平成13(ワ)341 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年11月26日 福岡地方裁判所 小倉支部
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判決文本文15,151 文字)

主文 1 被告五月興業株式会社は,原告に対し,546万1161円及び内496万1161円に対する平成11年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告五月興業株式会社に対するその余の請求を棄却する。 3 原告の被告株式会社大林組に対する請求を棄却する。 4 訴訟費用は,原告に生じた費用の8分の1と被告五月興業株式会社に生じた費用の4分の1を同被告の負担とし,原告及び同被告に生じたその余の費用と被告株式会社大林組に生じた費用を原告の負担とする。 5 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して2161万1054円及び内1965万1054円に対する平成11年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告五月興業株式会社(以下「被告五月興業」という。)の作業員であった原告が,被告株式会社大林組(以下「被告大林組」という。)を元請,被告五月興業を第4次下請とする土木工事に従事した際,同被告の被用者で,被告大林組の指揮監督を受けていた作業員の過失により,マンホールの鉄蓋に右手指を挟まれ,右示指遠位指節間関節の離断等の傷害を負ったとして,被告五月興業及び同大林組に対し,いずれも使用者責任(民法715条1項)に基づき,損害賠償及び遅延損害金の支払(不真正連帯)を求めた事案である。 1 前提事実〔証拠を摘示しない事実は,当事者間に争いがないか,裁判所に顕著である。〕(1) 当事者被告大林組は,建設工事の請負等を目的とする株式会社であり,被告五月興業は,土木建築工事業等を目的とする株式会社である。 原告は,平成11年2月ころ,被告五月興業に作業員として雇用された。〔甲9,原告本人3,402〕(2 請負等を目的とする株式会社であり,被告五月興業は,土木建築工事業等を目的とする株式会社である。 原告は,平成11年2月ころ,被告五月興業に作業員として雇用された。〔甲9,原告本人3,402〕(2) 管路施設工事被告大林組は,平成10年10月ころ,兵庫県氷上郡a町から,同町b地区の農業集落の下水を処理するための管路施設工事(農業集落排水緊急整備事業b10第1工区管路施設工事,以下「本件工事」という。)を請け負った。〔乙ロ1〕本件工事は,被告大林組から,大林道路株式会社(以下「大林道路」という。),株式会社氷上興業(以下「氷上興業」という。),株式会社大原建設(以下「大原建設」という。),被告五月興業へと順次下請に出された。〔乙ロ10,証人P6,7〕原告は,被告五月興業の作業員であるMほか数名の作業員とともに,本件工事に従事していた。〔原告本人13〕(3) 事故の発生原告は,平成11年11月24日,a町cにおいて,管路の中継地点に設けられたマンホールの地上口に据え置かれた鉄蓋(リング状の受枠に親子蓋をはめたものであり,受枠下部の直径は1145㎜,総重量は217.1㎏である。以下「本件鉄蓋」という。)に調整金具を取り付けようと,Mが掛矢(杭を打ち込むとき等に用いる大きな木槌)を梃子の支点としてその上にバールを乗せ,バールを本件鉄蓋の下に差し入れ,同鉄蓋をバールで持ち上げた状態で,本件鉄蓋の下に右手を差し入れたところ,バールが外れて本件鉄蓋が落下したため,マンホールと本件鉄蓋との間に右示指を挟まれ,遠位指節間関節(DIP)離断の傷害を負った(以下,上記を「本件事故」という。)。〔甲6ないし8,乙イ1,2,乙ロ7,原告本人360〕 2 争点及び当事者の主張(1) Mが,原告に対する不法行為責任(民法709条)を負うか否か。 (原告の主張 以下,上記を「本件事故」という。)。〔甲6ないし8,乙イ1,2,乙ロ7,原告本人360〕 2 争点及び当事者の主張(1) Mが,原告に対する不法行為責任(民法709条)を負うか否か。 (原告の主張)Mは,本件鉄蓋をバールで持ち上げるに際し,本件鉄蓋の下で作業をする者に危害を及ぼすことがないように安全に作業すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,本件鉄蓋を漫然落下させて原告に傷害を負わせたものであるから,不法行為責任に基づき,原告の損害を賠償する義務がある。 被告らは,原告が現場のリーダー的存在で,Mに本件鉄蓋をバールで持ち上げるよう指示したのは原告であると主張するが,原告とMほか被告五月興業の作業員との間には,職制上の上下関係はないし,原告が上記作業をMに指示したこともない。仮に原告が事実上のリーダー的な立場にあったとしても,それは他の作業員よりも土木作業に習熟した面があったというにすぎない。 (被告五月興業の主張)本件鉄蓋は200㎏を超える重量があり,バールで持ち上げるものではなく,機械を使用して持ち上げるものであるから,そもそもMにはバール作業に係る注意義務はない。 原告は土木作業員としての経験と資格に優れ,他の作業員が原告の指示を仰ぐことなく行動することは考えられないから,Mが本件鉄蓋をバールで持ち上げたのは,原告の指示によるものである。したがって,本件事故は原告の一方的過失によるものであるから,Mに不法行為責任はない。 仮にMが原告の指示なく本件鉄蓋をバールで持ち上げたとしても,200㎏を超える本件鉄蓋の下に,桟木をかませていない状態で手を差し入れることは到底予想できないから,Mにそのような異常事態を想定して本件鉄蓋の落下を防止すべき義務はない。 (被告大林組の主張)Mは一般的な土木作業員であったが,原告は,土木作業員とし 態で手を差し入れることは到底予想できないから,Mにそのような異常事態を想定して本件鉄蓋の落下を防止すべき義務はない。 (被告大林組の主張)Mは一般的な土木作業員であったが,原告は,土木作業員としての経験,資格及び能力に優れ,現場のリーダー的存在であった。したがって,原告とMとの共同作業においては,Mは,原告に指示されるまま,いわば原告の「道具」として本件の作業を行ったにすぎないから,Mに不法行為責任はない。本件事故は,原告の自招事故である。 (2) 被告大林組は,Mの使用者(民法715条1項)に当たるか否か,すなわち,同被告のMに対する指揮監督関係の有無。 (原告の主張)本件工事においては,被告五月興業が被告大林組の下請人として専属的に出入りし,被告五月興業の作業員が行う作業は,その場所及び内容においてほとんど被告大林組と同一であり,その作業について同被告の現場監督が指揮監督する体制となっていた。したがって,被告五月興業の作業員は,事実上,被告大林組の指揮監督を受けて稼働していたものであるから,同被告は,被告五月興業の作業員であるMの不法行為について,使用者責任を負う。 (被告大林組の主張)被告大林組は,本件工事の現場付近に現場事務所を設置し,数名の従業員を常駐させていたが,同工事の施工区域の管路延長が1万6577mと広範囲に及ぶことから,その工事過程のすべてを具体的かつ詳細に把握することは不可能であり,被告五月興業に対する作業場所や作業方法等の具体的な指示管理は,被告大林組の第3次下請業者に当たる大原建設が主体的に行っていた。被告大林組は,被告五月興業はもとより,氷上興業及び大原建設についても,本件工事でのみ関係を有したにすぎず,被告五月興業は,被告大林組の専属的な下請人ではない。 また,本件工事の材料,機材等は,氷上興業以下の は,被告五月興業はもとより,氷上興業及び大原建設についても,本件工事でのみ関係を有したにすぎず,被告五月興業は,被告大林組の専属的な下請人ではない。 また,本件工事の材料,機材等は,氷上興業以下の下請業者によって調達され,作業服,ヘルメット等の備品も各自所属会社のものを使用していた。 したがって,被告大林組とMとの間には,指揮監督関係は存在せず,同被告は,Mの不法行為について使用者責任を負うものではない。 (3) 被告大林組は,Mの選任及びその事業の監督につき相当の注意をしたか否か,また,本件事故は,相当の注意をしても発生したものであるか否か。 (被告大林組の主張)被告大林組は,本件工事の作業員について,各下請業者を通じて新規入場者アンケートへの記載を求めて管理し,作業手順書を作成させて作業内容を確認するほか,毎日巡視を行って,安全性等に関する問題点を発見した場合には,各下請業者に周知徹底を図らせており,被用者の選任及び事業の監督につき相当の注意を尽くしていた。 しかるに,原告は,現場責任者である大原建設のNから指示されていない予定外かつ不必要なマンホール調整金具の取付け作業を独断で行った。しかも,原告は,その作業を行うに当たり,本件鉄蓋を分解するか,バックホウ(ユンボ)等の建設機械を用いて持ち上げるべきものであることを認識しながら,不安定な掛矢を梃子にしてバールで持ち上げた本件鉄蓋の下に,落下防止の措置もしないまま手を差し入れており,その作業方法には著しい注意義務違反がある。したがって,被告大林組が,このような異常な作業を予想することは不可能であるから,同被告が相当の注意を尽くしても,本件事故は発生したものである。 (原告の主張)本件工事の現場では,管路掘削,マンホール設置,管路・水道管布設,埋戻しといった各作業が繰り返されるものであ あるから,同被告が相当の注意を尽くしても,本件事故は発生したものである。 (原告の主張)本件工事の現場では,管路掘削,マンホール設置,管路・水道管布設,埋戻しといった各作業が繰り返されるものであるところ,現場責任者であるNも,重機等を操作して掘削や埋戻し等の作業に従事していたことから,マンホールの設置作業は,各作業の進捗状況に応じて,その都度現場の作業員の判断に任されていた。 また,本件工事の現場では,マンホールの鉄蓋を持ち上げたりする際,クレーン等を使用するのはまれで,実際にはバール等を利用することが多く,本件事故発生時は,現場にはバックホウが1台しか稼働しておらず,同機械も埋戻し作業に使用中であった。したがって,原告が行った作業の方法は,作業慣行及び現場状況からして,通常の作業方法の範囲内のものであった。 (4) 原告の損害額(原告の主張)ア逸失利益 1768万8456円原告は,本件事故により,右示指遠位指節間関節を欠損したため,その機能障害について労災保険の後遺障害等級第11級7号(既存傷害との併合により第10級6号)の認定を受け,その労働能力を20%喪失した。原告は,症状固定時45歳であり,67歳までの就労可能年数22年間の逸失利益は,以下の算式により1768万8456円となる50万5500円(45歳男子の年齢別平均給与月額)×12×0.2×14.580(新ホフマン係数)=1768万8456円イ慰謝料 500万円原告は,本件事故による傷害のため,平成11年11月24日から同12年1月28日までの間,柏原赤十字病院に通算66日間,同年9月14日から同月27日までの間,芳野病院に通算14日間,それぞれ通院したことや原告の後遺障害からすれば,傷害分として80万円,後遺障害分として420万円の慰謝料が相当である。 ウ損 日間,同年9月14日から同月27日までの間,芳野病院に通算14日間,それぞれ通院したことや原告の後遺障害からすれば,傷害分として80万円,後遺障害分として420万円の慰謝料が相当である。 ウ損害填補原告は,労災保険法に基づく障害補償一時金及び障害特別支給金として,303万7402円の支払を受けたので,上記ア,イの合計額からこれを差し引くと,残額は1965万1054円となる。 エ弁護士費用 196万円原告が,本訴の提起及び追行を原告代理人に委任した費用及び報酬。 オ損害合計 2161万1054円なお,被告らは過失相殺を主張するが,本件現場では,マンホールの調整金具の仕様変更が周知徹底されておらず,原告ら作業員に混乱を招いた一因となっている。 (被告五月興業の主張)原告は,1箇月に24日間ほど勤務し,その日当は1万4000円であったから,その逸失利益は,給与月額33万6000円を基準として算定すべきである。 また,本件事故の発生には,以下のとおり原告に著しい過失があるから,これを斟酌して過失相殺をすべきである。すなわち,①原告は,日ごろから元請の指示に従うよう指導されていたにもかかわらず,Nから調整金具の取付けを指示されていないばかりか,その取付け場所の指示も仰がずに,勝手に判断して本件鉄蓋に調整金具を取り付けようとしたこと,②原告は,本件鉄蓋の重量からして,本件鉄蓋をクレーンないしバックホウを使用して持ち上げさせ,Mがバールで持ち上げたことを注意すべき立場にあったこと,③原告は,桟木をかませていない状態で本件鉄蓋の下に手を差し入れたことから,原告には著しい過失がある。 (被告大林組の主張)前記(3)のとおり,原告は,予定外の作業を,独断で,しかも極めて危険な方法で行ったものであるから,原告に著しい注意義務違反があり,これを斟酌 から,原告には著しい過失がある。 (被告大林組の主張)前記(3)のとおり,原告は,予定外の作業を,独断で,しかも極めて危険な方法で行ったものであるから,原告に著しい注意義務違反があり,これを斟酌して大幅な過失相殺をすべきである。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(Mの不法行為責任の有無)について(1) 前記第2の1の前提事実,証拠(甲7,9,乙イ3,乙ロ1ないし6,8の1・2,9,証人S,原告本人《以下の認定に反する部分を除く。》)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告の経歴等原告は,昭和45年3月に中学校を卒業後,溶接工見習,建設作業員,大工等として稼働し,被告五月興業に雇用された平成11年2月ころには,土木建設作業員としてほぼ30年近い経験を有していた。また,原告は,電気溶接,酸素欠乏危険作業の各資格を有するほか,土留め支保工作業及び車輌系建設機械運転技能の各資格を有し,本件工事で使用するバックホウを操作することができたことなどから,同僚の作業員より数千円多い日当を支給されていた。〔甲9,証人S39,原告本人6,193,200~212〕イ本件工事の規模,作業内容等本件工事は,農業集落の下水を処理するための排水管を道路に沿ってその地下約2mに埋設していくものであり,その管路の総施工延長は1万6577m,その工期は平成10年10月20日から平成12年11月30日までであった。 本件工事は,被告大林組から大林道路,大林道路から氷上興業及び興陽建設株式会社(以下「興陽建設」という。)に下請に出されたところ,被告大林組は,本件工事の施工範囲をA,B,五月興業の3工区に区分し,A及びB工区を氷上興業に,五月興業工区を興陽建設に担当させた。氷上興業は,受け持った工区毎に4班体制を組んで臨み,その一部の班は自社 林組は,本件工事の施工範囲をA,B,五月興業の3工区に区分し,A及びB工区を氷上興業に,五月興業工区を興陽建設に担当させた。氷上興業は,受け持った工区毎に4班体制を組んで臨み,その一部の班は自社の作業員を充てたが,他の一部は大原建設に下請に出した。被告五月興業は,その大原建設の下請であることから,原告及びMは,B工区での作業に従事していた。 本件工事の主たる工程は,バックホウで道路を掘削して,中継地点となるマンホール(人孔)を設置した上で,そこから排水管を順次布設していき,布設が完了すれば,埋め戻して道路を復旧するというものであり,1日の施工距離は10ないし15mとされていた。〔乙ロ1ないし5〕マンホールの鉄蓋設置作業は,鉄蓋をトラック等でマンホール設置箇所に運び,まずは人等が転落しないように鉄蓋を仮に据え置いておき,道路を復旧する際には,鉄蓋(受枠)の下に道路の傾斜等と高さを合わせるための高さ調整金具である調整ワッシャーを,鉄蓋(受枠)の上にずれ等を防止する固定調整金具であるフタワッシャーを設置した上,その上から孔の部分にボルトを差し込み,これをナットで締め付けて完了する。〔乙ロ9,原告本人268,274〕ウ被告五月興業の作業員の作業内容等原告は,平成11年7月から本件工事に従事し,本件事故時である同年11月24日までに,マンホールの鉄蓋設置作業を十数回行っていた。しかし,本件鉄蓋は,管路の合流点に設置されるものであったことから大型であり,原告がそれまで経験したことのない大きさであった。他方,Mは,同年10月ころから本件工事に従事するようになった。〔甲9,証人S30,原告本人32~39,235,236,265〕被告五月興業の作業員は,原告を含めて5,6名程度が本件工事に従事し,これに同被告の元請である大原建設のNが加わって るようになった。〔甲9,証人S30,原告本人32~39,235,236,265〕被告五月興業の作業員は,原告を含めて5,6名程度が本件工事に従事し,これに同被告の元請である大原建設のNが加わって,氷上興業の一班(氷上興業五月興業班)を構成していた。そして,Nが同班の責任者として,現場で自ら作業に当たるとともに,原告ら被告五月興業の作業員に指示を与えていた。被告五月興業の作業員は,1日の作業開始前に,Nから同日行うべき作業,必要な材料,施工範囲等について指示を受け,それに基づいて作業を行うが,マンホールの鉄蓋をいつ据え置き,いつ調整金具を設置して固定するか等といった個別の作業手順は特に指示されず,現場でNから特に指示されない限り,各作業員が適宜判断して行っていた。〔原告本人13,19~25,48~56,65~68,245,249,250,283〕エ本件事故の経緯等本件鉄蓋は,平成11年11月23日にマンホールの地上口に仮に据え置かれていた。同月24日の昼食時,Mは,原告ほか五月興業の作業員に本件鉄蓋のL字型のフタワッシャー(以下「本件フタワッシャー」という。)を示し,その使用方法を尋ねた。原告は,それまで本件フタワッシャーを見たことがなく,他の作業員も正しい知識を持っていなかったが,Nに尋ねて確かめることなく,本件鉄蓋(受枠)の下に設置するものであろうと考えた。 原告らは,同日,本件鉄蓋についてNから具体的な指示を受けていなかったものの,いずれ埋め戻して道路を復旧する際には,本件フタワッシャーを設置する必要があることから,本件フタワッシャーを本件鉄蓋に設置しておこうと考えた。そこで,同日午後1時45分ころ,Mが掛矢を梃子の支点としてバールで本件鉄蓋を持ち上げ,マンホールとの間に桟木をかませないまま,原告がその下に右手を差し入れて ーを本件鉄蓋に設置しておこうと考えた。そこで,同日午後1時45分ころ,Mが掛矢を梃子の支点としてバールで本件鉄蓋を持ち上げ,マンホールとの間に桟木をかませないまま,原告がその下に右手を差し入れて本来は鉄蓋(受枠)の上に設置すべき本件フタワッシャーを本件鉄蓋の下に設置しようとしたところ,Mが梃子の支点とした掛矢とバールを保持しきれず,バールが外れて本件鉄蓋が落下したため,原告が右手を引こうとしたが間に合わず,マンホールと本件鉄蓋との間に右示指を挟まれた。 なお,本件工事の現場では,マンホールの鉄蓋を持ち上げる際に,上記のようにバールを用いることもあったが,本件鉄蓋は総重量217.1㎏の大型のものであるから,これを動かす場合には,バックホウ等の建設機械を使用するか,子蓋,親蓋,受枠に分解して個別に動かすのが通常用いるべき方法であり,そのことは本件事故当時から原告の認識するところであった。また,被告五月興業の作業員は,元請の作業責任者の指示に従うよう指導を受けていた。〔乙イ3,乙ロ5,6,8の1・2,証人S17~21,45,64,原告本人86,102,107,284,305,314,378,386,407~411〕オ本件事故後の対応等本件事故当時,Nは,その現場のすぐ横でバックホウを操作していたところ,本件事故の発生を知った同人は,救急車の出動を要請することなく,原告を乗用車に乗せて柏原赤十字病院に連れて行った。原告は,同病院で診察の順番が来るまで口の中にタオルを入れる等して約4時間待ち,診察の結果,右示指断端部の汚染がひどく,同日中に遠位指節間関節の断端形成術を受けた。〔甲7,原告本人330~334,390~394,417,418,461,462,467〕(2) 前記認定事実によれば,原告及びMは,Mが本件鉄蓋を持ち上げ,原告がそ 節間関節の断端形成術を受けた。〔甲7,原告本人330~334,390~394,417,418,461,462,467〕(2) 前記認定事実によれば,原告及びMは,Mが本件鉄蓋を持ち上げ,原告がその下に本件フタワッシャーを設置するという作業を共同してしようとしたものであるところ,本件鉄蓋の総重量は217.1㎏であり,上記作業中に本件鉄蓋が落下すれば,原告がその下に差し入れた手を負傷し,手指を欠損する等の重大な危険があるから,Mは,上記作業を行うに当たり,本件鉄蓋が落下することのないよう,本件鉄蓋を安全に保持すべき義務があったにもかかわらず,本件鉄蓋を掛矢を梃子にしてバールで持ち上げるという不安定な方法を用いたため,本件鉄蓋を保持しきれず,これを落下させて原告に傷害を負わせたというのであるから,原告に対する不法行為責任(民法709条)を免れないというべきである。 (3) 被告らは,Mは一般的な土木作業員であるが,原告は土木作業員としての資格,経験等に優れていたことからすれば,Mが前記方法で本件鉄蓋を持ち上げたのは,原告の指示によるものであると主張する。 証拠(甲9,証人S,原告本人)によれば,①Mは,年齢50歳前後に見られ,原告と同じく被告五月興業の従業員寮に入っていたこと(甲9,証人S26,原告本人41,42),②原告は,被告五月興業の他の作業員から作業方法の質問を受け,これに答えることはあったが,作業員の間では,その地位に上下関係はなかったこと(甲9,証人S57,58,原告本人57,60,426),が認められる。 上記認定事実及び前記(1)の認定事実のとおり,原告が本件工事に従事した被告五月興業の作業員の中で,作業員としての資格,経験,能力に優れ,他の作業員もそれを認めて原告に作業方法を質問するなどし,原告がこれに答えることも 1)の認定事実のとおり,原告が本件工事に従事した被告五月興業の作業員の中で,作業員としての資格,経験,能力に優れ,他の作業員もそれを認めて原告に作業方法を質問するなどし,原告がこれに答えることもあったものであるが,同被告の作業員間に地位の上下関係はなく,原告が作業全般にわたって他の作業員に指示を与えていた等の事実は認められないことからすると,原告がMに本件鉄蓋をバールで持ち上げるよう指示したと認めることはできない。したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 なお,被告五月興業は,原告が桟木をかませていない状態で本件鉄蓋の下に手を差し入れることはMに予見できなかった旨を主張するが,前記(1)の認定事実に加え,本件事故後,Mが原告の非を指摘した等の事実は認められないことからすると,かえってMは原告が桟木をかませない状態の下で作業を行っていることを認識していたと推認できるのであって,同被告の主張は採用することができない。 そうすると,被告五月興業は,その被用者であるMが業務の執行についてした原告に対する前記不法行為について,その使用者責任(民法715条)を免れない。 2 争点(2)(被告大林組のMに対する指揮監督関係の有無)について(1) 証拠(乙イ3,乙ロ5,10,証人S,同P,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被告大林組と下請業者との関係等本件工事は,被告大林組から大林道路,氷上興業,大原建設,被告五月興業へと順次下請に出されたものであるところ,大林道路は,本件工事の主たる部分である管路埋設等の工事を,氷上興業のみでなく,興陽建設にも下請に出し,道路の舗装や水圧試験,歩行者・車両の誘導警備等については,別途他の業者に下請に出した。〔乙ロ5,証人P91~113〕大林道路の作業責任者Pは,平成2 ,氷上興業のみでなく,興陽建設にも下請に出し,道路の舗装や水圧試験,歩行者・車両の誘導警備等については,別途他の業者に下請に出した。〔乙ロ5,証人P91~113〕大林道路の作業責任者Pは,平成2年に同社に入社したものであるところ,本件工事以外に,被告大林組及び大林道路と氷上興業,大原建設及び被告五月興業との間に請負関係はなかったと聞いている。〔乙ロ10,証人P4,11,12〕イ本件工事の管理体制等被告大林組は,本件工事の現場にa町土木工事事務所(現場事務所)を設置し,同社従業員のQ及びRを常駐させていた。 本件工事は,その開始に当たり,実際に工事を施工する氷上興業や大原建設から,大林道路,被告大林組に作業手順書が順次提出され,その内容について同被告の承認を得た上で開始された。 日々の作業内容は,その前日に,氷上興業の作業責任者,大原建設の作業責任者であるN等から,大林道路のPに翌日の作業予定が報告され,同人がその内容を確認し,その作業予定に係る安全上の注意事項については,被告大林組のRがその内容を確認していた。当日,氷上興業,大原建設ほか下請業者の作業員は,全員が現場事務所付近に集合して被告大林組の従業員若しくは大林道路のPから連絡事項等を聞き,ラジオ体操を行った後,各班毎に集まって,その班の作業責任者から,当日の作業内容と安全上の注意事項について指示を受けていた。原告及びMら被告五月興業の作業員は,Nからその指示を受けていた。〔乙イ3,乙ロ5,10,証人S5~15,証人P13~23,45~47,原告本人240~249,弁論の全趣旨〕ウ作業員の作業状況とその監視等本件工事に必要な排水管やマンホール等の材料,バックホウ等の建設機械,掛矢等の道具類は,すべて氷上興業以下の下請業者が調達し,各作業員の使用するヘルメットや作業服等 ウ作業員の作業状況とその監視等本件工事に必要な排水管やマンホール等の材料,バックホウ等の建設機械,掛矢等の道具類は,すべて氷上興業以下の下請業者が調達し,各作業員の使用するヘルメットや作業服等の備品も,それら下請業者が各自準備していた。〔乙ロ10,証人P49~55,127,原告本人255~264〕大林道路のPは,本件工事の作業員について,新規入場者アンケートを実施して各人の持つ資格等を把握するとともに,随時作業現場を巡回して,本件工事の進捗状況が予定どおりであるか等を監視していた。一方,被告大林組の安全衛生の責任者であるQも,日々作業現場を巡回して,作業の内容や危険箇所がないか等を監視していた。〔乙ロ5,10,証人P42,58,59〕(2) 上記認定事実によれば,確かに,被告大林組は,本件工事の開始に当たり,氷上興業や大原建設から大林道路を通じて提出された作業手順書を承認し,現場事務所を設置して従業員2名を常駐させ,同被告の従業員Rは,氷上興業の作業責任者やNと日々安全上の注意事項を確認し,また,同被告の従業員Qは,安全衛生の責任者として日々作業現場を巡回監視していたものであるが,他方,同被告と被告五月興業との間に専属的な下請関係はなく,本件工事の日々の作業内容や作業員の資格等は大林道路のPが中心となって管理し,被告五月興業の作業員に対する作業内容や安全上の注意事項等の指示は,専ら同被告の元請である大原建設のNが行っていたものであって,被告大林組の従業員らが被告五月興業の作業員に現場で指示を与えたり,その作業方法を直接間接に指示することはなかったということになる。 そうすると,被告大林組は,本件工事の元請業者として,同工事が安全かつ正確に完了するよう,全体的な見地から同工事の工程を管理していたにすぎず,被告五月興業の作業員(M) はなかったということになる。 そうすると,被告大林組は,本件工事の元請業者として,同工事が安全かつ正確に完了するよう,全体的な見地から同工事の工程を管理していたにすぎず,被告五月興業の作業員(M)を直接間接に指揮監督していたと認めることはできない。 したがって,被告大林組は,Mの不法行為について使用者責任を負うものではなく,原告の同被告に対する請求は,その余について判断するまでもなく理由がない。 3 争点(4)(原告の損害額)について(1) 証拠(甲4,5の1・2,6ないし9,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告の収入原告は,被告五月興業に平成11年2月ころ雇用され,同年11月24日の本件事故時までに,1箇月に24日程度稼働し,その日当は1万4000円であった。〔原告本人429,480~482〕イ本件事故後の受診経過等原告は,本件事故後,柏原赤十字病院で受診して,同日中に右示指遠位指節間関節の断端形成術を受けた。原告は,その後も同病院に通院して,部分的に成熟しない上皮の処置と遠位指節間関節の理学療法を受け,平成12年1月28日に治療中止となるまで同病院に通院した。〔甲6,7〕原告は,労災保険法に基づく障害補償給付を請求するため,同年9月14日から同月27日まで芳野病院に通院したところ,切断部の状態は良好であるが,断端尖端部に神経過敏域があり,右示指近位指節間関節及び右手関節に可動域制限があることが認められた。〔甲8〕ウ障害補償給付の受給原告は,本件事故による後遺障害につき,平成12年9月ころ,西脇労働基準監督署長に障害補償給付の請求をしたところ,労災保険法の障害等級第11級7号(既存障害との併合等級第10級6号)と認定され,平成13年1月ころ,障害補償一時金として272万7402円,障害特 働基準監督署長に障害補償給付の請求をしたところ,労災保険法の障害等級第11級7号(既存障害との併合等級第10級6号)と認定され,平成13年1月ころ,障害補償一時金として272万7402円,障害特別支給金として31万円の各支払を受けた。〔甲4,5の1・2,弁論の全趣旨〕エ後遺障害の状態等原告は,本件事故後,右示指の痛みやしびれがあるほか,寒くなると右手指の先が引きつるような感じがするようになり,細かな大工作業はできず,日常生活では箸が持ちにくい等の不自由がある。〔甲5の2,9,原告本人176~199〕(2) 上記認定事実に基づき,原告が本件事故により被った損害額について検討する。 ア逸失利益 1087万7126円原告の本件事故当時の年収は403万2000円(1万4000円×24日×12箇月)と認めるのが相当であるところ,原告は,本件事故当時44歳で,67歳までの23年間,その労働能力を20%喪失したものと認められるから,その逸失利益は,以下の算式により,1087万7126円となる。 403万2000円×0.2×13.4885(23年間のライプニッツ係数)=1087万7126円イ慰謝料 450万円原告は,前記1の(1)オのとおり,本件事故後,Nの運転する乗用車で柏原赤十字病院に連れて行かれ,苦痛に耐えながら診察までに約4時間待ったことのほか,同病院に平成11年11月24日から平成12年1月28日まで通院(通算66日間)したこと,芳野病院に同年9月14日から同月27日まで通院(通算14日間)したこと(いずれも,実通院日数は明らかでない。)などにかんがみれば,原告の傷害慰謝料は60万円をもって相当と認める。 また,原告の後遺障害の内容・程度,原告が土木建設作業員,大工等として約30年近く稼働していたことなど本件に現れた諸事情にかん )などにかんがみれば,原告の傷害慰謝料は60万円をもって相当と認める。 また,原告の後遺障害の内容・程度,原告が土木建設作業員,大工等として約30年近く稼働していたことなど本件に現れた諸事情にかんがみれば,原告の後遺障害慰謝料は390万円をもって相当と認める。 ウ以上合計1537万7126円(3) 過失相殺ア前記1の(1)に認定したところによれば,①原告は,被告五月興業から元請の作業責任者の指示に従うよう指導されており,本件事故現場のすぐ横にはNがいたにもかかわらず,同人に本件フタワッシャーの使用方法を尋ねて確認することなく,すぐに設置する必要もなかった本件フタワッシャーを,自ら判断して誤った方法で設置しようとしたものであること,②原告は,本件鉄蓋がそれまでにない大型のものであり,その移動にはバックホウ等の建設機械を使用するか,子蓋,親蓋,受枠に分解すべきことを認識しながら,Mが掛矢を梃子の支点としてバールで持ち上げた本件鉄蓋の下に安易に手を差し入れたこと,③しかも,原告は,本件鉄蓋の落下を防止するため,本件鉄蓋とマンホールとの間に桟木をかませる等の措置をとっていないことなど,本件事故の発生につき原告に重大な過失があるといわざるを得ない。したがって,原告の過失を斟酌し,損害額につき5割の過失相殺による減額をするのが相当である。 そうすると,原告の逸失利益は543万8563円,慰謝料は225万円となり,合計768万8563円となる。 イ原告は,本件事故当時,本件鉄蓋とマンホールとの間に桟木をかませてあり,3ないし5㎝の隙間があったが,本件鉄蓋が落下した拍子に外れたと思う旨供述(原告本人129~136,357~359,441,446)するが,上記のような隙間が確保されていたとすれば右示指が本件鉄蓋とマンホールとの間に挟まれるこ 本件鉄蓋が落下した拍子に外れたと思う旨供述(原告本人129~136,357~359,441,446)するが,上記のような隙間が確保されていたとすれば右示指が本件鉄蓋とマンホールとの間に挟まれることはないというべきである。原告は,被告五月興業代理人からその点を指摘されると,挟まれたのは本件鉄蓋ではなくボルトではないかと供述(原告本人447)する。しかし,ボルトが上から差し込んであれば,そもそも本件鉄蓋を持ち上げることは困難であるし,原告も,他方で,ボルトは差していなかったと供述(原告本人468)しているのであって,桟木に関する原告の供述は採用することができない。 ウなお,原告は,本件フタワッシャーの仕様変更が現場に周知徹底されておらず,原告がその使用方法を誤った一因となった旨を主張するが,証拠(乙ロ9,証人P)によれば,本件フタワッシャーの仕様変更は平成9年9月であり,かつ,すべてのマンホールに共通する変更であると認められ,原告が本件フタワッシャーの使用方法を誤ったことが上記仕様変更に起因すると認めることはできない。 (4) 損害の填補前記(1)の認定事実によれば,原告は,本件事故により,障害補償一時金として272万7402円の支払を受けているから,前記(3)の損害額(逸失利益)からこれを控除すると,逸失利益及び慰謝料の合計は496万1161円となる。なお,障害特別支給金は,本件事故による損害を填補する性質を有するものではないから,これを控除することはできないというべきである(最高裁平成8年2月23日第2小法廷判決参照)。 (5) 弁護士費用本件事案の内容,審理経過及び認容額等に照らすと,本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は,50万円と認めるのが相当である。 (6) 合計以上によれば,被告五月興業が賠償すべき原 用本件事案の内容,審理経過及び認容額等に照らすと,本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は,50万円と認めるのが相当である。 (6) 合計以上によれば,被告五月興業が賠償すべき原告の損害額の合計は,546万1161円となる。 4 したがって,原告の請求は,被告五月興業に対し,使用者責任に基づく損害賠償金546万1161円及び内496万1161円(原告は,弁護士費用を除く賠償金につき遅延損害金を請求する意思である。)に対する不法行為日である平成11年11月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,同被告に対するその余の請求及び被告大林組に対する請求は,いずれも理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結日平成14年6月11日)福岡地方裁判所小倉支部第2民事部裁判長裁判官古賀寛裁判官高橋亮介裁判官大山徹

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