主文 被告人を懲役7年に処する。 未決勾留日数中230日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,暴力団5代目A組B組C興業の組員(若頭)であるとともに,平成1,,()1年10月ころ自らの組であったD興業をE会と改めてからはその会長組長となり,前記C興業の組事務所のある岡山市a町b番c号所在のFビルの3階に,組事務所を構えていたものであるが,自己の配下の組員を,いわゆる行儀見習いとして組事務所に住み込ませて,事務所の掃除,洗濯や電話当番,さらには被告人の自宅の掃除等をさせるとともに,そのやり方について口やかましく注意し,不手際があれば,行儀と称して殴る蹴るの制裁を加えるなどしていたところ,第1平成12年8月19日午前零時ころ,同市d町e番f号g号室の被告人方において,被告人方の掃除をした前記E会組員のGに対し,同人が掃除の際,ソ,,「,ファー等を動かして掃除をせず手抜きしたなどとして立腹しおどりゃあ掃除の仕方は教えとろうが。何で手抜きするんなら」などと怒号した上,そ。 の頭部を同所にあった空の一升瓶で1回殴打する暴行を加え,よって,同人に全治約1週間を要する頭部挫創等の傷害を負わせ第2同年12月8日午後11時ころ,前記Fビル3階のE会事務所において,同じくE会組員のHに対し,同人が前記C興業にかかってきた電話の相手も確かめずに切るなどしたことから,同人の電話の応対等が悪いなどとして立腹し,「ちゃんと電話を取れ。おどりゃあ,何遍言うたらわかるんな」などと怒号。 しつつ,その頭部及び顔面を手拳で数回殴打し,さらに,その背部等を数回足蹴にした上,その頭部を同事務所にあった金槌で数回殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治約1週間を要する頭部挫創等の傷害を負わせ第3平成13年2月1日午後 殴打し,さらに,その背部等を数回足蹴にした上,その頭部を同事務所にあった金槌で数回殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治約1週間を要する頭部挫創等の傷害を負わせ第3平成13年2月1日午後7時30分ころ,前記E会事務所において,風呂場から出てきたHがサンダル裏面に石鹸を付着させたまま同事務所内を歩いたことから立腹し,同人に対し「石鹸踏んどるじゃねえか。拭け」などと注意し,,,,たが同人が雑巾を取りに行く際にそのサンダルを履いたまま歩いたために事務所の床が余計に汚れたとしてさらに立腹し「スリッパ覆いたままで掃除,しても一緒じゃろうが「おどりゃあ,わざとしよんか「わかっとんか,。」。」こりゃあ」などと怒号しつつ,座った状態のHの頭部,胸部及び背部等を多。 数回足蹴にし,その顔面を数回平手で殴打し,その後頭部を数回踏みつけ,頭を起こした同人の前額部付近を1回蹴りつけるなどの暴行を加え,よって,同月4日午前4時47分ころ,同市hi丁目j番k号I病院において,同人を外傷性の急性硬膜下血腫により死亡するに至らしめたものである。 (証拠の標目)略(事実認定の補足説明) 弁護人の主張弁護人は,判示第3の事実について,Hは,判示暴行(以下「本件暴行」という)を受けた平成13年2月1日(以下,平成13年との記載を省略する)。 。 ,,,の前日である1月31日にE会組員のJとの間で取っ組み合いになりJから頭突きや殴打などHの頭部が前後に急激に振れる暴行を受け,それによって,Hの架橋静脈は少し裂けて出血が止まった状態になっており,その部分が弱い力で切れやすくなっていたため,2月1日,被告人の本件暴行を受けて,外傷性の急性硬膜下血腫により死亡するに至ったものであり,Hの致死の結果はJの暴行と被告人の暴行が競合して生じたも ,その部分が弱い力で切れやすくなっていたため,2月1日,被告人の本件暴行を受けて,外傷性の急性硬膜下血腫により死亡するに至ったものであり,Hの致死の結果はJの暴行と被告人の暴行が競合して生じたものであると主張する。そこで,本件暴行とHの致死の結果に関する刑法上の因果関係の有無及び弁護人の主張の当否について検討する(なお,以下,公判調書中の証人ないし被告人の供述部分については,便宜上,証言ないし供述と言い表すこととする。 。) JのHの対する暴行の態様(1)Jの供述の信用性Jは,Hに対する暴行の態様について,警察官調書(56,不同意部分を除く。以下同じ)で,1月31日午前6時ころ,Jが事務所の部屋を出ようとすると,Hが羽交い絞めにしてきたので,それを振りほどくようにして,Hを押したところ,Jの右上腕部の辺りがHの左ほおの辺りに当たり,Hはふらふらと後ずさりした旨供述し,公判廷でも,Jが事務所の部屋を出ようとしたら,Hが追いかけてきて,服を片手でつかんで引きずっていこうとしたので,Jが放せなどと言って振りほどこうとしたら,後ろから羽交い締めにされたため,Jは,後ろに体重をかけ,手を思いっきり振り下ろして手を振りほどき,振り返って,左手でHの右肘の辺りをつかみ,右手で襟首をつかんで柔道の組み手,,,,,のようになりJが右肘を押すような感じでHの首の辺りに当てさらに少し離して,どんと殴るような感じで,右肘をHのあごか左ほおに当てたところ,Hは2メートルほど後ろによろけた旨証言している。 Jは,上記出来事の前後の状況として,1月30日にも,自分の電話の取次の不手際のためにHが被告人から十手で頭を殴られる暴行を受けたことから,E会から逃げようと決めて,31日の深夜から早朝にかけてHと相談したが,Hから,事務所に残って 1月30日にも,自分の電話の取次の不手際のためにHが被告人から十手で頭を殴られる暴行を受けたことから,E会から逃げようと決めて,31日の深夜から早朝にかけてHと相談したが,Hから,事務所に残って頑張るよう引き留められ,それでもなお,事務所を出ようとしたこと,後ろによろけたHから逃れ,部屋を飛び出したが,事務所近くの交差点でHに追いつかれ,その際,HがJを気遣って,Hのお金を持って行くように言ってきたこと,しかし,それを断わり,別れたことを供述しているところ,JのHに対する暴行に関する前記供述は,このような一連の事実の流れの中で,まことに自然であり,かつ,具体的である。また,同供述は,供述調書及び各尋問を通じて一貫した内容である上,殊更,Jが,自己のHに対する暴行の程度を矮小化して述べている形跡もない。したがって,Jの前記供述は信用できる。 (2)被告人の供述の信用性この点,被告人は,検察官調書(72)で「Hは,Jから殴られたような,ことを言っていた」旨供述し,公判廷でも「1月31日の朝,Hの額の部。 ,分が赤くなっており,首から胸にかけて,引っかき傷のような痕があった。Hは,Jととっくみあいになり,頭突きをされ,殴られたと言っていた」旨供。 述している。 被告人は,HのJから受けた暴行が強ければ,自己の責任を軽減できることから,Jの暴行を誇張して表現するなど虚偽の供述をする動機が認められるものの,被告人は当該事実について,捜査段階から,前記のとおり,Hからの伝聞内容に言及していた上,公判廷においても,Hの怪我の程度は前記のように軽微なものに過ぎず,額の痕も翌日までに目立たなくなっていたと供述していることや,1月31日朝から2月1日夜の本件暴行直前まで,Hがふらふらしたり,めまいを訴えるなど,普段と変わった様子は全然なかったと なものに過ぎず,額の痕も翌日までに目立たなくなっていたと供述していることや,1月31日朝から2月1日夜の本件暴行直前まで,Hがふらふらしたり,めまいを訴えるなど,普段と変わった様子は全然なかったと供述していることなどからすれば,被告人が,Hから聞いたJの暴行や,目撃したHの身体の様子について,殊更に誇張するなどして虚偽を述べているものとは考え難く,一概にその供述を排斥することはできない。 (3)以上によれば,JのHに対する暴行の態様について,Jと被告人の供述には一見食い違いがあるかのようであるが,被告人の供述中,Jの暴行に関する部分は,Hからの伝聞にすぎず,H自身の受け取り方や,Hが被告人に対して果たしてJの暴行を正確に伝えたかは,いずれも不明であること,被告人が見たという引っかき傷のような痕は,Jの供述にむしろ符合していること,頭突きや殴られたとの表現自体,ある程度の幅のある表現であるから,頭突きの点については,HがJを後ろから羽交い締めにしたのに対し,Jがそこから逃れようと後ろに体重をかけて振りほどいたときや,JがHに対して柔道の組み手のような形でつかみ合っているときなど,JとHが接近してもめている間に,Jが意図しないままJの頭がHの額に当たったのを,Hが頭突きと表現しているものとも考えられ,Hの額が赤くなっていたというのも,同様に説明できること,また,殴られたという点については,Jが,Hを放そうとして右肘をHのあごか左ほおに突き押すようにして当て,Hがよろめいたため,Hが,Jに殴られたと表現しているものと考えられることからすると,Jの供述は,被告人の供述によって,その信用性が損なわれるものではない。 ,,,,そうするとJの供述によれば1月31日事務所を出ようとしたJはHに羽交い締めにされたので,それを振りほどき の供述は,被告人の供述によって,その信用性が損なわれるものではない。 ,,,,そうするとJの供述によれば1月31日事務所を出ようとしたJはHに羽交い締めにされたので,それを振りほどき,振り返って,Hと向かい合って柔道の組み手のような形でつかみ合ったとき,右肘をHのあごか左ほおに突き押すようにして当て,Hが2メートルほど後ろによろけたことが認められ,さらに加えて,被告人の供述も排斥し難いことから,JがHを振りほどいたとき,又は,もみ合いになった最中,Jが意図しないままJの頭がHの額に当たった可能性がある。 Jの暴行の古い血腫への影響鑑定書(83,Kの検察官調書(29)及び同人の証言によれば,Hを最初)に診療した臨床医のもとで撮影されたCT画像上,硬膜下の血腫が2重構造になっていることが確認できたことから,Hの硬膜下には,2月1日以前に血腫(以下「古い血腫」という)が存在した可能性があること,仮に古い血腫が存在し。 たとすれば,その生成時期は,当該解剖時である2月4日の5日から1週間前以内であることが認められる。 この点,Gの検察官調書(33,34,Jの警察官調書(56)及び被告人)の検察官調書(72)によれば,被告人は,1月27日に,正座するHの頭を手拳で,さらに,頭を木製の丸いすでそれぞれ殴り,1月30日に,Hの頭を金属製の十手で殴ったことが認められるから,Hは,古い血腫の生成時期にほぼ相当する期間内に,Jからだけではなく,被告人からも顔面や頭部に対して暴行を受けているのであり,被告人のこれらの暴行から古い血腫が生成した可能性が考えられるところであるが,Jの暴行により古い血腫が生成した可能性を全く否定することまではできない。 古い血腫の致死の結果への影響(1)本件死因鑑定書(83,Kの検察官調書(29) 可能性が考えられるところであるが,Jの暴行により古い血腫が生成した可能性を全く否定することまではできない。 古い血腫の致死の結果への影響(1)本件死因鑑定書(83,Kの検察官調書(29)及び同人の証言によれば,Hの本)件死因は,架橋静脈断裂による硬膜下血腫であり,これは,頭部に外力が働いて,頭部がとりわけ前後方向に急激に動いた際に,頭蓋骨に密接する硬膜は動き,慣性で脳は元あった位置にとどまろうとすると,硬膜と脳を橋渡ししている架橋静脈が引っ張られるため多く生じるものであること,また,本件死因となった出血をもたらした架橋静脈の断裂は,肉眼による観察で少なくとも3箇所認められ,それらは頭の前から後ろに一列に並んでいることから,一度の強い力の作用により同時に破綻したものと思われること,これらはそれなりに太い血管であって,3本も断裂すれば,急速に出血し,出血開始後30分から1時間足らずでも臨床症状を現すという早い経過をたどるであろうことが認められる。 (2)古い血腫が死因となる可能性Kの同調書及び証言によれば,仮に古い血腫があった場合でも,それが死因に関係する程度のものであるならば,頭痛,吐き気,嘔吐及び,これらに続いて,普通は気をつければ分かるようなことが,ぼうっとして忘れやすくなるといった精神症状等の臨床症状が現れていなければならないことが認められる。 この点,G及び被告人の供述によれば,2月1日,Hは朝から事務所の掃除や被告人の車の洗車などをこなしたが,その際も特に変わった様子は見受けられず,その後もGや被告人と普通に応対するなどしており,1月31日以降2月1日の本件暴行の最中,Hが急に痙攣して意識を失うまでの間,Hに頭痛,吐き気,嘔吐など身体の変調が生じている兆候は全くなかったことが認められ。 ,,,るさらに しており,1月31日以降2月1日の本件暴行の最中,Hが急に痙攣して意識を失うまでの間,Hに頭痛,吐き気,嘔吐など身体の変調が生じている兆候は全くなかったことが認められ。 ,,,るさらに2月1日の暴行のきっかけとなったHが風呂場から出てきた際石鹸をサンダルにつけたまま事務所を歩き回り,被告人が床を拭くよう言ったのに,その時もサンダルを覆いたままだったので,床がまた汚れてしまったということについても,被告人は公判廷で,Hはいつもぼうっとしたタイプで,Hの性格から,このようなことをしてもおかしくないと思ったし,Hは被告人,,(),が注意するのに対して謝っていたと思う旨供述し警察官調書 でも被告人がHに礼儀等を再三教えたが,人並み以下で,何度も失敗していた旨供述していることに照らすと,本件暴行直前のHの行動に,特に硬膜下血腫の症状の現れとみられるような異常なところはなかったことが認められる。 そうすると,Hには,古い血腫それ自体による臨床症状はなかったことが明らかであるから,古い血腫それ自体は,仮に存在したとしても,本件死因とはなり得ないものであったことが認められる。 (3)Jの暴行の致死の結果への影響Kの証言によれば,一般論として,架橋静脈が,完全に切れずに,少し裂けて,出血が一度止まったというときには,もう一度同じ性質の力が加われば,全く切れていないときよりは弱い外力で出血する可能性があるものと認められる。 よって,仮に古い血腫が存在し,それが,Jの暴行により,本件死因である硬膜下血腫を招いた架橋静脈断裂の断裂部分と同じ部分が断裂して生じたもので,その後一旦出血が止まったものと仮定した場合には,比較的弱い外力でも当該架橋静脈が切れる可能性があると考えられる。 しかし,まず,古い血腫自体,解剖時には確認され 分と同じ部分が断裂して生じたもので,その後一旦出血が止まったものと仮定した場合には,比較的弱い外力でも当該架橋静脈が切れる可能性があると考えられる。 しかし,まず,古い血腫自体,解剖時には確認されておらず,CT画像上,存在する可能性が考えられるにすぎない。また,同証言によれば,硬膜下血腫は架橋静脈の断裂によって生じるほかにも原因がある上,硬膜下腔は,頭全体につながった空間で,出血源は別のところでも,血液は同じところに溜まることが起こりうるもので,特にCT画像は一断面の情景であるから,CT画像で硬膜下に血腫が2層になって見えたとしても出血源は必ずしも同所とは言えないことが認められる。さらに,前記のとおり,Jの暴行以前に,古い血腫を生じさせうる被告人の暴行が存在する上,1月31日のJの暴行は,それがJと,,,Hがもみ合った末Hを突き放す目的でなされたにすぎないこと直後にHはJを追いかけてきて,お金はあるのかと気遣う発言をしていること,被告人が見たという額の赤い痕も,被告人が自認し,Gも供述するとおり,2月1日には一見して分からない状態であったこと,Jの暴行以後,本件暴行直前まで,Hには何ら変わった様子は見当たらなかったことなどからすると,前記のとおり,可能性として否定できないとはいえ,そもそもJの暴行が古い血腫を生じさせる程度のものといえるかにも大いに疑問がある。ましてや,Jの暴行が,同時に3本もの架橋静脈を断裂させるようなものとは到底考え難い。 そうすると,仮にJの暴行によって,何らかの原因で古い血腫が生成されたとしても,それが,本件死因である硬膜下血腫を招いた架橋静脈の断裂部分と同じ部分の断裂により生じた可能性は,仮定の上に仮定を重ねたものであるから,極めて低いといわなければならない。 (4)被告人の本件暴行の危険性Gの警察 である硬膜下血腫を招いた架橋静脈の断裂部分と同じ部分の断裂により生じた可能性は,仮定の上に仮定を重ねたものであるから,極めて低いといわなければならない。 (4)被告人の本件暴行の危険性Gの警察官調書(32)及び同人の検察官調書(33,34,並びに,被)告人の警察官調書(67,69,同人の検察官調書(71,72)及び同人)の公判供述等によれば,2月1日,被告人は,無抵抗で正座した状態のHに対して,その頭部や胸部を蹴っては,Hが後方に反り返るような格好で倒れ,起きてきたら蹴ることを繰り返し,額を床にすりつけるようにしているHの背部にかかとを振り下ろしたり,その後頭部を踏みつけ,頭を起こしたHの前額部付近を蹴りつけるなどの暴行を加えたところ,Hは突如,うめき声を上げ,仰,。 向けにひっくり返って痙攣し始め意識不明の状態に陥ったことが認められるそうすると,前記のとおり,架橋静脈断裂による硬膜下血腫が生じる機序に照らして,被告人のHに対する本件暴行は,それぞれが頭部を前後方向に急激に動かすものといえ,それ自体で,架橋静脈を断裂させ,硬膜下血腫を生じさせるに十分な危険性を備えたものであったことが明らかであり,また,(2)に認定の事実を併せて考慮すると,本件暴行に対応して,Hには急速に硬膜下血腫の臨床症状が発現したことが認められる。 結論 以上のとおり,弁護人の主張する,Jの暴行により,本件死因となった出血をもたらした架橋静脈の断裂部分と同じ部分が一旦裂けて出血が止まり,その部分が切れやすくなっていた可能性なるものは,極めて低いのみならず,万一,そのような事態が生じていたとしても,被告人の2月1日の本件暴行は,その強度,頻度,態様に鑑み,それ自体で,何ら損傷のない正常な架橋静脈をも断裂させるに十分な危険性を備えたものであったことが認め ,そのような事態が生じていたとしても,被告人の2月1日の本件暴行は,その強度,頻度,態様に鑑み,それ自体で,何ら損傷のない正常な架橋静脈をも断裂させるに十分な危険性を備えたものであったことが認められる。 そうすると,Hの致死の結果は,正に被告人の本件暴行がなければ生じなかったものであることはもとより,弁護人主張の,Jの暴行により架橋静脈が切れやすくなっていたという希有の事態の発生如何にかかわらず,本件暴行は,少なくとも3本の架橋静脈を断裂させて硬膜下血腫を生じさせたことにより,Hの本件死亡を招来させたことが明らかであるから,本件暴行とHの致死の結果には刑法上の因果関係が優に認められるとともに,Hの致死の結果は,Jの暴行と被告人の本件暴行とが競合して生じたものと評価することができない。 したがって,弁護人の主張は理由がない。 (累犯前科)被告人は(1)平成7年9月21日岡山地方裁判所で傷害罪により懲役10月 ,(年間執行猶予,平成9年6月10日その猶予取消し)に処せられ,平成11年10月1日その刑の執行を受け終わり,(2)平成8年12月10日岡山地方裁判所倉敷支部で傷害,恐喝の各罪により懲役1年8月に処せられ,平成10年12月1日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は前科調書(75)によって認める。 (法令の適用)被告人の判示第1,第2の各所為はいずれも刑法204条に,判示第3の所為は同法205条にそれぞれ該当するが,判示第1,第2の各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択し,前記の各前科があるので同法56条1項,57条によりそれぞれ再犯の加重(判示第3の罪の刑については同法14条の制限に従う)をし,。 以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3の罪の刑に同法14条の制 によりそれぞれ再犯の加重(判示第3の罪の刑については同法14条の制限に従う)をし,。 以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役7年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中230日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (自首の主張に対する判断) 弁護人及び検察官の主張弁護人は,判示第3の事実について,被告人には自首が成立する旨主張し,こ,,「,,れに対し検察官は被告人が警察署に出頭した以前にGが警察に判示第1第2の事実を申告し,2月2日には,両事実について被告人に対する逮捕状請求がなされ,逮捕状が発付されていたのであり,被告人は,自己に逮捕状が出ているのを知って警察に出頭したと見るのが自然である。そして,上記2件の傷害罪の取調べの過程において,被告人は,余罪である判示第3の事実にかかる傷害行為(後に傷害致傷行為)を自供するに至ったものであって,自発的に自己の犯罪を申告したものとは言えず『自首』には該当しない」として,その主張を争,。 っている。 本件から被告人の出頭までの過程捜査報告書(1,2)その他の関係証拠によれば,被告人が2月3日に警察署に出頭するまでの経緯として以下の事実が認められる。 (1)捜査機関は,2月2日,Gから事情聴取をし,被告人の判示第1,第2の事実にかかる暴行,傷害,及び,現在のHの状態についての申告を受け,警察官調書(8,17)を作成した。その際,Gは,捜査機関に対して,判示第3の事実については,同人の警察官調書(31)のとおり,2月1日Hは突然自分から倒れた,被告人はその場にいなかった旨供述し ,警察官調書(8,17)を作成した。その際,Gは,捜査機関に対して,判示第3の事実については,同人の警察官調書(31)のとおり,2月1日Hは突然自分から倒れた,被告人はその場にいなかった旨供述していた。 ,,,(),(2)また捜査機関は2月2日判示第1の事実にかかる診断書 及び判示第2の事実にかかる診断書(14)により,各事実の裏付けをするとともに,2月1日Hが運ばれたI医科大学付属I病院の医師から,Hの衣服を押収し(36ないし38,衣服についていた血痕とともに,医師から領置)したHの血液の鑑定嘱託をした(45,51。このとき,捜査機関は2月)1日のHの意識不明の原因を被疑者不詳の暴行としていた。 (3)さらに,捜査機関は,2月2日,判示第3の事実の現場である被告人やHらの所属する暴力団E会事務所を検証して(30,同事務所の血痕を鑑定)嘱託し(49,2月1日に現場に駆けつけた救急隊員のLから,被告人,)H及びGのほか1名が現場にいたとの供述を得た(55。なお,検証調書)(30)から,E会事務所のあるビルには,被告人が所属する暴力団C興業事務所があることが認められるので,氏名不詳の上記1名は,C興業組員と考えられる。 (4)以上の捜査の結果,捜査機関は,捜査報告書(1)のとおり,判示第1,第2の事実について逮捕状を請求し,2月2日,逮捕状が発付され,2月3日,被告人は,警察に出頭したところ,逮捕された。 ところで,自首とは,犯罪事実及びその犯人が捜査機関に発覚する前に,犯人が,捜査機関に対して自己の犯罪事実を申告し,その訴追を含む処分を求めることをいう。そして,捜査機関に発覚しているというためには,捜査機関が嫌疑を,,,抱く必要があり捜査機関が合理的な根拠に基づき犯罪事実の発生を知りかつ犯 実を申告し,その訴追を含む処分を求めることをいう。そして,捜査機関に発覚しているというためには,捜査機関が嫌疑を,,,抱く必要があり捜査機関が合理的な根拠に基づき犯罪事実の発生を知りかつ犯人を特定していることを要するのであって,捜査機関の見込み,憶測がたまたま真実と合致していたという程度では,捜査機関に犯罪事実及びその犯人が発覚していることにはならない。また,自発的申告の有無は,申告の際の客観的状況及び主観的事情を総合考慮して判断されるべきである。そこで,前記2の認定事実を前提に,判示第3の事実について自首の成否を検討する。 (1)捜査機関に発覚する前についてア犯罪事実の発覚捜査機関は,Gから,Hは2月1日自ら突然倒れたとの供述を得てはいたが,Hを診察した医師からHの衣服を押収していることから,その医師からHの身体に暴行の痕が多数見られるとの供述も得ていたと考えられ,事故ではなく他為による傷害事件として認知していたことが認められる。 イ犯人の発覚捜査機関は,上記のとおり,2月1日のHの意識不明の原因が何者かによる傷害事件であると認識していたこと,Gから,判示第1,第2の暴行のほかにも被告人が常習的にGやHに対して暴行を加えていたとの供述を得ていたことが認められる。これらの事実からすると,捜査機関が判示第3の事実についても,被告人を有力な容疑者の一人としていたことが窺われ,そのことは捜査報告書(1)の「Hについては,被疑者等の犯行と認められる暴行事犯により…」との表現上も看取することができる。 しかし,他方で,被告人を始め,被害者のH及び目撃者のGら事件関係者は暴力団員であり,本件現場のビルには暴力団の組事務所が暴力団E会のほかにも存在していたこと,救急隊員Lから,救急車が現場に駆けつけたときに,その暴力団員と考えられる のH及び目撃者のGら事件関係者は暴力団員であり,本件現場のビルには暴力団の組事務所が暴力団E会のほかにも存在していたこと,救急隊員Lから,救急車が現場に駆けつけたときに,その暴力団員と考えられる者がいたとの供述を得ていたこと,Gから,2月1日Hが意識不明に陥った当時,被告人は現場にいなかったとの供述を得ていたことに照らせば,捜査機関は,被告人以外に犯人が存在する可能性についても否定してはいなかったことが窺われるから,いまだ捜査機関が,被告人が犯人であると合理的な根拠に基づき特定していたとまでは認められない。 ウよって,被告人が警察署に出頭し,判示第3の事実について申告した時点においては,捜査機関に犯罪事実は発覚していたと認められるが,犯人が発覚していたとは認められないので,被告人は「捜査機関に発覚する前」に,申告したといえる。 (2)「自発的申告」について上記のとおり,捜査機関は,2月2日には,判示第3の事実について,被告人に十分な嫌疑を持っていたとまではいえず,判示第3の事実について逮捕状の請求をしていなかったこと,2月2日に,E会事務所の検証がされたこと,被告人の警察官調書(60,68)によれば,2月3日に,被告人は,弁護士と共に警察に出頭し,当初,逮捕状の出ていた判示第1,第2の事実については話せないとしながら,判示第3の事実については間違いない旨供述していたことが認められる。 また,同調書から,被告人は,Hが死ぬかもしれないこと,いずれ警察の捜,,査がE会事務所だけでなくC興業にまで及ぶかもしれないことを考えた結果警察に出頭したことが認められる。 以上を総合すれば,被告人は,出頭当初から判示第3の事実について隠すこ,,,,となく自己の関与を認めており他方捜査機関は判示第3の事実について被告人が犯人で 出頭したことが認められる。 以上を総合すれば,被告人は,出頭当初から判示第3の事実について隠すこ,,,,となく自己の関与を認めており他方捜査機関は判示第3の事実について被告人が犯人であると特定するまでの嫌疑を持ってはいなかったのであるから,捜査機関がE会事務所を検証したことで,被告人が,捜査機関は判示第3の事実を傷害事件ととらえている,と認識し,さらに,何らかの逮捕状が自己に出ていると知ったとしても,捜査機関の取調べや追及により被告人が判示第3の事実を認めたものとはいえない。 よって,被告人は「自発的に」自己の犯罪を申告したといえる。 , したがって,判示第3の事実について,被告人は捜査機関に発覚する前に自発,。 的に自己の犯罪を申告したと認められるから刑法42条1項の自首が成立する(量刑の理由)本件は,暴力団組長である被告人が,同組組員に対して,不始末に対する制裁として暴力を振るい傷害を負わせた事案2件(判示第1,第2の犯行)及び,第2の犯行と同じ被害者に対して同様の暴力を振るって死亡させた傷害致死の事案(判示第3の犯行)である。 被告人は,暴力団5代目A組B組C興業の若頭の地位にあったところ,前刑出所後の平成11年10月ころ,自らの組であったM興業をE会と改めてその会長となり,配下の組員に対し,暴力団特有のしきたりや掃除の仕方をしつけるいわゆる行儀見習いの名目で事務所に住み込ませ,何か不始末がある度に,日常的に暴力を振るっていたものであるが,判示第1の犯行は,組員のGが,被告人の自宅の掃除の際に手抜きしたこと,判示第2の犯行は,同じく組員のHが,組事務所の電話の応対を適切にしなかったこと,判示第3の犯行は,Hが,組事務所の床の掃除の際に汚れたサンダルを履いたままであったことなど,いずれも些細なことに立腹して,判 犯行は,同じく組員のHが,組事務所の電話の応対を適切にしなかったこと,判示第3の犯行は,Hが,組事務所の床の掃除の際に汚れたサンダルを履いたままであったことなど,いずれも些細なことに立腹して,判示のとおりの激しい暴行を加えたものであって,犯行はいずれも短絡的なものというほかなく,これらが被害者らを一人前の暴力団員として教育する上で必要な躾であるとの被告人の主張それ自体,絶対的な上下関係を特徴とする暴力団特有の身勝手な論理であって,一般の社会常識からは到底肯認することのできないものであり,動機において斟酌する余地はない。また,犯行態様をみても,組長である被告人に被害者らが逆らえないのをよいことに,判示第1の犯行では一升瓶で,判示第2の犯行では金槌で,いずれも頭部を殴打し,判示第3の犯行では,被害者の全身を多数回殴打,足蹴にする執拗で激しい暴行を加えた上,頭部を蹴飛ばすなど,危,。 ,険極まりなく第3の犯行でHが死亡したことも決して偶然とはいえないさらに被告人は,判示第3の犯行当初,暴力団事務所に警察の捜索が入ることをおそれ,Hの血痕のついたタオルや,自己が当時履いていたサンダルを知人に連絡して処分させて,自己の犯行の発覚を防ぐ行為に及んでおり,犯情は誠に悪質である。そして,被告人には,4個の粗暴犯の前科があり,前回実刑判決を受けて服役したにもかかわらず,出所後まもなくE会を結成し,本件各犯行に至っていること,病院で治療を要するような怪我を負わせることは別としても,素手で組員に対して暴行を加えることは日常茶飯事であったことを考えると,規範意識が欠けているのみならず,その暴力肯定の考え方や粗暴な性格には根強いものがあり,再犯のおそれも顕著であると言わざるを得ない。 本件の被害者らは,組長と組員という関係のため,被告人の一方的かつ理不尽な が欠けているのみならず,その暴力肯定の考え方や粗暴な性格には根強いものがあり,再犯のおそれも顕著であると言わざるを得ない。 本件の被害者らは,組長と組員という関係のため,被告人の一方的かつ理不尽な暴行に対し終始無抵抗であったもので,被害者らの受けた肉体的,精神的苦痛は甚だしく,特に,Hは,いつかは被告人を見返してやりたいとの一心で,被告人の激しい暴力を耐え忍んだ挙げ句に,21歳の若さでかけがえのない命を絶たれたもので,その無念さは計り知れないものがある。これに対して被告人は,Gに対しては何ら慰藉の措置を講じてはおらず,Hの遺族に対しても,供養料50万円を提供してはいるが,示談はなされておらず,遺族の処罰感情も依然,厳しいことが窺われる。 したがって,被告人の刑事責任には重いものがあるから,他方で,被告人は被害者らに対して暴力を振るうばかりではなく,時には一緒に食事をしたり,衣類を買うなど家族のように遇していた面もあること,判示第3の犯行後,救急車を呼び,その後被告人は自首していること,自己が組長をしている暴力団E会を解散し,所属する暴力団C興業から脱退し,その旨書面化していること,第1回公判期日で,「この度,H君に対して取り返しのつかないことをしてしまい,H君や親御さんに本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」と述べ,般若心経の写経に努めて被害。 者の冥福を祈るなど,深く自己の罪を反省していること,面倒をみるべき高齢の養父母がいること,情状証人として出廷した友人による,被告人の更生に向けた援助が期待できることなど,被告人に有利な事情を考慮しても,主文の刑に処することが相当であると判断した。 (求刑懲役8年)平成14年1月18日岡山地方裁判所第一刑事部裁判長裁判官西田眞基裁判官金子隆雄裁判官永野公規 ,主文の刑に処することが相当であると判断した。 (求刑懲役8年)平成14年1月18日岡山地方裁判所第一刑事部裁判長裁判官西田眞基裁判官金子隆雄裁判官永野公規
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