平成11(行ケ)246

裁判年月日・裁判所
平成13年5月23日 東京高等裁判所
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平成11年(行ケ)第246号審決取消請求事件(平成13年4月25日口頭弁論終結)判決原告東京応化工業株式会社訴訟代理人弁護士稲元富保同弁理士小山有被告シャープ株式会社訴訟代理人弁護士竹田稔同弁理士根本恵司 主文 特許庁が平成9年審判第11816号事件について平成11年6月9日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告主文と同旨 2 被告原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 当事者間に争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯(1) 被告は、名称を「コーティング装置」とする特許第2550430号発明(平成2年9月6日出願、平成8年8月22日登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。原告は、平成9年7月14日、本件特許の無効審判の請求をし、平成9年審判第11816号事件として特許庁に係属したところ、被告は、同年12月22日、本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載等の訂正(平成11年法律第41号附則2条13項により、無効審判における明細書の訂正についてはなお従前の例によるとされる。)を請求し、平成10年9月 下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載等の訂正(平成11年法律第41号附則2条13項により、無効審判における明細書の訂正についてはなお従前の例によるとされる。)を請求し、平成10年9月22日、訂正請求書の補正(以下、補正後の訂正を「本件訂正」という。)をした。 (2) 特許庁は、上記事件につき審理した結果、平成11年6月9日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年7月2日、原告に送達された。 2 本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】の記載(1) 登録時のものコーティングすべきワークのコーティング面に、コーティング材を吐出するスロットを有しており、該スロットの延出方向と直交する方向へ該ワークとは相対的に移動されるスロットコータと、該スロットコータに並設されており、コーティング面にコーティング材が塗布されたワークを、該コーティング面がほぼ水平状態になるように保持して高速回転させるスピン型塗膜調整機構と、を具備するコーティング装置。 (2) 本件訂正に係るもの(訂正部分に下線を付す。以下、この発明を「訂正発明」という。)コーティングすべき矩形状ワークのコーティング面に、コーティング材を吐出するスロットを有しており、該スロットの延出方向と直交する方向で、且つ該矩形状ワークの1辺と平行な方向へ該ワークとは相対的に直線移動されるスロットコータであって、該スロットを該矩形状ワークのコーティング面に所定のギャップをもって対向し、該矩形状ワークとの相対的な直線移動により該矩形状ワークの該コーティング面に該コーティング材からなる所定の膜厚の塗膜を形成するスロットコータと、該スロットコータに並設されており、該スロットコータによっ の相対的な直線移動により該矩形状ワークの該コーティング面に該コーティング材からなる所定の膜厚の塗膜を形成するスロットコータと、該スロットコータに並設されており、該スロットコータによって該コーティング面に該コーティング材からなる該所定の膜厚の塗膜が形成された該矩形状ワークを、さらなるコーティング材が該コーティング面に供給されない状態で該コーティング面がほぼ水平状態になるように保持して高速回転させ、該コーティング材からなる該所定の膜厚の塗膜の厚みを調整するスピン型塗膜調整機構と、を具備するコーティング装置。 3 審決の理由審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本件訂正が特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、また、訂正発明は、特開昭63-156320号公報(審判甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「引用例1」という。)、特開昭61-65435号公報(審判甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「引用例2」という。)及び特開昭63-246820号公報(審判甲第3号証、本訴甲第5号証、以下「引用例3」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認めることはできないから、本件特許出願の際独立して特許を受けること(以下「独立特許要件」という。)ができないとする理由はなく、本件訂正は特許法134条2項の規定及び同条5項において準用する、なお従前の例によるとされる平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧法」という。)126条2項及び3項の規定に適合するとして本件訂正を認め、本件発明の要旨を訂正明細書の特許請求の範囲記載のとおり認定した上、訂正発明は引用例1~3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認めることはできないから、本件特許を無効 を認め、本件発明の要旨を訂正明細書の特許請求の範囲記載のとおり認定した上、訂正発明は引用例1~3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認めることはできないから、本件特許を無効とすることはできないというものである。 第3 原告主張の審決取消事由審決は、本件訂正が新規事項の追加であることを看過し(取消事由1)、訂正発明が独立特許要件を有するとの誤った判断をした(取消事由2)結果、本件訂正を認めて本件発明の要旨の認定を誤ったものであるから、違法として取り消されなければならない。 1 取消事由1(新規事項の追加)登録時の本件明細書(以下「登録明細書」という。)の特許請求の範囲請求項1の「ワーク」の語は、本件訂正により、「矩形状のワーク」と訂正された。 審決は、登録明細書の「第2図には、『ワーク』の一例であるほぼ正方形のガラス基板70が示されており、そして、矩形とは直角四辺形のことであり、正方形はその代表的なものであるから、同図には『ワーク』が『矩形状』であることが明確に示されて」(審決書17頁5行目~10行目)いると認定した。 しかしながら、矩形は長方形を含み、通常、長方形は四つの内角がすべて直角で正方形でない四辺形を指すから、本件特許出願の願書に添付された第2図(以下「本件第2図」という。)に矩形状ワークが直接的かつ一義的に示されているということはできない。 審決が、本件第2図に示されるワークの形状をほぼ正方形と認定したのであれば、「ほぼ正方形」までしか訂正を認めるべきではない。矩形は正方形の上位概念であり、「矩形状」まで訂正を認めるのは、登録明細書及びその図面(以下「登録明細書等」という。)に記載していない「長方形」まで権利範囲に含めることになり、不当な権利範囲の拡大である。このよ 上位概念であり、「矩形状」まで訂正を認めるのは、登録明細書及びその図面(以下「登録明細書等」という。)に記載していない「長方形」まで権利範囲に含めることになり、不当な権利範囲の拡大である。このような補正は、特許法134条5項において準用する旧法126条2項に違反するものであって、許されない。 2 取消事由2(独立特許要件の欠如)(1) 引用例3(甲第5号証)には、ロールコータで平板状物体上に感光性樹脂を塗布し、引き続き感光性樹脂が塗布された平板状物体をスピン塗布機に装着し、所定の回転数で回転させることによって、感光性樹脂を塗布することが記載されている。 訂正発明と引用例3に記載された発明(以下「引用例発明3」という。)とを対比すると、スピン型塗膜調整機構により塗膜を調整するのに先立ってワークにコーティング材を塗布する手段が、後者ではロールコータであるのに対し、前者ではスロットコータである点を除いて、両者の間には特に相違するところがない。 ロールコータやスロットコータは、塗布機としていずれも周知のものであり、スピンコートに先立ってあらかじめスロットコータで塗布液を塗布することも、引用例1(甲第3号証)及び引用例2(甲第4号証)に示されるように公知であって、また、スロットとワーク表面とのギャップをコーティング材が自由落下してカーテン状の液幕を形成する前にワーク表面に到達し得るまで極めて狭くする内容が引用例1に記載されているのであるから、引用例発明3のロールコータに代えスロットコータを採用する程度のことは、当業者の容易に想到し得るところである。 (2) したがって、訂正発明は、引用例1~3に記載された発明に基づいて、これらを組み合わせることで当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定 るところである。 (2) したがって、訂正発明は、引用例1~3に記載された発明に基づいて、これらを組み合わせることで当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件訂正は、旧法126条3項の規定に適合しないものである。 第4 被告の反論 1 取消事由1(新規事項の追加)について岩波書店発行「岩波国語辞典第3版」(乙第4号証)には、「矩形」について、「すべての角が直角の、四辺形。長方形。広義には正方形も含めて言う。」と記載されている。 また、学術上、正方形は長方形の一部として扱われている。例えば、株式会社講談社発行「現代数学百科」(乙第5号証)には、長方形について、すべての角が等しい平行四辺形は長方形と呼ばれると記載され、かつ、正方形について、四つの等しい辺をもった長方形であると記載されている。 したがって、「ほぼ正方形」を矩形ということには何らの誤りもなく、審決が「ワーク」の形状を「矩形状」と認定したのは正当である。 2 取消事由2(独立特許要件の欠如)について(1) 本件特許出願前、塗布装置としては、スピンコータが主流であった。この装置では、コーティング材を基板の回転中に塗布するため、大半のコーティング材が基板外に放出され、コーティング材料の利用効率が悪く、これに加えて、基板側面にコーティング材が付着すること、基板から吹き飛ばされたコーティング材が、霧状になって基板のコーティング面に跳ね返されてピンホール等の欠陥を形成する等の問題があった。特に、基板のサイズが大型化していくと、コーティング材料の利用効率が悪いことがコストアップを招くため、コーティング材の使用量削減が大きな課題であった。 一方、本件出願当時 等の問題があった。特に、基板のサイズが大型化していくと、コーティング材料の利用効率が悪いことがコストアップを招くため、コーティング材の使用量削減が大きな課題であった。 一方、本件出願当時、プリント基板へのレジスト塗布装置としてロールコータが既に存在していたが、ロールコータは、ワークと接触した面にレジストが供給されるので、ワークの形状に応じてコーティング材を供給することができ、コーティング材の使用量を削減することができるという特徴を有しているものの、原理上、コーティングロールがワークに接触するため、塗布される膜厚の均一性が低く、また、ゴミが混入する等の問題があるため、その利用範囲は、プリント基板や一部の液晶表示装置の製造工程に限定されていた。 本件特許出願当時における以上の状況を踏まえ、本件発明は、膜厚均一性が高く、非接触でワークの形状に応じてコーティング材を効率よく塗布することができる塗布装置として開発されたものである。 (2) 本件訂正に係る本件明細書(乙第1号証、以下「訂正明細書」という。)の発明の詳細な説明には、本件発明のコーティング装置が、コーティング材の厚さを、ワークに相当するガラス基板70の上面とスロット11aとの間のギャップの大きさによって決定する構成であることが示されている。ギャップを所定のものとすることにより所定の膜厚の塗膜を形成する制御は、スロット11aとガラス基板70の上面との間に、コーティング材が充填保持されている状態において塗布を行う構成、すなわち、スロット11aとガラス基板70の塗布面との間に供給されるコーティング材を、スロットのガラス基板に対する相対的な移動で基板面に塗布する構成によって可能となるものである。 ところで、ギャップの寸法は、コーティング材の種類、表面張力の働きな 給されるコーティング材を、スロットのガラス基板に対する相対的な移動で基板面に塗布する構成によって可能となるものである。 ところで、ギャップの寸法は、コーティング材の種類、表面張力の働きなどにより、厳密には塗布膜厚に一致するわけではないが、それと大差なく、ワークの凹凸、ひずみ等を考慮したとしても、約100~200μのミクロン単位であって、コーティング材がカーテンコータのように自由落下する距離でないことは明らかである。このようなスロットコータを、訂正明細書の特許請求の範囲において、「該スロットを該矩形状ワークのコーティング面に所定のギャップをもって対向し、該矩形状ワークの相対的な直線移動により該矩形状ワークの該コーティング面に該コーティング材からなる所定の膜厚の塗膜を形成する」と規定したのであるから、本件発明における「所定のギャップ」の技術的意義は、「所定の膜厚の塗膜」を形成する上で特に重要であり、かつ、本件発明のスロットコータの特徴を表している。 (3) 本件発明を、本件出願当時既に存在していた、処理液をスロットからカーテン状に流下させるカーテンタイプコータと対比すると、両者は全く相違している。 すなわち、カーテンタイプコータでは、コーティング材をワーク上に自由落下させてカーテン状の液膜を形成し、それによってコーティングが行われる。このため、カーテンタイプコータにおいては、ノズルからワークまでの高さが多少違っていても、ワークに塗布される膜厚に影響が出ることは少なく、ギャップの高さを精密に制御する必要はない。 これに対し、スロットコータの場合は、ワーク表面の水平からのずれをミクロン単位で検出、修正し、スロットとワークとのギャップをミクロン単位の所定距離に精密に制御することにより、ワークにコーティングされるコーティ 、スロットコータの場合は、ワーク表面の水平からのずれをミクロン単位で検出、修正し、スロットとワークとのギャップをミクロン単位の所定距離に精密に制御することにより、ワークにコーティングされるコーティング材が一定の厚さとなるようにしたものである。このため、スロットコータでは、コーティング材がノズルから自由落下してカーテン状の液膜を形成する前にワーク表面に到達するようにしており、実際には、ノズルとワークとのギャップは極めて狭いものである。したがって、塗布されるコーティング材の膜厚がノズルとワークとの距離の影響を受けないカーテンタイプコータとは全く異なっている。 (4) 原告は、審決が「甲第1~3号証(注、引用例1~3)、甲第5~7号証に記載された発明をどのように組み合わせても、補正を含む訂正後の本件発明は、それらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」と判断した(審決書27頁末行~28頁4行目)のに対し、引用例1~3を組み合わせることで当業者が容易に訂正発明に想到することができる旨主張する。しかしながら、原告の主張は、本件発明のスロットコータが引用例1~3に記載されているとの誤解によるものである。 また、原告は、スロットとワーク表面とのギャップを、コーティング材が自由落下してカーテン状の液幕を形成する前にワーク表面に到達し得るように極めて狭くする内容は、引用例1に記載されていると主張するが、本件発明のスロットコータと引用例1記載のレジストコータとは全く別のものであるから、その間隔のみを比較しても意味はない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(新規事項の追加)について(1) 原告は、本件第2図に正方形のワークが図示されていることを理由に、ワークの形状を矩形とする本件訂正が登録明細書等 はない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(新規事項の追加)について(1) 原告は、本件第2図に正方形のワークが図示されていることを理由に、ワークの形状を矩形とする本件訂正が登録明細書等に記載された事項を超える新規事項を含むものであると主張するので、この点について判断する。 (2) 登録明細書(甲第2号証)の発明の詳細な説明には、本件発明のコーティング装置を用いてコーティング材料を塗布する対象について、「本発明は、半導体、電子部品等の製造工程において、ガラス基板、シリコンウェハー、プリント基板等のワークのコーティング面に、ホトレジストインク、保護樹脂等のコーティング材料を塗布するコーティング装置に関する。」(1欄13行目~2欄2行目)との記載がある。 このように、登録明細書には、本件発明のコーティング装置によりコーティング材を塗布する対象が半導体、電子部品等の製造工程に用いられるガラス基板、シリコンウェハー等の「ワーク」であることが明記されているところ、ワークの代表的なものであるガラス基板は、その形状が正方形又は長方形である。 そして、「矩形」という用語は、すべての角が直角の四辺形、すなわち「長方形」を意味し、「長方形」のうち4辺の長さが等しいものを「正方形」という(乙第4、5号証)のであるから、「矩形」は、代表的なワークであるガラス基板の代表的な形状であることは明らかである。 そうすると、本件訂正は、ワークの形状を、登録明細書に明記された代表的なワークの代表的な形状に限定するものであるから、登録明細書に記載された事項の範囲内のものというべきである。 (3) もっとも、本件訂正によって本件発明のコーティング対象を矩形状のワークに特定することにより、結果的に、本件発明の装置自体が、その構成において、 れた事項の範囲内のものというべきである。 (3) もっとも、本件訂正によって本件発明のコーティング対象を矩形状のワークに特定することにより、結果的に、本件発明の装置自体が、その構成において、登録明細書及びその図面に記載された事項の範囲を超えるものとなる場合には、当該訂正は、新規事項を含むものとして許されない。 本件において、登録明細書等及びその図面(甲第2号証)には、上記のとおり、本件発明のコーティング対象であるワークがガラス基板、シリコンウェハー等である旨記載され、これらワークの表面にコーティング材を塗布する本件発明のコーティング装置について、発明の詳細な説明等の記載がされている。確かに、本件発明の実施例を示す第2図には、正方形のワークが記載されているが、もとより一実施例にすぎず、正方形以外の形状を除外すべき根拠はなく、かえって、登録明細書に塗布対象として明記されているシリコンウェハーは、その代表的な形状がほぼ円形状であることは技術常識に属するにもかかわらず、本件発明のコーティング対象として記載されている。 (4) また、原告は、登録明細書等には、矩形状のワークについて直接的かつ一義的に記載されていないとして、ワークの形状を矩形状とする本件訂正が登録明細書等に記載された範囲を超えるものであるとも主張するが、本件訂正が登録明細書等に記載された範囲内においてされたことは上記のとおりであるから、原告の主張は、採用することができない。 2 取消事由2(独立特許要件の欠如)について(1) まず、引用例発明3と訂正発明について比較すると、以下のとおりである。 ア発明が解決しようとする課題について引用例3(甲第5号証)には、「この発明は、平板状物体(以下基板と略す)上に、感光性樹脂を少量で均一に塗布するため ると、以下のとおりである。 ア発明が解決しようとする課題について引用例3(甲第5号証)には、「この発明は、平板状物体(以下基板と略す)上に、感光性樹脂を少量で均一に塗布するための技術に関するものである。」(1頁左下欄13行目~15行目)、「従来LSIプロセスなどでは、感光性樹脂を均一に塗布する方法として、スピン塗布法が主流を占めている。・・・しかし、円形以外の基板、特に近年ではTFT(注、薄膜トランジスター) LCD(注、液晶表示装置)などに多用されている角形基板でスピン塗布を行うと基板の隅々まで感光性樹脂を塗布するために、多量に滴下しなければならなかった。」(1頁右下欄4行目~14行目)と記載され、これらの記載によれば、引用例発明3は、従来のスピン塗布では、角形のワークに感光性樹脂を塗布する際、多量のコーティング材を必要とするとの問題があったところ、この問題を解決し、少量のコーティング材で均一に塗布することを、その技術課題とするものと認められる。 これに対し、登録明細書(甲第2号証)には、「(発明が解決しようとする課題)・・・スピンコータでは、ガラス基板70上に所定の厚さにコーティング材を塗布するためには、必要とされるコーティング材量の数十倍のコーティング材を・・・供給する必要がある。・・・このため、高価なコーティング材が多量に浪費され、経済性がきわめて悪いという問題がある。」(3欄8行目~18行目)、「本発明はこのような問題を解決するものであり、その目的は、ワークにコーティング材を所定の厚さにコーティングする際に、必要とされるコーティング材の量を大幅に低減させることができ・・・るコーティング装置を提供することにある。」(3欄28行目~35行目)、「(発明の効果)本発明のコーティング装置は、・・・使用さ に、必要とされるコーティング材の量を大幅に低減させることができ・・・るコーティング装置を提供することにある。」(3欄28行目~35行目)、「(発明の効果)本発明のコーティング装置は、・・・使用されるコーティング材の量を大幅に低減することができ、経済性が著しく向上する。・・・コーティング材が塗布されたワークは、スピン式塗膜調整機構により、精密に調整され、コーティング面の全体にわたってコーティング材の厚さを均一にすることができる。」(8欄20行目~28行目)との記載がある。 これらの記載によれば、引用例発明3と訂正発明とは、少量のコーティング材でワーク上に均一な塗膜を形成するという同一の課題を解決しようとするものである。 イ発明の構成について(ア) 引用例3(甲第5号証)には、「この発明に係る半導体製造方法は、従来個別に用いられてきた、ロールコーター法、スピン塗布法の方法を組み合わせることによって、角型基板上に少量の感光性樹脂で隅々まで、かつ均一に塗布を行なえるようにしたものである。」(2頁左上欄16行目~20行目)、「この発明における・・・塗布方法とは、まず、最初にロールコーターを用いて、基板上の隅々まで感光性樹脂を塗布する。・・・次に、前記ロールコーターによって塗布した基板をすみやかに所定の回転数に回転させることによって、基板上の余分な感光性樹脂は取り除かれ、最終的に角形基板上に隅々までかつ均一に感光性樹脂を塗布できる。」(2頁右上欄2行目~11行目)との記載がある。 そして、その図面(3頁)には、矩形の基板のコーティング面にコーティング材を塗布して塗膜を形成するロールコーターと、これに併設された、塗膜の膜厚を回転により調整するスピン塗布機とから構成されるコーティング装置が図示されているところ、そ 板のコーティング面にコーティング材を塗布して塗膜を形成するロールコーターと、これに併設された、塗膜の膜厚を回転により調整するスピン塗布機とから構成されるコーティング装置が図示されているところ、そのコーティング装置において、コーティング材の塗布が、基板をロールの延出方向と直交する方向で、かつ、基板の一辺に平行な方向へロールコーターとは相対的に直線移動させることにより行われること、塗膜の膜厚の調整がスピン塗布機を水平状態で回転されることにより行われることが明確に看取される。 (イ) そこで、訂正発明と引用例発明3とを対比すると、両者は、いずれも、コーティング装置に関するものであって、基本構成として、矩形状ワークのコーティング面にコーティング材の塗膜を形成するコータと、これに並設された、矩形状ワークの上に形成された塗膜の膜厚を調整するスピン型塗膜調整機構とを組み合わせて具備する点で一致する。そして、ワーク上に所定の膜厚の塗膜を形成する際、コータとワークとが、コータの延出方向と直交する方向で、かつ、矩形状のワークの1辺と平行な方向へワークとは相対的に直線移動される点で一致し、コーティング材から成る所定の膜厚の塗膜が形成された矩形状ワークを、ほぼ水平状態で高速回転させ、コーティング材の塗膜の厚みを調整する点でも一致する。 そうすると、訂正発明と引用例発明3は、コータが、訂正発明ではスロットコータであるのに対し、引用例発明3ではロールコータである点(以下「相違点1」という。)、ワーク上への塗膜の形成が、訂正発明では、スロットがワークのコーティング面と所定のギャップをもって対向した状態で行われるのに対し、引用例発明3では、ロールとコーティング面との間にギャップがない状態で行われる点(以下「相違点2」という。)においてのみ相違する コーティング面と所定のギャップをもって対向した状態で行われるのに対し、引用例発明3では、ロールとコーティング面との間にギャップがない状態で行われる点(以下「相違点2」という。)においてのみ相違する。 (2) 次に、相違点について検討する。 ア相違点1について(ア) 引用例1(甲第3号証)には、名称を「レジストコーター」とする発明が記載され、発明の詳細な説明には、「発明が解決しようとする問題点従来のレジストコーターでは、・・・大面積基板表面上の全領域・・・にレジストを均一に塗布するには相当量・・・のレジストを要する。・・・レジストの価格は廉価というわけでわないためで(注、「わけではないため」の誤記と認める。)、製造上に占めるコストは大面積基板の場合かなりの割合を占めるという問題点を有していた。」(1頁右下欄10行目~2頁左上欄2行目)、「問題点を解決するための手段本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、レジストの使用量を低減し、均一なレジスト薄膜を安価に形成することができる。」(2頁左上欄3行目~6行目)との記載がある。 これらの記載によれば、引用例1記載の発明は、少量のレジストで均一な塗膜を形成するという訂正発明及び引用例発明3記載の発明と同一の課題を解決しようとするものである。 (イ) 引用例1には、上記の記載に続き、「すなわち、線状の開口部を有する感光性レジスト供給手段と、板上の基板を保持し、上記基板を基板面内において回転させる回転手段と・・・を有し、上記基板を回転させ且つレジスト供給手段の開口部よりレジストを上記基板に供給させたのち、上記基板を回転させることにより感光性レジスト薄膜を形成させる構造からなる。」(2頁左上欄7行目~14行目)、「作用本発明にかかる線状の開口部を有す の開口部よりレジストを上記基板に供給させたのち、上記基板を回転させることにより感光性レジスト薄膜を形成させる構造からなる。」(2頁左上欄7行目~14行目)、「作用本発明にかかる線状の開口部を有する感光性レジスト供給手段を用い、低速にて回転する基板状の全面積にわたり感光性レジストを上記供給手段と基板との空隙を接近させて塗布させると、線状スリットのノズルを用いているので短時間で基板全体にレジストを濡れはじきなく供給することができ・・・るので、基板全面にレジストを供給後、高速回転を加えることにより数ミクロン程度のレジスト薄膜を均一に形成できる。」(2頁左上欄15行目~右上欄6行目)と記載され、その実施例には、「たとえば、350㎜角のガラス基板にポジレジストを1.5μm(マイクロメーター)の膜厚で塗布する場合・・・開口部の幅1㎜、長さ350㎜のノズルたる感光性レジスト供給手段12と基板13との間隔を1㎜としノズルよりレジストを供給しつつ、回転手段14を用いて基板13を・・・低速にて回転させ、基板13全体にレジストを塗布し・・・たのち、1500rpmの高速回転にて6秒間保持すると、1.5μmの膜厚の均一なレジスト膜が形成された。レジスト供給方法としてはレジストと基板との界面張力およびレジストの自重により、基板上にレジストを塗布することによりレジストの使用量を5ccと従来の4分の1に低減することができた。」(2頁右上欄20行目~左下欄17行目)との記載がある。 さらに、引用例1の第1図及び第2図には、引用例1記載の発明のレジストコータ(コーティング装置)の実施例が示されているところ、これらの図面によれば、レジスト供給手段12の開口部11はスロット状であり、スロットと基板13とは、所定のギャップを保って対向することが明確に看取し得る。 ィング装置)の実施例が示されているところ、これらの図面によれば、レジスト供給手段12の開口部11はスロット状であり、スロットと基板13とは、所定のギャップを保って対向することが明確に看取し得る。 なお、引用例1記載のレジスト供給手段の開口部はスロット状であり、このスロット状の開口部11からワーク上にコーティング材を供給し塗膜を形成するものであるから、上記装置はスロットコータの一種にほかならない。 (ウ) したがって、引用例1には、少量のコーティング材で均一な塗膜を形成するという、引用例発明3及び訂正発明と共通する課題を、ワーク上に所定のギャップをもって対向するスロットコータを用いてワーク上に塗膜を形成することにより達成することが明確に示されているから、上記共通の課題を解決するため、引用例3記載の装置におけるロールコータを引用例1記載のスロットコータに置き換えることは、当業者にとって、容易に想到することができたというべきである。 (エ) なお、訂正発明のスロットコータと引用例1記載のスロットコータでは、塗膜の形成に際し、前者では、スロットがその延出方向と直交する方向で、かつ、矩形状ワークの一辺と平行な方向へワークとは相対的に直線移動されるのに対し、後者では、ワークが回転する点で相違するが、引用例1には、スロットとワークのコーティング面を1㎜のギャップで対向させてコーティング材を供給すること、コーティング材の供給は、1㎜のギャップで対向させたスロットとワークとの間の界面張力を利用することが記載されているところ、この1㎜という微小間隔に働く界面張力及び自重は、界面を形成するコータ及びワークの相対的な運動の態様にかかわらず働くから、上記相違点があるからといって、引用例1において回転しながらコーティング材を塗布すると いう微小間隔に働く界面張力及び自重は、界面を形成するコータ及びワークの相対的な運動の態様にかかわらず働くから、上記相違点があるからといって、引用例1において回転しながらコーティング材を塗布するとされていることにより、引用例発明3におけるロールコータを引用例1記載のスロットコータと置き換えることが阻害されるものではない。 イ相違点2について相違点2は、単に、スロットコータとロールコータとの塗布手法の違いを反映したものにすぎない。引用例1記載のスロットコータを引用例発明3のロールコータと置き換える際、スロットとワークとを所定のギャップをもって対向させることは、スロットコータの原理上、当然のことであり、そのような構成を採用することに当業者が格別の創意を要するものではない。 (3) 被告は、訂正発明のスロットコータは、ワーク表面の水平からのずれをミクロン単位で検出、修正し、スロットとワーク表面とのギャップをミクロン単位の所定距離に精密に制御することにより、ワークにコーティングされるコーティング材が一定の厚さとなるようにするなど格別の技術的意義を有するとして、引用例1のコータとは異なる旨主張する。 しかしながら、訂正明細書の特許請求の範囲には、ワーク表面の水平からのずれの検出、修正について何ら記載はなく、スロットとワークのギャップについても、所定塗膜の膜厚についても何ら規定するところがなく、訂正明細書の発明の詳細な説明等を参酌しても、訂正発明におけるスロットコータの構成及び所定の塗膜の膜厚を被告主張のように限定して解すべき根拠はないから、被告の上記主張は、本件発明の一実施例の構成につき主張するものであって、採用することができない。 (4) また、被告は、引用例1及び3のコータは、訂正発明のスロットコータと べき根拠はないから、被告の上記主張は、本件発明の一実施例の構成につき主張するものであって、採用することができない。 (4) また、被告は、引用例1及び3のコータは、訂正発明のスロットコータと塗布方法が異なっていることを主張するが、この主張も、訂正発明における所定の塗膜の膜厚についての上記主張を前提とするものであって、その前提を欠き、また、塗布方法の違いがあっても、これが引用例3のロールコータを引用例1のスロットコータに置き換えることを阻害しないことは、上記のとおりである。 (5) したがって、訂正発明は、引用例1及び3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるから、特許法134条5項において準用する、平成6年法律第116号附則6条1項によりなお従前の例によるとされる旧法126条3項の規定に違反するものである。 3 結論以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由2は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第13民事部裁判長裁判官篠原勝美裁判官石原直樹裁判官長沢幸男

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