- 1 -平成20年わ第2025号公電磁的記録不正作出,同供用被告事件()主文被告人A1を懲役2年6月に,被告人A2を懲役2年に処する。 被告人両名に対し,この裁判確定の日から4年間それぞれその刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人A1は,岐阜地方法務局表示登記専門官として,被告人A2は,同法務局総務登記官として,いずれも,岐阜市A’町B’丁目C’番地所在の同法務局登記部門に勤務し不動産の表示の登記に関する事務に従事していたものであるが,同法務局首席登記官であった分離前の相被告人A3,同法務局総括表示登記専門官であった同A4及び不動産売買等を業とする株式会社B1の実質的経営者であり,岐阜市E’地内等において分譲宅地等造成事業を行っていた同A5との間で,上記A5が実質的に支配し真実の面積が約39平方メートルである岐阜市F’G’丁目H’番I’の土地につき,地積更正登記手続を利用して同土地の土地登記上の面積を不正に拡大しようと企て,上記A3ほか2名と共謀の上,同法務局の事務処理を誤らせる目的で,平成16年3月10日ころ,同法務局において,登記官の権限を濫用して,同法務局内に設置されたホストコンピューター内に蔵置された不動産登記ファイルに,その端末機を使用し,前記土地の面積が5万9253平方メートルである旨の虚偽登記事項を記録した上,そのころ,同所において,同ファイルを備え付け,もって,登記官により作られるべき同法務局の事務処理の用に供する権利,義務に関する電磁的記録である不動産登記ファイルを不正に作った上,これを同法務局の事務処理の用に供した。 (証拠の標目)(。)括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す- 2 -(証拠の標目は省略)( ァイルを不正に作った上,これを同法務局の事務処理の用に供した。 (証拠の標目)(。)括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す- 2 -(証拠の標目は省略)(争点に対する判断) 争点 本件の争点は①本件当時岐阜市FG丁目H番Iの土地以下本,,’’’’(,「件土地」という)の真実の面積が約39平方メートルであったか,②被告人両。 名は,本件当時,本件土地の地積更正登記手続の申請内容が,虚偽であることを知っていた(したがって「事務を誤らせる目的」もあった)か,③被告人両名,及び罪となるべき事実記載のその他の共犯者らは,本件について共謀したかの3点である。以下検討する。 証拠により認められる事実等関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 平成8年7月16日に,岐阜市F’G’丁目H’番の土地(以下「H’番の土(1)地」という)が南北に分筆され,北側の土地が同所H’番J(以下「H’番J。 ’’の土地」という)となり,南側が本件土地となった。当時,H’番の土地の。 西側は岐阜市の道路と隣接し,東側は同市の水路と隣接していたことから,分筆の際,岐阜市の職員も立ち会った上,東西の筆界が確認された。そして,H’番J’の土地と本件土地とを分ける境界線の基準となる地点に杭が設置された。 平成9年には,株式会社B1が申請した,岐阜市内における大規模な宅地造成開発が許可されたが,H’番J’の土地は開発区域の内に,本件土地は開発区域の外に位置することとなり,H’番J’の土地と本件土地とを分ける境界線は,開発区域の内外を画するものともなった。 平成15年3月26日に,本件土地は更に南北に分筆され,本件土地の南側に同所H’番K’の土地ができた。その分筆の際には,本件土地と同所H’番K’ る境界線は,開発区域の内外を画するものともなった。 平成15年3月26日に,本件土地は更に南北に分筆され,本件土地の南側に同所H’番K’の土地ができた。その分筆の際には,本件土地と同所H’番K’の土地とを分ける境界線の基準となる地点に杭が設置された。 上記2度の分筆に際しては,土地家屋調査士らによって地積測量が行われた。 いずれの測量も,光波測距儀という,角度や距離が測定可能な機器を使うなどし- 3 -て行われており,測量を行った土地家屋調査士らは,その測量結果は正確である旨述べている。平成15年の分筆の際には,その際創設された筆界以外の本件土地の筆界は,平成8年の分筆の際,現地で確認された筆界点として杭が設置された地点が基準にされた。そして,平成15年に行われた上記分筆に際し,本件土地の地積は,平成8年の分筆の際の求積結果も踏まえて39.6807355平方メートルと求積され,法令上の基準に従い39平方メートルとの登記がなされた。 岐阜市E’地内等で分譲宅地等造成事業を行っていた株式会社B1等の実質的(2)経営者であったA5(以下「A5」という)は,平成14年11月ころ,岐阜。 市E’L’番M’の土地(以下「L’番M’の土地」という)につき,地積更。 正登記手続と地図訂正手続を利用して同土地の登記上及び地図上の面積を不正に拡大させようと考え,平成15年3月にA5が実質的に経営している株式会社B2(以下「B2」という)を申請人とする地積更正登記申請を行った。その申。 請内容は,周辺土地の地積測量図と照らし合わせてみると,これらに整合しない,’’,,ものであってL番Mの土地の拡大により周囲の土地の地積が縮小したり一筆の土地が分断したりするものであった。また,担保権の設定されていないL’番M’の土地を拡大させるとともに, ’’,,ものであってL番Mの土地の拡大により周囲の土地の地積が縮小したり一筆の土地が分断したりするものであった。また,担保権の設定されていないL’番M’の土地を拡大させるとともに,それにより,同土地付近にある根抵当権の設定された土地の地積が縮小することとなるものでもあった。 平成15年3月,当時,岐阜地方法務局登記部門の総括表示登記専門官であっ(3)たA6(以下「A6」という)は,同人の異動に当たり,L’番M’の土地の。 上記地積更正登記申請の処理について,同法務局において,被告人両名を含む関係者を集め,引継ぎをした。その際,A6は,その場にいた者らに対し,図面を示しながら上記申請の内容を説明し,既提出の周辺の土地の地積測量図と整合しないことなどから,却下事案であると説明した。 被告人A1は,平成15年4月1日から岐阜地方法務局表示登記専門官を務め(4)ていた。当時,表示登記申請事件については,総括表示登記専門官のA4(以下- 4 -「A4」という,その部下である被告人A1や同A2らがその処理に当たって。)いたが,表示登記専門官は表示登記実務のトップであり,通常の表示登記申請事件は,同職にあった被告人A1が校合して登記完了の処理をしていた。 被告人A2は,平成15年4月1日から岐阜地方法務局総務登記官を務めており,被告人A1の下で表示登記に関する調査や校合事務を行っていた。 表示登記申請事件の中でも複雑困難なものについては,被告人A1が,上司であるA4,首席登記官のA3(以下「A3」という)らに報告,相談して指示。 を仰ぎ,最終的には,A3が判断し承認を与えるなどしていた。これらの役職の間には,職制上の上下関係があった。 平成15年5月上旬ころ,A5からL’番M’の土地の地積更正登記申請を受(5)託した土地家屋調 ,最終的には,A3が判断し承認を与えるなどしていた。これらの役職の間には,職制上の上下関係があった。 平成15年5月上旬ころ,A5からL’番M’の土地の地積更正登記申請を受(5)託した土地家屋調査士のA7(以下「A7」という)が同登記申請の相談のた。 めにA5と共に岐阜地方法務局を訪れた際,A5は,登記官らに対し,時折強い口調で話をしており,A7には,へりくつをこねているように感じられることがあった。また,A5の言動は,登記官らを困惑させるようなこともあった。L’番M’の土地については,平成15年5月21日,地積を2106平方メートルから6528平方メートルに拡大する地積更正登記がなされ,併せて,同土地に係る地図訂正がなされた。 その後,B2(前記のとおりA5が実質的に経営)を申請人とする以下の各地(6)積更正登記等がなされた。 ア平成15年6月27日,岐阜市E’N’番の土地(以下「N’番の土地」という)につき,地積を33平方メートルから3万5940平方メートルに増加さ。 せる地積更正登記がなされ,併せて,同土地に係る地図訂正がなされた。 イ平成15年7月31日,本件土地につき,地積を39平方メートルから562平方メートルに増加させる地積更正登記がなされ,併せて,同土地に係る地図訂正がなされた。 ウ平成15年9月26日,N’番の土地につき,地積を3万5940平方メート- 5 -。 ,ルから6万2220平方メートルに増加させる地積更正登記がなされたその後同土地は,N’番O’とN’番P’の各土地に分筆され(以下,便宜上,両土地を併せて「N’番の土地」ともいう,平成15年11月25日にN’番P’の。)土地につき,平成15年12月3日にはN’番O’の土地につき,それぞれ処分禁止の仮処分が付されたが,本件土地には,担保権が設定され N’番の土地」ともいう,平成15年11月25日にN’番P’の。)土地につき,平成15年12月3日にはN’番O’の土地につき,それぞれ処分禁止の仮処分が付されたが,本件土地には,担保権が設定されておらず,本件当時には,処分禁止の仮処分も付されていなかった。 平成16年3月10日,本件土地につき,判示の地積更正登記がなされた。ま(7)た,同日,N’番の土地につき,地積を6万2220平方メートルから32平方メートルに縮小する地積更正登記がなされた。そして,上記各地積更正登記に併せて,同土地に係る各地図訂正がなされた。本件地積更正登記申請は,形式的には有限会社B3(以下「B3」という)の申請となっているが,B3は,A5。 が実質的に支配していた会社であり,上記申請は,実質的にはA5が行ったものである。 上記一連の地積更正登記申請に当たり,法務局に相談に来ていたA5の対応に(8)主として当たっていた登記官は,被告人A1であり,同A2は,同A1と共にA5の対応に当たっていた。 以上の事実が認められる。 また,関係法令等によれば,地積更正登記(本件当時の不動産登記法(明治3)),(),2年法律第24号81条の5等は地積変更登記同法81条とは異なり登記簿上の地積と現況(真実の地積)との間に齟齬がある場合,登記簿上の地積を訂正する制度であって,土地の筆界の移動を伴わないものであり,また,登記官は,地積更正登記を行うに当たり,申請内容の実質的審査権を有していると解される(同法50条。 ) 被告人A1の検察官調書における供述被告人A1は,検察官調書において,要旨,次のとおり供述している。 (1)「平成15年3月,岐阜地方法務局において,被告人A2を含む登記官らと共- 6 -に,A4の前任であったA6から,懸案事項として,同 1は,検察官調書において,要旨,次のとおり供述している。 (1)「平成15年3月,岐阜地方法務局において,被告人A2を含む登記官らと共- 6 -に,A4の前任であったA6から,懸案事項として,同月にA5がB2の本人申請という形で行ったL’番M’の土地の地積更正登記申請についての引継ぎを受けた。その際,A6からは「申請の内容は,筆界を何の根拠もなく勝手に移動,,。 させ同土地を根抵当権が設定されている隣接地上にまで拡大させるものであるまた,同土地は以前の分筆時に地積測量図が作成されており,筆界は確定している。このようなことなどから,申請は,許されない内容であるので,A5が取り下げなければ却下していただきたい」旨の説明を受けた。同申請の内容は,実。 地調査をするまでもなく,土地の実態に反した虚偽のものであることは明らかであったので,私は,A5が同申請を取り下げない場合は,これを厳に却下すべきであると考えたし,私以外の登記官もそのように考えたはずである。そして,同年4月中旬から下旬ころ,A5は,L’番M’の土地について同年3月の申請とほぼ同内容の新たな申請をしようとした。私は,被告人A2らと共にA5に直接,,,,対応しA5に同年3月の申請を取り下げるなどするよう求めたがA5から「おかしいけど,地図も街もきれいになるんや。測量図も合わせる。縄延びがあるから仕方がない」と言われた。しかし,私は,このA5の発言内容から,同。 人が内容虚偽であることを分かった上で申請をしようとしていることは間違いないと思い「あんたがおかしいゆうとるもん,こっちで処理できないでしょ」な,。 どと言ったが,逆に「却下できるもんなら却下してみい。お前らより勉強しと,るんや」などと言われた。その後,同年5月上旬ころ,A5は,L’番M’の。 土地の地積更 ちで処理できないでしょ」な,。 どと言ったが,逆に「却下できるもんなら却下してみい。お前らより勉強しと,るんや」などと言われた。その後,同年5月上旬ころ,A5は,L’番M’の。 土地の地積更正登記の件について,A7を帯同して岐阜地方法務局を訪れた。私,「,。 や被告人A2を含めた登記官らがこれに対応し結局は筆界が動きますやんそれだけはできません「前の地積測量図を否定することになりますから無理で。」すよ」などと言うと,A5は「分筆する前の土地の面積を測り間違えたんだ。 。 ,だから,こうやって縄延びができるんだ「土地の所有者がいいと言えばそれで。」いいだろ」などと述べ,論理的に立場が悪くなると声の大きさや態度で跳ね返。 すなどしていた。A3ら上司は,このようなA5の案件に関し,自らは決して矢- 7 -面に立とうとせず,私と被告人A2に対応を任せるばかりで,問題を先送りにしたままであった。私は,このような上司の態度に対する憤りや,被告人A2と共に応対する都度A5から浴びせられる言われなき罵声に精神的に疲れ切ってしまった。このようなことから,私は,今回に限り,A5が申請しようとしている地積更正登記の内容が虚偽であっても,あえて目をつぶることを考えるようになった。虚偽であっても,形式的な書類が整っていて,うやむやのまま発覚しなければ,特に問題になることはないであろうし,万が一,この件が発覚しても,処理を誤ったとして言い訳をすれば,事なきを得るのではないかとも思ったからである。しかし,私一人でこれを行えば,この件が露呈した場合,最終的に全ての責任が私に集中することから,首席登記官など幹部登記官に当該申請の内容が虚偽であるものの,これを分かりつつ登記を完了したい旨申出をして,その了承を得ることにした。そこで,首席登記官のA 終的に全ての責任が私に集中することから,首席登記官など幹部登記官に当該申請の内容が虚偽であるものの,これを分かりつつ登記を完了したい旨申出をして,その了承を得ることにした。そこで,首席登記官のA3以下の登記官に集まってもらい,A5の申請内容を説明した後「あかんもんですけど,仕方ないと思います」などと,。 言って,A5の上記申請の内容は虚偽であるものの,登記せざるを得ない旨述べたところ,A3から了承を得た。この申請内容に基づく登記を完了させる際,私は,被告人A2に「本当にやっていいのやなあ」などと,内容虚偽の登記を完,。 了しても本当によいのかという趣旨のことを言ったが,同人は「あかんて言っ,てないですもん」などと述べた。A5が,N’番の土地の1度目の地積更正登。 記申請の相談に来た際,私や被告人A2らで対応したが,同申請内容が筆界を根拠なく移動させるものであることから「無理ですよ」などと述べた。そして,,。 私と被告人A2がこの相談内容についてA3らに相談したところA3は困,,,「。」,「。」。 ったですねえ形式的要件がそろっていたら仕方ないですねなどと述べた私は,A3が暗に内容が虚偽であっても登記を完了せざるを得ないと言っているのだと分かったし,被告人A2も同様に理解したはずである。N’番の土地の2度目の地積更正登記申請の相談にA5が来た際,私は,被告人A2と対応に当たった。A5が申請しようとする内容が筆界を根拠なく移動させる明らかに土地の- 8 -実態に反した虚偽のものであったので,私や被告人A2は「筆界は変わりませ,ん。無茶苦茶ですよ」などとこれを認めることはできない旨述べた。その後,。 私は,被告人A2に対し「ここであかん言うても,これまでは,なんやったん,や言うてくるわな」などと,内容虚偽 わりませ,ん。無茶苦茶ですよ」などとこれを認めることはできない旨述べた。その後,。 私は,被告人A2に対し「ここであかん言うても,これまでは,なんやったん,や言うてくるわな」などと,内容虚偽でも登記を完了するしかない旨言ったと。 ころ,同人は「そうですなあ」などと言った。平成15年7月,A5が,私と,。 ,,被告人A2らに本件土地の1度目の地積更正登記申請をしたいと言ってきた際同申請が,何の根拠もなく筆界を移動させる内容であったことから,私は「土,。」,,「。 地の形が急に変わるのはおかしいですよと言い被告人A2は無理ですよおかしいですよ」などと言って,申請は受け付けられない旨述べた。その後,。 A5が実際に申請をした際,被告人A2は,A5の意向をA3らに説明したが,誰が聞いてもその内容が虚偽であることは明白であった。平成16年2月中旬ころ,A5が,私と被告人A2に,本件地積更正登記申請等をしたいと言ってきた際,このときも,本件土地について,何の根拠もなく筆界を移動させて面積を拡大させるなどの内容であったことから,被告人A2は「絶対に無理です」など,。 と答えたが,A5からの内容虚偽の地積更正登記申請を却下した場合,これまでの内容虚偽の地積更正登記を完了した件については,後の審査請求の中でA5の主張として出てきて露呈することは必至だった。そこで,本件地積更正登記申請,。 への対応について被告人A2を含む表示登記部門の全登記官の間で協議をしたこの協議において,私は,N’番の土地に処分禁止の仮処分命令が発せられたこと,本件土地所有権は,もともとA5が実質的に経営するB2が有していたが,これが本件地積更正登記申請前に売買によりB3に移転されたこと,本件地積更正登記及びそれに対応する地図訂正を行うと,無担保の本件土 本件土地所有権は,もともとA5が実質的に経営するB2が有していたが,これが本件地積更正登記申請前に売買によりB3に移転されたこと,本件地積更正登記及びそれに対応する地図訂正を行うと,無担保の本件土地が,根抵当権が。 ,設定されている周囲の土地上に広がる結果となることなどを説明したもっともこのころには,何度もA5の意に沿うままに内容虚偽の登記を完了させており,協議をするといっても,最初から内容虚偽の登記を完了させることが登記官らの前提で,私が,問題を提起しつつ,それをクリアする理論を募り,また,自ら説- 9 -明,報告するいわば出来レースの場に過ぎないものだった。とにかく,法務局側としては,これまで内容虚偽の登記を繰り返していたので,この件が発覚して過去の件も全て発覚すれば,その責任は,首席登記官のみならず,局長まで及ぶはずであった。そのような事態だけは避けなければならないので,内々に内容虚偽であると分かりつつ,当該申請を受理して,内容虚偽の地積更正登記を完了させなければならなかった。そして,A3から了承が得られたので,私は,被告人A2らと共に,形だけの実地調査を行った後,主に同人をして,本件登記手続を行わせた」。 被告人A1の検察官調書における供述の信用性(2)ア被告人A1の検察官調書における供述内容は,具体的であり,不自然・不合理な点はない上,前記2の事実等や関係者の供述ともよく整合している。また,被告人A1は,平成16年2月に行われた登記官らの協議の内容等を記載した書面を作成している(乙14)ところ,上記書面には「仮処分が入っている土地に,ついて地積更正出来るか「現地実調して関係者の供述を得て判断する,すべて」整っていれば処理せざるを得ないであろう「B2が増歩ならわかるがB3ので。」はおかしいから」などの記載が いる土地に,ついて地積更正出来るか「現地実調して関係者の供述を得て判断する,すべて」整っていれば処理せざるを得ないであろう「B2が増歩ならわかるがB3ので。」はおかしいから」などの記載があり,被告人A1の前記供述内容は,この書面の記載内容とも符合している。以上によれば,同供述の信用性は十分に高いということができる。 イ弁護人の主張被告人両名の各弁護人は,以下の点などを理由に,被告人A1の検察官調書における供述には信用性がない旨主張するので,この点につき検討する。 ア動機について()被告人両名の各弁護人は,被告人A1に内容虚偽の登記を完了するというような職務犯罪をする動機があるとしたら,A5からの利益供与を受けることしかあり得ないところ,被告人A1の検察官調書の供述における,平成15年にL’番M’の土地の内容虚偽の地積更正登記をした動機は,利益供与を動機としていな- 10 -,。 ,,,いから不自然である旨主張するしかしながら被告人A1は前記のとおりA5に対する対応等に疲れ切って,内容虚偽の登記をすることを考えるようになった旨述べており,この点はそれ自体理解可能なものである上,同被告人は,その際,内容虚偽の登記をしたとしても,うやむやのまま発覚しなければ,特に問題になることはないであろうし,万が一,発覚しても,処理を誤ったとして言い訳すれば事なきを得るのではないかと思った旨も述べているのである。このような点も併せ考えれば,各弁護人主張の点をもって被告人A1の検察官調書中の動機に関する供述が不自然とはいえない。 また,被告人両名の各弁護人は,被告人A1が検察官調書において,本件土地等の内容虚偽の各地積更正登記をした動機として,要旨「申請を受理すれば,,これまでの不正が露見しない」旨述べている部分について また,被告人両名の各弁護人は,被告人A1が検察官調書において,本件土地等の内容虚偽の各地積更正登記をした動機として,要旨「申請を受理すれば,,これまでの不正が露見しない」旨述べている部分について,申請の受理と不正。 ,,の露見との因果関係が不明確である登記は一般に公開されているのであるから虚偽の登記がなされた時点で不正は露見されるのであり,申請を受理することで不正が露見しないことは論理的にあり得ないなどとして,かかる動機の供述部分も不自然である旨主張する。しかしながら,被告人A1は,この点について,申,,請を却下した場合にはそれまで内容虚偽の地積更正登記を完了した件について後の審査請求の中でA5の主張として出てきて露呈することは必至であった旨述べているのであり,この点は,申請却下に対する審査請求の在り方等を前提として十分理解可能である。そして,受理すれば少なくとも上記のような事態を避けられることは明らかである。また,確かに,登記は一般に公開されるものではあるが,地積更正の登記を閲覧するだけで閲覧者に直ちに虚偽であることが判明することにはならない。したがって,各弁護人の前記主張を踏まえても,被告人A1の検察官調書における供述の信用性が揺らぐことにはならない。 (イ) 不動産表示登記実務の実情との関係について両被告人の各弁護人は,要旨,地積更正登記手続においては真実の筆界は移動しないという筆界論を,本件のような事案の認定に硬直的に用いるのは相当でな- 11 -いのであって,不動産表示登記実務上は,隣地所有者の承諾書等を有力な資料にして筆界の是正をすることができるのであり,また,地積更正登記の申請において,土地家屋調査士が申請代理人となっている場合は,申請内容自体の信頼も高いとされており,申請に際し,土地家屋調査士が作成した土地 筆界の是正をすることができるのであり,また,地積更正登記の申請において,土地家屋調査士が申請代理人となっている場合は,申請内容自体の信頼も高いとされており,申請に際し,土地家屋調査士が作成した土地調書が添付されていることも有力な資料になるところ,本件の地積更正登記申請も,上記のような資料等が備わっていた,このようなことからして,被告人A1は本件の申請内容,,が虚偽であることを容易に看破することはできなかったはずであるしたがって虚偽性を認識していたとする同被告人の検察官調書の供述は不自然であって信用できない旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,登記官には,登記申請の内容についての実質的,,審査権があるのであり隣地所有者の承諾書と土地家屋調査士作成の土地調書はそれらが添付されていれば必ず申請が認容処理されるというような資料となるものではない。しかも,本件地積更正登記申請に係る土地家屋調査士作成の土地調書に記載されていた申請理由は,本件土地には合筆の経緯はないのに「当該地,は分合筆をかさねた結果現在の形となってしまいましたが再調査の結果以前の境界にもどすものです」というものになっているなど,ずさんなものであった(なお「再調査」の内容についても具体的な記載がない。 ,。)このようなことからすると,各弁護人の前記主張を踏まえても,被告人A1の検察官調書における供述の信用性が揺らぐことにはならない。 被告人A1の公判における供述(3)被告人A1は,公判において「A5が関わっている本件地積更正登記申請に,ついて,内容虚偽であるという認識は一切なかったし,虚偽かもしれないという認識も一切なかった。本件地積更正登記申請については,土地家屋調査士の調書と隣地所有者の承諾書の内容を判断したり,A3以下の登記官らと協議を行うなどした結 識は一切なかったし,虚偽かもしれないという認識も一切なかった。本件地積更正登記申請については,土地家屋調査士の調書と隣地所有者の承諾書の内容を判断したり,A3以下の登記官らと協議を行うなどした結果,認容処理すべきと考え,申請を受理した」旨供述している。 。 しかしながら,前記2のとおり,A5が関わった本件土地を含む一連の地積更- 12 -正登記申請は,比較的短期間のうちに,地積の増減の程度も大きいものを,同一の土地に対して複数回繰り返しているといった特異なものであったのに,本件地積更正登記申請の内容が虚偽かもしれないという認識が一切なかったと述べている点はいかにも不自然である。なお,被告人A1の弁護人は,この点に関し,これら一連の地積更正登記申請は,大規模な宅地開発が行われている地域内の土地についての申請であるため,必ずしも不自然な内容ではない旨主張するが,大規模な宅地開発がなされている地域内の土地であるからといって,個々の一筆の土地における地積更正登記の際の地積の増減の程度が大きくなるなどとは直ちにいえない上,前記のような一連の地積更正登記申請の特異性なども踏まえると,上記弁護人の主張は採用し難い。このようなことなどからして,被告人A1の公判における供述はにわかに信用し難い。 小括(4)以上によれば,被告人A1の検察官調書における供述が十分信用できるというべきである。 被告人A2の供述検察官調書における供述(1)被告人A2は,検察官調書において,本件登記内容の虚偽性について確定的に認識しており,そのような内容の登記をすることにつき,被告人A1及び判示記載の共犯者らと共謀した旨供述しているところ,その供述内容は,前記2の事実等及び前記信用できる被告人A1の検察官調書における供述等と整合し,不自然・不合理な点はなく,信用性 き,被告人A1及び判示記載の共犯者らと共謀した旨供述しているところ,その供述内容は,前記2の事実等及び前記信用できる被告人A1の検察官調書における供述等と整合し,不自然・不合理な点はなく,信用性は十分に高いということができる。 公判における供述(2)被告人A2は,公判では「本件地積更正登記申請が内容虚偽であるという認,識はなかった。土地家屋調査士が代理人となって申請してきていることから信頼を置いていたし,隣地所有者の承諾書が添付されていたことにより,隣地のトラブルがないと考えられたほか,上司と協議した結果,問題があると述べた者はい- 13 -なかったからである」旨供述している。 。 しかしながら,前記のとおり,A5が関わった本件土地を含む一連の地積更正登記申請は,その内容がかなり特異なものであったにもかかわらず,被告人A2が本件地積更正登記申請の内容が虚偽かもしれないという認識はなかった旨述べている点は不自然である。なお,本件地積更正登記によって本件土地の地積が大きく増加したことにつき,被告人A2は「岐阜市D’内の開発地域は,全体と,して縄延び部分が相当程度あった。同開発地域は北側から分筆・分譲されていったが,それらの部分についての縄延びは分筆において反映されておらず,分筆・分譲されていない本件土地に,同開発地域全体としての縄延びが集中するという状態になった。このようなことから,本件土地の地積が大きく増加したとしても不思議でないと考えた」旨述べているが,他方で「開発区域の土地の縄延びを。 ,ある1筆の土地に集中させるというやり方は,原則論としてはあり得ない」旨。 も述べているのであるから,前者の供述は説得力に欠ける。このようなことからして,被告人A2の公判での本件地積更正登記申請の内容の虚偽性の認識を否定する供述内容はにわ 原則論としてはあり得ない」旨。 も述べているのであるから,前者の供述は説得力に欠ける。このようなことからして,被告人A2の公判での本件地積更正登記申請の内容の虚偽性の認識を否定する供述内容はにわかに信用し難い。 小括(3)以上によれば,被告人A2の検察官調書における供述が十分信用できるというべきである。 各争点について争点①について(1)前記2のとおり,本件土地の東西は,岐阜市の道路及び水路と隣接し,土(1)地の形状等が,真実の筆界を把握する基準となり得る状況にあったものであり,平成8年の分筆の際には,岐阜市の職員も立ち会った上で,東西の隣接地との各筆界が確認され,その基準となる地点に杭が設置されるなどしている。 また,本件土地の北側の筆界は平成8年に,南側の筆界は平成15年に,いずれも,分筆によって創設されたものであるから,その際の当事者の意思によって- 14 -筆界とされたところが正に真実の筆界となるのであり(なお,上記当事者の意思に錯誤があった等の事情はうかがわれず,また,平成8年の分筆による筆界は,翌年,宅地造成開発許可の関係で,許可区域の内と外を画する境界線にもなっている,現地にはその基準となる地点に杭が設置されている。そして,平成15。)年の分筆時には,その際創設された筆界以外の筆界は,平成8年の分筆の際に確認されていた筆界点として杭が設置された地点がそのまま基準にされている(平成8年の分筆時に設置した杭の一部は,平成15年の分筆当時には滅失していたものの,残った杭等から,平成8年の分筆時の筆界点が確認されている。 。)以上によれば,本件当時の本件土地の四囲の真実の筆界は,平成15年の分筆の際に,現地で確認された筆界であったと認められる。そして,その筆界を基準に,土地家屋調査士らが正確な測量をした結 る。 。)以上によれば,本件当時の本件土地の四囲の真実の筆界は,平成15年の分筆の際に,現地で確認された筆界であったと認められる。そして,その筆界を基準に,土地家屋調査士らが正確な測量をした結果と平成8年の分筆時の求積結果を踏まえて求積したことが認められる約39平方メートルが本件土地の真実の面積であると認められる。 争点②,③について(2)信用できる被告人両名の各検察官調書における供述及び前記認定事実等によれば,被告人両名は,本件当時,本件土地の地積更正登記手続の申請内容が虚偽であることを知っていたしたがって事務を誤らせる目的もあったこと争(,「」)(点②,被告人両名及び罪となるべき事実記載のその他の共犯者らが,本件につ)いて共謀したこと(争点③)が認められる。 (法令の適用)罰条公電磁的記録不正作出の点被告人両名につき,刑法60条,161条の2第2項,1項不正作出公電磁的記録供用の点被告人両名につき,刑法60条,161条の2第3項,2- 15 -項,1項科刑上一罪の処理被告人両名につき,刑法54条1項,10条(公電磁的記録不正作出と同供用との間には手段結果の関係があるので,1罪として犯情の重い不正作出公電磁的記録供用罪の刑で処断)刑種の選択被告人両名につき,懲役刑を選択刑の執行猶予刑法25条1項被告人両名につき,訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文,182被告人両名につき,条(量刑の理由)本件は,法務局表示登記専門官として不動産の表示の登記に関する事務に従事していた被告人A1,及び法務局総務登記官として同事務に従事していた被告人A2が,他の登記官ら及び分譲宅地等造成事業等を行っていた判示A5と共謀の上,同法務局の事務処理を誤らせる目的で,登記官の権限を濫用して,不動産 ,及び法務局総務登記官として同事務に従事していた被告人A2が,他の登記官ら及び分譲宅地等造成事業等を行っていた判示A5と共謀の上,同法務局の事務処理を誤らせる目的で,登記官の権限を濫用して,不動産登記ファイルに,真実の面積が約39平方メートルである本件土地の面積が5万9253平方メートルである旨の虚偽登記事項を記録した上,同ファイルを備え付けたという事案である。 被告人両名を含む上記登記官らは,本件以前に,A5からの度重なる不正な意図に基づく内容虚偽の登記申請を繰り返し受理してきたことから,本件登記申請を却下した場合に,審査請求等により上記一連の不正な処理が発覚することを恐れるなどして,本件に及んだものである。このように,動機は自己保身等を目的とするものであって,酌量の余地に乏しい。 土地の面積は,取引等における基本的かつ重要な要素であり,それが明らかにされている表示登記について,その申請を適正に処理すべきことは登記官にとって最重要の職責といわなければならない。しかるに,本件は,登記官らが組織ぐるみでその職責に違背して敢行したものであり,職務犯罪として強い非難に値する。 - 16 -また,本件は,土地の面積を実態の約1500倍のものとする登記内容にしたものであり,虚偽の程度も甚だしい。 ,,本件犯行は社会全体の不動産登記制度に対する信頼を大きく損ねたものであり社会的影響も大きい。さらに,本件は,これと連動した地図訂正と相まって,隣接地の担保権設定者などの関係者にも悪影響を及ぼしている。 本件犯行は,共犯者の中では身分なき共犯であるA5が,積極的に動いて,被告人ら登記官に対し犯行を行わせたという側面もある。しかし,被告人両名ら登記官の決断及び行為なしには本件犯行は不可能であったのであり,登記官側の責任は重い。 被告人A1は,表示登記実 的に動いて,被告人ら登記官に対し犯行を行わせたという側面もある。しかし,被告人両名ら登記官の決断及び行為なしには本件犯行は不可能であったのであり,登記官側の責任は重い。 被告人A1は,表示登記実務のトップである表示登記専門官として,表示登記申請事件について適切な処理をすべき職責を負っていた上,本件を含むA5の一連の地積更正登記申請についての直接の対応を任されていた。また,登記官側で最初に本件につながるA5による内容虚偽の地積更正登記申請を受理しようと考え,他の登記官に発案したのも被告人A1である。このように,被告人A1の共犯者中の立場,果たした役割はいずれも重要である。また,被告人A1は,不合理な弁解に終始しており,反省の情が十分にみられない。 被告人A2は,総務登記官として,上司である被告人A1の下,表示登記申請事件について適切な処理をすべき職責を負っていたにとどまらず,本件を含むA5の一連の地積更正登記申請についての対応に当たっていた。このように,被告人A2の共犯者中の立場,果たした役割もいずれも相応に重要である。また,被告人A2も不合理な弁解に終始しており,反省の情が十分にみられない。 以上によれば,被告人両名の刑事責任は,それぞれに重いというべきである。 しかしながら,他方,被告人A1には,本件で懲役刑の有罪判決を受ければ,司法書士の資格が剥奪されること,退職手当を返納させられる可能性もあること,前科前歴がないことなどの酌むべき事情が認められる。 また,被告人A2には,本件で懲役刑の有罪判決を受ければ,失職になり,退職- 17 -,。 金も支払われなくなること前科前歴がないことなどの酌むべき事情が認められるそこで,以上の情状を総合考慮し,被告人両名に各主文の刑を科し,今回については,いずれもその刑の執行を猶予するのが相当と判断 金も支払われなくなること前科前歴がないことなどの酌むべき事情が認められるそこで,以上の情状を総合考慮し,被告人両名に各主文の刑を科し,今回については,いずれもその刑の執行を猶予するのが相当と判断した。 (検察官齋智人,被告人A1につき弁護人森川仁,同山本伊仁,被告人A2につき弁護人渡辺伸二各出席)(求刑被告人A1につき懲役3年,同A2につき懲役2年)平成21年9月8日名古屋地方裁判所刑事第4部裁判長裁判官芦澤政治裁判官寺澤真由美裁判官三田健太郎
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