主文 原判決を破棄する。被告人を禁錮四月に処する。但し、本裁判確定の日より二年間、右刑の執行を猶予する。原審および当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。理由 本件控訴の趣意は、名古屋地方検察庁検察官検事渡辺次郎作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりである(但し、当審第二回公判期日における検察官本多久男の釈明参照)から、ここにこれを引用する。右原審検察官の控訴の趣意に対する弁護人の答弁の趣意は、弁護人大道寺和雄および同天野末治両名共同作成名義の昭和四六年九月六日附控訴趣意書に対する答弁書、ならびに弁護人大道寺和雄、同天野末治および同中西英雄三名共同作成名義の同年九月七日附答弁書(但し、同書面二に記載の求釈明の項を除く)および同年一〇月六日附答弁書補充申立書にそれそれ記載されているとおりであるから、ここにこれらを引用する。前同控訴趣意書記載第一の事実誤認および第二の法令解釈適用の誤りの各論旨について。各所論は、要するに、(一)被告人に対する本件公訴事実は、「被告人は、土木建築請負業株式会社A産業所の建築工事主任として、同会社が愛知県海部郡a町B組合から請負つた同町大字b字cd番地の同組合第五米穀倉庫(鉄筋鉄骨コンクリート造平家建一棟)の新築工事に関し、下請業者等を指揮監督して、その施工一切を総括していたものであつて、昭和四三年六月二九日ころから七月一四日ころまでの間、Cらの下請業者を指揮し、敷板等をはさんで段状に組み立てる型式で、型わく支保工を組み立てさせたうえ、七月一五日午後三時ころから、同会社現場員Dらをして、下請業者Eらを指揮監督し、同倉庫東側部分の側壁に引き続き、同部分の梁および屋根(高さ約八・五メートル、面積四〇五・二五平方メー み立てさせたうえ、七月一五日午後三時ころから、同会社現場員Dらをして、下請業者Eらを指揮監督し、同倉庫東側部分の側壁に引き続き、同部分の梁および屋根(高さ約八・五メートル、面積四〇五・二五平方メートル)のコンクリート打設作業を行なおうとしたものであるが、第一、右工事の監督者としては、このような場合、支保工の組立に当たつては、支保工がコンクリート打設時の荷重に耐えられる堅固な構造のものになるよう、下請業者等を十分監督して、施工させるはもちろん、特に、屋根部分のコンクリート打設作業に際しては、支保工の不備欠陥の有無を改めて点検するとともに、天候の状態にも留意し、降雨等のため、流したコンクリートが屋根の一部に流動して片寄り、不均等な荷重が下の支保工に伝わるなどして、支保工が倒壊する等、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、前記Cらに指示して、支保工にはさむ敷板等を、安定をそこなうおそれのある二段式としたばかりでなく、前記支保工組立時および屋根部分コンクリート打設作業開始前における支保工の点検を怠り、支保工の支柱の中心が上下方向にそろつていず、支柱と敷板等の固定が不十分であり、かつ、熔接して継いだ支柱が使用されていたりなどしたのに、それらの不備欠陥に気付かないまま、右七月一五日午後三時ころから午後七時五〇分ころまでの間、かなりの降雨下において、前記打設作業を継続した過失により、同七時五〇分ころ、同倉庫東側部分の屋根に打設中のコンクリート(荷重一八七トン余)を、前記不備欠陥のある支保工の支柱に不均等に流動させて、その荷重で、同部分の支柱全体を倒壊させ、屋根の上で打設作業に従事していた前記E方作業員F(当時一九年)を床上に落下させて、コンクリート内に埋没させ、同日午後八時八分ころ、同工事現場で、同人を窒息死させたほか なりの降雨下において、前記打設作業を継続した過失により、同七時五〇分ころ、同倉庫東側部分の屋根に打設中のコンクリート(荷重一八七トン余)を、前記不備欠陥のある支保工の支柱に不均等に流動させて、その荷重で、同部分の支柱全体を倒壊させ、屋根の上で打設作業に従事していた前記E方作業員F(当時一九年)を床上に落下させて、コンクリート内に埋没させ、同日午後八時八分ころ、同工事現場で、同人を窒息死させたほか 同部分の支柱全体を倒壊させ、屋根の上で打設作業に従事していた前記E方作業員F(当時一九年)を床上に落下させて、コンクリート内に埋没させ、同日午後八時八分ころ、同工事現場で、同人を窒息死させたほか、同様屋根上て作業しでいた前記Dほか一二名を、同様床上に落下させ、同人らに対して、別表記載の各傷害を負わせ、第二、型わくの形状により、やむを得ない場合でないのにかかわらず、前記記載の日時ころ、前記工事現場において、前記Cらをして、前記倉庫の東側および西側部分全体に、敷板等を二段はさんで、型わく支保工を組み立てさせ、もつて、危害防止のための必要な措置を構じなかつたものである」というにあり(別表は、省略する)、そして、右の第一の事実は、業務上過失致死傷罪として、刑法第二一一条前段に、また、第二の事実は、労働基準法違反罪として、同法第一一九条第一号、第四二条、労働安全衛生規則第一〇七条の七第一号にそれぞれ該当するというのである。ところで、(二)原判決は、被告人に対する本件公訴事実中、第一の業務上過失致死傷の訴因については、原判決の理由中、罪となるべき事実として、被告人の注意義務および過失の態様を、「このような場合、工事の監督者としては、右支保工がコンクリート打設時の振動と荷重に十分耐え得る程度に堅固であるかどうか、ことに、本件のごとく、パイプサポートを支柱として使用し、支保工を組み立てる場合には、敷板、敷角を二段以上はさんで、パイプサポートを組み立てることは、支保工全体が極めて不安定となり、倒壊するおそれもあり、労働災害防止の見地から、法規(労働安全衛生規則第一〇七条の七)においても、原則としてこれを禁止しているところであるから、。ハイプサポートを右のような方法て組み立てないよう、あらかじめ下請負業者を指導監督するはもちろん、やむを得ず、このような 則第一〇七条の七)においても、原則としてこれを禁止しているところであるから、。 ポートを組み立てることは、支保工全体が極めて不安定となり、倒壊するおそれもあり、労働災害防止の見地から、法規(労働安全衛生規則第一〇七条の七)においても、原則としてこれを禁止しているところであるから、。ハイプサポートを右のような方法て組み立てないよう、あらかじめ下請負業者を指導監督するはもちろん、やむを得ず、このような 則第一〇七条の七)においても、原則としてこれを禁止しているところであるから、。ハイプサポートを右のような方法て組み立てないよう、あらかじめ下請負業者を指導監督するはもちろん、やむを得ず、このような方法で組立てをした場合においても、その組立方、材質等に不備欠陥がないかどうか、振れ止めのための水平つなぎ、筋かい等、倒壊防止のための補強措置が十分になされているかどうかを詳細に点検し、その安全を確認してから、コンクリートの打設作業を開始させることにより、倒壊事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、支保工の組立てに際し、前記Cら下請負業者が、南北に走る八本の大梁下を除くその余のスラブ下の全部に、敷板、敷角を二段にはさんで、パイプサポートを三段積みにして組み立てることを許容したばかりでなく、右支保工の組立作業の完了後においても、点検不十分のまま、その安全を確認することなく、コンクリート打設作業を開始せしめた過失により、右支保工に、(イ)右三段積みにしたパイプサポートの中心が上下方向に鉛直に通つていないものがあること、(ロ)振れ止めのための水平つなぎ、筋かいや、敷板、敷角の緊結が施していないものが多数あること、(ハ)パイプサポートの端板が敷板、敷角に固定していないものが多数あること、(ニ)折損したパイプサポートの内管を熔接で継いだ不良品や、内管と外管との継手の止ピンに強度の低い代用品か多数使用されていること等、支保工の安定を損う不備、欠陥があることに全く気づかず」と認定したほかは、前記公訴事実とほぼ同旨の事実を認定判示して、業務上過失致死傷罪に問擬し、被告人を罰金五万円に処したが、本件公訴事実中、第二の労働基準法違反の訴因については、原判決の理由中、一部無罪の理由として、「労働基準法のこれらの規定(同法第一一九条第一号 上過失致死傷罪に問擬し、被告人を罰金五万円に処したが、本件公訴事実中、第二の労働基準法違反の訴因については、原判決の理由中、一部無罪の理由として、「労働基準法のこれらの規定(同法第一一九条第一号、第四二条、労働安全衛生規則第一〇七条の七第一号)は、同法によつて、使用者が危害防止のためにとるべきことを義務つけられた必要措置を講じなかつた場合に、その『使用者』を罰するための規定(同法第四二条によると、『使用者は、機械、器具その他の設備、原料若しくは材料又はガス、蒸気、粉じん等による危害を防止するために、必要な措置を講じなければならない。 として、「労働基準法のこれらの規定(同法第一一九条第一号、第四二条、労働安全衛生規則第一〇七条の七第一号)は、同法によつて、使用者が危害防止のためにとるべきことを義務つけられた必要措置を講じなかつた場合に、その『使用者』を罰するための規定(同法第四二条によると、『使用者は、機械、器具その他の設備、原料若しくは材料又はガス、蒸気、粉じん等による危害を防止するために、必要な措置を講じなければならない。』とされており、さらに、同法第四五条は、使用者が右規定によつて講ずべき措置の基準を命令で定める旨を規定するとともに、労働安全衛生規則は、これをうけて、その第一〇七条の七第一号において、使用者は、敷板、敷角等をはさんで、段状に組み立てる型わく支保工については、型わくの形状により、やむを得ない場合を除き、敷板、敷角等を二段以上にはさんてはならない旨を規定し、労働基準法第一一九条は、これに違反した者に対し、六箇月以下の懲役又は五、〇〇〇円以下の罰金に処する旨規定している。)であつて、使用者以外の者を罰する規定てはないのである。しかも、同法第一〇条は、この点に関し、『この法律て使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。』旨規定して、一般的な使用者の範囲を明定しているのであつて、災害補償に関する同法第八七条以外に、その例外規定はないのであるから、同法第四二条の『使用者』は、同法第一〇条に規定する『使用者』とは同意味に解すべきことはもちろんである。もつとも、右第一〇条の規定によつても、具体的なケースにおいて、何人が『使用者』に当るかは、 、同法第四二条の『使用者』は、同法第一〇条に規定する『使用者』とは同意味に解すべきことはもちろんである。もつとも、右第一〇条の規定によつても、具体的なケースにおいて、何人が『使用者』に当るかは、必ずしも明確とはいえないのであるが、いずれにしても、右『使用者』とは、当該取締りの対象となつた事項との関係における労働者の直接の使用者のみをいい、その以外の、例えば、取締の対象となつた事項と関係のない労働者と使用関係のある者や、下請負人もしくは、その労働者との関係における元請負人及びその関係者等は、これに含まれないものと解するのが相当である。しかるに、本件公訴事実によると、被告人は、本件建築工事の元請負人である株式会社A産業所の建築工事主任として、右建築工事の施行一切を総括していた者であり、他方、本件型わく支保工の組立工事を実際に施行したのは、Cらの下請負業者であるというのであるから、これらの関係からするならば、たとえ、被告人が右下請負業者等を指揮監督する立場にあつたとしても、被告人は、単なる元請負人の現場監督者に過ぎず、右支保工の組立作業に従事した下請負業者の労働者との間に、使用関係を生ずるいわれはないものというべきである。 事主任として、右建築工事の施行一切を総括していた者であり、他方、本件型わく支保工の組立工事を実際に施行したのは、Cらの下請負業者であるというのであるから、これらの関係からするならば、たとえ、被告人が右下請負業者等を指揮監督する立場にあつたとしても、被告人は、単なる元請負人の現場監督者に過ぎず、右支保工の組立作業に従事した下請負業者の労働者との間に、使用関係を生ずるいわれはないものというべきである。してみると、被告人が労働基準法第四二条に規定する『使用者』に当らないものであることは、明らかであつて、本件公訴事実は、罪にならないものというべきであると説示して、被告人に対し、無罪の言い渡しをした。しかしながら、(三)原審において取り調べられた関係各証拠によれば、被告人は、土木建築請負業株式会社A産業所(以下、A産業と略称する)の建築工事主任として、同会社が愛知県海部郡a町B組合から請け負つた同町大字b字cd番地の同組合第五米穀倉庫(鉄筋鉄骨コンクリート造平家建一棟)の新築工事(以下、本件建築工事と略称する)に関し、各下 の建築工事主任として、同会社が愛知県海部郡a町B組合から請け負つた同町大字b字cd番地の同組合第五米穀倉庫(鉄筋鉄骨コンクリート造平家建一棟)の新築工事(以下、本件建築工事と略称する)に関し、各下請業者等を指揮監督して、その施工一切を総括していたものであり、コンクリート仮わく工事を下請けしたGからさらに下請けしたC等を指揮監督して、型わく支保工を組み立てさせたうえ、A産業の現場係員H、IおよびD等をして、左官業E等を指揮監督させて、側壁に引き続き、梁および屋根のコンクリート打設作業を行なわせたものであつて、本件建築工事の元請人であるA産業の現場主任技術者として、右型わく支保工の組立工事に関し、これを実際に施工した下請人ならびにその雇傭する労働者に対する関係において、実質上、作業上の指揮監督をし、かつ、その安全措置をとるべき権能と義務を有していたばかりでなく、右型わく支保工を利用して、コンクリート打設作業等に従事したA産業の現場係員、鳶、土工、左官等各労働者に対する関係においても、総括的に、実質的な指揮監督をし、かつ、その安全措置をとるべき権能と義務を有していたものであることを認めることができる。また、(四)本件建築工事におけるごとく、数字の請負によつて、工事が行なわれる場合においては、一つの設備等について、次々と、下位の請負人の労働者がこれを使用することになるのであり、建築工事に従事する労働者の危害防止のために、労働安全衛生規則が規制を加えている型わく支保工についていえば、本件建築工事において、前記C等が下請け施工した型わく支保工は、さらに、これを使用して、屋根スラブの型わく施工、コンクリートの打設、これに随伴する電気関係の配管施工等が行なわれるのであるから、これらの工事に従事する労働者も、右型わく支保工の安全性については、重大な利 使用することになるのであり、建築工事に従事する労働者の危害防止のために、労働安全衛生規則が規制を加えている型わく支保工についていえば、本件建築工事において、前記C等が下請け施工した型わく支保工は、さらに、これを使用して、屋根スラブの型わく施工、コンクリートの打設、これに随伴する電気関係の配管施工等が行なわれるのであるから、これらの工事に従事する労働者も、右型わく支保工の安全性については、重大な利 これを使用して、屋根スラブの型わく施工、コンクリートの打設、これに随伴する電気関係の配管施工等が行なわれるのであるから、これらの工事に従事する労働者も、右型わく支保工の安全性については、重大な利害関係を有し、これらの労働者の使用者か右型わく支保工の安全性に無関心であつてよいいわれはなく、従つて、労働基準法第一〇条、第四二条にいう「使用者」の中には、当然、これらの労働者の使用者も、含まれるものと解すべきであるばかりでなく、同法第四二条は、労働者の保護と安全を確保するための規定であるから、その解釈に当たつても、この精神を尊重し、元請人、下請人、あるいはこれらの者の現場監督等、それぞれの名目によつて、いわゆる「使用者」か否かを決定すべきものではなく、当該取締りの対象となつた事項、すなわち、安全衛生の点に関し、それによつて危害を蒙るおそれのある労働者を実質的に指揮監督する権限を有し、事業主の利益のために、その代理者または代弁者的立場で行為するか、否かによつて、これを決すべきものと解すべきであり、従つて、雇傭関係にはない元請けと下請け、さらには孫請け等、賃金の支払い、その他の一般的な労務管理面については、関係を有しない労働者に対する関係においても、当該労働者の保護と安全を確保すべき施設の施工ならびにその利用に関し、当該労働者に対して、実質的な指揮監督の権限を有する者てある以上、これを労働基準法第一〇条および第四二条にいう「使用者」に該当するものと解すべきである。従つて、(五)原判決が本件建築工事において、前記型わく支保工の組立工事を施工したのは、C等の下請業者であり、被告人は、元請人であるA産業の単なる現場監督者に過ぎず、右型わく支保工の組立作業に従事した下請業者の労働者との間に、使用関係を生ずるいわれはないとし、労働基準法第四二条にいう「使 の下請業者であり、被告人は、元請人であるA産業の単なる現場監督者に過ぎず、右型わく支保工の組立作業に従事した下請業者の労働者との間に、使用関係を生ずるいわれはないとし、労働基準法第四二条にいう「使用者」には当たらないとして、被告人に対し、本件労働基準法違反の公訴事実につき、無罪を言い渡したのは、本件建築工事全般、なかんずく、右型わく支保工の組立作業における被告人の実質的権限と義務についての事実を誤認し、ひいては、労働基準法第四二条および第一〇条の解釈適用を誤つたものであつて、原判決の右事実の誤認および法令解釈適用の誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。 二条にいう「使用者」には当たらないとして、被告人に対し、本件労働基準法違反の公訴事実につき、無罪を言い渡したのは、本件建築工事全般、なかんずく、右型わく支保工の組立作業における被告人の実質的権限と義務についての事実を誤認し、ひいては、労働基準法第四二条および第一〇条の解釈適用を誤つたものであつて、原判決の右事実の誤認および法令解釈適用の誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。各所論にかんがみ、記録を精査し、原判決を調査するに、被告人に対する本件公訴事実は、所論摘録(一)のとおりであり、原判決が、被告人に対する本件公訴事実中、第一の業務上過失致死傷の訴因については、原判決の理由中、罪となるべき事実として、被告人の注意義務および過失の態様を、所論摘録(二)前段のごとく認定したほかは、右の公訴事実とほぼ同旨の事実を認定判示しして、業務上過失致死傷罪に間擬し、被告人を罰金五万円に処したが、本件公訴事実中、第二の労働基準法違反の訴因については、原判決の理由中、一部無罪の理由として、所論摘録(二)後段のごとく説示して、被告人に対し、無罪の言い渡しをしたことは、所論のとおりである。そこで、当審における事実取調べの結果を参酌したうえ、原審において取り調べた関係各証拠を仔細に検討し、考えてみるに、右の各証拠(但し、後記措信しない部分を除く)によれば、被告人は、土木建築請負を業とするA産業の建築工事主任として、A産業が昭和四三年四月三〇日に愛知県海部郡a町B組合から請け負つた同町大字b字cd番地に建設する同組合第五米穀倉庫(鉄筋鉄骨コンクリート造平 は、土木建築請負を業とするA産業の建築工事主任として、A産業が昭和四三年四月三〇日に愛知県海部郡a町B組合から請け負つた同町大字b字cd番地に建設する同組合第五米穀倉庫(鉄筋鉄骨コンクリート造平家建一棟、床面積七四二・五平方メートル((間口四五メートル、奥行一六・五メートル、屋根高八・五メートル))の新築工事、すなわち、本件建築工事に関し、各下請業者等を指揮監督して、その施工一切を総括していたこと、そして、A産業の本件建築工事は、同年五月一日に着工して以来、本件で問題となつている型わくおよび同支保工組立工事はJ組ことGに、その他、土工々事はK産業ことLに、コンクリートパイル打込工事はM株式会社(N営業所)に、鉄筋工事はOことPに、鉄骨工事はQ株式会社に、電気工事はR商会ことSに、それぞれ下請けさせて、被告人の指揮監督のもとに、これを施工し、基礎土工、コンクリートパイルの打込み、床コンクリートの打設、鉄筋および鉄骨の組立て、側壁下部(床上五・三メートルまで)のコンクリート打設の各工事の終了後、同年六月二九日頃から同年七月一四日頃までの間に、前記GがT組ことCに下請けさせ、同人が一部をさらにU組ことVに下請けさせて、右Cが西側半分を、Vが東側半分をそれぞれ担当して、屋根スラブおよび梁のコンクリート型わく(以下、単にスラブ型わくと略称する)、ならびにその支保工(以下、単に型わく支保工と略称する)を施工したこと、なお、右の型わく支保工は、該下請契約により、A産業が貸与したパイプサポート(長さを調節することができる鋼管の支柱である。 の間に、前記GがT組ことCに下請けさせ、同人が一部をさらにU組ことVに下請けさせて、右Cが西側半分を、Vが東側半分をそれぞれ担当して、屋根スラブおよび梁のコンクリート型わく(以下、単にスラブ型わくと略称する)、ならびにその支保工(以下、単に型わく支保工と略称する)を施工したこと、なお、右の型わく支保工は、該下請契約により、A産業が貸与したパイプサポート(長さを調節することができる鋼管の支柱である。労働安全衛生規則第一〇七条の三参照)を使用して、A産業の現場主任である被告人とその配下の現場係員H、前記GおよびCが協議のうえ、敷板または敷角を二段にはさんで、パイプサポートを三本継ぎとする構造で、組み立てることに 〇七条の三参照)を使用して、A産業の現場主任である被告人とその配下の現場係員H、前記GおよびCが協議のうえ、敷板または敷角を二段にはさんで、パイプサポートを三本継ぎとする構造で、組み立てることに決し(前同規則第一〇七条の六、同条の七参照)、右Hが作成した組立図に基づき、前記CおよびVが施工したものであること、しかも、前記下請業者は、M株式会社を除いて、いずれも弱小の業者であり、殊に、CおよびVはもとより、Gも、型わく大工の頭領に過ぎず、建築工学の専門的な知識など有しないものであつて、名目は請負いといつても、材料の一部と労働者を提供したにひとしいものであること、そして、同年七月一五日に、A産業が生コンクリートの供給を註文してあつたW株式会社(名古屋支店)の手配により、X株式会社から、生コンクリートの輸送供給を受け、株式会社Yから、コンクリートポンプ車の出向を得、また、株式会社Y1から左官職人の、前記L方から、鳶と土工人夫の各供給を得て、なお、前記電気工事を下請けしたS方にも連絡したうえ、被告人の指揮監督のもとに、あるいは、その配下の現場係員前記H、同Iおよび同D等をして、指揮監督させて、側壁に引き続き、梁および屋根スラブのコンクリート打設作業を行なわせ、その最中に、型わく支保工が崩壊し、スラブ型わくが落下して、打設した生コンンリートが床上に流下する事故となつたものであることを肯認することができ、叙上認定のごとき事実関係からすれば、被告人は、本件建築工事の元請人であるA産業の現場主任技術者(一級建築士の資格を有する)として、前記の型わく支保工の組立工事に関し、これを実際に施工した下請人ならびにその雇傭する労働者に対する関係において、実質上、現場における作業上の指揮監督をし、かつ、現場におけるその安全措置を講ずべき権能と義務とを有してい 下する事故となつたものであることを肯認することができ、叙上認定のごとき事実関係からすれば、被告人は、本件建築工事の元請人であるA産業の現場主任技術者(一級建築士の資格を有する)として、前記の型わく支保工の組立工事に関し、これを実際に施工した下請人ならびにその雇傭する労働者に対する関係において、実質上、現場における作業上の指揮監督をし、かつ、現場におけるその安全措置を講ずべき権能と義務とを有してい 組立工事に関し、これを実際に施工した下請人ならびにその雇傭する労働者に対する関係において、実質上、現場における作業上の指揮監督をし、かつ、現場におけるその安全措置を講ずべき権能と義務とを有していたばかりでなく、右の型わく支保工を利用して、コンクリート打設作業等に従事したA産業の現場係員はもとより、A産業と直接雇傭関係のない鳶、土工、左官等各労働者に対する関係においても、現場におけるその作業上、総括的に、実質的な指揮監督をし、かつ、現場における安全措置を講ずべき権能と義務とを有していたものと認めるべきである。A産業と前記Gとの間の同年五月三日附請負契約書中には、第六項附帯事項の(8)として、「労働基準法、職業安定法、労働者災害補償法、失業保険法等、使用者としての法律に規定された一切の義務は、乙(右Gを指称する)に於いて負担するものとす」との約定がなされ、前記L、S等との請負契約書中にも、右と同様の約定がなされているが、いずれも、A産業の契約書用紙に、不動文字をもつて印刷された条項であつて、例文的なものとみられ、少くとも、本件建築現場のスラブ型わくならびにその支保工についての、労働基準法の規定による危害防止の義務に関する限り、その効力を有しないものと解すべきである。また、原審公判調書中には、右の認定に反する被告人および証人Zの各供述記載部分も存するけれども、同供述記載部分は、前掲のその余の各証拠に照らして、措信<要旨>するに足りない。ところで、労働基準法第一〇条は、「この法律て使用者とは、事業主又は事業の経営担当者</要旨>その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」と規定しているが、同法は、労働者の労働条件の保護と向上を目的として、制定せられたものであり、同法による規制の対象も、労働契約、賃金 に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」と規定しているが、同法は、労働者の労働条件の保護と向上を目的として、制定せられたものであり、同法による規制の対象も、労働契約、賃金、労働時間、休憩、休日および年次有給休暇、安全および衛生、女子および年少者、災害補償、就業規則ならびに寄宿舎等多方面にわたつているから、同法第一〇条にいう「使用者」の概念は、同法による規制の全般について、画一的にこれを定めることはできないところであつて、例えば、賃金支払いの面において、使用者である者が、必ず、安全衛生の面においても、使用者でなければならないわけのものではなく、安全衛生の面においては、同法による規制の目的にそうように、その他の規制面におけるとは、別個に、「使用者」の概念を定めるべきものと解する。 面にわたつているから、同法第一〇条にいう「使用者」の概念は、同法による規制の全般について、画一的にこれを定めることはできないところであつて、例えば、賃金支払いの面において、使用者である者が、必ず、安全衛生の面においても、使用者でなければならないわけのものではなく、安全衛生の面においては、同法による規制の目的にそうように、その他の規制面におけるとは、別個に、「使用者」の概念を定めるべきものと解する。そうでなければ、現今におけるごとく、複雑多様な労働関係において、労働者の労働条件の保護と向上を図ることは困難となるからである。本件について、これをみるに、本件建築工事におけるごとく、数次の請負によつて、工事が行なわれる場合においては、例えば、型わく支保工という一つの設備等について、次々と下位の請負人の労働者がこれを使用することになるのであり、元請けの労働者はもとより、これら下請けの労働者も、その安全性について、重大な利害関係を有するものであるから、右の設備等を施工する下請人において、労働基準法上の安全義務を尽くしうる能力があれば格別、そうでなければ、工事を総括する元請人において、同法上の義務を負担しなければ、極めて不合理、不都合な結果を生ずることとなり、また、下請関係の形態にも、種々の段階が存し、名目上は、同じく請負であつても、全く下請人の責任において、契約した仕事を完成し、労働者に関する労働基準法その他法律上の全義務を負担する場合もあれ となり、また、下請関係の形態にも、種々の段階が存し、名目上は、同じく請負であつても、全く下請人の責任において、契約した仕事を完成し、労働者に関する労働基準法その他法律上の全義務を負担する場合もあれば(このような場合には、労働災害防止団体等に関する法律の適用があることが多いてあろう)、あるいは、下請人が材料の全部または一部を自ら提供し、元請人の指揮監督に従つて、契約した仕事を完成するに過ぎず、特に、労働者の安全面における法的義務の負担能力がない場合もあり(弱小業者の場合)、さらには、下請人が単に労働者を供給するにひとしい場合も存するのであり、このような、使用する労働者の安全面における法的義務を負担する能力のない下請人に、右の法的義務を負担させ、右法的義務の負担能力を有する元請人に、その責任を免れさせることは、極めて不合理、不都合であるというほかなく、従つて、かかる場合、元請人において、雇傭関係にはない下請け、さらには孫請け等、賃金の支払い、その他の一般的な労務管理面については、関係を有しない労働者に対する関係においても、当該労働者の保護と安全を確保すべき施設の施工ならびにその利用に関し、当該労働者に対して、実質的な指揮監督の権限を有する者である以上、これを労働基準法第一〇条および第四二条にいう「使用者」に該当するものと解すべきであり(同法第八七条の規定が存することをもつて、これを反対に解すべきものではないと思料する)、そして、以上のように解するならば、被告人は、同法第一〇条にいうところの「その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為するすべての者」、すなわち、同法にいう「使用者」に該当し、同法第四二条に規定する使用者としての義務を負担するものとしなければならない。 二条にいう「使用者」に該当するものと解すべきであり(同法第八七条の規定が存することをもつて、これを反対に解すべきものではないと思料する)、そして、以上のように解するならば、被告人は、同法第一〇条にいうところの「その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為するすべての者」、すなわち、同法にいう「使用者」に該当し、同法第四二条に規定する使用者としての義務を負担するものとしなければならない。そうとすれば、原判決が本件建築工事において、前記の型わく支 するすべての者」、すなわち、同法にいう「使用者」に該当し、同法第四二条に規定する使用者としての義務を負担するものとしなければならない。そうとすれば、原判決が本件建築工事において、前記の型わく支保工の組立工事を施工したのは、C等の下請業者であり、被告人は、元請人であるA産業の単なる現場監督者に過ぎず、右の型わく支保工の組立作業に従事した下請業者の労働者との間に、使用関係を生ずるいわれはないとし、労働基準法第四二条にいう「使用者」には当らないとして、被告人に対し、本件労働基準法違反の公訴事実につき、無罪を言い渡したのは、本件建築工事全般、なかんずく、右の型わく支保工の組立作業における被告人の実質的な権限と義務についての事実を誤認し、ひいては、労働基準法第四二条、第一〇条の解釈適用を誤つたものとするほかなく、なお、右の労働基準法違反の公訴事実は、原判決が有罪として認定処断した前記の業務上過失致死傷の公訴事実と併合罪の関係にあるものとして、公訴を提起せられたものであるから、原判決は、爾余の量刑不当に関する論旨につき、判断を加えるまでもなく、全部破棄を免れないところであり、論旨は、結局理由があることに帰着する。よつて、本件控訴は、その理由があることになるので、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条、第三八〇条に則り、原判決を全部破棄したうえ、同法第四〇〇条但書に従い、当裁判所において、被告人に対する本被告事件につき、さらに判決をすることとする。(罪となるべき事実)第一、 原判決が適法に認定した罪となるべき事実と同一である。第二、 被告人は、土木建築請負を業とする株式会社A産業所の作業所長の地位にあつて、同会社が愛知県海部郡a町B組合から請け負つた同町大字b字cd番地に建設する同組合の第五米穀倉庫(鉄筋鉄骨コンークリート造平家建一 え、同法第四〇〇条但書に従い、当裁判所において、被告人に対する本被告事件につき、さらに判決をすることとする。(罪となるべき事実)第一、 原判決が適法に認定した罪となるべき事実と同一である。第二、 被告人は、土木建築請負を業とする株式会社A産業所の作業所長の地位にあつて、同会社が愛知県海部郡a町B組合から請け負つた同町大字b字cd番地に建設する同組合の第五米穀倉庫(鉄筋鉄骨コンークリート造平家建一 は、土木建築請負を業とする株式会社A産業所の作業所長の地位にあつて、同会社が愛知県海部郡a町B組合から請け負つた同町大字b字cd番地に建設する同組合の第五米穀倉庫(鉄筋鉄骨コンークリート造平家建一棟、床面積七四二・五〇平方メートル)の新築工事に関し、現場主任として、前記会社の現場係員ならびに下請業者等を指揮、監督し、その施工一切を総括、管理しているものであるが、昭和四三年六月二九日頃から同年七月一四日頃までの間、前記工事現場において、C等の下請業者をして、前記倉庫の屋根スラブおよび梁(屋根の高さ約八・五メートル)のコンクリート型わく、ならびにその支保工を組み立てるに際し、右型わくの形状により、やむを得ない場合でないのにかかわらず、同倉庫の東側および西側部分全体に、敷板、敷角等を二段にはさんで、右型わくの支保工を組み立てさせ、もつて、危害防止のための必要な措置を講じなかつたものである。(証拠の標目)(省略)(法令の適用)被告人の判示各所為中、第一のFほか一三名に対する各業務上過失致死傷の点は、いずれも刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、第二の危害防止の必要措置を講じなかつた点は、労働基準法第一一九条第一号、第四二条、労働安全衛生規則第一〇七条の七第一号に、それそれ該当するところ、判示第一の各業務上過失致死傷罪は、一個の行為で数個の罪名に触れる場合に該るから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、犯情の最も重いと認めるFに対する業務上過失致死罪の刑で処断することとし、判示のごとく、被告人の過失が重く、事故の結果が大きいこと等の情状にかんがみ、同罪につき、所定刑中禁錮刑を、判示第二の労働基準法違反罪につき、所定刑中懲役刑を、それぞれ選択し、以上は、刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇 大きいこと等の情状にかんがみ、同罪につき、所定刑中禁錮刑を、判示第二の労働基準法違反罪につき、所定刑中懲役刑を、それぞれ選択し、以上は、刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、重い前者の罪の刑に、同法第四七条但書の制限に従つて、併合罪の加重をした刑期範囲内において、被告人を禁錮四月に処し、諸般の情状を考慮して、被告人に対し、その刑の執行を猶予するを相当と認め、同法第二五条第一項を適用して、本裁判確定の日より二年間、右刑の執行を猶予することとし、なお、原審および当審における訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従つて、その全部を被告人に負担させることとする。 重い前者の罪の刑に、同法第四七条但書の制限に従つて、併合罪の加重をした刑期範囲内において、被告人を禁錮四月に処し、諸般の情状を考慮して、被告人に対し、その刑の執行を猶予するを相当と認め、同法第二五条第一項を適用して、本裁判確定の日より二年間、右刑の執行を猶予することとし、なお、原審および当審における訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従つて、その全部を被告人に負担させることとする。以上の理由によつて、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官上田孝造裁判官杉田寛裁判官吉田誠吾)
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