- 1 -主文本件控訴を棄却する。 当審における訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 本件控訴の趣意は,主任弁護人村松弘康,弁護人房川樹芳,同末神裕昭,同山下史生,同清水智,同小林由紀及び同大鹿祐太郎連名作成の控訴趣意書,主任弁護人村松弘康作成の補充書2通(平成16年2月6日付け及び同月19日付け)に,これに対する答弁は,検察官慶徳榮喜作成の答弁書に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。 (以下においては,札幌市立札幌病院を「市立病院」,同病院救命救急センターを「救命救急センター」,A,B及びCら3名の研修歯科医師をまとめて「本件歯科医師ら」,別紙一覧表<原判決の別紙一覧表に加筆訂正を加えたもの>番号1ないし11の各医行為を「本件各行為」という。なお,医師法31条1項1号とあるのは,平成13年法律第87号による改正前の医師法31条1項1号を意味する。)第1刑訴法378条2号の控訴趣意(公訴権濫用を理由とする公訴棄却の主張)について論旨は,要するに,本件公訴提起は,可罰的違法性を欠くという点からも刑事政策的見地からも起訴猶予とすべきであった本件をあえて起訴した点で検察官の訴追裁量の逸脱・濫用があり,しかも,全国の多数の病院において,歯科医師による救命救急研修が行われている実態を無視し,ことさらに被告人の行為のみを訴追の対象とした点で憲法- 2 -14条に違反してなされたものであって,まさに意図的かつ恣意的な悪意の訴追で,検察官による公訴権の濫用が認められるから,原審裁判所は,刑訴法338条4号により公訴棄却の判決をすべきであったのに,これをしなかった点で同法378条2号の不法に公訴を受理した違法がある,というのである。 しかし,本件は,後述のとおり可罰的違法性が認められるものであり,また, 公訴棄却の判決をすべきであったのに,これをしなかった点で同法378条2号の不法に公訴を受理した違法がある,というのである。 しかし,本件は,後述のとおり可罰的違法性が認められるものであり,また,医師の資格を持たない歯科医師が救命救急臨床研修として歯科及び歯科口腔外科疾患以外の症例に関する医行為を行ったというのであるから,刑事政策的見地から起訴猶予が相当であったなどとは到底いえない。 さらに,本件は,研修歯科医師が救命救急センターで医療行為を行っている旨の新聞報道を契機に札幌市が立入検査等した結果,札幌市保健福祉局保健所長名で被告人らを北海道札幌方面中央警察署長に告発したという経緯を踏まえ,検察官が公訴提起したことに照らせば,検察官がことさら悪意をもって恣意的に被告人のみを選別して起訴したともいえず,本件公訴提起は憲法14条に違反しない。したがって,本件公訴提起に検察官の職務犯罪を構成するような訴追裁量権の逸脱は全く認められず,検察官の公訴権濫用はないから,結局,論旨は理由がない。 第2理由不備等の控訴趣意について論旨は,要するに,原判決は,「本件各行為が医師法17条の禁止する行為であることは明らかであって,何ら不明確な点はないから,同条の規定が憲法31条に違反しないことも明らかである。また,本件各行為を処罰すること- 3 -が,憲法22条に違反しないことも明らかである。」と判示したが,その理由については,ほとんどあるいは全く述べておらず,理由不備ないし審理不尽の違法がある,というのである。しかし,刑訴法378条4号にいう理由不備は,判決自体において,同法44条1項,335条1項により要求されている判決理由が全く又は重要部分において欠如している場合をいうのであって,原判決がこれに当たらないことは明らかである。そして,原 は,判決自体において,同法44条1項,335条1項により要求されている判決理由が全く又は重要部分において欠如している場合をいうのであって,原判決がこれに当たらないことは明らかである。そして,原審の審理に審理不尽も認められない。結局,論旨は理由がない。 第3事実誤認等の控訴趣意について 序論論旨は,要するに,本件各行為は,医師法17条の構成要件に該当しないし,違法性もないから,被告人は無罪であるのに,無免許医業罪の成立を認めた原判決は事実の誤認ないし法令の解釈適用を誤っており,その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。 そこで,検討するに,関係各証拠によれば,被告人に無免許医業罪の成立を認めた原判決の結論は正当であり,当審における事実取調べの結果を併せて検討しても原判決に事実の誤認ないし法令適用の誤りはない。以下,所論に鑑み,補足して説明する(なお,法令適用の誤りの控訴趣意については,後述の「第4」で改めて論じることとし,ここでは,医師法17条の構成要件該当性の有無を検討するのに必要な限度で論じるにとどめる。)。 医師法17条の構成要件該当性について論旨は,要するに,本件歯科医師らが行った本件各行為- 4 -は,いずれも実質的には背後で指揮をとっている指導医らの行為そのものと評価できるから,医師法17条の構成要件に該当しない,というのである。しかし,本件各行為は,医師の資格を持たない本件歯科医師らが自ら行った医行為であって,指導医らの行為と評価することはできない。すなわち,医師法17条は,「医師でなければ,医業をなしてはならない。」と規定しているが,同条にいう「医業」とは「医行為を業とすること」であり,「医行為」とは「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」,「業 なければ,医業をなしてはならない。」と規定しているが,同条にいう「医業」とは「医行為を業とすること」であり,「医行為」とは「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」,「業とする」とは「反覆継続の意思で医行為を行うこと」と解すべきところ,本件各行為は,気管挿管及び抜管,大腿静脈路確保及びカテーテルの抜去,腹部触診,手術の説明及び同意の取付け,大腿動脈血栓除去等手術における筋鉤使用等による手術補助等であり,いずれも医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為といえる。そして,歯科医師の研修が,医師の行う医行為の純然たる見学にとどまるときは,歯科医師が医行為をしたとは認められないから医師法17条の構成要件該当性を欠くといえるが,歯科医師が自ら患者に対する医療行為に関与する場合,それが医行為と判断される以上,関与の程度を問わず,歯科医師自身が医師法17条の医行為を行ったとみるべきである。このことは,例えば,外科手術の実施主体は術者(執刀医)であり,第一助手は術者を補助する立場にあるから第一助手の行為は手術全体からみれば補助行為といえても,被告人も外科手術における第一助手の重要性を認めるとおり,手術における第一助手の- 5 -役割の重要性及びその手技が患者に向けられていることに鑑みると,医師法上,第一助手の行為は術者の医行為(執刀行為)とは別個独立に評価されるべきであって,まさにそれ自体が医行為というべきであることからも明らかである。所論は,歯科口腔外科に属する診療行為は,悪性腫瘍等の外科手術やこれに伴う全身麻酔等の全身管理に及んでおり,本件各行為も歯科口腔外科医である本件歯科医師らが,研修として歯科口腔外科に属する診療行為を行ったまでである,そして,歯科口腔外科医が,歯科口腔外科領域 れに伴う全身麻酔等の全身管理に及んでおり,本件各行為も歯科口腔外科医である本件歯科医師らが,研修として歯科口腔外科に属する診療行為を行ったまでである,そして,歯科口腔外科医が,歯科口腔外科領域に必要不可欠な研修を行うことは,研修場所が歯科であるか医科であるかを問わず,歯科医学の進歩と国民に対する安全な歯科医療の提供という観点から,社会的に認められている行為であって,目的・範囲・方法において相当な研修と認められる歯科口腔外科医による本件各行為は,医師法17条の医業には該当しない,という。しかし,本件各行為は,歯科口腔外科に属する診療行為ではなく,医科に属する診療行為であったことは明らかであるから,所論は前提において採用できない。また,そもそも,歯科口腔外科医による歯科口腔外科領域に属する行為の研修は,本来,歯科口腔外科や歯科大学・歯学部の付属病院等における歯科及び歯科口腔外科疾患の患者に対する診療行為の中で行われるべきものであり,歯科医師が,医科の病院等において,歯科及び歯科口腔外科疾患以外の患者に医療行為を行うことは,それが歯科口腔外科で日常的に行われている手技であり,かつ,研修を目的として行われたものであったとしても,医師法17条の構成要件該当性を阻却すること- 6 -にはならない。 以上によれば,本件各行為は,医師法17条の医業に当たり,同条及びその違反行為の処罰規定である同法31条1項1号の構成要件に該当することは明らかである。医師法17条の構成要件該当性を認めた原判決に事実の誤認及び法令の解釈適用の誤りはなく,論旨は理由がない。 違法性阻却事由について(1)序論論旨は,要するに,本件歯科医師らによる本件各行為は,研修としての必要性があり,その目的が正当で,手段も相当なものであったから,社会的相当性が 由がない。 違法性阻却事由について(1)序論論旨は,要するに,本件歯科医師らによる本件各行為は,研修としての必要性があり,その目的が正当で,手段も相当なものであったから,社会的相当性が認められ,刑法35条により違法性が阻却される,というのである。 そこで,検討するに,確かに,後述のとおり歯科医師に対する医科救命救急部門における研修は,一定の要件を満たせば,社会的相当性が認められ,正当行為として刑法35条により違法性が阻却される場合があるといえるが,本件各行為は,いずれも社会的相当行為とはいえず,違法性は阻却されない。所論に鑑み,以下,補足して説明する。 (2)歯科医師の医科救命救急部門における研修の要否,可否等についてア救命救急研修の必要性と目的所論は,歯科医師は,中枢神経系疾患等の有病者及び寝たきり患者等のハイリスク患者に対する歯科治療の場合や日常診療における患者の予期せぬ事態が発生した場合に備えて,急変患者の重症度及び緊急度の評- 7 -価並びに救急処置を含む緊急対応を行う必要があり,ことに歯科口腔外科医にとっては,一般の歯科以上にその必要性は高いといえるが,その習得には医科における研修が必須である,また,歯科口腔外科医が,医科の領域と重複する口腔外科領域の外科的治療を安全に行うためには,救急病態の理解,気道確保等の応急処置,全身管理の技術が必要であるが,歯科口腔外科領域においては,その研修に必要な症例数を確保できないから,これらの技術の習得のためには,医科の救命救急の分野における臨床研修が不可欠である,そして,歯科医師の救命救急部門における研修は,これらの必要性から歯科医療の安全性及び質の向上を図るという目的に基づき,適切な研修方法の下で行われており,現に本件でも医療事故は全く発生しておらず, して,歯科医師の救命救急部門における研修は,これらの必要性から歯科医療の安全性及び質の向上を図るという目的に基づき,適切な研修方法の下で行われており,現に本件でも医療事故は全く発生しておらず,患者の治療に何らの支障も不利益も生じていないから,本件歯科医師らによる本件各行為はその目的及び手段が正当なものであって,社会的相当性が認められる,という。なるほど,歯肉疾患の治療等外科的手術等を行う歯科口腔外科はもとよりいわゆる一般の歯科であっても,日常の歯科診療において患者が急変し,生命や機能的予後に係わる緊急を要する事態に至る可能性があり,高齢化社会を迎え,高齢者や有病者等に対する歯科診療の必要性がますます高まっている現状に鑑みると,歯科医師がそのような緊急事態に直面する可能性は今後ますます増加すると思われるが,より安全な歯科医療を国民に提供するためには,歯科医師(歯- 8 -科口腔外科医を含む。)が上記のような緊急事態に適切に対処できる判断力や技術力を身に付ける必要があり,そのための研修を受ける必要性が認められる。もっとも,その研修は,歯科医師が歯科医行為を行うに当たって直面する患者の急変等の緊急事態に適切に対処できるようにするためのものであるから,本来,歯科口腔外科や歯科大学・歯学部の付属病院等における歯科及び歯科口腔外科疾患の患者に対する症例の中でなされるべきであるが,所論もいうように歯科(歯科口腔外科を含む。)における緊急事態の症例数に鑑みると,医科において救命救急研修を受けることにも相応の理由があり,①研修施設は,研修を実施できる人的・物的規模の整った医療機関であること,②当該医療機関には相応の臨床経験等を有する医師が指導に当たることを内容とする指導体制が整っていること,③当該医療機関によって歯科医師が研修 を実施できる人的・物的規模の整った医療機関であること,②当該医療機関には相応の臨床経験等を有する医師が指導に当たることを内容とする指導体制が整っていること,③当該医療機関によって歯科医師が研修を受けるにふさわしい資質及び能力を有すると認められた者であること,などの条件を満たせば,歯科医師が医科救命救急部門において救命救急研修を受けることも許容されるというべきである。 とはいえ,歯科医師に無制限の研修が許されるわけではなく,その研修が社会的相当行為として違法性が阻却されるためには,研修の必要性が認められるほか,研修の目的が正当であり,かつ,研修の内容や方法がその目的を達成する手段として相当なものでなければならない。そして,ここでいう研修の目的とは,歯科- 9 -医師(歯科口腔外科医を含む。)が歯科医行為を行う過程で患者が急変し,生命や機能的予後に係わるような緊急事態に直面した際,専門医に引き継ぐまでの間になされる救命救急処置を習得させ,もって,歯科医療の安全性及び質の向上を図ることにある。そうすると,研修の内容や方法は,このような研修目的を達成するのに相当といえる範囲内にあることを要する。所論は,歯科口腔外科医が歯科口腔外科領域に属する技術を習得することも研修の目的に含まれる,という。 しかし,本来,歯科口腔外科領域に属する技術の習得のための研修は,歯科口腔外科や歯科大学・歯学部の付属病院等で行われるべきである。医科救命救急部門における救命救急研修は,通常,歯科及び歯科口腔外科疾患以外の患者に対する医行為に関与する形でなされるものであり,しかも,その医行為の対象者の多くは,緊急の対応を要する重篤患者で,生命の危機に瀕した者も含まれるから,このような場でかかる患者を対象に,救命救急処置の習得とは何ら関係のない歯科口 るものであり,しかも,その医行為の対象者の多くは,緊急の対応を要する重篤患者で,生命の危機に瀕した者も含まれるから,このような場でかかる患者を対象に,救命救急処置の習得とは何ら関係のない歯科口腔外科領域に属する技術の習得のみを目的に歯科医師が医行為を行うことは,たとえ,それが研修としてであったとしても許されないというべきである。もっとも,所論もいうように歯科口腔外科領域に属する歯科医行為は,医科救命救急部門においてなされる医行為と手技としては共通ないし類似のものがあるのも事実であり,患者の急変による緊急事態に対応するための救命救急処置を習得するという正当な目的に基づい- 10 -て現に医科救命救急部門で研修を受けている歯科医師(歯科口腔外科医を含む。)については,歯科(歯科口腔外科を含む。)診療の現場で歯科医行為として行うであろう行為が現に研修先の医科救命救急部門で実施されているのに,その行為に研修として関与することは目的外研修として一切許されないとすることは硬直に過ぎ,むしろ,例外的にこのような研修を許容することが歯科医療の安全性及び質の向上につながるともいえる。したがって,一定の範囲内でこれらの研修も許容される場合もあるというべきであるが,これは,あくまで救命救急研修の例外として認められるものであり,その要件を厳格に画さないとなし崩し的に際限のない研修に至ることが懸念され,患者の権利保護の観点からも問題があることなどに照らすと,その研修の内容及び方法は,侵襲度,難易度,歯科診療の現場で歯科医行為として実施される頻度,歯科医師に当該技術を習得させる重要度,患者の権利等を総合考慮した上で認められる合理的な範囲に限られるべきであって,例えば,そのような観点から策定された後述のガイドラインに従ってなされたような場合 科医師に当該技術を習得させる重要度,患者の権利等を総合考慮した上で認められる合理的な範囲に限られるべきであって,例えば,そのような観点から策定された後述のガイドラインに従ってなされたような場合,研修として許容されるというべきである。所論は,原判決は,研修歯科医師に医師の資格を持つ者と全く同様の研修を行わせるという方法をとることは許されないと判示するが,歯科口腔外科医が日常的に行っている歯科口腔外科の手技は,医科の現場で外科医が行っている医行為でもあり,歯科医師が歯科口腔外科領域における医- 11 -行為を保健衛生上の基準を逸脱することなく安全に行いうるためには,歯科医師の歯学的判断及び技術だけでは足りず,医師の医学的判断及び技術が必要であるから,歯科口腔外科領域を担当する歯科医師は,医師と同一の判断力,技術力を身につけなければならず,そのためには,医師と同じ内容・方法で研修する以外に方法がない以上,歯科口腔外科医に医師の資格を持つ者と同様の研修を行わせることは社会的相当性が認められる,という。しかし,この所論は,歯科口腔外科医は無条件に医科での研修が許容されるというに等しく,医師と歯科医師の資格を峻別する法体系からして到底容認できない。加えて,すでに説示したとおり,歯科医師の医科救命救急部門における救命救急研修が,歯科及び歯科口腔外科疾患以外の患者に対する医行為として行われる行為に係わるもので,かつ,生命の危機に瀕する重篤患者等を対象としたものであること,歯科医師が緊急事態への対応方法を習得するために例外的に許容されるものであることからしても所論は採用できない。 イ救命救急研修の内容及び方法研修の内容や方法が研修目的を達成する手段として相当なものといえるかを検討するに,一般に,医科救命救急部門における歯科医 のであることからしても所論は採用できない。 イ救命救急研修の内容及び方法研修の内容や方法が研修目的を達成する手段として相当なものといえるかを検討するに,一般に,医科救命救急部門における歯科医師の研修は,すでに述べたとおり患者が急変し,生命や機能的予後に係わる緊急事態に適切に対処できる判断力や技術力を習得させることを目的になされるものであるから,視診・触診等- 12 -の診察,気管挿管等の気道確保,人工呼吸や呼吸管理,除細動・静脈路確保等の循環補助等通常救命救急処置ないしこれに類する行為としてなされる行為を内容とし,これを後述のガイドラインの研修水準にあるように,医行為の侵襲度及び難易度,歯科医師の実施可能性,患者の権利保護等を総合考慮して決せられる①指導医の指導・監督があれば,研修歯科医師が実施することが許される行為,②指導医が介助する場合に限り,研修歯科医師が実施することが許される行為,③指導医が行う行為をその指示に従って補助する行為,④指導医が行う行為を見学するにとどめる行為,に分けて検討することが可能である。④の見学にとどめる行為が医師法17条の構成要件に該当しないこと,研修歯科医師が実施主体となる①(指導・監督)及び②(介助)はもとより,指導医が実施主体となって行う行為を補助する③の場合であっても研修歯科医師が自ら患者に対し医療行為を行う場合にはその行為は指導医の行為とは別個独立に医行為と判断されることはすでに述べたとおりである。そして,研修の目的を達成するためには,見学にとどまらず,研修歯科医師自身の手で研修の内容となる行為を行う必要が認められるから,一定の行為については,研修歯科医師が自ら医行為を行うことも許されるというべきである。もっとも,その場合には,慎重な上にも慎重な取扱いを期すべきであっ の内容となる行為を行う必要が認められるから,一定の行為については,研修歯科医師が自ら医行為を行うことも許されるというべきである。もっとも,その場合には,慎重な上にも慎重な取扱いを期すべきであって,患者の権利保護の観点からいっても,それは,医科救命救急部門の医師による診療が行われているの- 13 -と同視できる状況になければならない。そのためには,②(介助)の場合はもとより①(指導・監督)の場合であっても,指導医は,研修歯科医師が当該医行為を実施していることを現に認識し,かつ,必要があれば,当該医行為を直ちに制止し,あるいはこれに介入できる状況にあることを要するというべきである。所論は,医療現場で役立つ知識や技術は,医療現場を見学しただけでは身に付かない,医学生や医師の研修が実際に医行為を行わせる参加型とされているように,歯科医師の救命救急研修もまた参加型でなければならず,指導医の現認と制止・介入を要件としたのでは研修の目的を達せられない,という。また,後述のガイドラインの作成に係わった県立D病院救命救急センター医師Eも,意見書において,①の指導・監督の程度につき,少なくとも救急救命士と同程度のメディカルコントロール体制の下で研修が行われるならば,必要に応じて直ちに研修の制止や介入ができる範囲内に常時指導医がいることまでは要求されない旨述べている。しかし,所論やE医師の見解は,研修の必要性を強調する余り,歯科医師の医科救命救急部門における研修が医師の資格を持たない歯科医師による歯科及び歯科口腔外科疾患以外の患者に対する医行為としてなされることを看過するものといわざるを得ない。また,所論は,救急救命士は気管挿管や一定の薬剤投与等が認められ,看護師は静脈注射を打てるなど,医師でない者であっても一定の条件の下で行うなら としてなされることを看過するものといわざるを得ない。また,所論は,救急救命士は気管挿管や一定の薬剤投与等が認められ,看護師は静脈注射を打てるなど,医師でない者であっても一定の条件の下で行うならば医師法17条の違法性- 14 -が阻却されるとの行政解釈がとられていることに照らすと,歯科医師の医科救命救急部門における研修もこれと同程度の独立性をもって行うことが許容される,という。しかし,救急救命士は,救急救命士法,省令等によって一定の限度で薬剤を用いた静脈路確保のための輸液や気管挿管等の救急救命処置を行うことが認められており(同法43条,44条),また,看護師についても保健師助産師看護師法等により医師の診療の補助ができるほか,医師の指示があれば医行為(救命救急医行為を含む。)をすることが認められている(同法5条,37条)。このように,救急救命士も看護師も一定の限度で医科の現場における救命救急医行為を行うことが法令によって許容されており,そのための法律上の資格を与えられているのであって,この点が医科の現場において,医行為を行う資格を持たない歯科医師と大きく異なる。したがって,一定の限度で,救急救命士が気管挿管等を,看護師が静脈注射等を,それぞれ自ら行えるからといって,医科救命救急部門における歯科医師の研修行為をこれと同列に論じることはできない。 ところで,研修方法が研修目的を達成する手段として相当なものといえるためには,以上の点に加えて,患者の権利・利益を害しないことが不可欠である。そして,この観点からは,インフォームド・コンセントに代表される医療機関による説明と患者の同意が重要であって,この趣旨からすると,少なくとも当該医療- 15 -機関は,研修歯科医師が歯科及び歯科口腔外科疾患以外の症例に関する医療行為に関与 ントに代表される医療機関による説明と患者の同意が重要であって,この趣旨からすると,少なくとも当該医療- 15 -機関は,研修歯科医師が歯科及び歯科口腔外科疾患以外の症例に関する医療行為に関与する場合には,研修歯科医師の身分等を患者,その家族,代諾者等(以下「患者等」という。)に説明し,原則として,自由な意思に基づく承諾を得ることを要するというべきである。所論は,国民に研修の意味や重要性,安全性等についての理解が十分にない現状で患者に歯科医師であることを告げたならば,多くの場合拒否されることが予想され,研修自体が成り立たない可能性が高いから,患者等に十分な説明を行わず,明確な承諾を得たとはいえないまま歯科医師が研修として医行為を行ったとしても,それが,指導医の適切な指導・監督下において安全性が十分に確保された中で行われた場合には,必ずしも違法とはいえない,という。しかし,医科救命救急部門に搬送される患者やその家族は,誰もが資格を有する医師による救命救急処置を受けられるものと信じているのであり,いかに研修の必要性を強調しても,この信頼を医師・歯科医師側の一方的都合により裏切ることは許されない。そもそも研修は,医師と患者の相互の理解と信頼の上に成り立たねばならず,そのためには,当該医療機関が,患者等に対し,研修歯科医師が医療行為に関与する旨を説明し,原則としてその承諾を得なければならないのは当然のことといえる。仮に,承諾を拒否されたなら研修を断念すべきであって,拒否されることが予想されるから,患者等に十分な説明をせず,承諾を求めないことも許される- 16 -というのは,患者の権利を否定するに等しい本末転倒の論理であり,「医師(中略)は,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう努めな めないことも許される- 16 -というのは,患者の権利を否定するに等しい本末転倒の論理であり,「医師(中略)は,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」という医療法1条の4第2項の趣旨にもとるものである。 (3)本件各行為について本件各行為は,いずれも医師の資格を持たない本件歯科医師らが,救命救急センターにおいて,研修として歯科及び歯科口腔外科疾患以外の患者に対し,医行為を行ったものである。本件歯科医師らが救命救急センターにおいて救命救急研修を受ける必要性が認められること,市立病院は医師法に基づく臨床研修指定病院であり同病院副院長を長とするレジデント教育委員会の設置及び臨床経験豊富な指導医による指導体制等研修を実施できる人的・物的規模が整っていること,本件歯科医師らは研修を受けるにふさわしい資質と能力を有する者らであると市立病院において判断されていたことが認められるから,本件歯科医師らが,救命救急センターにおいて救命救急研修を受けること自体は正当な理由があるといえる。 しかしながら,本件歯科医師らが行った研修の内容や方法をみると,本件歯科医師らは,突発的な事態に緊急に対応することが強く要請される救命救急センターにおいて,歯科及び歯科口腔外科疾患以外の患者に対し,医師の資格を持つ研修医と何ら区別されることなく,これと同様の立場で医行為を行っていたものであって,このこと自体,三次救急医療機関である救命救急センターにお- 17 -ける歯科医師の研修方法としては極めてずさんであり,研修の体をなしていないといわざるを得ない。その意味で,本件各行為の実質的危険性の有無及び程度を検討するまでもなく社会的に見て許容される範囲を逸脱しており,正当行為と評価できないとした原判 あり,研修の体をなしていないといわざるを得ない。その意味で,本件各行為の実質的危険性の有無及び程度を検討するまでもなく社会的に見て許容される範囲を逸脱しており,正当行為と評価できないとした原判決の認定・説示は首肯しうるものである。もっとも,所論は,本件各行為を個別に見れば,まさに研修といえるものであり,研修の目的を達するために必要不可欠なものである上,実質的危険性もなかったというので,念のため検討するに,本件各行為は,いずれも本件歯科医師らが自ら実施主体となって医行為を行った場合であるが,例えば,大腿動脈血栓除去等手術の補助(別紙番号4),チューブ抜管(同6)及びカテーテル抜去(同5,7)は,そもそも研修の目的を逸脱しており,手術内容等の説明や同意の取付け(同3,8,9)は,患者の権利保護の観点から研修歯科医師が自ら行うことができず,見学にとどめるべき行為であり,気管挿管,静脈路確保及び腹部触診(同1,2,10,11)は,指導医が必要に応じて本件歯科医師らによる医行為を直ちに制止し,あるいはこれに介入できる状況の下でなされていなかったことに加え,本件各行為のほとんどは患者等に対する歯科医師であることの説明及び承諾がなされていなかったものである。 したがって,本件各行為は,いずれも社会的相当行為ということはできず,違法性は阻却されない。 なお,所論は,仮に違法性が認められるとしても軽微であって,目的及び手段の正当性を勘案すれば到底処罰- 18 -に値せず,可罰的違法性がない,という。しかし,本件各行為は,医師の資格を持たない本件歯科医師らが救命救急の現場で歯科及び歯科口腔外科疾患以外の患者に医行為をなしたものであり,3人の歯科医師により長期間にわたって反覆継続的に行われていた行為の一環であることに鑑みると処罰に値しな 歯科医師らが救命救急の現場で歯科及び歯科口腔外科疾患以外の患者に医行為をなしたものであり,3人の歯科医師により長期間にわたって反覆継続的に行われていた行為の一環であることに鑑みると処罰に値しないとは到底いえず,可罰的違法性が認められる。 (4)ガイドラインからの検討原判決後,厚生労働省医政局医事課長及び同局歯科保健課長連名の平成15年9月19日付け「歯科医師の救命救急研修ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)が都道府県衛生主管部(局)長宛てに発出され,歯科医師の救命救急研修の在り方が示された。 所論は,ガイドラインは,そこに示された基準を一応の目安として研修を行っていれば行為の違法性が阻却されると思われる標準的なものを示した目安と解すべきであり,本件各行為は,そのような性格を有するガイドラインに照らしてみてもその基準を実質的に充足しており,社会的相当行為として違法性が阻却される,という。しかし,医師法と歯科医師法によって医師と歯科医師の資格を厳格に峻別している現行の法体系がいわば行政指導ともいうべきガイドラインによって変容されることはあり得ず,ガイドラインが歯科医師に医行為を行う資格を与えたものでないことも当然であって,このことは,ガイドライン自体に「研修といえども医療行為を伴う場合には,法令を遵守しながら適切に実施する必要がある。 - 19 -特に歯科及び歯科口腔外科疾患以外の患者に対する行為では,慎重な取扱いを期すべきである。」と規定されていることからも明らかである。そうすると,本件各行為は,すでに認定・説示したとおり社会的相当性が認められず,違法性が阻却されないからガイドラインの策定によってこの結論が左右されることはない。もっとも,弁護人及び検察官は,控訴趣意書(補充書を含む。)及び答弁書並びに各弁 とおり社会的相当性が認められず,違法性が阻却されないからガイドラインの策定によってこの結論が左右されることはない。もっとも,弁護人及び検察官は,控訴趣意書(補充書を含む。)及び答弁書並びに各弁論要旨において,本件各行為がガイドラインの基準に適合するか否かを積極的に論じているので,念のため,ガイドラインに照らしてみても本件各行為がその基準を逸脱した違法なものであることを補足して説明しておく。 ア気管挿管,静脈路確保(別紙番号1,2,11)Aは,Fに対し,救急自動車内等において,気管挿管,左大腿静脈路確保等(別紙番号1)を,Gに対し,同人方等において,気管挿管,静脈路確保等(同2)を,CはHに対し,救急自動車内等において,右大腿静脈路確保等(同11)の各医行為を行ったが,ガイドラインの研修水準はいずれも「B」(研修指導医又は研修指導補助医師が介助する場合,実施が許容されるもの)とされている(なお,Gに対する静脈路確保は,証拠上,どの部位で静脈路を確保したか明らかでないため,ガイドラインの研修水準上,最も被告人に有利となる大腿静脈路確保であったとして論を進める。)。 所論は,①ガイドラインの研修水準AないしDは,研修の進行による手技の習熟度の向上に応じて,指導- 20 -医の判断により,補助の度合い,介助の度合いは緩められることが可能かつ必要であり,例えば,Bの「介助」を要する手技を習熟度に応じてAの「指導・監督」に移行するようなステップアップも許される,AもCも市立病院麻酔科研修での気管挿管及び中心静脈路確保の研修を十分に受けており,その経験と技量を有する両名については,心肺停止の患者を処置するに際し,指導医は,その責任と判断において,介助(B)ではなく,指導・監督(A)を選択することも許されたものである,②気管挿 ており,その経験と技量を有する両名については,心肺停止の患者を処置するに際し,指導医は,その責任と判断において,介助(B)ではなく,指導・監督(A)を選択することも許されたものである,②気管挿管及び中心静脈路確保は,世界標準マニュアルとされる2000年ACLSガイドラインによって,心肺停止患者に対する定型的な処置とされており,習得した者にとっては機械的手技であり,A及びCは,これらの手技を単独で行えるまでに達していたし,救急自動車内では携帯電話や救急隊の無線を通して,二重の方法で市立病院の指導医と連絡を取れたことなどに照らすと,指導医は,A及びCの本件各行為を実質的に機械的な作業とみなしうる程度まで管理・支配を及ぼしていたと評価できるのであって,まさに介助(B)に該当し,ガイドラインの基準に合致する,という。しかし,①については,ガイドラインの研修水準は,研修の必要性や患者の権利,医療行為の侵襲度及び難易度,歯科医師が医科救命救急部門で研修を受けている実態及び研修内容等を総合考慮し,厚生労働省が守るべき最低限の基準として合理的に定めたものであって,このことは,ガイド- 21 -ラインに「研修実施に当たっては,(中略)必要に応じて別紙1に定める基準よりも厳格な指導・監督を行うなど,患者の安全に万全を期すこと」と規定し,より厳格な水準に変更することはできても,より緩やかな水準に変更することはできない旨定めていることからも明らかである。しかも,厚生労働省は,当裁判所からの照会に対し「指導水準は,各手技について,侵襲度,難易度,歯科医師の実施可能性等に基づいて定められたものであるので,研修指導医等の裁量で,指導・監督の程度を弱める方向に変更することはできない。」と回答している。したがって,指導医の判断で研修水準を緩や 歯科医師の実施可能性等に基づいて定められたものであるので,研修指導医等の裁量で,指導・監督の程度を弱める方向に変更することはできない。」と回答している。したがって,指導医の判断で研修水準を緩やかな方向に変更することは許されないから,所論はそもそも採用できない。また,②については,いかに救急自動車内に携帯電話機や無線機があったとしても,AやCが救急自動車内や患者方で医行為を行った際,そこに医師は1人もいなかったのであって,研修水準「B」の指導医の介助という要件を満たさないのは明らかである。ちなみに,仮に所論のいう研修水準「A」の指導・監督でよいとの見解に立ったとしても,指導医が必要に応じてAやCの行う医行為を直ちに制止し,あるいはこれに介入できる状況にはなかったからその要件を満たさないことは明らかである。この点からも所論は採用できない。 イ手術の補助(別紙番号4)Aは,Iに対し,市立病院において,右大腿動脈血栓除去等手術の第一助手として筋鉤を用いるなどする- 22 -ことによる手術の補助の医行為を行ったが,この行為はガイドラインの研修項目に規定されていない。 所論は,本件行為は,ガイドラインの「その他の処置2」の「創洗浄,創縫合(歯科口腔外科以外で単純なもの)」に当たり,研修水準は介助(B)である,本件行為は,筋鉤を用いた術野の確保,ガーゼやピンセットでの血液の除去等全くの補助的行為であり,到底危険を伴うものでなく,Aは,指導補助医であるJ医師の面前で,同医師が執刀する手術の助手として本件行為を行ったのであり,同医師はAの行為を実質的に機械的な作業とみなしうる程度まで管理・支配を及ぼしていたから,介助(B)の要件を満たしていた,という。しかし,本件行為は,ガイドラインを持ち出すまでもなく,歯科医師(歯科口腔外科医 為を実質的に機械的な作業とみなしうる程度まで管理・支配を及ぼしていたから,介助(B)の要件を満たしていた,という。しかし,本件行為は,ガイドラインを持ち出すまでもなく,歯科医師(歯科口腔外科医を含む。)が歯科医行為を行う際,突発的に生じうる患者の緊急事態に適切に対処し,専門医に引き継ぐまでの救命救急処置を習得させるという研修の目的とは全く無関係であって,研修の必要性も研修目的の正当性も認められない。ガイドラインに規定されていないのはこのような趣旨によるものと認められるのであり,現に厚生労働省も本件行為はガイドラインに規定がなく研修として想定されていないとの見解を示している。もとより本件行為が「創洗浄,創縫合」と同視できないことは明らかである。所論は採用できない。 ウカテーテル抜去及びチューブ抜管(別紙番号5ないし7)- 23 -Bは,Kに対し,市立病院において,右大腿静脈(別紙番号5)及び左橈骨動脈(同7)からの各カテーテル抜去並びに気管挿管したチューブの抜管(同6)の各医行為を行ったが,これらの行為はガイドラインの研修項目に規定されていない。 所論は,カテーテル抜去及びチューブ抜管は大腿静脈路確保及び気管挿管に付随する行為であり,いずれもすでに刺入部に挿入されたカテーテルを抜くだけ,あるいは,すでに気管に挿入されたチューブを抜くだけの行為であって,大腿静脈路確保や気管挿管よりも格段に容易な手技であるから,研修水準としては,これらの研修水準として定められている介助(B)となるが,Bの経験・技量を考慮すると指導・監督(A)で足りると解すべきである,また,左橈骨動脈からのカテーテル抜去はその手技が基本的に大腿静脈からのカテーテル抜去と同様であるから,これに準じて指導・監督(A)で足りると解すべきである,そして,い で足りると解すべきである,また,左橈骨動脈からのカテーテル抜去はその手技が基本的に大腿静脈からのカテーテル抜去と同様であるから,これに準じて指導・監督(A)で足りると解すべきである,そして,いずれの行為も指導医の指導・監督の下に行われたものであるからガイドラインの要件を満たしている,という。しかし,歯科医師に医科救命救急部門における救命救急研修が許されるのは,歯科医行為を行うに当たって,患者の急変による緊急事態に対応するための救命救急処置を習得させる必要があるからであり,かつ,原則としてそれに必要な限度で研修が許されることはすでに述べたとおりである。大腿静脈路確保や気管挿管は救命救急処置として歯科医師に習得させる必要の- 24 -ある行為といえても,カテーテル抜去及びチューブ抜管は医科救命救急部門において,あえて研修をさせる必要性までは認められない。歯科医師が医科救命救急部門で研修として医行為を行えるのは例外的措置であることや患者の権利を考えると,ガイドラインは歯科医師が救命救急研修として行える行為を限定的に列挙したものと解すべきであり,カテーテル抜去及びチューブ抜管は静脈路確保や気管挿管に付随する行為として当然に許されるというような類推解釈や拡張解釈は許されないというべきである。現に,厚生労働省もカテーテル抜去及びチューブ抜管はガイドラインに規定がなく研修として想定されていないとの見解を示している。所論は採用できない。 エ腹部触診(別紙番号10)Cは,Lに対し,市立病院で腹部触診の医行為を行ったが,ガイドラインの研修水準は「A」(研修指導医又は研修指導補助医師指導・監督下での実施が許容されるもの)とされている。 所論は,Cは,指導医であるM医師の指示に従ってLの腹部を触診し,温度板を見て4日間便が出ていな 水準は「A」(研修指導医又は研修指導補助医師指導・監督下での実施が許容されるもの)とされている。 所論は,Cは,指導医であるM医師の指示に従ってLの腹部を触診し,温度板を見て4日間便が出ていないことを確認し,M医師に浣腸することを提案し,同医師も自ら触診して浣腸の実施を看護婦に命じるようにCに指示したのであって,こららの事情によれば,本件医行為は,指導医の指導・監督下において適切に行われたものである,という。しかし,Cは,Lの主治医として,これまで腹部触診をほぼ毎日行ってきた- 25 -ところ,本件行為もその一環としての行為であって,M医師の指示があったとはいえ,それは包括的な指示に過ぎず,本件時に腹部触診を行うか否か,どのようにして行うかは,Cが自ら判断して決めていたものである。現に,本件行為の際,M医師をはじめ指導医は,その場におらず,Cが本件行為を実施していることを認識していたとは認められず,かつ,指導医は,必要があれば,Cの当該医行為を直ちに制止し,あるいはこれに介入できる状況にもなかったから,結局,本件行為は,指導・監督(A)の要件を満たしていない。 厚生労働省も本件行為に関して同旨の見解に立っている。所論は採用できない。 オ手術の説明及び同意の取付け(別紙番号3,8,9)市立病院において,AはIの親族に対し,下大静脈フィルター挿入手術等の説明及び同意の取付けの医行為(別紙番号3)を,BはNの親族に対し,脳圧センサー設置術等(同8)及び気管切開術(同9)の説明及び同意の取付けの各医行為をそれぞれ行ったが,ガイドラインの研修水準はいずれも「D」(見学にとどめるもの)とされている。 所論は,①歯科口腔外科領域以外の説明と同意は,研修水準「D」として見学にとどめることになっているが,輸血と気管切開は歯科口腔 ラインの研修水準はいずれも「D」(見学にとどめるもの)とされている。 所論は,①歯科口腔外科領域以外の説明と同意は,研修水準「D」として見学にとどめることになっているが,輸血と気管切開は歯科口腔外科において当然実施されているものであり,ガイドラインには歯科口腔外科領域のものに関する説明と同意の規定はないもの- 26 -の,この点,E医師は意見書において,指導・監督(A)で足りると述べ,かつ,当審において,「歯科口腔外科領域のものであれば言わずもがなであるよという意味です。」と供述しているのであって,AやBは,指導医の監督の下,指示を得て行っており,適切な指導・監督下になされた行為といえる,②下大静脈フィルター挿入手術や脳圧センサー設置術は,歯科口腔外科においてなされておらず,歯科口腔外科領域以外の説明と同意として見学(D)に当たるようにもみえるが,説明及び同意は,究極的には患者の生命身体の安全を確保することにあるから,手術を行う者,行いうる者以外の者が説明をした場合であっても,患者の生命身体の安全が確保されていれば,本件行為時においては適法であったというべきであり,AやBは,作成した同意書を事前に指導医に確認してもらい,指示を受けたことをそのまま患者の家族に伝えただけであり,説明とはいってもその実態は,指導医のメッセンジャー(伝達者),代読ともいうべきものであってAやBの主観的判断が混入する余地は全くなかったし,指導医は,当時救命救急センター内におり,必要があれば1分以内にかけつけることができる場所にいたため患者の家族から予定外の質問が出てもAやBはただちに指導医に確認することが可能であり,患者の安全は担保されていたから違法性は阻却される,という。 しかし,手術は,一般に侵襲度も危険性も高いから,患者及びその家族 予定外の質問が出てもAやBはただちに指導医に確認することが可能であり,患者の安全は担保されていたから違法性は阻却される,という。 しかし,手術は,一般に侵襲度も危険性も高いから,患者及びその家族は,その必要性と危険性を十分に理- 27 -解した上でなければ同意するか否かを決することはできない。したがって,手術の説明及び同意の取付けは,主治医ないし執刀医である医師自らが行うべきであって,このことは,歯科口腔外科領域の内外を問わないというべきである。手術の説明及び同意の重要性に鑑みると患者やその家族は,主治医又は執刀医である医師から直接説明を受け,これらの医師に直接質問する権利を有するのであって,所論のいうようなメッセンジャー論は患者の権利保護の観点に照らし到底認められない。そうすると,研修歯科医師に手術の説明及び同意の取付けをさせることはできないというべきであって,その研修は,手術が歯科口腔外科の領域内か領域外かを問わず見学(D)にとどめるべきものである。 所論は,歯科口腔外科領域の説明と同意はガイドラインに規定されていないというが,ガイドラインの「文書の記載・作成4」の研修項目をみると「説明と同意の実施」には「*歯科口腔外科領域以外のもの」との限定が付されていないから,ガイドラインは「説明と同意の実施」については他の*印の付されていない研修項目と同様に歯科口腔外科領域の内外を問わず,研修水準「D」(見学)として扱う趣旨であることは明らかである。厚生労働省も輸血及び手術の説明と同意の取付けは,見学(D)であり,A及びBの本件各行為はその要件を満たしていないとの見解に立っている。 なお,Iに関する手術同意書及び輸血同意書,Nに関する脳圧センサー設置術及び気管切開術の各手術同意- 28 -書の主治医氏名欄や担当医師氏名欄 為はその要件を満たしていないとの見解に立っている。 なお,Iに関する手術同意書及び輸血同意書,Nに関する脳圧センサー設置術及び気管切開術の各手術同意- 28 -書の主治医氏名欄や担当医師氏名欄にはそれぞれAやBの氏名が記載されているが,これをもって,両名が手術等の説明及び同意の取付けを適法になしうる主治医であったと評されないことはもちろんである。 カ歯科医師であることの説明と患者等の承諾以上のとおり,本件各行為は,いずれもガイドラインの研修項目及び研修水準の要件を満たしておらず,患者等に歯科医師であることを伝えること及び原則としてその同意を得ることというガイドラインの要件の充足の有無を検討するまでもなく,ガイドラインに適合しないことは明らかである。所論に鑑み,なお,念のため,歯科医師であることの説明及び患者等の承諾の要件につき検討するに,ガイドラインは,「①当該医療機関による歯科医師が救命救急研修を受けていることの明示,②当該医療機関による歯科医師であることの患者,患者家族,代諾者等への伝達と原則としてその同意」が必要であるとしているが,これは,ガイドラインが上記(2 )で述べたとおり患者の権利・利益保護の観点から社会的相当行為として違法性が阻却されるために必要と考えられるところを要件化したものと考えられる。本件では救命救急センターにおいて①の「明示」も②の「伝達」もなされておらず,当然「同意」も認められない。所論は,被告人の当審公判供述に依拠して,本件歯科医師らは,胸に「口腔外科」の表示のあるプレートを装着するか,縫い取りのある上衣を着用していたから,歯科医師であることを- 29 -「明示」し,「伝達」していたといえる,という。しかし,I(別紙番号3,4)及びその妻Oは,Aがネームプレートを付けていたかどう りのある上衣を着用していたから,歯科医師であることを- 29 -「明示」し,「伝達」していたといえる,という。しかし,I(別紙番号3,4)及びその妻Oは,Aがネームプレートを付けていたかどうか覚えていないが,「口腔外科」は歯科のことだということを当時から分かっていたので,仮にそのプレートに気付けば歯科医師だと分かったはずだと述べており,また,K(別紙番号5ないし7)の孫Pは,当時看護婦であったことからKの容態についてBに医学的な質問をし,そのときに感じたBの医師としての能力や印象について警察官調書で詳細に供述しているが,そのPでさえも,当時,Bを医師だと思い込んでいたことからすると所論のいうネームプレートや縫い取りによる「口腔外科」の表示が確実になされていたかは相当に疑わしい。仮にそのような事実があったことを前提にしても,それだけでガイドラインの「明示」と「伝達」があったというのは困難である。すなわち,上記のI夫妻及びPに加え,F(別紙番号1)の父Q,L(別紙番号10)の子R及びHの妻Sは,いずれも本件当時,本件歯科医師らが歯科医師だと気付かなかったものであり,歯科口腔外科の診療科名が歯科医業の標榜科名となったのが平成8年8月であったことを併せ考慮すると,仮に所論のいう「口腔外科」の表示があったとしても医療関係者でない一般人にとって,医科救命救急部門で研修医と区別されることなく研修を受けていた本件歯科医師らを歯科医師と判断できなかったとしても無理からぬものがある(なお,Bは,原審公判廷において,- 30 -平成11年10月5日,N<別紙番号8,9>の父Tから専門を問われて口腔外科だと答えた旨供述するが,仮にそのような事実があったとしても,その前の別紙番号8<犯行日平成11年10月3日>についてはそのような質 0月5日,N<別紙番号8,9>の父Tから専門を問われて口腔外科だと答えた旨供述するが,仮にそのような事実があったとしても,その前の別紙番号8<犯行日平成11年10月3日>についてはそのような質問を受けていないから,Nの家族はBを医師であると誤解していたといえるし,別紙番号9<犯行日平成11年10月6日> はその誤解がなかったとしても,それは,B自身が,それを聞いたNの父は薬剤師なので歯科医師だというのは分かっていたと思うと述べているように,Tが医療関係者であったという特殊事情によるものと考えられるから,このことをもって医療関係者でない一般人の場合についての上記認定が左右されるものではない。)。そもそも,歯科医師である旨の説明と患者等の承諾は患者側の重要な権利であることはすでに述べたとおりであるが,この権利を実効あらしめるためには,患者側が当該医療機関からあらかじめ適切な説明を受けることが前提となるのであって,医療機関側も患者や家族に誤解を与えないような説明をする義務がある。したがって,単に,研修歯科医師が「口腔外科」という文字を胸に付けていただけでよしとすることは到底できず,所論は採用できない。 また,所論は,①別紙番号1のような交通事故の現場では,患者は心肺停止状態であり,家族と連絡をとることも困難であるから,承諾を得ることは不可能であるし,同2及び11のように家族がいた場合でも心肺- 31 -停止患者に対する処置においては,一,二分を争うのであって,承諾を得ている時間的余裕はなく,ガイドラインが定める例外に当たる,②カテーテル抜去(別紙番号5,7)やチューブ抜管(同6),腹部触診(同10)は,心肺停止患者と異なり,承諾を得ることは可能であったものの,ガイドラインが制定されていなかった本件当時は,医療行為を行 テーテル抜去(別紙番号5,7)やチューブ抜管(同6),腹部触診(同10)は,心肺停止患者と異なり,承諾を得ることは可能であったものの,ガイドラインが制定されていなかった本件当時は,医療行為を行う者の専門分野,資格,経験年数,症例数等を患者に告げることはまれであり,歯科医師であることを告げなかったことが違法性を左右するものではない,③別紙番号3,8及び9のような手術等の説明及び同意の取付けについては,研修歯科医師は指導医のメッセンジャーであり伝達機関であるから,その行為は指導医自身の行為であって,歯科医師である旨を告げ,患者等の同意を得る必要はなかった,という。しかし,①については,救急自動車で現場に向かう場合,患者が心肺停止状態にあることも十分に見込まれるのに,医療機関が,歯科医師であることを説明し,承諾を得るという手続を踏まなければならない研修歯科医師のみを救急自動車に乗車させて現場に向かわせておきながら,患者が心肺停止状態であるとか承諾を得ている時間的余裕がなかったなどという理由を付けて承諾を得なかったことを正当化することは本末転倒である。そもそも初めから承諾を得られない可能性が高いことが分かっているのに,そのような場に研修歯科医師のみを行かせること自体が問題なのであって,救急自動車に研修歯科医師のみを- 32 -乗せて現場に向かわせること自体が研修の方法として誤っているというべきである。②については,本件当時,ガイドラインが制定されていなかったとしても,救命救急センターに搬送される患者やその家族は,当然に医師による診療を受けられるものと思っていることは誰の目から見ても明らかであるから,その診療行為に歯科医師が関与すること,ましてカテーテル抜去やチューブ抜管,腹部触診という医行為を行うことがその期待に反す 診療を受けられるものと思っていることは誰の目から見ても明らかであるから,その診療行為に歯科医師が関与すること,ましてカテーテル抜去やチューブ抜管,腹部触診という医行為を行うことがその期待に反することは被告人ら医療関係者は容易に推察できたはずである。所論のいうように,仮に本件当時,医師の専門分野,資格,経験年数,症例数等を患者に告げることがまれであったとしても,その場合,患者やその家族の医師による診療を受けられるという期待は裏切られていないのに対し,研修歯科医師であることを説明しないことは医師による診療を受けられるという根本的な期待を裏切るものであり,全く次元の異なる問題といえる。いうまでもなく,患者やその家族にとって,診療行為を行う者が医師か研修歯科医師かは極めて重要なことであって,歯科医師である旨の説明と承諾を求めないことは医師と患者の信頼関係によって成り立つ医療行為の根本を揺るがすものであり,医療法1条の4第2項の趣旨からしても,このことはガイドラインの制定の有無に関わらず,当時の医療機関が当然認識していたはずである。③については,すでに認定・説示したとおり手術の説明及び同意の取付けは主治医又は執刀医自らが行うべき医行為であっ- 33 -て,本件では,それをA(別紙番号3)及びB(同8,9)が行ったのであるから,当該医行為を行ったのは,ほかならぬ研修歯科医師であるA及びBであって指導医ではない。手術の説明及び同意の取付けは見学のみが許される研修項目であることもすでに認定・説示したとおりである。したがって,所論はそもそも前提を欠くもので採用できない。 (5)結論以上のとおり,本件各行為は,ガイドラインに照らしてみても,その要件を満たしておらず,結局,社会的相当行為ということはできないのであって,違法性は阻 前提を欠くもので採用できない。 (5)結論以上のとおり,本件各行為は,ガイドラインに照らしてみても,その要件を満たしておらず,結局,社会的相当行為ということはできないのであって,違法性は阻却されない。その他弁護人がるる主張する点を考慮検討しても原判決に事実の誤認はなく,論旨は理由がない。 第4法令適用の誤りの控訴趣意について 憲法違反の主張について論旨は,要するに,①医師法17条の構成要件である「医業」の概念は不明確であり,同条及び同条に違反する行為を処罰する同法31条1項1号は,憲法31条の要請する刑罰法規の明確性の原則に反する,②本件各行為が国民衛生上の安全を損なうことのない研修であり,研修によって歯科医師(歯科口腔外科医を含む。)の技量が高まることは国民の幸福追求にも適うのに,かかる行為を処罰の対象とすることは憲法22条1項(職業選択の自由)及び同法13条(国民の幸福追求権)に反するのに,医師法17条及び同法31条1項1号は,憲法31条,22条1項,13条に違反しないとした原判決には法令の解釈適用を誤- 34 -った違法があり,その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。しかし,医師法17条の「医業」の概念はすでに認定・説示したとおりであって,明確性の原則に反するものではなく,本件各行為が研修としてなされたものであっても違法性が阻却されないこともすでに認定・説示したとおりであって,かかる行為を処罰することが職業選択の自由や幸福追求権を害するものでないことも明らかである。結局,論旨は理由がない。 共謀共同正犯が成立しないとの主張について論旨は,要するに,原判決は,被告人と本件歯科医師ら及び同人らを直接指導監督する立場にあった上級医らに無免許医業罪の共謀の事実があったとして被告人に 。 共謀共同正犯が成立しないとの主張について論旨は,要するに,原判決は,被告人と本件歯科医師ら及び同人らを直接指導監督する立場にあった上級医らに無免許医業罪の共謀の事実があったとして被告人に同罪の共同正犯(刑法60条)の成立を認めたが,①被告人と本件歯科医師らとの間には,同人らが本件各行為を行うことにつき,明示の意思の合致も合意もなかったから「共謀」の事実は認められず,共謀共同正犯は成立しない,②仮に被告人が救命救急センターにおける歯科医師の研修制度を作ったとしても,本件各行為の数年も前の話であり,被告人は,原判決も認定しているように本件歯科医師らが行った本件各行為について個別に認識していたわけではなく,本件各行為の共同正犯とはなり得ないから,原判決には刑法60条の解釈適用を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。確かに被告人は,本件歯科医師らが行った本件各行為について個別に認識していたとは認められない。しかし,原判決が「補足説明」3で認定・説示するように,被告人は,平成- 35 -6年4月には救命救急センターの前身である市立病院救急医療部の医長となったが,同部には実質的に被告人以上の地位の者がいなかったため,そのころから同部の実質的な責任者となり,被告人は,同部の責任者という立場で市立病院院長の諮問機関であるレジデント教育委員会の委員にも就任していた。平成9年4月の組織改編により市立病院救急医療部が救命救急センターに名称変更され,被告人は,同センター副部長に,平成11年4月には同センター部長に就任したが,これまでと同様に被告人は同センターにおける実質的な責任者として同センターで行われる歯科医師の研修の内容,方法等を決定するとともに,診断書等を作成する場合は医師との連名 センター部長に就任したが,これまでと同様に被告人は同センターにおける実質的な責任者として同センターで行われる歯科医師の研修の内容,方法等を決定するとともに,診断書等を作成する場合は医師との連名にするとの注意をした以外は特段の留保を付けず,医師の資格を持つ研修医と区別せずに取り扱う旨の指示をし,その決定・指示に従って研修が行われてきたものであり,もとより,救命救急センターにおいては,被告人の決定・指示に反するような研修を行うことはできなかった。現に,被告人は,平成12年7月ころ,Bが担当していた患者の遺族から説明や承諾なく内視鏡検査を実施したことなどに対する抗議を受けた際,U副院長(名目上,救命救急センター長を兼務)から歯科医師の資格しかないレジデントが,前面に出て患者の治療に当たるのはまずいのではないかなどと注意されたことを契機に,同年8月から救命救急センターで研修を受けることになっていたCについて,従前のAやBと異なり,当直医のファーストの割当てから外すこととしたが,それ以外では従前どおり研修させることとし,救命救急センターのいわゆる- 36 -管理職会議において,Cをファーストから外す指示をするとともに,併せて,C先生が書いてある当直表を病院に出さないでやるなどと指示し,市立病院庶務課提出用のCを当直医に組み込まない名目上の当直割当表と同人を当直医に組み込んだ真実の当直割当表を作らせ,救命救急センターの当直は,後者の真実の当直割当表に基づいて行わせていたものである。このように,歯科医師の研修の内容,方法等の決定及びその監督は事実上被告人が掌握しており,歯科医師の個々の研修ももちろん,被告人の指示ないし意思に背くような内容,方法等で行うことは不可能であった。 したがって,被告人は,本件歯科医師らが行った本件各行為 督は事実上被告人が掌握しており,歯科医師の個々の研修ももちろん,被告人の指示ないし意思に背くような内容,方法等で行うことは不可能であった。 したがって,被告人は,本件歯科医師らが行った本件各行為について,個別に指示を与えたり,個別に認識していたとは認められないが,救命救急センターの責任者として研修の内容,方法等を決め,診断書等を作成する場合は医師と連名にするようにとの注意をしたり,Cをファーストの割当てから外すなどした以外,特段の留保を付することなく医師の資格を持つ研修医と区別せずに取り扱うように救命救急センターの上級医に指示し,被告人の定めた研修の内容,方法,更には上記のような指示に従って歯科医師の研修が行われ,その結果,本件歯科医師らによる本件各行為がなされたことに照らすと,被告人は,本件歯科医師らが研修歯科医師として本件各行為を行うに当たって不可欠の決定的な役割を果たしたものというべきである。そうすると,被告人は,本件歯科医師らが医行為である本件各行為を業として行ったことにつき,単にその機会を与え,これを容易にしたというにとどまらず,同人らを直接指導監- 37 -督する立場にあった上級医らと共に刑法60条の共同正犯としての責任を負うというべきである。結局,論旨は理由がない。 刑法65条1項の身分犯であるとの主張について論旨は,要するに,本件各行為が医師法31条1項1号,17条に該当するとしても,行政犯においては,法定の義務者のみが犯罪の主体たり得るのだから医師の免許を受けている被告人は義務者ではなく,これに加功しても共犯は成立しない,仮に,この見解を採用しないとしても,無免許医業罪は,犯罪の主体が医師でない者に限定されており,刑法65条1項の身分犯であると解すべきであるから,刑法60条を適用した原判決は,法 犯は成立しない,仮に,この見解を採用しないとしても,無免許医業罪は,犯罪の主体が医師でない者に限定されており,刑法65条1項の身分犯であると解すべきであるから,刑法60条を適用した原判決は,法令の適用を誤っている,という。しかし,医師の免許は,免許のある者が自ら医業を行うことを許容するに過ぎないから,医師が医師免許のない者と共謀の上,免許のない者が医業を行ったときは,医師も医師法31条1項1号にいう無免許医業罪の共同正犯になるというべきである。また,医師法31条1項1号,17条における医師の資格がないことは刑法65条1項にいう身分には当たらないから,被告人に刑法60条を適用した原判決に誤りはない。結局,論旨はいずれも理由がない。 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用を被告人に負担させることにつき刑訴法181条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 平成20年3月6日札幌高等裁判所刑事部- 38 -裁判長裁判官矢村宏裁判官市川太志裁判官二宮信吾
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