令和1(わ)343 傷害致死被告事件

裁判年月日・裁判所
令和元年12月6日 札幌地方裁判所
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判決文本文3,195 文字)

- 1 -令和元年12月6日宣告令和元年(わ)第343号傷害致死被告事件判決 主文 被告人を懲役7年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成31年2月23日午前6時34分頃から同月24日午前1時頃までの間に,北海道室蘭市ab丁目c番d-e号被告人方において,飲酒の上,来訪していた交際相手のA(当時56歳。以下「被害者」という。)に対し,胸腹部等を多数回足で踏みつけるなどの暴行を加え,よって,被害者に多発肋骨骨折,血気胸等の傷害を負わせ,同日頃,同所において,被害者を前記傷害に基づく外傷性ショックにより死亡させた。なお,被告人は,本件犯行当時,飲酒による複雑酩酊のため心神耗弱の状態にあった。 (証拠の標目)(略)(法令の適用)罰条刑法205条法律上の減軽刑法39条2項,68条3号未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書(争点に対する判断) 1 弁護人は,被告人が,本件犯行当時,飲酒による酩酊のため,善悪の判断をし,これに従って行動を制御する能力が著しく弱くなっていた状態(心神耗弱) - 2 -にあった旨主張し,検察官は,そのような状態にはなかった旨主張する。 2⑴ 証人B医師の証言によれば,被告人の精神障害の有無及び本件犯行との関係については,次のとおりであったと認められる。すなわち,被告人は,本件犯行当時,多量の飲酒により,複雑酩酊の状態にあり,周囲の状況を正しく判断する力が低下するとと 精神障害の有無及び本件犯行との関係については,次のとおりであったと認められる。すなわち,被告人は,本件犯行当時,多量の飲酒により,複雑酩酊の状態にあり,周囲の状況を正しく判断する力が低下するとともに,行動の抑制が利かなくなり,感情の赴くまま行動する状態となっていた。被告人は,そのような状態にあったことから,かなり怒りっぽくなっており,被害者との何らかのトラブルを契機に,被害者に暴行を加える意思を生じるようになった。そればかりか,被告人は,興奮し,怒りに任せて,被害者の状況を考慮することもなく,胸腹部に最低でも20回から30回程度の強い打撃を加えるにまで至った。このように,被告人は,アルコールを摂取していなければ,本件犯行には至らなかったと考えられる。 ⑵ このような被告人の精神状態や本件犯行との関係に加え,犯行の回数や強さが,これまでに被告人が被害者に対して加えてきたと窺われる暴行の程度に比べて明らかにかけ離れたものであることからすれば,被告人が本件犯行に及んだのは,複雑酩酊の状態により,周囲の状態を正しく判断する力が低下していたことや行動の抑制が利かなくなっていたことによる影響が相当に大きかった可能性があると認められる。そうすると,本件犯行当時,善悪を判断し,それに従って行動を制御する能力が著しく弱まっていた可能性が認められる。 3 検察官は,本件犯行の動機は理解でき,その態様も動機に整合する合理的なものであったから,異常性はなかったと主張する。確かに,被告人が日頃から飲酒の上で被害者に対して暴行を加えていたことが窺われることからすると,本件においても,飲酒の上で何らかの原因を契機に被害者に対して一定程度の暴行を加えるという限りでは,被告人の動機を理解できなくはない。しかしながら,このような動機に基づくとしても,上記の態様の と,本件においても,飲酒の上で何らかの原因を契機に被害者に対して一定程度の暴行を加えるという限りでは,被告人の動機を理解できなくはない。しかしながら,このような動機に基づくとしても,上記の態様の異質性を十分に説明で - 3 -きるものとはいえない。このように,本件犯行については,被告人が,複雑酩酊の状態に陥ったことで,周囲の状況を的確に認識できない中,自らを抑制することができなくなり,興奮し,怒りに任せて,被害者の状況を考慮することもなく行動してしまったことによるものと見る余地が多分に残る。 また,検察官は,犯行前後の被告人の行動について,正常ないし合理的なものであったと指摘する。しかしながら,本件犯行が行われた時刻については,証拠上,18時間程度の幅をもってしか認定できないものであり,検察官の挙げるいずれの事実についても,本件犯行との前後関係や,時間的間隔ははっきりしない。そして,その間の被告人の飲酒状況や酩酊状況の推移もはっきりしないところであって,この幅の中での被告人の酩酊の程度にも波があったと考えられる。そうすると,検察官の指摘する行動を個別にみると,その時点で善悪を判断し,それに従って行動を制御する能力が一定程度あったことを推認させるものであったとしても,本件犯行の時点でそうした能力が十分に保たれていたことまで示すものとはいえない。 なお,検察官は,本件犯行当時の被告人の記憶が一定程度保たれていたとも主張する。しかしながら,検察官の主張を前提としても,被告人の記憶は,本件犯行の動機,態様等を説明するものとしてはなお限定的なものであるといえる。したがって,この点は,善悪の判断や行動の制御の能力が著しく弱くなっていた可能性の評価に影響を与えるものではない。 4 以上によれば,被告人は,本件犯行当時,善悪を判断 限定的なものであるといえる。したがって,この点は,善悪の判断や行動の制御の能力が著しく弱くなっていた可能性の評価に影響を与えるものではない。 4 以上によれば,被告人は,本件犯行当時,善悪を判断し,これに従って行動を制御する能力が著しく弱くなっていた状態(心神耗弱)にあった可能性が認められる。 (量刑の理由)本件犯行の態様は,被害者の胸腹部等を最低でも20回から30回程度足で踏みつけたという,執拗かつ危険なものであり,暴行を受けた際の被害者の苦しみの程度を考えれば,悪質性が高い。 - 4 -本件に至る動機は明らかではないが,もとより被害者にこのような暴行を加えられるような落ち度は認められない。 被告人がこのような態様の暴行に及んだのは,アルコール依存症に罹患していたところ,飲酒によって複雑酩酊状態となり,心神耗弱の状態となったことを原因とするものであり,その点では被告人を責めきれない面もある。しかし,その背景には,被告人が飲酒の上で粗暴な行動に及んで周囲に迷惑を掛け続け,アルコール依存症と診断されてまでも,アルコールを断つ努力を十分にしなかったことが指摘できる。また,被告人は,飲酒をすれば被害者に対して暴行を加えてしまう可能性があることは十分認識が可能であったから,被害者と距離を取るなどの対策も考えるべきであったにもかかわらず,そうしなかったことも指摘できる。以上からすれば,心神耗弱の点を考慮するとしても,一定程度にとどまるというべきである。 そうすると,本件は,単独犯で,心神耗弱の状態にあった者の傷害致死1件という類型の中では,かなり重いものと位置づけられる。 なお,被告人は自首をしているところ,本件犯行からある程度時間が経過した後に,知人に促されてしたものであるから,刑を減軽する事情としては考えなかった。 以 では,かなり重いものと位置づけられる。なお,被告人は自首をしているところ,本件犯行からある程度時間が経過した後に,知人に促されてしたものであるから,刑を減軽する事情としては考えなかった。以上を踏まえ,被告人について主文の刑を科すこととした。 主文 (検察官志村康之,横田英剛,弁護人倉茂尚寛(主任),白諾貝各出席)(求刑懲役10年)令和元年12月10日札幌地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官島戸純 裁判官平手健太郎 裁判官大木峻

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