- 1 - 主文 1 被告1は、原告Aに対し、5188万0640円及びこれに対する令和2年8月28日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告1は、原告Bに対し、220万円及びこれに対する令和2年8月28日 から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 原告らの被告2に対する請求及び被告1に対するその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用のうち、原告Aと被告1との間に生じたものは、これを10分し、その3を原告Aの、その余を被告1の負担とし、原告Bと被告1との 間に生じたものは、これを5分し、その3を原告Bの、その余を被告1の負担とし、原告Aと被告2との間に生じたものは原告Aの負担とし、原告Bと被告2との間に生じたものは原告Bの負担とする。 5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告らは、連帯して、原告Aに対し、7269万6664円及びこれに対する令和2年8月28日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告らは、連帯して、原告Bに対し、550万円及びこれに対する令和2年8月28日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告らの負担とする。 4 仮執行宣言第2 事案の概要当時少年であった被告1は、令和2年8月28日、福岡市内の商業施設において、原告らの親族である被害女性(当時21歳)を殺害した(以下「本件事件」という。)。 本件は、原告らが、本件事件について、被告1には不法行為が成立し、被告1の - 2 -親権者である被告2には の親族である被害女性(当時21歳)を殺害した(以下「本件事件」という。)。 本件は、原告らが、本件事件について、被告1には不法行為が成立し、被告1の - 2 -親権者である被告2には、子に対する監督義務に違反した過失があるから、被告らは原告ら及び被害女性に対する共同不法行為責任を負う旨主張して、①原告らの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、711条)及び、②被害女性を相続した原告Aについては、被害女性の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)として、被告らに対し、連帯して、被害女性の母 である原告Aについては被害女性の死亡逸失利益及び慰謝料のうち原告Aの相続分(2分の1)相当額並びに固有の慰謝料等の合計7269万6664円並びにこれに対する不法行為の日(本件事件の発生日)である令和2年8月28日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金を、原告Bについては固有の慰謝料等合計550万円及びこれに対する同日から支払済みまで同法所定の年3分 の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うよう求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者ア原告Aは、被害女性の母親である。 原告Bは、被害女性の3歳違いの兄である。 原告Bは平成30年4月から遠隔地の勤務先に勤務して原告Aと別居しており、本件事件当時は、原告Aが自宅で被害女性と同居していた。(甲1、16、26)イ被告1は、■■■■■■■■■■生まれの男性であり、本件事件当時15 歳■■■であった。 被告2は、被告1の母親であり、本件事件当時その親権者であった。(甲2)⑵ 本件事件の発生 被告1は、■■■■■■■■■■生まれの男性であり、本件事件当時15 歳■■■であった。 被告2は、被告1の母親であり、本件事件当時その親権者であった。(甲2)⑵ 本件事件の発生ア被告1は、平成25年頃から他の児童や教師に対する暴行、暴言といった 問題行動を繰り返したため、平成28年1月末頃から、数回にわたって病院 - 3 -に医療保護入院したほか、同年4月以降、児童心理治療施設や複数の児童自立支援施設に入所したが、各施設でも粗暴な行為を繰り返したため、入所措置が変更されたり解除されたりした後、ぐ犯保護事件について鹿児島家庭裁判所において令和元年6月10日付けで第3種少年院に送致する旨の決定を受け、同月から同院に入院し、医療的措置が終了した段階で第1種少年院 に送致され、入院した。被告1は、令和2年8月26日に第1種少年院を仮退院し、同日福岡県内の更生保護施設に移ったが、翌27日に同施設を脱走した。(甲3、4、9、11)イ被告1は、令和2年8月28日、福岡市内の商業施設(以下「本件商業施設」という。)内で面識のない被害女性を見かけ、同人に性的な興味を抱い て本件商業施設1階の西側女子トイレに向かった同人の後をつけていき、同日午後7時23分頃から同日午後7時28分頃までの間に、同トイレ内において、被告1が包丁を持っているのを見た被害女性から自首するよう諭されたことなどに逆上し、殺意をもって、同人の頚部等を包丁で多数回突き刺すなどして殺害した(以下「本件不法行為」という。)(甲3、4、10、1 2)。 ⑶ 本件不法行為に係る刑事事件(以下「本件刑事事件」という。)の結果被告1は、本件事件について、令和3年1月19日、鹿児島家庭裁判所において検察官送致決定を受けたところ、鹿児 2)。 ⑶ 本件不法行為に係る刑事事件(以下「本件刑事事件」という。)の結果被告1は、本件事件について、令和3年1月19日、鹿児島家庭裁判所において検察官送致決定を受けたところ、鹿児島地方検察庁は本件事件を福岡地方検察庁に移送し、同検察庁検察官は、同月28日、福岡地方裁判所に起訴した。 同裁判所は、令和4年7月25日、被告1に対し、本件事件等について、窃盗、殺人、暴力行為等処罰に関する法律違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪で、懲役10年以上15年以下に処する旨の判決を宣告し(同裁判所令和3年(わ)第62号)、同判決は、後に確定した(甲3、弁論の全趣旨)。 ⑷ 犯罪被害者等給付金 原告Aは、本件事件に係る犯罪被害者等給付金(遺族給付金)として■■■ - 4 -■■■■円を受給した(甲18)。 2 争点及びこれに対する当事者の主張⑴ 被告1の本件不法行為当時の責任能力の有無(争点1)(被告1の主張)被告1は、非常に深刻な問題を抱えた家庭環境・養育環境の下、精神的な発 達が阻害されていた状況であり、同年齢の者に比べて未成熟な部分が存在したのであり、本件不法行為時においても、虐待の影響等によって現実感を喪失し、自己の行為の意味を弁識するに足りる能力がなかったといえるから、被告1は本件不法行為時責任能力がなかった。したがって、被告1は、民法712条により、損害賠償責任を負わない。 (原告らの主張)本件不法行為の前後の行動からすれば、被告1は合理的に物事を判断し行動していると評価できること、本件刑事事件において被告1の精神鑑定が行われた結果、責任能力が認められていること(甲20)からすれば、被告1には本件不法行為当時責任能力が認められる。 ⑵ 被告2の監督義務 できること、本件刑事事件において被告1の精神鑑定が行われた結果、責任能力が認められていること(甲20)からすれば、被告1には本件不法行為当時責任能力が認められる。 ⑵ 被告2の監督義務違反の有無(争点2)(原告らの主張)ア監督義務違反被告2の監督義務違反を基礎づける事実は、被告1の特性に応じ指導監督すべき義務違反、仮退院に際しての受入拒否、本件事件以前の不適切な指導 監督である。 被告2は、当時未成年であった被告1の親権者であり、子である被告1を、同人の特性に応じ、関係機関と連携を取りながら、指導監督する立場にあった。それにもかかわらず、被告2は、被告1と同居していた期間、被告1に対して不適切な監護を行っており、施設等に入所する前に問題行動を繰り返 していた被告1に対し、病院での診断を踏まえた療育や、対人関係に関する - 5 -適切な指導を行っていなかった。また、被告1が施設に入所してからは、少年に対する指導は施設職員に委ねた上、面会に進んで行くことはなく、施設からの連絡を無視したり、不適切な差し入れをしたりするなどの行為をしており、親権者としての監督義務を果たしていなかった。加えて、被告1が少年院を仮退院する際に、被告2がその身元を引き受けることを拒否したこと からすれば、被告2は被告1に対する監督義務を尽くしていたとはいえない。 そして、被告1は、幼少期から、第三者に対する暴力的傾向を有しており、被告2はそのことを把握していたのであるから、被告1の第三者に対する加害行為について具体的予見可能性を有していた。被告2は、被告1が施設に入所してからも、面会や手紙、施設からの連絡、施設への問合せ等を通じて 被告1の上記暴力的傾向の改善状況等、被告1の変化を具体的に把握する義務 予見可能性を有していた。被告2は、被告1が施設に入所してからも、面会や手紙、施設からの連絡、施設への問合せ等を通じて 被告1の上記暴力的傾向の改善状況等、被告1の変化を具体的に把握する義務があったのであるから、被告1が施設に入所して矯正教育を受けていてもなお、原告2は本件不法行為の予見可能性を有していた。また、被告1が被告2のもとに戻りたがっていたことを考慮すると、被告2が被告1に対して愛情や具体的な対策をもって指導監督義務を尽くしていれば、本件不法行為 を防ぐことができたのであるから、被告2には結果回避可能性もあったといえる。 したがって、被告2には被告1の本件不法行為について監督義務違反の過失がある。 イ相当因果関係 被告2の不適切な監護は、被告1の人格形成、順法精神の欠如、第三者への加害行為を助長するものであり、本件刑事事件における情状鑑定の鑑定書(以下「本件鑑定書」という。)によれば、被告2の引受け拒否行為による被告1の絶望感及び本件事件以前の不適切な指導監督による愛着形成不全や粗暴性の助長は、被告1が第三者に対して加害行為に及ぶことと相当因果 関係を有する。 - 6 -(被告2の主張)ア監督義務違反被告1は、平成28年4月以降、児童心理治療施設や児童自立支援施設や少年院といった複数の施設に長期間入所しており、この間の監督は、専ら各施設によって行われたといえ、少なくとも施設入所中における被告2の監督 義務違反は認められる余地がない。また、被告2が被告1と同居していたのは本件事件発生までの4年半以上前までであるから、被告2の被告1に対する親権者としての影響力を認めることはできない。 被告2は、仮退院後の被告1と同居する法的義務はないし、仮に身元を引き受けたと 本件事件発生までの4年半以上前までであるから、被告2の被告1に対する親権者としての影響力を認めることはできない。 被告2は、仮退院後の被告1と同居する法的義務はないし、仮に身元を引き受けたとしても、原告らの主張によれば、児童福祉施設入所までに被告1 の特性に応じた指導監督を行わなかったのであるから、原告らのいう適切な監督責任を果たせないことが予見される。能力面、経済面で困難のある親権者が、子の福祉に適う生活環境を与えるために施設に入所させるなどしての別居を選択することに何ら問題はなく、被告2が仮退院後の身元引受を行わなかったことに落ち度はなく、第三者である原告らとの関係で違法となるこ とはない。 被告2は、平成28年2月上旬を最後に、被告1と同居したことがなく、その日常生活を具体的に把握できる状態になかった。また、令和2年8月に被告1が少年院を仮退院したことは、被告1に第三者の生命身体に危害を加える具体的危険が存在しないと国が判断したことを推認させる事実である し、令和2年2月27日付けの成績評価には粗暴性が解消されつつある旨の記載があることからしても、被告2には、被告1による本件不法行為に関し、具体的予見可能性がない。 イ相当因果関係本件鑑定書には、被告2の行為が本件の「背景」として存在したのではな いかとの見解が示されているが、犯行との結びつきが強い犯行動機という表 - 7 -現ではなく、背景といった、より間接的、遠因的な表現にとどまっているし、犯行動機の原因となった行為を行った者がいたとしても、当該犯行によって第三者に発生した損害につき直ちに因果関係が認められることはない。 ⑶ 原告Bに対する民法711条類推適用の可否(争点3)(原告らの主張) 原告Bは、被害女性が 、当該犯行によって第三者に発生した損害につき直ちに因果関係が認められることはない。 ⑶ 原告Bに対する民法711条類推適用の可否(争点3)(原告らの主張) 原告Bは、被害女性が生まれてから原告Bが社会人となり家を出る平成30年4月までの間、被害女性と同居していた被害女性の兄であり、母子家庭であった被害女性家族における唯一の男性として発言力が大きく、原告Aや被害女性に対する指導や仲介役を担うなど、家族をまとめることのできる父親代わりの存在であり、被害女性も原告Bを信頼していた。このように、原告Bと被害 女性とのつながりは深く、通常の兄妹以上に関係性は強固だったのであり、原告Bは、民法711条に列挙されている者と同視できる者であると評価できる。 (被告らの主張)原告Bは民法711条所定の近親者に該当しない。本件では、被害女性の両親が健在である上、原告Bは平成27年頃一人暮らしを開始し、遅くとも本件 事件の1年半前から被害女性と別居して別家計を営んでいたのであり、民法711条が類推適用されるべき身分関係にあったとは認められない。 ⑷ 原告らの損害の有無及びその額(争点4)(原告らの主張)ア被害女性の損害について (ア) 死亡慰謝料被害女性に何らの落ち度がないこと、本件不法行為の悪質性・残虐性、死亡結果の重大性に鑑みれば、死亡慰謝料としては4000万円が相当である。 (イ) 逸失利益賃金センサス令和2年女性学歴計の平均年収は300万8500円であ り、生活費控除率を30%として、就労可能年数46年のライプニッツ係数 - 8 -24.7754をかけると、合計5217万5754円となる。 (ウ) 合計したがって、被害女性の損害額 生活費控除率を30%として、就労可能年数46年のライプニッツ係数 - 8 -24.7754をかけると、合計5217万5754円となる。 (ウ) 合計したがって、被害女性の損害額の合計は、9217万5754円となり、被害女性の母親である原告Aは2分の1に当たる4608万7877円を相続した。 イ原告ら固有の損害について(ア) 原告Aの慰謝料 2000万円被害女性の家庭は母子家庭であり、本件事件当時、原告Aと被害女性が支えあって生活していたこと、原告Aが右手に障害を抱え、被害女性が原告Aのサポートをしていたことから、被害女性を失った原告Aの喪失感及びスト レスは計り知れないのであり、原告Aの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、2000万円を下らない。 (イ) 原告Bの慰謝料 500万円母子家庭にあって、原告Bは父親代わりとして被害女性を可愛がっていたこと、生前、非常に仲の良いきょうだいであったこと等に鑑み、原告Bの精 神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、500万円を下らない。 ウ弁護士費用について上記ア及びイの合計は7108万7877円であり、これと相当因果関係のある弁護士費用として、合計710万8787円(内訳は、原告Aが660万8787円、原告Bが50万円)の損害を被った。 エ各原告の請求額の合計についてしたがって、上記アないしウの各原告の請求の合計額は、原告Aについて7269万6664円、原告Bについて550万円となる。 (被告らの主張)原告らの主張を争う。本件における原告らの請求額は、他の裁判例と比 べても不当に高額である。 - 9 -第3 争点に対する判断 1 認定事実当事者間に争いのない事実並 張)原告らの主張を争う。本件における原告らの請求額は、他の裁判例と比 べても不当に高額である。 - 9 -第3 争点に対する判断 1 認定事実当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実を総合すると、別紙「認定事実」記載の事実が認められる。 2 争点1(被告1の犯行当時の責任能力の有無)について 別紙「認定事実」(以下、単に「認定事実」という。)4⑴によれば、被告1は、本件不法行為当時、共感性の欠如や自己中心的な認知傾向があったと考えられるが、是非善悪の判断能力及び制御能力が欠けていたことをうかがわせるような精神障害等の事情は認められない。 したがって、被告1は、本件不法行為当時、完全責任能力を有していたこ とが認められ、本件不法行為につき、不法行為責任を負うものと認められる。 3 争点2(被告2の監督義務違反の有無)について⑴ 未成年者が責任能力を有する場合であっても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認め得るときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立するものと解す るのが相当である(最高裁判所昭和49年3月22日第二小法廷判決・民集28巻2号347頁参照)。 ⑵ 原告らは、被告1の親権者であった被告2が、被告1の本件不法行為について、被告1に対する監督義務違反により不法行為責任を負う旨を主張するので、以下検討する。 ア被告2の同居時の関わりについて原告らは、被告2は、被告1と同居していた期間、被告1に対して不適切な監護・指導監督を行っており、かかる不適切な監護・指導監督は、被告1の人格形成、順法精神の欠如、第三者への加害行為を助長するものであるし、 被告2は、被告1と同居していた期間、被告1に対して不適切な監護・指導監督を行っており、かかる不適切な監護・指導監督は、被告1の人格形成、順法精神の欠如、第三者への加害行為を助長するものであるし、被告2は被告1の幼少期からの暴力的傾向を把握していたのであるから、被 告2の不適切な監護・指導監督と被告1が第三者である被害女性に対して本 - 10 -件不法行為によって生じた被害女性の死亡という結果との間に相当因果関係を有し、被告2に監督義務違反が認められる旨主張する。 認定事実2⑴によれば、被告1に対する同居時の監護・指導監督状況は、被告2の行為のみによるものではないものの、被告1の子としての正常な成育が阻害されるような極めて不適切なものであったことがうかがわれ、認定 事実4⑴の本件情状鑑定を踏まえると、被告2の不適切な養育を含む家庭環境が被告1の暴力行動、破壊行動及び性的問題行動に相当程度の影響を及ぼしたものと考えられる。しかし、被告2が被告1と同居していたのは本件事件発生の約4年半前である平成28年2月上旬までであり、その後被告1に対しては入所先の施設や少年院等で治療や矯正教育等が行われていること からすれば、同居時の被告2の不適切な監護・指導監督が直接本件不法行為の発生に影響を与えたと認めることはできない。 イ施設等入所後の関わりについて原告らは、被告2は、被告1の施設等入所後も被告1と不適切な関わりをしており、親権者としての監督義務を果たしていなかった旨主張する。 認定事実2⑵によれば、被告2は、施設入所中である被告1との面会を十分に行ったり、被告1を引き取るための環境を整えたりするなどの、被告1の更生に資する行動を行っていなかったことが認められる。 しかし、被告1が施設に入所している以上、日 所中である被告1との面会を十分に行ったり、被告1を引き取るための環境を整えたりするなどの、被告1の更生に資する行動を行っていなかったことが認められる。 しかし、被告1が施設に入所している以上、日常における指導監督や教育等は一次的には当該施設が行うものであり、また、実際に入所施設において 日常的に指導監督及び教育が行われていたことからすれば、施設入所中の被告2の被告1に対する影響力は限定的であったといわざるを得ず、被告2が被告1の更生に資する行動をしていなかったことが、本件不法行為の発生に直接影響を与えたとは認められない。 ウ仮退院に際しての被告2の引受拒否について 原告らは、被告1が少年院を仮退院する際に、被告2がその身元を引き受 - 11 -けることを拒否したことは、親権者としての監督義務違反であるし、被告2からの引受拒否による被告1の絶望感が本件不法行為に影響したため、結果との相当因果関係を有する旨主張する。 認定事実2⑵、4⑴によれば、被告2が被告1の少年院仮退院の際に金銭的な問題を理由に被告1の引受けを拒否したことが認められ、このことは被 告1に精神的なショックを与え、被告1の更生への意欲を削ぐとともに孤独感や不安感を生じさせた面があることが認められる。 しかし、親権者が子の監護養育の方法として第三者に委託することも子の福祉に適う以上許容されるものである。そして、被告2が被告1の引受拒否をしたのは金銭的な問題が理由であることに加え、同居時には育児及び家事 能力が低いため被告1の養育環境を整えられず、親子としての適切な関わりができていなかったことや、施設入所時にも被告1との面会等に消極的であり、被告1との交流が十分にできていなかったことなどからすると、被告2と同居することにより被告1の れず、親子としての適切な関わりができていなかったことや、施設入所時にも被告1との面会等に消極的であり、被告1との交流が十分にできていなかったことなどからすると、被告2と同居することにより被告1の更生に資することが見込まれたのかについては疑問が残る。反対に、被告2が、生活環境を整えることができていない 状況であるにもかかわらず被告1の身元を引き受けた場合、被告1が悪環境に置かれ、かつ、被告1が希望していた被告2との親子としての適切な関わりができずに絶望し、非行に及ぶ可能性も否定することはできない。 このような状況下において、被告2に、被告1の生活環境として、自らが身元引受をするのではなく、公的機関の保護に委ねるという選択をすること によって、被告1が第三者の生命に危害を加えることにつながるという予見可能性があったと認めることはできない。 エ以上に加え、被告2は、本件不法行為当時、同居していない被告1の日常生活の様子を具体的に把握できる状態になかったこと、少年院から通知を受けていた令和2年2月27日付けの成績評価(乙ロ1)には粗暴性が解消さ れつつある旨の記載があったこと、令和2年8月に被告1が少年院を仮退院 - 12 -することができたことからすれば、被告2において、被告1が仮退院直後の更生保護施設入所中に第三者の生命に危害を加える可能性について予見することは困難であったものと認められる。 したがって、上記被告2の行為について、いずれも被告1の本件不法行為につき監督義務違反があると認めることはできず、原告らの前記主張は採用 することができない。 よって、原告らの被告2に対する損害賠償請求には理由がない。 4 争点3(原告Bに対する民法711条類推適用の可否)について不法行為による生命侵害があっ 張は採用 することができない。 よって、原告らの被告2に対する損害賠償請求には理由がない。 4 争点3(原告Bに対する民法711条類推適用の可否)について不法行為による生命侵害があった場合、被害女性の父母、配偶者及び子が加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求しうることは、民法711条が明文をもって 認めるところであるが、同規定はこれを限定的に解すべきものでなく、文言上同条に該当しない者であっても、被害女性との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害女性の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求しうるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和49年12月17日第三小法廷判決・民集 28巻10号2040頁参照)。 証拠(甲16、23、26、原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、被害女性の兄である原告Bは、本件事件当時には被害女性と同居していなかったものの、被害女性が生まれてから平成30年3月までの約19年間は被害女性と同居していたこと、被害女性が4歳のときに両親が離婚して以降母子家庭であり、母で ある原告Aが障害を有する中、原告Bは家族の中で唯一の男性として家族を支えており、被害女性からも頼りにされていたこと、幼いころから被害女性と仲が良く、被害女性とその母である原告Aが対立した際、母をいさめ、被害女性を諭すなど、父親代わりの役割を果たすこともあったなど、被害女性とのきょうだいとしての関係が特に緊密であったこと及び、残忍な犯行によって唯一の妹を失った ことにより甚大な精神的苦痛を受けたことが認められる。 - 13 -そうすると、原告Bは、被害女性との間で、民法711条所定の父母、配偶者及び子と実質的に同視し得る身分 の妹を失った ことにより甚大な精神的苦痛を受けたことが認められる。 - 13 -そうすると、原告Bは、被害女性との間で、民法711条所定の父母、配偶者及び子と実質的に同視し得る身分関係が存するというべきで、被害女性の死亡により甚大な精神的苦痛を被ったものと認められ、民法711条の類推適用により固有の慰謝料を請求することができると解するのが相当である。 5 争点4(原告らの損害の有無及びその額)について 以上のとおり、被告1は、不法行為(民法709条、711条)に基づき、本件不法行為により原告らに生じた損害を賠償する責任を負うので、原告らの損害額等について検討する。 ⑴ 被害女性の損害ア逸失利益 証拠(甲3、5、原告A本人)によれば、被害女性は、本件事件当時21歳で、学歴は中学校卒業であるが、中学校卒業後、アルバイトを掛け持ちして働き、本件事件当時、電話の受付の仕事をしていたことや、将来は資格の取得や留学を検討していたことが認められる。そうすると、被害女性には、就労意欲や学習意欲が認められ、本件事件当時21歳と 若年で、その就労能力の向上も見込まれる年齢であったこと等に鑑みれば、本件事件がなければ、67歳までの就労が可能であり、67歳に至るまでの46年間を通じて、令和2年賃金センサス産業計・企業規模計・女性・学歴計・20~24歳の平均年収300万8500円を得ることができたとするのが相当である。そして、上記基礎収入を前提に、生 活費として3割を控除し、被害女性の上記就労可能年数に対応するライプニッツ係数24.7754を乗じると、次の計算式のとおり、被害女性には、5217万5753円(1円未満切り捨て)の逸失利益が認められる。 300万8500円×(1-0.3)×2 対応するライプニッツ係数24.7754を乗じると、次の計算式のとおり、被害女性には、5217万5753円(1円未満切り捨て)の逸失利益が認められる。 300万8500円×(1-0.3)×24.7754=5217万 5753円 - 14 -イ死亡慰謝料前記前提事実⑵イ及び認定事実3のとおり、被害女性は、本件不法行為によって死亡しているところ、何らの落ち度がなかったにもかかわらず、突然面識のない被告1から包丁を向けられ、自首するよう諭したにもかかわらず、理不尽にも頚部等を包丁で多数回突き刺されるという残 虐な行為を受けて死を余儀なくされた。被害女性が味わった恐怖や精神的、肉体的苦痛は筆舌に尽くしがたく、また、突如として21歳という若さで、将来性あふれる人生に終止符を打たれたのであり、その無念さは察するに余りある。その他、本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、本件不法行為によって殺害された被害女性の精神的苦痛に対する慰 謝料は3000万円と認めるのが相当である。 ウ原告Aの相続分原告Aは被害女性の母親で、法定相続人であるから、法定相続分に従い、被害女性の損害額の合計8217万5753円の2分の1である4108万7876円(1円未満切り捨て。以下同じ。そのうち逸失利益 相当額は2608万7876円〔≒5217万5753円×1/2〕)の被害女性の損害賠償請求権を取得した。 エ犯罪被害者等給付金(遺族給付金)原告らは、原告Aが受給した犯罪被害者等給付金(遺族給付金)について、原告Aは固有の慰謝料につき、遺族給付金を除いた額を請求しているか ら訴額との関係で損益相殺の対象とならない旨主張する。 しかし、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援 いて、原告Aは固有の慰謝料につき、遺族給付金を除いた額を請求しているか ら訴額との関係で損益相殺の対象とならない旨主張する。 しかし、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(以下「支援法」という。)によれば、犯罪被害者等給付金のうち遺族給付金は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の第一順位の遺族の犯罪被害等を早期に軽減するための給付金であり(1条、4条)、 その額は、支援法施行令で定めるところにより算定する遺族給付基礎額 - 15 -に、遺族の生計維持の状況を勘案して支援法施行令で定める倍数を乗じて得た額である(9条1項)とされている。支援法のかかる定めからすると、遺族給付金は、犯罪被害者の遺族の犯罪被害等を早期に軽減するために、原則として犯罪被害者の収入額を基に算定した金額を遺族に支給するものであって、犯罪被害者の死亡による逸失利益等の消極損害の 一部を早期に填補することを目的としたものということができ、遺族給付金の損益相殺の対象となる損害は、遺族の固有の慰謝料ではなく、犯罪被害者の死亡による逸失利益等の消極損害であると解される。 遺族給付金は、犯罪被害の遺族の早期救済という観点からの要請に応えるものであるという意義等に照らせば、犯罪被害者が不法行為によっ て死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族給付金の支給を受けたときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その填補の対象となる損害は不法行為の時に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである。そ して、原告Aに支給された遺族給付金について、上記の特段の事情があるとは認められない。 ものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである。そ して、原告Aに支給された遺族給付金について、上記の特段の事情があるとは認められない。 そうすると、原告Aに支給された遺族給付金の■■■■■■■■円(前提事実⑷)は、原告Aが相続した逸失利益の損害2608万7876円から控除すべきであり、原告Aが相続した逸失利益の残額は■■■■■■■■■ 円となる。 したがって、原告Aが相続した被害女性の損害賠償請求権の残額は、■■■■■■■■■円(■■■■■■■■円+3000万円÷2)である。 ⑵ 原告らの固有の慰謝料ア原告A 原告Aは、右腕に障害のある自身を日常生活において助けてくれる優 - 16 -しくて頼もしい、また、夢に向かって成長することを楽しみにしていた、かけがいのない娘である被害女性を、理不尽にも、被告1による残虐な殺害行為によって突然失ったのであるから、その精神的苦痛は極めて甚大である。その他、本件不法行為後の被告1の言動等、本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告Aの精神的苦痛に対する慰謝料は10 00万円と認めるのが相当である。 イ原告B原告Bは、きょうだいとして母子家庭において共に助け合いながら成長し、また、年長者として可愛がっていた妹を、理不尽にも残虐な殺害行為によって突然失ったのであるから、その精神的苦痛は甚大である。 その他、本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告Bの精神的苦痛に対する慰謝料は200万円と認めるのが相当である。 ⑶ 弁護士費用弁護士費用については、事案の内容、経緯及び認容額などに鑑み、原告Aにつき■■■■円、原告Bにつき20万円が相当因果関係のある損害と は200万円と認めるのが相当である。 ⑶ 弁護士費用弁護士費用については、事案の内容、経緯及び認容額などに鑑み、原告Aにつき■■■■円、原告Bにつき20万円が相当因果関係のある損害と 認めるのが相当である。 ⑷ 原告らの損害の合計額したがって、原告らの被告1に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の合計額は、原告Aにつき5188万0640円、原告Bにつき220万円となる。 第4 結論以上のとおり、原告らの請求は、主文の限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第6民事部 - 17 - 裁判長裁判官上田洋幸 裁判官武村重樹 裁判官中山詩穂 (別紙当事者目録は掲載省略) (別紙認定事実は掲載省略)
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