- 1 - 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中100日を原判決の刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は、国選弁護人村山崇作成の控訴趣意書(訂正後のもの)記載の とおりであるが、論旨は、事実誤認の主張である。 そこで、記録を調査して検討する。 第1 事案の概要等 1 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、叔父であり、自己が代表取締役会長を務めるA株式会社(以下「A」という。)の従業員でもあったX (以下「X」という。)を殺害した上、同人に掛けられていた保険金をだまし取ろうと考え、①令和3年4月1日午後8時20分頃から同日午後8時30分頃までの間に、福岡県うきは市所在の空き店舗敷地内(以下「本件現場」という。)において、X(当時64歳)に対し、殺意をもって、普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)を運転して同人の身体を複数回れき過するなどし、よって、その頃、同所で、 同人を多発性肋骨骨折、胸椎骨折、腰椎骨折、骨盤骨折等に基づく外傷性ショックにより死亡させて殺害した【原判示第1】、②Aを被保険者とし、Xを補償対象者とするB株式会社(以下「B」という。)の事業活動総合保険契約(以下「本件事業活動総合保険」という。)に基づく死亡補償保険金の名目で現金をだまし取ろうと考え、同月6日及び同月28日、Xが誤って後退してきた自車両にひかれて業務中に事故 死した旨のうその内容を記載した書面をB従業員に提出して同保険金の支払を請求したが、保険金の支払が保留されたため、その目的を遂げなかった【原判示第2】、③Xを被保険者とし、被告人を受取人とするC株式会社の生命保険契約(以下「本件生命保険」という。)に基づく死亡保険金の名目で現金をだまし取 支払が保留されたため、その目的を遂げなかった【原判示第2】、③Xを被保険者とし、被告人を受取人とするC株式会社の生命保険契約(以下「本件生命保険」という。)に基づく死亡保険金の名目で現金をだまし取ろうと考え、同月7日から同月12日までの間に、Xが後退中の車両のタイヤに巻き込まれて事故 死した旨のうその内容を記載した書面を同社従業員に提出して同保険金の支払を請 - 2 -求し、その旨誤信した同社従業員をして被告人名義の預金口座に1497万円余りを振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた【原判示第3】、というものであり、いずれも公訴事実と同旨である。 2 被告人は、本件での起訴後、別件の詐欺(共犯者らと共謀の上、令和元年8月から同年11月にかけて、自動車事故に関し、保険金ないし共済金として合計3 7万円余りをだまし取ったというもの。福岡地方裁判所令和4年(わ)第315号事件)でも起訴されたが、同別件については、本件に先行して裁判官だけで審理され、令和5年10月に懲役1年、執行猶予4年の有罪判決が確定している。 3 本件は、公判前整理手続に付された結果、被告人が、原判示第2及び同第3の各保険金の請求をしたこと、原判示第3のとおり保険金の支払を受けたことにつ いては争いがなく、原判示第1の事件性及び犯人性が主たる争点であるとされた。 4 原審は、本件について、上記1のとおり有罪と認定して、被告人を求刑どおり無期懲役に処したので、被告人が控訴を申し立てた。 第2 前提事実争点を判断する上での前提として、次の各事実が認められ、これらについては弁 護人も特に争うものではない。 1 Xは、令和3年4月1日午後6時25分頃から、大分県日田市内にあるA事務所で夜勤に従事していたが、同日午後8時3分頃、懐中電 が認められ、これらについては弁 護人も特に争うものではない。 1 Xは、令和3年4月1日午後6時25分頃から、大分県日田市内にあるA事務所で夜勤に従事していたが、同日午後8時3分頃、懐中電灯(以下「本件懐中電灯」という。)を所持し、本件車両(シルバーのマツダ・AZワゴン)を運転して、同事務所を後にした。 2 本件現場は、国道210号線(以下、単に「国道」という。)沿いにあるところ、同月2日午前6時46分頃、国道を車で通りかかったD(以下「D」という。)は、本件現場において、うつ伏せになったXの右肩甲骨付近に本件車両の右前輪が乗り上げた状態で同人が死亡しているのを発見したが(以下、この時点を「遺体発見時」という。)、携帯電話機を所持していなかったため、自車で近隣の店舗に向か い、119番通報を依頼してから本件現場に戻ってきた。 - 3 - 3 Dが本件現場でXの遺体を発見した後、同所をいったん離れて再び戻ってくるまでの間に、被告人及びその弟が同所を訪れ、本件車両及びXの遺体を動かし、Xが着用していたベスト(以下「本件ベスト」という。)を脱がせ、同所に散乱していた本件懐中電灯等を回収した。 4 被告人は、本件当時、Aの代表取締役会長であるとともに、損害保険代理業 を営む有限会社E(以下「E」という。)の代表取締役でもあった。 5 原判示第2に係る本件事業活動総合保険は、Aの従業員であるXが業務上死亡した場合、保険金として1000万円がAに支払われ、Aが同保険金を受領したときは、これをXの遺族に支払うものとされていた。また、原判示第3に係る本件生命保険の保険料は、被告人が支払っており、Xが不慮の事故で死亡した場合、被 告人に1500万円が支払われることになっていた。さらに、Xは、Bの自動車保 されていた。また、原判示第3に係る本件生命保険の保険料は、被告人が支払っており、Xが不慮の事故で死亡した場合、被 告人に1500万円が支払われることになっていた。さらに、Xは、Bの自動車保険契約(以下「本件自動車保険」という。)にも加入していたところ、被告人は、令和3年3月21日、Eの従業員である元妻に指示して、同保険に人身傷害車外事故特約を追加するとともに、同保険の人身傷害死亡・後遺障害定額給付金特約の上限額を1000万円から2000万円に増額し、これによりXが自動車事故で死亡し た場合には、その法定相続人が約4619万円の保険金請求権を取得することになった。 第3 原審における証拠調べの概要 1 原審では、令和3年4月1日及び翌2日に本件現場付近の国道を通行した車両(以下「通行車両」という。)のドライブレコーダー映像(原審甲180)が取り 調べられ、同映像の解析等に関して、検察官が請求した警察官であるF(以下「F」という。)と、弁護人が請求したG(以下「G」という。)の各証人尋問が行われるなどした。 2 また、事件性に関して、Xの遺体を司法解剖したH(以下「H」という。)と、Xの着衣や本件車両の見分を行ったI(以下「I」という。)の各証人尋問が行われ た。 - 4 - 3 このほか、詳細な被告人質問が行われたところ、被告人は、Xを殺害しておらず、原判示第1に係る公訴事実記載の時間帯に本件現場に行ったこともない旨述べて、本件への関与を全面的に否認した。 第4 論旨論旨は、原判示第1の殺人罪を認め、これを前提として原判示第2の詐欺未遂罪 及び原判示第3の詐欺罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というのである。 第5 原判決の認定原判決が 認め、これを前提として原判示第2の詐欺未遂罪 及び原判示第3の詐欺罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というのである。 第5 原判決の認定原判決が、原判示第1の殺人について、事件性及び犯人性を認めた理由の要旨は、次のとおりである。 1 事件性についてHの証言によれば、骨折や出血の状況等からして、Xは、少なくとも、上下方向と左右方向に各1回身体をれき過されている。また、Iの証言によれば、本件ベストの痕跡や本件車両サイドシル(前輪と後輪の間の車底部外側にある細長い金属部分)の払拭痕等からして、Xは、少なくとも、上下方向に1回、左右方向に2 回身体をれき過されている。 HとIの各証言によれば、Xは、本件車両のタイヤにより少なくとも、上下方向に1回、左右方向に2回の計3回れき過されたと認定できる。無人の車両が途中で方向転換し、別々の方向から3回れき過される事故は起こり得ないから、何者かが本件車両を意図的に操作し、Xをれき過して殺害したものと認められる。 2 犯人性について 令和3年4月1日午後8時20分頃(以下、同日を「本件当日」といい、時刻のみ表記する場合は同日の時刻を指す。)、被告人がXに電話をかけて通話しているから、犯行時刻は、それ以降である。Fの証言によれば、翌朝のドライブレコーダー映像等に基づき遺体発見時の本件車両の位置や傾きを再現し、午後8時37分 頃及び午後8時48分頃の各通行車両を実際に走行させ、再現時と本件当日の各通 - 5 -行車両のドライブレコーダー映像を、不動物を基準として比較した結果、本件車両の位置が大きく変わっていなかったことが認められるところ、本件車両が一度移動した後戻ってきて、Xが偶然おおむね同じ位 -行車両のドライブレコーダー映像を、不動物を基準として比較した結果、本件車両の位置が大きく変わっていなかったことが認められるところ、本件車両が一度移動した後戻ってきて、Xが偶然おおむね同じ位置で同車の下敷きになったという可能性は非現実的であるから、午後8時37分頃の時点で、本件車両は遺体発見時と同じ位置にあり、Xが既に同車の下敷きになっていた事実を認定できる。そうすると、 犯行時刻は、午後8時37分頃までの間であったと認められる。 被告人は、午後7時59分頃、Xに電話をかけたが、応答がなかったところ、その直後にXが折り返して両者は1分54秒間通話した。Xは、午後8時3分頃、A事務所を本件車両で出発して国道を本件現場方面に向かい、本件現場より先の国道沿いにあるコンビニエンスストアの駐車場に着くと、午後8時13分頃、買物を することなく、被告人に電話をかけて35秒間通話した後、午後8時14分頃、同駐車場を出て国道を引き返した。被告人は、午後8時20分頃、Xに電話をかけて17秒間通話し、Xは、午後8時21分頃、A事務所手前の交差点でUターンして本件現場に向かい、その後、本件現場に駐車した。Xは、午後7時59分頃以降は、被告人以外の者と通話していないところ、Xの行動は、被告人との3度の通話と連 動しており、Xが外出した目的は、本件現場に赴くこと以外にうかがわれず、特に、A事務所付近に帰ってきたXが、あえてUターンして本件現場に向かったことは、被告人がその旨を指示した以外の理由を見いだすことは困難である。そうすると、被告人が、Xを本件現場に呼び出して殺害した犯人であることが強く推認される。 午後8時15分頃に本件現場付近を通行したJ及び午後8時25分頃に本件 現場付近を通行したKの各証言によれば、本件現場 、Xを本件現場に呼び出して殺害した犯人であることが強く推認される。 午後8時15分頃に本件現場付近を通行したJ及び午後8時25分頃に本件 現場付近を通行したKの各証言によれば、本件現場には、午後8時15分頃に白の軽自動車1台が駐車しており、午後8時25分頃には同車に加えて本件車両が駐車していたことが認められる。また、本件現場周辺の防犯カメラ映像を精査したFの証言によれば、午後8時30分頃、本件現場から進行してきたと考えて矛盾のない白のホンダ・エヌボックス様の車両が、本件現場から離れる道路(L大橋)を通過 したことが認められる。 - 6 -被告人は、自己が使用する白のホンダ・エヌボックス(以下「被告人車」という。)を運転して、午後7時44分頃、日田市内のガソリンスタンドを後にし、午後8時39分頃、M料金所から大分自動車道に入って、Eの取引先関係者らとの会食に向かっているが、各所の位置関係からして、被告人が犯行時刻に本件現場に赴くことは十分可能である。 Xの遺体発見時、本件車両はボンネットが開いた状態で後退灯が点灯していたこと、同車の右後輪付近に本件現場と国道の境界付近にあった旗立てブロックが移動してあり、Xの傍らに本件懐中電灯が置かれていたことなどに照らすと、犯人は、Xが同車を点検中、誤って後退してきた同車にひかれ、同車が同ブロックに当たって自然に停止したという事故を偽装することで、保険金支払等の利益を得る人 物であると考えるのが合理的である。 被告人は、本件生命保険に係る保険金約1500万円を手に入れ、Bに対し、本件事業活動総合保険及び本件自動車保険に係る保険金を請求している。本件自動車保険の保険金請求権は本来、被告人に帰属しないが、被告人は、令和3年4月5日、Bの担当者 500万円を手に入れ、Bに対し、本件事業活動総合保険及び本件自動車保険に係る保険金を請求している。本件自動車保険の保険金請求権は本来、被告人に帰属しないが、被告人は、令和3年4月5日、Bの担当者に対し、保険金を被告人名義の口座に支払うよう依頼し、同年8月 12日、元妻及び息子に対して、保険料を支払っている被告人にも分配を受ける権利があることを前提に、保険料の支払があった場合には息子が窓口となって、相続人に遠慮することなく交渉し、分配割合を決めるよう指示している。このように、被告人は、Xの死亡に係る保険金取得について強い関心を有していた。なお、検察官が主張するように、被告人が経済的に困窮した状態にあり、多額の現金を欲して いたとまでは認められないが、被告人の経済状態にかかわらず、被告人が、高額の保険金獲得を目的として、Xを殺害する動機を形成したと考えても不自然ではない。 被告人は、普段は自分で洗濯することはないのに、本件当日の翌日である令和3年4月2日午前5時頃、いつもより早く起床して、前日着ていた服を洗濯し、また、同月3日、警察官から、被告人の携帯電話機の位置情報が記録されている旨 伝えられると、その日のうちに携帯電話機取扱店へ行って機種変更を申し込み、同 - 7 -月6日、同携帯電話機を下取りに出して処分しているところ、これらは、被告人が犯人であれば、罪証隠滅行為として説明がつくものである。 以上の情況を総合すれば、被告人以外の第三者が犯人である可能性はおよそ考えられず、被告人がXを殺害した犯人であると優に認定できる。そして、被告人が犯人であることを前提にすると、上記の白色エヌボックス様の車両は、被告人 車であると認められ、犯行時刻の終期は午後8時30分頃までと認定できる。 弁護 あると優に認定できる。そして、被告人が犯人であることを前提にすると、上記の白色エヌボックス様の車両は、被告人 車であると認められ、犯行時刻の終期は午後8時30分頃までと認定できる。 弁護人は、①本件現場付近は車両の往来が多く、保険金殺人を行うには不適当な場所であること、②犯行可能時間が5分から7分程度しかないというのは、短すぎること、③本件車両の後退灯や本件懐中電灯を点灯させたままにしておくと、Xの死亡前に第三者に発見されるリスクがあることなどを指摘し、本件は保険金殺 人事件としては不自然である旨主張する。 しかしながら、①については、本件事業活動総合保険の保険金を得ようとすれば、業務中の事故を装ってXを殺害する必要があるから、自ずとA事務所付近を犯行場所に選ばざるを得ず、その中で普段人が立ち寄ることがない本件現場を選択することは十分に考えられるし、車両の往来があったとしても、本件現場には街灯がなく、 Xが本件車両の下敷きになっていることには気付かれない可能性が高いから、本件現場で犯行に及んでも不自然ではない。②については、結果的に、本件犯行を5分から7分程度で完了することが不可能であるとはいえない。③については、本件を自動車事故に仮装する必要があるのであるから、後退灯や本件懐中電灯を点灯させたままにしておくことが不自然とはいえない。 第6 当裁判所の判断原判決の認定、判断は、論理則、経験則等に照らして不合理なものではなく、当裁判所も正当なものとして是認できると考える。以下、所論を踏まえて補足する。 1 所論は、原判示第1の事件性に関し、Xはれき過された際に動いた可能性があり、本件車両の進行経路も不明であるから、合理的疑いが生ずる、という。 しかしながら、H及びIは、Xがれき過された際に 所論は、原判示第1の事件性に関し、Xはれき過された際に動いた可能性があり、本件車両の進行経路も不明であるから、合理的疑いが生ずる、という。 しかしながら、H及びIは、Xがれき過された際に動いた可能性はあるとしつつ、 - 8 -Xの身体又は本件ベスト等に残された痕跡から、上下方向と左右方向に複数回れき過されたと判断する旨証言しているところ、両名の証言の信用性に疑いを抱かせる事情はない。すなわち、Xは遺体発見時、うつ伏せのXの右肩甲骨付近に本件車両の右前輪がおおむね上下方向に乗り上げた状態であったところ、Hの証言によれば、Xの身体には、上下方向のれき過(介達外力)により生じた可能性のある多発性肋 骨骨折等だけでなく、タイヤがその上を通過したこと(直達外力)で生じた第12胸椎骨折(胸椎の一番下)、左右方向のれき過(直達外力)により生じた腰椎骨折、骨盤骨折、左右臀部の筋肉内出血があるというのであり、Iの証言によれば、Xが着用していた本件ベストの背面には、上下方向のれき過により生じた右肩甲骨付近及び右脇腹付近の圧着痕(タイヤによるもの)等だけでなく、2回の左右方向のれ き過により生じた(一度に生じたとは考え難い)腰部の擦過痕(右側サイドシルによるもの)及び背面中央付近のタイヤ痕があるというのであるが、Xが、仮にれき過された際に動くことができたとしても、無人の本件車両が方向転換することなく後退した場合にこのような痕跡が生じて遺体発見時の状態で停車するとは考え難いから、事件性を認めた原判決が不合理であるとはいえない。また、本件車両の進行 経路が特定されていないことは、事件性に合理的疑いを抱かせる事情とはいえない。 2 所論は、原判決が、Fの証言等から犯行時刻を午後8時20分頃から午後8時37分頃までの間と絞 件車両の進行 経路が特定されていないことは、事件性に合理的疑いを抱かせる事情とはいえない。 2 所論は、原判決が、Fの証言等から犯行時刻を午後8時20分頃から午後8時37分頃までの間と絞り込んだ点に関し、①Hの証言によれば、Xの死亡推定時刻は令和3年4月2日午前2時頃又はその前後数時間程度とされている、②通行車両のドライブレコーダー映像(うきは市方向)によれば、午後9時49分頃の本件 懐中電灯の明かりの位置は遺体発見時の本件懐中電灯の位置と矛盾している、③午後10時47分頃から翌2日午前5時29分頃まで、本件車両の傍らに写っていた本件懐中電灯の明かりが消えているが、被告人は、午後8時39分頃にはM料金所を通過しているから、X又は被告人以外の犯人が本件懐中電灯の明かりを消したと考えられる、という(午後10時47分頃の映像は証拠となっていない。)。 しかしながら、①については、Hの証言によれば、死亡推定時刻は死斑の移動状 - 9 -態、直腸温の低下、死後硬直の進み方を総合して判断したが、受傷が午後8時30分頃であったとしても矛盾はなく、受傷してから数時間後に外傷性ショックにより死亡した可能性もあるというのであり、原判決の認定に疑いを抱かせるものではない。②については、遺体発見時の懐中電灯の位置の再現結果(原審甲177別添20頁)と午後9時49分頃の通行車両のドライブレコーダー映像(原審甲180の ②)に写った明かりを比較しても、位置関係に矛盾があるとはいえない。③については、被告人が午後8時30分頃までに自車で本件現場を離れたとすれば午後8時39分頃にM料金所を通過することは十分可能である。そして、午後10時57分頃以降の映像(原審甲180の①②)を精査すれば、翌2日午前5時29分頃より前の時点の 車で本件現場を離れたとすれば午後8時39分頃にM料金所を通過することは十分可能である。そして、午後10時57分頃以降の映像(原審甲180の①②)を精査すれば、翌2日午前5時29分頃より前の時点の映像であっても、鮮明度の差はあれ同様の位置に明かりが認められるも のがあるし、その明かりが不明瞭な映像があることは、ドライブレコーダーの感度、解像度、角度、周囲の明るさの違い等として説明が可能である。 3 所論は、Gの証言によれば、午後8時37分頃及び午後8時48分頃に何者かが、本件現場で、本件車両フロント部分と助手席ドアの間付近にいたことは明らかである、という。 Gは、犯行時刻の特定に関し、Fが実施した再現やドライブレコーダー映像の比較検討の結果は信用できないとし、午後8時37分頃及び午後8時48分頃の通行車両のドライブレコーダー映像を明晰化処理し、本件車両の3Dモデル等を配置すると、ボンネット付近に煙様の光があり、Xが同車左側からエンジンに向けて照らしている懐中電灯の光がXの影によって遮られる様子が認められる旨証言するもの であるが、Gの指摘する光は、本件車両及び本件懐中電灯が遺体発見時の状態であったとしても十分説明が可能である一方、エンジンがオーバーヒートしていたとするGの証言は、本件車両が、本件当日の5日前である令和3年3月27日の車検及び法定点検で整備された際に異常がなかっただけでなく、同年4月15日に実施されたマツダ株式会社の調査においても異常がなく、オーバーヒートの痕跡も認めら れなかったことと整合しない。Gの推論過程は、3Dモデル等の配置が恣意的で、 - 10 -煙や人影と判断した根拠が甚だ薄弱であって、信用性を欠いている。 これに対し、Fが行った再現や映像の比較検討の手法には合理性が認 推論過程は、3Dモデル等の配置が恣意的で、 - 10 -煙や人影と判断した根拠が甚だ薄弱であって、信用性を欠いている。 これに対し、Fが行った再現や映像の比較検討の手法には合理性が認められ、誤差があるとしても、本件車両の停車位置が再現時と午後8時37分頃及び午後8時48分頃の時点でほぼ同じ位置にあることは明らかである。午後8時37分頃以降、本件車両が後退灯を点灯した状態で遺体発見時と同じ位置にあり、Xが既に本件車 両の下敷きにされていたことは、この間の通行車両40台以上のドライブレコーダー映像(原審甲180)や、午後8時19分頃に本件現場と国道の境界付近にあった旗立てブロックが、午後8時37分頃にはなくなっており、遺体発見時に本件車両右後輪付近にあったことなどによっても裏付けられている。 以上によれば、Fの証言の信用性を認め、Gの証言の信用性を否定した原判決に 不合理な点はない。 4 所論は、原判決が、被告人とXとの間の3回の通話(午後7時59分頃、午後8時13分頃及び午後8時20分頃)から、被告人がXを本件現場に呼び出して殺害した犯人であると強く推認されるとした点に関し、①XにはA事務所周辺の土地勘があるから、被告人がXを本件現場に呼び出したのであれば、1回の電話で呼 び出せたはずである、②3回目の通話は僅か17秒であるから、これにより本件現場に呼び出すことは不可能である、③被告人が事故を装うのであれば、A事務所の駐車場を選んだはずであり、それなりの交通量のある見通しの良い国道沿いで犯行に及ぶ必要はない、などと指摘し、同通話からXを本件現場に呼び出したと推認することはできない、という。 しかしながら、①については、本件現場は、閉店した店舗の駐車場であり、国道を走行していても目に付きにくい どと指摘し、同通話からXを本件現場に呼び出したと推認することはできない、という。 しかしながら、①については、本件現場は、閉店した店舗の駐車場であり、国道を走行していても目に付きにくい場所といえるから、仮に被告人が最初の電話からXに対して本件現場に来るよう伝えていたとしても、同人において同所をすぐに見付けられなかったことが不自然とはいえない。②については、それまで2回通話していることも考慮すれば、17秒間で本件現場に来るよう伝えることは可能である。 ③については、被告人が犯人であるとした場合、A事務所の駐車場には防犯カメラ - 11 -があることなどからすると、同所を犯行場所に選ぶことは考えにくいし、Bに係る各保険金も取得するには、業務中の自動車事故を装う必要があるところ、本件現場は、Xが業務中に本件車両の点検のため立ち寄ったとしても特に不自然とはいえない場所であり、かつ、周囲に街灯や国道から分岐する道路がないため夜間は発見されにくい場所といえるから、同所を犯行場所として選定したことが不合理であると はいえない。 5 所論は、被告人が保険金を得るためにXを殺害する動機を有していたと考えることはできない、という。 しかしながら、被告人は、経済的に特にひっ迫した状態になかったものの、E及びAの経費や競艇等での支出のため、決して余裕がある経済状態ではなかった。そ して、Aで運転手をしていたXは、業務中にトラブルを引き起こすことが重なり運転手を続けられなくなったが、親族の意向もあり、夜間の点呼や見回り等の業務に従事させることでXの雇用を継続することになり、給料の減少に伴い被告人を含めた親族がXを経済的に支援し、被告人が親族の了解を得てXを本件生命保険及び本件自動車保険に加入させて保険料を支払い、 業務に従事させることでXの雇用を継続することになり、給料の減少に伴い被告人を含めた親族がXを経済的に支援し、被告人が親族の了解を得てXを本件生命保険及び本件自動車保険に加入させて保険料を支払い、同人が業務中の自動車事故により死亡 すれば、7000万円以上の保険金が支払われるようになっていた。このような状況下で、被告人が、保険代理業者として培った知識を悪用し、保険金獲得のためXの殺害計画を思い付いたとしても不自然ではない。 6 所論は、原判決が、被告人が本件後に服を洗濯したり携帯電話機を処分したりした行為が犯人であることと整合するとした点に関し、①服に事件の痕跡があっ たのであれば、その後会食し、翌朝まで放っておくというのは犯人が通常取り得ない行動である、②捜査が及べば下取りに出した携帯電話機が押収されることは容易に想像できるから、犯人であれば同電話機を壊すなどするはずであり、下取りに出すというのは犯人が通常取り得ない行動である、と指摘し、これらは被告人が犯人であることを補強する事実にはならない、という。 しかしながら、①については、被告人の服に事件の痕跡が残っていたとしても、 - 12 -一時的にその服を脱いだり、その上に重ね着するなどして会食中は隠すことが可能であったと思われる。②については、携帯電話機を処分する際、同電話機を破壊してしまうのは惜しいので、下取りに出す方法を選ぶことは十分考えられる。 7 所論は、原判決が本件犯行を5分から7分程度で完了することは可能であるとした点に関し、①遺体及び本件車両にXが立った状態で車に強く衝突されたこと を示す損傷はなく、同人はれき過開始時に寝転がった状態だったことになるが、何らかの言動によりそのような状態にさせる時間を要する、②本件現場には血だ 件車両にXが立った状態で車に強く衝突されたこと を示す損傷はなく、同人はれき過開始時に寝転がった状態だったことになるが、何らかの言動によりそのような状態にさせる時間を要する、②本件現場には血だまりが2か所あり、れき過された際に1か所目の血だまりができる時間があったことになる、③少なくとも上下方向に1回、左右方向に2回れき過した後、事故に見せかけるためにサンダルや靴下を脱がせるなどの細工をしたことになる、などと指摘し、 被告人に犯行可能性はない、という。 しかしながら、①については、本件車両の故障等を装ってXに車底部を確認するよう仕向けるなどすれば、短時間で犯行を遂げることは可能であったといえる。②については、Hの証言によれば、鼻や耳からも出血した可能性があるというのであり、重量約820㎏(遺体にかかる荷重約302㎏。原審甲178)の本件車両に れき過されたのであるから、1か所目の血だまりができるまでに、さして時間を要しなかったとも考えられる。③については、散乱していたサンダルや靴下が偽装工作の一環であるかは判然としない上、あらかじめ手際よく行えるように計画しておけば、原判示第1の犯行時間内に、Xの身体を複数回れき過し、旗立てブロックを移動させるなどの偽装工作を終えることは可能といえる。 8 その他所論に鑑み検討しても、原判決に事実誤認はなく、論旨は理由がない。 第7 結論よって、本件控訴は理由がないから、刑訴法396条によりこれを棄却し、当審における未決勾留日数を原判決の刑に算入することにつき刑法21条を、当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそ れぞれ適用して、主文のとおり判決する。 - 13 -令和6年11月27日福岡高等裁 における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 主文 令和6年11月27日 福岡高等裁判所第1刑事部 裁判長裁判官 松田俊哉 裁判官 小松本卓 裁判官 内藤恵美子
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