- 1 -主文 本件訴えのうち,内閣総理大臣が社会保険庁及び厚生労働省に対して内閣法6条に基づく指揮監督権を行使すべき旨を命ずることを求める部分,内閣総理大臣が社会保険庁及び厚生労働省に対して同条に基づく指揮監督権を行使する義務があることの確認を求める部分,並びに内閣総理大臣が社会保険庁及び厚生労働省に対して同条に基づく指揮監督権を行使しないことの違法確認を求める部分をいずれも却下する。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 内閣総理大臣は,社会保険庁が別紙社会保険庁不正支出一覧表記載のとおり合計38億9009万1573円の不正支出をしたことにより国庫に同額の損害を与えたことについて同庁に対し,また,厚生労働省が別紙グリーンピア無駄一覧表記載のとおり合計1951億8000万円の不正支出をしたことにより国庫に同額の損害を与えたことについて同省に対し,それぞれ内閣法6条に基づく指揮監督権を行使せよ。 内閣総理大臣が,社会保険庁が別紙社会保険庁不正支出一覧表記載のとおり合計38億9009万1573円の不正支出をしたことにより国庫に同額の損害を与えたことについて同庁に対し,また,厚生労働省が別紙グリーンピア無駄一覧表記載のとおり合計1951億8000万円の不正支出をしたことにより国庫に同額の損害を与えたことについて同省に対し,それぞれ内閣法6条に- 2 -基づく指揮監督権を行使する義務があることを確認する。 内閣総理大臣が,社会保険庁が別紙社会保険庁不正支出一覧表記載のとおり合計38億9009万1573円の不正支出をしたことにより国庫に同額の損害を与えたことについて同庁に対し,また,厚生労働省が別紙グリーンピア無駄一覧表記載のとおり合計1951億 出一覧表記載のとおり合計38億9009万1573円の不正支出をしたことにより国庫に同額の損害を与えたことについて同庁に対し,また,厚生労働省が別紙グリーンピア無駄一覧表記載のとおり合計1951億8000万円の不正支出をしたことにより国庫に同額の損害を与えたことについて同省に対し,それぞれ内閣法6条に基づく指揮監督権を行使しないことが違法であることを確認する。 被告は,原告らに対し,それぞれ300万円を支払え。 第2事案の概要 事案の骨子本件は,原告らが,社会保険庁及び厚生労働省が違法な支出や採算性のない施設の建設等不適切な支出を行い,年金資金及び国庫に多額の損害を与え,年金給付の基礎を脅かした旨主張して,被告に対し,内閣総理大臣が社会保険庁及び厚生労働省に対して内閣法6条に基づく指揮監督権を行使すべき旨を命ずること(以下,当該訴えを「本件義務付けの訴え」という。),内閣総理大臣が社会保険庁及び厚生労働省に対して同条に基づく指揮監督権を行使する義務のあることの確認(以下,当該訴えを「本件義務確認の訴え」という。),並びに内閣総理大臣が社会保険庁及び厚生労働省に対して同条に基づく指揮監督権を行使しないことの違法確認(以下,当該訴えを「本件不作為の違法確認の訴え」という。)を求めるとともに,被告の公務員の行為が国家賠償法上違法なものであり,これにより将来受けるべき年金受給額が減額されるという財産的損害及び安心して年金を受給できるという期待等を侵害されるという精神的- 3 -損害を被った旨主張して,国家賠償としてそれぞれ金300万円の支払を求める事案である。 前提事実本件の前提となる事実は,次のとおりである。なお,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実並びに当裁判所に顕著な事実は,その旨付記しており,それ以 を求める事案である。 前提事実本件の前提となる事実は,次のとおりである。なお,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実並びに当裁判所に顕著な事実は,その旨付記しており,それ以外の事実は,当事者間に争いがない。 ( )ア内閣総理大臣は,内閣法6条に基づき,行政各部を指揮監督する権限を 有するものである。 イ厚生労働省は,政府が管掌する厚生年金保険事業及び国民年金事業を所管するものであり,社会保険庁は,政府が管掌する厚生年金保険事業及び国民年金事業を適正に運営すること等を任務とするものである。 ( )社会保険庁は,別紙「社会保険庁不正支出一覧表」記載の金銭登録機の 2 ア調達,届出用紙等印刷システムの調達及び監修料の実態に関して調査を行い,平成17年1月14日付けで,「社会保険庁をめぐる不祥事案等に関する調査報告書」を作成した。(甲1)イ会計検査院は,平成15年度決算検査報告において,金銭登録機の調達につき,「金銭登録機の調達を随意契約により実施していたのは,契約の公正性,透明性,競争性,経済性等が確保されておらず適切でなく,これに係る14,15両年度の購入額446,486,040円は不当と認められる。」と報告し,また,届出用紙等印刷システムの調達につき,「使用実績などを考慮すると,印刷システム導入に当たって検討を十分行った- 4 -とは認められず,届出書等のコピー等で十分に対応が可能であったのに,印刷システムを導入したことは適切でなく,この印刷システムに係る支払額2,271,364,533円が不当と認められる。」と報告した。 (甲2)( )ア大規模年金保養基地建設事業(以下「グリーンピア事業」という。)は, 平成12年法律第20号による廃止前の年金福祉事業団法(以下「旧年金福祉事業団法」という。)1 と報告した。 (甲2)( )ア大規模年金保養基地建設事業(以下「グリーンピア事業」という。)は, 平成12年法律第20号による廃止前の年金福祉事業団法(以下「旧年金福祉事業団法」という。)1条1号及び平成13年政令第21号による廃止前の年金福祉事業団法施行令1条等の法令の規定並びに「大規模年金保養基地の設置及び運営に関する全体基本計画」に基づき行われてきた。 (弁論の全趣旨)イ大規模年金保養基地(以下「グリーンピア」という。)は,別紙「グリーンピア無駄一覧表」の「場所」欄記載の場所に所在し,「開業」欄記載の年月に開業した。 ウ第2次臨時行政調査会は,昭和58年3月,「大規模年金保養基地について,建設中の基地以外の新設は今後行わず,かつ,その運営をすべて民間又は地方公共団体に委託する」旨の最終答申をし,内閣は,同59年1月,上記最終答申と同旨の閣議決定をした。(弁論の全趣旨)エグリーンピアは,別紙「グリーンピア無駄一覧表」の「処分」欄記載の年月に,同欄記載のとおり譲渡された。 ( )原告らは,平成18年6月5日,本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著 な事実) 争点 - 5 -( )本件義務付けの訴え,本件義務確認の訴え及び本件不作為の違法確認の訴 えは,法律上の争訟に該当しない不適法な訴えか。 ( )本件義務付けの訴え及び本件不作為の違法確認の訴えは,行政処分に当た らない行為を対象とする不適法な訴えか。 ( )本件義務確認の訴えは,確認の利益を欠く不適法な訴えか。 ( )被告の公務員の行為は,国家賠償法上違法なものか。 ( )内閣総理大臣は,厚生労働省及び社会保険庁に対し,内閣法6条に基づく 指揮監督権を行使すべき義務を負うか。 当事者の主張の要旨( )争点( )(法律上の争訟性)について ものか。 ( )内閣総理大臣は,厚生労働省及び社会保険庁に対し,内閣法6条に基づく 指揮監督権を行使すべき義務を負うか。 当事者の主張の要旨( )争点( )(法律上の争訟性)について (原告らの主張)ア判例上,法律上の争訟に当たらないとされているのは,当該行為だけではいまだ原告の権利に全く関係がない場合,宗教論争や科学論争など法律的判断になじまない判断が必要不可欠な場合,全く具体的紛争性を欠いている場合などである。 しかし,原告らに対する年金の給付は年金積立金が財源になっていることから,それが無駄遣いによって減少することは,必然的に原告らに対する給付額が減少するという不利益を生じさせる。これは,原告ら1人1人が直接に被る不利益であり,決して抽象的な国家の年金制度の在り方の問題ではない。 本件訴えは,原告らの受けるべき給付額の減少という法律上保護されるべき利益に関する訴訟であり,その判断の対象も年金財源の管理の違法性- 6 -という法律問題であり,かつ,原告らの受けるべき年金の受給権を確保するための具体的紛争に関する訴訟である。 イまた,いわゆる規制行政や監督行政の場面において,被規制者や被監督者ではないが被害を受けた第三者に対する行政主体の規制監督権限の不行使の違法性を問う裁判において,法律上の争訟性が認められている。 ウよって,本件義務付けの訴え,本件義務確認の訴え及び本件不作為の違法確認の訴えは,法律上の争訟に該当するものである。 (被告の主張)ア裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」,すなわち,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。 これ 判所法3条1項にいう「法律上の争訟」,すなわち,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。 これを本件についてみると,原告らは,「将来年金受給資格を有する」者という立場において,厚生労働省及び社会保険庁が行った行為について,内閣総理大臣が内閣法6条に基づく指揮監督権を行使することの義務付け,これを行使をすべき義務があることの確認,及びこれを行使しないことが違法であることの確認を求めるものである。しかしながら,同条の内閣総理大臣の指揮監督権は,内閣の首長たる内閣総理大臣が,あらかじめ閣議にかけて決定した方針に基づき,内閣を統轄するため,かつ,それに必要な限度において,各省大臣に対し行使されるものであり,国民の権利義務に変動を生じさせるものではない。他方,原告らが主張する「将来年金の受給資格を有する」者という地位は,国民が広く有する極めて一般的な立- 7 -場にすぎない。そうすると,原告らは,国民一般の立場から,内閣総理大臣が厚生労働大臣及び社会保険庁長官に対して指揮監督権限を行使することを求めるにすぎない。このような訴えが,裁判所に対し具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争について審判を求めるものでないことは明らかである。 したがって,本件訴えは法律上の争訟に当たらず,不適法である。 イ原告らの主張は,結局,「将来年金の受給資格を有する」者という国民が広く有する一般的な立場において,年金財源の減少による影響という国民のすべてに等しくかかわる利益を主張するものであることが,その主張自体から明らかである。しかも,内閣法6条の内閣総理大臣の指揮監督権は,内閣の首長たる内閣総理大臣が,あらかじめ閣議にかけて決定した方針に基づき,内 かかわる利益を主張するものであることが,その主張自体から明らかである。しかも,内閣法6条の内閣総理大臣の指揮監督権は,内閣の首長たる内閣総理大臣が,あらかじめ閣議にかけて決定した方針に基づき,内閣を統轄するため,かつ,それに必要な限度において,各省大臣に対し行使されるものであり,国民の権利義務に変動を生じさせるものではない。すなわち,その「統轄」は「調整」を意味し,同条に基づく指揮監督権は,その統轄ないし調整に必要な限度で,内閣総理大臣が閣議にかけて決定された方針に基づき各省大臣に対して行使するものであり,行政組織における内部行為にすぎない。特定あるいは個別的な行政事務に対する指揮監督権は,当該各大臣の権限を媒介として行使されるものであり,内閣総理大臣の指揮監督権が当該大臣の権限の媒介なしに特定あるいは個別的な行政事務に及ぶものではない。そうであるならば,内閣総理大臣の指揮監督権の行使は,原告らの具体的な権利義務ないし法律関係とは,直接接点が生ずる余地がなく,したがってまた,原告らとの間でその権利- 8 -義務ないし法律関係について紛争が生じ得る余地もない。 そうすると,原告らは,「将来年金の受給資格を有する」者という国民一般の立場から,自己の具体的な権利義務とは接点の生ずる余地のない内閣総理大臣の厚生労働大臣及び社会保険庁長官に対する指揮監督権の行使を求めるにすぎない。このような訴えが裁判所に対し具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争について審判を求めるものでないことは明らかである。 ウ本件訴えは,国民ないしは納税者としての地位に基づいて,国に対し,国の行う具体的な国政行為の是正等を求める民衆訴訟としての性格を有するものというほかない。そうである以上,本件訴えは,行政事件訴訟法5条の民衆訴訟であり,このような訴訟形 地位に基づいて,国に対し,国の行う具体的な国政行為の是正等を求める民衆訴訟としての性格を有するものというほかない。そうである以上,本件訴えは,行政事件訴訟法5条の民衆訴訟であり,このような訴訟形態を許容する法律がない以上,法律に定めのない訴えとして不適法である。 ( )争点( )(行政処分該当性)について (原告らの主張)ア憲法は,内閣総理大臣は行政各部を指揮監督すると定め,これを受けて,内閣法6条は,内閣総理大臣の指揮監督権について定めている。すなわち,内閣総理大臣に指揮監督権が付与されているのは,内閣の首長として,内閣がその職務を誠実に遂行するための強力な手段を付与したものである。 それ故,内閣のある部局が憲法や法律に違反した場合,ましてやその違反によって国民に不利益を与えた場合には,内閣の最高責任者として内閣総理大臣が当該部局に対して指揮監督権を行使して,内閣全体として憲法及び法律の遵守事務を遂行させるべき責任がある。 - 9 -このように,内閣総理大臣の指揮監督は,内閣の各部局の違法あるいは不当な行為から,国民の権利を擁護するために存在するものであり,その行為のいかんが国民の権利義務に影響を与えるものではないという被告の評価は誤っている。 イまた,被告は,行政庁の行為の名あて人のみが直接に権利義務を変動させられる者に該当し,行政行為の相手方として国民が予定されていない場合には,その行為には処分性がないという理解に立っているようである。 しかし,いわゆる規制行政や監督行政の場面において,被規制者や被監督者ではないが被害を受けた第三者に対する行政主体の規制監督権限の不行使の違法性を問う裁判において,処分性が認められている。 内閣総理大臣の指揮監督権限という行政の規制又は監督権限が行使されない場合に,それによって法律上 けた第三者に対する行政主体の規制監督権限の不行使の違法性を問う裁判において,処分性が認められている。 内閣総理大臣の指揮監督権限という行政の規制又は監督権限が行使されない場合に,それによって法律上保護された利益を害されるおそれがある国民に訴訟の道を開いたのが行政事件訴訟法37条の2所定の非申請型の義務付けの訴えである。 (被告の主張)ア原告らは,本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項1号に基づく義務付けの訴えであり,本件不作為の違法確認の訴えは,同条5項に基づく不作為の違法確認の訴え又は無名抗告訴訟としての義務確認訴訟であるとするものであるが,本件義務付けの訴え及び本件不作為の違法確認の訴えは,それぞれ抗告訴訟の対象とならない行為について義務付け又は不作為の違法確認を求めるものであるから,その訴えは不適法である。 すなわち,同条2項にいう「行政庁の処分」とは,行政庁の法令に基づ- 10 -く行為すべてを意味するものではなく,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものというとされている。そして,同条6項の義務付けの訴え及び同条5項の不作為の違法確認の訴えはもちろん,原告らが「無名抗告訴訟」して位置付ける不作為の違法確認の訴えも,抗告訴訟である以上,その対象はいずれも行政庁の処分でなければならない。 ところが,内閣法6条に基づく指揮監督権は,上記のとおり,内閣総理大臣が閣議にかけて決定された方針に基づき各省大臣に対して行使するもので,直接国民に対して向けられたものではなく,国民の権利義務に変動を生じさせるものではないから,抗告訴訟の対象となる行政庁の処分には当たらない。 イまた,内閣法6条に基づく指揮監督権の行使を求める申 ,直接国民に対して向けられたものではなく,国民の権利義務に変動を生じさせるものではないから,抗告訴訟の対象となる行政庁の処分には当たらない。 イまた,内閣法6条に基づく指揮監督権の行使を求める申請権が国民に付与されていないことはいうまでもないところであるから,行政事件訴訟法3条5項に基づく不作為の違法確認の訴えは,この点でも不適法である。 ( )争点( )(確認の利益)について (原告らの主張)現行法上,社会保険庁や厚生労働省の無駄遣いを是正する最も効果的で強力な行政組織上の制度は,内閣法6条に基づく内閣総理大臣の指揮監督権の行使であるから,この指揮監督権を行使することが必要かつ適切である。 (被告の主張)ア原告らは,本件義務確認の訴えについては,行政事件訴訟法4条に基づ- 11 -く確認の訴えであるとしているところ,確認の利益が認められるためには,「現に,原告の有する権利または法律的地位に危険または不安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り,許される」とされている。 しかしながら,原告らの主張する「将来年金の受給資格を有する」者という地位に現実かつ具体的な危険又は不安が存在するとはいえないし,そのようなものがあったとしても,内閣法6条に基づく指揮監督権を行使することが必要かつ適切ともいえないことは明らかである。 したがって,本件義務確認の訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法である。 イ本件義務確認の訴えの確認の利益の有無の判定に当たっては,原告らが主張する違法な支出行為との関係において,原告らに「現実かつ具体的な危険又は不安が存在する」か否かが検討されなければならない。そして,原告らの主張が「将来年金の受給資格を有する」者という国民が広く有する一般的な立場で,年金財源 において,原告らに「現実かつ具体的な危険又は不安が存在する」か否かが検討されなければならない。そして,原告らの主張が「将来年金の受給資格を有する」者という国民が広く有する一般的な立場で,年金財源の危うさを指摘し,将来の年金給付がおぼつかないという国民一般の立場からの不安をいうものにすぎない以上,原告らに「現実かつ具体的な危険又は不安が存在する」といえないことは明らかであり,原告らに本件義務確認の訴えの確認の利益を認めることはできない。 ( )争点( )(国家賠償法上の違法性)について (原告らの主張)ア原告らは,厚生労働省及び社会保険庁の公務員の違法な行為により,将- 12 -来受けるべき年金受給額が減額されるという財産的損害や,憲法13条の幸福追求権に基づく安心して年金を受給できるという期待及び信頼並びに適正な公務の遂行の期待権を侵害されるという精神的損害を被った。 イ厚生年金保険法79条,国民年金法75条,77条の規定や,国会において年金積立金の管理運用を適切に行うことを求める附帯決議がされたことからすると,適正な額の年金を受け取ることができるという利益は,法律によって保護された利益であることは明白である。 また,原告らが将来受け取るべき年金受給額は,乱費がある場合とない場合とを比較すれば,乱費がある場合に減少するという関係にあることは明らかである。 ウ被告の主張する国民一般とは,個々の年金受給者や将来年金を受給する個別の加入者から成る総体であるから,被告の主張は失当である。 (被告の主張)ア国家賠償法1条1項の「違法」が認められるためには,公務員が法律上保護された権利利益を侵害したことが必要である。そして,それは,同法上の損害賠償請求権の成立の問題であるから,同法上保護される権利利益であることを要する。 原 」が認められるためには,公務員が法律上保護された権利利益を侵害したことが必要である。そして,それは,同法上の損害賠償請求権の成立の問題であるから,同法上保護される権利利益であることを要する。 原告らは,憲法13条の幸福追求権の一内容として,安心して年金を受給することができるという期待と信頼及び適正な公務の遂行の期待権を有していると主張する。 しかしながら,その主張内容自体,漠然としており甚だ不明確である。 また,その主張は,国民一般が有する法的利益を主張するものにすぎず,- 13 -個別の国民が有する具体的な法的利益を主張するものではないから,上記主張は,法的利益の侵害の主張としては失当である。 また,原告らは,厚生労働省及び社会保険庁の行った乱費により,年金財源が不足し,将来受けるべき年金受給額が減額されるという財産的損害を被ったと主張する。 しかしながら,そもそも,原告らの主張する「将来受け取るべき年金受給額が減額されるという財産的損害」の内容自体が不明確である。また,原告らの主張する乱費によって原告らが将来受け取るべき年金受給額が減額されるという関係も漠然としており,利益侵害がなぜ発生するのか主張されていないから,法的利益の侵害の主張は,この点でも失当である。 イ国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。 したがって,同法上,違法が認められるためには,権利ないし法的利益を侵害された当該個別の国民に対する関係において,その損害につき国に賠償責任を負わせるのが妥当かどうかという観点から,職務上の法的義務に違背する行為があるか否かが判断されるべきであり,職務上の法 益を侵害された当該個別の国民に対する関係において,その損害につき国に賠償責任を負わせるのが妥当かどうかという観点から,職務上の法的義務に違背する行為があるか否かが判断されるべきであり,職務上の法的義務であっても,専ら公益目的のものや,行政の内部的な義務等,個別の国民に対して負担する義務でないものについては,同法上の違法の判断の対象とはならない。 これを本件についてみると,原告らは,国が,国民から徴収した税金,- 14 -年金等に係る徴収金を適切に管理,運用又は費消しなければならないにもかかわらず,厚生労働省や社会保険庁が様々な無駄遣いをしたために,財源不足が生じたことが個別の原告らとの関係で違法であるという主張をするようである。しかし,厚生労働省及び社会保険庁の公務員による年金等に係る徴収金の管理,運営等は,広く年金制度の維持運営にかかわる事柄であって,その適正な管理及び運営が求められるとしても,それは国民一般との関係で求められるにとどまり,個別の年金受給者や将来年金を受給する個別の加入者に向けられた法的義務を観念することはできない。 したがって,原告らの主張は,公務員が個別の国民に対して負うべき職務上の法的義務に違反があったことをいうものではなく,同法上の違法の主張としては失当である。 ウそもそも,国家賠償法は,個別の国民の具体的な権利ないし法的利益の侵害を救済するものであるから,原告らが主張する「個々の年金受給者や将来年金を受給する個別の加入者から成る総体」というものに対して,同法上の法的義務を観念することはできないのである。 本件で問題とされている,厚生労働省及び社会保険庁の公務員による税金や年金等に係る徴収金の管理及び運用それ自体は,広く年金制度の維持運営にかかわる事柄であって,その適正な管理及び運用が求められるとして で問題とされている,厚生労働省及び社会保険庁の公務員による税金や年金等に係る徴収金の管理及び運用それ自体は,広く年金制度の維持運営にかかわる事柄であって,その適正な管理及び運用が求められるとしても,それは国民一般との関係で求められるにとどまり,個別の年金受給者や将来年金を受給する個別の加入者に向けられた法的義務を観念することはできない。 厚生年金保険法や国民年金法における「被保険者の利益」も一般的又は- 15 -抽象的なものであって,厚生年金保険法79条の2などの規定が厚生労働省及び社会保険庁の公務員に対し,被保険者である個別の国民との関係で何らかの法的義務を課すものでないことは明らかである。 ( )争点( )(内閣総理大臣の指揮監督権を行使すべき義務の有無)について (原告らの主張)ア社会保険庁は,別紙「社会保険庁不正支出一覧表」記載のとおり,組織ぐるみで38億9009万1573万円もの不正支出を行ってきた。これらの不正支出のごく一部については,一部職員が弁償したとのことであるが,大部分については何らの賠償措置も講じられておらず,このまま放置された場合には,再び同様の不正支出が行われるおそれがあることから,社会保険庁全体に適切な指導監督がされる必要がある。 イ厚生労働省年金局は,年金積立金を財源としてグリーンピアを建設し,これを年金積立金を財源として運営していたのであるから,グリーンピアの建設及び運営によって欠損を生じないよう採算性について十分な注意を払って予測検討しなければならなかったにもかかわらず,このような慎重な検討を行うことなく巨額の資金を投入して安易に施設を建設し続け,全国に13もの採算の取れない無駄なグリーンピアを1951億8000万円をかけて建設し,その運営に費用を投入してきた。 ウ内閣総理大臣は,行 行うことなく巨額の資金を投入して安易に施設を建設し続け,全国に13もの採算の取れない無駄なグリーンピアを1951億8000万円をかけて建設し,その運営に費用を投入してきた。 ウ内閣総理大臣は,行政機関である厚生労働省や社会保険庁が不正支出を行った場合には,速やかに事実調査を命じ,その責任を明確にし,責任者に賠償をさせるなど,内閣法6条に基づく適切な指揮監督を行うべき義務を負っている。 - 16 -(被告の主張)グリーンピアを建設したのは,厚生労働省ではなく,年金福祉事業団である。また,グリーンピア事業は,年金を受給するまでの長期にわたり保険料を払い続ける被保険者等の福祉の向上を図ることを目的として,厚生年金保険法79条及び国民年金法74条に基づいて行われてきたものであり,被保険者の福祉の増進のため,一定の役割を果たしてきた。そもそも,グリーンピア事業は,年金積立金を被保険者に還元すべきであるとの国会の附帯決議や地元の要請を踏まえて,被保険者等の福祉の増進を目的として,旧年金福祉事業団法17条1項1号等に基づいて行われてきたものであり,事業に伴い支出された総工費約1952億円は,事業に伴い当然に発生する費用であって,この支出に法的な問題はない。さらに,全13施設すべてが売却された平成17年度までの累計で見ても,赤字となったのは7施設であり,各施設は運営委託先である財団法人あるいは地方公共団体による独立採算で運営されているので,運営の収支に関する赤字について年金積立金を財源とした支出はされていない。 第3争点に対する判断争点(1)(法律上の争訟性)について 裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象とな(1)るのは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,法令の適用によ 上の争訟性)について 裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象とな(1)るのは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,法令の適用により終局的に解決することができるものに限ら最高裁昭和27年(マ)第23号同年10月8日大法廷判決・民集6巻れる(,最高裁昭和61年(オ)第943号平成元年9月8日第二小法9号783頁- 17 -最高裁平成2年(行ツ)第192号同3年廷判決・民集43巻8号889頁,4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号518頁。 参照)(2)原告らは,社会保険庁がした不正支出及び厚生労働省がした不正支出によって年金積立金が減少し,これによって必然的に将来の年金支給額が減少するという不利益を被ることから,これを避けるために内閣総理大臣が内閣法6条に基づいて指揮監督権を行使して被害弁償等の適切な措置を社会保険庁及び厚生労働省に採らせる必要があるとして,社会保険庁及び厚生労働省がそれぞれした不正支出について,内閣総理大臣が内閣法6条に基づく指揮監督権を行使することの義務付け,これを行使すべき義務があることの確認,又はこれを行使しないことが違法であることの確認を求めている。 (3)しかし,原告らが厚生年金又は国民年金の保険料を納付し,65歳に達すれば厚生年金又は国民年金の支給を受ける権利を有する者ではないとすると,原告らが,社会保険庁及び厚生労働省がそれぞれした不正支出について,内閣総理大臣が内閣法6条に基づく指揮監督権を行使することの義務付け,これを行使すべき義務があることの確認,及びこれを行使しないことが違法であることの確認をそれぞれ求める本件義務付けの訴え,本件義務確認の訴え及び本件不作為の違法確認の訴えは,いずれも原告らが国民又は納税者の地位に 義務があることの確認,及びこれを行使しないことが違法であることの確認をそれぞれ求める本件義務付けの訴え,本件義務確認の訴え及び本件不作為の違法確認の訴えは,いずれも原告らが国民又は納税者の地位にあることに基づいて提起されたものということになるから,当事者間の具体的な権利義務にかかわらない訴えにほかならないというべきである。 (4)これに対し,原告らが厚生年金又は国民年金の保険料を現に納付し,65歳に達すれば厚生年金又は国民年金の支給を受ける権利を有する者であるとすると,本件義務付けの訴え,本件義務確認の訴え及び本件不作為の違法確- 18 -認の訴えは,いずれも原告らが年金受給資格者の地位にあることに基づいて提起されたものということになる。 しかし,内閣総理大臣は,憲法上,行政権を行使する内閣の首長として(66条),国務大臣の任免権(68条),内閣を代表して行政各部を指揮監督する職務権限(72条)を有するなど,内閣を統率し,行政各部を統括調整する地位にあり,内閣法は,閣議は内閣総理大臣が主宰するものと定め(4条),内閣総理大臣は,閣議にかけて決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督し(6条),行政各部の処分又は命令を中止させることができるものとしている(8条)から,内閣総理大臣が行政各部に指揮監督権を行使するためには,閣議にかけて決定した方針が存在することを要し,内閣総理大臣は,閣議にかけて決定した方針が存在しない限り,内閣法6条に基づく指揮監督権を行使することはできない。 また,内閣総理大臣が行政各部を指揮監督するというのは,各省庁の長に対し,その法律上の所掌事務及び権限を閣議にかけて決定した方針に従って行使するよう指揮監督することにほかならないが,ある省庁の長が内閣総理大臣の指揮監督に服さない場合,内閣総理大臣は,当該省庁の長を 対し,その法律上の所掌事務及び権限を閣議にかけて決定した方針に従って行使するよう指揮監督することにほかならないが,ある省庁の長が内閣総理大臣の指揮監督に服さない場合,内閣総理大臣は,当該省庁の長を媒介することなく,直接に当該省庁に対し特定ないし個別的な行政事務の実施を命ずることはできないのであり,上記場合に各省庁の長の法律上の所掌事務及び権限を閣議にかけて決定した方針に従って行使させるには,最終的には罷免権(憲法68条)を行使して当該省庁の長を交替させるほかない。そうすると,内閣法6条に基づく内閣総理大臣の指揮監督権は,閣議にかけて決定した方針が存在する場合においても,当該方針を実現するための強制力を伴う- 19 -ものではないというべきである。 さらに,閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても,前示の内閣総理大臣の地位及び権限に照らすと,流動的で多様な行政需要に遅滞なく対応するため,内閣総理大臣は,少なくとも,内閣の明示の意思に反しない限り,行政各部の長に対し,随時,その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導,助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である(最高裁昭和62年(あ)第1351号平成7年2月22日大法廷判決・刑集49巻2号1頁参照)が,閣議にかけて決定した方針が存在しない場合に内閣総理大臣が各省庁の長に対して行い得るのは,その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導,助言等の指示にとどまり,これを強制し得るものではない。 本件において,原告らが問題としている社会保険庁及び厚生労働省がそれぞれした不正支出について閣議にかけて決定した方針が存在しなければ,内閣総理大臣は,上記不正支出について社会保険庁及び厚生労働省の各長に対して上記不正支出について被害弁償等の適切な措置を採るよう内閣法6条 た不正支出について閣議にかけて決定した方針が存在しなければ,内閣総理大臣は,上記不正支出について社会保険庁及び厚生労働省の各長に対して上記不正支出について被害弁償等の適切な措置を採るよう内閣法6条に基づく指揮監督権を行使することはできない。仮に,上記方針が存在するのであれば,内閣総理大臣は,上記不正支出について社会保険庁及び厚生労働省の各長に対して上記不正支出について被害弁償等の適切な措置を採るよう内閣法6条に基づく指揮監督権を行使することができるが,その場合において,内閣総理大臣は,社会保険庁及び厚生労働省の各長に対してその法律上の所掌事務及び権限を当該方針に従って行使するよう強制することはできない。また,上記方針が存在していないとしても,内閣総理大臣は,社会保険- 20 -庁及び厚生労働省の各長に対して上記不正支出について被害弁償等の適切な措置を採るよう指導,助言等の指示をすることはできるが,その場合においても,上記措置を採るよう強制することはできない。 そうすると,仮に,上記不正支出について内閣法6条に基づく内閣総理大臣の行政各部の長に対する指揮監督権及び同条に基づかない内閣総理大臣の行政各部の長に対する権限が行使されたとしても,それによって直ちに年金受給資格者の地位にある原告らの具体的な権利義務に直接影響が及ぶということはできない。したがって,仮に,原告らが義務付け等を求めている対象に内閣法6条に基づかない内閣総理大臣の行政各部の長に対する権限が含まれていたとしても,原告らが年金受給資格者の地位にあることに基づいて提起した本件義務付けの訴え,本件義務確認の訴え及び本件不作為の違法確認の訴えは,いずれも当事者間の具体的な権利義務にかかわらない訴えにほかならないというべきである。 (5)以上によれば,本件義務付けの訴え,本件 付けの訴え,本件義務確認の訴え及び本件不作為の違法確認の訴えは,いずれも当事者間の具体的な権利義務にかかわらない訴えにほかならないというべきである。 (5)以上によれば,本件義務付けの訴え,本件義務確認の訴え及び本件不作為の違法確認の訴えは,いずれも原告らと内閣総理大臣との間における具体的な紛争を離れて,裁判所に対して,内閣法6条に基づく内閣総理大臣の指揮監督権の行使の義務付け等を求めるものに帰し,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」には当たらないというべきである。 争点( )(行政処分該当性)について ( )原告らは,本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項1号に基づく 義務付けの訴えであり,本件不作為の違法確認の訴えは,同条5項に基づく不作為の違法確認の訴え又は無名抗告訴訟としての義務確認訴訟であると主- 21 -張しているところ,これらが原告らの主張するような抗告訴訟として適法であるというためには,その対象とする内閣総理大臣の内閣法6条に基づく指揮監督権の行使が行政事件訴訟法3条2項所定の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」すなわち行政処分に該当することを要することとなる。 この行政処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち,その行為によって,直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解される(最高裁判所昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)ことから,内閣総理大臣の同条に基づく指揮監督権の行使が行政処分に該当するか否かについて検討する。 ( )既に判示したところによると,内閣法6条所定の内閣総理大臣の指揮監督 権は,内閣の首長たる内閣総理大臣が,あらかじめ閣議にかけて決定した方針 が行政処分に該当するか否かについて検討する。 ( )既に判示したところによると,内閣法6条所定の内閣総理大臣の指揮監督 権は,内閣の首長たる内閣総理大臣が,あらかじめ閣議にかけて決定した方針に基づき,内閣を統率し,行政各部を統轄調整するために行使されるものであり,いわば行政機関内部の行為ということができるのであって,直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものではないから,これを行政処分ということはできないといわざるを得ない(最高裁昭和49年(行ツ)第8号同53年12月8日第二小法廷・民集32巻9号1617頁参照)。 したがって,内閣総理大臣の指揮監督権の行使が行政処分であるという原告らの主張を採用することはできない。 ( )なお,原告らは,本件不作為の違法確認の訴えは行政事件訴訟法3条5項 - 22 -に基づく不作為の違法確認の訴えであるとも主張するが,同項所定の不作為の違法確認の訴えは,行政庁が法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにもかかわらず,これをしないことについて違法の確認を求める訴訟をいうところ,原告らが内閣法6条所定の内閣総理大臣の指揮監督権の行使につき法令に基づく申請権を有していないことは明らかであるから,この点においても,本件不作為の違法確認の訴えは不適法である。 争点( )(確認の利益)について ( )原告らは,本件義務確認の訴えは,行政事件訴訟法4条に基づく確認の訴 えであると主張しているところ,確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に,原告の有する権利又は法律的利益に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り,許されるものである(最高裁昭和27年(オ る場合,すなわち,現に,原告の有する権利又は法律的利益に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り,許されるものである(最高裁昭和27年(オ)第683号同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照)。 ( )そこで,原告らに確認の利益が認められるか否か検討すると,原告らの主 張する権利又は法律的利益は,別紙「社会保険庁不正支出一覧表」及び「グリーンピア無駄一覧表」記載のような不正支出を始め様々な無駄遣いにより我が国の年金制度の財源が不足し,そのため,将来受け取るであろう年金受給額が減額するというものであるから,このような原告らの主張を前提としても,現に,原告らの有する権利又は法律的利益に危険又は不安が生じているということは困難である。 ( )したがって,本件義務確認の訴えは,確認の利益を欠く不適法なものであ - 23 -るといわざるを得ない。 争点( )(国家賠償法上の違法性)について ( )原告らは,厚生労働省及び社会保険庁の公務員の違法な行為により,将来 受けるべき年金受給額が減額されるという財産的損害や,憲法13条の幸福追求権に基づく安心して年金を受給できるという期待及び信頼並びに適正な公務の遂行の期待権を侵害されるという精神的損害を被った旨主張している。 ( )国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が, その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体がこれを賠償する責任がある旨規定しているところ,同項にいう「違法」とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務違背をいうものである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民 ある旨規定しているところ,同項にいう「違法」とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務違背をいうものである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。 ( )前記前提事実のとおり,厚生労働省は,政府が管掌する厚生年金保険事業 及び国民年金事業を所管するものであり,社会保険庁は,政府が管掌する厚生年金保険事業及び国民年金事業を適正に運営すること等を任務とするものであり,また,厚生年金保険法79条の2及び国民年金法75条は,積立金の運用は,専ら被保険者の利益のために,長期的な観点から,安全かつ効率的に行うことにより,将来にわたって,厚生年金保険事業及び国民年金事業の運営の安定に資することを目的として行うものとする旨規定し,厚生年金保険法79条の4及び国民年金法77条は,積立金の運用に係る行政事務に従事する厚生労働省の職員は,積立金の運用の目的に沿って,慎重かつ細心の注意を払い,全力を挙げてその職務を遂行しなければならない旨規定して- 24 -いる。 このような法令の規定等からすると,厚生労働省及び社会保険庁の公務員には,厚生年金保険事業及び国民年金事業を適正に運営する一定の責務を負っているものということができるが,このことから,直ちに厚生労働省及び社会保険庁の公務員が個別の国民に対し職務上の法的義務を負担しているということは困難である。 ( )これに対し,原告らは,個々の年金受給者や将来年金を受給する個別の加 入者から成る総体としての国民一般に対する職務上の法的義務を負担しているのであるから,国家賠償法上の違法がある旨主張するが,前述のとおり,国家賠償法上の違法があるというためには,個別の国民に対する職務上の法的義務を負担していることを要すると解するべき 務を負担しているのであるから,国家賠償法上の違法がある旨主張するが,前述のとおり,国家賠償法上の違法があるというためには,個別の国民に対する職務上の法的義務を負担していることを要すると解するべきであるから,原告らの主張をにわかに採用することはできない。 ( )したがって,被告の公務員の違法行為を理由に国家賠償をすべきとする原 告らの主張を採用することはできない。 第4 結論 よって,その余の点について判断するまでもなく,本件訴えのうち,内閣総理大臣が社会保険庁及び厚生労働省に対して内閣法6条に基づく指揮監督権を行使すべき旨を命ずることを求める部分,内閣総理大臣が社会保険庁及び厚生労働省に対して同条に基づく指揮監督権を行使する義務があることの確認を求める部分,並びに内閣総理大臣が社会保険庁及び厚生労働省に対して同条に基づく指揮監督権を行使しないことの違法確認を求める部分は不適法であるから,これらをいずれも却下することとし,原告らのその余の請求は理由がないから,- 25 -これらをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部杉原則彦裁判長裁判官鈴木正紀裁判官松下貴彦裁判官
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