昭和56(う)1477 毒物及び劇物取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和56年11月30日 東京高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      被告人を懲役一〇月に処する。      原審における未決勾留日数中八〇日を右刑に算入する。      この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予す

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判決文本文3,872 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役一〇月に処する。 原審における未決勾留日数中八〇日を右刑に算入する。 この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。 原審における訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人若柳善朗作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官齋藤正吉作成名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。 一所論は、要するに、原判決は、被告人が原判示日時場所でAに劇物であるトルエン約一〇五ミリリツトル(ドリンクびん入り一本)を販売した旨を認定しているけれども、そのように認定するに足りる証拠がないから、原判決には判決に影響することが明らかな事実の誤認がある、というのである。 そこで、調査すると、原判決の挙示する関係各証拠を総合すれば、原判示罪となるべき事実は、優にこれを肯認することができる。すなわち、関係各証拠によれば、Aが昭和五六年二月二五日午後一〇時二〇分ころ、Bドリンクびん入りトルエンの乱用目的所持罪により現行犯逮捕された際、所持していた同びん入りトルエンを押収されたこと、同人がその翌日の取調以来、原審公判廷の証言のときを除き、右所持トルエンを逮捕当日の同月二五日被告人より二〇〇〇円で買い受けた旨を一貫して供述していることが認められる。同人の供述は、逮捕の翌日には、被告人からの買受け時刻を午後五時ころ、買受け時の容器をBドリンクびんであるとしていたのを、間もなく、右時刻を午後七時ごろ、右容器をCドリンクびんであると変えているけれども、いずれの変更も被告人の逮捕前に被告人の供述と関係なく自発的にされているうえ、時刻の点については具体的な根拠があること、容器の点についても、買受けの状況等を ドリンクびんであると変えているけれども、いずれの変更も被告人の逮捕前に被告人の供述と関係なく自発的にされているうえ、時刻の点については具体的な根拠があること、容器の点についても、買受けの状況等を詳細に取り調べられるのに伴つて、被告人から買つたときにはCドリンクびん入りであつたが、持ち難いので捨てられていたBドリンクびんに移し替え、これを所持していて逮捕された旨述べるに至つたものであり、供述の変更に相応の理由があることが認められるから、その供述の根幹部分の信用性を害うものとはいえない。 しかも、同人は、トルエンの乱用目的所持罪により罰金刑の言渡しを受けて釈放された後及び更に被告人逮捕の後にも捜査官の取調べを受け、被告人から買つた旨の供述を維持し、原審公判廷においても、売主が被告人でなく、何人か憶えていない旨を述べたほかは、買受けの状況及びその後逮捕されるまでの経過についてはそれまでと同旨の供述を述べているのであるから、これらを総合すれば、同人の各供述は、原判示認定に沿う限度において十分措信することができる。被告人は、A逮捕の約二週間後に逮捕され、当初原判示二月二五日の夜原判示場所であるD駅EF階コインロツカー室付近にいたこと、Aと面識のあることを認めつつ、前年末に検挙されて以来トルエン密売を全くしていないと述べ、間もなく、当日他の者に密売したが、Aに売つた記憶はないと変わり、更に逮捕の五日後には、仕入先や他の密売の状況を含めてAに対するトルエン密売を具体的かつ詳細に供述し、同時に否認したのは前歴のため懲役になるのをおそれてであり、反省して正直に言う気になつたと供述変更の理由にも言及しているところ、捜査段階ではその後も右供述を維持したこと、その供述内容がAの供述によく符合すること及び自供にいたる右経過に照らすと、被告人の捜査段階の供述 に言う気になつたと供述変更の理由にも言及しているところ、捜査段階ではその後も右供述を維持したこと、その供述内容がAの供述によく符合すること及び自供にいたる右経過に照らすと、被告人の捜査段階の供述も原判示認定に沿う限度で措信することができる。これに反し、被告人の原審公判廷の供述は、一面で当初の供述に戻り、前年末以来全く密売をしていないとして本件を否認したり、他面で昭和五六年になつてからも密売をしていたが、本件の記憶はないと述べたりしているのであつて、被告人の捜査段階の供述及びAの各供述に対比しこれを措信することができない。 所論は、Aから押収されたトルエンの量が、買い受けてから吸入され減少した後のもので、一一〇ミリリツトルあつた可能性があり、買受け時にはこれを上回つていたはずで、満杯の容積量の一一〇ミリリツトルであるCドリンクびんには入れ切れず、従つて、買受け時の容器は、当初より、容積量の大きいBドリンクびんであつたとみるべきであるから、Aの供述は措信できない、という。なるほど、Aから押収されたトルエンの量が約一〇五ミリリツトルと測定されたが、測定者である警視庁科学捜査研究所Gに対する電話聴取書によれば、右測定には約五ミリリツトルの誤差があり得るというのであるから、所論も一個の可能性として理解できない訳ではない。しかし、右の誤差の限界値が約五ミリリツトルであるとする根拠が明確でなく、それ自体厳密なものであるとは認め難いうえ、Aの供述によれば、その吸入した分量はわずかであつたというのであるから、Aが入手した当初のトルエンの量が一一〇ミリリツトルを超えていて、Cドリンクびんに入つていたことはあり得なかつたとまでは結論することはできない。それ故、右の点は、原判示認定の限度で措信できるAの各供述及び被告人の捜査段階の供述の信用性を左右するに足 を超えていて、Cドリンクびんに入つていたことはあり得なかつたとまでは結論することはできない。それ故、右の点は、原判示認定の限度で措信できるAの各供述及び被告人の捜査段階の供述の信用性を左右するに足るものとまでは認められない。所論は採用できない。 かようにして、原判決挙示の関係各証拠を総合して、原判示罪となるべき事実を認定した原判決には事実の誤認はなく、論旨は理由がない。 二ところで、職権をもつて調査すると、原判決には、次のとおり理由の不備があり、破棄を免れない。 <要旨>原判決は、被告人の原判示所為に毒物及び劇物取締法二四条一号、三条三項、毒物及び劇物指定令二条一項</要旨>七六号の二を適用しているが、同法三条三項は、同項但書の毒物劇物営業者間の場合を除き、毒物又は劇物の販売業の登録を受けた者でなければ、毒物又は劇物を販売し授与し又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、運搬し若しくは陳列してはならないと規定し、毒物又は劇物の販売業の登録制度の前提となつている禁止を明らかにしているのであるから、同条三項の禁止している行為は、登録を受けないでする業としての行為であると解すべきである。 従つて、同条三項本文は、右の登録を受けていない者が業として同項所定の販売、授与又はこれらの目的での貯蔵若しくは陳列をすることを禁止する規定であると解するのが相当である。このように解すれば、同法三条の違反を犯罪構成要件とする同法二四条一号とは別に、昭和四七年法律一〇三号の改正法により追加された同法二四条の二の一号又は二号が、三条の対象でもある毒物劇物のうち、同法三条の三若しくは四に規定される麻酔等の作用を有するもの、或は爆発性等のあるものについて、加重された要件のもとにこれらを販売し又は授与することを犯罪構成要件として規定し、しかも二四条より軽い法定刑を定めて 若しくは四に規定される麻酔等の作用を有するもの、或は爆発性等のあるものについて、加重された要件のもとにこれらを販売し又は授与することを犯罪構成要件として規定し、しかも二四条より軽い法定刑を定めていることを整合性をもつて理解することができる。すなわち、同法二四条の二の一号又は二号は、同法三条三項が業としてすることを必要としているのと異なり、何人たるを問わず、また反覆継続する等の意思の有無を問わず、同法三条の三若しくは四に規定する物を販売・授与した者を処罰する趣旨であると解される。この見地からすれば、同法二四条一号、三条三項を適用している原判決の罪となるべき事実の記載は、単に一回の販売行為を摘示するのみであつて、被告人のトルエンの販売が業としてなされたものであることを窺わせる摘示を欠くといわなければならないから、犯罪構成要件の一部の摘示を欠落するものであり、有罪判決として理由に不備があるといわざるを得ない。 よつて、刑訴法三九七条一項、三七八条四号により原判決を破棄したうえ、当審において変更された訴因に基づき、同法四〇〇条但書により被告事件について更に次のとおり判決する。 原判決の認定した罪となるべき事実(但し、「法定の除外事由がないのに」の次に「業として」を加える。)に原判決と同一の法令を適用し、処断した刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、刑法二一条により原審における未決勾留日数中八〇日を右刑に算入し、同法二五条一項によりこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予し、原審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官海老原震一裁判官杉山英巳裁判官浜井一夫) 主文 せることとして、主文のとおり判決する。 理由 (裁判長裁判官海老原震一裁判官杉山英巳裁判官浜井一夫)

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