主文 1 被告は,原告らに対し,それぞれ3314万1886円及びこれに対する平成14年6月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求(但し,1項で認容した金額に相当する債務不履行に基づく損害賠償請求及びこれに対する付帯請求部分を除く。)をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告らの,その余を被告の各負担とする。 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告甲に対し,3587万4362円,原告乙に対し,3587万4361円及びこれらに対する平成14年6月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の従業員である丙が急性心筋虚血で死亡したのは,被告において安全配慮義務に違反して丙に時間外労働をさせ,かつ宿泊を伴う研修等に従事させたことが原因であるとして,丙の相続人である原告らが,被告に対し,それぞれ,不法行為又は債務不履行に基づく損害の賠償として,慰謝料等及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実)(1) 当事者等ア(ア) 丙(昭和18年a月b日生まれ)は,平成14年6月9日午前11時ころ,北海道樺戸郡c町d番地において,急性心筋虚血で死亡した(甲2)。 (イ) 原告甲は丙の妻であり,原告乙は,丙と原告甲との間の子である。 イ(ア) 日本電信電話公社(以下「公社」という。)は,昭和27年8月,日本電信電話公社法の施行に伴って発足し,昭和60年4月1日に民営化されて,日本電信電話株式会社(以下「旧NTT」という。)に一切の権利義務を引き継いで解散した。 (イ) 平成11年7月1日,日本電信電話株式会社等に関する法律の施行によ ,昭和60年4月1日に民営化されて,日本電信電話株式会社(以下「旧NTT」という。)に一切の権利義務を引き継いで解散した。 (イ) 平成11年7月1日,日本電信電話株式会社等に関する法律の施行による旧NTTの再編成により被告が設立された。被告は,同法により,東日本地域における地域電気通信業務,地域電気通信業務に附帯する業務等の業務をその事業として行うこととされた(乙1。以下,被告及び西日本電信電話株式会社等を含めて「NTTグループ」と総称する。)。 ウ丙は,昭和37年4月に公社に入社して旭川事業所に配属となったところ,その後,丙の雇用関係は,公社から旧NTTへ,旧NTTから被告へと引き継がれたが,その間の勤務場所は,死亡するに至るまで同事業所のままであった。 この間,丙は,旭川電話局電力課,同施設部試験課,旭川電報電話局第二施設部市内試験課,同局内保全課,旭川支店設備部機械設備担当,同お客様サービス部(113サービス)などを経て,平成5年10月12日に旭川支店お客様サービス部(116サービス)に,平成11年1月25日に北海道支店お客様サービス部(旭川116センタサポート)に,平成13年1月1日に同サービス部(116部門旭川116センタ)に順次配属先が変更になり,平成14年4月24日,北海道支店旭川営業支店(法人営業)に配属替えとなった。 (2) 丙の健康状態丙は,平成5年5月30日,職場定期健康診断で心電図の異常を指摘され,同年6月14日に市立旭川病院で外来受診したところ,心電図,心臓超音波検査の所見から陳旧性心筋梗塞が疑われたため,同年7月5日,同病院に入院し,心臓カテーテル検査,冠状動脈造影検査を受けた。その結果,同動脈に有意な狭窄が認められるとともに,左室造影により壁運動が一部低下していたことから,陳旧性心筋梗塞(合併症として 5日,同病院に入院し,心臓カテーテル検査,冠状動脈造影検査を受けた。その結果,同動脈に有意な狭窄が認められるとともに,左室造影により壁運動が一部低下していたことから,陳旧性心筋梗塞(合併症として高脂血症)と診断された。同人は,同年8月6日,同病院に再入院して,同月9日,経皮的経管的冠状動脈血管形成術(以下「PTCA」という。)を受け,以降,高脂血症の治療と併せて,冠状動脈疾患に対する内服治療を続けていた(甲3,4,13)。 (3) 被告における健康管理規程等ア被告の健康管理規程(乙4)には,次のとおりの定めがある(28条)。 「健康管理医は,健診等の結果,又は第30条により組織の長から診断書の送付を受けたときは,必要に応じ検診を行い,管理が必要であると認められる者(以下「要管理者」という)について,それぞれ次の各号により指導区分を決定するものとする。 (1) 療養(A) 勤務を休む必要があるもの(2) 勤務軽減(B) 勤務を軽減する必要があるもの(3) 要注意(C) ほぼ平常の勤務でよいもの(4) 準健康(D) 平常勤務でよいもの」イ被告の健康管理規程取扱細則(乙5)には,次のとおりの定めがある(28条2項(3))。 「要注意(C)の服務については,次の各項によることとする。 ア日勤,夜勤以外の服務につかせない。ただし,やむを得ぬ理由で前記の服務以外の服務につかせる場合は,組織の長と健康管理医が協議して決める。 イ時間外労働は命令しない。ただし,やむを得ぬ理由で時間外労働を命令する場合は,組織の長と健康管理医が協議して決める。この場合においても,1日2時間,1週2回を限度とする。 ウ過激な運動を伴う業務,宿泊出張はさせない。ただし,やむを得ぬ理由で宿泊出張させる場合は,組織の長と健康管理医が協議して決める。」ウ前記(2 合においても,1日2時間,1週2回を限度とする。 ウ過激な運動を伴う業務,宿泊出張はさせない。ただし,やむを得ぬ理由で宿泊出張させる場合は,組織の長と健康管理医が協議して決める。」ウ前記(2)の手術後の平成5年8月20日,被告は,丙が健康管理規程の「要注意(C)」の指導区分に該当すると判断し,丙に対してその旨通知した(乙12)。 (4) 時間外労働・休日労働(甲7の1ないし17,8の1ないし16,9の1ないし13,10の1ないし8)ア丙の平成10年から平成14年までの時間外労働時間は次のとおりである。 (ア) 平成10年 1か月平均0.83時間(イ) 平成11年 1か月平均1.33時間(合計16時間)(ウ) 平成12年 1か月平均2.92時間(合計35時間)(エ) 平成13年 1か月平均4.83時間(合計52時間。但し,給与明細書がある10か月分の合計。)(オ) 平成14年 1か月平均0.5時間(合計5時間)イ丙の平成11年から平成14年までの休日労働は次のとおりである。 (ア) 平成11年合計16時間(8時間×2日)(イ) 平成12年合計40時間(8時間×5日)(ウ) 平成13年合計16時間(8時間×2日)(エ) 平成14年合計8時間(8時間×1日)(5) 被告による構造改革被告は,平成13年4月,NTTグループ3か年経営計画(平成13年度ないし平成15年度)を策定し,これに基づきNTTグループの事業構造改革を実施すると発表した。その主な内容は,電話からIP・ブロードバンドへの事業転換,被告の基幹業務である固定電話の保全・管理・営業等の業務を新設する都道県別子会社(被告が100パーセント出資。以下「新会社」という。)に外注委託することなどである。そのため,雇用形態の多様化を図ることが重要であったことから, の保全・管理・営業等の業務を新設する都道県別子会社(被告が100パーセント出資。以下「新会社」という。)に外注委託することなどである。そのため,雇用形態の多様化を図ることが重要であったことから,被告は,社長通達により,3つの雇用形態・処遇体系を用意し,本人の希望によりこれを選択させることとし,平成14月3月31日の時点における年齢が50歳以上の従業員に対し,同年5月以降の雇用形態,処遇体系を同年1月18日までに選択し,「雇用形態等選択通知書」を被告宛てに提出するように命じた。なお,新会社の業務開始は同年5月1日とされた。 被告の従業員が選択可能な雇用形態・処遇体系は,次のアないしウのとおりである(なお,「雇用形態等選択通知書」を提出しない者については,ウの60歳満了型を選択したものとみなされた。)。 ア繰延型同年4月30日に被告を退職し,同年5月1日に新会社に採用される。賃金月額は,15パーセントから30パーセント低下する(新会社での定年は60歳であるが,現行のキャリアスタッフ制度と同様の枠組みで最長65歳までの雇用継続が可能であるとされた。なお,60歳以降の期間を通じて激変緩和措置としての給与加算が行われる。)。 イ一時金型雇用形態としては繰延型と同じであるが,激変緩和措置については,同年4月30日の被告退職時に一時金が支給される。 ウ 60歳満了型被告との雇用契約を継続するもので,新会社を除くNTTグループの会社又は被告において,企画・戦略,設備構築,サービス開発,法人営業等の業務に従事する。全国転勤が前提となり,成果業績主義が徹底される(60歳定年後に最長65歳までの雇用継続が可能であったキャリアスタッフ制度は,被告においては廃止するものとされている。)。 (6) 60歳満了型を採用した者に対する研修ア被告は,60歳満 される(60歳定年後に最長65歳までの雇用継続が可能であったキャリアスタッフ制度は,被告においては廃止するものとされている。)。 (6) 60歳満了型を採用した者に対する研修ア被告は,60歳満了型を選択した社員のうち,新会社にその担当業務が移行することになった者については,再配置が必要となるところから,平成14年4月24日から同年5月1日にかけて法人営業部門に異動させ,その後約2か月間をかけて,法人営業に必要な技能等を習得させるための研修を行った(以下,これを「本件研修」という。)。 イ丙は,60歳満了型を選択したことから,本件研修への参加を命じられた。 ウ本件研修の実施期間及び研修場所は次のとおりである。 (ア) 平成14年4月24日場所札幌市内のNTTグループの会社(NTT札幌大通14丁目ビル)(イ) 同月25日から同年5月17日まで場所札幌市内のNTT北海道セミナーセンタ(ウ) 同月20日から同月31日まで場所東京都調布市のNTT東日本研修センタ(エ) 同年6月3日から同月21日まで場所札幌市内のNTT北海道セミナーセンタ(オ) 同月24日から同月30日まで場所各事業所エ本件研修期間中の丙の宿泊施設等は次のとおりである。 (ア) 平成14年4月24日ホテルE札幌ツインルーム同泊者1名(イ) 同月25日から同年5月17日までNTT北海道セミナーセンタ 4人部屋(2段ベッド2台)同泊者1名(但し,丙は,同年4月27日から同年5月6日までのいわゆるゴールデンウィーク期間中,連続休暇を取得して,旭川市の自宅に帰宅して休養していた(証人F)。)(ウ) 同月20日から同月31日までNTT東日本研修センタ 4人部屋(2段ベッド2台)同泊者3名(エ) 同年6月3日から同月7日までホテルE札幌シングルルーム て休養していた(証人F)。)(ウ) 同月20日から同月31日までNTT東日本研修センタ 4人部屋(2段ベッド2台)同泊者3名(エ) 同年6月3日から同月7日までホテルE札幌シングルルームオ本件研修は,1日7時間30分の所定時間内で実施されたほか,土曜,日曜の休日も付与されており,研修期間中,時間外労働及び休日労働はなかった。 (7) 丙の死亡等ア丙は,再度の札幌での研修期間中の平成14年6月7日(金)の研修終了後から旭川の自宅に帰宅しており,同月9日午前に一人で墓参りに出かけたが,同日午後10時過ぎ,北海道樺戸郡c町d番地所在の先祖の墓の前で,仰向けになって左手を胸に当てた状態で死亡しているのを発見された(甲2,13,15及び原告甲本人)。 イ原告甲は,旭川労働基準監督署長に対して,労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金支給及び葬祭料の請求を行ったが,同署長は,平成16年7月12日付けで,いずれに対しても不支給決定をした(甲22,23)。 2 争点(1) 丙が従事していた業務と同人の死亡との間の因果関係の有無(2) 被告の過失又は安全配慮義務違反の有無(3) 丙及び原告らが被った損害 3 争点に対する当事者双方の主張(1) 因果関係の有無(争点(1))について(原告らの主張)ア丙の業務内容(ア) 丙は,平成13年1月1日から平成14年4月23日まで,被告北海道支店お客様サービス部旭川116センタ(以下「116センタ」という。)で,サービスオーダーセンタ(以下「SOC」という。)の業務を担当していた。116センタは,電話の新規加入,移転,増設,名義の変更,各種通信機器(電話機,FAX,モデムなど)の設置,プッシュホンやキャッチホンなど各種利用サービス,ISDN,ADSL,光回線などの通信回線のグレードアップ,マ 話の新規加入,移転,増設,名義の変更,各種通信機器(電話機,FAX,モデムなど)の設置,プッシュホンやキャッチホンなど各種利用サービス,ISDN,ADSL,光回線などの通信回線のグレードアップ,マイライン等について利用者からの注文や問い合わせに対応する部門である。 (イ) 丙は,同センタにおいて,SOCの業務のうち結了という仕事を担当していた。その内容は,窓口担当者が利用者から受け付けた様々な電話サービスに関わる注文内容が正確に処理されているか否かを点検し,不備があれば受付担当者と連絡をとり(場合によっては,直接利用者に問い合わせ),補正をして注文処理を完了させる仕事である。 この結了の作業項目としては,①電話帳への名義掲載,広告掲載の確認作業,②バックオーダー,日締め作業,③通信機器代金,工事代金などの請求内容の確認作業,④電話工事の実費や設置機器(商品)変更による工事部門から依頼される修正作業,⑤工事料金の最終正誤確認作業などがあるが,このうち,丙の担当作業は,②であった。なお,116センタは旭川,北見,釧路及び帯広の各地域を受け持っていたが,丙が分担していたのは,そのうちの旭川地域であった。 (ウ) 丙の担当業務のうちの日締め作業とは,電話等の工事約束をした1日分の注文伝票の工事進捗状況を点検し,完了処理を行い,未完了となったものはその原因調査・分析を行うというもので,この作業は,午前9時から同11時ころまでの2時間で処理していた。 また,バックオーダー処理業務とは,利用者の都合や被告側の都合で工事内容,工事日時等に変更が生じ,工事が持ち帰りとなったものの後処理のことをいう(この業務は1日10件程度ある。)。 (エ) 結了業務は,顧客の膨大な注文データを確認して正確に処理・完了させなければならず,問題があって当初の注文が変更とな ち帰りとなったものの後処理のことをいう(この業務は1日10件程度ある。)。 (エ) 結了業務は,顧客の膨大な注文データを確認して正確に処理・完了させなければならず,問題があって当初の注文が変更となった場合には,顧客から苦情が寄せられることもあるので神経を使うし,内部的にも各工事部門との調整が必要となるため,とりわけ神経の集中を要する厳しい仕事である。特に,料金がらみの確認の場合,誤ったまま結了させると料金請求に誤りが生じ,その責任を問われることになる。また,顧客との契約状況により,注文変更があれば顧客管理システムによってパソコン端末から注文伝票を打ち直す必要があり,マニュアルを見ながら作業をするため1ないし2時間を要することもあった。 このように,日々時間に追われる作業の連続で,各個人が責任を持って担当する作業であることから,休めば休むほど自分の仕事が溜まるため,勤務中に休憩が取れる状況ではなかった。注文の変更や作り直しなどバックオーダー件数が多いときは時間外労働を強いられた。 (オ) 北海道においては,約300名の社員が札幌,旭川及び函館の3か所で116番の受付業務に従事しているが,平成13年1月の業務集約で支店が10か所から3か所に減少したのに伴い,道内に34か所あった営業窓口が6か所になり,116番窓口も10か所から3か所に減少した。そのため,利用者の注文が116番に殺到し,最終的に注文を確認するSOC部門の業務量も増大した。 イ丙の死亡に至る経過及びその原因(ア) 死に至る医学的機序丙の死因である急性心筋虚血(急性心不全)とは,冠状動脈の閉塞,心停止を含む不整脈,血圧の低下(ショック)などにより,急激に心臓全体又は心筋の一部への血流が停止又は減少した状態をいい,この状態が短時間のうちに改善されなければ死亡の転帰をたどる。 状動脈の閉塞,心停止を含む不整脈,血圧の低下(ショック)などにより,急激に心臓全体又は心筋の一部への血流が停止又は減少した状態をいい,この状態が短時間のうちに改善されなければ死亡の転帰をたどる。 急性心筋虚血の原因となる病態については,通常は,①急性心筋梗塞の再発,②重症不整脈(陳旧性心筋梗塞があると発症可能性が高まる。),③冠攣縮性狭心症あるいは労作性狭心症の関与,④心臓以外の病態の関与が考えられる。 丙は,陳旧性心筋梗塞で,右冠状動脈,左冠状動脈の前下行枝(分枝)及び左回旋枝(分枝)の3か所に狭窄があり(冠状動脈3枝障害),平成5年8月9日にPTCAを受けたが,心肥大などの状態へ悪化していたわけではなかったことを考えると,急性心筋虚血の原因は,④の心臓以外の病態の関与を除く,①ないし③のいずれかによって引き起こされたものと推測するのが妥当である。 (イ) 丙の健康状態平成5年における丙の心臓の状態は,高度の冠状動脈3枝障害で,もはやPTCAによって冠状動脈を拡げる手術を行っても効果は得られない状態である上,冠状動脈の狭窄が進行しており,運動耐容量は5-6METs以下(歩行,サイクリング等の軽い運動にしか耐えられない状態)であった(METsとは,日常生活の運動量を代謝量に換算したもので,心臓がどの程度の運動に耐えられるかを推定するために使用される医学上の指標である)。 心筋梗塞や不整脈等の発症をもたらす要因の一つが過労(長時間労働)であることは,周知の事実であり,過労という状態は,肉体的ストレスのみならず心理的ストレス状態であり,睡眠不足や変則勤務(不規則労働)など生体リズム及び生活リズムの乱れが加わることにより,心筋梗塞や不整脈等の発症をもたらし,心臓突然死の原因となる。 この様な事態を回避するため,被告は,丙を健康管理規程に 足や変則勤務(不規則労働)など生体リズム及び生活リズムの乱れが加わることにより,心筋梗塞や不整脈等の発症をもたらし,心臓突然死の原因となる。 この様な事態を回避するため,被告は,丙を健康管理規程における指導区分「要注意(C)」とし,原則として①日勤,夜勤以外の業務に就かせない,②時間外労働は命令しない,③過激な運動を伴う業務,宿泊出張はさせないこととした。 この趣旨は,①日勤夜勤以外の変則勤務については,労働者の生体リズム,生活リズムを乱し,肉体的,心理的負荷を与えることを防止するために禁止されているものであり,②時間外労働の禁止については,長時間労働が労働者に肉体的,心理的負荷を与えることを防止するために禁止されており,③過激な運動を伴う業務が著しい肉体的負荷を与えることは当然のこととして,宿泊を伴う出張についても,宿泊が日常生活の本拠を離れることによって労働者の生体リズム,生活リズムを乱し,肉体的,心理的負荷を与えることから禁止されている。したがって,宿泊が連続すれば,ストレス状態も継続することになる。 以上を総合すると,丙は,健康管理規程によって,少なくとも平成13年ころまで,一応安定した状態を保ち,生体リズム,生活リズムの乱れを防ぎ,心筋梗塞及び不整脈等による心臓突然死を予防・回避できていたというべきである。 (ウ) 丙の自己管理丙自身も,平成5年の入院治療後は,定期的に通院しながら治療を継続し,手術後は喫煙を止め,激しい運動を控えるなど心筋梗塞の危険因子を取り除く努力をする一方,規則正しい生活と適度の運動に心がけることとして,健康維持・管理に努めてきた。これらの丙の自己管理も,丙が平成13年ころまで安定した状態を保った原因の1つと言える。 この点,被告は,労働者が自己の健康管理義務,私生活上の自己健康管理義務を負っている 康維持・管理に努めてきた。これらの丙の自己管理も,丙が平成13年ころまで安定した状態を保った原因の1つと言える。 この点,被告は,労働者が自己の健康管理義務,私生活上の自己健康管理義務を負っている旨主張するが,労働者に限らず,誰もが自分自身の健康に留意すべきことを自己健康保持義務と呼んでいるに過ぎず,法的には全く意味のない主張である。また,私生活上の自己健康管理義務なるものは,私生活上健康を害することによって,労務の提供ができない結果を招来しないようにすべきであるという労務提供義務を言い換えたものに過ぎず,独立した義務として観念する理由はない。 (エ) 時間外労働時間の増加丙は,指導区分「要注意(C)」とされながら,時間外労働を行うだけでなく,本来休息を取らなければならない休日に出勤しており,これらが丙にとって疲労を蓄積させていった大きな要因になったことは明らかである。 特に平成13年の時間外労働は,被告側の主張によっても,平成12年が1か月平均2.92時間に過ぎないものが,平成13年には4.83時間と約2時間も急増しており,実時間数も平成12年は35時間であるのに平成13年は52時間と大幅に増加している。 このような時間外労働等の増加が丙に一定の肉体的,心理的負荷を与えたことは否定できない。 (オ) 平成13年4月に発表されたNTTグループの事業構造改革(本件リストラ計画)から雇用形態選択まで事業場で進行しつつある,あるいは予想される組織の変化はその事業場の労働者にストレスを与えるところ,被告の行った本件リストラ計画は,終身雇用制の中止,早期退職勧奨,人員削減,大幅な外注委託を内容とするものであり,一般の労働者にとって将来への大きな不安を生じさせ,心理的ストレスとなったことが推測できる。 丙は,自身の健康状態だけでなく,パニック症候 期退職勧奨,人員削減,大幅な外注委託を内容とするものであり,一般の労働者にとって将来への大きな不安を生じさせ,心理的ストレスとなったことが推測できる。 丙は,自身の健康状態だけでなく,パニック症候群という持病を有する妻の原告甲を心配し,今後の進路の選択や,遠隔地に転勤になった場合のことについて,他の労働者以上に悩んでいた。 丙には,本件リストラ計画の発表後雇用選択の期限が迫った時期などに,睡眠不足,食欲不振,肩凝り等の異変が現れ,「俺が我慢すればいいのか。」といった独り言や,「遠くになんか行きたくない,東京には行きたくない。」といった寝言を言うようになった。 このように,本件リストラ計画の発表と雇用形態の選択という事態が,丙にとって,心身に顕著な異変をきたすほどの心理的負荷となっていたことは明らかである。 (カ) 本件研修被告は,時間外労働の増加及び雇用選択に関わる心理的ストレスにより体調に異変をきたし,平成13年までの一応安定した状態も維持できなくなった丙に対して,平成14年4月24日以降,2か月に及ぶ長期間かつ継続した宿泊を伴う本件研修への参加を命じた。 本件研修の内容は,法人営業部門で必要とされるソリューション営業(いわゆる提案型営業)についての講義等が中心であったところ,法人営業部門の業務を担当するには最新のコンピューター機器の機能に関する知識等を有している必要があるため,膨大なテキストが配布され,各種マニュアルを暗記することが中心であったことから,丙のように,高校卒業後一貫して法人営業とは全く異質の部門で仕事をしてきた50歳代の労働者にとって,わずか2か月程度の研修で必要な知識を修得することは相当困難であり,内容を理解できないばかりでなく,明確な目標のないまま参加させられたことにより,今後の仕事及び勤務地等に対する不安を募 者にとって,わずか2か月程度の研修で必要な知識を修得することは相当困難であり,内容を理解できないばかりでなく,明確な目標のないまま参加させられたことにより,今後の仕事及び勤務地等に対する不安を募らせるものであった。 さらに,研修中の宿泊施設も,札幌では4人部屋に2人が,東京では木製の古い2段ベッドの4人部屋に4名がそれぞれ宿泊するというもので,プライバシーもないばかりか,同室者のいびき等で十分な睡眠や休養の確保ができず,生活のリズムが著しく害された。 このように,本件研修は健康に不安を抱える丙にとっては,生体リズム,生活のリズムが著しく害され,十分な休養を取れなくなって,心臓を含め,その心身に過重な負荷がかかっていたことが推測され,心臓突然死,過労死のリスクを一気に増大させた。 (キ) 丙は,前記のとおり急性心筋虚血で死亡したものであるが,墓地内で死体で発見された丙の状況に照らせば,死亡直前に心臓に急激な肉体的負荷を与えるような突発的な外的要因があったことは全く窺えず,また,丙自身も平成5年の手術以降,急激な運動などの肉体的負荷を避けなければならないことは十二分に自覚していたものと考えられるから,死亡直前に何らかの急激な肉体的負荷があったとは考えられない。 (ク) 以上のとおり,丙に心臓の既往症があって,「要注意(C)」の指導区分に指定されながら,平成13年以降に時間外労働の増加が顕著となり,本件リストラ計画による雇用形態の選択で心理的負荷が過大になった上,長期間かつ継続的な宿泊を伴う研修に参加したことが急性心筋虚血発症の危険因子(発症を促進・助長させる要因)となったことは明らかであり,業務と死亡との間の因果関係は認められる。 (被告の主張)ア丙の業務と死亡との間の因果関係について(ア) 丙は,心筋梗塞が発症した平成5年から既に 進・助長させる要因)となったことは明らかであり,業務と死亡との間の因果関係は認められる。 (被告の主張)ア丙の業務と死亡との間の因果関係について(ア) 丙は,心筋梗塞が発症した平成5年から既に約10年が経過し,その間一度も病気悪化を理由に入院しておらず,心臓血管造影などの検査も受けていないのであって,保健師や健康管理医との面談でも狭心症や心不全等の症状悪化の訴えがほとんどなかったことから明らかなように,心筋梗塞後の経過としては安定した状態が継続していた。 (イ) 死亡の半年以内の勤務について,旭川において継続して勤務をしており,平成14年の平均時間外労働が月0.5時間であったことからも,心筋梗塞などの急性心疾患を発症させる業務負荷があったとは考えられない。 (ウ) 平成14年4月24日からの本件研修に関しても,研修そのものは所定勤務時間内で実施され,時間外勤務はなく,土曜,日曜は休日とされたことを考えると,心筋梗塞などの急性心疾患を発症させる業務負荷があったとは考えられない。 (エ) 死亡前1週間の勤務は,1日7時間30分の通常の所定内勤務時間で,セミナーセンタ内でのデスクワーク的な研修であり,心筋梗塞などの急性心疾患を発症させるような業務負荷があったとは考えられない。 (オ) 死亡直前の24時間については,休日であって仕事に就いていないため,心筋梗塞などの急性心疾患を発症させる業務負荷があったとは考えられない。 イ丙の死亡の原因について丙の主治医のカルテ(乙8の3)によれば,丙は先祖の墓の手入れに行くと言い残して出かけ,スコップで何かしようとしていた状況で倒れていたというのであるから,スコップを持って地面を掘り起こす作業をしていたことが認められるところ,丙が心臓病の持病を有していたにもかかわらず,突然このような激しい運動をした ようとしていた状況で倒れていたというのであるから,スコップを持って地面を掘り起こす作業をしていたことが認められるところ,丙が心臓病の持病を有していたにもかかわらず,突然このような激しい運動をしたことにより,心臓に激しい突発的な負荷がかかって急性心筋虚血により死亡したものというべく,丙の死亡と業務との間に因果関係はない。 (2) 被告の過失又は安全配慮義務違反の有無(争点(2))について(原告らの主張)ア安全配慮義務違反の内容使用者は,その雇用する労働者に対し,労働契約上の信義則に基づき,労働者の生命,身体の安全及び健康を保持すべき義務を有しており,これは労働契約上の信義則に基づく付随義務である。 具体的には,使用者は次の4つの義務を負っている。 ① 労働者が,過重な労働が原因となって健康を害し,過労死を招来することのないよう,労働時間,休憩時間,休日,労働密度,休憩場所,人員配置,労働環境等適切な労働条件を措置すべき義務(適正労働条件措置義務)。 ② 血圧測定,貧血検査,肝機能検査,血中脂質検査,尿検査,心電図検査の診断項目を含む健康診断を必要に応じて(最低でも,雇用時及び年1回)実施し,労働者の健康状態を常時把握して健康管理を行い,健康障害を早期に発見すべき義務(健康管理義務)。 ③ 高血圧症などの基礎疾患,既往症などによる健康障害があるか,もしくはその可能性のある労働者に対しては,その症状に応じて,勤務軽減(夜勤労働や残業労働の中止,労働時間の短縮,労働量の削減等),作業の転換,就業場所の変更等労働者の健康保持のための適切な措置を講じ,労働者の基礎疾患等に悪影響を及ぼす可能性のある労働に従事させてはならない義務(適正労働配置義務)。 ④ 過労により疾患を発症したかもしくは発症した可能性のある労働者に対し,適切な看護を行い,適 ,労働者の基礎疾患等に悪影響を及ぼす可能性のある労働に従事させてはならない義務(適正労働配置義務)。 ④ 過労により疾患を発症したかもしくは発症した可能性のある労働者に対し,適切な看護を行い,適切な治療(救急車で病院に搬送する等)を受けさせる義務(看護・治療義務)。 本件では,④は問題とならないことから,①から③,特に③の適正労働配置義務を尽くしたのかが問題となる。 イ被告の健康管理体制被告は,丙の健康状態を把握した結果,健康管理指示書を作成し,丙の健康状態を指導区分「要注意(C)」と判断し,1日の勤務は可能であるが,残業及び宿泊を伴う出張は不可としてきた。 しかしながら,労働者が長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なうことになるから,陳旧性心筋梗塞の既往症のある丙に対する勤務軽減措置としては,指導区分「要注意(C)」における措置はそもそも不十分であったと評価せざるを得ない。なぜなら,日勤,夜勤以外の服務につかせないというのは変則労働の原則禁止を意味しているが,変則労働自体が労働基準法上は例外であり,時間外労働も同法の例外であることから,特別な配慮としては宿泊出張させないというものにすぎないからである。 しかも,それ自体不十分と思われるこの指導区分「要注意(C)」では例外を許容しているところ,時間外労働については,1日2時間,1週2回を限度とするという意味で例外を許容する際の歯止めがあるものの,これが毎週継続して許容されれば実質的に時間外労働原則禁止の形骸化を招くことから,少なくとも2週間にわたって時間外労働の例外を許容することを禁止すべきであり,また,年間の総時間外労働についての上限も設けるべきものである。変則労働の原則禁止及び宿泊出張原則禁止の例外につ とから,少なくとも2週間にわたって時間外労働の例外を許容することを禁止すべきであり,また,年間の総時間外労働についての上限も設けるべきものである。変則労働の原則禁止及び宿泊出張原則禁止の例外についても,時間外労働の原則禁止に準じた歯止めを設けるべきであり,例えば,宿泊出張は月2回を限度とし,連続した宿泊出張は禁止するといった厳しい歯止めが不可欠である。そして,過激な運動の禁止はそもそも例外を設けるべきでない。 以上の検討において,例外を許容するためのやむを得ぬ理由とは,単に一般的抽象的な業務上の必要性を意味するのではなく,極めて高度の業務上の必要性を意味するものと解すべきである。 また,組織の長と健康管理医の協議も形式的であってはならないことは当然であって,やむを得ないとされる変則労働,時間外労働及び宿泊出張のそれぞれの内容,とりわけ服務する労働の実態が労働者に与える心理的・肉体的負荷に則した具体的な検討を要するというべきである。また,そのためには,健康管理医の責任において,主治医から意見を聴取することはもとより,必要な医学資料の取寄せとその検討を経た上での実質的な協議がなされなければならない。 なお,このような例外を許容するか否かは,第一義的には業務が労働者の健康に与える影響を考慮した労働衛生医学的な判断であるから,その判断はまず安全配慮義務を負う使用者側がその責任において行うべきで,医学的に素人にすぎない労働者本人の同意があったとしても,使用者の安全配慮義務が軽減されたり,例外が安易に許容されるものではない。 そして,指導区分「要注意(C)」における例外の許容性を判断するものである以上,やむを得ぬ理由による業務命令を発する前の事前判断でなければならないことは当然である。 ウ宿泊を伴う本件研修(ア) やむを得ぬ理由の有無本件で )」における例外の許容性を判断するものである以上,やむを得ぬ理由による業務命令を発する前の事前判断でなければならないことは当然である。 ウ宿泊を伴う本件研修(ア) やむを得ぬ理由の有無本件では,丙に対して宿泊を伴う本件研修を実施しなければならないやむを得ぬ理由,すなわち,時間外労働や宿泊出張を命じなければならない極めて高度の業務上の必要性は何ら存在しないから,丙に対して本件研修を命じること自体が安全配慮義務違反となる。 (イ) 組織の長と健康管理医の協議の有無被告は,丙に対し,長期間の継続した出張研修を命じたにもかかわらず,少なくとも事前の「組織の長と健康管理医の協議」を行っていない。 この点,被告は東京での研修前の平成14年5月13日に健康管理医と面談した旨主張するが,旭川勤務の丙にとって,札幌での研修それ自体が宿泊出張であるから,事前の協議があったとは言えない。また,その際,担当医師は,主治医である市立旭川病院の医師ともよく相談するように指示した旨主張するが,東京での宿泊出張は原則として禁止されているのであるから,被告の担当医師自身が丙の主治医に対して出張内容を説明した上で意見聴取するなどして,例外として許容できるかを判断すべきであった。 (ウ) 加えて,研修時の生活環境に関しては,丙のプライバシーが守られ,規則正しく,同室者の生活に影響を受けることなく睡眠を十分に取れるような生活を営むことが可能な環境を提供しなければならないにもかかわらず,丙を含め50歳代の労働者を4人部屋に宿泊させ,睡眠不足を強いるような環境の下で,長時間にわたり研修に従事させたものであり,その結果,丙の身体にも精神にも過剰な負荷を掛けることになり,丙の死亡という結果を生じさせたもので,この点に関する被告の安全配慮義務違反は重大である。 (被告の主張) り研修に従事させたものであり,その結果,丙の身体にも精神にも過剰な負荷を掛けることになり,丙の死亡という結果を生じさせたもので,この点に関する被告の安全配慮義務違反は重大である。 (被告の主張)ア安全配慮義務違反使用者(企業)の安全配慮義務の立証責任について,原告側は抽象的安全配慮義務の存在を主張するだけでは足りず,そのような抽象的義務を当該災害の状況に適用した場合の具体的安全配慮義務の内容を特定し,かつ,その不履行を主張立証しなければならない。 イ労働者の自己の健康管理義務労働者は,自ら体調に留意し,必要に応じて休養をとり,健康に不安の存する恐れや不調,自覚症状の発現等疾病の恐れの存する状態が生じた場合には,自ら医師の診断を求めたり,職場の上司に健康状態を申告するなどして,積極的に健康を保持すべきことは当然であり,この点は,私生活においても同様で,健康を管理し,自己自身の生活を規律し,故意又は過失によって健康を害し,労務の提供ができない結果を招来しないように自己の健康を維持する信義則上の義務がある。 ウ被告の健康管理体制被告は雇用している社員に対する健康管理を保持増進するため,健康管理規程(乙4)及び健康管理規程取扱細則(乙5)を定め,定期に(実際には毎年)健康診断を実施し(社員就業規則144条,乙3),社員の健康保持のための施設として,北海道内においてNTT東日本札幌病院(以下「NTT札幌病院」という。)を保有し,社員の健康保持に努めている。 被告は,定期健康診断等による診断結果はもとより,当該要管理者に対する日常的観察,健康管理医もしくは保健師による職場巡回時の健康相談・保健指導等の内容等に基づき当該要管理者の健康状態を常に把握し,時間外労働及び宿泊出張の実施について,当該要管理者の所属する組織の長と健康管理医が協 管理医もしくは保健師による職場巡回時の健康相談・保健指導等の内容等に基づき当該要管理者の健康状態を常に把握し,時間外労働及び宿泊出張の実施について,当該要管理者の所属する組織の長と健康管理医が協議して事前に決定しておくなど(当該要管理者の健康状態によっては,時間外労働及び宿泊出張の必要性が発生する都度,協議を行う場合もある),適正に協議を行っている。 被告は,要管理者の健康状態に応じてAないしDの指導区分を適正に決定し,丙についても,健康管理規程29条2項により「要注意(C)」の指導区分に該当する旨決定してその旨同人に通知し,健康管理に留意するよう指示していた。 指導区分「要注意(C)」の社員の勤務については,原則として時間外労働をさせず,させた場合についても1日2時間,1週間2回を限度としており,同指導区分に決定された丙についても,当該組織の長と健康管理医が協議した上,1日2時間,1週間2回を限度として下記の最小限度の時間外労働を丙にさせていた。 エ本件研修に際しての面談等(ア) 被告は,丙の所属する組織の長と健康管理医の協議の結果,丙につき宿泊出張を実施しても問題はないものと判断していたが,念のため,平成14年4月24日,丙を担当する健康管理医に相談したところ,丙の健康状態は安定しており,本件研修への参加についても特段問題はないとの回答であった。 (イ) 健康管理医による丙の面談NTT札幌病院の担当医師は,本件研修期間中の同年5月13日,丙と面談し,同月20日からの東京研修への参加について主治医である市立旭川病院の医師とも良く相談し,同医師から東京での研修を差し控えるよう助言指示された場合は,その旨上司に申告するように指示した。これに対し,丙は,NTT札幌病院の担当医師に対し,東京研修に対しては前向きであって,健康状態は現 ,同医師から東京での研修を差し控えるよう助言指示された場合は,その旨上司に申告するように指示した。これに対し,丙は,NTT札幌病院の担当医師に対し,東京研修に対しては前向きであって,健康状態は現在落ち着いている旨述べ,東京での宿泊研修に支障がある旨の申し出はなかった。 (ウ) 折り返し面談丙は,平成14年6月5日,東京での研修受講後,本件研修のインストラクターである被告の北海道支店法人営業部G担当課長との研修期間折り返し面談に際し,「研修は札幌においても東京においても楽しく新鮮な気持ちで受講でき,健康状態についても現在は安定している状態であること,前職においても通常どおり勤務し,時間外勤務も可能であり,1か月に5ないし6時間の時間外労働を行っていたが特に体調の変化はないこと」などを述べた。 (エ) 以上のとおり,被告が実施した本件研修は適正に実施され,丙の健康に支障があった事実はない。 オ本件研修の必要性(ア) 本件構造改革の必要性及び相当性被告は,同業他社との熾烈なシェア争いや対抗値下げ等という厳しい経営環境の下,社員の雇用確保と人件費の低減を両立させるという方策により財務基盤を図る高度の必要性があり,平成14年5月に構造改革に向けた業務運営等の見直し等を行った。 被告は,設立以降,各種経営改善施策を実施してきたが,経営環境の激変により,営業収益は平成12年度(2兆7900億円)ないし平成13年度(2兆5700億円)にかけて約2200億円もの減収となり,経常利益も平成12年度の141億円に対し平成13年度は75億円に落ち込む結果となり,今後はVoIP(電話の音声をデータの形にして送る技術及びサービス)の本格化等により固定電話市場の縮退が一層加速するものと想定され,電話事業の更なる減収は不可避となっており,このままでは中期経営 ,今後はVoIP(電話の音声をデータの形にして送る技術及びサービス)の本格化等により固定電話市場の縮退が一層加速するものと想定され,電話事業の更なる減収は不可避となっており,このままでは中期経営改善施策に基づく各種経営改善施策を着実に実行しても,平成14年度の経常利益は大幅赤字への転落をも想定せざるを得ない厳しい状況になること,また,このような財務状況を踏まえ,中長期的にはむろんのこと,短期的にも今後の会社業績は従来のままでは漸次悪化し,社員の雇用の確保まで危ぶまれる状況になることが予測された。 その具体的な背景として,第1に,携帯電話の急速な普及に伴い会社における主な収入基盤である固定電話がますます減少し,平成14年度事業計画では前年度比41万加入の減少となっていること,第2に,平成13年5月に優先接続制度であるマイライン(電話会社選択サービス)が実際に導入されるのに伴い,平成13年1月の市内通話料金の値下げに引き続き,同年5月にも更なる市内電話料金の値下げを余儀なくされた上,他事業者の市内電話市場への本格参入もあって,被告のシェアは市内通信については従来ほぼ100パーセントであったものが71パーセント程度に,県内通信は64パーセント(いずれも平成14年8月末日現在)へと大きく落ち込んだこと,第3に,事業者間相互接続の進展に伴い「接続料金」の収入は被告の収益の少なからざる部分を占めているところ,平成12年のアメリカとの政府間協議の結果,長期増分費用方式の導入に伴う他事業者との接続料金は中期経営改善施策の策定当時に予測していた以上の大幅値下げ(平成14年度までに22.5パーセント)となるなど,市場構造・競争環境が急激に変化したことがあった。 このような中で,会社にとって「長期的な減収傾向に歯止めをかける」には,合理化や人的コスト 下げ(平成14年度までに22.5パーセント)となるなど,市場構造・競争環境が急激に変化したことがあった。 このような中で,会社にとって「長期的な減収傾向に歯止めをかける」には,合理化や人的コストの削減を含む各分野におけるコスト削減により競争力の強化を図ることはもとより,新たな収益の柱としてIP・ブロードバンド事業の収益拡大を目指す全社の牽引役としての法人営業を中心として,電話からの事業構造の転換を図り,IT関連機能を強化し,新たな営業収入を高めるとともに,コスト競争力強化等により,一刻も早く事業構造の抜本的な改革を実現し,財務基盤を確立して,経営の自立化を図ることが必要と考えられた。そうでなければ,雇用の確保はもちろん,事業さえも継続的に維持発展させることが困難な状況にあったのである。 それゆえ,被告は,従来にない危機感のもと,グループ一体となって電話中心から情報流通への事業構造の転換への取組み及び人的コストの削減を含む「NTTグループ3カ年経営計画(2001~2003年度)について-NTTグループの事業構造改革-」を平成13年4月に,具体的な内容として「NTT東西の構造改革について」を平成13年11月にそれぞれ公表し,コスト構造改革の抜本的見直しとして未曾有の経営改善施策の策定・実施に取り組んだ。 (イ) 構造改革は,被告の置かれている厳しい経営環境を克服し,将来性のある市場へ向けたスタート台に立つための条件整備であり,その内容の骨子は以下の3つである。 a 電話からIP・ブロードバンドへの事業転換であり,市場の変化を見据え,今後の収益基盤の早期確立を図るため,固定電話事業への投資を原則停止するなど経営資源である人・物・金をIP・ブロードバンド事業に移行・集中していこうというものである。 b 支店などにおける地域密着型業務とオペレ 盤の早期確立を図るため,固定電話事業への投資を原則停止するなど経営資源である人・物・金をIP・ブロードバンド事業に移行・集中していこうというものである。 b 支店などにおける地域密着型業務とオペレーショナル業務について委託化を図り,委託先会社と支店が一体となって,地域市場の変化に俊敏に対応できる事業構造への転換と柔軟な事業運営を図っていくことで,この運営体制により,NTTグループ全体の経営基盤の強化と業容拡大を図っていく。 具体的には,新たに設立予定の都道県別単位の新会社等に対し,①116,営業窓口等の顧客フロント,中堅ユーザに対する販売等業務,②設備オペレーション及び113等業務,③総務,給与,厚生,財務等の業務について外注委託を行うこととされた。 c コスト構造改革であり,運営コストである物件費・委託経費の削減,設備投資構造の見直し,効率的な仕事のやり方の追求をはじめとした抜本的な仕事の見直しといったことが挙げられる。 (ウ) 上記の目的のために実施した諸施策の中で,枢要かつ重要な施策が雇用形態の多様化であった。この施策は「雇用形態・処遇体系の多様化」に基づき,社員に繰延型,一時金型,60歳満了型といった3つの雇用形態・処遇体系を用意し,本人の希望により選択させることで雇用の確保を図るものであった。 被告全体で退職・再雇用を選択した社員は約2万6000人であり,60歳満了型を選択した社員は丙を含めて約700人であった。この結果,60歳満了型を選択した社員の全体に占める割合は僅か3パーセント程度に止まった。なお,北海道内の各事業所(北海道支店,本社等組織の北海道における事業所等)で退職・再雇用を選択した社員は約3000人であり,60歳満了型を選択した社員は51人であった。この結果,60歳満了型を選択した社員の割合は,全体の2パーセ 店,本社等組織の北海道における事業所等)で退職・再雇用を選択した社員は約3000人であり,60歳満了型を選択した社員は51人であった。この結果,60歳満了型を選択した社員の割合は,全体の2パーセントに過ぎない。 被告においては,従来同様,勤務地を限定せず,業務上の必要性等に基づき,柔軟で効果的な人員配置を行っていくこととし,具体的には支店等内における人員配置に加え,①首都圏を中心とした市場性・収益性などの高いエリアへの重点的配置,②新サービス等の展開・拡大に向けた人員配置,③将来,会社を支える核的人材の育成に向けた配置など,お客様ニーズの多様化・高度化等に伴う事業動向の変化等に対応した広域人事を行っていくこととし,これにより個々の社員のチャレンジ意欲,能力発揮に応えていくとともに,会社全体としての人的資源の有効活用を図っていくこととした。 60歳満了型を選択した社員のうち,新会社に移行することとなった業務に従事していた者は,当該業務が会社に残されていないことから当然に異動による再配置が必要となり,一方今後収益の柱となるIP・ブロードバンド事業の中心的な役割を担うのが法人営業業務であることから,被告は,これらを踏まえ,60歳満了型を選択し,再配置を要する社員については平成14年4月24日から同年5月1日までの間に法人営業部門に異動を行い,その後約2か月にわたり法人営業に必要な主要技能を修得させた上で,その後の異動に備えるため本件研修を実施し,丙についても,60歳満了型を選択した他の社員と同様に本件研修を受講させたものである。 (エ) 以上のとおりであるから,本件研修に必要性,合理性があることは明らかである。 (3) 損害(争点(3))について(原告らの主張)ア丙の逸失利益 3380万9160円丙の平成13年の収入は620万328 おりであるから,本件研修に必要性,合理性があることは明らかである。 (3) 損害(争点(3))について(原告らの主張)ア丙の逸失利益 3380万9160円丙の平成13年の収入は620万3288円であり,死亡することがなければ,67歳に至るまで収入を得ることが可能であった。また,原告甲と丙の家計は,丙の収入が唯一のものであり,丙は一家の支柱であったことからすると,生活費控除割合を30パーセントとするのが妥当である。さらに中間利息の控除については,ライプニッツ方式により,その割合を年3パーセントとする(その係数は7.786)のが最も現状に合致し,妥当である。 (計算式) 6203288×(1-0.3)×7.786=33809160イ葬儀費用 141万9563円ウ慰謝料 3000万円丙は,違法な本件リストラ計画の下で,被告の違法な攻撃を仲間と共に跳ね返したいとする人間としての良心・信念と,被告に残った場合の不安との狭間で悩み,日々生命を削る苦しみを強いられてきた。さらに,被告に残る決断をした後も,「どこへ転勤になるか分からない。」という被告の脅しや研修に耐えてきたのであり,この過程で力尽きた丙の無念を慰謝するには,少なくとも3000万円の支払をもってするのが相当である。 エ丙の死亡により,以上の損害額合計6522万8723円を,原告らがそれぞれ法定相続分(各2分の1ずつ)に応じて相続した結果,原告甲が3261万4362円の,原告乙が3261万4361円の各損害賠償請求権を取得した。 オ弁護士費用 652万円原告らは,本件訴訟の遂行を原告ら訴訟代理人弁護士に委任し,それぞれ請求額の1割に相当する326万円を支払う旨を約した。 カよって,原告らは,被告に対し,不法行為に基づく損害の賠償として,又は選択的に安全配慮義務違反(債務不 告ら訴訟代理人弁護士に委任し,それぞれ請求額の1割に相当する326万円を支払う旨を約した。 カよって,原告らは,被告に対し,不法行為に基づく損害の賠償として,又は選択的に安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害の賠償として,原告甲に対して3587万4362円,原告乙に対して3587万4361円及びこれらに対する不法行為の日である平成14年6月9日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うように求める。 (被告の主張)原告の主張オのうち,原告らが弁護士に委任した事実は認め,その余の事実はすべて否認ないし争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(因果関係の有無)について(1) 丙の症状と治療の経過等証拠(甲3,4,11ないし15,28,29,乙8の1ないし3,証人H及び原告甲本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 ア丙は,平成4年9月,左肩から前頚部の痛みを感じ,国立療養所道北病院(以下「道北病院」という。)で診察を受けたが,特に異常は指摘されず,痛みも消失した(甲13)。 イ丙は,平成5年5月30日の職場検診で心電図の異常を指摘され,道北病院で受診したところ,心電図に異常が認められ,また,安静時に数分間の胸痛発作があることから,虚血性心疾患(冠状動脈疾患)の疑いがあるとされ,同年6月14日,市立旭川病院を紹介された。同病院における心臓超音波検査の結果,丙には心臓の後壁から内側壁の低運動と壁の菲薄化が認められ,陳旧性心筋梗塞が疑われたため,心臓カテーテル検査など精査のため入院することとなった。 ウ丙は,平成5年7月5日から同月16日までの間,市立旭川病院に1回目の入院をしたが,その際,冠状動脈造影により,右冠状動脈(♯1)で100パーセントの閉塞が,左前下行枝の分枝(♯9)で なった。 ウ丙は,平成5年7月5日から同月16日までの間,市立旭川病院に1回目の入院をしたが,その際,冠状動脈造影により,右冠状動脈(♯1)で100パーセントの閉塞が,左前下行枝の分枝(♯9)で50パーセントの狭窄が,左回旋枝の分枝(♯13)で99パーセントの狭窄がそれぞれ認められた。一般に,75パーセント以上の狭窄が認められる場合には,有意な狭窄であるとされていることから,右冠状動脈及び左回旋枝の2枝の障害の程度は高度であり,左回旋枝の分枝(#13)について,血管拡張を試みるPTCA(経皮的経管的冠状動脈血管形成術)の手術適応があると判断された。更に,左室造影の結果,4番(下壁)が低運動,5番(後壁基部)及び7番(後側壁)が極めて低運動であるなど壁運動の低下が見られ,心筋の障害が広範囲に及んでいて,心房のポンプ機能が低下し,心臓の予備能力が低い状態であることが判明し,陳旧性心筋梗塞と診断された。 加えて,負荷心電図トレッドミル検査により,丙の運動耐容量は5-6METs以下であり,日常生活に一定の制約(スポーツでも競技ではなく遊びの程度なら可能)が要求される状態にあることが明らかになった。併せて,丙には,高脂血症が認められたため,同人に対し,虚血性心疾患に対する亜硝酸製剤や冠状動脈拡張剤,抗凝血剤が投与され,更には,高脂血症治療剤の内服治療が開始された。 エ上記の診療経過及び診断結果等を踏まえ,勤医協札幌西区病院のH医師(日本循環器学会所属。)は,丙には,平成4年9月以前に急性心筋梗塞が発症していたと考えられるが,動脈硬化の進行と冠状動脈の攣縮が関与した狭心症発作のくり返しの過程で,虚血心筋への血流を補給する冠状動脈の副血行路となる新生血管が発達し,前下行枝など比較的狭窄の軽度な血管から新生血管を介して心筋への血流が供給されたこ の攣縮が関与した狭心症発作のくり返しの過程で,虚血心筋への血流を補給する冠状動脈の副血行路となる新生血管が発達し,前下行枝など比較的狭窄の軽度な血管から新生血管を介して心筋への血流が供給されたことから,丙には,心筋梗塞の発症に一般に伴うとされる一定時間続く激しい胸痛が見られず,致死的な状態に陥らないまま急性期を経過して,前記イの段階で心電図に陳旧性の心筋梗塞を示す異常が出たものと考えられるとの判断を示している(甲12,証人H)。 オ丙は,平成5年8月6日から同月17日までの間,市立旭川病院に2回目の入院をし,同月9日,左回旋枝の分枝(#13)の拡張を試みるPTCAを受け,その結果,左回旋枝の分枝(♯13)の狭窄が99パーセントから25パーセントに改善した。しかし,同年12月2日から同月14日にかけて3回目に同病院に入院した際,冠状動脈造影を実施した結果によると,左回旋枝の分枝(♯13)が90パーセント狭窄するなど再び悪化していることが認められたほか,右冠状動脈の起始部(♯1)からその末梢部(♯2)で100パーセントの閉塞,左前下行枝の分枝(♯9)の狭窄も前回の50パーセントから90パーセントに悪化し,左回旋枝の他の分枝(♯14,♯15)も90パーセントの狭窄となっていて,高度の3枝障害であることが判明した。そこで,再び左回旋枝の分岐(#13)のPTCAを受けたが,同手術によっても左回旋枝の分枝(♯13)は100パーセント閉塞のまま改善が認められず,外科的治療の効果が得られなかった。そこで,その後は高脂血症の治療と併せて内服治療を続けることとなった。 なお,丙は,上記2回目の入院と3回目の入院の間の同年10月30日ころ,約2時間にわたる胸痛を経験したが,その際は病院には行かなかった。H医師は,その後の冠状動脈造影の結果の所見が悪化 となった。 なお,丙は,上記2回目の入院と3回目の入院の間の同年10月30日ころ,約2時間にわたる胸痛を経験したが,その際は病院には行かなかった。H医師は,その後の冠状動脈造影の結果の所見が悪化していることに鑑み,この胸痛は心筋梗塞の再発によるものとの意見を述べている(甲12,証人H)。 このように,丙の心臓の冠状動脈の動脈硬化の所見は,非常に厳しいものであった。 カ平成8年に行われた成人病健診において,丙の血中脂質中総コレステロール値が245mg/dlと高く,陳旧性心筋梗塞を示す心電図において,初めて心室性期外収縮(不整脈)が認められ,時々息苦しくなったり,肩や首筋がこるという自覚症状が認められたが,平成10年の旭川赤十字病院における人間ドックの検査では,明らかな狭心症発作や進行する心不全の兆候は窺われず,心電図の異常の他は腹部超音波検査での胆のうポリープ,腎のう胞を認めるのみで,血中脂質の値は正常化した。 キ平成13年6月以降,丙は,頻脈,脈の欠滞(不整脈),不眠等の症状を市立旭川病院の主治医であるI医師に訴えていた。具体的には,同医師に対し,同月15日には「脈が時折ゆっくりになるが,早いときもある。」旨を,同年8月10日には「1分間に1,2回程度の不整脈は出ているが気にしないようにしている。家では脈拍は50から60の間で,血圧は110くらいである。」旨を,同年11月6日には「入眠して2,3時間経つと途中で目ざめることが多い。」旨を,平成14年1月25日には「毎日ではないが,脈がとぶ。」「1分間に2個くらい。」「夜に発汗して目覚めることがある。」旨を,同月31日には「昨日嘔吐,下痢があり,夜には脈が速かった。」旨を,同年4月19日には「ときに脈が100くらいまで増えることがある。」旨をそれぞれ訴えていた。 また,この間,同年 ことがある。」旨を,同月31日には「昨日嘔吐,下痢があり,夜には脈が速かった。」旨を,同年4月19日には「ときに脈が100くらいまで増えることがある。」旨をそれぞれ訴えていた。 また,この間,同年1月31日に行われた心電図検査の検査記録紙には,丙の心電図の波形の記録とともに,「3633 陳旧性(?)の下壁心筋梗塞〔II.AVFでQ巾40ms以上,ST.T異常のいずれか〕」「4012 中程度のST低下〔0.05mV以上のST低下〕」「9150**abnormalECG**」「医師の確認が必要です。」などというコメントが自動で印字されていた(甲11)。 さらに,丙は,平成13年1月ころから,原告甲に対して,仕事量が多く疲れる旨を述べるようになったほか,同年秋ころからは,「そうしないとだめか。」「俺が我慢すればいいのか。」といった独り言を言ったり,「遠くになんか行きたくない。」「東京には行きたくない。」などという寝言まで言うようになり,眠りが浅く,睡眠途中に目ざめることがあった。また,平成14年2月初旬から中旬ころにかけて,「肩が凝る。眠れない。胃が動かない。食欲がない。食べ物を消化できない。」などの症状を訴えることもあった。このほか,同年1月25日には,市立旭川病院のI医師に対して「働きすぎだなあと思っている。」旨を述べたこともあった。 これらを総合すると,平成13年6月以降,丙には自律神経に関わると思われる多彩な症状が現われていると評価することができる。 ク丙は,愛煙家で,約30年間,1日に約25本のタバコを吸っており,喫煙が動脈硬化の危険因子である旨説明を受けていたが,2回目の入院でも禁煙に踏み切ることができず,3回目の入院を契機に禁煙を実行した。 (2) 丙の業務について前記前提事実及び証拠(甲6,12,15,18の1ないし9,19 である旨説明を受けていたが,2回目の入院でも禁煙に踏み切ることができず,3回目の入院を契機に禁煙を実行した。 (2) 丙の業務について前記前提事実及び証拠(甲6,12,15,18の1ないし9,19の1ないし3,21の1ないし15,証人J,同K,同H,原告甲本人)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア丙は,平成13年1月1日から平成14年4月23日までの間,電話の新規加入,移転,増設,名義の変更,各種通信機器の設置等について利用者からの注文や問い合わせに対応する部門である116センタにおいて,SOC(サービスオーダーセンタ)の業務のうち,結了と呼ばれる仕事を担当していた。結了の仕事内容は,窓口担当者が利用者から受け付けた様々な電話サービスに関わる注文内容が正確に処理されているか否かを点検し,不備があれば受付担当者と連絡をとり,場合によっては直接利用者に問い合わせるなどして不備を補正し,注文処理を完了させるというものであるが,丙は,その中でも,日締め作業及びバックオーダーと呼ばれる作業を担当していた。このうちの日締め作業は,電話等の工事約束をした1日分の注文伝票の工事の進捗状況を点検し,完了処理を行い,未完了となったものはその原因調査・分析を行うというものであり,バックオーダー処理業務は,利用者の都合や被告側の都合で工事内容,工事日時等に変更が生じ,工事が持ち帰りとなったものの後処理を行うというものであった。 イ丙は,雇用形態・処遇体系の選択に際して60歳満了型を選択したが,同選択をするに際しては,転勤の可能性等の将来の生活設計,心疾患の状況,妻がパニック障害であって単身赴任が困難と思われたことなどを含め,深刻に悩んでいた。結局,60歳満了型を選択して被告に残留することになり,平成14年4月24日付けで北海道支店 活設計,心疾患の状況,妻がパニック障害であって単身赴任が困難と思われたことなどを含め,深刻に悩んでいた。結局,60歳満了型を選択して被告に残留することになり,平成14年4月24日付けで北海道支店旭川営業支店に配置換えとなったが,被告の基幹業務であった固定電話等の業務を新会社に外注委託するとの方針が実行されたことにより,同人が従前担当していた業務自体は存在しなくなった。その後に丙が新たに担当することとされた業務は,ソリューション業務(提案型業務)と呼ばれ,法人に対して情報システムを構築するための提案を行うことを主とするものであって,丙がこれまで担当してきた業務とは全く異なる内容のものであった。そして,その業務(法人業務)に必要な技能等を習得することを目的として,丙は本件研修への参加を命じられ,同研修終了後の同年7月以降,新たな業務に就くことが予定されていた。 ウ丙の死亡前半年以内の勤務については,旭川において継続して勤務をしており,平成14年の平均時間外労働時間は月0.5時間であり,休日労働は合計1日8時間であった。 エ本件研修は,平成14年4月24日から同年6月30日まで2か月以上の長期にわたって実施されるものであったが,研修場所が丙の自宅のある旭川市ではなく,札幌及び東京であったところから,同人にとっては,同研修の全期間を通じて,宿泊を伴う研修とならざるを得なかった。そこで,丙は,旭川から札幌へ,札幌から東京へ,そしてまた東京から札幌へと生活環境,自然環境の異なる土地に複数回移動することを余儀なくされた。この間,札幌での研修においては,週末には旭川の自宅に戻ることができたものの,ウィークデーには北海道セミナーセンタやNTT東日本研修センタ等の被告の研修施設やホテルに宿泊することになり,その際には,5日間だけは1人部屋をあてがわ ,週末には旭川の自宅に戻ることができたものの,ウィークデーには北海道セミナーセンタやNTT東日本研修センタ等の被告の研修施設やホテルに宿泊することになり,その際には,5日間だけは1人部屋をあてがわれたものの,その余はすべて2人ないし4人部屋であったため,生活習慣の異なる他の研修生との同室を余儀なくされることにより,生体リズム及び生活のリズムが変わることとなった。 オ本件研修は,土,日,祝日及び移動日等を除く午前9時から午後5時30分までの所定時間内で実施され,研修時間が延長されたり,課題が出されたりしたことはなかったものの,多くの研修資料が事前に配布され,これまでの業務とは異なる全く新たな分野に関するものであった(甲18の1ないし9,19の1ないし3,21の1ないし15)。本件研修期間中,丙は休憩時間になると机に突っ伏して休むなど疲れた様子が見られ,東京での研修に際しては,同僚や原告甲に対して,同室者が早朝に起き出すなどするためよく眠れないなどと睡眠不足を訴えており,生体リズム及び生活リズムに大きな影響が出ていたことが窺われる。 カ丙は,再度の札幌での研修期間中の平成14年6月7日(金)の研修終了後に旭川の自宅に帰宅し,同月9日(日)に墓参りに出かけ,同日午後10時過ぎころ,同所で死亡しているのを発見されたが,死亡時刻は同日午前11時ころと推定され,直接の死亡原因については,急性心筋虚血であって,約10年前の狭心症が影響を及ぼしており,発症から死亡までの期間は短時間であると判定された(甲2)。 (3) 以上に認定した事実及び前記前提事実に基づき,丙の業務と死亡との間の因果関係の有無について検討する。 ア急性心筋虚血は,冠状動脈の血流が何らかの原因で急激に途絶えることによって心筋に酸素が供給されなくなった状態を指すところ,その原 に基づき,丙の業務と死亡との間の因果関係の有無について検討する。 ア急性心筋虚血は,冠状動脈の血流が何らかの原因で急激に途絶えることによって心筋に酸素が供給されなくなった状態を指すところ,その原因としては,不整脈を含む心疾患によるものと心疾患以外の病態によるショック等が考えられるが,死亡診断書に直接死因の原因が記載されておらず(甲2),前記のとおり狭心症の影響が考えられていることに照らすと,冠状動脈疾患が関与して発症した急性心筋虚血の可能性が強いと解されるところである(甲12,証人H)。 そして,丙の心疾患に関する前記認定の経過に照らすと,同人は平成4年9月以前に急性心筋梗塞を発症していたものの,その後の動脈硬化の進行と冠状動脈の攣縮が関与した狭心症発作のくり返しの過程で虚血心筋への血流を補給する新生血管が発達し,比較的狭窄の軽度な血管から新生血管を介して心筋への血流が供給されたことから,心筋梗塞の発症に伴うとされる継続性の激しい胸痛が見られないまま急性期を経過し,平成5年5月の時点で心電図に陳旧性の心筋梗塞を示す異常が出たと考えられるとするH医師の前記判断には十分な合理性があるというべきである。 丙の3枝障害を伴う冠状動脈硬化は,心筋梗塞を伴い,外科的治療の効果が望めないほど重度であったと解されるところ,心筋梗塞を含む虚血性心疾患の危険因子としては,喫煙習慣,高脂血症,加齢,精神的,肉体的ストレス等が挙げられ(甲12,26,証人H),丙は,約30年にわたる喫煙習慣があり(但し,平成5年の3回目の手術後は禁煙した。),高脂血症を併発していて,年齢的にも死亡当時58歳であるなど,上記危険因子に該当するところ,丙は,雇用形態・処遇体系の選択に際して60歳満了型を選択したが,その選択に際しては前記のとおり深刻に迷っており,精神的ストレス て,年齢的にも死亡当時58歳であるなど,上記危険因子に該当するところ,丙は,雇用形態・処遇体系の選択に際して60歳満了型を選択したが,その選択に際しては前記のとおり深刻に迷っており,精神的ストレスを感じていたことが窺える。更に,本件研修は,長期間の連続した宿泊を伴うものであることから,従前からの生体リズム及び生活リズムに大きな変化をもたらすことが十分に考えられ,実際にも,研修内容が全く新たな分野であったことや宿泊場所が他の研修者と同室であったことなどから睡眠不足に陥るなど精神的,身体的にも種々ストレスがあったことが窺えるところである。 イ一般に,心筋梗塞,動脈硬化などの基礎疾患が存在している場合に,業務に起因する過重な精神的,身体的負担によって労働者の基礎疾患が自然的経過を超えて増悪し,急性心筋虚血等の急性心疾患を発症するに至ったといえる場合には,業務と急性心筋虚血等との間の因果関係を肯定できると解するのが相当であるところ,丙に関して動脈硬化に関する遺伝的素因等を具体的に認めるに足りる的確な証拠が見当たらないことに照らすと,本件研修に参加することにより生じるストレスが動脈硬化の危険因子となっていることが推認できるところである(証人H)。加えて,丙には,前記のとおり,心筋梗塞を伴い,外科的治療の効果が望めない重度の冠状動脈硬化が発症していたこと,丙の心臓は,予備能力のない状態であったこと,本件研修が,被告における構造改革を前提として,被告に残るか新会社等に転出するかという処遇選択を伴ったもので,研修後にこれまでとは全く異なる職種の仕事に従事しなければならなくなるといった点で丙の精神面に大きな作用を及ぼすと考えられること,本件研修が,長期間の連続する宿泊を伴うもので,丙の生体リズム及び生活リズムに大きな変化が生じたと解されること,平成 なければならなくなるといった点で丙の精神面に大きな作用を及ぼすと考えられること,本件研修が,長期間の連続する宿泊を伴うもので,丙の生体リズム及び生活リズムに大きな変化が生じたと解されること,平成13年6月以降,丙には自律神経に関わると思われる多彩な症状が現れていたこと,本件研修の約4か月前から丙が不整脈や体調の不良をI医師や原告甲に対して具体的に訴えており,研修期間中も睡眠不足等の不具合を訴えていたこと,宿泊を伴う出張が丙の生体リズム及び生活リズムを狂わせることになるため,予備能力のない心臓にとっては危険であると考えられること(証人H)などの諸事情を総合考慮すると,丙が本件研修に参加したことで,その精神的,身体的ストレスが同人の冠状動脈硬化を自然的経過を超えて進行させ,その結果,突発的な不整脈等が発生し,急性心筋虚血により丙が死亡するに至ったものと推認するのが相当である。 ウこれに対し,日本循環器学会認定循環器専門医(乙10)である証人L)は,丙の死亡原因である急性心筋虚血の原因として,心筋梗塞の再発,特に心室細動や心室破裂を合併した心筋梗塞の再発の可能性や脳梗塞などの脳血管疾患の可能性が考えられるところ,次の①ないし⑥の理由から業務と死亡との因果関係はない旨供述しており,同証人作成の意見書(乙11)にはこれに副う供述記載がある。 すなわち,①丙に心筋梗塞が発症してから約10年が経過し,その間病状悪化を理由とする入院や心臓血管造影などの検査を受けておらず,平成13年1月31日の心臓の検査においても,心胸郭比(CTR)が正常値の範囲内(43パーセント)であり,心電図の所見も従前の陳旧性心筋梗塞の所見のみであって,保健師や健康管理医との面談でも狭心症の症状や心不全の症状などの症状悪化の訴えがほとんどなかったことにより,心筋梗塞後の経 3パーセント)であり,心電図の所見も従前の陳旧性心筋梗塞の所見のみであって,保健師や健康管理医との面談でも狭心症の症状や心不全の症状などの症状悪化の訴えがほとんどなかったことにより,心筋梗塞後の経過としては安定した状態が継続していたものと考えられること,②死亡直前の24時間は,休日で勤務に就いていないこと,③死亡前1週間の勤務は,1日7時間30分の通常の所定勤務時間で実施され,セミナーセンタ内におけるデスクワーク的な研修であること,④死亡半年以内の勤務では,平成14年の月平均時間外労働が0.5時間であり,その勤務場所もこれまでずっと継続的に勤務してきた旭川であること,⑤本件研修に関しても,研修そのものは規定勤務時間内で実施され,時間外勤務はなく,土曜,日曜は休日であったこと,⑥東京での研修前に健康管理医であるM医師)が面談した際,丙から体調不良に関する申し出等はなかったことなどを総合考慮すると,心筋梗塞など急性疾患を発症させる業務負荷があったとは考えられないとしている。 確かに,L医師が指摘する上記①ないし⑥の各事実自体については特段これを否定する事情は見当たらないが,前記認定のとおり,丙の心筋の障害は広範囲に及び,心房のポンプ機能が低下していて,心臓の予備能力が低い状態になっており,外科的手術によっては最早改善が期待できない状態になっていたから,心筋梗塞後の経過としては比較的安定した状態が継続していたということはできるものの,平成13年6月以降の丙の頻脈や不整脈,不眠等の具体的症状,本件研修中の丙の言動,更には,指導区分として,「要注意(C)」に指定されていて,原則として宿泊を伴う出張はさせないこととされていたのに,2か月以上にわたって宿泊を伴う本件研修に参加を命じられ,その間,本件研修中に睡眠不足を訴えるなど,生活環境の変化,生 C)」に指定されていて,原則として宿泊を伴う出張はさせないこととされていたのに,2か月以上にわたって宿泊を伴う本件研修に参加を命じられ,その間,本件研修中に睡眠不足を訴えるなど,生活環境の変化,生体リズム及び生活リズムの変化を余儀なくされたこと,丙の死亡が東京での研修終了後に近接して生じたこと,などの事情を併せ考慮すると,丙には検査上の所見に現れない冠状動脈硬化の進行があったと考えられるから,心電図が従前の陳旧性心筋梗塞の所見のみであったことや,心胸郭比が正常値であったことなどの検査上の所見があることをもって,本件研修への参加が死亡の要因となったことを否定するに足りず,その他,同証人が指摘する上記の①ないし⑥の事実を考慮するとしても,丙の業務と死亡との間の因果関係の存在を左右するに足りないというべきである。 また,証人Lは,「血圧と脈拍を見る限りは安定しており,不整脈も連続して続いているわけではなく,外来診療では不整脈は認められず,心電図等の指示がなされていないことから,主治医も心筋梗塞に伴う重篤な症状と考えていなかったのではないか。」とも供述しているが,丙の冠状動脈硬化は,前記のとおり,必ずしも不整脈や心筋梗塞の発症を伴わないまま,重度の血管障害が進んでいると解することが十分可能であることに照らすと,同証人の指摘する上記の点によっては,因果関係が存在することが左右されるものとは言い難い。 エ更に被告は,丙の死の直前の行為が急性心筋虚血の直接的原因となったのであり,業務と死亡との間に因果関係はない旨主張するが,証拠(甲11,15,原告甲本人)によれば,丙が先祖の墓参り及び墓の手入れをすべく1人で出掛け,墓の前で仰向けになって死亡していたこと,傍らにスコップがあったことが認められるものの,それ以上に,丙が死の直前にスコップを用いて深 人)によれば,丙が先祖の墓参り及び墓の手入れをすべく1人で出掛け,墓の前で仰向けになって死亡していたこと,傍らにスコップがあったことが認められるものの,それ以上に,丙が死の直前にスコップを用いて深い穴を掘るなどの激しい運動をして心臓に強い負荷をかけたことを具体的に窺わせるに足りる周囲の状況があるわけではなく,これを窺わせるような的確な証拠はないところ,丙の当時の心臓の症状から考えて,死亡当時に激しい運動をしなくても死に至る不整脈等が起こり得る状況であったこと(証人H)を併せ考えると,前記の因果関係の存在についての推認を左右するに足りない。 2 争点(2)(被告の過失又は安全配慮義務違反の有無)について(1) 被告における健康管理体制前記前提事実(3)及び証拠(乙3ないし5,証人N,同L)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被告は,従業員に対する健康管理に関し,健康管理規程(乙4)及び健康管理規程取扱細則(乙5)を定め,その中で,被告が設置しているNTT札幌病院の中に健康管理センタを置き,健康管理医(労働安全衛生法上の産業医とされている。)を複数名指定しているが,丙の所属する旭川地区は,札幌市に所在する同病院に勤務するM医師が担当の健康管理医であった。被告は,その従業員で健康上の管理を要する要管理者に対し,その健康状態に応じて,健康管理医を介して,AないしDの指導区分を決定し,これを当該要管理者の所属する組織の長等に通知している。このうち,指導区分「要注意(C)」に指定された者に対しては,「ほぼ平常の勤務でよいもの」とされてはいたものの,健康管理規程取扱細則28条2項(3)において,「要注意(C)の服務については,①日勤,夜勤以外の服務につかせない。ただし,やむを得ぬ理由で前記の服務以外の服務につかせる場合は, れてはいたものの,健康管理規程取扱細則28条2項(3)において,「要注意(C)の服務については,①日勤,夜勤以外の服務につかせない。ただし,やむを得ぬ理由で前記の服務以外の服務につかせる場合は,組織の長と健康管理医が協議して決める。②時間外労働は命令しない。ただし,やむを得ぬ理由で時間外労働を命令する場合は,組織の長と健康管理医が協議して決める。この場合においても,1日2時間,1週2回を限度とする。③過激な運動を伴う業務,宿泊出張はさせない。ただし,やむを得ぬ理由で宿泊出張させる場合は,組織の長と健康管理医が協議して決める。」こととされており,これら例外規定の適用に際しては,当該要管理者の所属する組織の長と健康管理医が協議して決定することとされていた。 なお,丙の前記認定の心臓疾患の状態,治療等の経過に照らすと,同人につき,健康指導区分による規制が必要とされる状態であり,その症状に照らすと,「要注意(C)」の指導区分に指定されたことには十分な合理性があったということができる。 その際,「やむを得ぬ理由」に該当する事由があるか否かは,被告においては担当業務の繁忙度や研修参加のように代替性があるか否かといった観点から検討されていたが,本件研修のように,一般的に代替性がないと判断される場合でも,健康状態が良くないことを理由に本件研修に参加することが困難であれば,研修参加に代わる何らかの代替措置をとることは可能であり,丙の場合もそのような措置をとることも視野に入れていた(証人N)。 イ被告は,年1回定期健康診断を実施しているほか,健康管理医もしくは保健師が各職場を定期的に巡回し,その際に要管理者に対する健康相談や保健指導等を行うシステムになっているところ,丙の場合には,M医師が年に数回(直近では平成13年9月及び平成14年1月)旭川に出向 保健師が各職場を定期的に巡回し,その際に要管理者に対する健康相談や保健指導等を行うシステムになっているところ,丙の場合には,M医師が年に数回(直近では平成13年9月及び平成14年1月)旭川に出向き,平成13年9月には直接丙と面談するなどしたほか,O保険師が毎月丙の所属する職場を巡回していた。また,健康管理センタの電話番号,健康管理医及び保険師のPHSの番号は公開されており,直接電話で相談することも可能であった。 ウ指導区分「要注意(C)」に指定されていた丙に対する時間外労働及び休日労働の実施については,健康管理医であるM医師又は健康管理医で,当時健康管理センタ部長であったL医師と丙の組織の長に該当する職場の上長であるP課長)が協議して決定することとなっていたが,丙の健康状態が安定していたとの理由で,時間外労働等の可否について,その都度個別に協議されることはなく,包括的な協議でこれに代える取扱いとなっていた。 エ被告は,ウの取扱いに基づき,平成13年には,丙の健康状態が安定していることを理由に,上記包括的な協議に基づき,前記例外規定の範囲内で,1か月平均4.83時間の時間外労働及び合計16時間(1回8時間を2日)の休日労働を命じていた。 (2) 本件研修前記認定の事実及び証拠(甲15,乙11,証人J,同K,同L,同F,原告甲本人)によれば,以下の事実を認めることができる。 ア本件研修は,前記認定のとおり,丙が60歳満了型を選択して被告に残留することになり,従来担当していた業務がなくなったことから,新たに担当する法人営業業務の遂行に必要な知識・技能の習得を目的として参加を命じられたものであって,具体的には,被告において提供できる商品の概要,企業に関わる通信システムの構築の基礎,顧客対応の基礎等を習得するというものであり,これまでの 識・技能の習得を目的として参加を命じられたものであって,具体的には,被告において提供できる商品の概要,企業に関わる通信システムの構築の基礎,顧客対応の基礎等を習得するというものであり,これまでの業務とは異なる全く新たな分野の研修内容で,その意味で研修の必要性があったというべきである。 イ本件研修は,平成14年4月24日から同年6月30日まで2か月以上の長期にわたって札幌及び東京において実施され,その全期間を通じて宿泊を伴うもので,宿泊場所も,被告の研修施設やホテルであり,札幌での研修においては,週末には旭川の自宅に戻ることが可能であったものの,それ以外では,ごく一部を除いて2人ないし4人部屋があてがわれたため,生活習慣の異なる他の研修生との同室を余儀なくされることとなり,生体リズム及び生活リズムが変わるなど大きな環境の変化があることは明らかであった。 ウ M医師とP課長は,宿泊を伴う本件研修に丙を参加させるか否かについて協議した結果,前年のM医師による面談等で特別問題がなかったこと,毎月の保健師による職場巡回で丙から症状の悪化等体調不良の訴えがなかったこと,職場の上司との話合いの中でも特別な事情が出てこなかったことから,丙が安定した状態にあると判断し,丙を本件研修に参加させることにつきやむを得ぬ理由があると判断した。なお,M医師は,その決定に先立つ平成14年1月16日及び17日の両日にわたって旭川の丙の職場を訪れたが,丙と面談することはできなかった。また,同医師は,東京での研修が始まる1週間前の同年5月13日,丙と面談し,体調等の不良があればいつでも研修を休むようにすること及び東京への出張に関し不安等があれば主治医であるI医師に相談するよう伝えた。 エ本件研修は,土,日,祝日及び移動日等を除く午前9時から午後5時30分までの所 ばいつでも研修を休むようにすること及び東京への出張に関し不安等があれば主治医であるI医師に相談するよう伝えた。 エ本件研修は,土,日,祝日及び移動日等を除く午前9時から午後5時30分までの所定時間内で実施され,研修時間が延長されたり,課題が出されたりはしなかったものの,多くの研修資料が事前に配布され,これまでの業務とは異なる全く新たな分野の研修が行われたことなどから,丙は,本件研修期間中,休憩時間になると机に突っ伏して休むなどの姿が認められ,札幌での研修中,土日に旭川の自宅に帰宅した際には,原告甲に対して,疲れたと訴えたり,肩の凝り,不眠,食欲不振等の症状が出ており,札幌での研修が始まって3日間ほどは,脈拍が100以上になり,同年4月27日には「ちょっと調子が悪い」と言って病院を受診し,疲労によるものだと診断されたこともあった。また,同年5月20日からの東京での研修では,非常に疲れた様子で顔色も良くなく,同僚や原告甲に対して,「寮が古いので,4人部屋の2段ベッドがギシギシする。」,「同室の人が午前3時に起き出すので寝不足になっている。」などと睡眠不足を訴えており,生体リズム及び生活リズムに大きな影響が出ていたことが窺われ,同月31日に東京での研修から旭川の自宅に戻った際には,目に隈ができており憔悴しきった様子であった。なお,証人Fは,「本件研修のインストラクターであったG課長が,平成14年6月5日に丙と面談した際,同人は,東京研修で特に疲れた感じはなく,体調は安定しており,研修内容についても非常に新鮮な気持ちで受講できた。」などと述べたのを聞いた旨供述するが,丙についてだけこのように詳細な内容を記憶しているという同証人の供述内容の信用性に疑問があるところ,上記認定の事実に照らし,たやすく採用することはできない。 (3) 丙の使 のを聞いた旨供述するが,丙についてだけこのように詳細な内容を記憶しているという同証人の供述内容の信用性に疑問があるところ,上記認定の事実に照らし,たやすく採用することはできない。 (3) 丙の使用者である被告は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の健康を損なうことがないように注意する義務を負うと解される。前記(2)で認定した事実によれば,被告は,丙に陳旧性心筋梗塞の既往症があり,合併症として高脂血症に罹患していたことを前提に,丙に対して指導区分「要注意(C)」の指定をし,原則として,時間外労働や休日勤務を禁止し,過激な運動を伴う業務や宿泊を伴う出張をさせないこととしていたのであるから,その例外事由としてのやむを得ぬ理由があるかどうかの組織の長と健康管理医との協議に際しては,丙のその後の治療経過や症状の推移,現状等を十分検討した上で時間外労働や宿泊出張の可否が決定されるべきであったというべきである。 具体的には,丙の心疾患の症状が平成5年の手術後は比較的安定していたとはいえ,前記のとおりの高度の冠状動脈硬化と著しい心機能低下があった上,平成10年以降,やむを得ぬ理由があるとして,丙に対して時間外労働を命じ,その時間は,平成13年まで年々増加傾向にあって,平成13年には1か月平均4.83時間の時間外労働を命じており,同年6月以降,頻脈,欠滞,不眠等の症状が現れ,その旨は丙からI医師に診察の都度告げられており,また,平成14年4月24日から同年6月30日までの2か月以上にわたって,自宅のある旭川から離れて,札幌及び東京で宿泊を伴う研修に参加させ,その際の宿泊場所として,そのほとんどを2人ないし4人部屋で過ごすことになることが予め分かっていたのであるから, 月以上にわたって,自宅のある旭川から離れて,札幌及び東京で宿泊を伴う研修に参加させ,その際の宿泊場所として,そのほとんどを2人ないし4人部屋で過ごすことになることが予め分かっていたのであるから,これらの事情を総合すると,丙を本件研修に参加させることになれば,同人の生体リズム及び生活リズムに著しい変化を生じさせ,過度の精神的,身体的ストレスを与えることが十分予測でき,これらの経過に照らすと,被告において,丙を本件研修に参加させることにより,同人が急性心筋梗塞等の急性心疾患を発症する可能性が高いことを少なくとも認識することが可能であったというべきである。L医師は,当法廷において,平成14年1月25日の「1分間に2回くらい脈が飛ぶ。」との市立旭川病院のカルテの記載について,「基本的には期外収縮だと思うが,これが危険性のある心室性期外収縮であるのか良性の上室性期外収縮であるのかこれだけでははっきりと鑑別はつかないと思う。」旨供述しているところであり,本件研修に丙を参加させるか否かを決定するに際して,市立旭川病院のカルテを何らかの方法で取り寄せるとか,少なくとも主治医であるI医師からカルテ等に基づいた具体的な診療,病状の経過及び意見を聴取するなどしておけば,その問題点に気付いたと考えられ,同病院における次の診察予定が3か月後であることから,主治医としては,通常の生活を続ける限り特段の問題はないと判断した可能性はあるとしても,宿泊を伴う長期間の本件研修に参加させるか否かを決定するに際してはより慎重な対応が必要であったというべきであり,そのための手だてを講じるのが相当であったというべきである。 にもかかわらず,健康管理医であるM医師と職場の上長であるP課長は協議の上,前年におけるM医師との面談等で特別問題がなかったこと,毎月の保健師による職場巡 講じるのが相当であったというべきである。 にもかかわらず,健康管理医であるM医師と職場の上長であるP課長は協議の上,前年におけるM医師との面談等で特別問題がなかったこと,毎月の保健師による職場巡回の際に,丙から症状の悪化や体調不良等の訴えがなく,職場の上司との話合いの中でも特別な事情が出てこなかったことから,被告は,丙が安定した状態にあると判断し,丙の本件研修への参加を決定したのであって,その結果,丙が急性心筋虚血によって死亡するに至ったのであるから,被告の担当者には,上記の義務に違反した過失があるということができる。なお,本件研修開始後については,M医師が東京研修が始まる1週間前の平成14年5月13日に丙と面談し,その際,同医師は,丙に対し,「体調が悪ければいつでも申し出て休むよう。東京出張に関して不安等があれば市立旭川病院の主治医であるI医師と相談して必要な診断書が出ればいつでも出張は回避できる。」旨話したが,一般的な内容に終始しており,前記のとおり,カルテに記載された脈が飛ぶとか夜間に発汗して目が覚めることがあるなどの従前の治療に関するカルテ等の基礎資料を基にしたものではなく十分であったとは言い難いところである。また,東京研修の直前で,かつ札幌での研修中であった丙が旭川のI医師に相談するのは必ずしも容易ではなかったと考えられる。 被告は,労働者自身の健康管理義務を主張するが,本件研修が被告の構造改革に伴う雇用形態・処遇体系の選択に伴うものであって,丙が被告に対し本件研修への参加を見合わせることを要請することを期待できるような状況にあったとは考えにくいことを考慮すると,丙が本件研修への参加を見合わせることを申し入れなかったといった事情は,被告の注意義務違反を否定ないし軽減するものではない。 (4) 以上に認定,説示したところに たとは考えにくいことを考慮すると,丙が本件研修への参加を見合わせることを申し入れなかったといった事情は,被告の注意義務違反を否定ないし軽減するものではない。 (4) 以上に認定,説示したところによれば,被告は,比較的安定していた丙の生体リズム及び生活リズムに大きな変化を招来し,これをを壊しかねない本件研修への参加を止めさせるべきであったというべきであり,それにもかかわらず,被告は丙を本件研修に参加させた過失がある。(なお,仮に参加させるにしても,一人部屋をあてがうなど十二分な配慮をする必要があったというべきである。)よって,被告は,民法715条に基づき,丙が死亡したことにより,同人及びその相続人である原告らが被った損害を賠償する責任がある。 3 争点(3)(損害)について被告の不法行為により,丙及び原告らには以下の限度で損害が生じていると認められる。 (1) 逸失利益 3086万4211円(請求額3380万9160円)丙は,前記のとおり,死亡当時58歳であって,陳旧性心筋梗塞,高脂血症等の疾患を抱えてはいたものの,心筋梗塞発症後8年間は安定した状態で生活,稼働していたところ,証拠(甲9の1ないし12)によれば,丙は,平成13年1月から12月までの間(但し,2月及び7月を除く。)に,合計492万9881円の給与の支給を受けており,これから通勤費相当額を控除すると,合計485万5481円となるから(平均給与月額は48万5548円(小数点未満切捨て。以下同じ。)),これを年間収入に換算した582万6576円に特別手当て及び住宅補助費合計230万1777円を加算すると,丙の年間推計平均賃金合計額は812万8353円ということになる。 (計算式)(531402+484864+530942+491177+476565+476565+491177 777円を加算すると,丙の年間推計平均賃金合計額は812万8353円ということになる。 (計算式)(531402+484864+530942+491177+476565+476565+491177+512324+465606+469259-24800-24800-24800)÷10×12=5826576971200+266400+1064177=23017775826576+2301777=8128353以上によれば,丙は,少なくとも原告らが本件で請求している620万3288万円の限度で年収があったものと推認するのが相当である。生活費控除割合については,丙が一家の支柱であったことから30パーセントとし,67歳までの9年間就労が可能であったと考えられるから,9年に相当する年5パーセントの割合によるライプニッツ係数(7.1078)により中間利息を控除して逸失利益の現価を算出するのが相当である。 なお,原告らは,中間利息の控除割合につき,年3パーセントの割合によるライプニッツ係数を用いるのが相当である旨主張するが,損害賠償請求訴訟の実務においては,将来の逸失利益の額を算定するに際して控除すべき中間利息の割合を民法所定の年5パーセント(民法404条)とする運用が定着しているところ,この民事法定利率は,法律の規定に基づいて発生する利息,当事者間に利率に関する合意のない場合の利息等について統一的に適用されるべき規定であって,将来の請求権の現価評価をするに際して,法定利息により中間利息が算定されることが法律上定められている例(破産法99条2号,民事再生法87条1項等)が存在することに照らすと,これらの諸規定と同様に,将来発生する権利利益の現在の価額を評価するに当たり,一律に民事法定利率によって中間利息を控除することが,法的安定性及び統一的処理の見 条1項等)が存在することに照らすと,これらの諸規定と同様に,将来発生する権利利益の現在の価額を評価するに当たり,一律に民事法定利率によって中間利息を控除することが,法的安定性及び統一的処理の見地から合理性を有するというべきである。よって,原告らの主張を採用することはできない。 そうすると,丙に生じた逸失利益の現価は,次の計算式のとおり,3086万4211円となる。 (計算式)6203288×(1-0.3)×7.1078=30864211(2) 慰謝料 2800万円(請求額3000万円)前記認定の被告の注意義務違反の内容,程度,丙の年齢,生活状況その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件により丙が被った精神的苦痛を慰謝するには,2800万円の支払をもってするのが相当である。 (3) 原告らによる相続以上によれば,本件により丙が被った損害の合計額は5886万4211円となるところ,原告らは,丙の死亡により,同人の被告に対する損害賠償請求権をその相続分(各2分の1)に応じて相続したことになる。よって,原告らは,相続により丙から承継した分として,被告に対し,それぞれ2943万2105円の損害賠償請求権を有する。 (4) 葬儀費用合計141万9563円(請求額同額)弁論の全趣旨によれば,原告らは,丙の葬儀費用として相当額を支出したものと認められるところ,このうち,本件と相当因果関係の範囲内にある葬儀費用としては,本件において原告らが主張する141万9563円の限度であると解するのが相当というべきであり,弁論の全趣旨によれば,原告らがこれを2分の1ずつ(各70万9781円)を負担したものと認められる。 (5) 弁護士費用 600万円(請求額652万円)弁論の全趣旨によれば,原告らは,原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起,遂行を委任し,相 の1ずつ(各70万9781円)を負担したものと認められる。 (5) 弁護士費用 600万円(請求額652万円)弁論の全趣旨によれば,原告らは,原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起,遂行を委任し,相当額の費用及び報酬の支払を約束していることが認められるところ,本件事案の内容,難易度,主な争点,審理経過,認容額その他諸般の事情を総合考慮すると,本件と相当因果関係のある損害として被告に請求しうる弁護士費用の額は,(3)と(4)の合計額の約1割に相当する600万円と認めるのが相当であり,原告らは,これを2分の1ずつ負担したものと認めるのが相当である。 4 なお,原告は,不法行為(民法715条の使用者責任)に基づく損害賠償請求をするとともに,選択的に債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求もしているところ,これまでに説示したところによれば,同請求によっても,その主たる請求部分につき,上記認定の損害額を超える損害が発生したことを認めるに足りず,かえって,付帯請求(遅延損害金)の始期については,不法行為請求に比してその一部分を認容できるに止まると解されるから,本件においてはその申立ての趣旨に鑑み,不法行為に基づく請求のみを認容し,これを超える部分について,その余の請求を棄却することとする。 第4 結論以上に認定,説示したところによれば,本件請求は,被告に対し,原告らに対してそれぞれ3314万1886円及びこれに対する不法行為の日である平成14年6月9日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求(但し,主文1項で認容した金額に相当する債務不履行に基づく損害賠償請求及びこれに対する付帯請求部分を除く。)はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決 容し,その余の請求(但し,主文1項で認容した金額に相当する債務不履行に基づく損害賠償請求及びこれに対する付帯請求部分を除く。)はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第2部裁判長裁判官奥田正昭裁判官氏本厚司裁判官東光みすず
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