主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が、平成12年3月14日付けでした原告の平成6年分の所得税についての更正処分、平成8年分の所得税についての更正処分(ただし、平成12年4月26日付けでした再更正処分により減額された後のもの。)及び平成10年分の所得税についての更正処分のうち、それぞれ確定申告額を超える部分、平成12年4月26日付けでした、平成7年分の所得税についての再更正処分、平成9年分の所得税についての再更正処分及び平成11年分の所得税についての更正処分のうち、それぞれ確定申告額を超える部分、並びに上記各処分と同日付けでした原告の平成6年分ないし平成11年分の所得税についての各過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。 第2 事案の概要原告は、平成6年10月から同11年5月まで在日アメリカ合衆国(以下「米国」という。)大使館に勤務していたが、所得税の申告に際し、米国大使館からの給与について、平成6年分は申告せず、同7年分ないし同11年分について、実際額の37.5パーセントないし56.6パーセントの金額を給与等の収入金額から除外して法定期限内に確定申告をした。被告は、平成6年分及び同7年分の所得税については、原告が申告に当たり、真実の給与収入金額に比し、過少に給与収入金額を申告したものであり、原告の各申告は、国税通則法(以下「通則法」という。)70条5項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当するとして、更正処分(平成7年分については、その後増額再更正処分をした。)及び各過少申告加算税賦課決定処分を行い、平成8年分ないし同11年分の所得税について各更正処分(ただし、平成8年分については、その後減額再更正処分、同9年分については、増額再更正処分を 分をした。)及び各過少申告加算税賦課決定処分を行い、平成8年分ないし同11年分の所得税について各更正処分(ただし、平成8年分については、その後減額再更正処分、同9年分については、増額再更正処分をした。)及び各過少申告加算税賦課決定処分をした。原告は、米国大使館には源泉徴収義務があり、原告には申告義務がないから、各更正処分及び各賦課決定は違法であり、また、平成6年分及び同7年分については、原告は正しい申告と信じて申告したものであるから、通則法70条5項を適用してされた各更正処分及び各賦課決定は違法であること等を主張して、各処分の取消しを求める事案である。 1 前提となる事実(括弧内に認定根拠を掲げた事実のほかは、当事者間に争いのない事実か、弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である。)(1) 原告は、平成6年10月から同11年5月まで、米国大使館に政治部の政治顧問として勤務した。 (2) 原告は、米国大使館から、原則として2週間に1度給与の支払いを受け、その都度、「INDIVIDUALEARNINGSSTATEMENT」(以下「個人給与明細書」という。)又は「EARNINGSANDLEAVESTATEMENT」(以下「給与及び休暇の明細書」といい、個人給与明細書と合わせてこれらの書類を「給与明細書等」という。)の交付を受けていた。 また、原告は、米国大使館から、昇給の都度、「NOTIFICATIONOFPERSONNELACTION」(以下「人事異動通知書」という。)の交付を受けていた。 (3) 原告は、平成6年分ないし同11年分(以下「本件各係争年」という。)の所得税について、いずれも法定申告期限内に、それぞれ別紙の「確定申告」欄記載のとおり申告した。 (4) 被告は、平成12年3月14日付けで、平成6年分ないし同1 年分(以下「本件各係争年」という。)の所得税について、いずれも法定申告期限内に、それぞれ別紙の「確定申告」欄記載のとおり申告した。 (4) 被告は、平成12年3月14日付けで、平成6年分ないし同10年分の所得税について、別紙の「更正処分等」欄記載のとおり、各更正処分及び各賦課決定処分をした。 (5) 被告は、平成12年4月26日付けで、別紙の「再更正処分等」欄記載のとおり、平成7年分ないし同9年分の所得税につき、各再更正処分及び平成8年分及び同9年分につき所得税の過少申告加算税賦課決定処分、同11年分につき更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした(以下、各係争年分の更正処分ないし再更正処分を「本件各更正処分等」といい、各過少申告加算税賦課決定処分を「各賦課決定」といい、本件各更正処分等及び各賦課決定を合わせて「本件各処分」という。)。 (6) 原告は、本件各処分を不服として、それぞれ異議申立てをしたところ、被告は、いずれもこれを棄却する旨の決定をした。 (7) 原告は、平成12年7月25日、国税不服審判所長に対し、本件各処分について審査請求をしたが、同所長は、平成13年9月13日付けで、これを棄却する旨の裁決をした。 (8) 原告は、平成13年11月7日付けで、本件訴えを提起した。 2 争点及び争点に関する当事者の主張本件の争点は、①米国は源泉徴収義務を負うか(争点1)、②通勤手当及び住宅手当は非課税となるか(争点2)、③本件に通則法70条5項の適用があるか(争点3)の3点であり、これらの点に関する両当事者の主張は、以下のとおりである。 (1) 米国は源泉徴収義務を負うか(争点1)についてア被告の主張(ア) 所得税法183条1項は、「居住者に対し国内において第28条第1項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者は、その支払の (1) 米国は源泉徴収義務を負うか(争点1)についてア被告の主張(ア) 所得税法183条1項は、「居住者に対し国内において第28条第1項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、(中略)これを国に納付しなければならない」と規定するところ、米国大使館に勤務する日本人職員に対し、同法28条1項に規定する給与等の支払をする者は、派遣国である米国である。 そこで、米国が原告に対する給与の支払に際し、源泉徴収義務を負うかを検討すると、国際社会を構成する国家は、それ自身主権を有する存在であり、法的には、相互に平等である。したがって、国際法上、ある国の主権は他国に従属することなく、一定の行為を強制されることはない。そして、相互に平等で同じ地位にあるものを規律する法秩序の形成には、それら国家の間に合意を成立させ、これを規則として守るという方法が採られている。すなわち、国家間の合意を基礎に形成された国際法上の根拠なくして一定の行為を他国に強制することはできない。 そして、我が国と米国との間では、派遣国にある大使館に勤務する現地職員に対して給与等の支払をする際、それぞれ源泉徴収を行うとの合意は存在していないのであるから、我が国は、米国に対し、所得税法上の源泉徴収義務を強制することはできない。実際、本件各係争年分において、米国が米国大使館に勤務する日本人職員に対する給与等の支払の際、その給与等について所得税を徴収し、これを我が国に納付した事実は認められないのであって、国際法上、米国が在日米国大使館に勤務する日本人職員に対して給与等の支払を行った際に、我が国の所得税法上の源泉徴収義務を負うと解することはできないのであるから、原告の主張には理由がない。 (イ) この点について、原告は、米国大使館の源泉徴 日本人職員に対して給与等の支払を行った際に、我が国の所得税法上の源泉徴収義務を負うと解することはできないのであるから、原告の主張には理由がない。 (イ) この点について、原告は、米国大使館の源泉徴収義務を否定する国際法は存在しない旨を主張するが、国家に一定の行為を強制することは国家間の合意があって初めてできるものであり、合意がなければ国際法における否定を待つまでもなく国家に一定の行為を強制することはできないから、原告の主張は失当である。 (ウ) また、国家間の裁判権免除の基準として、学説上、制限免除主義が主張されたものの、その内容については、行為の目的に着目した「行為目的基準説」と行為の性質に着目した「行為性質基準説」が主張されており、いずれも現行の一般国際慣習法ということはできないが、派遣国と外交使節団の職員の関係については、いずれの方式であっても、国家(接受国)の裁判権から免除される。すなわち、外交活動は国家の統治権の典型的な発現であり、少なくともそれを正常に実施している限りは接受国の裁判権は及ばない。 上記の裁判権免除の範囲に関する考え方を課税にも適用すれば、(派遣国の)正常な外交活動に関しては、(接受国の)統治権限を及ぼすことはできないと考えられる。 (エ) 上記結論を本件に適用すれば、外国国家の外交活動の拠点である大使館を経由して外国国家に対して納税義務を課すことは、国際法の基本原則である「平等なものは平等なものに対して権力を持たない」に反するものである。 また、外交関係に関するウィーン条約(以下「ウィーン条約」という。)38条2項は、あくまで現地職員本人に対する特権免除が制限的であることを規定しているのであって、当該現地職員の給与等の支払に際し派遣国が所得税法上の源泉徴収義務を負うかどうかとは別の問題であり、同源泉徴収義務 は、あくまで現地職員本人に対する特権免除が制限的であることを規定しているのであって、当該現地職員の給与等の支払に際し派遣国が所得税法上の源泉徴収義務を負うかどうかとは別の問題であり、同源泉徴収義務の免除の有無は、あくまで外交活動を実施している外国国家に対する関係での問題であるから、米国は所得税法上の源泉徴収義務を負わないと解されるのであって、源泉徴収義務を否定する国際法が存在しないことを理由とする原告の上記主張に理由がないことは明らかである。 イ原告の主張(ア) 米国大使館は、所得税法183条1項により、源泉徴収義務を負う。 所得税基本通達121-5は、「国際慣例により源泉徴収をする義務がないものとされる在日大公使館又は在日外交官から給与等又は退職手当て等の支払を受ける居住者」については、所得税法121条1項が適用されないとしており、国際慣例により大使館に源泉徴収義務がない場合があり得ることを想定している。しかし、米国大使館の源泉徴収義務を否定する国際法は条約のみならず国際慣習法を含めて存在しない。 (イ) 国際慣習法として成立するためには、一定の慣行が成立すること、つまり、多数の国家によって同一の行態(作為あるいは不作為)が繰り返されるという事実の存在が必要であり、さらに、多数の国家がそれを法的に義務的なものとして認める法的信念を有するに至っていることが必要である。したがって、大使館の源泉徴収義務の免除についていえば、米国だけでなく、多数の国家が源泉徴収義務は存在しないと主張してその履行を拒絶することが慣行化しており、かつ、多数の国家がそれを法的に義務的なものと認める法的信念を有するに至っている必要があるが(国際慣習法として認められるためには、日本国内の大使館についてだけでなく、多数の諸外国に設置された大使館においても、同様の慣 それを法的に義務的なものと認める法的信念を有するに至っている必要があるが(国際慣習法として認められるためには、日本国内の大使館についてだけでなく、多数の諸外国に設置された大使館においても、同様の慣行が成立している必要がある。)、そのような慣行の成立は認められない。実際、日本国内の大使館でも、スペイン、南アフリカ共和国、EU代表部等では日本国の所得税について源泉徴収を行っている。源泉徴収義務を履行していない日本国内の大使館が存在するとしても、単に我が国の税務官庁が各国大使館に対して源泉徴収義務の履行を求めるのを怠っただけのことであり、上記のような慣行は成立していないし、ましてや、多数の国家が源泉徴収義務の履行を求めないことが法的義務であるとの信念に至っている等とは到底いえないことは明らかである。 (ウ) 一方、ウィーン条約は、外交使節団等に関する税務関係について定めているところ、同条約の定めからも、米国大使館の源泉徴収義務が否定されないことは明らかである。すなわち、同条約の規定のうち、関連する規定は、22条3、23条1、28条1、34条、41条1等が挙げられるが、22条3は、一定の財産に対する強制手段を免除するにすぎず、源泉徴収義務を免除するものではないし、23条1は、派遣国及び使節団の長は、公館についての賦課金及び租税を免除されるというものであり、この条項は、これ以外の賦課金や租税は派遣国といえども免除されないことを示しており、源泉徴収義務が免除される対象でないことは明らかである。また、28条1も源泉徴収義務に関するものではなく、34条は、外交官についての免除規定であって、派遣国の源泉徴収義務を免除する規定ではなく、源泉徴収義務は、外交官に対する賦課金ないし租税ではない。さらに、41条1についても、源泉徴収義務は、接受国たる日本国の法 官についての免除規定であって、派遣国の源泉徴収義務を免除する規定ではなく、源泉徴収義務は、外交官に対する賦課金ないし租税ではない。さらに、41条1についても、源泉徴収義務は、接受国たる日本国の法令により定められており、その尊重は、同条約による特権及び免除を害するものではないと解されるから、源泉徴収義務を否定する根拠とはなり得ない。 (エ) 以上に加えて、外交特権は、個別的に放棄され得るものである。例えば、外交官は、同条約31条により裁判権からの免除を享有しているが、外交官に対する民事訴訟が提起された場合、裁判所は、当該外交特権者の派遣国がこの者に対する裁判権の免除を放棄するか否かを、外務省を通じて確かめるべく、最高裁判所に依頼することになっている(外交特権を有する者等の裁判権等の免除の放棄に関する照会についての昭和40年8月26日付最高裁民2第608号各高等裁判所長官、地方裁判所長、家庭裁判所長あて事務総長通達。)。そして、東京高等裁判所昭和45年4月8日判決・ジュリスト511号128頁も、外交官に対する裁判権の免除は、派遣国においてこれを放棄することができるのであるから、これを確認することなく外交特権を有する外交官に対する民事訴訟訴状を却下することは許されないと述べている。 本件についていえば、税務官庁が米国大使館に対して所得税源泉徴収について確認ないし要請することを怠っていたにすぎず、実際、前記のとおり、日本国内のスペイン、南アフリカ共和国、EU代表部等では日本職員についての所得税源泉徴収が行われている。 以上より、原告に対する給与の支払について米国大使館の源泉徴収義務を否定する国際法は存在しないので、米国大使館は、源泉徴収義務を負う。 (オ) 米国大使館に源泉徴収義務がある以上、原告が各係争年分において納付すべき所得税額の計 支払について米国大使館の源泉徴収義務を否定する国際法は存在しないので、米国大使館は、源泉徴収義務を負う。 (オ) 米国大使館に源泉徴収義務がある以上、原告が各係争年分において納付すべき所得税額の計算に当たっては、所得税法120条1項5号により、米国大使館からの給与について、米国大使館が源泉徴収を行っているか否かにかかわらず、源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額(以下「源泉徴収税額」という。)が控除される(最高裁判所平成4年2月18日判決・民集46巻2号77頁参照)。 そして、所得税法121条1項本文によれば、原告が支払を受けた給与等の金額はいずれも金2000万円以下であるから、原告は確定申告義務を負っておらず、たまたま確定申告を行ったにすぎない。それにもかかわらず、たまたま確定申告を行った原告に対し、本件各処分をした点には違法があり、本件各処分は取消しを免れない。 (カ) 被告は、国際法上、ある国の主権は他国に従属することはなく、一定の行為を強制されることはないと主張する。 しかしながら、裁判権免除については、絶対免除主義ではなく制限免除主義が台頭するようになっているのであるから、民事裁判権が免除される旨の慣習法が存在することを判断してはじめて、民事裁判権の免除が認められるにすぎない。そうすると、外国国家に対する課税免除についても同様に、外国国家に対する課税を免除する旨の国際慣習法が存在することによってはじめて、課税権の免除が認められるものであり、これに反する被告の主張は理由がないものというべきである。 (2) 通勤手当及び住宅手当は非課税となるか(争点2)についてア被告の主張(ア) 原告は、住宅手当は所得税法9条1項6号及び所得税法施行令21条4号により非課税所得に該当するところ、原告が米国大使館から支給された住宅手当は、金 となるか(争点2)についてア被告の主張(ア) 原告は、住宅手当は所得税法9条1項6号及び所得税法施行令21条4号により非課税所得に該当するところ、原告が米国大使館から支給された住宅手当は、金銭による給付であるが、その経緯にかんがみれば、非課税所得に該当するものと解すべきである旨を主張する。 しかしながら、所得税法9条1項6号は、給与所得を有する者がその使用者から受ける金銭以外の物(経済的利益を含む。)でその職務の性質上欠くことができないものについては、所得税を課さないと規定し、これを受けた所得税法施行令21条は非課税所得として職務の性質上欠くことのできない給付を限定列挙しており、原告が非課税所得に該当すると主張する住宅手当は金銭による給付であるから、同法9条1項6号に該当しないことは明らかである。 (イ) また、原告は、総収入金額からTAXABLEEARNINGSを差し引いた額がすべて住宅手当等の非課税収入であるかのように主張するが、平成10年分給与及び休暇の明細書によれば、米国大使館からの給与等の支払項目である4項目のうち、住宅手当に該当すると認められる支払項目はないのであるから、この点からみても原告の主張はその前提を欠くものである。 (ウ) さらに、被告は、本件各更正処分及び各賦課決定において、原告の米国大使館からの給与のうち、非課税所得に該当する通勤手当は課税していないから、この点の原告の主張には理由がない。 イ原告の主張(ア) 原告の米国大使館からの給与には、通勤手当及び住宅手当として支給された給付が含まれており、通勤手当は所得税法9条1項5号及び同法施行令20条の2により、住宅手当は、所得税法9条1項6号及び同法施行令21条4号により、それぞれ非課税所得に該当するから、これらの額を給与等の収入金額に含めた本件各更正 得税法9条1項5号及び同法施行令20条の2により、住宅手当は、所得税法9条1項6号及び同法施行令21条4号により、それぞれ非課税所得に該当するから、これらの額を給与等の収入金額に含めた本件各更正処分は違法である。 (イ) このうち、住宅手当については、金銭による給付ではあるが、原告には以下のような事情があるから、実質課税の原則により非課税所得に該当するものというべきである。 すなわち、原告の米国大使館における職務は、政治部政治顧問であり、政治部唯一の日本人シニアアドバイザーとして、日本の国内政治の動きを綿密に把握・分析し、政務担当公使以下の政治部外交官に、文書又は口頭で報告し、アドバイスするのが主な任務であった。日本の安全保障政策、外交政策等についても、求めに応じてアドバイスするほか、大使、筆頭公使等からの質問に答えるのも仕事の一部であった。原告は、その性質上、24時間何時でも必要に応じて米国大使館に直ちに出勤できる体勢を整えておかなければならず、国会議員等と広く深く交友関係を持ち、自宅で夕食会や面談をすることも期待されていた。 そのため、原告は、米国大使館から、大使館所在地に近接する住居に居住するよう命じられ、それを受けて、目黒区αでの居住を継続するに至ったものである。その際、原告は、米国大使館に対し、米国大使館において同所を借り上げた上で原告を居住させるよう申し入れたのであるが、大使館側は、米国政府の方針で大使館は形式上直接賃借できないが、大使館が原告に住宅手当を支給し、その手当から原告において賃貸人に賃料を支払うことによって、実質的、経済的には社宅と異なることはないので、そのような形式を採りたいと回答してきた。原告としては、米国政府の方針である以上、やむを得ないものとしてこれを了承したものである。 そうすると、結局、実質的、 経済的には社宅と異なることはないので、そのような形式を採りたいと回答してきた。原告としては、米国政府の方針である以上、やむを得ないものとしてこれを了承したものである。 そうすると、結局、実質的、経済的には、米国大使館において賃料を負担して原告の住居を確保し、これを原告に貸与したものとみることができ、上記住宅手当部分は、所得税法施行令21条4号に該当する。 しかるに、本件各更正処分等は、上記住宅手当部分を課税所得として計算しているので違法であり、これに伴う本件各賦課決定とともに取消しを免れない。 (ウ) また、ウィーン条約38条2項本文は、外交職員以外の使節団の職員又は個人的使用人であって、接受国の国民であるもの又は接受国内に通常居住しているものは、接受国によって認められている限度まで特権及び免除を享受する旨が規定されている。そして、日本の国税当局は、米国大使館の日本人職員について、米国大使館から社宅、雇用保険、福利厚生に相当する金額を手当として給与に加算して支給される場合、給与の4割程度が非課税所得に該当する旨の取扱いを行う特権及び免除を認めてきたのであるから、原告は、同条約の規定に基づき、これを享受することができるというべきである。 (3) 本件に通則法70条5項の適用があるか(争点3)についてア被告の主張(ア) 通則法70条は、国税の更正の期間制限について、同条1項において、更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においてはすることができない旨を規定するとともに、同条5項において、「偽りその他不正の行為」によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨を規定している。 通則法70条5項は、偽りその他不正の行為によりその全部若しく くは一部の税額を免れた国税についての更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨を規定している。 通則法70条5項は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正まで、短期間(3年間)の制限期間とすることは、実質的な租税負担の公平の観点から適当ではないことから、7年間という長い制限期間を定めたものである。 そして、通則法70条5項に規定する「偽りその他不正の行為」とは、納税者が真実の所得を秘匿し、それが課税対象となることを回避するため、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出し、正当な納税義務を過少にしてその不足税額を免れる行為、いわゆる過少申告行為も、それ自体単なる不申告の不作為にとどまるものではなく、偽りの工作的不正行為といえるから、偽りその他不正の行為に該当するものと解される。 (イ) 原告が米国大使館から受領した真実の給与収入額がいくらであったかを認識していたことは、2週間に一度給与を受け取るに当たって給与支給額及び給与支給累計額が記載された給与明細書等を受領し、また、昇給の都度、昇給前後の年俸が記載された人事異動通知書を受領していたことから明らかである。 そして、原告は、本件各係争年分の所得税の確定申告に当たり、米国大使館からの真実(実際)の給与収入金額について、平成6年分はその全額(216万9997円)を全く申告せず、平成7年分は実際の収入金額の53.2パーセント、同8年分は54.1パーセント、同9年分は56.6パーセント、同10年分は55. 4パーセント、同11年分の37.5パーセントを給与収入金額から除外して所得税の確定申告をしたのであり、除外した金額は相当高額である上、法的根拠に基づいてされたものでもない。原告の経歴 年分は55. 4パーセント、同11年分の37.5パーセントを給与収入金額から除外して所得税の確定申告をしたのであり、除外した金額は相当高額である上、法的根拠に基づいてされたものでもない。原告の経歴(大学卒業後、警察官として8年6ヶ月間、株式会社ボストン・コンサルティング・グループ(以下「BCG」という。)に2年間勤務しており10年以上にわたって、給与収入を得ている。)からみれば、給与収入が、法令等の定めにより特に非課税とされる部分を除き、原則としてその総額が課税対象となることを知らないというのは不自然であり、当然に認識していたというべきである。そうすると、原告は、所得税を軽減させる目的で、故意的に給与収入金額を少なく計算して、除外していたものということができ、通則法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」に該当する。 (ウ) 原告は、人事課職員等からの説明に基づいて申告した旨を主張するが、そもそも人事課職員が、「就職1年目は申告する必要はない」等と説明するわけがなく、原告がそれを根拠なく信じたということも不自然である。また、原告は、確定申告の際に、申告書に給与明細を添付していないことについて疑問に思ったにもかかわらず、税務署に確認していない等不自然であるといわざるを得ない。 さらに、原告は、平成7年分の所得税の確定申告書の給与収入欄702万円は、BCGからの給与との比較で、住居にかかわる額と交際費等を見積もった上で、大ざっぱな申告であったかもしれないが、自分としては正しい額として、米国大使館等の慣行等からいっても問題はない申告と理解し、平成8年分以降も同様に申告した旨供述している。しかし、税金の申告において概算計算が認められるはずがなく、このような供述をすること自体、原告が適正に申告するという意思が全くないことの証左というべきである。 分以降も同様に申告した旨供述している。しかし、税金の申告において概算計算が認められるはずがなく、このような供述をすること自体、原告が適正に申告するという意思が全くないことの証左というべきである。 イ原告の主張(ア) 原告は、平成6年分及び同7年分の所得税について、それぞれ法定申告期限内に申告しているところ、通則法70条1項1号により、同期限から3年を経過した日以降においては、増額更正処分をすることは許されず、原告の行為は、通則法70条5項の「偽りその他不正の行為」に該当しないから、各処分は違法である。 すなわち、通則法70条5項の「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいい、いわゆる過少申告もこれに含まれるが、過少申告行為といえるためには、納税者が真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得の金額をことさらに過少にした内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にしてその不足税額を免れたといえる必要がある(最高裁昭和52年判決)。 しかしながら、原告は、①平成6年分については、米国大使館の人事課の職員に、「就職1年目は申告する必要はない」旨の説明を受けたため、米国大使館からの給与を申告しなかったものであり、②平成7年分以降は、職務上個人負担が多く、手取額では米国大使館に就職する前の収入金額より少なく感じたことから、前職と同程度の金額を、給与等の収入金額として、給与明細書等を確認することなく申告した。また、③原告の米国大使館からの給与には非課税所得に該当する給与が含まれており、平成7年分以降は、これらを給与等の収入金額から差し引いて申告したものであるから、原告には、税額を免れる意図 申告した。また、③原告の米国大使館からの給与には非課税所得に該当する給与が含まれており、平成7年分以降は、これらを給与等の収入金額から差し引いて申告したものであるから、原告には、税額を免れる意図が認められず、通則法70条5項の適用はないというべきである。 (イ) 原告は、警察庁在籍時に米国大使館の各部局と極めて密接に意見交換をする仕事に携わり、その際、日本の税務当局と米国大使館は綿密な連絡を取り合っているものと認識していた。また、大使館には、国税庁のカウンターパートであるIRS(内国歳入庁)のアタッシェがおり、税務当局同士でも普段から密接な意見交換が行われていた。さらに、国税庁と米国大使館は、1950年代から、実際に大使館職員が行う申告について協議を行っていたものであり、米国大使館における職員の税務申告に関する慣行は、日米両税務当局同士での了解に基づくものであると考えるのが自然である。米国大使館の職員のほぼ全員が修正申告を求められて応じたり更正処分を受けたりした模様である。ほとんどの人が処分等を受けたということは、個々人の悪性というよりも、当局同士の了解による確立した慣行があったと考える方が合理的である。 また、原告が米国大使館に勤務している間、米国大使館関係者が、日本の国税当局から、米国大使館職員の納税方法について改めるよう注意を受けることはなかったし、原告の認識としても、所得税の確定申告に際し、税金を不当に安くするために不当な申告をしたという認識はない。 さらに、米国大使が日本の各省庁の大臣・長官クラスに署名入りの書面を出すのは希有かつ重大なことであるところ、米国大使から国税庁長官宛てに出された甲第9号証には、大使館職員は、日本の税法では非課税扱いとなる給付を受けておらず、その代わりに現金による支払を受けていること、数十年前に つ重大なことであるところ、米国大使から国税庁長官宛てに出された甲第9号証には、大使館職員は、日本の税法では非課税扱いとなる給付を受けておらず、その代わりに現金による支払を受けていること、数十年前に、税務当局との話し合いを受けての説明以後、大使館職員は、上記現金での支払が非課税であり、この部分を課税収入から控除できると信じてきた旨の記載があり、原告も、これと同様の認識を持ち、米国大使館の慣行に従っていたものである。 原告は、平成7年分所得税確定申告に際し、上記米国大使館内の慣習、並びに原告が前記住居に居住することを命じられた前記経緯から、住居に関する金額、交際費を控除して申告したものである。 (ウ) なお、上記のような事実に照らせば、原告には、通則法65条4項の「正当な理由」があると認められるから、この点を看過してされた本件各賦課決定も違法である。 第3 争点に対する判断 1 争点1(米国が源泉徴収義務を負うか)について(1) 原告は、米国大使館から支給される給与については、米国大使館を通じて米国に源泉徴収義務があるのであって、原告に申告義務はなく、したがって本件各更正処分等及び本件各賦課決定には違法がある旨を主張する。そこで、原告に申告義務があるかを検討する。 主権をそれぞれに有する国家は、相互に法的に平等であるから、他国に対して権力を持たないと解するのが国際法上の法原則であるというべきである(いわゆる、対等なもの同士の間では相互に支配権を持たない、という法諺。)。したがって、外国国家の主権的機能(これを一般に「主権的行為」という。)に対しては、外国国家が自発的に免除を放棄する場合を除いては領域国の主権を及ぼすことはできず、外国国家は、領域国の主権に従属するよう強制されない。しかしながら、外国国家が、私人によっても行い得る行為(これ は、外国国家が自発的に免除を放棄する場合を除いては領域国の主権を及ぼすことはできず、外国国家は、領域国の主権に従属するよう強制されない。しかしながら、外国国家が、私人によっても行い得る行為(これを一般に「管理的行為」という。)をする場合には、私人と等しく領域国の主権に服すべきと解され、このように解しても外国国家の主権自体を損なうものともいい難いことから、領域国の主権が及ぶものと解するのが相当である(いわゆる裁判権の免除に関する制限的免除主義。最高裁判所平成14年4月12日判決・民集56巻4号729頁参照)。 上記のような考え方は、裁判権について論じられることが多いが、国家の統治権を代表する課税権についても同様に妥当するものと解されるから、外国国家に対する課税免除は、主権的行為について課税が免除され、管理的行為については自発的な免除の放棄がない限り免除されないと解するのが相当である。 そこで、本件のように、派遣国である米国の外交使節団の職員である米国大使館の現地職員に対する給与の支払に際し、米国に日本の課税権が及ぼされるかを検討すると、大使館の現地職員の勤務に対する給与の支払は、国家の統治権の典型的な発現である外交活動を行うためにされるものであるから、少なくともそれを正常に実施している限りは、日本の課税権が免除されると解すべきである(もっとも、外交活動に主権免除が妥当することについては、国際法の解釈上ほぼ争いはないところであるものの、外交使節団の職員への給与の支払行為は、給与支払という行為自体を切り離して考える場合には、その性質上私人でもなし得るものであることを強調し、これを管理的行為に該当すると解する見解もあり得なくもないように思われる。しかしながら、制限免除の具体的内容については、行為の動機・目的を基準として区分する立場(いわゆ 得るものであることを強調し、これを管理的行為に該当すると解する見解もあり得なくもないように思われる。しかしながら、制限免除の具体的内容については、行為の動機・目的を基準として区分する立場(いわゆる「行為目的説」。)と、行為の性質ないし結果的に生ずる法律関係を基準として区分する立場(いわゆる「行為性質説」。)の2説が主張され、いずれも国際法上の通説となるに至っておらず、このような状況下で、これまで長年にわたって源泉徴収を行ってこなかった国に対して、源泉徴収義務があるとの解釈の下にその履行を義務付けることには無理があり、せいぜいそのような考え方もあり得るとの前提の下に任意の協力を求め得るにとどまると解すべきである。したがって、このような場合に当然に主権を及ぼすことができるものとは考え難い。)。 (2) 原告は、ウィーン条約22条3、23条1、28条1、34条、41条1の存在を指摘し、これらの規定のうち、外国国家の源泉徴収義務を免除する規定は存在しないこと、外交特権は、個別的に放棄され得るものであり、実際に日本国内のスペイン大使館、南アフリカ共和国大使館、EU代表部等の現地職員の給与については、各国が源泉徴収をしており、米国に対して同義務の履行を求めていない段階では、米国が同義務を放棄していないと断定することはできないこと等を主張して、米国には源泉徴収義務がある旨を主張する。 しかしながら、ウィーン条約には、前文に「この条約の当事者は(中略)この条約の規定により明示的に規制されていない問題については、引き続き国際慣習法の諸規則によるべきことを確認して、次のとおり協定した」と明言されていることに照らし、同条約に規定されていない問題については、一般国際慣習法や、他の条約に基づく法的権利義務の観点から別途検討する必要があると解されるし、関係国家 して、次のとおり協定した」と明言されていることに照らし、同条約に規定されていない問題については、一般国際慣習法や、他の条約に基づく法的権利義務の観点から別途検討する必要があると解されるし、関係国家間において、個別の合意ないし意思表示により免除権を放棄することが可能であり、他国において免除権を放棄している場合が実際にあるとしても、米国については、課税権免除についてこれを個別に放棄したものと認めるに足りる証拠がないばかりか、本訴係属中においても現地職員から所得税の源泉徴収はしない旨の意思を明らかにしていることが認められる(乙3)。したがって、原告のこれらの主張は理由がない。 以上によれば、米国は、米国大使館における現地職員への給与の支払に際し、源泉徴収義務を免除されると解するのが相当であるから、原告には、米国大使館からの給与について、申告する義務があるものというべきである。 2 争点2(通勤手当及び住宅手当は非課税となるか)について(1) 原告は、通勤手当及び住宅手当は非課税とされるべきであるにもかかわらず、本件各更正処分等及び各賦課決定の際には、これらにも課税されているとして、各処分が違法である旨を主張する。 このうち、通勤手当について検討すると、通勤手当は、所得税法9条1項5号及び同法施行令20条の2により、一定の範囲内で非課税とされるところ、被告は、本件各更正処分等及び各賦課決定の際、原告の給与及び休暇の明細書に記載された項目である「REGULARBASEPAY」、「FRINGEBENEFITS」、「BONUSALLOWANCE」及び「TRANCEPORTATIONALLOWANCE」に該当する金額のうち、「TRANCEPORTATIONALLOWANCE」に記載された額を通勤手当として所得から控除した上で各処分 及び「TRANCEPORTATIONALLOWANCE」に該当する金額のうち、「TRANCEPORTATIONALLOWANCE」に記載された額を通勤手当として所得から控除した上で各処分をした旨を主張する。他方、原告は、この被告の主張に対し、計算過程に誤りがある旨や、他項目に記載された額のうち通勤手当として支給された額がある等の具体的主張を一切しておらず、本件全証拠によっても、原告に対し支払われた給与のうち、通勤手当として支給された額が他にも存在すると認めるに足りる証拠はない。したがって、通勤手当相当額については、本件各処分の中で既に非課税として扱われていることが明らかである(弁論の全趣旨)から、原告の主張は理由がない。 (2) 次に、住宅手当の点について検討すると、所得税法9条1項6号は、「給与所得を有する者がその使用者から受ける金銭以外の物(経済的利益を含む。)でその職務の性質上欠くことができないものとして政令で定めるものについては、所得税を課さない」と規定しており、金銭による支給の場合に適用がないことは、文言上明らかであるというべきである。 これに対し、原告は、職務上の理由から当該住居に居住する必要があったものであり、米国大使館が当該住居を借り上げて原告に貸与することができなかったため、原告は、代わりに住宅手当として金銭の支給を受けたものであるから、その実質は米国大使館から住居を借り受ける場合と異ならないとして、所得税法9条1項6号が適用されると解すべき旨を主張する。しかしながら、本件では、原告が支給を受けたとする住宅手当の具体的な額や、給与明細書に示された金額のうちのどの部分が住宅手当に相当するか等が明らかにされておらず、原告の主張を前提としても非課税とされるべき金額が特定できないといわざるを得ない。また、仮に原告の 体的な額や、給与明細書に示された金額のうちのどの部分が住宅手当に相当するか等が明らかにされておらず、原告の主張を前提としても非課税とされるべき金額が特定できないといわざるを得ない。また、仮に原告の主張のとおりの事実が認められるとしても、原告が支給を受けた住宅手当が金銭による給付であることは否定できず、所得税法9条1項6号が金銭による給付の場合を除外する趣旨であることは前記のとおり明らかなものといわざるを得ないから、原告の受けた住宅手当の給付を非課税とする根拠はないものというべきである。 (3) 原告は、税務当局が米国大使館の現地職員についてはその給与の4割程度を非課税所得に該当する旨の取扱いをする特権及び免除を認めてきたとの前提の下に、ウィーン条約38条2項を適用すべき旨主張する。 しかし、甲第9、第10号証及び第25号証中には、米国大使館の現地職員に対する課税をめぐって昭和30年ころに税務当局と米国大使館との間で何らかの交渉があったことがうかがわれるものの、それがどのような結果に終わったかを具体的に示す証拠はなく、税務当局自体が原告主張のような取扱いをするとの方針を定めたことを認めるに足りる証拠もないから、原告の主張は前提を欠くといわざるを得ない。また、仮に税務当局が事実上そのような取扱いをしていたとしても、それは明確な定めに基づいてされていたものとも認められず、そのことから明らかなように単なる違法な取扱いが事実上行われていたというにすぎないから、そのことを基に上記条約38条2項を適用することもできない。 (4) 以上によれば、原告に米国大使館から支給された給与のうち、通勤手当以外に非課税とされるべき給付は含まれておらず、本件各処分の際、通勤手当相当額が非課税として計算されていることは前記のとおりであるから、この他に非課税とされるべ 館から支給された給与のうち、通勤手当以外に非課税とされるべき給付は含まれておらず、本件各処分の際、通勤手当相当額が非課税として計算されていることは前記のとおりであるから、この他に非課税とされるべき給付がある旨の原告の主張を採用することはできない。 3 争点3(本件に通則法70条5項の適用があるか)について(1)ア本件では、平成6年分及び同7年分の各処分は、いずれも法定申告期限から3年を経過した後にされているところ、通則法70条1項1号は、同期限から3年を経過した日以降においては増額更正処分はできない旨を規定し、同条5項で、ただし「偽りその他不正の行為」が認められる場合には、同期限から7年を経過するまでの間、増額更正処分をできる旨を規定する。そこで、原告の平成6年分及び同7年分の申告が、同条5項にいう「偽りその他不正の行為」に該当するかについて検討する。 イそこで、まず通則法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」の意義について検討するに、「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解するべきである。そうすると、単なる不申告行為はこれに含まれないものの、納税者が真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避する意思の下に、所得の金額をことさらに過少にした内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にしてその不足税額を免れる行為は、単なる不申告に止まらず、偽りの工作的不正行為ということができるから、上記「偽りその他不正の行為」に該当するものと解するのが相当である(最高裁昭和52年判決参照)。 (2) そこで、原告が、真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、ことさらに過少にし 「偽りその他不正の行為」に該当するものと解するのが相当である(最高裁昭和52年判決参照)。 (2) そこで、原告が、真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、ことさらに過少にした内容虚偽の確定申告書を提出したものと認められるかについて検討する。 アまず、米国大使館の日本人職員多数に対する課税が問題となった後に、P1駐日米国大使が作成した書簡(甲9)及びP2米国大使館総務部長の陳述書面(甲10)の記載と約250名の日本人職員が平成10年までの間に過少申告したものとして税務調査を受けていたこと(乙4)を合わせ考えると、日本人職員の相当数について、基本給部分のみの申告、あるいは、全体の給与の約6割の額の申告をすれば足りるとの慣行又はその旨の認識が一定程度広まっていた可能性がないでもない。 イ(ア) もっとも、米国大使館に勤務する日本人職員は、個人によって、勤続年数や実際の申告額等に違いがあるところ、原告の給与明細書等(甲1の1ないし甲6)、各係争年分の確定申告書(甲11ないし15、乙5)及び弁論の全趣旨によれば、本件各係争年分の所得税の確定申告に当たり、原告は、米国大使館から支給された給与について、平成6年分はその全額(216万9997円)について申告せず、平成7年分は797万6244円(実際の収入金額(1499万6244円)の53.2パーセント)、平成8年分は826万7324円(実際の収入金額(1528万7324円)の54.1パーセント)、平成9年分は916万7769円(実際の収入金額(1618万7769円)の56.6パーセント)、平成10年分は880万0754円(実際の収入金額(1588万0754円)の55. 4パーセント)及び平成11年分は234万4759円(実際の収入金額(624万7639円)の37.5パーセント ト)、平成10年分は880万0754円(実際の収入金額(1588万0754円)の55. 4パーセント)及び平成11年分は234万4759円(実際の収入金額(624万7639円)の37.5パーセント)をそれぞれ給与から控除して申告したことが認められる。 (イ) そして、原告は、上記(ア)のような申告をした理由について、甲第8号証及び本人尋問の結果によれば、以下のように説明したことが認められる。 a 原告は、米国大使館に勤務する際、総務部のP3人事課長に対し、原告がBCG時代と同程度の収入を得られるよう交渉して、給与の等級の決定を受けた。なお、BCG時代の給与収入は、年間約1000万円であった。 b 原告は、平成6年分の確定申告に際し、米国大使館の人事課に申告について問い合わせたところ、女性職員のP4あるいはP5から、中途採用であり、入ったばかりなので、初年度については申告の必要がないとの説明を受けた。その際、申告をしないでよい根拠については示されなかったものの、原告はこれを信じた(原告本人69ないし72項)。 c 原告は、米国大使館の人事課から、2年目以降の申告に際し、どのような額を申告するかについて指導を受けたことはなかった。原告が米国大使館に入館した際、税金の申告に関する指導ないし説明を受けたことはなかった。 そこで、原告は、平成7年分以降の申告について、aの交渉の経緯があったことから、BCG時代の自分の所得と比較した上、住居費、交際費等に要した費用を大ざっぱに見積もった上、自分としては正しい額であると考えて同額の申告をした(原告本人30、31、33、83項)。 なお、原告の住居費は、年間約330万円であり、当時原告が交際費に要した金額は、最低でも300万円を下らなかった(原告本人60、92項)。 d 原告は、各係争年分の申告の際、源泉 、33、83項)。 なお、原告の住居費は、年間約330万円であり、当時原告が交際費に要した金額は、最低でも300万円を下らなかった(原告本人60、92項)。 d 原告は、各係争年分の申告の際、源泉徴収票等の所得に関わるような資料を付けなかったが、税務当局から指摘を受けたことはなかった。原告は、源泉徴収票等を添付しなくてよいことを不思議に思い、大使館の人事担当者に給与明細を添付するか否かを尋ねたところ、付けないことになっているから付けないでください、みんなが迷惑を被るので、という趣旨のことをいわれた。また、大使館の他の部門の者に、同様の質問をしたところ、付けないのが慣行であると説明された(原告本人117ないし122項)。 e 原告は、本件各係争年分の申告に先立って、前記P1書簡及びP2陳述を見聞きしたことはなく、本件裁判が始まった後、米国大使館に在職する者から聞いて初めて見た(原告本人13、20、79ないし82項)。 ウ以上の説明によると、原告は、平成6年分の申告について、中途採用であるので1年目の申告は不要である旨の人事課職員の説明を信じて申告しなかったことになる。 しかしながら、原告が、なぜ中途採用の場合には1年目の申告が不要であるかの根拠について尋ね、あるいは自ら調査した事実は認められないところ、原告が、米国大使館に勤務する以前に約8年間、警察官として奉職した経験があり(甲8)、かつBCGでの勤務の際、自ら確定申告をした経験もあること(原告本人126項)、原告の米国大使館からの平成6年分の給与の額が約220万円にも上ることに照らせば、仮に人事課職員からこのような説明を受けたとしても、原告が根拠なくこれを信じたとは考え難い。 また、前記第3、3(2)のように、米国大使館が日本人職員に支給した手当について非課税となる旨の認識を有し に人事課職員からこのような説明を受けたとしても、原告が根拠なくこれを信じたとは考え難い。 また、前記第3、3(2)のように、米国大使館が日本人職員に支給した手当について非課税となる旨の認識を有していたとすれば、人事課職員を通じて、その旨を日本人職員に説明していたとしても不自然ではないものの、前記認識は、申告する際の給与の額ないし基準に関するものであり、中途採用の際の1年目の申告の要否とは何ら結びつかないはずであるから、人事課職員が、そのような趣旨の説明をしたものとは認め難い。 したがって、原告が、平成6年分の申告の際、大使館職員から申告は不要であると説明を受け、これを信じたために同大使館からの給与を申告しなかったものとは認められない。 エ次に、平成7年分以降の申告について検討すると、原告は、前記のとおり、米国大使館から支給された額のうち、住居費及び交際費を大ざっぱに見積もって控除した上で申告した旨を述べ(原告本人83項)、このような申告が、同大使館に勤務する日本人職員の慣行に反するものではないと認識していた旨を述べる。 他方で、原告は、本人尋問において、前記P1書簡及びP2陳述の存在及び内容については、本件訴えを提起するまで知らなかった旨を述べた上、2年目以降の申告の方法について、大使館に入館した際あるいはそれ以後にも、大使館から指導ないし説明を受けたことはない旨を述べている。 そうすると、原告の陳述書(甲8)には、原告が米国大使館に就職した際、大使館の担当者から大使館における給与の申告方法について、基本給部分を申告することになっている旨の説明を受けたと記載されているが、これは原告本人尋問における原告の陳述内容と整合しないものというべきである。そして、原告が、入館の際、前職と同程度の収入を得られるよう大使館側と交渉した経緯があっ 旨の説明を受けたと記載されているが、これは原告本人尋問における原告の陳述内容と整合しないものというべきである。そして、原告が、入館の際、前職と同程度の収入を得られるよう大使館側と交渉した経緯があったため、前職の収入と比較しながら控除額を決定したように述べていること(なお、原告が実際に申告した額は、前職からの支給額である1000万円を大幅に下回っている。 原告本人98、105ないし107項)、しかも、住宅費と交際費を「大ざっぱに」見積もって控除したことを自認しており、控除額はきちんとした計算に基づいて算出されたものではないことに照らせば、原告は、何らかの基準に準拠したものではなく自己の考えに従って申告したものであって、しかも各申告額が、正確に算出されたものでないことを十分認識していたものというべきである。 さらに、結局原告が申告したのは、平成7年分について給与の約47パーセント、同8年分ないし同10年分について約45パーセント、同11年分について約62.5パーセントにとどまり、平成7年分ないし同10年分の各申告については、慣行と主張される約6割の申告を大幅に下回っていること、原告が、必ずしも在職中に前記慣行の認識があったわけではないが、本件訴えを提起する際もう一度書類を全部見直したところ、「結果的に、大ざっぱに計算した額と(慣行に基づく申告をした場合の額が)ほぼ合っていたということだと思う」旨を述べている(原告本人78ないし80項)ことからは、原告が、前記慣行を信じて、それに沿う申告をしたものとは到底認めることができず、申告の際に源泉徴収票等の給与を証する資料の添付が不要であることを奇貨として、自らの判断で前記割合に上る給与相当額を控除して申告したものというほかない。 オ以上によれば、他の日本人職員の間に前記アのような慣行ないし認識が存 与を証する資料の添付が不要であることを奇貨として、自らの判断で前記割合に上る給与相当額を控除して申告したものというほかない。 オ以上によれば、他の日本人職員の間に前記アのような慣行ないし認識が存在したか否かにかかわらず、原告の平成6年分及び同7年分の各申告は、原告が、米国大使館から支給された給与の全額について申告義務があることを十分認識した上で、全額について申告した場合に納税義務の生ずる額との差額の支払を免れる意図で、あえて実際の支給額よりも少ない額を記載した確定申告書を提出して行ったものといわざるを得ないから、前記通則法70条5項の「偽りその他不正の行為」に該当するものというべきである。 そして、このほかに、被告の平成6年分の更正処分及び同7年分の再更正処分の適法性を疑うに足りる証拠は存在しないから、この点に関する原告の主張は理由がない。 カなお、原告は、平成6年分ないし平成11年分の各賦課決定について、原告は、前記慣行を信じた上、それに沿う申告をしたのであるから、通則法65条4項の「正当な理由」があるものとして、各賦課決定は違法である旨を主張する。 しかしながら、同項の「正当な理由」とは、申告した税額に不足を生じたことについて、通常の状態において納税者が知り得ることができなかった場合や、納税者の責に任じられない事情等、真にやむを得ない理由があると認められる場合を指すものと解されるところ、前記ウの認定事実によれば、原告は、米国大使館における申告の慣行を信じ、これに沿う申告をしたものとは到底認めることができず、むしろ、給与を証する資料の添付が不要であることを奇貨として、自らの判断で一定額を控除した申告をしたものといわざるを得ないことは前記のとおりであるから、同項の「正当な理由」があると認めることはできない。 そして、各賦課決定 添付が不要であることを奇貨として、自らの判断で一定額を控除した申告をしたものといわざるを得ないことは前記のとおりであるから、同項の「正当な理由」があると認めることはできない。 そして、各賦課決定について、他にその適法性を疑うに足りる事情は見当たらないから、本件各賦課決定は、いずれも適法にされたものと認められる。 第4 結論以上によれば、原告の本件各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部裁判長裁判官藤山雅行裁判官廣澤諭裁判官加藤晴子
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