平成18(ワ)14387 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成19年5月31日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文28,162 文字)

平成19年5月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成18年(ワ)第14387号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成19年3月20日判決主文 被告らは,原告に対し,各自98万円及びこれに対する平成17年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを4分し,その1を被告らの負担とし,その余は原告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告らは,原告に対し,各自440万円及びこれに対する平成17年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,眼科医である原告が,生命保険に加入する際の検査として,被告第一生命保険相互会社(以下「被告会社」という。)の社医である被告A(以下「被告A」という。)から採血を受けたところ,採血方法及び止血処理を誤った過失により,左腕の採血部位の動脈を損傷し,あるいは静脈を必要以上に損傷し,血腫を生じたと主張して,被告Aには不法行為に基づき,被告会社には使用者責任に基づき損害賠償を請求する事案である。 争いのない事実(1)当事者原告は,昭和○○年○月○○日生まれの男性であり,昭和○○年Z大学医 学部医学科を卒業して,Z大学医学部眼科に入局し,昭和63年にB眼科医院(以下「原告医院」という。)を開設し,平成2年から医療法人社団C(以下「C」という。)の理事長をし,平成10年からCの開設するB眼科の管理医を務める眼科医師である。 被告Aは,本件当時,被告会社の社医として勤務していた。 (2)保険契約Cは,被告会社に対し,平成17年11月20日(以下特に断らない限り平成17年を指す。),保険金2億円の生命保 科医師である。 被告Aは,本件当時,被告会社の社医として勤務していた。 (2)保険契約Cは,被告会社に対し,平成17年11月20日(以下特に断らない限り平成17年を指す。),保険金2億円の生命保険の加入申込をし,同月24日保険料543万1600円を支払った。 (3)採血の経緯被告Aは,11月27日(日曜日)午後5時ころ,原告医院において,生命保険加入の可否判断の資料を得るため,採血を行った。 その際,被告Aは,原告に対し,左腕を採血台と直角に置くように指示し,駆血帯を巻き,アルコール消毒後,左前腕の屈曲した部分の静脈(原告は尺側皮静脈,被告は正中皮静脈と尺側皮静脈の交通静脈と主張)から採血を行った(以下「本件採血」という。)。 採血後,被告Aは,採血部位にアルコール綿を宛て,原告に押さえるよう指示し,原告が押さえた。 その後,原告の採血部位の中枢側が腫れて皮下出血が見られた(以下「本件皮下出血」という。)。そこで,原告は,近所のD病院(以下「D病院」という。)を受診し,圧迫包帯を施された。 (4)本件採血後の経緯11月28日夜,被告Aと上司であるE(以下「E」という。)が原告医院を訪問し,原告に対し,本件採血について謝罪した。 同日も原告はD病院を受診した。 また,原告は,同月30日F皮ふ科,12月1日G整形外科医院,同月2 日D病院,同月8日東京都老人医療センター(整形外科),同月9日,12日,16日,26日,平成18年1月6日,同年4月7日D病院をそれぞれ受診し,同日,D病院で治癒していると診断された。 争点及び争点に対する当事者の主張(1)本件皮下出血の原因本件皮下出血は,被告Aが本件採血により動脈を損傷したか,静脈を必要以上に損傷したことによるものか,それとも原告が被告Aの指示に反し採血部位を的確に圧迫しなかった の主張(1)本件皮下出血の原因本件皮下出血は,被告Aが本件採血により動脈を損傷したか,静脈を必要以上に損傷したことによるものか,それとも原告が被告Aの指示に反し採血部位を的確に圧迫しなかったことによるものか。 (原告の主張)本件皮下出血は,次のような理由からして,被告Aが本件採血により動脈を損傷したか,静脈を必要以上に損傷したことによるものである。 ア被告Aは,採血台を腕と直角に置き,肘関節を過伸展させ,肘動脈が浮き出る状態にし,肘動脈の上を走る尺側皮静脈に穿刺45度で深く針を刺し,かつ,途中で血液が止まったので針を動かしたものであり,その際,静脈を貫通し,下の動脈を傷つけたと考えられる。 イ本件採血直後に圧迫止血をしたのに,穿刺部位と離れた中枢側と末梢側に血腫が急速に広がった。動脈は血液が中枢から末梢に向かって流れるのであるから,採血部位の中枢側に多量の血腫が生じたのは,動脈を損傷したことを示すものである。 ウ11月28日原告医院を訪問したEは,原告の皮下血腫を確認し,動脈損傷を認め,謝罪した。 エ原告は,本件採血当日に受診したD病院で肘動脈損傷と診断され,圧迫包帯をされた。同病院の平成18年5月22日付け診断書には病名「左肘動脈穿刺の疑い」とし,その根拠として「広範囲にわたる出血斑を認めた」「通常静脈穿刺後の出血斑は約10日で消退するが,約1か月間にわたり出血斑が存在した事は動脈穿刺の可能性が強く考えられる」と記載さ れている(甲A3の1,乙A2)。 オ11月29日原告を診察したF皮ふ科(H)は,縦18cm,横8cmの紫斑を認め,治癒には相当の期間が必要であり,原因は動脈損傷だろうと指摘した。同病院の平成18年6月20日付け診断書には病名「外傷性血腫」と診断され,その根拠として「紫斑の範囲が尋常ならざることより, を認め,治癒には相当の期間が必要であり,原因は動脈損傷だろうと指摘した。同病院の平成18年6月20日付け診断書には病名「外傷性血腫」と診断され,その根拠として「紫斑の範囲が尋常ならざることより,動脈損傷を伴っている疑いがもたれる」と記載されている(甲A3の3,乙A3)。 カ原告を診察した東京都老人医療センター整形外科I医師の診断書には,病名「左上腕動脈損傷及び左肘から前腕部血腫の疑い」と記載され,その根拠として,「左肘屈曲クリーゼより1cm遠位に直径7mmの腫瘤を左上腕動脈のそばに触れた」と記載されている(乙A5)。 キ原告を診察したG整形外科医院は,12月1日「ティネル徴候+」,同月6日「3cmティネル徴候+」,同月28日「5cmティネル徴候+」と診断し(乙A4),平成18年5月20日付け診断書で病名「左内側前腕皮神経損傷」としている(甲A3の2)。 ク被告らは,原告が採血部位を圧迫することなく,アルコール綿を穿刺部位に付けたり離したりしたと主張するが,原告は,Z大学医学部を卒業後5年間大学に在籍して臨床医療に携わり,開業してから約18年にわたり診療,手術に従事し,自ら経営する医院で看護師が行う800件以上の採血を,管理医として指導・監督する立場にある経験豊富な医師であり,そのようなことをする必要性も理由もない。 (被告らの主張)本件皮下出血は,原告が被告Aの指示に反し採血部位を圧迫しなかったことによるものであり,被告Aが本件採血により動脈を損傷したり,必要以上に静脈を損傷したことはない。 ア被告Aが,採血台を腕と直角に置いたこと,正中皮静脈と尺側皮静脈の 交通静脈に針を刺したことは認めるが,穿刺45度であること,深く刺したことは否認する。 イ原告が的確な圧迫止血をしたことは否認する。通常の採血行為によって青あざが生じ 正中皮静脈と尺側皮静脈の 交通静脈に針を刺したことは認めるが,穿刺45度であること,深く刺したことは否認する。 イ原告が的確な圧迫止血をしたことは否認する。通常の採血行為によって青あざが生じる可能性が高いのは圧迫不足が理由であることが多いし,原告の症状は,静脈採血の際の圧迫不足によって生じる青地の発生及び消失の典型的な推移をたどっている。 ウEが謝罪したことは認めるが,動脈損傷の事実も,必要以上に静脈を損傷した事実も認めたことはない。Eは皮下の出血斑を認めたので,それについて詫びたに過ぎない。この皮下出血は,採血後にまれに生じる漏血程度の軽度なものであり,腕が少し腫れた皮下の出血斑というべきものである。原告は,11月28日時点で既に包帯や絆創膏のない状態で診療を行っていたし(診察66件,うち術後診34件。精密眼底検査66件,精密細隙灯検査66件),自動車の運転も通常に行っていた。原告は,11月29日には,「手洗い」すなわち,手術の術者又はその助手をするために上腕部から先の部分を小さなたわしのようなものに洗剤をつけてごしごしと入念にブラッシングするということもしていた(診察34件。精密眼底検査34件,精密細隙灯検査34件)。 エD病院の診断書に「約1か月間にわたり出血斑が存在した事は動脈穿刺の可能性が強く考えられる。」との記載はあるが,D病院の診療録(乙A2)では,当初動脈穿刺への言及はほとんどなかった。原告と被告会社との交渉が開始されるに至って動脈穿刺があったかのように表現が変わってきているのであり,前記診断書の記載内容には,原告の意思が強く反映している。 オF皮ふ科の診断書に「動脈損傷を伴っている疑いがもたれる」との記載はあるが,その根拠として重要であったと考えられる「通常の圧迫で容易に抑止できなかった」との問診の結果 意思が強く反映している。 オF皮ふ科の診断書に「動脈損傷を伴っている疑いがもたれる」との記載はあるが,その根拠として重要であったと考えられる「通常の圧迫で容易に抑止できなかった」との問診の結果は事実ではない。また,「artevy損 傷の可能性」との記載にわざわざアンダーラインが引いてあることからすれば,原告の強い要望により動脈損傷の疑いと記載されたものと思われる。 カ東京老人医療センターが診断書に病名「左上腕動脈損傷及び左肘から前腕部血腫の疑い」と記載しているが,原告の主張を聞き,動脈損傷の疑いがあると記載したにすぎず,それ以上に動脈損傷があったと積極的に認定しているわけではない。また,仮性動脈瘤があるからといって動脈損傷があるということにはならない。 キG整形外科医院の診療録(乙A4)に「ティネル徴候」との記載があるが,ティネル徴候とは,「神経損傷時の修復に関しては軸索神経繊維が髄鞘に先行して再生される。未だに髄鞘に被覆されていないむき出しの軸索先端部は機械的刺激に対して過敏となっている。末梢神経の走行に沿って末梢から中枢に向かって指尖で叩くと,末梢に放散するような極めて激しい疼痛を感じる。この位置が経過とともに末梢に移行していく現象」をいうものである(甲B17)。そして,原告は,本件採血時に痛みを訴えたことはなく(東京老人医療センターの診療録12月8日部分でも「穿刺時手指への放散痛はなかった」と言った。乙A5),その後のD病院,F皮ふ科,東京老人医療センターのいずれの診療録にも「痛み」「痺れ」等の記載はあるが,「疼痛」は認められない。 ケ動脈血はピンク色に近い鮮紅色をしているのに対し,静脈血は紫色に近い暗赤色をしているが,被告Aによって採血された血液は暗赤色であった。 コ注射針が動脈を穿刺すると,注射針に拍動が感じられ ない。 ケ動脈血はピンク色に近い鮮紅色をしているのに対し,静脈血は紫色に近い暗赤色をしているが,被告Aによって採血された血液は暗赤色であった。 コ注射針が動脈を穿刺すると,注射針に拍動が感じられ,動脈であることが直ちに分かるが,被告Aはそのような拍動を感じていない。 (2)本件採血の方法に過失があるか。 (原告の主張)被告Aは,本件採血に際し,採血方法として,次のような注意義務があるのに,これに反した過失がある。 ア採血台の使用方法の誤り採血台は,腕を固定するために中央部分が凹んだ溝型をしており,その凹んだ部分に沿って腕を置くべきであるのに,被告Aは,原告の左腕を採血台と直角に置くように指示した。このため,肘が過伸展の状態となり,肘動脈がより浮き出た。 イ採血場所の誤り原告は痩せており,安全に採血ができる肘正中皮静脈がよく出ていたので,そこから採血すべきであったのに,被告Aは,肘動脈損傷や神経損傷の危険が高い尺側皮静脈に針を刺した。 ウ採血針の角度の誤り原告は痩せているので側皮静脈のすぐ下を肘動脈が走っており,この肘動脈を傷付けないようにすべきであるのに,被告Aは,45度に近い急角度で針を刺した。 エ不注意な針の動かし被告Aは,血液の出方が悪くなった際,肘動脈の位置を確認しないで,更に深く針を動かした。 (被告らの主張)否認する。本件採血後,原告の左腕に皮下出血が出たのは,原告が本件採血後,採血部位を的確に圧迫することなく,アルコール綿を穿刺部位につけたりはなしたりしていたことによるものである。 ア採血台の使用方法の誤りについて被告Aが原告の左腕を採血台と直角におくよう指示し,その状態で採血を行ったことは認めるが,採血台を腕と直角に置く方が肘が曲がらないで採血しやすい場合もあり,採血方法として認められた方法の一 について被告Aが原告の左腕を採血台と直角におくよう指示し,その状態で採血を行ったことは認めるが,採血台を腕と直角に置く方が肘が曲がらないで採血しやすい場合もあり,採血方法として認められた方法の一つであり,必ず腕に並行に置くべき注意義務はない。 イ採血場所の誤りについて 被告Aが原告の正中皮静脈と尺側皮静脈の交通静脈から採血を行ったことは認めるが,被告Aは,原告の左腕の正中や外側の静脈が細いため,最もよく出ている尺側皮静脈(内側静脈)を穿刺したものである。採血の際に尺側皮静脈を穿刺することは通常行われているものであって,それを避けるべき注意義務はない。 ウ採血針の角度の誤りについて被告Aは,約20度の角度で,22ゲージの細い針(外径0.7mm)を刺し,5cc程度の血液を採取したのであり,45度の角度で針を刺したことはない。 エ不注意な針の動かしについて被告Aは,針を深く動かしたこともない。被告Aは,放射線科を専門とする医師であり,本件採血で使用された注射針の約3倍ものゲージの太い針(外径22mm)での血管穿刺も多数経験しており,血管穿刺という手技には熟達している。 (3)本件採血後の被告Aの処置に過失があるか。 (原告の主張)被告Aは,本件採血後,適切な止血処理を行うべき注意義務があったのに,これを怠たり,損害を拡大させた過失がある。 ア止血の不実施採血は医療行為であり,採血後圧迫して止血をし,止血を確認して初めて終了するものであるから,採血実施者が,採血後に止血をする法的義務を負うところ,本件採血後,被告Aは,原告に圧迫止血を指示するだけで,自らは圧迫止血をすることはなく,また,止血綿の上からサージカルテ-プ,止血バンドで圧迫固定をするなどの止血処置を一切しなかった。 イ止血確認の不実施被告Aは,採血後,十分経過 を指示するだけで,自らは圧迫止血をすることはなく,また,止血綿の上からサージカルテ-プ,止血バンドで圧迫固定をするなどの止血処置を一切しなかった。 イ止血確認の不実施被告Aは,採血後,十分経過を観察すべきであったのに,原告に採血部 位を押さえさせたまま,原告の腕を観察せず,止血を確認しないで,器具をカバンに入れて帰ろうとした。 ウ血腫防止措置の不実施原告が圧迫止血をしているにもかかわらず(原告は,血管損傷の危険を感じて採決部位を強めにかつ15分にわたり,圧迫した。),被告Aは,皮下血腫が広がっているのを知りながら,圧迫包帯をしたり,止血剤を投与する等の適切な処置を怠った。 (被告らの主張)本件採血後,原告の左腕に皮下出血が出たのは,原告が本件採血後,採血部位を圧迫することなく,アルコール綿を穿刺部位につけたり離したり,肘関節の伸展屈曲を繰り返していたことによるものである。 ア止血の不実施について採血後は,医師がアルコール綿を穿刺部分にあて,被採血者に対し押さえるように指示するのが通常であり,医師が直接圧迫することはしない。 医師の義務としては的確な圧迫止血を指示するだけで足りる。 イ止血確認の不実施について被告Aが採血針を片づけていた間,原告は採血部位を圧迫することなく,アルコール綿を穿刺部位につけたり離したり,両腕の肘関節を曲げたり伸ばしたりして,左腕と右腕を比べながら「腫れてきたな」と話していた。 被告Aは,中枢部の腫れに気付き,採血部位に当てられていた原告の指の上からしばらく圧迫し,その後,原告に続けて圧迫するように指示した。 ウ血腫防止措置の不実施について被告Aは,採血部位に当てられていた原告の指の上からしばらく圧迫し,その後,原告に対し,続けて圧迫するように指示しており,適切に対応している。特に,本件の場合,原 ウ血腫防止措置の不実施について被告Aは,採血部位に当てられていた原告の指の上からしばらく圧迫し,その後,原告に対し,続けて圧迫するように指示しており,適切に対応している。特に,本件の場合,原告は医師であるため,被告Aの圧迫止血に当たっての注意義務の程度は相対的に低くなる。 (4)損害額(原告の主張)原告は,被告Aの過失により,次の合計440万円の損害を被った。 ア休業損害200万円原告は,本件採血から,2週間左腕に多量の血腫が残り,5日間手術ができず,眼底検査,細隙灯顕微鏡検査が約2週間困難な状態が続き,血腫の完治に1か月,仮性動脈瘤の完治に3か月を要した。 そのため,原告は,予約していたレーザー手術を中止し(11月28日3件,同月30日1件,同年12月2日1件。これによりCに約56万円の損害が生じた。),予約していた白内障の手術の執刀ができず(11月29日及び同年12月1日),本件採血後1週間,通常診察する人数の外来診療ができなかった。 原告は,Cから月額給与○○○○万円を支給されていたが,上記事情から,平成17年12月分及び平成18年1月分の月額給与を各○○○万円減額支給されたので,○○○万円の損害を受けた。 イ慰謝料200万円原告は,被告Aの過失により,ア記載のような被害を受けたのであり,被告Aは11月30日以降原告の診察に来ることもなく,電話で様子をうかがうことなどせず医療事故を放置したこと,原告は毎年労働安全衛生法に定める健康診断で採血を受けたが本件のような単純で一見明白な基本原則を無視した事故を経験したことはなかったこと,被告Aは,自らのミスを認めずに原告の責任があるかのような虚偽の事実を主張していること,前腕皮神経を損傷したことなど慰謝料を増額する事情も見られる。 よって,このような原告の精神的苦 はなかったこと,被告Aは,自らのミスを認めずに原告の責任があるかのような虚偽の事実を主張していること,前腕皮神経を損傷したことなど慰謝料を増額する事情も見られる。 よって,このような原告の精神的苦痛を慰謝するためには200万円が相当である。 ウ弁護士費用40万円 被告らが,原告の損害賠償の請求に対し,「慰謝料として10万円」「11月29日,12月1日及び5日の代診代」として証拠を提出すれば90万円を限度として支払うことを表明したのみでその後進展しないため,原告は,原告訴訟代理人に本件訴訟の提起及び追行を依頼したのであり,弁護士費用40万円の支払を約束した。 エよって,原告は,被告Aに対しては民法709条の不法行為に基づき,被告会社に対しては民法715条の使用者責任に基づき各自損害賠償金440万円及びこれに対する不法行為の日である平成17年11月27日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告らの主張)否認する。 ア休業損害は否認する。 原告の収入は給与所得という名目ではあるが,原告は支払者であるCの理事長であり,Cは原告の個人病院が法人成りしたものに過ぎず,個人事業者と同様に考えるべきである。 個人事業者の場合,得られたはずの売上額から原価と経費を差し引いたものが休業損害となるところ,原告は,本件採血の翌日(11月28日)には診察66件,同月29日には診察34件を行っており,本件事故により遅延した診療はいずれも数日中に遅れを取り戻していて,Cの売上は何ら落ちていないから休業損害はない。 イ被告会社は,原告と誠意をもって交渉を行った。 (5)過失相殺(被告らの主張)原告は,医療の専門家である医師であり,Z大学という優秀な大学を卒業した人物であるから,被告Aの動作に対し注意を与えることも 社は,原告と誠意をもって交渉を行った。 (5)過失相殺(被告らの主張)原告は,医療の専門家である医師であり,Z大学という優秀な大学を卒業した人物であるから,被告Aの動作に対し注意を与えることもできたし,動脈からの出血であっても圧迫止血をすれば容易に止血できたのであって,大 幅な過失相殺が認められるべきである。 (原告の主張)否認する。原告は被告Aに指示,指揮,命令する立場にない。 第3当裁判所の判断 争点(1)(本件皮下出血の原因)について(1)証拠(各掲記の他,乙A8,証人E,原告,被告A)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認めることができる。 ア保険契約Cは,被告会社に対し,11月20日,被保険者を原告とする生命保険の加入申込をし,同月24日,保険料543万1600円を支払った。 被告会社は,原告に対し,生命保険の加入条件として,被告会社の社医による診察,採尿,心電図,採血を要求し,これに対し,原告が直前に行った労働安全衛生法上に定める健康診断の採血データを使用するよう求めたにもかかわらず,拒否したため,原告は,やむなく,被告会社の社医による採血を受けることとした(甲A15)。 イ11月27日(ア)被告Aは,同日(日曜日)午後5時頃,保険代理店のJ(以下「J」という。)とともに原告医院を訪問した。 Jは待合室で待ち,被告Aが処置室で検査等を行うことになった。被告Aは,原告に告知書(乙C2)を手渡し,原告がこれに記載した。次に,被告Aは,血液検査の承諾書(乙C3の1)及び心電図の台紙(乙C4の1と2)を手渡し,原告がこれに署名をした。続いて,被告Aは,問診を行い,血圧測定,尿検査を行った後,原告医院の心電計で心電図検査を行った(乙A8)。 (イ)午後5時20分ころ,採血を行うことになった。採血の際,原告は がこれに署名をした。続いて,被告Aは,問診を行い,血圧測定,尿検査を行った後,原告医院の心電計で心電図検査を行った(乙A8)。 (イ)午後5時20分ころ,採血を行うことになった。採血の際,原告は椅子に座り,被告Aは原告と正対するような位置で,立ったまま採血を 行った(被告A反訳書1・2頁,反訳書4・12頁)。 被告Aがどちらの腕から採血をするか聞くと,原告は左腕を差し出した。 被告Aは,原告が差し出した左腕に直角になるように採血台(原告医院のもの)を置き,左腕を正中静脈が上になる形で伸展させたうえ(原告反訳書2・2頁,反訳書5・2頁,被告A反訳書1・1頁),原告の左腕肘部の身体に近い側(中枢側)にゴムの駆血帯を巻いて圧迫し血管を浮き出させた(被告A反訳書1・1頁)。 そして,被告Aは,右手の中指,薬指で原告の左肘の穿刺しようとする部位を触って,動脈の拍動があるかを確認したが,拍動を感じなかったことから(原告反訳書5・3頁,被告A反訳書1・1頁,反訳書4・13頁),採血台にアルコール綿のパックと採血用のプラスチックの筒を置き,穿刺しようとする部位をやや広めにアルコール綿で拭いて消毒した。 (ウ)被告Aは,右手で22ゲージの注射針のついたプラスチック製の注射器胴体の部分(ホルダー)を吊り下げ式(乙A1の写真②のように右手の親指と人差し指,中指,薬指,小指でホルダーを包み込むように持つ手法)で持ち,中指と薬指をホルダーと原告の腕との間に入れてホルダーを固定しつつ,原告の左肘窩の尺側皮静脈と正中皮静脈との交通静脈に針を穿刺した(乙A6,乙A9,被告A反訳書1・2,3頁)。 (エ)被告Aは,注射針を5mm程度穿刺したが,静脈血を的確に採るため,針の先端をこころもち挙げた(乙A8・6,7頁,被告A反訳書1・5,6,9頁)。その状態で, 9,被告A反訳書1・2,3頁)。 (エ)被告Aは,注射針を5mm程度穿刺したが,静脈血を的確に採るため,針の先端をこころもち挙げた(乙A8・6,7頁,被告A反訳書1・5,6,9頁)。その状態で,ホルダーにプラスチックの筒をはめ込み,5cc程度の血液(静脈血)を採取した。 (オ)採血ができたため,被告Aは,左手で,採血台に乗せていたアルコール綿を取り,これで採血部位を圧迫しながら,駆血帯を外し,穿刺し た注射針を抜いた(被告A反訳書1・7頁)。 原告は,被告Aの採血を見ていたが,採血方法について,間違っている等の指摘,指示等は全くしなかった(原告反訳書2・5頁,被告A反訳書1・6,7頁)。また,採血の最中に,原告が痛みを訴えたこともなかった(被告A反訳書4・9,10頁)。 (カ)被告Aは,針を片づける等のため,「ではお願いします」と言って,アルコール綿での止血作業を原告に委ね,原告は,右手親指で採血部位の上からアルコール綿で圧迫した(原告反訳書5・7,8頁,被告A反訳書1・7頁)。この際,被告Aは,原告に対し,圧迫止血の方法,時間等を説明したことはなかった。 (キ)その後,被告Aは,採血道具や採取した血液を鞄に入れる準備をし,数十秒の間,原告に背を向けるような体勢になった(被告A反訳書1・7頁)。 被告Aが採血器具等の片づけを終えて原告を見ると,原告は採血部位をアルコール綿で十分圧迫しておらず,出血が止まったかどうか,アルコール綿を穿刺部位から外して確認したり再びアルコール綿を皮膚に付けるなどの行為をしていた(被告A反訳書4・2,3頁)。被告Aは,原告が十分な圧迫止血を行っていないのを見て,止血が十分できているか不安に思ったが,医師として先輩である原告に対し,圧迫止血を何度も指示するのは失礼と考え,何も言わずに原告の行為を黙 )。被告Aは,原告が十分な圧迫止血を行っていないのを見て,止血が十分できているか不安に思ったが,医師として先輩である原告に対し,圧迫止血を何度も指示するのは失礼と考え,何も言わずに原告の行為を黙認した(被告A反訳書4・1,2,10頁,原告反訳書2・5頁)。 (ク)採血が終了してから2,3分後,被告Aが書類や血圧計を鞄に片づけて帰ろうとした時,原告の左腕穿刺部のやや中枢側が腫れてきた(被告A反訳書1・7,8頁)。これに気付いた被告Aが,原告に対し,「腫れてきましたかね」と言い,人差し指,中指,薬指で,原告の指の上から腕を掴むように圧迫した(被告A反訳書1・8頁,反訳書4・9 頁)。しかし,すぐに,被告Aは,原告に対し,「止血というのは最初が肝心ですからね。」と言い,再び圧迫を原告に委ねた。 (ケ)原告は,その後,圧迫はしたものの,腫れを確かめるように,両腕をそろえて見比べたり,ときには,肘関節を曲げたり伸ばすなどした(被告A反訳書1・8,9頁)。被告Aは,このような原告に対し,止血を指示すべきであるとは思ったが,原告が自分より年長の医師であったことからこれを躊躇し,何ら指示,注意をしなかった(被告A反訳書4・1,2,6頁)。 (コ)午後6時30分ころ,原告は,原告医院の他の医療従事者を呼び,採血部位を自らのデジタルカメラで撮影したのち(甲A2の4),近所のD病院に診察に行った。なお,被告Aは,原告の指示で,原告医院で待機した。 (サ)原告はD病院で午後6時52分ころ診察を受け,採血による血腫と診断され,圧迫包帯をされた(甲A2の6,乙A2・3頁)。診療録には「本日生命保険で係の人の採血がへたで血腫になった,a(動脈)にあたったかも?との事」と記載され,「腫脹あり,知覚脱失はない」と診断された(乙A2・3頁)。 (シ)原 ,乙A2・3頁)。診療録には「本日生命保険で係の人の採血がへたで血腫になった,a(動脈)にあたったかも?との事」と記載され,「腫脹あり,知覚脱失はない」と診断された(乙A2・3頁)。 (シ)原告医院に帰ってきた原告は,被告Aに対し,改めて苦情を述べるとともに,上司に連絡して,責任ある対応をするよう求めた。 イ11月28日(ア)11月28日午後,被告Aは,被告会社での上司であるEとともに,原告医院を訪問した。被告AとEは,原告の左腕を見てから,原告に対し,本件採血について謝罪した(証人E反訳書3・3頁)。原告は,Eに対し,左腕を出して「これをどうしてくれるんだ」と激高し,「100万,200万じゃすまない」と金銭を要求した(証人E反訳書3・3頁,原告反訳書5・9頁)。 (イ)原告は,同日,既に包帯や絆創膏のない状態で,診療(診察66件,うち術後診34件。精密眼底検査66件,精密細隙灯検査66件)を行った。 (ウ)原告は,被告Aとともに午後4時30分ころ,自ら自動車を運転してY警察署に赴いて,警察の事情聴取を受けた。 原告は,同日も,自ら採血部位をデジタルカメラで撮影した写真2枚を持参し,D病院で診療を受け,腕の痛みを訴えた。同日,D病院で診断書を作成したが,病名は「左肘関節内側皮下出血」で「採血針にて皮下出血あり」「業務に支障を生じている」「全治14日間の見込みである」とされた(乙A2・5頁)。 ウ11月29日(ア)11月29日,原告は,「手洗い」すなわち,手術の術者又はその助手をするために上腕部から先の部分を小さなたわしのようなものに洗剤をつけてごしごしと入念にブラッシングすることをし,診察も34件(精密眼底検査34件,精密細隙灯検査34件)行った。 (イ)同日,原告は,F皮ふ科(H)を受診した。同医師は,診療録 ようなものに洗剤をつけてごしごしと入念にブラッシングすることをし,診察も34件(精密眼底検査34件,精密細隙灯検査34件)行った。 (イ)同日,原告は,F皮ふ科(H)を受診した。同医師は,診療録に,「採血部の血腫」,「現在,軽度腫脹と硬結で縦18cm,横8cmの溢血,点状出血」と記載し,「当初採血部より中枢側が急速にはれたという」ことから「動脈損傷の可能性もあり」と記載した(乙A3・3枚目)。 エ11月30日11月30日,原告は,左腕の写真を撮ったが,皮下出血が採血部位から手首の方まで広範に見られた(甲A4の1)。 オ12月1日12月1日,原告は,G整形外科医院を受診した。同医院の医師は,原告から,左肘部圧痛,左肘を伸ばすときの疼痛,左手小指側を握るときの 疼痛,痺れ,脱力感があるとの訴えを聞き,写真9枚を撮影したうえ,神経損傷を疑わせる所見であるティネル徴候ありと診断した(乙A4・3から9頁)。 原告は,同日,自ら左腕の写真を撮り,皮下出血はなお認められた(甲A4の2ないし4)。 カ12月2日12月2日,原告は,D病院を受診し,左手の痺れを訴えた。また,デジタルカメラで左腕の写真1枚を撮った(乙A2・4頁)。 キ12月6日12月6日,原告は,G整形外科医院の診療を受けた。原告は,左肘痛を訴え,肘窩から3cmの場所にティネル徴候があると診断された(乙A4・9頁)。 ク12月8日12月8日,原告は,東京都老人医療センター整形外科を受診した。同日,原告は,同センターの医師に対し,11月27日採血をされた際に,急角度で刺入され,針先を動かされたこと,手指への放散痛はなかったこと,圧迫していたが近位側と遠位側がすぐに腫れ,医師から「圧迫が大事で押さえておいて下さい」と言われたこと(乙A5・5頁),12月6日頃から腫れ れ,針先を動かされたこと,手指への放散痛はなかったこと,圧迫していたが近位側と遠位側がすぐに腫れ,医師から「圧迫が大事で押さえておいて下さい」と言われたこと(乙A5・5頁),12月6日頃から腫れがだいぶ引いてきたが痛みが残っているので受診したことを話した。同センターの医師は,現在屈曲時痛はないこと,肘内側にティネル徴候はないこと,仮性動脈瘤の可能性があるが,拍動触れないため,そうだとしても内側は凝固しているのではないかと診断した(乙A5・7頁)。 ケ12月9日から同月26日まで原告は,D病院を,12月9日受診したほか(乙A2・4頁),同月12日にも受診したが,その際には,痛みはなく,出血斑もかすかになっていたと診断された(乙A2・6頁)。また,同月16日にも受診したが, 少々の違和感ありとされ(乙A2・6頁),同月26日に受診した際は,痛みはなく手の感覚も良いが,肘窩に腫脹があるとされた。そして,同日の診療録には「『動脈損傷があった可能性が十分高い事』を記入する」旨の記載がなされ,同日付けで,原告に対し,病名「左肘関節皮下出血,同部血腫」,「内出血,血腫の大きさから動脈損傷の可能性も否定できない」と記載された診断書が出された(乙A2・7,8頁)。 コ12月28日12月28日,原告は,G整形外科医院の診察を受けた。左肘窩から末梢側へ5cmのところにティネル徴候があるとされたが,そのまま経過観察となった(乙A4・10頁)。 サ平成18年(ア)平成18年1月6日,原告は,D病院を受診し「やや腫脹のこるか?」とされ,同年4月7日,D病院を受診し,「治癒している」と診断された(乙A2・7頁)。 (イ)平成18年5月20日,原告は,G整形外科医院で,「左肘刺創,左内側前腕皮神経損傷」,「左肘関節痛,左上腕下部より左前腕中部まで 院を受診し,「治癒している」と診断された(乙A2・7頁)。 (イ)平成18年5月20日,原告は,G整形外科医院で,「左肘刺創,左内側前腕皮神経損傷」,「左肘関節痛,左上腕下部より左前腕中部までに至る皮下出血を訴え,平成17年12月28日まで通院加療」と記載された診断書の交付を受けた(甲A3の2,乙A4・11頁)。 (ウ)平成18年5月22日,原告は,D病院で,「左肘動脈穿刺の疑い」,「通常静脈穿刺後の出血斑は約10日間程で消退するが,約1ヶ月間にわたり出血斑が存在した事は動脈穿刺の可能性が強く考えられる。」と記載された診断書の交付を受けた(甲A3の1)。 (エ)平成18年6月15日,原告は,東京都老人医療センターで,「左上腕動脈損傷及び左肘から前腕部血腫疑い」,「腫瘤には動脈性の拍動は触診されなかったが,既に受傷後11日目であったことから,器質化したものであると思われた。これらの受診時所見と,採血時15分くら い圧迫止血したにもかかわらず肘内側の腫れが進行している事実より上記を強く疑います。」と記載された診断書の交付を受けた(乙A5・8頁)。 (オ)平成18年6月20日,原告は,F皮ふ科で,「外傷性血腫(左上肢)」,「採血後に急速に腫脹が出現,通常の圧迫で容易に抑止できなかったとの問診及び紫斑の範囲が尋常ならざることより,動脈損傷を伴っている疑いが持たれる。」と記載された診断書の交付を受けた(甲A3の3)。 (2)原告の主張の当否以上認定の事実をもとに,本件皮下出血の原因について検討する。 原告は,被告Aが本件採血により動脈を損傷したか,静脈を必要以上に損傷したことにより本件皮下出血になったと主張する。 しかし,以下に説示のとおり,本件皮下出血の原因が,被告Aによる本件採血により動脈を損傷したことよること,又は静脈を必要 傷したか,静脈を必要以上に損傷したことにより本件皮下出血になったと主張する。 しかし,以下に説示のとおり,本件皮下出血の原因が,被告Aによる本件採血により動脈を損傷したことよること,又は静脈を必要以上に損傷したことによることを認めるに足りる的確な証拠はない。 ア診断書の記載について(ア)たしかに,D病院のK医師が平成18年5月22日付け診断書で「左肘動脈穿刺の疑い」と診断していること(甲A3の1,乙A2),F皮ふ科のH医師が平成18年6月20日付け診断書中で「外傷性血腫」の根拠として「動脈損傷を伴っている疑いがもたれる」と記載していること(甲A3の3,乙A3),東京都老人医療センター整形外科のI医師が,平成18年6月15日付け診断書で「左上腕動脈損傷及び左肘から前腕部血腫疑い」と診断していること(乙A5)が認められ,原告を診察した複数の医師が,本件皮下出血の原因として動脈損傷の可能性を疑っていることを指摘することができる。 (イ)しかし,D病院での診断については,動脈穿刺の「疑い」とされて いるにとどまること,診療録(乙A2)では,動脈穿刺への言及はほとんどなく,11月28日の診療録では皮下出血のみ記載されていること(乙A2・5頁),動脈穿刺が疑われる根拠として,皮下出血斑の出ていた期間が1か月間であることが指摘されているが,診療録によれば,12月12日には出血斑がかすかとされているのであるから(乙A2・6頁),皮下出血の期間においても,静脈穿刺による出血斑と有意な差があるとまで認められないことに照らし,動脈損傷があったことを認めるに足りる十分な証拠ということはできない。 (ウ)つぎに,F皮ふ科の診断においても,H医師は,11月29日に診察しただけであって,診療録上も「動脈損傷の可能性もあり」とされるにとどまること( めるに足りる十分な証拠ということはできない。 (ウ)つぎに,F皮ふ科の診断においても,H医師は,11月29日に診察しただけであって,診療録上も「動脈損傷の可能性もあり」とされるにとどまること(乙A3),また,半年後に作成した診断書でも「疑いがもたれる」という限度であるし,しかも,同診断書は,「通常の圧迫で容易に抑止できなかったとの問診及び紫斑の範囲が尋常ならざること」を根拠としているが,前記認定のとおり,「通常の圧迫」がなされたという前提に誤りがあるといえることに照らし,採用することができない。 (エ)また,東京都老人医療センター整形外科の診断においても,「疑い」とされているにとどまること,動脈損傷の疑いについては,「採血時15分位止血にもかからわず肘屈側の腫れが進行している」事実を根拠とするところ,前記認定のとおり,かかる事実は認めることができないことに照らし,採用することができない。 (オ)以上,いずれの診断書も,本件皮下出血の原因を動脈損傷と断定しているものではなく,原告の愁訴等を根拠に,動脈損傷の「疑い」があるとしているのであって,これらの診断書から,動脈損傷と認めることはできない。 イ採血方法について 原告は,被告Aの採血方法に問題があり,その結果,動脈損傷,あるいは必要以上の静脈損傷による皮下出血を招いたと主張するので,この点につき検討する。 (ア)採血台の角度について被告A医師が,採血台につき,腕と直角に置いたことは争いがない。 そして,そのように置いて,肘部を真っ直ぐに伸展させた場合には,肘部をやや曲げていた場合に比し,肘動脈が浮き出る状態になりやすいことは確かである。 しかしながら,採血によって動脈損傷を生じるかどうかは,腕の角度,注射針の刺入部位,刺入角度等様々な要素によって決まるものであって, 場合に比し,肘動脈が浮き出る状態になりやすいことは確かである。 しかしながら,採血によって動脈損傷を生じるかどうかは,腕の角度,注射針の刺入部位,刺入角度等様々な要素によって決まるものであって,採血台の置き方と直接の関係があるわけではなく,採血台を腕と直角に置いたからといって,動脈損傷を生じたものと推認することはできない。 (イ)刺入部位について本件採血により注射針を穿刺した部位については,甲A2の2や乙A7の写真で示された,左腕の肘部やや尺側の部分であることは当事者間に争いがない。この穿刺部位がどの静脈であるかは争いがあり,原告は,尺側皮静脈であると主張する。しかし,静脈名について記載した甲B6号証によれば,上腕の尺側皮静脈は,肘部付近で末梢で小指側に走る尺側正中皮静脈(これは,末梢に行くと再び尺側皮静脈となる。)と末梢で橈側に走る肘正中皮静脈に分岐するところ,本件採血で穿刺した静脈の末梢は橈側に走っていることからすると,尺側皮静脈又は尺側正中皮静脈ではなく,むしろ尺側皮静脈と正中皮静脈の交通静脈と解される(乙A9・5頁,なお,原告も,甲B6では,「⑦尺側皮静脈」ではなく「③尺側正中皮静脈」と考えているようである。)。そして,この穿刺部位の下には動脈が走っていると考えられる(甲B6)。 しかしながら,それは静脈から5mm又は1cm程度は離れているも のと認められること(証人E反訳書3・9頁,原告反訳書5・16頁),被告Aは,本件採血時に,注射針を穿刺後約5mm程度しか進めていないと述べていること(被告A反訳書1・9頁),被告Aは,本件採血に先立ち,穿刺しようとする部位に触れて動脈の拍動があるかを確認したが,拍動を感じなかったこと(被告A反訳書4・13頁)に照らし,静脈から約5mmから1cm離れた場所にある動脈を損傷したもの 件採血に先立ち,穿刺しようとする部位に触れて動脈の拍動があるかを確認したが,拍動を感じなかったこと(被告A反訳書4・13頁)に照らし,静脈から約5mmから1cm離れた場所にある動脈を損傷したものと解することは困難である。 (ウ)採血方法について採血方法について,原告は,穿刺45度で深く針を刺し,かつ,途中で血液が止まったので針を動かしたと主張し(甲A2の3参照),これに沿う供述をする(原告反訳書2・8,9頁,反訳書5・3,6頁)。 これに対し,被告Aは,10度から15度程度の角度で針を刺入し,針が血管に入ってからは気持ち上向きに針を進めたが,血が途中で止まったことはなかったこと,さらに深く刺したり引いたりしたことはないこと,動脈を刺すときには針が震えるような拍動を感じるが本件採血では全く感じていないこと(被告A反訳書1・5,6頁)を供述している。 そして,被告Aが,本人尋問で,原告が主張する穿刺角度45度で実施したところ中指は腕に接触したものの,薬指,小指,人差し指は腕に接触しておらず,非常に不安定な状態であったこと(被告A反訳書1・4,5頁),被告Aが,敢えてそのような不安定な角度で採血を行わなければならない理由は窺われないこと,原告が,本人尋問で,本件採血の際の穿刺角度を再現し,その穿刺角度を測定したところ,約35度であったこと(原告反訳書5・4頁),原告自身,本件採血時,被告Aの指が注射筒の下に入り,原告の左腕に付いていたことを認めていること(原告反訳書5・5頁),原告自身,本人尋問で,穿刺角度45度は急な角度であることの比喩であると述べていること(原告反訳書5・11 頁),原告が,採血針がどの程度入ったかは分からないと述べていること(原告反訳書5・6頁)が認められる。 そうすると,穿刺角度約45度の急な角度で針を刺し ると述べていること(原告反訳書5・11 頁),原告が,採血針がどの程度入ったかは分からないと述べていること(原告反訳書5・6頁)が認められる。 そうすると,穿刺角度約45度の急な角度で針を刺したとの原告の供述は採用できず,他に穿刺角度が急であったことを認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ない。また,途中で被告Aが針を動かしたことを認めるに足りる証拠もない。 よって,刺入角度が深かったこと,途中で針を動かしたことを前提に,動脈損傷,あるいは必要以上の静脈損傷があったと推認することもできない。 (エ)以上によれば,被告Aの採血方法から,動脈損傷等の事実を推認することはできない。 ウ皮下出血発生の状況について原告は,本件採血直後に十分な圧迫止血をしたにもかかわらず,穿刺部位と離れた中枢側に多量の血腫が生じ,その後末梢側に血腫が急速に広がったことから,動脈損傷,あるいは必要以上の静脈損傷があったことを推認させると主張する。 たしかに,前記認定のとおり,本件採血の2,3分後に原告の左肘部の中枢側が腫れてきたこと(被告A反訳書1・7,8頁),30分後に中枢側に皮下出血が生じたこと(甲A2の4),同日診察を受けたD病院では中枢側の腫脹が確認されたこと(乙A2・3頁),本件採血の2日後(11月29日),F皮ふ科では,採血部位の末梢側に18cm×8cmの皮下出血が確認されたこと(乙A3),11月30日には肘部分から手首まで広範に皮下出血が認められたこと(甲A4の1),12月1日も同様の状況であったこと(甲A4の2ないし4,乙A4・5ないし9頁),12月8日,東京都老人医療センターで採血部位の皮下に直径7mmの腫瘤があり,上腕に8cm×8cmの皮下出血が確認されたこと(乙A5・6 頁),12月12日D病院で出血斑かすかとされているこ ,12月8日,東京都老人医療センターで採血部位の皮下に直径7mmの腫瘤があり,上腕に8cm×8cmの皮下出血が確認されたこと(乙A5・6 頁),12月12日D病院で出血斑かすかとされていること(乙A2・6頁),12月26日D病院で穿刺部付近に腫脹が確認されたこと(乙A2・7頁)が認められ,本件採血後に中枢側に出血が生じ,その後皮下出血が末梢側に移っていることからして,動脈損傷か,著しい静脈損傷の可能性がないではない。 しかし,圧迫止血の不足を理由としても広範に皮下出血が生じる場合があること(甲B19),本件皮下出血は,静脈採血の際の圧迫不足によって生じる青地の発生及び消失の典型的な推移をたどっていること(乙B10)が認められ,これによれば,皮下出血の発生経緯から,動脈の損傷,あるいは必要以上の静脈損傷であると推認することはできない。 エ被告会社の謝罪についてこのほか,原告は,被告会社のEが,本件採血の翌日(11月28日)に原告医院を訪問し,原告の皮下血腫を確認して,動脈損傷を認め,謝罪したと主張する。 そして,同日,被告Aが,上司であるEとともに原告医院を訪問し,原告の左腕を見て,原告に対し,謝罪したことは前記認定のとおりである(証人E反訳書3・3頁)。 しかしながら,Eは,原告の皮下の出血斑を認めたので,それについて詫びたに過ぎないと述べており,被告Aらが,動脈損傷を認めたうえで,その点について謝罪したとの原告の主張は,認めることができない。 したがって,上記謝罪の事実から,動脈損傷の事実や,被告Aが,必要以上に静脈を損傷した事実を推認することはできない。 オその他以上の事情に加え,動脈血はピンク色に近い鮮紅色をしているのに対し,静脈血は紫色に近い暗赤色をしているところ,本件採血で得られたのは暗赤色の静脈血であり,皮下出 推認することはできない。 オその他以上の事情に加え,動脈血はピンク色に近い鮮紅色をしているのに対し,静脈血は紫色に近い暗赤色をしているところ,本件採血で得られたのは暗赤色の静脈血であり,皮下出血も暗赤色であったこと(甲A2の4,原告 反訳書5・6頁),注射針が動脈を穿刺すると,注射針に拍動が感じられ,動脈であることが直ちに分かるが,被告Aはそのような拍動を感じていないこと(被告A反訳書1・6頁)が認められ,これによれば,本件皮下出血が,動脈損傷によるものと認めることはできない。 カそして,他に,本件皮下出血の原因が,動脈損傷又は必要以上に静脈を損傷したことに基づくものと認めるに足りる証拠はない。 (3)止血処置が不十分であったことに基づく皮下出血の可能性についてそこで,本件皮下出血の原因が,止血処置が不十分であったことによるものであるかが問題となる。 ア止血の状況について被告Aは,原告が,本件採血後,圧迫を十分に行わず,アルコール綿を10回くらい,付けたり離したりし,また,左右の腕を見比べて,腕を屈曲,伸展することを,時間をおいて10回以上繰り返したと供述する(被告A反訳書1・8,9頁,反訳書4・2,3頁)。 これに対し,原告は,本件採血後,被告Aの採血方法がへたであったことから,注射針が静脈を突き抜けたか損傷していると思い,通常より長い時間,15分くらいの間,強く左肘部を圧迫し続けた旨供述し,腕を屈伸したことは1回もなく,アルコール綿を付けたり離したりして採血部を見たこともない旨供述する(原告反訳書2・4,6,9頁,反訳書5・13,15頁)。 そこで,検討するに,確かに原告が,採血後に左右の腕を見比べて,腕の屈伸を10回以上も繰り返したという被告Aの供述部分は,その必要性を窺わせる事情もなく,直ちに採用することはできな 3,15頁)。 そこで,検討するに,確かに原告が,採血後に左右の腕を見比べて,腕の屈伸を10回以上も繰り返したという被告Aの供述部分は,その必要性を窺わせる事情もなく,直ちに採用することはできない。 しかしながら,一方,原告は,被告Aが採血道具等を片づけている間に,原告自身が本件採血部位が腫れてきたことを指摘し,被告Aからしっかり押さえるように言われたことを認める供述をしており(原告反訳書5・1 2,13頁),また,原告が,G整形外科医院においても,医師に対し,皮下出血が著明で,圧迫を指示された旨話していること(乙A4・4頁)からすれば,当時,原告が,アルコール綿を離して本件採血部位を見るなど,止血に不十分な点があったことから,被告Aから圧迫が不十分であるとの指摘を受けたことが認められる。そして,これに前記被告Aの供述を合わせ考えれば,当時,被告Aの採血に不満を抱いていた原告が,採血部位を確認するため,何度かアルコール綿を離すなどして,その圧迫が十分ではなかったものと推認するのが相当である。したがって,原告が15分間ずっと圧迫を行っていたとの前記原告供述は採用することができず,原告において,止血が行われたかどうか,アルコール綿を付けたり離したりして,左右の腕を比べて,腕を屈曲,伸展したことはあったものと解するのが相当である。 しかも,本件採血により動脈損傷があったと認めるに足りないことは前記判示のとおりであるから,穿刺部位からの出血がことさらに多量であったものと思われないうえ,原告が主張するように本件採血直後から15分間も圧迫して適切に止血をしていたのであれば,仮に注射針が動脈を引っ掛けたとしても,本件皮下出血が発生することはなかったものと考えられるのであるから(証人E反訳書6・5頁),本件皮下出血の原因は,止血が適切に行わ に止血をしていたのであれば,仮に注射針が動脈を引っ掛けたとしても,本件皮下出血が発生することはなかったものと考えられるのであるから(証人E反訳書6・5頁),本件皮下出血の原因は,止血が適切に行われなかった点にあると考えるのが相当である。 イ以上の次第で,本件皮下出血の原因は,原告が,止血を十分に行わなかったことにあるものと認めるのが相当である。 争点(2)(本件採血方法の過失)について(1)採血台の使用方法の誤り前記認定のとおり,被告Aが,原告の左腕を採血台と直角に置くように指示したことは当事者間に争いがない。 しかし,標準採血法ガイドラインでも,採血台の使用方法に特に制限はな いこと(甲B5・9頁),乙B1,2号証の写真では,採血台ではないものの,採血の際に腕の下に置く腕枕を腕と直角に設置していること(乙B1,2)からすると,採血の際,採血台を腕と垂直に置いてはならないという注意義務があるものとは認められない。 よって,採血台の使用方法についての注意義務違反はない。 (2)採血場所の誤りア原告は,肘正中皮静脈がよく出ているのでそこから採血すべきであったのに,被告Aには,尺側皮静脈から採血した注意義務違反があると主張する。 イたしかに,通常,前腕からの採血は,肘正中皮静脈(又は肘橈側皮静脈)から行うとされており,尺側皮静脈は近くを動脈と神経が走行しているので,避けることが好ましいと言われている(甲B1・2頁,甲B5・9頁,甲B6・110頁,甲B7・2枚目,甲B8・37頁,甲B9・64頁,甲B10・425頁,甲B11・126頁,甲B12・1000頁,甲B13・1573頁,甲B14・299頁)。 しかし,各種文献によっても,尺側皮静脈や尺側正中皮静脈から採血を行ってはならないとまでは記載されていない。むしろ,標準採血法ガ ,甲B12・1000頁,甲B13・1573頁,甲B14・299頁)。 しかし,各種文献によっても,尺側皮静脈や尺側正中皮静脈から採血を行ってはならないとまでは記載されていない。むしろ,標準採血法ガイドラインでは,好ましい採血箇所として,通常は肘正中皮静脈から行うとされているものの,肘尺側皮静脈についても,付近を動脈及び神経が走行しており,誤穿刺の可能性があると注意喚起をしているだけで,採血を避けるべき場所としては挙げていないこと(甲B5・9頁),「特に尺側皮静脈の穿刺時は,上腕動脈を触診して位置を確認しておく」という文献もあること(甲B7・2頁)に照らせば,尺側皮静脈に穿刺する場合があること自体は認められているものと解するのが相当である。 よって,被告Aにおいて,尺側皮静脈や尺側正中皮静脈から採血をすべきでない注意義務があるとまでは認められない。 ウさらに,本件採血の穿刺部位は,前記認定のとおり,尺側皮静脈と正中皮静脈の交通静脈であって,尺側皮静脈よりさらに正中皮静脈に近い位置にあると解されること,証人Eによれば,本件採血をした穿刺部位は,採血に適した部位であって,静脈が最も太く,分岐部に近く皮下組織についていて血管がずれない部分であることが認められること(証人E反訳書3・4,5頁)からすれば,本件採血の穿刺部位について,被告Aに注意義務違反があるものとは認められない。 (3)採血針の角度の誤り原告は,被告Aが,45度に近い急角度で針を刺した義務違反があると主張する。 しかし,前記認定のとおり,被告Aが急角度で針を刺したと認めるに足りる証拠はない。 よって,被告Aが,急角度で穿刺したとの注意義務違反は認められない。 (4)不注意な針の動かし原告は,被告Aが,採血の途中で深く針を動かしたと主張する。 しかし,前記認定のとおり りる証拠はない。 よって,被告Aが,急角度で穿刺したとの注意義務違反は認められない。 (4)不注意な針の動かし原告は,被告Aが,採血の途中で深く針を動かしたと主張する。 しかし,前記認定のとおり,この事実を認めるに足りる証拠はない。 よって,被告Aが,不注意で針を動かしたとの注意義務違反は認められない。 (5)以上によれば,被告Aの採血方法に過失があるものとは認められない。 争点(3)(本件採血後の被告Aの処置)について(1)被告A自身による止血の不実施原告は,採血は医療行為であるから,採血実施者である被告A自身が,自ら採血後に止血をする法的義務を負うと主張する。 たしかに,採血は医療行為であり,止血を確認するまでが採血の内容であると考えられる。 しかしながら,血液採取後に,止血するためにアルコール綿で穿刺部位を 圧迫する行為自体は,通常人であれば,容易に行うことができる行為であるから,圧迫自体を医療従事者が自ら行う必要はないものと解するのが相当である。 ただし,止血を確認するまでが採血の内容であるから,医師等が,自ら止血行為を行わないにしても,適切な止血がされているか否かは確認できるような状態にあることが必要であるものと解される。このことは,採血についての文献で,「抜針後血腫を作ることで神経損傷が起きることもあるため,止血確認は医療者が行うべきです。」とあるが,止血自体を医療者が行うべきであるとはしておらず,「抜針後の圧迫を患者さんにしてもらう場合,適切な期間正しい方法で圧迫する必要性を説明します」と記載されていること(甲B2・170頁),止血として「採血者もしくは医療スタッフは止血が完全に行われたことを確認する必要がある」としているのみで,自ら止血を行うべきであるとしていないこと(甲B5・11頁),「抜針後の止血処置 170頁),止血として「採血者もしくは医療スタッフは止血が完全に行われたことを確認する必要がある」としているのみで,自ら止血を行うべきであるとしていないこと(甲B5・11頁),「抜針後の止血処置にも配慮が必要である。アルコール綿で2~3分しっかり圧迫し,その後観察して止血を確認する。自分で圧迫していただく患者には指導が必要である。」(甲B9・64頁)となっていることからも裏付けられる。 したがって,被告Aが,血液採取をして採血針を抜いた後に,アルコール綿での圧迫を被採血者である原告に任せたことが注意義務違反とは認められない。 (2)止血確認の不実施原告は,被告Aが,採血後,止血がされたかどうか十分経過を観察すべき注意義務があったのに,これを怠った義務違反があったと主張する。 前記認定のとおり,被告Aは,採血後,原告に止血を任せ,採血針の片づけ等を行い,これが終わって採血の2,3分後に,器具をカバンに入れて帰ろうとしたことが認められる(被告A反訳書1・7,8頁)。しかしながら,被告Aは,その後現実には,原告から腕が腫れてきたことを指摘を受け,帰 らずに止血状況を確認していたことが認められるから,帰ろうとしたことをもって,直ちに注意義務違反があるものとは認められない。 しかしながら,前記認定のとおり,被告Aは,その後,原告が止血を十分に行わず,アルコール綿を付けたり離したりしていることや,腕を屈曲,伸展していることを現認していたにもかかわらず,これらの行為に対して,何ら指示や注意等を行っていないことが認められる(被告A反訳書4・1ないし6,10)。この点については,証人Eも,被採血者が止血しないで腕を屈曲,伸展していたら,医師は,そのような行為を止めるように言うべきであると証言しているところである(証人E反訳書6・3頁)。 そして, 10)。この点については,証人Eも,被採血者が止血しないで腕を屈曲,伸展していたら,医師は,そのような行為を止めるように言うべきであると証言しているところである(証人E反訳書6・3頁)。 そして,このような場合には,止血を適切に行うよう注意し,止血方法を指示すべきことも,採血を担当した医師としての止血についての観察,確認義務の一つであると言える。 たしかに,被告Aは,原告の腕の腫れに気付いた際,「腫れてきましたかね」と言って,原告の指の上から腕を掴むように圧迫したことが認められる。 (被告A反訳書1・8頁,反訳書4・9頁)。しかしながら,その後すぐに自ら圧迫することを止め,その後原告が両腕を揃えて見比べたり,ときには肘関節を曲げ伸ばししたりしたことに対しても,自分より年長者の医師に対し注意することに躊躇を覚え,黙認していたというのであるから,止血確認義務としては,不十分であったと言わざるを得ない。 したがって,被告Aには,止血確認を十分行わなかった注意義務違反があるものと認められる。 なお,このことは,たとえ,被採血者が原告のような止血について認識しているベテラン医師であっても,同様であると考えられる。 (3)血腫防止措置の不実施原告は,被告Aが,皮下血腫が広がっているのを知りながら,圧迫包帯をしたり,止血剤を投与する等の適切な処置を怠ったと主張する。 前記認定のとおり,被告Aは,本件採血が終了した2,3分後に,中枢側が腫れてきたことに気付き,採血部位に当てられていた原告の指の上から圧迫し,原告に圧迫止血が大切であることを話したものの,圧迫包帯をせず,止血剤の投与も行わなかったことは認められる(なお,被告Aは,サージカルテープや止血バンドを携帯していなかった。被告A反訳書4・4頁)。 しかし,前記判示のとおり,被告Aの採血により,動 包帯をせず,止血剤の投与も行わなかったことは認められる(なお,被告Aは,サージカルテープや止血バンドを携帯していなかった。被告A反訳書4・4頁)。 しかし,前記判示のとおり,被告Aの採血により,動脈を損傷したとまでは認められないことからすれば,十分な止血を行えば本件のような広範囲に及ぶ皮下出血になったものとは考えにくく,直ちに圧迫包帯をしたり,止血剤を投与すべき注意義務があるものとはいえない。 ただし,前記(2)のとおり,止血を十分確認し,支障のある行動に対しては,それをやめさせるよう指示すべき注意義務があると解されるところ,被告Aは,原告が十分に圧迫することなく,腕を屈伸させているのを黙認していたというのであるから,被告Aには,皮下出血を認識した後に,原告による止血が十分行なわれるよう注意すべき義務怠り,皮下出血を生じさせた注意義務違反があるものと認められる。 争点(4)(損害額)について(1)休業損害ア本件採血当時,原告は,Cから,月額○○○○万円の給与を支給されていたこと,本件採血後,原告は,平成17年12月分及び平成18年1月分の給与から,各○○○万円の支給を減額されたことを認めることができる(甲C3ないし5)。 そこで,原告は,本件採血による休業損害として○○○万円の損害を受けたと主張している。 イたしかに,原告の収入は給与所得という名目であるから,その減額は,通常,休業損害と評価することができる。 しかしながら,原告は給与の支払者であるCの理事長であり,Cは原告 が設立し,その代表者になっている法人であるから,その給与が減額されたからといって,直ちにこれを休業損害と解することは相当でなく,その減額が合理性を有する範囲で,不法行為と相当因果関係を有する休業損害と認めるのが相当である。 そこで,本件皮下出血によ 与が減額されたからといって,直ちにこれを休業損害と解することは相当でなく,その減額が合理性を有する範囲で,不法行為と相当因果関係を有する休業損害と認めるのが相当である。 そこで,本件皮下出血により,原告の診療がどの程度影響を受けたかを考察することとする。 ウ原告は,本件採血後診察を受けた医師に対し,11月28日左腕を伸ばしたときに痛いこと,12月2日左手のしびれがあること,12月12日痛みはないこと,12月26日痛みはなく,伸展時気になること(乙A2),12月1日左肘部圧痛,左腕を伸ばすときの疼痛,左手小指側を握るときの疼痛,痺れ,脱力感があること,12月6日左肘痛あり,腕を伸ばせないこと(乙A4)をそれぞれ訴えていることが認められる。 そして,原告は,本件採血の翌日にレーザー手術3件をキャンセルした他,翌々日の白内障手術,3日後のレーザー手術,4日後の白内障手術をキャンセルしたこと,レーザー手術は6,7件キャンセルしたことを供述する(原告反訳書5・11頁)。ただし,前記認定のとおり,原告は,本件採血の翌日,既に包帯や絆創膏のない状態で診察66件(うち術後診34件。精密眼底検査66件,精密細隙灯検査66件)を行った他,自ら自動車を運転したこと,本件採血の2日後(11月29日)には,白内障の手術のため「手洗い」を行い,34件の診察(精密眼底検査34件,精密細隙灯検査34件も含む。)を行ったことが認められる。 そして,原告作成の陳述書によれば,本件皮下出血の診察を受けるために,原告医院での原告の診療ができなかったのは,11月28日午後7時45分から約1時間「中断」,11月30日午前の診療を「中断」,12月1日午前の診療を「休診」,12月2日午後7時30分に仕事を約1時間「中断」,12月8日午前の診療を「休診」,12月9日午後7時30 分から約1時間「中断」,11月30日午前の診療を「中断」,12月1日午前の診療を「休診」,12月2日午後7時30分に仕事を約1時間「中断」,12月8日午前の診療を「休診」,12月9日午後7時30 分に仕事を約1時間「中断」,12月12日午後7時30分に仕事を約1時間「中断」,12月16日午後7時30分に仕事を約1時間「中断」,12月26日午後7時30分に仕事を約1時間「中断」,平成18年1月6日午後7時30分に仕事を約1時間「中断」したことのみであって(甲A15),以上を合計すると,休診は午前の休診が2回,中断(これは一旦中止してその後再開した趣旨と解される。)が約8時間(11月30日の午前の中断も約1時間として計算した場合)である。 以上のような事情を考慮すると,12月中には,本件皮下出血の痛みや診察のため,原告自身の診療行為が一部できなかったことがあり,12月の1か月分について,月収○○○○万円から100万円を減額したことは相当であるが,1月分については,本件皮下出血の影響や診察のため,原告自身の診療行為が影響を受けたものとは解されないから,100万円減額したことが相当であるとは解されない。 よって,休業損害としては100万円の範囲で相当因果関係が認められる。 (2)慰謝料原告は,本件皮下出血の程度,被告Aや被告会社の対応等から慰謝料200万円が相当であると主張する。 しかし,本件皮下出血による後遺症はないこと,原告の通院期間等,全事情を考慮しても,原告の精神的苦痛を慰謝するためには20万円が相当と認められる。 なお,被告Aや被告会社の対応等がことさらに不適当なものとは解されず,これらをもって慰謝料の増額事由があるものとは解することはできない。 (3)弁護士費用本件全事情を考慮すると,弁護士費用としては,20万円が相当で 会社の対応等がことさらに不適当なものとは解されず,これらをもって慰謝料の増額事由があるものとは解することはできない。 (3)弁護士費用本件全事情を考慮すると,弁護士費用としては,20万円が相当である。 (4)よって,原告の損害は,以上の合計,140万円と認めるのが相当である。 争点(5)(過失相殺)被告らは,原告が,医療の専門家である医師であり,被告Aの動作に対し注意を与えることもできたし,圧迫止血をすれば容易に止血できたのであるから,大幅な過失相殺が認められるべきであると主張する。 この点,たしかに,止血を確認すべき最終的な義務を負うのは採血を実施した被告Aであるが,どの程度,止血の意義や方法を説明するかは,採血の相手方の理解能力,経験等によって,当然差が生じるものというべきである。 本件では,原告は,止血の意義や方法等を理解している医師であることからすると,止血が不十分であれば,本件のような広範な皮下出血が生じることを十分認識できたはずであり,それにも関わらず,前記認定のとおり,原告自身アルコール綿による圧迫を十分にしておらず,出血がとまったかを確認するため,アルコール綿を外したりするなどの行為していたこと,左右の腕を見比べたり,腕の屈伸をしたりしたことからすると,本件の損害の発生について原告にも相応の責任があるといわざるを得ず,その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると,その過失割合は3割と認めるのが相当である。 よって,前記の損害額140万円のうち被告らが原告に賠償すべき金額は,その7割に当たる98万円となる。 結論 以上によれば,原告の請求は,被告Aに対して民法709条の不法行為に基づき,被告会社に対して民法715条の使用者責任に基づき,各自損害賠償金98万円及びこれに対する不法行為の日である平成17年11月2 上によれば,原告の請求は,被告Aに対して民法709条の不法行為に基づき,被告会社に対して民法715条の使用者責任に基づき,各自損害賠償金98万円及びこれに対する不法行為の日である平成17年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部 裁判長裁判官秋吉仁美裁判官古谷真良裁判官佐藤哲治は,転官のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官秋吉仁美

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