昭和57(あ)648 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反

裁判年月日・裁判所
昭和59年1月30日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 高松高等裁判所
ファイル
hanrei-pdf-50271.txt
🤖 AI生成要約2026/3/13

【DRY-RUN】主    文      原判決及び第一審判決を破棄する。      被告人を懲役四年に処する。      第一審における未決勾留日数中一〇〇〇日を右刑に算入する。      押収してある理髪用鋏一丁(

タグ

キーワード(AI生成)

判決文本文6,496 文字)

主文 原判決及び第一審判決を破棄する。 被告人を懲役四年に処する。 第一審における未決勾留日数中一〇〇〇日を右刑に算入する。 押収してある理髪用鋏一丁(高松高等裁判所昭和五四年押第二三号の一)を没収する。 理由 被告人本人の上告趣意は、憲法三七条二項、三八条一項二項違反、判例違反をいう点を含め、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認、再審事由の主張であり、弁護人佐長彰一及び同森吉徳雄の各上告趣意は、事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。 しかしながら、所論にかんがみ職権をもつて調査すると、原判決及び第一審判決は、次の理由により破棄を免れない。 一第一審判決及び原判決が認定し、記録に徴しても是認できる本件事案の概要は、次のとおりである。すなわち、被告人とAとは、共に徳島市内の造船所工員寮に住み込み熔接工として働いていたが、仕事上のことなどで反目し合い、その間柄は険悪化しつつあつたところ、昭和五〇年五月二四日夜、寮近くの酒店で両名の間で口論となり、被告人は、Aに顔面を殴打されて前歯を折られるなどし、そのため一旦帰寮したものの憤まんが収まらず、Aに非を認めさせようとして同人の帰るのを待つていたが、そのうち帰寮したAの怒鳴る声がしたので、木刀を携えズボンの後ポケツトに理髪用鋏を入れて寮二階ホールに赴き、Aと相対して同人を難詰するに至つた。しかし、声を聞きつけて来たBが仲裁に入り、同人に木刀を捨てて話合いをするよう説得されたことから、被告人は、その言に従い、手にした木刀を同ホール壁際に置かれた下駄箱の裏側に投げ入れ、寮前庭に通じる階段を先に立つて下- 1 -り始めたところ、Aは、いきなり右下駄箱を倒して被告人の捨てた木刀を取り上げ、それを に従い、手にした木刀を同ホール壁際に置かれた下駄箱の裏側に投げ入れ、寮前庭に通じる階段を先に立つて下- 1 -り始めたところ、Aは、いきなり右下駄箱を倒して被告人の捨てた木刀を取り上げ、それを手にして追いかけ、寮前庭で被告人に右木刀で殴りかかつたため、被告人は、頭、足首等を殴打され、当初は逃げ回つていたものの、そのうち鋏を取り出してAに対し刺突行為に及び、同人に胸腔内や心臓に達する刺創等を負わせ、間もなく同人を死亡させたものである。 そして、被告人は、Aに対する殺人(公訴事実第一)及び理髪用鋏の不法携帯の銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)違反(公訴事実第二)の両事実で起訴されたものである。しかし、第一審判決は、被告人が木刀を下駄箱の裏側に投げ入れて階段を下りようとした時点では、被告人はAと穏やかに話合いができると考えていたと認めるのが相当であるから、同人が木刀で殴りかかつてくることは被告人にとつて予想しえない出来事といわざるをえず、同人の右行為はまさに被告人の生命、身体に対する急迫不正の侵害であり、被告人のAに対する刺突行為は、右の侵害に対し自己の生命、身体を防衛するため行つたやむをえない行為であるとして、殺人について正当防衛の成立を認め、銃刀法違反については、被告人が鋏を所持したのは防衛の用に供するためであり、時間的にも短く、場所的にも寮内及びその前庭という限られた範囲にとどまるとの理由から、違法性阻却を認め、公訴事実全部について罪とならないとして被告人を無罪とした。これに対し、原判決は、第一審判決に対する検察官の控訴を容れ、殺人についての正当防衛及び銃刀法違反についての違法性阻却をいずれも否定して、第一審判決を破棄したうえ、殺人及び銃刀法違反の両罪の成立を認め、被告人を懲役六年の刑に処した。すなわち、原判決は、 れ、殺人についての正当防衛及び銃刀法違反についての違法性阻却をいずれも否定して、第一審判決を破棄したうえ、殺人及び銃刀法違反の両罪の成立を認め、被告人を懲役六年の刑に処した。すなわち、原判決は、被告人が木刀を捨てて階段を下りる際の状況及びAと被告人との寮前庭での攻防の状況の両者につき、第一審判決の認定するところは肯認できないとして、前者については、第一審判決認定のように話合いをするについてAが進んで申出をしたりあるいは納得した様子は認められず、ただ仲裁に入つたBの勧めに従つて被告- 2 -人が木刀を捨て、Aも握つていた被告人の手を離し両者が離れることになつたものであると認定し、後者については、第一審判決認定のように被告人がAの攻撃を受けて防戦一方であつたわけではなく、被告人が立つてAに組みつき対抗した状況があり、被告人はAからの攻撃に対して劣勢を挽回し積極的に攻撃を加えた事案が認められるとし、そのような事実認定に立つたうえ、当夜のいきさつ等からして当時抑え難い憤激の情を抱いていたと推測される被告人とAとの間で話合いが行われる状況にはなかつたこと、被告人が予め鋏を用意していたこと、被告人のAに対する攻撃は激しいものであつたことなどの理由から、被告人はAと喧嘩になることを予期しその機会を利用して積極的に同人を加害する意思であつたと認められるとし、結局、殺人については侵害の急迫性に欠けるので正当防衛の成立を認めることはできず、また、銃刀法違反については、右正当防衛の成立が否定される以上その違法性が阻却される理由はないとしたのである。 二そこで検討するに、本件殺人における正当防衛の成否をめぐつては、被告人に対するAの木刀による攻撃が、被告人にとつて予測できなかつた急迫な侵害にあたるか否かについて、前記のとおり原判決と第一審判決とで判断を 検討するに、本件殺人における正当防衛の成否をめぐつては、被告人に対するAの木刀による攻撃が、被告人にとつて予測できなかつた急迫な侵害にあたるか否かについて、前記のとおり原判決と第一審判決とで判断を異にするのであるが、原判決及び第一審判決の認定する事実関係に照らして判断すると、被告人は、木刀を捨てて階段を下りた時点では、Aと話合いをする積もりであり、同人もそれに応じるものと予期していたもので、Aが被告人の捨てた木刀を取り上げ攻撃してくることは予想しなかつたと認めるのが相当である。たしかに、被告人は当夜Aに対しかなり強い憤激の情を抱いていたことであり、被告人が木刀を手にして寮二階ホールでAに相対し同人を難詰した時点までをとらえるならば、それまでのいきさつからしても、被告人はAと喧嘩になることを予期しそのため木刀を手にしていたと推認することはあながち無理とはいえない。しかしながら、その後Bが仲裁に入り、同人から喧嘩をしないよう説得されたことにより、Aは、話合いの明確な意思- 3 -表示まではしなかつたものの、握つていた被告人の手を離し、一方、被告人は、手にしていた木刀を下駄箱の裏側に投げ入れたうえ、Aに向かつて「話合いをしようではないか。」といつて、先に立つて階段を下りているのであるから、この事実から合理的に推測するならば、木刀を捨てて階段を下りた時点では、被告人としてはAは話合いに応じるものと予期し、自らもその意図であることを積極的に示す態度に出たものと認めるのが自然である。もし右の時点で被告人がAとは話合いができずなお喧嘩になるものと予測していたのであるならば、空手の心得もあるAに腕力では到底かなわないと思つている被告人が、対抗すべき有力な武器である木刀を捨てることは、いかにも不自然である。また、原判決も肯認するとおり、被告人はAか いたのであるならば、空手の心得もあるAに腕力では到底かなわないと思つている被告人が、対抗すべき有力な武器である木刀を捨てることは、いかにも不自然である。また、原判決も肯認するとおり、被告人はAから攻撃を受けるや直ちに鋏で応戦することなく、当初はAの攻撃を避けて逃げ回り、さらに鋏を取り出した後も最初の段階では、それを振り回すなどしてAを威嚇する行動に出ていたに過ぎないのであるから、これら一連の行動からすれば、原判決のように被告人は当初から木刀を捨てても喧嘩に際しては隠し持つた鋏で対抗しようと意図していたと見ることは、相当でない。さらに原判決は、被告人が喧嘩を予期していたことを推認せしめる事由として、被告人が予め鋏を用意し隠し持つていたこと、被告人のAに対する攻撃の態様、すなわち刺突行為は胸腔内や心臓に達するほどの相当強力なものであり、しかもそれは木刀が折れてAの攻撃力が減じた後になされたと考えられることを挙げるのであるが、原判決がその判文中に引用する被告人の検察官に対する供述調書(昭和五〇年六月一一日付)の記載によつても、鋏は必ずしもAとの喧嘩に備えて用意したものといえるものではなく、また、Aに対する応戦行為は防衛の意思に憤激の情が加わつて激しくなつたものとも考えられるから、原判決の挙げる右各事由は、いずれも被告人がAとの喧嘩を予期していたことを裏付けるものということはできない。従つて、Aの木刀による攻撃は被告人の予期しなかつたことであつて、それは被告人に対する急迫不正の侵害というべき- 4 -であり、この点において、原判決が、被告人はAの攻撃を予期しており、その機会に積極的に同人を加害する意思であつたもので、Aの攻撃は侵害の急迫性に欠けるとしたのは、事実を誤認したものといわざるをえない。 そして、原判決及び第一審判決の認定する事実 撃を予期しており、その機会に積極的に同人を加害する意思であつたもので、Aの攻撃は侵害の急迫性に欠けるとしたのは、事実を誤認したものといわざるをえない。 そして、原判決及び第一審判決の認定する事実関係並びに原審及び第一審で取り調べた証拠により判断すると、Aの木刀による攻撃は、兇器の種類、形状及び攻撃態様等からして、被告人の生命、身体に対する侵害の危険を有するものであつたと認められ、それに対し、被告人は、前記のとおり当初は逃げ回りあるいは鋏を振り回して威嚇する行為に出たが、それでもなお攻撃を止めないAに対し鋏でその胸部等を突き刺すに至つたものであつて、その経過、状況からすれば、被告人が右刺突行為に及んだのは、自己の生命、身体を防衛する意思に出たものと認めるのが相当である。しかしながら、被告人は、Aの攻撃力が木刀の折損等により相当弱まつたにもかかわらず、なお反撃行為を継続してついにAを殺害するに至つたものと認められるから、被告人のAに対する刺突行為は、全体として防衛のためにやむをえない程度を超えたものといわざるをえない。また、鋏の携帯については、たとえそれが第一審判決の指摘するような防衛の目的でしかも時間的、場所的に限られた範囲にとどまつたとしても、それをもつて違法性が阻却されるべき事由となすことはできないというべきである。 そうすると、被告人の本件殺人は、Aによる急迫不正の侵害に対し自己の生命、身体を防衛するためその防衛の程度を超えてなされた過剰防衛にあたり、理髪用鋏の携帯については銃刀法違反罪が成立するというべきであるから、右殺人について正当防衛のみならず過剰防衛の成立をも否定した原判決は事実を誤認したものであり、また、右殺人について正当防衛の成立を認め、鋏の携帯について違法性阻却を認めた第一審判決は事実を誤認しまたは法令の解釈適用 当防衛のみならず過剰防衛の成立をも否定した原判決は事実を誤認したものであり、また、右殺人について正当防衛の成立を認め、鋏の携帯について違法性阻却を認めた第一審判決は事実を誤認しまたは法令の解釈適用を誤つたものといわざるをえない。 - 5 -三以上の次第で、原判決及び第一審判決には、判決に影響すべき事実誤認あるいは法令違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められるから、刑訴法四一一条一号、三号により原判決及び第一審判決をいずれも破棄し、同法四一三条但書により更に判決することとする。 原判決の挙示する証拠によれば、被告人は、第一徳島市a町bc番地所在のC株式会社工員寮に寄宿し熔接工として働いていたが、かねてより同僚のA(当時三八年)と仕事のことなどで反目し合つていたところ、昭和五〇年五月二四日午後八時ころ仕事を終えて酒店で飲酒中右Aと口論となり、同人より手拳で顔面を殴打され前歯を折られるなどの傷害を負わされ、その場は同僚らに仲裁されて前記寮に戻つたものの、Aに対する憤まんやるかたなく、同日午後一〇時ころ、寮に帰つてきたAが大声で被告人を呼ぶのに応じ、木刀一本(高松高等裁判所昭和五四年押第二三号の二は折れたもの)を携えさらに理髪用鋏一丁(同押号の一)をズボンの後ポケツトに入れて寮二階ホールに赴き、Aと対峙したが、間もなく同僚のBが仲裁に入り、同人から説得されたため、Aと話合いをする積もりで、右木刀を下駄箱の裏側に投げ入れ、「話合いをしようではないか。」といつて先に右ホールから前庭に通じる階段を下りて行つたところ、Aが不意に右下駄箱を倒して木刀を取り出し、それを振りかざして殴りかかり、頭、足首等を殴打してきたことから、自己の生命、身体を防衛するため、防衛の程度を超えて、殺意を持つて、寮前庭において右理髪用鋏でAの左胸 下駄箱を倒して木刀を取り出し、それを振りかざして殴りかかり、頭、足首等を殴打してきたことから、自己の生命、身体を防衛するため、防衛の程度を超えて、殺意を持つて、寮前庭において右理髪用鋏でAの左胸部、腹部等約一三か所を突き刺し、よつて同人を左胸部刺創に基づく心臓タンポナーデにより間もなく同所で死亡させて殺害し、第二業務その他正当な理由がないのに、右の日時場所において、刃体の長さ約九センチメートルの右理髪用鋏一丁を携帯したことが認められる。なお、弁護人及び被告人は、右第一の殺人について正当防衛を、同第二の鋏の携帯について違法性阻却を主張するが、前記のとおり、前者については過剰防衛が認められる限度で理由があり、後者につい- 6 -ては理由がないものである。 法令に照らすと、被告人の右第一の行為は刑法一九九条に、同第二の行為は昭和五二年法律第五七号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法三二条二号、二二条に該当するので、各所定刑中、第一の罪につき有期懲役刑を、第二の罪につき懲役刑をそれぞれ選択するところ、検察事務官作成の別事件確定裁判通知書によれば、被告人は昭和五七年一二月二三日高松地方裁判所丸亀支部で暴行、恐喝罪により懲役一年二月、執行猶予三年に処せられ、右裁判は昭和五八年四月六日確定したことが認められ、刑法四五条前段及び後段によれば、本件各罪と右確定裁判のあつた罪とは併合罪の関係にあるので、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない本件各罪について更に処断することとし、同法四七条本文、一〇条により重い第一の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役四年に処し、同法二一条を適用して第一審における未決勾留日数中一〇〇〇日を右刑に算入し、押収してある理髪用鋏一丁(高松高等裁判所昭和五四年押第二三号の一)は、第一の殺 した刑期の範囲内で被告人を懲役四年に処し、同法二一条を適用して第一審における未決勾留日数中一〇〇〇日を右刑に算入し、押収してある理髪用鋏一丁(高松高等裁判所昭和五四年押第二三号の一)は、第一の殺人の犯行の用に供した物で被告人以外の者に属しないから、同法一九条一項二号、二項によりこれを没収し、第一審及び原審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。 よつて、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。 検察官村上尚文公判出席昭和五九年一月三〇日最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官大橋進裁判官木下忠良裁判官鹽野宜慶裁判官宮崎梧一- 7 -裁判官牧圭次- 8 -

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る