平成19年3月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成17年(ワ)第16565号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成19年2月1日判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告らは,原告Aに対し,連帯して3605万6326円及びこれに対する平成16年5月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告らは,原告Bに対し,連帯して1151万4081円及びこれに対する平成16年5月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告らは,原告Cに対し,連帯して1151万4081円及びこれに対する平成16年5月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,D(昭和22年12月18日生まれ,女性。)が,平成16年4月26日,被告E連合会(以下「被告連合会」という。)の開設するF病院(以下「被告病院」という。)において,脳動脈瘤コイル塞栓術を受けたところ,術中に脳動脈瘤が破裂し,同年5月5日,死亡するに至ったことについて,Dの相続人である原告らが,被告病院の担当医師らには,同手術における手技上の過失,動脈瘤破裂後の出血に対する措置に関する過失及び説明義務違反があったと主張して,被告連合会に対しては診療契約の債務不履行又は不法行為(民法715条1項)に基づき,担当医師の一人であった被告G(以下「被告G医師」という。)に対しては不法行為(民法709条,715条2項)に基づき,損害賠償を求める事案である(以下,特に年を示さない限り,すべて平 成16年のことである。)。 前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告ら原告Aは,Dの夫であり,原告B及び原告Cは ,特に年を示さない限り,すべて平 成16年のことである。)。 前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告ら原告Aは,Dの夫であり,原告B及び原告Cは,いずれもDの子である。 なお,原告B及び原告Cの他にもDの子が2人いるため,両原告の法定相続分は,それぞれ8分の1である(甲C1の1ないし10)。 イ被告ら被告連合会は,被告病院を開設する共済組合連合会である。 被告G医師は,被告病院に勤務する医師であり,Dの担当医師の一人であった。 (2)診療経過アDは,ふらつきを訴えて近医を受診し,頭部MRA検査によって,脳動脈瘤が疑われたため,3月9日,被告病院脳神経外科(脳神経血管内治療科)の外来診療を受け,ここに,Dと被告連合会との間に,診療契約が成立した。同日,Dは,被告病院において,MRA所見から,未破裂脳動脈瘤と診断された(乙A1の1・7,8頁)。 イ3月23日から25日まで,Dは,被告病院に検査目的で入院した(乙A1の1・8頁)。3月24日,脳血管造影が施行され,Dの右内頚動脈(C2-3部)にキノコ状の嚢状動脈瘤(径6㎜×3㎜の動脈瘤)が認められた(乙A1の1・12頁)。 ウ4月13日,Dは被告病院外来を受診し,血管内治療を行うことを予定して,入院を予約した。 エ4月21日,Dは,手術のため入院し,4月23日,被告G医師から,血管撮影フィルムを示されて,脳動脈瘤についての説明を受けた。そして,4月26日,術者H医師により,Dに対し,脳動脈瘤に対する予防的治療 として,コイル塞栓術(以下「本件塞栓術」という。)が施行された。その際,被告G医師は,操作室からH医師の治療を監督していた。 術中,動脈瘤内にプラチナコイルを挿入している最中に,動脈瘤が破裂した(乙A3,4)。H医師は,バ 「本件塞栓術」という。)が施行された。その際,被告G医師は,操作室からH医師の治療を監督していた。 術中,動脈瘤内にプラチナコイルを挿入している最中に,動脈瘤が破裂した(乙A3,4)。H医師は,バルーンカテーテルで内頸動脈瘤の血流を遮断し,プラチナコイルを追加して動脈瘤を閉塞した後,止血を確認し,本件塞栓術を終了した(乙A2の1・35頁)。 オ4月27日,CTスキャンの結果,Dは,脳浮腫が悪化し,脳圧が上昇していると判断されたため,Dに対し,減圧開頭術が実施された(乙A2の1・40,47ないし50頁)。 カしかし,上記減圧開頭術後もDの脳浮腫に改善はみられず,徐々に血圧が低下し,5月5日,死亡が確認された(乙A2の1・51ないし57頁)。 キその余の診療経過は,別紙診療経過一覧表のとおりである(ただし,当事者の主張が相違する部分を除く。)。 争点 (1)説明義務違反の有無(原告らの主張)ア手術をしない場合の破裂率,手術に伴う合併症の発生率,手術に伴う危険性及び予後に関する説明について(ア)未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術では,コイルの塊が瘤壁を押すことなどにより瘤が増大し,破裂する危険がある。また,動脈瘤を完全にコイルで塞栓できたとしても,その効果が永久に続くかについては確認されていない。 そして,径が10㎜に満たない脳動脈瘤で,脳動脈瘤破裂の病歴がない患者の脳動脈瘤が1年以内に破裂する確率は,0.05%と極めて低いのに対し,脳動脈瘤の手術により重篤な障害(身体不自由)が発生し, 又は死亡する確率は5%に達するとの報告がある。 Dは,過去に脳動脈瘤が破裂した病歴はなく,その径もわずか6㎜×3㎜にすぎなかったものであるから,上記報告によれば,手術を行わなくても一生を全うできる確率が極めて高かったと考えられる。 (イ ある。 Dは,過去に脳動脈瘤が破裂した病歴はなく,その径もわずか6㎜×3㎜にすぎなかったものであるから,上記報告によれば,手術を行わなくても一生を全うできる確率が極めて高かったと考えられる。 (イ)したがって,被告G医師は,本件塞栓術施行前に,Dに対し,脳動脈瘤に対する手術をしない場合の破裂率,手術に伴う合併症の発生率,手術に伴う危険性及び予後について,説明する義務があった。 (ウ)にもかかわらず,被告G医師は,上記事項について,的確な説明を行わなかった。 なお,被告らは,被告G医師が,4月23日,D及び原告Aに対し,手術説明書(甲A1の5,乙A2の1・27ないし30頁)及び同意書(甲A1の6,乙A2の1・26頁)を手渡して説明を行ったと主張するが,そのような事実はない。上記手術説明書の「平成16年4月23日」という字はDの筆跡によるものではなく,上記同意書には同席者欄に原告Aの記載がない。また,上記同意書には,「平成16年4月21日に以下の通り説明しました。」と記載されており,被告らの主張する説明書交付日(4月23日)との間に齟齬がある。 イ担当医及び経験症例に関する説明について医師には,患者が手術による死亡の危険性を正確に理解し,手術を受けるかどうかを正確な理解に基づいて決定することができるだけの情報を提供する義務がある。 しかし,被告G医師は,Dに対し,自身の執刀したコイル塞栓術300例以上のうち死亡例はなく,また,被告G医師自らが本件塞栓術を行う旨述べて,本件塞栓術には死亡の危険性が極めて少ないかのように誤信させた。 これにより,Dは,手術の危険性を正確に理解せずに,本件塞栓術を受 けることを決定したのであり,被告G医師は,上記義務に違反したものである。 (被告らの主張)ア手術をしない場合の破裂率,手術に伴う合併症 ,Dは,手術の危険性を正確に理解せずに,本件塞栓術を受 けることを決定したのであり,被告G医師は,上記義務に違反したものである。 (被告らの主張)ア手術をしない場合の破裂率,手術に伴う合併症の発生率,手術に伴う危険性及び予後について被告G医師は,Dに対し,3月24日,検査結果に基づいて治療法等の説明を行い,4月21日,入院診療計画書に従って手術の危険性等について説明した。さらに,4月23日,D及び原告Aに対し,血管造影フィルムを示しながら,脳動脈瘤が破裂した場合にはくも膜下出血を起こすこと,他方,治療をしないで放置した場合でも一生破裂しない可能性もあること,血管内治療でも危険が伴うことを説明し,術式や手術の危険性について図入りで解説した「脳動脈瘤に対する血管内治療」と題する手術説明書(甲A1の5,乙A2の1・27ないし30頁)を交付した。 Dは,それらの説明を理解した上で,同意書(甲A1の6,乙A2の1・26頁)に署名,押印したものであり,説明義務違反はない。 イ担当医及び経験症例に関する説明について被告G医師が自ら本件塞栓術を行う旨を述べた事実はない。被告病院では,チーム医療の体制をとっており,被告G医師が自ら手術を行う旨の約束をするはずがない。 (2)手技上の過失の有無(原告らの主張)コイル塞栓術を行う医師は,動脈瘤の破裂を防ぐため,バルーンを適度なところまで膨らませ,コイルやカテーテルが瘤外に逸脱することのないようにした上で,コイル塞栓を開始すべき注意義務を負う。 本件塞栓術において,H医師は,上記注意義務を怠り,バルーンを適度に膨らませずに,漫然とカテーテル又はコイルを出し入れした過失があり,そ の結果,カテーテル又はコイルでDの脳動脈瘤の後壁を穿孔した。 (被告らの主張)アコイル塞栓術において,コイルの影響 適度に膨らませずに,漫然とカテーテル又はコイルを出し入れした過失があり,そ の結果,カテーテル又はコイルでDの脳動脈瘤の後壁を穿孔した。 (被告らの主張)アコイル塞栓術において,コイルの影響により脳動脈瘤が破裂することは,避けることのできない偶発症として理解されるべきものであり,H医師に手技上の過失はない。 イ原告らは,バルーンの膨らませ方を問題にするが,何をもって適度な膨らませ方というのか不明である。バルーンを膨らませすぎるとバルーンそのものが血管を破裂させることになるから,それは必要最小限にとどめなければならないものである。 (3)動脈瘤破裂後の出血に対する措置に関する過失の有無(原告らの主張)脳動脈瘤が破裂し,脳出血が起きると,頭蓋内圧の亢進により脳組織が損傷し,死亡又は重い後遺症が生じる可能性が高くなるから,その場合には,出血により生じた血腫を除去するための開頭術を施行する必要がある。 よって,被告G医師及びH医師は,本件塞栓術を施行するに当たり,脳動脈瘤が破裂した場合に備えて,直ちに開頭術を施行できるような体制を整えておき,破裂後は,止血を行った後,直ちに開頭術を行い,頭蓋内に貯留した血腫を除去すべき注意義務があった。 にもかかわらず,被告G医師及びH医師は,事前に開頭術を行う体制を整えていなかったため,Dの脳動脈瘤破裂直後には開頭術を行うことができず,本件塞栓術の翌日まで開頭術の施行を遅延した。 (被告らの主張)ア脳動脈瘤破裂直後に,外科的な開頭術を行わなかったのは,開頭術を行う体制が整っていなかったからではなく,手術適応がなかったためである。 くも膜下出血においては,限局した血腫を生じる特殊な場合を除いては,血腫を除去するための開頭術は行われない。本件塞栓術では,限局した血 腫は認められず,コイルの挿入によ 適応がなかったためである。 くも膜下出血においては,限局した血腫を生じる特殊な場合を除いては,血腫を除去するための開頭術は行われない。本件塞栓術では,限局した血 腫は認められず,コイルの挿入により動脈瘤からの出血は止血されていた。 イ本件塞栓術翌日に開頭術を行った理由は,その日のCTで,右側の大脳半球に脳浮腫が生じ,頭蓋内圧が亢進した所見(限局した頭蓋内圧亢進)が認められたためである。したがって,開頭術の施行に遅延はない。 (4)因果関係の有無(原告らの主張)ア説明義務違反と死亡との因果関係Dは,脳動脈瘤破裂の病歴がなく,瘤の大きさも6㎜×3㎜にすぎない小さいものだったのであるから,手術を行わなくても一生を全うできる確率が極めて高かった。 そして,患者及びその家族に対し,懇切丁寧な説明が行われた場合,患者が手術を受ける率が減少したとの報告もあり,Dが,手術をしない場合の破裂率や手術に伴う危険性等について適切な説明を受けていれば,本件塞栓術の施行を選択しなかったと考えられる。 よって,前記(1)説明義務違反と死亡との間には因果関係がある。 イ手技上の過失と死亡との因果関係前記(2)原告らの主張のとおり,H医師が手技上の過失によりカテーテル又はコイルでDの脳動脈瘤の後壁を穿孔したことにより,Dは,くも膜下出血を引き起こして死亡するに至ったものであり,前記(2)手技上の過失と死亡との間には因果関係がある。 ウ動脈瘤破裂後の出血に対する措置に関する過失と死亡との因果関係本件塞栓術において,脳動脈瘤が破裂した直後に開頭術を行い,血腫を除去して頭蓋内圧を低下させていれば,Dがくも膜下出血に起因して死亡することは回避できたのであり,前記(3)動脈瘤破裂後の出血に対する措置に関する過失と死亡との間には因果関係がある。 (被告らの主張) て頭蓋内圧を低下させていれば,Dがくも膜下出血に起因して死亡することは回避できたのであり,前記(3)動脈瘤破裂後の出血に対する措置に関する過失と死亡との間には因果関係がある。 (被告らの主張) 原告らの主張は争う。 なお,脳動脈瘤の大きさは,本件塞栓術時,約7㎜×5㎜と確認されている。 (5)被告G医師の代理監督者責任の成否(原告らの主張)被告G医師は,診療部長として,H医師が本件塞栓術を行うに当たり,これを監督すべき立場にあったものであるから,H医師が手技上の過失によりDを死亡に至らしめたことについて,代理監督者責任(民法715条2項)を負う。 (被告らの主張)ア被告G医師は,H医師の代理監督者にあたらない。 イ仮に,被告G医師がH医師の代理監督者にあたるとしても,被告G医師は,事業の監督につき相当の注意をし,又は相当の注意をしても損害の発生は避けられなかったから,代理監督者責任を負わない。 (6)損害(原告らの主張)アDに生じた損害(ア)逸失利益2211万2653円Dは,死亡当時56歳の主婦であった。 平成15年賃金センサス女性労働者学歴計(55歳~59歳)年収額356万4200円を基礎に,就労可能年数を12年,生活費控除割合を30%として,ライプニッツ方式(ライプニッツ係数8.863)により中間利息を控除すれば,Dの逸失利益は,2211万2653円である。 (イ)死亡慰謝料3000万円(ウ)原告らの相続 原告Aは,Dの上記損害賠償請求権の2分の1(2605万6326円)を,原告B及び原告Cは,Dの上記損害賠償請求権の各8分の1(各651万4081円)をそれぞれ相続した。 イ原告ら固有の慰謝料(ア)原告A1000万円(イ)原告B及び原告C各500万円ウ請求のまとめよって,原告らは 害賠償請求権の各8分の1(各651万4081円)をそれぞれ相続した。 イ原告ら固有の慰謝料(ア)原告A1000万円(イ)原告B及び原告C各500万円ウ請求のまとめよって,原告らは,被告連合会に対しては診療契約の債務不履行又は不法行為(民法715条1項)に基づき,被告G医師に対しては不法行為(民法709条,715条2項)に基づき,連帯して,原告Aについて3605万6326円,原告Bについて1151万4081円,原告Cについて1151万4081円及びこれらに対する不法行為の日である平成16年5月5日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。 (被告らの主張)原告らの主張は争う。 第3当裁判所の判断 認定事実前記前提事実のほか,証拠(各認定事実の後に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば,Dの診療経過について,以下の事実が認められる。 (1)本件塞栓術施行までの経過アDは,ふらつきを訴えて近医を受診し,頭部MRA検査によって,脳動脈瘤が疑われた。そこで,Dは,友人である財団法人I病院のJ医師に相談したところ,被告病院の被告G医師を紹介され,3月9日,被告病院脳神経外科(脳神経血管内治療科)の外来診療を受けた。そして,同日,MRA所見から,未破裂脳動脈瘤と診断された(乙A1の1・7,8,11, 24,25頁,乙A6)。 イ3月23日,Dは,被告病院に検査目的で入院した(乙A1の1・8,11頁,乙A6)。 ウ3月24日,Dに対し,脳血管造影が施行され,右内頚動脈(C2-3部)にキノコ状の嚢状動脈瘤(径6㎜×3㎜)が認められた(乙A1の1・8,11,12頁,乙A7)。 エ3月24日夕方又は3月25日午前,被告G医師は,Dに対し,血管造影の結果を示しながら,①径6㎜×3㎜の脳動 状の嚢状動脈瘤(径6㎜×3㎜)が認められた(乙A1の1・8,11,12頁,乙A7)。 エ3月24日夕方又は3月25日午前,被告G医師は,Dに対し,血管造影の結果を示しながら,①径6㎜×3㎜の脳動脈瘤が右内頸動脈にあること,②径が5㎜以下の動脈瘤については,破裂率が非常に低いので原則として治療は勧めないが,径が5㎜から10㎜の動脈瘤については,5㎜以下のものに比べて破裂率が高いので治療の実施を考慮する必要があるものの,径が1㎝以上のものに比べれば破裂率はそれほど高くないため,治療を行うかどうかは患者の選択に委ねていること,③治療法としては,開頭手術(開頭クリッピング術)と血管内治療(コイル塞栓術)があるが,Dの動脈瘤は開頭手術が困難な場所にあり,血管内治療の方が適していると考えられること,④治療をした場合に後遺症が出る確率は約2%ぐらいであることなどを説明した。治療方針の決定については,家族と相談しながら外来診療において決めることとされた(乙A1の1・12頁,乙A7,被告G反訳書1・1ないし3頁,反訳書5・1,2頁)。 オ3月25日,Dは,被告病院を退院した(乙A1・8,11頁)。 カ4月13日,Dは,被告病院外来を受診し,血管内治療を行うことを希望して,同月21日の再入院を予約した(乙A1の1・8,9頁,乙A6,被告G反訳書5・20頁)。 キ4月21日,Dは,本件塞栓術施行を目的として,被告病院に再入院した。同日,被告G医師は,Dに,入院診療計画書(乙A2の1・25頁)を渡したが,治療についての具体的説明はDの家族が来院した際に改めて 行うこととした(乙A2の1・19,35,45,46頁,乙A6,7,被告G反訳書1・4頁)。 ク4月23日(ア)4月23日午後5時ころ,被告G医師は,D及び原告Aに対して,動脈瘤の図を示 行うこととした(乙A2の1・19,35,45,46頁,乙A6,7,被告G反訳書1・4頁)。 ク4月23日(ア)4月23日午後5時ころ,被告G医師は,D及び原告Aに対して,動脈瘤の図を示しながら,①径6㎜×3㎜の脳動脈瘤が右内頸動脈にあり,これが破裂した場合にはくも膜下出血を引き起こすこと,②治療しないで放置した場合でも一生破裂しない可能性があり,予防的治療であるため緊急に治療を行う必要はないこと,③血管内治療により後遺症が発生する確率は100人中2人ぐらいであり,軽いものとしては手足のしびれがあるが,場合によっては死亡することもあることなどを説明した(乙A2の1・27ないし30,46頁,乙A6,原告A反訳書3・4頁,被告G反訳書1・5頁,反訳書5・6,23,24頁)。 (イ)前記説明の際,原告Aは,被告G医師に対し,手術を受けるべきか否かについて質問したが,被告G医師は,「それは何とも言えない」と答え,いずれとも示唆しなかった。また,前記説明の際,被告G医師は,質問に答える中で,D及び原告Aに対し,被告G医師自身は過去に300例以上の未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療を行ったが死亡例はなかった旨の話をした(甲A3,原告A反訳書3・6頁,被告G反訳書5・7,8頁)。そして,Dから,被告G医師が手術をするのかを尋ねられたのに対して,自分も一緒に手術を担当するという趣旨の発言をした(甲A3,原告A反訳書3・7頁,被告G反訳書5・8,9頁)。 (ウ)4月23日ころ,被告G医師は,Dに対し,「脳動脈瘤に対する血管内治療」と題する手術説明書(乙A2の1・27ないし30頁,以下「本件手術説明書」という。)及び「手術・治療等診療行為説明内容の確認と同意書」と題する書面(乙A2の1・26頁,以下「本件同意書」という。)を渡し,本件手術説 (乙A2の1・27ないし30頁,以下「本件手術説明書」という。)及び「手術・治療等診療行為説明内容の確認と同意書」と題する書面(乙A2の1・26頁,以下「本件同意書」という。)を渡し,本件手術説明書を読んだ上で血管内治療を選択 するのであれば,本件同意書及び本件手術説明書に署名捺印をして,これらを手術予定日の前日である4月25日までに病棟担当者に提出するように指示した。本件手術説明書には,脳動脈瘤,麻酔方法,血管内治療の方法について図入りで説明がなされた上,血管内治療の危険性についても,動脈瘤の破裂,血栓等につき,図入りで解説されていた(乙A2の1・26ないし30頁,乙A6,被告G反訳書1・5,6頁,反訳書5・10ないし13,22頁)。 ケ4月25日,Dは,本件同意書に署名捺印をし,また,本件手術説明書の記載事項について説明を受けたことを確認する署名捺印をし,これらを被告病院に提出した(乙A2の1・26,30頁,乙A6,被告G反訳書5・22頁)。 (2)本件塞栓術アDは,4月26日午前9時,血管造影室に入室し,午前9時15分,全身麻酔が開始され,午前9時30分,術者H医師により,本件塞栓術が開始された(乙A2の1・35,42,122頁,乙A6)。被告G医師は,操作室から監視し,治療を監督していた(乙A2の1・42頁,乙A6)。 イ本件塞栓術中の経過(乙A2の1・35,42,45,122頁,乙A3ないし7,証人H反訳書2・1ないし4頁)(ア)H医師は,右大腿鼠径部から右大腿動脈にガイディングカテーテルを挿入した。そしてヘパリン5000単位を静脈内に注入(以下「静注」ということがある。)した後,ガイディングカテーテル内にインナーカテーテルを挿入し,ガイドワイヤーを用いて,ガイディングカテーテルを右頚部内頚動脈内に誘導し 5000単位を静脈内に注入(以下「静注」ということがある。)した後,ガイディングカテーテル内にインナーカテーテルを挿入し,ガイドワイヤーを用いて,ガイディングカテーテルを右頚部内頚動脈内に誘導し,留置した。 (イ)動脈瘤は頚部が広かったことから,H医師は,バルーンで動脈瘤の入り口部分を塞ぎながらコイルを動脈瘤内に誘導することを想定して,バルーンカテーテルをガイディングカテーテルから進めていき,動脈瘤 入り口の右内頚動脈内に留置した。 (ウ)その後,H医師は,ガイディングカテーテルからマイクロカテーテルを進め,ガイドワイヤーを用いて動脈瘤よりも末梢の内頚動脈に誘導し,これを引き戻して動脈瘤内に誘導した。この時,カテーテル先は動脈瘤の後壁近傍に位置した。 (エ)そして,動脈瘤の径が約7㎜×5㎜であったことから,H医師は,6㎜径9㎝長のコイルを動脈瘤内に誘導したところ,これが容易に動脈瘤から内頚動脈に逸脱したため,バルーンを膨らませて動脈瘤入り口部分を塞ぎながら,コイルの押し引きを繰り返し,全長を収めることができた。血管造影を行ったところ,動脈瘤内でのコイルの広がりは良好であったものの,右内頚動脈内にコイルのループがややはみ出していたため,H医師は,コイルを引き戻し,再び全長を入れ直した。再び血管造影を行ったところ,1回目よりも右内頚動脈内への突出は軽減していたが,まだコイルが一部突出していたため,H医師は,改めてこれを引き戻し,動脈瘤内へ誘導したところ,途中で動脈瘤の後壁に破裂が生じ,コイルとマイクロカテーテルが動脈瘤外に逸脱した。 (オ)そこで,H医師は,直ちにヘパリンを中和するために硫酸プロタミンを静注し,血圧を下げ,動脈瘤入り口部分で膨らませてあったバルーンをさらに膨らませて,右内頚動脈の血流を遮断した。 (カ)ここ (オ)そこで,H医師は,直ちにヘパリンを中和するために硫酸プロタミンを静注し,血圧を下げ,動脈瘤入り口部分で膨らませてあったバルーンをさらに膨らませて,右内頚動脈の血流を遮断した。 (カ)ここで,被告G医師が,手術操作に加わった。H医師は,破裂部から動脈瘤外に逸脱していたマイクロカテーテルを動脈瘤内に引き戻し,6㎜径9㎝長のコイルを回収した。ついで,5㎜径15㎝長のコイルを動脈瘤内に誘導したが,破裂部から動脈瘤外に出てしまうため,これを回収し,さらに小さい3㎜径10㎝長のコイルを動脈瘤内に誘導したが,同様に破裂部から動脈瘤外に出てしまった。そこで,H医師は,別のマイクロカテーテルを動脈瘤内に誘導するため,左大腿静脈にカテーテル 導入用のシースを留置し,ガイディングカテーテルを右内頚動脈内に誘導したが,動脈瘤入り口部分にバルーンがあったため,ここから動脈瘤内に2本目のマイクロカテーテルを誘導することはできなかった。 (キ)そこで,動脈瘤内に留置してあった3㎜径10㎝長のコイルを回収し,次に2㎜径6㎝長のコイルを動脈瘤内に誘導すると,全長が動脈瘤内に安定したので,収まった時点でこれを切り離した。同様に,2㎜径3㎝長のコイルと2㎜径2㎝長のコイルを順次動脈瘤内に誘導して,これを切り離した。この時点でバルーンをしぼませて血管造影をしたところ,止血が確認された。さらに先に誘導できなかった2本目のマイクロカテーテルから2mm径4cm長のコイルを動脈瘤内に誘導し,切り離した。 この際に2本目のマイクロカテーテルの先端が内頚動脈内に逸脱したためマイクロガイドワイヤーで動脈瘤内に再誘導し,1本目のカテーテルを抜去した。2本目のマイクロカテーテルから2mm径3cm長のコイルを2本動脈瘤内に誘導して切り離し,さらに2mm径3cm長のコイルを誘導 クロガイドワイヤーで動脈瘤内に再誘導し,1本目のカテーテルを抜去した。2本目のマイクロカテーテルから2mm径3cm長のコイルを2本動脈瘤内に誘導して切り離し,さらに2mm径3cm長のコイルを誘導したが,内頚動脈内に逸脱するので回収した。この時点で,動脈瘤が造影されなくなったため,塞栓終了とした。 (ク)午後零時15分,手術作業を中断し,CT撮影を施行したところ,くも膜下出血が認められた。 (ケ)午後零時45分,カテーテルが抜去され,本件塞栓術が終了した。 (3)本件塞栓術施行後の経過ア4月26日(ア)4月26日,本件塞栓術終了後,被告G医師は,原告Aに対し,動脈瘤が本件塞栓術中に破裂し,くも膜下出血が生じたことを告げ,「カテーテルによる穿孔が原因である。」との説明をした(乙A2の1・46,95頁,被告G反訳書5・17頁)。 (イ)同日午後1時15分,Dは,病棟に帰室した。Dに対しては,脳保 護のために人工呼吸器下でバルビツレート療法(全身の代謝を抑制することで脳代謝を抑制し,脳圧を下げる脳保護療法)を行うこととし,同日午後2時40分からラボナール(脳幹の網様体賦括系を抑制する全身麻酔薬)の静注が開始された(乙A2の1・47,110,124頁,乙A6,被告G反訳書5・26頁)。 イ4月27日(ア)4月27日午前2時,Dは,瞳孔不同,左瞳孔散大が認められたため,マンニトール(脳圧降下及び脳容積の縮小等を目的として投与される薬剤)の静注が開始され,ラボナールの投与量が増量された(乙A2の1・47,96頁)。 (イ)同日午前8時30分,頭部CT検査が施行され,正中偏位及び右内頚動脈支配領域に低吸収域が認められ,右脳の浮腫が悪化し,脳圧が上昇していると判断された。午前9時30分,被告G医師は,原告A及び原告Bらに対し, 時30分,頭部CT検査が施行され,正中偏位及び右内頚動脈支配領域に低吸収域が認められ,右脳の浮腫が悪化し,脳圧が上昇していると判断された。午前9時30分,被告G医師は,原告A及び原告Bらに対し,右脳が腫れてきていること,外科的な治療として減圧開頭術があることなどを説明し,同原告らはその施行に同意した(乙A2の1・49,97頁,乙A6,7)。 (ウ)同日午前11時40分,Dは,手術室に入室し,午後零時20分,右前頭側頭頭頂外減圧術,右前頭側頭葉切除術及び硬膜形成術(以下「本件減圧開頭術」という。)が施行され,減圧目的で,梗塞が生じていた右前頭葉及び右側頭葉の一部の脳葉が切除された(乙A2の1・36,40,130頁,乙A6,7)。 ウ本件減圧開頭術後も,Dに対して,人工呼吸器下でバルビツレート療法が継続されたが,Dの意識は戻らず,脳浮腫悪化,血圧低下が進行し,5月5日午後7時48分,心停止となり死亡が確認された(乙A2の1・50ないし57頁,乙A6,7)。 エ5月5日午後9時40分,被告G医師が,原告B及びK弁護士に対して 経過を説明した際,被告G医師は,「カテーテルでつき破れ,くも膜下出血となった。」との説明をした(乙A2の1・58,105頁)。 争点(1)(説明義務違反の有無)について(1)手術をしない場合の破裂率,手術に伴う合併症の発生率,手術に伴う危険性及び予後に関する説明義務違反の有無についてア原告らは,被告G医師には,本件塞栓術施行前に,Dに対し,脳動脈瘤に対する手術をしない場合の破裂率,手術に伴う合併症の発生率,手術に伴う危険性及び予後について,説明する義務があったにもかかわらず,同医師は,上記事項について,的確な説明を行っておらず,説明義務違反があると主張する。 そして,本件塞栓術を行うにあたって,医師 術に伴う危険性及び予後について,説明する義務があったにもかかわらず,同医師は,上記事項について,的確な説明を行っておらず,説明義務違反があると主張する。 そして,本件塞栓術を行うにあたって,医師は,手術をした場合,しなかった場合のリスク等について的確な説明をすべき義務を負っていることは原告ら主張のとおりである。 イ(ア)しかし,前記認定事実及び後掲証拠によれば,本件塞栓術の説明に関して,以下の事実が認められる。 a被告G医師は,3月24日夕方又は3月25日午前,Dに対し,血管造影の結果を示しながら,径が5㎜から10㎜の動脈瘤については,5㎜以下のものに比べて破裂率が高いので治療の実施を考慮する必要があり,ただし,径が1㎝以上のものに比べれば破裂率はそれほど高くないため,治療を行うかは患者の選択に委ねていること,治療をした場合に後遺症が出る確率は約2%ぐらいであることなどを説明した(前記1(1)エ)。 b被告G医師は,4月23日午後5時ころ,D及び原告Aに対して,動脈瘤の図を示しながら,治療しないで放置した場合でも一生破裂しない可能性があり,予防的治療であるため緊急に治療を行う必要はないこと,血管内治療により後遺症が発生する確率は100人中2人ぐ らいであり,軽いものとしては手足のしびれがあるが,場合によっては死亡することもあることなどを説明した(前記1(1)ク(ア))。 c被告G医師は,4月23日ころ,Dに対し,本件手術説明書を読むよう指示して,本件手術説明書及び本件同意書を渡した(前記1(1)ク(ウ))。Dは,これを読んで,ベッド脇の引き出しに保管していたが,4月25日,それらに署名捺印をして,被告病院に提出した(前記1(1)ケ,甲A4,原告B反訳書4・1頁)。 d本件手術説明書には,血管内治療の術式が図入りで説明さ ッド脇の引き出しに保管していたが,4月25日,それらに署名捺印をして,被告病院に提出した(前記1(1)ケ,甲A4,原告B反訳書4・1頁)。 d本件手術説明書には,血管内治療の術式が図入りで説明されているほか,「未破裂の(破裂していない)動脈瘤がどれ位の確率で破裂するのか正確にはわかっていませんが,日本の報告では1年間に2%くらい,アメリカの報告では1%にも満たないといわれており,多くの動脈瘤はすぐに破裂する危険性はそれほど高くないと言えます。」,「血管内治療の危険性」という見出しに続き「治療中に動脈瘤が破裂して出血することがあり,出血を止めることは可能ですが,上手く止められなければ,生命に危険が及ぶ可能性があります。また血管内に血栓(血の固まり)ができて,動脈瘤のところで動脈を閉塞したり,遠位部に飛んで末梢の血管を閉塞して脳梗塞を来す危険があります。 プラチナのコイルが治療中にずれたり,飛び出したりすることがあり,正常な血管を閉塞して脳梗塞を来すことがあります。こうした脳梗塞が起こると,手足が麻痺したり,言葉がしゃべれなくなったり,意識が悪くなったり,死亡することもあり得ます。」,「治療の結果」という見出しに続き「血管内治療で完全に動脈瘤が閉塞しなかった場合に,残った隙間が後になって血の塊で塞がってしまうか,そのまま残るか,隙間が広がることがあり,それを調べるために,血管撮影を繰り返して行わなければなりません。その結果,再度治療が必要になることがあります。」などの記載がある(乙A2の1・27ないし30 頁)。 (イ)以上認定の事実によれば,被告G医師は,3月24日午前又は同月25日午後と4月23日の2回にわたり,Dに対し,径が5㎜から10㎜の脳動脈瘤を放置した場合の破裂の危険性,手術を行うべき緊急性の程度,手術を行った場 によれば,被告G医師は,3月24日午前又は同月25日午後と4月23日の2回にわたり,Dに対し,径が5㎜から10㎜の脳動脈瘤を放置した場合の破裂の危険性,手術を行うべき緊急性の程度,手術を行った場合に起こり得る合併症の内容及びその発症率について,口頭で直接説明したことが認められ,さらに,Dは,4月23日ころ,同趣旨の内容が記載された本件手術説明書の交付を受け,その内容を改めて読む機会を与えられた後,同月25日,説明を受けたことを確認する旨の署名捺印をして,これを本件同意書とともに被告病院に提出したことが認められる。これによれば,Dは,本件手術説明書に記載された血管内治療の術式,未破裂脳動脈瘤を放置した場合の破裂率,手術に伴う合併症の内容,手術に伴う危険性及び予後について,十分に理解した上で本件塞栓術の施行に同意したものと推認することができる。 よって,被告G医師に,手術をしない場合の破裂率,手術に伴う合併症の発生率,手術に伴う危険性及び予後について,説明義務違反があったということはできない。 ウ本件説明書の交付についてこれに対し,原告らは,Dが,4月23日,本件手術説明書の交付を受けた事実はない旨主張し,①本件手術説明書の「平成16年4月23日」という字はDの筆跡によるものではないこと(乙A2の1・30頁,被告G反訳書5・11頁),②本件同意書の同席者欄には,4月23日の説明に同席した原告Aの記載がないこと(乙A2の1・26頁),③本件同意書には「平成16年4月21日に以下の通り説明しました。」と記載されており,被告らの主張する本件手術説明書交付日(4月23日)との間に齟齬があること(乙A2の1・26頁)を指摘する。 しかしながら,4月25日,Dが本件手術説明書をベッド脇の引き出し に保管しており,その内容を了解していたことは 明書交付日(4月23日)との間に齟齬があること(乙A2の1・26頁)を指摘する。 しかしながら,4月25日,Dが本件手術説明書をベッド脇の引き出し に保管しており,その内容を了解していたことは,同日病室を訪れた原告Bが確認していること(前記イ(ア)c),これに加えて,①本件説明書の「平成16年4月23日」という日付は,被告G医師の作成日付であり(乙A2の1・30頁,被告G反訳書5・11頁),Dが日付を記入することはもとより予定されていないこと,②Dが本件同意書に署名捺印をしたのは4月25日のことであり(前記1(1)ケ),被告病院では,手術の実施に当たり,同席者の同意書への署名は必須のものとはされていないこと(被告G反訳書5・14頁),③本件同意書に「平成16年4月21日に以下の通り説明しました。」と記載されているのは,被告G医師が,通常は,患者の入院日に入院診療計画書,同意書,手術説明書を併せて交付することにしているため,本件同意書にもDの入院日を記載してしまったからにすぎないこと(被告G反訳書5・14頁)などからすれば,原告らの指摘する前記①ないし③の事実は,いずれも4月23日ころ,Dに対し,本件手術説明書が交付されたとの認定を覆すことはできない。 エ説明の内容について(ア)さらに,原告らは,径が10㎜未満の脳動脈瘤で,脳動脈瘤破裂の病歴がない患者の脳動脈瘤が1年以内に破裂する確率は,0.05%と極めて低いのに対し,脳動脈瘤の手術により重篤な障害が発生し,又は死亡する確率は5%に達するとの報告が存在するのであり,被告G医師の脳動脈瘤破裂率や合併症発生率についての説明は不正確である旨主張する。 (イ)脳動脈瘤の破裂率等について本件手術説明書には,脳動脈瘤の破裂率につき,「日本の報告では1年間に2%くらい,アメリカの報告 脈瘤破裂率や合併症発生率についての説明は不正確である旨主張する。 (イ)脳動脈瘤の破裂率等について本件手術説明書には,脳動脈瘤の破裂率につき,「日本の報告では1年間に2%くらい,アメリカの報告では1%にも満たないといわれており,多くの動脈瘤はすぐに破裂する危険性はそれほど高くないと言えます。」との記載が存するところ,この点に関し,確かに,径10㎜未満 の脳動脈瘤を有し,脳動脈瘤破裂の病歴がない患者727人についての脳動脈瘤の破裂率は,年間0.05%を下回ったとのISUIA(TheInternationalStudyofUnrupturedIntracranialAneurysms) Investigatorsによる1998年の調査報告(以下「ISUIA報告」という。)が存在することが認められる(甲B2の1・1頁)。 しかし,ISUIA報告を引用するL大学医学部脳神経外科のウェブサイトには,「我々も含め多くの脳神経外科医は本当の未破裂動脈瘤の破裂率はこの報告で示された確率(1年間で0.05%)よりももっと高いと考えています。」と記載されていること(甲B1の3・3頁),ISUIA報告は,その症例の選択基準や観察期間等に問題を含んでおり,極端に低い破裂率に対して批判がされ,その後,破裂率が修正され,我が国において日本脳神経外科学会による調査を実施する機会となったと述べる文献が存在すること(甲B3・1075頁,乙B1・58頁)に照らせば,ISUIA報告に示された年間0.05%という破裂率が一般的に支持されている数値とは認められない。 これに加え,複数の文献において,巨大脳動脈瘤を除く無症候性未破裂脳動脈瘤の破裂率に関してエビデンスレベルの高い報告は存在しないとされていること(甲B3・1075,1081頁,乙B1・58頁), 。 これに加え,複数の文献において,巨大脳動脈瘤を除く無症候性未破裂脳動脈瘤の破裂率に関してエビデンスレベルの高い報告は存在しないとされていること(甲B3・1075,1081頁,乙B1・58頁),無症候性脳動脈瘤の破裂率は年間1~2%と考えるのが妥当と思われるとする文献(甲B3・1075頁)や,くも膜下出血のない10㎜未満の無症候性動脈瘤の年間破裂率は1.9%であったとする報告(乙B1・58頁)も存在することに鑑みれば,本件手術説明書における破裂率についての説明が不正確なものであるとはいえない。 (ウ)合併症発生率に関する説明について被告G医師は,術前の血管造影で径6㎜×3㎜の脳動脈瘤が認められていたDに対し,血管内治療により後遺症が発生する確率は100人中 2人ぐらいであると説明したと認められるところ,この点,無症候性未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療について,同治療を実施した115例について手術にともなう悪化は4.3%であったとの報告(乙B1・59頁)や,無症候性51例のうち死亡は3.9%,合併症は5.9%であったとする報告(乙B1・60頁)が存在する。 しかし,一方,上記各報告は,対象症例を動脈瘤の大きさによって区別していないと解されるところ,径が10㎜未満の無症候性未破裂脳動脈瘤では合併症がなかったとの報告(乙B1・61,62頁)や,小さい未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療において,動脈瘤の術中破裂は0. 7%であり,そのうち障害又は死亡が発生したのは29%であるとする文献(乙B2・182頁)も存在すること,平成15年9月発行の「脳ドックのガイドライン」においても,未破裂脳動脈瘤に対する血管内塞栓術に関する文献はいまだあまり多くないとされていること(乙B1・59頁)に照らせば,被告G医師の前記説明が,不正確であったとは認 ドックのガイドライン」においても,未破裂脳動脈瘤に対する血管内塞栓術に関する文献はいまだあまり多くないとされていること(乙B1・59頁)に照らせば,被告G医師の前記説明が,不正確であったとは認められない。 なお,原告Aは,被告Dが,被告G医師から,脳動脈瘤についての手術を受けないと,毎年脳血管造影を受けなければならず,酒,たばこや運動を控えなければならないと説明されたと供述する(甲A3,原告A反訳書3・1ないし4頁)。 しかしながら,被告G医師は,Dにそのようなことを言ったことはないと述べていること(被告G反訳書1・6頁,反訳書5・2ないし5頁)に照らし,前記原告Aの供述は,直ちに採用できない。 オ以上によれば,被告G医師に,手術をしない場合の破裂率,手術に伴う合併症の発生率,手術に伴う危険性及び予後についての説明義務違反があったとは認められず,これらの点についての説明が不正確であったとの原告らの主張を採用することはできない。 (2)担当医及び経験症例に関する説明についてア原告らは,被告G医師が,Dに対し,自身の執刀したコイル塞栓術300例以上のうち死亡例はなく,また,被告G医師自らが本件塞栓術を行う旨述べて,本件塞栓術には死亡の危険性が極めて少ないかのように誤信させたことが説明義務違反である旨主張する。 イ(ア)前記1(1)ク(イ)認定のとおり,被告G医師は,D及び原告Aに対し,過去に300例以上の未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療を行ったが死亡例はなかった旨を話したこと,Dから,被告G医師が手術をするのかを尋ねられたのに対して,自分も手術を担当するという趣旨の発言をしたことがそれぞれ認められる。 (イ)なお,被告らは,被告G医師が自ら本件塞栓術を行う旨を述べた事実はないと主張し,被告G医師も,陳述書において,原告A て,自分も手術を担当するという趣旨の発言をしたことがそれぞれ認められる。 (イ)なお,被告らは,被告G医師が自ら本件塞栓術を行う旨を述べた事実はないと主張し,被告G医師も,陳述書において,原告Aから「それではGが手術をしてくれるのですね。」と尋ねられた記憶はなく,「私がやります。」と答えたこともないと述べる(乙A6)。 しかし,①被告G医師は,本人尋問において,Dから手術をしてくれるのかと尋ねられたか否かについては,はっきりした記憶がないものの,患者から手術をしてくれるのかと尋ねられれば,自らも他の担当医師と一緒に手術に入るという意味で,「私も手術をやります」というように答えると思う旨供述し(被告G反訳書5・8頁),前記発言をした可能性を明確に否定しているわけではないこと,②原告らは,本訴提起段階では,被告G医師が本件塞栓術の術者であったと主張しており,本訴提起後,被告らから本件塞栓術の術者はH医師であったとの認否を受けて,主張を訂正するに至ったものであり,本訴提起に至るまで被告G医師が本件塞栓術の術者であったと信じていたこと(甲A3,弁論の全趣旨),③原告Aも,Dが被告G医師に対して直接「やっていただけるんですね」と質問し,被告G医師が「はい,私,やります」と言った旨供述し ていること(原告A反訳書3・7頁)などからすれば,被告G医師は,Dから,被告G医師が手術をするのかと尋ねられたのに対し,自分も一緒に手術をするという趣旨の発言をしたと推認するのが相当である。 もっとも,被告G医師が,患者から被告G医師が術者で手術を行うのかと問われた場合には,自分が術者の場合もあれば,他の医師が術者の場合もあると答えるとも供述していること(被告G反訳書5・9頁)を考慮すると,被告G医師が,Dに対し,自らが術者になると明言したとまでは認め れた場合には,自分が術者の場合もあれば,他の医師が術者の場合もあると答えるとも供述していること(被告G反訳書5・9頁)を考慮すると,被告G医師が,Dに対し,自らが術者になると明言したとまでは認められない。 (ウ)また,被告G医師は,Dに対し,「私は,今まで300例以上やって事故になったのは1例もない。手足の軽いしびれが多少残った例が2,3例あるが,死亡例はない。」と述べたことはないとも陳述する(乙A6)。 しかしながら,①被告G医師が,本人尋問において,患者から問われたときには,300人ぐらい治療して死亡例はなかったと答えたことがあるので,Dからそのように聞かれたのであれば,同じように答えたと思うと供述していること(被告G反訳書5・7頁),②被告G医師が未破裂脳動脈瘤の血管内治療を術者として行った症例数が300例以上であり,そのうち死亡した症例は1例もないことは,被告G医師の認識と一致しており(乙A6,被告G反訳書5・7頁),Dが,被告G医師から告げられた以外に,上記事実を知るに至った機会があったとは窺われないこと,③原告Aも,被告G医師から,300くらいの手術例があるが,手足に軽いしびれが出るような後遺症2,3例はあるとの説明を受けた旨供述していること(原告A反訳書3・6頁)からすれば,被告G医師は,D及び原告Aに対する説明の際に,やりとりの中で,過去に300例以上の未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療を行ったこと,及び,そのうち死亡した症例はなかったことを述べたと推認することができる。 ウ(ア)そこで,被告G医師が,Dに対し,過去に300例以上の未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療を行ったが死亡例はなかった旨を述べ,さらに,自分も手術を担当するという趣旨の発言をしたことが説明義務に違反するか検討する。 一般的に論じられる合併 に300例以上の未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療を行ったが死亡例はなかった旨を述べ,さらに,自分も手術を担当するという趣旨の発言をしたことが説明義務に違反するか検討する。 一般的に論じられる合併症の発生率は,あくまで統計上の数字にすぎないから,これと個々の医師が関与した手術の成績とが必ずしも一致しないのは当然のことである。そうであるとすれば,医師が患者に対し一般的な手術リスクを説明した後に自己の関与した手術成績を告げたとしても,それが正しい情報であれば,直ちに患者の手術の危険性についての理解を誤らせることになるとはいえず,説明義務の対象とされる一般的な手術リスクについて適切な説明がされている限りは,説明義務違反の問題は生じないと解するのが相当である。患者は,一般的な合併症の発生率と,担当医師の手術成績など,得られた情報を総合判断して,治療法を選択することができるというべきである。 本件においては,前記認定のとおり,被告G医師は,4月23日の説明において,Dに対し,血管内治療のリスクについて適切な説明をしたと認められる(前記(1)エ(ウ))。そして,被告G医師が過去に300例以上の未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療を行い,その中で死亡した症例がなかったという説明は,被告G医師の認識に合致した正しいものであり(乙A6,被告G反訳書5・7頁),殊更に,本件血管内治療の一般的リスクの存在を否定する内容とも認められない。 したがって,Dに対し,過去に300例以上の未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療を行ったが死亡例はなかった旨を述べたことをもって,説明義務に違反したということはできない。 (イ)さらに,被告G医師が自分も手術を担当するという趣旨の発言をした点について付言するに,確かに,被告G医師が上記の発言をしたこと により,D及び原告Aが 務に違反したということはできない。 (イ)さらに,被告G医師が自分も手術を担当するという趣旨の発言をした点について付言するに,確かに,被告G医師が上記の発言をしたこと により,D及び原告Aが,被告G医師が術者として本件塞栓術を施行するものと誤解した可能性は否定できないところである。しかしながら,他方で,前記のとおり,被告G医師が自らがカテーテルやコイルを直接扱う術者になる旨を明言したとまでは認められないこと(前記イ(イ)),本件塞栓術において,被告G医師自身も操作室から手術を監視しており,コイルが動脈瘤外に逸脱した後には,直ちに治療に加わっている(前記1(2)ア,イ(カ))ように本件塞栓術を担当したとも評価できることに鑑みれば,上記の点も説明義務違反を構成するとまではいえないというべきである。 エしたがって,被告G医師が,Dに対し,過去に300例以上の未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療を行ったが死亡例はなかった旨を述べ,さらに,自分も手術を担当するという趣旨の発言をしたことで,説明義務に違反したとは認められない。 (3)以上によれば,被告G医師に説明義務違反があるとの原告らの主張を採用することはできない。 争点(2)(手技上の過失の有無)について(1)原告らは,本件塞栓術において,H医師には,バルーンを適度に膨らませずに,漫然とカテーテル又はコイルを出し入れした過失があり,その結果,同医師は,カテーテル又はコイルでDの脳動脈瘤の後壁を穿孔したと主張する。 そして,前記認定のとおり,本件塞栓術中,H医師が,コイルを動脈瘤内に誘導している際,動脈瘤の後壁に破裂が生じ,コイルとマイクロカテーテルが動脈瘤外に逸脱したこと(前記1(2)イ(エ))が認められる。 また,動脈瘤破裂の原因に関する説明について,4月26日,本件塞栓術終 している際,動脈瘤の後壁に破裂が生じ,コイルとマイクロカテーテルが動脈瘤外に逸脱したこと(前記1(2)イ(エ))が認められる。 また,動脈瘤破裂の原因に関する説明について,4月26日,本件塞栓術終了後,被告G医師が,原告Aに対し,動脈瘤が本件塞栓術中に破裂し,くも膜下出血が生じたことを告げ,「カテーテルによる穿孔が原因である。」 との説明をしたこと(前記1(3)ア(ア)),D死亡後の5月5日午後9時40分,被告G医師が,原告B及びK弁護士に対して経過を説明した際,被告G医師が,「カテーテルでつき破れ,くも膜下出血となった。」との説明をしたこと(前記1(3)エ)がそれぞれ認められる。 (2)しかし,他方,本件塞栓術中に動脈瘤が破裂したことについては,以下の点を指摘することができる。 アカテーテルの誘導は,動脈瘤破裂の前に既に完了しており,動脈瘤が破裂したのは,コイルを動脈瘤内に挿入している最中であったと認められ(乙A2の1・35,45頁,証人H反訳書2・4頁,反訳書6・3,11頁,被告G反訳書5・25頁),この点からすれば,カテーテル自体が動脈瘤後壁に穿孔を生じさせたとは考えにくい。 イ動脈瘤が破裂した際,コイルとマイクロカテーテルが動脈瘤外に逸脱したことは認められるけれども,コイルとマイクロカテーテルは,非常に柔らかく,血管内で湾曲しているため,動脈瘤が破裂した際には,血流や拍動の影響により動脈瘤外に逸脱することがあっても不自然とはいえず(証人H反訳書2・4,5頁,反訳書6・11ないし14頁),そのことからカテーテルが動脈瘤に穿孔を生じさせたと推認することはできない。 ウH医師は,コイルが動脈瘤を穿孔したとは考えられない根拠として,①動脈瘤が破裂した際,コイルが動脈瘤の壁にぶつかっているような抵抗感はなかったこと,②改めて術 じさせたと推認することはできない。 ウH医師は,コイルが動脈瘤を穿孔したとは考えられない根拠として,①動脈瘤が破裂した際,コイルが動脈瘤の壁にぶつかっているような抵抗感はなかったこと,②改めて術中ビデオ(乙A3)を見直したところ,コイルは動脈瘤の中に全体が膨らんで入るような動きをしており,コイルがどこか1か所に集中してぶつかってはいないのが確認できたことなどを述べて,これに沿うものとして術中ビデオ(乙A3)を提出しており,その証言が不合理であるとはいえない(証人H反訳書6・7ないし12頁)。 エ本件塞栓術後,被告G医師が原告Aに対し,「カテーテルによる穿孔が原因である。」と説明した旨の診療録の記載が存することは認められるけ れども(乙A2の1・46頁),この点につき,H医師は,結果的にコイルとカテーテルが動脈瘤外に逸脱したことから「穿孔」という表現を用いたにすぎず,コイル又はカテーテルで動脈瘤の壁を突き破ったという意味で記載したものではなく,後から考えれば「穿孔」という表現は正確ではなかった旨証言していること(証人H反訳書6・7,8頁),被告G医師も,コイルを入れる操作もカテーテルを入れる操作も全てカテーテル操作という一言で表現しており,また,何もしていない状態で自然に動脈瘤が破裂したわけではないことから,「カテーテルによる穿孔」という表現で説明をしたにすぎず,カテーテルで動脈瘤の壁を穿孔したとは考えていないと供述していること(被告G反訳書5・28ないし30頁)からすれば,上記診療録の記載から,カテーテルによって動脈瘤の壁を突き破ったと認めることもできない。 オこれに加え,コイル塞栓術は,動脈瘤の中にコイルを挿入していく治療方法であるため,動脈瘤の壁に触れずに治療を行うことは不可能であり,動脈瘤の壁に薄い部分があった場合等 と認めることもできない。 オこれに加え,コイル塞栓術は,動脈瘤の中にコイルを挿入していく治療方法であるため,動脈瘤の壁に触れずに治療を行うことは不可能であり,動脈瘤の壁に薄い部分があった場合等には,不可避的に動脈瘤が破裂し得ることが認められる(乙B2・182頁,証人H反訳書2・4頁)から,術中に動脈瘤が破裂した事実から,直ちに手術手技に過失があったと推認することもできない。 (3)また,原告らは,H医師がバルーンを適度に膨らませずに漫然とカテーテル又はコイルを出し入れしたことが過失であるとも主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,H医師は,本件塞栓術において動脈瘤頚部が広く,動脈瘤内に誘導したコイルが内頚動脈に逸脱するため,バルーンを膨らませて動脈瘤頚部を塞いでコイルの誘導を行ったものであり(前記1(2)イ(エ)),バルーンを適度に膨らませなかった過失があると認めることはできない。また,コイル塞栓術においては,動脈瘤内にコイルを収めるまで出し入れを繰り返し行うことはよくあることであって,コイルはプラチナ 製で非常に柔らかい素材であるので,通常,出し入れを数回行ったからといって,動脈瘤の壁を大きく傷つけるようなことはないことが認められるから(被告G反訳書5・19,20頁),コイルの出し入れを数回行ったことに過失があるとも認められない。 よって,これらの原告らの主張も理由がない。 (4)以上によれば,本件塞栓術中に動脈瘤が破裂したのは,やむを得ない合併症と理解されるべきものであり,原告ら指摘の事実から,H医師に手技上の過失があったと認めることはできない。 争点(3)(動脈瘤破裂後の出血に対する措置に関する過失の有無)について(1)原告らは,被告G医師及びH医師には,脳動脈瘤破裂後は,止血を行った後,直ちに開頭術を行い, 認めることはできない。 争点(3)(動脈瘤破裂後の出血に対する措置に関する過失の有無)について(1)原告らは,被告G医師及びH医師には,脳動脈瘤破裂後は,止血を行った後,直ちに開頭術を行い,頭蓋内に貯留した血腫を除去すべき注意義務があったにもかかわらず,事前に開頭術を行う体制を整えていなかったために本件塞栓術の翌日まで開頭術の施行を遅延した過失があると主張する。 (2)確かに,未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術を行うに当たっては,全身ヘパリン化で手技を行っているため,術中に出血した場合には致命的となることもあり,最悪の事態に備えてすぐに外科的な開頭術が行えるような体制を整えておくことが大切であると述べている文献が存在する(甲B3・1084頁)。 しかし,①同文献においては,前記記載に続けて,破裂した場合には,まずヘパリンを中和し,穿孔したガイドワイヤーやマイクロカテーテルはそのままにしておき,マイクロカテーテルをもう1本追加して動脈瘤内に誘導し,塞栓術を続行するか,あるいはカテーテルを用いて動脈瘤外でコイルを一部巻き,その後マイクロカテーテルを瘤内に引き戻し,動脈瘤内でさらにコイルを巻いて塞栓術を続行するものとされており,破裂後,直ちに開頭術を施行すべきであるとまでは記載されていないこと(甲B3・1084頁),②血腫除去術は,血液の塊がまとまってできた場合にこれを除去する術式であ り,くも膜下出血の場合には血液が1か所に集中して塊を作るのではなく出血が脳の表面全体に広がるので,これを取り除くことはできないこと(証人H反訳書6・6,10頁),③本件塞栓術においては,動脈瘤破裂後,バルーンを膨らませて血流を遮断し,さらに,コイルを追加して動脈瘤についても止血が得られたこと(前記1(2)イ(オ)ないし(キ),証人H反訳書6・10 10頁),③本件塞栓術においては,動脈瘤破裂後,バルーンを膨らませて血流を遮断し,さらに,コイルを追加して動脈瘤についても止血が得られたこと(前記1(2)イ(オ)ないし(キ),証人H反訳書6・10頁,被告G反訳書5・25,26頁)などからすれば,本件塞栓術において,動脈瘤破裂後,直ちに開頭術を行い,頭蓋内に貯留した血腫を除去すべき注意義務があったとは認められない。 (3)加えて,前記認定のとおり,本件塞栓術後,脳保護のためにラボナールの投与によるバルビツレート療法が開始されたこと(前記1(3)ア(イ)),本件塞栓術の翌日である4月27日,CT画像上,Dに脳浮腫の悪化による脳圧亢進が認められた時点で,遅滞なく本件減圧開頭術が施行されたこと(前記1(3)イ(イ),(ウ))が認められ,これらによれば,動脈瘤破裂による頭蓋内圧亢進に対しては,適切な処置がとられていたと認めることができる。 (4)したがって,被告G医師及びH医師に,動脈瘤破裂後の出血に対する措置に関する過失があったとは認められない。 第4 結論 以上によれば,原告らの主張する注意義務違反は,いずれもこれを認めることができず,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 よって,原告らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美 裁判官佐藤哲治裁判官渡邉隆浩
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