平成12(手ワ)129 約束手形金請求

裁判年月日・裁判所
平成14年1月25日 名古屋地方裁判所
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判決文本文7,447 文字)

平成12年(手ワ)第129号約束手形金請求事件(以下「第129号事件」といい,他の事件もその例による。)平成12年(手ワ)第130号約束手形金請求事件平成12年(手ワ)第131号約束手形金請求事件平成12年(手ワ)第132号約束手形金請求事件平成12年(手ワ)第133号約束手形金請求事件平成12年(手ワ)第134号約束手形金請求事件 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 第129号事件(1) 被告A及び被告Bは,原告に対し,合同して500万円及びこれに対する平成12年6月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 第130号事件(1) 被告C及び被告Bは,原告に対し,合同して204万3100円及びこれに対する平成12年6月10日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言 3 第131号事件(1) 被告D及び被告Bは,原告に対し,合同して300万円及びこれに対する平成12年4月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言 4 第132号事件(1) 被告E及び被告Bは,原告に対し,合同して230万2195円及びこれに対する平成12年6月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言 5 第133号事件(1) 被告F及び被告Bは,原告に対し,合同して283万5000円及びこれに対する平成12年6月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負 5 第133号事件(1) 被告F及び被告Bは,原告に対し,合同して283万5000円及びこれに対する平成12年6月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言 6 第134号事件(1) 被告G及び被告Bは,原告に対し,合同して363万円及びこれに対する平成12年6月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,別紙手形目録1ないし6記載の約束手形(以下,同目録1記載の手形を「本件手形1」といい,同目録記載の他の手形もその例による。また,これらを総称して「本件各手形」という。)の所持人である原告が,振出人である被告A,被告C,被告D,被告E,被告F,被告G及び裏書人である被告Bに対し,手形金及びこれに対する支払期日から支払済みまで手形法所定の年6分の割合による利息の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(1) 原告は,本件各手形を所持している(甲1の1ないし5,乙イ17の6,弁論の全趣旨等)。 (2) 被告Aは本件手形1を,被告Cは本件手形2を,被告Dは本件手形3を,被告Eは本件手形4を,被告Fは本件手形5を,被告Gは本件手形6を,それぞれ振り出した。 (3) 原告は,本件各手形をいずれも支払呈示期間内に支払場所に呈示したが支払を拒絶された(甲1の1ないし5,乙イ17の6,弁論の全趣旨等)。 2 争点(1) 被告Bの裏書行為の有無(2) 善意取得の成否第3 争点に対する判断 1 争点(1)について被告Bが本件各手形に裏書をしたことを認めるに足りる証拠はない。 よって,同被告に対する請求は,争点(2)について判断するまでもなく理由がない。 2 争点(2)について(1) 証 争点(1)について被告Bが本件各手形に裏書をしたことを認めるに足りる証拠はない。 よって,同被告に対する請求は,争点(2)について判断するまでもなく理由がない。 2 争点(2)について(1) 証拠及び弁論の全趣旨に上記争いのない事実を総合すれば,以下の各事実が認められる。 ア被告Bは,平成12年2月22日午後8時ころから同月23日午前8時30分ころまでの間,東京都港区ab丁目c番d号所在の同社の事務室で保管中であった本件各手形を窃取された。そして,何者かが,本件各手形について同社の裏書を偽造して流通に置いた。また,これと同一の機会に被告Bが保管していた別紙手形目録7記載の手形(以下「手形7」という。),同目録8記載の手形(以下「手形8」という。)も盗難に遭い,同様に流通に置かれた(乙イ1ないし5,17の1ないし8,乙イ23ないし26,乙A1ないし5,弁論の全趣旨)。 イ H及びIは,平成12年3月9日午後8時10分ころから同月10日午前4時ころまでの間,名古屋市e区fg丁目h番地所在の両会社の合同事務所に保管中であった約束手形多数枚及び両会社の社印と代表者印を窃取された。そして,この窃取された社印及び代表者印を用いて,何者かが,本件各手形についてI名の第2裏書を偽造し,手形7及び手形8についてH名の第2裏書を偽造した(乙イ6の1,2,乙イ7,8,17の7,8,弁論の全趣旨)。 ウ本件手形1の振出人である被告Aは,資本金14億9750万円のコンクリート品製造等を業とする会社であり,業種別売上全国1560社中23位,県内34社中1位の会社である(乙イ18の1,弁論の全趣旨)。 エ本件手形2の振出人である被告Cは,資本金4億5150万円の建築工事等を業とする会社であり,業種別売上全国2万1615社中20位,県内236社中1位の会社である (乙イ18の1,弁論の全趣旨)。 エ本件手形2の振出人である被告Cは,資本金4億5150万円の建築工事等を業とする会社であり,業種別売上全国2万1615社中20位,県内236社中1位の会社である(乙イ18の2,弁論の全趣旨)。 オ本件手形3の振出人である被告Dは,資本金5億円の配管冷暖房装置等の卸を業とする会社であり,業種別売上全国5291社中14位,県内1103社中9位の会社である(乙イ18の3,弁論の全趣旨)。 カ本件手形4の振出人である被告Eは,資本金約205億円の建築土木等を業とする会社であり,東証一部上場企業である(乙イ18の4)。 キ本件手形5の振出人である被告Fは,資本金38億5700万円の空調工事等を業とする会社であり,東証一部上場企業である(乙イ18の5)。 ク本件手形6の振出人である被告Gは,資本金100億円の土木建築請負を業とする会社であり,業種別売上全国12130社中16位,県内636社中3位の会社である(乙イ18の6,弁論の全趣旨)。 ケ手形7の振出人であるJは,資本金約81億円の電機機器及び同部品等の製造・販売等を業とする会社であり,東証一部上場企業である(乙イ18の7)。 コ手形8の振出人であるKは,資本金6000万円の洗浄剤・摩用剤の製造等を業とする会社であり,業種別売上全国97社中9位,県内25社中4位の会社である(乙イ18の8,弁論の全趣旨)。 サ原告は,三重県津市において貸金業を営んでいる者であり,原告の元夫であるLは,その従業員として,実際上,上記貸金業を取り仕切っており,原告は,Lから,上記貸金業の業務について報告を受けていた。また,Lは,Mの代表者であるが,同社は裏書記載の住所地に商業登記されていない(甲6,7,9,10,17,18,乙イ10)。 シ Lと約15年程の付き合いがあり金 金業の業務について報告を受けていた。また,Lは,Mの代表者であるが,同社は裏書記載の住所地に商業登記されていない(甲6,7,9,10,17,18,乙イ10)。 シ Lと約15年程の付き合いがあり金融業を営むNの元に,平成12年3月17日か18日ころ,Nの元暴力団組員であった父の知り合いであり,手形割引の仲介人でいろいろなブローカーを知っていると称するOという男から,「Lという人物を知っているか。私の知り合いのPという人物がLさんに10年程前に時々手形を割り引いてもらった事があった。Pの知り合いで銀行の手形割引枠が一杯で銀行で割れないので,手形を割って欲しい会社がある。知っていたらLの電話番号を教えて欲しい。」という旨の電話があった。そこで,Nは,Oに電話番号を教えてよいかLに電話をして聞いたところ,Lはこれを了承し,NはOにLの電話番号を教えた(甲21,30)。 ス Lの元に,平成12年8月20日ころ,Pから電話があった。この際,Pは,Lに対し,「ある会社が資金繰りに困っているので,手形を割り引いてやって欲しい。手形の銘柄は全て全く心配ありません。ただ,銀行の割引枠がいっぱいで割引しません。」と述べ,本件各手形等について,I及びHから割引先を探して欲しい旨依頼を受けたと説明した。そこで,Lは,Pから本件各手形並びに手形7及び手形8等の約束手形のコピーを受け取り,同月27日ころ,取引銀行であるQ信用組合津支店に,同手形等を割り引くことができるか否かの調査を依頼した。同支店は,本件各手形及び手形7,手形8について,会社四季報にて振出会社の概況を調査し,さらに,手形8について,支払場所であるR銀行東京支店に対し電話で問い合わせをして事故の有無及び決済見込み等を確認した上,本件各手形及び手形7,手形8について,同支店において割引をすることが 査し,さらに,手形8について,支払場所であるR銀行東京支店に対し電話で問い合わせをして事故の有無及び決済見込み等を確認した上,本件各手形及び手形7,手形8について,同支店において割引をすることができる旨,Lに対し回答をした(甲4,5,6,7,8,14,19,21,30,31,33,35ないし37,39,40,弁論の全趣旨)。 セ同月28日ころ,入院中のLの元に,PとOが訪れた。同日,Lは,Pから本件各手形並びに手形7及び手形8等の約束手形を受領し,手形割引金として2760万5946円をPに交付した。また,同金員から,手数料としてLが100万円を受領し,Lは,この100万円のうち50万円をPに,25万円をNに渡した(甲4,5,6,7,8,14,21,30,31,33,37)。 ソ Lは,10年程前にPから何度か手形割引を依頼されたことがあり,Pのことを「手形の仲介屋」と認識していたが,平成12年8月20日ころ上記の電話があるまで,Pとの付き合いは相当期間途絶えていた。Pは,本件各手形に自己の住所地として「長野県北佐久郡i町j」と記載しているが,同人は同所に住民登録をしておらず,Lは,Pの現在の住所,連絡先を知らない。また,LとOは,上記セ記載の手形割引の際まで,面識がなかった(甲1の1ないし5,甲6,7,14,30,乙イ9,乙イ17の6,弁論の全趣旨)。 タ Lは,本件各手形の取得に際し,振出人や裏書人に対し,振出確認や照会をしていない(甲7,弁論の全趣旨)。 (2) そこで,以上の認定事実に基づき判断する。 アまず,Pが本件各手形を善意取得したか否かについて検討する。 前記認定のとおり,本件各手形の裏書人であるIの裏書はいずれも偽造されたものであって,PがIから本件各手形を正当に取得することはあり得ないこと,それにもかかわらず,Pが したか否かについて検討する。 前記認定のとおり,本件各手形の裏書人であるIの裏書はいずれも偽造されたものであって,PがIから本件各手形を正当に取得することはあり得ないこと,それにもかかわらず,PがIの関係者ないし仲介人を装って手形の割引の依頼を行っていることに照らせば,Pは,本件各手形が窃取された手形であることを知りつつ同各手形を取得したと認めるのが相当である。また,上記認定によれば,本件各手形が盗難に遭ってから,Pがこれらを取得するまでの間に,介在する者がいたとしても,この者も本件各手形が窃取された手形であることについて悪意の取得者であると認めるのが相当である。 イ次に,Lが本件各手形を善意取得したか否かについて検討する。 一般に,信用力のある企業等が振り出した手形は,受取人から直接銀行等の金融機関に取立てに出されたり,低額の割引料で割り引かれるのが普通であり,いわゆる回り手形として銀行以外の町の金融業者によって割引されたり,複数の会社や個人を転々と流通することは極めて希であることは経験則上明らかである。そして,このことは特に東証一部上場企業振出にかかる手形や資本金が1億円を超えるような優良企業振出にかかる手形については一層よく当てはまるところ,本件各手形はいずれも資本金が1億円を超える優良企業の振出にかかる手形である上,本件手形4,本件手形5及び手形7はいずれも東証一部上場企業振出にかかる手形である。このような手形が,銀行等の金融機関によって取立に出されたり,割り引かれることなく流通し,町の金融業者に手形の割引の仲介などを行っている人物であるPの手元にあること自体一見して不自然である。また,PはLに対し,Iが資金繰りに困っている旨や同社の銀行の割引枠が一杯で銀行では割引を受けられない旨説明していたというが,資金繰りに窮するような あるPの手元にあること自体一見して不自然である。また,PはLに対し,Iが資金繰りに困っている旨や同社の銀行の割引枠が一杯で銀行では割引を受けられない旨説明していたというが,資金繰りに窮するような会社が上記のような優良企業の振出にかかる手形を多数枚所持していること自体不自然であり,Pの説明はにわかに信じがたい説明と言わざるを得ない。加えて,仮にIにおいて銀行で割引を受けられない事情があったとしても,上記のような優良企業振出にかかる手形であれば,取引銀行以外の銀行や商工ローン等手形の割引を行ってくれる金融機関は少なからず存在すると考えられるにもかかわらず,名古屋市所在のIが,わざわざ長野県北佐久郡i町を手形の裏書上の住所とするPに手形割引の仲介を依頼し,さらに,Pが,わざわざ,O,Nを通じて電話番号を調べてまでして,三重県津市において貸金業を実質的に営んでいるLに連絡を取り,高率の割引料を支払ってまで手形割引を依頼するというのは極めて不自然である。PがLにしたという本件各手形等に関する説明は,上記のとおり不自然で,にわかに信じがたいものであり,上記の諸点を鑑みれば,Lは,本件各手形等の取得時に,本件各手形等は盗難手形である可能性もあるのではないかと疑ってしかるべきである。そして,Lは,振出人や裏書人に照会するなどしてPが本件各手形等を正当に取得しているか否かを調査していれば,本件各手形等の手形の盗難の事実を容易に知り得たと考えられる。それにもかかわらず,Lはこれをしていない。とりわけ,Lは,Pから,I及びHから依頼を受けている旨説明を受けていたというのであるから,I又はHに対し,Pにかかる依頼をしているのか問い合わせをしたり,Pに対し,I等からの依頼の事実を裏付ける資料の交付を求めてしかるべきところ,それすら行っていない。 以上の事実 たというのであるから,I又はHに対し,Pにかかる依頼をしているのか問い合わせをしたり,Pに対し,I等からの依頼の事実を裏付ける資料の交付を求めてしかるべきところ,それすら行っていない。 以上の事実に照らせば,Lには本件各手形等を取得するに当たり,重大な過失があったと認めることができる。 なお,Lは,Q信用組合津支店に,本件各手形等について調査を依頼し,同支店から,割引が可能である旨の回答を得た後本件各手形等を取得しているから,本件各手形の取得に当たって調査を尽くしており重過失はない旨原告は主張する。しかしながら,Lは,同支店に対し,振出人に対する振出確認,裏書人に対する裏書確認,盗難事故の有無の確認等をしてくれるよう具体的に依頼したのではなく,同支店において本件各手形等を割引できるか否か信用照会をして返事をくれるよう依頼をしたというに過ぎず,実際,同支店がLの依頼に基づいて行った調査は,上記(1)スで認定したとおり,本件各手形について会社四季報で振出人の概況を調査し,手形8について支払場所であるR銀行東京支店に電話で信用照会をしたという,盗難手形か否かの調査としては不十分な調査に過ぎない。そもそも,同支店は,Lが本件各手形を取得するに至った経緯,Pの説明内容,Pがいかなる人物か等を知らないのであって,Lから上記のような調査を依頼されたからといって必ずしも振出人に対する振出確認や裏書人に対する裏書確認等,本件各手形について盗難や偽造がないかについて十分な調査を行うとは限らず,L自身が,IやHに問い合わせを行うことは容易であったこと,本件各手形等は上記のとおり盗難手形の可能性を疑ってしかるべき手形であったこと等に照らせば,取引銀行に信用照会を依頼した事実があったとしてもそれをもってLが調査を尽くしたと言うことはできない。Iに問い合わせを は上記のとおり盗難手形の可能性を疑ってしかるべき手形であったこと等に照らせば,取引銀行に信用照会を依頼した事実があったとしてもそれをもってLが調査を尽くしたと言うことはできない。Iに問い合わせを行う等の調査すらせずに本件各手形を取得したLには重過失があると言わざるを得ず,Q信用組合津支店に対する調査依頼の事実はこの認定を左右するものではない。 ウさらに,上記(1)サで認定したLとM及び原告との間の関係に照らせば,Lに重過失があったと認められる以上,M及び原告についても重過失があったと認めるのが相当である。 エ以上によれば,本件各手形については,盗難に遭ってから原告が取得するまでの間,原告を含めて何人にも善意取得をしておらず,したがって,原告が本件各手形について権利を取得したとは認めることはできない。 3 以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第10部裁判官山下美和子(別紙手形目録省略)

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