平成16(ラ)72 免責決定に対する抗告

裁判年月日・裁判所
平成16年2月19日 東京高等裁判所 新潟地方裁判所 長岡支部 平成13(モ)1164
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判決文本文7,365 文字)

主文 原決定を取り消す。 本件免責を許可しない。 理由 第1 本件抗告の趣旨及び理由抗告人は,主文同旨の決定を求め,原決定には事実誤認があると主張した。 第2 当裁判所の判断 1 本件の事実経過(1) 本件破産申立ての経緯として,相手方が供述するところは,以下のようなものである(疎甲3)。 ア相手方は,株式会社Aに勤務し,営業次長をしていた。相手方は,平成6年ころ,有限会社Bの専務のCと知り合い,遊び仲間として付き合うようになった。そのうち,相手方は,CからBの代表者であるDの1400万円くらいの債務の保証を依頼され,Cから飲食代などを負担してもらっていたこともあって,それを断わることができず,その保証人となった。 イ Bは,コンピューター関係の業務をしていたが,その売上げが伸びなかったため,Cの提案で,同社に土木部を作ることになり,Eがその責任者となった。相手方は,その土木部開設の際,Eが300万円を借り入れるについて,保証人となった。しかし,その土木部の業務は,4,5か月で取引先の手形が不渡りになるなどして,失敗した。 ウ平成8年に入って,Bが行き詰まり,代表者のDは自己破産した。相手方は,上記アのほかにも,友人の名前を借りて,クレジット(空売り)を組むなどして,Dに資金を融通していた。Cは,これらの債務につき,Dやその両親から弁済させるといっていたが,結局,その返済は全くなされなかった。 エその後,Cは,有限会社Fを設立し,Bの業務を引き継いだほか,平成10年11月にフィリピンパブを開店した。相手方は,Cから,資金の工面を要求され,自分の名前で借金して,Cに渡したほか,Cが,上記パブの営業費用として,商工ローンから1 Bの業務を引き継いだほか,平成10年11月にフィリピンパブを開店した。相手方は,Cから,資金の工面を要求され,自分の名前で借金して,Cに渡したほか,Cが,上記パブの営業費用として,商工ローンから1700万円を借り入れるについて,その保証人となったり,平成11年以降,その兄や母,親戚などから,計2400万円を借りてCに渡した。 オ上記エのほか,相手方は,Cから,借金を返済できないからAの誰でもいいから,金を借りてこいなどと言われ,平成10年から平成12年12月まで,上記パブの経営や,Fの借金返済のため,Aの同僚や知人,友人のカードを借り,そのカードをCが使用して借金をしたことがある。また,平成12年ころからは,カードで借りるのは限界になったため,改築資金という名目で銀行から借りたり,Aの同僚や友人,知人から現金を借り,それをそっくりCに渡していた。 カ Cは,派手に遊んでいたと聞いている。相手方もCに誘われて,3回ほど一緒にフィリピン旅行をしており,その費用は,Cが出した。また,相手方は,平成10年2月から同年11月までFの寮の一室を借り,そこに知り合いのフィリピンの女性を住まわせていたことがある。その賃借の費用は,Cが負担した。 キ上記のような経緯で,相手方が負担した債務は,約1億1200万円に達している。これに対し,相手方の資産としては,自宅の土地建物しかなく,しかも多額の抵当権が付いており,実質的な価値はない。 (2) 相手方からの破産申立てにつき,原審は,その財産状態及び免責不許可事由の存否等について,各債権者から参考意見を聴取した。その回答結果は,以下のようなものであり,これらの債権者は,いずれも相手方の免責に反対する意見を述べている(かっこ内は,その意見を述べた債権者の数)。 (ア) 相手方は, ら参考意見を聴取した。その回答結果は,以下のようなものであり,これらの債権者は,いずれも相手方の免責に反対する意見を述べている(かっこ内は,その意見を述べた債権者の数)。 (ア) 相手方は,Aに勤務中,建設業(あるいは建設機械の部品販売店)を経営し,そのための運転資金として数千万円を運用していた。その運転資金の運用状態,使途等について,管財人を選任の上,調査を望む(15名)。 (イ) 相手方は,Aに勤務中,少なくとも20名近くの社員に対して,「会社の営業のために金が必要だ。会社の手形が決済された場合,必ず返済するから大丈夫だ。」等の虚偽の事実を申し向けて詐取した。その上で,20名近くの社員は,債務者に消費者金融業者に連行されて金を借りさせられ,返済されていない。その被害総額は3500万円以上になる(13名)。 (ウ) 相手方は,Aの営業次長の立場を利用して,仕事上の関係者・知人の名前を出して,偽りの話を述べ,すべて自分が責任を持つと言って,無理に銀行・サラ金から借入れをさせた。さらに,サラ金の借入れ枠を無断で広げ,限度額まで借入れをさせた。借用書も会社の退職間際まで書かず,借用書の金額も違って書き直しを頼んでも直さなかった。返済を迫れば,変人,卑怯者と言った(1名)。 (エ) 相手方は,Aの関連会社の社長,役員等の名義を使い,「会社の仕事をスムーズに行うため,とりあえずいくらか必要だ。」などと虚偽の事実を並べ,仕事中,従業員を車に乗せて消費者金融に連れていった。そして,金を借りないと帰れない状況に追い込み,半強制的に借りさせ,相手方に250万円を貸し付けさせた。その後,相手方は,返済を滞らせ,そのため従業員は,貯金等もなくなり,妻や子供の生活も圧迫されはじめている(1名)。 (オ) 相手方は,Aの名前を利用し, ,相手方に250万円を貸し付けさせた。その後,相手方は,返済を滞らせ,そのため従業員は,貯金等もなくなり,妻や子供の生活も圧迫されはじめている(1名)。 (オ) 相手方は,Aの名前を利用し,「仕事の受注のため,まとまった金が必要だ,受注が決まらなくても仕事がらみの金なので,安心しろ,必ず返済する。」などと言って,325万円の債務を従業員に負担させた。現在,従業員は,月々10万円の利子と元金返済に追われ,家族にとって大きな負担となっている(1名)。 (カ) Aに勤務していた相手方から,仕事を受けるために,どうしても今日中に金が要る,必ず返済するからと言われ,サラ金に連れて行かれ,2件からお金を借り,その場で,金とカードを渡した。最初は返済したので,信用し,2回目も同様に金とカードを渡したところ,嘘をつかれ,合計4件で約250万円を相手方に貸した(1名)。 (3) 本件免責の審尋手続において,Aの従業員であったGの陳述書が提出されている。その内容は以下のとおりである(なお,Gは,上記(2)の参考意見聴取では,同(ア)及び(イ)の意見を述べている。)。 ア自分は,高校卒業後,2年間専門学校に通い,平成10年4月にAに入社した。 平成12年6月7日,相手方から,「大きな仕事を取りたい,そのためには大きなお金がないとだめだ,50万円貸してくれ。」などと言われた。その際,相手方は,H振出の2枚の手形を見せ,19日に手形が振り込まれる,振り込まれたら返すなどと言っていた。当初,自分は,金を貸すことを拒否していたが,相手方は,自分をIの自動契約機の中に入れたため,やむなく,50万円を借りて相手方に交付した。 イ平成12年6月16日,相手方から電話があり,Iは金利が高いからほかのところに変えたいとして,Jに連れて行かれ,30万円 機の中に入れたため,やむなく,50万円を借りて相手方に交付した。 イ平成12年6月16日,相手方から電話があり,Iは金利が高いからほかのところに変えたいとして,Jに連れて行かれ,30万円を借りさせられた。このときは,相手方から,使途は車の修理代金というように言われ,そのとおり述べたら借りることができた。相手方は,その金に20万円を足してIに返すと言っていた。 ウ平成12年7月31日,自分が仕事をしている現場に相手方が来て,Kに連れて行かれ,20万円を借りさせられた。また,同年8月8日も,相手方から,「これが最後だから,また借りて来てくれ。」と言われ,Lから30万円を借りさせられた。この時は,会社を出るときに,周囲にばれないよう,ヘルメット,腰道具を持って来いと言われた。その後,しばらくして,相手方に残金を聞いたら,180万円と言われた。借入先を変えているのに,金額がそのままだったので,おかしいと思った。 エ平成12年10月中旬ころ,相手方のやっていたことが会社に発覚し,自分に言っていたことが全部嘘であることがわかった。相手方は,Aの従業員20数名から同じような手口で,サラ金から借りさせていた。結局,自分は,サラ金5社に203万3365円の負債を負わされ,自分では返済できず,父親に弁済してもらった。 (4) 相手方は,上記(3)のGの陳述内容を否定し,Gに依頼して金を借りたことはあるものの,Gの述べるように,大きな仕事をとりたいなどと言ったことはなく,手形を見せたこともないこと,Iの自動契約機にもGは自分で入り,快く,金とカードを貸してくれたものであること,Jからの借入れの際も,それでIに返しておくなどと言ったこともないこと,などを述べている(疎甲36)。 しかし,入社まもない若年のGが,いくら上司であった相手 とカードを貸してくれたものであること,Jからの借入れの際も,それでIに返しておくなどと言ったこともないこと,などを述べている(疎甲36)。 しかし,入社まもない若年のGが,いくら上司であった相手方に言われたからといえ,特別の事情もないのに,快くサラ金からの借入れに応じたとは考えにくい。それが数社からの借入れを繰り返すようになったのは,相手方から,会社の仕事のためにどうしても必要だなどと言われたことによるものと認めるのが相当である。ほかにも,同じような話を信用して,サラ金からの借入れをした者がいることは上記(2)(イ)ないし(カ)の各債権者の回答のとおりであり,この点からしても,上記Gの供述は基本的にこれを信用することができる。これに対し,上記相手方の供述は採用し難い。 2 免責不許可事由の存否(1) 上記1からすれば,相手方は,飲食代金を負担してもらうなど,Cとの個人的な関係から,Bの代表者のDや,その土木部の責任者となったEの借入れについて保証人となり,いずれも事業の失敗により,その返済責任を負うような事態になったにもかかわらず,その後も,Cに言われるまま,Fや,Cの経営するフィリピンバブのため,みずから資金の調達を続けたり,その債務の保証人となるなどしていたものである。 しかし,Cは,Bの経営にも失敗し,相当の負債を抱えていたと思われるし,相手方の陳述書(疎甲3)によっても,Fや上記パブの営業が順調にいっていたとは思われない。その一方,Cは,派手な遊びをしており,それは相手方も認識していたというのであるから,相手方が,上記のような資金投下をしても,それが確実に回収できる見通しはほとんどなかったと考えられる。それにもかかわらず,相手方がAの従業員らに虚言を弄して借金を重ねてまで,Cにこのような資金援助という形の支出を続けたのは, 投下をしても,それが確実に回収できる見通しはほとんどなかったと考えられる。それにもかかわらず,相手方がAの従業員らに虚言を弄して借金を重ねてまで,Cにこのような資金援助という形の支出を続けたのは,すでに相手方がCの関係で,多額の保証債務を負担しており,Cが支払ができなくなれば,直ちに相手方にその責任が及ぶという関係にあったことのほか,上記のような,相手方とCとの個人的な関係や,相手方自身の遊興の目的等もあったからと推認される。 そして,相手方は,当時,Aの営業次長という立場にあったものであり,また,自宅の土地建物も有していたと認められるけれども,上記のような相手方が負担しただけの1億円以上の債務を返済できるだけの収入や財産を有していたとは到底認められない。 (2) このように,相手方は,Cに対する資金援助という形で,その回収の見通しがほとんどなかったにもかかわらず,その地位,職業,収入及び財産状態に比して通常の程度を越えた支出をしたものである。 これは,前後の思慮なく財産を蕩尽したものであり,破産法375条1号の「浪費」に該当する。そして,相手方が,それによって,過大な債務を負担したことは上記(1)のとおりである。なお,上記法条の「浪費」に当たるためには,必ずしもそれが消費的支出であることを必要とするものではないが,本件では,Cへの資金援助を通じて,相手方も,フィリピン旅行やフィリピン女性に便宜を図るなどの遊興的な利益を得ていたことなどからすれば,本件の支出の中には,相手方の消費的支出に当たる部分もあるものと認められる。 そうすると,本件では,破産法375条1号の「浪費ヲ為シ因テ過大ノ債務ヲ負担スルコト」に該当する事実があり,同法366条の9第1号の免責不許可事由が存在するものといわなければならない。 そして,上記のような相手方が負 ,破産法375条1号の「浪費ヲ為シ因テ過大ノ債務ヲ負担スルコト」に該当する事実があり,同法366条の9第1号の免責不許可事由が存在するものといわなければならない。 そして,上記のような相手方が負担するに至った債務額が1億円を超えるものであること,その浪費の事情も,単に,Cのために便宜を図ったというだけにとどまらず,同人との交際を通じて,自己が遊興する等の目的もあったと認められること,その浪費の金員を捻出するために,自己の勤務する会社の多数の従業員に詐言を弄してサラ金等から多額の借入れをさせていることなどからすれば,上記免責不許可事由は決して軽微なものとはいえない。 (3) また,免責制度は,誠実な破産者を更生させる目的のもとに,その障害となる債権者からの責任追及を遮断するために破産者からの責任を免除するものであって,誠実な破産者に対する特典として免責を与えるものである(最高裁昭和36年12月13日大法廷決定,民集15巻11号2803頁参照)。 このような免責制度の趣旨からすれば,免責申立ての許否は,破産者の経済的更生の可能性,更生意欲の存否・程度等を考慮して決することを要し,破産者の破産に至る経緯は,その判断のための重要な資料である。 そうすると,破産者は,免責申立て手続及びその前提として行われる破産手続において,裁判所に対し,誠実に真実を陳述すべき義務を負っているものというべきである。これに反して,破産者が破産に至るまでの経緯について,故意に虚偽の陳述をし,その内容が悪質なものである場合には,破産者が破産法366条の4所定の審尋期日において,その財産状態について虚偽の陳述をした場合と同様に,裁判所に対する背任行為として,免責の特典を与えるのは相当ではない。この場合には,裁判所は,同法366条の9第3号後段を類推適用し,免責不許可 て,その財産状態について虚偽の陳述をした場合と同様に,裁判所に対する背任行為として,免責の特典を与えるのは相当ではない。この場合には,裁判所は,同法366条の9第3号後段を類推適用し,免責不許可の決定をすることができると解すべきである。 (4) 本件について,これをみるに,相手方は,Aの多数の従業員らに,返済の意思も能力もなかったと思われるのに,虚言を弄して借金を重ね,それらの返済の責任を負わせたことは,上記1認定のとおりである。 しかし,相手方は,その破産手続において提出した上申書(疎甲3)では,従業員らからの借入れの事実は述べているものの,そのような欺罔的な手段で多数の従業員に借り入れをさせた事実には全く触れていない。のみならず,その免責の審尋期日においては,上記1(3)のGの陳述等をすべて否定し,全くそのような欺罔的な手段を用いたことがない旨述べているが,上記1(4)記載のように,これらは明らかに事実に反する陳述である。 このように,破産に至るまでの経緯において,自己の勤務する会社の若年者を含む多数の従業員らに虚言を弄し,刑事罰にも触れるような欺罔的な手段でサラ金等から借入れをさせ,その金員の交付を受けたということは,免責の許否を判断する上で重要な事実である。その事実を秘匿,否認することは極めて悪質な行為といわざるを得ない。 そうすると,このような裁判所に対する背任行為があった破産者に対し,誠実な破産者に対する特典として与えられる免責を付与するのは相当ではない。 したがって,本件では,破産法366条の9第3号後段の免責不許可事由が存在するというべきである。 そして,上記のところからすれば,この免責不許可事由が決して軽微なものとはいえない。 (5) 以上のように,本件では,破産法366条の9第1号,375条1号の免責不許可事由 るというべきである。 そして,上記のところからすれば,この免責不許可事由が決して軽微なものとはいえない。 (5) 以上のように,本件では,破産法366条の9第1号,375条1号の免責不許可事由(浪費)及び同法366条の9第3号後段の免責不許可事由(説明義務違反)が存在する。 そして,上記のような相手方の欺罔的な行為により,サラ金等からの借金を負担した従業員らは,いずれもその返済を余儀なくされ,その中には生活に困窮している者もいるのであって,これらの債権者は,いずれも相手方の免責に反対する意見を述べている。 そうすると,本件が裁量によって免責を認めるべき事案ともいえないことは明らかである。 3 結論以上によれば,相手方の本件免責の申立ては,理由がないというべきである。したがって,本件免責の申立てを認容した原決定を取り消し,上記申立てを許可しないこととして,主文のとおり決定する。 平成16年2月9日東京高等裁判所第19民事部裁判長裁判官淺生重機裁判官及川憲夫裁判官竹田光広

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