず,被告は「計画内容の具体性」があると判断した。 シ森林法10条の2第6項に違反し,千葉県森林審議会の意見聴取が実質的になされていない。 ス運用細則によれば,若齢林を除いた残置森林率が概ね40パーセント以上必要であり,また,ゴルフ場周辺部及びホール間には幅30メートル以上の残置森林を確保しなければならないが,本件許可申請はこれを満たしていない。また,運用基準によれば,開発行為は原則として現地形にそって行われることが必要であるが,本件許可申請は,これを満たしていない。 セ運用基準においては,「開発行為に関する計画の内容が具体的であり,許可を受けた後遅滞なく申請に係る開発行為を行うことが明らかであること。」と定められている。しかし,本件許可申請は,申請段階において工事施工業者が決まっていない等遅滞なく開発工事に着工することは不可能な状態であった。また,運用基準においては,「申請者に開発行為を行う為に必要な信用及び資力があることが明らかであること」として資力要件が定められている。D株式会社には,十分な資力がなかったにもかかわらず,被告は杜撰な審査によりこれを見逃した。 (被告の主張)行政事件訴訟法10条1項は,「取消訴訟においては,自 と」として資力要件が定められている。D株式会社には,十分な資力がなかったにもかかわらず,被告は杜撰な審査によりこれを見逃した。 (被告の主張)行政事件訴訟法10条1項は,「取消訴訟においては,自己の法律上の利益と関係のない違法を理由として取消しを求めることはできない。」と定めている。したがって,各原告固有の権利利益との関係で,森林法10条の2第2項各号のどの要件に該当する違法事由があるのかを主張しない限り,原告らの主張は失当である。 (2) 森林法10条の2第2項1号(土砂災害のおそれがないこと)について(原告の主張)ゴルフ場開発により大規模に行われる盛土,切土等の造成による地形の改変は,必然的に地盤の安定を害し,また,山林を伐採して芝地へ改変すれば,必然的に山林の保水力(水源かん養機能)の低下や土砂崩壊防止機能力を低下させる。非造成地と比較すると,特に地震時や降雨時において災害発生率が高くなり,また,大規模な地盤災害が発生する蓋然性も高い。ところが,本件許可処分においては,被告は大災害をもたらす地震の調査も予測も行っていない。これは,実質的にみれば許可基準について検討しないまま許可処分を行ったに等しく,その違法性は重大である。 (被告の主張)森林法10条の2第2項1号は,開発行為をする森林の植生,地形,地質,土壌,湧水の状態等から土地に関する災害の防止等の機能を把握し,土地の形質を変更する行為の態様,防災施設の設置計画の内容等から周辺の地域において土砂の流出または崩壊その他の災害を発生させるおそれの有無を判断する趣旨である。なお,地震の調査や予測は,同項の許可基準には含まれていない。 (3) 森林法10条の2第2項1号の2(水害のおそれがないこと)について(原告の主張)ア本件許可申請においては,本件開発行為中は各調整池に洪 震の調査や予測は,同項の許可基準には含まれていない。 (3) 森林法10条の2第2項1号の2(水害のおそれがないこと)について(原告の主張)ア本件許可申請においては,本件開発行為中は各調整池に洪水調整容量を上回る貯留量を確保することができ,一定期間継続して降る降雨量の全量を貯留することができるとされるが,この主張は誤りである。 ある土地に降る雨のうちで表流水となる部分の比率をその土地の「流出係数」といい,その基準値として用いられるものに「林地開発行為の許可基準の運用細則について」と題する通達の表2がある。同表によれば,浸透能が中程度の林地の流出係数は0.5ないし0.6,草地は0.6ないし0.7,裸地は0.9ないし1. 0とされ,浸透能が小の場合の林地の流出係数は0.6ないし0.7,草地は0. 7ないし0.8,裸地は1.0とされる。これを本件開発行為に当てはめると,本件開発区域は標高自体は低いものの標高差の激しい急峻な山が林立する地域であることから,造成後も急斜面が多く,雨水が地表水となって流れる割合が高くなるのであるから全体的に浸透能小の山岳地とみるべきである。草地であるゴルフコースも実際上は裸地の場合に近似した浸透能しか期待できず,林地についても造成森林は残置山林と同等の浸透能は全く期待できない。したがって,本件開発行為においては,造成地については流出係数を0.9程度とし,非造成地については0.6程度とみて計算するのが妥当である。しかし,本件許可申請においては,造成地についてもゴルフコース,管理通路などについては流出係数を0.65としたうえで,開発後の各調整池流域の流出係数を一律に0.8としている。しかし,本件許可申請書添付の「調整池容量計算書」をもとに計算すると9号調整池を始め,5号調整池を以外の全ての調整池について流出係数は0. で,開発後の各調整池流域の流出係数を一律に0.8としている。しかし,本件許可申請書添付の「調整池容量計算書」をもとに計算すると9号調整池を始め,5号調整池を以外の全ての調整池について流出係数は0.8を超える。そして,仮に流出係数を0.8として計算しても調整池の必要洪水調整容量は不足している。 イ第7ないし第9の各調整池はいずれもオリフィスのサイズが小さい。集中豪雨時には木の枝等でこれらのオリフィスが詰まって機能しなくなるおそれが高い。このような場合には30年確率の降雨強度の雨が24時間継続して降った場合,流入水量はいずれの調整池も洪水計画容量を大きく超え,越流を起こす。 ウ工事中の9号調整池の容量について,本件許可申請では,2万6465立方メートルとしている。これは,工事後の農業用水量,散水用水量及び洪水調整容量の三者を加えて得られる数値であるが,9号調整池流域に関しては,E堰にかんがい用水を頼っている下流土地改良区のために9号調整池に一定量の農業用水をためねばならない現実的必要性がある以上,農業用水量をも工事期間中の調整池容量に加えることは不当である。そして,9号調整池の貯留可能降雨量を計算すると,334ミリであるところ,30年確率の降雨強度がの雨が24時間継続して降った場合の降雨量は405.6ミリであるから,9号調整池はこのような降水には耐えられない。 (被告の主張)ア本件開発行為中は,本件開発区域内に降った雨の一部は,9号調整池から本件水路に放流される予定である。しかし,森林法10条の2に基づく開発行為許可の審査対象は,同法施行規則(平成10年農林水産省令第76号による改正前のもの。以下同じ。)8条の2第1号により開発行為許可申請書に添付が義務づけられている「開発行為に関する計画書」に記載された計画であるところ,工事の施工 則(平成10年農林水産省令第76号による改正前のもの。以下同じ。)8条の2第1号により開発行為許可申請書に添付が義務づけられている「開発行為に関する計画書」に記載された計画であるところ,工事の施工方法は同計画書に含まれず,法律上は審査対象ではない。よって,9号調整池から本件水路への放流については,森林法10条の2第2項1号の2の基準の適用はない。 また,本件開発区域内からの雨水の流出先は二方面あり,一つはi川方面,他がE堰であるが,9号調整池の流域を含む区域からの流出先はE堰であるところ,E堰流域の森林の「現に有する水害防止の機能」に依存する地域は存在しない。すなわち,E堰はため池であり,農業用水として池の水が必要なときは本件水路を経由して田の用水となるが,不要なときは隧道から直接海へ放流される仕組みである。 したがって,E堰流域の降雨は基本的に下流河川に流入せず,堰を経由して直接海に放流されるのであるから,E堰流域の森林の「現に」有する水害防止の機能に依存する地域はない。 そして,9号調整池流域の森林は水害防止機能が重要視される森林ではなく,かつ,流域の雨水が流入するE堰からは直接海に放流されるのであるから,開発が行われても法10条の2第2項1号の2が対象とする広域にわたる影響はない。したがって,工事期間中に想定される降雨を基準として,その場合でも放流先で溢水等の被害を生じさせない程度の調整能力があれば,その調整池は法の要求する要件を満足するものと考えられる。そして,本件許可申請においては,工事中の9号調整池は,日雨量250ミリメートル相当の降雨を全量貯留できる計画である。日雨量250ミリメートル相当の降雨とは,日雨量の確率年でいえば20年と50年の中間であり,また,平成7年12月時点での勝浦測候所の観測記録によると日雨量として 当の降雨を全量貯留できる計画である。日雨量250ミリメートル相当の降雨とは,日雨量の確率年でいえば20年と50年の中間であり,また,平成7年12月時点での勝浦測候所の観測記録によると日雨量としては観測史上2位であり,過去10年間に日雨量250ミリメートル以上の降雨は生じていなかった。これに対し,工事期間は3年の予定であるから工事期間中に貯留水がオリフィスから流出する可能性は極めて低く,本件水路が溢水を生じるおそれがあるとは認められない。 また,豪雨によって9号調整池から本件水路への放流が生じたとしても,それ以前に本件水路周辺農地には既に溢水が生じている状態となっている。本件水路は数十年に1回という確率雨量を基準とする大規模河川とは異なり,10年確率雨量程度でも周辺農地に湛水させることを許容した施設なのであり,それ以上の降雨が生じた場合には湛水時間は更に長くなることも当初から予定されている。したがって,本件水路の溢水が起こったとしても9号調整池からの放流以前に始まっており,本件開発行為に起因するものと認めることはできない。 イ本件開発行為後は,9号調整池からの放流は開発前と同じく直接海になされるのであるから,法の許可基準に抵触するおそれは全くないといえる。 ウ原告らは,開発工事中における9号調整池の洪水調節容量が不足している旨主張するが,工事中においても同調整池は1万7042立方メートルまで貯水することができる。貯水量が2万5177立方メートルに達した後は余水吐から放流されるが,24時間雨量が406ミリメートルの場合でも貯留量は2万1925立方メートルである。そして,勝浦測候所の観測記録によると,24時間雨量が403ミリメートルを超える降雨はない。 また,原告らは,オリフィスが小さいために機能不全を起こす可能性が高い旨主張するが, 方メートルである。そして,勝浦測候所の観測記録によると,24時間雨量が403ミリメートルを超える降雨はない。 また,原告らは,オリフィスが小さいために機能不全を起こす可能性が高い旨主張するが,そもそもオリフィスは放流口を小さくすることによって放流量を下流河川の流下能力以下にすることが本来的な機能であり,放流口を計画よりも大きくすれば洪水調整機能を果たすことはできない。また,ごみ,木の枝等による閉塞を防止するため,流入部にスクリーンが設置される計画である。 エ本件開発区域は,房総半島東南部の太平洋岸に位置し,起伏量100メートル以下の丘陵地帯であるから,浸透能は中とすることが適当である。そして,9号調整池の流域の造成部のうち,水面(調整池等)は浸透能0として,建造物(外構含む)及び道路は裸地として,造成森林は草地として加重平均により流出計数を算定しても0.8を下回るから,原告らが0.8の流出計数を不当と主張するのは当たらない。 (原告の反論)ア被告は,9号調整池から本件水路に放流する以前に既に本件水路は溢水するとするが,この主張は,既に溢水するおそれがある場合には開発行為により森林の水害防止機能がいかに損なわれようとも無許可で開発できるものとするものであり,明らかに不合理である。上流域の水害防止機能が損なわれれば本件水路への流入量が増大することになるから,従前は氾濫に至らなかった程度の降雨量でも氾濫が起きることになるし,従前氾濫していた程度の降雨量の場合には氾濫の被害や程度が大きくなるからである。 イ被告は,本件水路付近はE堰流域の「現に」有する水害防止機能に依存する地域ではないというが,工事期間中は,E堰流域において一定降雨量を超えた場合には本件水路に放流されることからすれば,これは当たらない。 第4 争点に対する判断 に」有する水害防止機能に依存する地域ではないというが,工事期間中は,E堰流域において一定降雨量を超えた場合には本件水路に放流されることからすれば,これは当たらない。 第4 争点に対する判断 1 原告適格について(1) 被告は,原告らがいずれも本件訴訟の原告適格を有しない旨主張するので,以下検討する。 (2) 行政事件訴訟法9条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,本件のように,本件処分の名宛人(申請者・D株式会社)以外の者が原告となってその取消しを求めうるには,当該処分要件を定めた行政法規が,原告個々人の具体的利益をもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合において,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのあるときであることを要するということができる(最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁,最高裁平成6年(行ツ)第189号同9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号250頁参照)。 そこで検討すると,森林法10条の2第2項1号及び1号の2は,森林において必要な防災措置を講じないままに開発行為を行うときは,その結果,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害が発生して,人の生命,身体の安全等が脅かされるおそれがあることにかんがみ,開発許可の段階で,開発行為の設計内容を十分審査し,当該開発行為により土砂の流出又は崩壊,水害等の災害を発生させるおそれがない場合にのみ許可をすることとしているということができる。そして,上記被害は,その性質上,当該開発区域に近接する一定範囲の地域 該開発行為により土砂の流出又は崩壊,水害等の災害を発生させるおそれがない場合にのみ許可をすることとしているということができる。そして,上記被害は,その性質上,当該開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが予想されるから,このような上記各号の趣旨・目的,これらが開発行為を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば,これらの規定は,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害防止機能という森林の有する公益的機能の確保を図るとともに,併せて,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は,開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である(最高裁平成8年(行ツ)第180号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号283頁参照)。 (3) これを本件についてみるに,前示争いのない事実等,証拠(甲5の4,8の4・5,12の6・7,14の3)及び弁論の全趣旨によると,原告Aは,本件開発区域の北方約2キロメートルの地点に居住していること,同原告は,居住地付近で農業に従事しているところ,同原告の耕作地のほぼ中央を本件水路が通り,同人は本件水路から取水して稲作を行っていること,本件水路は,本件開発区域に隣接するE堰に通じていること及び本件開発区域内における雨水の流出先はi川方面,E堰を経由しての海域方面及び自然流出による海域方面に大別されることが認められる。 しかしながら 路は,本件開発区域に隣接するE堰に通じていること及び本件開発区域内における雨水の流出先はi川方面,E堰を経由しての海域方面及び自然流出による海域方面に大別されることが認められる。 しかしながら,その一方において,前示争いのない事実等,証拠(甲8の5,8の6の1ないし12,14の3)及び弁論の全趣旨によると,本件水路はE堰から取水してはいるが,E堰はため池であること,E堰の水は本件水路に自然流下する構造とはなっておらず,E堰の水が農業用水として必要な際は,堰の中にある取水弁を開けて本件水路に放流されること,耕作者らは本件水路の堰を開閉して田に導水すること及び農業用水が不要な場合はE堰の水は隧道を通じて直接海に放流されること,したがって,E堰付近の降雨が当然に本件水路に流入するものではないことが認められる。そして,証拠(甲5の4,乙8,26,36の1)によると,本件開発行為においては,本件開発区域中E堰を経由して海域に流出する流域の雨水は,開発工事後は,9号調整池に集水後E堰に導かれ海域に放流される計画であることが認められる。 以上によると,本件開発行為によりE堰周辺の降雨のうち表流水となる水量が増えたとしても,それにより原告Aが直接的影響を受けるとは認めがたい。結局,原告Aの原告適格は認められない。 なお,乙8及び弁論の全趣旨によると,本件開発行為においては,開発行為の途中におけるE堰流域の雨水排水を9号調整池から本件水路に直接放流する計画であることが認められる。しかし,証拠(甲8の4・5,乙36の2,59)及び弁論の全趣旨によると,原告Aの自宅と本件水路との間には水田及びf地区を縦断する一般車道が存すること,原告Aの自宅は,一般車道から東側の丘陵を登った場所に位置し,一般車道から原告Aの自宅までは家屋が2軒存在していて,同人の自 Aの自宅と本件水路との間には水田及びf地区を縦断する一般車道が存すること,原告Aの自宅は,一般車道から東側の丘陵を登った場所に位置し,一般車道から原告Aの自宅までは家屋が2軒存在していて,同人の自宅は道路から4,5メートル高い場所に位置すること及び本件水路が通る水田は,E堰の直下から南北に約2.5キロメートルの長さを持ち,かつ,東西の幅約50メートルから約150メートルの広さを有するとの各事実が認められ,これらの事実によると,原告Aが本件水路の溢水による水害により直接的な被害を受けることが予想できるとはいうことはできない。 また,原告Aは,豪雨の際に田の見回り等の作業中に水難事故に遭う可能性がある,また,道路が水没すると急病の際手当を受けられない等として,生命,身体の安全等が脅かされるおそれがあると主張する。しかし,所論の可能性ないし危惧が土砂の流出等の災害による直接的な被害であるということはできず,この点をもって原告Aの原告適格を肯定することもできない。 (4) 次に,立木所有原告らの原告適格について検討する。森林法10条2第2項1号及び1号の2は,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解されるが,進んでこれらの規定内容が周辺土地の所有権等の財産権までを個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を読みとることはできない。また,同項2号,3号は,それぞれ水の確保や良好な環境の保全という公益的な見地から開発許可の審査を行うことを予定しているものと解され,周辺住民等の個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない(最高裁平成8年(行ツ)第180号同13 保全という公益的な見地から開発許可の審査を行うことを予定しているものと解され,周辺住民等の個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない(最高裁平成8年(行ツ)第180号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号283頁参照)。 そこで検討すると,本件において,立木所有原告らのうち,原告B以外の者は,全て本件開発行為が予定される千葉県夷隅郡a町及びc町以外の地に居住することが記録上明らかであって,本件開発行為により,自己の生命,身体の安全等の利益を侵害されるとは到底認めがたい。また,原告Bの居住地が千葉県夷隅郡a町kであることは記録上明らかであるが,証拠(甲5の4,8の5)によると,その居住地は,開発予定地の東南端から直線で約2キロメートルの距離にあり,開発予定地とは標高90ないし100メートルの丘陵を隔てていることが認められ,その居住地が土砂の流出等の災害による被害が直接的に及ぶ地域とは認めることはできない。 よって,立木所有原告らについても,いずれもその原告適格を認めることはできない。 2 結論よって,本件訴えを却下することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条に従い主文のとおり判決する。 千葉地方裁判所民事第三部裁判長裁判官園部秀穂 裁判官弓場佳多子裁判官向井邦生 裁判官 向井邦生
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