- 1 -主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実及び理由 第1請求厚生労働大臣が,原告らに対し平成18年2月10日付けでしたAグループ規約型企業年金規約変更不承認処分を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告らが,確定給付企業年金法に基づいて実施している規約型企業年金について,受給権の内容等に変更を生じさせる年金規約の変更をするために,厚生労働大臣の承認を求める申請をしたところ,厚生労働大臣が,上記の規約の変更は,受給権者等に対する給付の額を減額する場合に該当し,給付額を減額する場合に必要とされる要件を満たしていないとして,原告らに対し当該規約の変更を承認しない処分をしたことから,その取消しを求めた事案である。 なお,以下では,確定給付企業年金法を「法」,同法施行令を「施行令」,同法施行規則を「規則」といい,また,「株式会社」の表記は省略することとする。 争いのない事実等(証拠により容易に認められる事実は,末尾にその証拠を掲記した。)(1)当事者等原告らは,原告Bを中核とし,原告C及び同D(以下,両社を合わせて「原告E」という。)等で構成されるAグループ企業であり,法に基づく規約型企業年金である「Aグループ規約型企業年金」を実施する厚生年金適用事業所の事業主である。(甲1,2)(2)用語等ア確定給付企業年金とは,厚生年金適用事業所の事業主が単独で又は共同して法の規定に基づいて実施する年金制度をいい(法2条1項),そのう- 2 -ち,確定給付企業年金に係る規約を作成し,その規約について厚生労働大臣の承認を受けて実施するものを規約型企業年金(法3条1項)という。 イ加入者である受給権者(規則5条ただし書)とは,加入者期間の要件や支給開始要件を満たし,いったん受給権が発生 について厚生労働大臣の承認を受けて実施するものを規約型企業年金(法3条1項)という。 イ加入者である受給権者(規則5条ただし書)とは,加入者期間の要件や支給開始要件を満たし,いったん受給権が発生した後,再雇用されるなどして再加入した者をいい,加入者であった者(同条ただし書)とは,受給権を持つ受給権者のほか,加入者期間の要件は満たすが支給開始年齢前に脱退し未だ受給権が発生していない者をいう(以下,加入者である受給権者及び加入者であった者を併せて「受給権者等」という。)。 ウ予定利率とは,掛金を算出する際に計算の基礎として用いる率の1つで,年金資産の将来の運用利回りの見込み利率のことをいう。予定利率の引下げは,将来の運用利回りの見込みの低下を意味し,給付に充てる運用収益が減少するため,必要な掛金額が増加し,予定利率の引上げは,将来の運用利回りの見込みの上昇を意味し,給付に充てる運用収益が上昇するため,必要な掛金額が減少する。 エ給付利率とは,支給開始時点における給付原資を年金として分割払する際に付する利率のことをいう。 オ据置利率とは,退職時に確定する年金の給付原資を年金の支給開始時まで据え置く場合に保証される利回りのことをいう。 (3)A税制適格年金原告Bは,平成4年6月,従業員の退職金の28パーセントを年金原資とし,予定利率を5.5パーセント,給付利率を7.0パーセント,据置利率を5.5パーセント(その後,予定利率は3.0パーセントに引き下げられるとともに,平成13年4月1日以降に退職する従業員について,給付利率は4.5パーセント,据置利率は3.0パーセントにそれぞれ引き下げられた。さらに,平成15年12月から,予定利率が2.0パーセントに引き下げられた。)とする法附則24条による改正前の法人税法附則20条,平成- 3 - 据置利率は3.0パーセントにそれぞれ引き下げられた。さらに,平成15年12月から,予定利率が2.0パーセントに引き下げられた。)とする法附則24条による改正前の法人税法附則20条,平成- 3 -13年政令375号による改正前の法人税法施行令附則16条に基づくいわゆる適格退職年金である「A税制適格年金」を創設し(以下「本件適格退職年金」という。),その後,原告Eら17社が本件適格退職年金の事業主に加わった。 (4)Aグループ規約型企業年金ア平成14年4月1日に法が施行され,平成24年3月31日までに限り適格退職年金から確定給付企業年金への移行(法附則25条)が認められるとともに,いわゆるキャッシュバランス制度,すなわち,各加入者について加入者であった期間のうち一定期間ごとに当該加入者の給与に一定の率を乗じるなどの方法で算定した額を付与し,その付与された額を積み立て,国債の利回り等で定められた一定の指標で利子を付与していくことで給付原資を積み立てていく制度の導入が認められた(法32条2項,施行令24条1項3号,同条4項)(なお,平成15年9月1日から,加入者であった期間中には再評価は行わずに給付原資を決定するが,支給開始後に,国債の利回り等により定められる一定の指標を給付利率とみなして給付の額を改定する,いわゆるキャッシュバランス類似制度(法32条2項,施行令24条1項1号及び2号,同条3項)が導入された。)。そこで,原告らは,厚生労働大臣の承認を受け,平成16年4月1日から本件適格退職年金を移行させ,規約型企業年金であるAグループ規約型企業年金(以下「本件企業年金」という。)を創設した。 イ本件企業年金の規約(以下「本件規約」という。)の内容は,次のとおりである。(甲1)(ア)加入者については,給付利率を期間10年の国債 型企業年金(以下「本件企業年金」という。)を創設した。 イ本件企業年金の規約(以下「本件規約」という。)の内容は,次のとおりである。(甲1)(ア)加入者については,給付利率を期間10年の国債の表面利率3年平均(事業年度ごとに,前事業年度の12月末日の前3年間に発行された期間10年の国債の表面利回りの平均値)に0.5パーセントを加算した率(上限は7.0パーセント,下限は規則43条2項1号の法定下限- 4 -利率又は1.5パーセントのいずれか高い率)(指標)とし(本件規約21条5項),経過措置として,一定期間,下限は2.5パーセントとする(本件規約附則8条2項)。また,据置利率は,期間10年の国債の表面利率3年平均とし(上限は6.5パーセント,下限は法定下限利率から0.5パーセントを減じた率又は1.0パーセントのいずれか高い率。本件規約22条4項),経過措置として,一定期間,下限は2. 0パーセントとする(本件規約附則9条)。 (イ)受給権者等については,事業主は,本件適格退職年金に係る給付の支給に関する権利義務を承継することができる(本件規約附則3条3項)とされ,前記(3)の本件適格退職年金に基づく給付利率(7.0パーセント又は4.5パーセント)及び据置利率(5.5パーセント又は3.0パーセント)が適用される。 (ウ)標準掛金額(給付に要する費用に充てるため事業主が拠出する掛金。 規則45条2項)は,各加入者の標準給与に21.1パーセントを乗じた額とする(本件規約37条)。なお,この額は,予定利率を2.0パーセントとして算定した額である。 (エ)特別掛金額(積立不足に係る掛金。規則46条1項)は,各加入者の標準給与に対し,原告Cにつき201.7パーセント,原告Dにつき250.5パーセントをそれぞれ乗じた額(償却期間は,平成1 る。 (エ)特別掛金額(積立不足に係る掛金。規則46条1項)は,各加入者の標準給与に対し,原告Cにつき201.7パーセント,原告Dにつき250.5パーセントをそれぞれ乗じた額(償却期間は,平成16年4月から平成21年12月まで)などとする(本件規約38条,同別表8)。 (5)本件規約の変更の承認申請ア原告らは,平成17年9月13日,処分行政庁である厚生労働大臣に対し,予定利率を2.0パーセントから1.3パーセントに引き下げる必要があるとした上(甲3の3,25),本件企業年金の給付を受けている受給権者等(平成16年3月31日以前の退職者)につき,定率の給付利率- 5 -(7.0パーセント又は4.5パーセント)及び据置利率(5.5パーセント又は3.0パーセント)を廃止し,給付利率及び据置利率を10年国債表面利率を基準にして計算した変動利率とするキャッシュバランス制度(以下「本件キャッシュバランス制度」という。)の導入を内容とする本件規約の変更の承認を申請した(以下「本件申請」という。)。 イ本件申請に係る規約変更は,次のとおりである。(甲3の2,25)(ア)年金月額の改定対象受給者は,平成16年3月31日以前に受給権を取得した者であって,施行日(承認日の属する月の翌月1日)に既に年金の給付を受けている者とする。 (イ)給付利率について本件規約21条5項を準用し,給付利率を10年国債表面利率の3年平均(事業年度ごとに,前事業年度の12月末日の前3年間に発行された期間10年の国債の表面利回りの平均値)に0. 5パーセントを加算した率(指標)(ただし,上限は7.0パーセント,下限は法定下限利率又は1.5パーセントのいずれか高い率)とし,経過措置として,施行月から6年間は3.5パーセントを下限とする。 (ウ)据置利率は,本件規約2 標)(ただし,上限は7.0パーセント,下限は法定下限利率又は1.5パーセントのいずれか高い率)とし,経過措置として,施行月から6年間は3.5パーセントを下限とする。 (ウ)据置利率は,本件規約22条4項を準用し,10年国債表面利率の3年平均(ただし,上限は6.5パーセント,下限は法定下限利率から0.5パーセントを減じた率又は1.0パーセントのいずれか高い率)とし,経過措置として,施行月から6年間は3.0パーセントを下限とする。 (エ)改定対象受給者のうち,希望する者は,施行月分以降の年金の支給に代え,施行日を法60条3項に規定する事業年度の末日とみなし,かつ,給付の改定がないものとして同項の規定に基づき算定した当該受給権者に係る最低積立基準額を一時金として受け取ることができる。 (オ)標準掛金額は,各加入者の標準給与に26.3パーセントを乗じた額とする。これは,予定利率を1.3パーセントとして算定した額であ- 6 -る。 (カ)特別掛金額は,各加入者の標準給与に対し,原告Cにつき207. 1パーセント,原告Dにつき251.5パーセントをそれぞれ乗じた額(償却期間は,平成17年12月から平成21年12月まで)に引き上げる。 (6)本件申請に係る規約変更を承認しない処分厚生労働大臣は,本件申請に係る規約変更は,法5条1項5号,施行令4条2号にいう給付の額を減額すること(以下「給付減額」ともいう。)を内容とするものであるところ,その規約変更の承認要件である「実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,給付の額を減額することがやむを得ないこと」(規則5条2号)及び「給付の額を減額しなければ,掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため,給付の額を減額することがやむを得ないこと」(同条3号)をいずれ こと」(規則5条2号)及び「給付の額を減額しなければ,掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため,給付の額を減額することがやむを得ないこと」(同条3号)をいずれも満たさないとして,平成18年2月10日,原告らに対し本件申請に係る規約変更を承認しない処分(以下「本件処分」という。)をした。 (7)原告らは,平成18年5月1日,本件訴えを提起した。 法令の定め等(1)事業主は,規約型企業年金を実施しようとするときは,事業主が,実施事業所に使用される被用者年金被保険者等の過半数で組織する労働組合があるときは当該労働組合,当該被用者年金被保険者等の過半数で組織する労働組合がないときは当該被用者年金被保険者等の過半数を代表する者の同意を得て作成した規約について,厚生労働大臣の承認を受けなければならない(法3条1項1号)。 (2)事業主は,法3条1項1号の承認を受けた規約の変更をしようとするときは,厚生労働省令で定める軽微な変更を除き,その変更について厚生労働大臣の承認を受けなければならず(法6条1項),この変更の承認の申請は,- 7 -実施事業所に使用される被用者年金被保険者等の過半数で組織する労働組合があるときは当該労働組合,当該被用者年金被保険者等の過半数で組織する労働組合がないときは当該被用者年金被保険者等の過半数を代表する者の同意を得て行わなければならない(法6条2項)。厚生労働大臣は,法6条1項の変更の承認の申請があった場合において,当該申請に係る規約が法5条1項各号に掲げる要件に適合すると認めるときは,法6条1項の承認をするものとする(法6条4項,法5条1項柱書)。 (3)法5条1項5号は,規約変更の承認要件として,「その他政令で定める要件」と定め,これを受け,施行令4条2号は,加入 るときは,法6条1項の承認をするものとする(法6条4項,法5条1項柱書)。 (3)法5条1項5号は,規約変更の承認要件として,「その他政令で定める要件」と定め,これを受け,施行令4条2号は,加入者等(加入者及び加入者であった者)の確定給付企業年金の給付の額を減額することを内容とする確定給付企業年金に係る規約の変更をしようとするときは,当該規約の変更の承認の申請が,当該規約の変更をしなければ確定給付企業年金の事業の継続が困難となることその他の厚生労働省令で定める理由がある場合(以下,このような実質的理由に関する要件を「理由要件」という。)において,厚生労働省令で定める手続(以下,手続に関する要件を「手続要件」という。)を経て行われるものであることを定めている。 (4)規則5条ただし書は,受給権者等の給付の額を減額する場合における施行令4条2号の「厚生労働省令で定める理由」として,次のものを定めている(これらのうち,いずれか1つの要件に該当すれば,理由要件は満たされるものと解される。)。 ア実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,給付の額を減額することがやむを得ないこと。(規則5条2号,以下「2号要件」という。)イ給付の額を減額しなければ,掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため,給付の額を減額することがやむを得ないこと。(規則5条3号,以下「3号要件」という。)(5)規則6条は,施行令4条2号の「厚生労働省令で定める手続」として,- 8 -次のものを定めている。 ア規約の変更についての次の同意を得ること。(規則6条1項1号)(ア)加入者(給付減額に係る受給権者を除く。(イ)も同じ。)の3分の1以上で組織する労働組合があるときは,当該労働組合の同意(同1号イ)(イ)加入者の3 同意を得ること。(規則6条1項1号)(ア)加入者(給付減額に係る受給権者を除く。(イ)も同じ。)の3分の1以上で組織する労働組合があるときは,当該労働組合の同意(同1号イ)(イ)加入者の3分の2以上の同意(ただし,加入者の3分の2以上で組織する労働組合があるときは,当該労働組合の同意をもって,これに代えることができる。)(同1号ロ)イ受給権者等の給付の額を減額する場合にあっては,次に掲げる手続を経ること。(規則6条1項2号)(ア)給付減額について,受給権者等の3分の2以上の同意を得ること。 (同2号イ)(イ)受給権者等のうち希望する者に対し,給付の額の減額に係る規約の変更が効力を有することとなる日を法60条3項に規定する事業年度の末日とみなし,かつ,当該規約の変更による給付の額の減額がないものとして同項の規定に基づき算定した当該受給権者等に係る最低積立基準額を一時金(以下「特別一時金」という。)として支給することその他の当該最低積立基準額が確保される措置を講じていること。(同2号ロ) 争点 (1)規則5条2号及び3号は,法5条1項5号,施行令4条2号による委任の趣旨に反し無効か。 (2)本件申請に係る規約変更は,施行令4条2号,規則5条ただし書,規則6条1項2号の「給付の額を減額する」場合に該当するか。 (3)本件申請に係る規約変更は,規則5条2号の要件,すなわち「実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,給付の額を減額することがやむを得- 9 -ないこと。」(2号要件)を満たすか。 (4)本件申請に係る規約変更は,規則5条3号の要件,すなわち「給付の額を減額しなければ,掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため,給付の額を減額することがやむを得ないこと。」(3号要件 は,規則5条3号の要件,すなわち「給付の額を減額しなければ,掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため,給付の額を減額することがやむを得ないこと。」(3号要件)を満たすか。 争点に対する当事者の主張(1)規則5条2号及び3号は,法5条1項5号,施行令4条2号による委任の趣旨に反し無効か。(争点(1))(原告らの主張)法5条1項5号の委任に基づく施行令4条2号の趣旨は,加入者等に及ぼす不利益等を合理的な範囲内に抑えつつ,可能な限り企業の自主性,労使の合意による給付減額を認めることにあるところ,規則6条1項2号は,受給権者等の3分の2以上の同意(2号イ)及び事業主が受給権者等のうち希望者に対し特別一時金を支給することを要件としており(2号ロ),これによって受給権者等が給付減額により被る経済的不利益は実質的に解消されるから,これらの手続要件で受給権者等の保護として十分である。 また,法は,確定給付企業年金の終了について,被用者年金被保険者等の過半数を代表する者等の同意を要件としているにすぎないにもかかわらず,規約の変更による給付減額の場合に理由要件を課すことは,安易な企業年金制度の終了を選択することを慫慂することになり,著しく不合理である。 したがって,規則6条1項の手続要件に加え,理由要件を課す規則5条2号及び3号は,不当に企業の自主性の要請を侵す過剰規制であり,法5条1項5号及び施行令4条2号の委任の範囲を逸脱するものであって無効である。 (被告及び被告訴訟参加人らの主張)法は,事業主が受給権者等に既に支払うことを約束した給付額を後に減額しようとする場合には,受給権者等の十分な保護が必要であるとするもので- 10 -あるところ,規則6条1項2号イの受給権者等の3分の2以上の同意を満たとして に支払うことを約束した給付額を後に減額しようとする場合には,受給権者等の十分な保護が必要であるとするもので- 10 -あるところ,規則6条1項2号イの受給権者等の3分の2以上の同意を満たとしても,同意しない者の受給権を保護する必要性があり,また,特別一時金を希望者に支給したとしても,減額前の給付額を確保するためには,受給権者は資産運用のリスクを負わなければならないから,特別一時金によって受給権者の経済的不利益が解消されることにはならない。 また,法は,確定給付企業年金の創設及び廃止については事業主の経営判断や労使の自主性を尊重し,事業主が拠出する掛金についての損金算入を認める税制上の優遇策により,その創設維持を奨励する一方,事業主が,確定給付企業年金を維持し,その税制上の優遇策を享受する限り,受給権者等を十分保護しなければならないという立法政策を採用したものであるから,規約変更の場合に限り給付減額に理由要件を課すことが不合理とはいえない。 さらに,法は,その法案審議においても,現職の加入者と退職して既に雇用関係のない受給権者等とを同一に扱い得ないことを前提とし,受給権者等の受給権の給付減額をするための要件として理由要件を念頭において議論され,また,特別一時金は給付減額を正当化するものではないと考えられていたものである。 したがって,給付減額をするための要件を定める規則5条2号及び3号の理由要件は,受給権者の保護を目的とする(法1条)法の趣旨に沿ったものであり,法5条1項5号及び施行令4条2号の委任の範囲を逸脱しない。 (2)本件申請に係る規約変更は,施行令4条2号,規則5条ただし書,規則6条1項2号の「給付の額を減額する」場合に該当するか。(争点(2))(原告らの主張)キャッシュバランス制度は,国債の利回り等の客観的指標の動向に連 約変更は,施行令4条2号,規則5条ただし書,規則6条1項2号の「給付の額を減額する」場合に該当するか。(争点(2))(原告らの主張)キャッシュバランス制度は,国債の利回り等の客観的指標の動向に連動し給付利率等が変動するものであるため,給付減額となるか否かを機械的な給付利率等の比較で判断し得ない上,実質的にも,キャッシュバランス制度は,長期的安定的な企業年金制度の維持を可能とするものであり,加入者等はか- 11 -かる利益を享受し,しかも,年金原資に対する付利部分のみが変動するものであるから,加入者等にとっておよそ不利益となる制度ではない。したがって,本件キャッシュバランス制度の導入は,そもそも施行令4条2号,規則5条ただし書,規則6条1項2号の給付減額には該当しない。 施行令及び規則の給付減額をするための要件は,たしかに昭和41年年発第363号厚生省年金局長通知「厚生年金基金の設立認可について」(平成9年年発第1681号厚生省年金局長通知による改正後のもの。以下「基金設立認可基準通知」という。乙2)を参考として定められたと考えられるが,この通知がされた当時,キャッシュバランス制度の導入は認められていなかったから,基金設立認可基準通知は,キャッシュバランス制度への移行を想定したものではなく,施行令及び規則の給付減額の要件もまた,キャッシュバランス制度への移行を想定したものではない。 また,被告は,平成14年年発第0329008号厚生労働省年金局長通知「確定給付企業年金法並びにこれに基づく政令及び省令について(法令解釈)」(平成15年年発第0530001号厚生労働省年金局長通知等により一部改正されている。以下「法令解釈通知」という。乙1の1ないし5)を援用し,本件キャッシュバランス制度の導入が給付減額に該当するか否かについて,直近5 530001号厚生労働省年金局長通知等により一部改正されている。以下「法令解釈通知」という。乙1の1ないし5)を援用し,本件キャッシュバランス制度の導入が給付減額に該当するか否かについて,直近5年間における指標の実績値の平均値を当該指標の見込値として判断すべきである旨主張するが,かかる基準では,将来的な給付水準の変動可能性とか,長期的安定的な企業年金制度の維持といった本件キャッシュバランス制度の利点が,全く考慮されないこととなって不合理である。 (被告及び被告訴訟参加人らの主張)確定給付企業年金の規約変更が給付減額に該当するか否かは,定量的な基準を設けて判断する必要があるところ,法令解釈通知に従い,将来支払われる年金の給付額の現在価値を給付設計の変更前後で比較し,変更後に総給付現価が減少する場合,一部の加入者又は受給権者等の給付現価が給付設計の- 12 -変更後に減少する場合,各加入者又は各受給権者等の最低積立基準額が給付設計の変更後に減少する場合のいずれかに該当する場合には,給付減額に当たると判断すべきである。その際,将来の変動に不確実性を伴う指標の見込値の設定に際して恣意性を排除し,統一的な取扱いを定めるためには,当該指標の中期的な実績値を基にした指標を適用し,加入者等が不利益を被る蓋然性の高低を測ることが合理的であるから,上記の総給付現価又は最低積立基準額は,法令解釈通知が定める基準に従い,当該指標の直近5年間の実績値の平均値を当該指標の見込値として計算すべきである。 本件申請は,受給権者等について,従前7.0パーセント又は4.5パーセントであった給付利率を10年国債表面利率の3年平均に0.5パーセントを加算した率(指標)とし,従前5.5パーセント又は3.0パーセントであった据置利率を10年国債表面利率の3年平均の率とし,経 セントであった給付利率を10年国債表面利率の3年平均に0.5パーセントを加算した率(指標)とし,従前5.5パーセント又は3.0パーセントであった据置利率を10年国債表面利率の3年平均の率とし,経過措置として給付利率の下限を3.5パーセント,据置利率の下限を3.0パーセントとするものであるところ,指標は,平成17年度は約1.79パーセント,平成18年度は約1.81パーセントであり,キャッシュバランス制度における指標の見込値につき直近5年間の実績値の平均値をみても,約1.98パーセントにすぎない。そうすると,上記の経過措置があることを考慮しても,現在7.0パーセント又は4.5パーセントの給付利率が適用される受給権者等にとって給付減額となることは確実である。仮に国債の表面利回りが急激に上昇することがあったとしても,指標の上限は7.0パーセントに設定されているから,7.0パーセントの給付利率が適用されている受給権者等の給付については,指標が7.0パーセント以上に上昇したとしても減額前の額と同額に復帰するにとどまり,減額された分が回復される余地はない。したがって,かかる変更が給付減額に該当することは明らかである。 (3)本件申請に係る規約変更は,規則5条2号の要件,すなわち「実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,給付の額を減額することがやむを得- 13 -ないこと。」(2号要件)を満たすか。(争点(3))(原告らの主張)ア2号要件の趣旨は,労使の合意による自由な年金設計を有効としつつ受給者の権利を保護することにある。そもそも,手続要件及び理由要件は,一般に自社年金において,給付減額の必要性と給付減額の相当性によってその有効性を判断するいわゆる「自社年金の不利益変更法理」について規定したものと考えられるところ,2号要件の「実施事 び理由要件は,一般に自社年金において,給付減額の必要性と給付減額の相当性によってその有効性を判断するいわゆる「自社年金の不利益変更法理」について規定したものと考えられるところ,2号要件の「実施事業所の経営の状況が悪化したこと」は,給付減額の必要性に関する要件を定めたものである。 そうすると,この「経営の状況が悪化した」とは,著しい経営等の悪化を意味するものではなく,制度の設計当初から見直しまでの財務内容の推移,経営環境の変化,経営改善及びその実施経緯,将来見通しなど,財務上の数値に反映されない要因を含めて総合考慮し,従来の給付水準を維持することが適当ではなく,見直しの契機として合理性が認められる程度に経営の状況が悪化したと認められれば足りると解すべきである。 本件においては,平成4年の本件適格退職年金の導入時に7.0パーセントの固定的給付利率が設定され,平成12年の再計算時に平成13年4月1日以降に退職する従業員について給付利率を4.5パーセントに引き下げた。本件申請の対象はこの給付利率の引下げであるから,平成4年当時を起点とし,その後の推移をみて経営の状況が悪化したか否かを判断すべきである。Aは,平成4年当時は毎年2000億円前後の当期利益を出していたが,年金財政上の負債の9割超を承継した原告Eにおいて,本件適格退職年金の導入時に想定した前提条件(情報通信市場における固定電話事業の安定的地位,安定した経営状態,高水準の市場金利,安定した料金収入)が悪化し,本件申請前の過去5年間において,当期利益は年平均で約650億円の赤字となり,同期間の売上高は1兆2000億円(約21パーセント)減少し,掛金負担が経営に与える影響は重くなっている。 - 14 -原告Eは,従業員の大幅削減を含む経営改善努力をしているが,構造的な経営環境の悪化の影 売上高は1兆2000億円(約21パーセント)減少し,掛金負担が経営に与える影響は重くなっている。 - 14 -原告Eは,従業員の大幅削減を含む経営改善努力をしているが,構造的な経営環境の悪化の影響により減収傾向に歯止めがかからない。原告Eは,たしかに平成14年以降に黒字を計上しているが,これは人的リストラに伴い生じる退職関連費用を特別損失として前倒しで一括計上したことによるものであり,決して平成14年以降に原告Eの経営状況が好転したことを意味しない。 以上によれば,本件申請に係る規約変更は,2号要件のうち給付減額の必要性に係る「経営の状況が悪化した」に該当するというべきである。 イまた,2号要件の「給付の額を減額することがやむを得ないこと」は,いわゆる「自社年金の不利益変更法理」の給付減額の相当性に関する要件を定めたと考えられ,この相当性は,現役従業員とのバランスないし給付水準の比較,旧制度による年金が社会全体からみて容認し難い給付水準であったか,対象者への説明,意向確認,労働組合との交渉等が行われたかなどの各要素を総合して判断すべきである。その際,規則6条1項が定める手続要件を充足したことは,「給付の額を減額することがやむを得ないこと」を判断する際に最大限に尊重すべきである。 本件においては,本件キャッシュバランス制度は,本件適格退職年金の加入者と受給権者との均衡を保つためのものであること,従前約束されていた固定的給付利率のうち市場金利に比べて高額な付利部分のみを変動させるにすぎないこと,受給権者の生活に深刻な影響を与えるものではないこと,長期的安定的な企業年金の維持運営に資する合理的な制度であること,原告らは受給権者等に対し十分な説明を行い,同意撤回の機会を与えた上で同意を取得したものであること,受給権者等の同意が法定の3分の と,長期的安定的な企業年金の維持運営に資する合理的な制度であること,原告らは受給権者等に対し十分な説明を行い,同意撤回の機会を与えた上で同意を取得したものであること,受給権者等の同意が法定の3分の2を超える86.7パーセントに達していること,特別一時金措置が講じられていることからすれば,本件申請に係る規約変更は,2号要件のうち給付減額の相当性に係る「給付の額を減額することがやむを得ないこと」- 15 -に該当するというべきである。 ウ以上に対し,被告は,基金設立認可基準通知における「基金を設立している企業の経営状況が,債務超過の状態が続く見込みであるなど著しく悪化している場合」,「真にやむを得ない場合」の定めを援用し,規則5条2号も同様に解すべきである旨主張するが,いずれも規則の文言に乖離した解釈であって失当である。 また,厚生年金基金は公的年金の一部を代行するものとして公的性格を有し,確定給付企業年金は自社年金に類似したものであって,制度の性格が異なり,厚生年金基金は規制の程度が確定給付企業年金よりも強いから,厚生年金基金の基準を確定給付企業年金に援用するのは誤りである。 さらに,被告は,基金設立認可基準通知と同様に解すべき論拠として,国会審議における厚生労働大臣の「厚生年金基金における取扱いを基本的に踏襲」する旨の答弁を援用するが,当該答弁は「手続」に関する要件に関して述べたものであって,理由要件について述べたものではないから,上記の答弁は被告の主張を根拠付けるものではない。 実質的にも,債務超過であることを要求するならば,何時倒産してもおかしくない状態に陥るまでは給付減額が許されないことになり,そのような財務状況で給付減額をしようとしても,手続要件である特別一時金を措置することが著しく困難となって不合理である。また,規約型企 もおかしくない状態に陥るまでは給付減額が許されないことになり,そのような財務状況で給付減額をしようとしても,手続要件である特別一時金を措置することが著しく困難となって不合理である。また,規約型企業年金の終了要件が「労働組合又は被用者年金被保険者等の過半数を代表する者の同意」のみであることと均衡を失し不合理である。 (被告及び被告訴訟参加人らの主張)ア規則5条2号の「実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,給付の額を減額することがやむを得ないこと」は,近い将来に予測される経営状況の悪化の程度と,減額対象者が受給権者等か,未だ受給権を取得していない現職の加入者かといった処分時の事情を総合考慮して判断されるべ- 16 -きであり,受給権者等の給付減額が許容されるためには,母体企業の経営状況の悪化等により企業年金を廃止するという事態が迫っている状況で,これを避ける次善の策として,「給付の額を減額することがやむを得ない」と認められる場合に限られる。例えば,実施事業所が現に債務超過である場合や実施事業所の当期利益が連続して赤字である場合等の年金制度の維持が困難なほど著しく経営状況が悪化している場合が,これに当たる。 本件企業年金の制度全体の掛金の約90パーセントを拠出している原告Eは,平成14年度に経常利益及び当期利益とも黒字になり,その後も1000億円前後の当期利益を継続して出しており,このような収益の推移をみれば,上記の厳格な要件判断を持ち出すまでもなく,Aグループである原告らの経営状況が悪化しているとは到底いえないから,本件申請に係る規約変更が「実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,給付の額を減額することがやむを得ないこと」に該当しないことは明らかである。 イこれに対し,原告らは,理由要件及び手続要件がいわゆる「自社年金の 約変更が「実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,給付の額を減額することがやむを得ないこと」に該当しないことは明らかである。 イこれに対し,原告らは,理由要件及び手続要件がいわゆる「自社年金の不利益変更法理」を具体化したものであるとして,手続要件である受給権者等の3分の2以上の同意及び特別一時金の支給措置や,キャッシュバランス制度自体の合理性をもって,理由要件である規則5条2号の「給付の額を減額することがやむを得ないこと」に該当する旨主張する。 しかしながら,そもそも規則が「自社年金の不利益変更法理」と同様の考え方によって制定されたとする根拠はなく,むしろ法令は,手続要件と別に理由要件を定めており,また,規則5条2号の「ことにより」という文理からしても,「実施事業所の経営の状況が悪化したこと」を原因として「給付の額を減額することがやむを得ない」といえるか否かを判断すべきであり,原告らの主張する事情は2号要件を基礎付ける事情とならない。 (4)本件申請に係る規約変更は,規則5条3号の要件,すなわち「給付の額を減額しなければ,掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出すること- 17 -が困難になると見込まれるため,給付の額を減額することがやむを得ないこと。」(3号要件)を満たすか。(争点(4))(原告らの主張)ア3号要件の「掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になる」という要件は,いわゆる「自社年金の不利益変更法理」の給付減額の必要性に関する要件であると考えられるところ,事業主による掛金の拠出が困難になると見込まれるため,従来の給付水準を維持することが適当でなく,その見直しに合理性が認められる程度の掛金の額の上昇が認められれば足りると解すべきである。また,原告らが,加入者及び受給権者を一体としたキャッシ れるため,従来の給付水準を維持することが適当でなく,その見直しに合理性が認められる程度の掛金の額の上昇が認められれば足りると解すべきである。また,原告らが,加入者及び受給権者を一体としたキャッシュバランス制度の導入を決定した平成15年の再計算時において,仮に制度を導入しなかった場合の掛金額の推移から,事業主の掛金拠出が困難になるか否かを判断すべきである。 本件においては,平成15年の再計算時に,実際の年金資産を上回る年金債務の額であるいわゆる過去勤務債務を3年間で6000億円償却する必要性が判明し,掛金総額が平成14年度の約959億円から平成18年度には最大2076億円への上昇が見込まれたところ,原告Eの経営状況及び財務内容が悪化し,上昇後の掛金の拠出が困難であったため,給付設計を抜本的に見直すこととしたのである。そうすると,従来の給付水準を維持するならば,掛金の額が大幅に上昇することが予測され,原告Eによる掛金の拠出が困難になると見込まれたものであるから,「掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になる」という要件に該当する。 イまた3号要件の「給付の額を減額することがやむを得ない」という要件は,いわゆる「自社年金の不利益変更法理」の給付減額の相当性に関する要件と考えられるところ,現役従業員とのバランスないし給付水準の比較,旧制度による年金が社会全体からみて容認し難い給付水準であったか,対- 18 -象者への説明,意向確認,労働組合との交渉等が行われたかとの各要素を総合判断すべきであり,手続要件を充足したことは,「給付の額を減額することがやむを得ないこと」の判断に当たり最大限尊重されるべきである。 本件においては,2号要件の相当性の要件について述べたのと同じ理由により,3号要件についても給付減額の相当性が認めら の額を減額することがやむを得ないこと」の判断に当たり最大限尊重されるべきである。 本件においては,2号要件の相当性の要件について述べたのと同じ理由により,3号要件についても給付減額の相当性が認められ,「給付の額を減額することがやむを得ない」という要件に該当する。 (被告及び被告訴訟参加人らの主張)3号要件の「給付の額を減額しなければ,掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため,給付の額を減額することがやむを得ないこと」とは,過去の掛金額の実績及び将来の掛金額の見込み,掛金額の上昇要因,給付の減額幅,給付減額を回避する方策の検討状況等の処分時の事情を総合的に判断されるべきであり,受給権者等の給付減額は,年金制度を廃止するという事態を避けるための次善の策として「給付の額を減額することがやむを得ない」と認められる場合に限られる。 本件においては,平成15年12月に予定利率が2.0パーセントに設定され,その後の運用利回りは,平成15年度が9.3パーセント,平成16年度が5.2パーセントの高利率で推移していたから,現行の予定利率を1. 3パーセントに引き下げることは,実際の利回りの推移を踏まえておらず,その必要性が高いものではない。また,原告Eでは,平成14年度に経常利益及び当期利益とも黒字となり,その後も1000億円前後の当期黒字が継続しているのであり,このような収益の推移をみれば,原告らにおいて掛金を拠出することが困難になると見込まれるなどということは到底できない。 しかも,原告Eで発生していた過去勤務債務は平成21年度までにその償却が終了し,平成22年度以降は掛金額が激減するというのであり,特別掛金額の掛金負担が重い平成21年以前に,あえて予定利率の引下げを行って掛金額を更に増加させる行動は極めて不可解で 年度までにその償却が終了し,平成22年度以降は掛金額が激減するというのであり,特別掛金額の掛金負担が重い平成21年以前に,あえて予定利率の引下げを行って掛金額を更に増加させる行動は極めて不可解で,そのような必要性があるとは- 19 -到底認められない。 そうすると,原告らの主張は,予定利率の引下げによって一定の掛金額の上昇をもたらして3号要件に該当すると見せかけ,掛金額の上昇幅を超える大幅な給付減額を認めさせようとする詭弁にすぎず,原告らが掛金を拠出することが困難になると見込まれる事情はなく,「給付の額を減額することがやむを得ない」という3号要件に該当するものとは到底考えられない。 第3争点に対する判断 争点(1)(規則5条2号及び3号は,法5条1項5号,施行令4条2号による委任の趣旨に反し無効か。)について(1)前記争いのない事実等に証拠(甲3の29,甲5,7ないし10,16,18,22)及び弁論の全趣旨を総合すると,法の立法経緯について,次の事実が認められる。 ア確定給付企業年金制度が導入される前の企業年金制度としては,法附則24条による改正前の法人税法84条に基づく適格退職年金制度及び厚生年金保険法106条以下に基づく厚生年金基金制度が存在した。 イ適格退職年金制度は,事業主が信託会社等との間で締結する契約に基づき年金資産を外部機関に積み立てて行う企業年金制度であり,当該契約が一定の適格要件を備える場合に,事業主が拠出する掛金の全額を損金に算入できるなどの税制上の特例(平成13年政令375号による改正前の法人税法施行令135条)が認められていた。しかし,適格退職年金は,税法上の制度であったため,積立基準や情報開示などの受給権保護規定がなく,積立不足等により年金給付を受け取れない場合が生じるなど,企業年金の受給権保 5条)が認められていた。しかし,適格退職年金は,税法上の制度であったため,積立基準や情報開示などの受給権保護規定がなく,積立不足等により年金給付を受け取れない場合が生じるなど,企業年金の受給権保護を強化する必要性が指摘されていた。 ウ厚生年金基金制度は,事業主と被用者である被保険者により組織される厚生年金基金が,厚生年金の給付を国に代わって行い(いわゆる代行給付),併せて企業独自の年金給付(加算部分)を上乗せするものであった。 - 20 -しかし,厚生年金基金制度は,公的年金の一部代行や終身年金を原則とするなど公的性格に由来する制約があり,また,企業の財政悪化により基金が解散される事例が増えたことから,公的性格による制約を行わず,柔軟な制度設計が可能な企業年金制度の創設が要望されていた。 エこのような状況下で,「事業主が従業員と給付の内容を約し,高齢期において従業員がその内容に基づいた給付を受けることができるようにするため,確定給付企業年金について必要な事項を定め,国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支援し,もって公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的」(法1条)として創設されたのが,確定給付企業年金制度である。そして,このような法の趣旨に鑑み,受給権保護を図るための規定のない適格退職年金制度は平成14年3月31日に廃止され,それまでに締結された適格退職年金契約は,平成24年3月31日までに限り存続することとされた。また,確定給付企業年金の事業主は,適格退職年金契約を締結している場合,平成24年3月31日までの間に限り,厚生労働大臣の承認を受けて,当該適格年金に係る権利義務を承継することができるとされた(法附則25条)。 オそして,法は,労使の合意による年金規約に基づいて信託会社等 24年3月31日までの間に限り,厚生労働大臣の承認を受けて,当該適格年金に係る権利義務を承継することができるとされた(法附則25条)。 オそして,法は,労使の合意による年金規約に基づいて信託会社等との契約により外部に年金資産を積み立てて管理運用する「規約型」(法3条1項1号,4条)と,基金を設立し,その基金において年金資産を管理運用する「基金型」(法3条1項2号,8条)の企業年金を設けた。 (2)ア前記争いのない事実等によれば,本件企業年金は,上記の「規約型」の確定給付企業年金,すなわち,規約型企業年金であるところ,前示のとおり,厚生労働大臣の承認(法3条1項1号)を受けた規約を変更するためには,法5条1項5号に基づく施行令4条2号の要件を満たす必要がある。この施行令4条2号は,給付の額を減額することを内容とする規約の変更をしようとするときの承認の要件として,(1)当該規約の変更をしな- 21 -ければ確定給付企業年金の事業の継続が困難となることその他の厚生労働省令で定める理由があること(理由要件)と,(2)厚生労働省令で定める手続を経て行われるものであること(手続要件)の2つを掲げている。 そして,原告は,この施行令4条2号の要件のうち,前者の「厚生労働省令で定める理由」として,厚生労働省令である規則5条2号及び3号が定めた要件が過剰規制であり,法5条1項5号及び施行令4条2号の趣旨に反し無効である旨主張するので,検討する。 イそもそも,法は,前示のとおり,それまでの企業年金制度に対する反省を踏まえ,「事業主が従業員と給付の内容を約し,高齢期において従業員がその内容に基づいた給付を受けることができるようにするため,確定給付企業年金について必要な事項を定め」ることを目的としているのであって(法1条),給付減額を内容とする規約の変 高齢期において従業員がその内容に基づいた給付を受けることができるようにするため,確定給付企業年金について必要な事項を定め」ることを目的としているのであって(法1条),給付減額を内容とする規約の変更,とりわけ,既に具体的に発生した受給権について給付減額を実施することについては,企業の自主性,労使の合意(多数決による意思決定等)のみに委ねるのではなく,加入者等の受給権を保護するために必要な定めを置くことは,法の趣旨に沿うものであることは言を俟たないところであり,また,法は事業主の積立義務(法59条)及び積立不足の場合の追加拠出義務(法63条)について規定するが,積立義務を定めたとしても,容易に規約を変更して給付の額を減額することができることとすれば,受給権の保護を図ることはできないのであって,施行令4条2号は,このような法の趣旨を踏まえ,「事業の継続が困難となることその他の厚生労働省令で定める理由がある場合」という要件を置いたものと解される。 そして,施行令4条2号の委任を受け,規則5条2号及び3号は,「実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,給付の額を減額することがやむを得ないこと。」(2号),「給付の額を減額しなければ,掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれる- 22 -ため,給付の額を減額することがやむを得ないこと。」(3号)と定めているところ,その内容は,施行令4条2号が具体的に例示した「当該規約の変更をしなければ確定給付企業年金の事業の継続が困難となること」という内容をより具体的にしたものであって,文言上は,特に,施行令4条2号の委任を逸脱しているとは見受けられない。 さらに,証拠(甲5ないし8,11,35,乙2,7,9)及び弁論の全趣旨によれば,確定給付企業年金法案についての国会にお って,文言上は,特に,施行令4条2号の委任を逸脱しているとは見受けられない。 さらに,証拠(甲5ないし8,11,35,乙2,7,9)及び弁論の全趣旨によれば,確定給付企業年金法案についての国会における審議においては,年金受給権の保護が重要なテーマとして取り上げられ,労使の合意で定められた給付の額を減額する場合の要件について,厚生労働大臣及び政府参考人が,厚生年金基金の取扱いを基本的に踏襲して政省令で規定する旨答弁していること(甲6ないし8,35,乙7,9),その厚生年金基金については,基金設立認可基準通知(甲11,乙2)が,厚生年金基金における給付水準の引下げの実施につき,「基金を設立している企業の経営状況が,債務超過の状態が続く見込みであるなど著しく悪化している場合」や「設立時又は直近の給付水準の変更時から5年以上が経過しており,かつ,給付設計を変更しなければ掛金が大幅に上昇し掛金の負担が困難になると見込まれるなど,給付設計の変更がやむを得ないと認められる場合」等において,「基金の存続のため受給者等の年金の引下げが真にやむを得ないと認められる場合であって」,「給付設計の変更について,全受給者等の3分の2以上の同意を得ていること」等の条件を定めており,前記の厚生労働大臣及び政府参考人が基本的に踏襲するとした厚生年金基金の取扱いとは,これらの条件を指すものと解されること,衆議院厚生労働委員会平成13年5月25日付け確定給付企業年金法案に対する附帯決議において,「給付額の減額など,受給者にとって不利益な変更が行われる場合の手続について,適切な措置を講じること」とされていること(甲5,乙7)がそれぞれ認められ,これらによれば,立法に際し,政省令に- 23 -おいて,前記の基金設立認可基準通知が定めている要件と同様の要件を定めた規定を 措置を講じること」とされていること(甲5,乙7)がそれぞれ認められ,これらによれば,立法に際し,政省令に- 23 -おいて,前記の基金設立認可基準通知が定めている要件と同様の要件を定めた規定を置くことが想定されていたと認められる。そして,証拠(甲11,乙2)によれば,そのような立法時における経緯を踏まえて制定された,規則5条2号及び3号の規定は,基金設立認可基準通知における給付水準が下がる場合に必要とされる要件を踏襲し,これとほぼ同旨の要件を置いたものであることが認められる。 これに対し,原告らは,上記答弁及び附帯決議は受給権を保護するための「手続」について述べているにすぎず,「理由」には触れていないから,立法に際し理由要件を定めることは予定されていなかった旨主張するが,前示のとおり,基金設立認可基準通知には,手続的な要件のみならず,むしろ理由についての要件が詳細に定められているのであり,立法時には,この両要件を念頭において議論されていたことは明らかであり,手続要件のみを規定することが法の趣旨であったという原告らの主張はおよそ採用できるものではない。 また,実質的に考えても,受給権者等の3分の2以上の同意を求める手続要件を充足するのみでは,同意しなかった3分の1未満の少数の受給権者等の受給権を多数者の意思に委ねることとなり,3分の1未満の受給権者等の受給権の保護を図ることができない場合が生じるが,そのような事態が前示の法の趣旨に反することは明らかというべきであるから,手続要件の充足のみで受給権の保護を図ることができるから理由要件は過剰規制である旨の原告らの主張は,到底採用することができない。 ウ原告らは,規則6条1項に基づく特別一時金措置により給付減額による受給権者等の経済的不利益は解消されるから,理由要件について定めた規則5 である旨の原告らの主張は,到底採用することができない。 ウ原告らは,規則6条1項に基づく特別一時金措置により給付減額による受給権者等の経済的不利益は解消されるから,理由要件について定めた規則5条2号及び3号は過剰規制であると主張する。そこで検討するに,給付減額された受給権者等が本来予定されていた年金給付と同様の給付を実現するためには,受領した特別一時金を何らかの方法で資産運用する必要- 24 -があるところ,仮に原告が主張するように安全性が高い国債で資産運用するとしても,証拠(乙13)及び弁論の全趣旨によれば,国債(利付債)は,半年に1回利子が支払われるのみで元本の償還は例えば30年国債であれば30年後であること,国債を満期前に中途換金した場合には売却損が発生するリスク等があることが認められ,そうすると,特別一時金により給付減額による受給権者等の経済的不利益は解消されるとは認め難いから,理由要件について定める規則5条2号及び3号が過剰規制である旨の原告らの主張は採用することができない。 エさらに,原告らは,法は,確定給付企業年金の終了について,被用者年金被保険者等の過半数を代表する者等の同意を要件としているにすぎないから,規約の変更による給付減額の場合に理由要件を加重するのは不合理であり,また,給付減額の要件が加重されていると,安易に企業年金終了の選択をすることを慫慂することになり不合理であると主張する。 そこで検討するに,たしかに法は,確定給付企業年金制度の終了について,実施事業所に使用される被用者年金被保険者等の過半数で組織する労働組合の同意等を要件とし(法84条1項),理由要件を課していない。 しかしながら,その趣旨は,確定給付企業年金制度の終了は,企業にも従業員にも与える不利益が極めて大きく,一般に,給付額の減額を含めて 働組合の同意等を要件とし(法84条1項),理由要件を課していない。 しかしながら,その趣旨は,確定給付企業年金制度の終了は,企業にも従業員にも与える不利益が極めて大きく,一般に,給付額の減額を含めて企業年金制度の終了回避の方策を尽くしてもなおこれを回避できないときに行われるものであり,労使が最終的に合意してその道を選択をするならばそれに委ねようというものであると解されるところ,企業年金存続中における給付額の減額は,その個別的な内容いかんによっては,既に退職した受給権者と現職従業員との間の利害,あるいは受給権者内部での利害が対立することも十分あり得るのであって,これを手続要件だけに委ねていたのでは,受給権者の保護を図ることができないのであり,それぞれの趣旨目的に応じた要件が設けられることはむしろ当然であって,給付額の減額- 25 -の場合にのみ理由要件を課しているからといって,何ら不合理であるということはできない。また,企業年金制度の廃止は,上記のように労使にとって重大な不利益をもたらすものであるから,給付減額に理由要件が課されているからといって,安易に企業年金制度を終了することを慫慂することになって不合理であるということもできない。 (3)以上によれば,受給権者等に係る給付減額を内容とする規約変更を行う場合に,規則5条2号及び3号の要件を定めることは,法の委任及び施行令の再委任の範囲を超えるものではないと解されるから,この点に関する原告らの主張は採用することができない。 争点(2)(本件申請に係る規約変更は,施行令4条2号,規則5条ただし書,規則6条1項2号の「給付の額を減額する」場合に該当するか。)について(1)施行令4条2号,規則5条ただし書及び規則6条1項2号は,「給付の額を減額する」規約変更については,理由要件及び手 し書,規則6条1項2号の「給付の額を減額する」場合に該当するか。)について(1)施行令4条2号,規則5条ただし書及び規則6条1項2号は,「給付の額を減額する」規約変更については,理由要件及び手続要件を満たさなければならないとしているが,それは,前記第3の1で検討したとおり,手続要件のみでは保護を図ることができない少数者の受給権者等の受給権の保護を図るという法の趣旨に基づくものであるから,例えば,企業年金の給付額を決定する要因となる給付利率や据置利率が引き下げられることによって,その結果,受給権者等が受け取る給付額が現実に減額になるのであれば,それがたとえ少数の受給権者等に関するものであったとしても,「給付の額を減額する」という要件に該当するというべきである。 (2)そこで,本件申請に係る規約変更についてみるに,前示のとおり,給付利率は,現在の7.0パーセント又は4.5パーセントを10年国債の表面利率の3年平均に0.5パーセントを加えた率(指標)に変更し,ただし,指標の上限を7.0パーセントにするというものである。そうすると,現行の7.0パーセントの給付利率が適用されている受給権者にとって,本件申請どおりに本件規約が変更されると,給付額が増額される可能性はなく,現- 26 -状維持又は給付減額のいずれかとならざるを得ない。そして,証拠(乙5(資料13),10)及び弁論の全趣旨によれば,例えば,直近5年間(平成13年から17年まで)の10年国債の表面利率の3年平均に0.5パーセントを加えた率(指標)の平均値は約1.98パーセントであったこと,平成17年度及び18年度における指標は,これよりも低いそれぞれ1.79パーセント,1.81パーセントであったこと,原告らにおいても,本件申請時の指標の予測値として平成17年度及び18年度が1 と,平成17年度及び18年度における指標は,これよりも低いそれぞれ1.79パーセント,1.81パーセントであったこと,原告らにおいても,本件申請時の指標の予測値として平成17年度及び18年度が1.7パーセント,平成19年度が2.0パーセント,平成20年度が2.6パーセント,平成21年度が3.2パーセントとの見通しであったことがそれぞれ認められる。 そうすると,前記争いのない事実等(5)イで認定したとおり給付利率について施行月から6年間は3.5パーセントを下限とする旨の経過措置が設けられていることを考慮しても,本件申請に係る規約変更によって,本件処分時において現行の7.0パーセントの給付利率が適用される受給権者について,給付利率が大幅に引き下げられることは確実であったと認められる。 これに対し,原告らは,本件キャッシュバランス制度においては,給付利率の上限を7.0パーセント,下限を法定下限利率(規則43条2項1号)と1.5パーセントのいずれか高い率としているところ,法定下限利率は,10年国債の利率ないし利回りに連動させているから,仮に法定下限利率が本件規約で定める上限の7.0パーセントを超えた場合には,この7.0パーセントは上限としての機能を失うとして,現在7.0パーセントの給付利率が適用されている受給権者等にとって減額分が回復される余地がないとするのは誤りである旨主張する。そこで検討するに,たしかに理論上はそのようなことがあり得るとしても,「給付の額を減額する」規約変更に手続要件及び理由要件を要求した趣旨が,受給権者等の現実の受給権を保護する趣旨であることに鑑みれば,「給付の額を減額する」規約変更に該当するか否かは,将来実際に支払われることになるべき給付の額に基づいて比較検討すべ- 27 -きであるところ,上記で認定した指標の実績 趣旨であることに鑑みれば,「給付の額を減額する」規約変更に該当するか否かは,将来実際に支払われることになるべき給付の額に基づいて比較検討すべ- 27 -きであるところ,上記で認定した指標の実績及びその動向,さらに原告ら自身による予測値に鑑みれば,およそ予測可能な近い将来において指標が今後7.0パーセントに達すると推認させるに足る証拠は何ら存在しない。そうすると,およそ予測不可能な遠い将来をも考えれば理論的に可能性がないわけでないからといって,本件申請に係る規約変更が「給付の額を減額する」という要件に該当しないと解することは到底できないのであって,この点についての原告らの主張は採用することができない。 (3)なお,現在4.5パーセントの給付利率が適用されている受給権者等については,仮に本件申請どおり本件規約が変更されたとしても,理論上は,市場の金利水準次第で指標が,本件キャッシュバランス制度で上限とされている7.0パーセントまで上昇する可能性がないとはいえないから,減額とならない可能性自体はある。しかしながら,上記(2)で認定した指標の実績及びその動向,さらに原告ら自身による予測値に鑑みれば,近い将来において,現在4.5パーセントの給付利率の適用を受けている受給権者にとって,給付額が減額とならない,あるいは増額となる可能性というものは,実際上は,ほとんどないといわざるを得ない。原告は,市場の金利次第で年金受給額が減額とはならない可能性が相当程度あると主張するが,あまりにも現実の指標の実績や動向と離れた主張であるといわざるを得ない。しかし,いずれにせよ,そもそも上記(2)のとおり,現在7.0パーセントの給付利率が適用されている受給権者等について「給付の額を減額する」という要件が満たされる以上は,現在4.5パーセントの給付利率が適用 いずれにせよ,そもそも上記(2)のとおり,現在7.0パーセントの給付利率が適用されている受給権者等について「給付の額を減額する」という要件が満たされる以上は,現在4.5パーセントの給付利率が適用されている受給権者等について「給付の額を減額する」に当たるか否かを検討するまでもなく,本件申請に係る規約変更は「給付の額を減額する」という要件に該当することになるのであるから,この点については更に検討する要をみない。 (4)以上によれば,本件申請に係る規約変更は,施行令4条2号,規則5条ただし書,規則6条1項2号に定める「給付の額を減額する」との要件に該- 28 -当すると認めることができる。 争点(3)(本件申請に係る規約変更は,規則5条2号の要件,すなわち「実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,給付の額を減額することがやむを得ないこと。」(2号要件)を満たすか。)について(1)前記認定のとおり,確定給付企業年金制度は,従前の企業年金である適格退職年金制度が受給権の保護に欠けており,事業主が約束したはずの年金給付が積立不足等により受けられなくなるなどの反省に基づき,企業年金の受給権の保護を目的として導入されたものであるところ,証拠(乙7)によれば,法の国会審議において,年金給付の引下げについて,厚生労働大臣が,「母体企業の経営状態の悪化などによりまして企業年金を廃止するという事態を避けますために,次善の策として,加入者のみならず,受給者の給付水準の引き下げを行うことも労使合意による選択肢の1つであると考えております。」と述べ,受給権の引下げは,企業年金を廃止する事態を避けるための次善の策として位置付けるなど,極めて例外的限定的な場合に行われるべきであるとの認識を示したことが認められる。また,前示のとおり,厚生労働大臣及び政 の引下げは,企業年金を廃止する事態を避けるための次善の策として位置付けるなど,極めて例外的限定的な場合に行われるべきであるとの認識を示したことが認められる。また,前示のとおり,厚生労働大臣及び政府参考人は,厚生年金基金の取扱いを基本的に踏襲して政省令を定める予定である旨を繰り返し述べ,これらを受けて,2号要件及び3号要件が設けられたことが認められるのであって,このような立法過程における議論等を踏まえて法は,受給権者等の有する受給権について,経営上の都合で安易に年金給付額が切り下げられることがないように特別の規定を設けることとし,その1つとして「実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,給付の額を減額することがやむを得ないこと」という2号要件が設けられたものであると解される。そして,給付減額のやむを得なさの程度については,受給権者等については,現役の加入者と異なり,既に受給権が具体的に発生し年金が生活の基盤の一部となっていること,加入者であれば雇用の確保や給与等の水準の改善等で給付減額分の利益の回復が可能であるのに対- 29 -し,受給権者の場合はそれが期待できないことに鑑みれば,前記の厚生労働大臣の答弁にも如実に表れているように,減額対象者に既に受給権が確定した受給権者が含まれる場合は,まさに年金を廃止するという事態を避けるための次善の策という厳しい位置付けがされているものと解すべきである。そうすると,受給権者等に対する給付減額が許容されるためには,単に経営が悪化しさえすれば足りるというのではなく,母体企業の経営状況の悪化などにより企業年金を廃止するという事態が迫っている状況の下で,これを避けるための次善の策として,「給付の額を減額することがやむを得ない」と認められる場合に限られると解するのが相当である。 これに対し,原告らは 業年金を廃止するという事態が迫っている状況の下で,これを避けるための次善の策として,「給付の額を減額することがやむを得ない」と認められる場合に限られると解するのが相当である。 これに対し,原告らは,厚生年金基金は公的性格を有し,確定給付企業年金は自社年金に類似したものであって,そもそも制度の性格が異なるから,厚生年金基金における取扱いを踏襲することは誤りである旨主張する。 しかしながら,基金設立認可基準通知によって,厚生年金基金の給付減額が許されるのは,厚生年金の給付を国に代わって行ういわゆる代行部分ではなく,企業が独自に上乗せを行う加算部分であるから,このような加算部分についての給付減額の取扱いを確定給付企業年金において踏襲することが,不合理な立法判断であるということはできない。 (2)これを本件についてみるに,証拠(甲3の3,22,乙5(資料10))及び弁論の全趣旨によれば,本件企業年金の掛金の約90パーセントを拠出し,本件企業年金の受給権者等の約93パーセントが帰属する原告Eの収益は,平成12年度は経常損失約916億円及び当期損失約246億円,平成13年度は経常損失約1629億円及び当期損失約5420億円といずれも損失を計上したものの,その翌年からは黒字に転じ,平成14年度は経常利益約1082億円及び当期利益約223億円,平成15年度は経常利益約1883億円及び当期利益約1194億円,平成16年度は経常利益約1776億円及び当期利益約991億円と掛金額を控除した後の経常利益及び- 30 -当期利益において継続的に多額の利益を計上していることが認められ,さらに本件処分時(平成18年2月10日)より前に行われた平成17年度中間決算公表時(平成17年11月9日)において,当初の平成17年度業績予想である経常利益約400億円及び当期 ることが認められ,さらに本件処分時(平成18年2月10日)より前に行われた平成17年度中間決算公表時(平成17年11月9日)において,当初の平成17年度業績予想である経常利益約400億円及び当期利益約240億円(甲3の22)を大幅に上方修正して経常利益約1200億円及び当期利益約730億円とし,さらに,同第3四半期決算公表時(平成18年2月3日)において更に上方修正し,経常利益約1300億円及び当期利益約850億円としていること,そして,現に平成17年度決算(平成18年5月12日)において,経常利益約1407億円及び当期利益約838億円を計上し,平成18年度の業績予想として経常利益約1110億円及び当期利益約650億円を生じるとしていること,さらに,原告Eは,平成15年度に約218億円の配当を実施し,平成16年度は配当額を約670億円に大幅増額し,平成17年度にも約647億円の配当を予定していたことがそれぞれ認められる。このように,原告Eは,約1000億円前後の当期利益を継続的に計上し,約600億円程度の配当を実施していたものであるから,本件処分時において規則5条2号にいう「経営の状況が悪化した」ものであったとは到底認められない。 (3)これに対し,原告らは,原告Eが平成14年度以降に当期利益を出しているのは,人的リストラ策に伴う退職関連費用を特別損失として平成13年度に前倒しで一括計上したことに起因するものであるから,原告Eの経営状況が平成14年度以降に好転したわけではなく,現に,原告Eは,減収減益の傾向にある旨主張する。 しかしながら,原告Eの経営状況の好転の理由がいかなるものであれ,原告らは,本件処分時において前示のとおり相当の利益を計上していたものであって,給付減額を許容する要件としての「実施事業所の経営の状況が悪化した ,原告Eの経営状況の好転の理由がいかなるものであれ,原告らは,本件処分時において前示のとおり相当の利益を計上していたものであって,給付減額を許容する要件としての「実施事業所の経営の状況が悪化した」状態に該当するといえないことは明らかであり,他に原告らの経営の状況が企業年金制度の維持が困難なほどに著しく悪化していたことを認める- 31 -に足りる証拠はない。 また,原告らは,会社法上,当期の損益計算書上利益があることは配当の条件とされていないから,当期利益の有無と配当可能性は直結しないとして,配当の実施をもって経営の状況が悪化していないとはいえない旨主張するが,前示のとおり,そもそも原告Eは,相当の当期利益を計上した上で配当を実施したものであるから,この点に関する原告らの主張は失当である。 (4)以上によれば,本件申請に係る規約変更を承認するに当たり,「実施事業所の経営の状況が悪化した」と認めることはできないのであって,企業年金制度を廃止するという事態を避けるための次善の策として,「給付の額を減額することがやむを得ない」とはいえないから,本件申請に係る規約変更が2号要件を満たすとは認められない。 争点(4)(本件申請に係る規約変更は,規則5条3号の要件,すなわち「給付の額を減額しなければ,掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため,給付の額を減額することがやむを得ないこと。」(3号要件)を満たすか。)について(1)前記3(1)記載のとおり,法は,受給権者等の受給権の保護の重要性に鑑み,経営上の都合で安易に受給権者等に対する給付額が切り下げられることがないようにするために特別の規定を設けたものであると認められ,その1つとして3号要件が定められたと解されるから,規則5条3号の「給付の額を減額し 安易に受給権者等に対する給付額が切り下げられることがないようにするために特別の規定を設けたものであると認められ,その1つとして3号要件が定められたと解されるから,規則5条3号の「給付の額を減額しなければ,掛金の額が大幅に上昇し,事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため,給付の額を減額することがやむを得ないこと」という要件該当性を検討する際にも,このような立法経緯を踏まえて検討すべきである。 (2)そこで,3号要件のうち,掛金の額が上昇した場合に,「事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれる」か否かについて検討するに,証拠(甲3の3,26ないし28,乙6の2)及び弁論の全趣旨によれば,E- 32 -における過去の掛金額の実績は,平成12年度が約1470億円,平成13年度が約1510億円,平成14年度が約750億円,平成15年度が約1130億円,平成16年度が約1100億円であって,平成12年度から平成16年度までの平均は単年度当たり約1190億円であったこと,その後の掛金額の見込みは,現行の予定利率2.0パーセントを維持した場合には,平成17年度から平成21年度までは平均で単年度当たり約1172億円であり,現行の予定利率を1.3パーセントに引き下げた場合には,平成17年度から平成21年度までの掛金額の見込みは,平均で単年度当たり約1340億円と約168億円上昇するが,平成21年までに,実際の年金資産を上回る年金債務の額である,いわゆる過去勤務債務の償却が完了し,平成22年以降は,掛金額が単年度当たりの総額で約183億円にまで減少する見込みであったことが認められる。 他方,前記3(2)で認定したとおり,原告Eの収益は,平成12年度は経常損失約916億円及び当期損失約246億円,平成13年度は経常損失約1629 円にまで減少する見込みであったことが認められる。 他方,前記3(2)で認定したとおり,原告Eの収益は,平成12年度は経常損失約916億円及び当期損失約246億円,平成13年度は経常損失約1629億円及び当期損失約5420億円といずれも損失を計上したが,その翌年からは黒字に転じ,平成14年度は経常利益約1082億円及び当期利益約223億円,平成15年度は経常利益約1883億円及び当期利益約1194億円,平成16年度は経常利益約1776億円及び当期利益約991億円と掛金額を控除した後の経常利益及び当期利益において継続的に多額の利益を計上していることが認められ,さらに本件処分時(平成18年2月10日)より前に行われた平成17年度中間決算公表時(平成17年11月9日)において,当初の平成17年度業績予想である経常利益約400億円及び当期利益約240億円を大幅に上方修正して経常利益約1200億円及び当期利益約730億円とし,また,同第3四半期決算公表時(平成18年2月3日)において更に上方修正し,経常利益約1300億円及び当期利益約850億円としていること,そして,現に平成17年度決算(平成18年- 33 -5月12日)において,経常利益約1407億円及び当期利益約838億円を計上し,平成18年度の業績予想として経常利益約1110億円及び当期利益約650億円を生じるとしていることが認められる。 そうすると,予定利率を2.0パーセントから1.3パーセントに引き下げることにより生じる年約168億円の掛金上昇額(平成17年度から平成21年度までの単年度平均)は,平成17年度の業績予想に基づく数値と比べても十分に利益の中から拠出可能であり,また平成14年度,15年度,16年度の利益もこの掛金上昇額を相当程度上回っており,このような原告Eにおける収 均)は,平成17年度の業績予想に基づく数値と比べても十分に利益の中から拠出可能であり,また平成14年度,15年度,16年度の利益もこの掛金上昇額を相当程度上回っており,このような原告Eにおける収益の傾向が,上記の掛金上昇が続く平成21年度までの間に大幅に減益となり,掛金額を拠出することが困難となることを合理的に予測させる証拠はなく,現に,平成17年度決算において経常利益約1407億円及び当期利益約838億円を計上し,平成18年度の業績予想として経常利益約1110億円及び当期利益約650億円を生じるとしていたのであり,しかも,前示のとおり,平成22年度以降には掛金額が総額で約183億円に減少することが予測されていたのであるから,本件処分時において,上記のとおり掛金額が上昇したとしても,「事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれる」ものであったとは到底認めることはできない。 これに対し,原告らは,「事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれる」事情として,原告Eは,平成12年度以降に減収減益の傾向にあると主張し,これに沿う証拠(甲3の22)を提出するところ,たしかに同証拠によれば,原告らによって,原告Eは,平成17年度は経常利益約400億円及び当期利益約240億円,平成18年度は経常損失約270億円及び当期損失約160億円,平成19年度は経常損失約940億円及び当期損失約560億円になるとの試算が示されていたことが認められる。しかしながら,平成17年度の上記試算については,本件処分時において既に公表されていた同年度第3四半期決算公表時の上方修正においては経常利益約13- 34 -00億円及び当期利益約850億円と,原告らの上記試算値を3倍以上も大幅に上回る利益が生じることが見込まれているのであり,そうすると,このような 表時の上方修正においては経常利益約13- 34 -00億円及び当期利益約850億円と,原告らの上記試算値を3倍以上も大幅に上回る利益が生じることが見込まれているのであり,そうすると,このような上記の試算についての極めて大きな見込みの誤りが,平成17年度に関してのみ生じたことを説明する合理的な理由がない限り,原告Eの平成18年度以降の上記試算値はおよそ使用することができないといわざるを得ないところ,そのような合理的な理由を説明する根拠は何ら認められないことに加え,前示のとおり,平成18年5月に示された平成18年度の業績予測では,上記試算のように損失を生じるどころか,経常利益約1110億円及び当期利益約650億円という大幅な利益が生じる旨の予測をしたことが認められるのであって,上記のような試算に基づく原告らの主張は到底採用することができない。 (3)なお,証拠(甲3の3,25,28,乙5(資料12))及び弁論の全趣旨によれば,本件企業年金における掛金額の上昇は,予定利率を2.0パーセントから1.3パーセントに引き下げることによってもたらされるものであると認められるところ,本件企業年金における実際の運用利回りは,平成15年度が9.3パーセント,平成16年度が5.2パーセント(いずれも時価利回り。平成17年度は17.12パーセント)であって,上記の引下げ前の予定利率である2.0パーセントはもとより,本件適格退職年金を実施していた平成15年の引下げ前の予定利率である3.0パーセントをもはるかに上回る利率で推移していたことが認められることからすれば,上記の予定利率の引下げは,実際の利回りを踏まえて行われたものとは到底認められないのであって,そもそも上記のような大幅な掛金増加を伴う予定利率の引下げを行うべき合理的な理由が存するかについても, ,上記の予定利率の引下げは,実際の利回りを踏まえて行われたものとは到底認められないのであって,そもそも上記のような大幅な掛金増加を伴う予定利率の引下げを行うべき合理的な理由が存するかについても,大いに疑わしいといわざるを得ない。 (4)以上によれば,本件申請に係る規約変更案の内容が,3号要件を満たすとは到底認められない。 - 35 -第4 結論 よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部定塚誠裁判長裁判官古田孝夫裁判官工藤哲郎裁判官
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