平成23(行ケ)10100 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年10月31日 知的財産高等裁判所 3部 判決 審決取消
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平成23年10月31日判決言渡平成23年(行ケ)第10100号審決取消請求事件平成23年10月19日口頭弁論終結判決 原告住友金属工業株式会社 訴訟代理人弁理士渡邊極同平田武行 被告特許庁長官 指定代理人北村明弘同川村健一同須藤康洋同芦葉松美 主文 1 特許庁が不服2009-13386号事件について平成23年2月7日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文と同旨。 第2 争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成16年9月30日,発明の名称を「高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼 板およびその製造方法」とする発明について,特許出願(特願2004-285797。以下「本願」という。)をし,平成20年10月22日付けで手続補正書を提出したが,平成21年5月13日付けで拒絶査定を受け,同年7月27日,拒絶査定に対する不服審判請求(不服2009-13386号事件)をした。 特許庁は,平成23年2月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月22日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲平成20年10月22日付け補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1の記 2月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月22日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲平成20年10月22日付け補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。なお,上記補正後の本願の特許請求の範囲,明細書を総称して「本願明細書」ということがある(甲3,6)。 「【請求項1】鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって,前記鋼板が質量%で,C:0.05~0.25%,Si:0.02~0.20%,Mn:0.5~3.0%,S:0.01%以下,P:0.035%以下およびsol.Al:0.01~0.5%を含有し,残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し,かつ前記合金化溶融亜鉛めっき層が質量%で,Fe:11~15%およびAl:0.20~0.45%を含有し,残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有するとともに,前記鋼板と前記合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が20MPa 以上であることを特徴とする高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板。」 3 審決の理由(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開2002-294422号公報(甲1。以下「引用例」という。)の記載に基づいて当業者が適宜なし得たものであり,本願発明の奏する効果も引用例の記載から予測される範囲のものであって,格別顕著なものとは認められないから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 (2) 上記判断に際し,審決が認定した引用例記載の発明(以下「引用発明」とい う。)の内容並びに本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア引用発明の内容鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっ 審決が認定した引用例記載の発明(以下「引用発明」とい う。)の内容並びに本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア引用発明の内容鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって,前記鋼板が質量%で,C:0.03~0.18%,Si:0~1.0%,Mn:1.0~3.1%,P:0.005~0.01% 及びAl:0.03~0.04%を含有し,残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し,かつ前記合金化溶融亜鉛めっき層が,質量%でFe:8~15 %,Al:0.1 ~0.5 %,及び100mg/㎡以下に制限されたMnを含有し,残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板。 イ一致点「鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって,前記鋼板が,C,Si,Mn,P及びsol.Alを含有し,残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し,かつ前記合金化溶融亜鉛めっき層がFe及びAlを含有する化学組成を有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板。」で一致し,鋼板のC,Si,Mn,P及びsol.Alの含有量,並びに,合金化溶融亜鉛めっき層のFe及びAlの含有量も重複する。 ウ相違点(ア) 相違点1(審決の「相違点(イ)」)鋼板の化学組成に関して,本願発明は,「S:0.01% 以下」を含有するのに対し,引用発明は,Sを含有することは記載されていない点。 (イ) 相違点2(審決の「相違点(ロ)」)合金化溶融亜鉛めっき層の化学組成に関して,本願発明は,Fe及びAlを含有し,残部がZn及び不純物からなるのに対し,引用発明は,Fe,Al及び100mg/㎡以下に制限されたMnを含有し,残部がZn及び不純物からなる点。 (ウ) 相違点3(審 願発明は,Fe及びAlを含有し,残部がZn及び不純物からなるのに対し,引用発明は,Fe,Al及び100mg/㎡以下に制限されたMnを含有し,残部がZn及び不純物からなる点。 (ウ) 相違点3(審決の「相違点(ハ)」)本願発明は,「鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が20MPa 以上」 であるのに対し,引用発明は,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が不明である点。 第3 当事者の主張 1 審決の取消事由に係る原告の主張審決は,以下のとおり,引用発明の認定の誤り(取消事由1),相違点の看過等(取消事由2),本願発明の相違点3に係る構成についての容易想到性の判断の誤り(取消事由3),手続違背(取消事由4)があり,これらの誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。 (1) 引用発明の認定の誤り(取消事由1)審決は,引用例の表1の鋼1ないし鋼5(段落【0022】)及び特許請求の範囲の請求項1の記載に基づき,C含有量の下限は鋼3から,C含有量の上限は鋼5から,Si含有量の下限は鋼1又は鋼3から,Si含有量の上限は鋼4又は鋼5から,Mn含有量の下限は特許請求の範囲の請求項1の「Mn:0.1 質量%以上を含有する」から,Mn含有量の上限は鋼5から,P含有量の下限は鋼2から,P含有量の上限は鋼1,鋼3又は鋼5から,Al含有量の下限は鋼3又は鋼5から,Al含有量の上限は鋼2又は鋼4から,Ti含有量は鋼1,鋼3又は鋼4から,Nb含有量は鋼1,鋼4又は鋼5から,Mo含有量は鋼1,鋼4又は鋼5から,それぞれ求め,引用発明を上記第2の3の(2) のア記載のとおり認定した。 しかし,審決の認定は誤りである。 すなわち,引用例の表1には,鋼1ないし鋼5という互いに独立した5つの組成が記載され ,それぞれ求め,引用発明を上記第2の3の(2) のア記載のとおり認定した。 しかし,審決の認定は誤りである。 すなわち,引用例の表1には,鋼1ないし鋼5という互いに独立した5つの組成が記載されるが,一般に,合金は,その成分組成が異なれば,その特性が大きく異なることが通常であり,鋼のような合金の特性は,個々の合金元素が他の合金元素の影響を受けることなく独立して作用することにより決定されるというものではない。そうすると,鋼の組成は,所定の含有量を有する合金元素の組合せが一体のものとして技術的意義を有し,個々の元素の含有量が単体で技術的意義を有するものではないから,審決のように,技術的意義を喪失させるまでに発明特定事項を細分 化し,鋼1ないし鋼5について元素毎に最小値と最大値とを求めることは引用発明の認定の手法として適切ではない。 また,鋼1ないし鋼5について元素ごとに最小値と最大値とを求めたとしても,当該最小値と最大値とで決定される範囲の含有量を有する特定の元素と当該最小値と最大値とで決定される範囲の含有量を有する他の元素との「組合せ」は記載されていないから,当該最小値と最大値とで決定される範囲の含有量を有する特定の元素と当該最小値と最大値とで決定される範囲の含有量を有する他の元素とを組み合せた組成が記載されているとはいえない。審決は,これらの含有量の範囲を有する個々の元素を組み合わせた鋼組成を有する一つの発明が存在するとして,引用発明を認定した。 以上のとおり,審決の引用発明の認定には,誤りがある。 (2) 相違点の看過等(取消事由2)審決は,「鋼板のC,Si,Mn,P及びsol.Alの含有量,並びに,合金化溶融亜鉛めっき層のFe及びAlの含有量も重複する」(審決5頁3ないし4行)として,本願発明と引用発明との相違点 事由2)審決は,「鋼板のC,Si,Mn,P及びsol.Alの含有量,並びに,合金化溶融亜鉛めっき層のFe及びAlの含有量も重複する」(審決5頁3ないし4行)として,本願発明と引用発明との相違点を上記第2の3の(2) のウ記載の3点のみと認定した。 しかし,審決の認定は誤りである。 すなわち,審決は,本願発明における鋼板のC,Si,Mn,P及びsol.Alの含有量,並びに,合金化溶融亜鉛めっき層のFe及びAlの含有量の数値範囲と,引用発明における鋼板のC,Si,Mn,P及びsol.Alの含有量,並びに,合金化溶融亜鉛めっき層のFe及びAlの含有量の数値範囲とが,「重複する」ことのみをもって一致点と認定しているが,引用発明の発明特定事項の数値範囲と本願発明の発明特定事項の数値範囲とが重複することのみをもって,当該発明特定事項について一致点とすることはできない(東京高等裁判所平成14年(行ケ)第119号事件平成15年5月30日判決参照)。 本願発明と引用発明とは鋼板の組成及び合金化溶融亜鉛めっき層の組成において相違する。すなわち,①鋼板の組成に関し,本願発明は「C:0.05~0.25%」を含 有するのに対し,引用発明は「C:0.03~0.18%」を含有する点,②鋼板の組成に関し,本願発明は「Si:0.02~0.20%」を含有するのに対し,引用発明は「Si:0~1.0%」を含有する点,③鋼板の組成に関し,本願発明は「Mn:0.5~3.0%」を含有するのに対し,引用発明は「Mn:1.0~3.1%」を含有する点,④合金化溶融亜鉛めっき層の化学組成に関し,本願発明は「Fe:11~15%」を含有するのに対し,引用発明は「Fe:8~15%」を含有する点,及び,⑤めっき層の化学組成に関し,本願発明は「Al:0.20~0.45%」を含有するの 学組成に関し,本願発明は「Fe:11~15%」を含有するのに対し,引用発明は「Fe:8~15%」を含有する点,及び,⑤めっき層の化学組成に関し,本願発明は「Al:0.20~0.45%」を含有するのに対し,引用発明は「Al:0.1~0.5%」を含有する点という,合計5つの相違点が存在する。にもかかわらず,審決は,これらの相違点を看過し,相違点を解消することについての検討をしていない。 したがって,審決には,上記5つの相違点を看過し,これらの相違点に係る本願発明の容易想到性を検討しなかった違法がある。 (3) 本願発明の相違点3に係る構成についての容易想到性の判断の誤り(取消事由3)ア審決は,引用例の「耐パウダリング性の劣化(プレス加工時におけるめっき剥離量の増大)」,「耐パウダリング性(めっき密着性)」,「<めっき密着性(耐パウダリング性)>」との記載のみから,引用例における「パウダリング」が鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面におけるめっきの剥離現象を意味するものと認定し,これを前提に,本願発明と引用発明の相違点について,「鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が高いことにより,耐パウダリング性が達成されることが理解できる。すると,引用発明は,耐パウダリング性を目的とするから,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が高いものであるといえる。そうであれば,引用発明において,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度の高さの程度を,20Mpa 以上と数値範囲により限定することに何ら困難性は認められず,また,20Mpa という下限値に格別の技術的意義があるものと認められない。」として,相違点3は,引用例のその他の記載から当業者が適宜容易になし得たことであると判断した(審決6頁5ないし21行)。 しかし,審決 限値に格別の技術的意義があるものと認められない。」として,相違点3は,引用例のその他の記載から当業者が適宜容易になし得たことであると判断した(審決6頁5ないし21行)。 しかし,審決の認定・判断は誤りである。 すなわち,従来の技術常識における「パウダリング」は,めっき層内におけるめっきの剥離現象を意味するものであって,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面におけるめっきの剥離現象を意味するものではなく(甲9のPhoto.2),従来の技術常識における「耐パウダリング性」及び「めっき密着性」は,めっき層内におけるめっきの剥離を抑制する性質のことであって,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面におけるめっきの剥離を抑制する性質のことではないから,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度とは無関係である。 そして,引用例に記載された発明は,甲9と同様に曲げ試験により評価されていることから,従来の技術常識における「パウダリング」に関する発明である。したがって,引用例における「耐パウダリング性」及び「めっき密着性」も,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度とは無関係である。 なお,引用例における「パウダリング」がめっき層内におけるめっきの剥離現象を意味するものであって,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面におけるめっきの剥離現象を意味するものでないことは,引用例の記載全体から理解できる(【請求項1】,段落【0006】,【0011】ないし【0013】)。すなわち,引用例における「パウダリング」は,合金化しためっき層中のMn量が100mg/㎡を超えてしまうことのみによって惹き起こされる現象,合金化溶融亜鉛めっき層の性状のみによって決定される現象であり,合金化溶融亜鉛めっきの基材である鋼板の性状及び鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層と /㎡を超えてしまうことのみによって惹き起こされる現象,合金化溶融亜鉛めっき層の性状のみによって決定される現象であり,合金化溶融亜鉛めっきの基材である鋼板の性状及び鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面の性状に依存しない。ここで,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が,合金化溶融亜鉛めっき層の性状によってのみ決定され,合金化溶融亜鉛めっきの基材である鋼板の性状及び鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面の性状に依存しないということはあり得ないから,引用例における「パウダリング」によるめっき剥離が,合金化溶融亜鉛めっき層内において生じるものであり,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面において生じるものでないことは明白である。 したがって,審決は,引用例における「パウダリング」が鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面におけるめっきの剥離現象を意味するとの誤った認定を前提として,本願発明と引用発明との相違点3に関する容易想到性を判断した誤りがある。 イ審決は,引用例の発明例2の合金化溶融亜鉛めっき層のFe量が,本願発明のものと異なることについて,引用例の特許請求の範囲の請求項1に記載される条件(「Mn:1.0 質量%以上を含有する高張力鋼板」,「合金化溶融亜鉛めっき層が,Fe:8~15 質量%,Al:0.1 ~0.5 質量%を含み,かつ100mg/㎡以下に制限されたMnを含有する」)を満たす鋼板,及び,合金化溶融亜鉛めっき層であれば,適宜組み合わせて採用し得るとして,「発明例3~5の合金化溶融亜鉛めっき層を,上記番号2の組成の鋼板に採用した高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板は,開示されているといえる。すると,引用例の実施例には,本願発明の鋼板と,本願発明の合金化溶融亜鉛めっき層の組み合わせが実質的には開示されているものである。 に採用した高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板は,開示されているといえる。すると,引用例の実施例には,本願発明の鋼板と,本願発明の合金化溶融亜鉛めっき層の組み合わせが実質的には開示されているものである。」と認定した(審決7頁19ないし33行)。 しかし,審決の認定は誤りである。 すなわち,引用例の特許請求の範囲の請求項1の条件を満たす鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき層は適宜組み合わせて採用し得るとすることは,引用例の特許請求の範囲の全域について引用発明を認定することにほかならず,このような認定手法は許されない。 また,仮に,「発明例3~5の合金化溶融亜鉛めっき層を,上記番号2の組成の鋼板に採用した高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板は,開示されている」としても,「上記番号2の組成の鋼板」は,Ti:0.04%,Nb:0.07%及びMo:0.2 %を含有する組成を有する(甲1の表1)から,「本願発明の鋼板と,本願発明の合金化溶融亜鉛めっき層の組み合わせが実質的には開示されている」とはいえない。 したがって,審決は,誤った認定手法により,「引用例の実施例には,本願発明の鋼板と,本願発明の合金化溶融亜鉛めっき層の組み合わせが実質的には開示されている」と認定し,これを前提として容易想到性を判断した誤りがある。 ウ審決は,引用例の「【実施例】・・・溶融亜鉛めっきを施してから,500 ℃,15秒加熱する合金化処理を行い,高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。」との記載のみから,「実施例では,『500 ℃』の合金化温度を適用したことが理解できる。」と認定し,これを前提として,「引用発明は,本願発明の上記Al量と,上記製造時の合金化温度の条件をともに満たす場合を包含するから,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が20Mpa 以上のものを包 定し,これを前提として,「引用発明は,本願発明の上記Al量と,上記製造時の合金化温度の条件をともに満たす場合を包含するから,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が20Mpa 以上のものを包含しているといえる。」と認定した(審決9頁1ないし7行)。 その上で,審決は,「引用発明が,本願発明と同程度に硬質の『合金化溶融亜鉛めっき層』,及び,本願発明と同程度に高い『鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度』を包含する」,「本願発明の合金化溶融亜鉛めっき層においては,『Fe:11~15%』であることが硬質の程度に関連することが理解できるところ,引用発明の合金化溶融亜鉛めっき層は,『Fe:8~15 %』である。すると,引用発明は,本願発明と同程度に硬質の合金化溶融亜鉛めっき層を包含しているといえる。」,「引用発明は,本願発明の上記Al量と,上記製造時の合金化温度の条件をともに満たす場合を包含するから,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が20Mpa 以上のものを包含しているといえる。」として,引用発明の発明特定事項の数値範囲に本願発明の発明特定事項の数値範囲が包含されることのみをもって,当該発明特定事項が一致する,又は,容易想到であると判断した(審決8頁6ないし8行,17ないし21行,9頁4ないし7行)。 しかし,審決の認定は誤りである。 引用例の段落【0019】には,「合金化温度:490~550℃」,「めっき層中のFe含有量は合金化条件の調整により制御した」と記載されるから,「実施例では,『500 ℃』の合金化温度を適用したことが理解できる。」とはいえない。むしろ,「めっき浴中のAl濃度が0.13%を超えると,めっき被膜中へのAl濃化が過剰に進行して合金化速度の低下をもたらし,通常のライン速度では上記Fe含有量を実現する が理解できる。」とはいえない。むしろ,「めっき浴中のAl濃度が0.13%を超えると,めっき被膜中へのAl濃化が過剰に進行して合金化速度の低下をもたらし,通常のライン速度では上記Fe含有量を実現するために合金化処理温度を530 ℃超とせざるを得なくなる場合があり,・・・鋼板と 合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が20Mpa 以上とすることが困難になる」(引用例の段落【0051】)ところ,引用例の段落【0019】には,「亜鉛浴中Al含有量:0.14質量%」と記載されているから,引用例の「実施例では,『530℃超』の合金化温度を適用したことが理解できる。」といえるのであり,審決の認定は前提を誤ったものである。 また,広範な引用発明の発明特定事項の数値範囲に本願発明の発明特定事項の数値範囲が包含されることのみをもって,当該発明特定事項が一致しているとすることはできず,本願発明が容易想到であると判断するためには,主たる引用発明,従たる引用発明,技術常識ないし周知技術の各内容の検討に当たっても,特許発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,特許発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるから(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10153号事件平成21年3月25日判決参照),引用発明の発明特定事項の数値範囲に本願発明の発明特定事項の数値範囲が包含されることのみをもって,本願発明が引用発明から容易想到であると判断することはできない。 したがって,審決は,本願発明と引用発明との相違点に関する容易想到性の判断手法に誤りがあるというべきである。 (4) 手続違背(取消事由4)審決は,特許法159条2項が準用する同法50条本文の規定に違反してなされた手 発明と引用発明との相違点に関する容易想到性の判断手法に誤りがあるというべきである。 (4) 手続違背(取消事由4)審決は,特許法159条2項が準用する同法50条本文の規定に違反してなされた手続違背がある。 すなわち,平成20年8月29日付け拒絶理由通知書(甲4)には,特許法29条2項に関する拒絶理由として,引用例の表1及び表2の鋼2(発明例2)を引用発明として,鋼板の組成,亜鉛めっき層の組成,合金化処理の温度が本願の請求項1,2,4に係る発明において特定された範囲内にあることを根拠として,本願発明で規定する界面密着強度が達成される蓋然性が高いと推測されることが記載されているものと理解される。 一方,審決は,引用例1の表1及び表2の鋼2(発明例2)を引用発明とするものではなく,引用発明を上記第2の3の(2) のアのとおり認定し,「引用発明において,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度の高さの程度を,20Mpa 以上と数値範囲により限定することに何ら困難性は認められず,また,20Mpa という下限値に格別の技術的意義があるものと認められない。」として,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものである。 したがって,平成20年8月29日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶理由は,審決の理由とは実質的に異なる理由であるから,審決は,特許法159条2項が準用する同法50条本文の規定に違反してなされたものである。 2 被告の反論原告の主張する取消事由は,以下のとおり,いずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。 (1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対しア表1記載の鋼1ないし鋼5のそれぞれについて,その元素の質量%を認定することなく,各元素ごとの最小質量 ,審決に取り消されるべき違法はない。 (1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対しア表1記載の鋼1ないし鋼5のそれぞれについて,その元素の質量%を認定することなく,各元素ごとの最小質量%と最大質量%の範囲で組成を認定した審決の方法には,以下のとおり,誤りはない。 引用例には,「【請求項1】Mn:1.0 質量%以上を含有する高張力鋼板の少なくとも片方の面にめっき付着量:35~70g/㎡の合金化溶融亜鉛めっき層を有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって,前記合金化溶融亜鉛めっき層が,Fe:8~15質量%,Al:0.1~0.5質量%を含み,かつ100mg/㎡以下に制限されたMnを含有することを特徴とする高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板。」の記載があり,「Mn:1.0 質量%以上を含有する高張力鋼板の少なくとも片方の面に,合金化溶融亜鉛めっき層を有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって,前記合金化溶融亜鉛めっき層が,Fe:8~15 質量%,Al:0.1~0.5質量%を含み,かつ100mg/㎡以下に制限されたMnを含有することを特徴とする高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板」が開示されているといえる。 ここで,合金化溶融亜鉛めっきが施される「Mn:1.0 質量%以上を含有する高張力鋼板」の組成について,具体的にみると,引用例の段落【0018】の「【実施例】以下,実施例に基づいて本発明を説明する。表1に示す組成の鋼スラブを・・・熱間圧延し・・酸洗後・・・冷間圧延した。次いで,連続溶融亜鉛めっきラインにて・・・再結晶焼鈍ののち,溶融亜鉛めっきを施してから・・・合金化処理を行い,高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。」の記載から,実施例には,表1に示す組成の鋼を用いたことが示され,当該表1には,番号1ないし6の鋼の ち,溶融亜鉛めっきを施してから・・・合金化処理を行い,高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。」の記載から,実施例には,表1に示す組成の鋼を用いたことが示され,当該表1には,番号1ないし6の鋼の組成として,C,Si,Mn,P,Al,Ti,Nb,B,Moの各元素の含有量が記載されており,番号6の極低炭鋼を除く他の番号1~5の鋼には,C,Si,Mn,P,Alの各元素が共通して含有されているから,これら共通元素の含有量範囲は,「Mnの含有量の上限が3.1質量% であって,他に,C:0.03~0.18質量%,Si:0~1.0質量%,P:0.005~0.01質量% ,Al:0.03~0.04質量%を含有すること」に相当する範囲を示している。また,それ以外の元素のTi,Nb,B,Moは,番号1,4の鋼には含有されていない。そうすると,引用例記載の「Mn:1.0 質量%以上を含有する高張力鋼板」としては,Mn量でいえば,「1.0~3.1質量%」の含有量範囲のものが実施例に開示されており,「C,Si,Mn,P,Alを含有し,残部がFe及び不純物からなるものを用い得ること」が開示されているといえる。 上記のとおり,引用例に開示された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は,「質量%で,C:0.03~0.18%,Si:0~1.0%,Mn:1.0~3.1%,P:0.005~0.01 %及びAl:0.03~0.04%を含有し,残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する」ものであり,その表面に形成された合金化溶融亜鉛めっき層は,「質量%でFe:8~15%,Al:0.1~0.5%,及び100mg/㎡以下に制限されたMnを含有し,残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有する」ものであるといえる。 したがって,引用例の記載を総合すれば,引用例には,「鋼板表面に合金化溶融 ,及び100mg/㎡以下に制限されたMnを含有し,残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有する」ものであるといえる。 したがって,引用例の記載を総合すれば,引用例には,「鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって,前記鋼板が質量%で,C:0.03~0.18%,Si:0~1.0%,Mn:1.0~3.1%,P:0.005~0.01 %及びAl: 0.03~0.04%を含有し,残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し,かつ前記合金化溶融亜鉛めっき層が,質量%でFe:8~15 %,Al:0.1~0.5%,及び100mg/㎡以下に制限されたMnを含有し,残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板。」とする引用発明が記載されているとした審決の認定に誤りはない。 イ確かに,引用例の表1に記載された実施例ごとの元素の含有量をみれば,引用例の表1は,「組成が独立して記載されている」と理解する余地がある。 しかし,引用例の特許請求の範囲の請求項1には,「Mn:1.0 質量%以上を含有する高張力鋼板」を用いた「高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板」が記載され,Mn以外の合金元素については,段落【0013】に,「以下に示す成分範囲のものが好適である。C含有量は,・・・組織強化や析出強化を目的とする場合にはC:0.02~0.20質量%が好ましい。」,段落【0014】に,「Siは,高張力鋼板では0~1.0質量%の範囲で含有されることが多いが,多量に含まれると溶融めっき性や合金化を阻害する傾向があるので,極力少なくするのが好ましい。またPは,高張力鋼板では0~0.10 質量%の範囲で含有されることが多いが,多量に含むと合金化を阻害する傾向があるので,少ない方が好ましい。さらにTi, 傾向があるので,極力少なくするのが好ましい。またPは,高張力鋼板では0~0.10 質量%の範囲で含有されることが多いが,多量に含むと合金化を阻害する傾向があるので,少ない方が好ましい。さらにTi,Nb,Cr,Mo,Cu,Ni,B,Al,S,N,0,V,Zr,Sbなどの元素は,必要に応じて,いずれも0.1質量%以下の範囲で含有してもよい。」と記載されるように,一定の数値範囲による含有量が示されている。 すなわち,引用例記載の高張力合金化亜鉛めっき鋼板は,Mn等の元素を上述した範囲で含有する高張力鋼板に適用されるものであって,実施例にその具体例として番号1ないし6の鋼が記載されているが,それが適用範囲の全てではない。したがって,引用例の記載を総合して引用発明を認定した審決の手法に誤りはない。 原告の主張は,引用例の表1において独立して記載された5つの鋼組成の数値だけが引用例に開示された発明であるとして,引用例の他の記載を除外して論ずるものであり,失当である。 (2) 取消事由2(相違点の看過等)に対し原告は,本願発明と引用発明とは鋼板の組成及び合金化溶融亜鉛めっき層の組成においても相違し,①鋼板の組成に関し,本願発明は「C:0.05~0.25%」を含有するのに対し,引用発明は「C:0.03~0.18%」を含有する点,②鋼板の組成に関し,本願発明は「Si:0.02~0.20%」を含有するのに対し,引用発明は「Si:0~1.0%」を含有する点,③鋼板の組成に関し,本願発明は「Mn:0.5~3.0%」を含有するのに対し,引用発明は「Mn:1.0~3.1%」を含有する点,④合金化溶融亜鉛めっき層の化学組成に関し,本願発明は「Fe:11~15%」を含有するのに対し,引用発明は「Fe:8~15 %」を含有する点,及び,⑤めっき層の化 n:1.0~3.1%」を含有する点,④合金化溶融亜鉛めっき層の化学組成に関し,本願発明は「Fe:11~15%」を含有するのに対し,引用発明は「Fe:8~15 %」を含有する点,及び,⑤めっき層の化学組成に関し,本願発明は「Al:0.20~0.45%」を含有するのに対し,引用発明は「Al:0.1~0.5%」を含有する点という,合計5つの相違点が存在することを前提として,審決は,相違点を看過した誤りがある旨主張する。 しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。 原告が上記において指摘する各元素に関する引用発明の含有量は,本願発明の数値範囲に含まれており,両発明の含有量範囲が重複している。本願発明の各元素の含有量範囲は,その数値範囲内において同等の作用や機能を示すものとして特定された事項であるから,引用発明の数値範囲と重複する以上,本願発明と引用発明とは,その元素の組成に関する相違はない。 したがって,5つの元素の組成につき相違点が存在するという原告の主張には理由がなく,審決の相違点の認定に誤りはない。 (3) 取消事由3(本願発明についての容易想到性の判断の誤り)に対し審決の容易想到性の判断は,以下のとおり,誤りはない。 ア相違点3に係る容易想到性の判断の誤りについて(ア) 「耐パウダリング」及び「めっき密着性」は,めっき層と鋼板とが結合する界面における密着性の程度と関係する性質であることについて溶融めっき法により鋼板に亜鉛のめっき層を形成した後,それを加熱すると鋼板 中の鉄(Fe)が亜鉛めっき層内に拡散し,亜鉛(Zn)と合金化することによって,亜鉛めっき層内にFe-Zn合金(これを「Fe-Zn金属間化合物」,「Fe-Zn化合物」ということもある。)が界面付近に形成されること,この合金を含む亜鉛めっき層が,合金 と合金化することによって,亜鉛めっき層内にFe-Zn合金(これを「Fe-Zn金属間化合物」,「Fe-Zn化合物」ということもある。)が界面付近に形成されること,この合金を含む亜鉛めっき層が,合金化溶融亜鉛めっき層であること,加熱時間が長くなると,Fe拡散及び合金化の進行に伴い,Fe含有量の多いFe-Zn合金が形成されること,Fe含有量の多い順に,Γ(ガンマ)相(Fe3Zn10),δ1(デルタワン)相(FeZn7),ζ(ゼータ)相(FeZn13)があり,Znからなる相はη(イータ)相ということが認められる(乙1の146,147頁及び乙2の55,56頁)。 ところで,このようなFe-Zn合金は,鋼板と比べて変形能が低いため,プレス加工した際に亀裂や剥離が生じることがある。鋼板から脱落した剥離物について,小さく粉状になって剥離した場合を「パウダリング」,大きく薄片状に剥離した場合を「フレーキング」といい,剥離物の形態及び大きさによって大別される。剥離原因としては,「パウダリング」は,硬くて脆いFe-Zn合金が割れてしまうことにあり,「フレーキング」は,表層にη相やζ相など,比較的軟らかい相が多く存在することにより,めっきと金型との摩擦抵抗が大きくなることにある(乙1ないし3,引用例の段落【0015】,本願明細書の段落【0004】,【0046】)。 以上のように,「パウダリング」とは,めっき層が粉状になって鋼板から剥離する現象をいうのであって,その原因は,界面付近に形成されたΓ相等のFe-Zn合金にあるから,「パウダリング」による剥離は,めっき層と鋼板との密着性が損なわれたことに起因するといえる。してみると,「耐パウダリング」あるいはそれに付随して「めっき密着性」といえば,めっき層と鋼板とが結合する界面における密着性の程度と関係する性質で 鋼板との密着性が損なわれたことに起因するといえる。してみると,「耐パウダリング」あるいはそれに付随して「めっき密着性」といえば,めっき層と鋼板とが結合する界面における密着性の程度と関係する性質であることが理解できる。 そこで,引用例の段落【0002】,【0005】,【0020】及び【0021】の記載によると,引用例記載の「耐パウダリング性」とは,プレス加工時におけるめっき剥離を抑制する性質であって,これが「めっき密着性」に関連する特性であること,めっき密着性に優れていればプレス加工時のめっき剥離を抑制できる ことが理解できる。そして,パウダリングによる剥離は,めっき層と鋼板との界面における密着性の程度に関係するから,この密着性の程度を「界面密着強度」によって評価できる。 そうすると,引用例の記載から,「鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が高いことにより,耐パウダリング性が達成される」ということができる。 (イ) 原告の主張についてa 原告は,「引用例における『パウダリング』がめっき層内におけるめっきの剥離現象を意味するものである」,「引用例における『耐パウダリング性』及び『めっき密着性』は,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度とは無関係である」旨主張するが,失当である。 「パウダリング」とは,上記(ア) のとおり,通常,鋼板のめっき層が粉状になって剥離する現象をいうから,鋼板とめっき層との界面における剥離を含む。すなわち,パウダリングによる剥離は,めっき層内に形成された硬くて脆いFe-Zn合金(化合物)によるものであるから,めっき層の途中で割れて剥離するだけではない。 Fe-Zn合金は,めっき層と鋼板との界面に形成されるので,それを起点として亀裂が生じて,その結果めっき層が剥離する場合がある(乙3) よるものであるから,めっき層の途中で割れて剥離するだけではない。 Fe-Zn合金は,めっき層と鋼板との界面に形成されるので,それを起点として亀裂が生じて,その結果めっき層が剥離する場合がある(乙3)。 このように,パウダリングによる剥離は,粉状という剥離物の形態や大きさによって特徴付けられるところ,その剥離現象として「めっき層内におけるめっきの剥離現象」が生じるとしても,めっき層自体が剥離するのであるから,「鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面における剥離現象」も生じるといえるのであり,引用例記載の「パウダリング」について「鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面における剥離現象」を除外するという共通の技術常識が存在していたとはいえない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 b 原告は,「引用例における『パウダリング』は,合金化しためっき層中のMn量が100mg /㎡を超えてしまうことのみによって惹き起こされる現象,合金化溶融亜鉛めっき層の性状のみによって決定される現象であり,合金化溶融亜鉛めっきの 基材である鋼板の性状及び鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面の性状に依存しない」旨主張するが,失当である。 引用例の段落【0006】,【0011】等の記載は,合金化しためっき層中のMn量を一定値以下に抑制することが耐パウダリング性に有効であることを述べたものであり,パウダリングの発生を防止する解決手段を説明した記載である。つまり,パウダリングは,めっき層内の剥離だけでなく,界面からの剥離を含むところ,引用例において合金化しためっき層中のMn量を抑制することによりパウダリングが解消されたということは,界面からの剥離現象が解消されていることでもある。そうすると,引用例において,合金化溶融亜鉛めっき層中のMn量がパウダリングを引き 中のMn量を抑制することによりパウダリングが解消されたということは,界面からの剥離現象が解消されていることでもある。そうすると,引用例において,合金化溶融亜鉛めっき層中のMn量がパウダリングを引き起こす目安であるという認識が示されていたとしても,合金化溶融亜鉛めっき層中のMnの作用は,めっき層内の剥離に限定されるものではないから,パウダリング現象が合金化溶融亜鉛めっき層の性状のみによって決定されるとはいえない。めっき層の剥離である以上,鋼板の性状や界面の性状にも依存するというべきである。 また,引用例のMn量抑制が鋼板や界面の性状にも関係することは,引用例において,耐パウダリング性に関して,①鋼板表面に形成されたMn濃化層のMnがめっき層に移動してめっき層中に取り込まれること(【0006】),②合金化時のFe拡散挙動に対してめっき層中あるいは鋼板表層のMnが関与していること(【0011】),③Mnの表面濃化を抑制すること,地鉄表層のMn含有量を低下させること(【0017】)のように,鋼板表面に存在するMnが界面を越えてめっき層中に拡散することや鋼板表面のMn量を抑制することが記載されていることからもわかる。 したがって,引用例の記載から,合金化溶融亜鉛めっき層中のMn量を抑制するとの解決手段は,合金化溶融亜鉛めっき層の性状に留まらず,鋼板の性状や界面の性状とも関係すると理解すべきであり,原告の主張は失当である。 (ウ) 以上のとおり,審決の相違点3に係る容易想到性の判断に,原告主張の誤りはない。 イ原告は,「審決は,誤った認定手法により,『引用例の実施例には,本願発 明の鋼板と,本願発明の合金化溶融亜鉛めっき層の組み合わせが実質的には開示されている』と認定し,これを前提として容易想到性を判断した誤りがある。」と主張す 『引用例の実施例には,本願発 明の鋼板と,本願発明の合金化溶融亜鉛めっき層の組み合わせが実質的には開示されている』と認定し,これを前提として容易想到性を判断した誤りがある。」と主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 審決は,本願発明の容易想到性の判断をした後,それに続けて,原告の主張に対して上記説示を補足的に述べたものであり,仮にこの説示部分に不適切な点があったとしても,相違点に係る容易想到判断の誤りとはならない。 また,引用発明の認定に誤りがないことは,上記(1) のとおりであり,その認定の範囲内であれば,条件を満たす鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき層を組み合わせたものは引用例に開示されているというべきである。引用例の表1に記載された鋼板の組成及び合金化溶融亜鉛めっき層の組成は,引用発明の範囲内のものであるから,それらの組み合わせも引用例に実質的に開示されているといえる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 ウ原告は,「引用例の『実施例では,『530℃超』の合金化温度を適用したことが理解できる。』といえるのであるから,審決の認定は,前提を誤ったものである。」,「引用発明の発明特定事項の数値範囲に本願発明の発明特定事項の数値範囲が包含されることのみをもって,本願発明が引用発明から容易想到であると判断することはできない。」として,審決は,本願発明と引用発明との相違点3に関する容易想到性の判断手法に誤りがある旨主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 (ア) 引用例の段落【0018】には,「表1に示す組成の鋼」に対する合金化処理条件として,「500 ℃,15秒加熱する」と明示されているから,審決が「実施例では,『500 ℃』の合金化温度を適用したことが理解できる。」とした認定に誤りはない。確かに,段落【0 する合金化処理条件として,「500 ℃,15秒加熱する」と明示されているから,審決が「実施例では,『500 ℃』の合金化温度を適用したことが理解できる。」とした認定に誤りはない。確かに,段落【0019】には,「めっき条件,合金化処理条件を以下に示す。」として,「合金化温度:490~550℃」,「合金化時間:10~30秒」との記載はあるが,当該条件のうち数値範囲で記載された事項は,その2つだけであり, 合金化温度及び時間を調整することにより,めっき層中のFe-Zn合金組成を制御できることから,それに続く段落【0019】の「なお,めっき層中のFe含有量は合金化条件の調整により制御した。」の記載に照らせば,上記の合金化温度及び時間の数値範囲は,めっき層中のFe含有量を所定値にする限りで調整可能な合金化条件を記載したものであると理解するのが合理的である。 原告は,引用例の段落【0051】の記載に基づいて,引用例に記載された合金化温度は「530 ℃超」と主張するが,同主張は引用例の記載に基づくものではない。 (イ) また,上記審決の説示は,原告の主張に対して補足的に述べたものにすぎず,仮にこの説示に不適な点があったとしても,相違点に係る容易想到判断の誤りとはならない。 そして,合金化溶融亜鉛めっき層中のFe含有量については,本願発明と引用発明とは重複する部分があるから,両発明における当該めっき層は,硬質の点で同程度のものであり,また,当該めっき層中のAl量及び合金化温度について両発明に重複する部分があるから,それらに依拠する界面密着強度の点でも「20Mpa 以上」になるといえる。 (ウ) したがって,原告の主張は理由がない。 (4) 取消事由4(手続違背)に対し原告は,平成20年8月29日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶理 点でも「20Mpa 以上」になるといえる。 (ウ) したがって,原告の主張は理由がない。 (4) 取消事由4(手続違背)に対し原告は,平成20年8月29日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶理由は,審決の理由とは実質的に異なる理由であるから,審決は,特許法159条2項が準用する同法50条本文の規定に違反してなされたものである,と主張する。 しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。 原告は,平成20年8月29日付け拒絶理由通知書に示された引用発明について,引用例1の表1及び表2の鋼2(発明例2)であると主張するが,上記拒絶理由通知書は,引用例について,「[引用文献]1(特に,【特許請求の範囲】【0019】~【0023】参照)」と引用箇所を明示しており,引用例1の表1及び表2(【0022】,【0023】)には,鋼1~鋼5(発明例1~5)が記載されて いるから,上記拒絶理由通知書における引用発明が表1及び表2の鋼2(発明例2)だけを意味すると解する理由はない。 この点に関しては,平成21年5月13日付け拒絶査定(甲7)でも,原告が意見書(甲5)において主張した「指摘1」に対して,審査官は,同旨の説示をしている。 したがって,上記拒絶理由通知書における特許法29条2項の拒絶理由は,引用例1の表1及び表2の鋼2(発明例2)を引用発明とするものとはいえず,原告の上記主張は前提を欠き,失当である。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由1(引用発明の認定の誤り)及び取消事由2(相違点の看過等)に理由があり,これらの誤りは結論に影響を及ぼすから,審決は取り消されるべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 認定事実(1) 本願明細書(甲3,6)には,以下の記載があることが認められる。 の誤りは結論に影響を及ぼすから,審決は取り消されるべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 認定事実(1) 本願明細書(甲3,6)には,以下の記載があることが認められる。 ア特許請求の範囲の【請求項1】の記載は,上記第2の2のとおりである。 イ 【発明が解決しようとする課題】【0012】合金化溶融亜鉛めっき鋼板は軽量化が強く要望されているところ,合金化溶融亜鉛めっき鋼板のうちの母材に用いる鋼板に関しては,高強度化を図ることによって,軽量化された鋼板が数多く開発されている。 ウ 【0013】しかしながら,・・・高強度鋼板を母材に用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板は,プレス成形時の被膜損傷が大きくなる問題が生じることが想定される。 エ 【0014】・・・軟鋼板を母材に用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関して,被膜のめっき層の合金相を規定するものであるが,高強度鋼板を母材に用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に適用しても,プレス成形時の耐パウダリング性の改善効果は殆ど認められないことが判明した。 オ 【0016】本発明は,このような問題点を解決することを目的としてなされたものであり,特に高張力鋼板特有の耐パウダリング特性を改善したプレス性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法を提供するものである。 カ 【課題を解決するための手段】・・・【0018】合金化溶融亜鉛めっき鋼板の母材が軟鋼板である場合には,耐パウダリング性を改善するために,被膜のめっき層中のFeの含有量を制限するとともに,Г相の形成量を抑制することが有効である。これに対して,降伏点(YP)が350Mpaを超えるような高強度鋼板を母材とする場合には,圧縮変形に耐えうる軟質な被膜のめっき層とするよりは,極力金型との摺動抵抗を下げ を抑制することが有効である。これに対して,降伏点(YP)が350Mpaを超えるような高強度鋼板を母材とする場合には,圧縮変形に耐えうる軟質な被膜のめっき層とするよりは,極力金型との摺動抵抗を下げうる比較的硬質の被膜のめっき層とし,そして,母材とめっき層の界面の密着力を高めることが有効ではないかとの着想の下に,このような構造と性質を有する被膜のめっき層について検討した。 キ 【0019】まず,被膜のめっき層を硬質化させるため,めっき層中のFeの含有量は11質量%以上に管理することが有効であることが判明した。・・・ク 【0020】・・・Cが粒界偏析しているような鋼中のC含有量が比較的高い高強度鋼板では,めっき浴中のAl濃度を高めても,鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面の凹凸増加を望むことができないため,界面密着強度の大幅な改善は困難であった。 ケ 【0021】鋼中のC含有量が比較的高い鋼種は,このような問題点がある。 さらに,高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板は板厚が厚いため,曲げ加工をすると,その際の曲げ戻し変形によって剪断応力が発生して,被膜の剥離が起こるという問題点もある。 コ 【0022】これらの問題を解決すべく,本発明者らは,種々検討の結果,母材となる鋼板の鋼中に0.02~0.2 質量%のSiを含有させることによって,合金化処理過程において,被膜のめっき層中のZnが母材となる鋼板の粒界へ拡散するのを助長し,鋼板とめっき層との界面の凹凸を増加させるとともに,鋼板の粒内への拡散があまり活発にならない530 ℃以下で合金化を終えることが有効な手段であるこ とを見出した。 サ 【発明を実施するための最良の形態】・・・【0033】A.本発明に係る鋼板の化学組成について以下に,本発明の高張力合金化溶融亜鉛 とが有効な手段であるこ とを見出した。 サ 【発明を実施するための最良の形態】・・・【0033】A.本発明に係る鋼板の化学組成について以下に,本発明の高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造法について,詳細に説明する。・・・化学組成における,「%」は特にことわりがない限り,「質量%」を示す。 シ 【0034】(1)母材となる鋼板の化学組成C:0.05~0.25%Cは低コストで強度向上に有効な元素である。C含有量が0.05%未満では強度向上の効果が十分ではないので含有量の下限を0.05%とする。好ましい下限は0.10%である。一方その含有量が0.25%を超えると切断や打ち抜き部の亀裂進展が大きくなる。このため含有量の上限を0.25%とする。好ましい上限は0.20%である。 ス 【0035】Si:0.02~0.20%・・・セ 【0036】Si含有量が0.02%未満ではこの界面密着強度の向上効果が十分ではないので,含有量の下限を0.02%とする。好ましい下限は0.04%である。一方,その含有量が0.20%を超えると合金化速度が著しく低下する・・・合金化処理時間を短縮するために合金化処理温度を上昇させると,操業性の低下もしくは上記界面密着強度の低下を招く。このため含有量の上限は0.20%とする。好ましい上限は0.10%である。 ソ 【0037】Mn:0.5~3.0%Mnは,鋼板の強度向上に有効な元素であるが,その含有量が0.5 %未満では強度向上の効果が十分ではないので,含有量の下限を0.5 %とする。一方,Mnの含有量が3.0 %を超えると,鋼板の脆化が生じるため,含有量の上限を3.0 %とする。・・・好ましい上限は2.5 %である。 タ 【0038】P:0.035%以下 %とする。一方,Mnの含有量が3.0 %を超えると,鋼板の脆化が生じるため,含有量の上限を3.0 %とする。・・・好ましい上限は2.5 %である。 タ 【0038】P:0.035%以下 Pは,任意添加元素である。0.02%以上含有させれば,高強度化に有効であるが,過剰に含有すると合金化速度が低下する・・・合金化処理時間を短縮するために合金化処理温度を上昇させる場合には操業性の低下もしくは上記界面密着強度の低下を招く。このため,Pの含有量を0.035 %以下とする。好ましい含有量は0.025 %以下である。 チ 【0040】S:0.01%以下Sは不純物でありその含有量は低い方が好ましい。S含有量が0.01%超ではMnSの析出が顕著になり鋼板の延性を劣化させるのでS含有量は0.01%以下とする。好ましい含有量は0.005 %以下である。 ツ 【0041】sol.Al:0.01~0.5%Alは脱酸剤として添加されるが,その含有量がsol.Alとして0.01%未満では脱酸が不十分となり介在物が増加し延性が低下する。一方,その含有量が0.5 %を超えるとコストが嵩む。このため,sol.Alの含有量を0.01%以上0.5 %以下とする。 テ 【0046】(2)被膜となるめっき層の化学組成Fe:11~15%被膜となる亜鉛めっき層中のFe含有量が11%未満の場合は,合金化処理後のめっき層の表層部に軟質部位が形成されやすくなり,摺動性が低下して被膜のめっき層が母材の鋼板との界面から剥離することによるフレーク状の剥離が増加する。したがって,Fe含有量の下限は11%である。一方,Fe含有量が15%を超えると,鋼板に曲げ加工が施された場合に,曲げ部の内側で合金化溶融亜鉛めっき層が圧縮変形を受けることによる の剥離が増加する。したがって,Fe含有量の下限は11%である。一方,Fe含有量が15%を超えると,鋼板に曲げ加工が施された場合に,曲げ部の内側で合金化溶融亜鉛めっき層が圧縮変形を受けることによるパウダリング剥離量が増加する。このため,Fe含有量の上限は15%とする。好ましい上限は14%である。 ト 【0047】Al:0.20~0.45%被膜となる亜鉛めっき層中のAl含有量が0.20%未満の場合は,めっき浴中における合金層の発達の抑制効果が不十分となり,めっき付着量の制御が困難となる。し たがって,Al含有量の下限は0.20%とする。好ましい下限は0.25%である。一方,Al含有量が0.45%を超える場合は,合金化速度が低下することから通常のライン速度では上記Fe含有量を実現するために合金化処理温度を530 ℃超とせざるを得なくなる場合があり,・・・鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度を20Mpa以上とすることが困難になる。したがって,Al含有量の上限は0.45%とする。好ましい上限は0.40%である。 (2) 引用例(甲1)の記載引用例(甲1)には,以下の記載がある。 ア 【特許請求の範囲】の【請求項1】Mn:1.0 質量%以上を含有する高張力鋼板の少なくとも片方の面にめっき付着量:35~70g/㎡の合金化溶融亜鉛めっき層を有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって,前記合金化溶融亜鉛めっき層が,Fe:8~15 質量%,Al:0.1 ~0.5 質量%を含み,かつ100mg/㎡以下に制限されたMnを含有することを特徴とする高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板。 イ 【0002】【従来の技術】・・・従来技術の鋼板に溶融亜鉛めっきを施すと,めっき前の鋼板表面にSiやMnなどの元素が濃化して,溶融めっき性 ることを特徴とする高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板。 イ 【0002】【従来の技術】・・・従来技術の鋼板に溶融亜鉛めっきを施すと,めっき前の鋼板表面にSiやMnなどの元素が濃化して,溶融めっき性の低下・・・や耐パウダリング性の劣化(プレス加工時におけるめっき剥離量の増大)を招き,自動車用への実使用に耐えるものではなかった。 ウ 【0004】【発明が解決しようとする課題】固溶強化元素のうち,Siについては,溶融めっき性に及ぼす悪影響が著しく大きいので,Si無添加または低Si量の成分系を採用することによって,問題のない高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることが可能である。しかし,Mnについては,高張力特性を維持するには,鋼板中の含有量を単純に低下させられない。具体的に必要なMn含有量の目安は,引張強さ440MPa級以上で1.0 質量%以上,590MPa級以上で1.6 質量%以上である。その結果,高Mn系の高張力溶融亜鉛めっき鋼板では,不めっき等の溶融めっき性不良や耐パウダリング性不良の問題は未だ解決されておらず,十分に満足できる品質のものを安定して得ることはできなかった。 エ 【0005】本発明は,従来技術が抱えていた上記の問題を有利に解決するもので,優れた溶融めっき性や耐パウダリング性を安定して得られる高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提案することを目的とする。 オ 【0006】【課題を解決するための手段】・・・耐パウダリング性の劣化は,焼鈍後めっき前の地鉄鋼板表面に形成されたMn濃化層のMnがめっき層に移動してめっき層中に取り込まれて,めっき層中のMn濃度が高くなるために引き起こされることを知見した。・・・鋼板のMn含有量が1.0 質量%を超えると,めっき浴中に意図的にMnを添加しなくても,合金化しためっき層中に に取り込まれて,めっき層中のMn濃度が高くなるために引き起こされることを知見した。・・・鋼板のMn含有量が1.0 質量%を超えると,めっき浴中に意図的にMnを添加しなくても,合金化しためっき層中に取り込まれるMn量を100mg/㎡を超えてしまい,溶融めっき性や耐パウダリング性への悪影響が顕著に現れる。 しかし,鋼板のMn含有量が1.0 質量%を超えるような場合でも,合金化しためっき層中に取り込まれるMn量を100mg/㎡以下に制限することにより,溶融めっき性と耐パウダリング性が改善されることを見いだした。・・・カ 【0009】【発明の実施の形態】鋼の強化は,固溶強化,組織強化,析出強化などの機構を通じて図られるが,その際一般に,鋼成分として,Si,Mn,P,Ti,Nb等の元素が添加される。これらの添加元素のうち,Siは特にめっき性を阻害する元素であるので,鋼板には積極的には含有させないか,含有させる場合でも少量のみとすれば,とくに他に大きな支障をもたらすことなくめっき性への阻害要因を排除できる。Pは,強化作用は大きいが,合金化を遅滞させるという不利な影響も有しているので,Siと同様に,鋼板中の含有量を低下させることで対処できる。 キ 【0010】一方,Mnは,SiやPに比べると,めっき性への悪影響の度合が小さいために,強化元素として一般的に多用されている。実用的な高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板におけるMn含有量は,通常,440MPa級以上で1.0 質量%以上,さらに590MPa級以上で1.6 質量%以上,780MPa級以上で1.9 質量%以上である。しかし,このような高Mn量を含有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板では,・・・合金化めっき層中のMn濃度の上昇を生じて,溶融めっき性や耐パウダリング性への悪影響が顕在化してくる。 %以上である。しかし,このような高Mn量を含有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板では,・・・合金化めっき層中のMn濃度の上昇を生じて,溶融めっき性や耐パウダリング性への悪影響が顕在化してくる。 ク 【0011】・・・鋼板のMn含有量が1.0 質量%以上の高い量であっても,合金化しためっき層中のMn量を100mg/㎡以下,好ましくは60mg/㎡以下に抑制することができれば,溶融めっき性や耐パウダリング性の問題は解消できることを見いだした。・・・ケ 【0012】・・・鋼板のMn含有量が1.0 質量%未満のときには,合金化しためっき層中のMn量は100mg/㎡を超えることはないので,本発明の効果は,鋼板のMn含有量が1.0 質量%以上,好ましくは1.6 質量%以上,さらに好ましくは1.9質量%以上といったより高張力の鋼板で発揮される。よって,本発明は,鋼板のMn含有量が1.0 質量%以上,好ましくは1.6 質量%以上,より好ましくは1.9 質量%以上のものに適用される。 コ 【0013】本発明は,鋼板の他の合金元素については特に制約する必要はないが,以下に示す成分範囲のものが好適である。C含有量は,高r値を目的とする場合,C:0.0010~0.0030質量%の範囲が好ましく,組織強化や析出強化を目的とする場合にはC:0.02~0.20質量%が好ましい。 サ 【0014】Siは,高張力鋼板では0~1.0質量%の範囲で含有されることが多いが,多量に含まれると溶融めっき性や合金化を阻害する傾向があるので,極力少なくするのが好ましい。またPは,高張力鋼板では0~0.10 質量%の範囲で含有されることが多いが,多量に含むと合金化を阻害する傾向があるので,少ない方が好ましい。さらにTi,Nb,Cr,Mo,Cu,Ni,B,Al しい。またPは,高張力鋼板では0~0.10 質量%の範囲で含有されることが多いが,多量に含むと合金化を阻害する傾向があるので,少ない方が好ましい。さらにTi,Nb,Cr,Mo,Cu,Ni,B,Al,S,N,O,V,Zr,Sbなどの元素は,必要に応じて,いずれも0.1 質量%以下の範囲で含有してもよい。 シ 【0018】【実施例】以下,実施例に基づいて本発明を説明する。表1に示す組成の鋼スラブを1200~1250℃に加熱後,3.5 mm厚に熱間圧延し,さらに酸洗後,1.2 mm厚まで冷間圧延した。次いで,連続溶融亜鉛めっきラインにて,830 ℃,30秒の再結晶焼鈍ののち,溶融亜鉛めっきを施してから,500 ℃,15秒加熱する合金化処理を行い,高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。ここで,・・・地鉄の表面にMn欠乏層を形成したもの(発明例)と,このような処理を行わずにMn濃 化層が残留したもの(比較例)を準備することにより,めっき層中のMn含有量を調整した。 ス 【0019】めっき条件,合金化処理条件を以下に示す。 ・浴温:460℃・浸入板温:465℃・亜鉛浴中Al含有量:0.14質量%・めっき時間:1秒・合金化温度:490~550℃・合金化時間:10~30秒なお,めっき層中のFe含有量は合金化条件の調整により制御した。 セ 【0020】かくして得られた合金化溶融めっき鋼板の・・・耐パウダリング性(めっき密着性)について調査した。また,この鋼板から・・・試験片を採取して引張試験を行った。得られた結果を,めっき層の組成とともに,表2に示す。 なお,各特性の評価方法は次のとおりである。・・・ソ 【0021】<めっき密着性(耐パウダリング性)>パウダリング試験(60度曲げ曲げ戻し試験を行い, 結果を,めっき層の組成とともに,表2に示す。 なお,各特性の評価方法は次のとおりである。・・・ソ 【0021】<めっき密着性(耐パウダリング性)>パウダリング試験(60度曲げ曲げ戻し試験を行い,蛍光X線分析により試験後の剥離Zn強度を測定)により・・・評価した。・・・タ 【0022】【表1】鋼 C SiMn P Al Ti Nb B Mo 1 0.07 - 2.0 0.01 0.035 - - - - 2 0.10 0.1 1.9 0.005 0.04 0.04 0.07 - 0.2 3 0.03 - 1.7 0.01 0.03 - 0.04 - 0.1 4 0.15 1.0 2.2 0.008 0.04 - - - - 5 0.18 1.0 3.1 0.01 0.03 0.12 - - -・・・チ 【0023】【表2】 めっき層組成(質量%)(判決注 「質量比」とあるのは,質量%の誤記と認める。)鋼・・・FeAlPb Mn 溶融めっき性耐パウダリング性(%) (%) (%) (mg/㎡)発明例1 1 8.5 0.18 0.002 20 1 1発明例2 2 10.0 0.25 0.003 30 1 1発明例3 3 11.5 0.35 0.004 40 1 1発明例4 4 12.0 0.20 0.005 60 1 2発明例5 5 11.0 0. 3 11.5 0.35 0.004 40 1 1発明例4 4 12.0 0.20 0.005 60 1 2発明例5 5 11.0 0.30 0.009 70 1 2・・・ 2 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について審決は,引用発明について,引用例の【表1】の鋼1ないし鋼5,及び,【特許請求の範囲】の【請求項1】の記載に基づき,C含有量の下限は鋼3から,C含有量の上限は鋼5から,Si含有量の下限は鋼1又は鋼3から,Si含有量の上限は鋼4又は鋼5から,Mn含有量の下限は【請求項1】の「Mn:0.1 質量%以上を含有する」から,Mn含有量の上限は鋼5から,P含有量の下限は鋼2から,P含有量の上限は鋼1,鋼3又は鋼5から,Al含有量の下限は鋼3又は鋼5から,Al含有量の上限は鋼2又は鋼4からそれぞれ求め,上記第2の3の(2) のア記載のとおり認定した。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 (1) 引用例の【表1】には,独立した5種の鋼が例示され,鋼1ないし鋼5には,含有されている元素の含有量が示されている。 ところで,合金においては,それぞれの合金ごとに,その組成成分の一つでも含有量等が異なれば,全体の特性が異なることが通常であって,所定の含有量を有する合金元素の組合せの全体が一体のものとして技術的に評価されると解すべきである。本件全証拠によっても,「個々の合金を構成する元素が他の元素の影響を受け ることなく,常に固有の作用を有する」,すなわち,「個々の元素における含有量等が,独立して,特定の技術的意義を有する」と認めることはできない。したがって,引用例に,複数の鋼(鋼1ないし鋼5)が実施例として示されている場合に,それ る」,すなわち,「個々の元素における含有量等が,独立して,特定の技術的意義を有する」と認めることはできない。したがって,引用例に,複数の鋼(鋼1ないし鋼5)が実施例として示されている場合に,それぞれの成分ごとに,複数の鋼のうち,別個の鋼における元素の含有量を適宜選択して,その最大含有量と最小含有量の範囲の元素を含有する鋼も,同様の作用効果を有するものとして開示がされているかのような前提に立って,引用発明の内容を認定した審決の手法は,技術的観点に照らして適切とはいえない。 上記1(2) カないしサによれば,引用例には,成分間の相互作用を前提とした各種機構により鋼の強化を図るため,一般に,鋼成分として,Si,Mn,P,Ti,Nb等の元素が添加され,これらの添加元素のうち,Siは特にめっき性を阻害する元素であるので,鋼板には積極的には含有させないか,含有させる場合でも少量のみとすれば,めっき性への阻害要因を排除できること,Pは,強化作用は大きいが合金化を遅滞させるという不利な影響も有しているので,鋼板中の含有量を低下させることで対処できること,Mnは,強化元素として一般的に多用されるが,高Mn量を含有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板では,合金化めっき層中のMn濃度の上昇を生じて,溶融めっき性や耐パウダリング性への悪影響が顕在化すること,鋼板のMn含有量が1.0 質量%以上の高い量であっても,合金化しためっき層中のMn量を100mg/㎡以下,好ましくは60mg/㎡以下に抑制することができれば,溶融めっき性や耐パウダリング性における問題点を解消することができること等が開示されていると認められる。そして,上記1(2) ウ,エによれば,引用例記載の発明は,高Mn系の高張力溶融亜鉛めっき鋼板における不めっき等の溶融めっき性不良や耐パウダリング性 ことができること等が開示されていると認められる。そして,上記1(2) ウ,エによれば,引用例記載の発明は,高Mn系の高張力溶融亜鉛めっき鋼板における不めっき等の溶融めっき性不良や耐パウダリング性不良の問題を解決するものであり,優れた溶融めっき性や耐パウダリング性を安定して得られる高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の提案を目的とすることも認められる。以上によれば,引用発明は,優れた溶融めっき性や耐パウダリング性を安定して得られる高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の提案を目的とするところ,鋼においては,一般に,成分として添加される元素間の相互作用が高く,1つの鋼を組 成する元素の組合せ及び含有量(含有する質量割合)が,一体として,鋼の特性を決定する上で重要な技術的意義を有することが認められる。 引用例の上記説明は,各元素ごとに,5つの独立した任意の鋼の中から含有量の最大値と最小値の範囲の含有量により組成される,あたかも1種の鋼において,特定の性質(優れた溶融めっき性や耐パウダリング性を安定して得られる高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板)を有することを開示したことを意味するものでもなく,具体的な鋼の組成及び性質を特定したものと理解することもできない。したがって,審決のした引用発明の認定は,誤りというべきである。 (2) この点,被告は,引用例の記載を総合すれば,審決の認定した引用発明が記載されているといえる,引用例記載の高張力合金化亜鉛めっき鋼板は,Mn等の元素を一定の数値範囲で含有する高張力鋼板に適用されるものであって,実施例に番号1ないし6の鋼が記載されているが,それが適用範囲の全てではないとして,審決の引用発明の認定に誤りはない旨主張する。 しかし,被告の主張は失当である。 被告の上記主張は,引用例において鋼を組成する成分( の鋼が記載されているが,それが適用範囲の全てではないとして,審決の引用発明の認定に誤りはない旨主張する。 しかし,被告の主張は失当である。 被告の上記主張は,引用例において鋼を組成する成分(元素)の含有量の数値が記載されていれば,当該記載された数値範囲の含有量の成分を有する発明が総合的に開示されているとの理解を前提とするものである。しかし,上記(1) のとおり,引用例記載の発明の課題は,鋼の特性を利用して解決されるものであるところ,引用例には,1つの鋼を組成する成分の組合せ及び含有量が,一体として,鋼の特性を決定する上で重要な技術的意義を有することが示されているから,各成分の組合せや含有量を「一体として」の技術的意義を問題とすることなく,記載された含有量の個々の数値範囲の記載を組み合わせて発明の内容を理解することは,適切を欠く。 (3) 以上のとおり,審決は,引用発明の認定に誤りがある。 3 取消事由2(相違点の看過等)について審決は,本願発明における鋼板のC,Si,Mn,P及びsol.Alの含有量,並びに, 合金化溶融亜鉛めっき層のFe及びAlの含有量の数値範囲と,引用発明における鋼板のC,Si,Mn,P及びsol.Alの含有量,並びに,合金化溶融亜鉛めっき層のFe及びAlの含有量の数値範囲とが重複することを理由として,これらの含有量を相違点とは認定せず,本願発明と引用発明との相違点を上記第2の3の(2) のウ記載の3点のみ認定した。 しかし,仮に,審決の認定した引用発明を前提としても,相違点の認定には誤りがある。すなわち,(1) 本願明細書の特許請求の範囲の【請求項1】及び上記第2の3の(2) のアの各記載を比較すると,引用発明における組成成分の含有量(含有する質量割合)の数値範囲が本願発明における 。すなわち,(1) 本願明細書の特許請求の範囲の【請求項1】及び上記第2の3の(2) のアの各記載を比較すると,引用発明における組成成分の含有量(含有する質量割合)の数値範囲が本願発明における組成成分の含有量(含有する質量割合)の数値範囲に全部重複するのは,鋼板のP及びsol.Alのみであり,鋼板のC,Si及びMnの含有量,並びに,合金化溶融亜鉛めっき層のFe及びAlの含有量については,引用発明における含有量の数値範囲の一部が本願発明における含有量の数値範囲と重複しない。 そして,上記1(1) オないしトによれば,本願発明は,特に高張力鋼板特有の耐パウダリング特性を改善したプレス性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法を提供することを課題とするものであり,この課題を解決するために,組成する各元素の性質等を考慮して最良の化学組成を検討し,母材となる鋼板についてはC,Si,Mn,P,S,sol.Alの含有量を,被膜となるめっき層の化学組成についてはFe,Alの含有量を,それぞれ本願発明に開示された数値範囲としたこと,各数値範囲の中でも好ましい数値が存在することが認められる。そうすると,本願発明においては,母材となる鋼板と被膜となるめっき層の組成成分(元素)の組合せ,含有量(含有する質量割合)は,一体として,本願発明の課題を解決する作用効果を奏するものであって重要な技術的意義を有するということができる。 また,上記2(1) のとおり,引用発明は,優れた溶融めっき性や耐パウダリング性を安定して得られる高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の提案を目的とするところ,鋼においては,一般に,成分として添加される元素間の相互作用が高く,1つの鋼 を組成する元素の組合せ及び含有量(含有する質量割合)が,一体として,鋼の特性を決定する上で 的とするところ,鋼においては,一般に,成分として添加される元素間の相互作用が高く,1つの鋼 を組成する元素の組合せ及び含有量(含有する質量割合)が,一体として,鋼の特性を決定する上で重要な技術的意義を有することが認められる。 本願発明と引用発明は,いずれも鋼板等を組成する成分(元素)の組合せ,含有量(含有する質量割合)が「一体として」重要な技術的意義を有する発明であるといえる。上記のとおり,本件においては,本願発明と引用発明とは,組成成分の含有量(含有する質量割合)の組合せが,鋼の特性に影響を与える重要な構成であることに鑑みると,組成成分の含有量に異なる部分があることを考慮することなく,一部が重複していることのみを理由として,相違点の認定から除外することは許されないというべきである。 (2) この点,被告は,本願発明の各元素の含有量の数値範囲は,その数値範囲内において同等の作用や機能を示すものとして特定された事項であるから,引用発明の数値範囲と重複する以上,両発明の元素の組成に関する特定事項には差異がない旨主張する。 しかし,被告の主張は失当である。 上記1(1) シないしトから窺えるように,本願発明の各元素の含有量が変化すれば,鋼板及びめっき層の特性も変化し,本願発明において特定された各元素の含有量の数値範囲内においても,好ましい数値が存在するのであるから,当該数値範囲内において同等の作用や機能が示されているとはいえない。被告の主張は理由がなく,上記のような本願発明と引用発明の有する技術的意義に照らすならば,含有量の数値範囲の一部が重複していることのみを理由として相違点から除外することは,認められない。 (3) したがって,引用発明における含有量の数値範囲の一部が本願発明における含有量の数値範囲と重複しないにもか 囲の一部が重複していることのみを理由として相違点から除外することは,認められない。 (3) したがって,引用発明における含有量の数値範囲の一部が本願発明における含有量の数値範囲と重複しないにもかかわらず,鋼板のC,Si及びMnの含有量,並びに,合金化溶融亜鉛めっき層のFe及びAlの含有量について相違点として認定しなかった審決には,相違点を看過し,それらの相違点に係る本願発明の構成について容易想到性の判断を示さなかった誤りがある。 4 小括以上によれば,原告主張の取消事由1及び2に理由があり,審決の誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,その余の争点について判断するまでもなく,審決は違法として取り消されるべきである。被告は,他にも縷々反論するが,いずれも採用の限りではない。 第5 結論よって,原告の請求は理由があるから,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官八木貴美子 裁判官池下朗 裁判官武宮英子

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