主文 被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中430日をその刑に算入する。 さいたま地方検察庁で保管中の年金生活者支援給付金請求書1枚(令和5年さいたま領第762号符号1-1)の偽造部分を没収する。 理由 (罪となるべき事実)第1(令和4年10月26日付け追起訴分:訴因変更後のもの)被告人は、埼玉県本庄市(住所省略)所在の被告人方において、Dと同居し、同市(住所省略)所在のE銀行F支店に開設された同人名義の普通預金口座を管理していたものであるが、平成29年9月24日頃、Dが死亡しているのを認め 1 Dが受給していた老齢基礎年金及び遺族厚生年金をだまし取ろうと考え、同人には同居の親族が存在しなかったのであるから、同居者として、老齢基礎年金についてはDが死亡した日から14日以内に、遺族厚生年金については同人の死亡した日から10日以内に、それぞれ同人が死亡した旨を日本年金機構を介して厚生労働大臣に届け出なければならないのにあえて届け出ず、かつ、Dの死亡の事実を知った日から7日以内に同人が死亡した旨を本庄市役所に届け出なかったことにより、東京都千代田区(住所省略)所在の厚生労働省年金局事業管理課において、同課課長に、Dが生存しており、同人に前記各年金の受給権があり、その支給義務があるものと誤信させ、よって、別表1(掲載省略)記載のとおり、平成29年12月15日から令和4年2月15日までの間、26回にわたり、前記課長らに、前記普通預金口座に、現金合計1140万4530円を振込入金させ、 2 Dを給付対象者とする年金生活者支援給付金をだまし取ろうと考え、令和元年12月15日頃、真実は、同人が死亡しており、前記給付金の給付対象者に該当しないのに、同人が生存しているかのように装い、氏 2 Dを給付対象者とする年金生活者支援給付金をだまし取ろうと考え、令和元年12月15日頃、真実は、同人が死亡しており、前記給付金の給付対象者に該当しないのに、同人が生存しているかのように装い、氏名欄に「D」などと記載され、同人を給付対象者とする同給付金の支払を申請する内容の偽造された年金生活者支援給付金請求書(令和5年さいたま領第762号符号1-1)を、埼玉県内から東京都杉並区(住所省略)所在の日本年金機構宛てに郵送し、同月18日頃、同請求書を同機構本部に到達させて、これをあたかも真正に成立したもののように装って行使し、その頃、同機構職員らを介し、前記厚生労働省年金局事業管理課課長に、Dが生存しており、同人を給付対象者とする前記給付金を支払うべきものと誤信させ、同人を給付対象者とする前記給付金を支払うことを決定させ、よって、別表2(掲載省略)記載のとおり、令和2年2月14日から令和4年2月15日までの間、13回にわたり、前記課長らに前記普通預金口座に、現金合計14万324円を振込入金させ、もってそれぞれ人を欺いて財物を交付させた。 第2(令和4年7月15日付け追起訴分の第1)被告人は、令和3年1月24日午前10時7分頃、前記第1記載の被告人方(以下同じ。)において、分離前の相被告人Aの長男であるC(当時4歳。)に対し、その胸ぐらを手でつかんで引きずり、その顔面を1回平手で殴る暴行を加えた。 第3(令和4年6月16日付け追起訴分の第1)被告人は、Aと共謀の上、令和3年1月31日午前10時39分頃から同日午前11時2分頃までの間に、被告人方において、Cに対し、その顔面を複数回平手で殴り、その襟付近をつかんで引き倒すなどの暴行を加えた。 第4(令和4年6月1日付け追起訴分の第1)被告人は、A及び分離前 に、被告人方において、Cに対し、その顔面を複数回平手で殴り、その襟付近をつかんで引き倒すなどの暴行を加えた。 第4(令和4年6月1日付け追起訴分の第1)被告人は、A及び分離前の相被告人Bと共謀の上、令和3年1月31日午後8時46分頃から同日午後8時55分頃までの間、被告人方において、Cに対し、同人をプラスチック製樽の中に入れて蓋を閉めた上、同樽を横に倒して回転させ、同樽を多数回叩く暴行を加えた。 第5(令和4年7月15日付け追起訴分の第2)被告人は、令和3年3月4日午前11時45分頃、被告人方において、Cに対し、その頭部等を2回足で蹴る暴行を加えた。 第6(令和4年6月16日付け追起訴分の第2)被告人は、Aと共謀の上、令和3年3月5日午後8時57分頃、被告人方において、Cに対し、その両足をつかみ、その身体を持ち上げて逆さづりにした状態で振り回す暴行を加えた。 第7(令和4年7月15日付け追起訴分の第3)被告人は、令和3年3月22日午後2時34分頃から同日午後2時35分頃までの間、被告人方において、Cに対し、その身体を手で押して突き倒し、その頭部等を複数回はえたたきで殴る暴行を加えた。 第8(令和4年6月1日付け追起訴分の第2)被告人は、A及びBと共謀の上、令和3年5月29日午後零時2分頃から同日午後零時9分頃までの間に、被告人方において、Cに対し、2回にわたり、Bが、Cの両足をつかみ、その身体を持ち上げて逆さづりにした状態で振り回すなどの暴行を加えた。 第9(令和4年6月1日付け追起訴分の第3)被告人は、A及びBと共謀の上、令和3年5月29日午後零時22分頃、被告人方において、Cを木材及び金網で組み立てられた猫用ケージの中に入れ、その出入口にテーブルを置くなどして同人を同ケージ内に 被告人は、A及びBと共謀の上、令和3年5月29日午後零時22分頃、被告人方において、Cを木材及び金網で組み立てられた猫用ケージの中に入れ、その出入口にテーブルを置くなどして同人を同ケージ内に 閉じ込め、同日午後2時59分頃までの間、同人を同ケージ内から脱出することを著しく困難にさせ、もって不法に人を監禁した。 第10(令和4年6月1日付け追起訴分の第4)被告人は、A及びBと共謀の上、令和4年1月16日午後9時36分頃から同日午後10時19分頃までの間に、被告人方において、C(当時5歳)に対し、複数回、同人を投げ倒すなどの暴行を加えた。 第11(令和4年4月15日付け起訴分の第1)被告人は、A及びBと共謀の上、令和4年1月18日、被告人方において、Cに対し、A及びBが、Cを投げ倒してその後頭部を畳に打ち付けさせるなどの暴行を加え、よって、同人に後頭部打撲による脳幹損傷の傷害を負わせ、同日頃、同所において、同人を同傷害により死亡させた。 第12(令和4年4月15日付け起訴分の第2)被告人は、A及びBと共謀の上、令和4年1月19日頃、被告人方1階南側和室において、その床下に穴を掘ってCの死体を入れた上、土砂をかぶせて埋め、もって死体を遺棄した。 (事実認定の補足説明) 1 争点について判示第1から第10及び第12の各事件について(以下、判示第1を「第1事件」とする例により、各事件を表記する。)、公訴事実に争いはなく、関係各証拠により認定できる。本件の争点は、第11事件について、被告人が傷害致死の責任を負うか、暴行の限度で責任を負うにとどまるかである。当裁判所は、A及びBの行った各暴行が、いずれも被告人ら3名の暴行の共謀の範囲に含まれるものと認め、被告人は共同正犯として傷害致死の責任を負うと判断した。以下、その理 責任を負うにとどまるかである。当裁判所は、A及びBの行った各暴行が、いずれも被告人ら3名の暴行の共謀の範囲に含まれるものと認め、被告人は共同正犯として傷害致死の責任を負うと判断した。以下、その理由を説明する。なお、以下の月日は断わりのない限り、令和4年を指す。 2 前提となる事実関係各証拠に加え、A及びBの証言によれば、少なくとも以下の事実が認められる。 ⑴ 被告人、A及びBは、A親子が被告人方で居候し始めた令和3年1月以降、Cに対し、返事をしないなどの理由で、第2事件から第9事件の各暴行等を行っていた。そして、被告人らは、令和3年の年末頃には、Cを投げ倒すことを「相撲」と称するようになり、「相撲」と言われたCは、嫌がって泣き出したりするようになった。 ⑵ 被告人らの間では、Cとの関係で、力の強いBを「真打」と呼ぶなどしていた。 ⑶ 1月16日の第10事件の際、被告人がAに対し「相撲の時間かな、お母さん」などと言い、AがCの両手を持って、Cの足に自分の足を掛けて後方に倒すことを繰り返し、被告人やBは、その様子を見ていた。Cは、同事件の時、ラグビーに使用するヘッドキャップを着用させられていた。 ⑷ 1月18日の第11事件の際、被告人は、AがおもらしをしたCを叱っている場で、Aに対して相撲取ったらなどと言い、Aが繰り返しCに足を掛けて後方に倒し、被告人やBは、その様子を見ていた。その後、被告人は、Bに対しても相撲をしたらどうかという趣旨のことを言い、Bが、二度にわたりCを右腰辺りまで持ち上げて、そのまま前方に投げて、背面から畳に倒した。 3 Aらの各証言の評価等⑴ A及びBは、証言時点では既に第一審で有罪判決を受け、量刑不当を理由に控訴中の立場であったものの、両者共に本件傷害致死を含む全ての公訴事 げて、背面から畳に倒した。 3 Aらの各証言の評価等⑴ A及びBは、証言時点では既に第一審で有罪判決を受け、量刑不当を理由に控訴中の立場であったものの、両者共に本件傷害致死を含む全ての公訴事実を認めており、その証言内容はCに関連する事件の主 要部分で一致している。特に、第11事件に関する各証言は、被告人らの言うことを聞かないCに対して、被告人がAらに体罰を指示するという、それまでの暴行に至る流れや、2日前に同じ「相撲」が行われた第10事件の際の流れと整合し、具体的かつ自然な内容となっている。 また、各人の暴行のやり方も含め、不利益部分についても具体的に述べており、両証言は基本的に信用することができる。 ⑵ これに対し、弁護人は、AとBの証言について、①AがCに対し行った暴行の回数が多いことや、被告人とBの関係性からして、被告人の影響でCに暴行をしたとする点は不自然であること、②主要部分に食い違いがあること、③被告人がBに対し相撲を指示した際、普段は使わない「Bさん」との呼び方だったとする点で両証言が一致していることは不自然であることなどを挙げて、信用できない旨主張している。 しかし、①弁護人が指摘する点を踏まえても、Cに対する暴行に被告人の影響があったことは、各暴行の際の様子が動画撮影されたものの静止画等の客観証拠に整合していて不自然とはいい難い。また、②弁護人が主要部分として指摘する、Aが被告人方に来る前にCに対して適切なしつけをしていたか否かとか、第6事件や第10事件以前にBが同種暴行に及んでいたか否かといった部分は、いずれも傷害致死事件の責任を考える上では周辺的な内容にとどまっており、両証言の信用性を揺るがすものとはいえない。さらに、③被告人がBに対し相撲を指示した際のBの呼び方については、第10事件の際の音声 れも傷害致死事件の責任を考える上では周辺的な内容にとどまっており、両証言の信用性を揺るがすものとはいえない。さらに、③被告人がBに対し相撲を指示した際のBの呼び方については、第10事件の際の音声でも、被告人が「Bさんがやるわけにいかないんでね。お母さん。」と発言していたことに照らすと、両証言が一致していること自体が不自然とはおよそいえない。したがって、弁護人の指摘を踏まえても、両証言は信用することができる。 ⑶ これに対し、被告人は、公判廷において、第11事件の際はAに「相撲」を取るように言っていない上、BがCを叱るのをやめさせるためにAを帰宅させたのであるから、Bに「相撲」を指示するはずがないとか、Aが帰ってきてからは麻雀のルールを覚えることに集中していたから、AがCを投げ倒す様子も、Bが立ち上がって1回目の投げ倒しをするのも見ていなかった、などと供述している。 しかし、被告人のこれらの供述は、全体として曖昧な部分が多い上、AにもBにも「相撲」を指示していないとする点で、前記信用できるA及びBの証言と大きく食い違っている。また、捜査段階で一切していなかった麻雀の話を突如法廷で始めた点は、あまりに不自然というほかない。さらには、第11事件時のAやBの暴行状況を目撃していただけでなく、自分も相撲をするように言ったと思う旨述べていた検察官調書(乙33号証)から供述を変えた理由についても、合理的な説明がないのであって、傷害致死の責任を否定する部分の被告人の公判供述は信用できない。 4 以上を前提に検討すると、第11事件について、被告人が、Bもいる場でAにCを投げ倒す暴行として「相撲」をするよう促したことで、被告人ら3名は、Cを投げ倒す暴行を行う意思を相通じたと認められる。 そして、Aが第10事件と同じやり方で複数回 いて、被告人が、Bもいる場でAにCを投げ倒す暴行として「相撲」をするよう促したことで、被告人ら3名は、Cを投げ倒す暴行を行う意思を相通じたと認められる。 そして、Aが第10事件と同じやり方で複数回後方に倒した後に、被告人がBにも「相撲」を促したことで、被告人らは、Aより力の勝るBが、Cを投げ倒す暴行を行う意思を相通じたといえる。これを受けたBが、Cを持ち上げて背面から畳に投げ倒すなどしたことは、Cを投げ倒す暴行にほかならないから、前記共謀の範囲に含まれる暴行と評価できる。 これに対し、弁護人は、第11事件におけるBの暴行は、非常に強度でこれまでの暴行とは明らかに一線を画する危険なものであり、被告人 が容認していたものではないから、Bによる暴行については共謀がなく、被告人はAによる暴行の限度で責任を負うにとどまる旨を主張している。 確かに、Bの行った暴行のやり方は、それまで行われてきた「相撲」より強度なものであったといえる。しかし、そもそも「相撲」とされていた、Cに足を掛けて後方に倒す暴行は、気を付けていたとはいえ、十分な受け身も取れない年齢のCに対しては、打ちどころによりけがを負わせかねない危険があったし、同様の暴行をした二日前の第10事件では、Cにヘッドキャップまで着用させていたのである。そうすると、Bの暴行がこれと一線を画するほど危険性に違いがあるものとはいえない。また、「真打」と呼んでいた力の勝るBに「相撲」を促せば、Aよりも強度に転倒させ得ることは、被告人も分かっていたといえる。そうすると、本件でBが行った暴行は、被告人がBに促した「相撲」の範囲内であったといえるから、共謀に基づくものと評価できる。 5 したがって、被告人は共同正犯として傷害致死の責任を負うと判断した。 (量刑の理由) 1 本件は、被告人 がBに促した「相撲」の範囲内であったといえるから、共謀に基づくものと評価できる。 5 したがって、被告人は共同正犯として傷害致死の責任を負うと判断した。 (量刑の理由) 1 本件は、被告人が同居の高齢者が死亡したことを届け出ずに年金を詐取したという詐欺等の事件(判示第1)と、被告人らが、同居していたAの実子(以下「被害児」という。)に対し、複数回の暴行や監禁行為を行った末に、同人を暴行死させ、その死体を自宅の床下に遺棄したという事件(判示第2以降)からなる事案である。 2 判示第2以降の犯行に至る経緯被告人は、知人方で居候していたA親子と知り合い、令和3年1月頃、知人方での居候を解消したA親子を、内縁の夫であったBと住む自宅に受け入れて、同居するようになった。そして、被告人は、Aの金銭 的な管理をするとともに、被害児に対するしつけにも関与するようになり、A親子との同居後ほどなくして、被害児への体罰を行うようになっていった。 3 量刑の中心となる傷害致死事件についてみると、Aが「相撲」として被害児に足を掛けて繰り返し後方に倒した暴行は、受け身のとれない年齢の被害児が頭部等をぶつけるおそれがあり、相当危険である。また、被害児を持ち上げて背面から畳に投げつけたBの暴行も、勢いがあり、結果として被害児を死亡させるほどの衝撃を与えている。複数人の大人が、幼い子供相手に行った一連の暴行は、執拗で、悪質極まりなく、わずか5歳で、適切な救命措置もとられずに息絶えていった被害児の肉体的・精神的苦痛は計り知れない。そればかりか、被告人らは、犯行が発覚しないようにと、被害児の遺体に生ゴミ用の防虫脱臭剤を撒いて自宅の床下に埋めるに至っている。 一連の事件において、被告人は、AやBに被害児への暴行を促すなどして犯行を主導し 人らは、犯行が発覚しないようにと、被害児の遺体に生ゴミ用の防虫脱臭剤を撒いて自宅の床下に埋めるに至っている。 一連の事件において、被告人は、AやBに被害児への暴行を促すなどして犯行を主導しており、その延長線上で、被告人がAとBに「相撲」を指示したことで、傷害致死事件が起きている。被告人が同事件で直接暴行を行っていないことや、Bの暴行がそれまでよりも強度であったことを考慮しても、被告人の言動や存在が不可欠の要素となって一連の犯行が実現したことは明らかである。被告人の刑事責任は全体として死亡結果に大きく関わったB同様に重大であり、しつけなどと称し、被害児にとっていわれなき暴行を継続した被告人の意思決定は、厳しい非難に値する。 4 以上に加え、被害児に対する暴行が常習化していたことや、被告人が4年以上にわたり総額1100万円を超える年金の詐欺事件等を起こしたことも併せ考えると、本件犯行全体は、傷害致死の同種事案(児童虐 待、凶器等なし、被告人から見た被害者の立場が子又は知人等、前科等なし)の中でも、特に重い部類に属するといえる。 5 その上で、公判廷において被告人が一応の反省の弁を述べてはいるものの、不合理な弁解に終始して、自らの責任に真に向き合っているとはいい難いことも考慮して、主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑:懲役15年、主文掲記の没収)
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