主文 原判決を破棄する。本件を東京高等裁判所に差し戻す。理由 弁護人伊丹経治の上告趣意のうち判例違反を主張する点は、引用の判例は本件と事案を異にして適切でないから、所論はその前提を欠き、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。しかしながら、所論にかんがみ、職権をもつて調査すると、原判決が認定判示した犯罪事実は、被告人は自己の勤務する運送店の事務所の入口付近で、貨物自動車の買戻しの交渉のため訪ねて来たAと押し問答を続けているうち、同人が突然被告人の左手の中指および薬指をつかんで逆にねじあげたので、痛さのあまりこれをふりほどこうとして右手で同人の胸の辺を一回強く突き飛ばし、同人を仰向けに倒してその後頭部をたまたま付近に駐車していた同人の自動車の車体(後部バンパー)に打ちつけさせ、よつて同人に対し治療四五日間を要する頭部打撲症の傷害を負わせたものであるというものであり、同判決は、右被告人の所為はその因つて生じた傷害の結果にかんがみ、防衛の程度をこえたもので、過剰防衛であるとして、被告人を有罪としている。ところで、右Aの行為が被告人の身体に対する急迫不正の侵害であることは、原判決も認めているところである。そして、刑法三六条一項にいう「已ムコトヲ得サルニ出テタル行為」とは、急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味するのであつて、反撃行為が右の限度を超えず、したがつて侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より- 1 -大であつても を意味するのであつて、反撃行為が右の限度を超えず、したがつて侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より- 1 -大であつても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではないと解すべきである。 がつて侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より- 1 -大であつても を意味するのであつて、反撃行為が右の限度を超えず、したがつて侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より- 1 -大であつても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではないと解すべきである。本件で被告人が右Aの侵害に対し自己の身体を防衛するためとつた行動は、痛さのあまりこれをふりほどこうとして、素手でAの胸の辺を一回強く突いただけであり、被告人のこの動作によつて、被告人の指をつかんでいた手をふりほどかれたAが仰向けに倒れたところに、たまたま運悪く自動車の車体があつたため、Aは思いがけぬ判示傷害を蒙つたというのである。してみれば、被告人の右行為が正当防衛行為にあたるか否かは被告人の右行為がAの侵害に対する防衛手段として前示限度を超えたか否かを審究すべきであるのに、たまたま生じた右傷害の結果にとらわれ、たやすく被告人の本件行為をもつて、そのよつて生じた傷害の結果の大きさにかんがみ防衛の程度を超えたいわゆる過剰防衛であるとした原判決は、法令の解釈適用をあやまつた結果、審理不尽の違法があるものというべく、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、かつ、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。よつて、刑訴法四一一条一号、四一三条本文により、更に審理をさせるため裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。検査官山本清二郎公判出席昭和四四年一二月四日最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官岩田誠裁判官入江俊郎裁判官長部謹吾裁判官松田二郎 裁判官入江俊郎裁判官長部謹吾裁判官松田二郎裁判官大隅健一郎- 2 -
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